説明

構造体の製造方法および液体吐出ヘッドの製造方法

【課題】 微細な構造体を高精度に、製造工程を簡略化して、歩留まり良く製造する方法を提供すること。
【解決手段】 280nm以上の波長の光に対してポジ型の感光性を示すポジ型感光性樹脂からなる第一の樹脂層と、アントラセン化合物を含有する第二の樹脂層と、がこの順に積層された基板を用意する工程と、前記第二の樹脂層の一部を300nm以上の波長の光で露光する工程と、前記第二の樹脂層の未露光部をマスクとして利用し、280nm以上の波長の光を前記第二の樹脂層の露光が行われた部分を透過させて前記第一の樹脂層に照射することで、前記第一の樹脂層を露光する工程と、前記第一の樹脂層の露光が行われた部分を除去して構造体を形成する工程と、をこの順に有する構造体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造体の製造方法および液体吐出ヘッドの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、科学技術の発展に伴い、様々な分野で微細な構造体の形成技術に対する要求が高まっている。マイクロアクチュエータ、電子デバイス、光学デバイス等の分野で研究が盛んに行われており、例えば、各種小型センサー、マイクロプローブ、薄膜磁気ヘッド、インクジェットヘッドなどでは研究が進んでいる。そのような微細構造体の作製方法としては、スタンパー、ドライエッチング、フォトリソグラフィーなど種々の方法が応用されている。これらの中でも、感光性樹脂材料を用いたフォトリソグラフィーによるパターン形成は、高アスペクト比を有する良好な形状を高精度かつ簡便に形成することができる。
【0003】
また、特許文献1では、フォトリソグラフィーを用いた構造体からなるインクジェットヘッドの製法を開示している。この方法では、以下の工程を有する方法によりインクジェットヘッドを作製している。まず、エネルギー発生素子が形成された基板上に、除去可能な樹脂にてインク流路のパターンをフォトリソグラフィーの手法で形成する。次に、インク流路パターン上に、インク流路壁となるエポキシ樹脂及び光カチオン重合開始剤を含む被覆樹脂層を形成し、フォトリソグラフィーによりエネルギー発生素子上に吐出口を形成する。次に、前記溶解可能な樹脂を溶出し、インク流路壁となる被覆樹脂層を硬化させる。
【0004】
しかしながら、上述の方法においては、流路の型となるパターンを形成する場合に、基板とフォトリソ用マスクの位置合わせ精度に問題が生じる場合がある。特に8〜12インチ程度の大型ウエハを露光する際には、基板の反りやマスクのたわみ等の影響を受けるため、基板内および基板間でアライメント精度がばらつく場合がある。
【0005】
また、流路のパターンに主鎖分解型のポジ型感光性樹脂を用いる場合、該樹脂は感度が低いものが多いため、分解反応を十分に生じさせるために大量の光を照射する必要がある。そのため、露光時の発熱によりマスクと基板に不均一な熱膨張が生じ、解像性およびアライメント精度に劣る場合がある。
【0006】
上述のようなフォトリソグラフィーによる解像性、およびアライメント精度を改善するパターン形成方法の一つとして、特許文献2には、2層感光性樹脂を用いる製法が開示されている。この製法は、下層に感光性樹脂を用い、下層の感光波長を遮光する材料で上層を形成した後、上層を露光、現像してパターニングしてマスクを作製し、このマスクを使用して下層の感光性樹脂をパターニングする方法である。高解像性、高精度のパターンが得られる手法として広く用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公平6−45242号公報
【特許文献2】特公昭63−58367号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献2に記載の方法の場合、上層を露光した後に現像してマスクを形成しているため、工程が多く、製造上の負荷が高くなることが懸念される。
【0009】
そこで、本発明は、微細な構造体を高精度に、製造工程を簡略化して、歩留まり良く製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一例は、280nm以上の波長の光に対してポジ型の感光性を示すポジ型感光性樹脂からなる第一の樹脂層と、アントラセン化合物を含有する第二の樹脂層と、がこの順に積層された基板を用意する工程と、前記第二の樹脂層の一部を300nm以上の波長の光で露光する工程と、前記第二の樹脂層の未露光部をマスクとして利用し、280nm以上の波長の光を前記第二の樹脂層の露光が行われた部分を透過させて前記第一の樹脂層に照射することで、前記第一の樹脂層を露光する工程と、前記第一の樹脂層の露光が行われた部分を除去して構造体を形成する工程と、をこの順に有する構造体の製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高精度に形成された微細な構造体を、製造工程を簡略化して、歩留まりよく製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の構造体の製造方法の模式的断面図である。
【図2】本発明の液体吐出ヘッドの製造方法の模式的断面図である。
【図3】本発明の製造方法により得られる液体吐出ヘッドの模式図である。
【図4】本発明の液体吐出ヘッドの製造方法の模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に図面を参照して本発明について具体的に説明する。
【0014】
(実施形態1)
図1は本発明の実施形態1の構造体の製造方法を説明するための模式的断面図である。
まず、図1(a)に示すように、基板101を用意する。
基板としては、形成する微細構造体の支持体として機能し得るものであれば、その形状、材質等に特に限定されることなく使用することができるが、例えばシリコン基板を用いることができる。
【0015】
次に、図1(b)に示すように、基板101上に、感光性樹脂からなる第一の樹脂層102とアントラセン化合物を含有する第二の樹脂層103を提供する。
【0016】
第一の樹脂層102に用いられる感光性樹脂としては、280nm以上の波長の光に対してポジ型の感光性を示すポジ型感光性樹脂、240nm以下の波長の光にポジ型感光性を示すポジ型感光性樹脂が使用可能である。また、280nm以上の波長の光に対してネガ型の感光性を示すネガ型感光性樹脂、240nm以下の波長の光にネガ型感光性を示すネガ型感光性樹脂も使用可能である。
【0017】
ポジ型感光性樹脂としては、例えば、ポリメチルイソプロペニルケトンやメタクリル酸エステルを主成分とする高分子の主鎖分解型の感光性樹脂が挙げられる。メタクリル酸エステルを主成分とする高分子の主鎖分解型ポジ型感光性樹脂としては、例えば、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート等のホモポリマーを挙げることができる。また、メタクリル酸メチルとメタクリル酸、アクリル酸、グリシジルメタクリレート若しくはフェニルメタクリレート等との共重合体等を挙げることができる。これらのメタクリル酸エステルを主成分とする高分子の主鎖分解型ポジ型感光性樹脂の感光波長域は、一般的に200〜240nm付近に存在する。また、ポリメチルイソプロペニルケトンは、260〜320nm付近にポジ化の感光波長域を有している。280nm以上の波長の光に対してネガ型の感光性を示すネガ型感光性樹脂等としては、エポキシ樹脂と芳香族スルフォニウム塩とを含むものを使用可能である。
【0018】
第二の樹脂層103に含まれるアントラセン化合物の一例は以下の式(1)で表される構造を有する。
【0019】
【化1】

【0020】
[式中、R〜Rはそれぞれ独立して、水素、炭素数1〜20のアルキル基、アルコキシ基、アルケニル基、エチニル基、アリール基、アシル基、およびそれらが置換された有機基のいずれかを示す。R、R10は炭素数1〜20のアルコキシ基、およびその他の置換基で置換された有機基のいずれかを示す。]
その他に、後述する波長変化を発現する二量化反応が可能なアントラセン化合物、その誘導体を使用可能である。
【0021】
第二の樹脂層103は、上記アントラセン化合物以外に、樹脂(以下、ベース樹脂とする)を含有していることが好ましい。ベース樹脂は、アントラセン化合物を定着させ、層形成するために使用する。使用可能な材料としては、第一の感光性樹脂層を露光する際の波長を透過するものである。本発明においては、第二の樹脂層103を現像してパターニングせずに、第一の樹脂層102を露光することができる。ベース樹脂としては、第一の樹脂層102の露光に用いる光をまったく吸収がないものが好ましいが、わずかであれば吸収があってもかまわない。例えば、ベース樹脂が、第一の樹脂層102に用いる感光性樹脂の感光波長域の光を10%以上透過する性質を有していることが好ましい。また、第二の樹脂層103は、アライメント精度の観点からステッパーを用いて露光することが好ましく、最も汎用的なi線(365nm)でパターニングできることが好ましい。
【0022】
次いで図1(c)に示されるように、マスク104を用いて、300nm以上の波長の光105を第2の層103に照射することによって、第2の層103内の吸収波長を部分的に変化させる。具体的には、露光部(露光が行われた部分)103aの吸収波長を変化させる。尚、照射する光は300nm以上の光を含む光であればよく、300nm以上の光のみを照射する必要はない。
【0023】
アントラセン化合物は、300nm以上の波長の光を照射すると、二量化反応を進行させることが知られている。例として、9,10−ジアルコキシアントラセンの二量化を下に示す。
【0024】
【化2】

【0025】
単量体のアントラセン化合物の吸収スペクトルは、280nm付近から吸収を持ち、320nmから400nm付近の吸収が強く、380nm付近に極大値をもつ。また、240nmから260nmの光を吸収する。反対に260nmから280nm、220nmから240nm付近での吸収は比較的弱くなっており、ある程度の透過性を持つ。一方、光照射による二量化反応後に生成する二量体は、280nmから400nm付近の吸収が低下し、透過率が増加する。さらに、240nm以下の吸光度が増加する。
【0026】
これによって、露光部103aは、280nm以上の波長の光を透過させやすくなり、また、240nm以下の波長の光を遮光する能力が高くなる。一方未露光部103bは、280nmから400nmの波長の光と、240nmから260nmの波長の光を吸収する。
【0027】
第二の樹脂層103は、アントラセン化合物を第二の樹脂層103の固形分に対して1質量%以上20質量%以下含有していることが好ましい。但し、遮光性能が確保出来ればこれに限ったことではなく、第一の感光性樹脂の吸光度によって適宜添加量を調整することが好ましい。
【0028】
次いで、図1(d)に示されるように、潜像を形成した第二の樹脂層103越しに、第一の樹脂層102の感光波長の光106を用いて全面的に露光を行う。
【0029】
例えば、280nm以上の波長の光に対してポジ型の感光性を示すポジ型感光性樹脂を第一の樹脂層102に使用する。そして、第二の樹脂層103の未露光部103bをマスクとして、280nm以上の波長の光を第二の樹脂層103の露光部103aを透過させて第一の樹脂層102に照射する。第二の樹脂層103の露光部103aは280nm以上の波長の光を透過させ、第二の樹脂層103の露光部103aの下部が露光されて、第1の層102に露光部(露光が行われた部分)102aが形成される。このとき第二の樹脂層103の未露光部103bはアントラセン化合物の一量体が280nm以上400nm以下の波長の光を吸収するため、第一の樹脂層102の第二の樹脂層103の未露光部103bの下部に位置する部分は遮光され、未露光部102bとなる。尚、照射する光は280nm以上の光を含む光であればよく、280nmの光のみを照射する必要はない。
【0030】
第二の樹脂層103の未露光部103bをマスクとして用いて第一の樹脂層102を露光する際には、露光中の未露光部103b中のアントラセン化合物の二量化反応を抑制することが好ましい。この方法としては、バンドパスフィルターを用いて露光する方法が挙げられる。第一の樹脂層中の樹脂次第であるが、例えば320nm以上の波長をカットするバンドパスフィルターを用いることが好ましく、310nm以上の光をカットするバンドパスフィルターを用いることがより好ましい。また、300nm以上の光をカットするバンドパスフィルターを用いることがさらに好ましい。
【0031】
アントラセン化合物の二量体は300nm以上の波長の光を非常に良く透過する。そのため、300nm以上の波長の光に対してポジ型の感光性を示す樹脂を第一の樹脂層102に使用し、300nm以上の波長の光を第二の樹脂層103の露光部103aを透過させて第一の樹脂層102に照射することがより好ましい。
【0032】
次いで、第一の樹脂層102の一部を除去する。280nm以上の波長の光に対してポジ型の感光性を示す樹脂を第一の樹脂層102に使用し、未露光部103bをマスクとし利用して、280nm以上の波長の光を第二の樹脂層103の露光部103aを透過させて第一の樹脂層102に照射した場合を説明する。この場合には、第一の樹脂層102の露光部102aではポジ化が行われている。よって図1(e)に示されるように第一の樹脂層102を現像して露光部102a除去して構造体1000を得ることができる。この時、第二の樹脂層103は二量化反応が進行しているものの、高分子化反応は進行していないため、除去は容易である。よって、図1(e)に示されるように第一の樹脂層102の現像液に対して溶解可溶な樹脂を第二の樹脂層に用いれば、第一の樹脂層102の現像工程時に第二の樹脂層103を除去することができる。第二の樹脂層103を除去した後に、第一の樹脂層102を除去するように、別々に行うことも可能である。
【0033】
以上のような工程を経ることで、高精度にアライメントが制御された構造体を形成することができる。
【0034】
また、上述の280nm以上の波長の光に対してポジ型の感光性を示す樹脂に代えて、280nm以上の波長の光に対してネガ型の感光性を示すネガ型感光性樹脂を第一の樹脂層102に使用した場合には、第一の樹脂層102の露光部102aは硬化する。第1の層102に現像を行った場合には未露光部102bが除去されて硬化した露光部102aから形成される構造体1001が得られる。
【0035】
また、第一の樹脂層102及び第二の樹脂層103の形成には、既知のスピンコート法、ロールコート法、スリットコート法等の塗布方法を用いることができる。また、ドライフィルム化されたポジ型感光性樹脂を用い、ラミネート法により形成しても良い。さらに、第一の樹脂層102には、基板面からの反射を防止する目的で、光吸収剤等の添加剤を添加して用いても良い。
【0036】
また、240nm以下の波長の光にポジ型感光性を示す樹脂を第一の樹脂層102に使用し、240nm以下の波長の光を第二の樹脂層103を介して第一の樹脂層102に照射した場合について説明する。この場合には、図4(a)に示されるように、第二の樹脂層103の露光部103aは240nm以下の光を遮光するので、その下方の第一の樹脂層の部分は未露光部102bとなる。一方、第二の樹脂層103の未露光部103bは240nm以下の光を透過させるので、その下方の第一の樹脂層の部分は露光部102aとなる。現像を行えば、102aが除去されて、図4(b)に示されるように、構造体1002が得られる。
【0037】
また、240nm以下の波長の光にネガ型の感光性を示すネガ型感光性樹脂を第一の樹脂層102に使用し、240nm以下の波長の光を第二の樹脂層103を介して第一の樹脂層102に照射することもできる。この場合には、図4(a)に示される露光部102aが硬化し、未露光部102bが除去されて、図4(c)に示されるように硬化部102aが構造体1002となる。
【0038】
以上のように、第二の樹脂層103を現像せずに、第一の樹脂層102の露光をおこなうためのマスクとして使用することができ、従来に比べ、現像工程を削減することができる。また、第二の樹脂層103を現像しなくてよいので、下層の第一の樹脂層102の材料の選択性が増す。
【0039】
(実施形態2)
次に、本発明の実施形態であるインクジェット記録ヘッドに代表される液体吐出ヘッドの製造方法について説明する。なお液体吐出ヘッドはインクジェット記録ヘッドのほかに、電子回路作成、カラーフィルター作成等の用途に使用可能である。
【0040】
図3は本発明の実施形態の液体吐出ヘッドの製造方法によって製造される液体吐出ヘッドの斜視図である。
液体吐出ヘッドは、シリコン等からなる基板201と、その上に設けられた流路壁部材210と、を有する。流路壁部材210は、液滴を吐出する吐出口212及び該吐出口212に連通する液体の流路213を有する。基板1上であって液体流路213内に吐出エネルギー発生素子208が形成されており、該吐出エネルギー発生素子208が発生するエネルギーにより液滴が吐出される。また、基板1には液体流路213に液体を供給するための供給口214が形成されている。
【0041】
まず、図2(a)に示すように、エネルギー発生素子208を有する基板201を用意する。
次に、図2(b)に示すように、エネルギー発生素子208を有する基板201上に、ポジ型感光性樹脂層からなる第一の樹脂層202を形成する。
【0042】
ポジ型感光性樹脂層としては、上述したように、例えば、ポリメチルイソプロペニルケトンやメタクリル酸エステルを主成分とする高分子の主鎖分解型の感光性樹脂を用いることができる。280nm以上の波長の光に対してポジ型の感光性を示すポジ型感光性樹脂を第一の樹脂層102に使用する形態を例にとり以降の説明を行う。
【0043】
次に、図2(c)に示すように、アントラセン化合物を含む第二の樹脂層203を第一の樹脂層202上に設ける。
【0044】
次いで、図2(d)に示すように、そして、マスク10を用いて300nm以上の波長の光205を第二の樹脂層203に照射することにより、露光部203aを形成する。第二の樹脂層203の露光部203aでは、アントラセン化合物の二量化が進行する。こで、アントラセン化合物及び二量化反応によって生成するビスアントラセン化合物は、塩基性物質を発生することが無いため、製造ラインの汚染が抑制される。また、この後に酸による硬化反応を行う場合に、反応の阻害が抑制される。
【0045】
次に、図2(e)に示すように、未露光部203bをマスクとして、280nm以上の波長の光を、露光部203aを介して第一の樹脂層202に照射する。
次に、図2(f)に示すように、第二の樹脂層203の除去、並びに第一の樹脂層202の現像を行うことで、第一の樹脂層の未露光部202bから流路の型材となる流路パターン209を形成する。
【0046】
次に、図2(g)に示すように、流路パターン209を被覆するように、流路壁部材となるための被覆層210をスピンコート法、ロールコート法、スリットコート法等の方法で形成する。
【0047】
被覆層210は、インク流路やインク吐出口を構成する部材として機能するものであることから、高い機械的強度、下地との密着性、耐インク性、ならびにインク吐出口の微細なパターンをパターニングするための解像性等が要求される。これらの特性を満足する材料の観点から、カチオン重合型のエポキシ樹脂組成物を好適に用いることができる。
【0048】
エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールAとエピクロルヒドリンとの反応物のうち分子量がおよそ900以上のもの、含ブロモビスフェノールAとエピクロルヒドリンとの反応物等が挙げられる。しかし、これらの化合物に限定されるものではない。
【0049】
また、上述のエポキシ樹脂としては、好ましくはエポキシ当量が2000以下、さらに好ましくはエポキシ当量が1000以下の化合物が好適に用いられる。これは、エポキシ当量を2000以下とすることで、硬化反応の際に架橋密度を適切な範囲とし、密着性、耐インク性を良好にすることができるからである。
【0050】
エポキシ樹脂を硬化させるための光カチオン重合開始剤としては、光照射により酸を発生する光酸発生剤を用いることができる。光酸発生剤としては、特に制限はないが、例えば、芳香族スルフォニウム塩や芳香族ヨードニウム塩等を用いることができる。また、被覆層210上に、必要に応じてネガ型の感光性を有する撥インク剤層を形成することができる(不図示)。
【0051】
次に、図2(h)に示すように、例えばi線ステッパーを用い、マスク20を介して光207を被覆層210に照射して、吐出口を形成するための被覆層210の露光を行う。
次に、図2(i)に示すように、現像処理を施して吐出口212を形成する。
【0052】
この際、現像と同時にポジ型感光性樹脂からなるインク流路パターンを溶解除去することも可能である。
【0053】
次に、図2(j)に示すように、基板201を貫通する供給口214を形成する。
次に、図2(k)に示すように、必要に応じて流路形成部材の上面から光を照射し、流路パターン209を溶解除去することで、流路213を形成する。
【0054】
その後、切断工程(不図示)を経た後、必要に応じて加熱処理を施すことにより流路形成部材をさらに硬化させる。その後、インク等の液体を供給するための部材(不図示)を接合し、エネルギー発生素子を駆動するための電気的接合(不図示)を行って、液体吐出ヘッドを作製する。
【実施例】
【0055】
以下に実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明する。
【0056】
<実施例1>
図2(a)〜(k)に示した工程に従って、インクジェットヘッドを作製した。
【0057】
まず、図2(a)に示すように、基板201を用意した。本実施例においては、8インチのシリコン基板を用意した。該シリコン基板には、エネルギー発生素子として電気熱変換素子(TaSiNからなるヒーター)が設けられている。
【0058】
次に、図2(b)に示すように、基板201上に、第一の樹脂層202として、ポジ型感光性樹脂を形成した。具体的には、ポリメチルイソプロペニルケトンを基板201上にスピンコートし、120℃で6分間のベークを行い、第一の樹脂層202を形成した。ベーク後の第一の樹脂層の膜厚は15μmであった。
【0059】
次に、図2(c)に示すように、第二の樹脂層203として以下の組成物を第一の樹脂層202の上に膜厚4μmとなるように積層した。
樹脂:AVライトEP4050G(旭有機材工業) 40質量部
アントラセン化合物:9,10−ジエトキシアントラセン 2質量部
溶媒:2−ヘプタノン 60質量部
【0060】
次に、図2(d)に示すように、i線ステッパー(波長365nm、キヤノン製、i5)を用いて、第一のフォトマスク10を介して3000J/mの露光量で露光し、アントラセン化合物の二量化反応を進行させた。その結果、第二の樹脂層203の露光部203aに感光波長の異なる潜像パターンが形成された。
【0061】
次に、図2(e)に示すように、第二の樹脂層203の未露光部203bをマスクとして露光を行った。露光は、Deep−UV露光装置(ウシオ電機製、商品名;UX−3000)を用いて、280nm以上の波長の光を含む光にて、14J/cmの露光量で全面露光した。
【0062】
次に、図2(f)に示すように、メチルイソブチルケトンを用いて第二の樹脂層203の除去と第一の樹脂層202の現像を同時に行い、流路パターン209を形成した。
【0063】
次に、図2(g)に示すように、以下の組成からなる感光性樹脂組成物を、スピンコート法を用いて、流路パターン209及び基板201の上に膜厚15μmで形成し、90℃で2分間(ホットプレート)のプリベークを行い、被覆層210を形成した。
EHPE(ダイセル化学工業社製) 100質量部
SP−172((株)ADEKA) 5質量部
A−187(東レ・ダウコーニング社製) 5質量部
メチルイソブチルケトン 100質量部
【0064】
次に、図2(h)に示すように、i線ステッパー(キヤノン製、i5;商品名)を用いて、4000J/mの露光量にてパターン露光した。また、ホットプレートにて90℃で240秒のベークを行った。
【0065】
次に、図2(i)に示すように、メチルイソブチルケトンにて現像、イソプロピルアルコールにてリンス処理を行い、140℃で60分間の熱処理を行って、吐出口212を形成した。なお、本実施例では直径8μmの吐出口212を形成した。
【0066】
次いで、図2(j)に示すように、インク供給口214を形成した。
【0067】
次に、図2(k)に示すように、Deep−UV露光装置(ウシオ電機社製、商品名;UX−3000)を用い、流路形成部材側から250000mJ/cmの露光量で全面露光を行い、流路パターン209を可溶化した。そして、乳酸メチル中に超音波を付与しつつ浸漬することで流路パターン209を溶解除去し、流路213を形成した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
280nm以上の波長の光に対してポジ型の感光性を示すポジ型感光性樹脂からなる第一の樹脂層と、アントラセン化合物を含有する第二の樹脂層と、がこの順に積層された基板を用意する工程と、
前記第二の樹脂層の一部を300nm以上の波長の光で露光する工程と、
前記第二の樹脂層の未露光部をマスクとして利用し、280nm以上の波長の光を前記第二の樹脂層の露光が行われた部分を透過させて前記第一の樹脂層に照射することで、前記第一の樹脂層を露光する工程と、
前記第一の樹脂層の露光が行われた部分を除去して構造体を形成する工程と、
をこの順に有する構造体の製造方法。
【請求項2】
前記アントラセン化合物が、式(1)で示される構造の化合物である請求項1に記載の構造体の製造方法。
【化1】


[式中、R〜Rはそれぞれ独立して、水素、炭素数1〜20のアルキル基、アルコキシ基、アルケニル基、エチニル基、アリール基、アシル基、およびそれらが置換された有機基のいずれかを示す。R、R10は炭素数1〜20のアルコキシ基、およびその他の置換基で置換された有機基のいずれかを示す。]
【請求項3】
前記アントラセン化合物が、9,10−ジエトキシアントラセンである請求項2に記載の構造体の製造方法。
【請求項4】
前記ポジ型感光性樹脂が、ポリメチルイソプロペニルケトンである請求項1乃至3のいずれか1項に記載の構造体の製造方法。
【請求項5】
240nm以下の波長の光にポジ型感光性を示すポジ型感光性樹脂からなる第一の樹脂層と、アントラセン化合物を含有する第二の樹脂層と、がこの順に積層された基板を用意する工程と、
前記第二の樹脂層の一部を300nm以上の波長の光で露光する工程と、
前記第二の樹脂層の露光が行われた部分をマスクとして利用し、240nm以下の波長の光を前記第二の樹脂層の未露光部を透過させて前記第一の樹脂層に照射することで、前記第一の樹脂層を露光する工程と、
前記第一の樹脂層の露光が行われた部分を除去して構造体を形成する工程と、
を有する構造体の製造方法。
【請求項6】
前記ポジ型感光性樹脂が、ポリメチルメタクリレートとメタクリル酸との共重合体からなる請求項5に記載の構造体の製造方法。
【請求項7】
280nm以上の波長の光に対してネガ型の感光性を示すネガ型感光性樹脂からなる第一の樹脂層と、アントラセン化合物を含有する第二の樹脂層と、がこの順に積層された基板を用意する工程と、
前記第二の樹脂層の一部を300nm以上の波長の光で露光する工程と、
前記第二の樹脂層の未露光部をマスクとして利用し、280nm以上の波長の光を前記第二の樹脂層の露光が行われた部分を透過させて前記第一の樹脂層に照射することで、前記第一の樹脂層を露光する工程と、
前記第一の樹脂層の露光が行われなかった部分を除去して構造体を形成する工程と、
をこの順に有する構造体の製造方法。
【請求項8】
液体を吐出するための吐出口と連通する液体の壁を有する流路壁部材と、を有する液体吐出ヘッドの製造方法であって、
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の構造体の製造方法によって得られた構造体が設けられた前記基板を提供する工程と、
前記構造体を被覆するように前記流路壁部材となるための被覆層を設ける工程と、
前記構造体を除去して前記流路を形成する工程と、
を有する液体吐出ヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−30579(P2012−30579A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−135103(P2011−135103)
【出願日】平成23年6月17日(2011.6.17)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】