説明

梱包用緩衝体および包装体

【課題】 落下時の衝撃を有効に吸収する。
【解決手段】 半導体ウェーハ等の精密基板を収納する精密基板収納容器を包装体に梱包する際に、精密基板収納容器の上部に配置される梱包用緩衝体2であって、この梱包用緩衝体2が、梱包時に精密基板収納容器の上面を覆う底部21と、この底部21の外周縁から立ち上がって隆起する外周壁22と、この外周壁22の上面および下面に設けられるベローズ23と、底部21から、外周壁22の隆起方向とは反対側の方向に突出する複数の突出部24とを備え、これら突出部24は、複数の段部を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウェーハ、マスクガラス、ペリクル付きマスクガラス、ペリクル等の精密基板を収納する精密基板収納容器を梱包する際に用いられる梱包用緩衝体およびこの緩衝体を備える包装体に関する。
【背景技術】
【0002】
精密基板の輸送用に使用される精密基板収納容器として、例えば、特許文献1に開示された精密基板収納容器がある。この精密基板収納容器には、収納された精密基板を保護するために左右方向から奥側に大きく張り出したリテーナが用いられている。このような精密基板収納容器を安全に輸送するために使用される包装体として、例えば、特許文献2および特許文献3に開示された包装体がある。これらの包装体には、精密基板収納容器の上部と下部に配置される1組の緩衝体が用いられている。これらの各緩衝体には、精密基板収納容器を収納するための収納部が設けられている。また、特許文献4には、発泡部材を用いて成形された緩衝体が開示されている。
【0003】
ところで、包装体には、精密基板を安全に輸送するための要件として、精密基板収納容器を梱包した包装体を自然落下させたときに、包装体に収納されている精密基板収納容器や精密基板に破損等の異常を生じさせることのない落下高さが、1.0m以上、好ましくは1.5m以上になることが望まれている。
【0004】
上述した特許文献1に記載された精密基板収納容器は、精密基板を保護するためには好適である。しかしながら、蓋体の取り付けや取り外しを自動的に行う専用の装置が必要であること、大きなリテーナを有しているために容器本体から蓋体を取り除くときに大きなストロークが必要であること、蓋体開閉装置の設置スペースを余計に取る必要があること等の問題がある。これらの問題を解決するために、蓋体を取り除く際の引き抜きストロークがデバイスメーカー工程内で使用される収納容器と同等であり、かつSEMI規格E62、E63等で標準化された蓋体開閉装置の使用が可能な精密基板収納容器が開発された(特許文献5参照)。しかしながら、この精密基板収納容器は、リテーナによる精密基板の保持範囲が中央部分に限定されており、精密基板を保持するストロークも小さい。したがって、このような精密基板収納容器を、上述した特許文献2〜4に開示された従来の包装体に梱包すると、落下時の衝撃を十分に吸収することができず、特に包装体の角部や稜線部は落下時の衝撃による損傷が大きくなる。具体的には、落下高さが0.8m以上になると、精密基板が破損し、パーティクルが増加してしまう。したがって、従来の包装体を輸送用に用いることができなかった。
【特許文献1】特開2000−159288号公報
【特許文献2】特開平7−307378号公報
【特許文献3】特開2002−160769号公報
【特許文献4】特開2004−168324号公報
【特許文献5】特開2003−174081号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述した従来の包装体を補強するために、例えば、発泡スチロールやウレタンフォーム等を緩衝部材として使用することが考えられる。しかしながら、発泡スチロールやウレタンフォーム等は、一般的に嵩張りやすく、包装体のサイズも大きくなってしまうこと、そのため大きな保管スペースや輸送のためのスペースが必要になり工場のスペース効率が悪くなること、使用後に緩衝体を回収するための輸送費用が増大してしまうという問題があった。また、発泡スチロールからなる緩衝体の場合は、端部が容易に破損してしまうため細かく粉砕された破片が工場のクリーンルームを汚染してしまうこと、ウレタンフォームからなる緩衝体の場合は、破損はし難いが、発泡開口が表面に露出しているために汚染物がたまり易いこと等の問題があった。また、上述したような問題からリユースやリサイクルにも問題があった。したがって、発泡スチロールやウレタンフォーム等を緩衝部材として使用することには困難を要する。
【0006】
そこで、本発明は、上述した課題を解決するために、落下時の衝撃を有効に吸収することができる梱包用緩衝体および包装体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の梱包用緩衝体は、精密基板を収納する精密基板収納容器を包装体に梱包する際に、精密基板収納容器の上部および/または下部に配置される梱包用緩衝体であって、梱包時に精密基板収納容器の上面または下面を覆う底部と、底部の外周縁から立ち上がって隆起する外周壁と、外周壁の上面および下面に設けられるベローズと、底部から突出する複数の突出部と、を備え、突出部は複数の段部を有することを特徴とする。
【0008】
この発明によれば、外部から衝撃を受けた場合に、複数の段部を有する突出部で衝撃を受け止めることができる。すなわち、複数の段部で、衝撃を段階的に受け止めながら緩和させていくことができる。したがって、瞬間的に大きな衝撃が精密基板収納容器に加わる事態を防止することができ、落下衝撃を効果的に緩衝させることができる。
【0009】
本発明の梱包用緩衝体において、上記突出部の先端部分の外面形状が、丸みを帯びていることが好ましい。
【0010】
このようにすれば、衝撃による応力が集中し易い角部分を突出部の先端部分から排除することができるため、突出部の先端部分の外面に角部が形成されている場合に比べて圧縮強度を増大させることができる。
【0011】
本発明の梱包用緩衝体において、上記突出部の突出する高さが、異なることが好ましい。
【0012】
このように高さの異なる複数の突出部を設けることによって、異なる座屈強度の突出部で衝撃を受け止めることができるようになる。したがって、外部から衝撃を受けた場合に、異なる高さの突出部で、衝撃を段階的に受け止めながら緩和させていくことができる。
【0013】
本発明の梱包用緩衝体において、上記ベローズの高さは、内側から外側にかけて徐々に変化することが好ましい。
【0014】
このようにすれば、ベローズの圧縮強度を徐々に変化させることができる。したがって、衝撃を受けた場合に、異なる高さのベローズで衝撃を段階的に受け止めながら緩和させていくことができ、緩衝吸収能力をより向上させることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る梱包用緩衝体および包装体によれば、落下時の衝撃を有効に吸収することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明に係る梱包用緩衝体および包装体の実施形態を図面に基づき説明する。なお、各図において、同一要素には同一符号を付して重複する説明を省略する。
【0017】
図1は、本発明に係る包装体に精密基板収納容器を収納する際の分解斜視図である。図2は、本発明に係る包装体に精密基板収納容器が収納された状態の断面図である。図1および図2に示すように、包装体は、包装箱1と、上部緩衝体2Aと、下部緩衝体2Bとを有する。
【0018】
包装箱1は、精密基板収納容器3を輸送する際に、精密基板収納容器3を梱包するための箱である。精密基板収納容器3は、半導体ウェーハ(精密基板)を収納する容器である。この精密基板収納容器3は、プラスチック袋やアルミラミネート袋に入れられて密封された後に、上部緩衝体2Aと下部緩衝体2Bの間に保持されて包装箱1に梱包される。
【0019】
包装箱1は、例えば、ダンボール、ポリエチレン、ポリプロピレン等のプラスチック樹脂、ポリウレタン、ポリオレフィン樹脂等の発泡材料を使用して、一または複数の精密基板収納容器3を収納可能な大きさに形成される。特に、包装箱1をプラスチック樹脂製にすることによって、リユースの利便性を向上させることができるとともに、紙粉等によるクリーンルームの汚染を滅却させることができる。
【0020】
上部緩衝体2Aは、精密基板収納容器3を包装箱1に梱包する際に、精密基板収納容器3の上部に配置される緩衝体であり、下部緩衝体2Bは、精密基板収納容器3を包装箱1に梱包する際に、精密基板収納容器3の下部に配置される緩衝体である。
【0021】
図3〜図6を参照して、上部緩衝体2Aについて説明する。図3および図4は、上部緩衝体の斜視図であり、図5は、図3のIII−III線断面図であり、図6は、図5に示す突出部を拡大した要部断面図である。
【0022】
上部緩衝体2Aには、精密基板収納容器3を収容するための凹部が設けられている。この凹部は、精密基板収納容器3の上面を覆う底部21と、この底部21の外周縁から立ち上がって隆起する外周壁22とによって形成される。外周壁22の高さは、外周方向に沿って交互に高低を繰り返す。以下においては、外周壁22の高い部分を外周壁凸部22aと称し、外周壁22の低い部分を外周壁凹部22bと称する。本実施形態では、外周壁凸部22aおよび外周壁凹部22bをそれぞれ四箇所ずつ外周方向に沿って交互に設けた。
【0023】
外周壁22の上面と下面およびこれらの間を連結する傾斜面には、衝撃を吸収するためのベローズ23が形成されている。このベローズ23は、3つの連続した三角形状の屈曲片により形成され、精密基板収納容器の全周を取り囲むように形成されている。ベローズ23を形成する各三角形状の高さは同一に形成されている。外周壁22の上面にベローズ23を形成することによって、外周壁凸部22aの衝撃吸収能力を向上させることができ、外周壁22の下面にベローズ23を形成することによって、外周壁凹部22bの衝撃吸収能力を向上させることができる。
【0024】
上部緩衝体2Aの底部21には、外周壁22の隆起方向とは反対側の方向に突出する複数の突出部24が形成されている。図3に示すように、突出部24は、三行×三列に配設され、これら突出部24の高さは30mm〜80mmの間で同一の高さになるように形成されている。突出部24は、円柱状の四つの段部24s,24pを有し、これら段部部分の直径は10mm〜80mmで、突出部24の先端部分24pに向かうほど段部部分の直径が小さくなるように形成されている。各段部間の段差は5〜15mmの間で形成されている。
【0025】
突出部24に複数の段部を設けることによって、それぞれの段部ごとに異なる座屈強度を持たせることができる。したがって、外部から衝撃を受けた場合に、突出部24で衝撃を段階的に受け止めながら緩和させていくことができる。つまり、衝撃を受けた場合に、突出部24全体が一気に潰れてしまう事態を抑制することができ、ひいては、精密基板収納容器に強い衝撃が加わる事態を防止することができる。さらに、精密基板を保持するリテーナ31が取り付けられた蓋体32が変動する事態を抑制することができるため、パーティクルを低減させることできる。
【0026】
本実施形態における包装体によると、上述した特許文献5に開示された精密基板収納容器を梱包する場合でも十分な衝撃緩衝力を発揮することができる。具体的に説明すると、上述した特許文献2〜4に開示された従来の包装体では対応することが困難であった1.5mの落下試験を行ったところ、半導体ウェーハの破損や溝外れ、パーティクルの増加等の異常が発生しないことが確認された。また、振動試験を行ったところ、半導体ウェーハが回転することなく、汚染が生じないことが確認された。したがって、本実施形態における包装体を用いることによって、精密基板収納容器を安全に輸送することができる。
【0027】
また、上部緩衝体2Aは、ネスティングした状態で保管することができるため、保管スペースを削減することができるとともに、リユースの際の搬送コストも削減することができる。
【0028】
なお、上述した実施形態では、突出部24を上部緩衝体2Aにのみ設けているが、これは、精密基板収納容器の下部側(底面側)は、開口部とこれを閉鎖するように係止された蓋体を有さず、精密基板収納容器の上部側(蓋体側)よりも頑丈にできているためであり、突出部24を下部緩衝体2Bに設けることを除外するものではない。したがって、例えば、図7に示すように、上部緩衝体2Aの底部21および下部緩衝体2Cの底部21に突出部24を設けることとしてもよい。この場合に、下部緩衝体2Cは、上述した上部緩衝体2Aと同様の構成要素を有することとすればよい。
【0029】
また、上述した実施形態における突出部24の先端部分24pの外面形状は、角部を有しているが、突出部24の先端部分の形状は、これに限定されない。例えば、図8に示すように、突出部24の先端部分24pの外面形状を、角部を取り除いた形状、すなわち丸みを帯びた形状にしてもよい。これにより、衝撃による応力が集中し易い角部を突出部の先端部分から排除することができるため、角部を有する場合よりも圧縮強度を増大させることができる。丸みを帯びた形状としては、例えば、半球状が該当する。
【0030】
また、上述した実施形態における突出部24は、外周壁22の隆起方向とは反対側の方向に突出しているが、突出部24の突出方向は、これに限定されない。例えば、図9に示すように、外周壁22の隆起方向と同じ方向に突出させてもよい。この場合には、突出部24の先端部分24pが精密基板収納容器に接することとなる。したがって、外部から衝撃を受けた場合には、精密基板収納容器と接する突出部24の先端部分24pから順次突出部24が潰れていくことになるため、衝撃を段階的に受け止めながら緩和させていくことができる。
【0031】
また、上述した実施形態における突出部24の高さは、同一に形成されているが、これに限定されない。複数の突出部24の高さを、それぞれ異なる高さに形成させることとしてもよい。例えば、図10に示すように、異なる高さの突出部24a,24bを設けることとしてもよい。このように高さの異なる複数の突出部24a,24bを設けることによって、異なる座屈強度の突出部で衝撃を受け止めることができるようになる。したがって、外部から衝撃を受けた場合に、異なる高さの突出部24で、衝撃を段階的に受け止めながら緩和させていくことができる。したがって、瞬間的に大きな衝撃が精密基板収納容器3や半導体ウェーハに加わる事態を防止することができ、包装体の落下衝撃を効果的に緩衝させることができる。
【0032】
また、上述した実施形態におけるベローズ23では、ベローズを形成する各三角形状の高さを同一に形成しているが、これに限定されない。例えば、図11に示すように、ベローズを形成する各三角形状23a,23b,23cの高さを内側から外側にかけて徐々に高くしてもよい。また、ベローズを形成する各三角形状の高さを内側から外側にかけて徐々に低くしてもよい。このようなベローズ23を形成することによって、ベローズ23の圧縮強度を徐々に変化させることができる。したがって、衝撃を受けた場合に、異なる高さのベローズ23で衝撃を段階的に受け止めながら緩和させていくことができ、緩衝吸収能力をより向上させることができる。また、こうした構造にすると、精密基板収納容器を梱包して輸送するときの振動吸収にも効果的である。
【0033】
また、上述した実施形態におけるベローズ23は、3つの連続した三角形状の屈曲片により形成されているが、これに限定されることはなく、複数の三角形状の屈曲片により形成されていればよい。
【0034】
また、上述したベローズ23は、精密基板収納容器の全周を取り囲むように形成されているが、これに限定されることはなく、ベローズ23は、少なくとも一部に形成されていればよい。ただし、全周に設けた方が衝撃をより吸収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明に係る包装体に精密基板収納容器を収納する際の分解斜視図である。
【図2】本発明に係る包装体に精密基板収納容器が収納された状態の断面図である。
【図3】上部緩衝体の斜視図である。
【図4】上部緩衝体の斜視図である。
【図5】図3のIII−III線断面図である。
【図6】突出部付近の拡大断面図である。
【図7】変形例における包装体に精密基板収納容器が収納された状態の断面図である。
【図8】変形例における突出部付近の断面図である。
【図9】変形例における上部緩衝体の断面図である。
【図10】変形例における上部緩衝体の断面図である。
【図11】変形例におけるベローズ付近の断面図である。
【符号の説明】
【0036】
1・・・包装箱、2・・・梱包用緩衝体、2A・・・上部緩衝体、2B,2C・・・下部緩衝体、21・・・底部、22・・・外周壁、22a・・・外周壁凸部、22b・・・外周壁凹部、23・・・ベローズ、24・・・突出部、3・・・精密基板収納容器、31・・・リテーナ、32・・・蓋体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
精密基板を収納する精密基板収納容器を包装体に梱包する際に、前記精密基板収納容器の上部および/または下部に配置される梱包用緩衝体であって、
前記梱包時に前記精密基板収納容器の上面または下面を覆う底部と、
前記底部の外周縁から立ち上がって隆起する外周壁と、
前記外周壁の上面および下面に設けられるベローズと、
前記底部から突出する複数の突出部と、を備え、
前記突出部は複数の段部を有することを特徴とする梱包用緩衝体。
【請求項2】
前記突出部の先端部分の外面形状が、丸みを帯びていることを特徴とする請求項1記載の梱包用緩衝体。
【請求項3】
前記突出部の突出する高さが、異なることを特徴とする請求項1または2記載の梱包用緩衝体。
【請求項4】
前記ベローズの高さは、内側から外側にかけて徐々に変化することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の梱包用緩衝体。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の梱包用緩衝体を備えることを特徴とする包装体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−150067(P2008−150067A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−339015(P2006−339015)
【出願日】平成18年12月15日(2006.12.15)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】