説明

検査冶具及びそれを使用した静電容量測定方法

【課題】試料表面の電気的特性を簡易に且つ高精度に測定する検査冶具及びこれを用いた静電容量測定方法を提供すること。
【解決手段】試料の被測定面に対向して配置され、膜の上下両面に加わる圧力差によって試料の被測定面方向に撓む可撓膜6と、可撓膜6の上下両面に配置され、その一部が前記可撓膜6を貫通して上面側と下面側とが連結された電極膜2と、試料の被測定面に当接して、可撓膜6と試料の被測定面との間に気密された領域を形成する壁部材4と、可撓膜6と被測定面との間の気密された領域内の気体を排出する排気路7とを有した検査冶具10による。この検査冶具10は排気路7からの排気により可撓膜6及び電極2が被測定面に変形しながら押し付けられて隙間無く密着することにより静電容量等の電気的特性を正確に測定できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子素子の電気的特性を検査するために使用する検査冶具及びそれを使用した静電容量測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体材料(又は導体材料)の上に形成された誘電体膜(絶縁膜)は、キャパシタやMOSトランジスタ等の各種電子素子の構成の一部を成す。この誘電体膜の電気的特性は電子素子の性能に影響を及ぼすため、誘電体膜(絶縁膜)の電気的特性等を検証することが電子素子の高品質のために重要である。
【0003】
従来から、誘電体膜の上に所定面積の電極を配置して静電容量やC−V特性等を測定し、誘電体膜の電気的特性等を調べる手法がある。この手法としては以下のものがある。
【0004】
金属板からなる電極を試料表面に配置して測定を行う手法としては、例えば図12に示すような手法がある。この手法では、所定の面積を有する金属板50を誘電体膜(絶縁膜)32上に載置し、基板33(又は電極膜34)と金属板50との間の静電容量を求めることにより誘電体膜の電気的特性を測定する。
【0005】
また、図13に示すように、誘電体膜32上に真空蒸着法により導体パターン60を所定の面積に形成し、この導体パターン60にプローブを当てて測定を行う手法がある。この手法では、シャドウマスクを使用する方法やフォトリソグラフィとエッチング等により不要な金属を除去する方法等により導体パターン60を形成している。
【0006】
また、図14に示すように、誘電体膜32の上に所定の断面積を有する筒状の水銀容器71を配置し、この容器内に水銀70を満たして、この水銀70を電極として測定を行う手法がある。
【0007】
この他、本願発明に関連すると思われる技術を開示するものとして特許文献1がある。特許文献1は、板状の電極に絶縁フィルムを貼り付けたプローブを試料に押し当てて静電容量の測定を行う手法を開示する。
【特許文献1】特開2000−193705号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のように、図12に示すような金属板50を誘電体膜32に載せる方法では、金属板50表面に存在する微細な凹凸やうねり及び誘電体膜32表面のうねりや反り等により、金属板50と誘電体膜32との間に〜数μm程度の隙間ができてしまう。そのため、予想される静電容量よりも小さな静電容量しか得られず、正確な測定を行うことができない。
【0009】
図13に示すように、誘電体膜32の上に真空蒸着法で電極膜60を形成する場合には、電極膜60が誘電体膜32と密着性良く形成されるため、金属板50のような隙間による問題は発生しない。しかし、静電容量の測定を行う前に試料に真空蒸着を行う必要があり、簡易且つ迅速な測定を行うことができない。また、シャドウマスクを用いて金属電極60を形成する場合には、試料とシャドウマスクとの微小な間隔により電極面積が変化するので、電極面積の再現性が悪く、正確な静電容量を測ることが困難である。フォトリソグラフィ及びエッチングによる電極形成方法では電極面積の再現性は良好であるが、マスク作製と露光及びエッチング工程により、更に多くの時間を要してしまう。
【0010】
図14に示すように、水銀70を電極に用いる場合、電極(水銀70)が液体であるため、誘電体膜32の表面にうねり等の凹凸があっても電極(水銀70)との間に隙間が生じることがない。しかし、誘電体膜の種類によっては誘電体膜32の一部が水銀と反応して誘電体膜32の厚さが変化してしまうおそれがある。また、近年新規な誘電体膜が開発されつつあるが、水銀とこれらの新規な誘電体膜との反応性は未知である場合も多いため、事前に水銀と絶縁膜との反応性を検証しておく必要がある。さらに、水銀は有害物質であるためその取り扱いに注意が必要である。
【0011】
また、特許文献1に開示された手法は、回路基板(試料)への対向面に絶縁板を貼付して電極の間隔を一定としているが、上述の金属板50を用いる手法と同様に、絶縁板と回路基板(試料)との間に隙間が生ずるおそれがあり、正確な静電容量測定を行うのが困難である。
【0012】
以上のような問題は静電容量の測定以外にも、所定の面積の電極を試料に密着させて測定を行う必要がある、面積抵抗率測定、体積抵抗率測定、及び電流密度測定の際にも生ずる。
【0013】
本発明の目的は、導体又は半導体材料の上に形成された電子素子の電気的特性を簡易に且つ高精度に測定する検査冶具及びこれを用いた静電容量測定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の一観点によれば、可撓性を有し、試料の被測定面に対向して配置される可撓膜と、前記可撓膜の上下両面に配置され、その一部が前記可撓膜を貫通して上面側と下面側とが連結された電極膜と、前記試料の被測定面に当接して、前記可撓膜と前記試料の被測定面との間に気密された領域を形成する壁部材と、前記可撓膜と前記被測定面との間の気密された領域内の気体を排出する排出路とを有し、前記電極膜及び前記可撓膜はその上面側と下面側の圧力差により前記試料の被測定面方向に撓み、前記電極膜が前記試料の被測定面と密着することを特徴とする検査冶具が提供される。
【0015】
上記観点の検査冶具において、排出路を真空ポンプ等と接続して、可撓膜と試料の被測定面との間の気密された領域を排気すれば、可撓膜の上下両面に圧力差が生じる。そして、可撓膜と電極膜が試料の被測定面に変形しながら押し付けられるため、金属膜(電極)が試料表面に密着する。これにより試料の電気的特性を正確に測定することができる。このように本観点の検査冶具を用いれば、試料の前処理を行うこと無く簡易かつ迅速に正確な電気的特性を測定することができる。
【0016】
上記観点の検査冶具において、前記電極膜は、第1の金属層とその表面を覆う第2の金属層との積層膜からなり、前記第1の金属層は前記第2の金属層よりも弾性変形し易い金属からなるとともに前記第2の金属層は前記第1の金属層よりも酸化されにくい金属から構成することができる。これにより、金属膜がより柔軟となり、試料表面への密着性が向上するため好適である。
【0017】
上記観点の検査冶具において、前記可撓膜と前記壁部材とを同一材料から一体的に形成することができる。この場合には、構造が簡単となり好適である。
【0018】
また、上記観点の検査冶具を、誘電体膜が形成された導体または半導体試料の表面に取り付けて使用することにより静電容量を簡易かつ正確に測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について、添付の図面を参照して説明する。
【0020】
(第1実施形態)
以下、図1乃至図5を参照しつつ本発明の第1実施形態に係る検査冶具10について説明する。ここに、図1は、本発明の第1実施形態に係る検査冶具を示す斜視断面図である。図2は、本発明の第1実施形態に係る検査冶具を示す断面図である。以下の説明において、本体1が試料の被測定面と対向する方向(紙面下方向)を下方と呼び、その反対方向(紙面上方向)を上方と呼ぶ。また、厚さと呼ぶときは上下方向の長さをいうものとする。
【0021】
図1に示すように、本発明の第1実施形態に係る検査冶具10は、円形の本体1と、その本体1の中心部付近に形成された電極2と、本体1の外周付近に取り付けられた排気ポート5とを備えている。また、本体1には壁部4及び可撓膜6が一体的に形成されており、本体1(可撓膜6)の中心部分にはスルーホール3が形成されている。以下各部の構成について更に説明する。
【0022】
本体1は、図1に示すように円形に形成され、後述する可撓膜6及び壁部4とは同一材料により一体的に形成されている。紙面下側の部分で本体1は試料の被測定面(図5参照)と対向する。本体1の外周の直径は、例えば8mm程度に形成することができる。本体1は、柔軟性を有する樹脂材料(例えばポリイミド樹脂等)で形成することができる。
【0023】
壁部4は、図1及び図2に示すように本体1の外周に沿って下方に伸びて形成されている。壁部4の底面は、後述するように試料の被測定面と当接する。この壁部4の底面は平坦な面として形成されている。壁部4の外周側の直径は例えば8mm程度に形成され、その内周側の径は、例えば6mm程度に形成される。壁部4の底面から本体1の上面までの厚さTは、例えば50μm程度に形成される。本体1の底面側において、壁部4よりも内周側の部分は薄く形成されており、壁部4と内周側の部分との段差は例えば20μm程度に形成される。
【0024】
可撓膜6は、本体1の中心側に形成された円形の肉薄部であり、図1及び2に示すように、本体1の上面側及び下面側で一段低く形成された部分からなる。可撓膜6は例えば、厚さ10μm程度、直径2mmに形成される。可撓膜6の中心部には、スルーホール3が形成されている。スルーホール3の直径は例えば0.1mm程度である。
【0025】
電極2は、可撓膜6の中心側の上下両面を覆うように形成され、可撓膜6の上面側に形成されたプローブ側電極2bと下面側に形成された試料側電極2aとからなる。試料側電極2a及びプローブ側電極2bは、例えば酸化(腐食)されにくく良好な電気的接触を取ることができる金(Au)等の金属膜からなる。試料側電極2a及びプローブ側電極2bは例えば厚さ1μm程度と薄く形成されているため、可撓膜6の変形にあわせて柔軟に変形することができる。プローブ側電極2bは例えば直径0.5mm程度に形成され、試料側電極2aは直径1mm程度に形成できる。電極2の試料側電極2a及びプローブ側電極2bは可撓膜6の中心部に形成されたスルーホール3を介して連結されている。
【0026】
排気ポート5は、本体1の上側の外周寄りに形成されている。排気ポート5は例えば外径は2.5mm程度、高さは5mm程度に形成される。排気ポート5の内側には内径0.5mm程度に形成された排気路7が形成されている。排気路7は上下方向に伸び、本体1を貫通している。
【0027】
次に、図3及び図4を参照しつつ第1実施形態に係る検査冶具10の製造方法について説明する。ここに、図3(a)〜(e)は、本発明の第1実施形態に係る検査冶具の製造工程を順に示す断面図である(その1)。また、図4(a)〜(d)は本発明の第1実施形態に係る検査冶具の製造工程を順に示す断面図である(その2)。
【0028】
まず、厚さ50μm程度のポリイミド基板を加工して直径8mm程度の円盤状の本体1を形成する。次に、本体1の一面の外周側であって、壁部4を形成すべき領域の上(図3(a)では下側)にフォトリソグラフィ法によりマスク12を形成する。これにより図3(a)に示す構造が完成する。
【0029】
次に、プラズマを用いたドライエッチング又はケミカルウエットエッチングによりポリイミドからなる本体1の下面を20μm程度エッチングする。これにより、壁部4が形成され、その後マスク12を除去することにより、図3(b)に示す構造が完成する。
【0030】
次に、本体1の上面の上の可撓膜6を形成すべき領域(本体1の中心から直径2mmの領域)以外の部分にフォトリソグラフィ法によりマスク(図示せず)を形成し、プラズマを用いたドライエッチング又はケミカルウエットエッチングを実施してマスクが形成されていない本体1の上面を20μm程度エッチングする。これにより、厚さ10μm程度となった肉薄部として可撓膜6が形成される。その後マスクを除去することにより、図3(c)に示す構造が完成する。
【0031】
次に、本体1の底面の上に厚さ1μm程度の金(Au)膜を真空蒸着法により形成し、この金(Au)膜の上にフォトリソグラフィ法により直径1mm程度の円形のマスク(図示せず)を形成する。その後、このマスクが形成されていない部分の金(Au)膜をイオンミリング法等により除去することにより、直径1mm程度の試料側電極2aが完成する。そして、マスクを除去することにより図3(d)に示す構造が完成する。
【0032】
次に、本体1(可撓膜6)の中心部分に、フォトリソグラフィ法及びエッチング(ドライエッチング又はケミカルウエットエッチング)により、直径100μm程度のスルーホール3を形成する。これにより図3(e)に示す構造が完成する。
【0033】
次に、本体1の上面の上に厚さ1μmの金(Au)膜を形成する。このとき、スルーホール3内は金(Au)が埋め込まれ、本体1の上面側の金(Au)膜と試料側電極2aとが連結される。次に、本体1の上面側の金(Au)膜の中心部にフォトレジスト法により直径0.5mm程度のマスク(図示せず)を形成し、マスクが形成されていない部分の金(Au)膜を除去することにより、可撓膜6の上面側を覆うプローブ側電極2bが形成される。その後、マスクを除去することにより図4(a)に示す構造が完成する。
【0034】
次に、本体1の可撓膜6と壁部4との間の部分に直径0.5mm程度の孔を空けて排気路7を形成する。排気路7の形成は例えば、フォトリソグラフィ法及びエッチングにより行うことができる。また、直径0.5mmのドリルを用いて機械的加工により形成してもよい。以上の工程により図4(b)に示す構造が完成する。
【0035】
次に、管状の排気ポート5を上述の排気路7の上に接合する(図4(c))。以上の工程により図4(d)に示すように本体1の上側に排気ポート5が形成され、第1実施形態に係る検査冶具10が完成する。
【0036】
次に、第1実施形態に係る検査冶具10を用いた静電容量測定方法について、図5を参照しつつ説明する。ここに、図5は本発明の第1実施形態に係る検査冶具を用いた静電容量測定方法を説明する模式図である。
【0037】
ここでは試料として、半導体(又は導体)基板33の表面に誘電体膜32が形成され、半導体(又は導体)基板33の裏面(紙面下側)には電極膜34が形成されたものを用いるものとする(図5参照)。
【0038】
測定は、まず導体(半導体)基板33の上に形成された誘電体膜32の上に、第1実施形態に係る検査冶具10の下側を誘電体膜32に対向させて載置する。このとき、壁部4の底面が誘電体膜32と当接する。壁部4の底面は平坦な面として形成されているため、壁部4と誘電体膜32との当接部分が密着する。これにより、誘電体膜32とそれに対向する可撓膜6との間に気密された空間が形成される。
【0039】
次に、排気ポート5に接続した図示しない排気ポンプによって、誘電体膜32と可撓膜6との間の気密された空間の気体を排気する。これにより、気密された空間が減圧され、可撓膜6の上面から大気圧が働き、図5に示すように可撓膜6が誘電体膜32の方に変形する。また、可撓膜6の下側に形成された試料側電極2aが変形しながら誘電体膜32の表面に押し付けられ、試料側電極2aと誘電体膜32とが隙間無く密着する。その後、電極2のプローブ側電極2bにプローブ31を当てて、所定の測定信号を電極膜34との間に印加することにより誘電体膜32の静電容量を測定することができる。
【0040】
以上のように、本実施形態の検査冶具10によれば、可撓膜6及び電極2が薄く形成されているため、誘電体膜32の表面に反り、うねり等の凹凸が存在しても、電極2と可撓膜6とが誘電体膜32の表面の形状に合わせて変形し、誘電体膜32に隙間なく密着する。これにより、誘電体膜32の静電容量を正確に測定することができる。また、検査冶具10を試料の被測定面(誘電体膜32の表面)に載置して、排気ポート5から排気を行うだけで測定を行うことができるため、簡易且つ迅速に測定を行うことができる。
【0041】
尚、本実施形態の検査冶具10は、膜状試料の面積抵抗率、体積抵抗率及び電流密度の測定にも使用することができる。これらの測定においても、所定面積の電極を試料表面に隙間無く密着させることができるため、簡易且つ正確な測定を行うことができる。
【0042】
(第2実施形態)
次に、図6乃至図10を参照しつつ本発明の第2実施形態に係る検査冶具について説明する。ここに、図6は、本発明の第2実施形態に係る検査冶具を示す斜視断面図である。図7は、本発明の第2実施形態に係る検査冶具を示す断面図である。
【0043】
図6及び図7に示すように、本実施形態の検査冶具20は、可撓膜21及び可撓膜21の表面に形成された電極22、並びに可撓膜21を支持する上部リング部材27、下部リング部材28及びシール部材26を備えている。
【0044】
可撓膜21は可撓性を有する材料(例えばポリイミド樹脂)からなる円盤状の部材であり、例えば直径2mm程度、厚さ10μm程度に形成される。可撓膜21の中心部にはスルーホール23が形成されている。スルーホール23は例えば直径0.1mm程度に形成される。
【0045】
可撓膜21の中心部付近の上面及び下面には円形の電極2が形成されている。電極22は可撓膜21の上面側を覆うプローブ側電極膜22bと下面側を覆う試料側電極22aとからなる。プローブ側電極22bの直径は例えば0.5mm程度、試料側電極22aの直径は例えば1mm程度に形成することができ、いずれも厚さ1μm程度の金(Au)膜で構成できる。試料側電極22aとプローブ側電極22bとはスルーホール23の部分で連結されている。
【0046】
下部リング部材28は中心側が中空のリング状に形成され、可撓膜21よりも剛性の高い材料(例えば金属等)から構成することができる。下部リング部材28の底面には溝が形成されており、この溝には試料と密着して気体の流通を阻止するシール部材26が取り付けられている。下部リング部材28の上面の内周側の部分には、可撓膜21を保持するための段差部24aが形成されている。また、下部リング部材28には排気を行うための排気路29が形成されており、排気路29の一方の端部は内壁側の一部に開口部を形成している。排気路29の他方の端部は下部リング部材28の上面に開口部を形成している。下部リング部材28の排気路29は上面の開口部において上部リングの排気路29(後述)と接続される。
【0047】
シール部材26には、クロロプレンゴムやフッ素ゴム(デュポン社製バイトン等)等の弾力性を有する材料からなるOリングを使用することができる。尚、シール部材26はOリングに限定されるものではなく、気密性を確保できるのであれば、例えば角リング、甲山パッキン又は甲丸パッキン等であってもよい。
【0048】
上部リング部材27は、下部リング部材28とほぼ同じ径に形成された環状の部材であり、可撓膜21よりも剛性の高い材料(例えば金属等)からなる。上部リング部材27の外周面には、排気ポンプ(図示せず)へ接続できる排気ポート25が形成されている。また、上部リング部材27には排気路29が形成されている。この排気路29の一方の端部は上部リング部材27の底面で下部リング部材28の排気路29と接続され、他方の端部は排気ポート25に接続されている。上部リング27の下面側は下部リング部材28の上面と当接している。上部リング27の底面の内周側には段差部24bが形成されており、この段差部24bと下部リング部材28の段差部24aとにより可撓膜21の外周部分を上下から挟むことで、可撓膜21を支持している。特に図示しないが、可撓膜21、上部リング部材27の段差部24及び下部リング部材28の間の接合部には、クロロプレンゴムやフッ素ゴム等からなるシール部材が配置され、これらの接合部は気密性が保たれている。
【0049】
次に、図8及び図9を参照しつつ第2実施形態に係る検査冶具の製造方法について説明する。ここに、図8(a)〜(d)は、本発明の第2実施形態に係る検査冶具の製造工程を順に示す断面図である(その1)。図9(a)及び図9(b)は、本発明の第2実施形態に係る検査冶具の製造工程を順に示す断面図である(その2)。
【0050】
まず、厚さ10μm程度のポリイミド板を加工して、直径6mm程度の円盤状の可撓膜21を形成する。次に、可撓膜21の一方の面(下面)に厚さ1μm程度の金(Au)膜を一様に形成する。金(Au)膜は例えば真空蒸着法等で形成することができる。次に、金(Au)膜の試料側電極22aの形成予定領域(例えば、可撓膜21中心付近の直径1mmの円内)の上にマスク41を形成する。マスク41はフォトリソグラフィ及びエッチングにより形成することができる。以上の工程により図8(a)に示す構造が完成する。尚、試料側電極22aの形成はシャドウマスクを用いた真空蒸着で行ってもよい。
【0051】
次に、マスク41を利用して、試料側電極22a部分以外の金(Au)膜を除去することにより、試料側電極22aを形成する。金(Au)膜の除去はイオンミリング法等で行うことができる。その後、マスク41を除去して図8(b)の構造が完成する。
【0052】
次に、可撓膜21の中心付近に直径0.1mm程度の孔をあけてスルーホール23を形成する。スルーホール23は、可撓膜21の上面側からフォトリソグラフィ及びエッチングを施すことにより形成することができる。以上の工程により図8(c)に示す構造が完成する。
【0053】
次に、可撓膜21の上面側に金(Au)膜を厚さ1μm程度に形成し、この金(Au)膜の不要部分をフォトリソグラフ法及びエッチング法で除去することによりプローブ側電極22bを形成する。金(Au)膜の形成の際にスルーホール23が金(Au)で埋め込まれ、試料側電極22aとプローブ側電極22bとが連結して電気的接続が確保される。以上の工程により、図8(d)に示す構造が完成する。尚、プローブ側電極22bの形成はシャドウマスクを用いた真空蒸着法で行っても良い。
【0054】
次に、図9(a)に示すように、上部リング部材27の段差部24a及び下部リング部材28の段差部24bの部分で可撓膜21の外周部を挟み込んで接合する。このとき、上部リング部材28と下部リング部材27との接合部及び段差部24a、24bと可撓膜21との接合部に柔軟性のあるシール材(図示せず)を挟み込む。尚、下部リング部材27及び上部リング部材28は機械的加工等で作製することができる。
【0055】
以上の工程により、図9(b)に示すように本実施形態の検査冶具20が完成する。
【0056】
次に、本実施形態の検査冶具20を用いた誘電率測定について図10を参照しつつ説明する。ここに、図10は本発明の第2実施形態に係る検査冶具を用いた静電容量測定方法を説明する模式図である。
【0057】
誘電体膜32の静電容量の測定は、まず、誘電体膜32の表面の上にシール部材26が密着するように検査冶具20を配置する。これにより、誘電体膜32に対向するように可撓膜21が配置され、可撓膜21と誘電体膜32との間に密閉された空間が形成される。次に、検査冶具20の上部リング部材28に設けられた排気ポート25と接続された排気ポンプ(図示せず)により、上述の密閉された空間内部の気体を排気する。これにより、密閉された空間内部が減圧され、可撓膜21の上面に大気圧が作用して可撓膜21が誘電体膜32側に変形しながら押し付けられる。これにより、可撓膜21の下面に形成された試料側電極22aが可撓膜21とともに変形しつつ誘電体膜32の表面に押し付けられ、誘電体膜32の表面に密着する。
【0058】
その後、可撓膜21の上面側に形成されたプローブ側電極22bにプローブ31を接触させて所定の測定信号をプローブ31と電極膜34との間に印加することにより、誘電体膜の静電容量測定を行うことができる。
【0059】
本実施形態の検査冶具20によれば、誘電体膜32の表面に電極22を変形させながら押し付けて密着させるため、誘電体膜32の表面にうねりや反り等の凹凸が存在していても、電極22と誘電体膜32の表面とを隙間無く密着させることができる。これにより、簡易で迅速に正確な静電容量の測定を行うことができる。
【0060】
尚、検査冶具20を使用すれば、半導体(又は導体)の膜状試料に対しても電極を密着させることができるので、半導体(又は導体)試料の面積抵抗率、体積抵抗率及び電流密度測定を簡易で迅速に正確な測定を行うことができる。
【0061】
(その他の実施形態)
図11は、本発明のその他の実施形態に係る検査冶具を示す断面図である。
【0062】
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、以下の形態としてもよい。すなわち、図11に示すように第1実施形態及び第2実施形態において、電極2(又は電極22)は、単一の金属膜として構成されていたが、これを2以上の金属膜として構成することもできる。図11において、試料側電極2a(又は22a)は第1の金属膜2c及び第2の金属膜2dで構成される。第1の金属膜2cは弾性変形しやすい柔軟な金属膜からなり、例えば厚さ5μm程度のインジウム(In)膜とすることができる。また、第2の金属膜は第1の金属膜2c表面の酸化劣化による接触不良の発生を防止するために形成される膜であり、例えば厚さ1μm程度の金(Au)膜とすることができる。このように、電極2の一部を柔軟な金属膜で構成すれば、試料の被測定面への電極2の密着性を更に向上させることができる。
【0063】
以上の諸実施形態に示した検査冶具による静電容量の測定は、電子素子の製造工程にて行っても良い。この場合、所定の静電容量を得られなかった電子素子については、エラーと判定することになる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】図1は、本発明の第1実施形態に係る検査冶具を示す斜視断面図である。
【図2】図2は、本発明の第1実施形態に係る検査冶具を示す断面図である。
【図3】図3(a)〜(e)は、本発明の第1実施形態に係る検査冶具の製造工程を順に示す断面図である(その1)。
【図4】図4(a)〜(d)は、本発明の第1実施形態に係る検査冶具の製造工程を順に示す断面図である(その2)。
【図5】図5は、本発明の第1実施形態に係る検査冶具を用いた静電容量測定方法を説明する模式図である。
【図6】図6は、本発明の第2実施形態に係る検査冶具を示す斜視断面図である。
【図7】図7は、本発明の第2実施形態に係る検査冶具を示す断面図である。
【図8】図8(a)〜(d)は、本発明の第2実施形態に係る検査冶具の製造工程を順に示す断面図である(その1)。
【図9】図9(a)及び図9(b)は、本発明の第2実施形態に係る検査冶具の製造工程を順に示す断面図である(その2)。
【図10】図10は、本発明の第2実施形態に係る検査冶具を用いた静電容量測定方法を説明する模式図である。
【図11】図11は、本発明のその他の実施形態に係る検査冶具を示す断面図である。
【図12】図12は、従来の静電容量測定方法を示す断面図であり、金属板を用いた静電容量測定の様子を示す。
【図13】図13は、従来の静電容量測定方法を示す断面図であり、蒸着法により形成した金属電極パターンの断面を示す。
【図14】図14は、従来の静電容量測定方法を示す断面図であり、水銀を用いた静電容量測定の様子を示す。
【符号の説明】
【0065】
1…本体、2、22…電極、2a、22a…試料側電極、2b、22b…プローブ側電極、2c…第1の金属膜、2d…第2の金属膜、3、23…スルーホール、4…壁部、5、25…排気ポート、6、21…可撓膜、10、20…検査冶具、12、41…フォトレジストマスク、24a、24b…段差部、26…シール部材、27…上部リング部材、28…下部リング部材、7、29…排気路、31…プローブ、32…誘電体膜、33…半導体(又は導体)基板、34…電極膜、50…金属板、60…導体パターン、70…水銀、71…水銀容器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性を有し、試料の被測定面に対向して配置される可撓膜と、
前記可撓膜の上下両面に配置され、その一部が前記可撓膜を貫通して上面側と下面側とが連結された電極膜と、
前記試料の被測定面に当接して、前記可撓膜と前記試料の被測定面との間に気密された領域を形成する壁部材と、
前記可撓膜と前記被測定面との間の気密された領域内の気体を排出する排出路とを有し、
前記電極膜及び前記可撓膜はその上面側と下面側の圧力差により前記試料の被測定面方向に撓み、前記電極膜が前記試料の被測定面と密着することを特徴とする検査冶具。
【請求項2】
前記圧力差は、前記可撓膜と前記被測定面との間の気密された領域を減圧することで発生させることを特徴とする請求項1に記載の検査冶具。
【請求項3】
前記電極膜は、第1の金属層とその表面を覆う第2の金属層との積層膜からなり、
前記第1の金属層は前記第2の金属層よりも弾性変形し易い金属からなるとともに前記第2の金属層は前記第1の金属層よりも酸化されにくい金属からなることを特徴とする請求項1又は2に記載の検査冶具。
【請求項4】
前記第1の金属層はインジウム(In)からなり、前記第2の金属層は金(Au)からなることを特徴とする請求項3に記載の検査冶具。
【請求項5】
前記可撓膜と前記壁部材とが同一材料から一体的に形成されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の検査冶具。
【請求項6】
可撓性を有し、試料の被測定面に対向して配置される可撓膜と、
前記可撓膜の上下両面に配置され、その一部が前記可撓膜を貫通して上面側と下面側とが連結された電極膜と、
前記試料の被測定面に当接して、前記可撓膜と前記試料の被測定面との間に気密された領域を形成する壁部材と、
前記可撓膜と前記被測定面との間の気密された領域内の気体を排出する排出路とを有し、
前記電極膜及び前記可撓膜はその上面側と下面側の圧力差により前記試料の被測定面方向に撓み、前記電極膜が前記試料の被測定面と密着することを特徴とする検査冶具を使用する静電容量測定方法であって、
最上層に誘電体膜が形成された前記試料の表面を前記被測定面として、その被測定面に前記検査冶具の壁部材を当接する工程と、
前記可撓膜の上面側と下面側とに圧力差を発生させて前記電極膜を前記試料の被測定面に密着させる工程と、
前記電極膜に信号を印加して静電容量を測定工程とを有することを特徴とする静電容量測定方法。
【請求項7】
可撓性を有し、試料の被測定面に対向して配置される可撓膜と、
前記可撓膜の上下両面に配置され、その一部が前記可撓膜を貫通して上面側と下面側とが連結された電極膜と、
前記試料の被測定面に当接して、前記可撓膜と前記試料の被測定面との間に気密された領域を形成する壁部材と、
前記可撓膜と前記被測定面との間の気密された領域内の気体を排出する排出路とを有し、
前記電極膜及び前記可撓膜はその上面側と下面側の圧力差により前記試料の被測定面方向に撓み、前記電極膜が前記試料の被測定面と密着することを特徴とする検査冶具を使用して、前記試料の静電容量を測定する工程を含む電子素子の製造方法であって、
最上層に誘電体膜が形成された前記試料の表面を前記被測定面として、その被測定面に前記検査冶具の壁部材を当接する工程と、
前記可撓膜の上面側と下面側とに圧力差を発生させて前記電極膜を前記試料の被測定面に密着させる工程と、
前記電極膜に信号を印加して静電容量を測定する工程とを有することを特徴とする電子素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2009−156737(P2009−156737A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−336098(P2007−336098)
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(308014341)富士通マイクロエレクトロニクス株式会社 (2,507)
【Fターム(参考)】