説明

植物培養細胞で糖欠乏により働くプロモーターの有用タンパク質の分泌生産への適用

糖欠乏誘導性プロモーター配列と、該糖欠乏誘導性プロモーター配列に作動可能に連結された異種遺伝子配列とを含む、核酸分子。この糖欠乏誘導性プロモーター配列は、β−ガラクトシダーゼのプロモーター配列、β−キシロシダーゼのプロモーター配列およびβ−グルコシダーゼのプロモーター配列からなる群より選択され得る。本発明の核酸分子を用いることにより、糖欠乏を制御することによって容易に、異種遺伝子配列の発現を制御し得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖欠乏により発現が誘導される新規プロモーターおよびそれを利用する生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有用タンパク質(例えば、インターフェロン)を遺伝子組換え技術によって大量生産する試みは大腸菌などを用いて20年以上前からなされてきた。しかし、多くのタンパク質が、糖鎖付加という翻訳後修飾を活性に必須とするため、その生産には真核細胞の利用が望まれる。
【0003】
ヒト由来の有用タンパク質(例えば、インターフェロン等の治療用タンパク質)の植物培養細胞による分泌生産には、以下のような利点がある:
1.植物細胞は真核細胞なので、哺乳動物と同様のタンパク質のプロセッシングおよび翻訳後修飾が起こる;
2.動物細胞を用いた場合に懸念されるウイルス(HIVなど)およびプリオン(BSE)の汚染の心配が無い;
3.植物の培地は、糖および無機塩から構成されており、安価な生産が可能である;ならびに
4.分泌生産をおこなう場合、目的タンパク質は培地に分泌されるため、回収および精製が比較的容易である;
5.遺伝子組換え植物を野外栽培することによる生産方法とは異なり、食糧作物への目的タンパク質の混入もなく、環境へ遺伝子が流出するリスクもない。
【0004】
以上の点から、植物細胞による有用タンパク質の分泌生産は有効であると考えられるが、収益性を考慮した場合、目的タンパク質の生産性とともに精製コストの抑制が重要なファクターとなる。従って、目的タンパク質を特異的に培地に分泌させる制御方法が望まれている。
【0005】
植物はこのように、有用タンパク質の生産に多くの利点を有し、従来からその利用が試みられている。植物で外来有用タンパク質を大量生産させる試みは10年来なされてきたが、多くの場合、研究の力点は遺伝子の発現レベルの向上に注がれてきた。しかし、遺伝子の高発現は必ずしもタンパク質の高蓄積に結びつかず、実用化に至らないケースが多い。真核生物ではタンパク質の合成は複数の場で起こり、その蓄積場所も様々である。また、イネなどの作物において栄養価の高いタンパク質を生産し、食品の価値を向上させる試みもなされているが、この場合も目的タンパク質が高蓄積しないという問題がある。そのため、企業あるいは公的研究機関の多くが様々なシーズを有しているにもかかわらず、植物による有用タンパク質生産は殆どの場合、実用化、産業化に至ってない。
【0006】
例えば、培養細胞を用いた外来タンパク質の生産に関しては、例えば、Terashima M.ら、Appl.Microbiol.Biotechnol.,52,1999,516−523(非特許文献1)は、イネ培養細胞を用いてヒトα−アンチトリプシン(AAT)の分泌生産をおこなっており、乾燥細胞重量1gあたり24mgの生産を可能としている。しかし、これは非常に効率の良いケースであり、タンパク質によっては殆ど生産が認められないケースもあると報告している。
【0007】
日本国外では、主として米国で植物を用いた有用タンパク質の生産研究が活発である。米国では、遺伝子組換え植物の野外栽培が認められやすいことから、必ずしも培養細胞を用いず、組換え植物を用いた生産が行われている。ProdiGene社(米国テキサス州)はすでに組換えトウモロコシにより生産したβ−グルクロニダーゼおよびアビジンを検査用試薬として販売している。Ventria Bioscience社(米国カリフォルニア州)はAATを遺伝子組換えイネにより生産し、2004年までに臨床応用への承認を取得しようとしている。
【0008】
しかし、日本国内では、このような遺伝子組換え植物の野外栽培がほとんど認められていないので、できる限り、培養細胞を用いて外来有用タンパク質を生産することが好ましい。
【0009】
これらのことから、遺伝子組換え植物において外来有用タンパク質を安定かつ大量に生産する方法を確立することが望まれている。
【0010】
糖欠乏応答遺伝子に関しては、非特許文献2に、β−グルコシダーゼ(din2と表記される)が暗所で誘導されること、din遺伝子の糖抑制発現はヘキソキナーゼによるヘキソースのリン酸化を通して媒介されること、および暗所で植物は容易に糖欠乏状態に陥ることが記載されている。しかし、この文献は、単にβ−グルコシダーゼの発現の糖欠乏誘導性を記載するのみであり、この遺伝子のプロモーターを有用タンパク質の発現に利用することを開示も示唆もしない。
【0011】
特許文献1には、α−アミラーゼの合成およびそれらのmRNAレベルが糖の欠乏によって大いに誘導されることおよびα−アミラーゼ由来のベクターと所望の遺伝子産物をコードする遺伝子を含むベクターを用いて被子植物宿主細胞において遺伝子産物を生産するための方法が記載されている。しかし、この文献では、イネのα−アミラーゼのプロモーターを用いてイネにおいて発現が可能であることしか確認しておらず、他の植物において発現が可能であるかは不明である。
【0012】
特許文献2および3には、イネのα−アミラーゼをコードする遺伝子のプロモーターが糖欠乏応答性であること、α−アミラーゼをコードする遺伝子のプロモーターに連結したヒトα1−アンチトリプシン(AAT)を含む形質転換イネ細胞を最初は健常な細胞増殖を維持する培地で維持し、その後、スクロースを含まないAAT培地に交換するまたは希釈することが記載されている。しかし、特許文献2および3には、一般的な説明において、イネ科の植物を用い得ることが記載されているが、実施例においては、イネのα−アミラーゼをコードする遺伝子のプロモーターを用いてイネにおいて発現が可能であることしか確認しておらず、他の植物において発現が可能であるか否かは不明である。
【特許文献1】米国特許第5,712,112号公報(第5欄、第9欄、第10欄、第51欄)
【特許文献2】米国特許第6,048,973号公報(第1欄、第9欄〜第12欄、第51欄)
【特許文献3】国際公開WO98/42853号パンフレット(第1頁)
【非特許文献1】Terashima M.ら、Appl.Microbiol.Biotechnol.,52,1999,516−523
【非特許文献2】Fujiki、F.ら、Plant Physiol.Vol.124、2000、pp.1139−1147(第1139頁要約、本文第1段落、第1140頁表I)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記問題点の解決を意図するものであり、植物細胞において容易に制御可能なプロモーターおよびこのプロモーターを用いてタンパク質を安定かつ大量に生産する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、シロイヌナズナの分泌型β−キシロシダーゼ遺伝子、β−ガラクトシダーゼ遺伝子およびβ−グルクロニダーゼ遺伝子のプロモーターが、培養細胞において糖欠乏により顕著に誘導されることを見出し、これに基づいて本発明を完成させた。特に、これらの糖欠乏誘導性プロモーターとシグナルペプチドとを異種遺伝子配列に連結すれば、この異種遺伝子配列によってコードされる産物の細胞外分泌が効率的に行われることを見出した。
【0015】
(1)糖欠乏誘導性プロモーター配列と、該糖欠乏誘導性プロモーター配列に作動可能に連結された異種遺伝子配列とを含む、核酸分子。
【0016】
(2)上記糖欠乏誘導性プロモーター配列が、β−ガラクトシダーゼをコードする遺伝子のプロモーター配列、β−キシロシダーゼをコードする遺伝子のプロモーター配列およびβ−グルコシダーゼをコードする遺伝子のプロモーター配列からなる群より選択される、上記項目(1)に記載の核酸分子。
【0017】
(3)上記糖欠乏誘導性プロモーター配列が、
(a)配列番号1の643位〜1799位、配列番号3の1位〜1763位または配列番号5の1位〜2058位に示されるヌクレオチド配列;
(b)(a)のヌクレオチド配列と比較して、1もしくは数個のヌクレオチドの置換、欠失または付加を含むヌクレオチド配列であって、糖欠乏誘導性プロモーター活性を有するヌクレオチド配列;
(c)(a)または(b)のヌクレオチド配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ糖欠乏誘導性プロモーター活性を有するヌクレオチド配列;
(d)(a)のヌクレオチド配列に対して少なくとも70%の同一性を有するヌクレオチド配列であって、かつ糖欠乏誘導性プロモーター活性を有するヌクレオチド配列;ならびに
(e)(a)〜(d)のいずれかのヌクレオチド配列の短縮配列であって、糖欠乏誘導性プロモーター活性を有するヌクレオチド配列
からなる群より選択され、
該ヌクレオチド配列に作動可能に上記異種遺伝子配列が連結されると、該異種遺伝子の糖欠乏誘導性発現を促進する活性を有する、上記項目(1)に記載の核酸分子。
【0018】
(4)さらにシグナルペプチドコード配列を含む、上記項目(1)に記載の核酸分子。
【0019】
(5)上記シグナルペプチドコード配列が、β−ガラクトシダーゼのシグナルペプチドコード配列、β−キシロシダーゼのシグナルペプチドコード配列およびβ−グルコシダーゼのシグナルペプチドコード配列からなる群より選択される、上記項目(4)に記載の核酸分子。
【0020】
(6)上記シグナルペプチドコード配列が、
(i)配列番号2の1位〜27位、配列番号4の1位〜28位または配列番号6の1位〜28位に示されるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列;
(ii)(i)のヌクレオチド配列と比較して、1もしくは数個のヌクレオチドの置換、欠失または付加を含むヌクレオチド配列であって、細胞外分泌活性を有するペプチドをコードするヌクレオチド配列;
(iii)(i)または(ii)のヌクレオチド配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ細胞外分泌活性を有するペプチドをコードするヌクレオチド配列;ならびに
(iv)(i)のヌクレオチド配列に対して少なくとも70%の同一性を有するヌクレオチド配列であって、かつ細胞外分泌活性を有するペプチドをコードするヌクレオチド配列;
からなる群より選択され、
該ヌクレオチド配列に作動可能に上記異種遺伝子配列が連結されると、該異種遺伝子の産物の細胞外分泌がもたらされる、上記項目(4)に記載の核酸分子。
【0021】
(7)上記異種遺伝子配列が、サイトカインまたはホルモンの遺伝子配列である、上記項目(1)に記載の核酸分子。
【0022】
(8)上記異種遺伝子配列が、植物中で発現された場合に目的の機能を有するタンパク質をコードする、上記項目(1)に記載の核酸分子。
【0023】
(9)上記異種遺伝子配列が、インターフェロン、抗体、ヒトα−アンチトリプシンまたは緑色蛍光タンパク質の遺伝子配列である、上記項目(1)に記載の核酸分子。
【0024】
(10)上記異種遺伝子配列が、マーカー遺伝子配列である、上記項目(1)に記載の核酸分子。
【0025】
(11)調節エレメントをさらに含む、上記項目(1)に記載の核酸分子。
【0026】
(12)上記調節エレメントが、イントロン、ターミネーターおよびエンハンサーからなる群より選択される少なくとも1つのエレメントを含む、上記項目(11)に記載の核酸分子。
【0027】
(13)エキソ型糖分解酵素をコードする遺伝子のプロモーター配列と、該プロモーター配列に作動可能に連結された異種遺伝子配列とを含む、核酸分子。
【0028】
(14)上記プロモーター配列が、β−ガラクトシダーゼをコードする遺伝子のプロモーター配列、β−キシロシダーゼをコードする遺伝子のプロモーター配列およびβ−グルコシダーゼをコードする遺伝子のプロモーター配列からなる群より選択される、上記項目(13)に記載の核酸分子。
【0029】
(15)上記プロモーター配列が、
(a)配列番号1の643位〜1799位、配列番号3の1位〜1763位または配列番号5の1位〜2058位に示されるヌクレオチド配列;
(b)(a)のヌクレオチド配列と比較して、1もしくは数個のヌクレオチドの置換、欠失または付加を含むヌクレオチド配列であって、糖欠乏誘導性プロモーター活性を有するヌクレオチド配列;
(c)(a)または(b)のヌクレオチド配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ糖欠乏誘導性プロモーター活性を有するヌクレオチド配列;
(d)(a)のヌクレオチド配列に対して少なくとも70%の同一性を有するヌクレオチド配列であって、かつ糖欠乏誘導性プロモーター活性を有するヌクレオチド配列;ならびに
(e)(a)〜(d)のいずれかのヌクレオチド配列の短縮配列であって、糖欠乏誘導性プロモーター活性を有するヌクレオチド配列
からなる群より選択され、
該ヌクレオチド配列に作動可能に上記異種遺伝子配列が連結されると、該異種遺伝子の糖欠乏誘導性発現を促進する活性を有する、上記項目(13)に記載の核酸分子。
【0030】
(16)さらにシグナルペプチドコード配列を含む、上記項目(13)に記載の核酸分子。
【0031】
(17)上記シグナルペプチドコード配列が、β−ガラクトシダーゼのシグナルペプチドコード配列、β−キシロシダーゼのシグナルペプチドコード配列およびβ−グルコシダーゼのシグナルペプチドコード配列からなる群より選択される、上記項目(16)に記載の核酸分子。
【0032】
(18)上記シグナルペプチドコード配列が、
(i)配列番号2の1位〜27位、配列番号4の1位〜28位または配列番号6の1位〜28位に示されるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列;
(ii)(i)のヌクレオチド配列と比較して、1もしくは数個のヌクレオチドの置換、欠失または付加を含むヌクレオチド配列であって、細胞外分泌活性を有するペプチドをコードするヌクレオチド配列;
(iii)(i)または(ii)のヌクレオチド配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ細胞外分泌活性を有するペプチドをコードするヌクレオチド配列;ならびに
(iv)(i)のヌクレオチド配列に対して少なくとも70%の同一性を有するヌクレオチド配列であって、かつ細胞外分泌活性を有するペプチドをコードするヌクレオチド配列;
からなる群より選択され、
該ヌクレオチド配列に作動可能に上記異種遺伝子配列が連結されると、該異種遺伝子の産物の細胞外分泌がもたらされる、上記項目(16)に記載の核酸分子。
【0033】
(19)上記異種遺伝子配列が、サイトカインまたはホルモンの遺伝子配列である、上記項目(13)に記載の核酸分子。
【0034】
(20)上記異種遺伝子配列が、植物中で発現された場合に目的の機能を有するタンパク質をコードする、上記項目(13)に記載の核酸分子。
【0035】
(21)上記異種遺伝子配列が、インターフェロン、抗体、ヒトα−アンチトリプシンまたは緑色蛍光タンパク質の遺伝子配列である、上記項目(13)に記載の核酸分子。
【0036】
(22)上記異種遺伝子配列が、マーカー遺伝子配列である、上記項目(13)に記載の核酸分子。
【0037】
(23)調節エレメントをさらに含む、上記項目(13)に記載の核酸分子。
【0038】
(24)上記調節エレメントが、イントロン、ターミネーターおよびエンハンサーからなる群より選択される少なくとも1つのエレメントを含む、上記項目(23)に記載の核酸分子。
【0039】
(25)代謝可能な糖を分解し得る酵素をコードする遺伝子のプロモーター配列と、該プロモーター配列に作動可能に連結された異種遺伝子配列とを含む、核酸分子。
【0040】
(26)上記代謝可能な糖を分解し得る酵素をコードする遺伝子のプロモーター配列が、β−ガラクトシダーゼをコードする遺伝子のプロモーター配列、β−キシロシダーゼをコードする遺伝子のプロモーター配列およびβ−グルコシダーゼをコードする遺伝子のロモーター配列からなる群より選択される、上記項目(25)に記載の核酸分子。
【0041】
(27)上記代謝可能な糖を分解し得る酵素をコードする遺伝子のプロモーター配列が、
(a)配列番号1の643位〜1799位、配列番号3の1位〜1763位または配列番号5の1位〜2058位に示されるヌクレオチド配列;
(b)(a)のヌクレオチド配列と比較して、1もしくは数個のヌクレオチドの置換、欠失または付加を含むヌクレオチド配列であって、糖欠乏誘導性プロモーター活性を有するヌクレオチド配列;
(c)(a)または(b)のヌクレオチド配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ糖欠乏誘導性プロモーター活性を有するヌクレオチド配列;
(d)(a)のヌクレオチド配列に対して少なくとも70%の同一性を有するヌクレオチド配列であって、かつ糖欠乏誘導性プロモーター活性を有するヌクレオチド配列;ならびに
(e)(a)〜(d)のいずれかのヌクレオチド配列の短縮配列であって、糖欠乏誘導性プロモーター活性を有するヌクレオチド配列
からなる群より選択され、
該ヌクレオチド配列に作動可能に上記異種遺伝子配列が連結されると、該異種遺伝子の糖欠乏誘導性発現を促進する活性を有する、上記項目(25)に記載の核酸分子。
【0042】
(28)さらにシグナルペプチドコード配列を含む、上記項目(25)に記載の核酸分子。
【0043】
(29)上記シグナルペプチドコード配列が、β−ガラクトシダーゼのシグナルペプチドコード配列、β−キシロシダーゼのシグナルペプチドコード配列およびβ−グルコシダーゼのシグナルペプチドコード配列からなる群より選択される、上記項目(28)に記載の核酸分子。
【0044】
(30)上記シグナルペプチドコード配列が、
(i)配列番号2の1位〜27位、配列番号4の1位〜28位または配列番号6の1位〜28位に示されるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列;
(ii)(i)のヌクレオチド配列と比較して、1もしくは数個のヌクレオチドの置換、欠失または付加を含むヌクレオチド配列であって、細胞外分泌活性を有するペプチドをコードするヌクレオチド配列;
(iii)(i)または(ii)のヌクレオチド配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ細胞外分泌活性を有するペプチドをコードするヌクレオチド配列;ならびに
(iv)(i)のヌクレオチド配列に対して少なくとも70%の同一性を有するヌクレオチド配列であって、かつ細胞外分泌活性を有するペプチドをコードするヌクレオチド配列;
からなる群より選択され、
該ヌクレオチド配列に作動可能に上記異種遺伝子配列が連結されると、該異種遺伝子の産物の細胞外分泌がもたらされる、上記項目(28)に記載の核酸分子。
【0045】
(31)上記異種遺伝子配列が、サイトカインまたはホルモンの遺伝子配列である、上記項目(25)に記載の核酸分子。
【0046】
(32)上記異種遺伝子配列が、植物中で発現された場合に目的の機能を有するタンパク質をコードする、上記項目(25)に記載の核酸分子。
【0047】
(33)上記異種遺伝子配列が、インターフェロン、抗体、ヒトα−アンチトリプシンまたは緑色蛍光タンパク質の遺伝子配列である、上記項目(25)に記載の核酸分子。
【0048】
(34)上記異種遺伝子配列が、マーカー遺伝子配列である、上記項目(25)に記載の核酸分子。
【0049】
(35)調節エレメントをさらに含む、上記項目(25)に記載の核酸分子。
【0050】
(36)上記調節エレメントが、イントロン、ターミネーターおよびエンハンサーからなる群より選択される少なくとも1つのエレメントを含む、上記項目(35)に記載の核酸分子。
【0051】
(37)プロモーター配列と、該プロモーター配列に作動可能に連結された異種遺伝子配列とを含む、核酸分子であって、該プロモーター配列は、
(a)配列番号1の643位〜1799位、配列番号3の1位〜1763位または配列番号5の1位〜2058位に示されるヌクレオチド配列;
(b)(a)のヌクレオチド配列と比較して、1もしくは数個のヌクレオチドの置換、欠失または付加を含むヌクレオチド配列であって、糖欠乏誘導性プロモーター活性を有するヌクレオチド配列;
(c)(a)または(b)のヌクレオチド配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ糖欠乏誘導性プロモーター活性を有するヌクレオチド配列;
(d)(a)のヌクレオチド配列に対して少なくとも70%の同一性を有するヌクレオチド配列であって、かつ糖欠乏誘導性プロモーター活性を有するヌクレオチド配列;ならびに
(e)(a)〜(d)のいずれかのヌクレオチド配列の短縮配列であって、糖欠乏誘導性プロモーター活性を有するヌクレオチド配列
からなる群より選択され、
該ヌクレオチド配列に作動可能に上記異種遺伝子配列が連結されると、該異種遺伝子の発現を促進する活性を有する、核酸分子。
【0052】
(38)さらにシグナルペプチドコード配列を含む、上記項目(37)に記載の核酸分子。
【0053】
(39)上記シグナルペプチドコード配列が、β−ガラクトシダーゼのシグナルペプチドコード配列、β−キシロシダーゼのシグナルペプチドコード配列およびβ−グルコシダーゼのシグナルペプチドコード配列からなる群より選択される、上記項目(38)に記載の核酸分子。
【0054】
(40)上記シグナルペプチドコード配列が、
(i)配列番号2の1位〜27位、配列番号4の1位〜28位または配列番号6の1位〜28位に示されるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列;
(ii)(i)のヌクレオチド配列と比較して、1もしくは数個のヌクレオチドの置換、欠失または付加を含むヌクレオチド配列であって、細胞外分泌活性を有するペプチドをコードするヌクレオチド配列;
(iii)(i)または(ii)のヌクレオチド配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ細胞外分泌活性を有するペプチドをコードするヌクレオチド配列;ならびに
(iv)(i)のヌクレオチド配列に対して少なくとも70%の同一性を有するヌクレオチド配列であって、かつ細胞外分泌活性を有するペプチドをコードするヌクレオチド配列;
からなる群より選択され、
該ヌクレオチド配列に作動可能に上記異種遺伝子配列が連結されると、該異種遺伝子の産物の細胞外分泌がもたらされる、上記項目(38)に記載の核酸分子。
【0055】
(41)上記異種遺伝子配列が、サイトカインまたはホルモンの遺伝子配列である、上記項目(37)に記載の核酸分子。
【0056】
(42)上記異種遺伝子配列が、植物中で発現された場合に目的の機能を有するタンパク質をコードする、上記項目(37)に記載の核酸分子。
【0057】
(43)上記異種遺伝子配列が、インターフェロン、抗体、ヒトα−アンチトリプシンまたは緑色蛍光タンパク質の遺伝子配列である、上記項目(37)に記載の核酸分子。
【0058】
(44)上記異種遺伝子配列が、マーカー遺伝子配列である、上記項目(37)に記載の核酸分子。
【0059】
(45)調節エレメントをさらに含む、上記項目(37)に記載の核酸分子。
【0060】
(46)上記調節エレメントが、イントロン、ターミネーターおよびエンハンサーからなる群より選択される少なくとも1つのエレメントを含む、上記項目(45)に記載の核酸分子。
【0061】
(47)糖欠乏誘導性プロモーター配列、エキソ型糖分解酵素をコードする遺伝子のプロモーター配列および代謝可能な糖を分解し得る酵素をコードする遺伝子のプロモーター配列からなる群から選択される少なくとも1つのプロモーター配列と、
該選択されたプロモーター配列に作動可能に連結された異種遺伝子配列
とを含む、ベクター。
【0062】
(48)糖欠乏誘導性プロモーター配列、エキソ型糖分解酵素をコードする遺伝子のプロモーター配列および代謝可能な糖を分解し得る酵素をコードする遺伝子のプロモーター配列からなる群から選択される少なくとも1つのプロモーター配列と、
該選択されたプロモーター配列に作動可能に連結された異種遺伝子配列
とを含む、植物細胞。
【0063】
(49)双子葉植物細胞である、上記項目(48)に記載の植物細胞。
【0064】
(50)培養細胞である、上記項目(48)に記載の植物細胞。
【0065】
(51)1週間で50倍以上増殖し得る細胞である、上記項目(50)に記載の植物細胞。
【0066】
(52)タンパク質の生産方法であって、該方法は、以下の工程:
糖欠乏誘導性プロモーター配列、エキソ型糖分解酵素をコードする遺伝子のプロモーター配列および代謝可能な糖を分解し得る酵素をコードする遺伝子のプロモーター配列からなる群から選択される少なくとも1つのプロモーター配列と、
該選択されたプロモーター配列に作動可能に連結された該タンパク質コード配列とを含む核酸分子を、細胞に導入して、形質転換細胞を得る工程;
該形質転換細胞を糖の非存在下で培養して、該タンパク質を分泌させる工程;および
該タンパク質を回収する工程
を包含する、方法。
【0067】
(53)上記細胞が、植物細胞である、上記項目(52)に記載の方法。
【0068】
(54)上記細胞が、双子葉植物細胞である、上記項目(52)に記載の方法。
【0069】
(55)上記細胞が、培養細胞である、上記項目(52)に記載の方法。
【0070】
(56)上記細胞が、1週間で50倍以上増殖し得る細胞である、上記項目(55)に記載の方法。
【0071】
(57)上記核酸分子が、さらにシグナルペプチドコード配列を含む、上記項目(52)に記載の方法。
【0072】
(58)上記シグナルペプチドコード配列が、β−ガラクトシダーゼのシグナルペプチドコード配列、β−キシロシダーゼのシグナルペプチドコード配列およびβ−グルコシダーゼのシグナルペプチドコード配列からなる群より選択される、上記項目(57)に記載の方法。
【0073】
(59)上記シグナルペプチドコード配列が、
(i)配列番号2の1位〜27位、配列番号4の1位〜28位または配列番号6の1位〜28位に示されるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列;
(ii)(i)のヌクレオチド配列と比較して、1もしくは数個のヌクレオチドの置換、欠失または付加を含むヌクレオチド配列であって、細胞外分泌活性を有するペプチドをコードするヌクレオチド配列;
(iii)(i)または(ii)のヌクレオチド配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ細胞外分泌活性を有するペプチドをコードするヌクレオチド配列;ならびに
(iv)(i)のヌクレオチド配列に対して少なくとも70%の同一性を有するヌクレオチド配列であって、かつ細胞外分泌活性を有するペプチドをコードするヌクレオチド配列;
からなる群より選択され、
該ヌクレオチド配列に作動可能に上記異種遺伝子配列が連結されると、該異種遺伝子の産物の細胞外分泌がもたらされる、上記項目(57)に記載の方法。
【0074】
(60)上記タンパク質が、サイトカインまたはホルモンである、上記項目(52)に記載の方法。
【0075】
(61)上記タンパク質が、植物中で発現された場合に目的の機能を有するタンパク質である、上記項目(52)に記載の方法。
【0076】
(62)上記タンパク質が、インターフェロン、抗体、ヒトα−アンチトリプシンまたは緑色蛍光タンパク質である、上記項目(52)に記載の方法。
【0077】
(63)上記糖が、代謝可能な解糖系糖または代謝されると該解糖系糖になり得る糖である、上記項目(52)に記載の方法。
【0078】
(64)上記糖が、グルコース、ガラクトース、フルクトース、スクロースおよびキシロースからなる群より選択される、上記項目(52)に記載の方法。
【0079】
(65)タンパク質の生産方法であって、該方法は、以下の工程:
糖欠乏誘導性プロモーター配列、エキソ型糖分解酵素をコードする遺伝子のプロモーター配列および代謝可能な糖を分解し得る酵素をコードする遺伝子のプロモーター配列からなる群から選択される少なくとも1つのプロモーター配列と、
該選択されたプロモーター配列に作動可能に連結された該タンパク質コード配列とを含む核酸分子を、細胞に導入して、形質転換細胞を得る工程;
該形質転換細胞を糖の存在下で培養する工程;
該形質転換細胞を糖の非存在下で培養して、該タンパク質を分泌させる工程;および
該タンパク質を回収する工程
を包含する、方法。
【0080】
(66)上記項目(52)に記載の方法によって得られるタンパク質。
【0081】
(67)異種遺伝子の糖欠乏誘導性発現のための、上記項目(1)に記載の核酸分子の使用。
【発明の効果】
【0082】
本発明により、糖欠乏を制御することによって容易に発現を制御し得る、発現系が提供される。
【0083】
分泌型β−ガラクトシダーゼ(Gal)をコードする遺伝子のプロモーター配列、β−キシロシダーゼ(Xyl)をコードする遺伝子のプロモーター配列およびβ−グルコシダーゼ(Glc)をコードする遺伝子のプロモーター配列は、糖が存在することによって発現が抑制され、そして糖欠乏によって発現が顕著に誘導されるので、このプロモーター配列に作動可能に連結された異種遺伝子配列を含む細胞を糖存在下で培養し、そして細胞がある程度増殖した時点で培地の糖濃度を下げることによって、異種遺伝子配列の発現を効率的に誘導し得る。
【0084】
本発明では特に、本発明の核酸分子にシグナルペプチドコード配列をさらに含むと、異種遺伝子配列によってコードされる産物のより効率的な発現をもたらし得る。
【0085】
本発明を用いることにより、生産性が低いことから開発研究が進展してないインターフェロン、抗体、ワクチンなどの医薬品の植物細胞による生産に関連する産業の活性化が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】図1aは、約13,000個のシロイヌナズナ遺伝子について、糖欠乏によるシグナル強度の比の変化を示すグラフである。横軸は、2%スクロース存在下でのシグナル強度を示し、そして縦軸は、スクロース非存在下でのシグナル強度を示す。図1bは、最初にスクリーニングによって得られた184個のシロイヌナズナ遺伝子について、糖欠乏によるシグナル強度の比の変化を示すグラフである。横軸は、1%スクロース存在下でのシグナル強度を示し、そして縦軸は、スクロース非存在下でのシグナル強度を示す。
【図2】図2は、サブアレイで同定された9個の遺伝子についてRNAゲルブロット分析を示す写真である。
【図3】図3aは、離脱葉にスクロースを供給した場合の、スクロースまたはグルコースのレベルを示すグラフである。各時間において、左側の白棒はスクロース供給条件下での結果を示し、真ん中の黒棒はスクロース欠乏条件下での結果を示し、そして左端の白棒は72時間後に再度スクロースを供給した場合の結果を示す。それぞれ、エラーバーも同時に示す。図3bは、離脱葉中の、誘導された12個の遺伝子の転写産物蓄積の時間経過を示すRNAゲルブロット分析を示す写真である。
【図4】図4aは、植物全体を遮光した場合の、ロゼット葉における可溶性糖の量を示すグラフを示す。白棒はスクロースの量を示し、そして黒棒はグルコースの量を示す。それぞれ、エラーバーも同時に示す。図4bは、植物全体を遮光した場合の、AtSUG遺伝子の転写産物を示すRNAゲルブロットの写真である。
【図5】図5aは、離脱したロゼット葉の黄化の様子を上の写真に、そして離脱葉中の可溶性糖の量を下のグラフに示す。白棒はスクロースの量を示し、そして黒棒はグルコースの量を示す。それぞれ、エラーバーも同時に示す。図5bは、離脱したロゼット葉中のAtSUG遺伝子の転写産物を示すRNAゲルブロットの写真である。
【図6】図6は、離脱葉からスクロースを48時間欠乏させ、次いで糖またはアナログを24時間にわたって供給した場合の、AtSUGの転写産物を示すRNAゲルブロットの写真である。それぞれ、以下を添加した場合の結果を示す:レーン1、無処理;レーン2、糖飢餓(48時間);レーン3、スクロース(24時間);レーン4、グルコース(24時間);レーン5、2−デオキシグルコース(24時間);レーン6、3−O−メチルグルコース。
【図7】図7は、スクロースの存在および非存在によるAtSUGの転写産物を示すRNAゲルブロットの写真である。
【図8】図8は、β−ガラクトシダーゼ(Galとも記載する)およびβ−キシロキダーゼ(Xylとも記載する)のファミリーの系統樹を示す模式図である。
【図9】図9は、スクロース非存在下またはスクロースを1%含む条件でシロイヌナズナを成長させた場合のGal−1、Gal−2、Gal−3、Gal−5およびGal−6、ならびにXyl−1、Xyl−2およびXyl−3のRNA量を示すRNAゲルブロットの写真である。
【図10】図10は、スクロース非存在下またはスクロースを1%含む条件でシロイヌナズナを成長させた場合のGal−1、Xyl−1およびGlc−1のRNA量を示すRNAゲルブロットの写真である。
【図11】図11は、Gal−1の遺伝子産物(724アミノ酸)、Xyl−1の遺伝子産物(774アミノ酸)およびGlc−1の遺伝子産物(577アミノ酸)の構造を比較する模式図である。
【図12】図12は、培養細胞を利用することの利点を示す模式図である。
【図13】図13は、スクロース非存在下またはスクロースを1%含む条件で培養シロイヌナズナ細胞を増殖させた場合のGal−1、Xyl−1およびGlc−1のRNA量を示すRNAゲルブロットの写真である。
【図14】図14は、スクロース非存在下またはスクロースを1%含む条件で培養シロイヌナズナ細胞を増殖させた場合のGal−1、Xyl−1およびGlc−1の酵素活性を示すグラフである。
【図15】図15は、植物細胞内での糖飢餓による調節の模式図である。
【図16】図16は、炭素源として種々の糖を添加した場合のGal−1、Xyl−1およびGlc−1のRNA量を示すRNAゲルブロットの写真である。
【図17a】図17aは、植物導入用構築物の構築法の一部を示す模式図である。
【図17b】図17bは、植物導入用構築物の構築法の一部を示す模式図である。
【図17c】図17cは、植物導入用構築物の構築法の一部を示す模式図である。
【図18】図18は、BY−2細胞において、糖欠乏によってGFPの分泌が誘導されることを示す図である。グラフは、形質転換BY−2細胞の増殖を示す。グラフ中の挿入図は、ウェスタンブロッティングの結果を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0087】
以下、本発明を詳細に説明する。本明細書の全体にわたり、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。
【0088】
(1.核酸分子)
1つの実施形態では、本発明の核酸分子は、糖欠乏誘導性プロモーター配列と、該糖欠乏誘導性プロモーター配列に作動可能に連結された異種遺伝子配列とを含む。
【0089】
別の実施形態では、本発明の核酸分子はまた、エキソ型糖分解酵素をコードする遺伝子のプロモーター配列と、該プロモーター配列に作動可能に連結された異種遺伝子配列とを含む。
【0090】
別の実施形態では、本発明の核酸分子はまた、代謝可能な糖を分解し得る酵素をコードする遺伝子のプロモーター配列と、該プロモーター配列に作動可能に連結された異種遺伝子配列とを含む。
【0091】
本発明の核酸分子は特に、シグナルペプチドコード配列を含むことが好ましい。シグナルペプチドコード配列を含むことにより、異種遺伝子配列によってコードされる産物の細胞外分泌がより効率よく行われる。
【0092】
本明細書において、用語「核酸分子」はまた、核酸、オリゴヌクレオチド、およびポリヌクレオチドと互換可能に使用される。核酸分子の例としては、cDNA、mRNA、ゲノムDNAなどが挙げられる。本明細書では、核酸および核酸分子は、その核酸および核酸分子がタンパク質をコードするときなどは、用語「遺伝子」の概念に含まれる。ある遺伝子配列をコードする核酸分子はまた、「スプライス変異体」および「スプライス改変体」を包含する。スプライス変異体とスプライス改変体とは同義である。同様に、核酸によりコードされる特定のタンパク質は、その核酸のスプライス改変体によりコードされる任意のタンパク質を包含する。その名が示唆するように「スプライス変異体」は、遺伝子のオルタナティブスプライシングの産物である。転写後、最初の核酸転写物は、異なる(別の)核酸スプライス産物が異なるポリペプチドをコードするようにスプライスされる場合がある。スプライス変異体の産生機構は変化するが、エキソンのオルタナティブスプライシングを含む。読み過し転写により同じ核酸に由来する別のポリペプチドもまた、この定義に包含される。スプライシング反応の任意の産物(組換え形態のスプライス産物を含む)がこの定義に含まれる。
【0093】
本明細書において、糖欠乏誘導性プロモーター配列とは、糖の欠乏によって発現が誘導されるプロモーター配列をいう。糖欠乏誘導性プロモーター配列の例としては、β−ガラクトシダーゼ(Gal)をコードする遺伝子のプロモーター配列、β−キシロシダーゼ(Xyl)をコードする遺伝子のプロモーター配列およびβ−グルコシダーゼ(Glc)をコードする遺伝子のプロモーター配列、ならびに表1に列挙される糖応答性遺伝子のプロモーター配列が挙げられる。これらのプロモーター配列は、表1に記載の遺伝子IDの遺伝子をかずさDNA研究所から入手し、この遺伝子を5’末端または3’末端から少しずつ欠失させて欠失配列を得て、この欠失配列が糖欠乏誘導性プロモーター活性を有するか否かを確認することにより、容易に決定され得る。この欠失配列が糖欠乏誘導性プロモーター活性を有するか否かは、例えば、この欠失配列をレポーター配列と連結し、ベクターと連結し、このベクターを適切な宿主細胞に導入し、レポーター配列の発現が見られるか否かを確認することによって決定され得る。本明細書中で用いられ得るβ−ガラクトシダーゼは、好ましくはGal−1である。本明細書中で用いられ得るβ−キシロシダーゼの例としては、Xyl−1またはXyl−3が挙げられるが、好ましくはXyl−1である。本明細書中で用いられ得るβ−グルコシダーゼは、好ましくはGlc−1である。糖欠乏誘導性プロモーター配列はこれらに限定されず、(b)これらのプロモーター配列のヌクレオチド配列と比較して、1もしくは数個のヌクレオチドの置換、欠失または付加を含むヌクレオチド配列であって、糖欠乏誘導性プロモーター活性を有するヌクレオチド配列;(c)(a)または(b)のヌクレオチド配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ糖欠乏誘導性プロモーター活性を有するヌクレオチド配列;(d)(a)のヌクレオチド配列に対して少なくとも70%の同一性を有するヌクレオチド配列であって、かつ糖欠乏誘導性プロモーター活性を有するヌクレオチド配列;ならびに(e)(a)〜(d)のいずれかのヌクレオチド配列の短縮配列であって、糖欠乏誘導性プロモーター活性を有するヌクレオチド配列であってもよい。短縮配列は、全長未満の配列であって、かつ、糖欠乏誘導性プロモーター活性を有する最低限の長さ以上であればよい。短縮配列の最低限の長さは、もとのプロモーター配列を5’末端または3’末端から少しずつ欠失させて短縮配列を得て、この短縮配列が糖欠乏誘導性プロモーター活性を有するか否かを確認することにより、容易に決定され得る。短縮配列の長さは、例えば、約20ヌクレオチド以上全長未満であり得る。短縮配列の長さは、好ましくは約30ヌクレオチド以上、約40ヌクレオチド以上、約50ヌクレオチド以上、約60ヌクレオチド以上、約70ヌクレオチド以上、約80ヌクレオチド以上、または約90ヌクレオチド以上であり得る。短縮配列の長さは、好ましくは約1200ヌクレオチド以下、より好ましくは約1100ヌクレオチド以下、約1000ヌクレオチド以下、約900ヌクレオチド以下、約800ヌクレオチド、約700ヌクレオチド以下、約600ヌクレオチド以下、約500ヌクレオチド以下、約400ヌクレオチド以下、約300ヌクレオチド以下、約200ヌクレオチド以下、または約100ヌクレオチド以下であり得る。
【0094】
本明細書中で「糖欠乏誘導性プロモーター活性を有する」とは、糖存在条件下での発現量と比較して、糖欠乏条件下での発現量を多くさせる効果を有することをいう。この効果は好ましくは、糖濃度が約15mM以下のときの発現量が、糖が約50mM以上存在する場合の発現量よりも多く、より好ましくは糖が約50mM以上存在する場合の発現量の2倍以上、3倍以上、4倍以上、5倍以上、10倍以上、50倍以上、100倍以上であり得る。もちろん、糖欠乏誘導性プロモーター活性は、糖存在条件下で発現させず、糖欠乏条件下で発現させる効果を有する場合を含む。
【0095】
本明細書中では、「プロモーター」とは、遺伝子の転写の開始点を決定し、また転写頻度を直接的に調節するDNA上の領域をいい、RNAポリメラーゼが結合して転写を始める塩基配列である。プロモーターの領域は、通常、推定タンパク質コード領域の第1エキソンの上流約2kbp以内の領域であることが多いので、DNA解析用ソフトウエアを用いてゲノム塩基配列中のタンパク質コード領域を予測すれば、プロモーター領域を推定することはできる。推定プロモーター領域は、構造遺伝子ごとに変動するが、通常構造遺伝子の上流にあるが、これらに限定されず、構造遺伝子の下流にもあり得る。好ましくは、推定プロモーター領域は、第一エキソン翻訳開始点から上流約2kbp以内に存在する。本明細書中で「プロモーター配列」とは、プロモーター活性を有する配列を意味する。プロモーター活性とは、DNAからRNAを転写させる活性をいう。したがって、「プロモーター配列」とは、その下流(3’側)にDNAを連結して細胞に導入した場合にそのDNAに対応するRNAを合成できる配列をいう。
【0096】
上記のGal−1、Xyl−1およびGlu−1の各遺伝子のプロモーターは、周知のように、コード領域の上流配列から取得することができる。プロモーター領域の特定は、当該分野で周知の方法に基づいて実施され得る。簡単に述べると、プロモーター領域の候補配列およびレポーター遺伝子(例えば、GUS遺伝子)を作動可能に連結した発現カセットを構築する。構築した発現カセットを用いて適切な植物細胞を形質転換し、形質転換細胞を植物に再生する。形質転換植物におけるレポーター遺伝子の発現を、適切な検出系(例えば、色素染色)を利用して検出する。検出結果に基づいて、プロモーター領域およびその発現特性を確認し得る。
【0097】
本発明で用いられる糖欠乏誘導性プロモーター配列、エキソ型分解酵素をコードする遺伝子のプロモーター配列または代謝可能な糖を分解し得る酵素をコードする遺伝子のプロモーター配列のうちの連続する少なくとも50個(好ましくは少なくとも60個、より好ましくは少なくとも80個、さらにより好ましくは少なくとも100個、さらにより好ましくは少なくとも150個)のヌクレオチド配列を含む核酸分子は、これらのプロモーター配列と同一または類似の活性を有し得る。そのような活性は、ベータグルクロニダーゼ(GUS)遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子、またはGFPの遺伝子をレポーター遺伝子として使うアッセイ、生化学的あるいは細胞組織学的な検定により確認することができる。そのようなアッセイは、当該分野における周知慣用技術に属することから(Maligaら,Methods in Plant Molecular Biology:A laboratory course.Cold Spring Harbor Laboratory Press(1995);Jefferson,Plant Molec.Biol.Reporter 5:387(1987);Owら,Science 234:856(1986);Sheenら,Plant J.8:777−784(1995))、当業者は何ら困難を伴わずに、本発明の配列の連続する少なくとも10個のヌクレオチド配列を含む核酸分子が、本発明で用いられる糖欠乏誘導性プロモーター配列、エキソ型分解酵素をコードする遺伝子のプロモーター配列または代謝可能な糖を分解し得る酵素をコードする遺伝子のプロモーター配列と同一または類似のあるいは実質的に同等以上の活性を有することを確認することができる。本明細書では、上記アッセイにおいて、検出誤差範囲内で同じプロモーター活性を有することが判定されたときに実質的に同等以上のプロモーター活性を有するという。
【0098】
本発明で用いられるプロモーター配列の長さは、通常10ヌクレオチド以上であるが、好ましくは、20ヌクレオチド以上、30ヌクレオチド以上、40ヌクレオチド以上、50ヌクレオチド以上、60ヌクレオチド以上、70ヌクレオチド以上、80ヌクレオチド以上、90ヌクレオチド以上、100ヌクレオチド以上、150ヌクレオチド以上、200ヌクレオチド以上、300ヌクレオチド以上の長さであり得る。
【0099】
本発明で用いられるプロモーター配列は、従来のプロモーター配列(例えば、ミニマムプロモーター(35Sプロモーター由来の約80塩基対からなるプロモーター(Hattonら,Plant J.,7:859−876(1995);Rousterら,Plant J.,15:435−440(1998);Washidaら,Plant Mol.Biol.,40:1−12(1999))など)につなげて利用することができる。この場合、従来組織特異性を示さないまたは弱い特異性を示す、あるいは別の特異性を示すプロモーター配列であっても、本発明で用いられるプロモーター配列またはその断片を付加することまたはそれにより置換することによって、糖欠乏誘導性を有するプロモーター配列を作製することができる(Hattonら,Plant J.,7:859−876(1995);Rousterら,Plant J.,15:435−440(1998);Washidaら,Plant Mol.Biol.,40:1−12(1999))。
【0100】
糖欠乏誘導性プロモーターは、好ましくは糖濃度が約15mM以下のとき、より好ましくは約10mMのとき、さらに好ましくは約5mM以下のとき、最も好ましくは糖が存在しない場合に発現が誘導されるプロモーターをいう。本明細書中では、「発現が誘導される」とは、発現量が増加することおよび糖存在条件下では全く発現しないが糖欠乏条件下では発現されることの両者を含む意味である。
【0101】
本明細書中では、糖欠乏誘導性プロモーターに作用する糖は、好ましくは、代謝可能な糖である。「代謝可能な糖」とは、植物細胞によって取り込まれて分解された場合に、その少なくとも一部が解糖系に入って代謝され得る糖をいう。代謝可能な糖は、植物によって代謝され得る糖と交換可能に使用され得る。代謝可能な糖の例としては、糖の最初のリン酸化を介して解糖系によってATPを生産し得る、単糖および二糖が挙げられる。単糖の例としては、グルコース、フルクトース、キシロース、ガラクトース、マルトースおよびアラビノースが挙げられる。二糖の例としては、スクロースが挙げられる。他のリン酸化され得る糖もまた代謝可能な糖であり得る。マンニトールおよびソルビトールは最初のリン酸化を介してATPを生産できず、解糖系に入ることもできないので、通常本発明の糖には該当しない。ただし、代謝可能な糖は、本発明が対象とする生物によって変動し、以下に説明するような方法によって、その生物にとって特定の糖が代謝可能な糖であることが確認される場合、そのような糖もまた代謝可能な糖の範囲内にある。
【0102】
代謝可能な糖は、当該分野で周知である。ある特定の糖が代謝可能な糖であるか否かは、その糖を唯一の炭素源として目的の植物細胞を1週間ないし4週間培養した場合に、その植物細胞の数が増加するか否かを調べ、植物細胞の数が増加したら、その糖は代謝可能な糖であると決定され得る。植物細胞の数が増加するとは、培養開始前の細胞数を100%としたときに、1週間ないし4週間培養した後の植物細胞の数が、好ましくは約150%以上、より好ましくは約200%以上、さらに好ましくは約250%以上、さらに好ましくは約300%以上、さらに好ましくは約400%以上、さらに好ましくは約500%以上増加することをいう。
【0103】
本明細書において遺伝子、ポリヌクレオチド、ポリペプチドなどの「発現」とは、その遺伝子などがインビボで一定の作用を受けて、別の形態になることをいう。好ましくは、遺伝子、ポリヌクレオチドなどが、転写および翻訳されて、ポリペプチドの形態になることをいうが、転写されてmRNAが作製されることもまた発現の一形態であり得る。より好ましくは、そのようなポリペプチドの形態は、翻訳後プロセシングを受けたものであり得る。
【0104】
従って、本明細書において遺伝子、ポリヌクレオチド、ポリペプチドなどの「発現」の「減少」とは、本発明の因子を作用させたときに、作用させないときよりも、発現の量が有意に減少することをいう。好ましくは、発現の減少は、ポリペプチドの発現量の減少を含む。本明細書において遺伝子、ポリヌクレオチド、ポリペプチドなどの「発現」の「増加」とは、本発明の因子を作用させたときに、作用させないときよりも、発現の量が有意に増加することをいう。好ましくは、発現の増加は、ポリペプチドの発現量の増加を含む。
【0105】
本明細書において使用される用語「ポリペプチド」、「タンパク質」、および「ペプチド」は、本明細書において同じ意味で使用され、任意の長さのアミノ酸のポリマーをいう。このポリマーは、直鎖であっても分岐していてもよく、環状であってもよい。アミノ酸は、天然のものであっても非天然のものであってもよく、改変されたアミノ酸であってもよい。この用語はまた、複数のポリペプチド鎖の複合体へとアセンブルされ得る。この用語はまた、天然または人工的に改変されたアミノ酸ポリマーも包含する。そのような改変としては、例えば、ジスルフィド結合形成、グリコシル化、脂質化、アセチル化、リン酸化または任意の他の操作もしくは改変(例えば、標識成分との結合体化)。この定義にはまた、例えば、アミノ酸の1または2以上のアナログを含むポリペプチド(例えば、非天然のアミノ酸などを含む)、ペプチド様化合物(例えば、ペプトイド)および当該分野において公知の他の改変が包含される。
【0106】
一般に、特定のポリペプチド配列のうちのあるアミノ酸は、そのポリペプチドが有する生物学的活性の明らかな低下または消失なしに、他のアミノ酸に置換され得る。あるポリペプチドの生物学的活性を規定するのは、ポリペプチドの相互作用能力および性質である。従って、特定のアミノ酸の置換がそのポリペプチドのアミノ酸配列において、またはそのポリペプチドをコードするヌクレオチド配列のレベルにおいて行われ得、置換後もなお、もとの性質を維持するポリペプチドが生じ得る。従って、生物学的活性の明らかな損失なしに、種々の改変が、本明細書において開示されたポリペプチドまたはこのポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を有するヌクレオチドにおいて行われ得る。
【0107】
本明細書において「生物学的活性」とは、ある因子(例えば、ポリペプチドまたは核酸分子)が、生体内において有し得る活性のことをいい、種々の機能を発揮する活性が包含される。例えば、ある因子が酵素である場合、その生物学的活性は、その酵素活性を包含する。別の例では、ある因子がリガンドである場合、そのリガンドが対応するレセプターへの結合を包含する。例えば、ある因子がアンチセンス分子である場合、その生物学的活性は、対象となる核酸分子への結合、それによる発現抑制などを包含する。そのような生物学的活性は、当該分野において周知の技術によって測定することができる。ある因子がプロモーターである場合、その生物学的活性は、標的となる遺伝子の転写がそのプロモーターに特異的な刺激によって変動(好ましくは上昇)することを確認することができる。そのような確認は、当該分野において周知の分子生物学的手法を用いて行うことができる。
【0108】
本明細書中では一般に、ポリペプチドを作製するために、アミノ酸の置換、付加、欠失または修飾を行うことができる。アミノ酸の置換とは、1つのアミノ酸を別の1つのアミノ酸に置き換えることをいう。アミノ酸の付加とは、もとのアミノ酸配列中のどこかの位置に、1つ以上、例えば、1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個のアミノ酸を挿入することをいう。アミノ酸の欠失とは、もとのアミノ酸配列から1つ以上、例えば、1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個のアミノ酸を除去することをいう。アミノ酸修飾の例としては、アミド化、カルボキシル化、硫酸化、ハロゲン化、アルキル化、グリコシル化、リン酸化、水酸化、アシル化(例えば、アセチル化)などが挙げられるが、これらに限定されない。置換または付加されるアミノ酸は、天然のアミノ酸であってもよく、非天然のアミノ酸またはアミノ酸アナログであってもよい。天然のアミノ酸が好ましい。
【0109】
全長ヌクレオチドから一部のヌクレオチドが欠失したヌクレオチドおよび全長ポリペプチドから一部のアミノ酸が欠失したポリペプチドは、フラグメントとも呼ばれる。本明細書において、「フラグメント」とは、全長のポリペプチドまたはポリヌクレオチド(長さがn)に対して、1〜n−1までの配列長さを有するポリペプチドまたはポリヌクレオチドをいう。フラグメントの長さは、その目的に応じて、適宜変更することができ、例えば、その長さの下限としては、ポリペプチドの場合、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、40、50およびそれ以上のアミノ酸が挙げられ、ここの具体的に列挙していない整数で表される長さ(例えば、11など)もまた、下限として適切であり得る。また、ポリヌクレオチドの場合、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、40、50、75、100およびそれ以上のヌクレオチドが挙げられ、ここに具体的に列挙していない整数で表される長さ(例えば、11など)もまた、下限として適切であり得る。
【0110】
ポリペプチドは、そのポリペプチド特有の生物学的活性を有する、ポリペプチドアナログであってもよい。特にそのポリペプチドが酵素である場合、ポリペプチドは、酵素アナログであってもよい。本明細書において使用される用語「酵素アナログ」とは、天然の酵素とは異なる化合物であるが、天然の酵素と少なくとも1つの化学的機能または生物学的機能が等価であるものをいう。したがって、酵素アナログには、もとの天然の酵素に対して、1つ以上のアミノ酸アナログが付加または置換されているものが含まれる。酵素アナログは、その機能(例えば、α−ホスホリラーゼ活性または耐熱性)が、もとの天然の酵素の機能と実質的に同様またはそれよりも良好であるように、このような付加または置換がされている。そのような酵素アナログは、当該分野において周知の技術を用いて作製することができる。したがって、酵素アナログは、アミノ酸アナログを含むポリマーであり得る。本明細書において「酵素」は、特に言及しない限り、この酵素アナログを包含する。
【0111】
本明細書において、「アミノ酸」は、天然のアミノ酸であっても、非天然アミノ酸であっても、誘導体アミノ酸であっても、アミノ酸アナログであってもよい。天然のアミノ酸が好ましい。
【0112】
用語「天然のアミノ酸」とは、天然のアミノ酸のL−異性体を意味する。天然のアミノ酸は、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、メチオニン、トレオニン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、システイン、プロリン、ヒスチジン、アスパラギン酸、アスパラギン、グルタミン酸、グルタミン、γ−カルボキシグルタミン酸、アルギニン、オルニチン、およびリジンである。特に示されない限り、本明細書でいう全てのアミノ酸はL体であるが、D体のアミノ酸を用いた形態もまた本発明の範囲内にある。
【0113】
用語「非天然アミノ酸」とは、タンパク質中で通常は天然に見出されないアミノ酸を意味する。非天然アミノ酸の例として、ノルロイシン、パラ−ニトロフェニルアラニン、ホモフェニルアラニン、パラ−フルオロフェニルアラニン、3−アミノ−2−ベンジルプロピオン酸、ホモアルギニンのD体またはL体およびD−フェニルアラニンが挙げられる。
【0114】
「誘導体アミノ酸」とは、アミノ酸を誘導体化することによって得られるアミノ酸をいう。
【0115】
「アミノ酸アナログ」とは、アミノ酸ではないが、アミノ酸の物性および/または機能に類似する分子をいう。アミノ酸アナログとしては、例えば、エチオニン、カナバニン、2−メチルグルタミンなどが挙げられる。
【0116】
アミノ酸は、その一般に公知の3文字記号か、またはIUPAC−IUB Biochemical Nomenclature Commissionにより推奨される1文字記号のいずれかにより、本明細書中で言及され得る。ヌクレオチドも同様に、一般に受け入れられた1文字コードにより言及され得る。
【0117】
目的の改変に加えて、天然のポリペプチドのアミノ酸配列に対して1もしくは数個またはそれを超える複数のアミノ酸の置換、付加または欠失による改変を含む改変ポリペプチドは、本発明の範囲内にある。そのような1もしくは数個またはそれを超えるアミノ酸の置換、付加または欠失を含む改変ポリペプチドは、Molecular Cloning,A Laboratory Manual,Second Edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)、Current Protocols in Molecular Biology,Supplement 1〜38,JohnWiley & Sons(1987−1997)、Nucleic Acids Research,10,6487(1982)、Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,79,6409(1982)、Gene,34,315(1985)、Nucleic Acids Research,13,4431(1985)、Proc.Natl.Acad.Sci USA,82,488(1985)、Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,81,5662(1984)、Science,224,1431(1984)、PCT WO85/00817(1985)、Nature,316,601(1985)等に記載の方法に準じて調製することができる。
【0118】
目的のポリペプチドのアミノ酸の欠失、置換もしくは付加は、周知技術である部位特異的変異誘発法により実施することができる。部位特異的変異誘発の手法は、当該分野では周知である。例えば、Nucl.Acid Research,Vol.10,pp.6487−6500(1982)を参照のこと。
【0119】
本明細書において、生物学的活性を有する特定のポリペプチドに関して用いられるとき「1もしくは数個またはそれを超える複数のアミノ酸の置換、付加または欠失」または「少なくとも1つのアミノ酸の置換、付加または欠失」とは、この特定のポリペプチドが有する生物学的活性のうちの少なくとも1つの活性が喪失しない、好ましくはその活性が基準となるもの(例えば、天然のその特定のポリペプチド)と同等以上となるような程度の数の置換、付加または欠失をいう。当業者は、所望の性質を有する改変ポリペプチドを容易に選択することができる。
【0120】
このようにして作製された特定の改変ポリペプチドは、改変前のポリペプチドのアミノ酸配列に対して、好ましくは約40%、より好ましくは約45%、より好ましくは約50%、より好ましくは約55%、より好ましくは約60%、より好ましくは約65%、より好ましくは約70%、より好ましくは約75%、より好ましくは約80%、より好ましくは約85%、より好ましくは約90%、より好ましくは約95%、そして最も好ましくは約99%の同一性を有する。
【0121】
上記のような改変を設計する際に、アミノ酸の疎水性指数が考慮され得る。ポリペプチドの生物学的機能に関するアミノ酸の疎水性指数の重要性は、一般に当該分野で認められている(Kyte.JおよびDoolittle,R.F.J.Mol.Biol.157(1):105−132,1982)。アミノ酸の疎水的性質は、生成したポリペプチドの二次構造に寄与し、次いでそのポリペプチドと他の分子(例えば、酵素、基質、レセプター、DNA、抗体、抗原など)との相互作用を規定する。各アミノ酸は、それらの疎水性および電荷の性質に基づく疎水性指数を割り当てられる。各アミノ酸に割り当てられた疎水性指数は以下の通りである:イソロイシン(+4.5);バリン(+4.2);ロイシン(+3.8);フェニルアラニン(+2.8);システイン/シスチン(+2.5);メチオニン(+1.9);アラニン(+1.8);グリシン(−0.4);スレオニン(−0.7);セリン(−0.8);トリプトファン(−0.9);チロシン(−1.3);プロリン(−1.6);ヒスチジン(−3.2);グルタミン酸(−3.5);グルタミン(−3.5);アスパラギン酸(−3.5);アスパラギン(−3.5);リジン(−3.9);およびアルギニン(−4.5))。
【0122】
あるポリペプチド中のあるアミノ酸を、同様の疎水性指数を有する他のアミノ酸により置換して、そして依然としてこのポリペプチドと同様の生物学的機能を有するポリペプチド(例えば、酵素活性が等価なポリペプチド)を生じさせ得ることが当該分野で周知である。このようなアミノ酸置換において、疎水性指数が±2以内であることが好ましく、±1以内であることがより好ましく、そして±0.5以内であることがさらにより好ましい。疎水性に基づくこのようなアミノ酸の置換は効率的であることが当該分野において理解される。
【0123】
本明細書においては、タンパク質の設計および性質の検討の際には、親水性指数もまた考慮され得る。米国特許第4,554,101号に記載されるように、以下の親水性指数がアミノ酸残基に割り当てられている:アルギニン(+3.0);リジン(+3.0);アスパラギン酸(+3.0±1);グルタミン酸(+3.0±1);セリン(+0.3);アスパラギン(+0.2);グルタミン(+0.2);グリシン(0);スレオニン(−0.4);プロリン(−0.5±1);アラニン(−0.5);ヒスチジン(−0.5);システイン(−1.0);メチオニン(−1.3);バリン(−1.5);ロイシン(−1.8);イソロイシン(−1.8);チロシン(−2.3);フェニルアラニン(−2.5);およびトリプトファン(−3.4)。あるポリペプチド中のあるアミノ酸が、このアミノ酸と同様の親水性指数を有しかつ依然として生物学的活性を与え得る別のアミノ酸に置換され得ることが理解される。このようなアミノ酸置換において、親水性指数が±2以内であることが好ましく、±1以内であることがより好ましく、そして±0.5以内であることがさらにより好ましい。
【0124】
本発明において、「保存的置換」とは、アミノ酸置換において、元のアミノ酸と置換されるアミノ酸との親水性指数または/および疎水性指数が上記のように類似している置換をいう。保存的置換の例としては、例えば、親水性指数または疎水性指数が、±2以内のもの同士、好ましくは±1以内のもの同士、より好ましくは±0.5以内のもの同士のものが挙げられるがそれらに限定されない。従って、保存的置換の例は、当業者に周知であり、例えば、次の各グループ内での置換:アルギニンおよびリジン;グルタミン酸およびアスパラギン酸;セリンおよびスレオニン;グルタミンおよびアスパラギン;ならびにバリン、ロイシン、およびイソロイシン、などが挙げられるがこれらに限定されない。
【0125】
本発明の糖欠乏誘導性プロモーター配列は、好ましくは、β−ガラクトシダーゼ(Gal)をコードする遺伝子のプロモーター配列、β−キシロシダーゼ(Xyl)をコードする遺伝子のプロモーター配列およびβ−グルコシダーゼ(Glc)をコードする遺伝子のプロモーター配列からなる群より選択され、より好ましくはβ−ガラクトシダーゼをコードする遺伝子のプロモーター配列またはβ−キシロシダーゼをコードする遺伝子のプロモーター配列である。本発明の糖欠乏誘導性プロモーター配列は、好ましくは、(a)配列番号1の643位〜1799位、配列番号3の1位〜1763位または配列番号5の1位〜2058位に示されるヌクレオチド配列;(b)(a)のヌクレオチド配列と比較して、1もしくは数個のヌクレオチドの置換、欠失または付加を含むヌクレオチド配列であって、糖欠乏誘導性プロモーター活性を有するヌクレオチド配列;(c)(a)または(b)のヌクレオチド配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ糖欠乏誘導性プロモーター活性を有するヌクレオチド配列;(d)(a)のヌクレオチド配列に対して少なくとも70%の同一性を有するヌクレオチド配列であって、かつ糖欠乏誘導性プロモーター活性を有するヌクレオチド配列;ならびに(e)(a)〜(d)のいずれかのヌクレオチド配列の短縮配列であって、糖欠乏誘導性プロモーター活性を有するヌクレオチド配列からなる群より選択され、該ヌクレオチド配列に作動可能に上記異種遺伝子配列が連結されると、該異種遺伝子の糖欠乏誘導性発現を促進する活性を有する。
【0126】
本明細書において使用される用語「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」および「核酸」は、本明細書において同じ意味で使用され、任意の長さのヌクレオチドのポリマーをいう。この用語はまた、「誘導体オリゴヌクレオチド」または「誘導体ポリヌクレオチド」を含む。「誘導体オリゴヌクレオチド」または「誘導体ポリヌクレオチド」とは、ヌクレオチドの誘導体を含むか、またはヌクレオチド間の結合が通常とは異なるオリゴヌクレオチドもしくはポリヌクレオチドをいい、互換的に使用される。そのようなオリゴヌクレオチドとして具体的には、例えば、2’−O−メチル−リボヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のリン酸ジエステル結合がホスホロチオエート結合に変換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のリン酸ジエステル結合がN3’−P5’ホスホロアミデート結合に変換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のリボースとリン酸ジエステル結合とがペプチド核酸結合に変換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のウラシルがC−5プロピニルウラシルで置換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のウラシルがC−5チアゾールウラシルで置換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のシトシンがC−5プロピニルシトシンで置換された誘導体オリゴヌクレオチド、オリゴヌクレオチド中のシトシンがフェノキサジン修飾シトシン(phenoxazine−modified cytosine)で置換された誘導体オリゴヌクレオチド、DNA中のリボースが2’−O−プロピルリボースで置換された誘導体オリゴヌクレオチドおよびオリゴヌクレオチド中のリボースが2’−メトキシエトキシリボースで置換された誘導体オリゴヌクレオチドなどが例示される。他にそうではないと示されなければ、特定の核酸配列はまた、明示的に示された配列と同様に、その保存的に改変された改変体(例えば、縮重コドン置換体)および相補配列を包含することが意図される。具体的には、縮重コドン置換体は、1もしくは数個、またはより多数の選択された(または、すべての)コドンの3番目の位置が混合塩基および/またはデオキシイノシン残基で置換された配列を作成することにより達成され得る(Batzerら、Nucleic Acid Res.19:5081(1991);Ohtsukaら、J.Biol.Chem.260:2605−2608(1985);Rossoliniら、Mol.Cell.Probes 8:91−98(1994))。
【0127】
本明細書において、ポリペプチド配列またはヌクレオチド配列の「置換、欠失または付加」とは、もとのポリペプチドまたはポリヌクレオチドに対して、それぞれアミノ酸もしくはその代替物、またはヌクレオチドもしくはその代替物が、置き換わること、取り除かれることまたは付け加わることをいう。このような置換、欠失または付加の技術は、当該分野において周知であり、そのような技術の例としては、部位特異的変異誘発技術などが挙げられる。置換、欠失または付加は、1つ以上であれば任意の数でよく、そのような数は、その置換、欠失または付加を有する改変体において目的とする機能(例えば、糖欠乏誘導性プロモーターの糖欠乏誘導性およびプロモーター活性、異種遺伝子配列の場合、所望のタンパク質活性など)が保持される限り、多くすることができる。例えば、そのような数は、1または数個であり得、そして好ましくは、全体の長さの20%以内、10%以内、または100個以下、50個以下、25個以下などであり得る。本発明で用いられる糖欠乏誘導性プロモーター配列は、糖欠乏誘導性プロモーター活性を保持する限り、任意の長さであり得る。このような配列は、例えば、もとのプロモーター配列のヌクレオチド配列を5’側または3’側から少しずつ欠失させ、糖欠乏誘導プロモーター活性を保持しているかを確認することにより、容易に決定され得る。このようなプロモーター配列を短縮させる方法は、当業者に周知であり、容易に実施され得る。
【0128】
本明細書において、「改変体」とは、もとのポリペプチドまたはポリヌクレオチドなどの物質に対して、一部が変更されているものをいう。そのような改変体としては、置換改変体、付加改変体、欠失改変体、短縮(truncated)改変体、対立遺伝子変異体、グリコシル化改変体、脂質化改変体、複合分子による改変体などが挙げられる。好ましくは、改変体は、改変のもととなる物質(例えば、酵素)の特性(例えば、生物学的特性)を少なくとも1つ、より好ましくは複数保持している。などが挙げられる。対立遺伝子(allele)とは、同一遺伝子座に属し、互いに区別される遺伝的改変体のことをいう。従って、「対立遺伝子変異体」とは、ある遺伝子に対して、対立遺伝子の関係にある改変体をいう。そのような対立遺伝子変異体は、通常その対応する対立遺伝子と同一または非常に類似性の高い配列を有し、通常はほぼ同一の生物学的活性を有するが、まれに異なる生物学的活性を有することもある。「種相同体またはホモログ(homolog)」とは、ある種の中で、ある遺伝子とアミノ酸レベルまたはヌクレオチドレベルで、相同性(好ましくは、60%以上の相同性、より好ましくは、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上の相同性)を有するものをいう。そのような種相同体を取得する方法は、当該分野で周知である。「オルソログ(ortholog)」とは、オルソロガス遺伝子(orthologous gene)ともいい、二つの遺伝子がある共通祖先からの種分化に由来する遺伝子をいう。例えば、多重遺伝子構造をもつヘモグロビン遺伝子ファミリーを例にとると、ヒトおよびマウスのαヘモグロビン遺伝子はオルソログであるが、ヒトのαヘモグロビン遺伝子およびβヘモグロビン遺伝子はパラログ(遺伝子重複で生じた遺伝子)である。また、システインプロテアーゼインヒビターである、ヒトのシスタチンAと、イネのオリザシスタチンとを比較すると、標的となるプロテアーゼとの相互作用に重要と考えられる3箇所の短いアミノ酸モチーフが保存されているだけで、他の部分のアミノ酸の共通性は非常に低い。しかし、両者はともにシスタチン遺伝子スーパーファミリーに属し、共通祖先遺伝子を持つとされていることから、単に全体的なアミノ酸の相同性に限らず、局所的に高い相同性を持つアミノ酸配列が共通して存在する場合も、オルソログたり得る。このように、オルソログは、通常別の種においてもとの種と同様の機能を果たしていることがあり得ることから、本発明において用いられる糖欠乏誘導性プロモーター、代謝可能な糖を分解し得る酵素をコードする遺伝子のプロモーターのオルソログもまた、本発明において有用であり得る。
【0129】
「保存的(に改変された)改変体」は、ポリペプチド配列およびヌクレオチド配列の両方に適用される。特定のヌクレオチド配列に関して、保存的に改変された改変体とは、同一のまたは本質的に同一のポリペプチド配列をコードするヌクレオチド配列をいう。アンチセンスコード配列のように、ヌクレオチド配列がポリペプチド配列をコードしない場合には、保存的に改変された改変体とは、本質的に同一な配列をいう。遺伝コードの縮重のため、多数の機能的に同一なヌクレオチド配列が任意の所定のポリペプチドをコードする。例えば、コドンGCA、GCC、GCG、およびGCT(GCU)はすべて、アミノ酸アラニンをコードする。したがって、アラニンがコドンにより特定される全ての位置で、そのコドンは、コードされたポリペプチドを変更することなく、記載された対応するコドンの任意のものに変更され得る。このようなヌクレオチド配列の変動は、保存的に改変された変異の1つの種である「サイレント改変(変異)」である。ポリペプチドをコードする本明細書中のすべてのヌクレオチド配列はまた、そのヌクレオチド配列の可能なすべてのサイレント変異を記載する。当該分野において、ヌクレオチド配列中の各コドン(通常メチオニンのための唯一のコドンであるATG(AUG)、および通常トリプトファンのための唯一のコドンであるTGGを除く)が、機能的に同一な分子を産生するために改変され得ることが理解される。したがって、ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列の各サイレント変異は、記載された各配列において暗黙に含まれる。好ましくは、そのような改変は、ポリペプチドの高次構造に多大な影響を与えるアミノ酸であるシステインの置換を回避するようになされ得る。このような塩基配列の改変法としては、制限酵素などによる切断、DNAポリメラーゼ、Klenowフラグメント、DNAリガーゼなどによる処理等による連結等の処理、合成オリゴヌクレオチドなどを用いた部位特異的塩基置換法(特定部位指向突然変異法;Mark Zoller and Michael Smith,Methods in Enzymology,100,468−500(1983))が挙げられるが、この他にも通常分子生物学の分野で用いられる方法によって改変を行うこともできる。
【0130】
シグナルペプチドコード配列および異種遺伝子配列は、導入される生物におけるコドンの使用頻度にあわせて変更され得る。コドン使用頻度は、その生物において高度に発現される遺伝子での使用頻度を反映する。例えば、大腸菌において発現させることを意図する場合、公開されたコドン使用頻度表(例えば、Sharpら,Nucleic Acids Research 16 第17号,8207頁(1988))に従って大腸菌での発現のために最適にすることができる。
【0131】
本明細書においてヌクレオチド配列(またはポリペプチド配列)の「同一性」とは、2以上のヌクレオチド配列(またはポリペプチド配列)の間で同一のヌクレオチド(ポリペプチド配列を比較する場合はアミノ酸)の出現する程度をいう。同一性は一般に、2以上のヌクレオチド配列(またはポリペプチド酸配列)の全長を比較して、付加または欠失を含み得る最適な様式で整列(アライン)されたこれら2以上の配列を比較することによって決定される。同一性パーセントは、ヌクレオチド(ポリペプチド配列を比較する場合はアミノ酸)がこの2以上の配列間で同一である位置の数を決定し、比較した位置の総数で同一の位置の数を除算し、そしてこれら2つの配列間の同一性パーセントを得るために、得られた結果に100を掛けることによって算出される。2以上の遺伝子配列を直接比較する場合、その遺伝子配列間でDNA配列が、代表的には少なくとも50%同一である場合、好ましくは少なくとも70%同一である場合、より好ましくは少なくとも80%、90%、95%、96%、97%、98%または99%同一である場合、それらの遺伝子は同一性を有する。
【0132】
本明細書において、ヌクレオチド配列(またはポリペプチド配列)の「類似性」とは、上記同一性において、保存的置換をポジティブ(同一)とみなした場合の、2以上のヌクレオチド配列(またはポリペプチド配列)の、互いに対する同一性の程度をいう。従って、保存的置換がある場合は、その保存的置換の存在に応じて同一性と類似性とは異なる。また、保存的置換がない場合は、同一性と類似性とは同じ数値を示す。
【0133】
同一性%は例えば、NCBIのBLAST 2.2.9(2004.5.12発行)を用いて決定することができる。本明細書における同一性の値は通常は上記BLASTを用い、デフォルトの条件でアラインした際の値をいう。ただし、パラメーターの変更により、より高い値が出る場合は、最も高い値を同一性の値とする。複数の領域で同一性が評価される場合はそのうちの最も高い値を同一性の値とする。
【0134】
2以上のヌクレオチド配列の同一性または類似性の程度に関しては、配列の直接比較以外にも、ストリンジェントな条件下でのハイブリダイゼーションを調べることによって確認され得る。
【0135】
本明細書中で使用する用語「ストリンジェントな条件」とは、特異的な配列にはハイブリダイズするが、非特異的な配列にはハイブリダイズしない条件をいう。ストリンジェントな条件の設定は、当業者に周知であり、例えば、Moleculer Cloning(Sambrookら、前出)に記載される。具体的には、例えば、コロニーあるいはプラーク由来のDNAを固定化したフィルターを用いて、50%ホルムアミド、5×SSC(750mM NaCl、75mM クエン酸三ナトリウム)、50mM リン酸ナトリウム(pH7.6)、5×デンハルト溶液(0.2% BSA、0.2% Ficoll 400および0.2%ポリビニルピロリドン)、10%硫酸デキストラン、および20μg/ml変性剪断サケ精子DNAを含む溶液中での65℃で6時間ないし24時間ハイブリダイゼーションを行った後、0.1〜2倍濃度のSSC(saline−sodium citrate)溶液(1倍濃度のSSC溶液の組成は、150mM 塩化ナトリウム、15mM クエン酸ナトリウムである)を用い、65℃条件下でフィルターを洗浄するという条件を用いることにより同定できるポリヌクレオチドを意味する。
【0136】
本明細書において、エキソ型糖分解酵素をコードする遺伝子のプロモーター配列とは、エキソ型糖分解酵素遺伝子が有するプロモーター配列をいう。
【0137】
本明細書において、「エキソ型糖分解酵素」とは、糖鎖の末端部分に作用して、末端の糖残基を逐次遊離する酵素をいう。エキソ型糖分解酵素の例としては、以下が挙げられるがこれらに限定されない:β−ガラクトシダーゼ、β−キシロシダーゼ、β−グルコシダーゼ、α−キシロシダーゼおよびβ−フコシダーゼ。本発明では、このような酵素をコードするヌクレオチド配列の上流のヌクレオチド配列であって、目的の生物においてプロモーターの活性を示すものであれば、どのようなヌクレオチド配列でも使用することができる。
【0138】
本発明のエキソ型糖分解酵素をコードする遺伝子のプロモーター配列は、好ましくは、β−ガラクトシダーゼをコードする遺伝子のプロモーター配列、β−キシロシダーゼをコードする遺伝子のプロモーター配列およびβ−グルコシダーゼをコードする遺伝子のプロモーター配列からなる群より選択され、より好ましくはβ−ガラクトシダーゼをコードする遺伝子のプロモーター配列、β−キシロシダーゼをコードする遺伝子のプロモーター配列である。本発明の糖欠乏誘導性プロモーター配列は、好ましくは、(a)配列番号1の643位〜1799位、配列番号3の1位〜1763位または配列番号5の1位〜2058位に示されるヌクレオチド配列;(b)(a)のヌクレオチド配列と比較して、1もしくは数個のヌクレオチドの置換、欠失または付加を含むヌクレオチド配列であって、糖欠乏誘導性プロモーター活性を有するヌクレオチド配列;(c)(a)または(b)のヌクレオチド配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ糖欠乏誘導性プロモーター活性を有するヌクレオチド配列;(d)(a)のヌクレオチド配列に対して少なくとも70%の同一性を有するヌクレオチド配列であって、かつ糖欠乏誘導性プロモーター活性を有するヌクレオチド配列;ならびに(e)(a)〜(d)のいずれかのヌクレオチド配列の短縮配列であって、糖欠乏誘導性プロモーター活性を有するヌクレオチド配列からなる群より選択され、該ヌクレオチド配列に作動可能に上記異種遺伝子配列が連結されると、該異種遺伝子の糖欠乏誘導性発現を促進する活性を有する。
【0139】
本明細書において、代謝可能な糖を分解し得る酵素をコードする遺伝子のプロモーター配列とは、代謝可能な糖を加水分解し得る酵素をコードする遺伝子のプロモーター配列をいう。本明細書において、「代謝可能な糖を分解し得る酵素」とは、上記のような、代謝可能な糖を分解し得る酵素である。このような酵素の例としては、以下が挙げられるがこれらに限定されない:β−ガラクトシダーゼ、β−キシロシダーゼ、β−グルコシダーゼ、α−キシロシダーゼおよびβ−フコシダーゼ。本発明では、このような酵素をコードするヌクレオチド配列の上流のヌクレオチド配列であって、目的の生物においてプロモーターの活性を示すものであれば、どのようなヌクレオチド配列でも使用することができる。
【0140】
本発明の代謝可能な糖を分解し得る酵素をコードする遺伝子のプロモーター配列は、好ましくは、β−ガラクトシダーゼをコードする遺伝子のプロモーター配列、β−キシロシダーゼをコードする遺伝子のプロモーター配列およびβ−グルコシダーゼをコードする遺伝子のプロモーター配列からなる群より選択され、より好ましくはβ−ガラクトシダーゼをコードする遺伝子のプロモーター配列またはβ−キシロシダーゼをコードする遺伝子のプロモーター配列である。本発明の糖欠乏誘導性プロモーター配列は、好ましくは、(a)配列番号1の643位〜1799位、配列番号3の1位〜1763位または配列番号5の1位〜2058位に示されるヌクレオチド配列;(b)(a)のヌクレオチド配列と比較して、1もしくは数個のヌクレオチドの置換、欠失または付加を含むヌクレオチド配列であって、糖欠乏誘導性プロモーター活性を有するヌクレオチド配列;(c)(a)または(b)のヌクレオチド配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ糖欠乏誘導性プロモーター活性を有するヌクレオチド配列;(d)(a)のヌクレオチド配列に対して少なくとも70%の同一性を有するヌクレオチド配列であって、かつ糖欠乏誘導性プロモーター活性を有するヌクレオチド配列ならびに(e)(a)〜(d)のいずれかのヌクレオチド配列の短縮配列であって、糖欠乏誘導性プロモーター活性を有するヌクレオチド配列からなる群より選択され、該ヌクレオチド配列に作動可能に上記異種遺伝子配列が連結されると、該異種遺伝子の糖欠乏誘導性発現を促進する活性を有する。
【0141】
本発明で糖欠乏誘導性プロモーター、エキソ型糖分解酵素をコードする遺伝子のプロモーター配列または代謝可能な糖を分解し得る酵素をコードする遺伝子のプロモーター配列に加えて、他のプロモーターを併用してもよい。このような用いられ得る他のプロモーターの例としては、CaMV35Sプロモーター、ノパリンシンターゼプロモーター、ユビキチンプロモーターなど、およびそれらの改変プロモーターが挙げられるがこれらに限定されない。本発明では、目的の生物においてプロモーターの活性を示すものであれば、どのようなヌクレオチド配列でも使用することができる。このような他のプロモーターは、部位特異的プロモーターであっても、時期特異的プロモーターであっても、構成的プロモーターであっても、ストレス(または刺激)応答性プロモーターであっても、ストレス(または刺激)誘導性プロモーターであっても、ストレス(または刺激)減少性プロモーターであってもよい。構成的プロモーターの例としては、CaMV35Sプロモーター、ノパリンシンターゼプロモーターおよびユビキチンプロモーターが挙げられる。特異的プロモーターの例としては、組織特異的プロモーターおよび器官特異的プロモーターが挙げられる。
【0142】
本発明において、糖欠乏誘導性プロモーター、エキソ型糖分解酵素をコードする遺伝子のプロモーター配列または代謝可能な糖を分解し得る酵素をコードする遺伝子のプロモーター配列に連結される異種遺伝子配列は、連結されるプロモーター配列に対して異種のヌクレオチド配列であれば、任意のヌクレオチド配列であり得る。異種遺伝子配列は、例えば、タンパク質コード配列、アンチセンスコード配列、リボザイムコード配列、解析を目的とするヌクレオチド配列などであり得る。異種遺伝子配列は好ましくは、タンパク質コード配列またはアンチセンスコード配列であり得る。異種遺伝子配列は、天然に存在するヌクレオチド配列であってもよく、天然に存在するヌクレオチド配列を改変したものであってもよく、人工的に合成した遺伝子であってもよく、それらの複合体(例えば、融合体)であってもよい。
【0143】
本明細書中では「作動可能に連結される(た)」とは、所望のヌクレオチド配列(例えば、異種遺伝子配列)が、発現(すなわち、作動)をもたらす転写調節配列(例えば、プロモーター、ターミネーター、エンハンサーなど)または翻訳調節配列(例えば、イントロン、スプライスドナー、スプライスアクセプターなど)の制御下に配置されることをいう。例えば、プロモーターが遺伝子に作動可能に連結されるためには、通常、その遺伝子のすぐ上流にプロモーターが配置されるが、必ずしも隣接して配置される必要はない。
【0144】
人工的に合成したヌクレオチド配列を作製するためのDNA合成技術および核酸化学については、例えば、Gait,M.J.(1985).Oligonucleotide Synthesis:A Practical Approach,IRLPress;Gait,M.J.(1990).Oligonucleotide Synthesis:A Practical Approach,IRL Press;Eckstein,F.(1991).Oligonucleotides and Analogues:A Practical Approac,IRL Press;Adams,R.L.etal.(1992).The Biochemistry of the Nucleic Acids,Chapman&Hall;Shabarova,Z.et al.(1994).Advanced Organic Chemistry of Nucleic Acids,Weinheim;Blackburn,G.M.et al.(1996).Nucleic Acids in Chemistry and Biology,Oxford University Press;Hermanson,G.T.(I996).Bioconjugate Techniques,Academic Pressなどに記載されており、これらは本明細書において関連する部分が参考として援用される。
【0145】
本明細書中の異種遺伝子配列は、目的の生物において発現し得るものであれば、どのようなものでもよい。例えば、特定の植物において発現させることを目的とするのであれば、その特定の植物において発現し得るのであればよい。
【0146】
1つの実施形態において、異種遺伝子配列は、タンパク質コード配列である。タンパク質コード配列は、大量に発現されることが意図される有用なタンパク質をコードするものであれば、どのようなものでもよく、そのようなものもまた、本発明の範囲内に含まれる。タンパク質コード配列の例としては、例えば、以下が挙げられるがこれらに限定されない:医薬活性のあるペプチド(例えば、サイトカイン類(インターフェロン類、インターロイキン類、ケモカイン類、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、マクロファージコロニー刺激因子(M−CSF)、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、multi−CSF(IL−3)、エリスロポエチン(EPO)、白血病抑制因子(LIF)、c−kitリガンド(SCF)のような造血因子、腫瘍壊死因子、血小板由来増殖因子(PDGF)、上皮増殖因子(EGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、肝実質細胞増殖因子(HGF)、血管内皮増殖因子(VEGF)など);ホルモン類(インスリン、成長ホルモン、甲状腺ホルモンなど));ワクチン抗原;抗原(例えば、ヒト抗体(好ましくは完全ヒト抗体)、ヒト化抗体、多重特異性抗体、キメラ抗体、単鎖抗体、FabフラグメンペF(ab’)フラグメント、Fab発現ライブラリーによって産生されたフラグメント、抗イディオタイプ(抗Id)抗体、エピトープ結合フラグメント);血液製剤;農業生産上有用なペプチド(例えば、抗菌タンパク質);生理作用または薬理作用を持つ2次代謝産物を合成する様々な酵素および加水分解酵素;酵素反応を調節するインヒビター;血圧効果作用を持つとされるダイズグリシニン;あるいは消化管内で酵素分解を受けることで生理活性ペプチドが切り出されるようにデザインされた人工タンパク質。また栄養学的に意義のある物質としては、カゼイン、マメ類のアルブミンおよびグロブリン、ビタミン類の合成酵素、糖合成酵素、脂質合成酵素などがあげられるがそれらに限定されない。さらに様々な加工食品の原料として加工特性に関与するタンパク質として、例えばコムギグルテニン(製パン)、ダイズグロブリン群(豆腐)、ミルクカゼイン群(チーズ)などが挙げられる。食品の嗜好性または機能性を強化するタンパク質(例えば、シクロデキストリン、オリゴ糖、γアミノ酢酸などの特殊な糖またはアミノ酸類の合成酵素群、外観を良くする色素合成酵素、および味覚成分合成に関与するタンパク質群)、あるいは、消化管内で酵素消化を受けることによって生理作用をもつペプチド(例えば血圧効果作用をもつ、アンジオテンシン変換酵素阻害ペプチドなど)が切り出されるようにデザインされた人工タンパク質などが挙げられるがこれらに限定されない。異種遺伝子配列は、好ましくは、サイトカインまたはホルモンの遺伝子配列である。異種遺伝子配列は、より好ましくは、植物中で発現された場合に目的の機能を有するタンパク質をコードする。本明細書中で、「植物中で発現された場合に目的の機能を有するタンパク質」とは、植物中で発現された遺伝子産物が、動物中、植物中またはインビトロにおいて、目的とする機能を果たすことをいう。例えば、植物中で発現された遺伝子産物の糖鎖修飾が、動物において発現された場合と同じであるか、またはインビトロで、もしくは動物に投与された場合に、目的とする機能を果たすこと、または有害な作用を発揮しないことをいう。目的とする機能とは、そのタンパク質が、従来の方法で製造された場合に発揮される機能をいう。例えば、異種遺伝子配列が、抗体をコードする場合、この抗体は、動物中に投与した場合に防御抗体として(すなわち、治療薬または予防薬として)機能してもよく、あるいは、インビトロで特異的な抗原に結合してもよい(すなわち、診断薬として機能してもよい)。異種遺伝子配列は、さらに好ましくは、インターフェロン(α、βまたはγ)、抗体、ヒトα−アンチトリプシン(AAT)または緑色蛍光タンパク質(GFP)の遺伝子配列であり、さらに好ましくは抗体または緑色蛍光タンパク質であり、最も好ましくは緑色蛍光タンパク質である。
【0147】
1つの実施形態において、異種遺伝子配列は、マーカー遺伝子であり得る。マーカー遺伝子とは、選択遺伝子と同義であり、その選択マーカーがコードする産物の発現によって、選択マーカーが存在する細胞と存在しない細胞とを識別することができる、ヌクレオチドをいう。
【0148】
1つの実施形態において、異種遺伝子配列は、アンチセンスコード配列であり得る。アンチセンスコード配列は、発現を抑制または阻止することが意図される特定の遺伝子のアンチセンス配列をコードし、かつ、アンチセンス活性を有するものであれば、どのようなものでもよく、そのようなものもまた、本発明の範囲内に含まれる。アンチセンス配列とは、コード配列(センス配列ともいう)に相補的な配列をいう。
【0149】
本明細書において「アンチセンス活性」とは、標的となる遺伝子の発現を特異的に抑制または減少させることができる活性をいう。より具体的には細胞内に導入したあるヌクレオチド配列に依存して、その配列と相補的なヌクレオチド配列領域をもつ遺伝子のmRNA量を特異的に低下させることで、タンパク発現量を減少させ得る活性をいう。手法としては、標的となる遺伝子からつくられるmRNAに相補的なRNA分子を直接的に細胞に導入する方法と、細胞内に目的遺伝子と相補的なRNAを発現させ得る構築ベクターを導入する方法に大別される。植物においては、後者が一般的である。
【0150】
アンチセンス活性は、通常、発現を抑制または阻止することが意図される遺伝子のコード配列と相補的な、少なくとも約8ヌクレオチド長のヌクレオチド配列によって達成される。アンチセンスコード配列は、好ましくは少なくとも約9ヌクレオチド長であり、より好ましく約10ヌクレオチド長であり、さらに好ましくは約11ヌクレオチド長であり、さらに好ましくは約12ヌクレオチド長であり、さらに好ましくは約13ヌクレオチド長であり、さらに好ましくは約14ヌクレオチド長であり、さらに好ましくは約15ヌクレオチド長であり、さらに好ましくは約20ヌクレオチド長であり、さらに好ましくは約25ヌクレオチド長であり、さらに好ましくは約30ヌクレオチド長であり、さらに好ましくは約40ヌクレオチド長であり、さらに好ましくは約50ヌクレオチド長であり得る。好ましくは、目的とする遺伝子のコード配列と相補的な配列は、アンチセンスコード配列中にとびとびに存在するのではなく、連続して存在する。
【0151】
本明細書において、ヌクレオチド配列およびポリペプチド配列の長さは、それぞれヌクレオチドまたはアミノ酸の個数で表すことができるが、上述の個数は絶対的なものではなく、同じ機能を有する限り、上限または加減としての上述の個数は、その個数の上下数個(または例えば上下10%)のものも含むことが意図される。そのような意図を表現するために、本明細書では、個数の前に「約」を付けて表現することがある。しかし、本明細書では、「約」のあるなしはその数値の解釈に影響を与えないことが理解されるべきである。
【0152】
アンチセンスコード配列は、発現を抑制または阻止することが意図される遺伝子のアンチセンス鎖(コード鎖の相補鎖)の配列に対して、好ましくは少なくとも約70%同一な、より好ましくは少なくとも約80%同一な、さらに好ましくは約90%同一な、そして最も好ましくは約95%同一なヌクレオチド配列を含む。アンチセンスコード配列は、目的とする遺伝子の核酸配列の5’末端の配列に対して相補的であることが好ましい。上述のようなアンチセンスコード配列に対して、1つまたは数個あるいは1つ以上のヌクレオチドの置換、付加および/または欠失を有するものもまた、アンチセンスコード配列に含まれる。本明細書において、「アンチセンス活性」には、遺伝子の発現量の減少が含まれるがそれらに限定されない。
【0153】
一般的なアンチセンス技術については、教科書に記載されている(Murray,JAH eds.,Antisense RNA and DNA,Wiley−Liss Inc,1992)。さらに最新の研究でRNA干渉(RNA interference;RNAi)と呼ばれる現象が明らかになり、アンチセンス技術の発展をもたらした。RNAiは、標的遺伝子に相同な配列をもつ短い長さの2本鎖RNA(20ベース程度)を細胞内に導入すると、そのRNA配列に相同な標的遺伝子のmRNAが特異的に分解されて発現レベルが低下する現象である。当初線虫において発見されたこの現象は、植物を含めて生物に普遍的な現象であることがわかってきている。アンチセンス技術で標的遺伝子の発現が抑制される分子レベルのメカニズムは、このRNAiと同様のプロセスを経ることが解明された。従来のアンチセンス技術では、標的遺伝子のヌクレオチド配列に相補的である1つのDNA配列を適切なプロモーターに連結して、その制御下に人工mRNAを発現させるような発現ベクターを構築して、細胞内に導入することが行われた。RNAiを利用した最近のアンチセンス技術においては、細胞内に2本鎖RNAを構成できるようにデザインされた発現ベクターが用いられる場合が多い。RNAiを利用したアンチセンス技術では、アンチセンスコード配列の基本構造は、ある標的遺伝子に相補的な1種のDNA配列をプロモーター下に1つを連結し、それと同じ物をさらに逆向きにもう1つ連結してつくられる。この基本構造を有するアンチセンスコード配列から転写された1本鎖のmRNAでは、逆向きにつながれた1種類のヌクレオチド配列部分が相補的な関係にあるため、この相補的な部分が対合してヘアピン様の2次構造を持つ2本鎖RNA状態をとり、これがRNAiのメカニズムに従って標的遺伝子のmRNA分解を引き起こすわけである。植物においてはシロイヌナズナで用いられた例が報告されている(Smith,N.A.ら,Nature 407.319−320,2000)。またRNAi全般については、最近の総説にまとめられている(森田と吉田、蛋白質・核酸・酵素47、1939−1945、2002)。これらの文献に記載された内容は、本明細書おいてその全体を参考として援用する。
【0154】
本明細書において「RNAi」とは、RNA interferenceの略称で、二本鎖RNA(dsRNAともいう)のようなRNAiを引き起こす因子を細胞に導入することにより、相同なmRNAが特異的に分解され、遺伝子産物の合成が抑制される現象およびそれに用いられる技術をいう。本明細書においてRNAiはまた、場合によっては、RNAiを引き起こす因子と同義に用いられ得る。
【0155】
本明細書において「RNAiを引き起こす因子」とは、RNAiを引き起こすことができるような任意の因子をいう。本明細書において「遺伝子」に対して「RNAiを引き起こす因子」とは、その遺伝子に関するRNAiを引き起こし、RNAiがもたらす効果(例えば、その遺伝子の発現抑制など)が達成されることをいう。そのようなRNAiを引き起こす因子としては、例えば、標的遺伝子の核酸配列の一部に対して少なくとも約70%の相同性を有する配列またはストリンジェントな条件下でハイブリダイズする配列を含む、少なくとも10ヌクレオチド長の二本鎖部分を含むRNAまたはその改変体を構成できるようにデザインされた発現ベクターが挙げられるがそれに限定されない。
【0156】
異種遺伝子配列としては、天然に存在するタンパク質コード配列、天然に存在するアンチセンスコード配列、天然に存在するリボザイムコード配列などのいずれかと同一性のある配列が使用され得る。そのような同一性を有するヌクレオチド配列としては、例えば、Blastのデフォルトパラメータを用いて比較した場合に、比較対照のヌクレオチド配列に対して、少なくとも約30%、約35%、約40%、約45%、約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、約99%の同一性または類似性を有するヌクレオチド配列、または比較対照のヌクレオチド配列によってコードされるアミノ酸配列に対して、少なくとも約30%、約35%、約40%、約45%、約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、約99%の同一性または類似性を有するアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列が挙げられるがそれらに限定されない。
【0157】
異種遺伝子配列は、糖欠乏誘導性プロモーター配列、エキソ型糖分解酵素をコードする遺伝子のプロモーター配列および代謝可能な糖を分解し得る酵素をコードする遺伝子のプロモーター配列からなる群から選択される少なくとも1つのプロモーター配列に対して異種の配列である。異種遺伝子配列は好ましくは、シグナル配列コード配列に対しても異種である。2つの配列に関して「異種」とは、これらの2つの配列が、異なる遺伝子に由来するか、または異なる種に由来することをいう。異種との用語は、糖欠乏誘導性プロモーター配列、エキソ型糖分解酵素をコードする遺伝子のプロモーター配列および代謝可能な糖を分解し得る酵素をコードする遺伝子のプロモーター配列からなる群から選択される少なくとも1つのプロモーター配列と異種遺伝子配列との関係、糖欠乏誘導性プロモーター配列、エキソ型糖分解酵素をコードする遺伝子のプロモーター配列および代謝可能な糖を分解し得る酵素をコードする遺伝子のプロモーター配列からなる群から選択される少なくとも1つのプロモーター配列と他の調節配列との間の関係、糖欠乏誘導性プロモーター配列、エキソ型糖分解酵素をコードする遺伝子のプロモーター配列および代謝可能な糖を分解し得る酵素をコードする遺伝子のプロモーター配列からなる群から選択される少なくとも1つのプロモーター配列とシグナルコード配列との関係、本発明で用いられるプロモーター配列以外の複数の調節配列間の関係、調節配列と異種遺伝子配列との関係との関係などに適用される。例えば、シロイヌナズナの糖欠乏誘導性プロモーター配列、エキソ型糖分解酵素をコードする遺伝子のプロモーター配列および代謝可能な糖を分解し得る酵素をコードする遺伝子のプロモーター配列からなる群から選択される少なくとも1つのプロモーター配列は、シロイヌナズナのアクチン遺伝子に対して異種である。同様に、シロイヌナズナの糖欠乏誘導性プロモーター配列、エキソ型糖分解酵素をコードする遺伝子のプロモーター配列および代謝可能な糖を分解し得る酵素をコードする遺伝子のプロモーター配列からなる群から選択される少なくとも1つのプロモーター配列は、ヒトのインターフェロン遺伝子に対して異種である。異種遺伝子配列が異種生物に由来する場合、外来遺伝子とも呼ばれる。この場合において、「外来遺伝子」とは、ある生物において、その生物には天然には存在しない遺伝子をいう。
【0158】
本発明の核酸は、糖欠乏誘導性プロモーター、エキソ型糖分解酵素をコードする遺伝子のプロモーター配列または代謝可能な糖を分解し得る酵素をコードする遺伝子のプロモーター配列に加えて、さらにシグナルペプチドコード配列を含み得る。
【0159】
本明細書中では、「シグナルペプチドコード配列」とは、シグナルペプチドをコードするヌクレオチド配列をいう。本明細書中では、「シグナルペプチド」とは、主に疎水性アミノ酸残基を含む、新生ポリペプチド鎖の小胞体膜への付着および膜通渦に役立つアミノ酸配列をいう。シグナルペプチドの長さは、好ましくは、約10〜約50であり、より好ましくは約13〜約40であり、より好ましくは約15〜約30である。特定のアミノ酸配列中にシグナルペプチドが含まれるか否かは、当該分野で周知の方法に従って決定され得るが、好ましくは、Kyte.JおよびDoolittle,R.F.J.Mol.Biol.157(1):105−132,1982に記載の方法に従って疎水性指数の分析を行い、N末端の約10アミノ酸〜約50アミノ酸が疎水性である場合、この疎水性アミノ酸部分は、シグナルペプチドペプチドであると判断され得る。シグナルペプチドは、シグナルペプチダーゼによって分解され得る配列を有することが好ましい。
【0160】
シグナルペプチドコード配列は、そのシグナルペプチドに結合しているポリペプチドの細胞外への分泌をもたらすシグナルペプチドをコードするのであれば、任意のヌクレオチド配列であり得る。シグナルペプチドコード配列の例としては、β−ガラクトシダーゼのシグナルペプチドコード配列、β−キシロシダーゼのシグナルペプチドコード配列およびβ−グルコシダーゼのシグナルペプチドコード配列が挙げられる。シグナルペプチドコード配列は、糖欠乏誘導性プロモーター、エキソ型糖分解酵素をコードする遺伝子のプロモーター配列または代謝可能な糖を分解し得る酵素をコードする遺伝子のプロモーター配列に対して同種であっても、異種であってもよい。
【0161】
シグナルペプチドコード配列は好ましくは、(i)配列番号2の1位〜27位、配列番号4の1位〜28位または配列番号6の1位〜28位に示されるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列;(ii)(i)のヌクレオチド配列と比較して、1もしくは数個のヌクレオチドの置換、欠失または付加を含むヌクレオチド配列であって、細胞外分泌活性を有するペプチドをコードするヌクレオチド配列;(iii)(i)または(ii)のヌクレオチド配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ細胞外分泌活性を有するペプチドをコードするヌクレオチド配列;ならびに(iv)(i)のヌクレオチド配列に対して少なくとも70%の同一性を有するヌクレオチド配列であって、かつ細胞外分泌活性を有するペプチドをコードするヌクレオチド配列からなる群より選択され、該ヌクレオチド配列に作動可能に上記異種遺伝子配列が連結されると、該異種遺伝子の産物の細胞外分泌がもたらされる。
【0162】
本発明の核酸は、糖欠乏誘導性プロモーター、エキソ型糖分解酵素をコードする遺伝子のプロモーター配列または代謝可能な糖を分解し得る酵素をコードする遺伝子のプロモーター配列に加えて、さらに調節エレメントを含み得る。本明細書中では、「調節エレメント」とは、コード配列の発現に直接的または間接的に影響を与えるエレメントをいう。調節エレメントの例としては、例えば、プロモーター、イントロン、ターミネーター、エンハンサー、サイレンサー、転写終止配列、翻訳終止配列、転写起点、イントロン配列などが挙げられるがそれらに限定されない。調節エレメントは好ましくは、プロモーター、イントロン、ターミネーターおよびエンハンサーからなる群より選択される少なくとも1つのエレメントを含み得る。
【0163】
本明細書において、遺伝子が「特異的に発現する」とは、その遺伝子が、植物の特定の部位または時期において他の部位または時期とは異なる(好ましくは高い)レベルで発現されることをいう。特異的に発現するとは、ある部位(特異的部位)にのみ発現してもよく、それ以外の部位においても発現していてもよい。好ましくは特異的に発現するとは、ある部位においてのみ発現することをいう。
【0164】
本明細書において、遺伝子の発現について用いられる場合、一般に、「部位特異性」とは、生物(例えば、植物)の部位(例えば、植物の場合、プロテインボディー、根、茎、幹、葉、花、種子、胚乳、胚芽、胚、果実など)におけるその遺伝子の発現の特異性をいう。「時期特異性」とは、生物(例えば、植物)の発達段階(例えば、植物であれば生長段階(例えば、プロテインボディの形成の特定の時期、発芽後の芽生えの日数))に応じたその遺伝子の発現の特異性をいう。そのような特異性は、適切なプロモーターを選択することによって、所望の生物に導入することができる。
【0165】
本明細書において、プロモーターの発現が「構成的」であるとは、生物のすべての組織において、その生物の生長の幼若期または成熟期のいずれにあってもほぼ一定の量で発現される性質をいう。具体的には、本明細書の実施例と同様の条件でノーザンブロット分析したとき、例えば、任意の時点で(例えば、2点以上(例えば、植物の場合、発芽5日目および15日目))の同一または対応する部位のいずれにおいても発現がみられるとき、本発明の定義上、発現が構成的であるという。構成的プロモーターは、通常の生育環境にある生物の恒常性維持に役割を果たしていると考えられる。
【0166】
プロモーターの発現が「ストレス(または刺激)応答性」であるとは、少なくとも1つのストレス(または刺激)が生物体に与えられたとき、その発現量が変化する性質をいう。特に、発現量が増加する性質を「ストレス(または刺激)誘導性」といい、発現量が減少する性質を「ストレス(または刺激)減少性」という。「ストレス(または刺激)減少性」の発現は、正常時において、発現が見られることを前提としているので、「構成的」な発現と重複する概念である。これらの性質は、生物の任意の部分からRNAを抽出してノーザンブロット分析で発現量を分析することまたは発現されたポリペプチドをウェスタンブロットにより定量することにより決定することができる。ストレス(または刺激)誘導性のプロモーターを選択マーカーおよび異種遺伝子配列とともに組み込んだベクターで形質転換された生物(例えば、植物または植物の部分(特定の細胞、組織など))は、そのプロモーターの誘導活性をもつ刺激因子を用いることにより、ある条件下でのみ選択マーカーおよび異種遺伝子配列の発現を行うことができる。
【0167】
本明細書中では、「イントロン」とは、任意の2つのエキソンの間に存在するヌクレオチド配列であって、RNAに転写されるが、成熟後のRNAには見られないヌクレオチド配列をいう。イントロンは、存在することによって、ポリペプチドの発現量を増大させる作用を有する場合がある。イントロンは、任意の生物由来のイントロンであり得るが、好ましくは、選択マーカーが導入されるべき生物由来のイントロンである。本発明では、目的の生物においてイントロンの活性を示すものであれば、どのようなヌクレオチド配列でも使用することができる。
【0168】
本明細書中では、「エキソン」とは、RNAに転写され、かつポリペプチドへと翻訳されるヌクレオチド配列をいう。
【0169】
本明細書中では、「ターミネーター」とは、タンパク質コード領域の下流に位置し、ヌクレオチド配列がmRNAに転写される際の転写の終結、ポリA配列の付加に関与する配列である。ターミネーターは、mRNAの安定性に関与して遺伝子の発現量に影響を及ぼすことが知られている。ターミネーターは、任意の生物由来のターミネーターであり得るが、好ましくは、選択マーカーが導入されるべき生物由来のターミネーターである。本発明で用いられ得るターミネーターの例としては、CaMV35Sターミネーター、ノパリンシンターゼのターミネーター(Tnos)、タバコPR1a遺伝子のターミネーター、Tmlターミネーター、10KDaプロラミンターミネーターなど、およびそれらの改変ターミネーターが挙げられるが、これらに限定されない。本発明では、目的の生物においてターミネーターの活性を示すものであれば、どのようなヌクレオチド配列でも使用することができる。
【0170】
本明細書において使用される「エンハンサー」は、目的遺伝子の発現効率を高めるために用いられ得る。そのようなエンハンサーは当該分野において周知である。エンハンサーは複数個用いられ得るが1個用いられてもよいし、用いなくともよい。エンハンサーは、任意の生物由来のエンハンサーであり得るが、好ましくは、選択マーカーが導入されるべき生物由来のエンハンサーである。本発明では、目的の生物においてエンハンサーの活性を示すものであれば、どのようなヌクレオチド配列でも使用することができる。植物において使用する場合、エンハンサーとしては、例えば、CaMV35Sプロモーター内の上流側の配列を含むエンハンサー領域が好ましい。
【0171】
本明細書において「サイレンサー」とは、遺伝子発現を抑制し静止する機能を有する配列をいう。本発明では、サイレンサーとしてはその機能を有する限り、どのようなものを用いてもよく、サイレンサーを用いなくてもよい。
【0172】
調節配列は、好ましくは、プロモーターおよび異種遺伝子配列と作動可能に連結される。本明細書中では「作動可能に連結される(た)」とは、所望のヌクレオチド配列が、発現(すなわち、作動)をもたらす転写調節配列(例えば、プロモーター、ターミネーター、サイレンサー、エンハンサーなど)または翻訳調節配列(例えば、イントロン、スプライスドナー、スプライスアクセプターなど)の制御下に配置されることをいう。例えば、プロモーターが遺伝子に作動可能に連結されるためには、通常、その遺伝子のすぐ上流にプロモーターが配置されるが、必ずしも隣接して配置される必要はない。
【0173】
プロモーターおよび異種遺伝子配列を、上記調節配列に作動可能に連結するために、プロモーターおよび異種遺伝子配列を加工すべき場合がある。例えば、プロモーターとコード領域との間が長すぎて転写効率の低下が予想される場合、またはリボゾーム結合部位と翻訳開始コドンとの間隔が適切でない場合などである。加工の手段としては、制限酵素による消化、Bal31、ExoIIIなどのエキソヌクレアーゼによる消化、あるいはM13などの一本鎖DNAまたはPCRを使用した部位特異的変異誘発の導入が挙げられる。
【0174】
本発明の核酸分子は、単離されたヌクレオチドであることが好ましい。本明細書中では「単離された」ヌクレオチドとは、そのヌクレオチドが、天然に存在する生物体の細胞内の他の生物学的因子(例えば、ヌクレオチド以外の因子および目的とするヌクレオチド以外のヌクレオチド)から実質的に分離または精製されたものをいう。「単離された」ヌクレオチドには、標準的な精製方法によって精製されたヌクレオチドが含まれる。したがって、単離されたヌクレオチドは、化学的に合成したヌクレオチドを包含する。また、標準的な精製方法によって精製した後に、他の物質と混合したヌクレオチドおよび緩衝液中に溶解したヌクレオチドなども、本明細書でいう単離されたヌクレオチドに該当する。
【0175】
本明細書において「精製された」ヌクレオチドとは、そのヌクレオチドに天然に随伴する因子の少なくとも一部が除去されたものをいう。したがって、通常、精製されたヌクレオチドにおけるそのヌクレオチドの純度は、そのヌクレオチドが通常存在する状態よりも高い(すなわち濃縮されている)。
【0176】
本明細書において「ヌクレオチド」は、天然のものでも非天然のものでもよい。「誘導体ヌクレオチド」または「ヌクレオチドアナログ」とは、天然に存在するヌクレオチドとは異なるがもとのヌクレオチドと同様の機能を有するものをいう。そのような誘導体ヌクレオチドおよびヌクレオチドアナログは、当該分野において周知である。そのような誘導体ヌクレオチドおよびヌクレオチドアナログの例としては、ホスホロチオエート、ホスホルアミデート、メチルホスホネート、キラルメチルホスホネート、2−O−メチルリボヌクレオチド、ペプチド−核酸(PNA)が含まれるが、これらに限定されない。
【0177】
本発明の核酸分子は、糖欠乏誘導性プロモーター配列、エキソ型糖分解酵素をコードする遺伝子のプロモーター配列および代謝可能な糖を分解し得る酵素をコードする遺伝子のプロモーター配列からなる群から選択される少なくとも1つのプロモーター配列が、糖欠乏誘導性を有し、そして必要なプロモーター活性を有する限り、上述のようにそのヌクレオチド配列の一部が欠失していても、一部が他のヌクレオチドにより置換されていてもよく、または他のヌクレオチド配列が一部挿入されていてもよい。あるいは、5’末端および/または3’末端に他の核酸が結合していてもよい。また、天然の糖欠乏誘導性プロモーター配列、エキソ型糖分解酵素をコードする遺伝子のプロモーター配列および代謝可能な糖を分解し得る酵素をコードする遺伝子のプロモーター配列からなる群から選択される少なくとも1つのプロモーター配列を含む核酸分子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、天然の糖欠乏誘導性プロモーター配列、エキソ型糖分解酵素をコードする遺伝子のプロモーター配列および代謝可能な糖を分解し得る酵素をコードする遺伝子のプロモーター配列からなる群から選択される少なくとも1つのプロモーター配列と実質的に同一の機能を有するヌクレオチド配列でもよい。このようなヌクレオチド配列は、当該分野において公知であり、本発明において利用することができる。
【0178】
このような核酸分子は、周知のPCR法を利用して調製することができ、化学的に合成することもできる。これらの方法に、例えば、部位特異的変異誘発法、ハイブリダイゼーション法などを組み合わせてもよい。
【0179】
(2.ベクター)
本発明のベクターは、糖欠乏誘導性プロモーター配列、エキソ型糖分解酵素をコードする遺伝子のプロモーター配列および代謝可能な糖を分解し得る酵素をコードする遺伝子のプロモーター配列からなる群から選択される少なくとも1つのプロモーター配列と、該選択されたプロモーター配列に作動可能に連結された異種遺伝子配列とを含む。
【0180】
糖欠乏誘導性プロモーター配列、エキソ型糖分解酵素をコードする遺伝子のプロモーター配列、代謝可能な糖を分解し得る酵素をコードする遺伝子のプロモーター配列、作動可能に連結された、異種遺伝子配列などについては、上記の1に記載したとおりである。
【0181】
本明細書において「ベクター」とは、異種遺伝子配列を目的の細胞へと移入させることができる核酸分子をいう。そのようなベクターとしては、目的の細胞において自律複製が可能であるか、または目的の細胞の染色体中への組込みが可能で、かつ改変された塩基配列の転写に適した位置にプロモーターを含有しているものが例示される。目的の細胞は、植物細胞および植物個体等の宿主細胞であり得る。本明細書において、ベクターはプラスミド、発現ベクター、組換えベクターなどであり得る。
【0182】
本明細書において使用される「発現ベクター」とは、糖欠乏誘導性プロモーター配列、エキソ型糖分解酵素をコードする遺伝子のプロモーター配列および代謝可能な糖を分解し得る酵素をコードする遺伝子のプロモーター配列からなる群から選択される少なくとも1つのプロモーター配列に作動可能に連結された異種遺伝子配列を目的の細胞中で発現し得るベクターをいう。発現ベクターは、糖欠乏誘導性プロモーター配列、エキソ型糖分解酵素をコードする遺伝子のプロモーター配列および代謝可能な糖を分解し得る酵素をコードする遺伝子のプロモーター配列からなる群から選択される少なくとも1つのプロモーター配列および異種遺伝子配列に加えて、その発現を調節するエンハンサーのような種々の調節エレメント、および必要に応じて、目的の細胞中での複製および組換え体の選択に必要な因子(例えば、複製起点(ori)、および薬剤抵抗性遺伝子のような選択マーカー)を含む。発現ベクター中では、改変された塩基配列は、転写および翻訳されるように作動可能に連結されている。調節エレメントとしては、プロモーター、ターミネーターおよびエンハンサーが挙げられる。調節エレメントの定義は、上記の通りである。また、発現された酵素を細胞外へ分泌させることが意図される場合は、分泌シグナルペプチドをコードする塩基配列が、改変された塩基配列の上流に正しいリーディングフレームで結合される。特定の生物(例えば、細菌)に導入するために使用される発現ベクターのタイプ、その発現ベクター中で使用される調節エレメントおよび他の因子の種類が、目的の細胞に応じて変わり得ることは、当業者に周知の事項である。
【0183】
本明細書においてベクターの例としては、遺伝子実験に用いられる一般的な細菌(代表的なものとして大腸菌K12株由来の大腸菌株)で複製可能かつ単離精製可能なベクターがあげられる。これは、目的の生物(例えば、植物)に導入する目的の核酸分子を構築するために必要である。具体的には、例えば大腸菌のpBR322プラスミド、pUC18、pUC19、pBluescript、pGEM−T、pGEM−T Easyといった市販の構築プラスミドがある。エレクトロポレーション法、ポリエチレングリコール法、パーティクルガン法といった直接的に遺伝子断片を植物細胞に導入して形質転換する場合には、このような市販されている一般的なプラスミドを用いて、導入する遺伝子の構築を行えばよい。また、ベクターの特殊な例として、アグロバクテリウムを介した遺伝子導入法を用いて植物細胞を形質転換する場合は、大腸菌とアグロバクテリウム双方の複製開始点、および植物に導入され得る境界領域を示すT−DNA由来の境界配列(Left borderおよびRight Border)に相当するヌクレオチド配列を有する「バイナリーベクター」と呼ばれるプラスミドを用いる必要がある。例えばpBI101(Clontech社より市販)、pBIN(Bevan,N.,Nucleic Acid Research 12,8711−8721,1984)、pBINPlus(van Engelen,FAら,Tranegenic Research 4,288−290、1995)、pTNまたはpTH(Fukuoka Hら,Plant Cell Reports 19,2000)、pPZP(Hajdukiewicz Pら,Plant Molecular Biology 25,989−994,1994)などが挙げられるがそれらに限定されない。このほか、植物に利用され得るベクターとしては、タバコモザイクウイルスベクターも例示されるが、このタイプのベクターは目的遺伝子を植物染色体に導入するわけではないので、遺伝子導入した植物を種子により増殖させる必要がない場合に用途が限定されるが、本発明に使用され得る。
【0184】
発現ベクターは、発現カセットの中に、本発明の選択マーカーを含み得る。「発現カセット」とは、ある発現すべきヌクレオチド配列(例えば、構造遺伝子)と、その発現を調節するプロモーター配列、mRNA転写を終結させるターミネーター配列および必要に応じて他の種々の調節エレメントとを、目的の細胞中でその発現すべきヌクレオチド配列が作動し得る状態で連結してある、人工構築遺伝子の1単位を示す。発現カセットの代表例としては、目的の細胞のうちの形質転換された細胞のみを選択するための選択マーカー(例えばハイグロマイシン抵抗性遺伝子)発現カセット、および宿主細胞内に発現させたい有用タンパク質コード配列の発現カセットが挙げられる。準備するべき発現カセットの種類、構造および数については、生物、宿主細胞および目的に応じて使い分けられるべきであり、その組み合わせは当業者には周知である。
【0185】
「発現ベクター」は、上記の「発現カセット」を1つ以上含み得る「ベクター」としても定義され得る。目的の細胞に導入をすべき発現カセットごとに別々のベクター上に配置してもよいし、1つのベクター上に全ての発現カセットを連結してもよい。例えば、本発明において、選択マーカーコード配列がさらに用いられる場合、糖欠乏誘導性プロモーター配列、エキソ型糖分解酵素をコードする遺伝子のプロモーター配列および代謝可能な糖を分解し得る酵素をコードする遺伝子のプロモーター配列からなる群から選択される少なくとも1つのプロモーター配列およびそのプロモーター配列に作動可能に連結された遺伝子遺伝子配列を含む発現カセットと、選択マーカーコード配列を含む発現カセットとは、同じ発現ベクター上に存在しても別の発現ベクター上に存在してもよい。同じ発現ベクター上に存在することが好ましい。より好ましくは、糖欠乏誘導性プロモーター配列、エキソ型糖分解酵素をコードする遺伝子のプロモーター配列および代謝可能な糖を分解し得る酵素をコードする遺伝子のプロモーター配列からなる群から選択される少なくとも1つのプロモーター配列およびそのプロモーター配列に作動可能に連結された遺伝子遺伝子配列を含む発現カセットと、選択マーカーコード配列を含む発現カセットとは、同じ発現カセット中に含まれる。本発明においては、植物用の発現ベクターとして、バイナリーベクタータイプの発現ベクターを用い得る。
【0186】
(3.植物細胞)
本発明の植物細胞は、糖欠乏誘導性プロモーター配列、エキソ型糖分解酵素をコードする遺伝子のプロモーター配列および代謝可能な糖を分解し得る酵素をコードする遺伝子のプロモーター配列からなる群から選択される少なくとも1つのプロモーター配列と、該選択されたプロモーター配列に作動可能に連結された異種遺伝子配列とを含む。
【0187】
糖欠乏誘導性プロモーター配列、エキソ型糖分解酵素をコードする遺伝子のプロモーター配列、代謝可能な糖を分解し得る酵素をコードする遺伝子のプロモーター配列、作動可能に連結された、異種遺伝子配列などについては、上記の1に記載したとおりである。
【0188】
本発明で用いられる植物細胞は、どの植物由来の細胞(例えば、単子葉植物、双子葉植物など)でもよい。
【0189】
植物細胞としては、好ましくは、顕花植物(単子葉または双子葉)由来の細胞が用いられ、より好ましくは双子葉植物細胞が用いられ、より好ましくはイネ科、ナス科、ウリ科、アブラナ科、セリ科、バラ科、マメ科、ムラサキ科の植物由来の細胞が用いられる。さらに好ましくは、コムギ、トウモロコシ、イネ、オオムギ、ソルガム、タバコ、ピーマン、ナス、メロン、トマト、イチゴ、サツマイモ、シロイヌナズナ、アブラナ、キャベツ、ネギ、ブロッコリー、ダイズ、アルファルファ、アマ、ニンジン、キウリ、柑橘類、ハクサイ、レタス、モモ、ジャガイモ、ムラサキ、オウレン、ポプラおよびリンゴ由来の細胞が用いられる。さらにより好ましくはタバコまたはシロイヌナズナ由来の細胞が用いられる。最も好ましくは、シロイヌナズナ由来の細胞が用いられる。
【0190】
植物細胞は、植物体の一部、器官、組織、培養細胞などであり得る。培養細胞であることが好ましい。植物を用いてタンパク質の高生産を目指す場合、タンパク質の抽出工程および精製過程を大幅に省略できることから、培養細胞を用いて培養液中に目的タンパク質を分泌させることが特に好ましい。植物細胞は好ましくは、増殖速度が速い培養細胞である。増殖速度が速いとは、その培養細胞を任意の培養条件下で1週間培養した場合に、培養開始時の細胞数の好ましくは約10倍以上、より好ましくは約20倍以上、さらに好ましくは約30倍以上、さらに好ましくは約40倍以上、さらに好ましくは約50倍以上、さらに好ましくは約60倍以上、さらに好ましくは約70倍以上、さらに好ましくは約80倍以上、特に好ましくは約90倍以上、最も好ましくは約100倍以上細胞数に増殖し得ることをいう。
【0191】
このような増殖速度の速い培養細胞の例としては、1週間で50倍以上増殖し得る細胞(例えば、タバコBY−2細胞)が挙げられるがこれに限定されない。タバコBY−2細胞は、もともと、Nicotiana tabacum L.cv.Bright Yellow 2の胚軸に誘導したカルスから確立された株であり、増殖のためにオーキシンを必要とする。BY−2細胞と同様の性状を有する培養細胞は、Kato,A.ら、”Fermentation Technology Today”、1972、pp.689−695に記載の方法に従って作製され得る;東京大学大学院新領域創成科学研究科の馳澤盛一郎先生より分与され得る。タバコBY2細胞は、植物の培養細胞としては異例に速い増殖速度(一週間で約100倍)を持ち、均一な細胞集団であり、形質転換も容易であるという利点を持つ。BY−2細胞と同様に、迅速に増殖し得る細胞集団は、上記Katoらの文献に記載の方法に従って、0.2mg/lの2,4−ジクロロフェノキシ酢酸、0.4mg/lチアミン塩酸塩および30g/lスクロースを含むRM−1964培地(LinsmaierおよびSkoog、Physiol.Plant.18,1965,p.100)でタバコの胚軸からカルスを誘導し、このカルスを同じ培地でさらに培養することによって入手され得る。シロイヌナズナ由来の培養細胞についても、1週間で50倍以上増殖し得る細胞が公知である。シロイヌナズナ由来の培養細胞を用いることが最も好ましい。シロイヌナズナはゲノムサイズが小さく、遺伝情報が全て解明されており、細胞生理学的な基礎的知見が豊富であり、誘導生産に利用し得るプロモーターなどのツールに関する情報も充実しており、遺伝子操作が容易であり、かつ様々な改変を行い得るからである。
【0192】
本発明の細胞は、これらの細胞を用いて、当該分野で周知の形質転換方法を用いて作出され得る。あるいは、本発明の細胞は、当該分野で周知の形質転換方法に従って作出された細胞を再分化させ、形質転換個体を得て、その個体を交配することによって得た子孫から得られる細胞であり得る。
【0193】
細胞、組織、器官または個体の形質転換法は、当該分野で周知である。そのような技術は、本発明において引用した文献などに十分記載されている。核酸分子の生物細胞への導入は、一渦的であっても恒常的であってもよい。一過性または恒常性の遺伝子導入の技術はそれぞれ当該分野において周知である。本発明において用いられる細胞を分化させて形質転換植物を作出する技術もまた当該分野において周知であり、そのような技術は、本発明において引用した文献などに十分記載されていることが理解される。形質転換植物から種子を得る技術もまた、当該分野において周知であり、そのような技術は、本発明において引用した文献などに記載されている。
【0194】
「形質転換体」とは、形質転換によって作製された細胞などの生命体の全部または一部をいう。形質転換体としては、植物細胞が例示される。形質転換体は、その対象に依存して、形質転換細胞、形質転換組織、形質転換宿主などともいわれ、本明細書においてそれらの形態をすべて包含するが、特定の文脈において特定の形態を指し得る。
【0195】
好ましい実施形態において、本発明の植物体には、本発明の核酸分子は、両側の染色体に導入され得るが、一対のみに導入されたものもまた有用であり得る。
【0196】
核酸分子と、目的細胞とを、該核酸分子による形質転換が生じ得る条件下に配置する方法としては、植物細胞にDNAを導入する方法であれば、本明細書において他の場所で詳述したように、いずれも用いることができ、例えば、アグロバクテリウム法(Agrobacterium)(特開昭59−140885、特開昭60−70080、WO94/00977)、エレクトロポレーション法(特開昭60−251887)、パーティクルガン(遺伝子銃)を用いる方法(特許第2606856、特許第2517813)等が例示される。これらの方法のうち、物理的手法の例としては、ポリエチレングリコール法(PEG法)、電子穿孔(エレクトロポレーション)法、マイクロインジェクション法、パーティクルガン法が挙げられる。これらの方法は、単子葉、双子葉の両植物体に適用できる点で有用性が高い。しかし、ポリエチレングリコール法とエレクトロポレーション法では、細胞壁が障害となるため、プロトプラストを用いなければならない上、導入された遺伝子の植物細胞の染色体DNAへの組込み頻度が低いことが問題である。また、プロトプラストを用いずに、カルスや組織を用いたマイクロインジェクション法では、針の太さや組織の固定等に関して困難が多い。組織を用いたパーティクルガン法でも、変異がキメラの形で出現してくる等の問題がある。また、これら物理的手法では、一般に、導入された外来遺伝子が核ゲノムに不完全な状態で多コピーの遺伝子として組込まれやすい。外来遺伝子が多コピー導入されると、その遺伝子が不活化されやすいことが知られている。
【0197】
他方、生物を利用して単離遺伝子を導入する方法には、アグロバクテリウム法、ウイルスベクター法、および近年開発されている、花粉をベクターとして用いる方法がある。これらの方法は、プロトプラストを用いず植物のカルス、組織または植物体を用いて遺伝子導入を行うため、培養が長期間に及ぶことがなく、またソマクローナル変異等の障害を受けにくいという長所を有している。これらのうち花粉をベクターとして用いる方法は、まだ実験例も少なく、植物の形質転換法としては未知数の部分が多い。ウイルスベクター法は、ウイルスに感染した植物体全体に導入すべき遺伝子が広がるという利点はあるものの、各細胞内で増幅されて発現されるだけで、次世代に伝えられるという保証がないという点、および長いDNA断片を導入できないという点に問題がある。アグロバクテリウム法は、約20kbp以上のDNAを大きな再編成なしに染色体に導入できること、導入される遺伝子のコピー数が、数コピーと少ないこと、および再現性が高いこと等、多くの利点がある。イネ科植物等の単子葉植物にとってアグロバクテリウムは宿主範囲外であるため、イネ科植物への外来遺伝子導入は、従来は、先に述べたような物理的手法により行われてきた。しかしながら、近年、単子葉植物でもイネ等、培養系が確立されている植物においては、アグロバクテリウム法が適用されるようになっており、むしろ現在ではアグロバクテリウム法が好んで用いられている。
【0198】
アグロバクテリウム法による外来遺伝子の導入では、TiプラスミドVir領域に植物が合成するアセトシリンゴン等の低分子フェノール化合物が作用すると、TiプラスミドからT−DNA領域が切り出され、幾つかの過程を経て植物細胞の核染色体DNAに組み込まれる。双子葉植物では、植物自身がそのようなフェノール化合物の合成機構を備えているため、リーフディスク法等により容易に外来遺伝子を導入することができ、再現性も高い。これに対し、単子葉植物では、そのようなフェノール化合物を植物自身が合成しないため、アグロバクテリウムによる形質転換植物の作出は困難であった。しかし、アグロバクテリウムの感染時にアセトシリンゴンを添加することで、単子葉植物への外来遺伝子導入も現在では可能となっている。
【0199】
本発明を植物において利用する場合、植物細胞への植物発現ベクターの導入には、当業者に周知の方法、例えば、アグロバクテリウムを介する方法および直接細胞に導入する方法、が用いられ得る。アグロバクテリウムを介する方法としては、例えば、Nagelらの方法(Nagelら(1990)、Microbiol.Lett.,67,325)が用いられ得る。この方法は、まず、例えば植物に適切な発現ベクターでエレクトロポレーションによってアグロバクテリウムを形質転換し、次いで、形質転換されたアグロバクテリウムをGelvinら(Gelvinら編(1994)、Plant Molecular Biology Manual(Kluwer Academic Press Publishers))に記載の方法で植物細胞に導入する方法である。植物発現ベクターを直接細胞に導入する方法としては、エレクトロポレーション法(Shimamotoら(1989)、Nature、338:274−276;およびRhodesら(1989)、Science、240:204−207を参照のこと)、パーティクルガン法(Christouら(1991)、Bio/Technology 9:957−962を参照のこと)ならびにポリエチレングリコール(PEG)法(Dattaら(1990)、Bio/Technology 8:736−740を参照のこと)が挙げられる。これらの方法は、当該分野において周知であり、形質転換する植物に適した方法が、当業者により適宜選択され得る。
【0200】
本発明において、形質転換体では、目的とする核酸分子(導入遺伝子)は、染色体に導入されていても導入されていなくてもよい。好ましくは、目的とする核酸分子(導入遺伝子)は、染色体に導入されており、より好ましくは、2つの染色体の両方に導入されている。
【0201】
形質転換処理をする際には、必要により、選択マーカー遺伝子が使用される。選択マーカーとその選択マーカーに適切な選択因子(例えば、抗生物質、色素など)とを組合せて用いることにより、形質転換処理が施された細胞の中から、本発明の核酸分子が導入された細胞をより効率よく選択することができる。しかし、この工程は、本発明において必ずしも必須というわけではない。このような選択方法は、導入された核酸分子が有する選択マーカーの特性によって変動し、例えば、抗生物質(例えば、ハイグロマイシン、カナマイシンなど)に対する耐性遺伝子が選択マーカーとして導入された場合は、その特定の抗生物質を用いて目的の細胞を選択することができる。あるいは、選択マーカーとして標識遺伝子(例えば、グリーン蛍光遺伝子など)を用いれば、そのような標識を目安に目的の細胞を選択することができる。あるいは、外来遺伝子そのものが表現型に識別可能な差異を生じさせる場合は、そのような差異を目安に遺伝子導入細胞を選択してもよい。そのような識別可能な差異としては、例えば、色素の発現の有無などがあるがそれに限定されない。
【0202】
次いで、このようにして得られた、形質転換細胞は、当該分野で周知の方法により、植物組織、植物器官および/または植物体に再分化され得る。
【0203】
植物細胞、植物組織および植物体の培養、分化および再生のためには、当該分野で公知の手法および培地が用いられる。このような培地には、例えば、Murashige−Skoog(MS)培地、GaMborg B5(B)培地、White培地、Nitsch & Nitsch(Nitsch)培地などが含まれるが、これらに限定されるわけではない。これらの培地は、通常、植物生長調節物質(植物ホルモン)などが適当量添加されて用いられる。
【0204】
本明細書において、植物の場合、その植物を「再分化」するとは、個体の一部分から個体全体が復元される現象を意味する。例えば、再分化により、細胞(葉、根など)のような組織片から器官または植物体が形成される。
【0205】
形質転換体を植物体へと再分化する方法は当該分野において周知である。そのような方法としては、Rogersら,Methods in Enzymology 118:627−640(1986);Tabataら,Plant Cell Physiol.,28:73−82(1987);Shaw,Plant Molecular Biology:A practical approach.IRL press(1988);Shimamotoら,Nature 338:274(1989);Maligaら,Methods in Plant Molecular Biology:A laboratory course.Cold Spring Harbor Laboratory Press(1995)などに記載されるものが挙げられるがそれらに限定されない。従って、当業者は、上記周知方法を目的とする形質転換植物に応じて適宜使用して、再分化させることができる。このようにして得られた形質転換植物には、目的の遺伝子が導入されており、そのような遺伝子の導入は、ノーザンブロット、ウェスタンブロット分析のような本明細書に記載される方法または他の周知慣用技術を用いて確認することができる。
【0206】
さらに、得られた形質転換植物体から種子が取得され得る。導入した遺伝子の発現は、ノーザンブロット法またはPCR法により、検出し得る。必要に応じて、遺伝子産物たるタンパク質の発現を、例えば、ウェスタンブロット法により確認し得る。
【0207】
本発明は、植物において特に有用であることが示されているが、他の生物においても利用することができる。本発明において使用される分子生物学技術は、当該分野において周知であり、かつ、慣用されるものであり、例えば、Ausubel F.A.ら編(1988)、Current Protocols in Molecular Biology、Wiley、New York、NY;Sambrook Jら(1987)Molecular Cloning:A Laboratory Manual,第2版およびその第3版,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY、別冊実験医学「遺伝子導入&発現解析実験法」羊土社、1997などに記載される。
【0208】
(4.組織)
本発明の組織は、糖欠乏誘導性プロモーター配列、エキソ型糖分解酵素をコードする遺伝子のプロモーター配列および代謝可能な糖を分解し得る酵素をコードする遺伝子のプロモーター配列からなる群から選択される少なくとも1つのプロモーター配列と、該選択されたプロモーター配列に作動可能に連結された異種遺伝子配列とを含む。
【0209】
糖欠乏誘導性プロモーター配列、エキソ型糖分解酵素をコードする遺伝子のプロモーター配列、代謝可能な糖を分解し得る酵素をコードする遺伝子のプロモーター配列、作動可能に連結された、異種遺伝子配列などについては、上記の1に記載したとおりである。
【0210】
本明細書において、生物の「組織」とは、細胞の集団であって、その集団において一定の同様の作用を有するものをいう。従って、組織は、器官の一部であり得る。器官内では、同じ働きを有する細胞を有することが多いが、微妙に異なる働きを有するものが混在することもあることから、本明細書において組織は、一定の特性を共有する限り、種々の細胞を混在して有していてもよい。通常「組織」は、同じ起源を有するが、異なる起源を持つ細胞集団であっても、同一の機能および/または形態を有するのであれば、組織と呼ばれ得る。通常、組織は、器官の一部を構成する。植物では、構成細胞の発達段階によって分裂組織と永久組織とに大別され、また構成細胞の種類によって単一組織と複合組織とに分けるなど、いろいろな分類が行われている。
【0211】
本発明の組織は、以下の「8.形質転換細胞の作出方法」に従って作出された細胞を用いて、当該分野で公知の方法に従って組織分化させることによって入手され得る。あるいは、本発明の組織は、「8.形質転換細胞の作出方法」に従って作出された細胞を再分化させ、形質転換個体を得て、その個体を交配することによって得た子孫から得られる組織であり得る。
【0212】
(5.器官)
本発明の器官は、糖欠乏誘導性プロモーター配列、エキソ型糖分解酵素をコードする遺伝子のプロモーター配列および代謝可能な糖を分解し得る酵素をコードする遺伝子のプロモーター配列からなる群から選択される少なくとも1つのプロモーター配列と、該選択されたプロモーター配列に作動可能に連結された異種遺伝子配列とを含む。
【0213】
糖欠乏誘導性プロモーター配列、エキソ型糖分解酵素をコードする遺伝子のプロモーター配列、代謝可能な糖を分解し得る酵素をコードする遺伝子のプロモーター配列、作動可能に連結された、異種遺伝子配列などについては、上記の1に記載したとおりである。
【0214】
本明細書において、「器官」とは、1つ独立した形態をもち、1種以上の組織が組み合わさって特定の機能を営む構造体を形成したものをいう。植物では、カルス、根、茎、幹、葉、花、種子、胚芽、胚、果実、胚乳などが挙げられるがそれらに限定されない。
【0215】
本発明が対象とする器官はどのような器官でもよく、また本発明が対象とする組織または細胞は、生物のどの器官に由来するものでもよい。一般に多細胞生物(例えば、植物)では器官は特定の空間的配置をもついくつかの組織からなり、組織は多数の細胞からなる。
【0216】
本発明の器官は、当該分野で周知の形質転換方法に従って作出された細胞を用いて、当該分野で公知の方法に従って組織分化させ、そして器官を形成させることによって入手され得る。あるいは、本発明の器官は、当該分野で公知の形質転換細胞の作出方法に従って作出された細胞を再分化させ、形質転換個体を得て、その個体を交配することによって得た子孫から得られる器官であり得る。
【0217】
(6.生物体)
本発明の生物体は、糖欠乏誘導性プロモーター配列、エキソ型糖分解酵素をコードする遺伝子のプロモーター配列および代謝可能な糖を分解し得る酵素をコードする遺伝子のプロモーター配列からなる群から選択される少なくとも1つのプロモーター配列と、該選択されたプロモーター配列に作動可能に連結された異種遺伝子配列とを含む。
【0218】
糖欠乏誘導性プロモーター配列、エキソ型糖分解酵素をコードする遺伝子のプロモーター配列、代謝可能な糖を分解し得る酵素をコードする遺伝子のプロモーター配列、作動可能に連結された、異種遺伝子配列などについては、上記の1に記載したとおりである。
【0219】
本明細書において「生物体」(または、植物の場合「植物体」)とは、当該分野における最も広義に用いられ、生命現象を営むもの(または植物)をいい、代表的には、細胞構造、増殖(自己再生産)、成長、調節性、物質代謝、修復能力など種々の特性を有し、通常、核酸のつかさどる遺伝と、タンパク質のつかさどる代謝の関与する増殖を基本的な属性として有する。生物には、原核生物、真核生物(植物、動物など)などが包含される。好ましくは、本発明では、生物は、植物であり得る。本明細書では、好ましくは、そのような植物体は稔性であり得る。より好ましくは、そのような植物体は、種子を生産し得る。
【0220】
本発明の生物体は、当該分野で周知の形質転換方法に従って作出された細胞を用いて、当該分野で公知の方法に従って再分化させることによって入手され得る。あるいは、本発明の生物体は、当該分野で周知の形質転換方法に従って作出された細胞を再分化させ、形質転換個体を得て、その個体を交配することによって得た子孫から得られる生物体であり得る。
【0221】
本明細書において用いられる「植物」とは、植物界に属する生物の総称であり、クロロフィル、かたい細胞壁、豊富な永続性の胚的組織の存在、および運動する能力がない生物により特徴付けられる。代表的には、植物とは、細胞壁の形成・クロロフィルによる同化作用をもつ顕花植物をいう。植物は、単子葉植物および双子葉植物のいずれも含む。好ましい植物としては、例えば、コムギ、トウモロコシ、イネ、オオムギ、ソルガムなどのイネ科に属する単子葉植物が挙げられる。植物は、食用作物または薬用植物であることが好ましい。好ましい植物の他の例としては、タバコ、ピーマン、ナス、メロン、トマト、イチゴ、サツマイモ、キャベツ、ネギ、ブロッコリー、ニンジン、キウリ、柑橘類、ハクサイ、レタス、モモ、ジャガイモ、ムラサキ、オウレンおよびリンゴが挙げられる。より好ましくは、植物は、タバコ、イネ、トマト、イチゴ、ムラサキまたはオウレンであり得る。好ましい植物は作物に限られず、花、樹木、芝生、雑草なども含まれる。特に他で示さない限り、植物は、植物体、植物器官、植物組織、植物細胞、および種子のいずれをも意味する。植物器官の例としては、根、葉、茎、および花などが挙げられる。植物細胞の例としては、カルスおよび懸濁培養細胞が挙げられる。
【0222】
イネ科の植物の例としては、Oryza、Hordenum、Secale、Scccharum、Echinochloa、またはZeaに属する植物が挙げられ、例えば、イネ、オオムギ、ライムギ、ヒエ、モロコシ、トウモロコシなどを含む。
【0223】
異種ヌクレオチド配列を含む植物は、天然では発現しない遺伝子産物を発現し得る。
【0224】
好ましい実施形態において、本発明の生物体には、本発明の核酸分子は、両側の染色体に導入され得るが、一対のみに導入されたものもまた有用であり得る。
【0225】
(7.タンパク質の生産方法)
本発明のタンパク質の生産方法は、糖欠乏誘導性プロモーター配列、エキソ型糖分解酵素をコードする遺伝子のプロモーター配列および代謝可能な糖を分解し得る酵素をコードする遺伝子のプロモーター配列からなる群から選択される少なくとも1つのプロモーター配列と、該選択されたプロモーター配列に作動可能に連結された該タンパク質コード配列とを含む核酸分子を、細胞に導入して、形質転換細胞を得る工程;該形質転換細胞を糖の非存在下で培養して、該タンパク質を分泌させる工程;および該タンパク質を回収する工程を包含する。
【0226】
糖欠乏誘導性プロモーター配列、エキソ型糖分解酵素をコードする遺伝子のプロモーター配列、代謝可能な糖を分解し得る酵素をコードする遺伝子のプロモーター配列、作動可能に連結された、異種遺伝子配列などについては、上記の1に記載したとおりである。
【0227】
本発明の方法ではまず、糖欠乏誘導性プロモーター配列、エキソ型糖分解酵素をコードする遺伝子のプロモーター配列および代謝可能な糖を分解し得る酵素をコードする遺伝子のプロモーター配列からなる群から選択される少なくとも1つのプロモーター配列と、該選択されたプロモーター配列に作動可能に連結された該タンパク質コード配列とを含む核酸分子を、細胞に導入して、形質転換細胞を得る。
【0228】
本発明の生産方法で用いられる細胞は、植物細胞、細菌細胞および動物細胞のうちの任意の細胞であり得るが、好ましくは植物細胞である。
【0229】
植物細胞としては、好ましくは、顕花植物(単子葉または双子葉)由来の細胞が用いられ、より好ましくは双子葉植物細胞が用いられ、より好ましくはイネ科、ナス科、ウリ科、アブラナ科、セリ科、バラ科、マメ科、ムラサキ科の植物由来の細胞が用いられる。さらに好ましくは、コムギ、トウモロコシ、イネ、オオムギ、ソルガム、タバコ、ピーマン、ナス、メロン、トマト、イチゴ、サツマイモ、アブラナ、キャベツ、ネギ、ブロッコリー、ダイズ、アルファルファ、アマ、ニンジン、キウリ、柑橘類、ハクサイ、レタス、モモ、ジャガイモ、ムラサキ、オウレン、ポプラおよびリンゴ由来の細胞が用いられる。最も好ましくはタバコ由来の細胞が用いられる。
【0230】
植物細胞は、植物体の一部、器官、組織、培養細胞などであり得る。培養細胞であることが好ましい。植物細胞は好ましくは、増殖速度が速い培養細胞である。増殖速度が速いとは、その培養細胞を任意の培養条件下で1週間培養した場合に、培養開始時の細胞数の好ましくは約10倍以上、より好ましくは約20倍以上、さらに好ましくは約30倍以上、さらに好ましくは約40倍以上、さらに好ましくは約50倍以上、さらに好ましくは約60倍以上、さらに好ましくは約70倍以上、さらに好ましくは約80倍以上、特に好ましくは約90倍以上、最も好ましくは約100倍以上細胞数に増殖し得ることをいう。
【0231】
このような増殖速度の速い培養細胞の例としては、タバコBY−2細胞が挙げられるがこれに限定されない。シロイヌナズナ由来の培養細胞でも、増殖速度が速い細胞株が樹立されており、公知である。このような細胞株の例としては、James A.H.Murray博士,Institute of Biotechnology,University of Cambridge,Tennis Court Road,Cambridge CB2 1QT,United Kingdomが樹立した細胞株が挙げられる。もちろん、増殖速度が速い細胞株は、シロイヌナズナ植物体を培養して培養細胞を増殖させ、増殖した細胞から増殖速度の速い細胞を繰り返し選択することによっても入手され得る。これらの細胞については上記のとおりである。
【0232】
本発明の細胞は、これらの細胞を用いて、上記「3.細胞」に記載のように、当該分野で周知の形質転換方法を用いて形質転換され得る。あるいは、この形質転換細胞は、当該分野で周知の形質転換方法に従って作出された細胞を再分化させ、形質転換個体を得て、その個体を交配することによって得た子孫から得られる細胞であり得る。
【0233】
細胞を形質転換するために用いられる核酸分子は、さらにシグナルペプチドコード配列を含み得る。シグナルペプチドコード配列については、上記の1に記載したとおりである。
【0234】
次いで、この形質転換細胞は、そのまま、糖の非存在下で培養して、該タンパク質を分泌させてもよい。あるいは、この形質転換細胞を、まず、糖の存在下で増殖させてから、糖の非存在下に移して培養してもよい。
【0235】
本明細書中で用いられる「糖」は、任意の糖であり得るが、好ましくは代謝可能な解糖系糖または代謝されるとこの解糖系糖になり得る糖である。解糖系糖とは、代謝可能な糖をいう。代謝可能な糖は、上記「1.核酸分子」に記載のとおりである。代謝可能な糖は好ましくは、グルコース、フルクトース、キシロース、ガラクトース、スクロース、マルトースおよびアラビノースであり、より好ましくはスクロースである。スクロースは、他の単糖と比較して、安価でかつ入手が容易であるからである。
【0236】
形質転換体を培養するときの糖の濃度は、当該分野で公知の方法によって容易に決定され得る。目的の細胞に適切な培地組成は、当該分野で公知である。培地は、液体であっても固体であってもよいが、液体であることが好ましい。液体培地中で振盪培養することが好ましい。液体中で振盪培養すると、細胞の増殖が早いからである。
【0237】
形質転換細胞を糖の非存在下で培養する前に、形質転換細胞を糖の存在下で培養する場合、この条件での糖の濃度は、好ましくは約10mM以上であり、より好ましくは約15mM以上であり、さらに好ましくは約20mM以上である。糖濃度に特に上限はないが、必要に応じて約特に下限はないが、必要に応じて約200mM以下、約150mM以下、約100mM以下または約90mM以下の濃度とすることができる。糖の存在下で形質転換細胞を培養すると、糖欠乏応答性プロモーターは応答せず、その細胞が通常有する通常の代謝が生じる。糖の存在下では、形質転換細胞は、好ましくは、迅速に増殖する。
【0238】
形質転換細胞を糖の存在下で培養した後、糖の非存在下に移すことは、例えば、ある特定の濃度の糖の存在下で形質転換細胞を培養し始め、ある期間にわたって培養することによって、この形質転換細胞の増殖により、培地中から糖が消費されることによって移されてもよい。しかし、好ましくは、形質転換細胞をある期間にわたって糖の存在下で培養した後、当該分野で公知の方法に従って形質転換細胞を回収し、そして糖を含まない新たな培地にこの形質転換細胞を置くことによって達成され得る。細胞を液体培地中で培養した場合、例えば、その細胞を通過させない適切なメッシュサイズのメッシュ(例えば、20μmメッシュ)を通すことによって回収することが好ましい。メッシュは、任意の素材から製造され得る。例えば、ナイロンメッシュが用いられ得る。培養細胞はまた、1,000g×5分間の遠心分離によって回収することも可能である。細胞を固体培地上で培養した場合、細胞の塊を、ピンセットなどで摘まんで新たな培地上に置き換え得る。
【0239】
「糖の非存在下」とは、主に、糖が実質的に存在しない条件をいう。糖が実質的に存在しない条件とは、糖欠乏応答性プロモーターが発現を促進する条件をいう。糖が実質的に存在しない条件下での糖の濃度は、好ましくは焼く15mM未満であり、より好ましくは約10mM未満であり、さらに好ましくは約5mM未満であり、なお好ましくは約3mM未満であり、なおさらに好ましくは約1mM未満であり、特に好ましくは約0.1mM未満である。糖が実質的に存在しない条件は、糖が全く存在しない条件を包含する。
【0240】
適切な濃度の糖を含む培地の調製方法は、当業者に周知である。
【0241】
糖の非存在下で形質転換細胞を培養すると、形質転換細胞内の糖欠乏誘導性プロモーターが応答し、この糖欠乏誘導性プロモーターに作動可能に連結された異種遺伝子配列の発現が生じる。さらに、この異種遺伝子配列にシグナルペプチドコード配列が、作動可能に連結されていると、この異種遺伝子配列によってコードされる遺伝子産物の分泌がもたらされる。
【0242】
次いで、分泌されたタンパク質は、回収される。タンパク質は、当該分野で周知の方法を用いて回収され得る。
【0243】
タンパク質の分離技術は当該分野において周知であり、タンパク質を分離することができる技術であれば、どのような技術を用いてもよい。本発明の形質転換細胞の培養物から、タンパク質コード配列によってコードされるタンパク質(例えば、有用タンパク質)を単離または精製するためには、当該分野で周知慣用の通常のタンパク質の単離または精製法を用いることができる。例えば、本発明のポリペプチドが本発明の形質転換体の細胞外に本発明のポリペプチドが分泌される場合には、その培養物を遠心分離等の手法により処理し、可溶性画分を取得する。その可溶性画分から、溶媒抽出法、硫安等による塩析法脱塩法、有機溶媒による沈澱法、ジエチルアミノエチル(DEAE)−セファロース、DIAION HPA−75(三菱化学)等レジンを用いた陰イオン交換クロマトグラフィー法、S−Sepharose FF(Pharmacia)等のレジンを用いた陽イオン交換クロマトグラフィー法、ブチルセファロース、フェニルセファロース等のレジンを用いた疎水性クロマトグラフィー法、分子篩を用いたゲルろ過法、アフィニティークロマトグラフィー法、クロマトフォーカシング法、等電点電気泳動等の電気泳動法等の手法を用い、精製標品を得ることができる。
【0244】
本明細書において「単離された」ポリペプチドとは、そのポリペプチドが天然に存在する生物体の細胞内の他の生物学的因子(例えば、ポリペプチド以外の因子および目的とするポリペプチド以外のポリペプチドなど)から実質的に分離または精製されたものをいう。「単離された」ポリペプチドには、標準的な精製方法によって精製されたポリペプチドが含まれる。したがって、単離されたポリペプチドは、化学的に合成したポリペプチドを包含する。また、標準的な精製方法によって精製した後に、他の物質と混合したポリペプチドおよび緩衝液中に溶解したポリペプチドなども、本明細書でいう単離されたポリペプチドに該当する。
【0245】
本明細書において「精製された」ポリペプチドとは、そのポリペプチドに天然に随伴する因子の少なくとも一部が除去されたものをいう。したがって、通常、精製されたポリペプチドにおけるそのポリペプチドの純度は、そのポリペプチドが通常存在する状態よりも高い(すなわち濃縮されている)。
【0246】
目的のタンパク質が本発明の形質転換体の細胞内に溶解状態で蓄積する場合には、培養物を遠心分離することにより、培養物中の細胞を集め、その細胞を洗浄した後に、超音波破砕機、フレンチプレス、マントンガウリンホモジナイザー、ダイノミル等により細胞を破砕し、無細胞抽出液を得る。その無細胞抽出液を遠心分離することにより得られた上清から、溶媒抽出法、硫安等による塩析法脱塩法、有機溶媒による沈澱法、ジエチルアミノエチル(DEAE)−セファロース(Sepharose)、DIAION HPA−75(三菱化学)等レジンを用いた陰イオン交換クロマトグラフィー法、S−Sepharose FF(Pharmacia)等のレジンを用いた陽イオン交換クロマトグラフィー法、ブチルセファロース、フェニルセファロース等のレジンを用いた疎水性クロマトグラフィー法、分子篩を用いたゲルろ過法、アフィニティークロマトグラフィー法、クロマトフォーカシング法、等電点電気泳動等の電気泳動法等の手法を用いることによって、精製標品を得ることができる。
【0247】
目的のタンパク質が細胞内に不溶体を形成して発現した場合は、同様に細胞を回収後破砕し、遠心分離を行うことにより得られた沈澱画分より、通常の方法によりそのタンパク質を回収後、そのタンパク質の不溶体をタンパク質変性剤で可溶化する。この可溶化液を、タンパク質変性剤を含まないか、あるいはタンパク質が変性しない程度にタンパク質変性剤濃度が希薄な溶液になるように希釈あるいは透析し、目的のタンパク質を正常な立体構造に構成させた後、上記と同様の単離精製法により精製標品を得ることができる。また、細胞内の特定のオルガネラ、例えば、プロテインボディに蓄積され得る場合には、そのオルガネラを分離後、目的のタンパク質を精製することもできる。
【0248】
通常のタンパク質の精製方法(J.Evan.Sadlerら:Methods in Enzymology,83,458)に準じて精製できる。例えば、目的のタン質を他のタンパク質との融合タンパク質として生産し、融合したタンパク質に親和性をもつ物質を用いたアフィニティークロマトグラフィーを利用して精製することもできる[山川彰夫,実験医学(Experimental Medicine),13,469−474(1995)]。例えば、Loweらの方法(Larsenら,Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,86,8227(1989)、Kukowska−Latallo JF、Genes Dev.,4,1288(1990))に記載の方法に準じて、目的のタンパク質をプロテインAとの融合タンパク質として生産し、イムノグロブリンGを用いるアフィニティークロマトグラフィーにより精製することができる。
【0249】
例えば、目的のタンパク質と精製用のタグ(例えば、Hisタグ(例えば、6つのHis残基からなる6×Hisタグ)、HAタグ、プロテインA、IgGドメイン、またはマルトース結合タンパク質)とを融合し、目的のタンパク質と精製用のタグとの間に、例えばプロテアーゼによる切断部位を付加するように設計した融合タンパク質を生産すれば、精製用のタグに対するアフィニティークロマトグラフィーを用いて融合タンパク質を精製し、その後、例えばプロテアーゼを用いて目的のタンパク質を融合タンパク質から切断することによって、目的のタンパク質の精製を容易に行うことができる。
【0250】
例えば、6×Hisタグを用いる場合、融合タンパク質を発現する細胞を遠心分離(例えば、約6000×gで20分間)によって収集し、細胞ペレットを、カオトロピック剤である6MグアニジンHCl中に、4℃で3〜4時間攪拌することによって可溶化させる。次いで、細胞細片を遠心分離によって取り除き、そしてポリペプチドを含む上清を、ニッケル−ニトリロ三酢酸(「Ni−NTA」)アフィニティー樹脂カラム(QIAGEN,Inc.前出より入手可能)にロードする。6×Hisタグを有するタンパク質は、Ni−NTA樹脂に高い親和性で結合し、そして単純な1工程手順で精製され得る(詳細には、The QIA expressionist(1995)QIAGEN,Inc.,前出を参照のこと)。手短に言えば、上清を、6Mグアニジン−HCl、pH8のカラムにローディングし、カラムを、最初に10容量の6Mグアニジン−HCl、pH8で洗浄し、次いで10容量の6Mグアニジン−HCl、pH6で洗浄し、最後にポリペプチドを、6Mグアニジン−HCl、pH5で溶出する。次いで、精製したタンパク質を、リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)または50mM 酢酸ナトリウム、pH6の緩衝液および200mM NaClに対して透析することにより再生させる。あるいは、タンパク質はNi−NTAカラムに固定化している間に、首尾よく再折畳みされ得る。推奨条件は以下の通りである:プロテアーゼインヒビターを含む、500mM NaCl、20%グリセロール、20mM Tris/HCl pH7.4中の6M〜1M尿素の直線勾配を使用する再生。再生は1.5時間以上の時間をかけて行うことが好ましい。再生後、タンパク質を250mMイミダゾールの添加によって溶出させる。イミダゾールを、PBSまたは50mM酢酸ナトリウムpH6の緩衝液および200mM NaClに対する最終の透析工程によって除去する。このようにして、精製したタンパク質が得られる。
【0251】
また、目的のタンパク質をFLAGペプチドとの融合タンパク質として生産し、抗FLAG抗体を用いるアフィニティークロマトグラフィーにより精製することができる(Larsenら,Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,86,8227(1989)、Kukowska−Latallo JF、Genes Dev.,4,1288(1990))。
【0252】
さらに、目的のポリペプチド自身に対する抗体を用いたアフィニティークロマトグラフィーで精製することもできる。本発明のタンパク質は、公知の方法[J.Biomolecular NMR,6,129−134、Science,242,1162−1164、J.Biochem.,110,166−168(1991)]に準じて、in vitro転写・翻訳系を用いて生産することができる。
【0253】
本発明は、本発明の方法によって生産された、目的のヌクレオチドの翻訳産物を含む組成物を提供する。そのような組成物が含む翻訳産物は、使用される目的のヌクレオチドに応じて変動するが、好ましくはタンパク質であり得る。
【0254】
以下に、本発明の好ましい実施形態である実施例に基づいて本発明を説明するが、以下の実施例は、例示の目的のみに提供される。従って、本発明の範囲は、上記発明の詳細な説明にも下記実施例にも限定されるものではなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【実施例】
【0255】
(実施例1:糖欠乏応答性遺伝子の単離)
(実施例1の概略)
糖応答性遺伝子を同定するために、シロイヌナズナcDNAマクロアレイを、スクロースの存在下または非存在下で培養した芽生えから調製したプローブとハイブリダイズした。最初のスクリーニングによって、影響を受ける36個のcDNAが同定された。これらのcDNAのうちの12個を、糖欠乏条件下で誘導されると同定した。これらのうちの9個は、既知の糖応答に関して新規であった。コードされるタンパク質の特性に基づいて、これらを、アミノ酸代謝、糖質代謝および未知に関与する3つの群に分類した。続いて、これらの発現プロファイルと糖レベルとの間の相関を、植物を用いて分析した。離脱葉を36時間にわたるスクロース欠乏に供した場合、グルコースの顕著な減少が生じたが、スクロースの減少は生じず、そして付随して、12個全ての遺伝子が誘導された。しかし、これらの転写産物は、サンプルにスクロースを再供給したところ、7時間以内に迅速に低下した。誘導および抑制の同様のパターンが、植物体全体の暗所処理によって観察されたが、成熟葉の自然老化の間には観察されなかった。グルコースアナログを用いた阻害分析は、これらの遺伝子のうちの9個が、ヘキソキナーゼシグナル伝達経路に関連し得ることを示した。本観察は、植物が、糖欠乏の間、物質の再利用に関与する1セットの遺伝子を活性化することおよびこれらの遺伝子が、機能的に多様であるにもかかわらず、同時にそして協調して調節されることを示唆する。
【0256】
この方法および結果の詳細を以下に記載する。
【0257】
(1.1 材料および方法)
(1.1.1 植物材料および成長条件)
シロイヌナズナ(エコタイプColumbia)を、2%スクロース(w/v)を含む0.5×MS液体培地(MurashigeおよびSkoog基本塩、pH5.8)中で、16時間明期/8時間暗期の光周期で21℃で成長させた。播種3週間後、芽生えを、スクロース非含有培地に移植することによって糖を欠乏させ、そして暗所にて79時間までさらに培養した。スクロース非含有培地での72時間の培養後、芽生えを、2%スクロース(w/v)を補充した培地に7時間にわたって移植することによって、芽生えにスクロースを再度供給した。
【0258】
(1.1.2 cDNAマクロアレイの調製)
シロイヌナズナcDNAマクロアレイは、かずさDNA研究所から供給された。フィルター(8×12cm)は、4つの異なる組織(地上部器官、花芽、根および緑色の長角果)から調製された約13,000個のPCR増幅cDNAフラグメントを含んでいた。アンプリコン作製およびアレイ作製を、Asamizuら、DNA Research 7,2000,pp.175−180およびSasakiら、DNA Research 8,2001,pp.153−161に記載されるとおりに行った。
【0259】
(1.1.3 RNA抽出およびマクロアレイハイブリダイゼーション)
総RNAを、AGPC(酸性グアニジニウム−フェノール−クロロホルム)法(Suzukiら、Plant Cell and Environment 24、2001、pp.1177−1188)を用いて芽生えから単離した。ポリ(A)RNAを、PolyATract mRNA Isolation System(Promega)を用いて、600μgの総RNAから精製した。12μl溶液中の0.3μgのポリ(A)RNAおよび1μgのオリゴ(dT)を、70℃で10分間変性させ、そして氷上で3分間冷却し、そして28μlの総容積(3μlの緩衝液、3μlの25mM MgCl、1.5μlの各10mMのdNTP、1μlの0.1M DTT、6μlの[α−33P]dCTPおよび1.5μlの逆転写酵素)で、37℃で90分間逆転写に供した。得られた33P標識cDNAプローブを、QuantTM G−50 Microカラム(Amersham Pharmacia Biotech)によって精製した。10μlのオリゴ(dA)を補充したChurch−リン酸緩衝液(pH7.2)(0.5M NaHPO、1mM EDTAおよび7% SDS)中での65℃で1時間にわたるプレハイブリダイゼーション後、マイクロアレイフィルターを、65℃で16〜20時間にわたる、10mlの総容積でのプローブを用いたハイブリダイゼーションに供した。フィルターを、それぞれ65℃で30分間にわたって、0.1% SDSを含む2×SSCで1回洗浄し、そして0.1% SDSを含む0.5×SSC中で2回洗浄した。各マイクロアレイフィルターを、処理した植物材料および未処理の植物材料から調製した33P標識cDNAプローブでの代替ハイブリダイゼーションのために順次用いた。
【0260】
(1.1.4 データ分析)
フィルターを、BAS 5000を用いてスキャンし、そしてシグナル強度を、バックグラウンドを差し引きして、Array Vision(Amersham Pharmacia Biotech)によって分析した。バックグラウンドよりも低い値を示すスポットを、さらなる分析から除外した。異なるハイブリダイゼーション間の比較を改善するために、定量したシグナル強度を、フィルターあたりの積分値に関して標準化した。誘導または抑制された糖応答遺伝子を、未処理レベルの3倍を超えるかまたは未処理レベルの0.3倍を下回るという基準を用いて同定した。
【0261】
(1.1.5 サブアレイ作製、ハイブリダイゼーションおよびデータ分析)
最初のアレイスクリーニングによって同定された遺伝子間で矛盾したクローンを排除するために、184個の遺伝子および8個のコントロールを用いてサブアレイを構築し、これらの隣接する重複する遺伝子は、合計384個のエレメントのcDNAサブアレイを生じる(Gene−Lab Co.Ltd.)。cDNAマクロアレイ分析のために用いたプロトコルに従って、ハイブリダイゼーションを行った。ハイブリダイゼーションシグナルの再現性を、三連の実験の平均値から評価した。
【0262】
(1.1.6 RNAゲルブロット分析)
総RNAを、Suzukiら、Plant Cell and Environment 24、2001、pp.1177−1188に記載されるとおりに総芽生えまたは離脱葉組織から抽出した。10μgの各RNAサンプルを、1.2%ホルムアルデヒド−アガロースゲル電気泳動によってサイズ分画し、ナイロンメンブレンにトランスファーし、そしてUV照射によって架橋した。このメンブレンを、42℃で16時間にわたるハイブリダイゼーションに供し、0.1% SDSを含む0.5×SSC中で65℃で2回洗浄し、そしてSuzukiら、Plant Cell and Environment 24、2001、pp.1177−1188に記載されるとおりにX線フィルムに接触させた。
【0263】
(1.1.7 可溶性の糖の決定)
可溶性の糖を、4mLの80%(v/v)のエタノールおよび1mLの50%エタノールで順次抽出した。2つの層をプールし、そして80℃にて30分間インキュベートした。溶液を9,000rpmで10分間遠心分離し、そして上清をSpeed Vac Concentrator中で乾燥した。乾燥した残渣を、400μlの80%エタノール中に再懸濁し、400μlのクロロホルムと混合し、そして7,500rpmで10分間遠心分離した。上清を、酵素法(Sigma Diagnostics Glucose試薬,USA)によって可溶性の糖について分析した。
【0264】
(1.2 結果)
(1.2.1 糖応答性遺伝子の同定)
約13.000個のシロイヌナズナ遺伝子についてのcDNAマクロアレイを用いて、本発明者らは、糖の欠乏に応答して転写産物レベルが変化したcDNAをスクリーニングした。プローブのcDNAを、79時間の糖欠乏に供した水耕栽培芽生え、または72時間のスクロース欠乏後にスクロースを豊富に含む培地に7時間にわたって戻した後の水耕栽培芽生えから調製した。ハイブリダイゼーションを、各サンプルについて二連で行って、高い再現性を得た。Array Visionでのスケーリング後、シグナル強度を正規化して、2つのプローブの間の強度の比を算出した。最初のスクリーニングによって、シグナルの比が3倍を超えて変化したか、または0.3倍未満で変化した184個の遺伝子が得られた(図1a)。続いて、二連のサブアレイ(各々192遺伝子を含む)を調製した。このうち、184個が最初に同定された遺伝子であり、そして8個がポジティブコントロール遺伝子であった。常に暗所で1%スクロースの非存在下または存在下で培養した、播種後3週間目の芽生えから調製したプローブでのサブアレイのディファレンシャルハイブリダイゼーションによって、73個の遺伝子の転写産物レベルがコントロールと比較して1.5倍の増加または減少を示すことを示した(図1b)。
【0265】
(1.2.2 転写産物の蓄積)
1%スクロースを含む培養培地で成長させた芽生えを、スクロースを含まない新鮮な培地に移植し、そして12時間、36時間および79時間にわたってインキュベートし、そしてサブアレイで同定された73個の遺伝子についてRNAゲルブロット分析を行った(図2)。糖の欠乏によって誘導された9個の遺伝子の発現パターンを、RNAブロットハイブリダイゼーションによって分析した(図2)。9個全ての遺伝子について、RNAゲルブロットアッセイデータは、サブアレイプロファイルと一貫しており、そして本発明者らは、これらのアレイについての定量的結果に妥当性があると結論し、そしてこの単離した遺伝子を、AtSUG(rabidopsis haliana ugar p−regulated)1〜9と命名した。
【0266】
(1.2.3 離脱葉の応答)
播種後25日目の植物から脱離した展開した葉のサンプルにスクロースを供給したところ、スクロースおよびグルコースのレベルが比較的一定に維持されることが見出された(図3a)。対照的に、サンプルからスクロースを欠乏させると、スクロースのレベルは徐々に低下し、そしてグルコースのレベルは迅速に低下した(図3a)。特に、グルコースは、79時間後には、開始レベルの10%未満まで減少した(図3a)。サンプルからスクロースを72時間にわたって欠乏させ、次いで7時間にわたって30mMスクロースを供給した場合、スクロースおよびグルコースは両方とも、糖が供給されたサンプルにおけるレベルと等しいレベルを示した(図3a)。
【0267】
転写産物の蓄積プロファイルを、RNAブロットハイブリダイゼーションによって糖結合に応答することが同定された73個の遺伝子について、脱離葉サンプルを用いて調べた
場合、12個の遺伝子が誘導された。次いで、誘導された12個の遺伝子の転写産物蓄積の時間経過を、スクロースが供給された脱離葉およびスクロースが欠乏した脱離葉において調べた(図3b)。これらの転写産物は全て、スクロースを供給したサンプルにおいて存在しなかったが、これらは、スクロースが欠乏したら迅速に蓄積した。顕著なことに、スクロース誘導性転写産物は、スクロースを再供給してから7時間以内に減少した(図3b)。これらのパターンは、一般に共有されているようであるが、2つ(AtSUG4およびAtSUG10)は、いくらかの相違を示した。コードされるタンパク質の推定機能に基づいて、誘導された12個の遺伝子を、3つの群(アミノ酸代謝、糖質代謝および未知)に分類した(表1)。
【0268】
[表1]

【0269】
(1.2.4 暗所の影響)
植物全体を遮光した場合、ロゼット葉におけるスクロース含量およびグルコース含量は両方とも、3日後、最初のレベルの25%まで有意に減少した(図4a)。この低下は、グルコースに関して、スクロースよりも明確であり、1日の処置後に70%の減少を示した(図4a)。脱離葉における全てのAtSUGの転写産物は、暗所へ移して1日以内に非常に誘導され、そしてこのレベルは、3日間まで維持された(図4b)。
【0270】
(1.2.5 老化の影響)
脱離葉は、老化することが公知であり、目に見えて黄化する(図5a)。脱離したロゼット葉(これを老化させた)を用いて、糖含量の変動およびAtSUGの転写レベルを調べた。実験系を、Columbiaエコタイプで設定した。この実験系では、ロゼット葉は、発芽約25日後に充分に広がり、そして花序および花は、35日目に現れる。50日目に、ロゼット葉は、クロロフィルを失い、そして70日目の植物は、成熟して老化状態に到達する。スクロースおよびグルコース(これは、25日目まで蓄積した)は、その次の10日間の間に迅速に減少した(図5a)。しかし、これらの両方の糖の量は、その後増加し、70日目には25日目とほぼ同じレベルに到達した。これは、蓄積した澱粉または細胞化合物の分解を示し得る(図5a)。
【0271】
驚くべきことに、AtSUGの応答は、変動性であった(図5b)。全ての転写産物が誘導されたわけではなく、次いで50日目より後に誘導が明確になることを初めて示す。AtSUG3およびAtSUG5の転写産物は、25日目に非老化葉において存在し、そして老化期間の間、比較的一定のレベルで持続した(図5b)。これらの結果は、AtSUGの発現系が、暗所および糖の欠乏によって誘導される人工老化と、加齡に関連する天然の老化とは異なることを示唆する。
【0272】
(1.2.6 グルコースアナログの影響)
ヘキソキナーゼによってリン酸化されるが、その後、グルコース−6−リン酸には代謝されない、2−デオキシグルコースの影響は、ヘキソキナーゼシグナル伝達経路の関与を示すと考えられる。3−O−メチルグルコースは、ヘキソキナーゼの基質ではなく、そしてその影響は、ヘキソキナーゼ依存性シグナル伝達を示す。離脱葉からスクロースを48時間欠乏させ、次いで糖またはアナログを24時間にわたって供給した場合、全てのAtSUGは、欠乏によって最初に抑制解除された(図6)。スクロースおよびグルコースの再供給は、これらの発現を抑制したが、後者は、いくつかの遺伝子に関しては有効であるには不充分であった。2−デオキシグルコースもまた、大多数のAtSUGの発現を抑制したが、全てを抑制したわけではなく、AtSUG5、AtSUG7およびAtSUG10を抑制しなかった。3−O−メチルグルコースは、AtSUGに対して何の影響も示さなかった。これらの結果は、12個のAtSUGのうちの9個が、おそらく、ヘキソキナーゼシグナル伝達経路の制御下にあり、一方、3個は明らかに独立していることを指摘する。
【0273】
(実施例2:β−ガラクトシダーゼ、β−キシロシダーゼおよびβ−グルコシダーゼの、植物体での糖欠乏応答性発現の確認)
実施例1で単離したAtSUG1から12の、スクロース存在下およびスクロース非存在下での発現を、スクロース存在下の条件ではスクロースを1%含む条件で成長させたこと以外は上記1.2.2に記載と同様の方法で、RNAゲルブロット分析によって調べた。結果を図7に示す。この結果、AtSUG6およびAtSUG7が、糖欠乏に特に敏感に応答して、顕著に誘導されることがわかった。それゆえ、AtSUG6およびAtSUG7の配列を、DNAシークエンサー(モデル373、PE Biosystems,Foster City,CA)を用いて配列決定した。決定された配列を他の配列との相同性について検索した結果、AtSUG6は、β−ガラクトシダーゼをコードし、そしてAtSUG7はβ−キシロシダーゼをコードすることがわかった。
【0274】
得られた配列を用いて、日本DNAデータバンクのWebサイト(http:www.ddbj.nig.ac.jp/Welcome−j.html)のClustalWという解析ソフトで配列分析を行うことによって、β−ガラクトシダーゼ(Galとも記載する)およびβ−キシロキダーゼ(Xylとも記載する)のファミリーの系統樹を作成した。結果を図8に示す。β−ガラクトシダーゼファミリーには、Gal−1〜Gal−6が存在する。β−キシロシダーゼファミリーには、Xyl−1〜Xyl−3が存在する。
【0275】
これらの類似の遺伝子の発現パターンを見るために、Gal−1〜Gal−6およびXyl−1〜Xyl−3のスクロース存在下およびスクロース非存在下での発現を、プローブとしてそれぞれの遺伝子を用いることおよびスクロース存在下の条件ではスクロースを1%含む条件で成長させたこと以外は、上記1.2.2に記載と同様の方法で、RNAゲルブロット分析によって調べた。結果を図9に示す。この結果、Gal−1およびXyl−1が、糖欠乏に敏感に応答し、糖欠乏によって顕著に発現が誘導されることがわかった。Xyl−3は、糖欠乏によって発現が促進された。
【0276】
これらの糖分解関連遺伝子が糖欠乏に敏感に応答することから、他の糖分解関連遺伝子も同様に応答するのではないかと考え、β−グルコシダーゼ(Glc−1)についてプローブとしてGlc−1を用いることおよびスクロース存在下の条件ではスクロースを1%含む条件で成長させたこと以外は、上記1.2.2に記載と同様の方法で、RNAゲルブロット分析によって調べた。結果を図10に示す。この結果、β−グルコシダーゼもまた、糖欠乏に応答して発現が顕著に誘導されることがわかった。
【0277】
Gal−1の遺伝子産物(724アミノ酸)、Xyl−1の遺伝子産物(774アミノ酸)およびGlc−1の遺伝子産物(531アミノ酸)の構造を比較したところ、いずれも、N末端にシグナルペプチドを有することがわかった(図11)。それゆえ、これらの遺伝子産物は、細胞外へ分泌されると予想される。また、これらは全て糖鎖付加シグナルを持ち、糖タンパク質であると考えられた。他の部分についてはこれらの3つの遺伝子産物間での相同性は低かった。
【0278】
(実施例3:β−ガラクトシダーゼ、β−キシロシダーゼおよびβ−グルコシダーゼの、培養細胞での糖欠乏応答性発現の確認)
培養細胞は、容易に糖源を調整し得、かつ細胞壁タンパク質が培養液中に分泌されるという特徴を有する(図12を参照)。β−ガラクトシダーゼ、β−キシロシダーゼおよびβ−グルコシダーゼの発現が培養細胞中でも同様に糖欠乏によって誘導されるのであれば、これらの遺伝子の有するプロモーターを用いて糖欠乏誘導性発現系を構築することが可能である。そこで、シロイヌナズナ(エコタイプColumbia)を、2%スクロース(w/v)を含む0.5×MS液体培地(MurashigeおよびSkoog基本塩、pH5.8)中で、16時間明期/8時間暗期の光周期で21℃で成長させた。播種1週間後のシロイヌナズナの胚軸の部分を切り出し、この部分を、3%スクロースおよび1mg/L 2,4−ジクロロフェノキシ酢酸、1×B5ビタミン(0.4mg/L ミオイノシトール、0.004mg/L ニコチンアミド、0.004mg/L ピリドキシンHCl、0.04mg/L チアミンHCl)および0.8%アガロースを含む1×MS固形培地上にのせて暗所で21℃で1ヶ月間にわたって培養することによってカルスを誘導した。1ヵ月後、誘導されたカルスを、アガロースを含まない3%スクロースおよび1mg/L 2,4−ジクロロフェノキシ酢酸、1×B5ビタミン(0.4mg/L ミオイノシトール、0.004mg/L ニコチンアミド、0.004mg/L ピリドキシンHCl、0.04mg/L チアミンHCl)を含む1×MS培地に植えて、暗黒下で21℃で100rpmで振盪しながら1週間にわたって懸濁培養した。1週間の懸濁培養後、このシロイヌナズナ培養細胞を、0、10、30または90mMのスクロースおよび1mg/L 2,4−ジクロロフェノキシ酢酸、1×B5ビタミン(0.4mg/L ミオイノシトール、0.004mg/L ニコチンアミド、0.004mg/L ピリドキシンHCl、0.04mg/L チアミンHCl)を含む1×MS培地中で21℃で36時間にわたって継代培養した。継代培養開始時(0時間)、継代培養12時間後、24時間後および36時間後に培養細胞の一部を取り出し、この細胞中でのGal−1、Xyl−1およびGlc−1の発現を、各遺伝子についてプローブとしてそれぞれの遺伝子を用いること以外は、上記1.2.2に記載と同様の方法で、RNAゲルブロット分析によって調べた。結果を図13に示す。この結果、Gal−1、Xyl−1およびGlc−1が、培養細胞中でも糖欠乏による顕著にmRNA発現が誘導され、そしてスクロースが存在するとこれらの遺伝子のmRNAの発現はほぼ完全に抑制されることがわかった。
【0279】
培養液中のGal−1、Xyl−1およびGlc−1の実際の酵素活性も同様に糖欠乏誘導性で増加するか否かを決定するために、3%スクロースおよび1mg/L 2,4−ジクロロフェノキシ酢酸、1×B5ビタミン(0.4mg/L ミオイノシトール、0.004mg/L ニコチンアミド、0.004mg/L ピリドキシンHCl、0.04mg/L チアミンHCl)を含む1×MS培地で前培養し、次いで、培養細胞を、3%スクロースを含むかまたはスクロースを含まない同じ培地に移植して継代培養した後、10時間後、20時間後、30時間後または40時間後に培養上清を0.1ml採取し、人工基質(それぞれ、メチルウンベリフェロン−Gal、メチルウンベリフェロン−Xylおよびメチルウンベリフェロン−Glu)を用い、365nmの励起波長および455nmの吸収波長で蛍光顕微鏡を用いて、この上清中の遊離した4−メチルウンベリフェロン(4−MU)の蛍光を測定することによって、この上清中のβ−ガラクトシダーゼ活性、β−キシロシダーゼ活性およびβ−グルコシダーゼ活性を測定した。結果を図14に示す。この結果、β−ガラクトシダーゼ、β−キシロシダーゼおよびβ−グルコシダーゼのいずれも、糖欠乏によって、タンパク質レベルで発現が顕著に誘導されて培養液中に分泌されることが確認された。
【0280】
これらの結果から、糖欠乏(糖飢餓)時には、糖飢餓によって細胞壁分解酵素遺伝子の発現が誘導され、細胞壁分解酵素が分泌され、この細胞壁分解酵素によって細胞壁に存在する糖鎖が分解されて、ガラクトース、キシロース、グルコースといった単糖が遊離され、この遊離した糖を植物が炭素源として利用していると考えられる(図15)。つまり、植物は光合成阻害などにより、糖飢餓状態に陥ると細胞壁多糖を分解し、エネルギー源として利用すると考えられる。
【0281】
Gal−1、Xyl−1およびGlc−1が、どのような糖によって糖欠乏誘導性発現の制御を受けているかを確認するために、上記のシロイヌナズナ培養細胞を、3%スクロースおよび1mg/L 2,4−ジクロロフェノキシ酢酸、1×B5ビタミン(0.4mg/L ミオイノシトール、0.004mg/L ニコチンアミド、0.004mg/L ピリドキシンHCl、0.04mg/L チアミンHCl)を含む1×MS培地で前培養し、次いで、3%スクロースの代わりにそれぞれ、炭素源としてスクロース、グルコース、ガラクトース、フルクトース、キシロース、マンノース、マンニトール、またはグルコースアナログである2−デオキシ−グルコース(2−d−gluc)もしくは3−O−メチルグルコース(3−oM−gluc)を3%含む同じ培地中で、暗黒下で21℃で24時間培養した。24時間培養後、培養細胞を採取し、mRNAを単離し、RNAゲルブロット分析によって調べた。結果を図16に示す。この結果、スクロース、グルコース、ガラクトース、フルクトースおよびキシロースという代謝可能な糖によってGal−1、Xyl−1およびGlc−1のmRNA発現は抑制され、一方、2−デオキシ−グルコース、マンノース、3−O−メチルグルコースおよびマンニトールという植物によって代謝されない(解糖系に入らない)糖によっては、Gal−1、Xyl−1およびGlc−1のmRNA発現が抑制されないことがわかった。このことから、Gal−1、Xyl−1およびGlc−1のmRNA発現は、代謝可能な糖の存在の有無によって制御されていることがわかった(図15)。これにより、糖による発現制御は、解糖系以降の物質により制御されていると予想される。
【0282】
(実施例4:タバコBY−2細胞におけるβ−ガラクトシダーゼプロモーターまたはβ−キシロシダーゼプロモーターによる異種遺伝子配列の発現)
目的タンパク質の遺伝子の発現量および発現させるタイミングを制御することは、効率的なタンパク質生産を目指す場合に重要なファクターである。また、培養細胞の増殖性もタンパク質の高生産のためには重要である。例えば、タバコBY−2細胞(Kato,A.ら、”Fermentation Technology Today”、1972、pp.689−695に記載の方法に従って作製され得る;東京大学大学院新領域創成科学研究科の馳澤盛一郎先生より分与され得る)は、1週間で約100倍に増殖する、非常に増殖の速い培養細胞株である。このような増殖の速い培養細胞を用いれば、糖欠乏誘導性プロモーターを用いた有用タンパク質生産がより効率的に行われると考えられる。そこで、シロイヌナズナから単離した糖欠乏誘導性遺伝子のプロモーターが、異種植物であるタバコにおいても糖欠乏誘導性に発現可能であるか否かを調べた。
【0283】
(4.1 β−ガラクトシダーゼ遺伝子のプロモーターに異種遺伝子配列を連結した構築物の作製)
プロモーターおよびシグナルペプチドとしてβ−ガラクトシダーゼ(Gal−1)遺伝子(MIPのID#:At5g56870)由来の1418bpのプロモーター(Gal−P)および27アミノ酸配列のシグナルペプチド(SP)コード配列を含む領域(Gal−P−SP)を用い、異種遺伝子配列としてGFPコード配列を用いる。Gal−1のプロモーター領域としては、Gal−1の開始コドンより1418bp上流のDNA配列を用いた。もちろん、当業者に公知のように、プロモーター配列としてこれほど長い領域が必須というわけではなく、より短い配列を用いても同様の結果が獲得され得る。
【0284】
詳細には、シロイヌナズナ(エコタイプ:コロンビア)のゲノムDNAを、臭化セチルトリメチルアンモニウム沈澱法(MurrayおよびThompson,Nucleic Acids Res 8、1980、pp.4321−4325)によって調製した。調製されたゲノムDNAをテンプレートとし、プライマー1(Gal−P−Hind)(AAGCTTATATGGACTAGCTAGACGTAAGC;配列番号7)およびプライマー2(Gal−SP−Bam)(GGATCCATAAGAGACTGATGCTTTTACTATACAAC;配列番号8)を用い、タカラバイオのパイロベストポリメラーゼを用いてPCRを行うことによって、β−ガラクトシダーゼのプロモーター配列およびその後ろのシグナルペプチドコード配列(Gal−P−SP)を増幅した。プライマー1は、HindIII配列とgalプロモーターの上流の配列とからなる配列を有する。プライマー2は、galのシグナルペプチドの推定切断部位から5アミノ酸下流のアミノ酸までとBamHI部位の配列とからなる配列を有する。このときのPCR反応条件は、反応条件は添付の使用説明書に則っており、以下のとおりであった:
94℃で30秒間、55℃で30秒間、72℃で1分間を1サイクルとして、30サイクル行った後、72℃で5分間のPCR反応条件。
【0285】
PCR産物の増幅を電気泳動で確認した後、増幅されたDNAフラグメント1を、pGEM−T(登録商標)Easyベクター(Promegaより入手)に連結し、E.coliにクローニングした。クローニングされた塩基配列の決定をおこない、目的のDNA断片がクローン化されていることを確認した。このE.coliを大量培養した後、このE.coliからベクターを抽出し、抽出されたベクターを制限酵素HindIIIおよびBamHIで切断し、電気泳動し、ゲルから回収して精製することにより、β−ガラクトシダーゼをコードする遺伝子のプロモーター配列およびその後ろのシグナルペプチドコード配列を含むDNAフラグメント1(Gal−P−SP;Gal−P−Gal−SPとも記載する)を得た(図17aを参照のこと)。
【0286】
一方、pBI121(Clontechより入手)を制限酵素EcoRIおよびHindIIIで切断して、CaMV 35Sプロモーター、GUS遺伝子およびNosターミネーターを有さないベクターフラグメント2を得た。また、CaMV35S−sGFP(S65T)−NOS3’(福田裕穂、西村幹夫、中村研三監修、「植物の細胞を観る 実験プロトコール 遺伝子発現から細胞内構造・機能まで」、秀潤社、1997、pp.196−199に記載される;丹羽康夫氏より分与された)を制限酵素EcoRIおよびHindIIIで切断し、電気泳動し、ゲルから回収して精製することによって、CaMV35Sプロモーター、sGFP遺伝子およびNOSターミネーターを含むフラグメント2を得た。ベクターフラグメント2とフラグメント2とを連結して、カナマイシン抵抗性遺伝子の下流にCaMV35Sプロモーター、sGFP遺伝子およびNOSターミネーターを含むベクター4を得た。このベクターをE.coli中にクローニングし、このE.coliを大量培養した後、このE.coliからベクター4を抽出し、抽出されたベクター4をHindIIIおよびBamHIで切断して、カナマイシン抵抗性遺伝子の下流にプロモーター挿入用部位、sGFP遺伝子およびNOSターミネーターを含むベクターフラグメント5を得た(図17bを参照のこと)。
【0287】
次いで、上記で調製したDNAフラグメント1とベクターフラグメント5とを連結して、カナマイシン抵抗性遺伝子の下流にGalプロモーター、Galシグナルペプチドコード配列、Galの成熟ポリペプチド配列の最初の5アミノ酸をコードする配列、GFP遺伝子配列およびNosターミネーター配列が連結されたプラスミド6(植物導入用構築物;pBI−Gal−P−SP−GFP)を得た。
【0288】
(4.2 形質転換BY2細胞の確立)
この植物導入用構築物(pBI−Gal−P−SP−GFP)を、福田裕穂、西村幹夫、中村研三監修、「植物の細胞を観る 実験プロトコール 遺伝子発現から細胞内構造・機能まで」、秀潤社、1997、pp.125−129に記載のアグロバクテリウム法に従ってAgrobacterium tumefaciens(EHA105株)に導入し、pBI−Gal−P−SP−GFPが導入されたAgrobacterium tumefaciensをタバコ培養細胞BY−2株に感染させ、感染後のBY−2細胞を、200μg/mLカナマイシンおよび500μg/mLカルベニシリンを含むBY−2固形培地(福田裕穂、西村幹夫、中村研三監修、「植物の細胞を観る 実験プロトコール 遺伝子発現から細胞内構造・機能まで」、秀潤社、1997、pp.187〜191に記載)で選択して、形質転換BY−2細胞を得た。得られた形質転換BY−2細胞をカナマイシン存在下(50mg/L)で3%スクロースを含む液体BY−2培地(福田裕穂、西村幹夫、中村研三監修、「植物の細胞を観る 実験プロトコール 遺伝子発現から細胞内構造・機能まで」、秀潤社、1997、pp.187〜191に記載)中で27℃で振盪しながら液体培養した。1週間ごとに、0.5mlの細胞を50mlの新しい培地に継代培養して、細胞株を維持した。継代培養に用いた培地中のスクロース濃度は3%であり、糖は充分に存在していた。
【0289】
(4.3 GFPの分泌誘導および分泌の確認)
この形質転換BY−2細胞を、継代4日目に、ナイロンメッシュを通して培地を除去することによって取り出した。取り出された形質転換BY−2細胞を、スクロースを含まないこと以外は組成が同じである液体BY−2培地に移し、27℃で振盪培養した。スクロースを含まない培地に移植してから3日目および4日目の培地からタンパク質を抽出し、SDS−PAGEによりタンパク質を分画した。その後、GFPに特異的な抗体である、抗GFP抗体(ロシュ・ダイアグノスティック社)を用い、中村研三ら監修、秀潤社、細胞工学別冊、「植物のタンパク質実験プロトコール 遺伝子と組織から迫るタンパク質の機能と構造」、164〜172頁に記載の方法に従ってウェスタンブロッティングをおこなった。結果を図18に示す。本実施例においては、形質転換BY−2細胞の増殖を、600nmでの光学密度(OD600)によって測定した。図18のグラフにおいては、OD600を縦軸に示し、スクロース含有培地での継代時点を0日目とした培養日数を横軸に示す。スクロース含有培地での培養を続けた場合、細胞は7日目まで増殖し続けた。培養4日目にスクロースを含まない培地に継代した場合、細胞はほとんど増殖しなかったが、GFPタンパク質を分泌した。図18のグラフ中の挿入図は、ウェスタンブロッティングによる、GFPタンパク質の検出を示す。スクロースを含まない培地に移植してから3日目の培地から検出されたGFPタンパク質を左側の矢印で示す。スクロースを含まない培地に移植してから4日目の培地から検出されたGFPタンパク質を右側の矢印で示す。この結果、糖欠乏により培地にGFPタンパク質が分泌され、分泌されたGFPは培地中で蓄積されることが確認された。
【0290】
それゆえ、シロイヌナズナとは異種であるタバコ細胞においても、Gal−1が糖欠乏性で誘導され、そしてGFPが培養液中に分泌されることがわかる。このことから、糖欠乏誘導性プロモーターおよびシグナルペプチド配列を用いることによって、異種遺伝子配列を制御可能に、効率的に発現させ、分泌させ得ることがわかる。
【0291】
(実施例5 β−キシロシダーゼ遺伝子のプロモーターによる異種遺伝子配列の発現)
分泌型β−キシロシダーゼ遺伝子のプロモーターを単離し、レポーター遺伝子としてβ−グルクロニダーゼ(GUS)に連結したベクターを作製した。このベクターを、上記3.1と同様にして、Agrobacterium媒介形質転換法によって、上記で作製したシロイヌナズナ培養細胞および横浜国立大学平塚和之教授から分与されたタバコBY−2培養細胞に導入した。
【0292】
その結果、GUSタンパク質は本来のβ−キシロシダーゼ同様、糖欠乏により顕著に誘導された。つまり、β−キシロシダーゼプロモーターを用いることにより、目的タンパク質を植物培養細胞において糖欠乏により発現誘導させることが可能であった。
【0293】
この発現系を用いることで、効率的な有用タンパク質の植物細胞での分泌生産が可能となる。
【0294】
(実施例6:シロイヌナズナβ−ガラクトシダーゼプロモーター(Gal−P)およびシグナルペプチド(SP)の制御により、シロイヌナズナ細胞の細胞外(培地)にGFPを分泌させる実験)
上記実施例4で作製した構築物(植物導入用構築物;pBI−Gal−P−SP−GFP)を、秀潤社、細胞工学別冊、「モデル植物の実験プロトコール」、109〜113ページ)に従って、シロイヌナズナ植物体に導入して、形質転換シロイヌナズナ種子を得た。この種子を発芽させ、成長させ、充分に成長した形質転換植物体から葉を切り取り、水(糖欠乏条件)または1%スクロース水溶液(糖存在条件)に浮かべ、暗所に一晩置いた。この葉を磨り潰してタンパク質を抽出し、実施例4と同様にウェスタンブロッティングを行った。その結果、水に浮かべた葉についてのみ、GFP遺伝子の発現およびGFPタンパク質の蓄積が確認された。このことから、この形質転換シロイヌナズナ植物の葉では、GFP遺伝子の発現およびGFPタンパク質の蓄積が糖欠乏特異的に起こることが確認された。
【0295】
(実施例7:シロイヌナズナβ−ガラクトシダーゼプロモーター(Gal−P)およびシグナルペプチド(SP)の制御により、シロイヌナズナ細胞の細胞外(培地)にマウス抗体を分泌させる実験)
GFP遺伝子の代わりにマウス抗体遺伝子を用いること以外は実施例4と同様にして、マウス抗体用発現構築物を作製する。この発現構築物を、実施例6と同様にしてシロイヌナズナ培養細胞に導入して、形質転換シロイヌナズナ細胞を得る。実施例4と同様にウェスタンブロッティングにより確認することにより、この形質転換シロイヌナズナ細胞では、マウス抗体遺伝子の発現およびタンパク質の蓄積が糖欠乏特異的に起こることが確認される。また、培地中に発現されたマウス抗体を精製し、抗体特異性試験を行うことにより、発現されたマウス抗体が抗体として機能することを確認し得る。
【0296】
(実施例8:シロイヌナズナβ−ガラクトシダーゼプロモーター(Gal−P)およびシグナルペプチド(SP)の制御により、シロイヌナズナ細胞の細胞外(培地)にインターフェロンを分泌させる実験)
GFP遺伝子の代わりにインターフェロンα遺伝子を用いること以外は実施例4と同様にして、インターフェロンα用発現構築物を作製する。この発現構築物を、実施例6と同様にしてシロイヌナズナ培養細胞に導入して、形質転換シロイヌナズナ細胞を得る。実施例4と同様にウェスタンブロッティングにより確認することにより、この形質転換シロイヌナズナ細胞では、インターフェロンα遺伝子の発現およびタンパク質の蓄積が糖欠乏特異的に起こることが確認される。また、培地中に発現されたインターフェロンαを精製し、マウスに投与することにより、植物中で発現されたタンパク質(インターフェロンα)が目的の機能を有することを確認し得る。
【0297】
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、この実施形態に限定して解釈されるべきものではない。本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施形態の記載から、本発明の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0298】
本発明により、糖欠乏を制御することによって容易に発現を制御し得る、発現系が提供される。
【0299】
本発明を用いることにより、生産性が低いことから開発研究が進展してないインターフェロン、抗体、ワクチンなどの医薬品の植物細胞による生産に関連する産業の活性化が期待できる。
【0300】
(配列表の説明)
配列番号1:シロイヌナズナのβ−ガラクトシダーゼをコードするヌクレオチド配列(プロモーター領域およびシグナルコード領域を含む);
配列番号2:シロイヌナズナのβ−ガラクトシダーゼのアミノ酸配列;
配列番号3:シロイヌナズナのβ−キシロシダーゼをコードするヌクレオチド配列(プロモーター領域およびシグナルコード領域を含む);
配列番号4:シロイヌナズナのβ−キシロシダーゼのアミノ酸配列;
配列番号5:シロイヌナズナのβ−グルコシダーゼをコードするヌクレオチド配列(プロモーター領域およびシグナルコード領域を含む);
配列番号6:シロイヌナズナのβ−グルコシダーゼのアミノ酸配列;
配列番号7:プライマー1のヌクレオチド配列;
配列番号8:プライマー2のヌクレオチド配列。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖欠乏誘導性プロモーター配列と、該糖欠乏誘導性プロモーター配列に作動可能に連結された異種遺伝子配列とを含む、核酸分子。
【請求項2】
前記糖欠乏誘導性プロモーター配列が、β−ガラクトシダーゼをコードする遺伝子のプロモーター配列、β−キシロシダーゼをコードする遺伝子のプロモーター配列およびβ−グルコシダーゼをコードする遺伝子のプロモーター配列からなる群より選択される、請求項1に記載の核酸分子。
【請求項3】
前記糖欠乏誘導性プロモーター配列が、
(a)配列番号1の643位〜1799位、配列番号3の1位〜1763位または配列番号5の1位〜2058位に示されるヌクレオチド配列;
(b)(a)のヌクレオチド配列と比較して、1もしくは数個のヌクレオチドの置換、欠失または付加を含むヌクレオチド配列であって、糖欠乏誘導性プロモーター活性を有するヌクレオチド配列;
(c)(a)または(b)のヌクレオチド配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ糖欠乏誘導性プロモーター活性を有するヌクレオチド配列;
(d)(a)のヌクレオチド配列に対して少なくとも70%の同一性を有するヌクレオチド配列であって、かつ糖欠乏誘導性プロモーター活性を有するヌクレオチド配列;ならびに
(e)(a)〜(d)のいずれかのヌクレオチド配列の短縮配列であって、糖欠乏誘導性プロモーター活性を有するヌクレオチド配列
からなる群より選択され、
該ヌクレオチド配列に作動可能に前記異種遺伝子配列が連結されると、該異種遺伝子の糖欠乏誘導性発現を促進する活性を有する、請求項1に記載の核酸分子。
【請求項4】
さらにシグナルペプチドコード配列を含む、請求項1に記載の核酸分子。
【請求項5】
前記シグナルペプチドコード配列が、β−ガラクトシダーゼをコードする遺伝子のシグナルペプチドコード配列、β−キシロシダーゼをコードする遺伝子のシグナルペプチドコード配列およびβ−グルコシダーゼをコードする遺伝子のシグナルペプチドコード配列からなる群より選択される、請求項4に記載の核酸分子。
【請求項6】
前記シグナルペプチドコード配列が、
(i)配列番号2の1位〜27位、配列番号4の1位〜28位または配列番号6の1位〜28位に示されるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列;
(ii)(i)のヌクレオチド配列と比較して、1もしくは数個のヌクレオチドの置換、欠失または付加を含むヌクレオチド配列であって、細胞外分泌活性を有するペプチドをコードするヌクレオチド配列;
(iii)(i)または(ii)のヌクレオチド配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ細胞外分泌活性を有するペプチドをコードするヌクレオチド配列;ならびに
(iv)(i)のヌクレオチド配列に対して少なくとも70%の同一性を有するヌクレオチド配列であって、かつ細胞外分泌活性を有するペプチドをコードするヌクレオチド配列;
からなる群より選択され、
該ヌクレオチド配列に作動可能に前記異種遺伝子配列が連結されると、該異種遺伝子の産物の細胞外分泌がもたらされる、請求項4に記載の核酸分子。
【請求項7】
前記異種遺伝子配列が、サイトカインまたはホルモンの遺伝子配列である、請求項1に記載の核酸分子。
【請求項8】
前記異種遺伝子配列が、植物中で発現された場合に目的の機能を有するタンパク質をコードする、請求項1に記載の核酸分子。
【請求項9】
前記異種遺伝子配列が、インターフェロン、抗体、ヒトα−アンチトリプシンまたは緑色蛍光タンパク質の遺伝子配列である、請求項1に記載の核酸分子。
【請求項10】
前記異種遺伝子配列が、マーカー遺伝子配列である、請求項1に記載の核酸分子。
【請求項11】
調節エレメントをさらに含む、請求項1に記載の核酸分子。
【請求項12】
前記調節エレメントが、イントロン、ターミネーターおよびエンハンサーからなる群より選択される少なくとも1つのエレメントを含む、請求項11に記載の核酸分子。
【請求項13】
エキソ型糖分解酵素をコードする遺伝子のプロモーター配列と、該プロモーター配列に作動可能に連結された異種遺伝子配列とを含む、核酸分子。
【請求項14】
前記プロモーター配列が、β−ガラクトシダーゼをコードする遺伝子のプロモーター配列、β−キシロシダーゼをコードする遺伝子のプロモーター配列およびβ−グルコシダーゼをコードする遺伝子のプロモーター配列からなる群より選択される、請求項13に記載の核酸分子。
【請求項15】
前記プロモーター配列が、
(a)配列番号1の643位〜1799位、配列番号3の1位〜1763位または配列番号5の1位〜2058位に示されるヌクレオチド配列;
(b)(a)のヌクレオチド配列と比較して、1もしくは数個のヌクレオチドの置換、欠失または付加を含むヌクレオチド配列であって、糖欠乏誘導性プロモーター活性を有するヌクレオチド配列;
(c)(a)または(b)のヌクレオチド配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ糖欠乏誘導性プロモーター活性を有するヌクレオチド配列;
(d)(a)のヌクレオチド配列に対して少なくとも70%の同一性を有するヌクレオチド配列であって、かつ糖欠乏誘導性プロモーター活性を有するヌクレオチド配列;ならびに
(e)(a)〜(d)のいずれかのヌクレオチド配列の短縮配列であって、糖欠乏誘導性プロモーター活性を有するヌクレオチド配列
からなる群より選択され、
該ヌクレオチド配列に作動可能に前記異種遺伝子配列が連結されると、該異種遺伝子の糖欠乏誘導性発現を促進する活性を有する、請求項13に記載の核酸分子。
【請求項16】
さらにシグナルペプチドコード配列を含む、請求項13に記載の核酸分子。
【請求項17】
前記シグナルペプチドコード配列が、β−ガラクトシダーゼをコードする遺伝子のシグナルペプチドコード配列、β−キシロシダーゼをコードする遺伝子のシグナルペプチドコード配列およびβ−グルコシダーゼをコードする遺伝子のシグナルペプチドコード配列からなる群より選択される、請求項16に記載の核酸分子。
【請求項18】
前記シグナルペプチドコード配列が、
(i)配列番号2の1位〜27位、配列番号4の1位〜28位または配列番号6の1位〜28位に示されるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列;
(ii)(i)のヌクレオチド配列と比較して、1もしくは数個のヌクレオチドの置換、欠失または付加を含むヌクレオチド配列であって、細胞外分泌活性を有するペプチドをコードするヌクレオチド配列;
(iii)(i)または(ii)のヌクレオチド配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ細胞外分泌活性を有するペプチドをコードするヌクレオチド配列;ならびに
(iv)(i)のヌクレオチド配列に対して少なくとも70%の同一性を有するヌクレオチド配列であって、かつ細胞外分泌活性を有するペプチドをコードするヌクレオチド配列;
からなる群より選択され、
該ヌクレオチド配列に作動可能に前記異種遺伝子配列が連結されると、該異種遺伝子の産物の細胞外分泌がもたらされる、請求項16に記載の核酸分子。
【請求項19】
前記異種遺伝子配列が、サイトカインまたはホルモンの遺伝子配列である、請求項13に記載の核酸分子。
【請求項20】
前記異種遺伝子配列が、植物中で発現された場合に目的の機能を有するタンパク質をコードする、請求項13に記載の核酸分子。
【請求項21】
前記異種遺伝子配列が、インターフェロン、抗体、ヒトα−アンチトリプシンまたは緑色蛍光タンパク質の遺伝子配列である、請求項13に記載の核酸分子。
【請求項22】
前記異種遺伝子配列が、マーカー遺伝子配列である、請求項13に記載の核酸分子。
【請求項23】
調節エレメントをさらに含む、請求項13に記載の核酸分子。
【請求項24】
前記調節エレメントが、イントロン、ターミネーターおよびエンハンサーからなる群より選択される少なくとも1つのエレメントを含む、請求項23に記載の核酸分子。
【請求項25】
代謝可能な糖を分解し得る酵素をコードする遺伝子のプロモーター配列と、該プロモーター配列に作動可能に連結された異種遺伝子配列とを含む、核酸分子。
【請求項26】
前記代謝可能な糖を分解し得る酵素をコードする遺伝子のプロモーター配列が、β−ガラクトシダーゼをコードする遺伝子のプロモーター配列、β−キシロシダーゼをコードする遺伝子のプロモーター配列およびβ−グルコシダーゼをコードする遺伝子のプロモーター配列からなる群より選択される、請求項25に記載の核酸分子。
【請求項27】
前記代謝可能な糖を分解し得る酵素をコードする遺伝子のプロモーター配列が、
(a)配列番号1の643位〜1799位、配列番号3の1位〜1763位または配列番号5の1位〜2058位に示されるヌクレオチド配列;
(b)(a)のヌクレオチド配列と比較して、1もしくは数個のヌクレオチドの置換、欠失または付加を含むヌクレオチド配列であって、糖欠乏誘導性プロモーター活性を有するヌクレオチド配列;
(c)(a)または(b)のヌクレオチド配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ糖欠乏誘導性プロモーター活性を有するヌクレオチド配列;
(d)(a)のヌクレオチド配列に対して少なくとも70%の同一性を有するヌクレオチド配列であって、かつ糖欠乏誘導性プロモーター活性を有するヌクレオチド配列;ならびに
(e)(a)〜(d)のいずれかのヌクレオチド配列の短縮配列であって、糖欠乏誘導性プロモーター活性を有するヌクレオチド配列
からなる群より選択され、
該ヌクレオチド配列に作動可能に前記異種遺伝子配列が連結されると、該異種遺伝子の糖欠乏誘導性発現を促進する活性を有する、請求項25に記載の核酸分子。
【請求項28】
さらにシグナルペプチドコード配列を含む、請求項25に記載の核酸分子。
【請求項29】
前記シグナルペプチドコード配列が、β−ガラクトシダーゼをコードする遺伝子のシグナルペプチドコード配列、β−キシロシダーゼをコードする遺伝子のシグナルペプチドコード配列およびβ−グルコシダーゼをコードする遺伝子のシグナルペプチドコード配列からなる群より選択される、請求項28に記載の核酸分子。
【請求項30】
前記シグナルペプチドコード配列が、
(i)配列番号2の1位〜27位、配列番号4の1位〜28位または配列番号6の1位〜28位に示されるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列;
(ii)(i)のヌクレオチド配列と比較して、1もしくは数個のヌクレオチドの置換、欠失または付加を含むヌクレオチド配列であって、細胞外分泌活性を有するペプチドをコードするヌクレオチド配列;
(iii)(i)または(ii)のヌクレオチド配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ細胞外分泌活性を有するペプチドをコードするヌクレオチド配列;ならびに
(iv)(i)のヌクレオチド配列に対して少なくとも70%の同一性を有するヌクレオチド配列であって、かつ細胞外分泌活性を有するペプチドをコードするヌクレオチド配列;
からなる群より選択され、
該ヌクレオチド配列に作動可能に前記異種遺伝子配列が連結されると、該異種遺伝子の産物の細胞外分泌がもたらされる、請求項28に記載の核酸分子。
【請求項31】
前記異種遺伝子配列が、サイトカインまたはホルモンの遺伝子配列である、請求項25に記載の核酸分子。
【請求項32】
前記異種遺伝子配列が、植物中で発現された場合に目的の機能を有するタンパク質をコードする、請求項25に記載の核酸分子。
【請求項33】
前記異種遺伝子配列が、インターフェロン、抗体、ヒトα−アンチトリプシンまたは緑色蛍光タンパク質の遺伝子配列である、請求項25に記載の核酸分子。
【請求項34】
前記異種遺伝子配列が、マーカー遺伝子配列である、請求項25に記載の核酸分子。
【請求項35】
調節エレメントをさらに含む、請求項25に記載の核酸分子。
【請求項36】
前記調節エレメントが、イントロン、ターミネーターおよびエンハンサーからなる群より選択される少なくとも1つのエレメントを含む、請求項35に記載の核酸分子。
【請求項37】
プロモーター配列と、該プロモーター配列に作動可能に連結された異種遺伝子配列とを含む、核酸分子であって、該プロモーター配列は、
(a)配列番号1の643位〜1799位、配列番号3の1位〜1763位または配列番号5の1位〜2058位に示されるヌクレオチド配列;
(b)(a)のヌクレオチド配列と比較して、1もしくは数個のヌクレオチドの置換、欠失または付加を含むヌクレオチド配列であって、糖欠乏誘導性プロモーター活性を有するヌクレオチド配列;
(c)(a)または(b)のヌクレオチド配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ糖欠乏誘導性プロモーター活性を有するヌクレオチド配列;
(d)(a)のヌクレオチド配列に対して少なくとも70%の同一性を有するヌクレオチド配列であって、かつ糖欠乏誘導性プロモーター活性を有するヌクレオチド配列;ならびに
(e)(a)〜(d)のいずれかのヌクレオチド配列の短縮配列であって、糖欠乏誘導性プロモーター活性を有するヌクレオチド配列
からなる群より選択され、
該ヌクレオチド配列に作動可能に前記異種遺伝子配列が連結されると、該異種遺伝子の発現を促進する活性を有する、核酸分子。
【請求項38】
さらにシグナルペプチドコード配列を含む、請求項37に記載の核酸分子。
【請求項39】
前記シグナルペプチドコード配列が、β−ガラクトシダーゼをコードする遺伝子のシグナルペプチドコード配列、β−キシロシダーゼをコードする遺伝子のシグナルペプチドコード配列およびβ−グルコシダーゼをコードする遺伝子のシグナルペプチドコード配列からなる群より選択される、請求項38に記載の核酸分子。
【請求項40】
前記シグナルペプチドコード配列が、
(i)配列番号2の1位〜27位、配列番号4の1位〜28位または配列番号6の1位〜28位に示されるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列;
(ii)(i)のヌクレオチド配列と比較して、1もしくは数個のヌクレオチドの置換、欠失または付加を含むヌクレオチド配列であって、細胞外分泌活性を有するペプチドをコードするヌクレオチド配列;
(iii)(i)または(ii)のヌクレオチド配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ細胞外分泌活性を有するペプチドをコードするヌクレオチド配列;ならびに
(iv)(i)のヌクレオチド配列に対して少なくとも70%の同一性を有するヌクレオチド配列であって、かつ細胞外分泌活性を有するペプチドをコードするヌクレオチド配列;
からなる群より選択され、
該ヌクレオチド配列に作動可能に前記異種遺伝子配列が連結されると、該異種遺伝子の産物の細胞外分泌がもたらされる、請求項38に記載の核酸分子。
【請求項41】
前記異種遺伝子配列が、サイトカインまたはホルモンの遺伝子配列である、請求項37に記載の核酸分子。
【請求項42】
前記異種遺伝子配列が、植物中で発現された場合に目的の機能を有するタンパク質をコードする、請求項37に記載の核酸分子。
【請求項43】
前記異種遺伝子配列が、インターフェロン、抗体、ヒトα−アンチトリプシンまたは緑色蛍光タンパク質の遺伝子配列である、請求項37に記載の核酸分子。
【請求項44】
前記異種遺伝子配列が、マーカー遺伝子配列である、請求項37に記載の核酸分子。
【請求項45】
調節エレメントをさらに含む、請求項37に記載の核酸分子。
【請求項46】
前記調節エレメントが、イントロン、ターミネーターおよびエンハンサーからなる群より選択される少なくとも1つのエレメントを含む、請求項45に記載の核酸分子。
【請求項47】
糖欠乏誘導性プロモーター配列、エキソ型糖分解酵素をコードする遺伝子のプロモーター配列および代謝可能な糖を分解し得る酵素をコードする遺伝子のプロモーター配列からなる群から選択される少なくとも1つのプロモーター配列と、
該選択されたプロモーター配列に作動可能に連結された異種遺伝子配列
とを含む、ベクター。
【請求項48】
糖欠乏誘導性プロモーター配列、エキソ型糖分解酵素をコードする遺伝子のプロモーター配列および代謝可能な糖を分解し得る酵素をコードする遺伝子のプロモーター配列からなる群から選択される少なくとも1つのプロモーター配列と、
該選択されたプロモーター配列に作動可能に連結された異種遺伝子配列
とを含む、植物細胞。
【請求項49】
双子葉植物細胞である、請求項48に記載の植物細胞。
【請求項50】
培養細胞である、請求項48に記載の植物細胞。
【請求項51】
1週間で50倍以上増殖し得る細胞である、請求項50に記載の植物細胞。
【請求項52】
タンパク質の生産方法であって、該方法は、以下の工程:
糖欠乏誘導性プロモーター配列、エキソ型糖分解酵素をコードする遺伝子のプロモーター配列および代謝可能な糖を分解し得る酵素をコードする遺伝子のプロモーター配列からなる群から選択される少なくとも1つのプロモーター配列と、
該選択されたプロモーター配列に作動可能に連結された該タンパク質コード配列とを含む核酸分子を、細胞に導入して、形質転換細胞を得る工程;
該形質転換細胞を糖の非存在下で培養して、該タンパク質を分泌させる工程;および
該タンパク質を回収する工程
を包含する、方法。
【請求項53】
前記細胞が、植物細胞である、請求項52に記載の方法。
【請求項54】
前記細胞が、双子葉植物細胞である、請求項52に記載の方法。
【請求項55】
前記細胞が、培養細胞である、請求項52に記載の方法。
【請求項56】
前記細胞が、1週間で50倍以上増殖し得る細胞である、請求項55に記載の方法。
【請求項57】
前記核酸分子が、さらにシグナルペプチドコード配列を含む、請求項52に記載の方法。
【請求項58】
前記シグナルペプチドコード配列が、β−ガラクトシダーゼをコードする遺伝子のシグナルペプチドコード配列、β−キシロシダーゼをコードする遺伝子のシグナルペプチドコード配列およびβ−グルコシダーゼをコードする遺伝子のシグナルペプチドコード配列からなる群より選択される、請求項57に記載の方法。
【請求項59】
前記シグナルペプチドコード配列が、
(i)配列番号2の1位〜27位、配列番号4の1位〜28位または配列番号6の1位〜28位に示されるアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列;
(ii)(i)のヌクレオチド配列と比較して、1もしくは数個のヌクレオチドの置換、欠失または付加を含むヌクレオチド配列であって、細胞外分泌活性を有するペプチドをコードするヌクレオチド配列;
(iii)(i)または(ii)のヌクレオチド配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ細胞外分泌活性を有するペプチドをコードするヌクレオチド配列;ならびに
(iv)(i)のヌクレオチド配列に対して少なくとも70%の同一性を有するヌクレオチド配列であって、かつ細胞外分泌活性を有するペプチドをコードするヌクレオチド配列;
からなる群より選択され、
該ヌクレオチド配列に作動可能に前記異種遺伝子配列が連結されると、該異種遺伝子の産物の細胞外分泌がもたらされる、請求項57に記載の方法。
【請求項60】
前記タンパク質が、サイトカインまたはホルモンである、請求項52に記載の方法。
【請求項61】
前記タンパク質が、植物中で発現された場合に目的の機能を有するタンパク質である、請求項52に記載の方法。
【請求項62】
前記タンパク質が、インターフェロン、抗体、ヒトα−アンチトリプシンまたは緑色蛍光タンパク質である、請求項52に記載の方法。
【請求項63】
前記糖が、代謝可能な解糖系糖または代謝されると該解糖系糖になり得る糖である、請求項52に記載の方法。
【請求項64】
前記糖が、グルコース、ガラクトース、フルクトース、スクロースおよびキシロースからなる群より選択される、請求項52に記載の方法。
【請求項65】
タンパク質の生産方法であって、該方法は、以下の工程:
糖欠乏誘導性プロモーター配列、エキソ型糖分解酵素をコードする遺伝子のプロモーター配列および代謝可能な糖を分解し得る酵素をコードする遺伝子のプロモーター配列からなる群から選択される少なくとも1つのプロモーター配列と、
該選択されたプロモーター配列に作動可能に連結された該タンパク質コード配列とを含む核酸分子を、細胞に導入して、形質転換細胞を得る工程;
該形質転換細胞を糖の存在下で培養する工程;
該形質転換細胞を糖の非存在下で培養して、該タンパク質を分泌させる工程;および
該タンパク質を回収する工程
を包含する、方法。
【請求項66】
請求項52に記載の方法によって得られるタンパク質。
【請求項67】
異種遺伝子の糖欠乏誘導性発現のための、請求項1に記載の核酸分子の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図18】
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【国際公開番号】WO2005/001088
【国際公開日】平成17年1月6日(2005.1.6)
【発行日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−511066(P2005−511066)
【国際出願番号】PCT/JP2004/009038
【国際出願日】平成16年6月25日(2004.6.25)
【出願人】(504143441)国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学 (226)
【Fターム(参考)】