説明

検査チップ、被検物質検出装置および被検物質の特異的検出方法

【課題】
被検物質の検出感度が向上した、検査チップ、被検物質検出装置および被検物質の特異的検出方法を提供することを目的とする。
【解決手段】
光励起により電子を生じる修飾物質で修飾された被検物質を検出するための検査チップであって、半導体層上に形成された金属層を備える半導体電極部と、被検物質を捕捉する前記金属層上に固定されたプローブと、導電層を備える対極部とを備えるものである。また、光励起により電子を生じる修飾物質で修飾された被検物質を検出する検出装置であって、上記検査チップを、受入可能に構成された検査チップ受入部と、前記検査チップ受入部に挿入された前記検査チップ内の被検物質に修飾している修飾物質を光励起する光源と、前記光源での光励起により、修飾物質で修飾された被検物質から流れる電流を測定する電流測定部とを備えるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検物質を修飾している修飾物質の光励起により生じる電流を用いて、被検物質を検出する検査チップ、被検物質検出装置および被検物質の特異的検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
疾病の臨床検査や診断では、生体試料中に含まれる疾病由来の遺伝子やタンパク質などを、遺伝子検出法や免疫学的検出法で検出している。具体的には、イムノクロマト法、ラテックス凝集法、酵素免疫法、化学発光免疫法および遺伝子増幅PCR法などが挙げられる。しかしながら、これらの検出方法は簡易性、迅速性、およびコストのいずれかの観点から、改善の余地がある。
そこで、増感色素の光励起により生じる電流を、被検物質の検出に利用する方法が提案されている(例えば特許文献1参照)。この方法はまず、電極上に半導体層を形成し、この半導体層上に被検物質と結合可能なプローブを固定する。次に、増感色素で修飾された被検物質をプローブ物質で捕捉した後、増感色素を励起させる光を、被検物質を修飾している増感色素に照射する。この結果、被検物質を修飾している増感色素から電子が発生し、発生した電子が半導体層に受容されることに起因して生じる電流を検出する。ここではシランカップリング剤などの架橋剤を用いて、プローブを半導体層上に固定させている。
しかしながら、シランカップリング剤は導電性が低く、電流の検出効率を低下させてしまうため、被検物質の検出感度が低いという問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2007/037341号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は前述の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、被検物質の検出感度が向上した、検査チップ、被検物質検出装置および被検物質の特異的検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1の局面による検査チップは、光励起により電子を生じる修飾物質で修飾された被検物質を検出するための検査チップであって、半導体層上に形成された金属層を備える半導体電極部と、被検物質を捕捉する前記金属層上に固定されたプローブと、導電層を備える対極部とを備えている。
【0006】
本発明の第1の局面による検査チップにおいて、前記金属層は電解液によって溶解される金属からなることが好ましい。なお、電解液はゲル状あるいは固体の電解質媒体であってもよい。
【0007】
本発明の第1の局面による検査チップにおいて、前記電解液としてはヨウ素またはヨウ化物を含むものが好ましい。
【0008】
本発明の第1の局面による検査チップにおいて、前記金属層は前記プローブと化学吸着するものが好ましい。
【0009】
本発明の第1の局面による検査チップにおいて、前記チオール基が化学吸着する金属としては、金、白金、銀、パラジウム、ニッケル、水銀、ロジウム、ルテニウム、銅またはそれらの合金などが例示できる。これらのうち、電解質媒体中での安定性や、チオール基との反応性を勘案した場合、好ましいのは金である。
【0010】
本発明の第1の局面による検査チップにおいて、前記プローブは前記金属層と化学吸着する結合基を有すればよく、チオール基、ヒドロキシル基、燐酸基、カルボキシル基、カルボニル基、アルデヒド基、スルホン酸基、アミノ基の中から選ばれた少なくとも1つの結合基を有すればよい。この中で金との反応性を勘案した場合、特に好ましいのはチオール基である。
【0011】
本発明の第1の局面による検査チップにおいて、前記金属層は、蒸着、スパッタリング、インプリント、スクリーン印刷、めっき処理またはゾルゲル法などの処理により、前記半導体層上に形成される。特に半導体層上に薄膜を形成する際の簡便性、膜厚の制御性などを勘案した場合、特に好ましいのは蒸着またはスパッタリングである。
【0012】
本発明の第1の局面による検査チップにおいて、前記プローブは核酸、タンパク質、またはペプチドが例示できる。
【0013】
本発明の第2の局面による検出装置は、光励起により電子を生じる修飾物質で修飾された被検物質を検出するための検査チップであって、半導体層上に形成された金属層を備える半導体電極部と、前記金属層上に固定された、被検物質を捕捉するプローブと、導電層を備える対極部とを備える検査チップを、受入可能に構成された検査チップ受入部と、前記検査チップ受入部に挿入された前記検査チップ内の被検物質に修飾している修飾物質を光励起する光源と、前記光源での光励起により修飾物質で修飾された被検物質から流れる電流を測定する電流測定部と、を備えたものである。
【0014】
本発明の第2の局面による検出装置において、前記光源は、被検物質に修飾している修飾物質を励起する波長の光を発生するものである。
【0015】
本発明の第3の局面による被検物質の特異的検出方法は、光励起により電子を生じる修飾物質で修飾された被検物質を検出するための検査チップであって、半導体層上に形成された金属層を備える半導体電極部と、被検物質を捕捉する前記金属層上に固定されたプローブと、導電層を備える対極部とを備える検査チップに被検物質を含む試料を適用することにより、前記金属層上に固定された前記プローブで被検物質を捕捉する工程と、被検物質に修飾している修飾物質に修飾物質を励起する光を照射する工程と、励起された修飾物質から生じる電流を検出する工程と、を含む被検物質の特異的検出方法である。
【0016】
本発明の第3の局面による被検物質の特異的検出方法において、前記半導体電極部と前記対極部との間に電流を流すための電解質媒体を添加する工程をさらに含むものである。
【0017】
本発明の第3の局面による被検物質の特異的検出方法においては、前記電解質媒体は、前記金属層を溶解させる電解質と有機溶媒とを含むものである。
また前記電解質としては、ヨウ素またはヨウ化物が好ましい。ヨウ素またはヨウ化物は、電解質と金属層を溶解させる物質(エッチャント)とを兼用することができる。このため、エッチャントと電解質とが別々の物質で構成される場合と比較して、電極部との不要な反応が起こりにくくなる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の検査チップ、被検物質検出装置または被検物質の特異的検出方法を用いれば、被検物質の検出感度を高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】この発明の一実施形態である検出装置1の斜視図である。
【図2】検出装置1のブロック図である。
【図3】検出装置1で使用する検査チップ4の斜視図である。
【図4】検査チップ4の半導体電極部15を有する上部プレートを示す斜視図である。
【図5】検査チップ4の対極部16を有する下部プレートを示す斜視図である。
【図6】上基板13をはずしたときの検査チップ4の斜視図である。
【図7】検査チップ4の構成を示す断面図である。
【図8】検査チップ4の半導体電極部15および対極部18の構成を示す模式図である。
【図9】ユーザーによる検体を検査チップ4に注入する方法を示すフローチャートである。
【図10】検出装置1の検出動作手順を示すフローチャートである。
【図11】ハイブリダイゼーション反応時と電解液添加時における半導体電極部15の模式図である。
【図12】実施例1および比較例1の測定により得られた光電流値を示すグラフである。
【図13】実施例2および比較例2で検出された光電流値のグラフである。
【図14】実施例2および比較例2において得られたデータのうち、修飾物質由来の電流値を示したグラフである。
【図15】実施例3および比較例3、比較例4において検出された光電流値のグラフである。
【図16】実施例4、比較例5および比較例6において検出された光電流値のグラフである。
【図17】実施例5において検出された各膜厚におけるS/N比のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面に基づき、本発明の最良の実施形態について説明するが、本発明は後述する実施形態に限定して解釈されるものではない。
【0021】
〔検出装置の構成〕
図1は本発明の一実施形態に係る検出装置を示す斜視図である。この検出装置は、生体細胞から採取され、または人工的に合成された、核酸やタンパク質、ペプチド等の特異的結合性を有する被検物質を検出するものである。この検出装置1は、例えば子宮頸癌の原因ウィルスであるヒトパピローマウィルス(以下、HPVという)のmRNAを検体試料中から検出することができる。
本実施形態の検出装置1は、検査チップ4が挿入されるチップ受入部3と、検出結果を表示するディスプレイ2とを備えている。また、検査チップ4は、試料注入口11を備えている。
この検査チップ4は、使い捨てのHPV検出用のチップであり、検出装置1のチップ受入部3に挿入される。検査チップ4は、試料注入口11から検体試料を注入することで、光励起により電子を生じる修飾物質で修飾されたHPVのmRNAを捕捉する機能を有している。
【0022】
図2は検出装置1の構成を示すブロック図である。検出装置1は、光源5と、電流計6と、電源32と、A/D変換部7と、制御部8と、ディスプレイ2とを備えている。
光源5は、検査チップ4で捕捉されたHPVのmRNAを修飾している修飾物質に光を照射し、修飾物質を励起させる。電流計6は、励起された修飾物質から生じる電子に起因して流れる電流を測定する。電源32は、検査チップ4に設けられた電極に対して所定の電位を印加する。A/D変換部7は、電流計6によって測定された電流値をデジタル変換する。制御部8は、CPU、ROMおよびRAM等から構成され、光源5、電流計6およびディスプレイ2の動作を制御する。また制御部8は、A/D変換部7でデジタル変換された電流値により、予め作成された電流値とHPV量の関係を示す検量線に基づき、検体試料中のHPV量を概算する。ディスプレイ2は、制御部8で概算された検体試料中のHPV量を表示する。
【0023】
〔検査チップ4の構成〕
この検出装置1で用いられる検査チップ4の構成について、図3〜図8を用いて説明する。
図3は、検査チップ4の斜視図である。検査チップ4は、下基板16と、下基板16の上方に設けられた上基板13と、下基板16と上基板13とに挟まれたシリコンゴム12とを備えている。また上基板13には、内部に連通する試料注入口11が設けられている。
【0024】
図4は、図3の検査チップ4を水平方向に90度右回転し、垂直方向に180度回転させた状態での上基板13の斜視図である。この上基板13の表面上には、半導体電極部15と、半導体電極部15に接続されている電極リード14とが形成されている。上基板13は二酸化ケイ素(SiO)で形成され、電極リード14は酸化インジウムスズ(ITO)とアンチモンドープ酸化スズ(ATO)の2層で形成されている。半導体電極部15については図8を用いて後述する。
【0025】
図5は、図3の検査チップ4を水平方向に90度右回転させた状態での下基板16の斜視図である。下基盤16の表面上には、対極部18と、対極部18に接続された電極リード17と、参照電極31と、参照電極31に接続された電極リード30とがそれぞれ形成されている。
下基板16は二酸化ケイ素(SiO)を主体とするガラスで形成され、対極部18、電極リード17、参照電極部31および電極リード30はそれぞれ白金で形成されている。
【0026】
図6は、図3の検査チップ4の上基板13を上方にはずしたときの検査チップ4の斜視図である。シリコンゴム12は、図6に示すように、下基板16上に対極部18および参照電極部31を囲むように配置されている。対極部18に接続している電極リード17および参照電極部31に接続している電極リード30は、シリコンゴム12の枠内から枠外に伸びている。この枠外に伸びた電極リード17および電極リード30は、電源32と接続している。
上基板13に設けられている試料注入口11は、上基板13を貫通する穴である。検体試料および後述する電解液は、この試料注入口11からシリコンゴム12の枠内に注入される。
【0027】
図7は、図3の検査チップ4のA−A断面構成を示す断面図である。図7に示すように、検査チップ4に含まれる上基板13と下基板16は、シリコンゴム12を介して配置されている。上基板13と下基板16との間には空間25が形成されている。この空間25を介して、上基板13上に形成されている半導体電極部15と、下基板16上に形成されている対極部18および参照電極部31(図示しない)とが対向している。この空間25には、試料注入口11を介して検体試料および後述する電解液が注入される。
図7に示すように、半導体電極部15に接続されている電極リード14は、上基板13に沿って空間25の外まで伸びており、対極部18に接続されている電極リード17および参照電極部31に接続されている電極リード30(図示しない)は、下基板16に沿って空間25の外まで伸びている。この電極リード14は電流計6に接続され、電極リード17および電極リード30は電源32に接続される。
【0028】
なお、本実施の形態では、上基板13の表面に半導体電極部15を形成し、下基板16の表面に対極部18と参照電極部31とを形成しているが、半導体電極部15、対極部18、参照電極部31の配置関係は、各電極が他の電極と接触せずにシリコンゴム12の枠内に配置されている限り、特に制限されない。例えば、同一基板上に、半導体電極部15と、対極部18と、参照電極部31とが配置されていても良い。
【0029】
ここで、図4に示す半導体電極部15について、さらに詳細な説明を行う。図8は半導体電極部15および対極部18の構成を示す模式図である。
半導体電極部15は、上基板13上に形成された導電層21と、導電層21上に形成された半導体層20と、半導体層20上に形成された金属層19とを備えている。対極部18は、下基板16上に形成されている。
半導体電極部15に含まれる金属層19上には、光励起により電子を生じる修飾物質22で修飾されたHPVのmRNA24を捕捉するためのプローブ23が固定されている。この修飾物質22はルテニウム錯体であり、mRNAとペプチド結合することによりmRNAを修飾している。
半導体電極部15に接続された電極リード14は電流計6に接続され、対極部18に接続された電極リード17および参照電極部31に接続された電極リード30は、電源32に接続される。電流計6は電源32と接続されており、この電流計6で半導体電極部15と対極部18との間を流れる電流を測定する。
半導体電極部15に含まれる導電層21は、スパッタリングで形成された酸化インジウムスズ(ITO)の層と、このITO層上にスパッタリングで形成されたアンチモンドープ酸化スズ(ATO)の層との2層からなる。半導体層20は、スパッタリングで形成された酸化チタン(TiO)の層からなる。金属層19は、蒸着で形成された金(Au)の層からなる。対極部18は、スパッタリングで形成された白金の層からなる。
プローブ23はチオール基を有しており、プローブ23のチオール基と、金属層19の金原子とが結合することによって、プローブ23は金属層19上に固定される。この固定は、プローブ23を分散させた水溶液に、金属層19を浸漬させることによって行われる。
【0030】
〔検出装置を用いた検出方法〕
上述の構成を有する検出装置1を用いた検出方法を図9〜図11を参照して説明する。図9はユーザーによる検体を検出チップ4に注入する方法を示すフローチャートである。図10は検出装置1の検出動作手順を示すフローチャートである。図11はハイブリダイゼーション時および電解液添加時における半導体電極部15の模式図である。
【0031】
図9のフローチャートより、ステップS1において、ユーザーは検体試料を検体チップ4の試料注入口11から注入する。この検体試料は、子宮頸部細胞からホモジナイズおよび抽出処理して精製したmRNAである。このステップS1によって、図11に示すように、金属層19上のプローブ23が、ハイブリダイゼーションによって、検体試料中のHPVのmRNA24を捕捉する。
【0032】
ステップS2で、ユーザーは、検査チップ4内の溶液を試料注入口11より排出し、ハイブリダイゼーション洗浄液で検査チップ4内を洗浄する。
【0033】
ステップS3において、ユーザーは、HPVのmRNA24と結合できる塩基配列を含む修飾物質22を試料注入口11から注入する。注入された修飾物質22はプローブ23で捕捉されたmRNA24を修飾する。
【0034】
ステップS4で、ユーザーは、検査チップ4内の溶液を試料注入口11より排出し、洗浄用緩衝液で検査チップ4内を洗浄する。
【0035】
ステップS5で、ユーザーは、試料注入口11から電解液を注入する。この電解液は、電解質としてヨウ素、支持電解質としてテトラプロピルアンモニウムヨーダイド、および溶媒として、アセトニトリルと炭酸エチレンが体積比で6:4に混合した有機溶媒を含んでいる。電解液を添加すると、電解液中に含まれるヨウ素が金属層19を溶解する。
この金属層19の溶解について、図11を用いて説明する。図11はハイブリダイゼーション時と電解液添加時における半導体電極部15の模式図である。
プローブ23は、プローブ23の有するチオール基(SH基)と金属層19の金原子とが共有結合することによって、金属層19上に固定されている。共有結合は強固な結合であるため、ステップS1のハイブリダイズさせる工程およびステップS2の洗浄を行う工程の際、プローブ23が金属層19から剥離するのを防ぐことができる。
電解液を添加すると、電解液中に含まれるヨウ素が金(Au)からなる金属層19を溶解させ、プローブ23は半導体層20上に配置される。これにより、光源5の光照射によって励起された修飾物質22から生じる電子は、効率よく半導体層20に供給される。
【0036】
図10は検出装置1の検出動作手順を示すフローチャートである。図9のフローをユーザーが行った後、ユーザーは図1に示す検出装置1のチップ挿入口3に検査チップ4を挿入し、ディスプレイ2上で測定開始を指示する。
【0037】
ステップS6で、検出装置1に挿入された検査チップ4の電極リード14,17、31は電流計6や電源32に接続される。そして、電源32は参照電極部31を基準として半導体電極部15に0Vの電位を印加する。
【0038】
ステップS7で、光源5は、HPVのmRNA24を修飾している修飾物質22にレーザー光を照射し、修飾物質22を励起させる。励起された修飾物質22は電子を発生し、発生した電子は半導体層20に輸送される。その結果、半導体電極部15と対極部18との間に電流が流れる。
【0039】
ステップS8では、ステップS5の電子移動に起因して、半導体電極部15と対極部18との間を流れる電流を電流計6で測定する。電流計6で測定された電流値は、修飾物質22の個数と相関性を有しているので、測定された電流値に基づき、HPVの定量測定を行うことができる。
【0040】
ステップS9では、まず、A/D変換部7によってデジタル変換された電流値が制御部8に入力される。次に、制御部8は、予め作成された電流値とHPV量の関係を示す検量線に基づき、デジタル変換された電流値から検体試料中のHPV量を概算する。そして、制御部8は、概算されたHPV量をディスプレイ2に表示するための検出結果画面を作成する。
【0041】
ステップS10では、制御部8によって作成された検出結果画面がディスプレイ2上に送信され、ディスプレイ2に表示される。
【0042】
なお、本実施形態では、被検物質はHPVのmRNA24であるが、被検物質としては、生体細胞から採取されたまたは人工的に合成された、核酸、タンパク質またはペプチドなども用いることができる。このとき、プローブ23としては、被検物質を捕捉する物質であればよく、例えば核酸、タンパク質またはペプチドなどを用いることができる。
【0043】
そして、本実施形態では、修飾物質22としてルテニウム錯体を用いたが、光源5により励起され、電子を発生する物質であれば特に限定されない。例えば、金属錯体、有機色素および量子ドットなどが挙げられる。具体的には、金属フタロシアニン、ルテニウム錯体、オスミウム錯体、鉄錯体、亜鉛錯体、9−フェニルキサンテン系色素、シアニン系色素、メタロシアニン系色素、キサンテン系色素、トリフェニルメタン系色素、アクリジン系色素、オキサジン系色素、クマリン系色素、メロシアニン系色素、ロダシアニン系色素、ポリメチン系色素、ポルフィリン系色素、フタロシアニン系色素、ローダミン系色素、キサンテン系色素、クロロフィル系色素、エオシン系色素、マーキュロクロム系色素、インジゴ系色素またはセレン化カドミウムなどが挙げられる。
【0044】
また、本実施形態では、光源5は、被検物質を修飾している物質を励起させる波長の光を発生するものであれば特に限定されない。例えば、レーザー、発光ダイオード、無機エレクトロルミネッセンス素子、有機エレクトロルミネッセンス素子、白色光源、光学フィルターを備えた白色光源などが挙げられる。
【0045】
本実施形態では、HPVのmRNA24をプローブ23で捕捉した後、修飾物質22でHPVのmRNA24を修飾する例を示したが、本発明はこれに限らず、HPVのmRNA24を修飾物質22で修飾し、プローブ23で捕捉することによって、HPVのmRNA24の検出をおこなってもよい。また、被検物質およびプローブが核酸であるとき、被検物質を捕捉したプローブと被検物質とで形成される二本鎖の核酸の間に修飾物質を結合させる、インターカレーションによる方法も挙げられる。
【0046】
なお、本実施形態では、金属層19として金を用いたが、金属層19はプローブ23と結合できる金属であればよい。好ましくはプローブ23と共有結合できる金属である。さらに好ましくはプローブ23のチオール基と結合できる金属である。例えば、金、白金、銀、パラジウム、ニッケル、水銀、ロジウム、ルテニウム、銅またはそれらの合金などが例示される。また本実施形態では、半導体層20上に金属層19を形成させる方法として、蒸着を用いたが、スパッタリング、インプリント、スクリーン印刷、めっき処理またはゾルゲル法などを用いて形成することもできる。
【0047】
本実施形態では、半導体層20として酸化チタン(TiO)を用いているが、修飾物質22の励起によって生じる電子を受容できるエネルギー準位を取り得る物質であればよい。例えば、シリコン、ゲルマニウム等の半導体、酸化チタン(TiO)、酸化インジウム(In23)、酸化錫(SnO2)、酸化亜鉛(ZnO)、カドミウムセレナイド(CdSe)、硫化カドミウム(CdS)、窒化ガリウム(GaN)、窒化チタン(TiN)、等の化合物半導体または有機物半導体などが挙げられる。
【0048】
そして本実施形態では、導電層21は酸化インジウムスズ(ITO)およびアンチモンドープ酸化スズ(ATO)で形成されたものを用いたが、導電性材料であれば特に限定されない。例えば、白金、金、銀、銅などの金属、導電性セラミックスまたは金属酸化物などが列挙できる。また半導体層20自体が導電性材料としても機能する場合には、導電層21は省略することができる。
【0049】
また本実施形態では、対極部18は白金で形成されたものを用いているが、導電性材料であれば特に限定されない。例えば、金、銀、銅などの金属、導電性セラミックスまたは金属酸化物などが挙げられる。
【0050】
上述の本実施形態では、金属層19を溶解させる物質および電解質としてヨウ素を用いたが、金属層19を溶解させる物質と電解質とが異なる物質であってもよい。
【0051】
なお本実施形態では、プローブ23は金属層19に直接結合させているが、プローブ23と金属層19との間に、エタンジチオールなどの架橋剤を存在させてもよい。
【0052】
また本実施形態における検出装置1および検査チップ4は、金属層19上に互いに分離された複数の領域毎に区分してプローブ23を固定し、光源5による光照射を各領域に対して個別に行ってもよい。これにより、複数の試料を1枚の半導体電極部15で測定することが可能となる。複数種類のプローブを領域毎に固定することによって、多検体評価、多項目測定を1つの検査チップ4で行うことができる。
【0053】
そして本実施形態では、電源32は参照電極部31を基準として半導体電極部15に0Vの電位を印加したが、この参照電極部31は省略することが可能である。この場合、電源32は対極部18を基準として半導体電極部15に0Vの電位を印加することになる。
【実施例】
【0054】
実施例1(半導体電極への金属層形成有無の検討)
〔半導体電極部の作製〕
半導体電極部は、基板に導電層と半導体層と金属層とを形成したものである。作製方法としては、まず、二酸化ケイ素(SiO)からなる基板上に、100nmの厚さの酸化インジウムスズ(ITO)およびアンチモンドープ酸化スズ(ATO)からなる導電層をスパッタリングにより形成した。この導電層上に、10nmの厚さの酸化チタン(TiO)からなる半導体層をスパッタリングにより形成した。この半導体層上に10nmの厚さの金薄膜からなる金属層を蒸着によって形成した。ここで、半導体層としてチタンやクロムを含む物質を用いることにより、半導体層と金属層との密着力が高まる。このようにして作製された電極を半導体電極部とした。この半導体電極部には、電流計と接続するための半導体電極リードが接続されている。
【0055】
〔対極部の作製〕
二酸化ケイ素(SiO)からなる基板上に、スパッタリングにより白金薄膜を200nmの厚さで導電層を形成したものを、対極部とした。この対極部には電流計と接続するための対極リードが接続されている。
【0056】
〔プローブの固定〕
半導体電極部の金属層上に、チオール基を有するDNA(24base)からなるプローブを固定させた。方法としては、まず、核酸を分散させた水溶液(核酸濃度10μM)に半導体電極部を18時間浸漬した。その後、超純水で洗浄し、30分間乾燥させた。これにより、核酸が有するチオール基と金属層の金原子との結合により、核酸が金属層上に固定される。
【0057】
〔被検物質の調製〕
被検物質として、プローブと相補的な塩基配列を含むDNAに修飾物質を結合させたものを作製した。修飾物質は、増感色素であるPulsar650(バイオサーチテクノロジーズジャパン社)を用いた。この増感色素はルテニウム錯体であり、このルテニウム錯体はDNAとペプチド結合によって結合している。
【0058】
〔被検物質とプローブとのハイブリダイゼーション〕
修飾物質で修飾された被検物質を半導体電極部上のプローブで捕捉した。方法としては、まず、半導体電極部の周囲に、隔壁となるようにシリコンゴム(厚さ0.2mm)を配置した。このシリコンゴムで形成された空間に、ハイブリダイゼーション用溶液を10μL注入した。ここで、ハイブリダイゼーション用溶液は、修飾物質で修飾されたDNA(濃度10μM)とハイブリダイゼーションバッファー(Affymetrix社)とを混合したものを用いた。
そして、シリコンゴム上にカバーグラスを被せ、溶液が乾燥しない状態にしてハイブリダイゼーションを行った。ハイブリダイゼーションは45℃、1時間静置して反応させた。ハイブリダイゼーション反応後、洗浄用バッファー(Wash bufferA、Affymetrix社)と超純水で洗浄後、ブロアで乾燥させた。
【0059】
〔電解液の調製〕
溶媒としてアセトニトリル(AN)と炭酸エチレン(EC)とを体積比で6:4に混合したものを作製した。ここに、支持電解質塩として、テトラプロピルアンモニウムヨーダイド(NPr4I)を0.6M溶解させた。さらに電解質として、ヨウ素を0.06M溶解させた。これを電解液とした。
【0060】
〔光電流測定〕
被検物質とプローブとをハイブリダイズさせた半導体電極部を有する基板の周囲を、シリコンゴム(厚さ0.2mm)で側壁となるように配置した。このシリコンゴムで形成された空間に、電解液を10μL注入した。そして、電解液が充填された半導体電極部を有する基板の上方から、対極部を有する基板で密封した。これにより、半導体電極部と対極部とが電解液に接触している状態となる。
次に、半導体電極リードと対極リードとを電流計に接続した。そして半導体電極部方向から対極部に向けて光源から光を照射した。光源は波長473nm、強度13mWのレーザー光源を用いた。これにより、修飾物質が励起され、励起された修飾物質から発生した電子が半導体層に輸送され、半導体電極部と対極部との間に電流が流れる。この電流の電流値を測定した。
【0061】
比較例1
半導体層上に金属層を形成する工程を除いた以外は実施例1と同様の操作で測定したものを比較例1とする。
【0062】
〔結果〕
図12は実施例1および比較例1の測定により得られた電流値を示すグラフである。実施例1の方法では、229nAの電流値が得られた。それに対して比較例1の方法では80nAの電流値が得られた。
このことから、半導体層上に金属層を形成することで、約3倍の電流値が取り出せ、電流の検出感度が向上したことがわかる。
実施例2(修飾物質で修飾された被検物質の電流測定による検出)
【0063】
〔半導体電極部の作製〕
実施例1と同様の方法で作製した。
【0064】
〔対極部の作製〕
実施例1と同様の方法で作製した。
【0065】
〔プローブの固定〕
実施例1と同様の方法で行った。
【0066】
〔被検物質の調製〕
被検物質として、プローブと相補的な塩基配列を含むDNAに修飾物質を結合させたもの(被検物質A)と、プローブと相補的な塩基配列を含まないDNAに修飾物質を結合させたもの(被検物質B)を準備した。
ここで修飾物質は、増感色素であるPulsar650(バイオサーチテクノロジーズジャパン社)を用いた。この増感色素はDNAとペプチド結合によって結合している。
【0067】
〔プローブによる被検物質の捕捉〕
被検物質Aまたは被検物質Bと金属層上のプローブとで、ハイブリダイゼーション反応を行った。まず半導体電極部の周囲を、シリコンゴム(厚さ0.2mm)で隔壁となるように配置した。このシリコンゴムで形成された空間に、ハイブリダイゼーション用溶液を10μL注入した。このハイブリダイゼーション用溶液は、修飾物質で修飾されたDNA(濃度10μM)とハイブリダイゼーションバッファー(Affymetrix社)とを混合したものを用いた。
次にシリコンゴム上にカバーグラスを被せ、溶液が乾燥しない状態にしてハイブリダイゼーションを行った。ハイブリダイゼーションは45℃、1時間静置して反応させた。ハイブリダイゼーション後、洗浄用バッファー(Wash bufferA、Affymetrix社)と超純水で洗浄後、ブロアで乾燥させた。
【0068】
〔電解液の調製〕
実施例1と同様の方法で行った。
【0069】
〔電流測定〕
被検物質Aまたは被検物質Bとプローブとをハイブリダイズさせた半導体電極部を有する基板の周囲を、シリコンゴム(厚さ0.2mm)で側壁となるように配置した。このシリコンゴムで形成された空間に電解液を10μL注入し、電解液が充填された半導体電極部を有する基板の上方から対極部を有する基板で密封した。これにより、半導体電極部と対極部とが電解液に接触している状態となる。
次に、半導体電極リードと対極リードとを電流計に接続し、半導体電極部方向から対極部に向けて光源から光を照射した。光源は波長473nm、強度13mWのレーザー光源を用いた。これにより、被検物質を修飾している修飾物質が励起され、励起された修飾物質から発生した電子が半導体層に輸送され、半導体電極部と対極部との間に電流が流れる。この電流の電流値を測定した。
なお、被検物質と金属層上のプローブとをハイブリダイズさせる工程を行わず、電流を測定したものを、電極由来の電流値として測定を行った。電極由来の電流とは、電極自体が光照射により励起され、発生する電流のことである。
【0070】
比較例2
半導体層上に金属層を形成する工程を除いた以外は、実施例2と同様にして被検物質の検出を行った。
【0071】
〔結果〕
図13は、実施例2および比較例2で検出された電流値のグラフである。
実施例2において、プローブと相補的な塩基配列を持つDNA(被検物質A)を用いてハイブリダイゼーションを行った場合、検出された電流値は36.3nAであった。
またプローブと相補的な塩基配列を持たないDNA(被検物質B)を用いてハイブリダイゼーションを行った場合、電流値は24.7nAとなった。この電流値は、電極由来の電流値24.9nAと同等であった。このことから被検物質Aでハイブリダイゼーションさせた場合に検出された電流値は、被検物質の半導体電極部への非特異的な吸着によるものではなく、配列を認識した特異的な検出によるものであることが確認できる。
図14は、実施例2および比較例2において得られたデータのうち、修飾物質由来の電流値を示したグラフである。修飾物質由来の電流値とは、被検物質の測定で得られた電流値から電極由来の電流値を差し引いた値のことである。
修飾物質由来の電流値は、金属層を含まない半導体電極部(比較例2)を用いた場合に比べ、金属層を含む半導体電極部を用いた場合(実施例2)のほうが約4.5倍大きいことがわかる。
【0072】
実施例3(長波長励起における金属層を形成した半導体電極の効果)
〔半導体電極部の作製〕
半導体電極部は、基板に導電層と半導体層と金属層とを形成したものである。作製方法としては、まず、二酸化ケイ素(SiO)からなる基板上に、100nmの厚さの酸化インジウムスズ(ITO)からなる導電層をスパッタリングにより形成した。この導電層上に、10nmの厚さの酸化インジウム(In23)からなる半導体層をスパッタリングにより形成した。この半導体層上に、10nmの厚さの金薄膜からなる金属層を蒸着によって形成した。そして金属層を形成した後に、酸素雰囲気中で焼結(150℃)し、金薄膜と半導体層との密着度を向上させた。この半導体電極部には、電流計と接続するための半導体電極リードが接続されている。
【0073】
〔対極部の作製〕
実施例1と同様の方法で作製した。
【0074】
〔プローブ物質の固定〕
半導体電極部の金属層上に、チオール基を有するDNA(24base)からなるプローブを固定させた。まず、核酸を分散させた水溶液(核酸濃度10μM)に半導体電極部を18時間浸漬した。その後、超純水で洗浄し、10分間乾燥させた。これにより、核酸が有するチオール基と金属層の金原子との結合により、核酸が金属層上に固定される。
【0075】
〔被検物質の調製〕
被検物質として、プローブと相補的な塩基配列を含むDNAに修飾物質を結合させたものを作製した。修飾物質はAlexaFluor750(インビトロジェン社)を用いた。この修飾物質は有機色素であり、有機色素はDNAとペプチド結合によって結合している。
【0076】
〔被検物質とプローブとのハイブリダイゼーション〕
実施例1と同様の方法で行った。
【0077】
〔電解液の調製〕
実施例1と同様の方法で調製した。
【0078】
〔光電流測定〕
被検物質とプローブとをハイブリダイズさせた半導体電極部を有する基板の周囲を、シリコンゴム(厚さ0.2mm)で囲むように配置した。このシリコンゴムで形成された空間に、電解液を10μL注入した。そして、電解液が充填された半導体電極部を有する基板の上方から、対極部を有する基板で密封した。これにより半導体電極部、対極部および参照電極部を電解液に接触させた。
次に、半導体電極に参照電極の電位を基準として0Vの電位を印加した。そして半導体電極部方向から対極部に向けて光源から光を照射した。この光源には波長785nm、強度13mWのレーザー光源(Cube785、コヒレント社)を用いた。これにより修飾物質が励起され、励起された修飾物質から発生した電子が半導体層に輸送され、半導体電極部と対極部との間に電流が生じる。この電流値を測定した。
なお、被検物質と金属層上のプローブとをハイブリダイズさせる工程を行わず電流を測定したものを、電極由来の電流値として測定を行った。電極由来の電流とは、電極自体が光照射によって励起され発生する電流のことである。
【0079】
比較例3
半導体層上に金属層を形成する工程を除いた以外は実施例3と同様の操作で測定したものを比較例3とする。
【0080】
比較例4
シランカップリング剤(アミノプロピルトリエトキシシラン:APTES)を用いて、プローブDNAを固定したものを比較例4とする。
【0081】
〔半導体電極部の作製〕
二酸化ケイ素(SiO)からなる基板上に、100nmの厚さの酸化インジウムスズ(ITO)からなる導電層をスパッタリングにより形成した。この導電層上に、10nmの厚さの酸化インジウム(In23)からなる半導体層をスパッタリングにより形成した。この基板と導電層と半導体層からなる電極を、シランカップリング剤(アミノプロピルトリエトキシシラン:APTES)がトルエン中に1%の濃度で溶解している溶液に浸漬させ、半導体層上にシランカップリング剤の薄膜を形成した。そして110℃で電極を加熱した後、トルエン中で超音波洗浄(5分)を3回繰り返し、脱水エタノールで洗浄することで、半導体電極表面に結合していないシランカップリング剤を取り除いた。このようにして作製された電極を半導体電極部とした。この半導体電極部には電流計と接続するための半導体電極リードが接続されている。
【0082】
〔対極部の作製〕
実施例3と同様の方法で作製した。
【0083】
〔プローブ物質の固定〕
半導体層上に、DNA(24base)からなるプローブを固定させた。方法としては、まず、核酸を分散させた水溶液(核酸濃度100μM)とUVクロスリンク用の試薬(Microarraycrosslinking reaget D, Amersham)を1:9の混合比で混合した溶液を半導体電極上に6μL滴下した。その後、UVクロスリンカー(FS-1500、フナコシ)でUV光(160mJ)を照射し、超純水で洗浄し10分間乾燥させた。これにより、UVクロスリンク用試薬がDNAとシランカップリング剤との架橋剤となり、核酸が半導体層上に固定される。
【0084】
〔被検物質の調製〕
実施例3と同様の方法で調製した。
【0085】
〔被検物質とプローブとのハイブリダイゼーション〕
実施例3と同様の方法で行った。
【0086】
〔電解液の調製〕
実施例3と同様の方法で調製した。
【0087】
〔光電流測定〕
実施例3と同様の方法で行った。
【0088】
〔結果〕
図15は、実施例3、比較例3および比較例4において、検出された光電流値のグラフである。
実施例3において、プローブと相補的な塩基配列を持つDNAを用いてハイブリダイゼーション反応を行なった場合、検出された光電流値は158nAであった。またプローブDNAのみを固定した場合、検出された光電流値は0.082nAとなった。このことから、シグナルノイズ比(S/N比)=158/0.082=1930となる。
比較例3において、プローブと相補的な塩基配列を持つDNAを用いてハイブリダイゼーション反応を行なった場合、検出された光電流値は0.24nAであった。またプローブDNAのみを固定した場合、検出された光電流値は0.028nAとなった。このことから、S/N比=0.24/0.028=8.6となる。前述の実施例3と比較すると、金属層を用いることで修飾物質由来の光電流値が660倍、S/N比が220倍向上していることがわかる。
なお比較例4において、プローブと相補的な塩基配列を持つDNAを用いてハイブリダイゼーション反応を行なった場合、検出された光電流値は19nAであった。またプローブDNAのみを固定した場合、検出された光電流値は0.021nAとなった。このことから、S/N比=19/0.021=900となる。上述の実施例3と比較すると、金属層を用いることで修飾物質由来の光電流値が8倍、S/N比が2倍向上している。比較例4でも同様に、修飾物質由来の光電流値の向上とS/N比の向上が見られる。
以上より、半導体電極部に金属層を形成させると、電流の検出感度が向上する。電流値の検出感度向上の要因としては、金属層を形成させることで(1)DNA固定量の増加(2)導電性の向上(3)金属層でのプラズモン励起による光電変換効率の向上などが考えられる。
【0089】
実施例4(一塩基多型(SNP)を用いた非特異吸着の検証)
〔半導体電極部の作製〕
半導体電極部は、基板に導電層と半導体層と金属層とを形成して作製された。方法としては、まず、二酸化ケイ素(SiO)からなる基板上に、100nmの厚さの酸化インジウムスズ(ITO)からなる導電層をスパッタリングにより形成した。この導電層上に、10nmの厚さの酸化インジウム(In23)からなる半導体層をスパッタリングにより形成した。この半導体層上に、2nmの厚さの金薄膜からなる金属層を蒸着によって形成した。この半導体電極部には、電流計と接続するための半導体電極リードが接続されている。
【0090】
〔対極部の作製〕
実施例1と同様の方法で作製した。
【0091】
〔プローブ物質の固定〕
まず、プローブを分散させた水溶液(プローブ濃度10μM)に半導体電極部を16時間浸漬した。このプローブは、チオール基を有するDNA(24base)である。浸漬した後、半導体電極部を超純水で洗浄し、10分間乾燥させた。これにより、プローブが有するチオール基と金属層の金原子との結合により、プローブが金属層上に固定される。
【0092】
〔被検物質の作製〕
被検物質として、プローブと非相補的な塩基配列(1塩基のみ非相補的)を含むDNAに修飾物質を結合させた被検物質を作製した。修飾物質は有機色素であるAlexaFluor750(インビトロジェン社)を用いた。この有機色素はDNAとペプチド結合している。
【0093】
〔被検物質とプローブとのハイブリダイゼーション〕
実施例1と同様の方法で行った。
【0094】
〔電解液の調製〕
実施例1と同様の方法で調製した。
【0095】
〔光電流測定〕
被検物質とプローブとをハイブリダイズさせた半導体電極部を有する基板の周囲を、シリコンゴム(厚さ0.2mm)で囲むように配置した。このシリコンゴムで形成された空間に、電解液を10μL注入した。そして、電解液が充填された半導体電極部を有する基板の上方から、対極部を有する基板で密封した。これにより、半導体電極部、対極部および参照電極部が電解液に接触している状態となる。
次に、半導体電極に参照電極の電位を基準として0Vの電位を印加した。そして半導体電極部方向から対極部に向けて光源から光を照射した。ここで、光源は波長785nm、強度13mWのレーザー光源(Cube785、コヒレント社)を用いた。これにより、修飾物質が励起され、励起された修飾物質から発生した電子が半導体層に輸送され、半導体電極部と対極部との間に電流が流れる。この電流値を測定した。
【0096】
比較例5
比較例5は、披検物質として、プローブと相補的な塩基配列を用いた以外は実施例4と同様の操作で測定した。
【0097】
比較例6
比較例6は、披検物質をハイブリダイゼーションさせなかった以外は実施例4と同様の操作で測定した。
【0098】
〔結果〕
図16は、実施例4、比較例5および比較例6において、検出された光電流値のグラフである。
実施例4において、プローブと非相補的な塩基配列を持つDNAを用いてハイブリダイゼーション反応を行なった場合、検出された光電流値は1.7nAであった。比較例5において、プローブと相補的な塩基配列を持つDNAを用いてハイブリダイゼーション反応を行った場合、検出された光電流値は195nAであった。比較例6においてプローブDNAのみを固定した場合、検出された光電流値は0.067nAとなった。このことから、金薄膜に非特異的に吸着するDNAは少なく、配列特異的に被検物質を検出できることが確認できる。
【0099】
実施例5(金薄膜の膜厚依存性)
〔半導体電極部の作製〕
半導体電極部は、基板に導電層と半導体層と金属層とを形成して作製された。作製方法としては、まず、二酸化ケイ素(SiO)からなる基板上に、100nmの厚さの酸化インジウムスズ(ITO)からなる導電層をスパッタリングにより形成した。この導電層上に、10nmの厚さの酸化インジウム(In23)からなる半導体層をスパッタリングにより形成した。この半導体層上に、0.2nmの厚さの金薄膜からなる金属層を蒸着によって形成した。この半導体電極部には、電流計と接続するための半導体電極リードが接続されている。
【0100】
〔対極部の作製〕
実施例1と同様の方法で作製した。
【0101】
〔プローブ物質の固定〕
まず、プローブを分散させた水溶液(プローブ濃度10μM)に半導体電極部を16時間浸漬した。ここで、プローブは、チオール基を有するDNA(24base)を用いた。半導体電極部を浸漬した後、半導体電極部を超純水で洗浄し、10分間乾燥させた。これにより、プローブが有するチオール基と金属層の金原子との結合により、プローブが金属層上に固定される。
【0102】
〔被検物質の作製〕
被検物質として、プローブと相補的な塩基配列を含むDNAに修飾物質を結合させた被検物質を作製した。修飾物質は有機色素であるAlexa Fluor750(インビトロジェン社)を用いた。この有機色素にDNAをペプチド結合させた。
【0103】
〔被検物質とプローブとのハイブリダイゼーション〕
実施例1と同様の方法で行った。
【0104】
〔電解液の調製〕
実施例1と同様の方法で調製した。
【0105】
〔光電流測定〕
被検物質とプローブとをハイブリダイズさせた半導体電極部を有する基板の周囲を、シリコンゴム(厚さ0.2mm)で囲むように配置した。このシリコンゴムで形成された空間に、電解液を10μL注入した。そして、電解液が充填された半導体電極部を有する基板の上方から、対極部を有する基板で密封した。これにより半導体電極部、対極部および参照電極部が電解液に接触している状態となる。
次に、半導体電極に参照電極の電位を基準として0Vの電位を印加した。そして半導体電極部方向から対極部に向けて光源から光を照射する。ここで、光源は波長785nm、強度13mWのレーザー光源(Cube785、コヒレント社)を用いた。これにより修飾物質が励起され、励起された修飾物質から発生した電子が半導体層に輸送され、半導体電極部と対極部との間に電流が流れる。この電流値を測定した。
さらに、半導体電極部の金属層において、金薄膜の厚さが1nm、2nm及び5nmに変えた場合の半導体電極部を用いて測定をしたときの電流値についても上記と同様に行った。
【0106】
なお、電極由来の電流値を測定するために、被検物質と金属層上のプローブとをハイブリダイズさせる工程を行わずに、電流を測定した。電極由来の電流とは、電極自体が光照射によって励起され発生する電流のことである。
【0107】
〔結果〕
図17は、実施例5において検出された各膜厚におけるシグナルノイズ比(S/N比)のグラフである。ここで、S/N比は、「被検物質とプローブとをハイブリダイズさせた半導体電極部を用いて測定された電流値/電極由来の電流値」である。
図17より、金薄膜が1nmのとき、最も良いS/N比が得られることがわかる。よって、金属層が1nmのとき、被検物質の検出感度が最も高まるといえる。
なお、金薄膜の厚さが5nmのとき、ハイブリダイゼーション後の洗浄工程により金薄膜が半導体層から剥離してしまった。このため、5nm以上の厚さの金薄膜を形成した半導体電極部を用いるとき、チタンやクロムを含む半導体層を用いたり(実施例1及び2)、焼結処理を行った半導体電極部を用いたり(実施例3)することによって、金薄膜と半導体層との密着力を向上させる必要がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光励起により電子を生じる修飾物質で修飾された被検物質を検出するための検査チップであって、
半導体層上に形成された金属層を備える半導体電極部と、
被検物質を捕捉する前記金属層上に固定されたプローブと、
導電層を備える対極部と
を備える検査チップ。
【請求項2】
前記金属層は電解液によって溶解される金属からなる、請求項1に記載の検査チップ。
【請求項3】
前記電解液はヨウ素またはヨウ化物を含む、請求項2に記載の検査チップ。
【請求項4】
前記金属層は前記プローブと化学吸着する金属からなる、請求項1〜3のいずれかに記載の検査チップ。
【請求項5】
前記プローブと化学吸着する金属が金である、請求項4に記載の検査チップ。
【請求項6】
前記プローブは前記金属層と化学吸着する結合基としてチオール基を有する、請求項1〜5のいずれかに記載の検査チップ。
【請求項7】
前記金属層は、蒸着またはスパッタリングにより前記半導体層上に形成される、請求項1〜6のいずれかに記載の検査チップ。
【請求項8】
前記プローブは核酸である、請求項1〜7のいずれかに記載の検査チップ。
【請求項9】
光励起により電子を生じる修飾物質で修飾された被検物質を検出する検出装置であって、
半導体層上に形成された金属層を備える半導体電極部と、被検物質を捕捉する前記金属層上に固定されたプローブと、導電層を備える対極部とを備える検査チップを、受入可能に構成された検査チップ受入部と、
前記検査チップ受入部に挿入された前記検査チップ内の被検物質に修飾している修飾物質を光励起する光源と、
前記光源での光励起により、修飾物質で修飾された被検物質から流れる電流を測定する電流測定部と
を備えた検出装置。
【請求項10】
前記光源は、被検物質に修飾している修飾物質を励起する波長の光を発生する、請求項9に記載の検出装置。
【請求項11】
光励起により電子を生じる修飾物質で修飾された被検物質を検出する方法であって、
半導体層上に形成された金属層を備える半導体電極部と、被検物質を捕捉する前記金属層上に固定されたプローブと、導電層を備える対極部とを備える検査チップに被検物質を含む試料を適用することにより、前記金属層上に固定された前記プローブで被検物質を捕捉する工程と、
被検物質に修飾物質を導入する工程と、
修飾物質を励起する光を照射する工程と、
励起された修飾物質から生じる電流を検出する工程と
を含む被検物質の特異的検出方法。
【請求項12】
前記半導体電極部と前記対極部との間に電流を流すための電解質媒体を添加する工程をさらに含む、請求項11に記載の被検物質の特異的検出方法。
【請求項13】
前記電解質媒体は、前記金属層を溶解させる電解質と有機溶媒とを含む、請求項12に記載の被検物質の特異的検出方法。
【請求項14】
前記電解質は、ヨウ素またはヨウ化物である、請求項13に記載の被検物質の特異的検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2010−133933(P2010−133933A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−226321(P2009−226321)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(390014960)シスメックス株式会社 (810)
【Fターム(参考)】