説明

椅子

【課題】部品点数を極力抑え、簡素な構造を通じて、背の後傾位置によらず肘に適切な位置と使用角度を確保することを目的とする。
【解決手段】背4を支持体7に後傾可能に支持させるとともに、背4に肘100を回転可能に付帯させ、この肘100と支持体7との間にカム201x及びフォロア202xからなるガイド機構7を構成して、背4の後傾に伴い肘の回転軸101が支持体7に対して相対移動した際に、フォロア202xをカム201xに係り合わせることによって背4の後傾位置によらず肘の使用角度を略一定に保持し得るように当該カム201xに所要の形状を付与することとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、背が傾動する椅子に係り、特に簡素な構成で背の傾動位置によらず肘に適切な使用角度を確保できるようにした椅子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
背が支持体に傾動可能に支持される椅子において、肘を設ける場合、当該肘を支持体に固定する態様と背に固定する態様とが一般的な構成として考えられる。しかし、前者のように肘を支持体に固定すると、背が傾動しても肘が取り残されるので、適切な使用領域が得られないこととなり、一方後者のように肘を背に固定すると、背の傾動に伴って肘の角度も変化して、適切な使用角度が損なわれることとなる。
【0003】
このような不具合を解消するものとして、例えば特許文献1、2に示すもの等が提案されている。
【0004】
特許文献1のものは、座に平行リンクを介して肘を取り付け、平行リンクの一部をさらにリンクを介し背に接続して、背の傾動に連動して平行リンクが変形し、肘が追従しつつ高さが低くなるように構成されている。
【0005】
一方、特許文献2のものは、肘を背に回転可能に支持するとともにリンクを背座境界部に回転可能に配置し、その肘の回転軸から変位した部位とリンクの回転軸から変位した部位とをロッドで連結して、前記背座境界部においてリンクの回転位相を変化させ得る位置に設けた操作ハンドルを操作することによって、リンクの微小回転を引き起こし、これによりロッドを介して肘を、背の傾動に見合うように角度調整することができるようにしている。
【特許文献1】特許第3777951号公報
【特許文献2】実用新案登録第2554926号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1のものは、平行リンクが座の側方に常設されるため、部品点数が多く構造が複雑となる上に、不必要な時にも肘を退避させることができないという不具合がある。
【0007】
一方、特許文献2のものも、リンクやロッド、ハンドルが背の側方に配置されるため、やはり部品点数が多く構造が複雑となる上に、不必要な時にも肘を退避させることができないという不具合がある。しかも、このものはハンドル操作が必要なため、取扱いにも逐一不便なものである。
【0008】
本発明は、このような課題に着目してなされたものであって、部品点数を極力抑え、簡素な構造を通じて、背の傾動位置によらず肘に適切な位置と使用角度を確保するとともに、必要に応じて肘の跳ね上げ機能も簡単に付与できるようにした有用な椅子を新たに提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、かかる目的を達成するために、次のような手段を講じたものである。
【0010】
すなわち、本発明の椅子は、背を支持体に傾動可能に支持させるとともに、前記背に肘を回転可能に付帯させ、この肘と前記支持体との間にカム及びフォロアからなるガイド機構を構成して、背の傾動に伴い肘の回転軸が支持体に対して相対移動した際に、フォロアをカムに係り合わせることによって背の傾動位置によらず肘の使用角度を略一定に保持し得るように当該カムに所要の形状を付与してなることを特徴とする。
【0011】
このように構成すると、肘は背に付帯されるので、傾動に伴って背に肘が追従する上に、背の傾動位置が変わっても、カムとフォロアを係り合わせた状態にすればガイド機構が肘の使用角度を略一定に保つので、肘を適切に利用できる状態を容易に得ることができる。しかも、肘の使用角度を略一定に保持するための構成がカム及びフォロアを利用した簡素な機構で足りるので、背の側方に複雑な機構が存することがなく、肘からかけ離れた位置にて別異のハンドル操作を行うような操作上の不便さも解消することができる。
【0012】
簡素な構成としては、カムが肘または支持体の何れか一方に付帯させたガイド部材の縁部に設定され、フォロアが他方に固定したものであって、背の傾動に伴いフォロアがガイド部材に対して相対移動する軌跡に沿って当該ガイド部材のカムの形状を規定しているものが挙げられる。
【0013】
肘が常設されることによる不具合を回避するためには、カムとフォロアを係り合う方向と反対方向に非拘束な状態とし、離反しながら肘の跳ね上げ動作を許容するようにしておくことが望ましい。
【0014】
肘の安定した使用状態を優先する場合には、カムが肘または支持体の何れか一方に付帯させたガイド部材に形成してなる長孔状又は溝状のものであり、フォロアが他方に固定されて前記長孔又は溝に挿し通されて長手方向に沿って相対移動可能なピン状のものであることが好ましい。
【0015】
ガイド機構の組み込みの便を向上させるためには、カムを有するガイド部材を肘の回転軸方向に沿った所定位置に一体回転可能に設け、フォロアを支持体側において前記ガイド部材のカムに対応する部位に設けておくことが好都合である。
【0016】
特に、ガイド機構をコンパクトに実現する上では、ガイド部材が回転軸に直交する面板部を有する板状のものであり、その面板部の端面若しくは断面の一部にカムを設定して、その面板部と直交する方向から当該カムにフォロアを係り合わせていることが好適となる。
【0017】
椅子が、背が支持体に対して上端近傍部を上下移動可能に係り合わせた状態で下端側を前後に揺動させることにより背の後傾及び座の前動によるリクライニング動作を実現するものである場合に、そのリクライニング時の安息状態を実効あらしめるためには、その通常位置からリクライニング動作に伴って肘の回転軸が前下方へ移動する際、カムとフォロアからなるガイド機構によって肘の使用角度を略一定に保ちつつ、肘全体を前下方へ移動させるようにしておくことが望ましい。
【0018】
支持体が、背及び座を支持した状態で固定背部に対して昇降駆動される状態と、固定背部の降下端に保持されて背の後傾及び座の前動を支持する状態とをとり得るものである場合に、着座者の立ち上がりを適正に補助するためには、昇降駆動の間は背の角度を一定に保ち、肘と支持体との相対位置を変化させないように構成しておくことが望ましい。
【0019】
以上を踏まえ、肘の角度が背の傾動位置に応じて変化する事が望まれる場合には、背を支持体に傾動可能に支持させるとともに、前記背に肘を回転可能に付帯させ、この肘と前記支持体との間にカム及びフォロアからなるガイド機構を構成して、背の傾動に伴い肘の回転軸が支持体に対して相対移動した際に、フォロアをカムに係り合わせることによって背の傾動位置に応じて肘の使用角度を予め定めた所定角度に保持し得るように当該カムに所要の形状を付与しておけばよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明の椅子は、以上説明した構成であるから、肘を背に付帯させて背の傾動動作に肘を追従させ、かつカム及びフォロアからなるガイド機構によって背の傾きによらず肘を適切な角度に維持することができるので、背をリクライニングあるいはロッキングさせても肘を効果的に利用できる状態を有効に確保することができる。しかも、そのガイド機構も、カム及びフォロアの係り合いを利用したものであるから、少ない部品点数で極めて簡素かつ有効に本発明を実現することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
【0022】
この実施形態の椅子は、図1〜図4に示すように、固定背部1と、この固定背部1に沿って昇降可能な昇降部材2とを具備し、この昇降部材2に座3、背4及び肘100を支持させたものである。固定背部1には作動体51を有する単一のアクチュエータ5が取り付けてあり、その作動体51には剛体6を介して背4及び座3が関連づけられて、背4及び座3の昇降動作とリクライニング動作とを前記アクチュエータ5によって実現するようにしている。そして、その間、肘100と昇降部材2との間に設けたガイド機構200によって、肘100の使用角度を略一定に保ち得るようにしている。
【0023】
具体的に説明すると、固定背部1は、床等に左右に対をなして配置されるベース部11と、これらのベース部11の間を接続する接続部12と、この接続部12より立ち上がる門方の基枠13とを具備し、この基枠13の上部13aと接続部12との間にアクチュエータ5を構成するリニアガイド52を配置して、このリニアガイド52に沿って作動体51が昇降駆動されるようにしている。作動体51の側面には剛体6の上端部を取り付けるための取付穴51aが設けてある。図1及び図2において符合53で示すものは作動体51を駆動するモータである。
【0024】
昇降部材2は、固定背部1に沿って昇降可能な支持体7と、支持体7から前方へ突出する案内部8と、座3を取り付けた状態で前記案内部8に沿って前後スライド可能な移動体9とを備える。
【0025】
支持体7は、固定背部1の基枠13に対応する門形の背受枠からなるもので、左右の側枠部71,71間における所定高さ位置に横架材72を架け設している。また、上枠部73には、水平方向の軸孔74aを有するブラケット74が取り付けてある。
【0026】
案内部8は、固定背部1のベース部11に沿って左右の側枠部81を配置した座受枠からなるもので、この案内部8の座受枠は前記支持体7の背受枠とともにフレーム部材により一体的に構成されており、案内部8の左右の側枠部81の内面に長手方向に沿ってレール溝82を設け、このレール溝82の後端側に後述する移動体9の脱落を防止するストッパー83が設けられるようにしている。
【0027】
移動体9は、枠体状をなし、左右の側枠部91の外面に水平軸回りにローラ92を取り付けてなるもので、後枠部93には水平方向の軸孔94a、94bを有するブラケット94が後方に突出させた状態で取り付けてある。
【0028】
一方、背4は背面上部における左右両側縁近傍にブラケット41を後向きに突出させて設け、このブラケット41の側面に長孔41aを開口させるとともに、背面下部に部分チャネル状のブラケット42を後向きに取り付け、このブラケット42の下端に水平方向の軸孔42aを開口させている。
【0029】
剛体6は、上端部に水平方向の軸孔6aを有し、この軸孔6aを前記作動体51の取付穴51aに水平軸v1(図6〜図8参照)を介して回り得るように取り付けられるもので、上端部から屈曲して下方に延びる逆L字状をなし、その中間部に後方に角状に突出する突出部61を有し、下端部に水平方向の軸孔6bを開口させている。
【0030】
そして、図5に示すように、案内部8のレール溝82にその開口端から移動体9のローラ92を挿入して当該移動体9を案内部8にスライド可能に支持させ、前述したストッパー83(図3参照)により移動体9が案内部8から脱落することを防止するとともに、背4のブラケット41の長孔41a及び支持体2のブラケット74の軸孔74aに軸v2(図6〜図8参照)を挿し通して背4の上部を支持体2の上部に揺動可能に接続し、背4のブラケット42の軸孔42aと移動体9のブラケット94の軸孔94a、剛体6の下端部の軸孔6bと移動体9のブラケット94の軸孔94bをそれぞれ合致させて、これらに軸v31、v32を挿し通すことにより、背4の下部及び移動体9の後部を剛体6の下端部に連動して作動するように接続している。座3は上記作業の適宜の段階で移動体9の上面に固定する。
【0031】
以上のように組立てられる本実施形態の椅子は、図7の状態からアクチュエータ5の作動体51がリニアガイド52に沿って上昇すると、剛体6の中間部に設けた突出部61の上向面が支持体7の横架材72に係り合って下方からこれを持ち上げると同時に、剛体6の下端部が軸v32を介して移動体9を持ち上げ、この移動体9は案内部8にスライド可能に係り合っているため案内部8も持ち上げられ、結果的に昇降部材2全体が背4及び座3とともに固定背部1に沿って図7→図6に示すように上方に駆動される。
【0032】
一方、図6→図7のようにアクチュエータ5の作動体51が降下すると、昇降部材2全体が背4及び座3とともに降下し、作動体51が所定位置まで降下した際に昇降部材2の一部である案内部8に設けた図示しない移動体が固定背部1の接続部12に予め設けた別異のストッパ12a(図1参照)に突き当たってそれ以上の降下が禁止される。そして、昇降部材2が降下を停止した以降、引き続き作動体51が降下を続けると、剛体6に上端部を中心とした側面視右回りのモーメントが生じるので、これにより剛体6は上端部を降下させつつ下端部を前方に揺動させる動作に切り替わって、移動体9の後部を背4の下部とともに前方に押し出す方向に移動させ、このとき中間部の突出部61は支持体7の横架材72から離反していく。そして、結果的に図7→図8のように座3が前動し、背4が上部を長孔41a及び軸v2を介して支持体7に係り合ったまま下部が前動することにより全体として後傾して、リクライニング姿勢をとることになる。
【0033】
さらに、図8→図7のように作動体51が再び上昇すると、リクライニング姿勢から通常の姿勢まで座3が後動しかつ背4が起き上がった段階で再び図7→図6のように剛体6を介して背4及び座3が持ち上げられ、上昇動作が始まることとなる。
【0034】
そして、本実施形態は、上記の何れの作動位置においても肘100の使用角度を略一致に保つべく、図3、図4、図9及び図10等に示すように、支持体7に後傾可能に支持された背4に回転軸101を介して肘100を取り付けるとともに、肘100と支持体7との間にカム201x及びフォロア202xからなるガイド機構200を構成している。そして、図7→図8、図9(a)→図9(b)のように背4が後傾するに伴い肘100が支持体7に対して移動した場合に、フォロア202xがカム201xに予め付与した形状に沿って相対移動した先で添設することにより、肘100の回転軸101回りの回転をフォロア202xにより規制して、肘100の使用角度を略一定に保持し得るようにしている。
【0035】
具体的に説明すると、図3、図4、図6、図9、図10等に示すように、背4に設けた前記ブラケット41の下端側に軸受部41xを介して回転軸101を軸支させ、この回転軸101の外方端に肘100を一体回転可能に取り付けてなるもので、回転軸101の軸方向に沿った内方側の所定位置、つまり本実施形態では回転軸101の内方に、当該回転軸101に直交する面板部201aを有する板状のガイド部材201を一体回転可能に取り付けて、その面板部201aの上縁部を前記カム(カム面)201xとして設定している。一方、支持体7の側枠部71の前面における前記カム201xの対応位置には、当該側枠部71に取り付けたチャネル状の取付部材75を介して水平方向に軸状のフォロア202xが回転軸101に平行に突出させてあり、このフォロア202xの下縁に前記ガイド部材201のカム201xを添設させるようにしている。
【0036】
すなわち、肘100の自重がカム201xに作用する状況の下で、肘100が回転軸101とともに例えば図8において想像線の位置から実線の位置まで左回りに回転すると、所定位置でカム201xがフォロア202xに係り合ってそれ以上の回転軸101の回転を規制する関係にあり、このとき肘100が略水平な使用角度に保持されるようにしている。勿論、回転軸101に若干の抵抗が存する場合であっても、肘100に使用者の腕の荷重が加わればカム201xがフォロア202xに係り合う状態は自然と確保される。そして、これらのカム201x及びフォロア202xはその係り合う方向と反対方向に対しては非拘束状態にあり、カム201xがフォロア202xから離反しながら同図中実線位置より想像線の位置を経てさらに上方へ肘100の跳ね上げ動作を許容するものとなっている。
【0037】
このようなカム201xの形状を規定するにあたり、背4の後傾動作とフォロア202xの位置関係に着目すると、図7→図8、図9(a)→図9(b)のように背4が後傾するに伴い回転軸101が支持体7を基準にして前下方に移動すると、背4とともに移動する慣性系から見たとき、当初カム201xに接触していたフォロア202xが、初期位置から図11(a)に矢印で示すように次第に後上方へ上に凸となるように緩やかに湾曲しながら離間することとなる。したがって、このフォロア202xの移動軌跡に合致するように同図(b)に示すごとくガイド部材201上のカム201xの形状を後上方に向かって上に凸となるように緩やかに湾曲する形状にすれば、フォロア202xとカム201xが接触している限り、同図(c)→(d)に示すように、移動先の何れの位置においても肘100の使用角度は略一定(略水平)に保たれるものとなる。そして、背座が図7、図9(a)の通常位置から図8、図9(b)のリクライニング位置に移行することによって、肘100は全体的に前方に迫り出しつつやや沈んだ位置に保持されることとなる。
【0038】
また、この実施形態の椅子は、支持体7が背4及び座3を支持した状態で固定背部1に対して図7に示す降下位置と図6に示す上昇位置との間で昇降駆動されるのは前述したところであるが、かかる昇降動作と、カム201x及びフォロア202xからなるガイド機構200との間は縁が切れており、かつ昇降動作の間は回転軸101と支持体7との相対関係は変わらないため、昇降動作の間、カム201xをフォロア202xに係り合わせている限りにおいては肘100の使用角度は略一定に保たれることとなる。
【0039】
以上のように、この実施形態の椅子は、背4を支持体7に傾動可能に支持させるとともに、背4に肘100を回転可能に付帯させ、この肘100と支持体7との間にカム201x及びフォロア202xからなるガイド機構7を構成して、背4の傾動に伴い肘100の回転軸101が支持体7に対して相対移動した際に、フォロア202xをカム201xに係り合わせることによって背4の傾動位置によらず肘100の使用角度を略一定に保持し得るように当該カム201xに所要の形状を付与したものである。
【0040】
このように構成すると、肘100は背4に付帯されるので、傾動に伴って背4に肘100が追従する上に、背4の傾動位置が変わっても、カム201xとフォロア202xを係り合わせた状態にすればガイド機構7が肘100の使用角度を略一定に保つので、肘100を適切に利用できる状態を容易に得ることができる。しかも、肘100の使用角度を略一定に保持するための構成がカム201x及びフォロア202xを利用した簡素な機構で足りるので、背4の側方に複雑な機構が存することがなく、肘100からかけ離れた位置にて別異のハンドル操作を行うような操作上の不便さも解消することができる。
【0041】
具体的には、カム201xが肘100に付帯させたガイド部材201の縁部に設定され、フォロア202xが支持体7に固定したものであって、背4の傾動に伴いフォロア202xがガイド部材201に対して相対移動する軌跡に沿って、ガイド部材201のカム201xの形状を規定している。このように、ガイド部材201の縁部を利用すれば、切削や成形等によってカム201xの形状を自在に設定することができる。そのフォロア202xもピン状の形態のものにしているので、ガイド部材201の縁部に設定されたカム201xに沿ってスムーズに摺動させることができ、跳ね上げのためにカム201xをフォロア202xに係り合う側と反対側に向かって適切に解放しておくことも可能となる。
【0042】
特に、カム201xとフォロア202xは肘100に掛かる荷重によって互いに係り合う関係にあるため、肘100を載せるだけで適切なガイド機能が奏され、簡素な構造を通じて別段の操作を不要にすることができる。
【0043】
この場合、カム201xとフォロア202xは係り合う方向と反対方向に非拘束な状態にあり、離反しながら肘100の跳ね上げ動作を許容するものであるため、肘100を利用する際には荷重を掛ければ肘100がカム201xとフォロア202xが突き当る位置に保持されて使用角度を略一定に保たれ、肘100が邪魔になる場合、例えば上昇した座3から体を回転させて椅子から降りる場合などには、跳ね上げることによって邪魔にならない位置に有効に退避させることができる。
【0044】
また、構造的には、カム201xを有するガイド部材201を肘100の回転軸101方向に沿った所定位置に一体回転可能に設け、フォロア202xを支持体7側において前記ガイド部材201のカム201xに対応する部位に設けているため、回転軸101上、椅子の外観に極力現われず椅子の周辺機構とも干渉しない位置を選択して、当該回転軸101にガイド部材201を取り付け、支持体7の対応部位にフォロア202xを固定して、ガイド機構7を有効に構成することができる。
【0045】
さらに、ガイド部材201に回転軸101に直交する面板部201aを有する板状のものを採用し、その面板部201aの端面である上縁部にカム201xを設定して、その面板部201aと直交する方向から当該カム201xにフォロア202xを係り合わせているので、ガイド部材201の薄肉化が図れ、フォロア202xも面板部201aの厚み方向に係り合うものであればさほど大きなものは必要なくなるので、背4と支持体7の間の限られたスペースへの組み込みが一層容易になる。しかも、肘100の荷重は面板部201aに肉厚方向に作用するので、簡素であっても部材強度を利用して肘100の上載荷重を適切に支持することができる。
【0046】
また、この椅子は叙述したごとく、背4が支持体7に対して上端近傍部を上下移動可能に係り合わせた状態で下端側を前後に揺動させることにより背4の後傾及び座3の前動によるリクライニング動作を実現するものであり、その通常位置からリクライニング動作に伴って肘100の回転軸101が前下方へ移動する際、カム201xとフォロア202xからなるガイド機構7によって肘100の使用角度を略一定に保ちつつ、肘100全体を前下方へ移動させるようにしており、リクライニング動作に従って肘100が使用角度をほぼ一定に保ったままで前方に迫り出し、かつ高さが低くなるため、着座者の安息姿勢に適した肘100の状態を実現することができる。
【0047】
さらにまた、この椅子は叙述したごとく、支持体7が、背4及び座3を支持した状態で固定背部1に対して昇降駆動される状態と、固定背部1の降下端に保持されて背4の後傾及び座3の前動を支持する状態とをとり得るものであり、昇降駆動の間は背4の角度を一定に保ち、肘100と支持体7との相対位置を変化させないように構成しており、背4及び座3の高さが変わっても、肘100は支持体7との相対位置を変えずに追従して昇降するので、使用角度が一定に保たれ、着座者の立ち上がりを補助する機能を適正に担保することができる。
【0048】
なお、各部の具体的な構成は、上述した実施形態のみに限定されるものではない。
【0049】
例えば、カムをガイド部材の一部を打ち抜く等により形成した長孔状又は溝状のものとし、フォロアをそのカムに挿し通されるピン状のものにしてもよい。このように構成すると、肘の跳ね上げ効果は得られないものの、肘の使用状態を安定確実なものにすることができるので、体が思うように動かない者には肘を拠りどころにした安定な着座環境を与えることができる。
【0050】
また、上記実施形態とは逆の構成として、支持体側にカムを設定したガイド部材を固定し、背側にフォロアを設けて、このフォロアをガイド部材のカムに沿って移動させるように構成しても、上記実施形態に準じた作用効果が奏される。
【0051】
さらに、ガイド部材は必ずしも上記実施形態のような面板部を有する板状のものに限定されず、組み込み位置や周辺部材等との関係で種々の形状のものを採用することができる。
【0052】
さらにまた、本発明の適用対象は上記のようなリクライニング動作を行う座椅子タイプの椅子に限らず、支持体が静止したままで背が傾動するような椅子であれば、例えばロッキング動作を行うタイプの椅子等においても、支持体と背の間に本発明のガイド機構によりサポートされる肘を構成して同様の作用効果を奏することができる。
【0053】
以上を踏まえ、肘の角度が背の傾動位置に応じて変化する事の方が好ましい場合には、背を支持体に傾動可能に支持させるとともに、前記背に肘を回転可能に付帯させ、この肘と前記支持体との間にカム及びフォロアからなるガイド機構を構成して、背の傾動に伴い肘の回転軸が支持体に対して相対移動した際に、フォロアをカムに係り合わせることによって背の傾動位置に応じて肘の使用角度を予め定めた所定角度に保持し得るように当該カムに所要の形状を付与することにより、目的、用途に応じた適切な肘の使い勝手を得ることができる。この場合、上記実施形態を例に挙げれば、ガイド部材201のカム201xの形状を変えるだけで所望の肘の動作を容易に実現することが可能となる。
【0054】
その他の構成も、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の一実施形態に係る椅子を示す前方斜視図。
【図2】同実施形態の後方斜視図。
【図3】同実施形態の分解斜視図。
【図4】同実施形態の分解側面図。
【図5】同実施形態の部分平面図。
【図6】同実施形態の作動説明図。
【図7】同実施形態の作動説明図。
【図8】同実施形態の作動説明図。
【図9】同実施形態におけるガイド機構部分を示す部分斜視図。
【図10】同平面図。
【図11】同ガイド機構を構成するカムとフォロアの関係を示す図。
【符号の説明】
【0056】
1…固定背部
4…背
7…支持体
100…肘
101…回転軸
200…ガイド機構
201…ガイド部材
201a…面板部
201x…カム
202x…フォロア


【特許請求の範囲】
【請求項1】
背を支持体に傾動可能に支持させるとともに、前記背に肘を回転可能に付帯させ、この肘と前記支持体との間にカム及びフォロアからなるガイド機構を構成して、背の傾動に伴い肘の回転軸が支持体に対して相対移動した際に、フォロアをカムに係り合わせることによって背の傾動位置によらず肘の使用角度を略一定に保持し得るように当該カムに所要の形状を付与してなることを特徴とする椅子。
【請求項2】
カムが肘または支持体の何れか一方に付帯させたガイド部材の縁部に設定され、フォロアが他方に固定したものであって、背の傾動に伴いフォロアがガイド部材に対して相対移動する軌跡に沿って当該ガイド部材のカムの形状を規定している請求項1記載の椅子。
【請求項3】
カムとフォロアは係り合う方向と反対方向に非拘束状態にあり、離反しながら肘の跳ね上げ動作を許容するものである請求項1又は2記載の椅子。
【請求項4】
カムが肘または支持体の何れか一方に付帯させたガイド部材に形成してなる長孔状又は溝状のものであり、フォロアが他方に固定されて前記長孔又は溝に挿し通されて長手方向に沿って相対移動可能なピン状のものである請求項1記載の椅子。
【請求項5】
カムを有するガイド部材を肘の回転軸方向に沿った所定位置に一体回転可能に設け、フォロアを支持体側において前記ガイド部材のカムに対応する部位に設けている請求項2〜4記載の椅子。
【請求項6】
ガイド部材が回転軸に直交する面板部を有する板状のものであり、その面板部の端面若しくは断面の一部にカムを設定して、その面板部と直交する方向から当該カムにフォロアを係り合わせている請求項5記載の椅子。
【請求項7】
背が支持体に対して上端近傍部を上下移動可能に係り合わせた状態で下端側を前後に揺動させることにより背の後傾及び座の前動によるリクライニング動作を実現するものであり、その通常位置からリクライニング動作に伴って肘の回転軸が前下方へ移動する際、カムとフォロアからなるガイド機構によって肘の使用角度を略一定に保ちつつ、肘全体を前下方へ移動させるようにしている請求項5又は6記載の椅子。
【請求項8】
支持体が、背及び座を支持した状態で固定背部に対して昇降駆動される状態と、固定背部の降下端に保持されて背の後傾及び座の前動を支持する状態とをとり得るものであり、昇降駆動の間は背の角度を一定に保ち、肘と支持体との相対位置を変化させないように構成している請求項7記載の椅子。
【請求項9】
背を支持体に傾動可能に支持させるとともに、前記背に肘を回転可能に付帯させ、この肘と前記支持体との間にカム及びフォロアからなるガイド機構を構成して、背の傾動に伴い肘の回転軸が支持体に対して相対移動した際に、フォロアをカムに係り合わせることによって背の傾動位置に応じて肘の使用角度を予め定めた所定角度に保持し得るように当該カムに所要の形状を付与してなることを特徴とする椅子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−161405(P2008−161405A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−353712(P2006−353712)
【出願日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【出願人】(000001351)コクヨ株式会社 (961)
【出願人】(391006441)山田工業株式会社 (29)
【Fターム(参考)】