説明

検査用電極付きウエハ及び屈折率測定方法

【課題】光導波路と電極が形成された光導波路素子の製造工程において、電極の屈折率を簡便且つ正確に測定する。
【解決手段】電気光学効果を有するウエハ1に、複数の光導波路101と、光導波路101に沿ってホット電極及びアース電極が配置されてなる、該電極間に電気信号を進行させて該光導波路を伝搬する光を制御するための進行波型制御電極と、ホット電極と同一断面形状及び同一延伸方向を有し、長さがそれぞれ異なる少なくとも2つの検査用電極201,202と、を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光導波路と電極が形成された光導波路素子の製造工程において前記電極の屈折率を測定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
電気光学効果を有する強誘電体基板にマッハツェンダー型光導波路と進行波型電極を形成した光変調器が開発され、光通信や光計測に利用されている(例えば、特許文献1参照)。この構成の光変調器を広帯域で動作可能とするためには、光導波路を伝搬する光信号と電極を進行するマイクロ波との速度整合をとる必要があり、そのために、光変調器の製造時において、電極のマイクロ波に対する屈折率を測定することは重要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平4−288518号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の光変調器を製造する工程は、一般的には次のようになる。まず、1枚のウエハ上に、薄膜形成工程及びフォトリソグラフィ工程を用いて光導波路パターンと電極パターンを多数形成する。次に、このウエハ内の電極パターンの電気特性を検査する。例えば、この検査工程では、電極にマイクロ波を入力して上述のように電極のマイクロ波に対する屈折率を測定し、得られた屈折率の値によって良否判定を行う。次に、ウエハを個々の光変調器の形状に切断して光変調器1つ1つをチップ化する。次に、チップ化前の電気特性の検査結果と、チップ化後に行う光導波路の光学特性の検査結果とに基づいて、チップ化されたそれぞれの光変調器の良品と不良品を選別する。
【0005】
このように、従来は、ウエハ全面においてマイクロ波の屈折率が不良となっていた場合であっても電極パターンの全数検査を行っていたため、屈折率の測定回数が多く、検査に時間がかかっていた。また、電極の引き回し配線が長く形成された電極パターンでは、その部分が屈折率の測定に影響を及ぼし、実際にマイクロ波と光信号が相互作用する電極の電界印加部(光導波路と平行に配設されている部分)の屈折率を正確に測定することができなかった。また、引き回し配線は電界印加部と延伸方向が異なるため、ウエハの結晶異方性により、引き回し配線の屈折率は電界印加部の屈折率とは異なる値を示すが、このことも実際に知りたい電界印加部の屈折率を正確に測定できない一因となっていた。
【0006】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、その目的は、光導波路と電極が形成された光導波路素子の製造工程において、電極の屈折率を簡便且つ正確に測定することが可能な検査用電極付きウエハ及び屈折率測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、電気光学効果を有するウエハに、複数の光導波路と、前記光導波路に沿ってホット電極及びアース電極が配置されてなる、該電極間に電気信号を進行させて該光導波路を伝搬する光を制御するための複数の進行波型制御電極と、前記ホット電極と同一断面形状及び同一延伸方向を有し、長さがそれぞれ異なる少なくとも2つの検査用電極と、を形成したことを特徴とする検査用電極付きウエハである。
【0008】
また、本発明は、上記の検査用電極付きウエハにおいて、前記複数の進行波型制御電極の電界印加部は複数種類の断面形状を有し、前記断面形状の種類毎に前記少なくとも2つの検査用電極が設けられていることを特徴とする。
【0009】
また、本発明は、上記の検査用電極付きウエハにおいて、前記ホット電極と前記ウエハの間、及び前記検査用電極と前記ウエハの間は、同一の膜構成であることを特徴とする。
【0010】
また、本発明は、電気光学効果を有するウエハに、複数の光導波路と、前記光導波路に沿ってホット電極及びアース電極が配置されてなる、該電極間に電気信号を進行させて該光導波路を伝搬する光を制御するための進行波型制御電極と、前記ホット電極と同一断面形状及び同一延伸方向を有し、長さがそれぞれ異なる少なくとも2つの検査用電極と、を形成し、前記検査用電極の少なくとも2つに電気信号を入力して各電気信号がそれぞれ検査用電極を伝搬するのに要した遅延時間を測定し、前記各検査用電極の長さと前記測定された各遅延時間との傾きに基づいて前記検査用電極の電気信号に対する屈折率を求めることを特徴とする屈折率測定方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ウエハに形成された長さがそれぞれ異なる検査用電極に電気信号を入力してその遅延時間を測定し、各検査用電極の長さと測定された各遅延時間との傾きを求めることによって、ウエハをチップ化する前に電極の屈折率を簡便に測定することができるとともに、電極の取り回し部分の影響を受けることなく電極の屈折率を正確に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態による検査用電極付きウエハの全体構成図である。
【図2】検査用電極の詳細構成図である。
【図3】検査用電極を用いてマイクロ波に対する屈折率を測定した測定結果の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳しく説明する。
図1は、本発明の一実施形態による検査用電極付きウエハの全体構成図である。ウエハ1は、電気光学効果を有する材料、例えばニオブ酸リチウムで構成されている。ウエハ1の第1エリア10には、実際の製品である光導波路素子の光導波路パターン101と電極パターンが、行方向と列方向に複数配列して形成されている。光導波路パターン101は、平面形状がマッハツェンダー型光導波路をなしている。電極パターンは、図示を省略しているが、マッハツェンダー型光導波路のアームに沿ってホット電極とアース電極が配置された、進行波型電極をなしている。そして、ホット電極とアース電極は、電極間を進行するマイクロ波によって光導波路に電界が印加されるよう光導波路と平行に配設されている電界印加部と、外部との電気的接続をとるための端子までの引き回し配線部とからなっている。この1つのマッハツェンダー型光導波路とそれに対応する進行波型電極によって、1つの光変調器が構成される。ウエハ1から個々の光変調器をチップ化した後には、進行波型電極にマイクロ波を入力すると電界印加部から光導波路に電界が印加され、電気光学効果により光導波路の屈折率が変化し、マッハツェンダー型光導波路を伝搬する光に変調が施される。
【0014】
ウエハ1の第2エリア20には、2つの検査用電極201,202が形成されている。図2は、検査用電極201,202の詳細構成図である。検査用電極201,202は、直線電極部201a,202aと直線電極部201a,202aの両端のパッド電極部201b,202bから構成されている。直線電極部201a,202aは、第1エリア10に形成されている光変調器のホット電極と平行に設けられている。また、直線電極部201a,202aは、ホット電極の電界印加部と同一の断面形状、即ち、ホット電極の電界印加部と同一の膜厚及びパターンの幅を持つように形成されている。更に、一方の直線電極部201aの長さは、他方の直線電極部202aの長さより長く形成されている。また、パッド電極部201bとパッド電極部202bの形状は同一である。
【0015】
上記の検査用電極201,202のマイクロ波に対する屈折率を測定する方法は、次のとおりである。屈折率の測定は、ウエハ1を切断しチップ化する前の1枚のウエハの状態で行う。このウエハの状態において、検査用電極201のパッド電極部201bに検査用プローブを接続し、ネットワークアナライザを用いてこの検査用プローブから測定信号を入力しタイムドメイン法によりその反射信号の遅延時間を測定する。このとき、遅延時間t1は、t1=Nm・2・(L1+ΔL)/cと表される。但し、Nmは検査用電極のマイクロ波に対する屈折率、L1は直線電極部201aの長さ、ΔLはパッド電極部201bの長さ、cは光速である。同様に、検査用電極202についても遅延時間を測定する。このとき、遅延時間t2は、t2=Nm・2・(L2+ΔL)/cと表される。但し、L2は直線電極部202aの長さである。
【0016】
この2つの測定結果を、横軸を直線電極部の長さ、縦軸を遅延時間とするグラフ上にプロットする。図3に測定結果の一例を示す。プロットされた2点を結ぶ直線の傾きをαとすると、検査用電極のマイクロ波に対する屈折率Nmは、
Nm=(α/2)・c
により求めることができる。
【0017】
このように、本発明によれば、ウエハをチップ化する前に電極の屈折率を簡便に測定することができる。また、2つの検査用電極における遅延時間を測定し、図3のグラフの傾きから屈折率を求めているので、電極の取り回し部分やパッド電極の影響を受けることなく電極の屈折率を正確に測定することができる。
【0018】
以上、図面を参照してこの発明の一実施形態について詳しく説明してきたが、具体的な構成は上述のものに限られることはなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内において様々な設計変更等をすることが可能である。
例えば、検査用電極の本数は3本以上であってもよい。この場合、図3のグラフにおけるプロット点は3点以上となるが、統計的な処理を行うことで屈折率の測定精度を向上させることができる。
また、検査用電極の遅延時間の測定は、一端側のパッド電極部から他端側のパッド電極部へ透過する信号の遅延時間を測定してもよい。この場合、屈折率を求める式は、Nm=α/cとなる。
また、1つのウエハ内にホット電極の電界印加部の断面形状が複数種類存在している場合は、検査用電極を電界印加部の断面形状の種類毎に設けることが好ましい。
また、ホット電極とウエハの間、及び検査用電極とウエハの間は、同一の膜構成(同じ材質で同じ膜厚)であることが望ましい。
【符号の説明】
【0019】
1…ウエハ 101…光導波路パターン 201,202…検査用電極 201a,202a…直線電極部 201b,202b…パッド電極部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気光学効果を有するウエハに、
複数の光導波路と、
前記光導波路に沿ってホット電極及びアース電極が配置されてなる、該電極間に電気信号を進行させて該光導波路を伝搬する光を制御するための複数の進行波型制御電極と、
前記ホット電極と同一断面形状及び同一延伸方向を有し、長さがそれぞれ異なる少なくとも2つの検査用電極と、
を形成したことを特徴とする検査用電極付きウエハ。
【請求項2】
前記複数の進行波型制御電極の電界印加部は複数種類の断面形状を有し、
前記断面形状の種類毎に前記少なくとも2つの検査用電極が設けられている
ことを特徴とする請求項1に記載の検査用電極付きウエハ。
【請求項3】
前記ホット電極と前記ウエハの間、及び前記検査用電極と前記ウエハの間は、同一の膜構成であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の検査用電極付きウエハ。
【請求項4】
電気光学効果を有するウエハに、複数の光導波路と、前記光導波路に沿ってホット電極及びアース電極が配置されてなる、該電極間に電気信号を進行させて該光導波路を伝搬する光を制御するための進行波型制御電極と、前記ホット電極と同一断面形状及び同一延伸方向を有し、長さがそれぞれ異なる少なくとも2つの検査用電極と、を形成し、
前記検査用電極の少なくとも2つに電気信号を入力して各電気信号がそれぞれ検査用電極を伝搬するのに要した遅延時間を測定し、
前記各検査用電極の長さと前記測定された各遅延時間との傾きに基づいて前記検査用電極の電気信号に対する屈折率を求める
ことを特徴とする屈折率測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−256541(P2010−256541A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−105195(P2009−105195)
【出願日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】