説明

植物の病害処理方法

【課題】有隔膜電解のみにて生成される強酸性の電解生成酸性水を使用しても、栽培途中の植物の葉に酸焼け等の障害が発生することがない植物の病害処理方法を提供する。
【解決手段】殺菌能を有する電解生成酸性水を栽培途中の植物に散布して、同植物での病害の発生を防止する植物の病害処理方法であり、栽培途中の植物に電解生成酸性水を散布した後に送風して、同植物の葉面に付着する前記電解生成酸性水を早期に蒸発させることを特徴とし、前記電解生成酸性水として、水または無機塩の希薄水溶液を被電解水とする有隔膜電解にて生成される強酸性の電解生成酸性水を採用すること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、殺菌能を有する電解生成酸性水を栽培途中の植物に散布して、同植物での病害の発生を防止する植物の病害処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
農業分野では、栽培途中の農作物における病害の発生を防止するために、病害を引き起こす細菌の殺菌や病害虫の駆除を目的として、これの殺菌・駆除用の農薬の散布が一般に行われている。しかしながら、農薬の大量の散布は、作業者自身の健康や、残留農薬に起因する農産物の品質に及ぼす影響、環境汚染等を考慮して、農薬に代わるものとして、殺菌能を有する電解生成酸性水が注目されている。また、電解生成酸性水を使用した農産物での病害の発生を防止する方法や、病害を引き起こす細菌の殺菌や病害虫の駆除に適した電解生成水が具体的に提案されている(特許文献1,特許文献2を参照)。
【0003】
特許文献1にて提案されている植物の病害処理方法は、ビニールハウス内で栽培されている植物に電解生成酸性水を散布して植物の病害処理を施すことを一実施態様とするもので、電解生成酸性水を散布する手段を、ビニールハウス内の空調にも利用することを意図しているものである。
【0004】
一方、特許文献2にて提案されている農薬電解水は、殺菌性を有するものであり、農作物の葉が変色する、所謂酸焼けの発生を防止することを意図して生成された電解生成酸性水である。具体的には、pHが3.5〜8.5の範囲にある中酸性〜弱アルカリ性で殺菌能を有するものである。
【特許文献1】特開2003−199438号公報
【特許文献2】特開2002−104908号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、葉を利用する植物や、外観を鑑賞する植物等にあっては、特に、植物の葉はその品質を左右する最も重要な要素であって、電解生成酸性水の散布によっても、葉が酸焼けしないようにしなければならず、この点が、電解生成酸性水を散布することからなる植物の病害処理方法では大きな問題となる。このため、葉の酸焼けを防止する点のみからすれば、特許文献2にて提案されている農業用電解水の使用が有効である。
【0006】
しかしながら、当該農業用電解水は、無機塩の希薄水溶液を被電解水とする無隔膜電解にて生成された電解生成水を、有隔膜電解槽の陽極側電解室にて電解して生成されるものである。このため、当該農業用電解水は、有隔膜電解のみにて生成される電解生成酸性水に比較してかなりのコスト高になるとともに、酸焼けの防止を意図して、pHが強酸性よりも中性側およびアルカリ性側にあるため、電解水中の塩素成分が強い殺菌力を発揮する有効な形態を採っている量が少なく、病害を引き起こす細菌の殺菌や病害虫の駆除に対する殺菌能が、有隔膜電解のみにて生成される電解生成酸性に比較してかなり低いという問題がある。
【0007】
従って、本発明の目的は、有隔膜電解のみにて生成される電解生成酸性水、特に強酸性の電解生成酸性水を使用しても、栽培途中の植物の葉に酸焼け等の障害が発生することがない植物の病害処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、植物の病害処理方法に関する。本発明に係る植物の病害処理方法は、殺菌能を有する電解生成酸性水を栽培途中の植物に散布して、同植物での病害の発生を防止する植物の病害処理方法であり、栽培途中の植物に前記電解生成酸性水を散布した後に送風して、同植物の葉面に付着する前記電解生成酸性水を早期に蒸発させることを特徴とするものである。
【0009】
本発明に係る植物の病害処理方法においては、前記電解生成酸性水として、水または無機塩の希薄水溶液を被電解水とする有隔膜電解にて生成される強酸性の電解生成酸性水を採用することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る植物の病害処理方法によれば、植物に散布された電解生成酸性水は、葉面上では早期に蒸発して長時間残留することがない。このため、電解生成酸性水が散布された葉面においては、電解生成酸性水の長時間の残留に起因する酸焼けは防止または大幅に抑制される。当該電解生成酸性水は、葉面上では、病原菌や病害虫に対して瞬時に殺菌作用を示すとともに、時間の経過とともに殺菌能を喪失する。このため、電解生成酸性水の葉面上での長時間の残留は、病原菌の殺菌や病害虫の駆除する面からすれば無駄であり、かつ、葉面に酸焼け等の障害を発生させる原因となる。
【0011】
このため、本発明に係る植物の病害処理方法は、病原菌の殺菌や病害虫の駆除、および、葉面における酸焼け等の障害の発生を防止または抑制するには、理に適った処理方法ということができる。このような理に適った病害処理方法においては、電解生成酸性水として、有隔膜電解のみにて生成される、強酸性で殺菌能が高くかつコスト的にも有利な電解生成酸性水を採用することができるという大きな利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明に係る植物の病害処理方法は、殺菌能を有する電解生成酸性水を栽培途中の植物に散布して、同植物での病害の発生を防止する植物の病害処理方法である。本発明に係る病害処理方法では、栽培途中の植物に殺菌能を有する電解生成酸性水を散布し、引き続いて送風して、同植物の葉面に付着する電解生成酸性水を早期に蒸発させるものである。
【0013】
本発明に係る病害処理方法で採用する電解生成酸性水は、有隔膜電解のみのて生成される電解生成酸性水であって、好ましくは、強酸性の電解生成酸性水である。当該病害処理方法で好適に採用し得る電解生成酸性水は、水道水、塩化カリウム、塩化ナトリウム、塩化カルシウム等の無機塩の希薄水溶液を被電解水とするもので、有隔膜電解槽を有する公知の電解水生成装置を使用することにより生成される。電解生成酸性水は、当該電解水生成装置によれば、有隔膜電解槽の陽極側電解室にて生成される。当該有隔膜電解にて生成される電解生成酸性水は、pHが2〜4、有効塩素濃度が0〜60mg/L、酸化還元電位が800〜1400mVの範囲のものである。当該電解生成酸性水は、pHが低い領域にあることから、電解生成酸性中の塩素成分は強力な殺菌作用を示す有効塩素成分の形態を採っている。
【0014】
従って、当該電解生成酸性水は、病原菌の殺菌や病害虫の駆除に対しては極めて有効な殺菌水であり、当該電解生成酸性水を植物に散布した場合には、植物に寄生している病原菌や病害虫に対して瞬時に作用して殺菌および殺虫し、その後、時間の経過とともに殺菌能を喪失する。このため、当該電解生成酸性水にあっては、植物の葉面上で長時間残留させることは、植物に寄生している病原菌や病害虫に対する殺菌および殺虫に関しては無駄であり、また、pHの低い電解生成酸性水による葉面に対する酸焼け等の障害を惹起させることになる。
【0015】
かかる見地から、本発明に係る病害処理方法では、当該電解生成酸性水を植物に散布した後、その葉面上に送風して、葉面上に残留する当該電解生成酸性水を早期に蒸発させるものである。葉面に対する送風は、公知の適宜の送風装置を使用すればよい。送風速度および送風時間等送風量については、植物の栽培環境、電解生成酸性水の散布条件、天候等により異なるが、一応の目安としては、1時間以内の送風操作で葉面上の電解生成酸性水が蒸発できれば十分である。
【0016】
このように、本発明に係る病害処理方法では、殺菌能が高くかつコスト的にも有利な当該電解生成酸性水を使用することにより、植物に寄生している病原菌の殺菌や病害虫の駆除を効果的に行うことができるとともに、低いpHの電解生成酸性水に起因する葉面に対する酸焼け等の障害を防止または大幅に抑制することができる。これにより、葉を主要の用途する植物や外観を鑑賞する植物等、植物の葉がその品質を左右する植物に対する、病害処理に起因する品質の低下を防止することができる。
【0017】
栽培する植物であるミツバに病害処理方法を施す実験を試みた。本実験では、本発明に係る病害処理方法を実施する実験(実施例)と、同一の電解生成酸性水を使用して送風のみを省略した実験(比較例)を行った。各実験では、強酸性の電解生成酸性水(pH2.6,有効塩素濃度20mg/L,酸化還元電位1130mV)をミツバの葉面に周1回の割合で計2回散布し、各散布後に、半分の群のミツバに対しては2時間送風し(実施例)、他の半分の群に対しては送風しなかった(比較例)。収穫後のこれら両群における葉面の酸焼け等散布障害の発生状況は、送風した方の群(実施例)での散布障害発生率は4.8%であり、送風しない方の群(比較例)での散布障害発生率は16.0%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
殺菌能を有する電解生成酸性水を栽培途中の植物に散布して、同植物での病害の発生を防止する植物の病害処理方法であり、栽培途中の植物に前記電解生成酸性水を散布した後に送風して、同植物の葉面に付着する前記電解生成酸性水を早期に蒸発させることを特徴とする植物の病害処理方法。
【請求項2】
請求項1に記載の植物の病害処理方法であり、前記電解生成酸性水として、水または無機塩の希薄水溶液を被電解水とする有隔膜電解にて生成される強酸性の電解生成酸性水を採用することを特徴とする植物の病害処理方法。


【公開番号】特開2006−42614(P2006−42614A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−224323(P2004−224323)
【出願日】平成16年7月30日(2004.7.30)
【出願人】(000194893)ホシザキ電機株式会社 (989)
【Fターム(参考)】