説明

極低温マイクロカロリーメータを用いた放射能測定方法、バイオマス度測定方法、中性子フルエンス測定方法、放射能絶対測定方法

【課題】極低温マイクロカロリーメータの持つ高い検出効率、低いバックグランドを活用し、数十μm〜cmオーダーの厚みの試料に対して高い精度の放射能測定方法を提供する。
【解決手段】放射線発生測定試料に、放射線吸収材でなる放射線吸収層を成層したり、放射線吸収材を混合して、測定試料より放出される放射線のエネルギーの一部または全部を測定試料中に付与できる構造を形成する。放射線吸収層があったり、内部に放射線吸収材が含まれる放射線発生試料100を極低温マイクロカロリーメータまたは吸収体付極低温マイクロカロリーメータの放射線吸収体112に熱的に接触させることで、測定試料中の放射性核種が崩壊したときに、非常に高い確率で放出される放射線のエネルギーの一部または全部を、極低温マイクロカロリーメータに熱的に接触した放射線吸収体112や極低温マイクロカロリーメータに熱として伝熱させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は極低温マイクロカロリーメータを用いた放射能測定方法に係り、特にバイオマス度測定、中性子フルエンス測定、放射能絶対測定に応用可能な放射線計測技術に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化抑制を目的とした二酸化炭素排出削減のため、石油等の化石燃料を原料とせず、現代の大気中の二酸化炭素を、植物の光合成により固定化して生産された、バイオプラスチック、バイオ燃料などのバイオマス由来製品の利用が進展しているが、バイオマス由来製品の信頼性を確保するため、製品が現在のバイオマス由来なのか、石油等の化石燃料由来なのかを識別し、更に、混合されて生産される製品についてはバイオマス原料の使用割合を測定する方法が必要となっている。
【0003】
天然の放射性炭素14は宇宙線起源であり、高層大気中で窒素と中性子等の放射線が相互作用して生成される。従って、宇宙線の影響を受けにくい石油等の化石燃料では、半減期5730年の炭素14が壊変し尽くして殆んど含まれていないのに対して、大気中の二酸化炭素や、それを吸収したバイオマス由来物質には炭素14が含まれているので、製品中の炭素14の存在量を測定して、製品中のバイオマス由来物質の割合を算出することが現在行われている(非特許文献1参照)。
【0004】
製品中のバイオマス由来の炭素14を測定する方法としては、液体シンチレーションカウンタ(LSC)を用いる方法と、加速器質量分析装置(AMS)を用いる方法がある。液体シンチレーションカウンタは、炭素14を含む液体試料を液体シンチレータと混合し、炭素14から放出されるβ線のエネルギーを液体シンチレータで光に変換し、光検出器によってこの光を検出することにより炭素14のβ線を測定する装置である。加速器質量分析法は、測定対象試料中の炭素をグラファイトに精製し、グラファイト試料の一部を原子レベルで蒸発させ、イオンとなった原子を加速することで、質量分析を行って、炭素14の原子数を直接数える方法である。
【0005】
また、近年特に医療用に多数導入されている加速器の漏洩中性子による、患者や医療従事者の医療被曝の評価、低減化が求められており、正確な熱中性子フルエンスの評価が必要となっている。熱中性子フルエンスを測定する方法として、放射化箔法がある。これは、金箔など、金属箔等を熱中性子に曝し、熱中性子による放射化で生じた放射能を、4πβ−γ同時測定装置、Ge半導体検出器等で測定し、この放射能から熱中性子フルエンスを求める方法である(非特許文献2参照)。
【0006】
また、放射能絶対測定法として、4πβ−γ同時測定法が主に用いられている。これは、線源から放出されるβ線を、比例計数管やプラスチックシンチレータ、或いは液体シンチレーション測定器等のβカウンターで測定すると同時に、線源から放出されるγ線を、NaIシンチレータやGe半導体検出器等のγカウンターで測定し、β線の計数率、γ線の計数率、β線とγ線の同時計数率を用いて測定している(非特許文献3参照)。ここで、β線の代わりに、α線、オージェ電子、特性X線であっても、絶対測定が可能である。
【0007】
一方、極低温マイクロカロリーメータには、放射線吸収体に放射線が入射すると、放射線のエネルギーが熱に変換され、検出器の温度が上昇し、超伝導体の抵抗値が変化することを利用して、放射線を検出する超伝導転移端検出器と呼ばれる超伝導放射線検出器(特許文献1、2参照)或いは、温度上昇を磁化の変化として読み出す、磁気カロリーメータ(非特許文献4)、或いはサーミスタを用いた検出器等がある。主にX線やガンマ線など光子である放射線に対する検出器として用いられてきている(特許文献4、5参照)。またα線やβ線等の粒子に対する検出器としても用いられはじめている(非特許文献4参照)。
【0008】
極低温マイクロカロリーメータにて、放射線を検出するにあたっては、放射線検出装置外部より放射線を照射し、極低温マイクロカロリーメータそのもの或いは吸収体に放射線が入射することよる温度上昇事象、或いは、吸収体中に放射線源を密封し、吸収体に放射線エネルギーが付与されることによる温度上昇事象を利用する方法がある。極低温マイクロカロリーメータで放射能を測定する場合、放射線を効率よく吸収するため、金属板を2枚用い、1枚の金属板上に、放射性溶液を滴下し乾燥させ、その上に、もう一枚の金属板を被せて吸収体として、極低温マイクロカロリーメータに熱的に接続している。他の検出器では実現できない高い検出効率、低いバックグランドが実現されている(非特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001−289954号公報
【特許文献2】特開2005−3411号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】国岡正雄、加速器質量分析によるバイオマス炭素14の含有率の測定方法、RADIOISOTOPES、58、767-799、2009
【非特許文献2】GRENN F. KNOLL、(木村逸郎、阪井英次訳)放射線計測ハンドブック第2版、日刊工業新聞社、1982
【非特許文献3】Particle Counting in Radioactivity Measurement, ICRU REPORT 52, 1994
【非特許文献4】M. Loidl, et al. First measurement of the beta spectrum of 241Pu with a cryogenic detector, Applied Radiation and Isotopes, 68, 1454-1458, 2010
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
バイオマス度測定において、液体シンチレーションカウンタは、(1)液体試料しか測定できない、(2)バイオ燃料など着色された試料は、着色物質により光が吸収されてしまうクエンチングのため検出効率が低く、精度よく測定することが難しい等の問題がある。また、(3)バイオマス炭素に含まれる炭素14の存在量が極微量であるため、バックグランド計数率と同等かそれ以下程度の炭素14の計数率を得ることしかできず、測定精度を向上することは困難である。
【0012】
加速器質量分析法は、微量な炭素14を精度よく測定できるが、加速器質量分析装置の導入には、施設整備を含め50億円以上必要であり、一般的な分析施設への導入、膨大な数の広汎な測定試料への対応は困難である。さらに、加速器質量分析を行うためには、試料を化学的に精製してグラファイトにしなければならず、前処理も煩雑である。
【0013】
放射化箔法による熱中性子フルエンス測定においては、金箔による放射線の自己吸収のため、検出効率が低く、精度よく放射能を測定し、熱中性子フルエンスを求めることは難しかった。
【0014】
4πβ−γ同時測定に関しては、βカウンターの検出効率が核種により30%から90%程度に留まるとともに、βカウンターで転換電子やγ線も検出してしまい、これらの補正が測定精度を悪化させていた。
【0015】
一方、従来の極低温マイクロカロリーメータによる放射能測定は、ほとんど厚みの無い放射線源のみについて適用可能であり、前記バイオマス度測定用試料等のように、数十μm〜cmオーダーの厚みを持つ試料については、放射能を測定することはできなかった。また、ひとつの極低温マイクロカロリーメータのみを用いた測定であったので、同時測定による放射能絶対測定を行うことはできなかった。
【0016】
本発明は、前記従来の問題点を解決するべくなされたもので、極低温マイクロカロリーメータの持つ特性、即ち、他の検出器では実現できない高い検出効率、低いバックグランドを活用するとともに、測定試料を極低温マイクロカロリーメータによる測定に適した構造に加工することにより、放射線の検出効率を向上させ、測定試料の熱伝導特性を向上させることで、精度のよい放射能測定を、数十μm〜cmオーダーの厚みを持つ試料に対して行えるようにすることを第一の課題とする。
【0017】
これにより、バイオマス度の測定において、非常に低いバックグランドで効率よく炭素14由来のβ線の測定を行うことで、加速器質量分析法に匹敵する測定精度で、かつ、加速器質量分析装置の百分の一以下での導入価格で、バイオマス度の測定を行えるようにすることを第二の課題とする。
【0018】
さらに、熱中性子により放射化した金属箔等の放射化物より放出される放射線を、他の放射線検出器では実現できない高い検出効率で測定することにより、精度よく熱中性子フルエンスを測定できるようにすることを第三の課題とする。
【0019】
また、α線やβ線、オージェ電子等粒子或いは特性X線を、他の検出器では実現できない高い検出効率で検出し、同時にγ線を検出することにより、他の放射能絶対測定装置では実現できない測定精度で、放射能絶対測定を行えるようにすることを第四の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
放射線の発生がある試料に、放射線吸収材でなる放射線吸収層を成層したり、放射線吸収材を混合したりして、測定試料より放出される放射線のエネルギーの一部または全部を測定試料中に付与できる構造を形成する。放射線吸収層があったり、内部に放射線吸収材が含まれたりする放射線発生試料を極低温マイクロカロリーメータまたは、吸収体付極低温マイクロカロリーメータの放射線吸収体に熱的に接触させることで、測定試料中の放射性核種が崩壊したときに、非常に高い確率で、放出される放射線のエネルギーの一部または全部を、極低温マイクロカロリーメータに、熱として、伝熱させることができる。これにより、α線やβ線、オージェ電子、転換電子等粒子を非常に高い効率で検出することができる。また、γ線検出用極低温マイクロカロリーメータなどのγ線検出器を増設することにより、同時計数を可能とすることで、放射能絶対測定も可能にできる。
【0021】
ここで、前記放射線吸収材を、金属元素含有溶液、非金属元素含有溶液、金属元素含有ペースト、非金属元素含有ペースト、金属元素含有粉末、非金属元素含有粉末、金属元素含有フィルム、非金属元素含有フィルム、金属箔のいずれかとすることができる。
【0022】
又、前記放射線吸収材を、接着剤とすることができる。
【0023】
ここで、金属元素含有溶液、非金属元素含有溶液、金属元素含有ペースト、非金属元素含有ペースト、金属元素含有粉末、非金属元素含有粉末のいずれかでなる前記放射線吸収材を、乾燥または焼結により、成層または固化することができる。
【0024】
又、前記放射線吸収材を、金属元素または非金属元素とし、これを蒸着により成層することができる。
【0025】
又、前記放射線吸収材を、金属元素を含むフィルム、非金属元素を含むフィルムまたは金属箔とし、これを固形試料の表面に貼り付けたり、融着させることにより成層することができる。
【0026】
又、前記放射線吸収材を、金属元素を含むフィルム、非金属元素を含むフィルムまたは金属箔とし、これにより容器を形成し、その中に粉末試料を入れて、溶融することにより成層することができる。
【0027】
又、前記放射線吸収材を樹脂材とすることができる。
【0028】
又、前記放射線吸収材を、銀或いは銀を含む溶液或いは銀を含むペースト或いは銀を含むフィルム或いは銀箔とすることができる。
【0029】
又、前記放射線吸収材を、金或いは金を含む溶液或いは金を含むペースト或いは金を含むフィルム或いは金箔とすることができる。
【0030】
又、前記放射線吸収材を、銅或いは銅を含む溶液或いは銅を含むペースト或いは銅を含むフィルム或いは銅箔とすることができる。
【0031】
又、前記放射線吸収材を、ニッケル或いはニッケルを含む溶液或いはニッケルを含むペースト或いはニッケルを含むフィルム或いはニッケル箔とすることができる。
【0032】
又、前記放射線吸収材を、炭素或いは炭素を含む溶液あるいは炭素を含むペースト或いは炭素を含むフィルムとすることができる。
【0033】
又、前記放射線吸収材を、ポリビニルアルコールを含む材料とすることができる。
【0034】
又、前記放射線吸収材を、アルファシアノアクリレートを含む材料とすることができる。
【0035】
又、前記放射線吸収材を、導電性インクとすることができる。
【0036】
本発明は、又、前記極低温マイクロカロリーメータを超伝導放射線検出器とすることができる。
【0037】
又、前記極低温マイクロカロリーメータを磁気カロリーメータとすることができる。
【0038】
又、前記極低温マイクロカロリーメータをサーミスタを用いた放射線検出器とすることができる。
【0039】
本発明は、又、前記いずれかに記載の方法により、炭素14由来のβ線を測定することを特徴とするバイオマス度測定方法を提供するものである。
【0040】
又、前記いずれかに記載の方法により、熱中性子により放射化した放射化物から放出される放射線を測定することを特徴とする中性子フルエンス測定方法を提供するものである。
【0041】
又、前記いずれかに記載の方法により、α線やβ線、オージェ電子等粒子或いは特性X線を検出し、同時にγ線を検出することを特徴とする放射能絶対測定方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0042】
本発明により、数十μmから数cmの厚みを持つ、自己吸収の大きな試料に対して、従来手法では実現が不可能であった高い検出効率で、放射能の測定が行えるようになる。
【0043】
バイオマス度の測定において、非常に低いバックグランド、高検出効率で炭素14由来のβ線の測定を行うことで、加速器質量分析法に匹敵する測定精度の測定が行える。安価で且つ高精度の測定が可能な測定装置が普及することにより、製品がバイオマス由来であることを担保することができる。これにより、地球温暖化の抑制、生活の安全・安心に貢献することができる。
【0044】
また、熱中性子により放射化した金属箔等の放射化物より放出される放射線を、他の放射線検出器では実現できない高い検出効率で測定することにより、精度よく熱中性子フルエンスを測定できるようになる。これにより、近年特に医療用に多数導入されている加速器の漏洩中性子のフルエンスの施設内分布を、より精密に測定できるようになり、患者や医療従事者の医療被曝の評価、低減化への基盤情報を精密に取得できるようになる。
【0045】
また、α線やβ線、オージェ電子等粒子或いは特性X線を、他の検出器では実現できない高い検出効率で検出し、同時にγ線を検出することにより、他の放射能絶対測定装置では実現できない測定精度で、放射能絶対測定を行えるようになり、放射能測定の基盤技術を高度化し、新しい放射能標準器を確立することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明で用いる(a)放射線吸収層を表面に備えた試料、(b)内部に放射線吸収材を混合した試料、(c)内部に放射線吸収層を備えた試料、(d)放射線吸収層を表面に備え、内部に放射線吸収材を混合した試料の例を示す断面図
【図2】本発明により前記試料の放射能を測定するための、極低温マイクロカロリーメータを備えた放射能測定装置の実施形態のブロック図
【図3】極低温マイクロカロリーメータの一例としての超伝導放射線検出器の基本的な構成例を示すブロック図
【図4】本発明により図1に示した試料の放射能を測定するための、極低温マイクロカロリーメータを備えた放射能絶対測定装置の実施形態のブロック図
【発明を実施するための形態】
【0047】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0048】
図1は、本発明により加工されて(a)表面、又は(c)内部に放射線吸収層102を備えたり、(b)内部に放射線吸収材104を混合したり、(d)放射線吸収層102を表面に備え、内部に放射線吸収材104を混合した試料100の断面図である。この試料100は、放射能を持ち、放射線を発生させる。
【0049】
ここで、放射線の発生がある試料100に放射線吸収層102を形成したり、放射線吸収材104を混合するためには、以下のような方法を用いることができる。
【0050】
プラスチックやグラファイト等の固形試料の場合、ポリビニルアルコールやアルファシアノアクリレート等を含む接着剤を、試料全面に塗ることで放射線吸収層102が成層できる。或いは金属を表面に蒸着させることで、放射線吸収層102を成層できる。或いは、金属を含む溶液または金属を含むペーストを全面にスピンコート等の技法により塗ることで、成層できる。金属を含む導電性インクを試料前面にインクジェットプリンタ等を用いて塗布して乾燥させる、或いは焼結してもよい。或いは、フィルムや箔を試料の少なくとも一面に貼り付けて、場合によっては融着させてもよい。
【0051】
ダイヤモンド等の固形試料の場合、金属を表面に蒸着させることで、放射線吸収層102を成層できる。或いは、金属を含む溶液または金属を含むペーストを試料全面にスピンコート等の技法により塗布することで、成層できる。金属を含む導電性インクを試料前面にインクジェットプリンタ等を用いて塗布して、乾燥させる或いは、焼結してもよい。或いは、フィルムや箔を試料の少なくとも一面に貼り付けて、場合によっては融着させてもよい。
【0052】
プラスチックやグラファイト、ダイヤモンド等の粉末試料の場合、導電性インクや、バインダーに金属粉末が分散しているものを混合材として、粉末試料に混合し、乾燥させ、場合によっては焼結して、放射線吸収材104と混合した測定試料とすることができる。
粉末試料が溶融可能な場合、フィルムや箔により容器を形成して、その中に粉末試料を入れ、溶融させることにより、放射線吸収層102を成層した試料とすることもできる。或いは、フィルムや箔を層状に粉末試料の中に配置し、焼結などして放射線吸収層102を測定試料内部に備えることができる。さらに、これらの試料に、前記のような放射線吸収層102を成層してもよい。この際、試料に混合する放射線吸収材104と、放射線吸収層102を構成する放射線吸収材は、同じ物として、吸収剤の量を増やしたり、別の物として、異なる特性を持たせたりすることができる。試料内部の放射線吸収層102と、試料表面の放射線吸収層102についても同様である。
【0053】
金等の金属箔が試料の場合、金属を表面に蒸着させることで、放射線吸収層102を成層できる。或いは、金属を含む溶液または金属を含むペーストを全面にスピンコート等の技法により塗ることで、成層できる。金属を含む導電性インクを試料前面にインクジェットプリンタ等を用いて塗布して乾燥させる、或いは焼結してもよい。或いは、金属箔試料の少なくとも一面に、フィルムや箔を貼り付けたり、融着させたりしてもよい。
【0054】
金属板上に放射性溶液を滴下し、乾燥させた試料の場合、この試料の上に、樹脂や導電性インク等放射線吸収体であり、試料を密封する材料を塗布することで、放射線吸収層102を成層できる。図2は、極低温マイクロカロリーメータによる放射線の発生がある試料の放射能測定についてのブロック図である。ここで、110は極低温マイクロカロリーメータ或いは吸収体付極低温マイクロカロリーメータ(以下極低温マイクロカロリーメータと称する)であり、放射線、特に粒子であるα線、β線、オージェ電子、転換電子等に対して感度を有する。特性X線に感度を持たせることもできる。この極低温マイクロカロリーメータ110は、試料100の放射線吸収層102又は試料100自体と熱的に接触している。
【0055】
前記極低温マイクロカロリーメータ110は、図3に超伝導放射線検出器でなる極低温マイクロカロリーメータの基本的構成例を示すが如く、放射線のエネルギーを吸収して熱に変換する吸収体112と、温度によって超伝導状態、常伝導状態、中間の転移状態の3状態を持つ超伝導転移端センサ(TES)114とが、熱槽118に熱的接触するように設置されることにより構成されてもよく、この場合、超伝導転移状態における急峻な温度−抵抗変化を利用することにより、放射線のエネルギーが電気信号に変換される。放射線が直接TES114に入射して、TES114内部で熱に変換して電気信号に変換されることもある。本法では、試料100中で、場合によっては吸収体112、TES114で放射線のエネルギーが熱に変換される。図2において、120は読み出し装置であり、極低温マイクロカロリーメータ110を駆動するとともに、極低温マイクロカロリーメータ110より出力される微弱な信号を読み出して、計数・制御装置140に放射線由来の信号を送る。130は冷凍機であり、極低温マイクロカロリーメータ110、読み出し装置120が動作できるよう、これらを低温に保つ。140は計数・制御装置であり、極低温マイクロカロリーメータ110、読み出し装置120を制御すると共に、読み出し装置120より送られた信号を計数する。150は計算機であり、計数・制御装置140、冷凍機130を制御するとともに、計数・制御装置140から計数値を取得する。160は表示器であり、制御や計数に関するデータを表示する。170は入力装置であり、計算機150にデータを入力するとともに計算機150を制御する。
【0056】
試料中の放射性核種がα崩壊やβ崩壊、EC崩壊すると同時にγ線が放出される場合、γ線を検出する極低温マイクロカロリーメータ或いは、その他のγ線検出器115を増設することにより、放射能絶対測定装置を構成することができる。これを、図4に示す。
【0057】
図4は極低温マイクロカロリーメータによる放射線の発生がある試料の放射能絶対測定についてのブロック図である。ここで、100は加工されて放射線吸収層102を備えたり放射線吸収材104と混合したりした試料であり、放射能を持ち、α崩壊やβ崩壊、EC崩壊をすると共にγ線を発生させる。110は極低温マイクロカロリーメータであり、放射線、特に粒子であるα線、β線、オージェ電子、転換電子に対して感度を有する。特性X線に感度を持たせることもできる。115は極低温マイクロカロリーメータ或いはその他のγ線検出器であり、特にγ線に対して感度を有する。前記極低温マイクロカロリーメータ110は、試料100と熱的に接触している。120及び125は読み出し装置であり、極低温マイクロカロリーメータ110、極低温マイクロカロリーメータ或いはその他のγ線検出器115を駆動するとともに、極低温マイクロカロリーメータ110、極低温マイクロカロリーメータ或いはその他のγ線検出器115より出力される微弱な信号を読み出して、計数・制御装置140に放射線由来の信号を送る。130は冷凍機であり、極低温マイクロカロリーメータ110、極低温マイクロカロリーメータ或いはその他のγ線検出器115、読み出し装置120、125が動作できるよう、これらを低温に保つ。140は計数・制御装置であり、極低温マイクロカロリーメータ110、極低温マイクロカロリーメータ或いはその他のγ線検出器115、読み出し装置120、125を制御すると共に、読み出し装置120、125より送られた信号を計数する。以下は図2と同じであり、150は計算機であり、計数・制御装置140、冷凍機130を制御するとともに、計数・制御装置140から計数値を取得する。160は表示器であり、制御や計数に関するデータを表示する。170は入力装置であり、計算機150にデータを入力するとともに計算機150を制御する。
【0058】
計数・制御装置140で、α線、β線、オージェ電子等の計数とγ線の計数、及び、α線、β線、オージェ電子等と、γ線の同時計数を得ることにより、放射線吸収層102を備えたり、放射線吸収材104が混合されたりした試料100の放射能絶対値を算出することが可能である。
【実施例1】
【0059】
バイオプラスチックの全面にアルファシアノアクリレートを刷毛で塗布し放射線吸収層とした。これを極低温マイクロカロリーメータ110の吸収体112に熱的に接触させ、バイオプラスチック中より放出される炭素14由来のβ線を計数した。計数値からバイオプラスチックの放射能を求め、このバイオプラスチックのバイオマス度を算出することができた。
【実施例2】
【0060】
バイオプラスチック粉末を導電性インクと混合し乾燥させたあと、焼結した。これを極低温マイクロカロリーメータ110の吸収体112に熱的に接触させ、バイオプラスチック中より放出される炭素14由来のβ線を計数した。計数値からバイオプラスチックの放射能を求め、このバイオプラスチックのバイオマス度を算出することができた。
【実施例3】
【0061】
放射性薬剤製造用加速器から漏洩する中性子のフルエンスの空間分布を測定するため、金箔を加速器室内に一定期間設置した。放射化した金箔を回収し、銀を含む導電性インクを金箔全面にスピンコータで塗布し、電気炉で焼結することで、放射線吸収層102を形成した。これを、極低温マイクロカロリーメータ110の吸収体112に熱的に接触させ、金箔中にある放射性金同位体より放出されるβ線を計数した。これより、金箔の放射化量を算出し、放射化量に基づいて中性子フルエンスを算出することができた。
【実施例4】
【0062】
セリウム139放射性溶液の放射能絶対値を求めるため、放射性溶液の一部を、金箔に滴下し乾燥させ、その上に、樹脂インクをインクジェットプリンタで塗布した。これを、極低温マイクロカロリーメータ110の吸収体112に熱的に接触させ、接触している極低温マイクロカロリーメータ110によりオージェ電子およびX線を検出するとともに、接触していない極低温マイクロカロリーメータ或いは他のγ線検出器115でγ線を検出し、オージェ電子およびX線とγ線を同時計数した。得られた計数値により、セリウム139放射性溶液の放射能絶対値を算出することができた。
【0063】
なお、前記実施例において、試料に放射線吸収層102を形成するのに、刷毛、スピンコータ、インクジェットプリンタ、電気炉を用いたが、他の手段に置き換えてもかまわない。試料はバイオプラスチック、金箔、セリウム139を用いたが、放射線の発生がある試料や、放射線の種類も前記実施形態に限定されない。極低温マイクロカロリーメータも超伝導放射線検出器に限定されない。
【産業上の利用可能性】
【0064】
バイオマス製品のバイオマス度の測定や、加速器施設の漏洩中性子のフルエンスの空間分布の測定、放射性溶液に対する放射能絶対測定による放射能値の付与等に用いることができる。
【符号の説明】
【0065】
100…放射線吸収層を備えたり放射線吸収材を混合したりした放射線発生試料
110…極低温マイクロカロリーメータ
115…極低温マイクロカロリーメータ或いは他のγ線検出器
120、125…読み出し装置
130…冷凍機
140…計数・制御装置
150…計算機
160…表示器
170…入力装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線吸収材でなる成層材料を用いて放射線発生試料に放射線吸収層を付加し、
該放射線発生試料に極低温マイクロカロリーメータまたは吸収体付極低温マイクロカロリーメータの吸収体を熱的接触させることで、放射線の検出効率を向上させるとともに、試料の熱伝導特性を向上させることを特徴とする極低温マイクロカロリーメータを用いた放射能測定方法。
【請求項2】
放射線発生試料に放射線吸収材を混合し、
該放射線発生試料に極低温マイクロカロリーメータまたは吸収体付極低温マイクロカロリーメータの吸収体を熱的接触させることで、放射線の検出効率を向上させるとともに、試料の熱伝導特性を向上させることを特徴とする極低温マイクロカロリーメータを用いた放射能測定方法。
【請求項3】
前記放射線吸収材を混合した放射線発生試料に、放射線吸収材でなる成層材料を用いて放射線吸収層を付加したことを特徴とする請求項2に記載の極低温マイクロカロリーメータを用いた放射能測定方法。
【請求項4】
前記放射線吸収材が、金属元素含有溶液、非金属元素含有溶液、金属元素含有ペースト、非金属元素含有ペースト、金属元素含有粉末、非金属元素含有粉末、金属元素含有フィルム、非金属元素含有フィルム、金属箔のいずれかであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の極低温マイクロカロリーメータを用いた放射能測定方法。
【請求項5】
前記放射線吸収材が、接着剤であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の極低温マイクロカロリーメータを用いた放射能測定方法。
【請求項6】
金属元素含有溶液、非金属元素含有溶液、金属元素含有ペースト、非金属元素含有ペースト、金属元素含有粉末、非金属元素含有粉末のいずれかでなる前記放射線吸収材を、乾燥または焼結により、成層または固化することを特徴とする請求項4に記載の極低温マイクロカロリーメータを用いた放射能測定方法。
【請求項7】
前記放射線吸収材が、金属元素または非金属元素であり、これを蒸着により成層することを特徴とする請求項1又は3に記載の極低温マイクロカロリーメータを用いた放射能測定方法。
【請求項8】
前記放射線吸収材が、金属元素を含むフィルム、非金属元素を含むフィルムまたは金属箔であり、これを固形試料の表面に貼り付けたり、融着させることにより成層することを特徴とする請求項1又は3に記載の極低温マイクロカロリーメータを用いた放射能測定方法。
【請求項9】
前記放射線吸収材が、金属元素を含むフィルム、非金属元素を含むフィルムまたは金属箔であり、これにより容器を形成し、その中に粉末試料を入れて、溶融することにより成層することを特徴とする請求項1又は3に記載の極低温マイクロカロリーメータを用いた放射能測定方法。
【請求項10】
前記放射線吸収材が樹脂材であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の極低温マイクロカロリーメータを用いた放射能測定方法。
【請求項11】
前記放射線吸収材が、銀或いは銀を含む溶液或いは銀を含むペースト或いは銀を含むフィルム或いは銀箔であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の極低温マイクロカロリーメータを用いた放射能測定方法。
【請求項12】
前記放射線吸収材が、金或いは金を含む溶液或いは金を含むペースト或いは金を含むフィルム或いは金箔であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の極低温マイクロカロリーメータを用いた放射能測定方法。
【請求項13】
前記放射線吸収材が、銅或いは銅を含む溶液或いは銅を含むペースト或いは銅を含むフィルム或いは銅箔であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の極低温マイクロカロリーメータを用いた放射能測定方法。
【請求項14】
前記放射線吸収材が、ニッケル或いはニッケルを含む溶液或いはニッケルを含むペースト或いはニッケルを含むフィルム或いはニッケル箔であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の極低温マイクロカロリーメータを用いた放射能測定方法。
【請求項15】
前記放射線吸収材が、炭素或いは炭素を含む溶液あるいは炭素を含むペースト或いは炭素を含むフィルムであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の極低温マイクロカロリーメータを用いた放射能測定方法。
【請求項16】
前記放射線吸収材が、ポリビニルアルコールを含む材料であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の極低温マイクロカロリーメータを用いた放射能測定方法。
【請求項17】
前記放射線吸収材が、アルファシアノアクリレートを含む材料であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の極低温マイクロカロリーメータを用いた放射能測定方法。
【請求項18】
前記放射線吸収材が、導電性インクであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の極低温マイクロカロリーメータを用いた放射能測定方法。
【請求項19】
前記極低温マイクロカロリーメータが超伝導放射線検出器である請求項1乃至18のいずれかに記載の極低温マイクロカロリーメータを用いた放射能測定方法。
【請求項20】
前記極低温マイクロカロリーメータが磁気カロリーメータである請求項1乃至18のいずれかに記載の極低温マイクロカロリーメータを用いた放射能測定方法。
【請求項21】
前記極低温マイクロカロリーメータがサーミスタを用いた放射線検出器である請求項1乃至18のいずれかに記載の極低温マイクロカロリーメータを用いた放射能測定方法。
【請求項22】
請求項1乃至21のいずれかに記載の方法により、炭素14由来のβ線を測定することを特徴とするバイオマス度測定方法。
【請求項23】
請求項1乃至21のいずれかに記載の方法により、熱中性子により放射化した放射化物から放出される放射線を測定することを特徴とする中性子フルエンス測定方法。
【請求項24】
請求項1乃至21のいずれかに記載の方法により、α線やβ線等粒子を検出し、同時にγ線を検出することを特徴とする放射能絶対測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−83152(P2012−83152A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−228278(P2010−228278)
【出願日】平成22年10月8日(2010.10.8)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】