説明

楽器の簡易調律判定システム

【課題】 楽器の調律の必要性について、容易にかつ適切に判定することができる楽器の簡易調律判定システムを提供する。
【解決手段】 楽器2の音を取り込むマイクロホン6を有するとともに、取り込まれた楽器2の音を送信する通信手段7を有する端末機器3と、端末機器3から送信された楽器2の音に基づいて楽器2の調律の良否を判定する調律判定装置5と、を備え、調律判定装置5は、楽器2の音を受信するための受信手段15と、受信した楽器2の音のデータに基づいて楽器2の調律の良否を判定する判定手段11と、判定手段11による判定結果を表す情報を端末機器3に送信する送信手段15と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、楽器の調律の良否を簡易に判定するための楽器の簡易調律判定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
楽器を調律する際に利用される従来の調律器として、例えば特許文献1に開示されたものが知られている。この調律器は、腕時計に組み込まれており、楽器の音を取り込むマイクロホンと、取り込まれた楽器の音の周波数を求める周波数カウンタと、楽器の基準音の周波数を記憶するROMと、周波数カウンタで求めた音の周波数と基準音の周波数との差分を算出する比較器と、算出された周波数の差分を振動の強弱に変換する圧電素子などを備えている。したがって、腕時計の装着者は、この振動を感じ取ることによって、楽器の音がずれていることを知ることができる。
【0003】
しかし、特に楽器がピアノの場合には、その調律に専門の技術を必要とするので、自分で調律を行うことができず、専門家に調律を依頼することになる。これに対し、上述した従来の調律器では、楽器の音がずれているという事実を知ることはできても、そのずれの度合を知ることはできないため、調律を依頼する必要性について適切に判断できない。
【0004】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、楽器の調律の必要性について、容易にかつ適切に判定することができる楽器の簡易調律判定システムを提供することを目的とする。
【0005】
【特許文献1】特開2007ー101803号公報
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的を達成するために、請求項1に係る発明は、楽器の調律の良否を簡易に判定するための楽器の簡易調律判定システムであって、楽器の音を取り込むマイクロホンを有するとともに、取り込まれた楽器の音を送信する通信手段を有する端末機器と、端末機器から送信された楽器の音に基づいて楽器の調律の良否を判定する調律判定装置と、を備え、調律判定装置は、楽器の音を受信するための受信手段と、受信した楽器の音のデータに基づいて楽器の調律の良否を判定する判定手段と、判定手段による判定結果を表す情報を端末機器に送信する送信手段と、を有することを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、楽器の音がマイクロホンから端末機器に取り込まれると、取り込まれた楽器の音は、調律判定装置に送信される。調律判定装置は、その楽器の音を受信し、受信した楽器の音のデータに基づいて調律の良否を判定し、判定結果を表す情報を端末機器に送信する。これにより、この端末機器に送信された判定結果を表す情報によって、楽器の調律の必要性を容易にかつ適切に判定することができる。
【0008】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の楽器の簡易調律判定システムにおいて、調律判定装置は、受信した楽器の音のデータを解析することによって、音の周波数を求める周波数解析手段をさらに有し、判定手段は、周波数解析手段によって求められた、互いにオクターブ離れた2つの音の周波数の比率に基づいて、オクターブ精度を判定することを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、受信した楽器の音のデータを解析することによって、音の周波数を求めるとともに、求められた互いにオクターブ離れた2つの音の周波数の比率に基づいて、オクターブ精度を判定する。したがって、判定されたオクターブ精度に基づいて、楽器の調律の良否を容易かつ適切に判定することができる。
【0010】
請求項3に係る発明は、請求項1に記載の楽器の簡易調律判定システムにおいて、調律判定装置は、受信した楽器の音のデータを解析することによって、音の周波数を求める周波数解析手段をさらに有し、判定手段は、周波数解析手段によって求められた、1つの音の周波数の数に基づいて、ユニゾン精度を判定することを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、受信した楽器の音のデータを解析することによって、音の周波数を求めるとともに、求められた1つの音の周波数の数に基づいて、ユニゾン精度が判定される。ここで、ユニゾン精度とは、1つの音に対して複数の弦が設けられている場合における、弦間の音の高さの一致度合をいう。このユニゾン精度がずれている場合には、音の唸りが生じる。したがって、判定されたユニゾン精度に基づいて、楽器の調律の良否を容易かつ適切に判定することができる。
【0012】
請求項4に係る発明は、請求項1ないし3のいずれかに記載の楽器の簡易調律判定システムにおいて、端末機器は携帯電話であることを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、携帯電話を利用し、楽器の音の取込みおよび送信と判定結果の受信を行えるので、簡易調律判定システムの利用性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。本発明のピアノ2の簡易調律判定システム1は、ピアノ2の所有者が、ピアノ2の調律を依頼する必要性についての判定を事業者から得られるようにするためのものである。
【0015】
図1に示すように、この簡易調律判定システム1は、ピアノ2の音を取り込む端末機器としての携帯電話3と、通信回線4を介して携帯電話3に接続される事業者側の調律判定装置5とを備えている。
【0016】
携帯電話3は、ピアノ2の音を取り込むためのマイクロホン6と、ピアノ2の音を送信するとともに、調律判定装置5から判定結果などの情報を受信するための通信機7と、受信した情報などを表示する表示画面8などを有している。
【0017】
通信回線4は、音声および画像データが送受信可能なものであればよく、例えば公衆電話回線やインターネットを含む。また、公衆電話回線は、アナログ回線の他、ISDN回線やIP電話用の回線なども含む。
【0018】
図2に示すように、調律判定装置5は、ROM9、RAM10、CPU11、周波数解析部12および入出力インタフェース(I/F)13などを備え、これらはバス14を介して接続されている。ROM9は、CPU11で実行されるプログラムの他、基準音データ、所有者データおよびメッセージデータなどを記憶している。
【0019】
基準音データは、ピアノの各鍵に対応する音名および音高を表す音データと、調律された基準音(例えば、C1〜C8)の周波数(例えば、fc1=32.7Hz、fc2=65.4Hz・・・fc8=4186.0Hz)を表す周波数データで構成されている。
【0020】
所有者データは、ピアノ2の購入者を特定するためのID番号や、ピアノ2の製造年月日およびシリアル番号などの情報データで構成されている。メッセージデータは、後述するように、ピアノ2の調律の良否が判定された際に、調律の必要性の有無を所有者に伝えるためのメッセージ情報(例えば「調律が必要です」)で構成されている。
【0021】
入出力インタフェース(I/F)13には、モデムなどの通信デバイス15、ディスプレイなどの表示装置16およびキーボードやマウスなどの入力装置17が接続されている。通信デバイス15は、携帯電話3に取り込まれた複数のピアノ2の音(以下「入力音」という)を受信する。
【0022】
RAM10は、CPU11で得られた演算結果などを一時的に記憶するとともに、CPU11の作業領域としても使用される。
【0023】
周波数解析部12は、CPU11による制御の下、入力音を表す信号をフーリエ解析することにより、音名ごとに設定された複数の周波数に対応するスペクトルを検出するとともに、検出したスペクトルのピークから、入力音の1つまたは2つ以上の周波数を求める。
【0024】
CPU11は、周波数解析部12によって求められた周波数を用い、ROM9に記憶されたプログラムに従って、オクターブ精度の判定処理およびユニゾン精度の判定処理を実行する。ここで、オクターブ精度とは、互いにオクターブ離れた2つの入力音の間の音程の正しさの度合をいう。また、ユニゾン精度とは、ピアノの中高音域において、1つの音に対して複数の弦が設けられている場合における、これらの弦が発生する音の高さの一致度合をいう。なお、本実施形態では、CPU11が判定手段に相当する。
【0025】
図3は、上述したオクターブ精度の判定処理を示すフローチャートである。この判定処理に先立ち、調律判定装置5から所有者の携帯電話3に、例えばC系列の音(C1〜C8)を順次、発生させるように指示が送られる。それに応じて発生させたピアノ2の音は、携帯電話3および通信回線4を介して、調律判定装置5に送信される。送信された入力音は、周波数解析部12によって解析され、それにより入力音の周波数が求められる。
【0026】
図3の判定処理では、まず、ステップ1(「S1」と図示。以下同じ)において、周波数解析部12によって求められた入力音の周波数を取得する。次に、取得した入力音の周波数が基準音の周波数とほぼ等しいか否かを判別する(ステップ2)。この判別結果がNOで、入力音の周波数が基準音の周波数と異なるときには、事業者の指示に従ったC系列の音が送信されていないとして、正しい音の再入力を要求する指示を携帯電話3に送信する(ステップ3)。
【0027】
ステップ2の判別結果がYESのときには、1オクターブ離れた2つのC音の間の周波数の比率cf2/cf1、cf3/cf2、・・・cf8/cf7を算出する(ステップ4)。次に、算出したすべての周波数比率がほぼ2に等しいか否かを判別する(ステップ5)。この判別結果がNOのときには、オクターブ精度が得られていないため、調律が必要であると判定し(ステップ6)、その判定結果を表すメッセージを携帯電話3に送信する(ステップ8)。一方、ステップ5の判定結果がYESのときには、オクターブ精度が得られているため、調律が不要であると判定し(ステップ7)、その判定結果を表すメッセージを送信する(ステップ8)。
【0028】
図4は、CPU11によって実行される、ユニゾン精度の判定処理を示すフローチャートである。この処理に先立ち、調律判定装置5から携帯電話3に、1つの音に対して複数の弦が設けられている中高音域の代表的な音、例えばC音およびG音を順次、発生させるように指示が送られる。それに応じて発生させたピアノ2の音は、周波数解析部12によって解析され、それにより入力音の周波数が求められる。
【0029】
図4の判定処理では、まず、ステップ11において、周波数解析部12によって求められた入力音の周波数を取得する。次に、すべての入力音について、取得した周波数が1つか否かを判別する(ステップ12)。この判別結果がYESのときには、すべての入力音についてユニゾン精度が得られているため、調律が不要であると判定し(ステップ17)、その判定結果を表すメッセージを送信する(ステップ16)。前記ステップ12の判定結果がNOで、少なくとも1つの入力音について複数の周波数が得られているときには、その入力音の複数の周波数間の差分Δfを算出する(ステップ13)。
【0030】
次に、算出された周波数の差分Δfの絶対値|Δf|が、所定の判定値よりも小さいか否かを判定する(ステップ14)。この判定結果がYESのときには、ユニゾン精度のずれが生じているものの、許容範囲であるとして、調律が不要であると判定し(ステップ17)、その判定結果を表すメッセージを送信する(ステップ16)。一方、判定結果がNOのときには、ユニゾン精度のずれが許容範囲を超えているとして、調律が必要であると判定し(ステップ15)、その判定結果を表すメッセージを送信する(ステップ16)。
【0031】
以上のように、本実施形態によれば、調律判定装置5は、ピアノ2の音を受信し、この受信した音(入力音)を周波数解析部12で解析することによって、周波数を取得する。また、取得した周波数に基づいて、1オクターブ離れた2つの音の間の周波数比率を求め、その周波数比率に基づいてオクターブ精度を判定し、その判定結果を携帯電話3に送信する。さらに、1つの入力音について複数の周波数が求められているときには、ユニゾン精度がずれていると判定し、その判定結果を携帯電話3に送信する。
【0032】
したがって、ピアノ2の所有者は、送信されたオクターブ精度およびユニゾン精度の判定結果によって、ピアノ2の調律の必要性を容易かつ適切に知ることができる。
【0033】
また、事業者は、上記のようにして得られたピアノ2の調律の良否の判定結果を、所有者の識別データやピアノ2のシリアル番号ごとに記憶させることによって、顧客のピアノ2に関する情報を蓄積し、その管理に役立てることもできる。
【0034】
なお、本発明は、説明した実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施できる。例えば、実施形態では、楽器としてピアノ2を示したが、本発明は、ピアノ2に限定されることなく、調律を必要とするチェンバロなどの楽器に適用してもよい。また、調律の良否を表すパラメータとして、オクターブ精度やユニゾン精度を用いているが、他のパラメータを用いてもよく、例えば入力音の周波数を基準音の周波数と直接、比較することによって、楽器の調律の良否を判定してもよい。この場合の周波数は、平均律だけでなく、古典調律でもよく、あるいは、ピアノに特有な調律カーブ(例えば、平均律を基本にして低音は低めに高音は高めに調律)に基づくものでもよい。
【0035】
さらに、オクターブ精度の判定のときにC系列の音を発生させ、ユニゾン精度の判定のときにC音およびG音を発生させているが、これらの代表的な音に限らず、すべての音を発生させることによって、楽器の調律の良否を判定してもよい。また、オクターブ精度やユニゾン精度の判定を、入力音をフーリエ解析することによって求めた周波数に基づいて行っているが、他の適当な判定手法を用いてもよい。
【0036】
さらに、実施形態では、端末機器として、携帯電話3を用いているが、ピアノ2の音の取込みおよび送信や調律の判定結果の受信を行えるものであれば、他の端末機器、例えばパソコンや固定電話などを用いてもよい。その他、本発明の趣旨の範囲内において、細部の構成を変更することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の一実施形態によるピアノの簡易調律判定システムの構成の概要を示す図である。
【図2】調律判定装置5の構成を示すブロック図である。
【図3】オクターブ精度の判定処理を示すフローチャートである。
【図4】ユニゾン精度の判定処理を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0038】
1 簡易調律判定システム
2 ピアノ(楽器)
3 携帯電話(端末機器)
5 調律判定装置
6 マイクロホン
7 通信機(通信手段)
11 CPU(判定手段)
12 周波数解析部(周波数解析手段)
15 通信デバイス(受信手段および送信手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
楽器の調律の良否を簡易に判定するための楽器の簡易調律判定システムであって、
前記楽器の音を取り込むマイクロホンを有するとともに、取り込まれた前記楽器の音を送信する通信手段を有する端末機器と、
当該端末機器から送信された前記楽器の音に基づいて当該楽器の調律の良否を判定する調律判定装置と、を備え、
当該調律判定装置は、
前記楽器の音を受信するための受信手段と、
受信した前記楽器の音のデータに基づいて前記楽器の調律の良否を判定する判定手段と、
当該判定手段による判定結果を表す情報を前記端末機器に送信する送信手段と、を有することを特徴とする楽器の簡易調律判定システム。
【請求項2】
前記調律判定装置は、受信した前記楽器の音のデータを解析することによって、前記音の周波数を求める周波数解析手段をさらに有し、
前記判定手段は、前記周波数解析手段によって求められた、互いにオクターブ離れた2つの音の周波数の比率に基づいて、オクターブ精度を判定することを特徴とする請求項1に記載の楽器の簡易調律判定システム。
【請求項3】
前記調律判定装置は、受信した前記楽器の音のデータを解析することによって、前記音の周波数を求める周波数解析手段をさらに有し、
前記判定手段は、前記周波数解析手段によって求められた、1つの音の周波数の数に基づいて、ユニゾン精度を判定することを特徴とする請求項1に記載の楽器の簡易調律判定システム。
【請求項4】
前記端末機器は携帯電話であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の楽器の簡易調律判定システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−85680(P2010−85680A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−254237(P2008−254237)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(000001410)株式会社河合楽器製作所 (563)
【Fターム(参考)】