説明

極値周波数の決定方法

【課題】 圧電素子や表面弾性波素子により測定を行う場合、素子の中心周波数等を迅速に決定できるようにする。
【解決手段】圧電素子又は表面弾性波素子のアドミタンスの実数部又は虚数部をパラメータ(Y)とし、パラメータ(Y)の極値を与える極値周波数(fx)の決定方法であって、所定の周波数間隔(Δf)でパラメータ(Y)を測定し、パラメータ(Y)の実際の極値を与える周波数区間(Δfi)を特定し、前記周波数区間(Δfi)を挟む連続する少なくとも3つの周波数区間(Δfi-1,Δfi,Δfi+1)において、周波数(f)に対するパラメータ(Y)の変化量(ΔYi-1/Δf,ΔYi/Δf,ΔYi+1/Δf)を線形近似して条件式(ΔY/Δf=αf+β)を求め、この条件式(ΔY/Δf=αf+β)における変化量(ΔY/Δf)が0となる周波数(f)を極値周波数(fx)とするようにしたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DNAやタンパク質など生体物質の相互作用の測定や抗原抗体反応を利用した分子認識に利用される水晶振動子又は表面弾性波素子の中心周波数等の極値周波数の決定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、圧電素子を共振周波数で共振させ、或いは、表面弾性波素子を中心周波数で励振させ、前記素子に接触する物質の負荷により生じる周波数変動を測定するようにしていた。
前記共振周波数や前記中心周波数は、各素子毎に若干異なることがあるため、前記共振周波数や前記中心周波数は、所定のサンプリング周波数で、ネットワークアナライザ等によりスキャンして、コンダクタンス(G)が極大値をとる周波数を測定し、この周波数を共振周波数又は中心周波数としていた。
しかしながら、必ずしも、コンダクタンス(G)が極大値をとる周波数が、前記所定のサンプリング周波数上に存在するとは限らないため、コンダクタンス(G)が極大値をとる周波数の範囲内において、サンプリングする周波数の間隔を狭めて再度スキャンする必要があり、多くの時間を要するという問題があった。
また、前記素子の一対の象限周波数(f1,f2)についても、図1に示すように、共振周波数又は中心周波数(f0)の両側で、コンダクタンス(G)の極大値の1/2となる周波数であるため、コンダクタンス(G)が極大値をとる極値周波数を正確に求めた後でしか正確な第1象限周波数(f1,f2)を得ることができず、更に、測定時間を要するという問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
そこで、本発明は、圧電素子又は表面弾性波素子を利用して測定を行う場合において、圧電素子の共振周波数や表面弾性波素子の中心周波数等のコンダクタンス(G)が極大値をとる極値周波数や、同素子のサセプタンス(B)が極値をとる1対の象限周波数を決定するために、サンプリングのための周波数間隔を狭く設定又は調整することなく、高速で決定できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するために、本発明者等は鋭意検討の結果、下記の通り解決手段を見出した。
即ち、本発明の測定方法は、請求項1に記載の通り、圧電素子又は表面弾性波素子のアドミタンスの実数部(以下、コンダクタンス(G)とする)又は虚数部(以下、サセプタンス(B)とする)をパラメータ(Y)とし、パラメータ(Y)の極値を与える極値周波数(fx)の決定方法であって、所定の周波数間隔(Δf)でパラメータ(Y)を測定し、パラメータ(Y)の実際の極値を与える周波数区間(Δfi)を特定し、前記周波数区間(Δfi)を挟む連続する少なくとも3つの周波数区間(Δfi-1,Δfi,Δfi+1)において、周波数(f)に対するパラメータ(Y)の変化量(ΔYi-1/Δf,ΔYi/Δf,ΔYi+1/Δf)を線形近似して条件式(ΔY/Δf=αf+β)を求め、この条件式(ΔY/Δf=αf+β)における変化量(ΔY/Δf)が0となる周波数(f)を極値周波数(fx)とするようにしたことを特徴とする。
また、請求項2に記載の極値周波数の決定方法は、請求項1に記載の極値周波数の決定方法において、条件式(ΔY/Δf=αf+β)を最小二乗法により求めることを特徴とする。
また、請求項3に記載の極値周波数の決定方法は、請求項1又は2に記載の極値周波数の決定方法において、パラメータ(Y)は、コンダクタンス(G)であり、コンダクタンス(G)の極大値(GMAX)を与える極値周波数(fx)を、前記素子の中心周波数(f0)としたことを特徴とする。
また、請求項4に記載の極値周波数の決定方法は、請求項1又は2に記載の極値周波数の決定方法において、パラメータ(Y)は、サセプタンス(B)であり、サセプタンス(B)の極値(B1,B2)を与える極値周波数(fx1,fx2)をそれぞれ1対の象限周波数(f1,f2(f1<f2))としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、圧電素子の共振周波数又は表面弾性波素子の中心周波数f0、同素子の第1の象限周波数f1,f2をサンプリングの間隔を狭めることなく、高速に決定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
上記の通り、本発明は、圧電素子又は表面弾性波素子のアドミタンスの実数部(以下、コンダクタンス(G)とする)又は虚数部(以下、サセプタンス(B)とする)をパラメータ(Y)として、パラメータ(Y)の極値を与える極値周波数(fx)の決定方法に関するものである。
本発明において、極値周波数とは、所定の周波数の範囲内において、圧電素子又は表面弾性波素子のアドミタンスを測定した場合に、コンダクタンス(G)又はサセプタンス(B)の極値を与える周波数のことをいう。具体的には、圧電素子の共振周波数(n倍波(n=1,3,5・・・)で発振させた場合の共振周波数も含む)、表面弾性波素子の中心周波数(f0)、一対の象限周波数(f1,f2)等が挙げられる。尚、一対の象限周波数(f1,f2)とは、圧電素子又は表面弾性波素子のコンダクタンス(G)の極大値の1/2を与える周波数であって、共振周波数又は中心周波数(f0)の両側に位置する周波数をいう。
【0007】
次に、本発明の極値周波数の決定方法について、図2乃至図4を参照して詳述する。
図2において、符号1で示されるプロット図は、26.95〜27.10MHzの周波数の範囲において、1kHzの周波数間隔(Δf)で、水晶振動子を発振させ、アドミタンス測定法によるコンダクタンス(G)を、図2の左側の軸の目盛に従ってプロットしたものである。この例では、コンダクタンス(G)が、本明細書のパラメータ(Y)となる。
図2において、コンダクタンス(G)の実際の極大値(GMAX)を与える共振周波数(f0)は、プロット図1のほぼ中央にあることはわかる。
そして、図3に示すように、このコンダクタンス(G)の極大値(GMAX)を与える周波数区間(Δfi)を挟む連続する少なくとも3つの周波数区間(Δfi-1,Δfi,Δfi+1)において、周波数(f)に対してコンダクタンス(G)の変化量(ΔGi-1/Δf,ΔGi/Δf,ΔGi+1/Δf)を求める。
具体的には、図示されるように、各サンプリング点([(fa,Ga)〜(fd,Gd)])に基づいて、各周波数区間(Δfi-1,Δfi,Δfi+1)におけるコンダクタンス(G)の変化量(ΔG/Δf)を次式により求める。
G’a=(Gb−Ga)/(fb−fa)=(Gb−Ga)/Δf
G’b=(Gc−Gb)/(fc−fb)=(Gc−Gb)/Δf
G’c=(Gd−Gc)/(fd−fc)=(Gd−Gc)/Δf
【0008】
上記の方法により求められたコンダクタンス(G)の変化量(ΔGi-1/Δf,ΔGi/Δf,ΔGi+1/Δf)、即ち、G’a,G’b,G’cを周波数(f)に対して線形となるように近似して条件式(ΔG/Δf=αf+β)を求める。
具体的には、図4に示すように、3点[(fa,G’a)〜(fc,G’c)]を、f−G’平面にプロットして、これらから直線近似式(G’=αf+β)を求める。
前記条件式における変化量(ΔY/Δf)、即ち、G’が0となるときの周波数f=−β/αを求めれば、極大値(GMAX)を与える共振周波数f0を求めることができる。
【0009】
図2は、コンダクタンス(G)を測定した全ての周波数区間において、上記方法により、コンダクタンス(G)の変化量(ΔG/Δf)を求め、図2の右側の目盛に従ってそれぞれプロットしたものである。
この方法であれば、コンダクタンス(G)の極大値(GMAX)が、サンプリングされなくても共振周波数(f0)を求めることができる。
【0010】
次に、圧電素子又は表面弾性波素子の1対の象限周波数f1,f2(f1<f2)を決定する方法について説明する。
図5において、符号3で示されるプロット図は、26.95〜27.10MHzの周波数の範囲において、1kHzの周波数間隔(Δf)で、水晶振動子を発振させ、アドミタンス測定法によるサセプタンス(B)を、図3の左側の軸の目盛に従ってプロットしたものである。
この図3において、サセプタンス(B)の極値(B1,B2)を与える周波数(f1,f2)は、中央部の左側Mと中央部の右側Nにあることがわかる。この例では、コンダクタンス(B)が、本明細書のパラメータ(Y)となる。
まず、f1を求めるために、図6に示すように、このサセプタンス(B)の極値(B1)を与える周波数区間(Δfi)を挟む連続する少なくとも3つの周波数区間(Δfi-1,Δfi,Δfi+1)において、周波数(f)に対してサセプタンス(B)の変化量(ΔBi-1/Δf,ΔBi/Δf,ΔBi+1/Δf)を求める。
具体的には、図示されるように、各サンプリング点([(fa,Ba)〜(fd,Bd)])に基づいて、各周波数区間(Δfi-1,Δfi,Δfi+1)におけるサセプタンス(B)の変化量(ΔB/Δf)を次式により求める。
B’a=(Bb−Ba)/(fb−fa)=(Bb−Ba)/Δf
B’b=(Bc−Bb)/(fc−fb)=(Bc−Bb)/Δf
B’c=(Bd−Bc)/(fd−fc)=(Bd−Bc)/Δf
【0011】
上記の方法により求められたサセプタンス(B)の変化量(B’a,B’b,B’c)を周波数(f)に対して線形となるように近似して条件式(ΔB/Δf=αf+β)を求める。
具体的には、上記コンダクタンス(G)で説明したのと同様にして、3点[(fa,B’a)〜(fc,B’c)]を、f−B’平面にプロットし、これらから直線近似式(B’=αf+β)を求める。
前記条件式における変化量(ΔB/Δf)、即ち、B’が0となるときの周波数f=−β/αを求めれば、極値(B1)を与える第1象限周波数f1を求めることができる。そして、残りの第1象限周波数f2についても、f1と同様にして求めることができる。
【0012】
図5は、サセプタンス(B)を測定した全ての周波数区間において、上記方法により、サセプタンス(B)の変化量(ΔB/Δf)を求め、図5の右側の目盛に従ってそれぞれプロットしたものである。
この方法によれば、サセプタンス(B)の極値(B1,B2)を与える周波数でサンプリングがされなくても、第1象限周波数(f1,f2)(f1<f2)を求めることができる。
【0013】
尚、上記実施の形態において、周波数(f)に対するパラメータ(Y)の変化量(ΔY/Δf)は、周波数間隔(Δf)の区間初めの周波数(fa,fb,fc)を基準に変化量(ΔY/Δf)を線形近似するようにしているが、その周波数間隔(Δf)に対応するものであれば特に制限するものではなく、例えば、区間終わりの周波数(fb,fc,fd)、或いは、区間の中央の周波数((fa+fb)/2,(fb+fc)/2,(fc+fd)/2)を基準にして線形近似するようにしてもよい。
【0014】
本発明において、コンダクタンス(G)の極大値(GMAX)及びサセプタンス(B)の存在する周波数区間(Δfi)を特定する方法としては、目視により特定する方法も可能であるが、所定の周波数間隔(Δf)でサンプリングされたコンダクタンス(G)又サセプタンス(B)をメモリ等の記録手段に記録しておいて、記録されたデータの中から各データ間の差を演算又は各データの比較をする演算手段により求める方法も可能である。
【0015】
本発明において、パラメータ(Y)の変化量(ΔY/Δf)を周波数(f)に対して線形近似する方法は、公知の手法で行うことができるが、最小2乗法によることが好ましい。比較的簡単、且つ、高速に求めることができるからである。
【0016】
また、本発明における所定の周波数間隔(Δf)は、2Hz以上であれば特に制限はないが、好ましくは1kHz以上、より好ましくは5kHz以上とすれば、より高速に決定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】表面弾性波素子の中心周波数f0及び第1象限周波数f1,f2(f1<f2)を説明するためのプロット図
【図2】本発明の一実施の形態の共振周波数の決定方法を説明するための周波数fに対するコンダクタンスGのプロット図及び周波数fに対するコンダクタンスGの変化量ΔG/Δfのプロット図
【図3】同実施の形態の周波数fに対するコンダクタンスGの関係を示す説明図
【図4】同実施の形態の周波数fに対するコンダクタンスGの変化量ΔG/Δfの関係を示す説明図
【図5】本発明の他の実施の形態の第1象限周波数f1,f2の決定方法を説明するための周波数fに対するサセプタンスBのプロット図及び周波数fに対するサセプタンスBのプロット図
【図6】同実施の形態の周波数fに対するサセプタンスBの関係を示す説明図
【符号の説明】
【0018】
1 周波数fに対するコンダクタンスGのプロット図
2 周波数fに対するコンダクタンスGの変化量(ΔG/Δf)のプロット図
3 周波数fに対するサセプタンスBのプロット図
4 周波数fに対するサセプタンスBの変化量(ΔB/Δf)のプロット図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電素子又は表面弾性波素子のアドミタンスの実数部(以下、コンダクタンス(G)とする)又は虚数部(以下、サセプタンス(B)とする)をパラメータ(Y)とし、パラメータ(Y)の極値を与える極値周波数(fx)の決定方法であって、所定の周波数間隔(Δf)でパラメータ(Y)を測定し、パラメータ(Y)の実際の極値を与える周波数区間(Δfi)を特定し、前記周波数区間(Δfi)を挟む連続する少なくとも3つの周波数区間(Δfi-1,Δfi,Δfi+1)において、周波数(f)に対するパラメータ(Y)の変化量(ΔYi-1/Δf,ΔYi/Δf,ΔYi+1/Δf)を線形近似して条件式(ΔY/Δf=αf+β)を求め、この条件式(ΔY/Δf=αf+β)における変化量(ΔY/Δf)が0となる周波数(f)を極値周波数(fx)とするようにしたことを特徴とする極値周波数の決定方法。
【請求項2】
条件式(ΔY/Δf=αf+β)を最小二乗法により求めることを特徴とする請求項1に記載の極値周波数の決定方法。
【請求項3】
パラメータ(Y)は、コンダクタンス(G)であり、コンダクタンス(G)の極大値(GMAX)を与える極値周波数(fx)を、前記素子の中心周波数(f0)としたことを特徴とする請求項1又は2に記載の極値周波数の決定方法。
【請求項4】
パラメータ(Y)は、サセプタンス(B)であり、サセプタンス(B)の極値(B1,B2)を与える極値周波数(fx1,fx2)をそれぞれ1対の象限周波数(f1,f2(f1<f2))としたことを特徴とする請求項1又は2に記載の極値周波数の決定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−52996(P2006−52996A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−233812(P2004−233812)
【出願日】平成16年8月10日(2004.8.10)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】