説明

植物添加剤

【課題】切り花の日持ちの改善や、栽培植物の生育を促し得る新たな植物添加剤を提供する。
【解決手段】植物添加剤Aは、例えば液剤A1の状態で保管・流通する、いわゆる液剤A1の状態となっている。そして当該液剤A1は、生糸1を精練する過程で採取されたセリシン10を分解することによって得られたシルクプロテインであるセリシン由来アミノ酸を主成分として、溶媒に溶解させたものである。シルクプロテイン由来のセリシン10に含まれるセリンが元来有している保湿効果がそのまま得られるので、切り花Kの表面には水分子を多分に含んだアミノ酸の被膜が形成されることとなり、乾燥によって切り花Kが早くに枯れることを有効に回避して、より長い期間切り花Kを維持し得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の葉面等に散布するための植物添加剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、栽培植物の生育を促進させたり、切り花の日持ちを長期間持続させたりするための植物添加剤が提案されている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。
【0003】
特許文献1には、切り花に対し、栽培地で採種されてから消費地に届けるまでの間、枯れたりしおれたりしないようにするために考案された、高分子化合物からなる吸収性シートが開示されている。そして当該吸水性シートは、例えば、パルプ、不織布、フエルトなどの給水能を有する繊維質材料と組み合わせて使用することや、ポリエチレン、ポリアミドなどの樹脂材料や、木綿などの天然材料など耐水強度を有する任意の材料からなるネットの両面に吸水性シートを積層することが開示されている。
【0004】
特許文献2に記載のものは、リン酸やカルシウムを農作物等の植物に効率良く吸収させることにより農作物等の植物の生長を促進させるために考案された植物成長活性剤が提案されている。そして当該特許文献2には、植物成長活性剤にアミノ酸を含ませることによって、農作物等の植物にアミノ酸を吸収させて、農作物に起こるいわゆる成り疲れを防ぐ作用について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−298867号公報
【特許文献2】特開2008−044854号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、近年室内環境が低湿度に保たれていることに起因して、切り花や屋内で栽培されている栽培植物の表面が乾燥してしまうことにより、切り花は日持ちが限られてしまう。また、屋内や屋外で栽培されるような栽培植物についても、周囲の環境の変化等によって、一時的に枯れやすい環境におかれることもある。
【0007】
他方、タンパク質やアミノ酸を含有した植物添加剤においては、その配合成分を工夫することにより、植物の生育をより促し得るものとなったり、植物添加剤自体をより効率良く製造し得るものが提供されたりすることが期待されているのが現状である。
【0008】
本発明は、このような現状に着目したものであり、切り花の日持ちの改善や、栽培植物の生育を促し得る新たな植物添加剤を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、このような目的を達成するために、次のような手段を講じたものである。すなわち本発明に係る植物添加剤は、水に溶解させた状態で植物体に添加するための植物添加剤であって、生糸又は繭から回収されたシルクプロテイン又はその分解物を含有してなることを特徴とする。
【0010】
また本発明に係る植物添加剤は、水に溶解させた状態で植物体の表面に散布するための植物添加剤であって、繭又は生糸から回収されたシルクプロテイン又はその分解物と、当該シルクプロテイン又はその分解物を溶解させた溶媒とを有することを特徴とする。つまり、液剤としての態様を有する植物添加剤である。
【0011】
これらのようなものであれば、シルクプロテイン又はその分解物が元来有している保湿効果が得られるので、乾燥によって切り花が早くに枯れることを有効に回避して、より長い期間切り花を維持しておくことが可能となる。他方、栽培植物に散布した場合でも、屋内に配置した観葉植物や一時空気が乾燥している状態にある栽培植物に施用することによって表面や株元といった近傍に、より多くの水分が保持されるので、乾燥による生育の阻害を有効に回避し、植物の正常な生育を促すことができる。
【0012】
そしてシルクプロテインとは、生糸の状態では繊維状たんぱく質である2本のフィブロインをニカワ状のセリシンで包む構造をしており、さらに、セリシン以外の狭雑物および不純物を含んでいる。そして本発明ではシルクプロテイン又はその分解物を、フィブロインではなくセリシン又はその分解物とすれば、セリシンがフィブロインよりも多くのセリンを含んでいるので、より保湿効果が高いものとすることができる。
【0013】
特に本発明では、セリシン又はその分解物を生糸の精練工程から回収したものとすることで、従来の絹の精練工程からでは排除されてしまうセリシンを有効に活用することにより、資源の有効な利用が図れるとともに、植物添加剤を製造するためにセリシンを得るための格別の設備やスペース、並びに時間や労力を有効に削減することができる。
【0014】
そして本発明に係る植物添加剤は、セリシン由来のアミノ酸を含むことによって、植物体に対しアミノ酸を直接吸収させて植物体の窒素同化を促すことや、当該窒素同化の促進に関与すると云われている光合成効率の向上など、植物体の生育を促進させ得る、種々の効果を期待できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、シルクプロテイン又はその分解物が元来有している保湿効果が得られるので、乾燥によって切り花が早くに枯れることを有効に回避して、より長い期間切り花を維持しておくことが可能となる。他方、栽培植物に散布した場合でも、屋内に配置した観葉植物や一時空気が乾燥している状態にある栽培植物に施用することによって表面や株元といった近傍に、より多くの水分が保持されるので、乾燥による生育の阻害を有効に回避し、植物の正常な生育を期待できる植物添加剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態に係る植物添加剤の使用態様を示す外観図。
【図2】同植物添加剤の他の使用態様を示す外観図。
【図3】同植物添加剤の製造方法を示す模式的な図。
【図4】同製造方法を示すフローチャート。
【図5】同製造方法におけるセリシン回収工程を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施の形態について図面を参照して説明する。
【0018】
本実施形態に係る植物添加剤Aは、図1及び図2に示すように、ボトル等に注入された濃縮液としての液剤A1という態様で保管・流通し得るものとなっている。そして当該液剤A1を、使用目的や、植物体Vの種類や状態に応じて、水Wによって例えば1000倍に希釈した希釈液A2を、有効に適用し得る基準の濃度となるように設定している。そして斯かる希釈濃度は、使用する目的や状況に応じて、例えば500〜2000倍に希釈した希釈液A2の状態としても良い。そして希釈液A2は、それぞれ図1に示すスプレーや図2に示す動力噴霧器Dによって好適に葉面散布することができる。
【0019】
以下、本実施形態に係る植物添加剤Aについて詳述する。
【0020】
植物添加剤Aは、上述の通り本実施形態では液剤A1の状態で保管・流通する、いわゆる液剤A1の状態となっている。そして当該液剤A1は、図3に示すような生糸1を精練する過程で採取されたセリシン10を分解することによって得られたシルクプロテインであるセリシン由来アミノ酸を主成分として、溶媒に溶解させたものである。なお当該液剤A1はセリシン由来のアミノ酸以外に、例えば植物体K、Vの表面に効率良く付着させるための展着剤や酸化防止剤、pH調整剤など、当該植物添加剤A自体の基本的な品質・性能を維持するために配合され得る既存の種々の添加物を配合しているものである。
【0021】
図1は植物体としての切り花Kに対し、例えば2、3日毎や1日に2、3回といったサイクルでスプレー容器に入れた希釈液A2を葉面散布することによって、切り花Kの表面の乾燥を回避させて日持ちを良くするための態様を図示している。このように散布された希釈液A2は、切り花Kの表面にセリシン由来のアミノ酸、詳細には水分子を保持したセリンを含んだ膜が一定期間形成された状態となる。そうすることによって、切り花Kの表面が有効に保湿されることにより、切り花Kの状態を長く保つことが可能となる。
【0022】
他方図2では、希釈液A2を動力噴霧器Dを介して、畑で栽培されている植物体である栽培植物Vに散布する態様を示している。同図の状態においても、使用状態や栽培植物Vの品目・品種に応じて、或いは収穫予定日から逆算した散布予定日に沿って、2〜3日毎や7〜10日毎といったサイクルで散布するものとしている。同図のように散布された希釈液A2は、図1同様に栽培植物Vの表面を有効に保湿する作用のみならず、植物添加剤Aに含まれるセリシン由来アミノ酸が栽培植物Vに吸収・代謝されることによって、生育が有効に促されることが期待される。
【0023】
しかして本実施形態に係る植物添加剤Aは、生糸1又は繭から回収されたシルクプロテイン由来の図3に示すセリシン10を分解したセリシン由来アミノ酸を含んでいることを特徴とするものである。なお本実施形態の記載は、フィブロイン11又はフィブロイン由来のアミノ酸からなるものや、一部に含まれるものを本発明から除外するものではない。
【0024】
そして、本実施形態に係る上述した植物添加剤Aは、図3、図4及び図5に示すように、生糸1の精練工程からセリシン10を回収するセリシン回収工程S1と、セリシン回収工程S1により得られたセリシン10を、分解・調整するセリシン調整工程S2と、セリシン調整工程S2によって適宜調整されたセリシン由来アミノ酸を溶媒と混合することにより液剤A1とする溶媒混合工程S3とを有する植物添加剤Aの製造方法Sによって製造されたものである。なお同図では、セリシン調整工程S2の後に溶媒混合工程S3を行なう態様を図示しているが、勿論溶媒混合工程S3の後にセリシン調整工程S2を行なうものであっても良い。
【0025】
当該植物添加剤Aに用いられるセリシン10は、上述の通り生糸1の精練工程より回収されたものであるが、以下に詳述する方法を適用することにより、高品質なフィブロイン11の採取と、高収量のセリシン10の回収とを両立させたものとなっている。
【0026】
本実施形態で開示する図5に示すセリシン回収工程S1とは、生糸1、生糸1を撚った撚糸又は生織物などの被精練物を、酸性精練液(酸精練液)を用いて精練する酸精練法を有効に利用したものであって、高品質の絹織物を得るという立場から見れば、セリシン10の除去程度を高めた精練方法である。つまり換言して、本実施形態に係る植物添加剤Aを高い効率且つ高品質で得るという立場から見れば、セリシン10の回収精度を有効に高めた、植物添加剤Aの製造方法Sの一部をなすセリシン回収工程S1と捉えることができる。すなわち本実施形態に係る植物添加剤Aは、後述するような高品質のフィブロイン11を抽出し得る生糸1の精練技術をもってして、初めてなし得たものである。
【0027】
以下、本実施形態に係るセリシン回収工程S1について詳述する。
【0028】
図3は、精練前の絹繊維(生糸)1と、絹繊維を精練した後の精練絹を示す図である。繭を形成する1本の絹繊維1は、図3に示すように、概略半円状の断面を有する2本のフィブロイン11を、ニカワ状のセリシン10で包む構造をしている。この絹繊維1を精練すると、同図に示すように、セリシン10が回収されるとともに、2本のフィブロイン11が、精練絹として得られる。本実施形態は、絹特有の風合いを発揮することができる繊維状たんぱく質であるフィブロイン11が損傷を受けることなく、且つ本実施形態に係るセリシン10を効率良く採取する手法であり、生糸1を精練するだけでなく、生糸を撚った撚糸を精練する場合にも用いられ、また、生糸1および撚糸を精練する糸練り法だけでなく、生糸1又は精練前の撚糸を用いて織った生織物を精練する布練り法にも用いられる。
【0029】
図5は、精練方法の工程すなわちセリシン回収工程S1を示す図である。まず、前処理工程S11では、熱水および温水などに被精練物を浸漬させて、セリシン10を膨潤・軟化させる。次に、荒練り工程S12、本練り工程S13および仕上練り工程S14と精練を3回行なって、セリシン10を回収する。荒練り工程S12では、90℃以上の精練液に被精練物を所定時間浸漬させて、セリシン10を回収する。ここでの精練液は、本練り工程S13で使用された精練液を用いることがあり、容易に回収することができるセリシン10を回収する目的で行われる。本練り工程S13では、90℃以上の新たな精練液に被精練物を所定時間浸漬させて、大部分のセリシン10を回収する。仕上練り工程S14では、90℃以上の新たな精練液に被精練物を所定時間浸漬させて、精練不足および精練むらを是正する。最後に、洗浄工程S15では、熱水および温水などに被精練物を浸漬させて、回収されたセリシン10などを洗い出す。
【0030】
本実施形態に係るセリシン回収工程S1は、糸練り法および布練り法の2種の精練方法に適用される。まず、糸練り法の場合について説明する。本実施形態では、荒練り工程S12および本練り工程S13で、後述の酸精練液を用い、仕上練り工程S14で、後述の塩基性精練液(アルカリ精練液)を用いる。また、酸精練液に被精練物を浸漬させることによって、セリシン10を充分に膨潤・軟化させることができるので、前処理工程S11を行なわなくてもよく、荒練り工程S12および仕上練り工程S14を行なわなくても、本練り工程S13のみで、大部分のセリシン10を回収できる。
【0031】
仕上練り工程S14でアルカリ精練液を用いた精練を行なうと、本練り工程S13で残存したセリシン10を回収することができる。したがって、仕上練り工程S14を行なうと、精練不足および精練むらを是正することができ、仕上練り工程S14の際に、フィブロイン11が受ける損傷が小さくてすむので、セリシン10を完全に回収する場合に好ましい。
【0032】
次に、布練り法の場合について説明する。本実施形態では、荒練り工程S12で、後述の酸精練液を用い、本練り工程S13および仕上練り工程S14で、後述のアルカリ精練液を用いる。酸精練液に被精練物を浸漬させることによって、セリシン10を充分に膨潤・軟化させることができるので、糸練り法と同様、前処理工程S11を行なわなくてもよく、仕上練り工程S14を行なわなくても、荒練り工程S12および本練り工程S13で、大部分のセリシン10を回収できる。
【0033】
荒練り工程S12、本練り工程S13および仕上練り工程S14としては、公知の精練操作によって行なうことができ、公知の精練操作において使用される精練液の代わりに、後述の酸精練液又はアルカリ精練液を使用すればよい。公知の精練操作として、たとえば、竿練り法、棒練り法、吊練り法および袋練り法などの手動式の精練操作、噴射精練法および高圧精練法などの機械式の精練操作などが挙げられる。
【0034】
ここで本実施形態では、酸精練液が、精練を開始する前の初期pHが1以上2未満であることを特徴としているものである。そして酸精練液の初期pHが1以上1.8未満であることがより好ましい。初期pHが1より小さいと、過精練になり易く、初期pHが2以上であると、充分にセリシン10を回収できない。また、初期pHが1以上2未満である酸精練液を用いた場合は、アルカリ精練液を用いた場合より、セリシン10がゆっくり溶解されるので、セリシン10の回収程度を制御し易く、過精練になるのを防ぐことができる。
【0035】
また、酸精練液は、無機酸を含む。無機酸としては、上記の初期pHの好適範囲を実現できるものであれば、公知の無機酸を用いることができる。たとえば、硫酸、塩酸、硝酸、燐酸、亜燐酸(ホスホン酸)および次亜燐酸(ホスフィン酸)などが挙げられる。また精練装置を腐食させない燐酸が特に好ましい。また、燐酸を含む精練液を用いた場合は、フィブロイン11の損傷がより少なくなる。
【0036】
また本発明は、酸洗練液を使用して精練するので、耐塩基性の低い繊維、特にウールとの交織を精練する場合、耐塩基性の低い繊維が損傷を受けることなく、精練することができるので、特に好ましい。
【0037】
無機酸の濃度は、糸練り法の場合、4%OWF以上20%OWF以下が好ましく、より好ましくは、5%OWF以上10%OWF以下である。布練り法の場合、0.5g/L以上4g/L以下が好ましく、より好ましくは、1g/L以上2g/L以下が好ましい。なお、%OWFとは、繊維の重量に対する百分率である。
【0038】
また、酸精練液は、有機酸を含んでいてもよい。有機酸としては、水溶性の有機酸であれば、公知の有機酸を用いることができる。たとえば、クエン酸、蟻酸、酢酸、乳酸、リンゴ酸および酒石酸などが挙げられる。有機酸は、無機酸よりセリシン10との親和性が高いので、無機酸と併用することによって、セリシン10に酸性精練液が容易に浸透するので、セリシン10をより回収し易くなる。また、酸精練液は、セリシン10をより回収し易くするために、界面活性剤を含んでいてもよい。なお当該界面活性剤は、植物添加剤Aを製造する、しかる後の工程においてセリシン10から分離・除去しても良いが、界面活性剤の種類によっては植物添加剤Aに含ませて、植物体K、Vの表面に植物添加剤A自体が付着し易くするための展着剤として作用することが期待される。
【0039】
酸精練液の温度が90℃以上で精練することが好ましく、煮沸精練が好ましい。酸性精練液の温度を90℃以上にすることによって、セリシン10を容易に膨潤・軟化させることができるので、セリシン10をより回収し易くなる。
【0040】
酸精練液は、浴比が1:10〜1:100となるように使用することが好ましく、より好ましくは、1:20〜1:40となるように使用することである。なお、浴比とは、繊維の重量を1とした時の全液量の重量の比である。
【0041】
アルカリ精練液は、塩基性物質を含み、精練を開始する前の初期pHが9以上11以下であることが好ましく、初期pHが9.5以上11以下であることがより好ましい。塩基性物質としては、苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)、セスキ炭酸ソーダ(二炭酸水素三ナトリウム)、トリポリ燐酸ソーダ(三燐酸ナトリウム)およびソーダ灰(炭酸ナトリウム)などが挙げられる。また、アルカリ精練液は、セリシン10をより回収し易くするために、石鹸などの界面活性剤を含んでいてもよい。なお当該界面活性剤は、植物添加剤Aを製造する、しかる後の工程においてセリシン10から分離・除去しても良いが、界面活性剤の種類によっては植物添加剤Aに含ませて、植物体K、Vの表面に植物添加剤A自体が付着し易くするための展着剤として作用することが期待される。
【0042】
アルカリ精練液の温度が90℃以上で精練することが好ましく、煮沸精練が好ましい。酸性精練液の温度を90℃以上にすることによって、セリシン10を容易に膨潤・軟化させることができるので、セリシン10をより回収し易くなる。
【0043】
アルカリ精練液は、浴比が1:10〜1:100となるように使用することが好ましく、より好ましくは、1:20〜1:40となるように使用することである。なお、浴比とは、繊維の重量を1とした時の全液量の重量の比である。
【0044】
そして実施形態に係るセリシン回収工程S1では、酸洗練液を使用して精練するので、セリシン10をあまり分解することなく回収することができる。セリシン10を回収した液体には、高分子量のセリシン10が含有されており、セリシン10を回収した精練廃液を一夜間、静置すると、図3に示すようにゲル化する。したがって、高分子量のセリシン10が回収できる。しかして斯かる高分子量のセリシン10は、本発明に係る植物添加剤Aに好適に適用されることとなる。
【0045】
上述の通りセリシン回収工程S1によって回収されたセリシン10は、しかる後にセリシン調整工程S2により適宜分解・調整され、さらに溶媒混合工程S3を経ることによって図1及び図2に示される液剤A1、すなわち本実施形態に係る植物添加剤Aとなる。
【0046】
以上のような構成とすることにより、本実施形態に係る植物添加剤Aは、シルクプロテイン由来のセリシン10に含まれるセリンが元来有している保湿効果がそのまま得られるので、切り花Kの表面には水分子を多分に含んだアミノ酸の被膜が形成されることとなり、乾燥によって切り花Kが早くに枯れることや、栽培植物Vの乾燥を有効に回避して、より長い期間切り花Kを維持していたり、栽培植物Vの乾燥を有効に回避したりし得るものとなっている。他方、栽培植物Vについては表面のみならず株元に散布された植物添加剤Aによって土壌表面にも水分が保持されるので、やはり乾燥による生育の阻害を有効に回避し、植物体K、Vの正常な生育を促し得るものとなっている。
【0047】
また本実施形態では、フィブロイン11ではなくセリシン10由来のアミノ酸を含むものとしているので、セリシン10がフィブロイン11よりも多くのセリンを含んでいることからも、より保湿効果が高いものとなっている。
【0048】
特に本発明では、セリシン10由来のアミノ酸を生糸1の精練工程から回収したものとすることにより、従来の生糸1の精練工程からは不要品として排除されてしまうセリシン10を有効に活用することにより、資源の有効な利用を図っているとともに、当該植物添加剤Aに供する有効成分を採取するために新たな設備を構築することや、抽出に係る時間や労力が有効に削減されたものとなっている。そうすることによって、より省力的且つ効率的に植物添加剤Aを製造することも可能となっている。
【0049】
そして本発明に係る植物添加剤Aは、セリシン10由来のアミノ酸を含むことによって、栽培植物Vといった植物体Vに対しアミノ酸を直接吸収させて、植物体Vの窒素同化を促すことや、当該窒素同化の促進に関与すると云われている光合成効率の向上など、植物体Vの生育を促進させ得る、種々の効果が期待できるものとなっている。
【0050】
以上、本発明の実施形態について説明したが、各部の具体的な構成は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【0051】
例えば、上記実施形態では図2において栽培植物として葉菜類であるキャベツを図示した態様を開示したが、勿論、トマトやナスなどの果菜類や、人参、大根といった根菜類に対しても、有効に適用し得る。特に果菜類に対して適用した場合は、一時的に果実の収穫が滞る、いわゆる「成り疲れ」を回避することによる収量の増大という効果も期待できると云われている。また、上記実施形態では植物添加剤をボトル入りの液剤として開示したが、勿論、粒剤や粉剤として加工したものであってもよい。さらに植物添加剤に含ませるシルクプロテイン又はシルクプロテイン由来成分以外の成分や、実際に使用する際に他に混合するもの、さらには使用する際の希釈濃度や使用頻度といった、実質的な態様は上記実施形態のものに限定されることはなく、既存のものを含め、種々の態様のものを適用することができる。
【0052】
その他、各部の具体的構成についても上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【符号の説明】
【0053】
A…植物添加剤
1…生糸
10…セリシン
11…フィブロイン
K…植物体(切り花)
V…植物体(栽培植物)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水に溶解させた状態で植物体に添加するための植物添加剤であって、
生糸又は繭から抽出されたシルクプロテイン又はその分解物を含有してなることを特徴とする植物添加剤。
【請求項2】
水に溶解させた状態で植物体の表面に散布するための植物添加剤であって、
繭又は生糸から抽出されたシルクプロテイン又はその分解物と、当該シルクプロテイン又はその分解物を溶解させた溶媒とを有することを特徴とする植物添加剤。
【請求項3】
前記シルクプロテイン又はその分解物が、セリシン又はその分解物である請求項1又は2記載の植物添加剤。
【請求項4】
前記セリシン又はその分解物が、生糸の精練工程から回収されたものである請求項3記載の植物添加剤。
【請求項5】
水に溶解させた状態で植物体に添加するための植物添加剤であって、
繭又は生糸から抽出されたセリシン由来アミノ酸と、当該セリシン由来アミノ酸を溶解させた溶媒とを有することを特徴とする植物添加剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−254596(P2010−254596A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−104334(P2009−104334)
【出願日】平成21年4月22日(2009.4.22)
【出願人】(596037909)株式会社山嘉精練 (2)
【Fターム(参考)】