説明

楔型引留クランプのコッター構造

【課題】作業性が良く、正確な架線弛度が得られる楔型引留クランプのコッター構造を提供する。
【解決手段】楔型引留クランプ本体10と、連結板12と、コッター部材20と、緊線リンク80と、ガイドボルト30と、固定ボルト40と、コッターボルト50と、コッターナット52と、セルフロックピンとを有し、第1連結板12−1は、ガイドボルト穴12cとコッターボルト穴12aとを有し、第2連結板12−2は、同様のガイドボルト穴とコッターボルト穴と、それらの間に固定ボルト穴20bとを有し、コッター部材20は、ガイドボルト穴12cの位置にガイドボルトネジ穴20cと、固定ボルト穴12bの位置に固定ボルトネジ穴20bと、コッターボルト穴12aの位置に間にコッターボルト穴20aと、碍子引留め穴20eとを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架空送電線を鉄塔へ牽引するための楔型引留クランプに係り、詳しくは、作業性が良く、正確な架線弛度が得られる楔型引留クランプのコッター構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、楔型引留クランプは、架空送電線の緊線作業時に一対のC形断面対向片を蝶番結合させて開閉するクランプ本体の内部に架空送電線を抱持させ、クランプ本体とこれに抱持された架空送電線との上下の隙間に一対の楔を圧入させて両者を固定し、このクランプ本体の両側部に各々回転自在に支持された一対の連結板を設け、この連結板を鉄塔などの支持物に係止した碍子に連結させて支持物に架空送電線を引留める構造がよく知られている(例えば、下記の特許文献1及び2参照)。
【0003】
前述した構造による従来の楔型引留クランプの実施形態を、図4および図5を参照して説明する。図4は、従来の楔型引留クランプの実施形態を示す外観斜視図である。また、図5は、図4に示した楔型引留クランプを用いて架空送電線を支持物に引留める途中の状態を示す図である。
【0004】
図4に示すように、従来の楔型引留クランプの実施形態は、架空送電線1の緊線作業時に一対のC形断面対向片2aを蝶番2bにより結合させて開閉する内部に架空送電線1を抱持させるクランプ本体2と、このクランプ本体2とこれに抱持した架空送電線1との上下隙間に圧入させて両者を固定可能な一対の楔4と、クランプ本体2の蝶番を中心にした両側部に各々一端が回転自在に支持されて延在して他端が鉄塔などの支持物の碍子5(図5参照)に連結される一対の連結板3と、を備えている。
【0005】
このような、従来の楔型引留クランプを用いて支持物に架空送電線1を引留めるための取付け方法は、まず、図5に示すように、支持物(図示せず)から延在する碍子5の遊端に緊線工具6の一端側を連結し、この緊線工具6の他端側に架空送電線1を把持させて碍子5側まで引っ張ることで、当該架空送電線1に一定の弦度を持たせる。これによりクランプ本体2を架空送電線1に取付け可能な状態になる。
【0006】
この際、緊線工具6は、図5に示したように、碍子5側に引っ張る架空送電線1を把持するカマロング6cと、このカマロング6cに連結して引き寄せる緊線ワイヤ6aと、この緊線ワイヤ6aを支える金車6bとからなり、当該金車6bの一端側を前述した碍子5に連結している。この緊線工具6は、従来よく知られた周知の構造(例えば、特許文献2の図6参照)である。
【0007】
そして、緊線工具6により架空送電線1を引っ張って所望の弦度に維持し、図5に示したカマロング6c(把持点)から後方に延在する引張力を受けていない架空送電線1に、一対の楔(2枚楔)4を装着した後、図5の点線で示したクランプ本体2の位置まで楔4を押し込んで取付ける。最後に、クランプ本体2の一対の連結板3の遊端を、碍子5の端部に取付けて、緊線ワイヤ6a、金車6b、カマロング6cの緊線工具6を各々取り外すことで、楔型引留クランプによって碍子5を介して支持物に架空送電線1を引留めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−261941号公報
【特許文献2】特開平6−335145号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来の楔型引留クランプは、図5に示したように、緊線工具6のカマロング6cから緊線ワイヤ6aを介して碍子5に連結させた緊線状態の架空送電線1にクランプ本体2を取付けるのではなく、カマロング6cの後方の引張力を受けていない架空送電線1に楔4を装着して、そこにクランプ本体2を単体で取付けるため、緊線工具6を外した場合に、クランプ本体2に楔4(アルミ材)が圧入される度合が予測できず、架空送電線1が所望の弦度にならず、電線位置のばらつき、弦度のばらつきが発生してしまうという不具合があった。
【0010】
このような弦度のばらつきが発生した場合、鉄塔などの支持物の高所で作業員が、クランプ本体2に圧入された楔4を再度抜き取って、再び最初から緊線工具6を取付けて楔型引留クランプの取付け作業を行う必要があるため、取付け作業が完了するまで時間がかかるという不具合があった。
【0011】
本発明は上記の点に鑑みなされたもので、その目的は、作業性が良く、正確な架線弛度が得られる楔型引留クランプのコッター構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の楔型引留クランプのコッター構造は、架空送電線を鉄塔へ牽引するための楔型引留クランプのコッター構造であって、楔型引留クランプは、楔型引留クランプ本体と、第1及び第2連結板と、コッター部材と、緊線リンクと、ガイドボルトと、固定ボルトと、コッターボルトと、コッターナットと、セルフロックピンとを有し、第1連結板は、ガイドボルト穴とコッターボルト穴とを有し、第2連結板は、同様のガイドボルト穴とコッターボルト穴と、ガイドボルト穴とコッターボルト穴との間に固定ボルト穴とを有し、コッター部材は、ガイドボルト穴の位置にガイドボルトネジ穴と、固定ボルト穴の位置に固定ボルトネジ穴と、コッターボルト穴の位置に同様のコッターボルト穴と、碍子引留め穴とを有し、第1連結板のガイドボルト穴にガイドボルトが挿入され、且つコッター部材のガイドボルトネジ穴に捩じ込まれて、第1連結板にコッター部材が固定され、第2連結板の固定ボルト穴に固定ボルトが挿入され、且つコッター部材の固定ボルトネジ穴に捩じ込まれることにより、第2連結板のガイドボルト穴がガイドボルトの先端のテーパー部に誘導されて、所定に位置決めされたガイドボルトと位置合わせされて固定され、第1、第2連結板とコッター部材とのコッターボルト穴に、コッターボルトが挿入され、コッターナットがコッターボルトに取付けられ、且つコッターボルトにセルフロックピンが取付けられて形成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、作業性が良く、正確な架線弛度が得られる楔型引留クランプのコッター構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明によるコッター構造を具備する楔型引留クランプの構成図。
【図2】本発明による楔型引留クランプのコッター構造図。
【図3】本発明によるコッター構造の施工図。
【図4】従来の楔型引留クランプの実施形態の外観斜視図。
【図5】従来の楔型引留クランプの引留め施工図。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0015】
図1は、本発明によるコッター構造を具備する楔型引留クランプの構成図である。図1において、本発明によるコッター構造を具備する楔型引留クランプ100は、図4に示した従来技術と同様に、架空送電線1(図5参照)の緊線作業時に一対のC形断面対向片10aを蝶番10b結合させて開閉する内部に架空送電線1を抱持させるクランプ本体10と、このクランプ本体10とこれに抱持した架空送電線1との上下の隙間に圧入させて両者を固定可能な一対の楔4と、クランプ本体10の蝶番10bを中心にした両側部に各々一端が回転自在に支持されて延在して他端が鉄塔などの支持物の碍子5に係止される一対の連結板12と、を備えている。
【0016】
また、楔型引留クランプ100は、図4に示した従来技術と異なり、支持物の碍子5(図5参照)へ係止される碍子引留め穴20eと、ガイドボルト30により一方の連結板12−1へ固定するガイドボルトネジ穴20cと、固定ボルト40により他方の連結板12−2のガイドボルト穴12cをガイドボルト30の先端のテーパー部へ誘導するための固定ボルトネジ穴20bと、コッターボルト50を貫通させてコッターナット52をセルフロックピン(図示せず)により固定するコッターボルト穴20aと、を具備するコッター部材20を有している。また、碍子5へ係止させる連結板12方向と反対方向のクランプ本体10の先端側面に取付けられて架空送電線1を引っ張る緊線工具6のカマロング6c(図5参照)に連結させて碍子5と架空送電線1との間にクランプ本体10を取付けるための緊線リンク80を有している。
【0017】
即ち、本発明は、図4に示した従来の楔型引留クランプに対し、連結板12側の一端にコッター部材20を有し、他端のクランプ本体10の先端側部に緊線リンク80を有することで、支持物の碍子5にコッター部材20を、架空送電線1を引っ張る緊線工具6に緊線リンク80を各々取付け、クランプ本体10を一定の緊線状態に支持することを可能にした構造である。
【0018】
ここで、クランプ本体10は、左右縦割りされた一対のC形断面対向片10aを対向させ、この一対のC形断面対向片10aが接する上辺部または下辺部のいずれか一辺に支持軸(図示せず)を通して軸支させる蝶番10bを設けることにより開閉自在に構成されている。このクランプ本体10は、一対の開閉するC形断面対向片10aを重ね合わせた状態に開けて、この内部の中空部に架空送電線1を挿通させて再び閉じ、当該架空送電線1の上下から一対の楔4を挟持(図4参照)させて押し込むことで、架空送電線1を固定している。また、クランプ本体10は、蝶番10bによって開閉する外側両面に、揺動可能にボルト(図示せず)止めなどで軸支された一対の連結板12を備えている。
【0019】
この一対の連結板12は、クランプ本体10の外側両面に一端が軸支されて、この両側面から平行に延在した他端が、お互い重なるように屈曲されてコッターボルト50が貫通するコッターボルト穴12aを有している。また、一対の連結板12は、図4に示した従来技術と異なり、テーパー部35を具備するガイドボルト30が貫通するガイドボルト穴12cとコッターボルトが貫通するコッターボルト穴12aを有し、連結板12−2は、固定ボルトが貫通する固定ボルト穴12bを有している。
【0020】
図2は、本発明による楔型引留クランプのコッター構造図である。図2において、本願発明のコッター構造200のコッター部材20は、支持物の碍子5に連結されて引っ張られた際、テーパー部35を具備するガイドボルト30に引張力が加わり、これを介して一対の連結板12に均等に引張力が加わるよう、設けられたものである。このため、クランプ本体10が開かれて架空送電線1が通された後、クランプ本体10が開かれた側の連結板12−2のガイドボルト穴12cが固定ボルト40により誘導され、ガイドボルト30の所定の位置に到達してクランプ本体10が閉じられ、連結板12−2が固定ボルト40によりコッター部材20に固定されることにより、コッター構造を形成する構成となっている。
【0021】
このテーパー部35を具備するガイドボルト30は、連結板12とコッター部材20とを重ね合わせてズレないように位置決めする役割をする。即ち、ガイドボルト30により、例えば、連結板12−1とコッター部材20とを固定することで、コッター部材20が碍子5に引っ張られても連結板12−2側は自由に開放可能であり、図1に示すクランプ本体10を開閉して内部に架空送電線1を挿通させた後、連結板12−2は固定ボルト40により位置決めされてコッター部材20に固定され、連結板12は均等に碍子5に引っ張られる構造になっている。つぎに、コッター構造の形成について詳しく説明する。
【0022】
図3は、本発明によるコッター構造の施工図である。図3における本願発明のコッター構造200を具備する図1に示す楔型引留クランプ100を用いて、鉄塔などの支持物の碍子5に架空送電線1を引留めるための施工方法を、図5を参照して具体的に説明する。まず、図1に示した楔型引留クランプ100を組み立てた状態で、クランプ本体10の連結板12−1にガイドボルト30により固定されたコッター部材20の碍子留め穴20eに、図5に示す碍子5を取付ける。その後、クランプ本体10の緊線リンク80の金車引留め穴80b(図1参照)に、図5に示した架空送電線1を把持して引っ張る緊線工具6の金車6bを連結させることで、支持物2と架空送電線1との間に一定の緊線状態を保った状態でクランプ本体10が介在するように取付けられる。
【0023】
このように、楔型引留クランプ100は、碍子5と、架空送電線1を引っ張る緊線工具6との間で、引っ張られた状態に装着されるため、図5に示した従来技術のようにクランプ本体2を単体で架空送電線1に装着することなく、一定の緊線状態を保った状態で、楔4に把持された架空送電線1をクランプ本体10内に挿入することができる。すなわち、固定されていない連結板12−2側のクランプ本体10が蝶番10bを中心に開けられて、内部に緊線工具6で引っ張った架空送電線1を挿通させ、再び閉じられることにより、架空送電線1の挿入を行うことができる。
【0024】
この閉じる工程において、固定されていない連結板12−2と、緊線状態が保たれた連結板12−1との穴の位置は、互いにズレを生じている。このため、固定ボルト40を連結板12−2の固定ボルト穴12bに貫通させ、且つコッター部材20の固定ボルトネジ穴20に捩じ込んでいく。このとき、連結板12−2のガイドボルト穴12cは、ガイドボルト30の先端のテーパー部35に誘導され、最終的に所定に位置決めされたガイドボルト30と正確に位置合わせされた状態で、固定ボルト40により固定される。その後、コッターボルト50がコッターボルト穴12aに挿入され、コッターナット52がコッターボルト50に取付けられ、セルフロックピン穴51にセルフロックピンが挿入されて、クランプ本体10が完全に閉じられる。コッターボルト50が併用されることで、より安全に架空送電線1を架空できる。
【0025】
このように架空送電線1がクランプ本体10内に挿通されると、緊線ワイヤ6aを引っ張って、架空送電線1が所望の弦度に維持されているかを確認し、楔5の取付け位置を示す印を付ける。その後、架空送電線1を引っ張って楔5の取付け位置に楔4を装着し、再び架空送電線1を緩めて、楔4をクランプ本体10に差し込むことで架空送電線1を完全に固定できる。
【0026】
すなわち、クランプ本体10内に楔20を押し込むことにより、架空送電線1はクランプ本体10に装着された状態になり、このとき取付け位置を示す印により、架空送電線1は所望の弦度に装着されており、且つ架空送電線1位置のばらつき及び弦度のバラツキが確実に防止される。また、この施工方法は、鉄塔などの高い支持物に登って作業員により行われる作業であり、予めクランプ本体10が一定の緊線状態を保った状態で作業できることにより、図5に示した従来技術と比べて作業性が格段に向上することが分かる。
【0027】
以上説明したように本発明によれば、作業性が良く、正確な架線弛度が得られ、且つ架空送電線1位置のバラツキ及び弦度のバラツキか防止される楔型引留クランプのコッター構造を提供することができる。
【符号の説明】
【0028】
1 架空電線
4 楔
5 碍子
6 緊線工具
6a 緊線ワイヤ
6b 金車
6c カマロング
10 クランプ本体
10a 断面対向片
10b 蝶番
12−1.2 連結板
12a コッターボルト穴
12b 固定ボルト穴
12c ガイドボルト穴
20 コッター部材
20a コッターボルト穴
20b 固定ボルトネジ穴
20c ガイドボルトネジ穴
20e 碍子引留め穴
30 ガイドボルト
35 テーパー部
40 固定ボルト
50 コッターボルト
51 セルフロックピン穴
52 コッターナット
80 緊線リンク
80a 緊線リンク取付け穴
80b 金車引留め穴
100 本発明によるコッター構造を具備する楔型引留クランプ
200 本発明によるコッター構造

【特許請求の範囲】
【請求項1】
架空送電線を鉄塔へ牽引するための楔型引留クランプのコッター構造であって、
前記楔型引留クランプは、楔型引留クランプ本体と、第1及び第2連結板と、コッター部材と、緊線リンクと、ガイドボルトと、固定ボルトと、コッターボルトと、コッターナットと、セルフロックピンとを有し、
前記第1連結板は、ガイドボルト穴とコッターボルト穴とを有し、
前記第2連結板は、同様のガイドボルト穴とコッターボルト穴と、前記ガイドボルト穴と前記コッターボルト穴との間に固定ボルト穴とを有し、
前記コッター部材は、前記ガイドボルト穴の位置にガイドボルトネジ穴と、前記固定ボルト穴の位置に固定ボルトネジ穴と、前記コッターボルト穴の位置に同様のコッターボルト穴と、碍子引留め穴とを有し、
前記第1連結板の前記ガイドボルト穴に前記ガイドボルトが挿入され、且つ前記コッター部材の前記ガイドボルトネジ穴に捩じ込まれて、前記第1連結板に前記コッター部材が固定され、
前記第2連結板の前記固定ボルト穴に前記固定ボルトが挿入され、且つ前記コッター部材の前記固定ボルトネジ穴に捩じ込まれることにより、前記第2連結板の前記ガイドボルト穴が前記ガイドボルトの先端のテーパー部に誘導されて、所定に位置決めされたガイドボルトと位置合わせされて固定され、
前記第1、第2連結板と前記コッター部材との前記コッターボルト穴に、前記コッターボルトが挿入され、前記コッターナットが前記コッターボルトに取付けられ、且つ前記コッターボルトにセルフロックピンが取付けられて形成されることを特徴とする楔型引留クランプのコッター構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−130105(P2012−130105A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−277225(P2010−277225)
【出願日】平成22年12月13日(2010.12.13)
【出願人】(000117010)旭電機株式会社 (127)
【Fターム(参考)】