説明

梁構造、建物ユニット、建物及び梁構造の施工方法

【課題】様々な板厚の大梁に対応できるとともに、梁の加工誤差に対応できる梁構造、建物ユニット、建物及び梁構造の施工方法を提供する。
【解決手段】大梁12,12間に架け渡される梁15と、梁15の両端と大梁12,12とを連結するガセットプレート2,2と、を備える梁構造Cである。
そして、梁15は互いに咬合する断面を有する梁材15a,15bが向かい合わせに咬合されて軸方向に伸縮可能に形成され、ガセットプレート2,2には、梁材15a,15bを軸方向に拘束する拘束支持部22と、軸方向に移動可能に支持する移動支持部23と、が設けられ、一方のガセットプレート2の拘束支持部22と、他方のガセットプレート2の移動支持部23と、が向かい合うように梁15の両端に取付けられて、梁材15a,15bは、一端を拘束支持部22に支持されるとともに、他端を移動支持部23に支持される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、梁構造と、梁構造を備える建物ユニットと、梁構造を備える建物と、梁構造の施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建物ユニットの床構造などにおいて、略平行に大梁を配設し、この大梁の間に複数の梁を架け渡して、この梁の上に板を貼り付けることで床を構成している。
【0003】
この建物ユニットは、大梁として溝形鋼などを用いるとともに、梁として角形鋼管などを用いている。
【0004】
そして、梁の両端に設けた連結板を梁のウェブに溶接することで、梁を大梁に固定している。
【0005】
しかしながら、このように連結板を介して梁を大梁のウェブに固定する際に、大梁のウェブの板厚が異なると、それに伴って対向する大梁のウェブ間の距離が変化するため、梁を大梁のウェブに溶接できなくなる場合があった。
【0006】
そこで、特許文献1では、上記の板厚差を梁の両端に設けた連結板の板厚で調整することで、大梁のウェブ間の距離を調整し、梁を大梁のウェブに溶接できるようにしている。
【0007】
これとは逆に、特許文献2では、溝形鋼の外形寸法を板厚に関係なく同一とすることで、一定寸法の梁であっても大梁のウェブに溶接できるようにしている。
【特許文献1】特開平9−21181号公報
【特許文献2】特開2001−164656号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記した特許文献1や特許文献2の梁の取付け構造では、連結板や溝形鋼として多種類の部材を製作する必要があるため、製作コストがかかることに加えて、在庫管理が複雑になるという問題があった。
【0009】
また、特許文献1や特許文献2の梁の取付け構造では、梁の軸方向の長さに極めて高い加工精度が要求され、わずかな加工誤差によっても梁を大梁に溶接できない可能性があった。
【0010】
そこで、本発明は、様々な板厚の大梁に対応できるとともに、梁の加工誤差に対応できる梁構造、建物ユニット、建物及び梁構造の施工方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するために、本発明の梁構造は、対向する大梁間に架け渡される梁と、該梁の両端と前記大梁とを連結する一対のガセットプレートと、を備える梁構造であって、前記梁は、互いに咬合する断面を有する一対の梁材が向かい合わせに咬合されて、梁材の軸方向の相対位置の変化により軸方向に伸縮可能に形成されるとともに、前記一対のガセットプレートのそれぞれには、前記梁材を軸方向に拘束する拘束支持部と、前記梁材を軸方向に移動可能に支持する移動支持部と、が設けられ、前記一方の梁材の一端は前記一方のガセットプレートの前記拘束支持部に支持され、他端は前記他方のガセットプレートの前記移動支持部に支持されるとともに、前記他方の梁材の一端は前記一方のガセットプレートの前記移動支持部に支持され、他端は前記他方のガセットプレートの前記拘束支持部に支持されることを特徴とする。
【0012】
また、前記ガセットプレートのそれぞれには、板状の鋼材によって、前記大梁のウェブに接する取付け部と、前記取付け部から屈折して斜めに立ち上がった傾斜部と、前記取付け部から突出する拘束支持部と、前記傾斜部から突出する移動支持部と、が形成されるとともに、取付けの際には、前記傾斜部が前記大梁側に押されて、前記傾斜部の前記取付け部からの屈折箇所近傍が塑性変形することが好ましい。
【0013】
さらに、前記ガセットプレートの前記拘束支持部の反対側の端部から前記拘束支持部に交差する方向に2つの切り込みが設けられるとともに、前記傾斜部は、この切り込みに挟まれた部分が屈折して斜めに立ち上がって形成されることを特徴とする。
【0014】
そして、前記梁の上には、固定手段によって床材が固定されるとともに、
前記一対の梁材の重なり合う面は、前記床材を貫通した前記固定手段によって挿通されることが好ましい。
【0015】
また、本発明の建物ユニットは、上記のような梁構造を備えることを特徴とする。
【0016】
さらに、本発明の建物は、上記のような梁構造を備えることを特徴とする。
【0017】
そして、本発明の梁の取付け方法は、上記した梁構造を並べ、該梁構造の両端を一対の大梁によって挟み、前記梁構造と該大梁とを固定し、前記梁構造の上に床材を固定する梁構造の施工方法であって、前記梁構造を前記大梁間の所定の内寸法より長く形成しておき、該梁構造を両側の前記大梁によって押圧することで、前記梁構造の長さを前記大梁間の所定の内寸法に合わせて、前記床材を前記一対の梁材の両方を貫通する固定手段によって固定することを特徴とする。
【0018】
ここにおいて、床材とは、床根太、床板又は床仕上げ材などのことをいうものとする。
【発明の効果】
【0019】
このように、本発明の梁構造は、互いに咬合する断面を有する一対の梁材が向かい合わせに咬合されて、梁材の軸方向の相対位置の変化により軸方向に伸縮可能に形成されるとともに、この梁材はそれぞれ、一端をガセットプレートの拘束支持部に支持されるとともに、他端をガセットプレートの移動支持部に支持される。
【0020】
そして、取付けの際には、それぞれの梁材を支持する移動支持部が相互にずれるように移動することで、梁構造の長さを調節できるため、様々な板厚の大梁を用いることで大梁間の距離が変化しても対応できるとともに、梁の加工誤差に対応できる梁構造とすることができる。
【0021】
また、ガセットプレートには、板状の鋼材によって、取付け部と、取付け部から斜めに立ち上がった傾斜部と、取付け部から突出する拘束支持部と、傾斜部から突出する移動支持部と、が形成され、取付けの際には、傾斜部の取付け部からの屈折箇所近傍が塑性変形して梁を支持するため、簡易な構成の梁構造によって、長さを調節することができる。
【0022】
さらに、ガセットプレートに設けられた切り込みに挟まれた部分が屈折して斜めに立ち上がって傾斜部を形成することで、傾斜部の幅が狭くなるため、傾斜部を容易に塑性変形させることができる。
【0023】
そして、床材を貫通した固定手段によって、一対の梁材の重なり合う面が挿通されることで、一対の梁材の相対位置を固定することができるため、残留する弾性反力によって、大梁が変形することを防止できる。
【0024】
また、上記のような梁構造を備えた建物ユニットとすることで、大梁間に梁構造を隙間無く設置でき、歩行などの載荷時に一部の梁が下方にずれて床鳴りが生じることを防止できるため、建物ユニット内の快適性が向上する。
【0025】
さらに、上記のような梁構造を備えた建物とすることで、大梁間に梁構造を隙間無く設置でき、歩行などの載荷時に一部の梁が下方にずれて床鳴りが生じることを防止できるため、建物内の快適性が向上する。
【0026】
そして、あらかじめ大梁間の所定の内寸法より長く形成しておいた上記の梁構造を、大梁によって挟み、大梁を押圧して所定の内寸法に合わせることで、様々な板厚の大梁に対応できるとともに、梁の加工誤差に対応した梁構造とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の最良の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0028】
まず、図2を用いてユニット建物Sの構成を説明する。
【0029】
このユニット建物Sは、基礎3と、基礎3の上に設置される1階部分となる複数の建物ユニットU1,・・・と、この1階部分の建物ユニットU1,・・・の上に設置される2階部分となる複数の建物ユニットU2,・・・と、この2階部分の建物ユニットU2,・・・の上に設置される屋根パネル4と、を備えている。
【0030】
なお、図2ではユニット建物Sは2階建ての建物となっているが、3階建て以上の建物であってもよい。
【0031】
次に、図3を用いて、1階の建物ユニットU1と2階の建物ユニットU2とに共通する構成について、建物ユニットUとして説明する。
【0032】
建物ユニットUは、4本の柱11,・・・と、この柱11,・・・の長辺方向の下端間を連結した2本の大梁としての桁床梁12,12と、柱11,・・・の短辺方向の下端間を連結した2本の妻床梁31,31と、この柱11,・・・の上端間を連結した4本の天井梁13,・・・とからなる骨組み構造体を備えている。
【0033】
ここで、上記の骨組み構造体において、柱11,・・・としては角形鋼管などを使用することができる。また、桁床梁12,12、妻床梁31,31および天井梁13,・・・としては、溝形鋼やH形鋼などを使用することができる。
【0034】
そして、本実施の形態の建物ユニットUでは、対向する大梁としての桁床梁12,12のウェブ121,121に、床小梁15の両端にガセットプレート2,2を有する梁構造C,・・・が架け渡されている(図4参照)。
【0035】
さらに、図5に示すように、この床小梁15の上には、床小梁15と略直交して床材としての床根太16,・・・が固定手段としてのタッピングビス19,・・・によって固定され、この床根太16,・・・の上にパーティクルボードなどの床板14がタッピングビス(図示せず)などによって貼り付けられて床が形成される。
【0036】
また、床小梁15は、図1に示すように、一方の梁材15aと、この梁材15aと同一形状に形成されて向かい合わせに咬合する梁材15bと、によって構成される。
【0037】
これらの梁材15a,15bは、略C字状断面の鋼材によって形成され、この略C字の先端に折り返しが設けられていることで互いに咬合するものであり、一度咬合した梁材15a,15bは軸直角方向に断面がずれることはない。
【0038】
また、梁材15a,15bは、タッピングビス19,・・・によって固定される前の状態では、相互に固定されずに、軸直角方向にずれないように咬合されているだけであるから、梁15の軸方向には、梁材15a,15bの相対位置の変化により伸縮可能に形成されている。
【0039】
そして、梁材15a,15bは、2枚のフランジが重ね合わされているため、この2枚のフランジをタッピングビス19,・・・などの固定手段で挿通することによって、容易に軸方向の伸縮を拘束できるように形成されている。
【0040】
逆に、梁材15a,15bは、それぞれのウェブが重なり合わずに、互いに向かい合った状態で咬合されているため、一方のウェブを固定した場合でも、これに向かい合った他方のウェブは固定されずに軸方向に移動可能となっている。
【0041】
なお、梁材15a,15bは、フランジが重ね合わされるとともに、ウェブが向かい合った状態で咬合され、軸方向に伸縮可能なものであれば、他の部分の形状、材質等はどのようなものでも使用することができる。
【0042】
また、図4に示すように、梁材15aの一端は、後述する一方のガセットプレート2の拘束支持部22に支持されるとともに、他端は、他方のガセットプレート2の移動支持部23に支持されている。
【0043】
同様に、図4に示すように、梁材15bの一端は、後述する一方のガセットプレート2の移動支持部23に支持されるとともに、他端は、他方のガセットプレート2の拘束支持部22に支持されている。
【0044】
そして、本実施の形態では、ガセットプレート2は、図1に示すように、略矩形の鋼板によって形成され、この1枚の鋼板が折り曲げられた状態に形成されて、大梁12のウェブ121に接する取付け部211と、この取付け部211から屈折して斜めに立ち上がった傾斜部212と、取付け部211から突出する拘束支持部22と、傾斜部212から突出する移動支持部23と、を備えている。
【0045】
この取付け部211は、図4に示すように、桁床梁12のウェブ121に接しており、この接した箇所の近傍のウェブ121には取付け孔(図示せず)が設けられている。
【0046】
そして、取付けの際には、ウェブ121に設けられた取付け孔を挿通したドリリングタッピングビス26,26が、取付け部211を切削し、螺入されることで、ガセットプレート2を有する梁構造Cを桁床梁12に固定している。
【0047】
なお、この梁構造Cの桁床梁12に対する固定方法は、ドリリングタッピングビス26,26を用いる方法の他、かしめ接合や、溶接など床小梁15に荷重が作用した際のせん断力を桁床梁12に伝達できるものであればどのような固定方法であってもよい。
【0048】
また、傾斜部212は、図1に示すように、ガセットプレート2の拘束支持部22の反対側の端部に設けられた2つの細長い切り込み24,24によって挟まれた部分25が、桁床梁12から突出する方向に屈折されて取付け部211から斜めに立ち上がって形成されている。
【0049】
ここで、図4に示すように、この傾斜部212の取り付け部211に対する屈折箇所213は、梁構造Cを支持する際に塑性変形する箇所であるため、その内側の角度dは変形した際に塑性するように、材質や変形量などを考慮して適切に決定される。
【0050】
そして、梁構造Cが桁床梁12,12に取付けられた際には、この傾斜部212が桁床梁12側に押しこまれるため、角度dが大きくなって、ガセットプレート2の屈折箇所213近傍が塑性する程度に変形することとなる。
【0051】
また、拘束支持部22は、図1及び図4に示すように、取付け部211から桁床梁12とは反対側に略垂直に延びるとともに、上下の2箇所にアークスポット22a,22aが設けられて、梁材15a(15b)とスポット溶接によって固定されている。
【0052】
同様に、移動支持部23は、図1,図4及び図5に示すように、傾斜部212から桁床梁12とは反対側に突出する方向に略垂直に延びるとともに、上下の2箇所にアークスポット23a,23aが設けられて、梁材15b(15a)とスポット溶接によって固定されている。
【0053】
なお、拘束支持部22及び移動支持部23の、梁材15a,15bに対する固定方法は、スポット溶接の他、ビス止め、かしめ接合など、床小梁15に荷重が作用した際のせん断力をガセットプレート2に伝達できるものであればどのような固定方法であってもよい。
【0054】
次に、図4を参照しながら、本実施の形態の梁構造Cを桁床梁12,12に取付ける方法について説明する。
【0055】
まず、一対のガセットプレート2,2を、床小梁15の両端にスポット溶接などによって取り付けて梁構造Cを形成しておく。
【0056】
このとき、ガセットプレート2,2は、一方のガセットプレート2の拘束支持部22と他方のガセットプレート2の移動支持部23とが対峙して向かい合うように、相互に180度回転した向きに取り付ける。
【0057】
そして、この梁構造Cの軸方向の長さは、床小梁15の加工精度によって若干の誤差を含むものの、桁床梁12,12間の所定の内寸法Lよりは、長く形成されている。
【0058】
次に、この梁構造C,・・・を、互いに略平行になるように、所定の間隔を空けて、並置する。
【0059】
そして、桁床梁12,12を並置された梁構造C,・・・の両端の外側方に配置し、この桁床梁12,12を両側から徐々に近づけて、ウェブ121,121によって梁構造Cを挟み込み、桁床梁12,12間の所定の内寸法Lと同一寸法となるまで、桁床梁12,12を振動させながら梁構造Cを押圧する。
【0060】
このように、振動させつつ押圧することで、強固に咬合した梁材15a,15bを梁15の軸方向に短縮させることが可能となる。
【0061】
このとき、梁材15aの拘束支持部22に支持された側は桁床梁12との相対的な位置が変化しないが、図4の白抜き矢印に示すように、移動支持部23に支持された側は桁床梁12に近づくように移動する。
【0062】
すなわち、拘束支持部22は、桁床梁12に接している取付け部211から略垂直に延びているため、床小梁15が軸方向に押されてもほとんど変形しない。
【0063】
これに対して、移動支持部23は、斜めに立ち上がることで桁床梁12から離れている傾斜部212から延びているため、床小梁15が軸方向に押されると、屈折箇所213を回転軸として桁床梁12側に回転移動することとなる。
【0064】
そして、移動支持部23が回転移動することで、傾斜部212の取付け部211に対する角度dが大きくなり、傾斜部212の取付け部211に対する屈折箇所213近傍が塑性変形する。
【0065】
この場合、塑性変形とは、力を加えて変形させたときに、変形したままの状態を保つこと、又は、力を加えて変形させたときに、元の状態に戻ろうとする力を残しているものの、変形が元に戻らないような変形のことをいうものとする。
【0066】
同様に、梁材15bの拘束支持部22に支持された側は桁床梁12との相対的な位置が変化しないが、図4の白抜き矢印に示すように、移動支持部23に支持された側は桁床梁12に近づくこととなる。
【0067】
このように、梁材15a,15bが互いに逆方向にずれて移動することで、屈折箇所213,213が塑性変形し、梁構造C全体としての軸方向の長さが短くなり、桁床梁12,12間の所定の内寸法Lと一致するまで押圧される。
【0068】
次に、桁床梁12,12間の所定の内寸法Lになるように軸方向の長さを調整された梁構造Cの両端の取付け部211,211を、ドリリングタッピングビス26,・・・によって桁床梁12,12のウェブ121,121に取付ける。
【0069】
そして、床根太16,・・・を床小梁15の上に載置し、床根太16,・・・の上から、床根太16,・・・を貫通して梁材15a,15bの上面の重ね合わされたフランジを挿通するようにタッピングビス19,・・・によって固定する。
【0070】
最後に、床板14を床根太16,・・・の上に載置し、この床板14をタッピングビス(図示せず)などによって床根太16,・・・に固定することで床が完成する。
【0071】
次に、図4及び図5を参照しながら、本実施の形態の梁構造Cの作用について説明する。
【0072】
このように構成された本実施の形態の梁構造Cは、互いに咬合する断面を有する一対の梁材15a,15bが向かい合わせに咬合されて、軸方向に伸縮可能に形成されるとともに、この梁材15a,15bはそれぞれ、一端をガセットプレート2の拘束支持部22に支持されるとともに、他端をガセットプレート2の移動支持部23に支持されている。
【0073】
この移動支持部23は、屈折箇所213を軸に回転移動することで、傾斜部212の取付け部211に対する角度dが変化し、屈折箇所213近傍のガセットプレート2が塑性変形する。
【0074】
すなわち、軸方向に押圧された梁材15a,15bは、互いに逆方向にずれて移動することで、ガセットプレート2,2の屈折箇所213,213が塑性変形し、梁構造C全体としての長さは、初めの状態より短くなって桁床梁12,12間の所定の内寸法Lと一致することとなる。
【0075】
このように傾斜部212の屈折箇所213が塑性変形することで、傾斜部212が元の位置に戻ろうとする反力が小さくなるため、梁構造Cの長さを調整する際に、桁床梁12,12を内側に向かって押した力の反作用によって、逆に桁床梁12,12が押し返されて変形することがない。
【0076】
この場合でも、屈折箇所213,213は、上下方向のせん断耐力を充分に有しているため、床小梁15に荷重が作用した場合でも、移動支持部23を通じて作用するせん断力を支持することができる。
【0077】
また、それぞれの梁材15a,15bは、軸方向の両端が支持されているため、荷重が作用した際に、床小梁15に捩れが生じることがない。
【0078】
すなわち、仮に、軸方向の長さ調整のみを目的として梁構造Cを固定する場合には、床小梁15の一端で梁材15aを拘束支持し、他端で梁材15bを拘束支持すればよいが、このように互い違いに拘束支持した場合には、拘束支持した箇所を結ぶ線と部材の軸線とが一致しないため、荷重が作用した際には床小梁15に捩れが生じることとなる。
【0079】
これに対して、本実施の形態の梁構造Cでは、梁材15a,15bのそれぞれの軸方向の両端を支持することで、床小梁15に捩れを生じさせることなく、荷重を支持することができる。
【0080】
上記のように、ガセットプレート2が塑性変形することによって、梁構造Cの長さを調整することができるため、様々な板厚の桁床梁12,12にも対応することができる。
【0081】
すなわち、軸方向の長さが完成時の桁床梁12,12間の寸法Lより長く形成された梁構造Cを、軸方向に押圧することで、完成時の桁床梁12,12間の寸法Lに合わせることができる。
【0082】
例えば、桁床梁12,12間の外面寸法が2454(mm)の場合、桁床梁12,12として、板厚をt=3.2,4.5,6.0(mm)の3種類のものを用いると、内寸法LはL=2447.6,2445,2442(mm)の3種類となる。
【0083】
従来は、この3種類の内寸法Lに対応して別個の床小梁15を製作する必要があった。
【0084】
これに対して、本実施の形態では、例えば軸方向の長さが上記した3種類の内寸法Lよりも長い2449(mm)の梁構造Cを製作することで、3種類の板厚全てに対応する梁構造Cとすることができる。
【0085】
なお、この梁構造Cの軸方向の長さは、梁構造Cの製作誤差等を考慮して、桁床梁12,12間の内寸法の最大値に、ある程度の余裕長を加えた長さ以上に形成される。
【0086】
そして、この場合、両端の変形量は、内寸法L(L=2447.6,2445,2442(mm))に対応して、それぞれ1.4,4.0,7.0(mm)となる。
【0087】
ただし、実際には上記したように、梁構造Cがある程度の製作誤差を有しているため、変形量も増減するが、本実施の形態では、この製作誤差以上の余裕長さを有する梁構造Cとすることで、製作誤差を有する場合でも、確実に桁床梁12に当接させることができる。
【0088】
また、同様に、ガセットプレート2が塑性変形することによって、梁構造Cの長さを調整することができるため、床小梁15の加工誤差に対応した梁構造Cとすることができる。
【0089】
例えば、桁床梁12,12間の外面寸法が2454(mm)の場合、板厚をt=3.2 (mm)のものを用いると、内寸法LはL=2447.6 (mm)となる。
【0090】
この場合、例えば床小梁15の加工誤差によって、軸方向の長さにプラスマイナス0.5(mm)の長短が生じると仮定すると、床小梁15の最長のものはL=2448.1(mm)となり、最短のものは2447.1(mm)となる。
【0091】
そして、従来、この最長の床小梁15,15に、最短の床小梁15が挟まれた場合、最短の床小梁15は、両端合計で1.0(mm)(2448.1-2447.1=1.0)だけ桁床梁12,12から離れて固定されることとなっていた。
【0092】
このように、床小梁15が、桁床梁12,12から離れて固定された場合、桁床梁12,12が反ることや、床鳴りが生じることや、ドリリングタッピングビス26の耐久性が劣ることなど、様々な問題があった。
【0093】
これに対して、本実施の形態では、例えば軸方向の長さが2449(mm)の梁構造Cを製作することで、最短の梁構造Cでも2448.5(mm)となり、所定の内寸法L(L=2447.6(mm))より長くなるため、所定の内寸法Lに調整できることとなる。
【0094】
したがって、桁床梁12,12が反ることや、床鳴りが生じることや、ドリリングタッピングビス26の耐久性が劣ることなどの問題がない。
【0095】
そして、本実施の形態では、梁構造Cが、桁床梁12のウェブ121に取り付けられることで、床小梁15に荷重が作用する場合でも、桁床梁12が変形して床小梁15が上下に移動することがない。
【0096】
すなわち、桁床梁12のウェブ121は、フランジ122と比べて、上下方向の断面二次モーメントが極めて大きく、荷重が作用した際にも上下方向にほとんど変形しないため、ウェブ121に取付け部211を介して取付けられた梁構造Cはほとんど上下に移動しない。
【0097】
さらに、本実施の形態では、ガセットプレート2に設けられた切り込み24,24に挟まれた部分25が屈折して斜めに立ち上がって傾斜部212及び移動支持部23を形成することで、必要な支持強度を有しつつ、傾斜部212を容易に塑性変形させることができる。
【0098】
すなわち、このようにガセットプレート2の切り込み24,24に挟まれた部分25のみを折り曲げることによって、傾斜部212の上下方向の幅を狭くすることができるため、上下方向の全幅を折り曲げて傾斜部212を形成するよりも、塑性変形する際の荷重を小さくすることができる。
【0099】
したがって、桁床梁12,12のわずかな板厚の違いや、床小梁15の加工誤差などによって生じる微小な変形量によっても、ガセットプレート2を塑性変形しやすくすることができる。
【0100】
そして、本実施の形態では、梁構造Cの上に床根太16,・・・をタッピングビス19,・・・によって固定する際に、タッピングビス19,・・・が梁材15a,15bの重ね合わされたフランジを貫通して切削・螺入されるため、梁材15a,15bが相互に固定されて、梁15の軸方向の伸縮を拘束することができる。
【0101】
このように、床小梁15の軸方向の伸縮を拘束することで、ガセットプレート2が塑性変形する際に弾性反力が残っている場合でも、この反力に抵抗することができる。
【0102】
すなわち、タッピングビス19,・・・は、床小梁15の軸方向の数箇所に螺入されるため、この複数のタッピングビス19,・・・でせん断力を受け持つことによって、軸方向に長くなろうとする残留弾性反力に対して充分な耐力を備えることとなる。
【0103】
そして、上記したように、本実施の形態では、ガセットプレート2は、単純な構造であり、1枚の鋼板を加工することによって容易に得られるため、製造コストが低く、かつ、取付けの際の手間も少ない。
【0104】
加えて、上記したような梁構造Cを備えた建物ユニットU及びユニット建物Sとすることで、桁床梁12,12間に梁構造Cを隙間無く設置でき、歩行などの載荷時に床鳴りが生じることを防止できるため、建物ユニットU内及びユニット建物S内の快適性が向上する。
【0105】
すなわち、従来のように梁構造Cと桁床梁12との連結部に隙間が生じた場合には、隙間が生じた箇所のドリリングタッピングビス26は下方向にモーメント荷重を受けるため、このドリリングタッピングビス26の先端は下方に移動することとなる。
【0106】
そうすると、ドリリングタッピングビス26に連結された梁構造Cも下方に移動し、隣接する梁構造Cとの間に変位差が生じることで、周囲の床根太16と床小梁15との間や、床根太16と床板14との間などに、ずれが生じるために、部材どうしが擦れて床鳴りが生じる。
【0107】
一方、本実施の形態では、すべての梁構造Cと桁床梁12とが隙間なく連結されることで、いずれのドリリングタッピングビス26の先端も下方に移動することがなく、隣接する梁構造Cが略同様に変位するため、変位差によるずれによって床鳴りが生じることがない。
【実施例】
【0108】
以下、図6及び図7を用いて、前記実施の形態とは別の形態の梁構造C1について説明する。
【0109】
なお、前記実施の形態で説明した内容と同一乃至均等な部分の説明については同一符号を付して説明する。
【0110】
本実施例では、桁床梁12,12間に床根太30が直接架け渡される場合の梁構造C1について説明する。
【0111】
まず、図6及び図7を用いて、本実施例の梁構造C1の構成について説明する。
【0112】
この梁構造C1は、対向する長辺の大梁としての桁床梁12,12のウェブ121,121に、床根太30の両端にガセットプレート2A,2Aを有する梁構造C1が架け渡されている。
【0113】
さらに、図7に示すように、この床根太30,・・・の上には、パーティクルボードなどの床板14がタッピングビス19,・・・などによって貼り付けられて床が形成される。
【0114】
そして、本実施例では、この床根太30の上面は、桁床梁12,12の上面より上方に位置している。
【0115】
このため、床根太30の両端の桁床梁12に対する取付け箇所近傍には、上部に台形状に切り欠きが設けられて、根太30と桁床梁12が互いに干渉しないように形成されている。
【0116】
また、図6に示すように、ガセットプレート2Aは、前記実施の形態とは異なり、細長い切り込みが設けられずに、鋼板が高さ方向の全幅に渡って折り曲げられて、取付け部211や傾斜部212が形成されている。
【0117】
そして、拘束支持部22は取付け部211から延び、移動支持部23は傾斜部212から延びて、それぞれ梁材30a,30bとスポット溶接などによって固定されている。
【0118】
このように構成された本実施例の梁構造C1では、床根太30の上面が桁床梁12,12の上面より上方に位置しているため、床板14を直接載置することができる。
【0119】
この場合、床根太30の取付け箇所近傍に切り欠きを設けることで、床根太30として、断面の高さが高く剛性の大きいものを用いることができるため、床の剛性を大きくすることができる。
【0120】
したがって、歩行時に床鳴りが生じたり、重量物の載置時に床が撓んだりすることを防止できるため、建物ユニットU内の快適性が向上する。
【0121】
また、床小梁と床根太の両方を用いる場合と比べると、部材の数が半減し、ビス用の取付け孔の数なども大幅に減少するため、床の耐久性が大幅に向上する。
【0122】
さらに、材料を大幅に節約できるとともに、取付けの手間も大幅に減少するため、経済的な構造となる。
【0123】
以上、図面を参照して、本発明の最良の実施の形態及び実施例を詳述してきたが、具体的な構成はこの実施の形態及び実施例に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
【0124】
例えば、前記実施の形態及び実施例では、大梁として桁床梁12、梁として床小梁15や床根太30を用いる梁構造C,C1について説明したが、これに限定されるものではなく、大梁として天井梁、梁として天井野縁を用いるものであってもよい。
【0125】
また、前記実施の形態及び実施例では、梁構造C,C1を建物ユニットUに用いる場合について説明したが、これに限定されるものではなく、建物ユニットU以外の建物に用いるものであってもよい。
【0126】
そして、前記実施の形態及び実施例では、床材を固定する固定手段としてドリリングタッピングビス19を用いる場合について説明したが、これに限定されるものではなく、釘や鋲など梁材を固定できるものであればよい。
【0127】
さらに、前記実施の形態及び実施例では、床材を貫通する固定手段によって梁材を挿通して相対位置を拘束する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、梁材の相対位置を拘束するための専用の固定手段を用いるものであってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0128】
【図1】本発明の最良の実施の形態の梁構造の構成を一部破断して説明する斜視図である。
【図2】本発明の最良の実施の形態のユニット建物の概略構成を説明する斜視図である。
【図3】梁構造を取り付けた建物ユニットの構成を一部破断して説明する斜視図である。
【図4】梁構造の両端のガセットプレートの向きを説明する断面図である。
【図5】本発明の最良の実施の形態の梁構造の構成を説明する側面図である。
【図6】本発明の実施例の梁構造の構成を一部破断して説明する斜視図である。
【図7】本発明の実施例の梁構造の構成を説明する側面図である。
【符号の説明】
【0129】
U,U1,U2 建物ユニット
C,C1 梁構造
L 所定の内寸法
12 桁床梁(大梁)
121 ウェブ
14 床板(床材)
15 床小梁(梁)
15a,15b 梁材
16 床根太(床材)
19 タッピングビス(固定手段)
2,2A ガセットプレート
211 取付け部
212 傾斜部
213 屈折箇所
22 拘束支持部
23 移動支持部
25 挟まれた部分
30 床根太(梁)
30a,30b 梁材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向する大梁間に架け渡される梁と、該梁の両端と前記大梁とを連結する一対のガセットプレートと、を備える梁構造であって、
前記梁は、互いに咬合する断面を有する一対の梁材が向かい合わせに咬合されて、梁材の軸方向の相対位置の変化により軸方向に伸縮可能に形成されるとともに、
前記一対のガセットプレートのそれぞれには、前記梁材を軸方向に拘束する拘束支持部と、前記梁材を軸方向に移動可能に支持する移動支持部と、が設けられ、
前記一方の梁材の一端は前記一方のガセットプレートの前記拘束支持部に支持され、他端は前記他方のガセットプレートの前記移動支持部に支持されるとともに、
前記他方の梁材の一端は前記一方のガセットプレートの前記移動支持部に支持され、他端は前記他方のガセットプレートの前記拘束支持部に支持されることを特徴とする梁構造。
【請求項2】
前記ガセットプレートのそれぞれには、板状の鋼材によって、前記大梁のウェブに接する取付け部と、前記取付け部から屈折して斜めに立ち上がった傾斜部と、前記取付け部から突出する拘束支持部と、前記傾斜部から突出する移動支持部と、が形成されるとともに、
取付けの際には、前記傾斜部が前記大梁側に押されて、前記傾斜部の前記取付け部からの屈折箇所近傍が塑性変形することを特徴とする請求項1に記載の梁構造。
【請求項3】
前記ガセットプレートの前記拘束支持部の反対側の端部から前記拘束支持部に交差する方向に2つの切り込みが設けられるとともに、
前記傾斜部は、この切り込みに挟まれた部分が屈折して斜めに立ち上がって形成されることを特徴とする請求項2に記載の梁構造。
【請求項4】
前記梁の上には、固定手段によって床材が固定されるとともに、
前記一対の梁材の重なり合う面は、前記床材を貫通した前記固定手段によって挿通されることを特徴とする請求項1乃至請求項3に記載の梁構造。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の梁構造を備えることを特徴とする建物ユニット。
【請求項6】
請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の梁構造を備えることを特徴とする建物。
【請求項7】
請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の梁構造を並べ、該梁構造の両端を一対の大梁によって挟み、前記梁構造と該大梁とを固定し、前記梁構造の上に床材を固定する梁構造の施工方法であって、
前記梁構造を前記大梁間の所定の内寸法より長く形成しておき、該梁構造を両側の前記大梁によって押圧することで、前記梁構造の長さを前記大梁間の所定の内寸法に合わせて、前記床材を前記一対の梁材の両方を貫通する固定手段によって固定することを特徴とする梁構造の施工方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−240334(P2008−240334A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−81580(P2007−81580)
【出願日】平成19年3月27日(2007.3.27)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】