検出器
【課題】イオンのフィードバックを低減して検出感度を維持することが可能な検出器を提供する。
【解決手段】光検出器1は、ガスによる電子増倍作用を利用した検出器において、複数の貫通孔8Aが表面9A上の一方向に沿って規則的に設けられ、電子増倍領域を生成するための電界を形成する平板電極3Aと、平板電極3Aに平行に配置され、複数の貫通孔8Bが一方向に沿って規則的に設けられ、ガス中に電子増倍領域を生成するための電界を形成する平板電極3Bと、平板電極3Aの反対側で平板電極3Bに対向して配置され、電子増倍領域によって増倍された電子を取り出す陽極5とを備え、貫通孔8Aの直径は貫通孔8Bの直径より小さく、貫通孔8Aの中心位置は貫通孔8Bの中心位置に対して一方向に沿ってずれている。
【解決手段】光検出器1は、ガスによる電子増倍作用を利用した検出器において、複数の貫通孔8Aが表面9A上の一方向に沿って規則的に設けられ、電子増倍領域を生成するための電界を形成する平板電極3Aと、平板電極3Aに平行に配置され、複数の貫通孔8Bが一方向に沿って規則的に設けられ、ガス中に電子増倍領域を生成するための電界を形成する平板電極3Bと、平板電極3Aの反対側で平板電極3Bに対向して配置され、電子増倍領域によって増倍された電子を取り出す陽極5とを備え、貫通孔8Aの直径は貫通孔8Bの直径より小さく、貫通孔8Aの中心位置は貫通孔8Bの中心位置に対して一方向に沿ってずれている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスによる電子増倍作用を利用した検出器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、微細加工によって製造されるガス検出器(MPGD:Micro Patterned Gas Detector)の研究開発が進められている。このガス検出器は、ガス中における電子増倍作用を用いて光、X線等の放射線や荷電粒子等を検出するものであり、ガスを利用することにより、装置内部が大気圧であり高真空容器を必要としない、電子増倍構造が簡略化される、大面積で薄型の検出器が安価に製造できる等の利点がある。このような利点を生かして素粒子物理学実験や宇宙放射線計測などの研究分野等で開発が精力的に進められている。例えば、この種の検出器として、グリッド状の薄い電気伝導性の板である陰極と陽極とをチャンバー内に有する検出器が知られている(下記特許文献1参照)。この検出器では、陰極と陽極との間のギャップに電界が形成されることにより、電子増倍作用が引き起こされ、チャンバー内に入射した電離粒子が検出される。また、メッシュ構造の2段の電極を互いの孔の位置がずれるように配置した光検出器も知られている(下記非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表平11−513530号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】F. Jeanneau et al., “Ion back-flow gating in a micromegas device”, NuclearInstruments and Methods in Physics Research A 623 (2010) pp.94-96
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した従来の検出器では、電子増倍作用によって生じたイオンが電子増倍領域から上流側にフィードバックしてしまう傾向にあった。そのため、フィードバックしたイオンにより、検出器の検出感度が劣化してしまう場合があった。
【0006】
そこで、本発明は、かかる課題に鑑みて為されたものであり、イオンのフィードバックを低減して検出感度を維持することが可能な検出器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の一側面に係る検出器は、ガスによる電子増倍作用を利用した検出器において、複数の貫通孔が表面上の一方向に沿って規則的に設けられ、ガス中に電子増倍領域を生成するための電界を形成する第1の平板電極と、第1の平板電極に平行に配置され、複数の貫通孔が一方向に沿って規則的に設けられ、ガス中に電子増倍領域を生成するための電界を形成する第2の平板電極と、第1の平板電極の反対側で第2の平板電極に対向して配置され、電子増倍領域によって増倍された電子を取り出す陽極とを備え、第1の平板電極の貫通孔の幅は、第2の平板電極の貫通孔の幅より狭く、第1の平板電極の貫通孔の中心位置は、第2の平板電極の貫通孔の中心位置に対して、一方向に沿ってずれている。
【0008】
このような検出器によれば、第1の平板電極、第2の平板電極、及び陽極に必要な電圧を印加することにより、第1の平板電極と第2の平板電極との間の間隙、及び第2の平板電極と陽極との間の間隙に電界が形成される結果、それらの間隙において電子増倍領域が形成される。第1の平板電極に向けて光や放射線等に伴って発生した電子が入射すると、電子が第1及び第2の平板電極の貫通孔を通過しながら電子増倍領域において増倍されて陽極で取り出されることにより、光や放射線等が検出される。その際、第2の平板電極の貫通孔の付近から第1の平板電極に向かってフィードバックするイオンは第1の平板電極に吸収されやすい構造になっているので、イオンが第1の平板電極の貫通孔を通過してフィードバックすることを防止することができる。それと同時に、第2の平板電極から陽極に向けて増倍電子を効率よく通過させることができる。これにより、電子増倍率を高めつつイオンフィードバックに起因する検出感度の低下を防止することができる。
【0009】
ここで、第2の平板電極の貫通孔は、第1の平板電極の一方向に隣り合う2つの貫通孔の中心に配置されている、ことが好適である。こうすれば、イオンが第1の平板電極の貫通孔を通過してフィードバックすることを一層防止することができる。
【0010】
また、第1の平板電極の貫通孔と第2の平板電極の貫通孔とは、第1の平板電極の表面から見て千鳥配置されている、ことも好適である。この場合、第1の平板電極の表面全体においてその貫通孔を通過してイオンがフィードバックすることを防止することができる。
【0011】
さらに、第1又は第2の平板電極の貫通孔は、第2又は第1の平板電極の一方向に垂直な方向に隣り合う2つの貫通孔の中心にさらに配置されている、ことも好適である。かかる構成を採れば、イオンのフィードバックを低減しながら、検出感度も高めることができる。
【0012】
またさらに、第1及び第2の平板電極は、表面に沿った外側に中心部より肉厚が厚く形成された縁部を有し、縁部に取り付けられた支持部材によって支持されている、ことも好適である。この場合、第1及び第2の平板電極の機械的強度を高めることができ、印加電界によって接触不良を起こすことも防止できる。
【0013】
さらにまた、第1及び第2の平板電極は、金属平板にエッチング加工が施されることにより、縁部及び貫通孔が形成される、ことも好適である。かかる構成により、平板電極の加工が容易となり、製造効率を高めることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、イオンのフィードバックを低減して検出感度を維持することが可能な検出器を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の好適な一実施形態に係る光検出器を示す斜視図である。
【図2】図1の光検出器の内部構成を示す一部破断斜視図である。
【図3】図1の光検出器の内部構成を示す断面図である。
【図4】図1の平板電極の貫通孔を窓部側から見た平面図である。
【図5】図1の光検出器における入射電子とそれに伴って発生するイオンの軌道のシミュレーション結果を示す図である。
【図6】図1の光検出器と比較例におけるイオンフィードバック率及びゲインのシミュレーション結果を示すグラフである。
【図7】本発明の変形例に係る放射線検出器の内部構成を示す断面図である。
【図8】本発明の変形例に係る平板電極の貫通孔を窓部側から見た平面図である。
【図9】本発明の変形例に係る平板電極の貫通孔を窓部側から見た平面図である。
【図10】本発明の比較例に係る光検出器における入射電子とそれに伴って発生するイオンの軌道のシミュレーション結果を示す図である。
【図11】本発明の比較例に係る光検出器における入射電子とそれに伴って発生するイオンの軌道のシミュレーション結果を示す図である。
【図12】本発明の比較例に係る光検出器における入射電子とそれに伴って発生するイオンの軌道のシミュレーション結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る検出器の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明においては同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0017】
図1は、本発明の好適な一実施形態に係る光検出器を示す斜視図、図2は、図1の光検出器の内部構成を示す一部破断斜視図、図3は、図1の光検出器の内部構成を示す断面図である。図1に示す光検出器1は、ガスによる電子増倍作用を利用して外部から入射する光を検出する装置である。この光検出器1は、アルゴン、キセノン等の希ガス、或いは、希ガスとクエンチングガスの混合ガスが封入された直方体状の筐体2の内部に、2段の電子増倍領域生成用の平板電極3A,3B、及び増倍電子の取り出し用の平板電極である陽極5を収容して構成されている。この筐体2の一端面には、外部からの入射光を内部に透過する窓部6が形成されており、筐体2の内部には、窓部6側から順に平板電極3A、平板電極3B、及び陽極5が配置されている。さらに、この窓部6の内面には、窓部6に入射する光を電子に変換して筐体2の内部に向けて放出する透過型の光電面7が形成されている。
【0018】
平板電極3A,3Bのうちの1段目の平板電極3Aは、複数の円形の貫通孔8Aを有する金属板であり、窓部6に対して所定の距離を空けて略平行になるように配置されている。平板電極3A,3Bのうちの2段目の平板電極3Bは、複数の円形の貫通孔8Bを有する金属板であり、1段目の平板電極3Aに対して窓部6の反対側に所定の距離を空けて略平行になるように配置されている。陽極5は、この2段目の平板電極3Bに対して第1段目の平板電極3Aの反対側に所定の距離を空けて対向するように配置されている。
【0019】
これらの平板電極3A,3Bには、それぞれ、窓部6側の表面9A,9Bに沿った外側において、中心部より肉厚が厚い縁部10A,10Bが形成されている。詳細には、この縁部10A,10Bは、それらの窓部6側の表面11A,11Bが中心部側の表面9A,9Bから窓部6側に盛り上がるように形成され、それらの窓部6の反対側の裏面12A,12Bが中心部側と面一となるように形成されている。そして、平板電極3Aと平板電極3Bとは、縁部10Aの裏面12Aと縁部10Bの表面11Bとの間に取り付けられた支持部材13によって、筐体2内で互いに所定の距離ほど離れた状態で支持されている。同様に、平板電極3Bと陽極5とは、縁部10Bの裏面12Bと陽極5との間に取り付けられた支持部材14によって、筐体2内で互いに所定の距離ほど離れた状態で支持されている。これらの支持部材13,14は、例えばセラミック等の絶縁体によって構成される。
【0020】
なお、平板電極3A,3Bの縁部10A,10Bは、表面9A,9B上の一方向に沿った両端部に形成されており、それぞれに支持部材13,14が設けられている。この縁部10A,10Bと同様な支持構造は、平板電極3A,3Bの表面9A,9B上の中央部にその一部の肉厚を厚くすることによってさらに設けられていてもよい。また、縁部10A,10Bは、窓部6の反対側に盛り上がるように形成されていてもよい。このような構造の平板電極3A,3Bを加工する際には、まず、平板状の金属プレートにマスク材を貼り付けた状態でエッチング加工を施すことにより、縁部10A,10Bの表面11A,11Bから窪んだ表面9A,9Bを形成する。その後、平板電極3A,3Bの表面9A,9Bの反対側の裏面12A,12Bにマスク材を貼り付けた状態でエッチング加工を施すことにより、貫通孔8A,8Bを形成する。この際、平板電極3Aと平板電極3Aとでマスク材のパターンを変更することにより、貫通孔8A,8Bを、その大きさや配置が異なるように形成させる。
【0021】
次に、平板電極3A,3Bの貫通孔8A,8Bの位置関係について詳細に説明する。図4は、平板電極3A,3Bの貫通孔8A,8Bを窓部6側から見た平面図である。同図においては、窓部6に沿った一方向をX軸方向とし、、窓部6に沿ったX軸方向に垂直な方向をY軸方向とし、X軸及びY軸に垂直であって窓部6に向かう方向をZ方向としている。
【0022】
同図に示すように、複数の貫通孔8Aは、窓部6に沿って同一の直径(幅)W1の断面を有しており、X軸方向及びY軸方向に沿って中心点が一定距離を空けて規則的に並ぶように、2次元的に配置されている。これに対して、複数の貫通孔8Bは、貫通孔8Aの直径W1よりも広い同一の直径(幅)W2の断面を有しており、X軸方向及びY軸方向に沿って中心点が一定距離を空けて規則的に並ぶように、2次元的に配置されている。このような貫通孔8Aと貫通孔8Bとは、互いの中心位置がY軸方向に沿ってずれるように形成されている。すなわち、全ての貫通孔8Aの中心位置は、Y軸方向に隣り合う2つの貫通孔8Bの中心に配置されている。逆に言えば、全ての貫通孔8Bの中心位置は、Y軸方向に隣り合う2つの貫通孔8Aの中心に配置されている。このような貫通孔8A,8Bは、Z軸方向に沿って一定の直径を有していてもよいし、直径が徐々に変化するように、つまり、窓部6側或いはその反対側から見てテーパ状に形成されていてもよい。貫通孔8A,8Bの直径が徐々に変化している場合には、貫通孔8Aの窓部6側の開口の直径が、貫通孔8Bの窓部6側の開口の直径に比較して狭くされる。
【0023】
以上説明した光検出器1によれば、平板電極3A、平板電極3B、及び陽極5に対して給電用ピン15から所定の電位が与えられることにより、平板電極3Aと平板電極3Bとの間の貫通孔8Aの直下の領域に強電界が生成されてガス中に電子増倍領域が形成されるとともに、平板電極3Bと陽極5との間の貫通孔8Bの直下の領域に強電界が生成されてガス中に電子増倍領域が形成される。このような状態で窓部6から光が入射すると、窓部6の内側の光電面7によって変換された電子が平板電極3Aに入射する。そうすると、入射電子は平板電極3Aの貫通孔8Aを通過した後に平板電極3Aの直下の電子増倍領域において増倍されて平板電極3Bに入射する。その後、増倍電子が平板電極3Bの直下の電子増倍領域においてさらに増倍されて陽極5で取り出されることにより、窓部6に入射する入射光が高感度で検出される。その際、各電子増倍領域においては電子増倍に伴って必然的にイオンが発生し、電子増倍領域の電界によって窓部6に向かう方向にフィードバックする。
【0024】
ここで、平板電極3A,3Bの貫通孔8A,8Bの直下の電子増倍領域付近から平板電極3Aに向かってフィードバックするイオンが平板電極3Aに吸収されやすい構造になっているので、イオンが平板電極3Aの貫通孔8Aを通過してフィードバックすることを防止することができる。すなわち、平板電極3Aの貫通孔8Aの直下では、電子は電界に垂直な方向に揺らぎながら進行するので、電子増倍領域は平板電極3Bに近づくにつれて電界に垂直な方向に拡がる。このような電子増倍領域で発生したイオンは、電界中の電気力線に沿ってフィードバックするので、平板電極3Aの裏面12Aで吸収されやすくなる。また、平板電極3Bの直下の電子増倍領域で発生したイオンのうち貫通孔8Bを通過したイオンも、貫通孔8Aの大きさが貫通孔8Bよりも小さく、かつ貫通孔8A,8Bの位置がずれているために平板電極3Aの裏面12Aで吸収されやすくなる。また、それと同時に、貫通孔8A,8Bの大きさの関係によって、平板電極3Bから陽極5に向けて増倍電子を効率よく通過させることもできる。これにより、電子増倍率を高めつつイオンフィードバックに起因した光電面7の劣化に伴った検出感度の低下を防止することができ、S/Nが良く長期安定動作が可能なガス増倍型検出器が実現できる。結果として、従来のX線や荷電粒子などでガスを直接電離する領域しか感度を持たなかったガス検出器に、紫外から可視光用の光電面を組み合わせることが可能となり、薄型で安価な紫外〜可視光用の微弱光検出器を実現できる。また、平板電極3Bの貫通孔8Bは平板電極3Aの隣り合う2つの貫通孔8Aの中心に配置されているので、イオンが平板電極3Aの貫通孔8Aを通過してフィードバックすることを一層防止することができる。
【0025】
図5は、光検出器1における入射電子とそれに伴って発生するイオンの軌道のシミュレーション結果を示す図である。この図では、図4のY−Z平面上における電子軌道Oe及びイオン軌道Oiを示しており、平板電極3A,3Bの厚さ50μm、貫通孔8Aの窓部6側の開口直径80μm、貫通孔8Aの窓部6と反対側の開口直径120μm、貫通孔8Bの開口直径200μm、平板電極3Aと平板電極3Bとの距離300μm、平板電極3Bと陽極5との距離200μmを想定している。このように、1つの入射電子によって平板電極3Aと陽極5の間の電子増倍領域で発生するイオンは平板電極3Aに向けて進行し、そのほとんどが平板電極3Aの裏面12Aに吸収されることが分かる。この場合のイオンフィードバック率は2.2×10-5であり、ゲインは3.7×104であった。
【0026】
図10〜図12は、本実施形態に対する比較例において入射電子とそれに伴って発生するイオンの軌道のシミュレーション結果を示す図である。図10には、1段の電子増倍領域生成用の平板電極903のみを有する光検出器901aにおけるシミュレーション結果を示しており、平板電極903の直下の電子増倍領域で発生したイオンの多くが光電面7側にフィードバックしていることを表している。この場合のイオンフィードバック率は7.0×10-2であり、ゲインは5.0×103であった。1段の構造では、電子増倍領域生成用電極と陽極との間に印加できる電圧に限界があることから電子増倍率の向上は期待できない。また、図11には、同一の大きさの貫通孔を有する2段の平板電極903を互いの貫通孔の中心がZ軸方向に沿って重なるように配置された光検出器901bにおけるシミュレーション結果を示しており、2段目の平板電極903の直下の電子増倍領域で発生したイオンの多くが1段目の貫通孔を通過して光電面7側にフィードバックしていることを表している。この場合のイオンフィードバック率は1×10-2であり、ゲインは約1.5×104であった。また、図12には、同一の大きさの貫通孔を有する2段の平板電極903A,903Bを互いの貫通孔の中心がY軸方向にずれるように配置された光検出器901cにおけるシミュレーション結果を示しており、1段目の平板電極903Aの直下の電子増倍領域で発生したイオンのフィードバックはある程度低減されているが、ゲインが本実施形態に比較して低下している。貫通孔の大きさが同じだと2段目の電子増倍領域への収集効率が低く十分な電子増倍率が得られない。この場合のイオンフィードバック率は4.1×10-4であり、ゲインは約9.3×103であった。図6には、本実施形態に係る光検出器1と比較例1,2,3に係る光検出器901a,901b,901cにおけるイオンフィードバック率及びゲインのシミュレーション結果を示す。
【0027】
また、本実施形態における1段目の平板電極3Aと2段目の平板電極3Bとの間隔は例えば300μmであり、2段目の平板電極3Bと陽極5との間隔は例えば200μmであり、従来の2段構造の電子増倍領域生成用の電極を有する検出器(例えば、「“Ion back-flow gating in a micromegas device”, Nuclear Instrumentsand Methods in Physics Research A 623 (2010) pp.94-96」記載の検出器)に比較すると大きくなっており、特に平板電極3Aと平板電極3Bとの間隔が大きくなっている。このように電極間距離を大きくすることにより、2つの平板電極3A,3Bの間の電子増倍領域を平板電極3Bの近傍で大きく拡げることができる。その結果、平板電極3A,3Bの間の電子増倍領域で生じたイオンが平板電極3Aに吸収されやすくなり、イオンフィードバック低減の効果をさらに顕著にすることができる。
【0028】
さらに、光検出器1の平板電極3A,3Bは、エッチングによって縁部10A,10B及び貫通孔8A,8Bを加工しているので、平板電極の製造の効率化が図れる。さらに、縁部10A,10Bを支持部材13,14によって支持する構造を採用しているので、装置の組み立てが容易となり、電極間に印加する強電界によって電極間で接触不良を起こすことも防止できる。特に、支持部材13,14の材料としてセラミック等の絶縁体を使用しているので、光電面7の形成の際のアルカリ金属等による材料劣化を防ぐことができる。
【0029】
なお、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではない。例えば、本発明の検出器の検出対象は光に限定されず、X線やγ線等の放射線や荷電粒子を検出対象としてもよい。
【0030】
図7には、本発明の変形例に係る放射線検出器101の内部構成を示している。この放射線検出器101は、窓部6の内面に光電面7を有さない点で光検出器1と異なっている。放射線検出器101に対して窓部6から放射線が入射すると放射線は筐体2内のガスによって光電変換される。そして、変換された電子は2段の平板電極3A,3Bを通過しながら電子増倍領域(図7中に点線で示す)において増倍されて陽極5で検出される。或いは、放射線検出器101の平板電極3Aの窓部6側の面に金(Au)や銅(Cu)から成る金属カソード16を形成し、入射放射線をこの金属カソード16で吸収させ、その結果金属カソード16から放出される蛍光X線をガス中で光電変換させてもよい。
【0031】
また、光検出器1における2段の平板電極3A,3Bの貫通孔8A,8Bの配置は次のように変更されても良い。すなわち、図8に示すように、複数の貫通孔8Aと複数の貫通孔8Bとは窓部6側の平板電極3Aの表面9Aから見て千鳥配置されていてもよい。この場合は、1つの貫通孔8Aが、X軸方向からY軸方向に傾斜する方向に隣り合った2つの貫通孔8Bの中心に配置されている。逆に言えば、1つの貫通孔8Bが、X軸方向からY軸方向に傾斜する方向に隣り合った2つの貫通孔8Aの中心に配置されている。この場合、平板電極3Aの表面9A全体においてその貫通孔8Aを通過してイオンがフィードバックすることを効果的に防止することができる。また、図9に示すように、図4の配置に加えて、貫通孔8AをX軸方向に隣り合う2つの貫通孔8Bの中心にさらに配置してもよい。同様に、図4の配置に加えて、貫通孔8BをX軸方向に隣り合う2つの貫通孔8Aの中心にさらに配置してもよい。このような配置によれば、イオンのフィードバックを低減しながら、検出感度をより一層高めることができる。
【符号の説明】
【0032】
1…光検出器、3A…第1の平板電極、3B…第2の平板電極、5…陽極、8A,8B…貫通孔、9A,9B…表面、10A,10B…縁部、13,14…支持部材、101…放射線検出器。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスによる電子増倍作用を利用した検出器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、微細加工によって製造されるガス検出器(MPGD:Micro Patterned Gas Detector)の研究開発が進められている。このガス検出器は、ガス中における電子増倍作用を用いて光、X線等の放射線や荷電粒子等を検出するものであり、ガスを利用することにより、装置内部が大気圧であり高真空容器を必要としない、電子増倍構造が簡略化される、大面積で薄型の検出器が安価に製造できる等の利点がある。このような利点を生かして素粒子物理学実験や宇宙放射線計測などの研究分野等で開発が精力的に進められている。例えば、この種の検出器として、グリッド状の薄い電気伝導性の板である陰極と陽極とをチャンバー内に有する検出器が知られている(下記特許文献1参照)。この検出器では、陰極と陽極との間のギャップに電界が形成されることにより、電子増倍作用が引き起こされ、チャンバー内に入射した電離粒子が検出される。また、メッシュ構造の2段の電極を互いの孔の位置がずれるように配置した光検出器も知られている(下記非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表平11−513530号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】F. Jeanneau et al., “Ion back-flow gating in a micromegas device”, NuclearInstruments and Methods in Physics Research A 623 (2010) pp.94-96
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した従来の検出器では、電子増倍作用によって生じたイオンが電子増倍領域から上流側にフィードバックしてしまう傾向にあった。そのため、フィードバックしたイオンにより、検出器の検出感度が劣化してしまう場合があった。
【0006】
そこで、本発明は、かかる課題に鑑みて為されたものであり、イオンのフィードバックを低減して検出感度を維持することが可能な検出器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の一側面に係る検出器は、ガスによる電子増倍作用を利用した検出器において、複数の貫通孔が表面上の一方向に沿って規則的に設けられ、ガス中に電子増倍領域を生成するための電界を形成する第1の平板電極と、第1の平板電極に平行に配置され、複数の貫通孔が一方向に沿って規則的に設けられ、ガス中に電子増倍領域を生成するための電界を形成する第2の平板電極と、第1の平板電極の反対側で第2の平板電極に対向して配置され、電子増倍領域によって増倍された電子を取り出す陽極とを備え、第1の平板電極の貫通孔の幅は、第2の平板電極の貫通孔の幅より狭く、第1の平板電極の貫通孔の中心位置は、第2の平板電極の貫通孔の中心位置に対して、一方向に沿ってずれている。
【0008】
このような検出器によれば、第1の平板電極、第2の平板電極、及び陽極に必要な電圧を印加することにより、第1の平板電極と第2の平板電極との間の間隙、及び第2の平板電極と陽極との間の間隙に電界が形成される結果、それらの間隙において電子増倍領域が形成される。第1の平板電極に向けて光や放射線等に伴って発生した電子が入射すると、電子が第1及び第2の平板電極の貫通孔を通過しながら電子増倍領域において増倍されて陽極で取り出されることにより、光や放射線等が検出される。その際、第2の平板電極の貫通孔の付近から第1の平板電極に向かってフィードバックするイオンは第1の平板電極に吸収されやすい構造になっているので、イオンが第1の平板電極の貫通孔を通過してフィードバックすることを防止することができる。それと同時に、第2の平板電極から陽極に向けて増倍電子を効率よく通過させることができる。これにより、電子増倍率を高めつつイオンフィードバックに起因する検出感度の低下を防止することができる。
【0009】
ここで、第2の平板電極の貫通孔は、第1の平板電極の一方向に隣り合う2つの貫通孔の中心に配置されている、ことが好適である。こうすれば、イオンが第1の平板電極の貫通孔を通過してフィードバックすることを一層防止することができる。
【0010】
また、第1の平板電極の貫通孔と第2の平板電極の貫通孔とは、第1の平板電極の表面から見て千鳥配置されている、ことも好適である。この場合、第1の平板電極の表面全体においてその貫通孔を通過してイオンがフィードバックすることを防止することができる。
【0011】
さらに、第1又は第2の平板電極の貫通孔は、第2又は第1の平板電極の一方向に垂直な方向に隣り合う2つの貫通孔の中心にさらに配置されている、ことも好適である。かかる構成を採れば、イオンのフィードバックを低減しながら、検出感度も高めることができる。
【0012】
またさらに、第1及び第2の平板電極は、表面に沿った外側に中心部より肉厚が厚く形成された縁部を有し、縁部に取り付けられた支持部材によって支持されている、ことも好適である。この場合、第1及び第2の平板電極の機械的強度を高めることができ、印加電界によって接触不良を起こすことも防止できる。
【0013】
さらにまた、第1及び第2の平板電極は、金属平板にエッチング加工が施されることにより、縁部及び貫通孔が形成される、ことも好適である。かかる構成により、平板電極の加工が容易となり、製造効率を高めることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、イオンのフィードバックを低減して検出感度を維持することが可能な検出器を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の好適な一実施形態に係る光検出器を示す斜視図である。
【図2】図1の光検出器の内部構成を示す一部破断斜視図である。
【図3】図1の光検出器の内部構成を示す断面図である。
【図4】図1の平板電極の貫通孔を窓部側から見た平面図である。
【図5】図1の光検出器における入射電子とそれに伴って発生するイオンの軌道のシミュレーション結果を示す図である。
【図6】図1の光検出器と比較例におけるイオンフィードバック率及びゲインのシミュレーション結果を示すグラフである。
【図7】本発明の変形例に係る放射線検出器の内部構成を示す断面図である。
【図8】本発明の変形例に係る平板電極の貫通孔を窓部側から見た平面図である。
【図9】本発明の変形例に係る平板電極の貫通孔を窓部側から見た平面図である。
【図10】本発明の比較例に係る光検出器における入射電子とそれに伴って発生するイオンの軌道のシミュレーション結果を示す図である。
【図11】本発明の比較例に係る光検出器における入射電子とそれに伴って発生するイオンの軌道のシミュレーション結果を示す図である。
【図12】本発明の比較例に係る光検出器における入射電子とそれに伴って発生するイオンの軌道のシミュレーション結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る検出器の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明においては同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0017】
図1は、本発明の好適な一実施形態に係る光検出器を示す斜視図、図2は、図1の光検出器の内部構成を示す一部破断斜視図、図3は、図1の光検出器の内部構成を示す断面図である。図1に示す光検出器1は、ガスによる電子増倍作用を利用して外部から入射する光を検出する装置である。この光検出器1は、アルゴン、キセノン等の希ガス、或いは、希ガスとクエンチングガスの混合ガスが封入された直方体状の筐体2の内部に、2段の電子増倍領域生成用の平板電極3A,3B、及び増倍電子の取り出し用の平板電極である陽極5を収容して構成されている。この筐体2の一端面には、外部からの入射光を内部に透過する窓部6が形成されており、筐体2の内部には、窓部6側から順に平板電極3A、平板電極3B、及び陽極5が配置されている。さらに、この窓部6の内面には、窓部6に入射する光を電子に変換して筐体2の内部に向けて放出する透過型の光電面7が形成されている。
【0018】
平板電極3A,3Bのうちの1段目の平板電極3Aは、複数の円形の貫通孔8Aを有する金属板であり、窓部6に対して所定の距離を空けて略平行になるように配置されている。平板電極3A,3Bのうちの2段目の平板電極3Bは、複数の円形の貫通孔8Bを有する金属板であり、1段目の平板電極3Aに対して窓部6の反対側に所定の距離を空けて略平行になるように配置されている。陽極5は、この2段目の平板電極3Bに対して第1段目の平板電極3Aの反対側に所定の距離を空けて対向するように配置されている。
【0019】
これらの平板電極3A,3Bには、それぞれ、窓部6側の表面9A,9Bに沿った外側において、中心部より肉厚が厚い縁部10A,10Bが形成されている。詳細には、この縁部10A,10Bは、それらの窓部6側の表面11A,11Bが中心部側の表面9A,9Bから窓部6側に盛り上がるように形成され、それらの窓部6の反対側の裏面12A,12Bが中心部側と面一となるように形成されている。そして、平板電極3Aと平板電極3Bとは、縁部10Aの裏面12Aと縁部10Bの表面11Bとの間に取り付けられた支持部材13によって、筐体2内で互いに所定の距離ほど離れた状態で支持されている。同様に、平板電極3Bと陽極5とは、縁部10Bの裏面12Bと陽極5との間に取り付けられた支持部材14によって、筐体2内で互いに所定の距離ほど離れた状態で支持されている。これらの支持部材13,14は、例えばセラミック等の絶縁体によって構成される。
【0020】
なお、平板電極3A,3Bの縁部10A,10Bは、表面9A,9B上の一方向に沿った両端部に形成されており、それぞれに支持部材13,14が設けられている。この縁部10A,10Bと同様な支持構造は、平板電極3A,3Bの表面9A,9B上の中央部にその一部の肉厚を厚くすることによってさらに設けられていてもよい。また、縁部10A,10Bは、窓部6の反対側に盛り上がるように形成されていてもよい。このような構造の平板電極3A,3Bを加工する際には、まず、平板状の金属プレートにマスク材を貼り付けた状態でエッチング加工を施すことにより、縁部10A,10Bの表面11A,11Bから窪んだ表面9A,9Bを形成する。その後、平板電極3A,3Bの表面9A,9Bの反対側の裏面12A,12Bにマスク材を貼り付けた状態でエッチング加工を施すことにより、貫通孔8A,8Bを形成する。この際、平板電極3Aと平板電極3Aとでマスク材のパターンを変更することにより、貫通孔8A,8Bを、その大きさや配置が異なるように形成させる。
【0021】
次に、平板電極3A,3Bの貫通孔8A,8Bの位置関係について詳細に説明する。図4は、平板電極3A,3Bの貫通孔8A,8Bを窓部6側から見た平面図である。同図においては、窓部6に沿った一方向をX軸方向とし、、窓部6に沿ったX軸方向に垂直な方向をY軸方向とし、X軸及びY軸に垂直であって窓部6に向かう方向をZ方向としている。
【0022】
同図に示すように、複数の貫通孔8Aは、窓部6に沿って同一の直径(幅)W1の断面を有しており、X軸方向及びY軸方向に沿って中心点が一定距離を空けて規則的に並ぶように、2次元的に配置されている。これに対して、複数の貫通孔8Bは、貫通孔8Aの直径W1よりも広い同一の直径(幅)W2の断面を有しており、X軸方向及びY軸方向に沿って中心点が一定距離を空けて規則的に並ぶように、2次元的に配置されている。このような貫通孔8Aと貫通孔8Bとは、互いの中心位置がY軸方向に沿ってずれるように形成されている。すなわち、全ての貫通孔8Aの中心位置は、Y軸方向に隣り合う2つの貫通孔8Bの中心に配置されている。逆に言えば、全ての貫通孔8Bの中心位置は、Y軸方向に隣り合う2つの貫通孔8Aの中心に配置されている。このような貫通孔8A,8Bは、Z軸方向に沿って一定の直径を有していてもよいし、直径が徐々に変化するように、つまり、窓部6側或いはその反対側から見てテーパ状に形成されていてもよい。貫通孔8A,8Bの直径が徐々に変化している場合には、貫通孔8Aの窓部6側の開口の直径が、貫通孔8Bの窓部6側の開口の直径に比較して狭くされる。
【0023】
以上説明した光検出器1によれば、平板電極3A、平板電極3B、及び陽極5に対して給電用ピン15から所定の電位が与えられることにより、平板電極3Aと平板電極3Bとの間の貫通孔8Aの直下の領域に強電界が生成されてガス中に電子増倍領域が形成されるとともに、平板電極3Bと陽極5との間の貫通孔8Bの直下の領域に強電界が生成されてガス中に電子増倍領域が形成される。このような状態で窓部6から光が入射すると、窓部6の内側の光電面7によって変換された電子が平板電極3Aに入射する。そうすると、入射電子は平板電極3Aの貫通孔8Aを通過した後に平板電極3Aの直下の電子増倍領域において増倍されて平板電極3Bに入射する。その後、増倍電子が平板電極3Bの直下の電子増倍領域においてさらに増倍されて陽極5で取り出されることにより、窓部6に入射する入射光が高感度で検出される。その際、各電子増倍領域においては電子増倍に伴って必然的にイオンが発生し、電子増倍領域の電界によって窓部6に向かう方向にフィードバックする。
【0024】
ここで、平板電極3A,3Bの貫通孔8A,8Bの直下の電子増倍領域付近から平板電極3Aに向かってフィードバックするイオンが平板電極3Aに吸収されやすい構造になっているので、イオンが平板電極3Aの貫通孔8Aを通過してフィードバックすることを防止することができる。すなわち、平板電極3Aの貫通孔8Aの直下では、電子は電界に垂直な方向に揺らぎながら進行するので、電子増倍領域は平板電極3Bに近づくにつれて電界に垂直な方向に拡がる。このような電子増倍領域で発生したイオンは、電界中の電気力線に沿ってフィードバックするので、平板電極3Aの裏面12Aで吸収されやすくなる。また、平板電極3Bの直下の電子増倍領域で発生したイオンのうち貫通孔8Bを通過したイオンも、貫通孔8Aの大きさが貫通孔8Bよりも小さく、かつ貫通孔8A,8Bの位置がずれているために平板電極3Aの裏面12Aで吸収されやすくなる。また、それと同時に、貫通孔8A,8Bの大きさの関係によって、平板電極3Bから陽極5に向けて増倍電子を効率よく通過させることもできる。これにより、電子増倍率を高めつつイオンフィードバックに起因した光電面7の劣化に伴った検出感度の低下を防止することができ、S/Nが良く長期安定動作が可能なガス増倍型検出器が実現できる。結果として、従来のX線や荷電粒子などでガスを直接電離する領域しか感度を持たなかったガス検出器に、紫外から可視光用の光電面を組み合わせることが可能となり、薄型で安価な紫外〜可視光用の微弱光検出器を実現できる。また、平板電極3Bの貫通孔8Bは平板電極3Aの隣り合う2つの貫通孔8Aの中心に配置されているので、イオンが平板電極3Aの貫通孔8Aを通過してフィードバックすることを一層防止することができる。
【0025】
図5は、光検出器1における入射電子とそれに伴って発生するイオンの軌道のシミュレーション結果を示す図である。この図では、図4のY−Z平面上における電子軌道Oe及びイオン軌道Oiを示しており、平板電極3A,3Bの厚さ50μm、貫通孔8Aの窓部6側の開口直径80μm、貫通孔8Aの窓部6と反対側の開口直径120μm、貫通孔8Bの開口直径200μm、平板電極3Aと平板電極3Bとの距離300μm、平板電極3Bと陽極5との距離200μmを想定している。このように、1つの入射電子によって平板電極3Aと陽極5の間の電子増倍領域で発生するイオンは平板電極3Aに向けて進行し、そのほとんどが平板電極3Aの裏面12Aに吸収されることが分かる。この場合のイオンフィードバック率は2.2×10-5であり、ゲインは3.7×104であった。
【0026】
図10〜図12は、本実施形態に対する比較例において入射電子とそれに伴って発生するイオンの軌道のシミュレーション結果を示す図である。図10には、1段の電子増倍領域生成用の平板電極903のみを有する光検出器901aにおけるシミュレーション結果を示しており、平板電極903の直下の電子増倍領域で発生したイオンの多くが光電面7側にフィードバックしていることを表している。この場合のイオンフィードバック率は7.0×10-2であり、ゲインは5.0×103であった。1段の構造では、電子増倍領域生成用電極と陽極との間に印加できる電圧に限界があることから電子増倍率の向上は期待できない。また、図11には、同一の大きさの貫通孔を有する2段の平板電極903を互いの貫通孔の中心がZ軸方向に沿って重なるように配置された光検出器901bにおけるシミュレーション結果を示しており、2段目の平板電極903の直下の電子増倍領域で発生したイオンの多くが1段目の貫通孔を通過して光電面7側にフィードバックしていることを表している。この場合のイオンフィードバック率は1×10-2であり、ゲインは約1.5×104であった。また、図12には、同一の大きさの貫通孔を有する2段の平板電極903A,903Bを互いの貫通孔の中心がY軸方向にずれるように配置された光検出器901cにおけるシミュレーション結果を示しており、1段目の平板電極903Aの直下の電子増倍領域で発生したイオンのフィードバックはある程度低減されているが、ゲインが本実施形態に比較して低下している。貫通孔の大きさが同じだと2段目の電子増倍領域への収集効率が低く十分な電子増倍率が得られない。この場合のイオンフィードバック率は4.1×10-4であり、ゲインは約9.3×103であった。図6には、本実施形態に係る光検出器1と比較例1,2,3に係る光検出器901a,901b,901cにおけるイオンフィードバック率及びゲインのシミュレーション結果を示す。
【0027】
また、本実施形態における1段目の平板電極3Aと2段目の平板電極3Bとの間隔は例えば300μmであり、2段目の平板電極3Bと陽極5との間隔は例えば200μmであり、従来の2段構造の電子増倍領域生成用の電極を有する検出器(例えば、「“Ion back-flow gating in a micromegas device”, Nuclear Instrumentsand Methods in Physics Research A 623 (2010) pp.94-96」記載の検出器)に比較すると大きくなっており、特に平板電極3Aと平板電極3Bとの間隔が大きくなっている。このように電極間距離を大きくすることにより、2つの平板電極3A,3Bの間の電子増倍領域を平板電極3Bの近傍で大きく拡げることができる。その結果、平板電極3A,3Bの間の電子増倍領域で生じたイオンが平板電極3Aに吸収されやすくなり、イオンフィードバック低減の効果をさらに顕著にすることができる。
【0028】
さらに、光検出器1の平板電極3A,3Bは、エッチングによって縁部10A,10B及び貫通孔8A,8Bを加工しているので、平板電極の製造の効率化が図れる。さらに、縁部10A,10Bを支持部材13,14によって支持する構造を採用しているので、装置の組み立てが容易となり、電極間に印加する強電界によって電極間で接触不良を起こすことも防止できる。特に、支持部材13,14の材料としてセラミック等の絶縁体を使用しているので、光電面7の形成の際のアルカリ金属等による材料劣化を防ぐことができる。
【0029】
なお、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではない。例えば、本発明の検出器の検出対象は光に限定されず、X線やγ線等の放射線や荷電粒子を検出対象としてもよい。
【0030】
図7には、本発明の変形例に係る放射線検出器101の内部構成を示している。この放射線検出器101は、窓部6の内面に光電面7を有さない点で光検出器1と異なっている。放射線検出器101に対して窓部6から放射線が入射すると放射線は筐体2内のガスによって光電変換される。そして、変換された電子は2段の平板電極3A,3Bを通過しながら電子増倍領域(図7中に点線で示す)において増倍されて陽極5で検出される。或いは、放射線検出器101の平板電極3Aの窓部6側の面に金(Au)や銅(Cu)から成る金属カソード16を形成し、入射放射線をこの金属カソード16で吸収させ、その結果金属カソード16から放出される蛍光X線をガス中で光電変換させてもよい。
【0031】
また、光検出器1における2段の平板電極3A,3Bの貫通孔8A,8Bの配置は次のように変更されても良い。すなわち、図8に示すように、複数の貫通孔8Aと複数の貫通孔8Bとは窓部6側の平板電極3Aの表面9Aから見て千鳥配置されていてもよい。この場合は、1つの貫通孔8Aが、X軸方向からY軸方向に傾斜する方向に隣り合った2つの貫通孔8Bの中心に配置されている。逆に言えば、1つの貫通孔8Bが、X軸方向からY軸方向に傾斜する方向に隣り合った2つの貫通孔8Aの中心に配置されている。この場合、平板電極3Aの表面9A全体においてその貫通孔8Aを通過してイオンがフィードバックすることを効果的に防止することができる。また、図9に示すように、図4の配置に加えて、貫通孔8AをX軸方向に隣り合う2つの貫通孔8Bの中心にさらに配置してもよい。同様に、図4の配置に加えて、貫通孔8BをX軸方向に隣り合う2つの貫通孔8Aの中心にさらに配置してもよい。このような配置によれば、イオンのフィードバックを低減しながら、検出感度をより一層高めることができる。
【符号の説明】
【0032】
1…光検出器、3A…第1の平板電極、3B…第2の平板電極、5…陽極、8A,8B…貫通孔、9A,9B…表面、10A,10B…縁部、13,14…支持部材、101…放射線検出器。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスによる電子増倍作用を利用した検出器において、
複数の貫通孔が表面上の一方向に沿って規則的に設けられ、前記ガス中に電子増倍領域を生成するための電界を形成する第1の平板電極と、
前記第1の平板電極に平行に配置され、複数の貫通孔が前記一方向に沿って規則的に設けられ、前記ガス中に電子増倍領域を生成するための電界を形成する第2の平板電極と、
前記第1の平板電極の反対側で前記第2の平板電極に対向して配置され、前記電子増倍領域によって増倍された電子を取り出す陽極とを備え、
前記第1の平板電極の前記貫通孔の幅は、前記第2の平板電極の前記貫通孔の幅より狭く、
前記第1の平板電極の前記貫通孔の中心位置は、前記第2の平板電極の前記貫通孔の中心位置に対して、前記一方向に沿ってずれている、
ことを特徴とする検出器。
【請求項2】
前記第2の平板電極の前記貫通孔は、前記第1の平板電極の前記一方向に隣り合う2つの前記貫通孔の中心に配置されている、
ことを特徴とする請求項1記載の検出器。
【請求項3】
前記第1の平板電極の前記貫通孔と前記第2の平板電極の前記貫通孔とは、前記第1の平板電極の表面から見て千鳥配置されている、
ことを特徴とする請求項2記載の検出器。
【請求項4】
前記第1又は第2の平板電極の前記貫通孔は、前記第2又は第1の平板電極の前記一方向に垂直な方向に隣り合う2つの前記貫通孔の中心にさらに配置されている、
ことを特徴とする請求項2記載の検出器。
【請求項5】
前記第1及び第2の平板電極は、表面に沿った外側に中心部より肉厚が厚く形成された縁部を有し、前記縁部に取り付けられた支持部材によって支持されている、
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の検出器。
【請求項6】
前記第1及び第2の平板電極は、金属平板にエッチング加工が施されることにより、前記縁部及び前記貫通孔が形成される、
ことを特徴とする請求項5記載の検出器。
【請求項1】
ガスによる電子増倍作用を利用した検出器において、
複数の貫通孔が表面上の一方向に沿って規則的に設けられ、前記ガス中に電子増倍領域を生成するための電界を形成する第1の平板電極と、
前記第1の平板電極に平行に配置され、複数の貫通孔が前記一方向に沿って規則的に設けられ、前記ガス中に電子増倍領域を生成するための電界を形成する第2の平板電極と、
前記第1の平板電極の反対側で前記第2の平板電極に対向して配置され、前記電子増倍領域によって増倍された電子を取り出す陽極とを備え、
前記第1の平板電極の前記貫通孔の幅は、前記第2の平板電極の前記貫通孔の幅より狭く、
前記第1の平板電極の前記貫通孔の中心位置は、前記第2の平板電極の前記貫通孔の中心位置に対して、前記一方向に沿ってずれている、
ことを特徴とする検出器。
【請求項2】
前記第2の平板電極の前記貫通孔は、前記第1の平板電極の前記一方向に隣り合う2つの前記貫通孔の中心に配置されている、
ことを特徴とする請求項1記載の検出器。
【請求項3】
前記第1の平板電極の前記貫通孔と前記第2の平板電極の前記貫通孔とは、前記第1の平板電極の表面から見て千鳥配置されている、
ことを特徴とする請求項2記載の検出器。
【請求項4】
前記第1又は第2の平板電極の前記貫通孔は、前記第2又は第1の平板電極の前記一方向に垂直な方向に隣り合う2つの前記貫通孔の中心にさらに配置されている、
ことを特徴とする請求項2記載の検出器。
【請求項5】
前記第1及び第2の平板電極は、表面に沿った外側に中心部より肉厚が厚く形成された縁部を有し、前記縁部に取り付けられた支持部材によって支持されている、
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の検出器。
【請求項6】
前記第1及び第2の平板電極は、金属平板にエッチング加工が施されることにより、前記縁部及び前記貫通孔が形成される、
ことを特徴とする請求項5記載の検出器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2013−44732(P2013−44732A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−185208(P2011−185208)
【出願日】平成23年8月26日(2011.8.26)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)独立行政法人科学技術振興機構、先端計測分析技術・機器開発事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年8月26日(2011.8.26)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)独立行政法人科学技術振興機構、先端計測分析技術・機器開発事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】
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