説明

極微量油剤供給式切削・研削加工用油剤組成物

【課題】 切削・研削箇所に微量の油剤を空気とともに供給する極微量油剤供給方式の切削・研削加工に適した油剤組成物を提供する。特にべたつき性の低い油剤組成物を提供する。
【解決手段】 エステルを基油とし、酸化防止剤を含有してなる極微量油剤供給式切削・研削加工用油剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削・研削箇所に微量の油剤を圧縮流体と共に供給する極微量油剤供給方式の切削・研削加工に適した極微量油剤供給式切削・研削加工用油剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に切削・研削加工においては切削・研削油剤が使用されている。この目的は加工に用いられるドリル、エンドミル、バイト、砥石等の工具の寿命延長や被加工物の表面粗さの向上、それによる加工能率の増大といった機械加工における生産性の向上にある。
切削・研削油剤は、界面活性剤及び潤滑成分を水に希釈して使用する水溶性切削・研削油剤と、鉱物油を主成分として原液のままで使用する不水溶性切削・研削油剤との2種類に大別される。そして従来の切削・研削加工においては比較的大量の切削・研削油剤が加工箇所に供給されている。
切削・研削油剤の最も基本的でかつ重要な機能としては潤滑作用と冷却作用が挙げられる。一般に、不水溶性切削・研削油剤は潤滑性能に、水溶性切削・研削油剤は冷却性能にそれぞれ優れている。不水溶性油剤の冷却効果は水溶性油剤に比べると劣るため、一般に1分間に数リットルから場合によっては数10リットルもの大量の不水溶性切削・研削油剤が必要になる。
【0003】
加工能率の向上に有効な切削・研削油剤も別の側面からみると好ましくない点があり、その代表的な問題点として環境への影響が挙げられる。不水溶性、水溶性にかかわらず油剤は使用中に徐々に劣化してついには使用不能な状態になる。例えば、水溶性油剤の場合には微生物の発生によって液の安定性が低下して成分の分離が生じたり、衛生環境を著しく低下させてその使用が不可能となる。また、不水溶性油剤の場合には酸化の進行によって生じる酸性成分が金属材料を腐食させたり、粘度の著しい変化が生じてその使用が不可能となる。また油剤が切りくず等に付着して消費されたりして廃棄物となる。
このような場合には劣化した油剤を廃棄して新しい油剤が使用される。この時に廃棄物として排出される油剤は環境に影響を及ぼさないように様々な処理が必要になる。例えば、作業能率の向上を優先させて開発されてきた切削・研削油剤には、焼却処理時に有毒なダイオキシンを発生させる可能性のある塩素系化合物が多く用いられているが、これらの化合物の除去処理などが必要になる。このため、塩素系化合物を含まない切削・研削油剤も開発されているが、たとえかかる有害な成分を含まない切削・研削油剤であっても廃棄物の大量排出にともなう環境への影響という問題がある。また水溶性油剤の場合には環境水域を汚染する可能性があるため、高いコストをかけて高度な処理を施す必要がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のような問題点に対処するために最近では切削・研削箇所に冷風を吹きかけて冷却することにより切削・研削油剤の代用とする検討がなされつつあるが、この場合には、切削・研削油剤に求められている潤滑性という一方の性能は得られない。
この点を補うために通常の1/100000〜1/1000000程度の極微量の油剤を圧縮流体(例えば圧縮空気)と共に切削・研削箇所に供給するシステムが開発されている。このシステムでは、圧縮空気による冷却効果が得られ、また極微量の油剤を用いるために廃棄物量を低減することができ、従って廃棄物の大量排出に伴う環境への影響も改善することができる。しかし、この極微量油剤供給方式を利用する切削・研削加工に求められる性能、即ち、極微量であっても良好な表面の加工物を得ることができ、また工具等の摩耗も少なく、切削・研削を効率よく行える高い性能を持つ切削・研削油剤はまだ提案されておらず、その開発が望まれている。特に極微量油剤供給方式では、油剤はオイルミストして供給されるので、工作機械内部、ワーク、工具、ミストコレクター内等に付着しやすいとの問題が伴う。この場合、付着した油剤がべたつき易いものであると、取り扱い性において支障を来し、作業能率を低下させる原因となる。このため、油剤はべたつきにくいことが望ましい。
【0005】
そこで、本発明は、このような実状に鑑みなされたものであり、その目的は、切削・研削加工箇所に油剤を圧縮流体と共に供給し油剤の使用量を極微量にして、廃棄物として排出される油剤の量を大幅に削減しようとする切削・研削油剤供給方式、すなわち極微量油剤供給方式に適した極微量油剤供給式切削・研削加工用油剤組成物を提供することにある。特に本発明の目的はべたつきにくい(べたつき性の低い)油剤組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の発明者の研究の結果、極微量油剤供給式切削・研削加工用油剤組成物の基油としてエステルを用い、更に酸化防止剤を含有した油剤が、切削・研削加工時の作業性、被加工物の仕上がり具合などにおいて非常に有効であることを見出した。特に酸化防止剤の添加によりべたつきにくい油剤が得られることを見出した。
【0007】
本発明は、エステルを基油とし、酸化防止剤を含有してなる極微量油剤供給式切削・研削加工用油剤組成物にある。
【発明の効果】
【0008】
エステルを基油として更に酸化防止剤を含有させることで、切削・研削箇所に微量の油剤組成物を空気とともに供給する極微量油剤供給方式の切削・研削加工に適した油剤組成物を提供することができる。酸化防止剤の添加によって油剤組成物の酸化安定性が確保されるため、べたつきにくい油剤組成物となる。更に基油としての特定の水酸基価のエステルを用いた場合には、潤滑性が向上し、更に特定の沃素価及び/又は臭素価のエステルを用いた場合には、べたつき性を更に低下させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明はエステルを基油として用いた極微量油剤供給式切削・研削加工用油剤組成物であるが、ここで極微量油剤供給式切削・研削加工とは、通常の切削・研削加工に比して1/100000〜1/1000000程度の極微量の油剤を圧縮流体と共に切削・研削箇所に供給しながら行う切削・研削加工を言う。つまり、極微量油剤供給方式は、通常最大でも1ミリリットル/分以下の微量の油剤を圧縮流体(例えば圧縮空気)と共に切削・研削箇所に向けて供給する方式である。なお、圧縮空気以外に窒素、アルゴン、ヘリウム、二酸化炭素、水などの圧縮流体を単独で用いたり、あるいはこれらの流体を混合して用いることも可能である。
本発明の極微量油剤供給式切削・研削加工における圧縮流体の圧力は、油剤が飛散して雰囲気を汚染させないような圧力、及び油剤と気体、あるいは液体との混合流体が切削・研削加工点に十分到達できるような圧力に調節される。また、圧縮流体の温度は冷却性の観点から、通常室温(25℃程度)又は室温から−50℃に調節される。
【0010】
本発明の極微量油剤供給式切削・研削加工用油剤組成物(以下、単に油剤組成物あるいは油剤)に基油として用いるエステルについて説明する。
基油としてのエステルは天然物(通常は動植物などの天然油脂に含まれるもの)であっても合成物であってもよい。本発明では得られる油剤組成物の安定性やエステル成分の均一性などの点から合成エステルであることが好ましい。
【0011】
エステルを構成するアルコールとしては、1価アルコールでも多価アルコールでも良く、酸としては一塩基酸でも多塩基酸であっても良い。1価アルコールとしては、通常炭素数1〜24、好ましくは1〜12、更に好ましくは1〜8のものが用いられ、このようなアルコールとしては直鎖のものでも分岐のものでも良く、また飽和のものであっても不飽和のものであっても良い。炭素数1〜24のアルコールとしては、具体的には例えば、メタノール、エタノール、直鎖状又は分岐状のプロパノール、直鎖状又は分岐状のブタノール、直鎖状又は分岐状のペンタノール、直鎖状又は分岐状のヘキサノール、直鎖状又は分岐状のヘプタノール、直鎖状又は分岐状のオクタノール、直鎖状又は分岐状のノナノール、直鎖状又は分岐状のデカノール、直鎖状又は分岐状のウンデカノール、直鎖状又は分岐状のドデカノール、直鎖状又は分岐状のトリデカノール、直鎖状又は分岐状のテトラデカノール、直鎖状又は分岐状のペンタデカノール、直鎖状又は分岐状のヘキサデカノール、直鎖状又は分岐状のヘプタデカノール、直鎖状又は分岐状のオクタデカノール、直鎖状又は分岐状のノナデカノール、直鎖状又は分岐状のイコサノール、直鎖状又は分岐状のヘンイコサノール、直鎖状又は分岐状のトリコサノール、直鎖状又は分岐状のテトラコサノール及びこれらの混合物等が挙げられる。
【0012】
多価アルコールとしては、通常2〜10価、好ましくは2〜6価のものが用いられる。2〜10の多価アルコールとしては、具体的には例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール(エチレングリコールの3〜15量体)、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール(プロピレングリコールの3〜15量体)、1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2−メチル−1,2−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,3−ペンタンジオール、1,4−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール等の2価アルコール;グリセリン、ポリグリセリン(グリセリンの2〜8量体、例えばジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリン等)、トリメチロールアルカン(トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン等)及びこれらの2〜8量体、ペンタエリスリトール及びこれらの2〜4量体、1,2,4−ブタントリオール、1,3,5−ペンタントリオール、1,2,6−ヘキサントリオール、1,2,3,4−ブタンテトロール、ソルビトール、ソルビタン、ソルビトールグリセリン縮合物、アドニトール、アラビトール、キシリトール、マンニトール等の多価アルコール;キシロース、アラビノース、リボース、ラムノース、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、ソルボース、セロビオース、マルトース、イソマルトース、トレハロース、スクロース等の糖類、及びこれらの混合物等が挙げられる。
【0013】
これらの中でも特に、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール(エチレングリコールの3〜10量体)、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール(プロピレングリコールの3〜10量体)、1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,2−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、トリメチロールアルカン(トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン等)及びこれらの2〜4量体、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、1,2,4−ブタントリオール、1,3,5−ペンタントリオール、1,2,6−ヘキサントリオール、1,2,3,4−ブタンテトロール、ソルビトール、ソルビタン、ソルビトールグリセリン縮合物、アドニトール、アラビトール、キシリトール、マンニトール等の2〜6価の多価アルコール及びこれらの混合物等が好ましい。さらにより好ましくは、エチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビタン、及びこれらの混合物等である。
【0014】
エステルを構成するアルコールは、上述したように1価アルコールであっても多価アルコールであっても良いが、切削及び研削加工においてより優れた潤滑性が得られ、加工物の仕上げ面精度の向上と工具刃先の摩耗防止効果がより大きくなる、流動点の低いものがより得やすく、冬季及び寒冷地での取り扱い性がより向上する、更にべたつき性の低下に寄与するエステルが得られやすくなる等の点から多価アルコールであることが好ましい。
【0015】
一塩基酸としては、通常炭素数2〜24の脂肪酸が用いられ、その脂肪酸は直鎖のものでも分岐のものでも良く、また飽和のものでも不飽和のものでも良い。具体的には、例えば、酢酸、プロピオン酸、直鎖状又は分岐状のブタン酸、直鎖状又は分岐状のペンタン酸、直鎖状又は分岐状のヘキサン酸、直鎖状又は分岐状のヘプタン酸、直鎖状又は分岐状のオクタン酸、直鎖状又は分岐状のノナン酸、直鎖状又は分岐状のデカン酸、直鎖状又は分岐状のウンデカン酸、直鎖状又は分岐状のドデカン酸、直鎖状又は分岐状のトリデカン酸、直鎖状又は分岐状のテトラデカン酸、直鎖状又は分岐状のペンタデカン酸、直鎖状又は分岐状のヘキサデカン酸、直鎖状又は分岐状のヘプタデカン酸、直鎖状又は分岐状のオクタデカン酸、直鎖状又は分岐状のヒドロキシオクタデカン酸、直鎖状又は分岐状のノナデカン酸、直鎖状又は分岐状のイコサン酸、直鎖状又は分岐状のヘンイコサン酸、直鎖状又は分岐状のドコサン酸、直鎖状又は分岐状のトリコサン酸、直鎖状又は分岐状のテトラコサン酸等の飽和脂肪酸、アクリル酸、直鎖状又は分岐状のブテン酸、直鎖状又は分岐状のペンテン酸、直鎖状又は分岐状のヘキセン酸、直鎖状又は分岐状のヘプテン酸、直鎖状又は分岐状のオクテン酸、直鎖状又は分岐状のノネン酸、直鎖状又は分岐状のデセン酸、直鎖状又は分岐状のウンデセン酸、直鎖状又は分岐状のドデセン酸、直鎖状又は分岐状のトリデセン酸、直鎖状又は分岐状のテトラデセン酸、直鎖状又は分岐状のペンタデセン酸、直鎖状又は分岐状のヘキサデセン酸、直鎖状又は分岐状のヘプタデセン酸、直鎖状又は分岐状のオクタデセン酸、直鎖状又は分岐状のヒドロキシオクタデセン酸、直鎖状又は分岐状のノナデセン酸、直鎖状又は分岐状のイコセン酸、直鎖状又は分岐状のヘンイコセン酸、直鎖状又は分岐状のドコセン酸、直鎖状又は分岐状のトリコセン酸、直鎖状又は分岐状のテトラコセン酸等の不飽和脂肪酸、及びこれらの混合物等が挙げられる。これらの中でも、切削及び研削加工においてより優れた潤滑性が得られ、加工物の仕上げ面精度の向上と工具刃先の摩耗防止効果をより大きくすることができる等の点から特に炭素数3〜20の飽和脂肪酸、炭素数3〜22の不飽和脂肪酸及びこれらの混合物が好ましく、炭素数4〜18の飽和脂肪酸、炭素数4〜18の不飽和脂肪酸及びこれらの混合物が更に好ましい。
【0016】
多塩基酸としては炭素数2〜16の二塩基酸及びトリメリト酸等が挙げられる。炭素数2〜16の二塩基酸としては、直鎖のものでも分岐のものでも良く、また飽和のものでも不飽和のものでも良い。具体的には例えば、エタン二酸、プロパン二酸、直鎖状又は分岐状のブタン二酸、直鎖状又は分岐状のペンタン二酸、直鎖状又は分岐状のヘキサン二酸、直鎖状又は分岐状のヘプタン二酸、直鎖状又は分岐状のオクタン二酸、直鎖状又は分岐状のノナン二酸、直鎖状又は分岐状のデカン二酸、直鎖状又は分岐状のウンデカン二酸、直鎖状又は分岐状のドデカン二酸、直鎖状又は分岐状のトリデカン二酸、直鎖状又は分岐状のテトラデカン二酸、直鎖状又は分岐状のヘプタデカン二酸、直鎖状又は分岐状のヘキサデカン二酸、直鎖状又は分岐状のヘキセン二酸、直鎖状又は分岐状のヘプテン二酸、直鎖状又は分岐状のオクテン二酸、直鎖状又は分岐状のノネン二酸、直鎖状又は分岐状のデセン二酸、直鎖状又は分岐状のウンデセン二酸、直鎖状又は分岐状のドデセン二酸、直鎖状又は分岐状のトリデセン二酸、直鎖状又は分岐状のテトラデセン二酸、直鎖状又は分岐状のヘプタデセン二酸、直鎖状又は分岐状のヘキサデセン二酸及びこれらの混合物等が挙げられる。エステルを構成する酸としては、上述したように一塩基酸であっても多塩基酸であっても良いが、粘度指数の高いものがより得やすくミスト性がより良くなる、また優れた潤滑性能を発揮したり、更にべたつき性の低下に寄与するエステルが得られやすくなる等の点から一塩基酸であることが好ましい。
【0017】
エステルを形成するアルコールと酸との組み合わせは任意であって特に限定されないが、本発明で使用可能なエステルとしては、例えば下記のエステルを挙げることができる。
(1)一価アルコールと一塩基酸とのエステル
(2)多価アルコールと一塩基酸とのエステル
(3)一価アルコールと多塩基酸とのエステル
(4)多価アルコールと多塩基酸とのエステル
(5)一価アルコール、多価アルコールとの混合物と多塩基酸との混合エステル
(6)多価アルコールと一塩基酸、多塩基酸との混合物との混合エステル
(7)一価アルコール、多価アルコールとの混合物と一塩基酸、多塩基酸との混合エステル。
【0018】
これらの中でも、切削及び研削加工においてより優れた潤滑性が得られ、加工物の仕上げ面精度の向上と工具刃先の摩耗防止効果がより大きくなる、流動点の低いものがより得やすく、冬季及び寒冷地での取り扱い性がより向上する、粘度指数の高いものがより得やすくミスト性がより良くなる、更にべたつき性の低下に寄与するエステルが得られやすくなる等の点から(2)多価アルコールと一塩基酸とのエステルであることが好ましい。
【0019】
使用可能な天然油脂としては、特に限定されないが、好ましくは例えば、パーム油、パーム核油、菜種油、大豆油、ハイオレイック菜種油、及びハイオレイックサンフラワー油などの植物油、ラードなどの動物油を挙げることができる。
【0020】
本発明において、アルコール成分として多価アルコールを用いた場合に得られるエステルは、多価アルコール中の水酸基全てがエステル化された完全エステルでも良く、あるいは水酸基の一部がエステル化されず水酸基のままで残っている部分エステルでも良い。また、酸成分として多塩基酸を用いた場合に得られる有機酸エステルは、多塩基酸中のカルボキシル基全てがエステル化された完全エステルでも良く、あるいはカルボキシル基の一部がエステル化されずカルボキシル基のままで残っている部分エステルであっても良い。
【0021】
本発明の油剤組成物に基油として前記のエステルを用いることにより潤滑性が改良された油剤が得られるが、更に良好な潤滑性能を示す油剤を得るためには水酸基価が0.01〜300mgKOH/gのエステルを用いることが好ましい。本発明の油剤が更に高い潤滑性を有するためには、エステルの水酸基価の上限値は、更に好ましくは200mgKOH/gであり、最も好ましくは150mgKOH/gであり、一方その下限値は、更に好ましくは0.1mgKOH/gであり、更に好ましくは0.5mgKOH/gであり、更に好ましくは1mgKOH/gであり、更に好ましくは3mgKOH/gであり、最も好ましくは5mgKOH/gである。ここで、エステルの水酸基価は、JIS K 0070「化学製品の酸価、ケン化価、エステル価、沃素価、水酸基価及び不ケン化価物の測定方法」の指示薬滴定法により測定した値を意味する。
【0022】
水酸基価が0.01〜300mgKOH/gの範囲にあるエステルの調製方法としては特に制限はないが、例えば、エステル調製工程においてその原料の選択や反応条件を調整する方法、あるいは二種以上のエステルを混合する方法を挙げることができる。水酸基価の異なる二種以上のエステルを混合して目的の水酸基価のエステルを調製する場合は、比較的水酸基価の低いエステルと比較的水酸基価の高いエステルとを組み合わせて用いる。具体的には、水酸基価0〜150mgKOH/g、更に好ましくは0〜100mgKOH/g、更に好ましくは0〜50mgKOH/g、最も好ましくは0〜20mgKOH/gのエステルと、水酸基価150を超え500mgKOH/g以下、更に好ましくは200〜400mgKOH/g、最も好ましくは250〜350mgKOH/gのエステルとを組み合わせて用いることが好ましい。又これらの配合量については、前者のエステルをエステル全量基準で50〜99.9質量%、更に好ましくは70〜99.5質量%、最も好ましくは80〜99質量%、及び後者のエステルをエステル全量基準で0.1〜50質量%、更に好ましくは0.5〜30質量%、最も好ましくは1〜20質量%となるようにそれぞれ使用することが好ましい。このように油剤組成物を二種以上のエステル混合物として構成した場合には、通常比較的低い水酸基価のエステルが油剤組成物の基油として、比較的高い水酸基価のエステルがその添加剤として寄与するが、本発明ではこれらを合わせて基油として扱う。
【0023】
また油剤の潤滑性をより高める観点からエステルのケン化価は、100〜500mgKOH/gの範囲にあることが好ましい。エステルのケン化価の上限値は更に好ましくは400mgKOH/gであり、一方その下限値は更に好ましくは200mgKOH/gである。ここで、エステルのケン化価は、JIS K 2503「航空潤滑油試験方法」の指示薬滴定法により測定した値を意味する。
【0024】
良好な潤滑性を有する油剤組成物は更にべたつきにくいことが好ましく、そのためには、沃素価が0〜80の範囲にあるエステル及び/又は臭素価が0〜50gBr2/100gの範囲にあるエステルを用いることが好ましい。
エステルの沃素価は、更に好ましくは0〜60の範囲、更に好ましくは0〜40の範囲、更に好ましくは0〜20の範囲、最も好ましくは0〜10の範囲にある。
エステルの臭素価は、更に好ましくは0〜30gBr2/100gの範囲、更に好ましくは0〜20gBr2/100gの範囲、最も好ましくは0〜10gBr2/100gの範囲にある。ここで、エステルの沃素価は、JIS K 0070「化学製品の酸価、ケン化価、エステル価、沃素価、水酸基価及び不ケン化価物の測定方法」の指示薬滴定法により測定した値を意味する。またエステルの臭素価は、JIS K 2605「化学製品―臭素価試験方法−電気滴定法」により測定した値を意味する。
【0025】
エステルの動粘度については特に制限はないが、加工箇所への供給のしやすさの点から40℃における動粘度の上限値は200mm2/sであることが好ましく、更に好ましくは100mm2/sであり、更に好ましくは75mm2/sであり、最も好ましくは50mm2/sである。一方、その下限値は、1mm2/sであることが好ましく、更に好ましくは3mm2/sであり、最も好ましくは5mm2/sである。
またエステルの流動点および粘度指数には特に制限はないが流動点は−20℃以下であることが好ましく、更に好ましくは−45℃以下である。粘度指数は100以上200以下であることが望ましい。
【0026】
本発明の油剤組成物に基油として用いられるエステルの含有量には特に制限はない。しかしながら、バクテリア等の微生物による油剤成分の分解がより容易に行われ、周辺の環境が維持される生分解性の点から、油剤中のエステルの含有量は、組成物全量基準で10質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることが更に好ましく、最も好ましくは50質量%以上である。
【0027】
本発明の油剤組成物には、基油としての上記エステル以外に酸化防止剤が含有されている。酸化防止剤の添加により油剤の酸化安定性が確保され、べたつきを抑えることことができる。使用できる酸化防止剤としては、潤滑剤用として、あるいは食品添加物として使用されているものが含まれ、例えば、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール(DBPC)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(6−tert−ブチル−o−クレゾール)、アスコルビン酸(ビタミンC)、アスコルビン酸の脂肪酸エステル、トコフェロール(ビタミンE)、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシアニソール、2−tert−ブチル−4−ヒドロキシアニソール、3−tert−ブチル−4−ヒドロキシアニソール、1,2−ジハイドロ−6−エトキシ−2,2,4−トリメチルキノリン(エトキシキン)、2−(1,1−ジメチル)−1,4−ベンゼンジオール(TBHQ)、2,4,5−トリヒドロキシブチロフェノン(THBP)を挙げることができる。
【0028】
これらの中では、アスコルビン酸(ビタミンC)、アスコルビン酸の脂肪酸エステル、トコフェロール(ビタミンE)、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール(DBPC)、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシアニソール、2−tert−ブチル−4−ヒドロキシアニソール、3−tert−ブチル−4−ヒドロキシアニソール、1,2−ジハイドロ−6−エトキシ−2,2,4−トリメチルキノリン(エトキシキン)、2−(1,1−ジメチル)−1,4−ベンゼンジオール(TBHQ)、又は2,4,5−トリヒドロキシブチロフェノン(THBP)が好ましく、更に好ましくは、アスコルビン酸(ビタミンC)、アスコルビン酸の脂肪酸エステル、トコフェロール(ビタミンE)、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール(DBPC)、又は3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシアニソールである。
酸化防止剤の含有量は特に制限はないが、良好な酸化安定性を維持させるために油剤中の酸化防止剤の含有量は、組成物全量基準で0.01質量%以上であることが好ましく、更に好ましくは0.05質量%以上、最も好ましくは0.1質量%以上である。またその含有量の上限値はそれ以上添加しても効果の向上が期待できないことから10質量%以下であることが好ましく、更に好ましくは5質量%以下、最も好ましくは3質量%以下である。
【0029】
本発明の油剤組成物は基油としてのエステル及び酸化防止剤を含有するものであるが、更に切削・研削油として従来公知の基油及び上記油性剤以外の添加剤を含有させることができる。
基油は、鉱油でも合成油(但し、エステルは除く)でも良い。鉱油としては、例えば、原油を常圧蒸留及び減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理等の精製処理を適宜組み合わせて精製したパラフィン系、ナフテン系等の油を挙げることができる。また合成油としては、例えば、ポリ−α−オレフィン(ポリブテン、1−オクテンオリゴマー、1−デセンオリゴマー等)、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ポリオキシアルキレングリコール、ポリフェニルエーテル等が使用できる。これらの基油を用いる場合の配合量は特に制限はないが、組成物全量基準で90質量%以下であることが好ましく、70質量%以下であることがより好ましく、50質量%以下であることが特に好ましい。本発明では、生分解性の点から基油をエステル成分のみ(100質量%)で構成することが好ましい。
【0030】
従来公知の添加剤としては、例えば、塩素系、硫黄系、りん系、有機金属系の極圧添加剤;ジエチレングリコールモノアルキルエーテル等の湿潤剤;アクリルポリマー、パラフィンワックス、マイクロワックス、スラックワックス、ポリオレフィンワックス等の造膜剤;脂肪酸アミン塩等の水置換剤;グラファイト、フッ化黒鉛、二硫化モリブデン、窒化ホウ素、ポリエチレン粉末等の固体潤滑剤;アミン、アルカノールアミン、アミド、カルボン酸、カルボン酸塩、スルホン酸塩、リン酸、リン酸塩等の腐食防止剤;ベンゾトリアゾール、チアジアゾール等の金属不活性化剤;メチルシリコーン、フルオロシリコーン、ポリアクリレート等の消泡剤;アルケニルコハク酸イミド、ベンジルアミン、ポリアルケニルアミンアミノアミド等の無灰分散剤;等が挙げられる。これらの公知の添加剤を併用する場合の含有量は特に制限はないが、これらの公知の添加剤の合計含有量が組成物全量基準で0.1〜10質量%となるような量で添加するのが一般的である。
【0031】
本発明の油剤組成物の動粘度については特に制限はないが、加工箇所への供給のしやすさの点から、40℃における動粘度の上限値は200mm2/sであることが好ましく、更に好ましくは100mm2/sであり、更に好ましくは75mm2/sであり、最も好ましくは50mm2/sである。一方、その下限値は、1mm2/sであることが好ましく、更に好ましくは3mm2/sであり、最も好ましくは5mm2/sである。
【0032】
以下、実施例と比較例により、本発明の内容を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0033】
[実施例1〜18]及び[参考例1]
基油としてのエステルα(天然油脂)又はエステルa(合成)と酸化防止剤を用いて下記の表1に示す各種の油剤組成物を調製した。そしてべたつき性の評価を行った。その評価結果を表1に示す。なお、基油としてのエステルα(天然油脂)のみからなる油剤についても同様に評価し、その評価結果を表1に併記した。
【0034】
[べたつき性の評価]
アルミ皿(100mm×70mm)上に油剤組成物を5ml入れ、70℃の恒温槽に1ヶ月間静置後、油剤組成物付着部分のべたつきの程度を5段階にて指触判断した。またGPCにて試験前後の質量平均分子量を測定し、変化率を求めた。
べたつき性の5段階評価は下記の通りである。
A:べたつきは全くない。
B:べたつきが全くないか、あっても極わずかである。
C:べたつきがわずかにある。
D:べたつきがある。
E:べたつきが非常にある。
【0035】
【表1】

【0036】
表1の結果から、基油としてのエステルに酸化防止剤を含有させた油剤組成物(実施例1〜18)は、参考例1の基油としてのエステルのみからなる油剤組成物に比べて更にべたつきにくくなることがわかる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
エステルを基油とし、酸化防止剤を含有してなる極微量油剤供給式切削・研削加工用油剤組成物。
【請求項2】
酸化防止剤が、アスコルビン酸(ビタミンC)、アスコルビン酸の脂肪酸エステル、トコフェロール(ビタミンE)、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール(DBPC)、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシアニソール、2−tert−ブチル−4−ヒドロキシアニソール、3−tert−ブチル−4−ヒドロキシアニソール、1,2−ジハイドロ−6−エトキシ−2,2,4−トリメチルキノリン(エトキシキン)、2−(1,1−ジメチル)−1,4−ベンゼンジオール(TBHQ)、及び2,4,5−トリヒドロキシブチロフェノン(THBP)からなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物である請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
酸化防止剤が、アスコルビン酸(ビタミンC)、アスコルビン酸の脂肪酸エステル、トコフェロール(ビタミンE)、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール(DBPC)、及び3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシアニソールからなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物である請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
エステルの水酸基価が0.01〜300mgKOH/gである請求項1乃至3のいずれかの項に記載の組成物。
【請求項5】
エステルのケン化価が100〜500mgKOH/gである請求項1乃至4のいずれかの項に記載の組成物。
【請求項6】
エステルの沃素価が0〜80である請求項1乃至5のいずれかの項に記載の組成物。
【請求項7】
エステルの臭素価が0〜50gBr2/100gである請求項1乃至6のいずれかの項に記載の組成物。
【請求項8】
エステルが合成エステルである請求項1乃至7のいずれかの項に記載の組成物。










【公開番号】特開2006−83397(P2006−83397A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−314777(P2005−314777)
【出願日】平成17年10月28日(2005.10.28)
【分割の表示】特願2000−286595(P2000−286595)の分割
【原出願日】平成12年9月21日(2000.9.21)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】