説明

極細イオン交換繊維の製造方法

【課題】 非常に速いイオン交換速度と十分なイオン交換容量を持つ極細のイオン交換繊維を簡便な方法で製造すること。
【解決手段】 イオン交換能を有する水溶性ポリマーとポリビニルアルコール、もしくは10μm以下の粒径に粉砕した水不溶性でイオン交換能を有する微粒子とポリビニルアルコールとを混合した紡糸原液(A)と、水溶性でかつ非晶性ポリマーの紡糸原液(B)とで複合紡糸し、延伸、熱処理を施して糸条とした後、水洗することにより非晶性ポリマーを溶出除去することで極細イオン交換繊維を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はイオン交換能に優れた極細繊維の製造方法に関するもので、さらに詳しくは通常の繊維より格段に大きな表面積を有する極細繊維状のイオン交換繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
イオン交換反応はイオン交換体の官能基と被交換体との接触反応であるため、両者が接触する機会の多いほど反応は起こりやすくなる。従って、イオン交換体の表面積が大きいほど、また表面に官能基が多く分布しているほどイオン交換反応は速くなる。
【0003】
そこで本発明者らは従来のイオン交換樹脂に比べ、10〜20倍の交換速度を有するイオン交換繊維の製造方法をすでに提案している。しかしながら、通常の紡糸条件で製造される繊維の直径は10〜30μm以上である。繊維表面積を増大させるためには繊維直径を小さくすればよいが、通常の紡糸方法では10μm程度が下限となり、それ以下のものを紡糸することは糸切れや取扱いの点からも非常に困難である。
【0004】
また、本発明者らは単繊維の直径が0.1〜1.0μmの極細ポリビニルアルコール(以下、PVAと云う)系合成繊維にアミノ基またはスルホン酸基を導入した極細イオン交換繊維の製造方法を提案した。しかし、これらの方法では反応工程が煩雑で、PVAと反応する官能基も限られていて、反応後の直径も太くなってしまうという欠点があった。
【特許文献1】特公昭56−45498号公報
【特許文献2】特公昭56−45499号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、これらの欠点を解決して、イオン交換速度の速いPVA系極細イオン交換繊維を複合紡糸により製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らはイオン交換速度の速いPVA系極細イオン交換繊維を製造するため鋭意研究したところ、イオン交換能を有する水溶性ポリマーとPVAを混合した紡糸原液(A)と、水溶性でかつ非晶性ポリマーの紡糸原液(B)とを複合紡糸して糸条にした後、水洗することで非晶性ポリマーを溶出除去し、高性能の極細イオン交換繊維が得られることを見出し、本発明に到達した。
【0007】
すなわち、本発明の要旨とするところは、イオン交換能を有する水溶性ポリマーまたは微粒子とポリビニルアルコールとを固形分重量比が10:90〜90:10で混合した紡糸原液(A)と、水溶性でかつ非晶性ポリマーの紡糸原液(B)とで固形分重量比が10:90〜90:10になるよう複合紡糸し、延伸、熱処理を施して糸条とした後、水洗することにより非晶性ポリマーを溶出除去すること、または溶出除去操作と同時にイオン交換能を有する水溶性ポリマーと反応する架橋剤、機能性官能基を反応させることを特徴とする極細イオン交換繊維の製造方法にある。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、PVAとイオン交換能を有する水溶性ポリマーやイオン交換樹脂微粒子とを混合し、水溶性でかつ非晶性のポリマーと複合紡糸し、その後水洗するだけで、実用に耐えるイオン交換容量と速い交換速度を有する極細イオン交換繊維が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に本発明を詳細に説明する。本発明で云うイオン交換能を有する水溶性ポリマーと混合するPVAは、平均重合度800〜3000、より好ましくは1000〜2000のPVAを使用する。ケン化度は98モル%以上のものを使用する。平均重合度が低いと得られる糸条の糸質が悪く、平均重合度が高すぎると紡糸原液の粘度が高くなり、安定紡糸するためには紡糸原液の濃度を低くしなければならず、紡糸原液(B)との複合紡糸上、トラブルが発生しやすいので好ましくない。
【0010】
紡糸原液(A)に使用するPVAのケン化度は98モル%以上のものが好ましい。ケン化度が98モル%未満では結晶阻害効果が大きくなり、紡糸後の延伸、熱処理工程における耐熱水性の付与が不十分となってしまい、後の水洗工程で溶出分が多くなるので好ましくない。また紡糸原液は高温で保温するため、保温中にPVA中の残存酢酸基のケン化が徐々に進行し、紡糸原液の性状が経時変化するので好ましくない。ケン化度は98モル%以上、より好ましくは99モル%以上のPVAを使用するのがよい。
【0011】
また、PVAを主体とした変性PVAの使用も可能である。変性PVAとしては共重合法、アセタール化法、エーテル化法、エステル化法等の手段を用いて、-COOH、-SO3H、-NH2、-N(CH3)2等を導入したものが使用できる。例えば、酢酸ビニルと無水マレイン酸の共重合体、酢酸ビニルとアクリル酸の共重合体、酢酸ビニルとアリルスルホン酸の共重合体、酢酸ビニルとアクリルアミドの共重合体などをケン化したもの、通常のPVAを部分ホルマール化、部分アセタール化、部分アミノアセタール化したもの等が挙げられる。
【0012】
PVAの変性度はランダムに導入するか、ブロック的に導入するかで異なってくるので一概に規定することはできないが、溶解除去成分の溶解除去時に溶出しないかまたは溶出量がごく少量のものであればよい。変性PVAの耐熱水性に応じて、変性PVA単独または通常のPVAとを適宜混合して使用することもできる。
【0013】
紡糸原液(A)に用いるイオン交換能を有する水溶性ポリマーとしては、可逆的にイオンの吸脱着が行え、PVAと相溶性の良いポリマーが使われる。具体的には、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン、ポリビニルアミンなどのポリアミン類、ポリアクリル酸などのカルボキシル基を持つポリカルボン酸類、スルホン酸基を持つスチレン系ポリマーなどで、平均重合度500以上で水洗時に溶出しないもの、もしくは溶出がごく微少のものが挙げられる。
【0014】
イオン交換能を有する微粒子とは、可逆的にイオンの吸脱着が行える水不溶性物質の微粒子が対象であり、具体的には、架橋構造を持ったスチレン系、アクリル系、メタクリル系重合体やフェノール系縮合物に酸性基または塩基性基を導入したイオン交換樹脂として使用されているもの、特定金属イオンに対する高い選択吸着性を有する基を導入したキレート樹脂として使用されているものが好ましく用いられる。
【0015】
さらにアガロースゲル、デキストランゲル、セルロースなどの親水性かつ水不溶性基体に酸性基、塩基性基などの官能基を導入した親水性イオン交換体、含水酸化チタン、リン酸ジルコニウム、モリブデン酸アンモニウム、フェロシアン化コバルト、合成ゼオライトなどの無機イオン交換体も使用できる。
【0016】
これら有機イオン交換体樹脂や無機イオン交換体をボールミルなどで粉砕して10μm以下の微粒子とする。微粒子の径は小さい方が極細PVA繊維の糸質に及ぼす影響が少ないので好ましいのであるが、あまり小さいと微粒子同士の凝集が起こりやすくなるので好ましくない。従って、微粒子の径は10μm以下、好ましくは5μm以下、さらに好ましくは0.5〜3.0μmの微粒子が好ましく用いられる。
【0017】
紡糸原液(B)で使用する水溶性でかつ非晶性ポリマーとは、分子量3000〜400万のポリエチレンオキサイドや平均重合度500〜2000、ケン化度83〜93モル%の低ケン化PVAなどであり、これらのポリマーは糸条形成時の延伸、熱処理温度においてはほとんど結晶化することがないため、後で行う水洗により容易に除去できる。
【0018】
紡糸原液(A)でPVAとイオン交換能を有する水溶性ポリマーやPVAとイオン交換体の微粒子との混合比率は、混合するポリマーやイオン交換体の種類により異なるが、固形分重量比で10:90〜90:10が好ましい。PVAが10重量部未満では得られる繊維性状が悪くなるし、90重量部を越えるとイオン交換容量が小さすぎて好ましくない。30:70〜70:30の範囲がより好ましい。
【0019】
紡糸原液(A)の調整は次のように行う。得られる極細イオン交換繊維の基体となるPVAの水溶液と、別に溶解したイオン交換能を有する水溶性ポリマーの水溶液をゲル化しない以上の温度で攪拌しながら混合する。またはPVAとイオン交換能を有する水溶性ポリマーを所定量混合したものを高温水中で攪拌、混合、溶解してもよい。PVAと水溶性ポリマーの混合比は固形分重量比で10:90〜90:10が好ましい。PVAの混合比が10重量部未満では得られる極細繊維の物理的強度が低くなり、90重量部を越えるとイオン交換容量が少なくなり好ましくない。30:70〜70:30が好ましく、40:60〜60:40がより好ましい。
【0020】
紡糸原液(B)は前述した水溶性でかつ非晶性ポリマーの水溶液を用いる。紡糸原液(A)と紡糸原液(B)の混合比率は固形分重量比で10:90〜90:10の範囲が好ましい。A成分が10重量部未満では、除去成分が多くなりすぎ、B成分除去後の繊維の強度が不足したり、A成分に含まれているイオン交換能を有する水溶性ポリマーや微粒子の脱落も多くなるため好ましくない。またA成分が90重量部を越えると除去成分の量が少なすぎ、得られる繊維の極細化が不十分となるので好ましくない。混合比は固形分重量比で30:70〜70:30の範囲がより好ましい。
【0021】
複合紡糸は湿式、乾式、乾湿式紡糸法のいずれの方法でもよいが、乾式紡糸法が最も好ましい。複合紡糸では海島型、鞘芯型、分割型、多層型等の配管やノズルが使用できる。またスタティックミキサーを使用することもできる。紡糸ノズルの直前の配管内に設置したスタティックミキサーを用いてある程度不完全に混合した状態で紡糸することもできる。
【0022】
スタティックミキサーを用いる場合、A、B成分の混合が不完全すぎると紡糸安定性が得られなかったりする。また混合が良くなりすぎると、A成分とB成分を均一に混合した一液の紡糸原液と同じようになり、A成分のイオン性ポリマーとB成分が水素結合や共有結合等の結合を生起し、またはポリマー同士の絡合等により水洗除去時にB成分の除去が不十分になったり、B成分と共にイオン交換ポリマーや微粒子も脱落するおそれがある。それゆえ、A成分に混合するイオン性ポリマーによりスタティックミキサーの段数を調整する必要がある。
【0023】
複合紡糸後延伸、熱処理して得られた糸条からB成分を除去するには、A成分が溶出しない温度の水で水洗すればよい。この際、PVAと反応しない架橋剤で同時にイオン性ポリマーを架橋すればさらにA成分に含まれるイオン性ポリマーの溶出が防げ、イオン交換能の低下を防止することもできる。
【0024】
また、B成分を完全に除去した後なら、A成分のPVAと他の官能基を持つ化合物とを架橋させてもよい。さらにB成分除去中または除去後に、イオン性ポリマーと各種官能基を反応させイオン交換能を機能化させることもできる。
【0025】
例えば、モノクロロ酢酸との反応によるキレート能を付与すること、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド(商品名:カチオマスターC、四日市合成製)との反応による強アニオン交換能の付与、タンニン酸、アジピン酸等との反応による酵素や細胞固定化能の付与、キチン、キトサン等を反応させる多機能化付与、その他アニオン性のものなら容易に反応させることが可能である。
【0026】
得られる極細イオン交換繊維の強度、繊度、イオン交換容量はA成分の組成やA成分とB成分の混合比、スタティックミキサーの段数等で調整できる。
【実施例】
【0027】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
【0028】
(実施例1)
平均重合度1200、完全ケン化PVAとポリエチレンイミン(商品名:PEI-T210T相互薬工製)を重量比で70:30となる濃度40%の紡糸原液(A)と平均重合度500、ケン化度88モル%、濃度47%のPVA紡糸原液(B)をともに90℃に保温し、固形分重量比でA:B=60:40となるよう、ノズル部直前の配管に設置したスタティックミキサー7段で混合し、孔径100μm、孔数30のノズルより120℃の乾燥気流中に吐出し、熱処理温度220℃、延伸倍率4.5倍、紡速200m/分で乾式紡糸を行い、繊維径25μmの糸を得た。
【0029】
これを浴比1:25の浴中にエチレングリコールジグリシジルエーテル(商品名:エピオールE-100、日本油脂製)が1%となるよう添加し、40分かけて40℃から80℃に昇温し、80℃で3時間反応させ架橋を行い、弱アニオン交換繊維とした。この時B成分が除去され、繊維径0.1〜1μmの極細繊維となった。弱アニオン交換容量は3.5meq/gであった。
【0030】
(実施例2)
実施例1で得られた弱アニオン交換繊維を浴比1:20、30%の3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロライド(商品名:カチオマスターC、四日市合成製)とこれと等量の水酸化ナトリウムの浴中で85℃で3時間反応させ、強アニオン交換繊維を得た。この繊維の強アニオン交換容量は1.8meq/gであった。
【0031】
(実施例3)
平均重合度1200の完全ケン化PVAとボールミルを用いて5μm以下(平均粒径1.5μm)に湿式法で粉砕した強カチオン交換樹脂(商品名:ダイヤイオンPK228、三菱化学製)を重量比で50:50となる濃度40%の紡糸原液(A)と平均重合度500、88モル%のPVAからなる濃度47%の紡糸原液(B)をともに90℃に保温し、固形分重量比でA:B=50:50となるようノズル部直前の配管に設置したスタティックミキサー8段で混合し、孔径100μm、孔数30のノズルより120℃の乾燥気流中に吐出し、熱処理温度200℃、延伸倍率1.1倍、紡速50m/分で乾式紡糸を行い、直径100μmの糸を得た。
【0032】
これを浴比1:25、60℃で温水洗し、B成分を除去し、繊維径0.1〜5μmの極細イオン交換繊維を得た。得られた繊維の強カチオン交換容量は2.1meq/gであった。
【0033】
(実施例4)
平均重合度1200、完全ケン化PVAとポリエチレンイミン(商品名:PEI-T210T相互薬工製)を重量比で70:30となる濃度40%の紡糸原液(A)と平均重合度500、ケン化度88モル%、濃度47%のPVA紡糸原液(B)をともに90℃に保温し、固形分重量比でA:B=45:55となるよう、孔径100μm、孔数20の海島ノズル(海:B成分、島:A成分)より120℃の乾燥気流中に吐出し、熱処理温度220℃、延伸倍率4.5倍、紡速200m/分で乾式紡糸を行い、繊維径25μmの糸を得た。
【0034】
これを浴比1:25の浴中にエチレングリコールジグリシジルエーテル(商品名:エピオールE-100、日本油脂製)が1%となるよう添加し、40分かけて40℃から80℃に昇温し、80℃で3時間反応させ架橋を行い、弱アニオン交換繊維とした。この時B成分が除去され、繊維径3.5μm以下の極細繊維となった。弱アニオン交換容量は3.5meq/gであった。
【0035】
(実施例5)
実施例1で得られた極細弱アニオン交換を浴比1:20で、15%のモノクロロ酢酸、10%の水酸化ナトリウムの浴中で70℃において3時間反応させ、極細のキレート繊維を得た。この繊維の弱カチオン交換容量は2.7meq/g、弱アニオン交換容量は1.0meq/gであった。
【0036】
(実施例6)
実施例3で得られた極細の強カチオン交換繊維をさらに無水硫酸ガスにより気相で硫酸化した。強カチオン交換容量が3.1meq/gで沸騰水中でも繊維状を保つ、高容量かつ耐熱水性に優れた繊維径0.2〜5μmの極細イオン交換繊維を得た。
【0037】
(比較例1)
平均重合度1200、完全ケン化PVAとポリエチレンイミンを重量比で70:30となる濃度40%の紡糸原液を作製し、90℃に保温し、孔径100μm、孔数30のノズルより120℃の乾燥気流中に吐出し、熱処理温度220℃、延伸倍率4.5倍、紡速200m/分で乾式紡糸を行い、繊維径25μmの糸を得た。
【0038】
これを浴比1:25、60℃で温水洗した。この時浴中にエチレングリコールジグリシジルエーテル(商品名:エピオールE-100、日本油脂製)が1%となるよう添加し、80℃に昇温し3時間反応させ架橋を行い、弱アニオン交換繊維を得た。得られたイオン交換繊維の弱アニオン交換容量は3.5meq/gであった。
【0039】
(比較例2)
平均重合度1200、完全ケン化PVAとポリエチレンイミンと平均重合度500、ケン化度88モル%のPVAを重量比で42:18:40(組成は実施例1と同じ)となる紡糸原液を作製し、90℃に保温し、孔径100μm、孔数30のノズルより120℃の乾燥気流中に吐出し、熱処理温度220℃、延伸倍率4.5倍、紡速200m/分で乾式紡糸を行い、繊維径25μmの糸を得た。
【0040】
これを浴比1:25の浴中にエチレングリコールジグリシジルエーテル(商品名:エピオールE-100、日本油脂製)が1%となるよう添加し、40分かけて40℃から80℃に昇温し、80℃で3時間反応させ架橋を行い、弱アニオン交換繊維を得た。この時B成分(低ケン化PVA)の除去は不完全であり、繊維径は15〜20μmのイオン交換繊維であった。得られたイオン交換繊維の弱アニオン交換容量は2.5meq/gであった。
【0041】
(比較例3)
平均重合度1200の完全ケン化PVAとボールミルを用いて5μm以下(平均粒径1.5μm)に湿式法で粉砕した強カチオン交換樹脂(商品名:ダイヤイオンPK228、三菱化学製)を重量比で50:50となる濃度40%の紡糸原液を作製し、90℃に保温し、孔径100μm、孔数30のノズルより120℃の乾燥気流中に吐出し、熱処理温度200℃、延伸倍率1.1倍、紡速50m/分で乾式紡糸を行い、直径50μmの糸を得た。得られた繊維の強カチオン交換容量は2.1meq/gであった。
【0042】
(比較例4)
平均重合度1200の完全ケン化PVAとボールミルを用いて5μm以下(平均粒径1.5μm)に湿式法で粉砕した強カチオン交換樹脂(商品名:ダイヤイオンPK228、三菱化学製)と平均重合度500、88モル%のPVAを重量比で25:25:50(組成は実施例3と同じ)となる濃度40%の紡糸原液を作製し、90℃に保温し、孔径100μm、孔数30のノズルより120℃の乾燥気流中に吐出し、熱処理温度200℃、延伸倍率1.1倍、紡速50m/分で乾式紡糸を行い、直径100μmの糸を得た。
【0043】
これを浴比1:25、60℃で温水洗し、B成分(低ケン化PVA)を除去し、繊維径0.1〜5μmの極細イオン交換繊維を得たが、温水洗時に強カチオン交換樹脂も脱落し、イオン交換容量も低下してしまった。得られた繊維の強カチオン交換容量は1.2meq/gであった。
【0044】
実施例1〜比較例4で得られた各イオン交換繊維を2mm長にカットし、これとバインダーとしてポリエチレン、パルプを混ぜ、湿式抄紙し、目付300g/m2、厚み350μmのイオン交換シートを作製した。これを直径25mmの円形に打ち抜き、ホルダーに入れビュレットにセットし、実施例1、2、4、比較例1、2には50ppmのアニオン染料10mlを、実施例3、6、比較例3、4には50ppmのカチオン染料10mlを通液させ、染料阻止率を測定した。また実施例5は50ppmの銅イオン溶液10mlを通液させ、その阻止率を測定した。その結果を表1に示した。
【0045】
【表1】

【0046】
本発明により得られた極細イオン交換繊維からなるシートは染料阻止率がどれも100%であり、比較例のイオン交換繊維より得られたシートより優れていた。ろ紙のように厚みが薄く、吸着速度も必要とされる用途には極細イオン交換繊維は有効であることが確認された。また比較例4のシートは染料阻止率は100%であるが、イオン交換容量が低くなるため好ましくない。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明の極細イオン交換繊維は、非常に速い交換速度と十分なイオン交換容量を持ち、繊維状であるため各種モジュールに加工することもできる。また短くカットし、それを抄紙した紙状物はろ紙として使用できる。特に低濃度の液体中から微量のイオンを吸着させることができるため、今まで困難であった微量分析用のろ紙として各種工業分野での使用が可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン交換能を有する水溶性ポリマーとポリビニルアルコールとを固形分重量比が10:90〜90:10で混合した紡糸原液(A)と、水溶性でかつ非晶性ポリマーの紡糸原液(B)とで固形分重量比が10:90〜90:10になるよう複合紡糸し、延伸、熱処理を施して糸条とした後、水洗することにより非晶性ポリマーを溶出除去することを特徴とする極細イオン交換繊維の製造方法。
【請求項2】
イオン交換能を有する水溶性ポリマーとポリビニルアルコールとを固形分重量比が10:90〜90:10で混合した紡糸原液(A)と、水溶性でかつ非晶性ポリマーの紡糸原液(B)とで固形分重量比が10:90〜90:10になるよう複合紡糸し、延伸、熱処理を施して糸条とした後、イオン交換能を有する水溶性ポリマーと反応する架橋剤、機能性官能基等を反応させながら非晶性ポリマーを溶出除去することを特徴とする機能性を付与した極細イオン交換繊維の製造方法。
【請求項3】
10μm以下に粉砕した水不溶性でイオン交換能を有する微粒子とポリビニルアルコールとを固形分重量比が10:90〜90:10で混合した紡糸原液(A)と、水溶性でかつ非晶性ポリマーの紡糸原液(B)とで固形分重量比が10:90〜90:10になるよう複合紡糸し、延伸、熱処理を施して糸条とした後、水洗することにより非晶性ポリマーを溶出除去することを特徴とする極細イオン交換繊維の製造方法。

【公開番号】特開2006−225795(P2006−225795A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−40819(P2005−40819)
【出願日】平成17年2月17日(2005.2.17)
【出願人】(000134936)株式会社ニチビ (13)
【Fターム(参考)】