説明

構造物の振動特性検出方法及び振動特性検出システム

【課題】構造物の地震被災度の判定精度の向上及び迅速な評価判定に有効である構造物の振動特性を検出する。
【解決手段】地震動による構造物Aへの入力波及び構造物Aの応答波を検出するステップと、入力波及び応答波を所定時間ごとのセグメントに分割するステップと、セグメントごとに同定した振動特性に基づいて、地震動を受けた構造物の振動特性履歴を求めることを特徴とする。この方法では、セグメントごとに振動特性を同定するため、非線形挙動を示す構造物の振動特性を分割取得した複数の等価線形的な振動特性によって把握できる。その結果として、構造物Aの地震被災度の判定精度の向上に有効である構造物Aの振動特性を検出できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震動を受けた構造物の振動特性を検出する方法及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
構造物の地震動による被災度を評価する方法としては、様々な方法が知られている(非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3、非特許文献4、特許文献1及び特許文献2参照)。これらの方法は、地震前の評価方法(第1の方法)、地震後の評価方法(第2の方法)及び地震前後の評価方法(第3の方法)に大別される。第1の方法は、例えば、非特許文献1に示されるように、設計図面に基づく評価、構造部材の調査に基づく評価、並びにこれらの評価と調査に基づく総合的な評価に分類され、いずれも構造物の耐震性能を大まかに判断する。しかしながら、この方法は、元来評価しにくい剛性、減衰、耐力などの評価を重要視しているため、試行錯誤の作業が多く、多大な労力と時間が必要である。しかも、実際の構造物の振動特性が設計と完全に一致せず、受ける地震も設計時の想定とは異なることから、詳細な診断を行っても被害推定には自ずと限界がある。
【0003】
また、第2の方法は、構造物の敷地に赴き調査して判断する方法、構造物に設置した振動計測器の記録を分析する方法、及びこれらの調査と分析の総合的評価に分類され、これらの被災度評価精度は比較的高い。しかしながら、現地での調査(非特許文献2参照)は時間を要し、地震直後に被災度を迅速に判定することは難しい。また、現在示されている簡易な現地調査では、構造物の残留変形や傾きは耐震性判断の重要項目の1つであるが、構造物には振動時に静止位置に戻ろうとする力(復元力)が働くため、大変形が生じても残留変形は小さい場合があり得る。その結果、地震動を受けた後の構造物の状態を調べただけでは、地震時に大変形が発生したか否かの評価はできず、この方法での被災度評価にも限界がある。
【0004】
第1の方法及び第2の方法とは異なり、第3の方法(非特許文献3または非特許文献4参照)は、地震の前後で構造物の振動特性を把握し、地震後の特性変化から被害判定する方法である。構造物は地震動で損傷すると、固有振動数などの振動特性が変化する。第3の方法では、この振動特性を直接検出して構造物の被災度を評価できる点で他の方法に比べて優れている。
【0005】
【非特許文献1】(財)日本建築防災協会「既存鉄筋コンクリート造建築物の耐震診断基準適用の手引き」(2001年度改定)、2001年10月
【非特許文献2】(財)日本建築防災協会「被災度判定基準および復旧技術指針」、1995年3月
【非特許文献3】濱本卓司、森田高市、勅使川原正臣:複数モードの固有振動数変化を用いた多層建築物の層損傷検出、日本建築学会構造系論文集、第560号、pp.93-pp100、2002年10月
【非特許文献4】薛松濤、李銀生、謝強:周波数感度分析に基づいたフレーム構造損傷特定の実験的研究、第44回自動制御連合講演会前刷(日本機械学会)、pp.208-pp211、2001年11月
【特許文献1】特開2004−45294号公報
【特許文献2】特許第3810705号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
第3の方法では、地震の前と後に行われた観測に基づいて構造物の振動特性を求めているが、振動特性は、振動が大きくなればなる程、非線形挙動を示して複雑になるため、本震前後の小さな振動から得られた構造物の振動特性と地震を受けている最中の振動特性との乖離は大きく、第3の方法で求められた振動特性では構造物の地震被災度を精度良く判定することは難しい。さらに、第3の方法では、少なくとも地震前後の2回の観測が必要であるため、評価結果を得るまでの迅速性に欠ける。
【0007】
本発明は、構造物の地震被災度の判定精度の向上及び迅速な評価判定に有効である構造物の振動特性の検出方法及び振動特性検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、地震動を受けた構造物の振動特性を検出する方法において、地震動による構造物への入力波及び構造物の応答波を検出するステップと、入力波及び応答波を所定時間ごとのセグメントに分割するステップと、セグメントごとに同定した振動特性に基づいて、地震動を受けた構造物の振動特性履歴を求めることを特徴とする。
【0009】
本発明では、地震動による構造物への入力波及び応答波を所定時間ごとのセグメントに分割し、セグメントごとに振動特性を同定するため、非線形挙動を示す構造物の振動特性を分割取得した複数の等価線形的な振動特性によって把握できる。さらに、振動特性履歴から大変形時の時間や大変形時の振動特性の変化を求めることができる。その結果として、構造物の地震被災度の判定精度の向上に有効である構造物の振動特性を検出できる。さらに、構造物が実際に受けた地震動の入力波及び応答波を利用して構造物の振動特性を求めるため、地震の前後における振動観測は不要であり、地震後の迅速な評価判定に有効である。
【0010】
さらに、振動特性は、固有振動数、減衰比及びモード振幅の少なくとも一つであると好適である。地震動を受けた構造物の剛性や減衰を同定する場合に比べ、固有振動数、減衰比及びモード振幅であれば同定が比較的容易であると共に、信頼性の高い値を求めることができるため、構造物の地震被災度の判定精度の向上に有効である。
【0011】
さらに、セグメントの所定時間は、構造物に応じて特定される複数の振動モードの各固有周期のうち、同定する振動モードの固有周期以上であると好適である。同定する振動モードの固有周期未満であれば、同定する振動モードにおける固有振動数、減衰比及びモード振幅などの振動特性を精度良く同定できないからである。
【0012】
さらに、振動特性履歴におけるセグメントごとの振動特性のばらつき度合いを求めるステップを備えると好適である。振動特性のばらつき度合いが大きいほど、振動特性の変化が大きく、構造物の地震被災度が高かったことを意味する。したがって、振動特性のばらつき度合いを求めることで、構造物の地震被災度の判定精度の向上に有効である。
【0013】
また、本発明は、地震動を受けた構造物の振動特性を検出する振動特性検出システムにおいて、地震動による構造物への入力波を検出する第1の検出手段と、地震動による構造物の応答波を検出する第2の検出手段と、第1の検出手段で検出された入力波及び第2の検出手段によって検出された応答波を記録する記録手段と、記録手段に記録された入力波及び応答波を所定時間ごとのセグメントに分割する分割手段と、セグメントごとに同定してセグメントごとの振動特性を求め、セグメントごとの振動特性に基づいて、地震動を受けた構造物の振動特性履歴を求める履歴取得手段と、を備えることを特徴とする。
【0014】
本発明では、地震動による構造物への入力波及び応答波を所定時間ごとのセグメントに分割し、セグメントごとに振動特性を同定するため、非線形挙動を示す構造物の振動特性を等価線形的に分割取得した複数の振動特性によって把握できる。さらに、振動特性履歴から大変形時の時間や大変形時の振動特性の変化を求めることができる。その結果として、構造物の地震被災度の判定精度の向上に有効である構造物の振動特性を検出できる。さらに、構造物が実際に受けた地震動による振動応答を利用するため、地震の前後における振動観測は不要であり、地震後の迅速な評価判定に有効である。
【0015】
さらに、振動特性履歴におけるセグメントごとの振動特性のばらつき度合いを求めるばらつき度合取得手段を備えると好適である。振動特性のばらつき度合いが大きいほど、構造物の地震被災度が高いことを意味する。したがって、振動特性のばらつき度合いを求めることで、構造物の地震被災度の判定精度の向上に有効である。
【発明の効果】
【0016】
構造物の地震被災度の判定精度の向上に有効である構造物の振動特性を検出できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明に係る振動特性検出システムの好適な実施形態について説明する。
【0018】
図1は、本実施形態に係る振動特性検出システムのハードウェア構成を示す図であり、図2は、振動特性検出システムの機能的構成を示す図である。
【0019】
振動特性検出システム1は、地震動による構造物Aへの入力波を検出する入力波用加速度センサ5と、構造物Aの応答波を検出する応答波用加速度センサ3と、入力波用加速度センサ5での検出データと応答波用加速度センサ3での検出データを集積管理するデータ集積装置7と、データ集積装置7との間でデータ送受信可能に接続された演算装置9と、を備えている。
【0020】
地震動による被災度の評価対象となる構造物Aは、図1に示されるように、例えば、地下フロアB及び1階から6階までの各フロア1F、2F、3F、4F、5F、6F及び屋上階Rを有する建築物である。応答波用加速度センサ3は、構造物Aの屋上階R及び4階フロア4Fに設けられている。このように、複数の応答波用加速度センサ3を設ける場合には、互いに近傍階にならないように設置するのが好ましい。入力波用加速度センサ5は、1階フロア1F、地下フロアBまたは構造物Aの近傍である地上面に設けられている。入力波用加速度センサ5は、第1の検出手段21に相当し、応答波用加速度センサ3は、第2の検出手段23に相当する。
【0021】
地下フロアBには、入力波用加速度センサ5及び応答波用加速度センサ3のそれぞれに接続されたデータ集積装置7が備え付けられている。データ集積装置7は、入力波用加速度センサ5から出力された検出データ及び応答波用加速度センサ3から出力された検出データを検出時刻に対応付けて管理し、それぞれ入力波に関するデータ、応答波に関するデータとして適宜、演算装置9に送信する。
【0022】
演算装置9は、CPU11、RAM13、ROM15、補助記憶装置17、出力装置19及び入力装置21を備える。さらに、振動特性検出システム1は、データ集積装置7に有線または無線にて通信可能に接続された通信装置24を備える。
【0023】
CPU11は、バス25を介してRAM13、ROM15、補助記憶装置17、出力装置19、入力装置21及び通信装置24とデータの入出力可能に接続されており、ROM15に記憶されたプログラムに従い作動して、演算装置9の動作制御を司る。特に、CPU11は、データ集積装置7から送信された入力波及び出力波に関するデータを通信装置24で受信すると、受信した入力波及び出力波に関するデータを補助記憶装置17に記録させる。補助記憶装置17は記録手段91(図2参照)として機能する。なお、RAM13に入力波及び出力波に関するデータを記録させて記録手段91として機能させることもできる。
【0024】
CPU11は、補助記憶装置17に記録された入力波及び応答波を所定時間、例えば1秒ごとのセグメントに分割する分割手段92と、分割手段92によって分割されたセグメントを同定(「システム同定」ともいう)してセグメントごとの振動特性を求め、その振動特性に基づいて振動特性履歴を求める履歴取得手段93として機能する。
【0025】
さらに、CPU11は、振動特性履歴におけるセグメントごとの振動特性のばらつき度合いを求めるばらつき度合取得手段94として機能する。ここで、CPU11は、振動特性履歴に基づいてセグメントごとの振動特性を2次元の平面上にプロットし、各プロット点から所定の信頼度の確率楕円を描き、その確率楕円の面積をばらつき度合いとして求める。そして、そのばらつき度合いを示すデータをディスプレイなどの出力装置19に出力する。出力装置19に表示されたデータに基づいて地震動を受けた構造物Aの被災度を評価することができる。
【0026】
次に、本発明に係る振動特性検出方法について説明する。図3は、振動特性検出方法の動作手順を示すフローチャートである。なお、図3では、ステップをSと略記している。
【0027】
地震が発生すると、第1の検出手段21では、構造物Aへの地震入力波が観測(検出)され、第2の検出手段23では、地震動を受けた構造物Aの応答波が観測(検出)される(ステップ1)。入力波は、構造物Aの1階、基礎部分または構造物A近傍の地表面での加速度を示す波である。応答波は、構造物Aの加速度、速度または変位を示す波である。
【0028】
第1の検出手段21及び第2の検出手段23で観測された観測データは、記録手段91に収録(記録)される(ステップ2)。その後、分割手段92は、観測データを所定時間ごとの複数のセグメント(小時間帯)に分割する(ステップ3)。
【0029】
その後、履歴取得手段93は、セグメントごとに固有振動数等の振動モード特性(以下「振動特性」という)を同定し、同定した振動特性に基づいて地震動を受けた構造物Aの振動特性履歴を求める(ステップ4)。振動特性の同定は、例えば差分方程式などを利用して求めることができる。
【0030】
地震動を受けた構造物Aは、1次振動モード、2次振動モード、3次振動モードといった複数の振動モードが複合した揺れを生じる。なお、振動モードとは、建築物が固有にもち、且つ地震などの特性に影響されない構造物の振動姿態である。
【0031】
振動モードそれぞれによって固有周期も変わる。また、振動モードそれぞれの固有周期は、構造物Aの高さによって有る程度特定できる。
【0032】
振動特性を同定する際には、振動モードの次数を特定し、特定した所定次数の振動モード(以下、「特定モード」という)での振動特性を同定する必要がある。セグメントごとに振動特性を同定する場合、セグメントの時間帯長さ(所定時間)は、特定モードの固有周期以上にする必要がある。特定モードの固有周期未満の場合には、特定モードでの振動特性を精度良く同定できず、例えば、固有周期を適切に評価できないからである。また、セグメントはデータが重ならないように選んでも、一部のデータが重なるように選んでも良い。なお、構造物Aが実際に揺れる場合、1次振動モードの影響が最も大きい傾向があるため、特定モードを1次振動モードにすることによって安定したデータの検出が可能になり、振動特性の同定を行い易くなる。
【0033】
セグメントごとに同定することで求められる振動特性は、例えば、固有振動数(または「固有周期」)、減衰比及び応答波観測位置のモード振幅(または「刺激関数」)などである。固有振動数、減衰比及びモード振幅は、剛性や減衰を同定する場合に比べて、同定が比較的容易であると共に、信頼性の高い値を求めることができる。特に、固有振動数は最も安定しているために好適である。
【0034】
なお、一般に、構造物Aは、受ける振動が大きいほど高い非線形挙動を示す。しかしながら、振動観測から構造物Aの振動特性を把握するシステム同定分野では、現時点において非線形システムの実用的な同定手法は提案されておらず、線形システムの同定法のみが確立されている。上記の方法によれば、分割した複数のセグメントにおける振動特性を同定して等価線形的に評価することができるために実用的にも有利であり、適切な非線形同定法が確立されていないという実用上の問題点を解決できる。
【0035】
図3に示されるように、セグメントごとの振動特性を同定して振動特性履歴を取得する(ステップ4)と、ばらつき度合取得手段94は、セグメントごとの固有振動数及び減衰比からばらつき度合いを求める(ステップ5)。ばらつき度合いとは、各値の不規則な分布度合いを示す。ばらつき度合取得手段94は、例えば、図6(c)に示されるように、横軸に固有振動数、縦軸に減衰比をとり、セグメントごとに同定した固有振動数と減衰比とをプロットする。さらに、各プロット点からある信頼性(図6(c)では95.6%)の確率楕円を描き、その確率楕円の面積を求める。本実施形態では、この確率楕円の面積がばらつき度合いを示す。確率楕円の面積が大きくなればなる程、セグメントごとの振動特性の変化が大きいことを意味し、構造物Aの被災度評価の判定に有効な指標になる。なお、固有振動数、減衰比及びモード振幅のいずれか一つを直線上にプロットし、プロットされた各点の総てが含まれる線分の長さを求め、その長さをばらつき度合いとすることもできる。
【0036】
地震動によって構造物Aが損傷すると、例えば、構造物Aの固有振動数が低くなり、減衰比が増加するという性質がある。すなわち、損傷が生じて振動の非線形性が高くなると、固有振動数や減衰比などの振動特性の変化が大きくなるため、確率楕円面積から振動特性のばらつき度合いを求めることで、振動特性の変化の大、小を容易に把握でき、被災度評価の判定精度の向上に有効である。
【0037】
上記の振動特性検出システム1及び振動特性検出方法によれば、地震動による構造物Aへの入力波及び応答波を所定時間ごとのセグメントに分割し、セグメントごとに振動特性を同定するため、非線形挙動を示す構造物の振動特性を分割取得した複数の等価線形的な振動特性によって把握できる。さらに、振動特性履歴から大変形時の時間や大変形時の振動特性の変化を求めることができる。その結果として、構造物Aの地震被災度の判定精度の向上に有効である構造物Aの振動特性を検出できる。さらに、構造物Aが実際に受けた地震動の入力波及び応答波を利用して構造物Aの振動特性を求めるため、地震の前後における振動特性を求めるための観測は不要であり、地震後の迅速な評価判定に有効である。
【0038】
また、上記の振動特性検出方法では、水平1方向について、最低1入力1出力の観測記録があれば適用可能である。そして、この2点観測によって被災度評価に有効な震動特性履歴を検出できるので、多数の振動計の設置は不要となり、経済的または実用的にも好適である。
【0039】
また、従来の方法では、構造物の振動モード形が必要であり、それを得るために設計モデルを利用したり、観測によって振動モード形を把握したりしている(非特許文献3または非特許文献4参照)。しかしながら、実構造物の振動特性は設計モデルとは異なり、観測によってモード形を把握するためには多数の計測が必要である。また、従来の方法では、構造物が損傷しても、構造物の振動モード形が変化しないことを仮定している。本実施形態によって取得した振動特性履歴によれば、そのような仮定は不要になり、構造物Aに被災度評価判定の精度が向上する。
【0040】
また、構造物Aが例え線形であっても、構造物Aの運動方程式モデルを構成する質量、剛性、減衰を直接同定することは実用上難しく、一方、固有振動数、減衰比などの振動特性を同定することは比較的容易であり、且つ信頼性は高い。本実施形態では、等価線形的に同定した固有振動数や減衰比を被災度の評価判定に利用するため、被災度の評価判定の信頼性を向上できて有効である。特に、本実施形態では、固有振動数だけに依存せず、減衰比などの複数の振動特性履歴の検出を行い、複数の振動特性を複合させたばらつき度合いが求められるため、それらの相関性を見ることで、同定非線形挙動を適切に評価でき、被災度評価の判定における信頬性を高めることができる。
【0041】
(振動台加振実験)
次に、図4〜図9を参照して、構造物Aの試験体Mを用いて行った振動台加振実験について説明する。図4は、試験体Mを示し、(a)は平面図、(b)は立面図である。
【0042】
図4に示されるように、試験体Mは、鉄骨造の6層縮小試験体であり、平面約4.6m×4.6m、高さ約6.6mで、直交2方向とも2スパンで構成されている。加振方向Fの中央フレーム1スパンには、偏心したK型筋交が全層に取り付けられている。総重量は48.6tで、2階が8.7t、屋上階が7.0t、その他の階が8.2tである。振動台ST上に入力波用の加速度センサS1が設置され、試験体Mの屋上階に応答波用の加速度センサS2が設置されている。試験体Mの固有振動数は強制振動の合間の自由振動実験から得られており、振動レベルによって若干異なるものの1次振動モードで3.0Hz弱である。この固有振動数は、試験体Mの被災度評価をする上での基準になる。
【0043】
振動台加振実験では、Taft波(1952年Kern County地震の際にTaftで観測された地震動のEW成分)に基き、振動台最大加速度を10段階に変えて10回の実験を行った。図5は、振動台STと試験体Mの屋上階との最大加速度の関係を示すグラフであり、各プロット点に付された番号は実験番号である。なお、実験番号は、以下の参考文献に従った。
【0044】
(参考文献)
A.S.Whittaker,C.-M.Uang and V.V.Bertero: Earthquake Simulation Tests and Associated Studiesof a 0.3-Scale Model of a Six-Story Eccentrically Braced Steel Structure, Earthquake Engineering Research Center Report No.UCB/EERC-87/02,University of California,1987.7
【0045】
図2に示されるように、大振幅領域で試験体Mの屋上階の応答が頭打ちとなり、非線形振動が一連の実験に含まれていることがわかる。この実験では、実験番号が大きくなるほど振動(振動台最大加速度)は大きいが、例外的に実験26の直前に加振の小さな実験25を行った。
【0046】
さらに、各実験での振動特性の同定には、振動台加速度(入力波)及び屋上階加速度(出力波)だけを用いた。さらに、試験体Mは約7mの高さであり、1次振動モードの固有周期は0.3秒程度と考えられるため、固有周期よりも長い1秒をセグメントの時間長さとした。すなわち、各実験では、観測データを1秒単位で分割して複数のセグメントを生成した。さらに、振動モードの次数を下げるために、1次振動モードでの同定前に観測波を透過振動数帯2.0〜4.0Hzのバンドパスフィルタに通した。
【0047】
まず、図6を参照し、実験26を例にして具体的に説明する。図6は、実験26の観測結果を示し、(a)は試験体の応答波、(b)は振動台の入力波、(c)は、実験26でのばらつき度合いを示す確率楕円と実験6でのばらつき度合いを示す確率楕円(基準確率楕円)とを比較して示す図である。実験26は、最も大きな振動を加えた実験である。実験26によって、図6(b)に示されるような入力波形が観測され、図6(a)に示されるような応答波形が観測された。
【0048】
入力波形及び応答波形を観測した後、これらの観測波形を1秒単位で分割して20個のセグメントを生成し、セグメントごとに固有振動数及び減衰比を取得した。さらに、図6(c)に示されるように、横軸に固有振動数、縦軸に減衰比をとった平面上に、セグメントごとの固有振動数及び減衰比を20個プロットした。なお、図6(c)の各点は、セグメントごとの固有振動数及び減衰比のプロット点である。さらに、20個総てのプロット点から信頼性95.6%の確率楕円E26を描いた。この確率楕円E26は図6(c)の破線で示している。
【0049】
図6(c)には、確率楕円E26の他に、基準となる確率楕円Eを実線で描いている。確率楕円Eは、実験6から求められたものである。実験6の確率楕円Eに比べて、実験26の確率楕円E26の面積は明らかに大きく、実験6に比べて実験26の方が、振動特性のばらつき度合いが大きいことを示している。実験後における試験体の検証結果から実験6では試験体Mに損傷は無かったが、実験26では試験体に大きな損傷があり、ばらつき度合いが大きい方が、地震動による被災度が大きいことを示している。
【0050】
次に、各実験に基づいた被災度評価について説明する。図7は、実験6、実験16、実験19、実験21、実験23、実験25及び実験26から取得された振動特性に基づいて描かれた確率楕円E、E16、E19、E21、E23、E25、E26をそれぞれ示しており、同定結果をモデル集合体として把握するためのグラフである。図7に示されるように、確率楕円の長軸が負の傾きをもつことは、固有振動数が低くなると減衰が増加する現象に対応している。
【0051】
また、図8は、試験体Mの屋上階最大加速度と、各実験における基準化した確率楕円面積との関係を示す図である。基準化した確率楕円面積(面積比)とは、各実験で求めた確率楕円の面積それぞれを、基準となる確率楕円Eの面積で除した値である。各実験後の検証結果から、実験16で塑性化し始めていることが確認された。塑性化するのは、主に偏心ブレースの取り付く梁のブレース間のパネル部であり、1層Maの塑性化が支配的である。図8に示されるように、基準化した確率楕円面積は塑性化とともに増加しており、同定した振動特性の変動(ばらつき度合い)と振動レベルとに密接な関係が認められる。
【0052】
なお、入力加速度が比較的大きな実験23(振動台最大加速度は570cm/s)の後に弾性域の小さな実験25が行われている(図5参照)。実験25を塑性化前の弾性域の実験6と比較すると全体的に若干の周期の伸びは認められるものの、確率楕円面積等の同定結果に大きな違いはない。これは、実験16〜実験23による塑性化の影響を、その前後の小さな振動弾性状態での観測から推測するのは難しいことを示唆している。すなわち、従来の方法(第3の方法)では、塑性化した試験体Mの正確な被災度評価は困難であることを間接的に示している。
【0053】
図9は、確率楕円面積が大きくなり始めた実験21の同定値(固有振動数及び減衰比)の軌跡を示す図である。プロット番号は同定開始時刻(s)である。また、図10は、主に塑性化している1層Ma(図4参照)の層せん断力−層間変位を1秒毎に示している。図9に示されるように、5秒〜10秒の時間帯で減衰比が大きく固有振動数が小さくなっており、これは図9(c)、図9(d)、図9(e)、図9(f)、図9(g)に示されるように、荷重−変形関係がループを描いている(塑性化している)時間帯と対応している。
【0054】
本発明は、上記の実施形態に限定されず、例えば、構造物は橋梁などであってもよい。また、第1の検出手段21及び第2の検出手段23は、1入力1出力の2点観測ができれば足りるため、最低限、それぞれ1台ずつであってもよい。さらに、第2の検出手段23は、構造物Aの低次振動モードを確実に捕らえることができるような配置とし、特定モードのモード振幅が大きくなる位置近傍が有効である。さらに、ビルなどの鉛直方向に長い構造物Aなどの場合には、上下方向の下側に第1の検出手段21を設置し、上側に第2の検出手段23を設置すると好適である。
【0055】
また、振動特性のばらつき度合いを取得する場合には、2次元または3次元の直交座標系で整理し、例えば、3次元の場合には球体で示して体積によってばらつき度合いを求めるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の実施形態に係る振動特性検出システムのハードウェア構成を示す図である。
【図2】本実施形態に係る振動特性検出システムの機能的構成を示す図である。
【図3】本発明の実施形態に係る振動特性検出方法の動作手順を示すフローチャートである。
【図4】振動台加振実験に用いられる試験体を示し、(a)は平面図、(b)は立面図である。
【図5】各実験で試験体に与えた振動台最大加速度と、建築物模型の屋上階最大加速度との相関関係を示すグラフである。
【図6】実験26の観測結果を示し、(a)は試験体の応答波、(b)は振動台の入力波、(c)は実験26でのばらつき度合いを示す確率楕円と実験6の基準確率楕円とを比較して示す図である。
【図7】各実験から取得された振動特性に基づいて描かれた確率楕円をそれぞれ示す図である。
【図8】試験体の屋上階の最大加速度と、各実験における基準化した確率楕円の面積との関係を示す図である。
【図9】確率楕円面積が大きくなり始めた実験21の同定値(固有振動数及び減衰比)の軌跡を示す図である。
【図10】主に塑性化している1層の層せん断力−層間変位を1秒毎に示している。
【符号の説明】
【0057】
1…振動特性検出システム、5…入力波用加速度センサ、21…第1の検出手段、3…応答波用加速度センサ、23…第2の検出手段、91…記録手段、92…分割手段、93…履歴取得手段、94…ばらつき度合取得手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地震動を受けた構造物の振動特性を検出する方法において、
前記地震動による前記構造物への入力波及び前記構造物の応答波を検出するステップと、
前記入力波及び前記応答波を所定時間ごとのセグメントに分割するステップと、
前記セグメントごとに同定した振動特性に基づいて、地震動を受けた前記構造物の振動特性履歴を求めることを特徴とする構造物の振動特性検出方法。
【請求項2】
前記振動特性は、固有振動数、減衰比及びモード振幅の少なくとも一つであることを特徴とする請求項1記載の振動特性検出方法。
【請求項3】
前記所定時間は、前記構造物に応じて特定される複数の振動モードの各固有周期うち、同定する前記振動モードの前記固有周期以上であることを特徴とする請求項1または2記載の振動特性検出方法。
【請求項4】
前記振動特性履歴における前記セグメントごとの前記振動特性のばらつき度合いを求めるステップを更に備えたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載の振動特性検出方法。
【請求項5】
地震動を受けた構造物の振動特性を検出する振動特性検出システムにおいて、
前記地震動による前記構造物への入力波を検出する第1の検出手段と、
前記地震動による前記構造物の応答波を検出する第2の検出手段と、
前記第1の検出手段で検出された前記入力波及び前記第2の検出手段によって検出された前記応答波を記録する記録手段と、
前記記録手段に記録された前記入力波及び前記応答波を所定時間ごとのセグメントに分割する分割手段と、
前記セグメントごとに同定して前記セグメントごとの振動特性を求め、前記セグメントごとの前記振動特性に基づいて、前記地震動を受けた前記構造物の振動特性履歴を求める履歴取得手段と、を備えることを特徴とする振動特性検出システム。
【請求項6】
前記振動特性履歴における前記セグメントごとの前記振動特性のばらつき度合いを求めるばらつき度合取得手段を更に備えたことを特徴とする請求項5記載の振動特性検出システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−8562(P2009−8562A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−170894(P2007−170894)
【出願日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【Fターム(参考)】