説明

植毛用パイルおよび植毛製品

【課題】繊維収縮を抑制し、手触り、立毛感に優れた植毛用パイルおよび植毛製品を提供する。
【解決手段】平均直径が0.3〜31.0μm、平均パイル長が0.1〜3.0mmのポリトリメチレンテレフタレート系芯鞘型複合繊維であり、芯成分にポリエチレンテレフタレート以外のポリエステル、鞘成分にポリトリメチレンテレフタレートを用いた植毛用パイル。前記芯と鞘の質量分率がそれぞれ50〜90%、10〜50%であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリトリメチレンテレフタレート系繊維を用いた植毛用パイルおよび植毛製品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、石油資源の大量消費によって生じる地球温暖化や、大量消費に伴う石油資源の枯渇が懸念されており、地球規模にて環境に対する意識が高まりつつある。このような背景において、環境負荷の低い材料が要望されている。
【0003】
以上のような要求特性を満足させるために、従来から使用されているポリアミドやポリプロピレン及びポリエチレンテレフタレートに代えて、ポリ乳酸やポリトリメチレンテレフタレート(PTT)を使用した布帛の検討がなされている。
【0004】
環境負荷の低い材料のなかでもポリトリメチレンテレフタレートは、初期引張抵抗度が低いことから、布帛とした際の風合いが柔らかく、繊維材料としても注目すべきものである。
【0005】
植毛製品用の繊維としてポリトリメチレンテレフタレートを用いた技術も開示されており、ポリトリメチレンテレフタレートを用いた植毛製品は、風合いがソフト、電気植毛製品の分散性に優れている等の効果があることが記載されている(例えば特許文献1参照)。
【0006】
しかしながら、当該技術では、植毛後のパイル外観の悪化や、手触りの悪化等の問題があった。
【0007】
一方で、特許文献2には、ポリトリメチレンテレフタレートとポリエチレンテレフタレートとの芯鞘複合繊維が開示されている。当該技術は、芯にポリエチレンテレフタレートポリマー、鞘にポリトリメチレンテレフタレートポリマーを用いた複合繊維が、織編物としたときの端部のカール性や熱セット性に関する記載はあるが、植毛用パイルへ適用に関しては触れられていない。
【特許文献1】特許第3179075号公報
【特許文献2】特開2008−69479号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、繊維収縮を抑制し、手触り、立毛感に優れた植毛用パイルおよび植毛製品を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明では、上記従来の方法では達成できなかった課題を解決するために鋭意検討した結果、平均直径が0.3〜31.0μm、平均パイル長が0.1〜3.0mmのポリトリメチレンテレフタレート系繊維を含む植毛用パイル、特に該ポリトリメチレンテレフタレート系繊維が、芯鞘型複合繊維であり、芯成分にポリエチレンテレフタレート、鞘成分にポリトリメチレンテレフタレートを用いた複合繊維とすることで、繊維収縮を抑制し、手触り、立毛感に優れた植毛用パイルおよび植毛製品が得られることを見いだした。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、繊維収縮を抑制し、手触り、立毛感に優れた植毛用パイルおよび植毛製品を得ることが出来るため、自動車内装材用途、インテリア資材用途に好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の植毛用パイルは、平均直径が0.3〜31.0μm、平均パイル長が0.1〜3.0mmのポリトリメチレンテレフタレート系繊維を含むものである。当該ポリトリメチレンテレフタレート系繊維は、芯鞘型複合繊維であり、ポリトリメチレンテレフタレート以外のポリエステルを芯成分に、ポリトリメチレンテレフタレート(以下、PTTと略記する。)を鞘成分に有する芯鞘複合繊維を含むことが好ましい。そうすることで、手触り、立毛感に優れた植毛用パイルおよび植毛製品を得ることができる。
【0012】
PTTとは、1,3−トリメチレングリコール成分と、テレフタル酸成分から構成される繰り返し単位(トリメチレンテレフタレート単位)を含むポリエステルであり、グリコール成分に炭素数3個のメチレン鎖を有することにより、伸長変形に対して結晶構造自身が伸縮するという特徴を有する。そのため、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETと略記する。)やポリブチレンテレフタレート(以下、PBTと略記する。)と比べても、極めてモジュラスが低く、弾性回復性が高い特徴を持つ。またPETと対比して、湿熱処理や、アルカリ処理などによる耐久性(強度保持率)は2〜4倍であり、芯鞘複合繊維の鞘成分として好適である。
【0013】
本発明においては、トリメチレンテレフタレート単位を構成する1,3−トリメチレングリコールとしては、バイオマス材料由来のものであることが、低環境負荷の点から好ましい。
【0014】
PTTは、トリメチレンテレフタレート単位以外に、他の成分を共重合していてもよいが、PTTの特徴を活かす上では、トリメチレンテレフタレート単位が90モル%以上であることが好ましく、より好ましくは92モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上である。
【0015】
PTTに共重合される成分として、ジカルボン酸成分としては例えば、イソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、4,4’ジフェニルジカルボン酸、4,4’ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’ジフェニルスルホンジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸成分や、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸、ダイマー酸、エイコサンジオン酸等の脂肪族ジカルボン酸成分等を用いることができる。
また、グリコール成分としては例えば、エチレングリコール、1,2−トリメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリアルキレングリコール、2,2’ビス(4’−β−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン等を用いることができる。これらの共重合成分は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0016】
また、芯鞘複合繊維の鞘成分は、目的に応じて、他のポリマー、粒子、難燃剤、帯電防止剤、抗酸化剤、紫外線吸収剤等の添加物を含有していてもよい。
【0017】
また、PTTには通常、2つのトリメチレンテレフタレートが環状に連結されたダイマー(以下、「環状ダイマー」と記載する。)が存在しうるが、PTT中の環状ダイマーの含有量としては3質量%以下が好ましく、より好ましくは2.5質量%以下、さらに好ましくは2質量%以下である。PTT中の環状ダイマーの含有量を3質量%以下に抑えることにより、PTTの耐加水分解性を向上させることができる。環状ダイマーと加水分解性との関係としては、環状ダイマーが加水分解によりトリメチレンテレフタレートモノマーとなり、当該モノマーによる触媒作用により、PTTの加水分解が促進されるものであると推測される。なお、環状ダイマーを低減する方法としては、重合触媒の最適化や、減圧下にて固相重合を行う方法が挙げられる。
【0018】
PTTの固有粘度としては、0.8〜2dl/gが好ましく、より好ましくは1〜1.8dl/g、さらに好ましくは1.2〜1.6dl/gである。0.8dl/g以上とすることで、PTTの分子配向が向上し、捲縮糸の弾性回復性、および弾性回復の堅牢度が向上する。一方、2dl/g以下とすることで、溶融紡糸時の急激な分子量低下を抑え、ポリマーの溶融流動の不安定化による複合紡糸の不安定化等を抑えることができる。
【0019】
PTTの固有粘度の測定法は、試料0.8gに、o−クロロフェノール(以下OCPと略記する)10mlを添加し、160℃、30分間で溶解した後、徐冷し測定溶液を得る。当該測定溶液について、25℃にてオストワルド粘度計を用いて、相対粘度ηを次式により求め、固有粘度を次々式により算出する。
η=η/η=(t×d)/(t×d
固有粘度=0.0242η+0.2634
ここに、η:測定溶液の粘度
η:OCPの粘度
t:溶液の落下時間(秒)
d:溶液の密度(g/cm
:OCPの落下時間(秒)
:OCPの密度(g/cm)。
【0020】
芯鞘複合繊維の鞘成分におけるPTTの含有量としては、50質量%以上であることが好ましく、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上である。
【0021】
本発明においてポリトリメチレンテレフタレート系繊維は、PTT以外のポリエステルを芯成分に有する芯鞘複合繊維であることが好ましい。そうすることで、ポリトリメチレンテレフタレート系繊維の収縮を抑え、植毛製品とした際の手触りや、風合いを向上させることができる。
【0022】
ポリエステルは、ジカルボン酸成分とグリコール成分とから構成される。
【0023】
芯成分に用いるPTT以外のポリエステルのジカルボン酸成分としては例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、4,4’ジフェニルジカルボン酸、4,4’ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’ジフェニルスルホンジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸成分や、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸、ダイマー酸、エイコサンジオン酸等の脂肪族ジカルボン酸成分等を用いることができる。これらのジカルボン酸成分は、1種類を単独で用いてもよいし2種以上を併用してもよい。
【0024】
また、グリコール成分としては例えば、エチレングリコール、1,3−トリメチレングリコール、1,2−トリメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリアルキレングリコール、2,2’ビス(4’−β−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン等を用いることができる。これらのグリコール成分は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0025】
ただし、結晶性が高く、寸法安定性の高いポリエステルほど遅延回復性を抑え易いことから、芯成分のPTT以外のポリエステルの90モル%以上が、1種類のジカルボン酸成分と、1種類のグリコール成分とからなる繰り返し単位で構成されることが好ましく、92モル%以上であることがより好ましく、95モル%以上であることがさらに好ましい。
【0026】
芯成分に用いるPTT以外のポリエステルの具体例としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)が、ポリトリメチレンテレフタレート系繊維の収縮を抑え、手触り、風合いに優れた植毛パイルを得る上で好ましい。
【0027】
芯成分に用いるPETとしては、エチレンテレフタレート単位以外に、他の成分を共重合していることも好ましい。エチレンテレフタレート単位のみからなるPETの融点は254℃とPTTの融点(230℃)よりも高く、PTTとの安定した複合紡糸や複合繊維の形成を達成する上で、PTTの溶融温度領域におけるPETの流動性を高めるためである。かかる共重合成分としては例えば、イソフタル酸やビスフェノールA等を挙げることができる。共重合量としては、PETの流動性を高める上では、0.1モル%以上であることが好ましい。一方、PTTの遅延回復を抑える上では、10モル%以下とすることが好ましい。
【0028】
PETの固有粘度としては、0.4〜0.6dl/gが好ましく、より好ましくは0.43〜0.56dl/g、さらに好ましくは0.46〜0.53dl/gである。0.6dl/g以下とすることで、PTTとの安定した複合紡糸や複合繊維の形成を達成することができる。一方、0.4dl/g以上とすることで、耐熱性、強度、耐加水分解性等を維持することができる。
【0029】
PETの固有粘度の測定法は、試料0.8gに、o−クロロフェノール(以下OCPと略記する)10mlを添加し、160℃、30分間で溶解した後、徐冷し測定溶液を得る。当該測定溶液について、25℃にてオストワルド粘度計を用いて、相対粘度ηを次式により求め、固有粘度を次々式により算出する。
η=η/η=(t×d)/(t×d
固有粘度=0.0242η+0.2634
ここに、η:測定溶液の粘度
η:OCPの粘度
t:溶液の落下時間(秒)
d:溶液の密度(g/cm
:OCPの落下時間(秒)
:OCPの密度(g/cm)。
【0030】
本発明に用いる芯鞘複合繊維の質量分率は、芯に用いるPETが10〜50質量%、鞘に用いるPTTが50〜90質量%であることが好ましい。PTTの質量分率が50%以下であると、PTT繊維特有の手触り、発色性を得ることができない。また、90質量%以上であると繊維の収縮が大きくなり、植毛用パイルとしての手触り、起毛感が悪くなる。
【0031】
本発明において、ポリトリメチレンテレフタレート系繊維の横断面の断面形状としては、丸断面、中空断面、多孔中空断面、三葉断面(三角断面、Y断面、T断面など)や四葉断面(X断面)等の多葉断面、扁平断面、W断面等を採用することが可能である。
【0032】
ただし、ポリトリメチレンテレフタレート系繊維の横断面の異形度は3.0以下であることが好ましく、より好ましくは2.5以下である。異形度を3.0以下とすることで、表面の平滑性に優れ、ソフトタッチで低刺激性の植毛用パイルを得ることができる。一方、植毛用パイルとしたときの布帛光沢感を得る上では、1.1以上とすることが好ましい。ここで、異形度は、横断面における内接円の径に対する外接円の径の比で表される。
【0033】
ポリトリメチレンテレフタレート系繊維の単繊維の平均直径としては、0.3〜31.0μmであることが必要である。0.3μm以上とすることで、植毛製品使用時の毛倒れを抑えることができる。また、31.0μm以下とすることで、風合いが硬くなるのを抑えることができる。
【0034】
平均直径の測定方法は、次のとおりである。すなわち、植毛製品の表面を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察して、500倍に拡大し、縦150μm、横200μmの視野の中から、面内のパイル本数が30を超える場合にはn数30を無作為に抽出し、パイル一つ一つの横断を画像解析ソフトウェアにて測定し、当該面積から、真円換算にて直径を小数点1桁まで(単位:μm)算出し、n数30の平均直径を算出する。
【0035】
本発明の植毛用パイルに用いるポリトリメチレンテレフタレート系繊維は、捲縮加工されていることも好ましい。捲縮加工する方法としては、例えば仮撚加工によるもの、スタッフィングボックス法、押し込み加熱ギア法、高速エアー噴射押し込み法等のいずれの方法でもよい。仮撚加工の方法としては、ピン、フリクション、ニップベルト、エアー加撚等いずれの方法でもよい。加熱ヒーターは、接触式、非接触式いずれでもよい。
【0036】
本発明の植毛用パイルに用いるポリトリメチレンテレフタレート系繊維は、160℃の乾熱処理による放縮率が0.7〜1.2%であることが好ましい。より好ましくは、0.9〜1.2%である。0.7%以上とすることで、植毛用パイルとしての優れた触感を得ることができる。また1.2%以下とすることで、繊維が過剰に収縮することを抑制し、手触り、起毛感に優れた植毛用パイルを得ることができる。0.7%以下となると、PTT繊維特有の手触り、発色性を得ることができず、1.2%以上となると、繊維が過剰に収縮することから、手触り、起毛感が悪くなる。ポリトリメチレンテレフタレート系繊維の放縮率を0.7〜1.2%とするための具体的な方法の1つは、前述の芯鞘複合繊維とすることである。特に、芯成分にポリトリメチレンテレフタレート以外のポリエステル、鞘成分にポリトリメチレンテレフタレートを用いた芯鞘複合繊維とし、さらにそれぞれの成分の固有粘度を調整することで、所望する放縮率のポリトリメチレンテレフタレート系繊維とすることができる。
【0037】
なお、放縮率は以下の方法で測定したものをいう。すなわち、糸を1m×10回のかせに取り、そのかせに、9.1×10−3cN/dtexの荷重を掛け、初期かせ長(L)を測定する。次に、9.1×10−3cN/dtexの荷重を掛けた状態で160℃、15分の乾熱処理を行い、乾熱処理直後(30秒以内)の荷重を掛けた状態でのかせ長(L)を測定する。次いで、荷重を4.6×10−3cN/dtexに換え、20℃で30分放置した後、かせ長(L)を測定する。そして次式により放縮率をもとめ、n数5の平均値を算出する。
放縮率(%)={(L−L)/L}×100
ここに、L:初期のかせ長(mm)
:乾熱処理直後のかせ長(mm)
:20℃で30分放置後のかせ長(mm)。
【0038】
この放縮率は、PET繊維では0.3%程度の値、従来の3GT繊維では1.7〜2.0%程度の値である。
【0039】
本発明の植毛用パイルの平均パイル長は、0.1〜3.0mmとすることが必要である。平均パイル長を0.1mm以上とすることで植毛製品の手触り、表面品位の良好なものとすることができ、3.0mm以下とすることで植毛製品としての耐毛倒れ性の悪化や手触りの悪化を防ぐことができる。さらに、平均パイル長を2.0mm以下とすることで、自動車内装用として好適な表面品位の植毛製品を得ることができる。
【0040】
なお、平均パイル長は、カット後のパイルを拡大鏡にて拡大し、その長さを小数点1桁まで(単位:mm)測定し、200本の平均値を算出したものをいう。
【0041】
本発明の植毛用パイルは、特に静電植毛に用いることを考慮し、表面抵抗値が10〜1010Ω・cmの範囲にあることが好ましい。当該範囲内の表面抵抗値とすることで、集合している短繊維の分散性、飛翔性を良好なものとすることができる。当該範囲内の表面抵抗値は例えば、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム等のケイ素化合物や、ギ酸カリウム、酢酸カリウム等の相溶性カリウム化合物の処理液での電着処理により達成することができる。
【0042】
電着処理とは、繊維表面の抵抗値を静電植毛を行う上で適切な抵抗値に処理する工程である。
【0043】
また、本発明の植毛用パイルは、タンニン化合物を表面に付着させる処理を行うことで、風合いが良好な植毛パイルを得ることができる。
【0044】
本発明の植毛用パイルを植毛加工に供するに先立って、メッシュに入れて通過させ、紡糸工程にて融着した繊維や規定長よりも長い繊維を取り除くことが、均一な植毛により植毛製品の表面品位を向上させる上で好ましい。
【0045】
本発明の植毛用パイルは、植毛製品としたときの、キセノンアーク灯に対する染色堅牢度試験による変退色(以下、耐光堅牢度と略記する)が3級以上であることが好ましい。3級以下の場合、植毛製品にした場合の耐光性に劣るため、実用的には使用することが難しい。芯成分にポリトリメチレンテレフタレート以外のポリエステル、鞘成分にポリトリメチレンテレフタレートを用いたポリトリメチレンテレフタレート系芯鞘型複合繊維を使用することによって、植毛製品としたときの耐光堅牢度を3級以上とすることができる。耐光堅牢度を3級以上にするためには、例えば、アントラキノン骨格を持つ高耐光堅牢度の分散染料を選択し、ベンゾトリアゾール系の耐光向上剤を1〜5%owf用いるとよい。
【0046】
なお、耐光堅牢度の測定法は、以下の方法で測定したものをいう。すなわち、植毛用パイルをポリプロピレン基材(厚み0.5mm)にプライマ(トルエン92%、塩素化PP2%、アクリル樹脂5%含有)を処理し、80℃、30分間乾燥させる。その後、当該基材にアクリル系エマルジョン接着剤を塗布し、上記で得られたパイルに3万Vの電圧をかけ、アップ法にて静電植毛し、80℃、30分間乾燥させ、得られた植毛製品をJIS L 0843 B法 B−6(明暗法) 放射照度150W/mにより、試験を行う。試験後のサンプルを2時間以上暗所に放置した後、JIS L 0804に規定の変退色用グレースケールを用い、サンプルの変退色を視感により比較判定する。測定用の光源は、JIS L 0801の9.(1)によって行う。
【0047】
本発明の植毛用パイルは、静電植毛、散布植毛、吹き付け植毛等の各種植毛加工に用いることができる。そのなかでも、本発明においては静電植毛に用いることが好ましい。静電植毛は、電極間に高電圧の静電界を発生させ、一方の電極側に接着剤を塗布した基材を配置し、植毛用パイルに電荷を与えて反対側の電極から基布に向かって飛ばして植毛するものである。
【0048】
植毛対象となる基材の材料や形状としては、例えば、樹脂材料、木質材料、紙、金属材料、セラミックスまたはこれらの複合材料を用いた成型体、布状体等を挙げることができる。上記樹脂材料としては、例えば、ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、AS樹脂、AAS樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、メタクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂等を用いることができる。
【0049】
また、このような基材にパイルを固定するための接着剤としては、エポキシ系、メラミン系、アクリル系、ウレタン系、ポリエステル系、酢酸ビニル系、合成ゴム系等の接着剤を用いることができる。
【0050】
特に、アクリル系、ポリエステル系接着剤は、乾燥温度が低いこと、接着強力の観点から好ましく用いることができる。
【0051】
本発明の植毛製品は、ピラーガニッシュやピラーヒーターガード等の自動車内装材、椅子貼り、装飾品等のインテリア資材に好適に用いることができる。
【実施例】
【0052】
以下に、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0053】
[測定方法]
(1)160℃乾熱処理後の放縮率
糸を1m×10回のかせに取り、そのかせに、9.1×10−3cN/dtexの荷重を掛け、初期かせ長(L)を測定した。次に、9.1×10−3cN/dtexの荷重を掛けた状態で160℃、15分の乾熱処理を行い、乾熱処理直後(30秒以内)の荷重を掛けた状態でのかせ長(L)を測定した。次いで、荷重を4.6×10−3cN/dtexに換え、20℃で30分放置した後、かせ長(L)を測定した。そして次式により放縮率をもとめ、n数5の平均値を算出した。
放縮率(%)={(L−L)/L}×100
ここに、L:初期のかせ長(mm)
:乾熱処理直後のかせ長(mm)
:20℃で30分放置後のかせ長(mm)。
【0054】
(2)平均パイル長
カット後のパイルを拡大鏡(Nikon社製PROFILE PROJECTOR V−12)にて拡大し、その長さを小数点1桁まで(単位:mm)測定し、200本(n数200)の平均値を算出した。
【0055】
(3)パイル繊度
JIS L 1015:1999 8.5.1 b)(B法)に準じて繊度を測定した。パイル200本を一組とし、その質量を量り、上記で測定した平均パイル長から、次の式によって繊度(dtex)を求め、5回の平均値を算出した。
F=10000×M÷(200×L)
ここに、F:繊度(dtex)
M:試料の質量(mg)
L:平均パイル長。
【0056】
(4)パイル平均直径
植毛製品の表面を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察して、500倍に拡大し、縦150μm、横200μmの視野の中から、面内のパイル本数が30を超える場合にはn数30を無作為に抽出し、パイル一つ一つの横断を画像解析ソフトウェアにて測定し、当該面積から、真円換算にて直径を小数点1桁まで(単位:μm)算出し、n数30の平均直径を算出した。
【0057】
(5)耐光堅牢度
得られた植毛用パイルを基材(ポリプロピレン樹脂、厚み0.5mm)にプライマ(トルエン92%、塩素化PP2%、アクリル樹脂5%含有)を処理し、80℃、30分間乾燥させた。その後、当該基材にアクリル系エマルジョン接着剤を塗布し、上記で得られたパイルに3万Vの電圧をかけ、アップ法にて静電植毛し、80℃、30分間乾燥させ、得られた植毛製品をJIS L 0843 B法 B−6(明暗法) 放射照度150W/mにより、試験を行った。試験後のサンプルを2時間以上暗所に放置した後、JIS L 0804に規定の変退色用グレースケールを用い、サンプルの変退色を視感により比較判定した。測定用の光源は、JIS L 0801の9.(1)によって行った。
【0058】
(6)手触り
試料の手触りは、10人のパネラーにより評価した結果、5人以上が柔軟であると感じた場合を◎、柔軟であると感じた人が3〜4人の場合を△、柔軟であると感じた人が2人以下の場合を×とし、◎は実用範囲、△および×は実用範囲外とした。
【0059】
(7)立毛感
試料の立毛感は、10人のパネラーにより評価した結果、5人以上が植毛製品の表面の質感が優れている感じた場合を◎、表面の質感が優れていると感じた人が3〜4人の場合を△、表面の質感が優れていると感じた人が2人以下の場合を×とし、◎は実用範囲、△および×は実用範囲外とした。
【0060】
(8)発色性
試料の立毛感は、10人のパネラーにより評価した結果、5人以上が植毛製品の色の発色が優れている感じた場合を◎、色の発色が優れていると感じた人が3〜4人の場合を△、色の発色が優れていると感じた人が2人以下の場合を×とし、◎は実用範囲、△および×は実用範囲外とした。
【0061】
(9)総合評価
上記(6)〜(8)の評価において、3つ以上◎のものを◎、2以上◎のものを○、それ以下のものを△とした。
【0062】
[実施例1、2、3]
(複合繊維糸)
(鞘成分)
固有粘度1.5g/dlのPTTを鞘成分として用いた。
【0063】
(芯成分)
固有粘度0.5g/dlのPETを芯成分として用いた。
【0064】
(複合紡糸)
上記鞘成分および上記芯成分を表1に記載の質量分率(実施例1はPTT/PET=70/30、実施例2はPTT/PET=60/40、実施例3はPTT/PET=50/50)で溶融紡糸機に供給し、口金内で単芯の芯鞘構造に複合させ、紡糸温度270℃で繊維状に吐出させた。
【0065】
吐出された繊維状のポリマーをチムニー風により冷却固化し、油剤液を付与し、ロール回転速度1600m/分、ロール温度55℃で引いた。糸条を巻き取ることなく引き続いて、ロール回転速度4200m/分、ロール温度150℃で延伸を行い、引き続いてロール回転速度3990m/分、ロール温度150℃でリラックス熱処理を行い、フィラメント数48、総繊度84dtexの芯鞘複合繊維糸を得た。
【0066】
(パイルカット)
得られた芯鞘複合繊維をカセにて100mに巻き取り、をギロチンカッターにて1.0mmにカットした。
【0067】
(染色・電着処理)
得られた短繊維をアントラキノン系分散染料(Dister dianix Red kiss-U(R) 0.05%owf、Dister dianix Blue GL-FS(R) 0.14owf、Dister dianix YellowAM-2R(R) 0.14%owf)、耐光向上剤(cibafast P 1%owf)で昇温速度2℃/分、120℃、30分間処理し、湯洗い後、コロイダルシリカ分散液で処理し、パイル長1.0mm、パイル繊度1.7dtexの植毛用パイルを得た。
【0068】
(植毛)
ポリオレフィン基材にプライマ(トルエン92%、塩素化PP2%、アクリル樹脂5%含有)を処理し、80℃、30分間乾燥させた。その後、当該基材にアクリル系エマルジョン接着剤を塗布し、上記で得られたパイルに3万Vの電圧をかけ、アップ法にて静電植毛し、80℃、30分間乾燥させた。
【0069】
得られた植毛製品は、耐光堅牢度3.5級、手触り、立毛感、発色性に優れたものであった。
【0070】
[実施例4]
(複合繊維糸)
(鞘成分)
固有粘度1.5g/dlのPTTを鞘成分として用いた。
【0071】
(芯成分)
固有粘度0.5g/dlのPETを芯成分として用いた。
【0072】
(複合紡糸)
上記鞘成分および上記芯成分を表1に記載の質量分率(PTT/PET=70/30)で溶融紡糸機に供給し、口金内で単芯の芯鞘構造に複合させ、紡糸温度270℃で繊維状に吐出させた。
【0073】
吐出された繊維状のポリマーをチムニー風により冷却固化し、油剤液を付与し、ロール回転速度1600m/分、ロール温度55℃で引いた。糸条を巻き取ることなく引き続いて、ロール回転速度4200m/分、ロール温度150℃で延伸を行い、引き続いてロール回転速度3990m/分、ロール温度150℃でリラックス熱処理を行い、フィラメント数60、総繊度84dtexの芯鞘複合繊維糸を得た。
【0074】
得られた複合繊維を実施例1、2と同様の方法を用い植毛製品を得た。
【0075】
[実施例5]
(複合繊維糸)
(鞘成分)
固有粘度1.5g/dlのPTTを鞘成分として用いた。
【0076】
(芯成分)
固有粘度0.5g/dlのPETを芯成分として用いた。
【0077】
(複合紡糸)
上記鞘成分および上記芯成分を表1に記載の質量分率(PTT/PET=70/30)で溶融紡糸機に供給し、口金内で単芯の芯鞘構造に複合させ、紡糸温度270℃で繊維状に吐出させた。
【0078】
吐出された繊維状のポリマーをチムニー風により冷却固化し、油剤液を付与し、ロール回転速度1600m/分、ロール温度55℃で引いた。糸条を巻き取ることなく引き続いて、ロール回転速度4200m/分、ロール温度150℃で延伸を行い、引き続いてロール回転速度3990m/分、ロール温度150℃でリラックス熱処理を行い、フィラメント数48、総繊度56dtexの芯鞘複合繊維糸を得た。
【0079】
得られた複合繊維を実施例1、2と同様の方法を用い植毛製品を得た。
【0080】
[比較例1]
公知の方法より得られた、ポリトリメチレンテレフタレート繊維(フィラメント数48、総繊度84dtex)を用い、実施例1〜4と同様の方法を用い植毛製品を得た。
【0081】
得られた植毛製品は、実施例1〜4と比較して、耐光堅牢度は3.5級であり、手触り、立毛感に劣るものであった。
【0082】
[比較例2]
公知の方法より得られた、ポリエチレンテレフタレート繊維(フィラメント数48、総繊度84dtex)を用い、実施例1〜4と同様の方法を用い植毛製品を得た。
【0083】
得られた植毛製品は、実施例1〜4と比較して、耐光堅牢度は3.5級であり、手触り、立毛感に劣るものであった。
【0084】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明の植毛用パイルおよび植毛製品は、自動車内装材用途、インテリア資材用途に好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均直径が0.3〜31.0μm、平均パイル長が0.1〜3.0mmのポリトリメチレンテレフタレート系芯鞘型複合繊維であり、芯成分にポリトリメチレンテレフタレート以外のポリエステル、鞘成分にポリトリメチレンテレフタレートを用いることを特徴とする植毛用パイル。
【請求項2】
前記芯鞘型複合繊維が、ポリトリメチレンテレフタレートの質量が分率50〜90質量%、トリメチレンテレフタレート以外のポリエステルの質量が分率10〜50質量%の芯鞘複合繊維であることを特徴とする請求項1に記載の植毛用パイル。
【請求項3】
植毛製品としたときのJIS L 0843 キセノンアーク灯に対する染色堅牢度試験方法 B法、B−6における変退色が3級以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の植毛用パイル。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の植毛用パイルを含んでなることを特徴とする植毛製品。

【公開番号】特開2010−18913(P2010−18913A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−181096(P2008−181096)
【出願日】平成20年7月11日(2008.7.11)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】