説明

構造決定装置、及び、構造決定方法

【課題】成型品の構造を効率よく最適な形状に決定することが可能な構造決定装置、及び、構造決定方法を提供する。
【解決手段】構造決定装置としてのコンピュータ1は、流体の貯留部或いは流路を構成する成型品において流体が流動する面を処理対象とし、処理対象の面の部品データ23をもとに有限要素メッシュを作成し、有限要素メッシュを構成する各要素に高さ方向の座標をマッピングし、マッピングされた座標に、その座標値以下の座標値を有する別の要素が周囲に存在するように、各要素の座標を変換する構造決定フィルタを適用し、適用後の各要素の座標を部品データ23に反映させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成型品の構造を決定する構造決定装置、及び、構造決定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、有限要素法による構造解析により剛性構造を決定する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に開示された構成では、樹脂成型品の形状モデルに対して樹脂原料の物性を含めた入力条件に基づき所定の温度下におけるクリープ変形を解析し、この解析結果を用いて剛性構造の最適化を行う。
【特許文献1】特開2004−167686号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1に開示された構成は成型品の剛性構造を決定するものであったが、要求される機能に基づいて成型品の構造を決定することがある。例えば、燃料タンクの構造を決定する際には、燃料タンクに設けられた燃料取出口に向かって、燃料が効率よく流れるような構造とすることが望ましい。このように、成型品の構造を、要求される機能に基づいて効率よく決定する手法が望まれていた。
【0004】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、成型品の構造を効率よく最適な形状に決定することが可能な構造決定装置、及び、構造決定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明は、流体の貯留部或いは流路を構成する成型品において前記流体が流動する面を処理対象とし、この処理対象の面の形状データをもとに有限要素メッシュを作成するメッシュ作成手段と、前記有限要素メッシュ作成手段により作成された有限要素メッシュを構成する各要素に高さ方向の座標をマッピングするマッピング処理手段と、前記有限要素メッシュの各要素にマッピングされた座標に構造決定フィルタを適用するフィルタ処理手段と、前記構造決定フィルタが適用された前記有限要素メッシュの各要素の座標を、前記処理対象の面の形状データに反映させる形状データ処理手段と、を備え、前記構造決定フィルタは、前記有限要素メッシュの各要素について、その要素にマッピングされた座標値以下の座標値を有する別の要素が周囲に存在するように、各要素の座標を変換するフィルタであること、を特徴とする構造決定装置を提供する。
この構成によれば、成型品において流体が流動する面に対応する有限要素メッシュを作成し、この有限要素メッシュを構成する各要素に高さ方向の座標をマッピングし、この高さ方向の座標に構造決定フィルタを適用することによって、各要素の周囲に、その座標値以下の座標値を有する別の要素が存在するように、各要素の座標を変換し、変換後の各要素の座標を形状データに反映させるので、座標に対するフィルタ処理を行うことによって、成型品の形状データを、その機能を十分に発揮できる最適な形状に変換できる。そして、処理後の成型品の形状データによれば、処理対象の面において流体が周囲に流れ出ずに溜まってしまう箇所が無い成型品を製造できる。このように、本発明によれば、流体の貯留部或いは流路を構成する成型品の構造を、効率の良い処理により、その機能を十分に発揮できる最適な形状に決定できる。
【0006】
上記構成において、前記構造決定フィルタは、前記有限要素メッシュの各要素と当該要素の周囲に位置する4つの要素との座標値を比較することによって、各要素の座標を変換するフィルタであってもよい。
この場合、有限要素メッシュの各要素にマッピングされた座標値を、その周囲の4つの要素にマッピングされた座標値と比較することで座標を変換するフィルタであるため、このフィルタを適用する処理は軽負荷で、高速に実行可能である。これにより、成型品の構造を、効率の良い処理により最適な形状に決定できる。
【0007】
また、上記構成において、前記構造決定フィルタは、前記有限要素メッシュの各要素について、当該要素から隣接する要素へ前記流体が流動可能であるか否かを判定し、この判定結果に基づいて座標を変換するフィルタであってもよい。
この場合、フィルタを適用することによって、有限要素メッシュの各要素から隣接する要素へ流体が移動可能であるか否かを判定するので、処理対象の成型品における流体の溜まりを確実に防止でき、効率の良い処理によって成型品の形状を最適な形状に決定できる。
【0008】
上記構成において、例えば、前記成型品は燃料タンクであり、前記表面は燃料タンクの底面であってもよい。
この場合、効率の良い処理によって、燃料タンクの底面の形状を、燃料の溜まりを確実に防止可能な最適な形状に決定できる。
【0009】
また、本発明は、流体の貯留部或いは流路を構成する成型品において前記流体が流動する面を処理対象とし、この処理対象の面の形状データをもとに有限要素メッシュを作成し、前記有限要素メッシュを構成する各要素に高さ方向の座標をマッピングし、前記有限要素メッシュの各要素にマッピングされた座標に、各要素にマッピングされた座標値以下の座標値を有する別の要素が周囲に存在するように、各要素の座標を変換する構造決定フィルタを適用し、前記構造決定フィルタが適用された前記有限要素メッシュの各要素の座標を、前記処理対象の面の形状データに反映させること、を特徴とする構造決定方法を提供する。
この方法によれば、成型品において流体が流動する面に対応する有限要素メッシュを作成し、この有限要素メッシュを構成する各要素に高さ方向の座標をマッピングし、この高さ方向の座標に構造決定フィルタを適用することによって、各要素の周囲に、その座標値以下の座標値を有する別の要素が存在するように、各要素の座標を変換し、変換後の各要素の座標を形状データに反映させるので、座標に対するフィルタ処理を行うことで、成型品の形状データを、その機能を十分に発揮できる形状に変換できる。そして、処理後の成型品の形状データによれば、処理対象の面において流体が周囲に流れ出ずに溜まってしまう箇所が無い成型品を製造できる。このように、本発明によれば、流体の貯留部或いは流路を構成する成型品の構造を、効率の良い処理により、その機能を十分に発揮できる最適な形状に決定できる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、座標に対するフィルタ処理を行うことで、流体の貯留部或いは流路を構成する成型品の構造を、効率の良い処理により、その機能を十分に発揮できる最適な形状に決定できる。また、有限要素メッシュの各要素にマッピングされた座標値を、その周囲の4つの要素にマッピングされた座標値と比較することで座標を変換するフィルタであるため、成型品の構造を効率良く最適な形状に決定できる。さらに、フィルタを適用することによって、有限要素メッシュの各要素から隣接する要素へ流体が移動可能であるか否かを判定するので、処理対象の成型品における流体の溜まりを確実に防止できる。そして、燃料タンクの底面の形状を、燃料の溜まりを確実に防止できる最適な形状に決定できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明を適用した実施形態について説明する。
図1は、本発明の構造決定装置を適用したコンピュータ1の構成を示す機能ブロック図である。
この図1に示すコンピュータ1は、所定のプログラムを実行してデータを処理するCPU(Central Processing Unit)10と、CPU10により実行される基本制御プログラム及び基本制御プログラムに関するデータを記憶したROM(Read Only Memory)11と、CPU10により実行される各種プログラム及び処理されるデータを一時的に記憶するRAM(Random Access Memory)12と、を備えている。また、コンピュータ1は、キーボードやマウス等の入力デバイスを有し、これら入力デバイスにおける入力操作を検出して操作信号をCPU10に出力する入力部13と、LCD(液晶表示画面)等からなる表示画面(図示略)を備え、この表示画面に処理結果等を表示させる表示部14と、プリンタやスキャナ等の外部の機器(図示略)に接続される外部インタフェース部15と、通信回線を介して外部のサーバ等(図示略)に接続される通信インタフェース部16と、を備えている。さらに、コンピュータ1は、CPU10により実行される各種プログラム、及び、これらのプログラムの実行時に処理されるデータ等を記憶する記憶部20を有する。これらの各部は、バス17によって相互に接続されている。
【0012】
CPU10は、ROM11に記憶された基本制御プログラム及びデータを読み出して、RAM12に設けられるワークエリアに展開して一時的に保持させるとともに、所定の順序で基本制御プログラムのコードを実行することにより、コンピュータ1の各部を初期化して制御する。
また、CPU10は、入力部13から入力される操作信号に応じて、記憶部20に記憶されたプログラムを読み出して実行し、各種データを処理することにより、各種の機能を実現する。
【0013】
本実施形態において、記憶部20には、設計支援プログラム21、構造決定プログラム22、及び部品データ23が記憶されている。
設計支援プログラム21は、コンピュータ1において、いわゆるCAD(Computer Aided Design)装置としての機能を実現し、部品の設計を行い、部品の形状及びサイズを規定する部品データ23を生成するためのプログラムである。
構造決定プログラム22は、コンピュータ1によって構造決定機能を実現するためのプログラムである。この構造決定機能は、設計支援プログラム21の機能により生成され、或いは、外部インタフェース部15や通信インタフェース部16を介して外部の装置(図示略)から入力された部品データ23に、フィルタを適用する処理を行って、部品の形状の最適化を行う機能である。
部品データ23は、部品の形状及びサイズを規定するデータであって、部品の立体的形状を詳細に規定した、いわゆる3次元CADデータである。
【0014】
以下、コンピュータ1により実現される構造決定機能について説明する。
図2は、構造決定機能の処理対象となる部品(成型品)の一例としての燃料タンク50を、底面側からみた斜視図である。
本実施形態では、処理対象の具体的な例として、自動二輪車に使用される燃料タンク50を挙げて説明する。図2に示すように、燃料タンク50の底面51は複雑な形状となっており、特に、多くの逃げ部51aが形成されている。また、燃料タンク50には、燃料タンク50内の燃料を外部に取り出す燃料取出口(図示略)が設けられ、燃料取出口から燃料を吸い出す燃料ポンプ(図示略)が配設されている。
なお、底面51が複雑な形状となる理由としては、例えば、燃料タンク50の周辺に配置された他の部品との干渉の回避や、強度を保証すべくリブを形成したこと等が挙げられる。
【0015】
逃げ部51aは、上記のように燃料タンク50の周囲に位置する他の部品等を避けるべく設けられた凹部である。燃料タンク50の周囲に位置する部材としては、フレーム、エアクリーナボックス、スロットルボディ、エンジン等の様々な部品が挙げられ、これらの部品の形状や位置は、自動二輪車の車体全体におけるバランスや剛性を考慮して決定されている。これに対し、燃料タンク50は、必要とされる量の燃料を貯留可能であれば良く、形状及び位置に関する制約は比較的緩い。このため、燃料タンク50と、燃料タンク50の周囲に位置する部品とが干渉するような場合には、燃料タンク50に逃げ部51aを設けて干渉を回避することが一般的である。
【0016】
しかしながら、逃げ部51aを底面51に設けることで、底面51における凹凸が増すと、燃料の溜まりを生じる可能性がある。逃げ部51aは、燃料タンク50の外側から見れば凹部であり、燃料タンクの内部から見れば凸部となる。従って、逃げ部51aが輪を作るように形成されると、燃料タンク50の内部には輪状の凸部が形成されることになり、この輪の内側には、周囲に繋がらない窪みが形成されてしまう。この窪みに溜まった燃料は他の部分に流出しないので、燃料取出口(図示略)から吸い出せない。このため、燃料タンク50内の燃料を使い切れなくなってしまう。
そこで、コンピュータ1は、上述した構造決定機能により、底面51に逃げ部51aを設けた場合に燃料が溜まるような窪みを生じないよう、底面51の形状を最適化する。
【0017】
図3は、構造決定機能により行われる処理の概要を示す図である。
図3A及び図3Bには、底面51(図2)の形状をモデル化した底面形状モデル60と、底面形状モデル60が干渉を回避すべき他の部品としての周辺部品71、72を図示する。図3A及び図3Bでは、底面形状モデル60は基準面となる平面となっており、この底面形状モデル60に対し、周辺部品71、72が重ねて表示されている。周辺部品71は丸棒状の部材であり、周辺部品72は一辺が開放された長方形に似た枠形状の部材である。周辺部品71、72は底面形状モデル60の下方に位置すべき部品であるため、底面形状モデル60は周辺部品71、72を回避するように上に盛り上がった形状とする必要がある。
【0018】
そこで、コンピュータ1は、底面形状モデル60に周辺部品71、72の位置及び形状を加味して、これをもとに有限要素メッシュを生成することにより、図3Cに示す解析モデル65を生成する。図3Cには、解析モデル65のメッシュを構成する各々の要素を、点で表す。
続いて、コンピュータ1は、図3Dに示すように、解析モデル65の各々の要素に対し、その要素の高さ方向の座標をマッピング(写像)する。この高さ方向の座標は、部品データ23から生成された底面形状モデル60或いは部品データ23自体から抽出され、解析モデル65のメッシュの要素毎にマッピングされる。
このようにメッシュの各要素に高さ方向の座標がマッピングされた後、コンピュータ1により、構造決定フィルタを適用する処理が行われる。
【0019】
図4は、構造決定フィルタによる座標の変換の様子を模式的に示す図であり、図4Aは座標の変換前の状態を、図4Bは座標の変換後の状態を示す。
図4Aに示すように、高さ方向の座標がマッピングされた解析モデル65には、図3A及び図3Bに示した周辺部品71、72との干渉を回避するために凸部65a、65bが形成されている。この凸部65a、65bは周辺部品71を回避するための棒状の凸部65aと、周辺部品72を回避するための枠形状の凸部65bとからなる。これらの凸部65a、65bは、それぞれ、周辺部品71、72の位置及び形状に合わせて設けられたものであるが、結果として繋がって、長方形の枠ができている。この枠の内側は、もとの基準面の高さから変化していないので、周囲の枠より相対的に低く、燃料の溜まりの原因となる独立した凹部となっている。
この解析モデル65について、構造決定フィルタを適用して高さ方向の座標を変換すると、図4Bに示す解析モデル67のように、枠の内側の座標が周囲の凸部と同じ高さにされ、平面となっている。つまり、解析モデル67には、周辺部品71を回避するための凸部67aと、周辺部品72を回避するための67bとがあり、凸部67a、67bが繋がって四角形を構成しているが、この四角形の凸部67a、67bには窪みがない。これにより、底面51の形状は、燃料の溜まりの原因となる凹部の無い、最適な形状にされる。
【0020】
図5は、構造決定フィルタによる座標の変換に伴う形状の変化を示す図である。図5A及び図5Bは、いずれも燃料タンク50の底面51の形状をモデル化した底面形状モデルを示し、図5Aは、構造決定フィルタの適用前の底面形状モデル60を示し、図5Bは構造決定フィルタの適用後の底面形状モデル68を示す。
図5Aに示す解析モデル65には、周辺部品71(図3A)との干渉を避けるための棒状の凸部60aと、周辺部品72との干渉を避けるための凸部60bとが存在し、凸部60a、60bが繋がって略長方形の枠を構成している。この凸部60a、60bにより形成される枠の中央は相対的に低いため、窪み60cとなっており、この窪み60cは上述した燃料の溜まりの原因となる。
【0021】
図5Aの底面形状モデル60に構造決定フィルタを適用すると、解析モデル67(図4B)を用いて説明したように、凹部60cの高さ方向の座標が、周囲の凸部60a、60bと同じ高さに変換され、凹部が消失する。解析モデル67を底面51に対応する底面形状モデル68に反映させると、図5Bに示すように、全体が同一高さの凸部68aとなり、底面形状モデル68には周囲を凸部で囲まれた凹部が無い。この底面形状モデル68の形状を、部品データ23に含まれる底面51の形状のデータに反映させることで、燃料の溜まりを生じない燃料タンク50の製造が可能となる。
【0022】
ここで、構造決定フィルタによる座標の変換の様子について、説明する。
図6は、座標の変換の様子を示す典型的な例として、マトリクス状に要素を並べた有限要素メッシュに対して構造決定フィルタを適用する場合を示し、具体的には、縦8行×横10列のマトリクス状に並んだ要素の座標に構造決定フィルタを適用して座標を変換する。図6Aは構造決定フィルタの適用前、図6Bは構造決定フィルタの適用後における有限要素メッシュの状態を示す。図6A及びBにおいて、各々の要素には1〜5の5段階の座標がマッピングされ、最も低い座標が1、最も高い座標が5である。図中の各要素のハッチングは座標に対応している。
【0023】
図6Aに示す状態では、周囲の要素よりも座標値が低い要素、言い換えれば、より高い座標値の要素に囲まれた要素が散在している。例えば、F列の第3行〜第5行に並ぶ3個の要素の座標値は「2」であり、その周囲を、座標値が「3」の要素及び座標値が「4」の要素に囲まれている。また、第8行のC列及びD列には、座標値が「1」の要素が並んでいて、その周囲は、座標値が「3」の要素及び座標値が「4」の要素で囲まれている。他にも、F列の第7行〜第8行、第5行D列も、周囲を、より高い座標値の要素で囲まれている。これらの部分は、上述したように燃料の溜まりを生じる凹部となる。
【0024】
この図6Aに示す座標値に対して構造決定フィルタを適用すると、上記のように凹部を形成していた箇所の高さ方向の座標値が、その周囲の座標値を同じ座標値に変換される。この結果、例えばF列の第3行〜第5行に並ぶ3個の要素の座標値は、「2」から「3」に変換され、C列及びD列の第8行の要素の座標値は「1」から「3」に変換され、F列の第7行〜第8行の要素の座標値は「2」から「3」に変換され、D列第5行の要素の座標値は「2」から「3」に変換される。これにより、燃料の溜まりを生じるような凹部が解消される。
【0025】
構造決定フィルタを適用すると、まず、燃料が到達すべき箇所(燃料取出口の位置など)が燃料到達領域として設定される。図6A及びBに示す例ではマトリクスの上下左右の4辺のいずれかが燃料到達領域として設定される。続いて、燃料到達領域の燃料到達フラグがONに設定され、この燃料到達領域を出発点として、マトリクスの各要素に対して燃料到達フラグの設定が行われる。燃料到達フラグとは、その要素から燃料到達領域まで燃料が流れる場合にONに設定されるフラグである。
図6Aの例では、左辺を燃料到達領域と仮定すると、A列1行〜8行は左辺に接しているので燃料到達フラグがONとなる。隣のB列1行〜8行は、A列1行〜8行より高く、A列1行〜8行に向けて燃料を流すことができるので、燃料到達フラグがONに設定される。このように、燃料到達フラグがONの要素に隣接していて、この要素以上の高さを有する要素には、燃料到達フラグがONに設定される。
【0026】
そして、マトリクスから処理対象の要素が選択され、処理対象の燃料到達フラグがONでない場合には、処理対象の要素の周囲に、高さ方向の座標値が処理対象の要素以下となる要素があるか否か、すなわち、処理対象の要素が周囲よりも一段と低いのか否かが判定される。この処理で、周囲よりも低い要素については、その高さが、予め設定された高さ又は周囲の要素の高さに変換される。
例えば、図6AのF列第3行〜第5行、C列〜D列第8行、F列第7行〜第8行、及び、D列第5行の要素は、周囲燃料到達フラグがONにならず、その周囲に、高さ方向の座標値が処理対象の要素の座標値以下となる要素がない。このため、構造決定フィルタによって、上述したように高さ方向の座標値が変換される。上記の処理は、例えば燃料到達領域に隣接する要素から始まって、行方向または列方向に順次進行され、当該マトリクスの全ての要素について行われる。
【0027】
図7は、座標の変換の様子を示す典型的な別の例を示す図である。
この図7A及び図7Bでは、高さ位置の異なる複数の領域を有する面に上記の構造決定フィルタを適用した場合の高さの変化を模式的に示し、図7Aには構造決定フィルタの適用前の状態を、図7Bには構造決定フィルタの適用後の状態を示す。
図7中においては、黒無地の領域L4が最も低く、次いで、網掛けの領域L3、斜線の領域L2の順で高く、白無地の領域L1が最も高さが高い。
【0028】
図7Aに示す状態では、一つの領域の周囲が、より高さの高い領域に囲まれている箇所がある。すなわち、斜線の領域L2の中に網掛けの領域L3がある箇所、網掛けの領域L3の中に黒無地の領域L4がある箇所である。
構造決定フィルタを適用すると、周囲よりも低い領域の高さが周囲の高さに適合するように高さが変換される。この結果、図7Bに示すように、網掛けの領域L3の中に黒無地の領域L4がある箇所は全て領域L3の高さに合わせて高さが変換され、さらに、斜線の領域L2の中に網掛けの領域L3がある箇所は、全て斜線の領域L2の高さに合わせて高さが変換される。この処理は最終的に全ての領域が条件に適合するまで繰り返し行われるので、例えば、図7Aにおいて、斜線の領域L2の中に網掛けの領域L3があり、その領域L3の中にさらに黒無地の領域L4がある箇所は、図7Bに示すように、全てが斜線の領域L2の高さに変換される。
【0029】
図8は、コンピュータ1が構造決定機能を実行する際の動作を示すフローチャートである。この図8に示す動作の実行時、CPU10は、メッシュ作成手段、マッピング処理手段、フィルタ処理手段、及び、形状データ処理手段として機能する。
CPU10は、記憶部20に記憶された部品の形状データである部品データ23に基づいて、処理対象の面の形状モデルを生成し(ステップS11)、この形状モデルに対応する有限要素メッシュを生成する(ステップS12)。
【0030】
続いてCPU10は、生成したメッシュの各要素に対し、部品データ23に基づいて高さ方向のデータ(座標値)をマッピングする(ステップS13)。これにより、メッシュの各要素に対してデータが対応づけられる。
CPU10は、メッシュに対してマッピングされたデータ配列、すなわち高さ方向の座標値の配列に対して、構造決定フィルタを適用することにより、必要な箇所の座標値を変換する(ステップS14)。
【0031】
その後、CPU10は、処理対象の面の構成点の座標に、構造決定フィルタの適用後の座標値を反映させる処理を行って部品データ23を更新することにより(ステップS15)、処理対象の面の形状を決定する(ステップS16)。
この動作によって、処理対象の面に関する部品データ23に基づいて、燃料溜まりを生じない処理対象の面の形状が決定され、この決定された形状を実現できるように部品データ23が更新される。
【0032】
図9は、図8のステップS14における処理を、より詳細に示すフローチャートである。
この処理では、上記データ配列に対して燃料到達の判定を行うため、上述した燃料到達領域が設定され、設定された領域の燃料到達フラグがONに設定される(ステップS21)。ここで、CPU10は、処理対象のデータ配列に含まれる全ての座標の座標値(Z値)を取得する(ステップS22)。そして、CPU10は、全ての座標に対し、燃料到達判定とZ値の比較によるZ値の変換(補正)を含む処理を実行し(ステップS23)、これにより、燃料溜まりを生じないように座標値が変換される。
【0033】
図10は、図9のステップS23で実行される処理の具体例を示すフローチャートである。図10に示す処理は、図6〜図7及び図9で説明した処理の手順を具体化した例を示すものであり、上記の処理の限定するものではない。
図10に例示する処理では、まず、基準となるZ値が設定され(ステップS31)、続いて、処理対象の座標が指定される(ステップS32)。
図10の処理は、様々なZ値の座標の全ての燃料到達フラグがONになるまで実行されるので、基準Z値を設定したら全ての座標について処理を行い、その後、基準Z値を変えて、再び全ての座標について処理を行い、これを全座標の燃料到達フラグがONになるまで実行する。基準Z値は、例えば、燃料到達領域のZ値より1段高いZ値が最初に設定され、その後、順次高いZ値に設定される。また、ステップS32では、基準Z値が設定されてから、まだ処理がなされていない座標の中から、所定の順序に従って処理対象の座標が選択指定される。ここで処理対象の座標を選択指定する順序は、例えば、Z値が低い順としてよい。
【0034】
CPU10は、処理対象の座標のZ値を取得し、このZ値が基準のZ値よりも大きいか否かを判別する(ステップS33)。処理対象の座標のZ値が基準Z値よりも大きい場合(ステップS33;Yes)、CPU10は、後述するステップS41に移行する。
また、処理対象の座標のZ値が基準Z値以下の場合(ステップS33;No)、CPU10は、処理対象の座標の燃料到達フラグがONであるか否かを判別し(ステップS34)、燃料到達フラグがONの場合は、後述するステップS41に移行する。
【0035】
一方、処理対象の座標の燃料到達フラグがONでない場合(ステップS34;No)、CPU10は、処理対象の座標の周囲(上下左右)に位置する4つの座標のZ値を取得し(ステップS35)、これら4つの座標の中に、そのZ値が、処理対象の座標のZ値以下となる座標があるか否かを判別する(ステップS36)。
ここで、処理対象の座標の周囲に、Z値が処理対象の座標のZ値以下となる座標がない場合(ステップS36;No)、CPU10は、処理対象の座標のZ値を基準Z値に変更し(ステップS37)、ステップS41に移行する。
【0036】
これに対し、処理対象の座標の周囲に、Z値が処理対象の座標のZ値以下となる座標がある場合(ステップS36;Yes)、CPU10は、Z値が処理対象の座標より低い座標の燃料到達フラグを取得し(ステップS38)、この燃料到達フラグがONであるか否かを判別する(ステップS39)。
この燃料到達フラグがONである場合(ステップS39;Yes)、CPU10は、処理対象の座標の燃料到達フラグをONに設定して(ステップS40)、ステップS41に移行する。また、この燃料到達フラグがONでない場合(ステップS39;No)、CPU10は、上記のステップS37に移行して処理対象の座標のZ値を基準のZ値に変換し、ステップS41に移行する。
【0037】
ステップS41で、CPU10は、構造決定フィルタを適用したデータ配列の全ての座標に対して処理を行ったか否かを判別し、処理が済んでいない座標があれば、ステップS32に戻って、未処理の座標を選択指定して処理を継続する。また、全ての座標について処理が済んでいる場合(ステップS41;Yes)、CPU10は、全ての座標の燃料到達フラグがONに設定されたか否かを判別する(ステップS42)。まだ燃料到達フラグがONにされていない座標があれば、CPU10はステップS31に戻って、基準Z値をより高い値に設定して処理を繰り返し、全ての座標の燃料到達フラグがONに設定されていれば、本処理を終了する。
この図10に例示したように、構造決定フィルタの適用後は、全ての座標の燃料到達フラグがONとなるので、この座標を部品データ23に反映させることで、部品データ23により規定される部品の形状を、燃料溜まりが全く無い形状とすることができる。
【0038】
以上のように、本発明の構造決定装置を適用したコンピュータ1によれば、燃料タンク50の底面51に対応する有限要素メッシュを作成し、この有限要素メッシュを構成する各要素に部品データ23に基づいて高さ方向の座標をマッピングし、この高さ方向の座標に構造決定フィルタを適用することによって、各座標の周囲に、その座標値以下の座標が存在するように、座標値を変換し、変換後の座標値を部品データ23に反映させるので、座標に対するフィルタ処理を行うことで、部品の形状を、その部品の機能に対して最適な形状に変換できる。そして、処理後の部品データ23に従って製造された燃料タンク50においては、底面51における燃料の溜まりが防止できる。このように、コンピュータ1の構造決定機能によれば、燃料タンク50のように流体の貯留部或いは流路を構成する成型品の構造を、効率の良い処理により、その機能を十分に発揮できるような最適な形状に決定できる。
【0039】
ここで、構造決定フィルタは、図9及び図10に例示したように、有限要素メッシュの各要素にマッピングされた座標値と、当該座標値の周囲4つの座標値とを比較することによって、各要素の座標を変換するフィルタである。このため、構造決定フィルタを適用する処理は座標の大小を比較するだけの軽負荷な処理であり、高速に実行可能である。これにより、効率の良い処理によって成型品の構造を最適化できる。
また、構造決定フィルタは、有限要素メッシュの各要素にマッピングされた座標値について、隣接する座標値へ流体が流動可能であるか否かを判定して燃料到達フラグを設定し、この燃料到達フラグがONになるように座標値を変換するフィルタであるから、処理対象の面の全体において燃料が流出可能であるか否かを正確に判定し、燃料の溜まりが無い形状とすることができる。
【0040】
なお、上記の実施形態において、コンピュータ1は、記憶部20に記憶した構造決定プログラム22を実行することにより構造決定機能を実現するものとして説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、外部インタフェース部15を介して外部の機器から上記プログラムをダウンロードしてもよいし、通信インタフェース部16に接続された通信回線を介して上記プログラムをダウンロードして実行し、構造決定機能を実現してもよい。また、コンピュータ1は、独立して設置されるパーソナルコンピュータに限定されず、入力部13や表示部14を持たない他の機器に組み込まれたCPU10により実現されてもよいし、他の機能を実現する専用の装置に上記の構造決定機能を組み込むことも勿論可能である。また、処理対象の成型品は燃料タンク50に限定されるものではなく、例えば、自動二輪車や四輪車においてオイル及び水を含む流体を貯留し、或いはその流路を構成する部品であれば制限なく適用可能であり、具体的には、ラジエータリザーバタンクやオイルパン等が挙げられる。また、上記成型品の材料及び加工方法は任意である。その他、部品データ23のデータ形式や構造決定フィルタの具体的な処理手順等の細部については、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において任意に変更可能であることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の実施形態に係るコンピュータの構成を示す機能ブロック図である。
【図2】処理対象の燃料タンクの構造を示す斜視図である。
【図3】コンピュータの構造決定機能により行われる処理の概要を示す図である。
【図4】構造決定フィルタによる座標の変換の様子を模式的に示す図である。
【図5】構造決定フィルタによる座標の変換に伴う形状の変化を示す図である。
【図6】構造決定フィルタによる処理の例を示す図である。
【図7】構造決定フィルタによる処理の別の例を示す図である。
【図8】コンピュータの動作を示すフローチャートである。
【図9】コンピュータの動作を示すフローチャートである。
【図10】コンピュータの動作の一具体例を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0042】
1 コンピュータ(構造決定装置)
10 CPU(メッシュ作成手段、マッピング処理手段、フィルタ処理手段、形状データ処理手段)
20 記憶部
23 部品データ
50 燃料タンク
51 底面
60、68 底面形状モデル
65、67 解析モデル
71、72 周辺部品

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体の貯留部或いは流路を構成する成型品において前記流体が流動する面を処理対象とし、この処理対象の面の形状データをもとに有限要素メッシュを作成するメッシュ作成手段と、
前記有限要素メッシュ作成手段により作成された有限要素メッシュを構成する各要素に高さ方向の座標をマッピングするマッピング処理手段と、
前記有限要素メッシュの各要素にマッピングされた座標に構造決定フィルタを適用するフィルタ処理手段と、
前記構造決定フィルタが適用された前記有限要素メッシュの各要素の座標を、前記処理対象の面の形状データに反映させる形状データ処理手段と、を備え、
前記構造決定フィルタは、前記有限要素メッシュの各要素について、その要素にマッピングされた座標値以下の座標値を有する別の要素が周囲に存在するように、各要素の座標を変換するフィルタであること、
を特徴とする構造決定装置。
【請求項2】
前記構造決定フィルタは、前記有限要素メッシュの各要素と当該要素の周囲に位置する4つの要素との座標値を比較することによって、各要素の座標を変換するフィルタであること、
を特徴とする請求項1記載の構造決定装置。
【請求項3】
前記構造決定フィルタは、前記有限要素メッシュの各要素について、当該要素から隣接する要素へ前記流体が流動可能であるか否かを判定し、この判定結果に基づいて座標を変換するフィルタであること、
を特徴とする請求項1または2記載の構造決定装置。
【請求項4】
前記成型品は燃料タンクであり、前記表面は燃料タンクの底面であること、
を特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の構造決定装置。
【請求項5】
流体の貯留部或いは流路を構成する成型品において前記流体が流動する面を処理対象とし、この処理対象の面の形状データをもとに有限要素メッシュを作成し、
前記有限要素メッシュを構成する各要素に高さ方向の座標をマッピングし、
前記有限要素メッシュの各要素にマッピングされた座標に、各要素にマッピングされた座標値以下の座標値を有する別の要素が周囲に存在するように、各要素の座標を変換する構造決定フィルタを適用し、
前記構造決定フィルタが適用された前記有限要素メッシュの各要素の座標を、前記処理対象の面の形状データに反映させること、
を特徴とする構造決定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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