説明

検査用シート、化学分析装置及び検査用シートの製造方法

【課題】小型・可搬、扱いが容易、消耗品の無害化が容易、低コストな化学分析装置を提供する。
【解決手段】防水樹脂フィルムが設けられたシート状の紙基材の面に形成された凹形状の流路を上面から樹脂製フィルムで封止することにより、流路が形成される。第1の流路は、一端に試料が導入される試料導入口111が設けられ、他端に大気開放部119が設けられ、それらの間にサンプリング流路113が設けられ、毛細管力により、試料導入口111に導入された試料をサンプリング流路113に送る。第2の流路は、一端に試薬導入口112が設けられ、他端に大気開放部119が設けられ、それらの間にサンプリング流路113が設けられ、毛細管力により、サンプリング流路113に送られた試料を反応セル部116に送る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試薬と混合反応させることで液体の試料を分析するために用いられる検査用シート、化学分析装置及び検査用シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の血液等の試料を対象とした化学分析装置が、従来より開示されている(例えば、特許文献1参照)。この化学分析装置は、一般的には1時間に数百テストの処理能力を有し、大型のものになると1時間に9000テスト以上の処理速度を有する。
【0003】
この化学分析装置は、血液中の蛋白質、酵素、尿中の成分などを分析・定量するための比色測定部と、血液中のイオンを分析するイオン分析部とを備える。比色測定部では、処理速度を上げるために、化学分析装置の本体上面に多数の反応容器がターンテーブルの円周上に設けられ、血液試料が順次、混合・反応・計測される。
【0004】
このような装置の主要な構成要素には、通常、自動試料・試薬供給機構、保持部、自動攪拌機構、光検知器、第1の自動洗浄機構、第2の自動洗浄機構及び制御部がある。自動試料・試薬供給機構は、血液試料や試薬を反応容器に供給する。保持部は、数十種類の試薬容器を保持する。自動攪拌機構は、反応容器内の血液試料と試薬を撹拌する。光検知器は、反応中又は反応が終了した血液試料の物性を計測する。第1の自動洗浄機構は、計測の終了した血液試料を吸引・排出し、反応容器を洗浄する。第2の自動洗浄機構は、血液試料の持ち越しによる検体間の相互汚染や異なる試薬間の汚染を低減するための自動検体液、試薬供給機構の自動洗浄機構である。制御部は、上述の構成要素の動作をコントロールする。
【0005】
通常、1つの検体に対し、最低でも十種類程度の項目について検査が行われる。これらの項目を1台で行うため、化学分析装置には、複数の試薬容器から試薬を選択し、所定の試薬量で順次反応容器に供給する試薬ピペッティング機構が設けられている。試薬ピペッティング機構は、ノズルと、移動機構と、吸引吐出制御ポンプとを備える。ノズルは、主に内部に試薬を吸引して保持する。移動機構は、そのノズルを3次元的に移動させる。吸引吐出制御ポンプは、試料をノズル内に吸引させノズルから吐出させる。
【0006】
一方で、ベッドサイドや救急車、ICUなどのポイントオブケアテスティング(POCT)に用いられる血液分析装置が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
この血液分析装置は、分析装置本体と、カートリッジとを備える。分析装置本体は、光検知器と制御・信号処理・信号の入出力等を行う。カートリッジは、血液試料と試薬との混合・反応を自動的に行うディスク状のカートリッジであり、使い捨て型のものである。このカートリッジは樹脂成形により作成されている。
【0008】
血液試料はカートリッジの中央部にある導入口に手操作にて注入される。カートリッジは、本体にセットされた後、回転駆動される。この回転駆動の遠心作用により血清成分が分離され、所定量の血清が定量されて、カートリッジ内部に予め仕込まれていた希釈液と混合される。さらに、回転駆動と停止とを繰り返すことで、血液試料と希釈液の混合が、内部の液に触れることなく自動で行われ、希釈試料が作成される。
【0009】
希釈試料はカートリッジ最外周に設けられた12個の反応セルに導入される。この反応セルの中には、それぞれ別々の測定項目に対応した乾燥試薬と攪拌用のボールが入れられている。反応セルでは、ボールの攪拌により希釈試料と試薬とが混合される。この結果、希釈試料中の目的とする成分濃度に応じて発色が開始され、この発色を、約12分後にセル内の吸光度を本体に内蔵された光検知器が検出する。カートリッジは測定項目の組み合わせに応じて何種類か用意されている。
この他、毛細管方式により試料を移動し、操作する方法又は装置が開示されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第4,451,433号明細書
【特許文献2】特表平9−504732号公報
【特許文献3】特表2005−518531号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
POCTに用いる分析装置は、以下のようであるのが望ましい。
(1)小型・可搬であること。
(2)分析結果が迅速に得られ、扱いが容易であること。いつでも分析可能とするために事前の立ち上げ操作や保守操作がほとんど必要ないこと。
(3)血液試料などが付着した使い捨ての消耗品が発生する場合には無害化が容易であること。無害化する際に環境に配慮されていること。
(4)診療所などに普及させるために、検査センタへの有償依頼する場合と比較して十分にコスト競争力があること。すなわち経済的であること。
【0012】
ところが、上記特許文献1に記載の化学分析装置は大型であるため、一般にスペースが限られている救急現場や手術室等に設置するのは困難である。また、この装置は、洗浄液や廃液の配管が必要なことから、所定の場所に固定的に設置されるため、在宅患者やベッドサイドへ移動・持ち運ぶのは極めて困難である。
【0013】
また、診療所などで利用するには、上記特許文献1に記載の化学分析装置は、装置コスト、メンテナンスを含めたランニングコストが多大であるため経済的ではない。
【0014】
特許文献2に記載の血液分析装置は、大型の化学分析装置と比較すると小型であるため手術室等でも設置可能である。また、血液試料が触れる部分はすべて使い捨てになっているため洗浄不要であり、持ち運び容易、メンテナンス性も良好である。
【0015】
しかしながら、カートリッジには予めメーカーが決めた測定項目の試薬が封入されており、実際には不必要であっても余分な測定項目を同時に検査しなくてはならない。このことは血液分析装置の迅速性と経済性にとって望ましいことではない。
【0016】
例えば症状に応じて測定したい項目の組み合わせがあっても上記カートリッジ内に、その組み合わせで試薬が入っていなければ、いくつか別の種類のカートリッジを入れ替えて検査を行う必要があり、検査の迅速性が損なわれる。また、このことは経済性の観点からも望ましいことではない。
【0017】
さらに、カートリッジを無害化するには、オートクレーブ等を用いて内部に残留した血液試料を分解する方法があるが、これは非常に手間のかかる作業である。別の無害化方法として焼却処分が考えられるが、カートリッジが樹脂製であるため、焼却はダイオキシンなどの発生が抑制されている高温溶融炉などの施設で行う必要がある。しかしながら、採血管などと同様に焼却対象となるカートリッジの総量は膨大となるので、回収、保管、輸送の手間とコストは甚大になることが予測される。このことは、特許文献3に開示された方法等でも同様である。
【0018】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、小型・可搬で、扱いが容易で、消耗品の無害化が容易で、低コストな検査用シート、化学分析装置及び検査用シートの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記目的を達成するために、本発明の第1の観点に係る検査用シートは、
シート状の紙基材と、
前記紙基材の表面に設けられた第1の耐液性フィルムと、
前記第1の耐液性フィルムが設けられた前記紙基材の面に形成された凹形状の流路を上面から封止する第2の耐液性フィルムと、
を備え、
前記流路として、
一端に液体の試料が導入される開口部が設けられ、他端に大気開放部が設けられ、それらの間に所定の容積を有するサンプリング流路が設けられ、第1の毛細管力及び第1のポンプ圧の少なくとも一方により、前記開口部に導入された液体の試料を前記サンプリング流路に送るための第1の流路と、
一端に開口部が設けられ、他端に大気開放部が設けられ、それらの間に前記サンプリング流路が設けられ、第2の毛細管力及び第2のポンプ圧の少なくとも一方により、前記サンプリング流路に送られた前記試料を下流に送るための第2の流路と、
が形成され、
送られた前記試料と液体の試薬とを混合するための混合用セルと、
前記混合用セルで前記試薬と混合された前記試料の特性を検出する検出用セルと、
が形成されている。
【0020】
前記第2の流路では、
前記第2の毛細管力及び前記第2のポンプ圧の少なくとも一方により、前記開口部に導入された前記試薬が、前記サンプリング流路に送られた前記試料に続いて前記混合用セルに送られる、
こととしてもよい。
【0021】
前記第2の流路では、
前記サンプリング流路の両端に液体の流動を制限する制限部が設けられ、
前記第2の毛細管力及び前記第2のポンプ圧は、前記制限部を介して液体を流動させる大きさを有する、
こととしてもよい。
【0022】
前記第2の流路では、
前記サンプリング流路の下流に所定の容積を有する他のサンプリング流路が設けられ、前記第2の毛細管力及び前記第2のポンプ圧の少なくとも一方により、前記サンプリング流路に送られた前記試料に続いて、前記開口部に導入された前記試薬が、前記他のサンプリング流路に送られ、
前記流路として、
一端に他の試薬が導入される開口部が設けられ、他端に大気開放部が設けられ、それらの間に前記他のサンプリング流路が設けられ、第3の毛細管力及び第3のポンプ圧の少なくとも一方により、前記他のサンプリング流路にある前記試料と前記試薬との混合液と、それに続く前記他の試薬を前記混合用セルに送るための第3の流路がさらに形成されている、
こととしてもよい。
【0023】
前記第2、前記第3の流路では、
前記各サンプリング流路の両端に液体の流動を制限する制限部が設けられ、
前記第2、前記第3の毛細管力及び前記第2、前記第3のポンプ圧は、前記制限部を介して液体を流動させる大きさを有する、
こととしてもよい。
【0024】
前記流路として、
一端に前記試薬が導入される開口部が設けられ、他端に大気開放部が設けられ、それらの間に所定の容積を有する他のサンプリング流路が設けられ、第4の毛細管力及び第4のポンプ圧の少なくとも一方により、前記開口部に導入された試薬を、前記他のサンプリング流路に送るための第4の流路と、
一端に開口部が設けられ、他端に大気開放部が設けられ、それらの間に前記他のサンプリング流路が設けられ、第5の毛細管力及び第5のポンプ圧の少なくとも一方により、前記他のサンプリング流路に送られた前記試薬を、前記混合用セルに送るための第5の流路と、
がさらに形成されている、
こととしてもよい。
【0025】
前記第2、前記第5の流路では、
前記各サンプリング流路の両端に液体の流動を制限する制限部が設けられ、
前記第2、前記第5の毛細管力及び前記第2、前記第5のポンプ圧は、前記制限部を介して液体を流動させる大きさを有する、
こととしてもよい。
【0026】
前記各流路には、
前記大気開放部と、前記サンプリング流路との間に、
駆動液が導入される駆動液導入部と、
前記駆動液導入部から前記大気開放部に向かって、毛細管力が次第に大きくなるように形成されている吸引部と、
がさらに形成されており、
前記紙基材は、吸水による膨張性を有し、
前記第2の耐液性フィルムでは、前記駆動液導入部に対応する位置に開口が設けられ、
前記駆動液導入部に駆動液が導入されると、前記開口を介して侵入した駆動液により、前記紙基材が膨張して、前記吸引部と前記サンプリング流路とを連通させたままで前記駆動液導入部を封止する、
こととしてもよい。
【0027】
前記吸引部は、
前記駆動液導入部から前記大気開放部に向かって、前記流路の断面積を縮小させるか、前記流路の表面のぬれ性を高くなるように材質を変更することにより、毛細管力が次第に大きくなるように形成されている、
こととしてもよい。
【0028】
前記紙基材は、吸水による膨張性を有し、
前記第2の耐液性フィルムでは、前記各開口部に対応する位置に開口が設けられ、
前記各開口部に液体が導入されると、前記開口を介して侵入した液体により、前記紙基材が膨張して前記流路を圧迫することにより、前記ポンプ圧を発生させる、
こととしてもよい。
【0029】
前記紙基材は、吸水による膨張性を有し、
前記第2の耐液性フィルムでは、前記試料を導入する開口部に対応する位置に開口が設けられ、
前記開口部に試料が導入されると、前記開口を介して侵入した試料により、前記紙基材が膨張して、前記開口部を封止する、
こととしてもよい。
【0030】
前記第1の毛細管力及び前記第1のポンプ圧が、前記第2の毛細管力及び前記第2のポンプ圧よりも大きい、
こととしてもよい。
【0031】
前記検出用セルでは、
内部の液体の光学特性又は電気的特性が検出される、
こととしてもよい。
【0032】
前記制限部は、
前記サンプリング流路に比べ断面積が小さい流路であるか、吸水による前記紙基材の膨張により開く流路である、
こととしてもよい。
【0033】
前記紙基材には、
吸水性ポリマーが分散されている、
こととしてもよい。
【0034】
複数の前記流路が配列されている、
こととしてもよい。
【0035】
本発明の第2の観点に係る化学分析装置は、
本発明の検査用シートを保持するシート保持部と、
前記検査用シートの試薬導入用の開口部に、試薬を滴下する試薬供給部と、
前記検査用シートの検出用セル内の液体の特性を検出する検出部と、
を備える。
【0036】
本発明の第3の観点に係る検査用シートの製造方法は、
表面に第1の耐液性フィルムが設けられたシート状の紙基材を塑性変形部材上に載置した状態で、前記第1の耐液性フィルムが設けられた前記紙基材の面に対して加熱しながら型を押し付けることにより、凹形状の流路を形成する加熱形成工程を含む検査用シートの製造方法である。
【発明の効果】
【0037】
本発明に係る検査用シートによれば、第1の流路の開口部に導入された液体の試料は、第1の流路に生じる第1の毛細管力又は第1のポンプ圧によって、サンプリング流路に送られる。サンプリング流路内の試料は、第2の毛細管力又は第2のポンプ圧によって第2の流路を流れ、最終的に混合用セルに送られる。混合用セルに送られた試料はここで試薬と混合され、混合された液体の特性が検出用セルで検出される。この検査用シートは、主として紙基材より成るので、小型・可搬である。また、自動的に試料を定量化できるのでメンテナンスが不要である。また、焼却しても有害物質を出さないので、消耗品の無害化が容易である。さらに、非常に低コストである。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の実施形態に係る化学分析装置の構成を示す斜視図である。
【図2】図2(A)乃至図2(D)は、図1のシートの流路の形成工程を説明するための図である。
【図3】シートの上面図である。
【図4】図3の流体回路の上面図である。
【図5】図3の流体回路の流路断面を模式的に示す断面図である。
【図6】図3の流体回路のサンプリング流路付近の拡大図である。
【図7】反応セル部の構造を示す図である。
【図8】図1のコントローラによって実行される処理のフローチャートである。
【図9】試料が滴下されたときの様子を示す図である。
【図10】試料駆動液が滴下されたときの様子を示す図である。
【図11】試料導入口及び試料駆動液導入口が閉じたときの様子を示す図である。
【図12】試薬と試薬駆動液が滴下したときの様子を示す図である。
【図13】試料と試薬が吸引される様子を示す図である。
【図14】反応セル部に試料と試薬が送られた状態を示す図である。
【図15】図15(A)乃至図15(C)は、検査用シート内の変化を説明するための図である。
【図16】図16(A)乃至図16(C)は、試料駆動液導入口と微小流路との接続関係の他の例(その1)を説明するための図である。
【図17】図17(A)乃至図17(C)は、試料駆動液導入口と微小流路との接続関係の他の例(その2)を説明するための図である。
【図18】流体回路の他の例(その1)を示す図である。
【図19】流体回路の他の例(その2)を示す図である。
【図20】流体回路の他の例(その3)を示す図である。
【図21】流体回路の他の例(その4)を示す図である。
【図22】図22(A)及び図22(B)は、図21の流体回路の制限部周辺の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
この発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0040】
まず、図1を参照して、本実施形態に係る化学分析装置100について説明する。図1では、化学分析装置100を、斜め上方から見ている。
【0041】
化学分析装置100は、装置本体1とシート2とを備える。シート2は、装置本体1に装填される。
【0042】
装置本体1は、リニア駆動部21を備える。リニア駆動部21は、装置本体1に装填されたシート2を保持する。リニア駆動部21は、保持したシートをX軸方向に移動させる回転ローラを有する。
【0043】
装置本体1は、ディスペンサユニット22をさらに備える。ディスペンサユニット22は、リニア駆動部21によって駆動されるシート2の上部(+Z側)に、複数設けられている。
【0044】
各ディスペンサユニット22は、リニア駆動部21によって駆動されるシート2に対して、所定量の試薬や駆動液を滴下する。化学分析装置100では、ディスペンサユニット22の数によって、同時に測定可能な最大の測定項目数が規定される。
【0045】
各ディスペンサユニット22は、試薬カートリッジ221、試薬用ポンプ222、駆動液カートリッジ223及び駆動液用ポンプ224を備える。
【0046】
試薬カートリッジ221には、試薬が蓄積されている。試薬ポンプ222は、試薬を吐出するために、試薬カートリッジ221と配管で連結されている。試薬カートリッジ221に蓄積された試薬は、試薬ポンプ222から吐出される。
【0047】
駆動液カートリッジ223には、試薬や試料の駆動を制御するために滴下する駆動液が蓄積されている。駆動液用ポンプ224は、駆動液を吐出するために、駆動液カートリッジ223と連結されている。駆動液カートリッジ223に蓄積された駆動液は、駆動液用ポンプ224から吐出される。
【0048】
化学分析装置100は、光検出ユニット23をさらに備える。光検出ユニット23は、ディスペンサユニット22の並びの延長(Y軸方向)に配置されている。光検出ユニット23は、検査用シート2の後述する反応セル部内の液体の特性を検出する検出部に対応する。
【0049】
また、化学分析装置100は、ユニット駆動部24をさらに備える。ユニット駆動部24は、各ディスペンサユニット22及び光検出ユニット23をY軸方向に並行移動させる。
【0050】
化学分析装置100は、信号処理部25とコントローラ26とをさらに備える。信号処理部25は、コントローラ26からの指示を受けて、リニア駆動部21、試薬用ポンプ222、駆動液用ポンプ224及び光検出ユニット23に制御信号を送出することにより、これらを制御する。コントローラ26は、信号処理部25を介して、各部を制御し、分析項目に関する情報や分析結果の表示・記録を行う。
【0051】
図2(A)乃至図2(D)には、シート2における流路の形成工程が示されている。
【0052】
図2(A)に示すように、シート2の紙基材5は、例えば300μm程度の厚みを有するシート状の紙材である。紙基材5は、吸水により膨張する。この紙基材5の表面上には防水処理のために極めて薄い(例えば20μm程度の)第1の耐液性フィルムとしての防水樹脂フィルム(例えばポリオレフィン)6がコーティングされ、いわゆる樹脂コート紙が形成されている。この樹脂コート紙は、防水樹脂フィルム6側の面が上を向くようにして、ステンレス鋼(SUS)の平板と弾性層とで形成される支持プレート8の上に置かれた状態で、加圧プレート7でプレスされ、平坦化される(平坦化工程)。なお、加圧プレート7には、ヒータが内蔵されており、加熱しながらの加圧が可能である。
【0053】
続いて、図2(B)に示すように、支持プレート8によって支持されたシート2に対して、ミクロンオーダの精度を持つ型9が加圧プレート7によって加熱しながら押し付けられる(加熱形成工程)。これにより、図2(C)に示すように、型9の転写により、紙基材5上に流路を構成する溝、すなわち凹形状の流路が形成される。
【0054】
なお、型9としては、シリコン製で深堀エッチングにより作製されたものを用いることができる。型9の溝の深さは、例えば40μm以下である。また、転写時の加熱温度は、90度以上95度以下が望ましく、加熱・加圧時間は2分程度が望ましい。また、加圧力は、台座の弾性層の圧縮量が約0.5mmとなる程度とするのが望ましい。
【0055】
また、図2(B)の加熱形成工程において、シート2と支持プレート8の弾性層との間に、例えば厚さ約0.4mmのパラフィルム等の塑性変形素材を挟むようにすれば、シート2の平面化不良や形成される溝の角落ちなどを発生しにくくすることができる。
【0056】
続いて、図2(D)に示すように、防水樹脂フィルム6が設けられた紙基材5の面に対して、その上から片面に粘着剤による接着又は加熱圧着により、凹形状の流路を上面から封止するように第2の耐液性フィルムとしての樹脂製フィルム10が貼り付けられる。これにより、凹形状の溝の上面が封止され、流路が形成される。
【0057】
なお、この貼り付けに先立って、樹脂製フィルム10には、例えばプレス加工により、後述する試料導入口111、試薬導入口112、試料駆動液導入口114、試薬駆動液導入口117、大気開放部119などが設けられている。また、紙基材5にコーティングされる防水樹脂フィルム6には、上述の平坦化工程に先だって、例えばプレス加工により、試料導入口111、試料駆動液導入口114に対応する位置に、後述する微小開口121、124が設けられている。試薬導入口111、試薬駆動液導入口117についても同様である。
【0058】
なお、焼却可能な防湿性を有するセロファンを熱融着により貼り付けることにより、流路を形成するようにしてもよい。
【0059】
複数項目の検査を1枚のシート2で同時に行うために、シート2には、図3に示すように、同じ流路パターンを有する複数の流体回路11が配列されている。なお、図1のシート2は、12個の流体回路11を有している。
【0060】
1つの流体回路11に着目する。図4には、流体回路11の上面図が示されている。図4に示すように、流体回路11には、試料導入口111、試薬導入口112が設けられている。試料導入口111は、試料を導入するための開口部である。試薬導入口112は、試料中の目的とする成分と反応して発色反応を起こす試薬を導入するための開口部である。
【0061】
さらに、流体回路11には、試料駆動液導入口114、試薬駆動液導入口117がさらに設けられている。試料駆動液導入口114は、試料を駆動する駆動液を導入するための開口部である。試薬駆動液導入口117は、試薬を駆動する駆動液を導入するための開口部である。
【0062】
図5には、流体回路11の一部の流路断面が模式的に示されている。図5に示すように、試料導入口111及び試料駆動液導入口114は、上述のように、樹脂性フィルム10(又はセロファンシート)の所定の位置に予めプレス加工により開けられている。試薬導入口112及び試薬駆動液導入口117も同様である。
【0063】
また、防水樹脂フィルム6では、試料導入口111の下方に対応する位置に、微小開口121が設けられている。さらに、防水樹脂フィルム6では、試料駆動液導入口114の下方に対応する位置に微小開口124が設けられている。試薬導入口112及び試薬駆動液導入口117の下方に対応する位置にも、それぞれ微小開口が設けられている。微小開口121、124は、試料、試薬又は駆動液を紙基材5に浸透させるために設けられている。微小開口121、124は、上述のように、試料導入口111等と同様に、プレス加工により開けられている。微小開口121は、微小開口124よりも小さくなっている。
【0064】
本実施形態では、紙基材5の反対側(防水樹脂フィルム6が設けられていない方)の試料導入口111、試料駆動液導入口114に対応する位置には、膨張しないシール15、16が貼り付けられている。このシール15、16は、紙基材5の膨張率との差によって大きく変形し、試料導入口111、試料駆動液導入口114の封止をより強固にする。
【0065】
また、後述するように膨張を促進させるために紙基材5の内部に高分子吸収材(吸水性ポリマー)を分散させておいてもよい。
【0066】
図4に戻り、試料導入口111から微小流路1111が延びている。この微小流路1111の幅は、例えば150μmであり、深さは例えば40μm以下である。この微小流路1111は、サンプリング流路113、微小流路1141を介して試料駆動液導入口114に連結されている。サンプリング流路113の幅も例えば150μmであり、深さは例えば40μm以下である。すなわち、サンプリング流路113は、所定の容積を有する。試料駆動液導入口114のもう一端は、毛細管力を利用した試料吸引部115に連通している。
【0067】
試料吸引部115は、吸引流量を安定化するために1本の微小流路から複数のより断面積の小さい微小流路に枝分かれした構造となっている。試料駆動液導入口114から最初に枝別れする微小流路の幅は、例えば約100μmとなっており、その次に枝別れする微小流路の幅は、約50μmとなっている。試料吸引部115のもう一端は、大気開放部119に連通している。すなわち、試料吸引部115は、試料駆動液導入部114から大気開放部119に向かって流路の断面積が縮小しており、毛細管力が次第に大きくなるように形成されている。
【0068】
以上の経路が第1の流路に対応する。この第1の流路は、試料吸引部115で発生する毛細管力(第1の毛細管力)によって試料導入口111に導入された試料をサンプリング流路113に送るための流路である。
【0069】
同様に、試薬導入口112から微小流路1121が延びている。この微小流路1121は、サンプリング流路113を経由して、微小流路1151、反応セル部116、微小流路1171、さらには試薬駆動液導入口117と連通しており、さらに試薬吸引部118、大気開放部119に連通している。試薬吸引部118は、試料吸引部115と同じ構造を有し、毛細管力(第2の毛細管力)で試薬やサンプリング流路113に送られた試料をその下流の反応セル部116に吸引する。この場合、試薬導入口112から導入された試薬は、サンプリング流路113内の試料に続いて反応セル部116に送られる。
【0070】
図6に示すように、微小流路1121、1151では、サンプリング流路113に連通する部分(すなわちサンプリング流路の両端)に、その断面積が微小流路1121、1151よりも小さい狭窄部1122、1152が形成されている。狭窄部1122、1152から断面積が拡大する部分において、表面張力は非常に大きくなるため、試料がサンプリング流路113から微小流路1121、1151を超えて流れることはなく、サンプリング流路113のみを満たすようになっている。すなわち、狭窄部1122、1152が、液体の流動を制限する制限部に対応する。なお、試薬吸引部118により吸引が開始されると、その吸引力(第2の毛細管力)は、狭窄部1122、1152による液体の流動の制限を上回って、微小流路1121内の試薬やサンプリング流路113内の試薬を、反応セル部116に送ることができるようになっている。
【0071】
以上の経路が第2の流路に対応する。第2の流路は、試料吸引部118で発生する毛細管力(第2の毛細管力)によって試薬導入口112に導入された試薬をサンプリング流路113に送るための流路である。なお、試料吸引部115における流路の断面積は、試薬吸引部118の流路の断面積より全体的に小さくなっている。これにより、試料吸引部115の吸引力(第1の毛細管力)の方が、試薬吸引部118の吸引力(第2の毛細管力)より大きくなる。
【0072】
また、図7に示すように、反応セル部116の前半には、混合用セルとしての混合用流路1161が設けられている。混合用流路1161には、微小な凸部の配列が設けられている。凸部間の表面張力により試料が捕捉されるものの、前後の空気は下流に流れ除去される。また、この流路網内で、試料と試薬とが混合されるようになる。
【0073】
また、反応セル部116の後半には、検出用セルとしての光検出用セル1162が設けられている。光検出用セル1162では、液体の流れ(流路方向)に沿って延びる微小なリブがアレイ状に並んでいる。そのリブの表面は光反射膜で被覆されている。光検出ユニット23は、この光検出用セル1162内の液体(試薬と混合された試料)の特性を検出する。
【0074】
次に、化学分析装置100の動作について、図8のコントローラ26によって実行される処理のフローチャート、図9乃至図14、図15(A)乃至図15(C)を参照しながら説明する。
【0075】
まず、図9、図15(A)に示すように、手操作により注射器3(図1参照)を用いてシート2上の各流体回路11の試料導入口111に試料4が順次滴下される。
【0076】
滴下された試料4は、毛細管力により微小流路1111を経てサンプリング流路113に至る。試料4は、サンプリング流路113を満たした後、さらに、試料吸引部115に連通する微小流路1141へと進む。この動作を、以下では試料セルフプライミングともいう。
【0077】
以上の試料セルフプライミングの動作は、試料4がシート2に滴下された後、自動的に行われる。
【0078】
滴下終了後、シート2は、装置本体2に前方(+X側)より導入される。図8に示すように、コントローラ26は、シート2が導入されるまで待っている(ステップS1;No)。シート2が導入されると(ステップS1;Yes)、コントローラ26は、信号処理部25を介してリニア駆動部21の回転ローラを駆動して、シート2を両端に挟んだ状態で固定する。この段階で、上述の試料セルフプライミングは完了している。
【0079】
続いて、コントローラ26は、信号処理部25を介して試料駆動液導入口114と駆動液用ポンプ224の吐出口とが相対するように両者の位置あわせを行う(ステップS2)。この動作は、リニア駆動部21の回転ローラがシート2をX軸方向に駆動するとともに、ユニット駆動部24がディスペンサユニット22をY軸方向に駆動させることにより行われる。
【0080】
続いて、コントローラ26は、信号処理部25を介して、図10に示すように、所定量の駆動液12を試料駆動液導入口114に滴下する(ステップS3)。
【0081】
図15(B)に示すように、駆動液12が滴下されると、その一部は試料駆動液導入口114の底部に設けられた微小開口124を経由して紙基材5に浸透する。紙基材5では、駆動液が侵入するとその部分が徐々に膨張を始める。この膨張により、図15(C)に示すように所定時間経過後に試料駆動液導入口114が封止される。
【0082】
試料駆動液導入口114が封止されても、試料駆動液導入口114の外周の凹部には空間が残されており、その空間を流路として試料4の入った微小流路1141と試料吸引部115とが連通している。
【0083】
図11に示すように、滴下された駆動液12は毛細管力(第1の毛細管力)により試料吸引部115に到達しており、試料駆動液導入口114が封止された段階でサンプリング流路113を満たしている試料4を、さらに試料駆動液導入口114の方向に吸引する。
【0084】
駆動液12が試料吸引部115の終端部の大気開放部119に到達すると、試料4の吸引が停止する。
【0085】
その後、試料導入口111においても、試料駆動液導入口114と同様の動作で、微小開口121を介して紙基材5が試料4を吸引して膨張することにより試料導入口111が封止される。試料導入口111の封止を試料駆動液導入口114の封止より遅くするためには、微小開口121の大きさを、微小開口124の大きさより小さくすればよい。
【0086】
図8に戻り、ステップS3の実行後、コントローラ26は、信号処理部25を介してユニット駆動部24とリニア駆動部21の回転ローラを駆動し、試薬用ポンプ222の吐出口が試薬導入口112に相対するように位置合わせを行う(ステップS4)。続いて、コントローラ26は、信号処理部25を介して、試薬用ポンプ222を駆動して、所定量の試薬14を試薬導入口112に滴下させる(ステップS5)。図12には、試薬14が試薬導入口112に滴下された様子が示されている。
【0087】
図8に戻り、続いて、コントローラ26は、信号処理部25を介して試薬駆動液ポンプ224の吐出口が試薬駆動液導入口117に相対するように位置合わせを行う(ステップS6)。続いて、コントローラ26は、信号処理部25を介して、図12に示すように、試薬駆動液ポンプ224から試薬駆動液導入口117に対して所定量の駆動液12を滴下する(ステップS7)。これにより、試薬駆動液導入口117が封止され、試薬吸引部118とサンプリング流路113に至る微小流路1171とが連通する。そして、図13に示すように、駆動液12が試薬吸引部118に吸引されるのに伴って、サンプリング流路113にある試料4が反応セル部116に吸引される。
【0088】
その際、試料導入口111は封止されているため、試料導入口111に連通する微小流路1111に存在する試料が引き込まれることはない。また、試料吸引部115の終端の流路断面積は試薬吸引部118の終端の流路断面積より小さいので、試薬吸引部118の吸引力が試料駆動液導入口114に連通する微小流路1141に存在する試料4を吸引しようとしても、試薬吸引部115の終端にて試薬吸引部118の吸引力よりも大きい逆向きの吸引力が発生する。これにより、微小流路1141は実質的に片側で封止されたのと等価となるので、微小流路1141に存在する試料4が実質的にサンプリング流路113内に引き込まれることはない。
【0089】
以上のことから、試薬吸引部118の吸引力により、試薬導入部112に連通するサンプリング流路113に存在する試料4だけが切り取られ、反応セル部116に送られる。これにより、試料4が定量化される。
【0090】
この際、サンプリング流路113内の試料4は、前後を空気で挟まれた状態で反応セル部116に吸引される。しかしながら、混合用セル1161には微小な凸部が多数設けられており、凸部間の表面張力により試料が捕捉されるものの、前後の空気は下流に流れ除去される。
【0091】
しばらくして、図14に示すように、試薬導入口112に滴下された試薬14は、サンプリング流路113を経由して反応セル部116まで吸引されて、混合用流路1161の凸部に捕捉されている試料と混合しながら後半の光検出用セル1162の位置に至る。下流の試薬吸引部118の毛細管流路の駆動液12が末端位置の大気開放部119に到達すると、駆動液12の流れが停止する。この後、光検出用セル1162に留まっている試料4と試薬14とが混合された混合液では、試料4中の目的成分と試薬14とが反応して発色が開始される。
【0092】
図8に戻り、続いて、コントローラ26は、信号処理部25を介して、ユニット駆動部24とリニア駆動部21の回転ローラとを駆動して、光検出ユニット23と反応セル部116の光検出用セル1162とが相対するように位置合わせを行う(ステップS8)。
【0093】
その後、信号処理部25は、光検出ユニット23を用いて検査を行う(ステップS9)。ここで、光検出用セル1162の微小リブの並列アレイは、グレーティングの機能を有するため、図7に示すように、光検出ユニット23は、ブロードな波長の光を、その部分に斜めに入射させる。反射光はグレーティングによって分光される。試料4と試薬14の混合液の発色に応じて反射光の分光スペクトルが変化するため、光検出ユニット23でこれを検知することで試料4の目的成分の濃度を計測することができる。
【0094】
なお、単に、光検出用セル1162に向けて発色に対応した波長の光を照射させるようにしてもよい。このようにしても、その光は混合液を透過したのち、セル底面の光反射膜で反射されて再び光検出ユニット23に戻る。混合液の発色の度合いに応じて反射光の吸収スペクトルが変化するので試料4の目的成分の濃度を計測することができる。
【0095】
以上、1つの流体回路11に着目して試料、試薬の流れを説明した。本実施形態では、実際には測定項目に応じて異なる試薬を試薬カートリッジ221に詰めた複数のディスペンサユニット22を動作させて複数の流体回路11で並行して計測が行われる。このようにすれば、1つのシート2で、複数(本実施形態では12種類)の測定項目を同時に検査することができる。この結果、1つの検体に要する計測時間を著しく短縮することができる。
【0096】
さらに、シート2上の複数の流体回路11に対して異なる検体の試料を滴下し、各検体毎の測定項目のオーダに応じた試薬を滴下することで、同一のシート2を用いて複数の検体、複数の測定項目を同時に計測することもできる。
【0097】
また、本実施形態では、試料導入口111や駆動液導入口114の封止により、微小流路1141と試料吸引部115とを連結させたが、図16(A)乃至図16(C)、図17(A)乃至図17(C)に示すように、試料駆動液導入口114を微小流路1141から離れた位置に配置しても同様の効果が得られる。
【0098】
すなわち、図16(A)、図17(A)に示すように試料駆動液導入口114に試料駆動液を導入しても、上述と同様の原理により、図16(B)、図17(B)に示すように試料駆動液導入口114が封止され、図16(C)、図17(C)に示すように、微小流路1141における試料に対する吸引力が確保される。
【0099】
また、本実施形態では1つの試薬と試料を混合反応させる場合について説明した。しかしながら、試料中の目的成分によっては第1の試薬にて目的成分と反応させ、第2の試薬で標識反応させる場合がある。このような場合には、例えば、図18に示すように、サンプリング流路1131の下流に、更にもう1つのサンプリング流路1132を設けて、そこに合流する第3の流路を設ければ第1の試薬のみの場合と同様に試料の試薬反応を計測することができる。
【0100】
すなわち、第3の流路は、一端に液体の試料が導入された後に封止される試薬導入部130が設けられ、他端に大気開放部119が設けられ、サンプリング流路1132を含み、サンプリング流路1132の両端に液体の流動を制限する制限部1122、1152が形成され、第1、第2の流路と同様に、制限部を1122、1152を介して液体を流動させる毛細管力(第3の毛細管力)により、サンプリング流路1132に送られた試料を反応セル部116に送るための流路である。図18において、Aは、試料の流れ、Bは、試料及び第1の試薬の混合液の流れ、Cは、第2の試薬そして、第2の試薬と上記混合液との流れを示している。
【0101】
本実施形態では、試薬の量に対して試料の量が少ない場合が想定されており、定量性の観点から試料のみを対象としてサンプリング流路113が設けられている。しかしながら、試薬の量が試料の量に比べて相対的に少ない場合や、より正確な定量精度が求められる場合には、図19に示すように、試薬に対してもサンプリング流路1133を設けてもよい。
【0102】
図19に示すように、この流体回路11には、第1の流路、第2の流路に続いて、第4の流路、第5の流路がさらに形成されている。
【0103】
第4の流路は、一端に試薬が導入される試薬導入部112が設けられ、他端に大気開放部119が設けられ、それらの間に所定の容積を有するサンプリング流路1133が設けられている。第4の流路は、制限部を1122、1152を介して液体を流動させる毛細管力(第4の毛細管力)により、試薬導入部112に導入された試薬を、サンプリング流路113に送るための流路である。
【0104】
第5の流路は、一端に開口部133が設けられ、他端に大気開放部119が設けられ、サンプリング流路1133を含み、サンプリング流路1133の両端に試薬の流れを制限する制限部1122、1152を介して連結されている。第5の流路は、制限部を1122、1152を介して液体を流動させる毛細管力(第5の毛細管力)により、サンプリング流路1133に送られた試薬を、反応セル部116に送るための流路である。
【0105】
図19において、Aは、試料が流れる様子を示し、Bは、試薬が流れる様子を示す。また、Cは、サンプリング流路1133でサンプリングされた試薬が反応セル部116に送られる様子を示し、Dは、サンプリング流路1131でサンプリングされた試料が反応セル部116に送られる様子を示している。
【0106】
また、本実施形態では、試薬や駆動液の吐出手段として、比較的定量性のあるインクジェット方式のポンプを採用した。しかしながら、上述のようにそれらの定量性は基本的にシート2の流体回路11によって担保される。このため、試薬を予めプレ充填した使い捨て型の注射筒を用いて、その注射筒のシリンダーを機械的に駆動して、試薬を滴下するようにしてもよい。
【0107】
さらに、上記実施形態では、試料、試薬、駆動液の導入口の封止方法として紙基材5の膨張、紙基材5とシール15、16の膨張差、あるいは紙基材5内に混在させた高分子吸収材等を用いたが、より直接的に開口部を封止するようにしてもよい。例えば、図20に示すように、端が平坦な棒材13を上面方向から押圧して上面の防水樹脂フィルム6を、試料導入口111等に接着させ封止させてもよい。また、加熱により防水樹脂フィルム6を溶かして溶着させることにより、試料導入口111等を封止するようにしてもよい。
【0108】
本実施形態ではサンプリング流路113での定量性を確保するために、試料吸引部115と試薬吸引部118の末端部の断面積を変更して毛細管力に差を設け、試料駆動液導入口114に連通する微小流路1141に存在する試料がサンプリング流路113に引き込まれないようにした。しかしながら、試料吸引部115の末端の大気開放部119に試料駆動液導入口114と同様の封止構造を持たせることで、より確実に試料の流動を停止させることができる。
【0109】
本実施形態では、光検出用セル1162の底面からの反射光を検知する方法について説明したが、紙の反対面から強い光を当てて透過光の吸収スペクトルを検出することで発色反応を計測するようにしてもよい。
【0110】
また、本実施形態では、試料の成分の検出方法として試薬と反応したときの吸光度や吸光スペクトルなどの光学特性を検出する方法を説明したが、反応セル部116に導電性フィルム又は導電性の素材をコーティングし、それらを電極として液体の電気的特性を検出するようにしてもよい。
【0111】
本実施形態では、毛細管力による試料吸引部115、試薬吸引部118が設けられているが、図21に示すように試料導入口111、試薬導入口112及び駆動液導入口114周辺の紙基材5の膨張動作をポンプとして利用して送液を行うようにしてもよい。紙基材5が膨張して導入口を封止後、紙基材5がさらに膨張することで流路内を圧迫してポンプ圧を発生させ、導入口内部に残留した試料又は試薬を押し出すことで送液が行われる。
【0112】
また、この場合にサンプリング流路1131から試薬導入口111や反応セル部116方向に試料が漏れださないように、図22(A)、図22(B)に示すように、制限部1123を設けるようにしてもよい。この制限部1123は、通常は閉じている。
【0113】
なお、図21の流体回路11の試料及び試薬の流れは、図19の流体回路11における流れA乃至Dと全く同じである。
【0114】
制限部1123近傍の防水樹脂フィルム6、樹脂製フィルム10には開口300が設けられている。導入口114の駆動液の送液動作でサンプリング流路113内の液体を押し出す際には、ここに同様に駆動液を滴下することでその下部の紙基材5が膨張し、上記制限部1123を下から押し上げることで制限部1123の流路幅が広がり試料等が流れるようになる。
【0115】
このように、上述の第1〜第5の毛細管力を、上述のような原理により第1〜第5のポンプ圧に代えることができる。
【0116】
本実施形態では、図2(B)に示すように型9を押し当てて随時シート2の流体回路11を成型するいわゆる(Hot Embossing)による製作方法を示したが、型9を円筒状の表面に設け、紙基材5としてロール紙を用い、上面の防水樹脂フィルム6もロール状にしておくことで、流れ生産方式で、シート2を迅速かつ安価に大量生産することができる。
【0117】
これに対して、本実施形態に係る化学分析装置100では、紙を基材とした使い捨ての流路付きのシート2を使用している。このシート2内には試薬等は封入されておらず、オーダーに応じて駆動する試薬を選択することで測定項目を設定することができる。また、試料が触れる部分はすべて使い捨てとなるため、面倒な洗浄や装置の保守が不要である。さらに紙基材5のコストも低廉であり、焼却等による無害化も極めて容易である。
【0118】
すなわち、本実施形態に係るシート2によれば、試料導入部111に導入された試料は、毛細管力等によって、サンプリング流路113に送られる。サンプリング流路113は、所定の容積に規定されているので、サンプリング流路113に送られた試料は、そこで定量化される。サンプリング流路に送られた試料は、毛細管力等によって混合用流露1161に送られる。混合用セル1161に送られた試料はここで試薬と混合され、混合液の特性が光検出セル1162で検出される。シート2は、主として紙基材5より成るので、小型・可搬である。また、自動的に試料を定量化できるのでメンテナンスも不要である。また、焼却しても有害物質を出さないので、消耗品の無害化が容易である。さらに、非常に低コストである。
【0119】
なお、試料吸引部115等では、流路の断面積を次第に小さくすることにより発生する毛細管力によって等を吸引したが、下流に行くに従って表面のぬれ性が高くなるように流路の表面の材質を変更することにより毛細管力を発生させるようにしてもよい。
【0120】
なお、試料又は試薬の厳密な定量化が必要ない分析を行わない場合には、狭窄部1122、1152等の制限部が設けられていない検査用シートを用いるようにしてもよい。
【0121】
本発明は、感染性の成分を含有している可能性のある生体試料を検査する医療系の化学分析装置に好適である。
【0122】
なお、本発明は、上記実施の形態及び図面によって限定されるものではない。本発明の要旨を変更しない範囲で実施の形態及び図面に変更を加えることができるのはもちろんである。
【産業上の利用可能性】
【0123】
本発明は、病院等における血液検査等に特に有益である。
【符号の説明】
【0124】
1 装置本体
2 シート
3 注射器
4 試料
5 紙基材
6 防水樹脂フィルム
7 加圧プレート
8 支持プレート
9 型
10 樹脂製フィルム
11 流体回路
12 駆動液
13 棒材
14 試薬
15、16 シール
21 リニア駆動部
22 ディスペンサユニット
23 光検出ユニット
24 ユニット駆動部
25 信号処理部
26 コントローラ
100 化学分析装置
111 試料導入口
112 試薬導入口
113 サンプリング流路
114 試料駆動液導入口
115 試料吸引部
116 反応セル部
117 試薬駆動液導入口
118 試薬吸引部
119 大気開放部
121 微小開口
124 微小開口
130 試薬導入部
131 試薬駆動液導入部
133 試薬導入部
221 試薬カートリッジ
222 試薬用ポンプ
223 駆動液カートリッジ
224 駆動液用ポンプ
300 開口
1111 微小流路
1121 微小流路
1122 狭窄部
1123 制限部
1131 サンプリング流路
1132 サンプリング流路
1141 微小流路
1151 微小流路
1152 狭窄部
1161 混合用流路
1162 光検出用セル
1171 微小流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状の紙基材と、
前記紙基材の表面に設けられた第1の耐液性フィルムと、
前記第1の耐液性フィルムが設けられた前記紙基材の面に形成された凹形状の流路を上面から封止する第2の耐液性フィルムと、
を備え、
前記流路として、
一端に液体の試料が導入される開口部が設けられ、他端に大気開放部が設けられ、それらの間に所定の容積を有するサンプリング流路が設けられ、第1の毛細管力及び第1のポンプ圧の少なくとも一方により、前記開口部に導入された液体の試料を前記サンプリング流路に送るための第1の流路と、
一端に開口部が設けられ、他端に大気開放部が設けられ、それらの間に前記サンプリング流路が設けられ、第2の毛細管力及び第2のポンプ圧の少なくとも一方により、前記サンプリング流路に送られた前記試料を下流に送るための第2の流路と、
が形成され、
送られた前記試料と液体の試薬とを混合するための混合用セルと、
前記混合用セルで前記試薬と混合された前記試料の特性を検出する検出用セルと、
が形成されている検査用シート。
【請求項2】
前記第2の流路では、
前記第2の毛細管力及び前記第2のポンプ圧の少なくとも一方により、前記開口部に導入された前記試薬が、前記サンプリング流路に送られた前記試料に続いて前記混合用セルに送られる、
ことを特徴とする請求項1に記載の検査用シート。
【請求項3】
前記第2の流路では、
前記サンプリング流路の両端に液体の流動を制限する制限部が設けられ、
前記第2の毛細管力及び前記第2のポンプ圧は、前記制限部を介して液体を流動させる大きさを有する、
ことを特徴とする請求項2に記載の検査用シート。
【請求項4】
前記第2の流路では、
前記サンプリング流路の下流に所定の容積を有する他のサンプリング流路が設けられ、前記第2の毛細管力及び前記第2のポンプ圧の少なくとも一方により、前記サンプリング流路に送られた前記試料に続いて、前記開口部に導入された前記試薬が、前記他のサンプリング流路に送られ、
前記流路として、
一端に他の試薬が導入される開口部が設けられ、他端に大気開放部が設けられ、それらの間に前記他のサンプリング流路が設けられ、第3の毛細管力及び第3のポンプ圧の少なくとも一方により、前記他のサンプリング流路にある前記試料と前記試薬との混合液と、それに続く前記他の試薬を前記混合用セルに送るための第3の流路がさらに形成されている、
ことを特徴とする請求項1に記載の検査用シート。
【請求項5】
前記第2、前記第3の流路では、
前記各サンプリング流路の両端に液体の流動を制限する制限部が設けられ、
前記第2、前記第3の毛細管力及び前記第2、前記第3のポンプ圧は、前記制限部を介して液体を流動させる大きさを有する、
ことを特徴とする請求項4に記載の検査用シート。
【請求項6】
前記流路として、
一端に前記試薬が導入される開口部が設けられ、他端に大気開放部が設けられ、それらの間に所定の容積を有する他のサンプリング流路が設けられ、第4の毛細管力及び第4のポンプ圧の少なくとも一方により、前記開口部に導入された試薬を、前記他のサンプリング流路に送るための第4の流路と、
一端に開口部が設けられ、他端に大気開放部が設けられ、それらの間に前記他のサンプリング流路が設けられ、第5の毛細管力及び第5のポンプ圧の少なくとも一方により、前記他のサンプリング流路に送られた前記試薬を、前記混合用セルに送るための第5の流路と、
がさらに形成されている、
ことを特徴とする請求項1に記載の検査用シート。
【請求項7】
前記第2、前記第5の流路では、
前記各サンプリング流路の両端に液体の流動を制限する制限部が設けられ、
前記第2、前記第5の毛細管力及び前記第2、前記第5のポンプ圧は、前記制限部を介して液体を流動させる大きさを有する、
ことを特徴とする請求項6に記載の検査用シート。
【請求項8】
前記各流路には、
前記大気開放部と、前記サンプリング流路との間に、
駆動液が導入される駆動液導入部と、
前記駆動液導入部から前記大気開放部に向かって、毛細管力が次第に大きくなるように形成されている吸引部と、
がさらに形成されており、
前記紙基材は、吸水による膨張性を有し、
前記第2の耐液性フィルムでは、前記駆動液導入部に対応する位置に開口が設けられ、
前記駆動液導入部に駆動液が導入されると、前記開口を介して侵入した駆動液により、前記紙基材が膨張して、前記吸引部と前記サンプリング流路とを連通させたままで前記駆動液導入部を封止する、
ことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載の検査用シート。
【請求項9】
前記吸引部は、
前記駆動液導入部から前記大気開放部に向かって、前記流路の断面積を縮小させるか、前記流路の表面のぬれ性が高くなるように材質を変更することにより、毛細管力が次第に大きくなるように形成されている、
ことを特徴とする請求項8に記載の検査用シート。
【請求項10】
前記紙基材は、吸水による膨張性を有し、
前記第2の耐液性フィルムでは、前記各開口部に対応する位置に開口が設けられ、
前記各開口部に液体が導入されると、前記開口を介して侵入した液体により、前記紙基材が膨張して前記流路を圧迫することにより、前記ポンプ圧を発生させる、
ことを特徴とする請求項1乃至9のいずれか一項に記載の検査用シート。
【請求項11】
前記紙基材は、吸水による膨張性を有し、
前記第2の耐液性フィルムでは、前記試料を導入する開口部に対応する位置に開口が設けられ、
前記開口部に試料が導入されると、前記開口を介して侵入した試料により、前記紙基材が膨張して、前記開口部を封止する、
ことを特徴とする請求項1乃至10のいずれか一項に記載の検査用シート。
【請求項12】
前記第1の毛細管力及び前記第1のポンプ圧が、前記第2の毛細管力及び前記第2のポンプ圧よりも大きい、
ことを特徴とする請求項1乃至11のいずれか一項に記載の検査用シート。
【請求項13】
前記検出用セルでは、
内部の液体の光学特性又は電気的特性が検出される、
ことを特徴とする請求項1乃至12のいずれか一項に記載の検査用シート。
【請求項14】
前記制限部は、
前記サンプリング流路に比べ断面積が小さい流路であるか、吸水による前記紙基材の膨張により開く流路である、
ことを特徴とする請求項1乃至13のいずれか一項に記載の検査用シート。
【請求項15】
前記紙基材には、
吸水性ポリマーが分散されている、
ことを特徴とする請求項1乃至14のいずれか一項に記載の検査用シート。
【請求項16】
複数の前記流路が配列されている、
ことを特徴とする請求項1乃至15のいずれか一項に記載の検査用シート。
【請求項17】
請求項1乃至16のいずれか一項に記載の検査用シートを保持するシート保持部と、
前記検査用シートの試薬導入用の開口部に、試薬を滴下する試薬供給部と、
前記検査用シートの検出用セル内の液体の特性を検出する検出部と、
を備える化学分析装置。
【請求項18】
表面に第1の耐液性フィルムが設けられたシート状の紙基材を塑性変形部材上に載置した状態で、前記第1の耐液性フィルムが設けられた前記紙基材の面に対して加熱しながら型を押し付けることにより、凹形状の流路を形成する加熱形成工程を含む検査用シートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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