説明

構造物の損傷の診断システムおよび方法

【課題】構造体内部の変位、歪みなどをより容易に監視可能にする。
【解決手段】構造物の損傷の診断のため、構造体の監視対象箇所を挟む2点に複数の振動応答検出センサを設定し、参照点に参照応答検出センサを設置する。これらのセンサから入力した振動計測データから、固有振動の数Nの振動モードの各々において、n次モード(1≦n≦N)の相対モードシェイプと参照モードシェイプおよびn次モードの固有振動数を求め、それらから導出される評価値を算出し、現在の評価値の値と健全状態の評価値の値を基に損傷指標を評価する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物の健全性を監視し診断する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
構造物の健全性を監視し診断する技術は構造ヘルスモニタリング技術と呼ばれており、近年各分野で重要性が急激に高まっている。特に、耐用年数が近づきつつある社会基盤構造物の劣化による事故リスクや、地震による家屋の倒壊リスクを事前に評価可能な健全性監視システムの開発が急務になっている。損傷は局所的に発生するものであり、しかもできるだけ早期の発見が望ましいため、場所を特定でき、できるだけ小さなレベルの損傷に感度の高い方法が求められる。
【0003】
従来の1つの監視方式では、構造物の剛性低下による固有振動数の変化が監視される。固有振動数を評価するには任意の動的物理量を1点から数点で計測するだけよく、この方式はきわめてシンプルであるという長所がある。しかし、構造全体の特性が変化するような大きな損傷でないと検出できないうえに損傷箇所の特定が難しい。
【0004】
一方、構造物の部材中の亀裂などを個別に発見するための技術として、超音波などを用いる非破壊検査技術がある。定期的なオーバーホール検査など、供用を一時停止しての徹底的な検査が実施できる場合にはきわめて有効であり、航空機やプラントなどの検査に利用されている。しかし、専用の検査機器を必要とするうえに、一度に検査できる範囲がcmオーダーと非常に狭い。構造物の常時監視に用いるためには、これらをきわめて密に常時設置しておく必要があり、コストがかかりすぎて現実的でない。
【0005】
構造物の健全性を監視する現実的なシステムを構築するためには、損傷感度および空間解像度と計測コストをバランスさせる必要がある。このために、比較的安価なセンサを少数利用して対象構造物のクリティカルな部位(たとえばボルト継手や溶接継手など)ごとに健全性の評価を行う手法が提案されている。たとえば、特許文献1(特開2001−099760号公報)では、圧電インピーダンス法が利用されている。圧電インピーダンス法では、構造物表面に貼付した圧電素子のインピーダンスの変化によって圧電素子近傍の構造特性の変化を検出する。また、特許文献2(特開2000−131197号公報)では、2点に貼付した圧電素子間の伝達アドミッタンスを計測する手法が提案されている。
【0006】
また、圧電インピーダンス法に比べて損傷感度は劣るが少数の振動センサで局所的な損傷を検出可能な手法として、動的応答から構造物のフレキシビリティを算出する手法が提案され、現実的な損傷感度と計測コストを有する損傷評価法として有効性が指摘されている。発明者らはこれまでに、構造物の局所フレキシビリティに基づく損傷検出手法を提案してきた(非特許文献1)。局所フレキシビリティは、構造物上の2点に符号が逆の一対の単位荷重を作用させたときの2点間の相対変形量として定義され、局所化された健全性の指標として有効である。さらに非特許文献2では、はりなどの構造物の曲げ変形に対する局所フレキシビリティが角速度計測によって評価できることに注目し、角速度計測に基づく局所回転フレキシビリティの評価手法を提案している。
【特許文献1】特開2001−099760号公報
【特許文献2】特開2000−131197号公報
【特許文献3】特開11−281311号公報
【特許文献4】特開2000−283800号公報
【非特許文献1】増田新、森田紳也、曽根彰、時間周波数解析によるはり状構造物の損傷モニタリング、第8回「運動と振動の制御」シンポジウム講演論文集、pp.641-644、2003
【非特許文献2】A. Masuda, A. Sone and S. Morita, Continuous damage monitoring of civil structures using vibratory gyroscopes, Proceedings of SPIE, Vol. 5391, pp. 40-49, 2004
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述の圧電インピーダンス法に基づく方法(特許文献1、特許文献2)は、非破壊検査法に匹敵する損傷感度を有するものの、インピーダンス変化の物理的意味が捉えにくい。さらに、高感度の損傷評価を行うにはインピーダンス測定機器の精度が重要であり、また、温度変化などによる圧電素子の特性変化の補償が必要などの問題点がある。
【0008】
発明者らの提案した局所フレキシビリティの評価に基づく方法(非特許文献1、非特許文献2)は、評価指標の物理的意味が明確であり、センサの配置やセンサの種類によって様々な変形様式に対するフレキシビリティを評価できる。しかし計算のためには正規モードの正規化定数が必要であるため、構造物全体のモードシェイプと質量マトリクスを知る必要がある。このため、たとえ構造物の一ヵ所における局所フレキシビリティにのみ興味がある場合であっても、構造物全体の情報が必要である点が実用化に向けての障害であった。
【0009】
なお、本発明の実施形態では角速度計測を用いるが、その観点で先行技術調査をすると、以下の文献が見出された。特許文献3(特開11−281311号公報)では、角速度センサを用いて動歪を測定している。具体的には、2個の角速度センサを、コンクリートの内部に鉄骨が埋め込まれている構造体の表面に、曲げ方向の力を受けるように貼着する。そして、検出された角速度信号の計測値を積分して、2点間の相対角度を算出し、これを曲率の近似値として用いることで、はりの曲げ歪みを得る。本発明の実施形態でも2点に配置した角速度センサを用いるが、計測値から2点間の回転変形に関する剛性劣化を近似的に算出する点が異なる。また、特許文献4(特開2000−283800号公報)では、角速度センサを用いて地盤の1点の地学的変位を検出している。この方法では、地中に埋設される筒体内に角速度センサを固定し、各速度センサからの信号より地盤の変位を検出する。ここで、角速度から角度変位を求めるために積分操作を必要としており、センサのドリフトの影響を補正するために別途傾斜計を必要とするなど、複雑なシステムになっている。これに対し、本発明の実施形態は積分操作を必要としないため、角速度センサのドリフトの影響を受けることがなく、構造物上の2点間の回転変形に関する剛性劣化を評価できる。
【0010】
本発明の目的は、構造体内部の変位、歪みなどをより容易に監視可能にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る構造物の損傷の診断システムは、構造体の監視対象箇所を挟む2点x,xに設置した複数の振動応答検出センサおよび位置x,xとは異なる参照点xに設置した参照応答検出センサと、データ処理装置とからなる。データ処理装置は、前記振動応答検出センサおよび参照応答検出センサからから振動計測データを取得し、入力振動計測データから、固有振動の数Nの振動モードの各々において、n次モード(1≦n≦N)のモードシェイプから抽出した2点x,xの間の注目軸方向の相対変位量である相対モードシェイプΨ(x,x)、参照点xにおけるn次モードのモードシェイプの参照軸方向成分である参照モードシェイプφ(x,x)およびn次モードの固有振動数ωを求め、
下記の式
【数1】


で定義されるdを算出し、
下記の式
【数2】

(ここで添え字presentは現在の評価値を、添え字baselineは評価の基準となる健全状態における評価値を表す)で定義される損傷指標DIを評価することを含むデータ処理の少なくとも一部を実行する。
【0012】
前記診断システムにおいて、たとえば、前記参照点xが位置x,xの一方と同じ位置であり、前記複数の振動応答検出センサの1つが前記参照応答検出センサとして兼用される。また、前記診断システムにおいて、たとえば、前記振動応答検出センサは、角度、角速度または角加速度を検出するセンサである。または、前記診断システムにおいて、たとえば、前記振動応答検出センサは、変位、速度または加速度を検出するセンサである。また、前記診断システムにおいて、たとえば、前記参照応答検出センサは、変位、速度または加速度を検出するセンサである。または、前記参照応答検出センサは、角度、角速度、角加速度または歪みを検出するセンサである。
【0013】
前記診断システムは、好ましくは、さらに、複数の監視対象箇所ごとに設けられる前記データ処理装置からデータ処理結果を受け取るホストコンピュータを備える。たとえば、前記データ処理装置が、前記データ処理の一部を実行し、前記ホスト装置は前記データ処理装置から受け取ったデータ処理結果を基に、前記データ処理の残りの部分を実行する。また、好ましくは、前記データ処理装置と前記ホストコンピュータの間で振動計測に関するデータ(前記振動計測データ、データ処理の途中結果またはデータ処理結果)が無線で送信される。
【0014】
前記診断システムにおいて、前記データ処理装置は、たとえば、2点x,xにおける振動応答データの相対量(差)と参照応答データのクロススペクトルおよびパワースペクトルの比により前記dを求め、前記dの変化を非損傷時の基準ベクトルd(x、x)|baselineからの変動分のノルムで評価する。
【0015】
本発明に係る構造物の損傷の診断システムでは、(a)構造体の監視対象箇所を挟む2点x,xに設置した複数の振動応答検出センサおよび位置x,xとは異なる参照点xに設置した参照応答検出センサとから振動計測データを入力し、次に、(b)入力した振動計測データから、固有振動の数Nの振動モードの各々において、n次モード(1≦n≦N)のモードシェイプから抽出した2点x,xの間の注目軸方向の相対変位量である相対モードシェイプΨ(x,x)、参照点xにおけるn次モードのモードシェイプの参照軸方向成分である参照モードシェイプφ(x,x)およびn次モードの固有振動数ωを求め、(c)下記の式
【数3】


で定義されるdを算出し、(d)下記の式
【数4】

(ここで添え字presentは現在の評価値を、添え字baselineは評価の基準となる健全状態における評価値を表す)で定義される損傷指標DIを評価する。
【0016】
前記診断方法では、好ましくは、前記dを2点x,xにおける振動応答データの相対量(差)と参照応答データのクロススペクトルおよびパワースペクトルの比により求め、前記dの変化を非損傷時の基準ベクトルd(x,x)|baselineからの変動分のノルムで評価する。
【発明の効果】
【0017】
本発明では、振動モードの正規化を行わずに近似的に局所フレキシビリティを評価するので、対象部位の近傍に配置した少数のセンサによって、構造物の局所的なフレキシビリティ(たとえば回転剛性)の劣化を検出できる。興味のある対象部位ごとに独立に計測装置およびデータ処理装置を構成することができるため、構造物の規模やクリティカルな部位の個数に合わせて柔軟にシステムを構築できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、添付の図面を参照して発明の実施の形態を説明する。
【0019】
配管や橋梁など細長い形状の構造物や、骨組構造のジョイント部など、主に曲げ荷重に対する強度が問題となる構造部位は多い。このような部位に亀裂やボルト緩みなどの損傷が生じると、損傷箇所における曲げ剛性が低下し、単位荷重に対する変形量すなわちフレキシビリティが増加する。フレキシビリティは剛性行列の逆行列であり構造物の静的な特性であるが、正規モードシェイプと固有振動数を用いて展開表現できるため、動的応答からモード同定を経て求めることが可能である。このためフレキシビリティは大域的構造健全性の監視における健全性の指標としての有効性が指摘されている。
【0020】
発明者らはこれまでの研究で、構造物の局所フレキシビリティに基づく損傷検出手法を提案してきた(非特許文献1)。局所フレキシビリティは、構造物上の2点に符号が逆の一対の単位荷重を作用させたときの2点間の相対変形量として定義され局所化された健全性の指標として有効である。非特許文献2では、はりなどの構造物の曲げ変形に対する局所フレキシビリティが角速度計測によって評価できることに注目し、ジャイロセンサの利用を提案した。しかし、この損傷検出手法では、正規モードの正規化定数が必要であった。
【0021】
本発明では、局所フレキシビリティ指標LFIを直接評価するのではなく、モードの正規化を行わずに近似的に局所フレキシビリティを評価する実用的な方法を提供する。本発明によれば、対象部位の近傍に配置した少数のセンサによって、構造物の局所的な剛性の劣化を感度よく検出可能な損傷診断システムが提供される。興味のある対象部位ごとに独立に計測装置およびデータ処理装置を構成することができるため、構造物の規模やクリティカルな部位の個数に合わせて柔軟にシステムを構築できる。さらに、データ伝送を無線化することによって、より柔軟な損傷診断システムを提供できる。
【0022】
ここで、局所フレキシビリティの評価について説明する。本発明では、構造物の損傷によって生じる局所的な剛性の低下を、局所フレキシビリティ指標LFIの変化によって評価する。局所フレキシビリティ指標とは、式(1)で表されたものであり、構造物上の注目箇所(たとえば構造上重要なボルト継手、溶接継手など)に特定の様式の局所的変形を生じさせることを意図して負荷された特定の静的荷重パターンに対する変形量として定義される。すなわち、局所フレキシビリティ指標とは、特定の変形様式に対する構造の局所的な柔らかさを表す量であり、この量の増加は当該箇所における局所的な剛性の低下、すなわち損傷の発生を意味する。
【0023】
ここで、特定の静的荷重パターンとは、注目箇所を挟む2点x、xに印加される一対の静的な単位集中荷重であり、変形量とは、荷重の軸に平行な軸方向で評価した2点間の相対変形量である。単位集中荷重対の与え方を適切に選択することによって、様々な変形様式に対する局所フレキシビリティを評価できる。たとえば、2点間の引張変形に対する局所フレキシビリティを評価するためには、2点を結ぶ線分に平行で互いに向きが逆の単位集中力の対を採用すればよい。同様に、2点間のせん断変形に対する局所フレキシビリティを評価するためには、2点を結ぶ線分に垂直で互いに向きが逆の単位集中力の対を採用すればよい。
【0024】
また、荷重としてモーメントを考えることで、2点間の回転変形に関する局所フレキシビリティを評価することもできる。すなわち、2点を結ぶ線分に平行な軸まわりで互いに向きが逆の単位集中モーメントの対を採用することによって2点間のねじり変形に対する局所フレキシビリティを評価でき、2点を結ぶ線分に垂直な軸まわりで互いに向きが逆の単位集中モーメントの対を採用することによって2点間の曲げ変形に対する局所フレキシビリティを評価できる。特に、曲げ変形に関する局所フレキシビリティは、剛結合されたジョイントや梁状または板状構造物の損傷評価を行う際に有益である。
【0025】
上述の局所フレキシビリティ指標LFIは、構造物のモーダルパラメータを用いて次式(1)で定義される(非特許文献1,2参照)。
【数5】

ここで、Nは固有振動の数であり、固有振動の数Nの振動モードの各々において、cはn次モード(1≦n≦N)のモードシェイプを質量正規化するための、すなわちモード質量を1に正規化するための正規化定数であり、ωは固有振動数である。また、Ψ(x、x)はn次モードのモードシェイプから抽出した2点x,xの間の相対変形量であり、ここでは相対モードシェイプと呼んで次式(2)で定義する。
【数6】

ここでφ(x)はn次モードシェイプφ(x)から抽出した注目する軸方向の変形成分であり、引張変形やせん断変形などの並進変形に関する局所フレキシビリティ指標を評価する場合には、注目する力の方向と平行な軸方向成分をとり、ねじり変形や曲げ変形などの回転変形に関する局所フレキシビリティ指標を評価する場合には、注目するモーメント軸と平行な軸まわりの回転角をとる。
【0026】
ここで、局所フレキシビリティ指標LFIを定義している式(1)を次式(3)のように書き換える。
【数7】

ここで、右辺のaとdはそれぞれ次式(4)で定義される。
【数8】

ここで、φ(x)は参照点xにおけるモードシェイプの適切な参照軸方向成分であり、ここでは参照モードシェイプと呼ぶ。参照点xは一般には2点x、xと異なる第3の点であるが、2点x、xのいずれか一方と兼用できる場合もある。
【0027】
式(2)の右辺のうち、dは参照モードシェイプで規格化した相対モードシェイプと固有振動数とからなる量であり、点x、xにおける注目軸方向の振動計測データおよび参照点xにおける参照軸方向の振動計測データから、様々なモード同定の方法を用いて求めることができる。
【0028】
一方、aは参照モードシェイプを質量正規化したものからなる量であり、値を求めるためには正規化定数cを知らなければならない。しかし、cを求めるには、次のいずれかが必要である。
(a)構造物全体の高精度な数学モデル(有限要素モデルなど)、
(b)構造物全体の質量マトリクスおよび構造物全体を十分な空間密度で網羅した動的応答計測、
(c)構造物に対するアクティブな加振手段と加振力の計測手段並びに加振点における動的応答計測。
いずれをとるにしても、低コスト、柔軟で使いやすい損傷診断装置の実現を妨げてしまう。
【0029】
次に、評価方法の簡略化について説明する。式(3)の右辺は、N次元ベクトル空間の二つのベクトル{a,…,a}と{d,…,d}の内積になっている。このうち、{a,…,a}は各モードの参照モードシェイプを質量正規化したものからなるベクトルであり、正規化定数を含むため上述の通り求めることが難しいが、参照点および参照軸方向を適切に選ぶことにより、局所的な損傷によってほとんど変化しないベクトルと見なすことができる。これに対し、{d,…,d}は振動計測データからの算出が可能な量(固有振動数および質量正規化されていないモードシェイプ)からなるベクトルであり、また、局所的な損傷によって大きく変化するベクトルである。そこで、式(3)の局所フレキシビリティ指標LFI を直接評価するのではなく、ベクトル{d,…,d}の変化によってLFI の変化を近似的に評価する。ベクトル{d,…,d}の変化を評価するためには、ベクトルから一つまたは複数の特徴量を抽出すればよく、たとえば、ベクトルのノルムによる方法や内積による方法が考えられる。
【0030】
ここで、モードシェイプを同定するために、点xにおける加速度応答y(x,t)を参照応答として用いる。一般には、いかなる点のいかなる物理量を参照応答として選んでもよいが、後述の理由で、損傷の影響を受けにくい量を選ぶことが望ましい。場合によっては点xと点xのいずれかにおける角速度応答を参照応答として採用することも可能であり、その場合はセンサ個数を一つ減らすことができる。しかし、後で説明する実験装置では、健全時において点xと点xは水平運動のみを示すためいずれの角速度応答もほぼゼロとなってしまう。そのため、別途、水平方向の加速度応答を計測してこれを参照応答としている。なお、以下では点xにおける加速度応答を参照応答として用いる場合について説明するが、他の物理量を参照応答とする場合についても同様の議論が可能である。
【0031】
次に、ベクトル{d,…,d}の振動計測データからの算出方法およびベクトル{d,…,d}の変化の評価方法を以下に示す。ここで、
(1)ベクトル{d,…,d}を振動計測データから算出するための手段として、2点x,xにおける振動応答データの相対量(差)と参照応答データのクロススペクトルおよびパワースペクトルの比による方法を採用し、
(2)ベクトル{d,…,d}の変化を非損傷時の基準ベクトルからの変動分のノルムで評価する。
【0032】
モーダルパラメータの同定法としては様々な選択肢があり得るが、ここでは最も簡単な方法、すなわち定常ランダム応答のスペクトルのピーク値を読み取る方法を用いた。この手法では、一ヵ所の局所フレキシビリティを評価するのに対象部位の近傍に2個ないしは3個のセンサを設置するだけでよく、計測チャンネルは2チャンネルで事足りる。このため興味のある対象部位ごとに独立に計測系および演算系を構成することができるという利点がある。
【0033】
しかし、固有振動数及びモードシェイプの算出手段およびベクトル変化の評価方法はこれらに限るものではなく、任意のものが適宜選択できる。
【0034】
局所フレキシビリティ指標についてさらに説明する。n次モード座標系での運動方程式を次のように書く。
【数9】

ただしf(t)はモード外力であり、次式(6)で与えられる
【数10】

【0035】
ここで分布外力fは次式(7)のパワースペクトルS(x,y,ω)を持つ弱定常過程であるとする。
【数11】

【0036】
すると、2点x、xの間の相対角速度応答z(x,x,t)と参照応答y(xk,t)のクロススペクトルSxyは次式(8)のようになる。
【数12】

ここで、pは0から2までの整数であり、点x、xで変位または角度を計測する場合はp=0、速度または角速度を計測する場合はp=1、加速度または角加速度を計測する場合はp=2である。同様に、点xで変位または角度を計測する場合はq=0、 速度または角速度を計測する場合はq=1、加速度または角加速度を計測する場合はq=2である。右上付きの*は複素共役を表す。ここで、GおよびHは、以下のように表される。
【数13】

同様に、参照加速度応答y(x,t)のパワースペクトルSは次式(10)のようになる。
【数14】

【0037】
いま各モードの固有振動数が互いに離れており、モード減衰比が十分小さいとすると、n次固有振動数ωでは、n=mとn≠mの場合、それぞれ次式(11)の右辺の上下に示すようになる。
【数15】

よって、n次固有振動数ωでは、式(9)は次式(12)のようになる。
【数16】

【0038】
これと式(8)、式(10)より、次式(13)および式(14)を得る
【数17】

【数18】

【0039】
式(13)と式(14)の比をとると、
【数19】

となり、次式(16)を得る。
【数20】

【0040】
式(16)と式(3)、式(4)より、局所フレキシビリティ指標LFIの近似評価式(17)が導出される。
【数21】

【0041】
式(17)の右辺はN次元ベクトル空間の二つのベクトル{a,…,a}と{d,…,d}の内積になっている。このうちベクトル{a,…,a}は各モードの参照モードシェイプを質量正規化したものからなり、正規化定数を含むため上述の通り求めることが難しいが、参照点および参照軸方向を適切に選ぶことにより(すなわち、損傷の影響を受けにくい量を参照応答として選ぶことにより)、局所的な損傷によってほとんど変化しないベクトルと見なすことができる。一方、ベクトル{d,…,d}は、振動計測データからの算出が可能な量(固有振動数および質量正規化されていないモードシェイプ)からなり、局所的な損傷によって大きく変化する。そこでここでは、式(17)の局所フレキシビリティ指標LFIを直接に評価するのではなく、ベクトル{d,…,d}の変化によってLFIの変化を近似的に評価する。具体的には、ベクトル{d,…,d}の変化を非損傷時の基準ベクトルからの変動分のノルムで評価する。すなわち、損傷指標DI(i,j)を次式(18)のように定義し、この指標の値の変化によって損傷を検出する。
【数22】

ここで添え字presentは現在の評価値を、添え字baselineは評価の基準となる初期状態(または健全状態)における評価値を表す。
【0042】
次に、局所フレキシビリティ指標LFIの1例として、回転変形に対する局所フレキシビリティ指標LFIについて説明する。(以下の説明は、上述の一般的な説明と重複する箇所についても、繰り返して説明する。)局所フレキシビリティ指標LFIは、構造物上の2点xとxに印加された一対の静的な単位集中モーメント荷重に対する変形の相対回転角変位であり、構造物のモーダルパラメータを用いて式(31)で計算される。式(31)は以下のように導出される。
【0043】
n次モード座標系での運動方程式を次のように書く。
【数23】

ただしfn(t)はモード外力であり、次式(20)で与えられる
【数24】

【0044】
ここで分布外力fは次のパワースペクトルS(x,y,ω)を持つ弱定常過程であるとする。
【数25】

【0045】
角速度センサの設置点をx、xとし、参照加速度センサの接地点をxとする。すると、2点x、xの間の相対角速度応答z(x,x,t)と参照応答y(xk,t)のクロススペクトルSzyは次式(22)のようになる。
【数26】

ここで、右上付きの*は複素共役を表す。また、G,Hは以下のとおりである。
【数27】

同様に、参照加速度応答Sy(x,t)のパワースペクトルは次のようになる。
【数28】

【0046】
いま各モードの固有振動数が互いに離れており、モード減衰比が十分小さいとすると、n次固有振動数ωでは、n=mとn≠mの場合、式(25)の右辺の上下に示すようになる。
【数29】

【0047】
よって、n次固有振動数ωでは、G,Hは次式(26)になる。
【数30】

【0048】
これと式(22)、式(24)より、次式(27)および(28)を得る。
【数31】

【数32】

【0049】
式(27)と式(28)の比をとると、式(29)
【数33】

となり、次式(30)を得る。
【数34】

【0050】
式(30)と式(3)、式(4)より、局所フレキシビリティ指標LFIの近似評価式(31)が導出される。
【数35】

【0051】
上式(31)の右辺はN次元ベクトル空間の二つのベクトル{a,…,a}と{d,…,d}の内積になっている。このうちベクトル{a,…,a}は各モードの参照モードシェイプを質量正規化したものからなり、正規化定数を含むため上述の通り求めることが難しいが、参照点および参照軸方向を適切に選ぶことにより、局所的な損傷によってほとんど変化しないベクトルと見なすことができる。一方、ベクトル{d,…,d}は振動計測データからの算出が可能な量(固有振動数および質量正規化されていないモードシェイプ)からなり、局所的な損傷によって大きく変化する。そこで、式(31)のLFIを直接評価するのではなく、ベクトル{d,…,d}の変化によってLFIの変化を近似的に評価する。具体的には、ベクトル{d,…,d}の変化を非損傷時の基準ベクトルからの変動分のノルムで評価する。すなわち、損傷指標DIを次式(32)のように定義し、この指標の値の変化によって損傷を検出する。
【数36】

ここで添え字presentは現在の評価値を、添え字baselineは評価の基準となる初期状態(または健全状態)における評価値を表す。
【0052】
さらには、上述の損傷指数評価を並進変形に関するフレキシビリティの評価に用いることも可能である。その場合は、センサの計測量として変位、速度、加速度などを選択すればよい。
【0053】
図1に、本発明の1実施形態による損傷診断システムを示す。この診断システムは、監視対象部位(たとえば溶接またはボルトで結合されているジョイント)10を挟んで設置した2個の角速度センサユニット20、これらと有線で接続され監視対象部位の近傍に設置された1個の無線センサノード30および無線アクセスポイント42を持つ1台のホストコンピュータ40からなる。無線センサノード30は、データ処理結果を無線で送信し、無線アクセスポイント42は、無線センサノード30からデータ処理結果を受信する。無線インターフェース38(図2)を用いずに有線接続を用いてもよい。また、アクセスポイント42はホストコンピュータ40に直結されている必要はなく、LANなどを介して接続されていてもよい。
【0054】
図2は、この診断システムにおける信号処理系を概念的に示す。角速度センサユニット20に内蔵された角速度センサ(たとえばジャイロセンサ)22は設置点の角速度応答を計測し、その信号は増幅器24により増幅されて無線センサノード20に送られる。また、無線センサノード30に内蔵された加速度センサ32は参照データとして設置点の加速度応答を計測する。無線センサノード30では、これらの応答データはAD変換器34でデジタルデータに変換され、プロセッサ36はこれらのデジタルデータを信号処理して損傷指標DI(式(18))を算出する。プロセッサ36は、通常のコンピュータと同様の構成を備え、評価の基準となる健全状態における上述の評価値を記憶していて、図示しない記憶装置に格納されている損傷指標DI算出のための計算処理プログラムにより、入力データを処理して、損傷指標DIを算出する。得られた損傷指標DIは無線インターフェース38を介してホストコンピュータ40に送信され、適切な後処理を経てユーザに提示される。無線インターフェース38は任意のものが利用できる。
【0055】
図3は、無線センサノード30のプロセッサ36で行う信号処理のフローチャートである。健全状態のベクトル{d,…,d}は、以下の手順を用いて得られ、評価の基準となる健全状態における評価値として前もって記憶されている。まず、AD変換器34より各センサからの測定データを入力する(S10)。次に、固有振動数およびモードシェイプを求める。このため、相対角速度データと参照加速度データのFFT演算をし、相対角速度データと参照加速度データのクロススペクトルデータおよびパワースペクトルの比を求め、固有振動数とモードシェイプを求める(S12)。そして、固有振動数とモードシェイプを用いてベクトル{d,…,d}を計算する(S14)。さらに、ベクトル{d,…,d}の変化を非損傷時の基準ベクトルからの変動分のノルムで評価する(S16)。そして、損傷指標DIを求め(S18)、ホストコンピュータ40に送信する(S20)。
【0056】
この実施形態では、剛に結合されたジョイントにおける損傷を検出するために、曲げ変形に関する局所フレキシビリティ指標を評価している。このため、
(1)相対モードシェイプの取得用に角速度センサを2個、参照モードシェイプの取得用に加速度センサを1個使用し、
(2)ベクトル{d,…,d}を振動計測データから算出するための手段として、相対角速度データと参照加速度データのクロススペクトルおよびパワースペクトルの比を用いる。
しかし、対象箇所および評価する変形様式、センサ構成(計測量、配置および組み合わせ)、固有振動数及びモードシェイプの算出手段およびベクトル変化の評価方法はこれらに限るものではなく、任意のものが適宜選択できる。
【0057】
たとえば、センサの計測量として角速度ではなく角度や角加速度を利用してもよい。参照データとして加速度ではなく2点の角速度データのいずれか一方を用いることが可能な場合もあり、その場合はセンサ総数を2個にすることができる。固有振動数及びモードシェイプの算出手段としては、NEXT+ERA法や部分空間法などを用いてもよい。ベクトル変化の評価方法としては、非損傷時のベクトルとの内積を用いてもよいほか、さらに高度なパターン分類手法を用いてもよい。また、これらの信号処理は無線センサノード30内で行っているが、信号処理の一部または全てをホストコンピュータ40で行ってもよい。
【0058】
振動応答検出センサ(たとえば角速度センサ22)および参照応答検出センサ(たとえば加速度センサ32)からの計測データは、無線センサノード30およびホストコンピュータ40で処理されるが、図3に示したデータ処理手順では、損傷監視場所ごとに設置した無線センサノード30内のプロセッサにおいて損傷指標を算出し、その結果すなわち「損傷指標の値」をホストコンピュータ40に送信している。ホストコンピュータ40は、複数点での損傷指数をまとめて記録し、ユーザに提示する。しかし、無線センサノード30およびホストコンピュータ40におけるデータ処理については種々の形態が可能である。1例では、無線センサノード30では、計測データ取得までを行い、振動計測データを無線リンクで送信し、ホストコンピュータ40において、図3と同様なデータ処理手順を実行し損傷指標を評価する。他の例では、無線センサノード30では、図3のデータ処理手順の一部(たとえば、ベクトル{d}の算出まで)を行い、データ処理の途中結果を無線リンクでホストコンピュータ40に送信する。ホストコンピュータ40では、残りのデータ処理を実行して損傷指標を求める。そして、複数点での損傷指数をまとめて記録し、表示する。
【0059】
次に、損傷診断の1例について説明する。図4に示す4層せん断構造物模型を用いて実験を行った。図4において左側が立面図であり、右側が第1層から第3層での上面図である。模型は、直立した4枚のアルミ製薄板柱40(2mm厚、40mm幅)に最上層スラブ42を固定し、柱に等間隔に固定した支持ブロック44上に、第1層から第3層の中間層スラブ46a,46b,46cの四隅をそれぞれ4本のM6ボルト48で皿バネ座金を介して固定したものである。すべてのボルトを十分に締め付けた状態を健全状態と定義する。表1に示すように、損傷レベルは4つのボルトの緩め角で定義される。ボルトの番号1〜4は図4中に示されている。中間層スラブの四隅の内の3ヵ所について、ボルトを順次緩め(損傷レベル0〜3)、次に、中間層スラブの四隅の内の残りの1ヵ所について、固定ボルト48を10段階で緩めることで、スラブと柱の締結剛性を変えて損傷状態を作り出した。表1に損傷状態の定義を示す。表1において、緩め角は、完全締め付け状態からボルトを緩み方向に回した角度である。>1800は、5回転以上を意味し、完全に緩んだ状態に相当する。
【0060】
表1 損傷レベルの定義
【表1】

【0061】
実際に相対速度応答を広帯域で計測することは困難であるので、この測定では対象部位の両側の点xと点xに角速度センサの1種であるジャイロセンサ(図示しない)を一つずつ設置し、これらで計測した角速度応答の差z(x,x,t)から必要なモーダルパラメータを推定する。ジャイロセンサとしては小型で安価な振動ジャイロを使用する。振動ジャイロは上限50Hz程度の帯域を持つものが各種入手可能であるが、この測定ではAnalog Devices Inc.のADXRS401を使用した。このセンサの諸元を表2に示す。
【0062】
表2 ジャイロセンサの諸元
【表2】

【0063】
ジャイロセンサは、スラブ上に1個、支持ブロック上に1個、それぞれ検出軸が柱の曲げモーメントの作用軸方向と平行になる向きに取り付けた。さらに参照応答計測のための加速度センサ(ADXL311)(図示しない)を1個、検出軸がスラブの水平振動方向と平行になるよう取り付けた。
【0064】
構造物模型全体を水平振動台に設置し、定常ピンクノイズでアクチュエータを駆動して加振を行った。各センサでの応答計測値は、サンプリング周波数500Hz、データ長214個で、各実験条件につき2回ずつ収録した。データを1024個ずつのセグメントに分割し、それぞれのセグメントにハニング窓をかけたのち、ゼロを付加して長さを8倍に伸張したものを高速フーリエ変換した。これらを適切な組み合わせで掛け合わせてから全セグメントについて算術平均をとることによって、必要なパワースペクトルおよびクロスパワースペクトルを計算した。
【0065】
次に、実験結果について説明する。第1層から第3層のスラブ44a〜44cと支持ブロック42の締結節について、おのおの表1に示した損傷状態を設定して実験を行った。
【0066】
まず、図5a〜図5cに、加速度応答のパワースペクトルから読み取った固有振動数の各損傷状態における値を示す。図5a、図5bおよび図5cは、それぞれ、第1層から第3層の中間層スラブ44a,44b,44cでの固有振動数の変化を示す。健全状態(スラブと支持ブロックが4ヵ所で完全締結されている状態)と最もレベルの大きな損傷状態(スラブと支持プロックの締結節4ヵ所のうちの一つが完全に切れた状態)を比較しても、固有振動数の有意な変化は見られないことがわかる。
【0067】
次に、図6a〜図6cに、損傷指標を求めた結果を示す。損傷指標を計算する際には、健全時における1回目の試行から得られたベクトル{d,…,d}を{d,…,dbaselineとして採用した。図6a〜図6cで損傷レベル0(健全状態)にプロットされている損傷指標の値は、健全時における2回目の試行から得られた{d,…,d}を{d,…,dbaselineとして計算したものである。図6a〜図6cより、いずれの層を損傷させた場合も、損傷の進行にしたがって損傷指標が増加していることがわかる。
【0068】
さらに、損傷指標の推移は、(I)健全状態から損傷レベル3まで、(II)損傷レベル4、 (III)損傷レベル5以降、の3領域に分かれていることがわかる。(I)の領域での損傷指標の値は健全状態における値と同程度であり、これは、損傷の影響が、損傷指標のばらつきの範囲内にとどまっていることを意味している。すなわちこの領域の損傷レベルは検出することができない。損傷レベル3までの範囲ではボルト4が完全締結の状態のまま残っており、締結節の剛性は実質的にほとんど低下していないと考えられることから、この結果は妥当であると考えられる。(II)の領域に入ると損傷指標は急激に増加する。これは残り1本のボルト4が緩み始めるため、締結節の剛性が実質的に、低下し始めるためである。損傷指標の値はボルト4が半回転する間に急激に増大し、半回転以降(領域(III))はほぼ飽和して漸増する傾向が見られる。半回転以降はボルトの締め付け力がほとんど失われていると考えられる。
【0069】
今回の実験では、締結ボルトに皿バネ座金を併用するなどある程度の工夫を講じたにもかかわらず、損傷指標の増加が不連続的に急激に進展する結果となったので、損傷の検出限界を詳細に調べることができなかった。検出限界を調べるためには、実験装置をさらに工夫して損傷状態を連続に制御することが必要であると考えられる。
【0070】
以上に説明したように、せん断構造物模型を用いた実験では、スラブと柱の締結剛性の低下を検出することに成功した。この診断では、1ヵ所の局所フレキシビリティを評価するのに対象部位の近傍に2個ないしは3個のセンサを設置するだけでよく、興味のある対象部位ごとに独立に計測系および演算系を構成することができるという利点がある。このため無線センサネットワーク環境との相性がよく、将来的には無線センサネットワークシステムを利用した分散処理による構造ヘルスモニタリング手法としての発展が期待できる。
【0071】
また、図1に示す例では1箇所の損傷診断を行っているが、複数箇所の診断を行う場合には、図7に示すように、それぞれの箇所に角速度センサユニット及び無線センサノードを配置すればよい。診断のための装置および計算処理が対象部位ごとに互いに独立であるので、監視箇所の追加/削除が容易である。
【0072】
また、上述の損傷診断システムは、高層建築物や社会基盤構造物などの構造ヘルスモニタリング、個人住宅(木造住宅など)や各種施設の動的精密耐震診断、プラントの各種静止機器などのモニタリング、風力発電タービンブレード、ヘリコプターのロータなどの損傷モニタリング、航空宇宙構造物のヘルスモニタリングなど、さまざまな分野に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】損傷検出システムの図
【図2】データ処理系を示す図
【図3】信号処理プログラムのフローチャート
【図4】4層せん断構造物模型の図
【図5a】第1層での損傷レベルに対する固有振動のグラフ
【図5b】第2層での損傷レベルに対する固有振動のグラフ
【図5c】第3層での損傷レベルに対する固有振動のグラフ
【図6a】第1層での損傷レベルに対する損傷指標のグラフ
【図6b】第2層での損傷レベルに対する損傷指標のグラフ
【図6c】第3層での損傷レベルに対する損傷指標のグラフ
【図7】損傷検出システムの変形例の図
【符号の説明】
【0074】
20 角速度センサユニット、 22 角速度センサ、 30 無線センサノード、 32 加速度センサ、 36 プロセッサ、 40 ホストコンピュータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造体の監視対象箇所を挟む2点x,xに設置した複数の振動応答検出センサおよび位置x,xとは異なる参照点xに設置した参照応答検出センサと、
前記振動応答検出センサおよび参照応答検出センサから振動計測データを取得し、入力振動計測データから、固有振動の数Nの振動モードの各々において、n次モード(1≦n≦N)のモードシェイプから抽出した2点x,xの間の注目軸方向の相対変位量である相対モードシェイプΨ(x,x)、参照点xにおけるn次モードのモードシェイプの参照軸方向成分である参照モードシェイプφ(x,x)およびn次モードの固有振動数ωを求め、下記の式
【数1】

で定義されるdを算出し、下記の式
【数2】

(ここで添え字presentは現在のdの評価値を、添え字baselineは評価の基準となる健全状態におけるdの評価値を表す)で定義される損傷指標DIを評価することを含むデータ処理の少なくとも一部を実行するデータ処理装置と
からなる構造物の損傷の診断システム。
【請求項2】
前記参照点xが位置x,xの一方と同じ位置であり、前記複数の振動応答検出センサの1つが前記参照応答検出センサとして兼用されることを特徴とする請求項1に記載された診断システム。
【請求項3】
前記振動応答検出センサが、角度、角速度または角加速度を検出するセンサであることを特徴とする請求項1または2に記載された診断システム。
【請求項4】
前記振動応答検出センサが、変位、速度または加速度を検出するセンサであることを特徴とする請求項1または2に記載された診断システム。
【請求項5】
前記参照応答検出センサが、変位、速度または加速度を検出するセンサであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載された診断システム。
【請求項6】
前記参照応答検出センサが、角度、角速度、角加速度または歪みを検出するセンサであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載された診断システム。
【請求項7】
さらに、複数の監視対象箇所ごとに設けられる前記データ処理装置からデータ処理結果を受け取るホストコンピュータを備えることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載された診断システム。
【請求項8】
前記データ処理装置が、前記データ処理の一部を実行するデータ処理装置であり、前記ホスト装置は前記データ処理装置から受け取ったデータ処理結果を基に、前記データ処理の残りの部分を実行することを特徴とする請求項7に記載された診断システム。
【請求項9】
前記データ処理装置と前記ホストコンピュータの間でデータが無線で送信されることを特徴とする請求項7または8に記載された診断システム。
【請求項10】
前記データ処理装置は、2点x,xにおける振動応答データの相対量(差)と参照応答データのクロススペクトルおよびパワースペクトルの比により前記dを求め、前記dの変化を非損傷時の基準ベクトルd(x、x)|baselineからの変動分のノルムで評価することを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載された診断システム。
【請求項11】
構造体の監視対象箇所を挟む2点x,xに設置した複数の振動応答検出センサおよび位置x,xとは異なる参照点xに設置した参照応答検出センサとから振動計測データを取得し、
入力振動計測データから、固有振動の数Nの振動モードの各々において、n次モード(1≦n≦N)のモードシェイプから抽出した2点x,xの間の注目軸方向の相対変位量である相対モードシェイプΨ(x,x)、参照点xにおけるn次モードのモードシェイプの参照軸方向成分である参照モードシェイプφ(x,x)およびn次モードの固有振動数ωを求め、
下記の式
【数3】


で定義されるdを算出し、
下記の式
【数4】

(ここで添え字presentは現在のdの評価値を、添え字baselineは評価の基準となる健全状態におけるdの評価値を表す)で定義される損傷指標DIを評価する
構造物の損傷の診断方法。
【請求項12】
前記dを2点x,xにおける振動応答データの相対量(差)と参照応答データのクロススペクトルおよびパワースペクトルの比により求め、
前記dの変化を非損傷時の基準ベクトルd(x,x)|baselineからの変動分のノルムで評価することを特徴とする請求項9に記載された診断方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5a】
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【図5b】
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【図5c】
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【図6a】
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【図6b】
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【図6c】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−134182(P2008−134182A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−321706(P2006−321706)
【出願日】平成18年11月29日(2006.11.29)
【出願人】(504255685)国立大学法人京都工芸繊維大学 (203)
【Fターム(参考)】