説明

植物栽培体及び植物栽培体群

【課題】可撓性の保水性植物生育体を用いて比較的容易に製造し得、垂直面又は傾斜角度が比較的大きな面の緑化を容易且つ確実に行うことができる植物栽培体及び植物栽培体群を提供する。
【解決手段】植物栽培体は、保水性植物生育体Yが筒状に巻回されてなる植物生育部Jからなる。筒状の植物生育部Jの内側の空孔部J1に、泥炭等を材料としたポットAに根部I1が植えられているものをポットAのまま嵌合させることにより、空孔部J1に対象植物Iの根部I1を配置し、前記植物生育部の一方の端部の軸線方向外方に葉部を位置させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可撓性の保水性植物生育体(例えばマット状をなす繊維の不織集合体)を用いて垂直面又は傾斜角度が比較的大きな面の緑化を行うことができる植物栽培体及び植物栽培体群に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物の屋上等を緑化するために、繊維が集合してなるマット体のような保水性植物生育マットが従来より用いられている。この種の保水性植物生育マットによる緑化は、建築物の屋上等に保水性植物生育マットを敷設し、給水、施肥等を行いつつ、その保水性植物生育マットにおいて植物を栽培することにより行われる。保水性植物生育マットを対象面に敷設して行うこのような緑化方法は、水平面や傾斜が小さい面に沿って平面的に植物栽培を行って緑化するのに適する。
【0003】
例えば特開平10−98913号公報には、ビルの屋上など、土の上でなくても、その上に敷き詰めて水をやるだけで種から芽が出るようになるために、場所を選ばずに非常に簡単に植物を育成できる園芸用マットが開示されている。その園芸用マットは、植物性の繊維の不織布等からなり、発芽可能に種子を内装した保水性の育苗マットと、育苗マットを受けてそれに毛細管現象により水を供給する保水マットとからなるものである。
【0004】
ところが、このような緑化方法は、立体的な構造体や垂直面若しくは傾斜角度が比較的大きな対象面の緑化には必ずしも適するものではない。
【0005】
繊維が集合してなる一般的な保水性植物生育マットを、立体的な構造体やその他のものにおける垂直面若しくは傾斜角度が比較的大きな面に沿って保水性植物生育マットを配設した場合や、保水性植物生育マットの高さを高くしたり保水性植物生育マットを高さ方向に積層した場合、給水された水系液体が、傾斜角度が比較的大きな保水性植物生育マット又は高さの高い保水性植物生育マットにおける下方部、或いは、高さ方向に積層した保水性植物生育マットにおける下方の保水性植物生育マットに集まりがちとなり、上方部に保持される水分量が不十分になるおそれがある。
【0006】
この点を解決する一つの手段として、特開2009−100712公報には、複数の保水性植物生育層が、保水性植物生育層同士の間に上下分離層を挟んで上下方向に積層してなり、前記上下分離層の上側の保水性植物生育層は、保水し切れない水系液体を下側面から下方に漏脱させるものであり、前記上下分離層は、上側の保水性植物生育層の下側面から下方に漏脱した水系液体を下方に通過させるものであり、前記上下分離層を下方に通過した水系液体は、その上下分離層の下側の保水性植物生育層に達し得る植物栽培体が開示されている。
【0007】
この植物栽培体においては、上下分離層の上側の保水性植物生育層と下側の保水性植物生育層が上下分離層により隔てられ、上側の保水性植物生育層は、保水し切れない水系液体を下側面から下方に漏脱させ、上下分離層は、上側の保水性植物生育層の下側面から下方に漏脱した水系液体を下方に通過させ、上下分離層を下方に通過した水系液体は、その上下分離層の下側の保水性植物生育層に達し得る。
【0008】
そのため、上下分離層の上側の保水性植物生育層と下側の保水性植物生育層が上下に連続している場合のように、上下連続した保水性植物生育層のうち下方側に水系液体が偏って保持されることが防がれ、上側及び下側の保水性植物生育層がそれぞれの保水力を十分発揮し得る。
【0009】
しかしながら、この植物栽培体は、複数の保水性植物生育層が、保水性植物生育層同士の間に上下分離層を挟んで上下方向に積層するという構造であるため、必ずしも製造(又は施工)を容易に行い得るものではなく、使用可能な場所も比較的限られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平10−98913号公報
【特許文献2】特開2009−100712公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、従来技術に存した上記のような課題に鑑み行われたものであり、可撓性の保水性植物生育体を用いて比較的容易に製造し得、垂直面又は傾斜角度が比較的大きな面の緑化を容易且つ確実に行うことができる植物栽培体及び植物栽培体群を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1) 上記目的を達成するための本発明の植物栽培体は、保水性を有する可撓性板形状の保水性植物生育体が巻回されてなる柱状又は筒状の植物生育部を備える。
【0013】
この植物栽培体の植物生育部は、保水性を有する可撓性板形状の保水性植物生育体が巻回されてなる柱状又は筒状をなす。
【0014】
そのため、植物生育部の外周面部や端面部等の表面部のさまざまな位置に対象植物を生育させることができる。
【0015】
また、植物生育部が筒状である場合、内側の空孔部に対象植物の根部を配置し、端部の軸線方向外方に茎部、葉部等を位置させて植物を生育させることができる。
【0016】
上記植物栽培体は、可撓性板形状の保水性植物生育体が、繊維の不織集合体であるものとすることができる。
【0017】
また上記植物栽培体は、保水性植物生育体が全周にわたり二層以上となるよう巻回されているものとすることができる。
【0018】
この場合、保水性植物生育体が全周にわたり二層以上となるよう巻回されているので、植物生育部の全周にわたって、例えば鉛直方向又は水平方向において、外周側から何番目の巻回層であるかによって水平方向に対する保水性植物生育体の傾斜角度が変化する。
【0019】
また上記植物栽培体は、植物生育部における保水性植物生育体の巻回軸線が水平状または傾斜状をなすものとすることができる。
【0020】
本発明における保水性植物生育体としては、水分を保有した場合に、その下端からある限界高さまで、毛細管現象等により、水系液体を保有し得るものを用いることができる。この本発明における保水性植物生育体は、水系液体を保有した場合に下方側の水系液体保有量が上方側に比し多くなるものであってよい。
【0021】
(2) 上記植物栽培体は、植物生育部が筒状をなし、その植物生育部の内側の空孔部に対象植物の根部を配置し、前記植物生育部の端部の軸線方向外方に少なくとも茎部、葉部及び花部の何れかを位置させてその対象植物を栽培するためのものとすることができる。
【0022】
この場合、植物生育部は、保水性を有する可撓性板形状の保水性植物生育体が巻回されてなる筒状であるため、内側の空孔部に対象植物の根部を配置し、植物生育部の端部の軸線方向外方側に少なくとも茎部、葉部及び花部の何れかを位置させることにより、根が外方の保水性植物生育体からなる植物生育部中へ伸びて対象植物を効果的に生育させることができる。
【0023】
また上記植物栽培体は、上記筒状の植物生育部の1又は2以上が、その少なくとも一方の端面が露出した状態で、収容筒体、保持枠体又は収容箱体に保持されているものとすることができる。
【0024】
また上記植物栽培体は、上記筒状の植物生育部の2以上が、それらの巻回軸線が互いに平行状をなすように上下に配置され、上下の植物生育部が、水分透過性の離隔部により上下に分離されているものとすることができる。
【0025】
また上記植物栽培体は、上記筒状の植物生育部の内側の空孔部の一端側に同軸状に嵌合した芯体を有し、
前記空孔部の他端側に前記対象植物の根部を配置し、前記空孔部の他端側における軸線方向外方に少なくとも茎部、葉部及び花部の何れかを位置させるためのものとすることができる。
【0026】
(3) 上記植物栽培体は、
保水性植物生育体が、水分を保有した場合に下方側の水分保有量が上方側に比し多くなるものであり、
上記植物生育部の端面部に対象植物を栽培するためのものとすることができる。
【0027】
植物生育部を構成する保水性植物生育体は、可撓性板形状であって、水分を保有した場合に下方側の水分保有量が上方側に比し多くなる。水分保有量が位置により大きく異なるものは、一般には植物を栽培する上で好ましくない。
【0028】
しかしながら、この植物生育部は、可撓性板形状の保水性植物生育体が巻回されてなるものであるため、植物生育部における保水性植物生育体の巻回軸線が水平状をなす場合や植物生育部における保水性植物生育体の巻回軸線が傾斜状をなす場合は、巻回された可撓性板形状保水性植物生育体の水平方向に対する傾斜角度が、巻回軸線を中心とした巻回角度位置によって変化する。またそれにより、植物生育部の例えば鉛直方向又は水平方向においては、外周側から何番目の巻回層であるかによって水平方向に対する保水性植物生育体の傾斜角度が変化する。
【0029】
そのため、植物生育部の端面部の任意の位置における、表面部及びその内方部分の水分保有量は、前記位置が外周面部における何れであっても、大きな偏りがないものとすることができる。
【0030】
よって、植物生育部の端面部全体として可及的に万遍なく保水し得るので、植物生育部の端面部における上下方向及び水平方向の様々な位置を有効に活用して好適な植物栽培を行い得る。
【0031】
上記植物栽培体は、上記可撓性板形状の保水性植物生育体が巻回されてなる柱状又は筒状の1又は2以上の植物生育部が、その少なくとも一方の端面が露出した状態で、収容筒体、保持枠体又は収容箱体に保持されているものとすることができる。
【0032】
また上記植物栽培体は、上記筒状の植物生育部の2以上が、それらの巻回軸線が互いに平行状をなすように上下に配置され、上下の植物生育部が、水分透過性の離隔部により上下に分離されているものとすることができる。
【0033】
また上記植物栽培体は、上記植物生育部が、可撓性板形状の保水性植物生育体が巻回されてなる筒状をなし、その筒状の植物生育部の内側の空孔部に芯体が同軸状に嵌合しているものとすることができる。
【0034】
また上記植物栽培体は、上記芯体が、芯体の内部に水系液体を導入する導入部と、導入部より芯体の内部に導入された水系液体を芯体の外周側の植物生育部に供給するための供給孔を有するものとすることができる。
【0035】
この場合、導入部から芯体の内部に水系液体を導入し、芯体の内部に導入された水系液体を、供給孔を通じて芯体の外周側の植物生育部に供給することにより、水系液体を植物生育部に対し供給して育成植物に対する灌水を行うことができる。
【0036】
また上記植物栽培体は、上記芯体の基端部が基体に支持され、その芯体の先端は自由端であり、
植物生育部のうち芯体の自由端側の端面部に対象植物を栽培するためのものであるものとすることができる。
【0037】
また上記植物栽培体は、上記芯体を複数有し、それらの各芯体の外周側にそれぞれ可撓性板形状の保水性植物生育体が巻回されてなる筒状をなす植物生育部が形成されたものとすることができる。
【0038】
(4) 上記植物栽培体は、
保水性植物生育体が、水分を保有した場合に下方側の水分保有量が上方側に比し多くなるものであり、
上記植物生育部の外周面部に対象植物を栽培するためのものとすることができる。
【0039】
植物生育部を構成する保水性植物生育体は、可撓性板形状であって、水分を保有した場合に下方側の水分保有量が上方側に比し多くなる。水分保有量が位置により大きく異なるものは、一般には植物を栽培する上で好ましくない。
【0040】
しかしながら、この植物生育部は、可撓性板形状の保水性植物生育体が巻回されてなるものであるため、植物生育部における保水性植物生育体の巻回軸線が水平状をなす場合や植物生育部における保水性植物生育体の巻回軸線が傾斜状をなす場合は、巻回された可撓性板形状保水性植物生育体の水平方向に対する傾斜角度が、巻回軸線を中心とした巻回角度位置によって変化する。またそれにより、植物生育部の例えば鉛直方向又は水平方向においては、外周側から何番目の巻回層であるかによって水平方向に対する保水性植物生育体の傾斜角度が変化する。
【0041】
そのため、植物生育部の外周面部の任意の位置における、表面部及びその内方部分の水分保有量は、前記位置が外周面部における何れであっても、大きな偏りがないものとすることができる。
【0042】
よって、植物生育部全体として可及的に万遍なく保水し得るので、植物生育部の外周面部における上下方向及び水平方向の様々な位置を有効に活用して好適な植物栽培を行い得る。
【0043】
上記植物栽培体は、上記植物生育部が、可撓性板形状の保水性植物生育体が巻回されてなる筒状をなし、その筒状の植物生育部の内側の空孔部に芯体が同軸状に嵌合しているものとすることができる。
【0044】
この場合、芯体及び芯体の支持手段を適宜選択することにより、植物栽培体を、建築物の外壁部緑化、ベンチの座部、ベンチの背もたれ等の様々な用途や目的に用いることができる。
【0045】
上記植物栽培体は、上記芯体が、芯体の内部に水系液体を導入する導入部と、導入部より芯体の内部に導入された水系液体を芯体の外周側の植物生育部に供給するための供給孔を有するものとすることができる。
【0046】
この場合、導入部から芯体の内部に水系液体を導入し、芯体の内部に導入された水系液体を、供給孔を通じて芯体の外周側の植物生育部に供給することにより、水系液体を植物生育部に対し供給して育成植物に対する灌水を行うことができる。
【0047】
上記植物栽培体は、少なくとも50度の所定中心角部分が二層以上となるよう巻回されているものとすることができる。
【0048】
この場合、少なくとも50度の所定中心角部分については、保水性植物生育体が二層以上であるため、鉛直方向又は水平方向において、外周側から何番目の巻回層であるかによって水平方向に対する保水性植物生育体の傾斜角度が変化する。
【0049】
上記植物栽培体は、植物生育部の外周面部の全部又は一部がスノコ状の植物保護体により覆われているものとすることができる。
【0050】
この場合、植物生育部の外周面部の全部又は一部がスノコ状の植物保護体により覆われているので、植物生育部の外周面部に芝生等の植物を栽培する場合に、栽培植物に対する日光等の照射を可及的に妨げずに栽培植物を保護育成することができる。植物栽培体を、ベンチの座部や背もたれ等として用いる場合、その栽培植物が傷むことや、座ったり背をもたれさせた者の衣類等が植物生育部に保水された水により濡れることなどを可及的に防ぐことができる。
【0051】
上記植物栽培体は、植物生育部の一方又は両方の端面が漏水防止材で覆われているものとすることができる。
【0052】
この場合、植物生育部の端面からは、比較的漏水し易いが、この場合、植物生育部の端面からの漏水が、漏水防止材により防がれることにより、保水性を可及的に高めることができる。
【0053】
(5) 本発明の植物栽培体群は、上記何れかの植物栽培体を複数個、それらの巻回軸線が互いに平行状をなすように上下に備えてなる。
この場合、巻回軸線が互いに平行状をなすように上下に備える複数の植物生育部を利用して、立体的な植物栽培が可能である。
【発明の効果】
【0054】
本発明の植物栽培体及び本発明の植物栽培体群における植物栽培体は、その植物生育部が、保水性を有する可撓性板形状の保水性植物生育体が巻回されてなる柱状又は筒状をなす。
【0055】
そのため、植物生育部の外周面部や端面部等の表面部のさまざまな位置に対象植物を生育させることができる。
【0056】
また、植物生育部が筒状である場合、内側の空孔部に対象植物の根部を配置し、端部の軸線方向外方に茎部、葉部等を位置させて植物を生育させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】植物栽培体群の正面図である。
【図2】図1の植物栽培体群の一部破砕側面図である。
【図3】別の植物栽培体群の正面図である。
【図4】図3の植物栽培体群の側面図である。
【図5】別の植物栽培体の正面図である。
【図6】図5の植物栽培体の縦断面図である。
【図7】図5の収容棚の斜視図である。
【図8】別の植物栽培体の正面図である。
【図9】図8の植物栽培体の側面図である。
【図10】別の植物栽培体群の正面図である。
【図11】図10の植物栽培体群の一部破砕側面図である。
【図12】別の植物栽培体群の正面図である。
【図13】図12の植物栽培体群の側面図である。
【図14】別の植物栽培体群の正面図である。
【図15】別の植物栽培体群の正面図である。
【図16】別の植物栽培体の正面図である。
【図17】図16の植物栽培体の側面図である。
【図18】別の植物栽培体群の正面図である。
【図19】植物栽培体を一部に設けたベンチの正面図である。
【図20】保水性植物生育体が全周にわたり二層以上巻回されていない植物生育部を備えた植物栽培体の側面図である。
【図21】紐で吊り下げられた植物栽培体群の正面図である。
【図22】図21の植物栽培体群の要部側面図である。
【図23】植物生育部の外周面部が植物保護体により覆われた植物栽培体の要部半断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0058】
本発明の実施の形態を、図面を参照しつつ説明する。
【0059】
[1] 筒状植物生育部の空孔部に根部を配置して栽培
【0060】
(1) 図1及び図2は、本発明の実施の形態の例としての植物栽培体Eを複数備えた植物栽培体群Qに関するものであって、そのうち図1は植物栽培体群Qの正面図、図2は植物栽培体群Qの一部破砕側面図である。
【0061】
植物栽培体Eは、保水性植物生育体Yが筒状(略円筒状)に巻回されてなる植物生育部Jからなる。複数個の植物栽培体Eが、水平板状の保水性植物生育体Y上に載置されて植物栽培体群Qを構成している。
【0062】
保水性植物生育体Yは、繊維の不織集合体であって、長方形マット状(従って可撓性の長方形板形状)をなす。この保水性植物生育体Yは、保水性を有する。
【0063】
筒状の植物生育部Jの内側の空孔部J1には、泥炭やピートモスを材料としたポットAに根部I1が植えられているものをポットAのまま嵌合させることにより、空孔部J1に対象植物Iの根部I1を配置し、前記植物生育部の一方の端部の軸線方向外方に葉部I2(少なくとも茎部、葉部I2及び花部の何れかであってよい。)を位置させている。
【0064】
泥炭やピートモスを材料としたポットAに植えられた根は、そのままポットAの材料を突き抜けて外方の保水性植物生育体Yからなる植物生育部J中へ伸びることができるので、対象植物Iを効果的に生育させることができる。
【0065】
このようなポットAとしては、根が外方へ伸びることができるその他の材料からなるポットAでもよい。また、空孔部J1に対象植物Iの根部I1を配置する場合、例えば、自然土壌や人口土壌等と共に根部I1を空孔部J1内に嵌合させることもできる。
【0066】
なお、植物生育部の内側の空孔部J1における軸線方向両側にそれぞれ別々の根部I1を配置し、空孔部J1の両方の端部の軸線方向外方にそれぞれ葉部I2(少なくとも茎部、葉部I2及び花部の何れかであってよい。)を位置させることもできる。
【0067】
植物生育部Jは、1枚の可撓性板形状の保水性植物生育体Yが、約2回(従って2層となるように)巻回された略円筒状をなす。
【0068】
この植物生育部Jは、可撓性板形状の保水性植物生育体Yがほぼ全周(360度中心角)にわたり2層となるよう巻回されてなるものであり、植物生育部Jにおける保水性植物生育体Yの巻回軸線は水平状をなす。
【0069】
(2) 図3は、本発明の実施の形態の別の例としての植物栽培体Eを複数備えた植物栽培体群Qについての正面図、図4はその側面図である。
【0070】
棚Nは、断面正方形状(断面形状は正方形状に限らず、例えば円形状とすることもできる。)の収容筒体N1が4つ上下に連設されてなるものである。棚Nの各収容筒体N1に、前記(1)の例の植物栽培体Eが、植物生育部の巻回軸線が水平状をなす状態で一つずつ収容保持されることにより、植物栽培体Eが4個上下並列状に配置された植物栽培体群Qが構成されている。このように立体的に配された各植物栽培体Eにより、立体的な植物栽培が可能である。
【0071】
なお、このような棚における収容部の数や配置は任意に行い得る。また、複数個の棚を様々に配置することも可能である。
【0072】
更に、例えば網目状の保持枠体の各網目に植物栽培体を保持させる(例えば植物生育部の巻回軸線方向の中央部を保持させる)ことにより植物栽培体群を構成することも可能である。
【0073】
(3) 図5は、本発明の実施の形態の別の例としての植物栽培体Eを複数備えた植物栽培体群Qについての正面図、図6はその縦断面図、図7は収容棚の斜視図である。
【0074】
収容棚20は、一定の前後方向幅を有する正面方形状の外枠部22内に、上下三段(これに限るものではない)の棚板部24a(水分透過性の離隔部の一例)と背面部を構成する背板部24bを備えた棚部24を有してなる。
【0075】
外枠部22の上端におけるやや後寄りの位置には、全横幅にわたる連結用上方突起板部22aを有し、その連結用上方突起板部22aの左右端部には、それぞれ前後方向の貫通孔を有する。外枠部22の下端における外枠部22の後側位置に、全横幅にわたる連結用下方箱形状突起部22bを有し、その連結用下方箱形状突起部22bの左右端部には、それぞれ前後方向の貫通孔を有する。上側の収容棚20の連結用下方箱形状突起部22bの前側に下側の収容棚20の連結用上方突起板部22aを重ねて両収納棚の20対応する貫通孔をボルト等で締結することにより、収容棚20を上下に連結することができる。
【0076】
各棚板部24aの前後方向中央部には、横方向の一端寄りの位置と他端寄りの位置の間にわたる平面視長方形状の上下貫通部24a1を有する。また、背板部24bの上下方向中央部には、横方向の一端寄りの位置と他端寄りの位置の間にわたる正面視長方形状の前後貫通部24b1を有する。
【0077】
各棚板部24a上に前記(1)の例の植物栽培体Eが、植物生育部Jにおける保水性植物生育体Yの巻回軸線が水平状をなし、対象植物Iの葉部I2が軸線方向前方を向く状態で4つずつ収容保持されることにより、植物栽培体Eが4個ずつ上下3段に並列状に配置された植物栽培体群Qが構成されている。このように立体的に配された各植物栽培体Eにより、立体的な植物栽培が可能である。なお、図5及び図6では、最上段の棚板部24a上にのみ植物栽培体Eが描かれている。なお、外枠部22の前面に、各植物栽培体Eにおける筒状の植物生育部Jの内側の空孔部J1に対応する円孔(又はその他の形状の孔)を有する押さえ板を固定することにより、棚部24からの各植物栽培体Eの脱落を防止しつつ対象植物Iを育成することができる。
【0078】
最上段の植物栽培体Eに対し、例えば前後貫通部24b1を通じて灌水管により灌水した場合、植物栽培体Eにおいて保水し切れない水分は上下貫通部24a1を通じて流下して下方の各棚板部24a上に支持された植物栽培体Eに給水され、更にその植物栽培体Eにおいて保水し切れない水分は、上下貫通部24a1を介して更に下方へ流下する。前記のように収容棚20を上下に連結した状態において、上側の最下段の棚板部24aの下方に流下した水系液体が下側の収容棚20の最上段の棚板部24a上に支持された植物栽培体Eに流下する流路(例えば、上側の最下段の棚板部24aの下方に流下した水系液体が後方へ流れた後、前方へ流れて下側の収容棚20の最上段の棚板部24a上に支持された植物栽培体Eに流下するための通路若しくは管路、或いは、上側の最下段の棚板部24aを下方へ貫通する上下貫通部と、下側の収容棚20の天板を貫通する上下貫通部を、両者が連通するように設けることにより形成した流路)を設けことにより、更に下側の収容棚20の各棚板部24a上に支持された植物栽培体Eに給水することが可能である。
【0079】
この例のように、植物生育部が筒状をなし、その植物生育部の内側の空孔部に対象植物の根部を配置し、前記植物生育部の端部の軸線方向外方に少なくとも茎部、葉部及び花部の何れかを位置させてその対象植物を栽培するための植物栽培体が複数個上下方向に(例えば互いに平行に又はねじれの位置に)配列される場合は、上下の植物栽培体同士が互いに圧接すると上側の植物栽培体の保有水分が下側の植物栽培体に流下移動して上側の植物栽培体の水分保有量が低減し易くなるので、上下の植物栽培体同士は離隔すること又は少なくとも接触の度合いを小さくすることが望ましい。
【0080】
各前後貫通部24b1は、各棚板部24a上に支持された植物栽培体Eの根部の通気性を良好なものとする。
【0081】
なお、離隔部(例えば上記貫通部を有する棚板部、すのこ状又は格子状部等)を水分透過性の支持体により構成することにより、或いは非水分透過性の支持体により構成すると共に下側の植物栽培体への水系液体の自然流下路を設けることにより、上下の植物栽培体を実質上分離しつつ上側の植物栽培体の保有水分が下側の植物栽培体に流下移動するようにして、上側の植物栽培体の水分保有量が低減し易くなることを防ぎつつ過剰な水分を下側の植物栽培体への給水に利用することができる。更に、離隔部として水分透過性の支持体上に保水性植物生育体が積層したものを用いることにより、上下の植物栽培体を実質上分離するのみならず、上側の植物栽培体の保水力を高めることができる。
【0082】
[2] 植物生育部の端面部において栽培
【0083】
(1) 図8及び図9は、本発明の実施の形態の別の例としての植物栽培体Pに関するものであって、そのうち図8は植物栽培体の正面図、図9は植物栽培体の側面図である。
【0084】
植物栽培体Pは、保水性植物生育体Wからなる柱状(略円柱状)の植物生育部Gを備えてなり、その植物生育部Gの両端面部H(略円形状端面部)に対象植物を栽培することができる。
【0085】
保水性植物生育体Wは、繊維の不織集合体であって、長方形マット状(従って可撓性の長方形板形状)をなす。この保水性植物生育体Wは、保水性を有し、水分を保有した場合に下方側の水分保有量が上方側に比し多くなる。
【0086】
植物生育部Gは、1枚の可撓性板形状の保水性植物生育体Wが、ほぼ全周(360度中心角)にわたり5回程度(従ってほぼ5層となるように)巻回された略円柱状をなす。
【0087】
植物生育部Gを構成する保水性植物生育体Wは、可撓性板形状であって、水分を保有した場合に下方側の水分保有量が上方側に比し多くなる。
【0088】
しかしながら、この植物生育部Gは、可撓性板形状の保水性植物生育体Wがほぼ全周(360度中心角)にわたりほぼ5層となるよう巻回されてなるものであり、植物生育部Gにおける保水性植物生育体Wの巻回軸線は水平状をなす。そのため、巻回された可撓性板形状保水性植物生育体Wの水平方向に対する傾斜角度(水平面に平行な状態からの傾斜)は、巻回軸線を中心とした巻回角度位置によって、0度から90度、90度から0度、0度から90度、90度から0度と、繰り返し変化する。図8の正面図に示されるように、可撓性板形状保水性植物生育体Wの水平方向に対する傾斜角度は、例えば、中心(巻回軸線)の直上(中心角0度)及び直下(中心角180度)では0度、中心角45度の位置では45度、中心角90度の位置では90度である。
【0089】
またそれにより、植物生育部Gの例えば鉛直方向又は水平方向においては、外周側から何番目の巻回層であるかによって水平方向に対する保水性植物生育体Wの傾斜角度が変化する。すなわち、図8における中心(巻回軸線)の左側の第3層の位置における、鉛直方向線上の各層の保水性植物生育体Wの傾斜角度は、上端の最外層ではほぼ30度であるが、下方に向かうに従って(すなわち内側の層となるに従って)傾斜角度が大きくなって最内層では90度となる。下端から上方に向かう場合も同様である。また、図8における中心(巻回軸線)の上側の第3層位置における、水平方向線上の各層の保水性植物生育体Wの傾斜角度は、左端の最外層ではほぼ60度であるが、右方に向かうに従って(すなわち内側の層となるに従って)傾斜角度が緩くなって左右中央では0度となる。右端から左方に向かう場合も同様である。
【0090】
そのため、植物生育部Gの端面部Hの任意の位置における、表面部及びその内方部分の水分保有量は、前記位置が端面部Hにおける何れであっても、大きな偏りがないものとすることができる。
【0091】
よって、植物生育部G全体として可及的に万遍なく保水し得るので、植物生育部Gの端面部Hにおける上下方向及び水平方向の様々な位置を有効に活用して好適な植物栽培を行い得る。
【0092】
(2) 図10及び図11は、本発明の実施の形態の別の例としての植物栽培体Vを複数備えた植物栽培体群Qに関するものであって、そのうち図10は植物栽培体群Qの正面図、図11は植物栽培体群Qの一部破砕側面図である。
【0093】
植物栽培体Vは、芯体Cと、保水性植物生育体Wからなる筒状(略円筒状)の植物生育部Jを備えてなり、その植物生育部Jの端面部K(略円環状端面部)に対象植物を栽培することができる。
【0094】
芯体Cは、合成樹脂製の直円管(軸線が直線である円筒形状の管)である。その芯体Cの外周側に植物生育部Jが形成されている。直立支柱管D(基体)の上下方向の複数個所において、それぞれ一対の芯体Cの基端部が互いに逆向きに水平状に連結されている。各芯体Cの内部と直立支柱管Dの内部は連通しており、各芯体Cの先端部は閉塞されている。
【0095】
植物生育部Jは、1枚の可撓性板形状の保水性植物生育体Wが、芯体Cの外周側にほぼ全周(360度中心角)にわたり3回と4分の3程度(従って3層又は4層となるように)巻回された略円筒状をなす。この例では芯体Cの先端部は植物生育部Jの端面部Kにほぼ位置するが、これに限るものではない。例えば芯体Cの先端部が植物生育部Jの端面部Kより突出しているものであってもよい。
【0096】
この植物生育部Jは、可撓性板形状の保水性植物生育体Wが芯体Cの外周側にほぼ全周(360度中心角)にわたり3又は4層となるよう巻回されてなるものであり、植物生育部Jにおける保水性植物生育体Wの巻回軸線は水平状をなす。そのため、巻回された可撓性板形状保水性植物生育体Wの水平方向に対する傾斜角度は、巻回軸線を中心とした巻回角度位置によって繰り返し変化する。
【0097】
またそれにより、植物生育部Jの例えば鉛直方向又は水平方向においては、外周側から何番目の巻回層であるかによって水平方向に対する保水性植物生育体Wの傾斜角度が変化する。
【0098】
そのため、植物生育部Jの端面部Kの任意の位置における、表面部及びその内方部分の水分保有量は、前記位置が端面部Kにおける何れであっても、大きな偏りがないものとすることができる。従って、植物生育部J全体として可及的に万遍なく保水し得るので、植物生育部Jの端面部Kにおける上下方向及び水平方向の様々な位置を有効に活用して好適な植物栽培を行い得る。
【0099】
植物栽培体群Qにおける各植物栽培体Vは、上下方向に立体配置され、それらの全ての植物栽培体Vにおける植物生育部Jの端面部Kに対象植物を栽培することができる。
【0100】
(3) 図12は植物栽培体群Qについての正面図、図13はその側面図である。
【0101】
棚Nは、断面正方形状の収容筒体N1が4つ上下に連設されてなるものである。棚Nの各収容筒体N1に、前記[2](1)の例の植物栽培体Pが、植物生育部の巻回軸線が水平状をなす状態で一つずつ収容保持されることにより、植物栽培体Pが4個上下並列状に配置された植物栽培体群Qが構成されている。このように立体的に配された各植物栽培体Pの端面部Hを利用することにより、立体的な植物栽培が可能である。なお、このような棚における収容部の数や配置は任意に行い得る。また、複数個の棚を様々に配置することも可能である。また、例えば芯体を備えない筒状の保水性植物生育体からなる植物栽培体を各収容部に収容することも可能である。
【0102】
更に、例えば網目状の保持枠体の各網目に植物栽培体を保持させる(例えば植物生育部の巻回軸線方向の中央部を保持させる)ことにより植物栽培体群を構成することも可能である。
【0103】
また、図14に示されるように収容箱体Z内に前記[2](1)の例の植物栽培体Pを多数収容して収容箱体Z内に保持されるようにして植物生育部の巻回軸線が平行状をなす植物栽培体群を構成することもできる。
【0104】
なお、複数の植物栽培体が上下方向に(例えば互いに平行に又はねじれの位置に)配列される場合は、上下の植物栽培体同士が互いに圧接すると上側の植物栽培体の保有水分が下側の植物栽培体に流下移動して上側の植物栽培体の水分保有量が低減し易くなるので、上下の植物栽培体同士は離隔すること又は少なくとも接触の度合いを小さくすることが望ましい。
【0105】
例えば、図15に示されるように、収容箱体Z内に前記[2](1)の例の植物栽培体Pを多数収容し、上下の植物栽培体P間に、水分透過性の支持体S(例えばすのこ状の支持体)上に保水性植物生育体Xが平板状に積層した離隔部Rを挟んだ状態で収容箱体Z内に保持されるようにして植物生育部の巻回軸線が平行状をなす植物栽培体群を構成することができる。
【0106】
離隔部Rを単に水分透過性の支持体により構成して、或いは非水分透過性の支持体と下側の植物栽培体への水系液体の自然流下路を設けることにより、上下の植物栽培体Pを実質上分離しつつ上側の植物栽培体の保有水分が下側の植物栽培体に流下移動するようにして、上側の植物栽培体Pの水分保有量が低減し易くなることを防ぎつつ過剰な水分を下側の植物栽培体への給水に利用することができる。更に、離隔部Rとして水分透過性の支持体S上に保水性植物生育体Xが積層したものを用いることにより、上下の植物栽培体Pを実質上分離するのみならず、上側の植物栽培体Pの保水力を高めることができる。この点は、上下方向に配列された複数の植物栽培体が収容箱体内に収容されている場合に限らない。なお、最下部の植物栽培体Pの下側にも支持体S上に保水性植物生育体Xが平板状に積層したものを備えることにより、その植物栽培体Pの保水力を高めることができる。
【0107】
このような様々な手段を利用して、複数の植物栽培体を、対象植物を栽培するための複数の端面部が垂直面、傾斜面又は曲面に沿って配されるように配設することにより、種々の立体的な植物栽培が可能である。例えば直立柱(角柱、円柱等)の側面、円錐又は角錐の側面、様々な曲面等に沿って、対象植物を栽培するための複数の端面部が配されるものとすることが可能である。
【0108】
(4) 植物生育部の外周面部は、その全部又は一部が、例えば、多数の開口部を満遍なく有するスノコ状体、シート状若しくは曲板状若しくは平板板状の漏水防止材等により覆われているものとすることができる。これにより、植物生育部が水分を保有していても、植物生育部の外周面部上に座ったり背をもたれたりしても衣服等が濡れることを防ぐことができる。
【0109】
(5) 植物生育部の一方の端面が漏水防止材で覆われているものとすることもできる。
【0110】
[3] 植物生育部の外周面部において栽培
【0111】
(1) 図16及び図17は、本発明の実施の形態の別の例としての植物栽培体Fに関するものであって、そのうち図16は植物栽培体の正面図、図17は植物栽培体の側面図である。
【0112】
植物栽培体Fは、芯体Cと、保水性植物生育体Wからなる筒状(略円筒状)の植物生育部Gを備えてなり、その植物生育部Gの外周面部(略円筒形状外周面部)に対象植物を栽培することができる。
【0113】
芯体Cは、合成樹脂製の直円管(軸線が直線である円筒形状の管)である。その芯体Cの外周側に植物生育部Gが形成されている。
【0114】
植物生育部Gは、1枚の可撓性板形状の保水性植物生育体Wが、芯体Cの外周側にほぼ全周(360度中心角)にわたり3回と4分の3程度(従って3層又は4層となるように)巻回された略円筒状をなす。この例では芯体Cの両端部は植物生育部Gの両端部に突出しているが、これに限るものではない。例えば芯体Cの両端部が植物生育部Gの両端部から突出しないものであってもよい。
【0115】
植物生育部Gを構成する保水性植物生育体Wは、可撓性板形状であって、水分を保有した場合に下方側の水分保有量が上方側に比し多くなる。
【0116】
しかしながら、この植物生育部Gは、可撓性板形状の保水性植物生育体Wが芯体Cの外周側にほぼ全周(360度中心角)にわたり3又は4層となるよう巻回されてなるものであり、植物生育部Gにおける保水性植物生育体Wの巻回軸線は水平状をなす。そのため、巻回された可撓性板形状保水性植物生育体Wの水平方向に対する傾斜角度(水平面に平行な状態からの傾斜)は、巻回軸線を中心とした巻回角度位置によって、0度から90度、90度から0度、0度から90度、90度から0度と、繰り返し変化する。図17の側面図に示されるように、可撓性板形状保水性植物生育体Wの水平方向に対する傾斜角度は、例えば、中心(巻回軸線)の直上(中心角0度)及び直下(中心角180度)では0度、中心角45度の位置では45度、中心角90度の位置では90度である。
【0117】
またそれにより、植物生育部Gの例えば鉛直方向又は水平方向においては、外周側から何番目の巻回層であるかによって水平方向に対する保水性植物生育体Wの傾斜角度が変化する。すなわち、図17における中心(巻回軸線)の左側の最内層位置における、鉛直方向線上の各層の保水性植物生育体Wの傾斜角度は、上端の最外層ではほぼ30度であるが、下方に向かうに従って(すなわち内側の層となるに従って)傾斜角度が大きくなって最内層では90度となる。下端から上方に向かう場合も同様である。また、図17における中心(巻回軸線)の上側の最内層位置における、水平方向線上の各層の保水性植物生育体Wの傾斜角度は、左端の最外層ではほぼ60度であるが、右方に向かうに従って(すなわち内側の層となるに従って)傾斜角度が緩くなって最内層では0度となる。右端から左方に向かう場合も同様である。
【0118】
そのため、植物生育部Gの外周面部の任意の位置における、表面部及びその内方部分の水分保有量は、前記位置が外周面部における何れであっても、大きな偏りがないものとすることができる。
【0119】
よって、植物生育部G全体として可及的に万遍なく保水し得るので、植物生育部Gの外周面部における上下方向及び水平方向の様々な位置を有効に活用して好適な植物栽培を行い得る。
【0120】
また、植物生育部Gの外周面部の全周にわたり植物を生育することにより、全周にわたる生育植物からの水蒸気の蒸散により周囲の空気を効率的に冷却する効果を得ることが可能である。
【0121】
(2) 図18は、前記[3](1)の例の植物栽培体Fが複数上下並列状に配置された植物栽培体群Qについての正面図である。
【0122】
植物栽培体群Qは、1対の支柱10間にそれぞれ水平状に支持された4つの植物栽培体Fを、それらの巻回軸線が水平状をなすように互いに平行状に上下に備える。保水性植物生育体Wの巻回軸線は水平状をなし、各植物栽培体Fの間には上下方向間隔を有する。
【0123】
従って、巻回軸線が水平状をなし、互いに平行状をなす上下複数の植物生育部Gを利用して、立体的な植物栽培が可能である。
【0124】
各植物栽培体Fの間には上下方向間隔を有するので、通気性が確保される。また、植物生育部Gの外周面部の全周にわたり植物を生育することにより、全周にわたる生育植物からの水蒸気の蒸散により周囲の空気を効率的に冷却する効果を得ることが可能である。
【0125】
支柱10を3本以上有し、隣接するそれぞれの1対の支柱10間にそれぞれ複数の植物栽培体Fを水平状に支持するものとすることもできる。
【0126】
(3) 図19は、植物栽培体Fを一部に設けたベンチBの正面図である。
【0127】
このベンチBは、水平部Ca1及びその両端の支柱部Ca2からなる芯体Caと、芯体Caの水平部Ca1における間隔を隔てた2箇所に外嵌固定された筒状クッション体Uと、その各筒状クッション体Uの両側部の3箇所において芯体Caの水平部Ca1に外嵌された保水性植物生育体Wからなる筒状の植物生育部Gを備えてなる。芯体Caの水平部Ca1に外嵌された植物生育部Gが植物栽培体Fを構成し、その植物生育部Gの外周面部に対象植物を栽培することができる。
【0128】
(4) 図20は、保水性植物生育体Wが全周にわたり二層以上巻回されていない植物生育部Gを備えた植物栽培体Fの側面図である。
【0129】
この場合、植物生育部Gにおける保水性植物生育体Wの巻回軸線が水平状をなし、保水性植物生育体Wが二層となっている180度の所定中心角部分を下方側に位置させている。所定中心角部分以外の保水性植物生育体Wは一層である。
【0130】
このように所定中心角部分を下方側に位置させることにより、水分を保有した場合に下方側の水分保有量が上方側に比し多くなる状態にも対応し得るものとしている。
【0131】
(5) 図21は、保水性植物生育体Wが円柱状に巻回されてなる3個の植物栽培体Fが、巻回軸線が水平状をなすように互いに平行状に紐Tで梁Mに吊り下げられた植物栽培体群Qの正面図である。図22は、図21の植物栽培体群Qの要部側面図である。なお、柱状又は筒状の植物生育部Gの端面(例えば図22に示される面)において対象植物を育成することは、必ずしも不可能ではない。
【0132】
(6) 植物生育部の外周面部は、その全部又は一部が、植物生育部における植物の生育を妨げない網状体又は多数の開口部を満遍なく有するスノコ状の植物保護体(例えば合成樹脂又はその他の材料によるもの)により覆われているものとすることができる。スノコ状の植物保護体の高さ(すなわち植物生育部の外周面部を覆った状態におけるその外周面部からの立ち上がり)は、栽培植物(特に、その根部)を損傷しない程度および/または植物生育部が水分を保有していても人がその植物保護体に背をもたれたり座ったりした場合に濡れない程度であることが望ましい。植物保護体の高さは、栽培植物や植物生育部の物性にもよるが、例えば1cm乃至5cmとすることができる。
【0133】
図23は、図16及び図17に示す植物栽培体Fにおける植物生育部Gの外周面部の全部が、植物生育部Gにおける植物の生育を妨げない多数の開口部を満遍なく有する合成樹脂製のスノコ状の植物保護体Eにより覆われた状態を示す要部半断面図である。なお、植物保護体Eは模式的に表されている。
【0134】
植物生育部Gの外周面部に芝生等の植物を栽培する場合に、栽培植物に対する日光等の照射を可及的に妨げずに栽培植物を保護育成することができる。植物栽培体Fを、ベンチBの座部や背もたれ等として用いる場合、栽培植物が傷むことや、座ったり背をもたれさせた者の衣類等が植物生育部Gに保水された水により濡れることなどを可及的に防ぐことができる。
【0135】
(7) 各植物栽培体における植物生育部の一方又は両方の端面は、漏水防止材で覆われるものとすることができる。漏水防止材の形状は、植物生育部の端面の形状に応じたものとすることができ、例えば、円環板状、円板状等の形状を採用し得る。
【0136】
図23には、植物生育部Gの端面が、円環板状の漏水防止材Lで覆われた状態が示されている。この場合、植物生育部Gの端面からの漏水が、漏水防止材Lにより防がれることにより、保水性を可及的に高めることができる。
【0137】
[4] 全般
【0138】
(1) 本発明における芯体は管状に限るものではない。例えば柱状(中実体)であってもよい。また芯体の断面形状は、管状であっても柱状であっても、円形に限らない。楕円形、三角形、四角形、六角形等の各種多角形であってもよい。芯体は、外周部に、保水性植物生育体を結合させたり結合を補助するための構造や材料(例えば突起状物やフック状物又は接着剤等)を備えるものであってもよい。芯体と植物生育部の横断面の外半径の比(円形以外の場合は、[横断面の外周で囲まれる面積/π]1/2の比)は、例えば1:20乃至1:1.5程度の範囲とすることができる。芯体の材料としては、合成樹脂に限らず、金属、陶磁(セラミクス)、木等を用いることができる。
【0139】
また、芯体は、芯体の内部に水系液体を導入する導入部(例えば一端又は両端が開口した管状の芯体における水系液体が通水される通水用中空部)と、導入部より芯体の内部に導入された水系液体を芯体の外周側の植物生育部に供給するための供給孔(例えば、前記通水用中空部から外周側の植物生育部に水系液体を放出又は滲出させるための多数の放出孔又は多数の滲出孔若しくは多孔質部)を有するものとすることができる。
【0140】
図10及び図11に示される例においては、例えば、水系液体が支柱10から芯体Cに供給され、芯体Cの外周側に水系液体が滲出して保水性植物生育体Wに供給されるものとすることができる。また図18に示される例においては、例えば、水系液体が直立支柱管Dから芯体Cに供給され、芯体Cの外周側に水系液体が滲出して保水性植物生育体Wに供給されるものとすることができる。
【0141】
(2) 本発明における保水性植物生育体は、この例のような構成に限らないが、保水性を有し、水分を保有した場合に下方側の水分保有量が上方側に比し多くなるものであって、対象とする植物(特に、植物の根)の生育に適するものであることを要する。
【0142】
保水性植物生育体としては、例えば、不規則に集合した繊維(繊維の種類は特に問わない。椰子殻繊維、ジュート、ケナフ、木綿等の各種天然繊維、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリアクリル系等の各種合成繊維、或いはその他の繊維を用い得る。)からなるもの、特に、不規則に集合した繊維を、圧縮成形したもの、圧縮成形すると共にニードルパンチやバインダー繊維の含有及び溶融により繊維成形物の保形性を高めたもの、不織布、不織布を重積したもの、その他の各種植物生育材料を用いることができる。保水性植物生育体に生育対象植物の種子や肥料を含ませることもできる。保水性植物生育体の厚さは、例えば0.5乃至20cmとすることができる。好ましくは1乃至15cm、より好ましくは2乃至10cmであるが、これに限られるものではない。
【0143】
保水性植物生育体は、マット状をなすものとすることができる。その他、例えば保水性植物生育体を帯状に形成することもできる。
【0144】
保水性植物生育体を略円筒状に保形するには、縫着、綴じ針等による綴合、接着剤による接着等の適宜手段を採用することができる。
【0145】
(3) 本発明における植物生育部は、保水性植物生育体が柱状又は筒状(円形に限らず、楕円形、三角形、四角形、六角形等の各種多角形の柱状又は筒状であってもよい。)に巻回されてなるものである。筒状の場合、芯体の外周側に巻回されてなるものとすることができる他、中空状とすることもできる。
【0146】
植物生育部は、例えば保水性植物生育体が全周にわたり二層以上(好ましくは三層以上)となるよう巻回されているものとすることができる。
【0147】
また、植物栽培体は、植物生育部における保水性植物生育体の巻回軸線が傾斜状(例えば45度以下、30度以下、又は20度以下)をなすようにすることができる。
【0148】
保水性植物生育体を帯状とした場合、芯体に対し帯状の保水性植物生育体を螺旋状に巻回して筒状の植物生育部を形成することもできる。
【0149】
また、植物生育部の外周面部において栽培する場合に、保水性植物生育体が全周にわたり二層以上巻回されていない植物生育部は、少なくとも50度の所定中心角部分が二層以上となるよう巻回されているものとすることができる。
【0150】
(4) 植物生育部の外周面部に栽培する対象植物として好適なものの例としては、芝類を挙げることができるが、これらに限るものではない。つた類等を栽培することも可能である。
【0151】
なお、以上の実施の形態についての記述における構成部品の寸法、個数、材質、形状、その相対配置などは、特にそれらに限定される旨の記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではなく、単なる説明例に過ぎない。
【符号の説明】
【0152】
A ポット
B ベンチ
C 芯体
Ca 芯体
Ca1 水平部
Ca2 支柱部
D 直立支柱管
E 植物保護体
F 植物栽培体
G 植物生育部
H 端面部
I 対象植物
I1 根部
I2 葉部
J 植物生育部
J1 空孔部
K 端面部
L 漏水防止材
M 梁
N 棚
N1 収容筒体
P 植物栽培体
Q 植物栽培体群
R 離隔部
S 支持体
T 紐
U 筒状クッション体
V 植物栽培体
W 保水性植物生育体
X 保水性植物生育体
Y 保水性植物生育体
Z 収容箱体
10 支柱
20 収容棚
22 外枠部
22a 連結用上方突起板部
22b 連結用下方箱形状突起部
24 棚部
24a 棚板部
24a1 上下貫通部
24b 背板部
24b1 前後貫通部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
保水性を有する可撓性板形状の保水性植物生育体が巻回されてなる柱状又は筒状の植物生育部を備えた植物栽培体。
【請求項2】
可撓性板形状の保水性植物生育体が、繊維の不織集合体である請求項1記載の植物栽培体。
【請求項3】
保水性植物生育体が全周にわたり二層以上となるよう巻回されている請求項1又は2記載の植物栽培体。
【請求項4】
植物生育部における保水性植物生育体の巻回軸線が水平状または傾斜状をなす請求項1乃至3の何れか1項に記載の植物栽培体。
【請求項5】
保水性植物生育体が、水分を保有した場合に下方側の水分保有量が上方側に比し多くなるものである請求項1乃至4の何れか1項に記載の植物栽培体。
【請求項6】
植物生育部が筒状をなし、その植物生育部の内側の空孔部に対象植物の根部を配置し、前記植物生育部の端部の軸線方向外方に少なくとも茎部、葉部及び花部の何れかを位置させてその対象植物を栽培するための請求項1乃至5の何れか1項に記載の植物栽培体。
【請求項7】
上記筒状の植物生育部の1又は2以上が、その少なくとも一方の端面が露出した状態で、収容筒体、保持枠体又は収容箱体に保持されている請求項6記載の植物栽培体。
【請求項8】
上記筒状の植物生育部の2以上が、それらの巻回軸線が互いに平行状をなすように上下に配置され、上下の植物生育部が、水分透過性の離隔部により上下に分離されている請求項6記載の植物栽培体。
【請求項9】
上記筒状の植物生育部の内側の空孔部の一端側に同軸状に嵌合した芯体を有し、
前記空孔部の他端側に前記対象植物の根部を配置し、前記空孔部の他端側における軸線方向外方に少なくとも茎部、葉部及び花部の何れかを位置させるためのものである請求項6記載の植物栽培体。
【請求項10】
上記植物生育部の端面部に対象植物を栽培するための請求項5記載の植物栽培体。
【請求項11】
上記可撓性板形状の保水性植物生育体が巻回されてなる柱状又は筒状の1又は2以上の植物生育部が、その少なくとも一方の端面が露出した状態で、収容筒体、保持枠体又は収容箱体に保持されている請求項10記載の植物栽培体。
【請求項12】
上記筒状の植物生育部の2以上が、それらの巻回軸線が互いに平行状をなすように上下に配置され、上下の植物生育部が、水分透過性の離隔部により上下に分離されている請求項10記載の植物栽培体。
【請求項13】
上記植物生育部が、可撓性板形状の保水性植物生育体が巻回されてなる筒状をなし、その筒状の植物生育部の内側の空孔部に芯体が同軸状に嵌合している請求項10記載の植物栽培体。
【請求項14】
上記芯体が、芯体の内部に水系液体を導入する導入部と、導入部より芯体の内部に導入された水系液体を芯体の外周側の植物生育部に供給するための供給孔を有する請求項13記載の植物栽培体。
【請求項15】
上記芯体の基端部が基体に支持され、その芯体の先端は自由端であり、
植物生育部のうち芯体の自由端側の端面部に対象植物を栽培するためのものである請求項13又は14記載の植物栽培体。
【請求項16】
上記芯体を複数有し、それらの各芯体の外周側にそれぞれ可撓性板形状の保水性植物生育体が巻回されてなる筒状をなす植物生育部が形成された請求項13乃至15の何れか1項に記載の植物栽培体。
【請求項17】
上記植物生育部の外周面部に対象植物を栽培するための請求項5記載の植物栽培体。
【請求項18】
上記植物生育部が、可撓性板形状の保水性植物生育体が巻回されてなる筒状をなし、その筒状の植物生育部の内側の空孔部に芯体が同軸状に嵌合している請求項17記載の植物栽培体。
【請求項19】
上記芯体が、芯体の内部に水系液体を導入する導入部と、導入部より芯体の内部に導入された水系液体を芯体の外周側の植物生育部に供給するための供給孔を有する請求項18記載の植物栽培体。
【請求項20】
少なくとも50度の所定中心角部分が二層以上となるよう巻回されている請求項17乃至19の何れか1項に記載の植物栽培体。
【請求項21】
植物生育部の外周面部の全部又は一部がスノコ状の植物保護体により覆われている請求項17乃至20の何れか1項に記載の植物栽培体。
【請求項22】
植物生育部の一方又は両方の端面が漏水防止材で覆われている請求項17乃至21の何れか1項に記載の植物栽培体。
【請求項23】
請求項1乃至22の何れか1項に記載の植物栽培体を複数個、それらの巻回軸線が互いに平行状をなすように上下に備えてなる植物栽培体群。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2013−48634(P2013−48634A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−248154(P2012−248154)
【出願日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【分割の表示】特願2010−118740(P2010−118740)の分割
【原出願日】平成22年5月24日(2010.5.24)
【出願人】(000178583)山崎産業株式会社 (77)
【Fターム(参考)】