説明

極細繊維不織布及びその製造方法、並びにその製造装置

【課題】 実用性のある機械的強度を備えながら、静電紡糸法により形成された超極細の繊維の機能性が十分に発揮される不織布及びその不織布の製造方法、並びにその製造装置を提供する。
【解決手段】 静電紡糸法により形成された静電紡糸繊維とメルトブロー法により形成されたメルトブロー繊維とが混在しており、且つ繊維径0.001〜1μmの超極細繊維と繊維径2〜25μmの極細繊維とが混在しており、前記超極細繊維は主として静電紡糸繊維からなり、前記極細繊維は主としてメルトブロー繊維からなる極細繊維不織布。及びメルトブロー法によりノズルから吐出したメルトブロー繊維の繊維流の中に、静電紡糸法により形成した静電紡糸繊維を混入して極細繊維ウエブを形成する工程を含む極細繊維不織布の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は極細の繊維から構成される不織布に関し、特に繊維径が小さく、固体粒子や液体粒子を含む塵埃を除去するエアフィルタ用途などに適した極細繊維不織布及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、不織布は構成繊維、繊維ウエブの形成方法、或いは繊維ウエブの結合方法等を適宜組み合わせることにより、各種機能を付与できるため、各種用途に適用されている。また、不織布を構成する繊維の繊維径が小さいと、分離性能、液体保持性能、払拭性能、隠蔽性能、絶縁性能、或いは柔軟性など、様々な性能に優れているため、できる限り小さい繊維径を有する繊維からなる不織布が要望されている。
【0003】
このような不織布の製造方法として、紡糸原液をノズルから吐出するとともに、吐出した紡糸原液に電界を作用させて紡糸原液を延伸し、繊維径が極めて小さい繊維とした後に捕集して繊維集合体とする、いわゆる静電紡糸法が知られている。
【0004】
しかし、この静電紡糸法により製造された不織布は機械的強度が比較的弱いため、繊維径の大きい繊維ウエブと積層することによって、機械的強度を向上させた上で、濾過性能などの機能を安定して発揮させることが検討されており、具体的には、繊維径の大きい繊維ウエブ上に静電紡糸法により紡糸した超極細の繊維を直接集積して不織布を形成することが検討されている。
【0005】
このようにして形成される不織布としては、特許文献1に開示される本出願人による繊維集合体の製造方法「紡糸原液を紡糸空間へ供給し、この供給した紡糸原液に電界を作用させて延伸した繊維を、不織布、織物、フィルム、メッシュなどの基材シート上に集積して繊維集合体を製造する方法であって、前記基材シート上に繊維を集積させる際に、前記基材シートの紡糸原液の供給側と反対面にイオンを照射することを特徴とする、繊維集合体の製造方法。」によって製造される繊維集合体を一例として挙げることができる。
【0006】
しかし、このような静電紡糸法により形成された超極細の繊維が繊維径の大きい繊維ウエブ上に積層された不織布にあっては、静電紡糸法により形成された超極細の繊維層を構成する繊維同士の繊維間距離が非常に小さいものであり、また構成繊維によって囲まれてできる孔径も非常に小さなものであるため、例えばこの不織布をエアフィルタとして用いた場合、この超極細の繊維層が空気中の塵埃によって急速に目詰まりを起こしてしまい、濾過寿命が短くなってしまうという問題があった。また、空気中の塵埃が液体粒子を含む場合には、静電紡糸繊維の繊維間を液体粒子が埋めてしまい、いわゆる膜を張ったような状態になることから、この問題はさらに深刻であった。このように、静電紡糸法により形成された超極細の繊維が繊維径の大きい繊維ウエブ上に積層された不織布では、静電紡糸法により形成された超極細の繊維が有している機能性が十分に生かされないという問題があり、実用性のある機械的強度を備えると共に、静電紡糸法により形成された超極細の繊維の機能性が十分に発揮される不織布が求められていた。
【0007】
【特許文献1】特開2007−92257号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記問題を解決して、実用性のある機械的強度を備えながら、静電紡糸法により形成された超極細の繊維の機能性が十分に発揮される不織布及びその不織布の製造方法、並びにその製造装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、請求項1に係る発明は、静電紡糸法により形成された静電紡糸繊維とメルトブロー法により形成されたメルトブロー繊維とが混在しており、且つ繊維径0.001〜1μmの超極細繊維と繊維径2〜25μmの極細繊維とが混在しており、前記超極細繊維は主として静電紡糸繊維からなり、前記極細繊維は主としてメルトブロー繊維からなることを特徴とする極細繊維不織布である。この極細繊維不織布によって、実用性のある機械的強度を備えると共に超極細の繊維の機能性が十分に発揮される不織布を提供することが可能となる。
【0010】
請求項2に係る発明では、前記超極細繊維10〜80%と、前記極細繊維90〜20%とが混在していることを特徴とする請求項1に記載の極細繊維不織布であり、請求項1に記載の不織布による上述の効果をより顕著に得ることができる。
【0011】
請求項3に係る発明では、繊維径0.01〜0.7μmの超極細繊維と繊維径4〜20μmの極細繊維とが混在しており、構成繊維全体に対して、前記超極細繊維と前記極細繊維の合計が50%以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の極細繊維不織布であり、構成繊維全体の分布において、前記超極細繊維のピークと前記極細繊維のピークが存在しており、請求項1または2に記載の極細繊維不織布による上述の効果をより顕著に得ることができる。
【0012】
請求項4に係る発明では、請求項1〜3の何れかに記載の極細繊維不織布からなることを特徴とする濾材であり、静電紡糸法により形成された超極細の繊維層と、メルトブロー法による極細の繊維層とが積層された従来の不織布と比較して、濾過効率は維持したまま、濾過寿命の長い濾材を得ることができる。
【0013】
請求項5に係る発明では、メルトブロー法によりノズルから吐出したメルトブロー繊維の繊維流の中に、静電紡糸法により形成した静電紡糸繊維を混入して極細繊維ウエブを形成する工程を含むことを特徴とする極細繊維不織布の製造方法である。この極細繊維不織布の製造方法により、請求項1〜4に記載する極細繊維不織布を好適に得ることができる。
【0014】
請求項6に係る発明では、前記メルトブロー繊維の繊維流の中に、この繊維流の方向に交差するようにして、前記静電紡糸繊維を混入することを特徴とする請求項5に記載の極細繊維不織布の製造方法であり、より効率的に極細繊維不織布を製造することができる。
【0015】
請求項7に係る発明では、
熱可塑性樹脂を溶融する溶融手段と、
前記溶融手段に設けられ、前記熱可塑性樹脂を吐出してメルトブロー繊維からなる繊維流を形成する噴出手段と、
紡糸溶液を前記繊維流に向かって供給する溶液供給手段と、供給された前記紡糸溶液に電界を作用させて延伸し静電紡糸繊維を形成し、且つ前記静電紡糸繊維を前記繊維流に混入する電位差形成手段と、
前記メルトブロー繊維と前記静電紡糸繊維とが混在した繊維流を受け止め、その混在した繊維流に含まれるメルトブロー繊維と静電紡糸繊維とからなる極細繊維ウエブを堆積し、且つ移動させる搬送手段とを備えていることを特徴とする、極細繊維不織布の製造装置であり、請求項1〜4に記載する極細繊維不織布を好適に製造できる製造装置である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によって、実用性のある機械的強度を備えながら、静電紡糸法により形成された超極細の繊維の機能性が十分に発揮される不織布及びその不織布の製造方法、並びにその製造装置を提供することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明に係る不織布の好ましい実施の形態について詳細に説明する。
【0018】
本発明の極細繊維不織布は、静電紡糸法により形成された静電紡糸繊維とメルトブロー法により形成されたメルトブロー繊維とが混在している。
【0019】
前記静電紡糸繊維は、静電紡糸法により形成された繊維であり、この繊維を構成する樹脂は静電紡糸法によって紡糸できる樹脂である限り、特に限定されるものではなく、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリアクリロニトリル−メタクリレート共重合体、ポリメタクリル酸メチル、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン−アクリレート共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン12、ナイロン−4,6などのナイロン系、アラミド、ポリベンズイミダゾール、セルロース、酢酸セルロース、酢酸セルロースブチレート、ポリビニルピロリドン−酢酸ビニル、ポリ(ビス−(2−(2−メトキシ−エトキシエトキシ))ホスファゼン)(poly(bis−(2−(2−methoxy−ethoxyethoxy))phosphazene);MEEP)、ポリプロピレンオキサイド、ポリエチレンイミド(PEI)、ポリこはく酸エチレン(poly(ethylenesuccinate))、ポリアニリン、ポリエチレンサルファイド、ポリオキシメチレン−オリゴ−オキシエチレン(poly(oxymethylene−oligo−oxyethylene))、SBS共重合体、ポリヒドロキシ酪酸、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンオキサイド、コラーゲン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリD,L−乳酸−グリコール酸共重合体、ポリアリレート、ポリプロピレンフマラート(poly(propylene fumalates))、ポリカプロラクトンなどの生分解性高分子、ポリペプチド、タンパク質などのバイオポリマー、コールタールピッチ、石油ピッチなどのピッチ系などから構成することができる。なお、これら樹脂の共重合体又は混合物であることも可能である。また、これらの樹脂に種々の機能を発揮させるための添加剤を混合することも可能である。
【0020】
前記静電紡糸繊維の繊維長は特に限定するものではないが、静電紡糸法により超極細の繊維を形成した場合、一般的に連続繊維である。このように超極細の繊維が連続繊維であると、極細繊維不織布製造時及び/又は使用時に超極細の繊維が脱落しにくいため好適である。なお、静電紡糸時に、間欠的に紡糸溶液を吐出するなどの方法により、非連続繊維であることも可能である。
【0021】
前記メルトブロー繊維は、メルトブロー法により形成された極細の繊維であり、この繊維を構成する樹脂はメルトブロー法によって紡糸できる樹脂である限り、特に限定されるものではなく、例えば、ポリプロピレン系やポリエチレン系などのポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸などのポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリスチレン、ポリフェニレンサルファイド、フッ素系樹脂、ウレタン系樹脂など1種類以上からなることができる。これらの中でも、極細の繊維を製造しやすいポリオレフィン系樹脂を含んでいることが好ましく、ポリプロピレンを含んでいることがより好ましい。
【0022】
また、前記メルトブロー繊維を構成する樹脂成分は、MFR100(g/10分)以上であることが好ましく、MFR500(g/10分)以上であることがより好ましく、MFR1000(g/10分)以上であることが更に好ましい。MFR100(g/10分)以上であることにより、紡糸時の極細の繊維の劣化を防ぎ、糸切れによるショットの発生を少なくすることができる。つまり、より安定した極細の繊維を紡糸することが可能であり、ショットのより少ない不織布が得られるという利点がある。
【0023】
また、前記メルトブロー繊維を構成する樹脂成分が、熱安定剤を含むことが好ましく、このような熱安定剤としては、特に限定されるものではないが、ヒンダードアミン系、含窒素ヒンダードフェノール系、金属塩ヒンダードフェノール系、フェノール系、硫黄系、燐系のなどの化合物があり、これらの内から選択される1種または2種以上の熱安定剤を用いることが好ましい。これらの熱安定剤の中でもヒンダードアミン系化合物が特に好ましい。前記熱安定剤の割合はメルトブロー繊維を構成する樹脂成分全体に対して、0.01〜0.5質量%が好ましく、0.03〜0.3質量%がより好ましく、0.05〜0.2質量%が更に好ましい。熱安定剤の割合が0.01質量%未満であるとその効果が十分に発揮されず、熱安定剤の割合が0.5質量%を超えると、極細の繊維の強度が低下する恐れがある。
【0024】
前記ヒンダードアミン系化合物としては、例えば、ポリ[{(6−(1,1,3,3,−テトラメチルブチル)イミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル}(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}]、コハク酸ジメチル−1−(2−ヒドロキシエチル)−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン重縮合物、2−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2−n−ブチルマロン酸ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)などがある。
【0025】
本発明の極細繊維不織布は、繊維径0.001〜1μmの超極細繊維と繊維径2〜25μmの極細繊維とが混在している。また、前記超極細繊維は主として静電紡糸繊維からなり、前記極細繊維は主としてメルトブロー繊維からなる。ここで、主としてとは、繊維の比率が50%以上であることを意味する。
【0026】
前記超極細繊維の繊維径は、0.001〜1μmであるが、0.01〜0.7μmであることが好ましく、0.05〜0.5μmであることがより好ましい。この超極細繊維は静電紡糸法により形成された静電紡糸繊維から主として形成される繊維であり、メルトブロー法により形成されたメルトブロー繊維を一部含むことも可能である。前記超極細繊維は静電紡糸繊維70%以上から形成されていることが好ましく、90%以上から形成されていることがより好ましく、100%から形成されていることが更に好ましい。また、超極細繊維の繊維径が0.001μm未満であると静電紡糸法によって超極細繊維の形成が困難になるという問題があり、超極細繊維の繊維径が1μmを超えると超極細繊維として要求される機能を十分に果たせなくなるという問題がある。
【0027】
前記極細繊維の繊維径は2〜25μmであるが、4〜20μmであることが好ましく、5〜15μmであることがより好ましい。この極細繊維はメルトブロー法により形成されたメルトブロー繊維から主として形成される繊維であり、静電紡糸法により形成された静電紡糸繊維を一部含むことも可能である。前記極細繊維はメルトブロー繊維70%以上から形成されていることが好ましく、90%以上から形成されていることがより好ましく、100%から形成されていることが更に好ましい。また、極細繊維の繊維径が2μm未満であるとメルトブロー繊維の形成効率が悪くなるという問題があり、繊維径が25μmを超えると極細繊維として要求される機能を十分に果たせなくなるという問題がある。
【0028】
なお、本発明の極細繊維不織布に含まれる繊維の「繊維径」は、極細繊維不織布の電子顕微鏡写真で確認することのできる繊維の直径を意味し、具体的には200本の繊維の巾を計測して得ることができる。
【0029】
また、前記超極細繊維の極細繊維不織布に占める割合は、10〜80%であることが好ましく、15〜70%であることがより好ましく、20〜50%であることが更に好ましい。10%未満であると超極細繊維として要求される機能を十分に果たせなくなるという問題があり、80%を超えると超極細繊維の繊維同士の繊維間距離が小さくなり過ぎるため、極細繊維を混合していることによって得られる性能が十分に発揮されないという問題がある。
【0030】
また、前記極細繊維の極細繊維不織布に占める割合は、90〜20%であることが好ましく、85〜30%であることがより好ましく、80〜50%であることが更に好ましい。90%以上であるとその分超極細繊維の混合割合が低下して、超極細繊維として要求される機能を十分に果たせなくなるという問題があり、20%未満であるとその分超極細繊維の混合割合が増加することとなり、超極細繊維の繊維同士の繊維間距離が小さくなり過ぎるため、極細繊維を混合していることによって得られる性能が十分に発揮されないという問題がある。
【0031】
なお、本発明において、極細繊維不織布に占める超極細繊維の割合は、極細繊維不織布の電子顕微鏡写真で確認しえる200本以上の繊維の総数に対する超極細繊維の数から計算される割合(%)で表すものとする。同様に、極細繊維不織布に占める極細繊維の割合は、極細繊維不織布の電子顕微鏡写真で確認しえる200本以上の繊維の総数に対する極細繊維の数から計算される割合(%)で表すものとする。
【0032】
また、静電紡糸法により形成された静電紡糸繊維が全て繊維径0.001〜1μmの超極細繊維になるとは限らず、一部繊維径が0.001μm未満になる場合や、1μmを超える場合もある。同様にメルトブロー法により形成されたメルトブロー繊維が全て2〜25μmの極細繊維になるとは限らず、一部繊維径が2μm未満になる場合や、25μmを超える場合もある。したがって、前記超極細繊維の極細繊維不織布に占める割合と前記極細繊維の極細繊維不織布に占める割合とを合計しても100%にならない場合もある。
【0033】
また、本発明では、繊維径0.01〜0.7μmの超極細繊維と繊維径4〜20μmの極細繊維とが混在しており、構成繊維全体に対して、前記超極細繊維と前記極細繊維の合計が50%以上であることが好ましい。このような構成を有する場合、構成繊維全体の分布において、前記超極細繊維のピークと前記極細繊維のピークが存在することを意味し、静電紡糸繊維の繊維形成性とメルトブロー繊維の繊維形成性が共に優れているのみならず、超極細繊維および極細繊維の機能を確実に発揮して、極細繊維不織布による効果をより顕著に得ることができる。また、構成繊維全体に対して、前記超極細繊維と前記極細繊維の合計が70%以上であることがより好ましく、80%以上であることが更に好ましく、90%以上であることが更に好ましい。
【0034】
本発明の極細繊維不織布は上述のように静電紡糸繊維とメルトブロー繊維とが混在しているが、静電紡糸繊維とメルトブロー繊維とを見分ける方法としては、前述の電子顕微鏡写真の映像で見分けることができる外に、例えば静電紡糸繊維を溶媒に溶解させることによって見分ける方法が可能である場合もある。
【0035】
本発明の極細繊維不織布は、静電紡糸繊維とメルトブロー繊維とが混在しているが、その混在の状態は、例えば図1の電子顕微鏡写真で示すように、静電紡糸繊維が極細の繊維の前になったり、後ろになったりしている形態で説明することができる。すなわち、静電紡糸繊維とメルトブロー繊維とが混ざり合って存在しているのである。これに対して、例えば図8の電子顕微鏡写真で示すように、静電紡糸繊維が繊維径の大きい繊維ウエブ上に積層された従来技術による不織布では、全ての静電紡糸繊維が繊維径の大きい繊維の前に存在している形態となっている。
【0036】
なお、前記静電紡糸繊維の極細繊維不織布に占める割合が、極細繊維不織布の一方の面付近と他方の面付近とで相違し密度勾配を形成している場合もあるが、少なくとも片面において、前記超極細繊維10〜80%と、前記極細繊維90〜20%とが混在していることが好ましい。また、両面において、前記超極細繊維10〜80%と、前記極細繊維90〜20%とが混在していることがより好ましい。
【0037】
本発明の極細繊維不織布は、前述のように静電紡糸法により形成された静電紡糸繊維とメルトブロー法により形成されたメルトブロー繊維とが混在しており、且つ繊維径0.001〜1μmの超極細繊維と繊維径2〜25μmの極細繊維とが混在しており、前記超極細繊維は主として静電紡糸繊維からなり、前記極細繊維は主としてメルトブロー繊維からなるので、実用性のある機械的強度を備えると共に超極細繊維および極細繊維の有する機能性が十分に発揮されるという優れた特性を有している。このような特性を生かした用途の一例として、前記極細繊維不織布からなる濾材を挙げることができる。この濾材をエアフィルタとして用いた場合の効果を具体的に説明すると、静電紡糸繊維が繊維径の大きい繊維ウエブ上に積層された従来の不織布で生じていた、静電紡糸繊維層が空気中の塵埃によって急速に目詰まりを起こし濾過寿命が低下するという問題は起こらず、しかも超極細繊維の有する分離機能は保持したままで、実用性のある機械的強度も備えているという効果がある。また、空気中の塵埃が液体粒子を含む場合、前述の従来の不織布では静電紡糸繊維層に液体粒子が補足された際に、静電紡糸繊維の繊維間で液体粒子が膜を張ったような状態になり、圧力損失が急激に上昇するという問題があったが、本発明では超極細繊維と極細繊維とが混在しているため、繊維間隔が広く保たれ、液体粒子が補足されても膜を張ったような状態にはなり難いため、圧力損失の急激な上昇を防ぐことができるという効果がある。
【0038】
本発明の極細繊維不織布は、一般ビルの空調、工場空調設備、電算室や病院の空調設備などに使用される中・高性能フィルタやクリーンルームなどの供給空気からサブミクロン粒子を除去するHEPAフィルタ又はULPAフィルタ、家庭用又は業務用空気清浄機用フィルタ、或いは電気掃除機やコピー機などに用いることのできる排気用フィルタ、面体への取り外し可能な防塵マスク用フィルタとして、そのフィルタを構成するエアフィルタ用濾材の用途に好適に使用される。また、マスク、ワイピイング材、保温材、バッテリーセパレータ、および液体用濾過材などの用途に好適に使用される。これらの用途の中でも、エアフィルタ用濾材として特に好適に使用される。
【0039】
本発明の極細繊維不織布をエアフィルタ用濾材に用いた場合、中高性能以上の性能を有するフィルタとして好適であり、極細繊維不織布を構成する繊維の繊維径および面密度などを変えることによって、目的とする濾過性能を得ることができる。この濾過性能の一例としては、防じんマスク国家検定法(平成12年9月11日労働省告示第88号)に規定された試験方法において、DOP 0.15〜0.25μm粒子に対する粒子捕集効率を、30〜99.97%とすることが可能である。この粒子捕集効率は、より好ましくは(50〜99.97%であり、さらに好ましくは65〜99.97%である。また、このエアフィルタ用濾材の圧力損失は、試験条件が風速5.3cm/秒の時に、400Pa以下が好ましく、300Pa以下がより好ましく、200Pa以下が更に好ましい。なお、この試験方法による濾過性能の評価に際しては、成型マスクを治具に装着する替わりに平板状の試験片を治具に装着して、濾過面積100cmで、試験風速5.3cm/秒の条件下で評価するものとする。
【0040】
本発明の極細繊維不織布は、例えば、次に説明する本発明の極細繊維不織布の製造方法及び製造装置によって形成することができる。極細繊維不織布の製造方法及び製造装置については、製造装置の極細繊維ウエブの流れ方向と平行方向における横断面概念図である図2をもとに説明する。
【0041】
本発明の極細繊維不織布の製造方法は、メルトブロー法によりノズル12から吐出したメルトブロー繊維の繊維流17の中に、静電紡糸法により形成した静電紡糸繊維18を混入して極細繊維ウエブ20’を形成する工程を含むことを特徴とする極細繊維不織布の製造方法であり、図2に例示する極細繊維不織布の製造装置10はこの製造方法に好適に用いられる製造装置である。
【0042】
図2の極細繊維不織布の製造装置10は、熱可塑性樹脂を溶融する溶融手段11と、前記溶融手段11に設けられ、前記熱可塑性樹脂を吐出してメルトブロー繊維からなる繊維流17を形成する噴出手段12と、紡糸溶液を前記繊維流17に向かって供給する溶液供給手段13と、供給された前記紡糸溶液に電界を作用させて延伸し静電紡糸繊維18を形成し、且つ前記静電紡糸繊維18を前記繊維流17に混入する電位差形成手段14と、前記メルトブロー繊維17と前記静電紡糸繊維18とが混在した繊維流19を受け止め、その混在した繊維流19に含まれるメルトブロー繊維と静電紡糸繊維とからなる極細繊維ウエブ20’を堆積し、且つ移動させる搬送手段15とを備えていることを特徴とする、極細繊維不織布20の製造装置10である。
【0043】
より具体的には、例えば前記熱可塑性樹脂を溶融する溶融手段11はメルトブロー装置用ダイ11であり、前記溶融手段11に設けられ、前記熱可塑性樹脂を吐出してメルトブロー繊維からなる繊維流17を形成する噴出手段12はメルトブロー用ノズル12である。メルトブロー装置用ダイ11は図3に例示するように、ダイ11には溶融樹脂を吐出するノズル12とこのノズル近傍から加熱気流を吹き出す吹出し口111とが設けられており、ノズルから押出された溶融樹脂は加熱気流により細化されて極細の繊維からなる繊維流17を形成することができる。
【0044】
前記メルトブロー装置用ダイ11は通常のメルトブロー装置に用いられるダイを適用することが可能であり、ダイに設けられているノズル12は通常複数個、所定間隔で直線上に並んでおり、この両側に連続したスリットの形状で吹出し口111が設けられる。
【0045】
また、より具体的には、紡糸溶液を前記繊維流17に向かって供給する溶液供給手段13は例えば静電紡糸用ノズル装置13であり、供給された前記紡糸溶液に電界を作用させて延伸し超極細の繊維からなる静電紡糸繊維18に繊維化し、且つ前記静電紡糸繊維18を前記繊維流17に混入する電位差形成手段14は例えば高電圧印加装置14である。また、前記メルトブロー繊維17と前記静電紡糸繊維18とが混在した繊維流19を受け止め、その混在した繊維流19に含まれるメルトブロー繊維と静電紡糸繊維とからなる極細繊維ウエブ20’を堆積し、且つ移動させる搬送手段15は好ましくは図2のAの矢印方向とBの矢印方向に回転するコンベアベルト15であることができる。
【0046】
このような製造装置を用いて極細繊維不織布を製造する場合、まず、原料となる熱可塑性樹脂を用意する。この熱可塑性樹脂については、メルトブロー法によって極細の繊維を紡糸できる樹脂である限り、特に限定されるものではないが、例えば、ポリプロピレン系やポリエチレン系などのポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸などのポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリスチレン、ポリフェニレンサルファイド、フッ素系樹脂、ウレタン系樹脂など1種類以上からなることができる。これらの中でも、極細の繊維を製造しやすいポリオレフィン系樹脂を含んでいることが好ましく、ポリプロピレンを含んでいることがより好ましい。
【0047】
この熱可塑性樹脂を構成する樹脂成分については、前述の本発明の極細繊維不織布の説明で説明した樹脂成分をそのまま適用することが可能である。本発明の製造方法では、このような熱可塑性樹脂を、前述の熱可塑性樹脂を溶融する溶融手段11(例えばメルトブロー装置用ダイ11)に投入して前記熱可塑性樹脂を溶融して、前記溶融手段11に設けられた噴出手段12(例えばメルトブロー用ノズル12)を通して、溶融樹脂を吐出して、メルトブロー繊維からなる繊維流17を形成する。
【0048】
その一方、本発明では、静電紡糸用の紡糸溶液を用意する。この紡糸溶液は静電紡糸可能な樹脂を溶媒に溶解させた溶液である。静電紡糸用の樹脂は静電紡糸できる限り特に限定されるものではないが、例えば、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリアクリロニトリル−メタクリレート共重合体、ポリメタクリル酸メチル、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン−アクリレート共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン12、ナイロン−4,6などのナイロン系、アラミド、ポリベンズイミダゾール、セルロース、酢酸セルロース、酢酸セルロースブチレート、ポリビニルピロリドン−酢酸ビニル、ポリ(ビス−(2−(2−メトキシ−エトキシエトキシ))ホスファゼン)(poly(bis−(2−(2−methoxy−ethoxyethoxy))phosphazene);MEEP)、ポリプロピレンオキサイド、ポリエチレンイミド(PEI)、ポリこはく酸エチレン(poly(ethylenesuccinate))、ポリアニリン、ポリエチレンサルファイド、ポリオキシメチレン−オリゴ−オキシエチレン(poly(oxymethylene−oligo−oxyethylene))、SBS共重合体、ポリヒドロキシ酪酸、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンオキサイド、コラーゲン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリD,L−乳酸−グリコール酸共重合体、ポリアリレート、ポリプロピレンフマラート(poly(propylene fumalates))、ポリカプロラクトンなどの生分解性高分子、ポリペプチド、タンパク質などのバイオポリマー、コールタールピッチ、石油ピッチなどのピッチ系などから構成することができる。なお、これら樹脂の共重合体又は混合物であることも可能である。
【0049】
この溶媒としては、樹脂によっても変化するため、特に限定するものではないが、例えば、水、アセトン、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、1,4−ジオキサン、ピリジン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、アセトニトリル、ギ酸、トルエン、ベンゼン、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、四塩化炭素、塩化メチレン、クロロホルム、トリクロロエタン、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、プロピレンカーボネートなどを挙げることができる。溶媒は1種類でも適用可能であり、2種類以上の溶剤を混ぜた混合溶媒も適用可能である。
【0050】
本発明の紡糸溶液は上述のような樹脂を溶媒に溶解させたものであるが、その濃度は、樹脂の組成、樹脂の分子量、溶媒等によって変化するため、特に限定するものではないが、静電紡糸への適用性の点から、粘度が10〜6000mPa・sの範囲となるような濃度であるのが好ましく、20〜5000mPa・sの範囲となるような濃度であるのがより好ましい。粘度が10mPa・s未満であると、粘度が低すぎて曳糸性が悪く、繊維になりにくい傾向があり、粘度が6000mPa・sを超えると、紡糸溶液が延伸されにくくなり、繊維となりにくい傾向があるためである。なお、この「粘度」は、粘度測定装置を用い、温度25℃で測定した、シェアレート100s−1の時の値をいう。
【0051】
このような紡糸溶液は、例えば、シリンジ、ステンレスタンク、プラスチックタンク、或は樹脂製バッグ(例えば、塩化ビニル樹脂製、ポリエチレン樹脂製)などの紡糸溶液貯留部(図示せず)に蓄えられており、この紡糸溶液は紡糸溶液貯留部に接続された、例えば、シリンジポンプ、チューブポンプ、マグネット式マイクロギアポンプ、ディスペンサ等の供給吐出手段(図示せず)により、溶液供給手段13(例えば静電紡糸用ノズル装置13)により吐出され、紡糸溶液は前述のメルトブロー繊維からなる繊維流17に向かって供給される。
【0052】
なお、静電紡糸用ノズル装置13からの吐出方向は前記繊維流17に向かって供給する限り特に限定するものではないが、前記メルトブロー繊維の繊維流17の中に、この繊維流17の方向に交差するようにして供給することが好ましく、交差の角度は繊維流17の中心線の垂線に対して、静電紡糸繊維の繊維流18の中心線のなす角度が0〜±45°であることが好ましく、0〜±30°であることがより好ましく、0〜±15°であることが更に好ましい。ここで、前記角度が0°であるということは、繊維流17の中心線と繊維流18の中心線とが直角に交わることを意味する。
【0053】
また、前記静電紡糸用ノズル装置13の先端部分に設けられた静電紡糸用ノズル13aの直径(内径)も静電紡糸繊維を構成する繊維径によって変化するため、特に限定するものではない。また、静電紡糸用ノズル装置13の材質は、静電紡糸用ノズル装置13に対して電圧を印加する場合には金属であるのが好ましいが、供給管内の紡糸溶液に対して電圧を印加するような場合には、金属である必要はない。更に、静電紡糸用ノズル装置13は1本である必要はなく、極細繊維不織布の生産性を高める上では、静電紡糸用ノズル装置13は2本以上であることが好ましく、静電紡糸用ノズル装置13は固定されていることも、移動可能(例えば、長円状に移動可能)であることも可能である。
【0054】
なお、図2の製造装置においては、紡糸溶液を前記繊維流17に向かって供給する溶液供給手段として静電紡糸用ノズル装置13を使用しているが、紡糸溶液を前記繊維流17に向かって供給することが可能である限り、この溶液供給手段13は静電紡糸用ノズル装置13である必要はなく、例えば、ノコギリ状歯車、コンベア状ワイヤーを適用することも可能である。
【0055】
また、図2の製造装置においては、供給された前記紡糸溶液に電界を作用させて延伸し静電紡糸繊維18を形成し、且つ前記静電紡糸繊維18を前記繊維流17に混入する電位差形成手段14が配置されている。具体的には、図2の製造装置においては、紡糸溶液に対して電圧を印加できるように、静電紡糸用ノズル装置13に電位差形成手段14として高電圧印加装置14が接続されている。なお、図2の製造装置とは異なり、紡糸溶液貯留部と静電紡糸用ノズル装置13との間の供給管内の紡糸溶液に対して電圧を印加することも可能である。
【0056】
図2の製造装置においては、前記メルトブロー繊維の繊維流17と静電紡糸用ノズル装置13内の紡糸溶液との間に電位差が生じ、紡糸溶液に対して電界を作用させて延伸して、静電紡糸繊維18を形成することができる。通常の静電紡糸法によれば、静電紡糸用ノズル装置13に対向して、静電紡糸繊維を集積する捕集コンベアなどにアースを施す必要があり、この捕集コンベアとの間に電位差が生じ、紡糸溶液に対して電界を作用させて延伸して、繊維化することができるが、図2の製造装置においては、このようなアース手段を必ずしも設ける必要はない。その理由は明らかではないが、メルトブロー繊維からなる繊維流17によって電荷が常に除去されることにより、アースされたと同様の効果が生じるのではないかと考えられる。
【0057】
なお、静電紡糸用ノズル装置13内の紡糸溶液とメルトブロー繊維からなる繊維流17との間に形成される電界は、繊維径、紡糸溶液の溶媒、紡糸溶液の粘度、繊維流17と静電紡糸用ノズル13aとの距離などによって変化するため、特に限定するものではないが、印加電圧値(V)と静電紡糸用ノズル13aの先端と繊維流17(繊維流17の中心線)との間の距離(d)の関係は、(V/d)値が0.2〜5KV/cmの範囲であるのが好ましい。(V/d)値が5KV/cmを超えると、空気の絶縁破壊が生じやすい傾向があり、0.2KV/cm未満であると、紡糸溶液に対して電界を作用させて延伸して、静電紡糸繊維を形成することが困難になる場合があるためである。また、静電紡糸用ノズル13aの先端と繊維流17(繊維流17の中心線)との間の距離(d)は、2〜20cmの範囲であるのが好ましい。
【0058】
また、本発明では、前記溶液供給手段13(例えば静電紡糸用ノズル装置13)及び電位差形成手段14(例えば高電圧印加装置14)に加えて、もう一組第2の溶液供給手段13’(例えば第2の静電紡糸用ノズル装置13’)及び第2の電位差形成手段14’(例えば第2の高電圧印加装置14’)を設けることも可能である。この場合、メルトブロー繊維の繊維流17を挟むようにしてその両側にそれぞれ配置するようにすることが好ましく、また一方の電位差形成手段14(例えば高電圧印加装置14)により発生する電荷が、他方の電位差形成手段14’(例えば高電圧印加装置14’)により発生する電荷と反対電荷となるようにすることが好ましい。
【0059】
以上説明したように、本発明では、メルトブロー法によりノズルから吐出したメルトブロー繊維の前記繊維流17の中に、静電紡糸法により形成した静電紡糸繊維18を混入することができる。そして、この静電紡糸繊維18が混入されることによって、メルトブロー繊維17と静電紡糸繊維18とが混在した繊維流19が形成される。次いで、その混在した繊維流19に含まれるメルトブロー繊維と静電紡糸繊維とからなる極細繊維ウエブ20’を、搬送手段15(好ましくはコンベアベルト15)によって堆積し、且つ移動させることによって極細繊維不織布20を形成することができる。
【0060】
前記搬送手段15は、前記メルトブロー繊維と前記静電紡糸繊維とが混在した繊維流19を受け止め、その混在した繊維流19に含まれるメルトブロー繊維と静電紡糸繊維とからなる極細繊維ウエブ20’を堆積し、且つ移動させることが可能である限り、その形態は特に限定されず、図2に例示するコンベアベルト15であることが好ましく、ドラム形状であることも可能である。また、この搬送手段15に、極細繊維ウエブと反対側に吸引装置を備えることにより、極細繊維ウエブを堆積し易くすることも好ましい。
【0061】
本発明の極細繊維不織布の製造方法によれば、メルトブロー法によりノズルから吐出したメルトブロー繊維の繊維流の中に、静電紡糸法により形成した静電紡糸繊維を混入して極細繊維ウエブを形成するため、従来技術と比較して少ないエネルギーによって極細繊維不織布を形成することができる。すなわち、メルトブロー法も静電紡糸法も樹脂原料から直接紡糸によって繊維を形成すると同時に異なる繊維を混合して極細繊維ウエブに形成することができるので、繊維を分散させたり異なる繊維ウエブを積層するなどの工程を省略することが可能であり、その分エネルギーコストを削減できるという利点がある。また、直接紡糸によって繊維を形成するので、繊維を分散させるための油剤などが不要であり、その分クリーンな素材となり、衛生材料としても好適である。また、極細繊維を抄紙して得られる湿式不織布と比較して、嵩高な極細繊維不織布を形成できるという利点があり、得られる極細繊維不織布は空気抵抗が極めて少なくなり圧力損失が少なく、エアフィルタ用濾材として好適である。また、メルトブロー法及び静電紡糸法に用いる樹脂原料を自由に選択することができ、繊維の種類や繊維径も自由に設計できるので、様々な要求に応じた機能を付加した製品とすることができる。
【0062】
以下、本発明の実施例につき説明するが、これは発明の理解を容易とするための好適例に過ぎず、本発明はこれら実施例の内容に限定されるものではない。
【実施例】
【0063】
(極細繊維不織布の濾過性能評価方法)
防じんマスク国家検定法(平成12年9月11日労働省告示第88号)に規定された試験方法において、風速5.3cm/秒の条件下で、DOP(Dioctyl phthalate)0.15〜0.25μm粒子に対する初期粒子捕集効率(%)および初期圧力損失(Pa)を求める。また、DOP粒子を200mgまで負荷した時の圧力損失の変化を測定する。
なお、この試験方法による評価に際しては、成型マスクを治具に装着する替わりに平板状の試験片を治具に装着して、濾過面積100cmで、試験風速5.3cm/秒の条件下で評価するものとする。また、この試験方法に於いては、例えばTSI社製フィルターテスターType8130を用いることができる。
【0064】
(実施例1)
メルトブロー法に用いる熱可塑性樹脂として出光石油化学製のポリプロピレン樹脂H50000を準備して、図2及び図3に示す製造装置を用いて、この熱可塑性樹脂をギアポンプ回転数4rpmでメルトブロー装置用ダイ11に送り込み、この熱可塑性樹脂を溶融させ、次いで温度320℃でエア量2.0Nm/minの加熱気流を吹出し口111から吹き出しながら、この熱可塑性樹脂をメルトブロー用ノズル12から吐出させて、メルトブロー繊維の目付が60g/mとなるように、メルトブロー繊維からなる繊維流17を形成させた。なお、メルトブロー用ノズル12の先端と、搬送手段としてのコンベアベルト15の表面との間の距離は340mmに設定した。
その一方、静電紡糸用の紡糸溶液として、和光純薬製ポリビニルアルコール1000C(完全けん化)の水溶液15質量%を準備した。次いで、この紡糸溶液を、溶液供給手段13の一部を構成するシリンジ13cに注入して、このシリンジ13cに合成樹脂からなるチューブ13bを接続し、このチューブ13bの先端部には内径0.3mmで、長さ30mmの金属製の静電紡糸用ノズル13aを接続した。また、このチューブ13bの中央部にはチューブ13b同士を接合する金属製の接続部材13dを設け、この接続部材13dに高電圧印加装置14を接続した。そして、この静電紡糸用ノズル13aの先端が、メルトブロー用ノズル12の中心線からの距離50mm、及びメルトブロー装置用ダイ11下面からの距離85mmの位置になるように設置した。
次いで、ポリビニルアルコールの水溶液を吐出量0.7g/hrで押し出しながら接続部材13dに+16kVを印加し、メルトブロー用ノズル12によって形成されたメルトブロー繊維流17と静電紡糸用ノズル装置13内の紡糸溶液との間に電位差を生じさせた。これにより、紡糸溶液に対して電界を作用させて延伸して、静電紡糸繊維18を形成すると同時に、メルトブロー繊維流17の中に、静電紡糸繊維18を混入することができた。このメルトブロー繊維と静電紡糸繊維とが混合して形成された混合繊維流19は、吸引装置(図示しない)を設けたコンベアベルト15の上に受け止められ、極細繊維ウエブ20’として堆積すると共にコンベアベルト15によって移動させ、極細繊維不織布20を形成することができた。なお、前記メルトブロー繊維の繊維流17の中心線の垂線に対して、静電紡糸繊維の繊維流18の中心線のなす角度は0°であった。すなわち、前記メルトブロー繊維の繊維流17の中心線と静電紡糸繊維の繊維流18の中心線とは直交していた。
得られた極細繊維不織布20の目付は約60g/mであり、静電紡糸法により形成された静電紡糸繊維の目付は、計算値で0.06g/mであった。
この極細繊維不織布の静電紡糸繊維混入側の表面の電子顕微鏡写真の中の一枚を図1に示す。これらの電子顕微鏡写真から、静電紡糸繊維とメルトブロー繊維とが混在しており、繊維径0.001〜1μmの超極細繊維の割合は14.5%、2〜25μmの極細繊維の割合が85.0%であった。また、この超極細繊維の数平均繊維径は0.4μmであり、この極細繊維の数平均繊維径は11μmであった。なお、繊維径0.01〜0.7μmの超極細繊維の割合は14.5%、4〜20μmの極細繊維の割合が85.0%であった。繊維径分布のヒストグラムを図4に示す。このヒストグラムからも明らかなように、繊維径分布において、極細繊維のピークと超極細繊維のピークが形成されていた。
なお、この極細繊維不織布の静電紡糸繊維混入側と反対側の表面の電子顕微鏡写真によれば、繊維径0.001〜1μmの超極細繊維の割合は15.5%、2〜25μmの極細繊維の割合が84.0%であった。また、この超極細繊維の数平均繊維径は0.4μmであり、この極細繊維の数平均繊維径は11μmであった。また、繊維径0.01〜0.7μmの超極細繊維の割合は15.5%、4〜20μmの極細繊維の割合が84.0%であった。繊維径分布のヒストグラムを図5に示す。このヒストグラムからも明らかなように、繊維径分布において、極細繊維のピークと超極細繊維のピークが形成されていた。
また、得られた極細繊維不織布について、TSI社製フィルターテスターType8130により、濾過性能評価(初期性能測定)を行った結果、初期圧力損失が23Paであり、初期粒子捕集効率が71.5%であった。
【0065】
(比較例1)
実施例1において、静電紡糸用の紡糸溶液を準備せずに、さらに静電紡糸用ノズル13aに電圧を印加しなかったこと以外は実施例1と同様にして比較例1の極細繊維不織布を形成した。
すなわち、メルトブロー法に用いる熱可塑性樹脂として出光石油化学製のポリプロピレン樹脂H50000を準備して、図2及び図3に示す製造装置を用いて、この熱可塑性樹脂をギアポンプ回転数4rpmでメルトブロー装置用ダイ11に送り込み、この熱可塑性樹脂を溶融させ、次いで温度320℃でエア量2.0Nm/minの加熱気流を吹出し口111から吹き出しながら、この熱可塑性樹脂をメルトブロー用ノズル12から吐出させて、繊維の目付が60g/mとなるように、メルトブロー繊維からなる繊維流17を形成させた。なお、メルトブロー用ノズル12の先端と、搬送手段としてのコンベアベルト15の表面との間の距離は340mmに設定した。
次いで、このメルトブロー繊維からなる繊維流17は、吸引装置(図示しない)を設けたコンベアベルト15の上に受け止められ、極細繊維ウエブ20’として堆積すると共にコンベアベルト15によって移動させ、極細繊維不織布20を形成した。
得られた極細繊維不織布20の目付は約60g/mであり、この極細繊維不織布の電子顕微鏡写真を複数枚撮影した結果、極細の繊維の平均繊維径が11μmであり、2〜25μmの極細の繊維の割合が100%であった。繊維径分布のヒストグラムを図6に示す。また、反対側の面の繊維径分布のヒストグラムを図7に示す。
また、得られた極細繊維不織布について、TSI社製フィルターテスターType8130により、濾過性能評価(初期性能測定)を行った結果、初期圧力損失が19Paであり、初期粒子捕集効率が35.7%であった。
【0066】
(比較例2)
図9に示す静電紡糸繊維積層装置30を準備した。この静電紡糸繊維積層装置30においては、静電紡糸繊維18が回転する金属ドラム31の上に堆積するように、金属ドラム31が配置されている。
比較例1で得られたメルトブロー法による不織布を金属ドラム31の表面に巻きつけた。
その一方、静電紡糸用の紡糸溶液として、和光純薬製ポリビニルアルコール1000C(完全けん化)の水溶液15質量%を準備した。次いで、この紡糸溶液を、溶液供給手段13の一部を構成するシリンジ13cに注入して、このシリンジ13cに合成樹脂からなるチューブ13bを接続し、このチューブ13bの先端部には内径0.3mmで、長さ30mmの金属製の静電紡糸用ノズル13aを接続した。また、このチューブ13bの中央部にはチューブ13b同士を接合する金属製の接続部材13dを設け、この接続部材13dに高電圧印加装置14を接続した。そして、この静電紡糸用ノズル13aの先端から金属ドラム31の表面の距離を100mmに設定して、さらに金属ドラム31をアースした。
次いで、ポリビニルアルコールの水溶液を吐出量0.7g/hrで押し出しながら接続部材13dに+16kVを印加し、これにより紡糸溶液に対して電界を作用させて延伸して、静電紡糸繊維18を形成し、メルトブロー法による不織布の上に静電紡糸繊維18を堆積して極細繊維不織布を形成した。
得られた極細繊維不織布の目付は約60g/mであり、静電紡糸繊維の目付は、計算値で0.06g/mであった。
この極細繊維不織布の静電紡糸繊維側の表面の電子顕微鏡写真の中の一枚を図8に示す。これらの電子顕微鏡写真から、メルトブロー繊維層の上に静電紡糸繊維層が積層されており、繊維径0.001〜1μmの超極細繊維の割合は94.5%、2〜25μmの極細繊維の割合が5.5%であった。また、この超極細繊維の数平均繊維径は0.4μmであり、この極細繊維の数平均繊維径は11μmであった。なお、繊維径0.01〜0.7μmの超極細繊維の割合は94.5%、4〜20μmの極細繊維の割合が5.5%であった。繊維径分布のヒストグラムを図10に示す。このヒストグラムからも明らかなように、繊維径分布において、超極細繊維のピークのみが形成されていた。
なお、この極細繊維不織布の静電紡糸繊維側と反対側の表面の電子顕微鏡写真によれば、繊維径0.001〜1μmの超極細繊維の割合は0%、2〜25μmの極細繊維の割合が100%であった。また、この極細繊維の数平均繊維径は11μmであった。また、繊維径0.01〜0.7μmの超極細繊維の割合は0%、4〜20μmの極細繊維の割合が100%であった。繊維径分布のヒストグラムを図11に示す。このヒストグラムからも明らかなように、繊維径分布において、極細繊維のピークのみが形成されていた。
また、得られた極細繊維不織布について、TSI社製フィルターテスターType8130により、静電紡糸繊維側を下流側とした濾過性能評価(初期性能測定)を行った結果、初期圧力損失が25Paであり、初期粒子捕集効率が74.8%であった。
【0067】
実施例1及び比較例1〜2の濾過性能評価(初期性能測定)結果を表1に示す。
表1

【0068】
また、実施例1及び比較例1〜2の濾過性能評価において、DOP粒子を200mgまで、負荷したときの圧力損失の変化を図12のグラフに示す。
【0069】
実施例1及び比較例1〜2の結果から明らかなように、実施例1の極細繊維不織布では、静電紡糸法により形成された静電紡糸繊維とメルトブロー法により形成されたメルトブロー繊維とが混在しており、且つ繊維径0.001〜1μmの超極細繊維と繊維径2〜25μmの極細繊維とが混在しているため、静電紡糸繊維とメルトブロー繊維とが積層している比較例2の不織布と初期性能(初期圧力損失及び初期粒子捕集効率)は同等でありながら、圧力損失の上昇は穏やかであり、濾過寿命に優れるという特性を有している。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の極細繊維不織布の一例を示す電子顕微鏡写真である。
【図2】本発明の極細繊維不織布の製造装置の一例を説明する模式図である。
【図3】本発明の極細繊維不織布の製造装置の一例の要部拡大図である。
【図4】本発明の実施例1の極細繊維不織布の繊維分布を示すヒストグラムである。
【図5】本発明の実施例1の極細繊維不織布の繊維分布を示すヒストグラムである。
【図6】従来(比較例1)のメルトブロー不織布の繊維分布を示すヒストグラムである。
【図7】従来(比較例1)のメルトブロー不織布の繊維分布を示すヒストグラムである。
【図8】従来(比較例2)の積層不織布を示す電子顕微鏡写真である。
【図9】従来(比較例2)の積層不織布の製造装置を説明する模式図である。
【図10】従来(比較例2)の積層不織布の繊維分布を示すヒストグラムである。
【図11】従来(比較例2)の積層不織布の繊維分布を示すヒストグラムである。
【図12】実施例1及び比較例1〜2の圧力損失の変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0071】
10 極細繊維不織布の製造装置
11 溶融手段、メルトブロー装置用ダイ
12 噴出手段、メルトブロー用ノズル
13 溶液供給手段、静電紡糸用ノズル装置
13a 静電紡糸用ノズル
13b チューブ
13c シリンジ
13d 接続部材
14 電位形成手段、高電圧印加装置
15 搬送手段
17 メルトブロー繊維、メルトブロー繊維の繊維流
18 静電紡糸繊維、静電紡糸繊維の繊維流
19 メルトブロー繊維と静電紡糸繊維とが混在した繊維流
20 極細繊維不織布
20’ 極細繊維ウエブ
30 極細繊維積層装置30
31 金属ドラム
111 吹出し口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
静電紡糸法により形成された静電紡糸繊維とメルトブロー法により形成されたメルトブロー繊維とが混在しており、且つ繊維径0.001〜1μmの超極細繊維と繊維径2〜25μmの極細繊維とが混在しており、前記超極細繊維は主として静電紡糸繊維からなり、前記極細繊維は主としてメルトブロー繊維からなることを特徴とする極細繊維不織布。
【請求項2】
前記超極細繊維10〜80%と、前記極細繊維90〜20%とが混在していることを特徴とする請求項1に記載の極細繊維不織布。
【請求項3】
繊維径0.01〜0.7μmの超極細繊維と繊維径4〜20μmの極細繊維とが混在しており、構成繊維全体に対して、前記超極細繊維と前記極細繊維の合計が50%以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の極細繊維不織布。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかに記載の極細繊維不織布からなることを特徴とする濾材。
【請求項5】
メルトブロー法によりノズルから吐出したメルトブロー繊維の繊維流の中に、静電紡糸法により形成した静電紡糸繊維を混入して極細繊維ウエブを形成する工程を含むことを特徴とする極細繊維不織布の製造方法。
【請求項6】
前記メルトブロー繊維の繊維流の中に、この繊維流の方向に交差するようにして、前記静電紡糸繊維を混入することを特徴とする請求項5に記載の極細繊維不織布の製造方法。
【請求項7】
熱可塑性樹脂を溶融する溶融手段と、
前記溶融手段に設けられ、前記熱可塑性樹脂を吐出してメルトブロー繊維からなる繊維流を形成する噴出手段と、
紡糸溶液を前記繊維流に向かって供給する溶液供給手段と、
供給された前記紡糸溶液に電界を作用させて延伸し静電紡糸繊維を形成し、且つ前記静電紡糸繊維を前記繊維流に混入する電位差形成手段と、
前記メルトブロー繊維と前記静電紡糸繊維とが混在した繊維流を受け止め、その混在した繊維流に含まれるメルトブロー繊維と静電紡糸繊維とからなる極細繊維ウエブを堆積し、且つ移動させる搬送手段とを備えていることを特徴とする、極細繊維不織布の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−57655(P2009−57655A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−225348(P2007−225348)
【出願日】平成19年8月31日(2007.8.31)
【出願人】(000229542)日本バイリーン株式会社 (378)
【Fターム(参考)】