説明

極細短繊維の製造方法

【課題】 地合いの優れる不織布を製造できる極細短繊維の製造方法を提供する。
【解決手段】 極細短繊維の製造方法は、所定の溶液によって除去可能な第1の樹脂成分及び前記溶液によって除去が困難な第2の樹脂成分を含む長繊維を、前記溶液で処理し前記第1の樹脂成分を除去して極細長繊維束を形成する工程と、前記極細長繊維束に油剤を付与する工程及び/又は前記極細長繊維束の変形を防止できる固定手段により前記極細長繊維束を固定する工程と、前記極細長繊維束を切断して極細短繊維を形成する工程とを含む。従って、極細長繊維束を切断する際の熱を吸収し極細長繊維間に被膜を形成できるため、極細短繊維同士の融着を防止でき、及び/又は極細長繊維束を切断する際の極細長繊維束の変形を防止できるため、地合の優れる不織布を製造することができる。溶液で第1の樹脂成分を除去する工程は、上記と異なり最後に行ってもよい。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、極細短繊維の製造方法に関し、特に、地合いの優れる不織布を製造することのできる極細短繊維の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】繊維径が9μm以下の極細短繊維からなる不織布は、濾過性能、柔軟性、隠蔽性、払拭性などの諸特性に優れているため、好適に使用することができる。このような繊維径が9μm以下の極細短繊維からなる不織布を製造する1つの方法として、ある溶液によって除去可能な樹脂成分(海成分)中に、この溶液によって除去が困難な樹脂成分(島成分)が分散した短繊維(いわゆる海島型短繊維)を使用して、カード法やエアレイ法などにより繊維ウエブを形成し、次いでニードルや水流の作用によって繊維同士を絡合させて絡合繊維ウェブを形成した後、海島型短繊維の海成分を溶液で溶解除去する方法がある。
【0003】この方法によれば、繊維径が9μm以下の極細短繊維からなる不織布を製造することができるが、極細短繊維が束となった状態にあるため、この極細短繊維束を解すため、又は形態安定性を付与するために、水流などの流体流を作用させる必要があった。しかしながら、この流体流を作用させた不織布は、地合いの点で不十分なものであった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】そこで、海島型長繊維の海成分を除去して極細長繊維束とした後に、所望長さに切断して極細短繊維とし、この極細短繊維を用いて湿式法により繊維ウェブを形成すれば、地合の優れる不織布を製造できると考えられた。しかしながら、極細長繊維束を切断する際に極細短繊維同士が融着してしまい、地合いの優れる不織布を製造することが困難であった。
【0005】そのため、極細長繊維束を形成する前、つまり海島型長繊維束を切断して海島型短繊維とした後に、海島型短繊維の海成分を除去して極細短繊維を形成する方法も考えられたが、この場合であっても、海島型長繊維束を切断して海島型短繊維を形成する際に、島成分同士が融着してしまい、地合いの優れる不織布を製造することが困難であるという問題点があった。
【0006】そこで本発明は、従来の問題点を解決するためになされたもので、地合いの優れる不織布を製造することのできる極細短繊維の製造方法を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明の請求項1に係る発明は、極細短繊維の製造方法であって、所定の溶液によって除去可能な第1の樹脂成分及び前記溶液によって除去が困難な第2の樹脂成分を含む長繊維の束を前記溶液で処理し、前記第1の樹脂成分を溶解除去して極細長繊維束を形成する工程と、前記極細長繊維束に油剤を付与する工程と、油剤が付与された前記極細長繊維束を切断して極細短繊維を形成する工程とを含むことを特徴とする、極細短繊維の製造方法である。
【0008】請求項2に係る発明は、極細短繊維の製造方法であって、所定の溶液によって除去可能な第1の樹脂成分及び前記溶液によって除去が困難な第2の樹脂成分を含む長繊維の束を前記溶液で処理し、前記第1の樹脂成分を溶解除去して極細長繊維束を形成する工程と、前記極細長繊維束の変形を防止できる固定手段により前記極細長繊維束を固定する工程と、前記固定された極細長繊維束を切断して極細短繊維を形成する工程とを含むことを特徴とする、極細短繊維の製造方法である。
【0009】請求項3に係る発明は、極細短繊維の製造方法であって、所定の溶液によって除去可能な第1の樹脂成分及び前記溶液によって除去が困難な第2の樹脂成分を含む長繊維の束を前記溶液で処理し、前記第1の樹脂成分を溶解除去して極細長繊維束を形成する工程と、前記極細長繊維束に油剤を付与する工程と、前記極細長繊維束の変形を防止できる固定手段により前記極細長繊維束を固定する工程と、前記油剤が付与され、かつ固定された極細長繊維束を切断して極細短繊維を形成する工程とを含み、前記油剤を付与する工程及び前記固定する工程のいずれか一方を他方に先行して行うことを特徴とする、極細短繊維の製造方法である。
【0010】請求項4に係る発明は、極細短繊維の製造方法であって、所定の溶液によって除去可能な第1の樹脂成分及び前記溶液によって除去が困難な第2の樹脂成分を含む長繊維から長繊維束を形成する工程と、前記長繊維束に油剤を付与する工程と、油剤が付与された前記長繊維束を切断して短繊維を形成する工程と、切断された前記短繊維を前記溶液で処理し、前記第1の樹脂成分を除去して極細短繊維を形成する工程とを含むことを特徴とする、極細短繊維の製造方法である。
【0011】請求項5に係る発明は、極細短繊維の製造方法であって、所定の溶液によって除去可能な第1の樹脂成分及び前記溶液によって除去が困難な第2の樹脂成分を含む長繊維から長繊維束を形成する工程と、前記長繊維束の変形を防止できる固定手段により前記長繊維束を固定する工程と、前記固定された長繊維束を切断して短繊維を形成する工程と、切断された前記短繊維を前記溶液で処理し、前記第1の樹脂成分を除去して極細短繊維を形成する工程とを含むことを特徴とする、極細短繊維の製造方法である。
【0012】請求項6に係る発明は、極細短繊維の製造方法であって、所定の溶液によって除去可能な第1の樹脂成分及び前記溶液によって除去が困難な第2の樹脂成分を含む長繊維から長繊維束を形成する工程と、前記長繊維束に油剤を付与する工程と、前記長繊維束の変形を防止できる固定手段により前記長繊維束を固定する工程と、前記油剤が付与され、かつ固定された長繊維束を切断して短繊維を形成する工程と、切断された前記短繊維を前記溶液で処理し、前記第1の樹脂成分を除去して極細短繊維を形成する工程とを含み、前記油剤を付与する工程及び前記固定する工程のいずれか一方を他方に先行して行うことを特徴とする、極細短繊維の製造方法である。
【0013】請求項7に係る発明は、前記固定手段がシート状物であり、このシート状物を前記極細長繊維束に巻き付けて前記極細長繊維束を固定することを特徴とする、請求項2又は3に記載の極細短繊維の製造方法である。
【0014】請求項8に係る発明は、前記固定手段がシート状物であり、このシート状物を前記長繊維束に巻き付けて前記長繊維束を固定することを特徴とする、請求項5又は6に記載の極細短繊維の製造方法である。
【0015】請求項9に係る発明は、前記シート状物が前記極細長繊維束を構成する前記第2の樹脂成分と同じ又は同種の樹脂から構成されていることを特徴とする、請求項7に記載の極細短繊維の製造方法である。
【0016】請求項10に係る発明は、前記シート状物が前記長繊維を構成する第1の樹脂成分又は第2の樹脂成分と同じ又は同種の樹脂から構成されていることを特徴とする、請求項8に記載の極細短繊維の製造方法である。
【0017】請求項11に係る発明は、前記シート状物の厚さが20〜80μmであることを特徴とする、請求項7〜10のいずれか1項に記載の極細短繊維の製造方法である。
【0018】請求項1の発明によれば、極細長繊維束に油剤を付与することによって、極細長繊維束を切断する際の熱を吸収することができ、また、極細長繊維間に被膜を形成できるため、極細短繊維同士の融着を防止することができる。そのため、この極細短繊維を使用すれば、地合の優れる不織布を製造することができる。
【0019】請求項2の発明によれば、固定手段によって、極細長繊維束を切断する際の極細長繊維束の変形を防止できるため、極細長繊維束に対して剪断力が作用しにくく、極細短繊維同士の融着を防止することができる。そのため、この極細短繊維を使用すれば、地合の優れる不織布を製造することができる。
【0020】請求項3の発明によれば、極細長繊維束に油剤を付与すると共に、極細長繊維束の変形を防止できる固定手段により極細長繊維束を固定するので、極細長繊維束を切断する際の熱を吸収することができ、また、極細長繊維間に被膜を形成できるため、極細短繊維同士の融着を防止することができると共に、極細長繊維束を切断する際の極細長繊維束の変形を防止できるため、極細長繊維束に対して剪断力が作用しにくく、極細短繊維同士の融着を防止することができ、より一層地合の優れる不織布を製造することができる。
【0021】請求項4の発明によれば、極細長繊維束を切断する場合と同様に、長繊維束に油剤を付与することによって、長繊維束を切断する際の熱を吸収することができるため、切断時における第2の樹脂成分同士の融着を防止できる。
【0022】請求項5の発明によれば、固定手段によって、長繊維束を切断する際の長繊維束の変形を防止できるため、長繊維束に対して剪断力が作用しにくく、第2の樹脂成分同士の融着を防止することができる。
【0023】請求項6の発明によれば、長繊維束に油剤を付与すると共に、長繊維束の変形を防止できる固定手段により長繊維束を固定するので、長繊維束を切断する際の熱を吸収することができ、また、長繊維束を切断する際の長繊維束の変形を防止できるため、長繊維束に対して剪断力が作用しにくく、第2の樹脂成分同士の融着を防止することができ、より一層地合の優れる不織布を製造することができる。
【0024】請求項7の発明によれば、シート状物を極細長繊維束に巻き付けるので、確実かつ容易に極細長繊維束を固定することができる。また、極細長繊維束を切断する際に繊維の逃げがなくなり、引き千切りがなくなるため切断性が向上し、切断工程への送りロールに繊維が噛まなくなるため生産性が向上する。さらに、送りロールよりも先で繊維が折れたり撓むことがなくなるため、繊維長が均一になる。
【0025】請求項8の発明によれば、シート状物を長繊維束に巻き付けるので、確実かつ容易に長繊維束を固定することができる。また、長繊維束を切断する際に繊維の逃げがなくなり、引き千切りがなくなるため切断性が向上し、切断工程への送りロールに繊維が噛まなくなるため生産性が向上する。さらに、送りロールよりも先で繊維が折れたり撓むことがなくなるため、繊維長が均一になる。
【0026】請求項9の発明によれば、仮に切断されたシート状物が極細短繊維に混在したとしても、悪影響を及ぼさない。
【0027】請求項10の発明によれば、シート状物が第1の樹脂成分から構成されていると、仮に切断されたシート状物が混在したとしても、後工程の除去工程で除去され、シート状物が第2の樹脂成分から構成されていると、仮に切断されたシート状物が混在したとしても悪影響を及ぼさない。
【0028】請求項11の発明によれば、更に極細長繊維束又は長繊維束をしっかりと固定できると共に、切断装置への負担を軽減することができる。
【0029】
【発明の実施の形態】以下、本発明による極細短繊維の製造方法の実施形態について、さらに詳細に説明する。本発明による極細短繊維の製造方法(製造方法I)は、(1)所定の溶液によって除去可能な第1の樹脂成分及び前記溶液によって除去が困難な第2の樹脂成分を含む長繊維の束を前記溶液で処理し、前記第1の樹脂成分を除去して極細長繊維束を形成する工程と、(2)前記極細長繊維束に油剤を付与する工程及び/又は前記極細長繊維束の変形を防止できる固定手段により前記極細長繊維束を固定する工程と、(3)前記極細長繊維束を切断して極細短繊維を形成する工程とを含む。
【0030】(1)まず、極細長繊維束を形成する工程において、長繊維としては、例えば海島型繊維、多重バイメタル型繊維、オレンジ型繊維など種々の繊維断面を有する繊維が使用できる。また、所定の溶液(例えば水酸化ナトリウム溶液やジメチルホルムアミド)によって除去可能な第1の樹脂成分としては、例えばポリエステル、カチオンダイアブルポリエステル、ポリ乳酸などが使用できる。この所定の溶液によって除去が困難な第2の樹脂成分としては、例えばポリプロピレン、ポリエチレン、ナイロンなどが使用できる。これらの第1及び第2の樹脂成分は、あらゆる組み合わせで使用でき、第1の樹脂成分の溶解除去によって、繊維径が9μm以下、好ましくは5μm以下、より好ましくは3μm以下であり、0.01μm程度以上の極細繊維を発生可能であれば良い。また、第1の樹脂成分を溶解除去可能な溶液は第1の樹脂成分の種類によって異なるが、例えば第1の樹脂成分が前述のようなポリエステル、カチオンダイアブルポリエステル、ポリ乳酸からなる場合には、水酸化ナトリウム溶液やジメチルホルムアミド等を使用できる。
【0031】このような長繊維を溶液で除去しやすい程度に束ねた後、溶液中に浸漬するなどして、除去可能な第1の樹脂成分のみを除去する。好ましくは、極細長繊維同士が絡まないように、溶液中に長繊維束の一部を順番に浸漬する。あるいは、長繊維をボビンに巻き付けた後、ボビンの内側から外側へ又は外側から内側へ溶液を通過させて、除去可能な第1の樹脂成分のみを除去する。
【0032】(2)極細長繊維束に油剤を付与する油剤付与工程では、第1の樹脂成分を溶解除去して得られた極細長繊維束に対して、油剤を付与する。使用する油剤としては、アニオン系、カチオン系、ノニオン系界面活性剤等が好適に使用できる。また、油剤の付与量は、極細長繊維束の質量100に対して、15%以上であるのが好ましく、20%以上であるのがより好ましい。なお、上限は特に限定するものではないが、50%以下とするのが望ましい。
【0033】固定手段により油剤が付与された、又は油剤が付与されていない極細長繊維束を固定する工程では、固定手段、例えばシート状物であるフィルムなどを巻き付けて極細長繊維束を固定する。固定手段としては、種々のものが使用できるが、シート状物が望ましく、特に、極細長繊維を構成する第2の樹脂成分と一致させるのが好ましい。また、シート状物を巻き付けて極細長繊維束の周囲を覆うことが望ましいが、切断時に極細長繊維束の変形を防止できれば、極細長繊維束の側部及び底部を、例えば極細長繊維束の周囲の3/4程度覆うだけでもよい。なお、シート状物を極細長繊維束に巻き付けた場合には、極細長繊維束切断後に切断されたシート状物を例えば濾過等により除去する。
【0034】シート状物の種類としては、極細長繊維束を切断する場合、極細長繊維を構成する第2の樹脂成分と同じ又は同種の樹脂から構成されているのが好ましい。仮に切断されたシート状物が混在したとしても悪影響を及ぼさないためである。シート状物の厚さは、20〜80μmであるのが好ましい。シート状物の厚さが20μmよりも薄いと、極細長繊維束をしっかりと固定できない傾向があり、80μmを超えると、切断装置への負担が大きくなり、刃を取り替える頻度が増加するなど、生産性が低下する傾向があるためである。
【0035】上述した(2)油剤付与工程及び極細長繊維束を固定する工程は、これらの工程を共に行うことが最も望ましいが、いずれか一方の工程により処理を行い極細短繊維を製造してもよい。
【0036】(3)次に、極細長繊維束を切断する切断工程では、常法の切断装置例えば、ギロチンカッターなどを使用して、極細長繊維束を所望の長さに切断する。こうして、極細短繊維を製造することができる。
【0037】本発明においては、極細長繊維束に油剤を付与し、及び/又は極細長繊維束の変形を防止できる固定手段により極細長繊維束を固定するので、極細長繊維束を切断する際の熱を吸収することができ、極細長繊維間に被膜を形成できるため、極細短繊維同士の融着を防止することができ、及び/又は極細長繊維束を切断する際の極細長繊維束の変形を防止できるため、極細長繊維束に対して剪断力が作用しにくく、極細短繊維同士の融着を防止することができる。従って、得られた極細短繊維を使用して不織布を製造することにより、地合が非常に優れた不織布が得られる。
【0038】上述の製造方法Iでは、溶液で処理して第1の樹脂成分を除去する工程を最初に行うが、溶液で処理して第1の樹脂成分を除去する工程を最後に行ってもよい(製造方法II)。
【0039】すなわち、本発明による極細短繊維の製造方法IIは、(1)所定の溶液によって除去可能な第1の樹脂成分及び前記溶液によって除去が困難な第2の樹脂成分を含む長繊維から長繊維束を形成する工程と、(2)前記長繊維束に油剤を付与する工程及び/又は長繊維束の変形を防止できる固定手段により前記長繊維束を固定する工程と、(3)前記長繊維束を切断して短繊維を形成する工程と、(4)切断された前記短繊維を前記溶液で処理し、前記第1の樹脂成分を除去して極細短繊維を形成する工程とを含む。
【0040】製造方法Iと製造方法IIとは、溶液で処理して第1の樹脂成分を除去する工程を最初に行うか最後に行うかの点だけが異なるので、製造方法IIにおける長繊維、油剤や固定手段等は、製造方法Iと同様なものが使用できる。
【0041】製造方法IIにおいて油剤を使用する場合、極細長繊維束を切断する製造方法Iの場合と同様に、切断時の熱を吸収できるため、切断時における第2の樹脂成分同士の融着を防止することができる。また、シート状物で固定した場合には、極細長繊維束を切断する場合(製造方法I)、長繊維束を切断する場合(製造方法II)のいずれの場合も、(1)切断する際に繊維の逃げがなくなり、言い換えれば、引き千切りがなくなるため、切断性が向上する、(2)切断工程への送りロールに繊維が噛まなく(巻き付かなく)なるため、生産性が向上する、(3)送りロールよりも先で繊維が折れたり、撓むことがなくなるため、繊維長が均一になる、(4)ギロチンカッターにより切断する場合には、上刃と下刃のクリアランスを大きくとることができるため、刃の寿命が長くなるなどの効果を奏する。
【0042】固定手段であるシート状物の種類としては、長繊維束を切断する場合、シート状物は長繊維を構成する第1の樹脂成分又は第2の樹脂成分と同じ又は同種の樹脂から構成されているのが好ましく、第1の樹脂成分から構成されているのがより好ましい。第1の樹脂成分から構成されていると、仮に切断されたシート状物が混在したとしても、後工程の除去工程で除去されるためであり、第2の樹脂成分から構成されていると、仮に切断されたシート状物が混在したとしても悪影響を及ぼさないためである。
【0043】次に、実施例に基づいて、本発明による極細短繊維の製造方法をさらに具体的に説明する。
【0044】実施例1海成分がポリエステルからなり、島成分がポリプロピレンからなる海島型長繊維を用意した。この海島型長繊維は、繊維径が1μmのポリプロピレン製極細長繊維を発生可能であった。次に、この海島型長繊維を集束させた後、海島型長繊維束の一部を順番に溶液である水酸化ナトリウム水溶液(50g/L)中に浸漬し、海成分であるポリエステルを溶解除去して、ポリプロピレン極細長繊維束を形成した。
【0045】次に、この極細長繊維束を約600万デニールに集束してトウを形成した。この集束の際に、油剤としてノニオン系油剤(4.5%)をトウの質量100に対して30mass%付与した。次に、油剤を付与したトウをギロチンカッターにより、1mm長に切断して、極細短繊維を形成した。
【0046】次いで、この極細短繊維をミキサーで攪拌し、得られた極細短繊維70mass%と、別途用意したポリプロピレン(芯)−ポリエチレン(鞘)から構成される芯鞘型繊維(繊維径:17.5μm、繊維長:10mm)30mass%とを湿式抄紙した後、温度120℃に設定されたオーブンを使用し、芯鞘型繊維により融着して不織布を形成した。得られた不織布は、地合いの優れる不織布であった。
【0047】実施例2実施例1と同様に形成した約600万デニールのトウの質量100に対して、ノニオン系油剤(4.5%)を30mass%付与した。このトウにポリプロピレンフィルム(厚さ:38μm)を巻き付けて被覆した。次に、ポリプロピレンフィルムを巻き付けたトウを、ギロチンカッターにより1mm長に切断して、極細短繊維を形成した。被覆に用いたポリプロピレンフィルムは、手で除去した。
【0048】次いで、この極細短繊維を実施例1と同様に処理して、不織布を形成した。得られた不織布は、実施例1よりも更に地合いの優れる不織布であった。
【0049】実施例3海成分がポリ乳酸からなり、島成分がポリプロピレンからなる海島型長繊維を用意した。この海島型長繊維は、繊維径が1μmのポリプロピレン製極細長繊維を発生可能であった。次に、この海島型長繊維を約600万デニールに集束してトウを形成した。この集束の際に、油剤としてノニオン系油剤(4.5%)をトウの質量100に対して30%付与した。
【0050】次に、このトウにポリ乳酸フィルム(厚さ:38μm)を巻き付けてトウを固定した。次に、ポリ乳酸フィルムを巻き付けたトウをギロチンカッターにより、1mm長に切断して、海島型短繊維を形成した。なお、切断されたポリ乳酸フィルムは手で除去した。
【0051】次に、この海島型短繊維を水酸化ナトリウム水溶液(50g/L)中に浸漬し、海成分であるポリ乳酸を除去して、ポリプロピレン製極細短繊維を発生させた。
【0052】次いで、このポリプロピレン製極細短繊維を実施例1と同様に処理して、不織布を形成した。得られた不織布は、実施例1及び実施例2よりも更に地合いの優れるものであった。
【0053】比較例実施例1と同様にして、ノニオン系油剤の付与されていないトウを形成した。次いで、実施例1と同様にして、極細短繊維を形成し、不織布を形成した。得られた不織布は、極細短繊維塊があり、非常に地合いの悪いものであった。
【0054】
【発明の効果】以上説明したように、請求項1の発明によれば、極細長繊維束に油剤を付与することによって、極細長繊維束を切断する際の熱を吸収することができ、また、極細長繊維間に被膜を形成できるため、極細短繊維同士の融着を防止することができる。そのため、この極細短繊維を使用すれば、地合の優れる不織布を製造することができるという効果を奏する。
【0055】請求項2の発明によれば、固定手段によって極細長繊維束を切断する際の極細長繊維束の変形を防止できるため、極細長繊維束に対して剪断力が作用しにくく、極細短繊維同士の融着を防止することができる。そのため、この極細短繊維を使用すれば、地合の優れる不織布を製造することができるという効果を奏する。
【0056】請求項3の発明によれば、極細長繊維束に油剤を付与すると共に、極細長繊維束の変形を防止できる固定手段により極細長繊維束を固定するので、極細長繊維束を切断する際の熱を吸収することができ、また、極細長繊維間に被膜を形成できるため、極細短繊維同士の融着を防止することができると共に、極細長繊維束を切断する際の極細長繊維束の変形を防止できるため、極細長繊維束に対して剪断力が作用しにくく、極細短繊維同士の融着を防止することができ、より一層地合の優れる不織布を製造することができるという効果を奏する。
【0057】請求項4の発明によれば、極細長繊維束を切断する場合と同様に、長繊維束に油剤を付与することによって、長繊維束を切断する際の熱を吸収することができるため、切断時における第2の樹脂成分同士の融着を防止できるという効果を奏する。
【0058】請求項5の発明によれば、固定手段によって、長繊維束を切断する際の長繊維束の変形を防止できるため、長繊維束に対して剪断力が作用しにくく、第2の樹脂成分同士の融着を防止できるという効果を奏する。
【0059】請求項6の発明によれば、長繊維束に油剤を付与すると共に、長繊維束の変形を防止できる固定手段により長繊維束を固定するので、長繊維束を切断する際の熱を吸収することができ、また、長繊維束を切断する際の長繊維束の変形を防止できるため、長繊維束に対して剪断力が作用しにくく、第2の樹脂成分同士の融着を防止することができ、より一層地合の優れる不織布を製造することができるという効果を奏する。
【0060】請求項7の発明によれば、シート状物を極細長繊維束に巻き付けるので、確実かつ容易に極細長繊維束を固定することができる。また、極細長繊維束を切断する際に繊維の逃げがなくなり、引き千切りがなくなるため切断性が向上し、切断工程への送りロールに繊維が噛まなくなるため生産性が向上するという効果を奏する。さらに、送りロールよりも先で繊維が折れたり撓むことがなくなるため、繊維長が均一になるという効果を奏する。
【0061】請求項8の発明によれば、シート状物を長繊維束に巻き付けるので、確実かつ容易に長繊維束を固定することができる。また、長繊維束を切断する際に繊維の逃げがなくなり、引き千切りがなくなるため切断性が向上し、切断工程への送りロールに繊維が噛まなくなるため生産性が向上するという効果を奏する。さらに、送りロールよりも先で繊維が折れたり撓むことがなくなるため、繊維長が均一になるという効果を奏する。
【0062】請求項9の発明によれば、仮に切断されたシート状物が極細短繊維に混在したとしても、悪影響を及ぼさないという効果を奏する。
【0063】請求項10の発明によれば、シート状物が第1の樹脂成分から構成されていると、仮に切断されたシート状物が混在したとしても、後工程の除去工程で除去され、シート状物が第2の樹脂成分から構成されていると、仮に切断されたシート状物が混在したとしても悪影響を及ぼさないという効果を奏する。
【0064】請求項11の発明によれば、更に極細長繊維束又は長繊維束をしっかりと固定できると共に、切断装置への負担を軽減することができるという効果を奏する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 極細短繊維の製造方法であって、所定の溶液によって除去可能な第1の樹脂成分及び前記溶液によって除去が困難な第2の樹脂成分を含む長繊維の束を前記溶液で処理し、前記第1の樹脂成分を除去して極細長繊維束を形成する工程と、前記極細長繊維束に油剤を付与する工程と、油剤が付与された前記極細長繊維束を切断して極細短繊維を形成する工程とを含むことを特徴とする、極細短繊維の製造方法。
【請求項2】 極細短繊維の製造方法であって、所定の溶液によって除去可能な第1の樹脂成分及び前記溶液によって除去が困難な第2の樹脂成分を含む長繊維の束を前記溶液で処理し、前記第1の樹脂成分を除去して極細長繊維束を形成する工程と、前記極細長繊維束の変形を防止できる固定手段により前記極細長繊維束を固定する工程と、前記固定された極細長繊維束を切断して極細短繊維を形成する工程とを含むことを特徴とする、極細短繊維の製造方法。
【請求項3】 極細短繊維の製造方法であって、所定の溶液によって除去可能な第1の樹脂成分及び前記溶液によって除去が困難な第2の樹脂成分を含む長繊維の束を前記溶液で処理し、前記第1の樹脂成分を除去して極細長繊維束を形成する工程と、前記極細長繊維束に油剤を付与する工程と、前記極細長繊維束の変形を防止できる固定手段により前記極細長繊維束を固定する工程と、前記油剤が付与され、かつ固定された極細長繊維束を切断して極細短繊維を形成する工程とを含み、前記油剤を付与する工程及び前記固定する工程のいずれか一方を他方に先行して行うことを特徴とする、極細短繊維の製造方法。
【請求項4】 極細短繊維の製造方法であって、所定の溶液によって除去可能な第1の樹脂成分及び前記溶液によって除去が困難な第2の樹脂成分を含む長繊維から長繊維束を形成する工程と、前記長繊維束に油剤を付与する工程と、油剤が付与された前記長繊維束を切断して短繊維を形成する工程と、切断された前記短繊維を前記溶液で処理し、前記第1の樹脂成分を除去して極細短繊維を形成する工程とを含むことを特徴とする、極細短繊維の製造方法。
【請求項5】 極細短繊維の製造方法であって、所定の溶液によって除去可能な第1の樹脂成分及び前記溶液によって除去が困難な第2の樹脂成分を含む長繊維から長繊維束を形成する工程と、前記長繊維束の変形を防止できる固定手段により前記長繊維束を固定する工程と、前記固定された長繊維束を切断して短繊維を形成する工程と、切断された前記短繊維を前記溶液で処理し、前記第1の樹脂成分を除去して極細短繊維を形成する工程とを含むことを特徴とする、極細短繊維の製造方法。
【請求項6】 極細短繊維の製造方法であって、所定の溶液によって除去可能な第1の樹脂成分及び前記溶液によって除去が困難な第2の樹脂成分を含む長繊維から長繊維束を形成する工程と、前記長繊維束に油剤を付与する工程と、前記長繊維束の変形を防止できる固定手段により前記長繊維束を固定する工程と、前記油剤が付与され、かつ固定された長繊維束を切断して短繊維を形成する工程と、切断された前記短繊維を前記溶液で処理し、前記第1の樹脂成分を除去して極細短繊維を形成する工程とを含み、前記油剤を付与する工程及び前記固定する工程のいずれか一方を他方に先行して行うことを特徴とする、極細短繊維の製造方法。
【請求項7】 前記固定手段はシート状物であり、このシート状物を前記極細長繊維束に巻き付けて前記極細長繊維束を固定することを特徴とする、請求項2又は3に記載の極細短繊維の製造方法。
【請求項8】 前記固定手段はシート状物であり、このシート状物を前記長繊維束に巻き付けて前記長繊維束を固定することを特徴とする、請求項5又は6に記載の極細短繊維の製造方法。
【請求項9】 前記シート状物は、前記極細長繊維束を構成する前記第2の樹脂成分と同じ又は同種の樹脂から構成されていることを特徴とする、請求項7に記載の極細短繊維の製造方法。
【請求項10】 前記シート状物は、前記長繊維を構成する第1の樹脂成分又は第2の樹脂成分と同じ又は同種の樹脂から構成されていることを特徴とする、請求項8に記載の極細短繊維の製造方法。
【請求項11】 前記シート状物の厚さは、20〜80μmであることを特徴とする、請求項7〜10のいずれか1項に記載の極細短繊維の製造方法。

【公開番号】特開2003−119668(P2003−119668A)
【公開日】平成15年4月23日(2003.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2001−318333(P2001−318333)
【出願日】平成13年10月16日(2001.10.16)
【出願人】(000229542)日本バイリーン株式会社 (378)
【Fターム(参考)】