説明

棘付き縫合糸中の生物活性物質

【課題】棘付き縫合糸の抗菌特徴が長期間にわたって改善され、従って、所望の抗菌効果をインビボで達成するために、より少量の抗菌剤の使用を可能にする、容易かつ安価な方法を提供すること。
【解決手段】細長本体;該細長本体から延びる複数の棘であって、該棘は、該棘と該細長本体との間に棘角を形成し、該複数の棘の少なくとも一部分は、形状記憶ポリマーから形成されており、その結果、該棘は、一時的形状にある場合に、永続的形状においてとは異なる棘角で延びる、複数の棘;および該棘と該細長本体との間に形成された該棘角内に配置された有効量の生物活性剤、を備える、外科手術用縫合糸。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の引用)
本願は、2007年9月6日に出願された米国特許出願番号11/899,852の一部継続出願であり、この米国特許出願は、2006年9月6日に出願された米国仮出願番号60/842,763の優先権および利益を主張する。これらの各々の全開示は、本明細書中に参考として援用される。
【0002】
(技術分野)
本開示は、抗菌剤などの生物活性剤を表面に有する棘付き縫合糸、ならびにこのような縫合糸を調製するための方法および使用するための方法に関する。ある実施形態において、これらの縫合糸および/またはその表面の棘は、少なくとも部分的に、形状記憶ポリマー材料から形成され得る。
【背景技術】
【0003】
(関連技術の背景)
棘付き縫合糸(これらは一般に、従来の縫合糸と同じ材料から作製される)は、従来の縫合糸と比較して、創傷を閉鎖するための数個の利点を与える。棘付き縫合糸は、間隔を空けた1つ以上の棘を有する細長本体を備え、これらの棘は、この本体の長さ方向に沿って、この縫合糸本体の表面から突出する。これらの棘は、この棘付き縫合糸が組織を通って一方向に通過することを可能にするが、この棘付き縫合糸の逆方向への移動に抵抗するように配置される。従って、棘付き縫合糸の1つの利点は、滑らない性質の提供であった。
【0004】
棘付き縫合糸は、美容術手順、腹腔鏡手順および内視鏡手順において使用するために、公知である。棘付き縫合糸を使用することにより、創傷内での縫合糸の滑りを少なくしながら、組織に張力を与えることが可能である。縫合糸棘の数は、創傷のサイズ、およびこの創傷を閉じた状態に保持するために必要とされる強度によって、影響を受け得る。従来の縫合糸と同様に、棘付き縫合糸は、外科手術用針を使用して組織に挿入され得る。
【0005】
抗菌剤などの生物活性剤は、外科手術用デバイスに関連して、例えば、創傷治癒プロセス中の微生物感染を防止している。外科手術用縫合糸を抗菌化合物でコーティングして、微生物感染を防止および処置することもまた、公知である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
抗菌剤は、外科手術用縫合糸および創傷包帯が感染を予防するために使用されているが、増強された抗菌効力を有しながら長期間にわたってインビボで残り得る、改善された棘付き縫合糸が、必要とされ続けている。棘付き縫合糸の抗菌特徴を長期間にわたって改善し、従って、所望の抗菌効果をインビボで達成するために、より少量の抗菌剤の使用を可能にする、容易かつ安価な方法もまた、必要とされている。他の生物活性剤を創傷部位に送達して、治癒を促進することなどもまた、必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、例えば、以下を提供する:
(項目1A)
細長本体;
該細長本体から延びる複数の棘であって、該棘は、該棘と該細長本体との間に棘角を形成し、該複数の棘の少なくとも一部分は、形状記憶ポリマーから形成されており、その結果、該棘は、一時的形状にある場合に、永続的形状においてとは異なる棘角で延びる、複数の棘;および
該棘と該細長本体との間に形成された該棘角内に配置された有効量の生物活性剤、
を備える、外科手術用縫合糸。
(項目2A)
上記棘角が、上記一時的形状においてよりも上記永続的形状において大きい、上記項目に記載の外科手術用縫合糸。
(項目3A)
一時的形状において、上記複数の棘が、上記縫合糸の長手方向軸に対して実質的に平行に延びる、上記項目のうちのいずれかに記載の外科手術用縫合糸。
(項目4A)
永続的形状において、上記複数の棘が、上記縫合糸の表面から離れる方向に外向きに延びる、上記項目のうちのいずれかに記載の外科手術用縫合糸。
(項目5A)
上記形状記憶ポリマーが、生体吸収性材料、非分解性材料およびこれらの組み合わせからなる群より選択される、上記項目のうちのいずれかに記載の外科手術用縫合糸。
(項目6A)
上記形状記憶ポリマーが、ポリオレフィン、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリオレフィンコポリマー、フッ素化ポリオレフィン、ポリアミド、ポリアミン、ポリイミン、ポリエステル、ポリエーテル、ポリブタエステル、ポリウレタン、アクリルポリマー、メタクリルポリマー、ハロゲン化ビニルポリマー、ハロゲン化ビニルコポリマー、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、ポリハロゲン化ビニリデン、ポリクロロフルオロエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリアリールエーテルケトン、ポリビニルケトン、ポリビニル芳香族、ポリビニルエステル、ビニルモノマーのコポリマー、アクリロニトリル−スチレンコポリマー、ABS樹脂、エチレン−酢酸ビニルコポリマー、アルキド樹脂、ポリカーボネート、ポリオキシメチレン、ポリホスファジン、ポリイミド、エポキシ樹脂、アラミド、レーヨン、スパンデックス、シリコーン、ならびにこれらの組み合わせからなる群より選択される非分解性材料を含有する、上記項目のうちのいずれかに記載の外科手術用縫合糸。
(項目7A)
上記形状記憶ポリマーが、脂肪族ポリエステル、ポリアミド、ポリアミン、ポリアルキレンオキサレート、ポリ(酸無水物)、ポリアミドエステル、コポリ(エーテル−エステル)、ポリ(カーボネート)、ポリ(ヒドロキシアルカノエート)、ポリイミドカーボネート、ポリ(イミノカーボネート)、ポリオルトエステル、ポリオキサエステル、ポリホスファゼン、ポリ(プロピレンフマレート)、ポリウレタン、ポリマー薬物、生物学的に修飾された生体吸収性ポリマー、およびこれらのコポリマー、ホモポリマー、ならびに組み合わせからなる群より選択される生体吸収性材料を含有する、上記項目のうちのいずれかに記載の外科手術用縫合糸。
(項目8A)
上記形状記憶ポリマーが、ラクチド、グリコリド、ε−カプロラクトン、p−ジオキサノン、トリメチレンカーボネート、トリメチレンカーボネートのアルキル誘導体、δ−バレロラクトン、β−ブチロラクトン、γ−ブチロラクトン、ε−デカラクトン、ヒドロキシブチレート、ヒドロキシバレレート、1,4−ジオキセパン−2−オン、1,5−ジオキセパン−2−オン、6,6−ジメチル−1,4−ジオキサン−2−オン、2,5−ジケトモルホリン、ピバロラクトン、α,α−ジエチルプロピオラクトン、エチレンカーボネート、エチレンオキサレート、3−メチル−1,4−ジオキサン−2,5−ジオン、3,3−ジエチル−1,4−ジオキサン−2,5−ジオン、6,8−ジオキサビシクロオクタン−7−オンのホモポリマーおよびコポリマー、ならびにこれらの組み合わせからなる群より選択される脂肪族ポリエステルを含有する、上記項目のうちのいずれかに記載の外科手術用縫合糸。
(項目9A)
上記形状記憶ポリマーが、ポリ(アミノ酸)、コラーゲン、エラスチン、フィブリン、フィブリノゲン、絹、アルブミン、ラミニンおよびフィブロネクチンの配列を含むペプチド、ヒアルロン酸、デキストラン、アルギネート、キチン、キトサン、セルロース、グリコサミノグリカン、ガット、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシブチルメチルセルロース、酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、酢酸フタル酸セルロース、カルボキシメチルセルロース、三酢酸セルロース、硫酸セルロースナトリウム塩、ニトロセルロース、キトサン、ならびにこれらの組み合わせからなる群より選択される生分解性ポリマーを含有する、上記項目のうちのいずれかに記載の外科手術用縫合糸。
(項目10A)
上記形状記憶ポリマーが、オリゴ(ε−カプロラクトン)ジメタクリレート、オリゴ(ε−カプロラクトン)ブチルアクリレート、(アクリル酸n−ブチル)、オリゴ(ε−カプロラクトン)ジオール/オリゴ(p−ジオキサノン)ジオールコポリマー、ポリカプロラクトンジメタクリレートポリ(アクリル酸ブチル)ブレンド、およびこれらの組み合わせからなる群より選択されるポリマーを含有する、上記項目のうちのいずれかに記載の外科手術用縫合糸。
(項目11A)
上記形状記憶ポリマーが、ポリジオキサノンとポリラクチドとのブロックコポリマーを含有する、上記項目のうちのいずれかに記載の外科手術用縫合糸。
(項目12A)
上記ポリジオキサノンが、上記コポリマーの約5mol%〜約20mol%の量で存在し、そして上記ポリラクチドが、該コポリマーの約80mol%〜約95mol%の量で存在する、上記項目のうちのいずれかに記載の外科手術用縫合糸。
(項目13A)
上記形状記憶ポリマーが、トリメチレンカーボネートとポリラクチドとのブロックコポリマーを含有する、上記項目のうちのいずれかに記載の外科手術用縫合糸。
(項目14A)
上記トリメチレンカーボネートが、上記コポリマーの約5mol%〜約20mol%の量で存在し、そして上記ポリラクチドが、該コポリマーの約80mol%〜約95mol%の量で存在する、上記項目のうちのいずれかに記載の外科手術用縫合糸。
(項目15A)
上記生物活性剤が、殺菌剤、抗菌剤、抗生物質、抗増殖剤、医薬、増殖因子、成長因子、抗凝固剤、凝固剤、鎮痛薬、麻酔薬、抗炎症剤、創傷修復剤、化学療法剤、生物学的物質、タンパク質治療剤、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、DNA、RNA、ペプチド、多糖類、レクチン、脂質、共生剤、診断剤、脈管形成剤、抗脈管形成薬、ポリマー薬物、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される、上記項目のうちのいずれかに記載の外科手術用縫合糸。
(項目16A)
上記抗菌剤が、抗生物質、集団感知遮断薬、抗ウイルス剤、界面活性剤、金属イオン、抗菌タンパク質、抗菌ペプチド、抗菌多糖類、消毒薬、防腐剤およびこれらの組み合わせからなる群より選択される、上記項目のうちのいずれかに記載の外科手術用縫合糸。
(項目17A)
上記縫合糸上の少なくとも一部分にコーティングをさらに備える、上記項目のうちのいずれかに記載の外科手術用縫合糸。
(項目18A)
縫合糸から生物活性剤を放出するためのシステムであって、
一時的形状にある縫合糸であって、該縫合糸は、
細長本体;
該細長本体から延びる複数の棘であって、該棘は、該棘と該細長本体との間に棘角を形成し、該複数の棘の少なくとも一部分は、形状記憶ポリマーから作製されており、その結果、該棘は、該一時的形状にある場合に、永続的形状にある場合とは異なる棘角で延びる、複数の棘;および
該棘と該細長本体との間に形成された該棘角内に配置された有効量の生物活性剤、
を備える、縫合糸を備え、
該縫合糸は、該棘が該一時的形状から該永続的形状へと延びるように、組織内に配置されるように構成されており;そして
該縫合糸は、該生物活性剤を該組織内に放出ように構成されている、
システム。
(項目19A)
上記縫合糸が、一時的形状である場合に、上記複数の棘が該縫合糸の長手方向軸に対して実質的に平行に延びるように構成されている、上記項目に記載のシステム。
(項目20A)
上記縫合糸が、永続的形状である場合に、該永続的形状における上記複数の棘が上記縫合糸の表面から離れる方向に外向きに延びるように構成されている、上記項目のうちのいずれかに記載のシステム。
(項目21A)
上記縫合糸が、上記複数の棘が上記一時的形状から上記永続的形状へと移行する際に、該生物活性剤を上記棘角から放出するように構成されている、上記項目のうちのいずれかに記載のシステム。
(項目18B)
縫合糸から生物活性剤を放出する方法であって、
縫合糸を一時的形状で提供する工程であって、該縫合糸は、
細長本体;
該細長本体から延びる複数の棘であって、該棘は、該棘と該細長本体との間に棘角を形成し、該複数の棘の少なくとも一部分は、形状記憶ポリマーから作製されており、その結果、該棘は、該一時的形状にある場合に、永続的形状にある場合とは異なる棘角で延びる、複数の棘;および
該棘と該細長本体との間に形成された該棘角内に配置された有効量の生物活性剤、
を備える、工程;
該棘が該一時的形状から該永続的形状へと延びるように、該縫合糸を組織内に配置する工程;ならびに
該生物活性剤を該組織内に放出する工程、
を包含する、方法。
(項目19B)
上記縫合糸を提供する工程が、該縫合糸を一時的形状で提供する工程を包含し、その結果、上記複数の棘が該縫合糸の長手方向軸に対して実質的に平行に延びる、上記項目に記載の方法。
(項目20B)
上記縫合糸を提供する工程が、該縫合糸に永続的形状を提供する工程を包含し、その結果、上記複数の棘は、該永続的形状において、上記縫合糸の表面から離れる方向に外向きに延びる、上記項目のうちのいずれかに記載の方法。
(項目21B)
上記生物活性剤を上記組織内に放出する工程が、上記複数の棘が上記一時的形状から上記永続的形状へと移行する際に、該生物活性剤を上記棘角から放出する工程を包含する、上記項目のうちのいずれかに記載の方法。
【0008】
(摘要)
棘付き外科手術用縫合糸が提供され、これらの棘付き外科手術用縫合糸は、細長本体、およびこの細長本体から延びる複数の棘を備える。生物活性剤が、これらの棘とこの細長本体との間に形成された棘角内に配置される。これらの棘は、永続的形状を有する形状記憶ポリマーから作製され得、この永続的形状は、一時的形状に変形し得、その結果、この縫合糸の棘は、これらの異なる形状構成において異なる棘角で延びる。この永続的形状の棘角は、この一時的形状の棘角より大きくあり得、これによって、組織内への配置後に生物活性剤を曝露および/または放出する。
【0009】
(要旨)
棘付き外科手術用縫合糸が提供され、これらの棘付き外科手術用縫合糸は、細長本体、およびこの細長本体から延びる複数の棘を備える。生物活性剤が、これらの棘とこの細長本体との間に形成された棘角内に配置される。ある実施形態において、これらの棘は、永続的形状を有する形状記憶ポリマーから作製され、この永続的形状は、一時的形状に変形し得、その結果、この縫合糸の棘は、これらの異なる形状構成において異なる棘角で延びる。この永続的形状の棘角は、この一時的形状の棘角より大きくあり得、これによって、組織内への配置後に生物活性剤を曝露および/または放出する。これらの棘は、この永続的形状において、この縫合糸の細長本体の表面から離れる方向に外向きに延び得、そしてこれらの棘は、この一時的形状において、この縫合糸の細長本体の長手方向軸に対して実質的に平行に延び得る。
【0010】
この形状記憶ポリマーは、生体吸収性材料、非分解性材料、およびこれらの組み合わせであり得る。ある実施形態において、この形状記憶ポリマーは、ポリジオキサノンとポリラクチドとのブロックコポリマーである。他の実施形態において、この形状記憶ポリマーは、トリメチレンカーボネートとポリラクチドとのブロックコポリマーである。
【0011】
生物活性剤としては、例えば、殺菌剤、抗菌剤、抗生物質、抗増殖剤、医薬、増殖因子、成長因子、抗凝固剤、凝固剤、鎮痛薬、麻酔薬、抗炎症剤、創傷修復剤、化学療法剤、生物学的物質、タンパク質治療剤、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、DNA、RNA、ペプチド、多糖類、レクチン、脂質、共生剤、診断剤、脈管形成剤、抗脈管形成薬、ポリマー薬物、およびこれらの組み合わせが挙げられ得る。
【0012】
生物活性剤を縫合糸から放出する方法もまた提供される。本方法に従って、縫合糸が提供され、この縫合糸は、細長本体、この細長本体から延びる複数の棘であって、これらの棘とこの細長本体との間に棘角を形成する複数の棘、およびこの棘角内に配置された有効量の生物活性剤を備える。これらの複数の棘の少なくとも一部分は、形状記憶ポリマーから作製され、その結果、これらの棘は、一時的形状にある場合に、永続的形状においてとは異なる棘角で延びる。この縫合糸は、これらの棘がこの一時的形状からこの永続的形状へと延びるように組織内に配置され、これによって、この生物活性剤を組織内に放出する。
【0013】
ある実施形態において、この縫合糸は、一時的形状で提供され、この一時的形状において、これらの複数の棘は、この縫合糸の長手方向軸に対して実質的に平行である。次いで、この縫合糸は永続的形状に変形し得、この永続的形状において、これらの複数の棘は、この縫合糸の表面から離れる方向に外向きに延びる。
【0014】
ある実施形態において、複数の棘が一時的形状から永続的形状へと移行する際に、生物活性物質が棘角から組織内へと放出される。
【0015】
本開示の種々の実施形態は、図面を参照しながら本明細書中で以下に記載される。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、棘付き縫合糸の抗菌特徴が長期間にわたって改善され、従って、所望の抗菌効果をインビボで達成するために、より少量の抗菌剤の使用を可能にする、容易かつ安価な方法が提供される。他の生物活性剤を創傷部位に送達することによる治癒の促進もまた達成される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、針に取り付けられた、本開示に従う棘付き縫合糸の斜視図である。
【図2】図2は、各端部で針に取り付けられた二方向棘付き縫合糸の斜視図である。
【図3A】図3Aは、本開示に従う棘付き縫合糸と一緒に利用される管状挿入デバイスの平面図である。
【図3B】図3Bは、本開示に従う棘付き縫合糸と一緒に利用される管状挿入デバイスの平面図である。
【図3C】図3Cは、本開示に従う棘付き縫合糸と一緒に利用される管状挿入デバイスの平面図である。
【図4A】図4Aは、棘付き縫合糸と一緒に利用されるシースの平面図である。
【図4B】図4Bは、棘付き縫合糸と一緒に利用されるシースの平面図である。
【図5A】図5Aは、本開示の1つの実施形態に従う、永続的構成にある形状記憶ポリマー棘を有する棘付き縫合糸の一部分の平面図である。
【図5B】図5Bは、本開示の1つの実施形態に従う、一時的構成にある形状記憶ポリマー棘を有する棘付き縫合糸の一部分の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本明細書中に、棘付き外科手術用縫合糸が記載される。本開示に従う縫合糸は、モノフィラメント構成であってもマルチフィラメント構成であってもよい。この縫合糸は、近位端と遠位端との両方を有する細長縫合糸本体を有し得、棘が、この細長本体から少なくとも一方の端部に向かって突出し、これによって、約90°未満の内角を、棘と縫合糸本体との間に形成する。ある実施形態において、生物活性剤が、この棘角(すなわち、棘と縫合糸本体との間に形成される角)内に配置され得る。棘と縫合糸本体との間に形成された角内への生物活性剤の配置は、生物活性剤を、組織創傷を閉鎖するものの内部で正確に規定された位置に配置し、これによって、独特の放出制御される徐放性の投薬形態を提供する。
【0019】
本開示に従う棘付き縫合糸は、分解性材料、非分解性材料、およびこれらの組み合わせから形成され得る。この医療デバイスを形成するために利用され得る適切な分解性材料としては、天然コラーゲン性材料、ガットまたは合成樹脂(アルキレンカーボネート(例えば、トリメチレンカーボネート、テトラメチレンカーボネートなど)から誘導されるものが挙げられる)、カプロラクトン、バレロラクトン、ジオキサノン、ポリ酸無水物、ポリアミド、ポリエステル、ポリアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリウレタン、グリコール酸、乳酸、グリコリド、ラクチド、ポリヒドロキシブチレート(PHB)、ポリオルトエステル、ポリヒドロキシアルカノエート、これらのホモポリマー、これらのコポリマー、およびこれらの組み合わせが挙げられる。いくつかの実施形態において、グリコリドおよびラクチドをベースとするポリエステル(特に、グリコリドとラクチドとのコポリマー)が、本開示の縫合糸を形成するために利用され得る。
【0020】
ある実施形態において、本開示に従う縫合糸を形成するために利用され得る適切な材料としては、グリコール酸、乳酸、グリコリド、ラクチド、ジオキサノン、トリメチレンカプロラクトン、および上記のものの様々な組み合わせを有する、ホモポリマー、コポリマー、および/またはブレンドが挙げられる。例えば、いくつかの実施形態において、グリコリドとトリメチレンカーボネートとのコポリマーが利用され得る。このようなコポリマーを形成するための方法は、当業者の知識の範囲内であり、そして例えば、米国特許第4,300,565号および同第5,324,307号(これらの各々の全開示は、本明細書中に参考として援用される)に開示される方法が挙げられる。グリコリドとトリメチレンカーボネートとの適切なコポリマーは、このコポリマーの約60重量%〜約75重量%、ある実施形態において、このコポリマーの約65重量%〜約70重量%の量のグリコリドを有し得、トリメチレンカーボネートは、このコポリマーの約25重量%〜約40重量%、ある実施形態において、このコポリマーの約30重量%〜約35重量%の量で存在する。
【0021】
他の適切な材料としては、ラクチドとグリコリドとのコポリマーが挙げられ、ラクチドは、このコポリマーの約6重量%〜約12重量%の量で存在し、そしてグリコリドは、このコポリマーの約88重量%〜約94重量%の量で存在する。いくつかの実施形態において、ラクチドは、このコポリマーの約7重量%〜約11重量%で存在し、グリコリドは、このコポリマーの約89重量%〜約98重量%の量で存在する。いくつかの他の実施形態において、ラクチドは、このコポリマーの約9重量%の量で存在し、グリコリドは、このコポリマーの約91重量%の量で存在する。
【0022】
ある実施形態において、本開示による縫合糸を形成するのに適切な材料は、ある実施形態において、グリコリドと、ジオキサノンと、トリメチレンカーボネートとのコポリマーを含有する。このような材料としては、例えば、このコポリマーの約55重量%〜約65重量%、ある実施形態において、このコポリマーの約58重量%〜約62重量%、いくつかの実施形態において、このコポリマーの約60重量%の量のグリコリド;このコポリマーの約10重量%〜約18重量%、ある実施形態において、このコポリマーの約12重量%〜約16重量%、いくつかの実施形態において、このコポリマーの約14重量%の量のジオキサノン;およびこのコポリマーの約17重量%〜約35重量%、ある実施形態において、このコポリマーの約22重量%〜約30重量%、いくつかの実施形態において、このコポリマーの約26重量%の量のトリメチレンカーボネートを有するコポリマーが挙げられ得る。
【0023】
他の適切な材料としては、グリコリドと、ラクチドと、トリメチレンカーボネートと、ε−カプロラクトンとのコポリマーが挙げられ、本開示に従う縫合糸を形成するために利用され得る。このような材料としては、例えば、このコポリマーの約14重量%〜約20重量%、ある実施形態において、このコポリマーの約16重量%〜約18重量%、いくつかの実施形態において、このコポリマーの約17重量%の量のε−カプロラクトン;このコポリマーの約4重量%〜約10重量%、ある実施形態において、このコポリマーの約6重量%〜約8重量%、いくつかの実施形態において、このコポリマーの約7重量%の量のラクチド;このコポリマーの約4重量%〜約10重量%、ある実施形態において、このコポリマーの約6重量%〜約8重量%、いくつかの実施形態において、このコポリマーの約7重量%の量のトリメチレンカーボネート;およびこのコポリマーの約60重量%〜約78重量%、ある実施形態において、このコポリマーの約66重量%〜約72重量%、いくつかの実施形態において、このコポリマーの約69重量%の量のグリコリドを有するランダムコポリマーが挙げられ得る。
【0024】
本開示の縫合糸を形成するために利用され得る適切な非分解性材料としては、ポリオレフィン(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンとポリプロピレンとのコポリマー、およびポリエチレンとポリプロピレンとのブレンド)、超高分子量ポリエチレン、ポリアミド(ナイロンとしてもまた公知)、ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリテトラフルオロエチレン)、ポリエーテル−エステル(例えば、ポリブタエステル(polybutester)、ポリテトラメチレンエーテルグリコール)、1,4−ブタンジオール、ポリビニリデンジフルオリド(PVDF)、ポリウレタン、ならびにこれらの組み合わせが挙げられる。他の実施形態において、非分解性材料は、絹、綿、麻、炭素繊維などを含み得る。いくつかの有用な実施形態において、ポリプロピレンが、縫合糸を形成するために利用され得る。このポリプロピレンは、アイソタクチックポリプロピレン、またはアイソタクチックポリプロピレンとシンジオタクチックポリプロピレンもしくはアタクチックポリプロピレンとの混合物であり得る。
【0025】
ある実施形態において、棘付き縫合糸は、全体としてかまたは部分的に(例えば、縫合糸本体、棘、および/またはこれらの一部分)、形状記憶ポリマーを使用して構成され得、これらの形状記憶ポリマーは、組織に接着するのに適切な形状、または本開示の棘付き縫合糸を組織に固定することを補助するのに適切な形状を、インビボで取り得る。本開示の棘付き縫合糸を形成するために利用される形状記憶ポリマー材料は、永続的形状および一時的形状を有する。ある実施形態において、この一時的形状は、外科医がこの縫合糸を患者の身体に導入する能力を増強する構成の形状である。この永続的形状(エネルギー(例えば、熱または光)の付与の際にインビボで呈される)は、組織内への縫合糸の保持、および/または組織への外科手術用デバイスの接着を増強する構成の形状である。
【0026】
形状記憶ポリマーとは、縫合糸などの物体に形成される場合に、機械的な力により一時的に変形し得、次いで、エネルギーにより刺激を受ける場合に元の形状に復帰し得る、ポリマーのクラスである。形状記憶ポリマーは、それらの微細構造中の少なくとも二相の分離した微小ドメインによって、形状記憶特性を示す。第一のドメインは、硬い、共有架橋構造または他の様式で鎖の動きが制限された構造からなり、この構造は、その物体の元の形状を保持するためのアンカーとして働く。第二のドメインは、切り替え可能な柔らかい構造であり、この構造は、変形し得、次いで固定されて、二次形状または一時的形状を得る。
【0027】
熱で刺激される形状記憶ポリマーの場合、転位温度(TTrans)が存在し、この温度において、加熱中に形状変化が起こる。従って、これらの形状記憶ポリマーは、分子レベルで材料特性を変更すること、および加工パラメータを変化させることによって、調整され得る。物体の一次形状は、ソフトドメインが可撓性でありかつハードドメインが完全には形成されない温度で、熱および圧力を用いて形成され得る。次いで、この物体は、ハードドメインがより完全に形成され、そしてソフトドメインが硬くなるように、冷却され得る。二次形状または一時的形状は、この物体を機械的に変形させることにより形成され得、この変形は、TTransに近い温度またはより高温で、最も容易に達成される。次いで、この物体に導入される機械的応力は、この物体をTTrans未満の温度まで冷却して、ソフトドメインを硬い状態に固化させることによって、適所にロックされる。一旦、この物体がTTransより高温であるTまで加熱されると、そのソフトドメインが軟化し、そして弛緩してその元の構成に戻り、そしてその物体は、その一次形状または元の形状(本明細書中で時々、その永続的形状と称される)まで戻る。形状記憶材料がその永続的形状を回復する温度は、ある実施形態において、その永続温度(Tperm)と称され得る。
【0028】
本明細書中に開示される棘付き縫合糸を構成するために使用され得る、形状記憶特性を有するポリマーとしては、例えば、合成材料、天然材料(例えば、生物学的材料)およびこれらの組み合わせが挙げられ、これらの材料は、生分解性および/または非生分解性であり得る。本明細書中で使用される場合、用語「生分解性」は、生体吸収性材料と生体再吸収性材料との両方を包含する。生分解性とは、その物質が身体条件下で分解するかまたは構造的一体性を失うか(例えば、酵素分解、加水分解)あるいは身体内の生理学的条件下で(物理的もしくは化学的に)分解(例えば、溶解)し、その結果、その分解生成物が身体により排出可能または吸収可能になることを意味する。
【0029】
形状記憶特性を有し得る適切な非分解性材料としては、ポリオレフィン(例えば、ポリエチレン(超高分子量ポリエチレンが挙げられる)およびポリプロピレン(アタクチック、アイソタクチック、シンジオタクチック、およびこれらのブレンドが挙げられる));ポリエチレングリコール;エチレンオキシド;超高分子量ポリエチレン;ポリエチレンとポリプロピレンとのコポリマー;ポリイソブチレンとエチレン−αオレフィンとのコポリマー;フッ素化ポリオレフィン(例えば、ポリフルオロエチレン、ポリフルオロプロピレン、フルオロPEG、およびポリテトラフルオロエチレン);ポリアミド(例えば、ナイロン、ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン6,10、ナイロン11、ナイロン12、およびポリカプロラクタム);ポリアミン;ポリイミン;ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、およびポリブチレンテレフタレート);ポリエーテル;ポリテトラメチレンエーテルグリコール;ポリブタエステル、(ブチレンテレフタレートとポリテトラメチレンエーテルグリコールとのコポリマーが挙げられる);1,4−ブタンジオール;ポリウレタン;アクリルポリマー;メタクリル類;ハロゲン化ビニルポリマーおよびコポリマー(例えば、ポリ塩化ビニル);ポリビニルアルコール;ポリビニルエーテル(例えば、ポリビニルメチルエーテル);ポリハロゲン化ビニリデン(例えば、ポリフッ化ビニリデンおよびポリ塩化ビニリデン);ポリクロロフルオロエチレン;ポリアクリロニトリル;ポリアリールエーテルケトン;ポリビニルケトン;ポリビニル芳香族(例えば、ポリスチレン);ポリビニルエステル(例えば、ポリ酢酸ビニル);ビニルモノマー同士のコポリマーおよびビニルモノマーとオレフィンとのコポリマー(例えば、エチレン−メタクリル酸メチルコポリマー);アクリロニトリル−スチレンコポリマー;ABS樹脂;エチレン−酢酸ビニルコポリマー;アルキド樹脂;ポリカーボネート;ポリオキシメチレン;ポリホスファジン;ポリイミド;エポキシ樹脂;アラミド;レーヨン;レーヨン−トリアセテート;スパンデックス;シリコーン;ならびにこれらのコポリマーおよび組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。さらに、非生分解性のポリマーおよびモノマーが、互いに組み合わせられ得る。
【0030】
形状記憶特性を有し得る適切な生体吸収性ポリマーとしては、脂肪族ポリエステル;ポリアミド;ポリアミン;ポリアルキレンオキサレート;ポリ(酸無水物);ポリアミドエステル;コポリ(エーテル−エステル);ポリ(カーボネート)(チロシン由来のカーボネートが挙げられる);ポリ(ヒドロキシアルカノエート)(例えば、ポリ(ヒドロキシ酪酸)、ポリ(ヒドロキシ吉草酸)、およびポリ(ヒドロキシブチレート));ポリイミドカーボネート;ポリ(イミノカーボネート)(例えば、ポリ(ビスフェノールA−イミノカーボネート)など);ポリオルトエステル;ポリオキサエステル(アミノ基を含むものが挙げられる);ポリホスファゼン;ポリ(プロピレンフマレート);ポリウレタン;ポリマー薬物(例えば、ポリジフルニソール、ポリアスピリン、およびタンパク質治療剤);生物学的に修飾された(例えば、タンパク質、ペプチド)生体吸収性ポリマー;およびこれらのコポリマー、ブロックコポリマー、ホモポリマー、ブレンド、ならびに組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0031】
適切な脂肪族ポリエステルとしては、ラクチド(乳酸、D−ラクチド、L−ラクチドおよびメソラクチドが挙げられる);グリコリド(グリコール酸が挙げられる);ε−カプロラクトン;p−ジオキサノン(1,4−ジオキサン−2−オン);トリメチレンカーボネート(1,3−ジオキサン−2−オン);トリメチレンカーボネートのアルキル誘導体;δ−バレロラクトン;β−ブチロラクトン;γ−ブチロラクトン;ε−デカラクトン;ヒドロキシブチレート;ヒドロキシバレレート;1,4−ジオキセパン−2−オン(その二量体である1,5,8,12−テトラオキサシクロテトラデカン−7,14−ジオンが挙げられる);1,5−ジオキセパン−2−オン;6,6−ジメチル−1,4−ジオキサン−2−オン;2,5−ジケトモルホリン;ピバロラクトン;α,α−ジエチルプロピオラクトン;エチレンカーボネート;エチレンオキサレート;3−メチル−1,4−ジオキサン−2,5−ジオン;3,3−ジエチル−1,4−ジオキサン−2,5−ジオン;6,8−ジオキサビシクロオクタン(dioxabicycloctane)−7−オンのホモポリマーおよびコポリマー;ならびにこれらのポリマーブレンドおよびコポリマーが挙げられ得るが、これらに限定されない。
【0032】
他の適切な生分解性ポリマーとしては、ポリ(アミノ酸)(コラーゲン(I、IIおよびIII)、エラスチン、フィブリン、フィブリノゲン、絹、およびアルブミンなどのタンパク質が挙げられる);ラミニンおよびフィブロネクチンの配列を含むペプチド(RGD);多糖類(例えば、ヒアルロン酸(HA)、デキストラン、アルギネート、キチン、キトサン、およびセルロース);グリコサミノグリカン;ガット;ならびにこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。コラーゲンは、本明細書中で使用される場合、天然コラーゲン(例えば、動物由来のコラーゲン、ゼラチン化コラーゲン)、または合成コラーゲン(例えば、ヒト組換えコラーゲンもしくは細菌組換えコラーゲン)を包含する。
【0033】
さらに、合成により修飾された天然ポリマー(例えば、セルロース誘導体および多糖類誘導体(アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、セルロースエーテル、セルロースエステル、ニトロセルロース、およびキトサンが挙げられる))が利用され得る。適切なセルロース誘導体の例としては、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシブチルメチルセルロース、酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、酢酸フタル酸セルロース、カルボキシメチルセルロース(CMC)、三酢酸セルロース、および硫酸セルロースナトリウム塩が挙げられる。これらは本明細書中でまとめて、ある実施形態において、「セルロース」と称され得る。
【0034】
ある実施形態において、分解性材料と非分解性材料との両方の組み合わせ(形状記憶特徴を有するものが挙げられる)が利用され得る。
【0035】
ある実施形態において、形状記憶ポリマーは、異なる熱特性を有する2つの成分のコポリマー(例えば、オリゴ(ε−カプロラクトン)ジメタクリレートとアクリル酸ブチル(ポリ(ε−カプロラクトン)ジメタクリレート−ポリ(アクリル酸n−ブチル)が挙げられる)、またはジオールエステルとエーテル−エステルジオール(例えば、オリゴ(ε−カプロラクトン)ジオール/オリゴ(p−ジオキサノン)ジオールコポリマー))であり得る。これらのマルチブロックオリゴ(ε−カプロラクトン)ジオール/オリゴ(p−ジオキサノン)ジオールコポリマーは、線状の鎖に一緒に連結された2つのブロックセグメント(すなわち、「ハード」セグメントおよび「スイッチ」セグメント)を有する。このような材料は、例えば、Lendlein,「Shape Memory Polymers−Biodegradable Sutures」,Materials World,第10巻,第7号,29−30頁(2002年7月)に開示されており、その全開示は、本明細書中に参考として援用される。
【0036】
他の実施形態において、生体吸収性材料のブレンドが利用され得、これらとしては、乳酸および/またはグリコール酸、これらのホモポリマーまたはこれらのコポリマーとブレンドされたウレタン、ならびにカプロラクトンとブレンドされたアクリレート(例えば、ポリカプロラクトンジメタクリレートポリ(アクリル酸ブチル)ブレンド)、ならびにこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0037】
適切な形状記憶ポリマーならびにこれらを用いて永続的形状および一時的形状を形成するための手段の他の例は、Lendleinら,「Shape Memory Polymers as stimuli−sensitive implant materials」,Clinical Hemorheology and Microcirculation,32(2005)105−116、Lendleinら,「Biodegradable, Elastic Shape Memory Polymers for Potential Biomedical Applications」,Science,第269巻(2002)1673−1676、ならびにLendleinら,「Shape−Memory Polymers」,Angew.Chem.Int.Ed.,41(2002)2035−2057に記載されており、これらの各々の全開示は、本明細書中に参考として援用される。
【0038】
以下の表1は、形状記憶効果を示す組成物をさらに説明する。各組成物のブロックコポリマーは、アニーリングされたワイヤの形式であり、示されるソフトセグメントおよびハードセグメントを有し、ガラス転位温度(T)は、示差走査熱量分析により、TTransに等しいと測定された。
【0039】
【表1】

表1のコポリマーは、Tに近付く場合に部分的なシフトを起こし得、そしてTTransは、これらの材料が水溶液中にある場合に低下し得る。これらのポリマーは水の吸収およびバルク加水分解により分解するので、ポリマーマトリックスに浸入する水分子が可塑剤として働き得、乾燥空気中においてよりも低温で、ソフトセグメントを軟化させ得る。従って、水溶液中でTTrans低下を示すポリマーは、乾燥状態での温度偏差(例えば、輸送中および保存中)によって一時的形状を維持し得る。そして移植の際に、体温でその永続的形状に形状シフトし得る。
【0040】
従って、ある実施形態において、この形状記憶ポリマーは、ポリジオキサノンとポリラクチドとのブロックコポリマーを含有し得、このポリジオキサノンは、このコポリマーの約5mol%〜約20mol%、ある実施形態において、このコポリマーの約15mol%〜約19mol%の量で存在し、そしてこのポリラクチドは、このコポリマーの約80mol%〜約95mol%、ある実施形態において、このコポリマーの約81mol%〜約85mol%の量で存在する。他の実施形態において、この形状記憶ポリマーは、トリメチレンカーボネートとポリラクチドとのブロックコポリマーを含有し得、このトリメチレンカーボネートは、このコポリマーの約5mol%〜約20mol%、ある実施形態において、このコポリマーの約15mol%〜約19mol%の量で存在し、そしてこのポリラクチドは、このコポリマーの約80mol%〜約95mol%、ある実施形態において、このコポリマーの約81mol%〜約85mol%の量で存在し得る。
【0041】
Transは、ブロックセグメントのモル比、ポリマーの分子量、およびハードセグメントを形成させる時間を変化させることによって、調整され得ることが想定される。ある実施形態において、TTransは、種々の量のソフトセグメントの低分子量オリゴマーを、このコポリマーにブレンドすることにより調整され得る。このようなオリゴマーは、TTransの下方シフトを起こすための可塑剤として働き得る。
【0042】
さらに、本開示の縫合糸を形成するコポリマーは、乳化剤、可溶化剤、湿潤剤、味改変剤、可塑剤、活性剤、水溶性不活性充填剤、防腐剤、緩衝剤、着色剤、および安定剤を含有し得る。この処方物への可塑剤の添加は、可撓性を改善し得る。可塑剤または可塑剤混合物は、ポリエチレングリコール、グリセロール、ソルビトール、スクロース、コーンシロップ、フルクトース、ジオクチル−ナトリウムスルホスクシネート、クエン酸トリエチル、クエン酸トリブチル、1,2−プロピレングリコール、グリセロールのモノ酢酸エステル、ジ酢酸エステルもしくはトリ酢酸エステル、または天然ゴムであり得る。
【0043】
いくつかの実施形態において、結晶性分解性塩または鉱物が、このブロックコポリマー組成物に添加されて、形状記憶特性を改善し得るポリマー複合体を作製し得る。ポリラクチドホモポリマーおよび結晶性ヒドロキシアパタイトを使用するこのような複合体の例は、Zhengら,「Shape memory properties of poly (D,L−lactide/hydroxyapatite composites」,Biomaterials,27(2006)4288−4295に記載されており、その全開示は、本明細書中に参考として援用される。
【0044】
他の形状記憶材料(形状記憶金属およびニチノールなどの金属合金が挙げられる)もまた、本開示の縫合糸を形成するために使用され得る。
【0045】
ある実施形態において、成形プロセスが、本開示の縫合糸を製造するために利用され得る。プラスチック成形方法は、当業者の知識の範囲内であり、そして融解成形、溶液成形などが挙げられるが、これらに限定されない。射出成形、押し出し成形、圧縮成形および他の方法もまた、融解成形技術として使用され得る。一旦、適切な寸法および構成で鋳型に入れられると、縫合糸を形成するために使用されるポリマー材料は、適切な温度(永続温度(Tperm)と称され、この温度は、ある実施形態において、縫合糸を形成するために利用される形状記憶ポリマー材料の融点であり得る)まで加熱され得る。この縫合糸の加熱は、例えば、約40℃〜約180℃、ある実施形態において、約80℃〜約150℃が挙げられる適切な温度で、約2分間〜約60分間、ある実施形態において、約15分間〜約20分間であり得、永続的な形状および寸法を与える。
【0046】
予め記憶された形状で成形された縫合糸の変形処理のための温度は、亀裂を生じることなく容易な変形を可能にする温度であり、形状記憶のために採用される温度(例えば、Tperm)を超えるべきではない。Tpermを超える温度での変形処理は、この物体に、新たな変形後の形状を記憶/プログラムさせ得る。
【0047】
所望の形状を有する縫合糸が形成された後に、この縫合糸は、Ttransより高温で変形させられて、代替の一時的形状を得ることができる。変形のために適切な温度は、利用される形状記憶ポリマーに依存して変動するが、一般に、そのポリマーの転位温度(Ttrans)より高温であり得るが、Tpermより低温であり得る。ある実施形態において、形状記憶ポリマーは、そのTpermから、より低い温度(Ttransより高温なままである)まで冷却され得、そしてある実施形態においては手でおよび/または機械的手段によって、変形させられ得る。他の実施形態において、この縫合糸は、室温(約20℃〜約25℃)で変形させられて、その一時的形状を得ることができるが、この温度は、使用される特定のポリマーに依存して異なり得る。次いで、この縫合糸は、この縫合糸を形成するために利用される材料のTtrans未満の温度まで冷却され得、この時点で、本開示の縫合糸は、使用の準備ができる。Ttransは通常、室温より高温であるので、ある実施形態において、室温まで冷却することは、一時的形状でロックするために充分であり得る。
【0048】
変形が達成され得る様式に関して特定の制限は存在しない。変形は、手で達成されても、縫合糸に所望の一時的構成を提供するために選択された適切なデバイスによって達成されても、いずれでもよい。
【0049】
縫合糸の形状をその一時的形状に維持する目的で、本開示の形状記憶縫合糸は、永続的形状への転移を引き起こさない温度で保存されるべきである。ある実施形態において、この形状記憶縫合糸は、冷蔵庫で保存され得る。
【0050】
ある実施形態において、本開示の形状記憶ポリマー材料は、その永続的形状より直径が小さいかまたは大きい一時的形状に、圧縮または拡張され得る。
【0051】
このように調製された縫合糸は、エネルギーの付与の際に(例えば、加熱(患者の体内への配置、または規定された温度での外部熱の付与のいずれかによる加熱、ある実施形態においては利用される形状記憶ポリマーのTtransより高温への加熱)の際に)、その永続的形状を回復する。本開示の縫合糸は、生体内で利用されるので、体熱(約37℃)での加熱が可能である。このような場合、永続的形状プログラミングのための温度は、可能な限り、永続的形状の回復が非常にゆっくりと起こり得るように、低いべきである。ある実施形態において、永続的形状の回復は、組織への挿入の約1秒後〜約5秒後に起こり得る。
【0052】
ある実施形態において、形状記憶ポリマー縫合糸は棘を付けられ、次いで、その結晶化温度の近くでアニーリングされて、永続的形状をその縫合糸および/またはその棘にプログラムする。例えば、この縫合糸の永続的形状は、縫合糸本体から離れる方向に延びる棘を備え得る。次いで、一時的形状がこの縫合糸に付与され得る。例えば、棘付き縫合糸は、これらの棘を縫合糸本体に対して圧縮するために充分に小さい内径を有する管を通して供給され得る。次いで、この管は、この形状記憶ポリマー材料の転位温度より高温まで加熱されてこれらの棘を軟化させ得、次いで、この管および縫合糸が冷却されて、一時的形状を設定し得る。次いで、この縫合糸は、棘が縫合糸本体に近接した(すなわち、整列した)状態でこの管から取り外され得る。身体内での展開後、これらの棘は拡張して、その拡張した一次形状に戻り、これによって、組織内でのこの縫合糸の移動を制限する。
【0053】
しかし、いくつかの実施形態において、形状の回復を体温よりわずかに高い温度で起こす目的で、より高い形状記憶温度が望ましくあり得る。従って、いくつかの場合において、縫合糸を変形状態から解放して一次(最初に記憶された)形状を回復することは、加熱によって達成され得る。約30℃〜約50℃、ある実施形態において、約39℃〜約43℃の温度で加熱すると、その一時的形状が解放され得、そして一次形状が回復され得る。加熱のための温度がTTransより高くなるほど、一次/永続的形状の回復のために要する時間が短くなる。この加熱のための手段は、限定されない。加熱は、気体または液体の加熱媒体、加熱デバイス、超音波、電気的誘導などを使用することにより、達成され得る。もちろん、生体が関与する用途においては、火傷を引き起こさない加熱温度を利用するように注意が払われなければならない。液体加熱媒体の例としては、生理食塩水溶液、アルコール、これらの組み合わせなどが挙げられる。
【0054】
同様に、他の実施形態において、電気的に活性なポリマー(電気活性ポリマーとしてもまた公知であり、電気の印加の際に構成を変更し得る)が、本開示に従う縫合糸を形作るために利用され得る。電気活性ポリマーの適切な例としては、ポリ(アニリン)、置換ポリ(アニリン)、ポリカルバゾール、置換ポリカルバゾール、ポリインドール、ポリ(ピロール)、置換ポリ(ピロール)、ポリ(チオフェン)、置換ポリ(チオフェン)、ポリ(アセチレン)、ポリ(エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(エチレンジオキシピロール)、ポリ(p−フェニレンビニレン)など、または上記電気活性ポリマーのうちの少なくとも1つを含む組み合わせが挙げられる。上記電気活性ポリマーのブレンドまたはコポリマーまたは複合体もまた、使用され得る。
【0055】
エネルギー(例えば、熱)の付与の際に形状記憶材料が起こし得る形状の変化と同様に、ある実施形態において、電気活性ポリマーは、低電圧電源(例えば、バッテリ)からの電気の印加の際に、形状変化を起こし得る。このような変化を起こすために印加され得る電気の適切な量は、利用される電気活性ポリマーと共に変動するが、約5ボルト〜約30ボルト、ある実施形態において、約10ボルト〜約20ボルトであり得る。電気の印加の結果として、電気活性ポリマーから構成された縫合糸の形状が、一時的形状から永続的形状へと変化する。
【0056】
電気活性ポリマーは、永続的形状および一時的形状との用語が形状記憶ポリマーに関連して上に記載された場合と同様の永続的形状および一時的形状を有さないが、本明細書中で使用される場合、用語「永続的形状」は、電気活性ポリマーに適用される場合、ある実施形態において、電気活性ポリマーが電気の印加の際に採用する形状を意味し、そして用語「一時的形状」は、電気活性ポリマーに適用される場合、ある実施形態において、電気活性ポリマーが電気の非存在下で採用する形状を意味する。
【0057】
いくつかの実施形態において、これらの縫合糸は、金属(例えば、鋼および分解性マグネシウム)、金属合金などを含有し得る。
【0058】
本開示の縫合糸を形成するために使用されるフィラメントは、当業者の知識の範囲内である任意の技術(例えば、押し出し、成形および/または溶媒キャスティング)を使用して形成され得る。
【0059】
ある実施形態において、本開示の縫合糸は、1つより多くのフィラメントから作製された糸を含み得、これらのフィラメントは、同じ材料または異なる材料の複数のフィラメントを含み得る。
【0060】
本明細書中で使用される場合、用語「繊維」、「フィラメント」および「糸」の各々は、縫合糸を全体的にかまたは部分的に構成するために使用され得る。用語「繊維」は、その文脈において、一般に、その直径または幅よりおよそ3桁大きい長さを有する、天然構造体または合成構造体を指定するために使用される。用語「フィラメント」は、代表的に、無限または極端な長さの「繊維」を記載するために使用され、そして「糸」は、一般的な用語として、編成、製織、編組または他の様式での織り込みに対して適切な形態の、撚糸または非撚糸の「繊維」または「フィラメント」の連続的なストランドに対して使用される。
【0061】
ある実施形態において、本開示の縫合糸は、コア/シース構成を有し得、繊維は、コア/シース構成を有し得、糸は、コア/シース構成を有し得、またはこれらの両方である。本明細書中に記載される任意の材料(上記形状記憶材料を含む)が、コアもしくはシース、またはこれらの両方を形成するために利用され得る。
【0062】
本開示の縫合糸は、モノフィラメントであってもマルチフィラメント(例えば、編組されたもの)であってもよい。これらの適切な材料から縫合糸を作製するための方法は、当業者の知識の範囲内である(例えば、押し出しおよび成形)。これらのフィラメントは、当業者の知識の範囲内である任意の技術(例えば、混紡、撚糸、編組、製織、絡ませおよび編成)を使用して組み合わせられて、マルチフィラメント縫合糸を作製し得る。例えば、フィラメントが組み合わせられて糸を形成し得るか、またはこれらのフィラメントが編組され得る。別の例において、フィラメントが組み合わせられて糸を形成し得、次いで、これらのマルチフィラメント糸が編組され得る。本開示を読む当業者は、フィラメントが組み合わせられ得る他の方法を予測する。繊維はまた、組み合わせられて、不織マルチフィラメントの大直径縫合糸を製造し得る。特定の実施形態において、本開示による縫合糸を形成する際に有用なマルチフィラメント構造体は、編組により製造され得る。編組は、当業者の知識の範囲内である任意の方法によりなされ得る。例えば、縫合糸および他の医療デバイスのための編組構成物は、米国特許第5,019,093号;同第5,059,213号;同第5,133,738号;同第5,181,923号;同第5,226,912号;同第5,261,886号;同第5,306,289号;同第5,318,575号;同第5,370,031号;同第5,383,387号;同第5,662,682号;同第5,667,528号;および同第6,203,564号に記載されており、これらの各々の全開示は、本明細書中に参考として援用される。さらに、この縫合糸は、モノフィラメントである部分およびマルチフィラメントである部分を備え得る。
【0063】
一旦、この縫合糸が構成されると、この縫合糸は、当業者の知識の範囲内である任意の手段によって滅菌され得る。
【0064】
本開示に従う縫合糸は、1つ以上の医学外科的に有用な物質(例えば、この縫合糸が創傷または外科手術部位に付けられる場合に治癒プロセスを促進するかまたは有利に改変する生物活性剤)でコーティングまたは含浸され得る。適切な生物活性剤としては、例えば、殺菌剤、抗菌剤、抗生物質、抗増殖剤、医薬、増殖因子、成長因子、抗凝固剤、凝固剤、鎮痛薬、麻酔薬、抗炎症剤、創傷修復剤など、化学療法剤、生物学的物質、タンパク質治療剤、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、DNA、RNA、ペプチド、多糖類、レクチン、脂質、共生剤、診断剤、脈管形成剤、抗脈管形成薬、ポリマー薬物、およびこれらの組み合わせが挙げられる。
【0065】
生物活性剤としては、動物に対して有利であり、そして治癒プロセスを促進する傾向がある物質が挙げられる。例えば、縫合糸は、縫合される部位に沈着され得る生物活性剤を提供され得る。この生物活性剤は、その抗菌特性、創傷の修復および/または組織の成長を促進する能力、あるいは血栓症などの特異的指標のために選択され得る。ある実施形態において、このような剤の組み合わせが、本開示の縫合糸に塗布され得る。
【0066】
用語「抗菌剤」とは、本明細書中で使用される場合、単独でかまたは免疫系を補助することによって、病原性であり得る微生物を身体が破壊するかまたは抵抗することを補助する、剤を包含する。抗菌剤としては、抗生物質、防腐剤、集団感知遮断薬、抗真菌剤、抗ウイルス剤、界面活性剤、金属イオン、抗菌タンパク質、抗菌ペプチド、抗菌多糖類、消毒薬およびこれらの組み合わせが挙げられる。組織内にゆっくりと放出される抗菌剤がこの様式で適用されて、外科手術または外傷による創傷部位における臨床的な感染または無症状感染と戦うことを補助し得る。ある実施形態において、適切な抗菌剤は、1種以上の溶媒に可溶性であり得る。
【0067】
ある実施形態において、以下の抗菌剤が、単独でかまたは本明細書中に記載される他の生物活性剤と組み合わせて、使用され得る:アントラサイクリン、ドキソルビシン、ミトキサントロン、フルオロピリミジン、5−フルオロウラシル(5−FU)、葉酸アンタゴニスト、メトトレキサート、ミトキサントロン、集団感知遮断薬、臭素化フラノン、ハロゲン化フラノン、ポドフィロトキシン、エトポシド、カンプトテシン、ヒドロキシウレア、白金錯体、シスプラチン、ドキシサイクリン、メトロニダゾール、トリメトプリム−スルファメトキサゾール、リファマイシン(リファンピンなど)、第四世代ペニシリン(例えば、ウレイドペニシリン、カルボキシペニシリン、メズロシリン、ピペラシリン、カルベニシリン、およびチカルシリン、ならびにこれらのアナログまたは誘導体)、第一世代セファロスポリン(例えば、セファゾリンナトリウム、セファレキシン、セファゾリン、セファピリン、およびセファロチン)、カルボキシペニシリン(例えば、チカルシリン)、第二世代セファロスポリン(例えば、セフロキシム、セフォテタン、およびセフォキシチン)、第三世代セファロスポリン(例えば、ナクセル(naxcel)、セフジニル、セフォペラゾン、セフタジジム、セフトリアキソン、およびセフォタキシム)、ポリビニルピロリドン(PVP)、第四世代セファロスポリン(例えば、セフェピム)、モノバクタム(例えば、アズトレオナム)、カルバペネム(例えば、イミペネム、エルタペネム(ertapenem)およびメロペネム)、アミノグリコシド(例えば、ストレプトマイシン、ゲンタマイシン、トブラマイシン、およびアミカシン)、MSL群のメンバー(例えば、マクロライド、長時間作用型マクロライド、リンコサミド(lincosamide)、ストレプトグラミン(streptogramin)、エリスロマイシン、アジスロマイシン、クリンダマイシン、シネロイド(Syneroid)、クラリスロマイシン、および硫酸カナマイシン)、テトラサイクリン(ミノサイクリンなど)、フシジン酸、トリメトプリム、メトロニダゾール;キノロン(例えば、シプロフロキサシン、オフロキサシン、ガチフロキサシン、モキシフロキサシン、レボフロキサシン、およびトロバフロキサシン(trovafloxacin))、DNA合成インヒビター(例えば、メトロニダゾール)、スルホンアミド(例えば、スルファメトキサゾール、トリメトプリム(セフィキシム、スペクチノマイシン、テトラサイクリン、ニトロフラントイン、ポリミキシンB、および硫酸ネオマイシンが挙げられる))、β−ラクタムインヒビター(スルバクタムなど)、クロラムフェニコール、糖ペプチド(バンコマイシンなど)、ムピロシン、ポリエン(アンホテリシンBなど)、アゾール(フルコナゾールなど)、ならびに当該分野において公知である他の公知の抗菌剤。
【0068】
抗菌剤として利用され得る防腐剤および殺菌剤の例としては、ヘキサクロロフェン;陽イオン性ビグアニド(クロルヘキシジンおよびシクロヘキシジンなど);ヨウ素およびヨードフォア(ポビドン−ヨウ素など);イオン性銀、イオン性銀ガラス、ハロ置換フェノール性化合物(PCMX(すなわち、p−クロロ−m−キシレノール)およびトリクロサン(すなわち、2,4,4’−トリクロロ−2’−ヒドロキシ−ジフェニルエーテル)など);フラン医薬調製物(ニトロフラントインおよびニトロフラゾンなど);メテナミン;アルデヒド(グルタルアルデヒドおよびホルムアルデヒドなど);ならびにアルコールが挙げられる。いくつかの有用な実施形態において、これらの抗菌剤のうちの少なくとも1つは、防腐剤(例えば、トリクロサン)であり得る。
【0069】
創傷修復および/または組織成長を促進するために、これらの目的のうちのいずれかまたは両方を達成することが既知である1つ以上の生物活性剤がまた、創傷修復剤または組織成長剤として、縫合糸に塗布され得る。このような凝固剤または「線維化誘導剤」は、特定の脈管の発作または疾患の処置、あるいは例えば、腫瘍をその主要な血液供給から遮断することが望ましい場合に、動脈瘤または塞栓症の促進のために利用される。ある実施形態において、本開示に従う棘角内に配置された凝固剤を有する棘付き縫合糸は、血小板および血液成分の捕捉に寄与し得る。
【0070】
利用され得る化学療法剤の例としては、以下のうちの1つ以上が挙げられる:ドキソルビシン(Dox)、パクリタキセル(PTX)、またはカンプトテシン(CPT)、ポリグルタメート−PTX(CT−2103またはキシオタックス(Xyotax))、N−(2−ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド(HPMA)コポリマー、アントラサイクリン、ミトキサントロン、レトロゾール、アナストロゾール、上皮成長因子レセプターインヒビター、チロシンキナーゼインヒビター、アポトーシスのモジュレーター、アントラサイクリン抗生物質(例えば、ダウノルビシンおよびドキソルビシン)、アルキル化剤(例えば、シクロホスファミドおよびメルファラン)、代謝拮抗物質(例えば、メトトレキサートおよび5−フルオロウラシル)、ポリ(エチレングリコール)(PEG)、ポリ(グルタミン酸)(PGA)、多糖類、モノクローナル抗体ならびにこれらのポリマー−薬物結合体、これらのコポリマーおよびこれらの組み合わせ。
【0071】
凝固剤としては、以下のうちの1つ以上が挙げられる:細胞の再生を促進する線維化剤、新脈管形成を促進する線維化剤、線維芽細胞の移動を促進する線維化剤、線維芽細胞の増殖を促進する線維化剤、細胞外マトリックスの沈降を促進する線維化剤、組織の再造形を促進する線維化剤、憩室壁の刺激原である線維化剤、絹糸(例えば、蚕糸、クモの糸、組換え絹糸、生糸、加水分解絹糸、酸処理絹糸、およびアシル化絹糸)、滑石、キトサン、ブレオマイシンまたはそのアナログもしくは誘導体、結合組織成長因子(CTGF)、金属ベリリウムまたはベリリウム酸化物、銅、サラシン(saracin)、シリカ、結晶性シリケート、石英末、滑石粉末、エタノール、細胞外マトリックスの成分、酸化セルロース、多糖類、コラーゲン、フィブリン、線維素原、ポリ(エチレンテレフタレート)、ポリ(エチレン−co−酢酸ビニル)、N−カルボキシブチルキトサン、RGDタンパク質、塩化ビニルのポリマー、シアノアクリレート、架橋ポリ(エチレングリコール)−メタクリレート化コラーゲン、炎症性サイトカイン、TGFβ、PDGF、VEGF、TNFα、NGF、GM−CSF、IGF−α、IL−1、IL−8、IL−6、成長ホルモン、骨形成タンパク質、細胞増殖因子、デキサメタゾン、イソトレチノイン、17−β−エストラジオール、エストラジオール、ジエチルスチルベストロール、シクロスポリンA、全てトランスのレチン酸またはそのアナログもしくは誘導体、ウール(動物性ウール、木毛、および鉱滓綿が挙げられる)、綿、bFGF、ポリウレタン、ポリテトラフルオロエチレン、アクチビン、アンギオポイエチン、インスリン様増殖因子(IGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、コロニー刺激因子(CSF)、エリスロポイエチン、インターフェロン、エンドセリン−1、アンギオテンシンII、ブロモクリプチン、メチルセルギド(methylsergide)、フィブロシン(fibrosin)、フィブリン、接着性糖タンパク質、プロテオグリカン、ヒアルロナン、酸性でシステインに富む分泌タンパク質(APaRC)、トロンボスポンジン、テネイシン(tenacin)、細胞接着性分子、デキストランベースの粒子、マトリックスメタロプロテアーゼのインヒビター、マガイニン(magainin)、組織または腎臓プラスミノゲン活性化因子、マトリックスメタロプロテアーゼの組織インヒビター、四塩化炭素、チオアセトアミド、組織を損傷するフリーラジカルを捕捉するためのスーパーオキシドジスムターゼ、癌治療のための腫瘍壊死因子、コロニー刺激因子、インターフェロン、インターロイキン−2または免疫系を増強するための他のリンホカイン、血小板に富む血漿、トロンビン、ペプチド(例えば、自己組み立てペプチド系)、アミノ酸(例えば、radAベースのアミノ酸)、ヒドロゲル(例えば、超吸収性ヒドロゲル材料)、これらの組み合わせなど。
【0072】
広範な種々の抗血管新生因子は、本開示の観点で容易に利用され得る。代表的な例としては、抗侵襲性因子;レチン酸およびその誘導体;パクリタキセル(高度に誘導体化されたジテルペノイド);スラミン;メタロプロテアーゼ−1の組織インヒビター;メタロプロテアーゼ−2の組織インヒビター;プラスミノゲン活性化因子インヒビター−1;プラスミノゲン活性化因子インヒビター−2;種々の形態の軽「d族」遷移金属(例えば、バナジウム、モリブデン、タングステン、チタン、ニオブ、およびタンタルの種およびこれらの錯体);血小板因子4;硫酸プロタミン(クルペイン);硫酸化キチン誘導体(クイーンクラブ(queen crab)の殻から調製される);硫酸化多糖類ペプチドグリカン複合体(SP−PG)(この化合物の機能は、エストロゲンなどのステロイド、およびクエン酸タモキシフェンの存在により増強され得る);スタウロスポリン;マトリックス代謝のモジュレーター(例えば、プロリンアナログ(L−アゼチジン−2−カルボン酸(LACA)、シスヒドロキシプロリン、d,L−3,4−デヒドロプロリン、チアプロリン、α,α−ジピリジル、β−アミノプロピオニトリルフマレー)が挙げられる);MDL 27032(4−プロピル−5−(4−ピリジニル)−2(3H)−オキサゾロン);メトトレキサート;ミトキサントロン;ヘパリン;インターフェロン;2マクログロブリン血清;ChIMP−3;キモスタチン;β−シクロデキストリンテトラデカスルフェート;エポネマイシン(Eponemycin);カンプトテシン;フマギリン;金チオリンゴ酸ナトリウム(「GST」);D−ペニシラミン(「CDPT」);β−1−抗コラーゲナーゼ血清;α2−抗プラスミン;ビサントレン;ロベンザリット二ナトリウム(N−(2)−カルボキシフェニル−4−クロロアントロニル酸二ナトリウムすなわち「CCA」);サリドマイド;アンギオスタチンステロイド;AGM−1470;カルボキシンアミノイミダゾール(carboxynaminolmidazole);メタロプロテアーゼインヒビター(例えば、BB94、そのアナログおよび誘導体);ならびにこれらの組み合わせが挙げられる。
【0073】
広範な種々のポリマー薬物が、本開示の観点において容易に利用され得る。代表的な例としては、ステロイド抗炎症剤、非ステロイド抗炎症剤、およびこれらの組み合わせが挙げられる。本開示において使用され得る非ステロイド抗炎症剤の例は、アスピリン、インドメタシン、イブプロフェン、フェニルブタゾン、ジフルニサル(diflusinal)、およびこれらの組み合わせである。
【0074】
使用され得るステロイド抗炎症剤の例は、糖質コルチコイド(例えば、コルチゾンおよびヒドロコルチゾン、ベタメタゾン、デキサメタゾン、フルプレドニゾロン、プレドニゾン、メチルプレドニゾロン、プレドニゾロン、トリアムシノロン、パラメタゾン、ならびにこれらの組み合わせ)である。
【0075】
上記生物活性剤は、説明の目的で提供されたが、本開示はそのように限定されないことが理解されるべきである。具体的には、特定の生物活性剤が上に具体的に記載されたが、本開示は、このような剤のアナログ、誘導体および結合体を包含すると理解されるべきである。
【0076】
本開示に従う縫合糸は、例えば、生物学的に受容可能な可塑剤、酸化防止剤および着色剤を含み得、これらは、本開示の縫合糸を形成するために利用されるフィラメントに含浸され得るか、またはこのフィラメント上のコーティングに含まれ得る。
【0077】
上記のように、生物活性剤は、本開示の縫合糸を形成するために利用される材料に含浸され得るか、またはこの縫合糸の表面に堆積され得る。生物活性剤は、本開示の棘付き縫合糸に、当業者の知識の範囲内である任意の方法(例えば、浸漬、噴霧、蒸着、ブラッシング、化合などが挙げられる)を利用して塗布され得る。
【0078】
ある実施形態において、生物活性剤(例えば、抗菌剤)は、本開示の棘付き縫合糸に、生物活性剤溶液の一部として塗布され得る。この生物活性剤溶液は、選択された生物活性剤に対して適切な任意の溶媒または溶媒の組み合わせを含有し得る。適切であるためには、この溶媒は、(1)生物活性剤と混和性であるべきであり、そして(2)医療デバイス(例えば、棘付き縫合糸)を形成するために使用されるあらゆる材料の一体性にかなりの影響を与えないべきである。いくつかの有用な実施形態において、利用される溶媒は、極性溶媒である。適切な溶媒のいくつかの例としては、塩化メチレン、クロロホルム、酢酸エチル、酢酸メチル、N−メチル2−ピロリドン、2−ピロリドン、プロピレングリコール、テトラヒドロフラン(THF)、アセトン、オレイン酸、メチルエチルケトン、水、およびこれらの混合物が挙げられる。1つの実施形態において、塩化メチレンが、溶媒として使用され得る。
【0079】
生物活性剤溶液を調製する方法は、比較的単純な手順であり得、混合、ブレンドなどが挙げられる。任意の公知の技術が、生物活性剤溶液を医療デバイスに塗布するために使用され得る。適切な技術としては、浸漬、噴霧、ワイピング、ブラッシングなどが挙げられる。
【0080】
生物活性剤溶液は一般に、重量で約0.1%〜約20%の生物活性剤、ある実施形態において、重量で約0.5%〜約5%の生物活性剤を含有する。生物活性剤の正確な量は、多数の要因(例えば、使用される特定の剤、接触する医療デバイスおよび使用される溶媒の選択)に依存する。1つの実施形態において、生物活性剤が抗菌剤である場合、この抗菌剤溶液は、約0.1%〜約10%の選択された抗菌剤、ある実施形態において、約1%〜約5%の抗菌剤を含有し得る。
【0081】
塗布される生物活性剤溶液の量は、所望の生物活性特性を縫合糸に提供するために有効な量であるべきである。正確な量は、縫合糸の構成および溶液の処方に依存する。生物活性剤溶液は、溶媒を含有するので、有用な実施形態において、溶媒を除去して生物活性剤を縫合糸上に残すために、硬化工程が使用され得る。溶媒の除去のための適切な硬化工程としては、エバポレーションおよび/または凍結乾燥が挙げられるが、これらに限定されない。溶媒の除去の際に、生物活性剤は、棘と縫合糸本体との間に形成された角において、縫合糸に結合したままである。
【0082】
塗布の方法とは無関係に、縫合糸上の生物活性剤の量は、この縫合糸の約0.01重量%〜この縫合糸の約2重量%、ある実施形態において、この縫合糸の約0.02重量%〜この縫合糸の約1重量%、代表的には、この縫合糸の約0.05重量%〜この縫合糸の約0.5重量%であり得る。
【0083】
一旦塗布されると、生物活性剤は、引き続く棘付き縫合糸の取り扱い、加工および保存中に、エバポレーション、昇華、気化などに起因する損失を起こさない。しかし、棘付き縫合糸のインビボへの適用の際に、すなわち、創傷を縫合する際の使用後に、組織への棘の取り付けは、生物活性剤を組織内に放出する。
【0084】
他の実施形態において、生物活性剤は、縫合糸に塗布されるコーティングに含有され得る。利用され得る適切なコーティングは、当業者の知識の範囲内であり、そして例えば、米国特許出願公開第20040153125(その全開示は、本明細書中に参考として援用される)に開示されるような生分解性コーティングが挙げられる。適切なコーティングとしては、トリメチレンカーボネート、テトラメチレンカーボネート、カプロラクトン、バレロラクトン、ジオキサノン、グリコール酸、乳酸、グリコリド、ポリ酸無水物、ポリエステル、ポリアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリウレタン、ポリオルトエステル、ポリヒドロキシアルカノエート、ポリトリボレート、ポリヒドロキシブチレート、ラクチド、ポリマー薬物、これらのホモポリマー、これらのコポリマー、およびこれらの組み合わせが挙げられ得る。生分解性ポリマーは、その生分解性ポリマーが身体により再吸収される際に生物活性剤をインビボで放出するので、適切であり得る。
【0085】
ある実施形態において、上記コーティングを形成する際に有用な混合物は、生物活性剤(例えば、抗菌剤)を、優勢な成分として、有効な抗菌量で含有する。「優勢な量」とは、約50重量%より多い量で存在する1つ以上の成分を意味する。「少量」とは、約50重量%までの量で存在する1つ以上の成分を意味する。少量の成分としては、生分解性モノマー(例えば、カプロラクトン)を含有するコポリマーが挙げられ得る。
【0086】
所定の成分の「有効な抗菌量」とは、その成分が細菌の増殖を妨げて、創傷部位の汚染を減少させるかまたは回避する量である。
【0087】
ある実施形態において、生体適合性外科手術用移植可能デバイスのための抗菌分解性コーティング組成物は、安価であり、生体適合性であり、そして過剰な拡散を受けない。「生体適合性」とは、生存系におけるある物体の存在によって、重大な全身毒性が引き起こされないことを意味する。生体適合性物体は、特定の個体において、臨床的に受容可能な量の毒性(刺激および/または他の有害な反作用が挙げられる)を引き起こし得ることが想定される。
【0088】
当業者の知識の範囲内である任意の生分解性ポリマーが、本コーティングにおいて使用され得る。ある実施形態において、生分解性ポリマーは、ε−カプロラクトンをその成分として含有し得る。適切なカプロラクトン含有コポリマーとしては、周知の従来の重合技術によって合成され得るコポリマーが挙げられる。いくつかの実施形態において、適切なカプロラクトン含有コポリマーは、優勢な量のε−カプロラクトンと、ε−カプロラクトンと重合可能な少量の別の生分解性モノマーとを、多価アルコール開始剤の存在下で重合させることにより得られる、「スター」コポリマーである。
【0089】
ある実施形態において、カプロラクトン含有コポリマーは、優勢な量のε−カプロラクトンと少量の少なくとも1つの他の共重合性モノマーまたはこのようなモノマーの混合物とを、多価アルコール開始剤の存在下で重合させることにより得られ得る。これらのモノマーの重合は、種々の型のモノマー付加(すなわち、同時、連続的、同時の後に連続的、連続的に後の同時など)の全てを想定する。
【0090】
特定の実施形態において、本明細書中のコポリマーは、約70重量%〜約98重量%、そして好ましくは、約80重量%〜約95重量%のε−カプロラクトン由来の単位を含有し得、このコポリマーの残りの部分は、他の共重合性モノマーから誘導される。
【0091】
ε−カプロラクトンと共重合し得る適切なモノマーとしては、アルキレンカーボネート(例えば、トリメチレンカーボネート、テトラメチレンカーボネート、ジメチルトリメチレンカーボネート);ジオキサノン;ジオキセパノン;分解性環状アミド;アルキレンオキシド(例えば、ポリエチレンオキシド(PEO)およびポリプロピレンオキシド(PPO))、クラウンエーテルから誘導された分解性環状エーテル−エステル;エステル化が可能なヒドロキシ酸(αヒドロキシ酸(例えば、グリコール酸および乳酸)とβヒドロキシ酸(例えば、β−ヒドロキシ酪酸)との両方およびγ−ヒドロキシ吉草酸が挙げられる);ポリアルキルエーテル(例えば、ポリエチレングリコール(PEG)およびポリプロピレングリコール(PPG)、ならびにこれらの組み合わせ);ポリビニルピロリドン、ヒドロキシエチルメタクリレート;ホスホリルコリン;アクリル酸;メタクリル酸;ビニルモノマー;ビニルアルコール;酢酸ビニル;ならびにこれらの組み合わせが挙げられる。ある実施形態において、本開示において使用するのに適切なモノマーは、グリコリドである。
【0092】
適切な多価アルコール開始剤としては、グリセロール、トリメチロールプロパン、1,2,4−ブタントリオール、1,2,6−ヘキサントリオール、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、エリトリトール、トレイトール、ペンタエリトリトール、リビトール、アラビニトール、キシリトール、N,N,N’,N’−テトラキス(2−ヒドロキシエチル)エチレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラキス(2−ヒドロキシプロピル)エチレンジアミン、ジペンタエリトリトール、アリトール、ダルシトール、グルシトール、アルトリトール、イジトール、ソルビトール、マンニトール、イノシトールなどが挙げられ、マンニトールが好ましい。
【0093】
多価アルコール開始剤は一般に、比較的少量(例えば、全モノマー混合物の約0.01重量%〜約5重量%、そして好ましくは、約0.1重量%〜約3重量%)で使用される。
【0094】
コーティング組成物は、約0.3重量%〜約10重量%、そして好ましくは、約0.5重量%〜約5重量%のコポリマーを含有し得る。このようなコーティングは、縫合糸に、改善された取り扱い適性と抗菌活性との、組み合わせられた望ましい特性を提供する。
【0095】
上記抗菌剤に加えて、いくつかの実施形態において、このコーティングは、抗菌特徴を縫合糸に付与し得る1つ以上の脂肪酸成分(例えば、脂肪酸、脂肪酸塩および脂肪酸エステルの塩)を含有し得る。
【0096】
このコーティングが脂肪酸金属塩を含有する場合、抗菌剤として使用される脂肪酸金属塩は、金属ステアリン酸塩を含み得る。1つの実施形態において、抗菌剤として使用される脂肪酸塩は、ステアリン酸銀である。別の実施形態において、抗菌剤として使用される脂肪酸塩は、脂肪酸エステル(例えば、ラクチル酸ステアロイル(特に、ラクチル酸ステアロイルカルシウム)と組み合わせられ得る。
【0097】
本コーティングにおいて使用され得る適切な脂肪酸としては、6個以上の炭素原子を有する脂肪酸の、生体適合性の一価金属塩および多価金属塩が挙げられる。本明細書中で有用な脂肪酸の金属塩を形成するのに有用な脂肪酸の例としては、酪酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸などが挙げられる。本明細書中に記載される種々の実施形態において有用な脂肪酸の金属塩を形成するために有用な一価金属の例としては、リチウム、ルビジウム、セシウム、フランシウム、銅、銀および金が挙げられる。本明細書中に記載される種々の実施形態において有用な脂肪酸の金属塩を形成するのに有用な多価金属の例としては、アルミニウム、スズ、鉛、ビスマスおよび多価遷移金属が挙げられる。従って、本明細書中で有用な脂肪酸の適切な金属塩としては、リチウム、ルビジウム、セシウム、フランシウム、銅、銀、金、ベリリウム、マグネシウム、ストロンチウム、バリウム、ラジウム、アルミニウム、スズ、鉛、ビスマス、亜鉛、カドミウム、水銀などの脂肪酸塩が挙げられる。
【0098】
脂肪酸の金属塩は、コーティング組成物中に、上記のような有効な抗菌量で存在する。脂肪酸の金属塩は、単一の化合物からなり得る。しかし、脂肪酸の金属塩は、数種の脂肪酸の金属塩の混合物であってもよい。脂肪酸の金属塩は、コーティング組成物の約30重量%〜約70重量%、ある実施形態において、コーティング組成物の約45重量%〜約55重量%の量で存在し得る。
【0099】
脂肪酸の金属塩は、冷水に比較的不溶性であり得る。望ましい場合、溶媒が、脂肪酸の金属塩の作動特性(例えば、粘度、混和性など)を改善するために使用され得る。適切な溶媒としては、例えば、アルコール(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール)、塩素化炭化水素(例えば、塩化メチレン、クロロホルム、1,2−ジクロロ−エタン)、および脂肪族炭化水素(例えば、ヘキサン、ヘプテン、酢酸エチル)が挙げられる。望ましい場合、脂肪酸の金属塩の溶媒混合物に熱が加えられて、その溶解度を改善し得る。例えば、約30℃〜約60℃の範囲の温度が適切である。
【0100】
特定の実施形態において、脂肪酸エステルが、コーティング組成物中の脂肪酸の金属塩と組み合わせられ得る。このようなエステルとしては、例えば、ステアリン酸カルシウム、ステアロイルラクチル酸エステル、パルミチルラクチル酸エステル、オレイルラクチル酸エステル(例えば、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、バリウム、または亜鉛のラクチル酸ステアロイル;カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、バリウム、または亜鉛のラクチル酸パルミチル;カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、バリウム、または亜鉛のラクチル酸オレイル)が挙げられ、ステアリン酸カルシウムおよびカルシウムステアロイル−2−ラクチレート(例えば、VERVの商品名でAmerican Ingredients Co.,Kansas City,Mo.から市販されているカルシウムステアロイル−2−ラクチレート)が好ましい。望ましい場合、脂肪酸エステルは、溶媒と組み合わせられ得る。適切な溶媒としては、上に列挙された溶媒が挙げられる。
【0101】
生物活性剤がコーティングの一部として含有される場合、この生物活性剤およびコーティング組成物は、別々の溶媒に添加され得、次いで、得られた溶媒混合物が合わせられて、コーティング溶液を形成し得る。他の実施形態において、この生物活性剤およびコーティング組成物は、一緒に合わせられ得、次いで、溶媒と混合されて、コーティング溶液または任意の組み合わせを形成し得る。添加の順序は重要ではないので、所望の用途に依存して慣用的な実験によって決定され得る。
【0102】
このコーティングは、任意の適切なプロセス(例えば、縫合糸をコーティング混合物の溶液に通すこと、ブラシまたは他のコーティング溶液アプリケータに通すこと、あるいは縫合糸コーティング溶液を分配する1つ以上のスプレーノズルに通すこと)によって縫合糸に塗布され得る。このコーティング溶液は、約30重量%〜約70重量%、ある実施形態において、約45重量%〜約55重量%の溶媒を含有し得る。ある実施形態において、塩化メチレン、ヘキサンおよびエタノールの混合物が、溶媒として使用され得る。コーティング溶液で濡らされた縫合糸は、必要に応じて、溶媒を気化させて除去するために充分な時間および温度で、乾燥オーブンに通され得るかまたは乾燥オーブン内に保持され得る。所望であれば、縫合糸コーティング組成物は、必要に応じて、さらなる生物活性剤または上記成分(例えば、色素、抗生物質、防腐剤、増殖因子、成長因子、抗炎症剤など)を含有し得る。
【0103】
棘が、縫合糸の本体の表面に、当業者の知識の範囲内である任意の方法を利用して形成され得る。このような方法としては、切断、成形などが挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、棘は、鋭角の切断部を縫合糸本体に直接作製することによって形成され得、この切断部分は、外向きに押されてこの縫合糸の本体から離される。この縫合糸にこのように形成される棘の深さは、縫合糸材料の直径および切断の深さに依存する。いくつかの実施形態において、軸方向に間隔を空けた複数の棘を縫合糸フィラメントの外側に切断するために適切なデバイスとしては、切断床、切断床万力、切断テンプレート、および切断を実施するための刃アセンブリが挙げられ得る。操作において、切断デバイスは、軸方向に間隔を空けた複数の棘を、同じ構成または無作為な配向で、そして互いに対して異なる角度で製造する能力を有する。棘を切断するために適切な他の方法は、レーザーまたは手動方法の使用を包含する。これらの縫合糸はまた、射出成形、押し出し、打ち抜きなどによって形成され得る。この縫合糸は、任意の数の所望の予め切断された長さおよび予め形成された曲線で、包装され得る。
【0104】
ある実施形態において、全ての棘は、縫合糸が組織を通って一方向に移動することを可能にし、そして組織を通って逆方向に移動することに抵抗するように整列し得る。例えば、図1を参照すると、縫合糸10の棘12は、一方向縫合糸に形成され得る。ある実施形態において、縫合糸10は、針16に取り付けられ得る。棘12は、縫合糸10の本体14に向かって曲がり得る。棘12は、針端部16の移動の方向で組織を通る縫合糸10の移動を可能にするが、一般に、逆方向には硬く、針端部16の移動の方向とは逆の方向での縫合糸10の移動を防止する。
【0105】
縫合糸10は、棘12と縫合糸本体14との間の角内に配置された生物活性剤(図示せず)を備え得る。
【0106】
あるいは、マルチフィラメント縫合糸(図示せず)が利用され得、このマルチフィラメント縫合糸は、生体適合性の分解性ポリマー、生体適合性の非分解性ポリマー、またはこれらの組み合わせから製造されたフィラメントを含み得る。ある実施形態において、棘と縫合糸本体との間の角内に配置された生物活性剤を備える生体適合性の分解性ポリマーを備えるマルチフィラメント縫合糸が提供され得る。別の実施形態において、マルチフィラメント縫合糸は、生体適合性の分解性ポリマーまたは生体適合性の非分解性ポリマーの組み合わせから製造された個々のフィラメントを含み得、この組み合わせは、棘と縫合糸本体との間の角内に配置された生物活性剤を備える。
【0107】
他の実施形態において、棘は、縫合糸の長さの第一の部分で、縫合糸の第一の端部が組織を一方向に通る動き可能にするように整列され得、一方で、この縫合糸の長さの第二の部分の棘は、この縫合糸の第二の端部の逆方向への動きを可能にするように整列され得る。例えば、図2に図示されるように、縫合糸110は、二方向性であり得る。棘付き縫合糸110は、2つの領域(本体部分114aおよび本体部分114b)を有する細長本体114、組織に貫入するための遠位の第一の針端部116aおよび第二の針端部116b、ならびに本体114の外周から延びる複数の棘112aおよび112bを備える。抗菌剤が、棘112aおよび112bと縫合糸本体114との間に形成された角内に配置され得る。本体の第一の部分114a(縫合糸110の第一の端部とこの縫合糸本体の第一の軸方向位置との間)の棘112aは、縫合糸110が組織を通って第一の針端部116aの移動の方向に動くことを可能にし、そして組織に対する第一の針端部116aの移動の方向とは逆方向への縫合糸110の動きを防止する。本体の第二の部分114b(縫合糸114の第二の針端部116bと、この本体上の第二の軸方向位置(第二の針端部116bから第一の軸方向位置までの距離より小さい)との間)の棘112bは、縫合糸114が組織を通って第二の針端部116bの移動の方向に動くことを可能にし、そして組織に対する第二の針端部116bの移動の方向とは逆方向への縫合糸114の移動を防止する。
【0108】
これらの棘は、任意の適切なパターン(例えば、螺旋パターン)で配置され得る。棘の数、構成、間隔および表面積は、この縫合糸が使用される組織、ならびにこの縫合糸を形成するために利用される材料の組成および幾何学的形状に依存して、変動し得る。さらに、棘の割合は、比較的一定なままであり得、一方で、棘の全体的な長さおよび棘の間隔は、接続される組織によって決定され得る。例えば、この縫合糸が皮膚または腱の創傷の縁部を接続するために使用される場合、これらの棘は、比較的短く、より硬く作製されて、このかなり堅固な組織に入ることを容易にし得る。あるいは、この縫合糸が脂肪組織(これは、比較的柔軟である)において使用されることを意図される場合、これらの棘は、より長く、より遠く間隔を空けて作製されて、この縫合糸が軟部組織を把持する能力を増大させ得る。
【0109】
棘の表面積もまた変動し得る。例えば、丸へし状先端の棘が、特定の外科手術用途のために設計された様々なサイズで作製され得る。脂肪組織および比較的柔らかい組織を接合するためには、より大きい棘が望まれ得、一方で、より小さい棘は、コラーゲンの密度が高い組織に対してより適切であり得る。いくつかの実施形態において、同じ構造体内での大きい棘と小さい棘との組み合わせが、例えば、この縫合糸が異なる層構造の組織修復において使用される場合に有利であり得る。同じ縫合糸内での大きい棘と小さい棘との組み合わせ(ここで棘のサイズは、各組織層に対して誂えられる)の使用は、最大の繋留特性を確実にする。ある実施形態において、図1に図示されるような一方向縫合糸は、大きい棘と小さい棘との両方を有し得る。他の実施形態において、図2に図示されるような二方向縫合糸は、大きい棘と小さい棘との両方を有し得る。
【0110】
ある実施形態において、本開示の縫合糸は、外科手術野における縫合糸の可視性を増大させる目的で、染色され得る。縫合糸への組み込みに対して適切な任意の色素が使用され得る。このような色素としては、カーボンブラック、骨炭、D&C Green No.6およびD&C Violet No.2が挙げられるが、これらに限定されない。ある実施形態において、本開示に従う縫合糸は、約数%までの量の色素を添加すること、他の実施形態においては、約0.2%の量の色素を添加すること、なおさらなる実施形態においては、約0.06%〜約0.08%の量の色素を添加することによって、染色され得る。
【0111】
本開示の縫合糸への針の取り付けを容易にする目的で、従来の傾斜剤(tipping agent)が、編組に塗布され得る。この縫合糸の2つの尖った端部は、針をこの縫合糸の両端に取り付けて、いわゆるダブルアーム縫合糸を提供するために望ましくあり得る。針の取り付けは、当業者の知識の範囲内で公知であるような、任意の従来の方法(例えば、クリンプ、スエージなど)によってなされ得る。創傷は、この針付き縫合糸を組織に通して創傷閉鎖を作製することにより、縫合され得る。コーティングは、この縫合糸の取り扱い特性を増強することに加えて、有利には、治癒を促進して感染を予防するための抗菌特性を有する。
【0112】
いくつかの実施形態において、縫合糸または創傷閉鎖デバイスのアーキテクチャに対する棘の寄与は、血小板および血液成分の捕捉に寄与し得る。図3A、図3B、図3Cを参照すると、管状挿入デバイス22が、本開示に従う棘付き縫合糸10を血管20に導入するために利用され得る。このような管状挿入デバイス22は、管状本体ならびに遠位端24および近位端26を有し得、この管状本体内に棘付き縫合糸10が配置される。使用において、本開示の棘付き縫合糸10の尖った端部は、管状挿入デバイスの遠位端24を用いて、挿入点の皮膚、組織、脈管などを通して押され得る。棘付き縫合糸10の尖った端部および管状挿入デバイスの遠位端24は、終点に達するまでこの組織を通して押される。次いで、管状挿入デバイス22の近位端26は、把持され、引かれて挿入デバイス22が除去され、棘付き縫合糸10を適所に残す。
【0113】
管状挿入デバイスの移動を容易にするために、管状挿入デバイス22は、図3Bに図示されるように、挿入デバイス22を引いて棘付き縫合糸から除去するための、紐、ワイヤなどを備え得る。例示的な実施形態において、管状挿入デバイス22は、棘付き縫合糸10から展開され、このことは、棘付き縫合糸10が脈管の全厚さに拡張して脈管20に繋留することを可能にする。図3Cに図示されるように、管状挿入デバイス22の展開および棘付き縫合糸10の拡張は、循環する血小板および血液成分の捕捉を可能にして、脈管の閉塞および/または脈管20の詰まりを起こさせる。
【0114】
図3A〜図3Cの棘付き縫合糸は、可撓性の屈曲構成を図示する。しかし、種々の縫合糸または繊維の構成が使用され得ることが想定される。他の実施形態において、繊維の構成は、シース(図示せず)内で棘付きデバイスを捻ることを含み得る。
【0115】
例示的な実施形態において、存在する場合、本開示の棘付き縫合糸を取り囲む管状挿入デバイスは、棘と縫合糸本体との間に形成された棘角内に配置された生物活性剤を保護する。従って、この管状挿入デバイスは、縫合糸の挿入中、ならびに取り扱い中および保存中に棘付き縫合糸をインタクトに、そして生物活性剤を縫合糸の本体に付着させたままに維持することを補助し得る。このことは、医療デバイスの包装、環境などへの生物活性剤の損失を最少にする。しかし、棘付き縫合糸および管状挿入デバイスをインビボで係合させると、このシースを組織に対して移動させてこのシースをこの組織から引き抜くことにより、生物活性剤が組織に曝露され、そして棘と縫合糸との界面から創傷閉鎖部への生物活性剤の放出を補助する。この棘付き縫合糸は、脈管の厚さ全体に延び、そして患者の組織を繋留するように働く。
【0116】
別の例示的な実施形態において、縫合糸本体および/または棘における上記のような形状記憶ポリマーの使用によって、生物活性剤が保護され得、そして/または生物活性剤の放出が制御され得る。例えば、縫合糸は、この縫合糸がその永続的形状にある場合に、棘と縫合糸本体との間に形成された棘角内に配置された生物活性剤を備え得る。図5Aに図示されるように、棘212は、縫合糸210の本体214から離れるように外向きに延び、その結果、棘角218aを棘212と縫合糸210の本体214との間に形成する。次いで、この縫合糸は、図5Bに図示されるような一時的形状に変形され得、この形状において、棘212は、縫合糸本体214に対して押し付けられ、そして棘角218bは、永続的形状の棘角218aより小さく(例えば、閉じており)、これによって、生物活性剤の曝露および/または縫合糸210からの損失を最少にする。図5Bに図示されるように、一時的形状において、棘212は、縫合糸210の本体214の長手方向軸に対して実質的に平行であり、棘角218bを形成する。組織内に配置すると、これらの棘は、縫合糸本体から離れるように延びてそれらの永続的形状に戻り得、これによって、生物活性剤を曝露し、そして/または組織に放出する。ある実施形態において、生物活性剤は、これらの棘が図5Bに図示されるような一時的形状から図5Aに図示されるような永続的形状へと移行する際に、棘角から放出される。
【0117】
いくつかの実施形態において、この縫合糸は、異なる形状回復温度を有する複数の棘を備え得、これによって、1つの生物活性剤、または複数の生物活性剤の、組織内への制御された放出および持続放出を提供し得る。ある実施形態において、これらの棘の一部分は、体温への曝露の際にその永続的形状を回復し得、そしてこれらの棘の別の部分は、熱または電気刺激への曝露の際に永続的形状を回復し得る。他の実施形態において、これらの棘の一部分は、室温より高いが体温より低い温度への曝露の際に、永続的形状を回復し得、他の棘は、体温への曝露の際に永続的形状を回復し得る。従って、このような縫合糸は、移植の際またはそのすぐ後(ある実施形態において、移植の約1秒後〜約5秒後)に永続的形状を回復する棘を有し得、残りの棘は、体温に達した後に(ある実施形態において、移植の5秒後より後)永続的形状を獲得し得る。
【0118】
凝固剤が使用される実施形態において、この棘付き縫合糸はまた、循環する血小板および血液成分を捕捉し、そして脈管の閉塞または詰まりを起こさせる。機械的特性の要件がさほど厳密ではない場合、ヒドロゲルまたは超吸収性材料が、血液成分をさらに濃縮するために使用され得るか、あるいは棘付きデバイスはまた、ヒドロゲル様の材料を最終配置に駆動および配置し得る。
【0119】
図4A〜図4Bを参照すると、シース23が、本開示に従う棘付き縫合糸10を血管20に導入するために利用され得る。このようなシース23は、管状本体を有し得、この管状本体内に、棘付き縫合糸10が配置される。1つの実施形態において、シース23は、棘付き縫合糸10の一端に配置され得、そして他の実施形態において、シース23は、棘付き縫合糸10の両端に配置され得る(図示せず)。ある実施形態において、シース23は、フィラメント繊維、ナイロン繊維、ポリエステル(PET)、コポリマーポリエステル(co−PET)、ポリプロピレン(PP)、およびポリエチレン(PE)が挙げられるがこれらに限定されない材料から形成され得、これらの材料は、この縫合糸の棘が脈管20内で完全に拡張して係合する際に、脈管20を遮断して閉塞を誘導し、血液成分および血小板を捕捉して詰まりを補助する目的で、膨潤するように設計される。棘付き縫合糸10はまた、この縫合糸の棘と細長本体との間の内角内に生物活性剤を含み、脈管20の詰まりを増強し得る。
【0120】
本開示の縫合糸を用いて組織を修復するための方法もまた提供される。本開示の縫合糸は、任意の美容的方法、内視鏡方法または腹腔鏡方法において利用され得る。さらに、本開示の縫合糸は、1つの組織を別の組織に付着させるため(組織を靭帯に付着させることが挙げられるが、これらに限定されない)に利用され得る。
【0121】
ある実施形態において、本開示の縫合糸は、結び目を必要とせずに適所に保持され得る。このような場合、インビボで配置された本開示の縫合糸を覆う位置にある組織は、所望の位置に物理的に操作またはマッサージされて、所望の位置での組織の保持を増強し得る。ある実施形態において、本開示の縫合糸を覆う位置にある組織の物理的操作は、この縫合糸上に位置する任意の医薬剤(本開示の縫合糸の棘と本体との間の角に見出される任意の医薬剤が挙げられる)の放出を増強し得る。
【0122】
例えば、本開示の縫合糸は、組織の上昇(これは、特定の美容用途において望ましくあり得る)を提供するために利用され得る。ある実施形態において、縫合糸を利用して組織を閉鎖するための手順は、縫合糸の第一の端部(必要に応じて針に取り付けられている)を、患者の身体の表面の挿入点で挿入することを包含する。この縫合糸の第一の端部は、この第一の端部が出口点で軟部組織から出て延びるまで、この軟部組織を通して押され得る。次いで、この縫合糸の第一の端部は、把持されて引かれ、この縫合糸の第一の部分を軟部組織に通して引き、その結果、この縫合糸の第一の部分のある長さが、この軟部組織内で、この第一の端部の挿入点と出口点との間に残る。次いで、この軟部組織は、手で集められ、そしてこの縫合糸の少なくとも一部分に沿って前進させられて、所望の量の上昇を提供し得る。
【0123】
上記のような縫合糸のこの物理的操作を利用し得る、美容外科手術の特定の用途としては、例えば、顔のしわとり、眉毛上昇、大腿上昇、および胸部上昇が挙げられる。
【0124】
上記説明は、多くの具体例を含むが、これらの具体例は、本開示の範囲の限定であると解釈されるべきではなく、単に、本開示の実施形態の例示であると解釈されるべきである。当業者は、添付の特許請求の範囲により規定されるような本開示の範囲および趣旨内で、他の多くの可能性(他の創傷閉鎖デバイスの使用が挙げられる)を想定する。
【符号の説明】
【0125】
10 縫合糸
12 棘
14 本体
16 針

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細長本体;
該細長本体から延びる複数の棘であって、該棘は、該棘と該細長本体との間に棘角を形成し、該複数の棘の少なくとも一部分は、形状記憶ポリマーから形成されており、その結果、該棘は、一時的形状にある場合に、永続的形状においてとは異なる棘角で延びる、複数の棘;および
該棘と該細長本体との間に形成された該棘角内に配置された有効量の生物活性剤、
を備える、外科手術用縫合糸。
【請求項2】
前記棘角が、前記一時的形状においてよりも前記永続的形状において大きい、請求項1に記載の外科手術用縫合糸。
【請求項3】
一時的形状において、前記複数の棘が、前記縫合糸の長手方向軸に対して実質的に平行に延びる、請求項1に記載の外科手術用縫合糸。
【請求項4】
永続的形状において、前記複数の棘が、前記縫合糸の表面から離れる方向に外向きに延びる、請求項1に記載の外科手術用縫合糸。
【請求項5】
前記形状記憶ポリマーが、生体吸収性材料、非分解性材料およびこれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項1に記載の外科手術用縫合糸。
【請求項6】
前記形状記憶ポリマーが、ポリオレフィン、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリオレフィンコポリマー、フッ素化ポリオレフィン、ポリアミド、ポリアミン、ポリイミン、ポリエステル、ポリエーテル、ポリブタエステル、ポリウレタン、アクリルポリマー、メタクリルポリマー、ハロゲン化ビニルポリマー、ハロゲン化ビニルコポリマー、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、ポリハロゲン化ビニリデン、ポリクロロフルオロエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリアリールエーテルケトン、ポリビニルケトン、ポリビニル芳香族、ポリビニルエステル、ビニルモノマーのコポリマー、アクリロニトリル−スチレンコポリマー、ABS樹脂、エチレン−酢酸ビニルコポリマー、アルキド樹脂、ポリカーボネート、ポリオキシメチレン、ポリホスファジン、ポリイミド、エポキシ樹脂、アラミド、レーヨン、スパンデックス、シリコーン、ならびにこれらの組み合わせからなる群より選択される非分解性材料を含有する、請求項1に記載の外科手術用縫合糸。
【請求項7】
前記形状記憶ポリマーが、脂肪族ポリエステル、ポリアミド、ポリアミン、ポリアルキレンオキサレート、ポリ(酸無水物)、ポリアミドエステル、コポリ(エーテル−エステル)、ポリ(カーボネート)、ポリ(ヒドロキシアルカノエート)、ポリイミドカーボネート、ポリ(イミノカーボネート)、ポリオルトエステル、ポリオキサエステル、ポリホスファゼン、ポリ(プロピレンフマレート)、ポリウレタン、ポリマー薬物、生物学的に修飾された生体吸収性ポリマー、およびこれらのコポリマー、ホモポリマー、ならびに組み合わせからなる群より選択される生体吸収性材料を含有する、請求項1に記載の外科手術用縫合糸。
【請求項8】
前記形状記憶ポリマーが、ラクチド、グリコリド、ε−カプロラクトン、p−ジオキサノン、トリメチレンカーボネート、トリメチレンカーボネートのアルキル誘導体、δ−バレロラクトン、β−ブチロラクトン、γ−ブチロラクトン、ε−デカラクトン、ヒドロキシブチレート、ヒドロキシバレレート、1,4−ジオキセパン−2−オン、1,5−ジオキセパン−2−オン、6,6−ジメチル−1,4−ジオキサン−2−オン、2,5−ジケトモルホリン、ピバロラクトン、α,α−ジエチルプロピオラクトン、エチレンカーボネート、エチレンオキサレート、3−メチル−1,4−ジオキサン−2,5−ジオン、3,3−ジエチル−1,4−ジオキサン−2,5−ジオン、6,8−ジオキサビシクロオクタン−7−オンのホモポリマーおよびコポリマー、ならびにこれらの組み合わせからなる群より選択される脂肪族ポリエステルを含有する、請求項7に記載の外科手術用縫合糸。
【請求項9】
前記形状記憶ポリマーが、ポリ(アミノ酸)、コラーゲン、エラスチン、フィブリン、フィブリノゲン、絹、アルブミン、ラミニンおよびフィブロネクチンの配列を含むペプチド、ヒアルロン酸、デキストラン、アルギネート、キチン、キトサン、セルロース、グリコサミノグリカン、ガット、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシブチルメチルセルロース、酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、酢酸フタル酸セルロース、カルボキシメチルセルロース、三酢酸セルロース、硫酸セルロースナトリウム塩、ニトロセルロース、キトサン、ならびにこれらの組み合わせからなる群より選択される生分解性ポリマーを含有する、請求項1に記載の外科手術用縫合糸。
【請求項10】
前記形状記憶ポリマーが、オリゴ(ε−カプロラクトン)ジメタクリレート、オリゴ(ε−カプロラクトン)ブチルアクリレート、(アクリル酸n−ブチル)、オリゴ(ε−カプロラクトン)ジオール/オリゴ(p−ジオキサノン)ジオールコポリマー、ポリカプロラクトンジメタクリレートポリ(アクリル酸ブチル)ブレンド、およびこれらの組み合わせからなる群より選択されるポリマーを含有する、請求項1に記載の外科手術用縫合糸。
【請求項11】
前記形状記憶ポリマーが、ポリジオキサノンとポリラクチドとのブロックコポリマーを含有する、請求項1に記載の外科手術用縫合糸。
【請求項12】
前記ポリジオキサノンが、前記コポリマーの約5mol%〜約20mol%の量で存在し、そして前記ポリラクチドが、該コポリマーの約80mol%〜約95mol%の量で存在する、請求項11に記載の外科手術用縫合糸。
【請求項13】
前記形状記憶ポリマーが、トリメチレンカーボネートとポリラクチドとのブロックコポリマーを含有する、請求項1に記載の外科手術用縫合糸。
【請求項14】
前記トリメチレンカーボネートが、前記コポリマーの約5mol%〜約20mol%の量で存在し、そして前記ポリラクチドが、該コポリマーの約80mol%〜約95mol%の量で存在する、請求項13に記載の外科手術用縫合糸。
【請求項15】
前記生物活性剤が、殺菌剤、抗菌剤、抗生物質、抗増殖剤、医薬、増殖因子、成長因子、抗凝固剤、凝固剤、鎮痛薬、麻酔薬、抗炎症剤、創傷修復剤、化学療法剤、生物学的物質、タンパク質治療剤、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、DNA、RNA、ペプチド、多糖類、レクチン、脂質、共生剤、診断剤、脈管形成剤、抗脈管形成薬、ポリマー薬物、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項1に記載の外科手術用縫合糸。
【請求項16】
前記抗菌剤が、抗生物質、集団感知遮断薬、抗ウイルス剤、界面活性剤、金属イオン、抗菌タンパク質、抗菌ペプチド、抗菌多糖類、消毒薬、防腐剤およびこれらの組み合わせからなる群より選択される、請求項15に記載の外科手術用縫合糸。
【請求項17】
前記縫合糸上の少なくとも一部分にコーティングをさらに備える、請求項1に記載の外科手術用縫合糸。
【請求項18】
縫合糸から生物活性剤を放出するためのシステムであって、
一時的形状にある縫合糸であって、該縫合糸は、
細長本体;
該細長本体から延びる複数の棘であって、該棘は、該棘と該細長本体との間に棘角を形成し、該複数の棘の少なくとも一部分は、形状記憶ポリマーから作製されており、その結果、該棘は、該一時的形状にある場合に、永続的形状にある場合とは異なる棘角で延びる、複数の棘;および
該棘と該細長本体との間に形成された該棘角内に配置された有効量の生物活性剤、
を備える、縫合糸を備え、
該縫合糸は、該棘が該一時的形状から該永続的形状へと延びるように、組織内に配置されるように構成されており;そして
該縫合糸は、該生物活性剤を該組織内に放出ように構成されている、
システム。
【請求項19】
前記縫合糸が、一時的形状である場合に、前記複数の棘が該縫合糸の長手方向軸に対して実質的に平行に延びるように構成されている、請求項18に記載のシステム。
【請求項20】
前記縫合糸が、永続的形状である場合に、該永続的形状における前記複数の棘が前記縫合糸の表面から離れる方向に外向きに延びるように構成されている、請求項18に記載のシステム。
【請求項21】
前記縫合糸が、前記複数の棘が前記一時的形状から前記永続的形状へと移行する際に、該生物活性剤を前記棘角から放出するように構成されている、請求項18に記載のシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【公開番号】特開2011−189126(P2011−189126A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−53499(P2011−53499)
【出願日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(507362281)タイコ ヘルスケア グループ リミテッド パートナーシップ (666)
【Fターム(参考)】