説明

植毛金属板、植毛金属板の製造方法、屋根材及び空調設備用ダクト

【課題】親水性を有し、且つ保水性、吸水性に優れた植毛金属板および植毛金属板の製造方法を提供する。
【解決手段】金属板又は表面処理金属板の少なくとも片面に形成した合成樹脂接着剤層に短繊維を短繊維群として植設して植毛層として形成した植毛金属板において、前記合成樹脂接着剤層を親水性を有する合成樹脂接着剤層とするとともに、該合成樹脂接着剤層に植設した短繊維を親水性処理を施した短繊維とし、該合成樹脂接着剤層に該短繊維を可及的に高濃密度状態の短繊維群として植設した植毛層とすることで、該植毛層を親水性、保水性、吸水性を発揮する植毛層とした植毛金属板を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建造物の金属製屋根・庇、建造物内の天井・壁パネル、建造物内部空間に配設される空調ダクト等を作る建築用材料、或いは建築用材料以外の工作物材料として使われる植毛金属板及びその植毛金属板の製造方法、屋根材及び空調設備用ダクトに関する。
【背景技術】
【0002】
金属板面に形成した合成樹脂接着剤層に短繊維を植毛密度を濃密な状態で植設した短繊維群から成る植毛層を形成した建築用材料として使用される植毛金属板についての先行技術を調査した結果、基板を鋼板とし、該基板を除錆処理し、該基板に直接に特殊調合を行った合成樹脂接着剤を以て短繊維植設層である合成樹脂接着剤層を形成し、該層に非金属繊維群を植設して植毛層とした建築用材料が開示されている(例えば特許文献1参照)。また、基板を鋼板とし、該基板をクロム酸等で処理を施し、該鋼板に短繊維植設層である合成樹脂接着剤層を直接に形成するのではなくして、クロム酸等で処理した鋼板面にプライマー層を介在させて特殊調合を行った合成樹脂接着剤を以て短繊維植設層である合成樹脂接着剤層を形成して、該層に短繊維群を濃密状態で植設して植毛層とした建築用材料が開示されている(例えば特許文献2参照)。
【0003】
特許文献1では、基板に合成樹脂接着剤を塗布するのにスプレー塗装等で合成樹脂接着剤を塗布しているので、短繊維植設層である合成樹脂接着剤層の粘度が低く金属板面と短繊維植設層である合成樹脂接着剤層並びに該層と該層に植毛された短繊維の接着強度が弱化するという問題がある。特許文献2では、プライマー層が必要なので、プライマー塗装、及びその乾燥設備が必要なので、製造コストが高くなる。
本発明の発明者は、先に、特許文献2に示された刊行物に開示された技術とは異なり、表面処理鋼板にプライマー層を介在させることなく、直接に短繊維植設層である合成樹脂接着剤層を形成し、該層に短繊維を濃密状態の短繊維群として植え付けして植毛層とした建築用材料とする植毛鋼板について出願した(例えば特許文献3〜4参照)。
【0004】
ところで、建築用材料である植毛金属板を建造物の金属製屋根や庇として使うときは、植毛金属板の植毛層を形成されていない面を外側(上面)に向け、植毛層を形成された面を内側(下面)に向けて配して構成する。この金属製屋根や庇を、前記先行技術を実施した建築用材料から成る植毛金属板で作ったときは、その金属製屋根材や庇材である前記建築用材料から成る植毛金属板は天候変化による自然現象、特に冬期の晴天に日の明方による放射冷却現象(周囲の外気温と植毛金属板とでは5〜6℃の温度差が生じる現象)によって、植毛金属板の内外面側に結露が生じる。前記先行技術を実施した建築用材料である植毛金属板の植毛層は、本来親水性を配慮しない合成樹脂接着剤を以って短繊維植設層である合成樹脂接着剤層を作り、該層に植設する短繊維も本来親水性を配慮しないものを以て該層に短繊維群として植設して植毛層としたものである。
【0005】
即ち、従来技術で作った植毛金属板は、短繊維植設層である合成樹脂接着剤層、並びにこれに短繊維を濃密状態の短繊維群として植設する短繊維から成る植毛層について生じた結露に対して、結露滴下を阻止する手段について何等の配慮がなされていなかった。従って、従来技術で作った植毛金属板で屋根を作製した場合、この植毛金属板の植毛層に生じた結露が短繊維群の先端から雫として落下し、その雫によって、屋根の下に居る人や、屋根下に置いた商品は水に濡れ、被服を汚したり、商品価値の下落を来たすことがあるという不都合を生じたりしていた。特に物品は水びたしにならないまでも少しの水漏れにより湿気を含んだときは、商品価値を阻害する等の不都合を生じることがある。
【0006】
また、前記植毛層に雨水や雪解け水が滲み込んだときも前記したと同じような現象を生じた。
【0007】
更に、従来の植毛金属板で作った空調設備用ダクトでは、空調設備の使用開始時などにダクト外面を構成する植毛金属板の植毛層に結露が生じる。この結露が水滴となって落下すると、下にいる人や、下に放置した商品等は、水滴落下により衣服が汚れたり、商品価値の下落を来たす等の不都合を生じると言う問題があった。
【0008】
本発明者は、植毛金属板の植毛層に生じた結露や、該植毛層に滲み込んだ雨水や雪解け水が植毛層を形成する短繊維群の先端から落下しないようにするためには、短繊維植設層である合成樹脂接着剤層並びに該層に短繊維群として植設した短繊維から成る植毛層に親水性を持たせることによって保水性を発揮する構成とすることが必要であると考えた。そのためには、植毛金属板に形成される植毛層を構成する短繊維植設層である合成樹脂接着剤層並びに、該層に植え付けられる短繊維、更にその短繊維による短繊維群の植毛状態等について特別の工夫を施すことが必要であると考えた。
【0009】
即ち、植毛層について、植毛層を形成するための短繊維植毛層である合成樹脂接着剤層、並びに植設する短繊維に特別の工夫を施すことの他に、植毛層に働く毛細管現象を最大限有効に発揮するような植毛状態で短繊維群を形成する必要があると考えた。
【0010】
特許文献5には、静電植毛室の植毛加工物の移送通路に沿って第1の電極と第2の電極の2つの電極を配置し、第1の電極には強い高圧静電気を、第2の電極には第1の電極よりも弱い高圧静電気を印加して、静電植毛室を通過するワークに対して植毛密度を向上させる技術が開示されている。しかし同文献には、静電植毛室を通過する長尺の金属板であるワークを以って本発明にかかる植毛金属板の植毛層を親水性・保水性・吸水性機能を発揮させる構成とすることの技術に関しての記載はなかった。
【0011】
更に、植毛金属板を作る上で、金属板に形成された短繊維植毛層である合成樹脂接着層に短繊維を静電植毛法によって植毛した後、乾燥温度を調整することが、植毛金属板に形成された植毛層の保水性、吸水性あるいは疎水性に影響を与えるということを認識するに至った。
【0012】
本出願に関する先行技術文献情報として次のものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平5−138813号公報
【特許文献2】特公昭62−27864号公報
【特許文献3】特許第2956033号公報
【特許文献4】特許第3001451号公報
【特許文献5】特開2001−46923
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明が解決しようとする課題は、植毛金属板の植毛層について、これまでの植毛金属板の植毛層に生じる不都合を解消する植毛層とし、植毛金属板に形成する短繊維植設層である合成樹脂接着剤層と該層に植設した短繊維の短繊維群で形成する植毛層を、親水性をもち、且つ毛細管現象を最大限発揮する植毛層とし、この植毛層を以って親水性、保水性、吸水性を発揮させる機能をもった植毛層とすることにより、該植毛金属板で屋根,庇あるいは空調ダクトを作ったとき、該植毛金属板の植毛層に生じる結露の滴下を防止し、或いは、屋根材として使用した植毛金属板の植毛層に滲み込んだ雨水や雪解け水を該植毛層からの水滴として落下するのを防止して、該植毛金属板で作った屋根,庇下或いはダクト下に居る人の着ている衣服や、屋根、庇或いはダクト下に置いた商品が落下する水滴で水濡れしたり、或いは湿気を含んだりする不都合をなくす植毛層とした植毛金属板を提供し、その製法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、金属板又は表面処理金属板に形成する短繊維植設層である合成樹脂接着剤層を親水性のものとし、更に、該層に植設する短繊維は、親水性を付与させた短繊維とし、その短繊維を高濃密度な状態で植設した短繊維群から成る親水性を有し、保水、吸水機能を発揮する植毛層を形成することにより、温度差により生じた結露、或いは、該植毛層に滲み込んだ雨水や雪解け水が該植毛層から水滴として落下する現象が起きないような植毛金属板を提供することを目的とする。
【0016】
本発明の課題を解決するための手段として、本発明の植毛金属板は、金属板又は表面処理金属板の少なくとも片面に形成した合成樹脂接着剤層に、短繊維を短繊維群として植設して成る植毛層として形成した植毛金属板において、前記合成樹脂接着剤層を親水性を有する合成樹脂接着剤層とし、該合成樹脂接着剤層に植設した短繊維を親水性処理を施した短繊維とし、該合成樹脂接着剤層に
該短繊維の高濃密度状態を72〜100g/mの短繊維群として植設した植毛層とするとともに、該植毛層を親水性、保水性、吸水性を発揮する植毛層として形成したことを特徴としている(請求項1)。
前記親水性処理を施した短繊維は、表面にAl、Ti、Zr、Si,Cr,Ni,Zn,Sn、Mn、Cu、Co、Fe、Mg、Caの酸化物または水和酸化物、あるいはこれらを混合した化合物が被覆されていることを特徴としている(請求項2)。
前記親水性処理を施した短繊維は、表面にポリシロキサンあるいは無機シロキサン系化合物を含んだ膜が被覆されていることを特徴としている(請求項3)。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る植毛金属板は、金属板又は表面処理金属板に形成した親水性を備えた短繊維植設層である合成樹脂接着剤層に、親水性処理を施した短繊維を植毛密度を高濃密度とした短繊維群として植毛し、これによって毛細管現象を十分に発揮する植毛層とすることにより、これを以って作った屋根、庇やダクトの植毛層に温度差による結露が生じたとき、或いは植毛層が雨水や雪解け水を滲み込ませるなど何等かの原因で水漏れを生じたときでも、前記植毛層が親水性、保水性、吸水性機能を発揮して、その結露等を植毛層から滴下するのを阻止する機能を果す。
その短繊維群は、紫外線遮断機能を発揮するので、合成樹脂接着剤層の劣化を防ぐ機能を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は植毛金属板の乾燥温度と短繊維の表面変化との関係を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の植毛金属板は、次の通りの構成とする。金属板又は表面処理金属板に形成された短繊維植設層である合成樹脂接着剤層について親水性を有するものとする。該層に植設される短繊維に対して吸湿性処理を十分に施すことで親水性処理が施された短繊維とする。その短繊維を静電植毛法により植毛密度を高濃密度の短繊維群として植設し、短繊維群の植設間隔を強力な毛細管現象を発揮する植毛層として構成すると言う構成とすることにより、その植毛層が親水性のものとし、これが親水性、保水性、吸水性を発揮させる植毛層とすると言うものである。この植毛層は、これまでの植毛金属板の植毛層とは、発想を異にする新規性を有し、且つ進歩性を有する植毛層である。本発明の植毛金属板は、短繊維植毛層である合成樹脂接着剤層を構成する材料の選択、前記した層に植毛される短繊維の選択、前記短繊維の表面を親水性にするための手段、前記した層に植設される前記短繊維による短繊維群を高濃密度に植毛する手段、前記短繊維植設層を形成する合成樹脂接着層に植設された前記短繊維から成る短繊維群を植設した植毛層を乾燥する時の加熱乾燥温度の選択が重要な要素となる。
以下、本発明を実施するに当り、重要な要素である材料、手段について説明する。
【0020】
(金属板について)
本発明において用いる金属板の厚み並びに金属板の種類は特に限定しない。しかし、本発明は、巻き解し機に装填されたコイル状に巻かれた長尺の金属板を巻き解きながら、該金属板面に所望の形式で合成樹脂接着剤層を形成する接着剤塗布工程を経て、接着剤層を形成し、静電植毛法によりその接着剤層に短繊維群を密植状態で植え付けする作業を行った後、加熱乾燥、冷却を行いながら植毛金属板としてコイル状にて巻き取り機に巻き取る技術にかかるものであるから、その板厚は一般に0.03〜3.0mmの冷延鋼板、表面処理鋼板、ステンレス鋼板、アルミニウム板、アルミニウム合金板、銅板、マグネシウム合金板、ニッケル箔、鉄−ニッケル合金板等の加工性と強度を有する金属板を用いるのが望ましい。
【0021】
前記長尺の金属板の表面は、アクリルエマルジョン系樹脂を主成分とする合成樹脂接着剤等との密着強度を高めるため、事前に金属板メーカーにてクロメート処理やリン酸塩処理等の化成処理、もしくはクロムを含まない有機もしくは無機複合皮膜、もしくは表面研磨処理等が施されても良い。
【0022】
表面処理鋼板としては、亜鉛めっき、亜鉛合金めっき、ニッケルめっき、ニッケル合金めっき、錫めっき、銅めっきあるいは銅合金めっきなどを被覆した電気めっき鋼板を用いることができる。亜鉛合金めっきとしては、亜鉛−ニッケル合金めっき、亜鉛−鉄合金めっき、亜鉛−コバルトめっきが適用でき、さらに亜鉛−コバルト−モリブデン複合めっき鋼板が適用できる。ニッケル合金めっきとして、リン、ボロン、錫、コバルトなど含んだニッケル合金めっき鋼板が適用できる。また、亜鉛、アルミニム、マグネシウムあるいはこれらの合金を含んだ溶融亜鉛めっき鋼板、溶融亜鉛−アルミニウム−マグネシウム−シリコンめっき鋼板、溶融亜鉛−アルミニウムめっき鋼板または溶融アルミニウムめっき鋼板も適用できる。
【0023】
さらに、これらのめっき鋼板に公知の化成処理を施した表面処理鋼板も適用できる。例えば、クロメート処理、リン酸塩処理、リチウム−シリケート処理、シランカップリング処理あるいは、ジルコニウム処理などの化成処理が適用できる。また、上記金属板あるいは化成処理を施した表面処理鋼板の表面に公知の熱可塑性樹脂あるいは熱硬化性樹脂を含有した有機樹脂被覆処理が適用できる。熱可塑性樹脂あるいは熱硬化性樹脂として、例えば、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ABS樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリスチレン樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、アセタール樹脂などを含有した有機樹脂被覆処理が適用できる。また、上記金属板あるいは化成処理を施した表面処理鋼板の表面に、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、アセテート樹脂、ポリスチレン樹脂、フッ素樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂あるいはアクリル樹脂からなる有機樹脂フィルムを積層した金属板にも適用できる。有機樹脂フィルムは単層だけでなく、2層以上積層しても良い。また、有機樹脂フィルムは上記樹脂のうち2種以上から選ばれたブレンド樹脂からなるフィルムも適用できる。
短繊維を植毛する合成樹脂接着剤の塗布は、化成処理を施した表面、有機樹脂被覆処理を施した表面あるいは有機樹脂フィルムを積層した表面にも行うことができる。
【0024】
また、このようなめっき面、化成処理面上に、水溶性の合成樹脂接着剤との間に公知の有機系接着剤を介在させても良い。公知の有機系接着剤としては、エポキシ系、ポリエステル系、ビニル系、フェノール系、イソシアン酸エステル系が適用できる。厚みとしては、乾燥後5〜20μmとなるようにする。
【0025】
(親水性合成樹脂接着剤層を構成する合成樹脂接着剤について)
即ち、本発明の植毛金属板に形成する短繊維植設層である合成樹脂接着剤層を形成する合成樹脂接着剤は、親水性を有する短繊維植設層である合成樹脂接着剤層として前記長尺の金属板又は表面処理金属板に強力に密着し、且つ、該層に植え付けされた親水性処理を施した短繊維を短繊維群としてしっかりと保持する短繊維植設層である合成樹脂接着剤層として形成できるものであることが要求される。しかも、その短繊維植設層である合成樹脂接着剤層が、耐水性、耐薬品性、耐摩耗性、加工時の靭性に対応できる性質をもつものとして形成されるものであることが要求されることは勿論である。
【0026】
これらの要求を満たす短繊維植設層である合成樹脂接着剤層を形成する合成樹脂接着剤として、水溶性あるいは溶剤系の合成樹脂が適用できるが、作業性の点で水溶性が望ましい。水溶性樹脂としてスチレン・アクリル酸エステル系エマルジョン、アクリル系エマルジョン、ウレタン系エマルジョン、アクリルーウレタン系エマルジョン、ポリビニールアルコール系あるいは、酢酸ビニル系などが適用できる。特に、スチレン・アクリル酸エステル系エマルジョンを主成分とし、これに消泡剤、PH調整剤、湿潤剤、増粘剤を混合して所望の粘度に調合された接着剤であって、必要によっては、顔料、架橋剤を混合して調合した合成樹脂が特に優れる。
【0027】
特に、スチレン・アクリル酸エステル系エマルジョンを適用した場合、その製造方法は通常の乳化重合法によるものであるが、十分な親水性を得るために、界面活性剤として、脂肪酸石鹸、アルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸塩等のアニオン活性剤をモノマー混合物に対して1.0重量%〜10重量%を使用することが望ましい。1.0重量%未満なら十分な濡れ性を得ることができず、また10重量%を超えると耐水性が極端に低下する傾向が見られるので好ましくない。
【0028】
本発明の短繊維植設層である合成樹脂接着剤層を形成する親水性の合成樹脂接着剤であるスチレン・アクリル酸エステル系エマルジョン樹脂は、前記した事実を念頭に置いて選択されたものである。本発明で合成樹脂接着剤として用いる該スチレン・アクリル酸エステル系エマルジョンは、消泡剤、PH調整剤、湿潤剤、増粘剤、界面活性剤を混合して所望の粘度に調合された接着剤であって、必要によっては、顔料、架橋剤を混合することがある。該スチレン・アクリル酸エステル系エマルジョンにカルボキシル基を導入することにより接着性を向上する。カルボキシル基の含有量を表すものとして酸価があり、酸価は5〜100の範囲が望ましい。10〜50の範囲がより望ましい。5未満では、金属板との接着性が劣る。100を超えるとエマルジョンとしての液の安定性が悪い。消泡剤としては、シリコーン油あるいは鉱物油系が望ましい。増粘剤としては、アルカリ液を用いると、pH調整も兼ねることができるので望ましい。界面活性剤として、非イオン系あるいはアニオン系が使用できる。カルボキシル基、スルホ基、硫酸基などのアニオン系の界面活性剤がより望ましい。
【0029】
界面活性剤として、下記化学式を有するものが望ましい。ただし、R,R1及びR2はアルキル基を示す。
【0030】
【化1】

【0031】
【化2】

【0032】
特に、R2はC数が12、RはC数が9の場合が、液の分散性、安定性の点で望ましい。
【0033】
該スチレン・アクリル酸エステル系エマルジョン樹脂のガラス転移温度を−30℃〜20℃内にコントロールすることが望ましい。−30℃未満であると、乾燥後ブロッキングを起こしたり、タック効果が出る。20℃を超えると、硬くなり折曲げ加工性が劣る。粘度は5,000〜40,000cps/25℃に調整することが望ましい。5000cps未満では、乾燥に時間がかかり不経済である。逆に40,000cpsを超えると乾燥後に皮膜中に空洞ができやすい。
【0034】
(合成樹脂接着剤層を形成するための合成樹脂接着剤の塗布手段について)
前記した合成樹脂接着剤を前記した長尺の金属板又は表面処理金属板面に塗布する手段は、ロールコーター方式、バーコーター方式またはスプレー方式等の常法に従った手段により接着剤を塗布して接着剤層を形成する。特にロールコーターによる方法が望ましい。接着剤塗布手段は本発明に特有な手段ではない。金属板の片面に植毛する場合は、金属板の片面に接着剤層を形成し、金属板の両面に植毛する場合は、金属板の両面に接着剤層を形成する。接着剤層の厚みとして20〜80μmが望ましく、20〜40μmがより望ましい。20μm未満では、短繊維の植毛密度(突刺深度)が小(浅)さくなり、かつ、短繊維が抜けやすくなる。
但し、短繊維植設層である合成樹脂接着剤層を所望な幅、所望の間隔を開けて作る必要があるときは、接着剤塗布手段にそれなりの工夫を講じることは言うまでもない。
【0035】
静電植毛に使う繊維としては、再生繊維、合成繊維、半合成繊維などの化学繊維、又は植物繊維、動物繊維、炭素繊維、ガラス繊維等の天然繊維が使用できる。有機繊維あるいは無機繊維のどちらでも使用できる。有機繊維として、ナイロン、アクリル、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデンあるいはフッ素樹脂などからなる公知の繊維が適用できる。繊維の長さは、接着剤層の厚みにより適した長さが異なるが、0.4〜1.6mmが望ましい。
【0036】
上記短繊維の親水性処理としては、Al、Ti、Zr、Si,Cr,Ni,Zn,Sn、Mn、Cu、Co、Fe、Mg、Caの酸化物または水和酸化物、あるいはこれらを混合した化合物を短繊維の表面に被覆する。この被覆方法は特に限定されるものではなく、公知の方法が適用できる。具体的に被覆する方法として、例えばAl、Ti、Zr、Si,Cr,Ni,Zn,Sn、Mn、Cu、Co、Fe、Mg、Caの酸化物または水和酸化物、あるいはこれらを混合した化合物が高濃度となるように水溶液に分散させ、この分散溶液中で、短繊維を浸漬処理あるいは電解処理(陰極処理および陽極処理)を行って、繊維表面にこれらの化合物を十分な膜厚となるように被覆する。短繊維の場合、この処理は電解処理より浸漬処理の方が望ましい。
また、ポリシロキサンあるいは無機シロキサンを短繊維の表面に被覆しても良い。シロキサンとは、ケイ素、酸素、水素からなる化合物のうち、Si−O−Si結合を含むものを言う。ケイ素原子の数によってジシロキサン、トリシロキサンなどがあるが、これらも含まれるものとする。この処理によって、空気中の湿気を吸収させ、繊維の植毛時の電気抵抗を10〜100MΩに調整すると、植毛(短繊維)は接着剤との密着性に優れ、均一で密に行うことができる。また、親水性機能を十分に発揮できることになる。
【0037】
本発明を開発するに当り、本発明者は金属板又は表面処理金属板に形成する植毛層は、親水性のものとすることが必要であると考え、この植毛層を親水性のものとするには、その植毛層の構成材である短繊維植設層としての合成樹脂接着剤層を親水性のものとして形成できる合成樹脂接着剤を使用することとし、この層に植設する短繊維についても親水性処理を施したものを使用することが必要であると考えた。ところが、その短繊維に親水性処理を施したことにより、その短繊維を以て静電植毛を行うとき、その短繊維が飛翔性に支障を来す短繊維となってはならない。そこで、本発明の発明者は吸湿性が親水性に通ずることに気がつき、短繊維に静電植毛時の飛翔性を阻害しない限度で、最大限の吸湿性を付与する処理(これを親水性処理と定義する)を行うことによって、この処理を施した短繊維を植設した植毛層を親水性の植毛層として形成しようと考えた。
【0038】
すなわち、本件発明の短繊維には、植毛された植毛層に親水性を持たせるため、表面に吸湿層が0.5〜3μmの膜厚になるように十分な量の吸湿層が付着されることで親水性処理層が形成されて親水性処理がなされた短繊維としている。
その結果、親水性処理された短繊維は、静電植毛を行う際にこれまでの短繊維より荷電され易くなるため、植毛時において、短繊維自体の荷電量が増加して電界内を飛翔する速度が上昇するので、短繊維植毛層である合成樹脂接着剤層に強固に植毛されることになる。
親水性の合成樹脂接着剤層として形成された短繊維植設層1に植設された前記処理を施された前記短繊維は、親水性処理(十分な吸湿性が発揮される処理)が施されているので、それ自体に高い親水性を有し、また前記層に強固に植毛されることになるので、この短繊維を植設した植毛層は従来の植毛層に比較して高い親水性及び吸水性機能を発揮させることができる植毛層となる。
【0039】
(静電植毛について)
静電植毛法とは、静電植毛室内に配置された電極に対向する表面に接着剤を塗布して接着剤層を形成したワークをアース状態に置いて、該電極に高圧静電気を印加して、該電極と該ワークの間に生じた電界中に短繊維を飛翔させ、該短繊維を帯電させて、該短繊維を電界中の電気力線の方向に沿って、該短繊維をワークの表面に形成された接着剤層に直立させて突き刺して植設する技術である。
【0040】
ところが、前記したワークが長尺のものであるときには、このワークを所定の速度で所定の長さの静電植毛室内を移動させながら、静電植毛法によって短繊維を植設しようとすると、ワークの移動速度と移動による空気抵抗の関係によって、短繊維は直立状態で植毛できずいわゆる毛倒れした状態で植毛されてしまう。
それだけでなく前記ワークは所定の速度で静電植毛室を移動するので所定の長さの静電植毛室内に滞在する時間も制限される。即ち、静電植毛室内での静電植毛時間が短くなる関係上、理想通りの密植状態で植設することができない。
ワークの移動速度を早くすれば早くするほど前記現象は顕著に表れる。
【0041】
本発明は、所定時間内に静電植毛室をアース状態で通過する長尺の金属板又は表面処理金属板に接着剤層を形成したワークの植毛対象箇所に、短繊維を本来の姿で直立に且つ高濃密状態で植設された短繊維群として植毛を施し、その作業能率を向上しようとするため、静電植毛室に二つの電極を配置して植毛を行う。
【0042】
すなわち、所定の長さの静電植毛室を所定の早さで移動する前記長尺のワークに対し、まず、前記静電植毛室の入口側に強力な電界を形成するための高い高圧静電気を印加する第1電極を配置した。第1電極の次にこの第1の電極より低い高圧静電気が印加される第2の電極を静電植毛室の出口側に向かって配置した。
静電植毛室内に電極を前記のように配列することによって、前記長尺のワークの植毛対象箇所が静電植毛室に送り込まれると、帯電した短繊維がまず長尺のワークが第1の電極を通過する過程で第1の電極によって作り出される強力な電界中を強力な電気力線に沿って長尺のワークの植毛対象箇所に可及的にしっかりと直立に植設することにした。
第1の電極を通過して、第2の電極を通過するときに、第2の電極により、前記した第1の電極により植設された直立短繊維の隙間に短繊維を植設することにした。
即ち、長尺のワークが、第1の電極通過時に第1の電極により、まず、短繊維を毛倒れしない直立短繊維として強力な電界によってしっかりと植設する静電植毛を行い、第1の電極でしっかりと直立させて植設した短繊維を毛倒れ防止の役目を果たす短繊維とし、次いで第2の電極を通過時に第2の電極により、その短繊維の植設隙間に通常の電圧による短繊維の静電植毛を行うという手段である。植毛は、予め接着剤を金属板又は表面処理金属板の片面に塗布した場合、接着剤を塗布した金属板又は表面処理金属板の面(片面)に行い、予め接着剤を金属板又は表面処理金属板の両面に塗布した場合、接着剤を塗布した金属板又は表面処理金属板の両面に行う。
これにより、所定の長さの静電植毛室を所定の早さで移動する長尺のワークである長尺の金属板又は表面処理金属板の植毛対象箇所に高濃密状態(植毛密度が25,000〜36,000本/cm2程度であり、これは短繊維の長さが0.8mm、径が19μmのものを使用した場合、植毛密度72〜100g/m2に相当する。)で直立する短繊維群とすることができた。
そして、前記短繊維を使用した場合の植毛密度が25,000〜36,000本/cm2(72〜100g/m2)となる濃密状態で植毛することで、植毛層の各短繊維間に水滴を捕獲し易い状態とし、保水性及び吸水性を有効に発揮させることが可能となる。植毛密度が25,000本/cm2(72g/m2)未満の場合は各短繊維が疎な状態となり、また、植毛密度が36,000本/cm2(100g/m2)を超える場合は各短繊維が密な状態となりすぎるため、効率良い保水性及び吸水性が発揮できないからである。
【0043】
本発明の植毛金属板に形成される植毛層は、金属板又は表面処理金属板面に親水性の短繊維植設層である合成樹脂接着剤層を形成するための合成樹脂接着剤を塗布し、その塗布面に前記した手段で親水性処理を施した短繊維を以て静電植毛を行うので、本発明の植毛金属板に形成される植毛層は、短繊維を高濃密度に植設した親水性を有する植毛層となり、該植毛層に植設された短繊維から成る短繊維群の植設間隔が極めて強力な毛細管現象を発揮することになる。この親水性を有する植毛層は、親水性、保水性、吸水性を発揮する植毛層として形成される。
【0044】
(静電植毛後の手段)
この作業終了後、加熱乾燥室を通過させる。その過程で、金属板面又は表面処理金属板面に形成される前記成分から成る短繊維植設層である合成樹脂接着剤層とするために塗布された合成樹脂接着剤、並びにその合成樹脂接着剤面に植設された前記処理を施された短繊維から水分を蒸発して乾燥する。そして、前記合成樹脂接着剤層と前記短繊維から成る親水性植毛層とする。この加熱乾燥時に、加熱乾燥温度を調節して前記した短繊維植設層である合成樹脂接着剤層と該層に高濃密度状態で植設された短繊維の短繊維群から成る前記植毛層が親水性、保水性、吸水性をもった植毛層として形成されるようにすることが重要である。
【0045】
本発明者は、静電植毛操作後の加熱乾燥温度によって、短繊維の集団から成る短繊維群及びこれを植設した短繊維植設層である合成樹脂接着剤層から成る植毛層の性質が決定される現象を見出した。すなわち、加熱乾燥温度を変化させることにより、前記短繊維植設層である合成樹脂接着剤層に短繊維の集団から成る短繊維群を植設した植毛層が疎水性或いは逆に親水性に優れた性質のものになることを見出した。実験結果によると、図1に示すように、乾燥温度が150℃未満では、植毛層は親水性を有し、乾燥温度が150〜250℃では、植毛層は疎水性を示すことが確認できた。これは、短繊維植設層である合成樹脂接着層、並びに短繊維の処理層が、乾燥温度を上昇させることにより表面のOH基またはNH基の量が減少することにより疎水化したものと推定される。したがって、植毛層に親水性を維持させ、この層を形成した植毛金属板として親水性を発揮させるためには、150℃未満で乾燥させることが必要となる。
【0046】
これが、冷却室を通過して冷却される。
【0047】
この工程を終了することにより、前記合成樹脂接着剤を使って形成した短繊維植設層である合成樹脂接着剤層は、前記長尺の金属板又は表面処理金属板の前記処理面に(投錨状態で)短繊維植設層である合成樹脂接着剤層としてしっかりと密着して剥がれないように固着し、且つ、該層に植設された短繊維の集まりから成る短繊維群を引き抜けないようにしっかりと植設する機能を果たし、天候の変化、或いは人為的に生じた天候異変と同じような変化によって生じた結露、或いは冠水等によって前記した機能を劣化せず、且つ、折り曲げ加工によっても亀裂を生じない短繊維植設層である合成樹脂接着剤層としての皮膜となる。
【0048】
本発明を実施して作ったロール状に巻き取られた植毛金属板は、屋根材、ダクト材等として使用するに当たり、所望の長さ、所望の幅に裁断して所望の長さ、所望の幅の植毛金属板とすることは当然である。そして、所望の長さ、幅に裁断されたこの屋根材、ダクト材を組み合わせて連結することにより、所望構造の屋根、ダクトを形成することができる。
【0049】
(側辺に植毛を施さない植毛金属板の製法)
植毛金属板を所望の長さ或いは所望の幅に裁断して屋根材やダクト材とし、これを組み合わせて連結する場合には、複数枚の建築用材料としての植毛金属板の側辺の重ね合わせ部分に短繊維群が植設されていたのでは、その短繊維群が、植毛金属板の連結に邪魔となる。そのため、その邪魔となる部分を取り除くために植毛金属板に植設された短繊維を植毛金属板の側辺に沿って必要な幅だけ削り取る作業を行わなければならない。
その不都合を解消するため、本発明は、金属板又は表面処理金属板の側辺に沿って必要な幅、或いは所望の間隔を開けて、短繊維群を植設しない植毛金属板を作る技術を開発した。
その技術は、金属板又は表面処理金属板に短繊維植設層である合成樹脂接着剤層を形成するため、合成樹脂接着剤を塗布するロールコーターに用いるローラの接着剤転写面を、金属板又は表面処理金属板の側辺に沿って必要な幅、或いは所望の間隔を開けて接着剤層を形成する構成とした。また、グラビアロールあるいは凸版を用いて植毛する箇所だけ接着剤を塗布しても良い。
該ローラの接着剤転写面を前記のように構成し、該ローラを以て金属板又は表面処理金属板に該ローラの接着剤転写を行うことにより、金属板又は表面処理金属板には、側辺に沿って必要な幅、或いは所望の間隔を開けた接着剤層が転写される。
これを以て植毛操作、加熱乾燥操作を行うことにより、金属板又は表面処理金属板の側辺に沿って必要な幅を開けた、或いは所望の間隔を開けた短繊維群を植設した植毛金属板を作ることができる。
【0050】
(屋根材として使用した植毛金属板の果たす機能について)
ところで、植毛金属板で作った屋根は、前記したところから明らかなように天候の変化によって種々の影響を受けることになる。特に冬期の晴天日の明け方に「放射冷却」と言う自然現象の影響によって、植毛金属板の温度は周囲の外気温度より5〜6℃くらい低い現象を生じる。そのため、屋根を構成する植毛金属板の裏面が露点温度以下に下がり、結果として金属板の裏面に結露が発生する事となる。
この場合、従来の植毛金属板で作った屋根の植毛層は、親水性機能、保水性機能、吸水性機能が無い為、その結露は雫として滴下することになる。この現象が生じると、屋根下に置かれた物品・人は滴下する雫で汚れたりする不都合を受けることになる。
特に物品の中には湿気を吸い取り、商品価値を阻害する等の不都合を生じることがあることは前記した通りである。
【0051】
本発明を実施して作った植毛金属板を使った屋根は、冬期の晴天日の明け方に、前記した「放射冷却」という現象によって植毛金属板の植毛層に前記した現象によって結露が生じたとしても、本発明の植毛金属板の植毛層は、親水性を備えた短繊維植設層である合成樹脂接着剤層に親水性処理が施された短繊維が直立した高濃密植状態の短繊維群として形成されているので、前記合成樹脂接着剤層と該層に植毛された前記短繊維を植設した短繊維群から成る植毛層が親水性機能を発揮し、その結果、保水機能、吸水機能が働き、結露が前記したような雫として滴下して屋根下の人、落下物が水滴により水に濡れたり湿気を帯びたりと言うような不都合は生じない。
すなわち、植毛層の短繊維群の根元に生じた結露は、親水性処理が施され、且つ高濃密度に植設された親水性処理が施された短繊維から成る短繊維群(短繊維間で保水機能)により結露を取り込むことになるので、前記不都合の生じるのを阻止することができる。
また、例えば植毛金属板が傾斜して配置されているような場合では、前記結露が傾斜面に生ずることになり、この結露が集合して飽和点に達したときは、傾斜に沿って結露が移動し所望の場所に導かれることになるので、結露が生じた場所で落下するという事態を防止することができる。
そして、前記した結露は日が昇り屋根温度が上昇するにつれて蒸発した後植毛層は乾燥する。
また、仮に外部から雨水・雪解け水等が高濃密状態で植え付けされた短繊維群へ進入したとしても植毛層を構成する短繊維間で毛細管現象を引き起こし、前記雨水・雪解け水は、短繊維群の間に引き込まれる。これが前記植毛層の保水力の飽和点に達した後は、重力にて屋根勾配に沿って水下へ移動し樋に至る。
以上のとおり、結露水・進入した雨水等の滴下という不都合を防止することができる。
【0052】
(ダクト材として使用した植毛金属板の機能)
更に、空調設備のダクトについて言うと、特に夏期に起こる現象として、空調稼働開始後、設定環境条件に至る間に給気ダクトの外表面に結露が生じることがある。その結露を防止するため、ダクトの外周に断熱材を巻き付ける断熱工事が施されていた。
前記ダクトに本発明を実施して作った植毛金属板を使用したときは、本発明を実施して作った植毛金属板を構成する短繊維群が若干の断熱機能を発揮する。例え結露が発生したとしても本発明を実施して作った植毛金属板の短繊維群が、屋根、庇材として使用したときと同じように親水並びに保水する機能が働き結露の滴下防止機能が働き、設定環境条件下で乾く事となる。従ってこれまでのような断熱工事を行うことは不必要となる。
【0053】
それだけでなく、仮に本発明を実施して作った植毛金属板から成るダクトの外周の短繊維群の先端(根元)に結露が生じたとしても、その結露は短繊維群が果たす機能により滴下するのを阻止し、その滴下により生ずる不都合の生じるのを阻止することができる。
【0054】
本発明を実施して作った植毛金属板を構成する短繊維群は、前記したように短繊維を直立して高濃密度植状態で植立して成るものであるから、その短繊維群に紫外線遮断機能が働き、合成樹脂接着剤層の劣化を防止する。
【0055】
これまでの説明は、本発明に係る植毛金属板を屋根材、ダクト材に使った場合を例にとって説明したが、本発明にかかる植毛金属板は、屋根、ダクトを作るときに用いるとは限らず、建築用材料としてだけでなく広く工作物材料として用いることができることは勿論である。
【実施例】
【0056】
(実施例1)
板厚1.0mm、めっき量180g/m2の長尺状の溶融亜鉛めっき鋼板の表面にロールコート法により、親水性合成樹脂接着剤としてスチレン・アクリル酸エステル系エマルジョンを主成分とした合成樹脂を乾燥後の厚みが30μmとなるように塗布し、ナイロン製の短繊維を合成樹脂接着剤層の塗布面に静電法により植毛した。ナイロン製の短繊維(長さが0.8mm、径が19μm)は、その表面にシリカが厚み1μmに被覆されたものを用いた。静電植毛法による短繊維の植毛は、鋼板の長さ方向に2つの電極を用いて行った。最初の第1電極の電圧は40kV、2番目の電極の電圧は30kVとした。その結果、短繊維は31,813本/cm2(84g/m2)の密度で植毛できた。植毛後金属板温度140℃で乾燥し、巻き取った。なお、表1において、スチレン・アクリル酸エステルはスチレン・アクリル酸エステル系エマルジョンのことを示す。
【0057】
(実施例2〜5、比較例1)
表1に製造条件を示す。表1に示す条件で、記載されていない項目は、実施例1と同一条件とした。表1の条件で製造した植毛金属板について、下記に示す特性を評価し、評価結果を表2に示す。
<植毛密度>
短繊維の植毛密度が72g/m2以上の場合を○で、それ未満の場合を×として評価した。
<沸水試験>
植毛金属板の植毛面にカッターでごばん目をいれ、植毛面側が張り出るように、エリクセンで6mm張り出した。次いで、100℃の沸騰水に2時間浸漬した後、テープ剥離試験を行った。短繊維及び合成樹脂接着剤が全く剥離しない場合を○で、一部でも剥離した場合を×とした。
<折曲試験>
植毛金属板の植毛面を0T折曲し、合成樹脂接着剤層の亀裂発生程度及び植毛の密着性を評価した。全く亀裂がない場合を◎で、亀裂が軽度で実用上問題ない場合を○で、亀裂がかなり発生し問題がある場合を×で評価した。
<摩擦試験>
植毛金属板の植毛面に、研磨面を水に濡らしたサイズ2×20cmの研磨紙#200の研磨面側を置き、研磨紙に400gの荷重をかけて50往復し、植毛の密着性を調べた。植毛した短繊維が全く剥がれなかった場合を○で、植毛した短繊維が剥がれた場合を×として評価した。
表2に示すように、実施例1〜5は、植毛密度、植毛の密着性(沸水試験及び折曲試験及び摩擦試験)とも問題なく良好であった。
【0058】
【表1】

【0059】
【表2】

【0060】
(短繊維の加熱温度と親水性の関係)
表面に親水性処理をした植毛用短繊維を、温度130℃、140℃及び150℃で15分間加熱して乾燥した後、1時間室温の雰囲気下に放置した。カップに水を入れ、その水面に前記加熱乾燥処理を行った短繊維0.5gを浮かせた。その結果、短繊維が水中に浸る間(沈殿する)の時間は、加熱温度130℃で処理した短繊維は0.25秒、140℃で処理した短繊維は0.29秒、150℃で処理した短繊維は5分以上であった。加熱温度が130℃及び140℃の短繊維については、短繊維が水中に浸る(沈殿する)までの時間が大変短いが、これは短繊維の表面が親水性及び吸水性を有していることに起因するものである。
また、短繊維表面の親水性及び吸水性は、加熱温度が150℃のものについては低下しているので、このことから、150℃以上では、表面が疎水化(撥水化)することが判明した。従って、加熱温度を変化させることによって、植毛層が有する親水性を変化させることができる。この原因について下記のような調査をした。
すなわち、表面に親水性処理をした植毛用短繊維を、温度130℃、140℃、150℃及び160℃で2分間加熱乾燥した後、赤外線吸光度測定器で、Si−Oに由来する3343cm−1及びO−HまたはN−Hに由来する1071cm−1のピーク強度を測定し、3343cm−1のピーク強度/1071cm−1のピーク強度と加熱温度との関係を図1に示す。図1では、縦軸を強度比(3343cm−1のピーク強度/1071cm−1のピーク強度)で、横軸を加熱温度で示す。加熱なしの場合も示した。図1より、加熱温度が上昇するに従い、強度比(3343cm−1のピーク強度/1071cm−1のピーク強度)が小さくなることを示している。140℃以下では、表面にO−HまたはN−Hが多く存在するので、親水性を示し、そのため保水性に優れると考えられる。しかし、150℃以上では、表面にO−HまたはN−Hが減少するので、親水性が劣化すると考えられる。
したがって、150℃未満で加熱することにより、短繊維の親水性が維持され、保水性に優れた植毛金属板が製造でき、これからなる屋根材及び空調設備用ダクトは、水滴が落下しにくいものとなる。
【0061】
(植毛金属板の水の吸い上げ機能)
水を入れた容器中の水の中に、本発明を実施して作った平板の植毛金属板の一端を浸し、該植毛金属板と水面との角度θを変化させて、水面より上で、該植毛金属板の水に濡れた部分の長さを測定した。水面に対して垂直に植毛金属板を置いた場合、植毛金属板の植毛層は水面より上の長さ42mmまで水に濡れた。tanθが1.5の時、水に濡れた長さは50mmであり、tanθが0.42の時、水に濡れた長さは86mmであり、tanθが0.12の時、水に濡れた長さは250mmであり、tanθが0.07の時、水に濡れた長さは662mmであった。本発明を実施して作った植毛金属板は、親水性および保水性に優れているだけでなく、強力な毛細管現象を発揮し、吸水性機能を発揮すること示す。従って、本発明を実施して作った植毛金属板を屋根材とし、その植毛金属板の植毛層を下面として用いた場合、雨天時に水に濡れた植毛金属板の植毛層からの水滴落下がほとんどなく、屋根の下にいる人の衣服が汚れる心配もない。また、空調設備用ダクトに用いた場合、ダクト材の植毛層に結露した水滴が落下することがないので、空調設備用ダクトの下に人がいても、その人の衣服が水に濡れた植毛金属板の植毛層からの水滴で濡れる心配はない。
【0062】
(吸水試験)
本発明による植毛金属板(親水性合成樹脂接着剤層に親水性処理を施した短繊維(親水性パイル)を植毛)と、通常の合成樹脂接着剤層に短繊維(レギュラーパイル)を植毛した植毛金属板の植毛サンプルをそれぞれ作成し、吸水性についての比較を行った。
各植毛サンプルを深さ42mmの水中に鉛直に立て静置し、40分後に、植毛サンプルにおける水の吸い上げ高さ(水面より上の吸水長)を測定した。
その結果、レギュラーパイルの吸水長は、ほぼ0mmであり、これに対して、親水性パイルの吸水長は、50mmであった。また、スポイドで植毛表面に水を垂らすと、前者は水は球形となり浸透しないのに対して、後者は、水は瞬時に植毛に浸透し、球を作ることはなかった。以上のことから、親水性パイルは、これまでのレギュラーパイルと比較して、親水性並びに保水性、吸水性に優れた機能を発揮することがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明に係る植毛金属板の短繊維群は、本発明の植毛金属板を作るために2つの電極を有する静電植毛室によって長尺の金属板又は表面処理金属板に塗布された合成樹脂接着剤層に短繊維を直立して密集した状態で短繊維群となる。
その短繊維群は紫外線遮断機能を発揮するので、合成樹脂接着剤層の劣化を防ぐ機能を発揮する。また、その短繊維群は150℃未満で乾燥した場合、短繊維の親水性を維持して優れた保水性及び吸水性を発揮するので冬期に植毛金属板に結露を生じたとしてもその結露を雫として落下するのを防止する機能を発揮する。また、雨天時においても、短繊維は親水性を維持して保水性を有しているので、屋根の下面に短繊維を植毛した金属板を使用した場合、水滴が落下せず、衣服が水滴で汚れることはない。
以上説明したように、本発明にかかる植毛金属板は、親水性、保水性、吸水性に優れた機能を発揮するところから、屋根材、ダクト材として用いるだけではなく、植毛金属板を以て、親水性、保水性、吸水性を要求される所望の工作物を作るときは、その材料として広く活用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板又は表面処理金属板の少なくとも片面に形成した合成樹脂接着剤層に、短繊維を短繊維群として植設して植毛層として形成した植毛金属板において、
前記合成樹脂接着剤層を親水性を有する合成樹脂接着剤層とし、該合成樹脂接着剤層に植設した短繊維を親水性処理を施した短繊維とし、該合成樹脂接着剤層に該短繊維の高濃密度状態を72〜100g/mの短繊維群として植設した植毛層とするとともに、該植毛層を親水性、保水性、吸水性を発揮する植毛層として形成したことを特徴とする植毛金属板。
【請求項2】
前記親水性処理を施した短繊維は、表面にAl、Ti、Zr、Si,Cr,Ni,Zn,Sn、Mn、Cu、Co、Fe、Mg、Caの酸化物、または水和酸化物、あるいはこれらを混合した化合物が被覆されていることを特徴とする請求項1記載の植毛金属板。
【請求項3】
前記親水性処理を施した短繊維は、表面にポリシロキサンあるいは無機シロキサン系化合物を含んだ膜が被覆されていることを特徴とする請求項1記載の植毛金属板。

【図1】
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【公開番号】特開2011−161927(P2011−161927A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−95681(P2011−95681)
【出願日】平成23年4月22日(2011.4.22)
【分割の表示】特願2007−58395(P2007−58395)の分割
【原出願日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【出願人】(390003193)東洋鋼鈑株式会社 (265)
【Fターム(参考)】