説明

構造物の支持構造および支持工法

【課題】 高い免震性能を発揮することができるとともに、地盤の液状化を防止することにより、構造物の沈下や傾斜を防止することができる構造物の支持構造および支持工法を提供する。
【解決手段】 構造物1の下方における地盤Gを囲む耐圧壁2が地盤G中に設けられている。この耐圧壁2に囲まれた領域が、圧縮空気が注入されることによって空気圧が増加するとともに、地下水位が低下させられ圧気ゾーンXとされている。圧気ゾーンXの下方の支持層G2には、永久地盤アンカー6が埋設されており、永久地盤アンカー6の直上には油圧ジャッキ7が設けられている。これらの永久地盤アンカー6と油圧ジャッキ7との間にストランド8が掛け渡されている。このストランド8によって、圧気ゾーンXにおける空気圧が上昇した際に、構造物の浮遊を防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物の支持構造および支持工法に係り、特に、地盤の液状化を防止するとともに、高い免震性能を備える構造物の支持構造および支持工法に関する。
【背景技術】
【0002】
地盤の液状化を防止する技術として、従来、地中壁に囲まれた区画の地盤を加圧して地下水位を低下させ、各区画内の地盤に地盤固化剤を注入して地下水が地盤に浸入することを防止した液状化防止工法がある(たとえば、特許文献1参照)。この液状化防止工法では、止水層の形成や揚水の必要性がないことから、容易に施工を行うことができる。
【0003】
また、他の液状化防止方法として、地上から空気を圧送する配管を地盤内に配設し、地盤の地表部に気密性材料を覆設し、地下水を揚水すると同時に地盤内の周辺域をほぼ真空状態にして空気を地盤内に送気した後、自然地下水位まで地下水を復水する方法がある(たとえば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−158049号公報
【特許文献2】特開2007−239405号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、構造物が構築された地盤においては、構造物の沈下や傾斜を防止するために、液状化防止処理が行われることがある。このような構造物が構築された地盤において、上記特許文献1に開示された液状化防止工法を用いることが考えられる。ところが上記特許文献1に開示された液状化防止工法を用いたとすると、地盤上の構造物が浮遊してしまい、安定した状態を維持することが困難となる可能性があるという問題があった。
【0006】
他方、地盤上に構築される構造物に対しては、近年、地震に対する免震性能が要求されている。液状化防止処理が施された地盤に構築された構造物に対しても、このような免震性能を高めることが求められている。
【0007】
そこで、本発明の課題は、高い免震性能を発揮することができるとともに、地盤の液状化を防止することにより、構造物の沈下や傾斜を防止することができる構造物の支持構造および支持工法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決した本発明に係る地盤の構造物の支持構造は、構造物の下方における地盤を囲む耐圧壁が地盤中に設けられ、地盤中における耐圧壁に囲まれた領域が、圧縮空気が注入されることによって空気圧が増加するとともに、地下水位が低下させられる加圧領域とされており、加圧領域における空気圧が上昇した際に、構造物の浮遊を防止する浮遊防止構造が形成されていることを特徴とする。
【0009】
本発明に係る構造物の支持構造においては、地盤中における耐圧壁に囲まれた領域が、圧縮空気が注入されることによって空気圧が増加する加圧領域とされており、構造物がいわば浮いた状態となる。このため、構造物と構造物を支持する地盤との間の接地圧が減少して滑りが生じ易くなり、地震入力が低下する。したがって、高い免震性能を発揮することができる。また、加圧領域は、空気圧が増加することによって地下水位が低下させられている。このため、地盤の液状化を防止することにより、構造物の沈下や傾斜を防止することができる。さらに、加圧領域の圧力を構造物の自重以上とした場合、構造物が浮遊した状態となり、垂直位置が制御されない状態となっている。この点、本発明に係る構造物の支持構造では、加圧領域における空気圧が上昇した際に、構造物の浮遊を防止する浮遊防止構造が形成されている。このため、構造物の水平方向への移動を抑止することによって構造物が浮揚した状態となり、構造物の浮遊を防止することができる。なお、本明細書中「浮遊」および「浮揚」は、いずれも浮いた状態を意味するが、「浮遊」は、垂直位置が制御されない状態、「浮揚」は、垂直位置が制御された状態をいう。また、浮揚状態は地震の振動をもっとも好適に吸収する構造となる。
【0010】
ここで、浮遊防止構造は、構造物の下方における地盤の支持層に埋設されたアンカー部材と、構造物に設けられた反力部材とを備えるとともに、アンカー部材と反力部材とを接続する接続部材を備える態様とすることができる。
【0011】
このように、構造物の下方における地盤の支持層に埋設されたアンカー部材と、構造物に設けられた反力部材とを接続部材によって接続することにより、構造物の浮遊防止構造を容易に形成することができる。
【0012】
また、加圧領域に注入される圧縮空気の注入量を調整し、加圧領域の空気圧を調整するコンプレッサと、浮遊防止構造における浮遊防止力を調整する浮遊防止力調整手段と、をさらに備える態様とすることができる。
【0013】
このように、加圧領域の空気圧を調整するコンプレッサと、浮遊防止構造における浮遊防止力を調整する浮遊防止力調整手段とを備えることにより、地震による振動が構造物に作用した場合に、構造物に作用する振動を効率よく低減させることができる。ここでのコンプレッサとしては、調圧弁とバッファタンクを付属しているものを用いることもできる。
【0014】
さらに、加圧領域に対する圧縮空気が注入されて加圧領域が圧縮空気注入状態とされ、構造物が加圧領域における地盤および圧縮空気によって支持されており、構造物の周囲に発生する地震が検出された際に、浮遊防止力調整手段は、浮遊防止構造における浮遊防止力を緩和する態様とすることができる。
【0015】
本実施形態に係る構造物の支持構造では、常時は加圧領域に対する圧縮空気が注入されて加圧領域が圧縮空気注入状態とされ、構造物が加圧領域における地盤および圧縮空気によって支持されている。このため、確実に構造物を支持することができる。また、構造物の周囲に発生する地震が検出された際に、浮遊防止構造における浮遊防止力を緩和する。浮遊防止構造における浮遊防止力を緩和することにより、接地圧が低下し、免震性能が向上するので、地震が発生した際の構造物に対する免震性能を高くすることができる。
【0016】
また、加圧領域に対する圧縮空気が注入されて加圧領域が圧縮空気注入状態とされ、構造物が加圧領域における地盤に対して浮揚する浮揚状態とされており、構造物に対する風荷重が所定のしきい値以上となった場合に、浮遊防止力調整手段は、浮遊防止構造による浮遊防止力を大きくする態様とすることができる。
【0017】
本実施形態に係る構造物の支持構造では、常時は加圧領域に対する圧縮空気が注入されて加圧領域が圧縮空気注入状態とされ、構造物が加圧領域における地盤から浮揚する浮揚状態で支持されている。また、構造物に対する風荷重が所定のしきい値以上となった場合に、浮遊防止構造による浮遊防止力を大きくする。あるいは、空気圧を低下させる。浮遊防止構造における浮遊防止力を大きくすることにより、接地圧が増加して風荷重に対する耐力が向上するので、構造物に強風が吹き付けた際の構造物の滑りを防止することができる。
【0018】
さらに、加圧領域に対する圧縮空気が非注入とされて加圧領域が圧縮空気非注入状態とされ、構造物が加圧領域における地盤によって支持されており、地震検出手段によって地震が検出された際に、コンプレッサは加圧領域に圧縮空気を注入するとともに、浮遊防止力調整手段は浮遊防止構造による浮遊防止力を緩和する態様とすることができる。
【0019】
本実施形態に係る構造物の支持構造では、常時は加圧領域に対する圧縮空気が非注入とされて加圧領域が圧縮空気非注入状態とされ、構造物が加圧領域における地盤によって支持されている。ここで、構造物の周囲に発生する地震が検出された際に、圧縮空気を注入することにより、接地圧が低下し、免震性能が向上するので、地震が発生した際の構造物に対する免震性能を付与することができる。
【0020】
他方、上記課題を解決した本発明に係る構造物の支持工法は、構造物の下方における地盤を囲む耐圧壁を地盤中に設け、地盤中における耐圧壁に囲まれた領域が、圧縮空気が注入されることによって空気圧が上昇するとともに、地下水位が低下させられる加圧領域とされており、加圧領域における空気圧が上昇した際に、構造物の浮遊を防止する浮遊防止構造を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る構造物の支持構造および支持工法によれば、高い免震性能を発揮することができるとともに、地盤の液状化を防止することにより、構造物の沈下や傾斜を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施形態に係る構造物の支持構造の側断面図である。
【図2】圧縮空気を注入する前の構造物の支持構造の側断面図である。
【図3】圧縮空気を注入した後の構造物の支持構造の側断面図である。
【図4】浮揚状態となった後の構造物の支持構造の側断面図である。
【図5】変形例に係る構造物の支持構造の側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。なお、各実施形態において、同一の機能を有する部分については同一の符号を付し、重複する説明は省略することがある。
【0024】
図1は、本実施形態に係る地盤の構造物の支持構造の側面図である。図1に示すように、本実施形態に係る構造物の支持構造では、地盤Gに構造物1が構築されている。地盤Gは、上層の軟弱層G1および下層の支持層G2を備えている。軟弱層G1は、N値が小さく、強度が低い土層であり、支持層G2はN値が大きく、強度が高い土層である。また、構造物1は、複数の柱11や梁12を備えるとともに、床板13を備えている。
【0025】
構造物1が構築された地盤における構造物1を囲む位置には、耐圧壁2が設けられている。耐圧壁2は、ソイルモルタルの周囲にシートパイルが取り付けられた態様で形成されている。耐圧壁2は、地盤Gの表層から打ち込まれ、軟弱層G1を超えて支持層G2にまで到達している。
【0026】
また、軟弱層G1における深さ方向略中央位置では、構造物1の下端部と耐圧壁2との間にシールシート3が設けられている。シールシート3は、耐圧壁2の内側における上方と下方との間を仕切っている。このシールシート3により、上方と下方との間における地下水や土中空気の流通が遮断されている。こうして、耐圧壁2の内側におけるシールシート3の下方では、気密性および水密性が保たれている。
【0027】
また、構造物1には、コンプレッサ4が設けられている。構造物1の下方において耐圧壁2に囲まれた領域とコンプレッサ4との間は、空気注入管5によって接続されている。コンプレッサ4を作動させると、空気注入管5を介して構造物1の下方において耐圧壁2に囲まれた領域に圧縮空気が注入され、高圧とされた本発明の加圧領域(以下「圧気ゾーン」という)Xが形成される。コンプレッサ4としては、バッファタンクが設けられているものが好適に用いられる。バッファタンクが設けられていることにより、空気圧の調整を容易に行うことができる。
【0028】
さらに、圧気ゾーンXの下方における支持層G2には、複数の永久地盤アンカー6が平面視して縦横に並んだ状態で埋設されている。また、構造物1には、反力部材となる油圧ジャッキ7が設けられている。油圧ジャッキ7は、構造物1の柱部分に設けられ、永久地盤アンカー6の数と同数のものが設けられている。複数の永久地盤アンカー6と油圧ジャッキ7との間には、それぞれストランド(ワイヤー)8が掛け渡されている。こうして、構造物1は、ストランド8を介して永久地盤アンカー6に繋留され、水平方向への移動が抑制されて、浮揚状態にある構造物1が浮遊状態となることを防止している。これらの永久地盤アンカー6、油圧ジャッキ7、およびストランド8によって鉛直方向位置決め構造であり、本発明の浮遊防止構造が構成される。
【0029】
また、油圧ジャッキ7には、油圧ポンプ9が接続されている。この油圧ポンプ9によって油圧ジャッキ7が作動可能とされている。また、油圧ジャッキ7および油圧ポンプ9には、それぞれ調圧弁が設けられている。油圧ジャッキ7が作動すると、ストランド8の引張または開放されて、永久地盤アンカー6と油圧ジャッキ7との間におけるストランド8の引張長さおよび張力の調整が可能とされている。また、ストランド8の引張長さと圧気ゾーンX内の気圧との関係によって、構造物1の浮遊防止力が調整される。油圧ポンプ9は、本発明の浮遊防止力調整手段および浮遊防止力制御手段を構成する。
【0030】
圧気ゾーンXに圧縮空気が注入されることにより、構造物1は、圧気ゾーンXから浮揚した状態となる。この永久地盤アンカー6と油圧ジャッキ7との間に掛け渡されたストランド8によって、構造物1の上方への移動が抑制されている。また、油圧ポンプ9によって油圧ジャッキ7によるストランド8の張力の調整を行うことにより、ストランド8による構造物1の浮遊抑制力が調整される。
【0031】
構造物1は、圧気ゾーンXに対する圧縮空気の注入量(圧気ゾーンX内の気圧)と、ストランド8による浮遊抑止力との関係により、接地状態と浮揚状態とされる。また、接地状態としては、圧気ゾーンX内の気圧が低くされた高接地圧状態と、圧気ゾーンX内の気圧が高くされた低接地圧状態とがある。これらの高接地圧状態、低接地圧状態、および浮揚状態については後に詳しく説明する。
【0032】
さらに、構造物1におけるストランド8が貫通する部位の直下には、ラッパ管10が設けられている。ラッパ管10は、大径開口部と小径開口部とを備えており、大径開口部が上方に配置され、小径開口部が下方に配置されている。大径開口部および小径開口部にストランド8が挿通されている。このラッパ管10により、構造物1が左右に振動する際のストランド8のせん断が防止されている。また、構造物が水平移動した場合には、ストランド8の傾斜角を適正に与えることによって、復元力を付与する。
【0033】
次に、本実施形態に係る構造物の支持構造の施工手順について説明する。本実施形態に係る構造物の支持構造を施工するにあたり、まず、構造物1を施工する領域の周囲に耐圧壁2を構築する。この耐圧壁2の構築と同時に、構造物1を施工する領域の下方位置に、永久地盤アンカー6を打設する。
【0034】
耐圧壁2の構築および永久地盤アンカー6の打設が済んだら、耐圧壁2の内側をある程度深さまで掘削し、基礎などを施工した後に構造物1を構築する。このとき、永久地盤アンカー6からは、ストランド8を上方に延び出した状態としておく。また、構造物1を構築する際に、構造物1に油圧ジャッキ7を設け、この油圧ジャッキ7にストランド8を接続する。それから、油圧ジャッキ7によってストランド8を引張することによって、ストランド8を調節する。
【0035】
構造物1の構築を行っている際、構造物1の下方領域の構築が済んだころに、構造物1の下端部と耐圧壁2との間にシールシート3を設ける。シールシート3が設けられていることにより、構造物1の下方において耐圧壁2に囲まれた圧気ゾーンXが気密状態および水密状態とされる。
【0036】
その後、構造物1の構築が完了することにより、構造物1の支持構造が完成する。本実施形態に係る構造物1の支持構造では、その支持状態として、低接地圧状態と高接地圧状態と浮揚状態とがある。このうち、低接地圧状態および高接地圧状態では、構造物1が実質的に地盤に接地しており、浮揚状態では構造物1が実質的に地盤から浮揚している。ここで構造物1の構築が完了した状態では、圧気ゾーンXには、未だ圧縮空気が注入されておらず、構造物1は地盤に接地しているので、高接地圧状態となっている。
【0037】
その後、コンプレッサ4によって圧気ゾーンXに圧縮空気が注入される。圧気ゾーンXに空気が注入されることにより、圧気ゾーンXの気圧が高くなり、圧気ゾーンXにおける地下水が支持層G2に追いやられる。このため、耐圧壁2に囲まれた領域の第2地下水位H2は、耐圧壁2の外側における第1地下水位H1よりも深く、圧気ゾーンXよりも下方位置となる。このとき、圧気ゾーンXの気圧の上昇に伴い、構造物1には浮揚方向への力が生じるが、ストランド8の浮遊抑止力によって、構造物1の浮遊が抑止されている。こうして、構造物1の接地状態が維持され、低接地圧状態が形成される。
【0038】
さらに、低接地圧状態から、油圧ジャッキ7によってストランド8の張力を緩めるようにすると、圧気ゾーンXの気圧によって構造物1に対して浮揚力が発生し、構造物1が地盤から浮揚する。このとき、構造物1の支持状態は浮揚状態となる。構造物1は、浮揚状態にある際には、ストランド8の張力によって浮遊状態となることが抑制されている。
【0039】
次に、本実施形態に係る構造物の支持構造における支持のメカニズムおよび免震メカニズムについて説明する。本実施形態に係る構造物の支持構造では、圧気ゾーンXへの圧縮空気の注入量(圧気ゾーンX内の気圧)と、ストランド8の張力調整による浮遊抑制力によって、構造物1の支持状態が調整される。
【0040】
構造物1の支持状態には、接地状態と浮揚状態とがあり、さらに、高接地圧状態と低接地圧状態とがある。高接地圧状態では、圧気ゾーンXに注入される圧縮空気の注入量が少なく、圧気ゾーンXの気圧が低くされている。また、低接地圧状態では、圧気ゾーンXに注入される圧縮空気の注入量が多く、圧気ゾーンXの気圧が高くされている。他方、浮揚状態では、圧気ゾーンXに注入される圧縮空気の注入量が多く、圧気ゾーンXの気圧が高くされている。また、低接地圧状態では、ストランド8による構造物1の浮遊抑止力が大きくされており、浮揚状態では、ストランド8による構造物1の浮遊抑止力が小さくされている。
【0041】
以下に、これらの高接地圧状態、低接地圧状態、および浮揚状態のそれぞれの状態における構造物1の支持のメカニズムについて説明する。
【0042】
〔高接地圧状態〕
圧気ゾーンXに圧縮空気が注入されていない状態である高接地圧状態では、図2に示すように、コンプレッサ4による圧縮空気の注入が行われておらず、または空気圧の注入量が少量であって圧気ゾーン自体がほとんど存在しない状態となっている。このとき、構造物1の建物重量W、地震が発生した際に構造物1に働く慣性力である地震時慣性力I、地盤Rから受ける構造物1に対する反力である地盤反力R、地盤と構造物1との間の摩擦力Fの関係について説明する。
【0043】
高接地圧状態では、建物重量Wと地盤反力Rとは同一で吊り合っている。また、摩擦力Fの最大値F1maxは、下記(1)式で表される。
【0044】
1max=μR ・・・(1)
ここで、μ:摩擦係数
【0045】
このように、高接地圧状態で地震が発生した際には、摩擦力Fの最大値F1max(=μR)までの水平力が構造物1に入力されることになる。なお、摩擦係数μは、砂地盤の場合、0.5程度となる。
【0046】
〔低接地圧状態〕
次に、圧気ゾーンXに圧縮空気が注入されるとともに、接地状態となっている低接地圧状態について説明する。低接地圧状態では、図3に示すように、コンプレッサ4によって圧気ゾーンXに圧縮空気が注入されている。圧気ゾーンXに空気が注入されることから、圧気ゾーンX内は高圧となる。このとき、圧気ゾーンXは、耐圧壁2の側面と構造物1の底面、さらには、シールシート3によって囲まれている。
【0047】
このため、圧気ゾーンXの気圧によって、耐圧壁2内の地下水は低下させられる。こうして、耐圧壁2内の地下水位は、耐圧壁2の外側の地下水位である第1地下水位H1よりも低い第2地下水位H2となる。そして、圧気ゾーンXの地下水位が低下することから、圧気ゾーンX内の地下水が排出され、圧気ゾーンXが非液状化層を形成することとなる。
【0048】
低接地圧状態では、構造物1の建物重量W、地盤Rから受ける構造物1に対する反力である地盤反力R、圧気ゾーンX内の気圧であるゾーン内気圧A、圧気ゾーンXの底面積S、およびストランド8による構造物1の浮遊抑止力Tの関係は、下記(2)式で表される。
【0049】
W=R+A・S−T ・・・(2)
上記(2)式から分かるように、低接地圧状態では、構造物1の建物重量Wを地盤と圧気ゾーンX内の空気によって支えている。ここで、地盤反力Rとゾーン内気圧Aとの比は、コンプレッサ4による圧気ゾーンX内の気圧調整および浮遊抑止力の調整によって制御することができる。圧気ゾーンXでは、耐圧壁2内における地下水位である第2地下水位H2の水頭の高さ位置が変動するによって、圧気ゾーンX内における気圧と地下水による水圧とがバランスすることとなる。
【0050】
低接地圧状態では、上記(2)式を変形して地盤反力Rは、W−A・S+Tとなる。このため、地盤反力Rを小さくするほど、地震時の水平力の構造物1に対する入力は小さくなり、免震効果が大きくなる。つまり、摩擦力F=μRであることから、摩擦力Fが小さくなり、構造物1に対する入力が、摩擦力Fの最大値を超えると、構造物1は、地盤G上を滑ることとなる。この構造物1の地盤G上の滑りにより、地震の震動エネルギーが遮断される。
【0051】
ここで、地盤反力Rを構造物1の建物重量Wの20%以下に収めることにより、圧気ゾーンXにおいて十分な免震効果を発揮することができる。さらには、永久地盤アンカー6の上部において、油圧ジャッキ7の油圧を油圧ポンプ9によって制御することにより、構造物1の接地圧を高精度かつ迅速に制御することができる。
【0052】
さらには、低接地圧状態のときに油圧ジャッキ7をストロークして、永久地盤アンカー6と油圧ジャッキ7との間のストランド8の長さを長くすることにより、低接地圧状態から浮揚状態に迅速に移動させることができる。その逆に、浮揚状態のときに油圧ジャッキ7をストロークして、永久地盤アンカー6と油圧ジャッキ7との間のストランド8の長さを短くすることにより、浮揚状態から低接地圧状態に迅速に移動させることができる。
【0053】
また、地震発生時に構造物1が地盤Gに対して滑りが生じると、ストランド8が左右に揺れることとなる。このとき、構造物1におけるストランド8が貫通する部位の直下には、ラッパ管10が設けられている。このラッパ管10により、構造物1が水平に振動する際に、ストランド8が振動する部分の長さを任意に設定することができる。また、地震が生じた際、ストランド8はラッパ管10の内側面に沿う角度まで傾斜するが、そのときのストランド張力の傾斜角の水平成分が構造物1の復元力となる。
【0054】
さらに、低接地圧状態では、圧気ゾーンXに圧縮空気が注入されていることにより、耐圧壁2の内側における地下水位が第2地下水位H2まで低下し、圧気ゾーンXは液状化が防止される非液状化層となる。ところが、圧気ゾーンXの砂は緩詰となることから、圧気ゾーンXに構造物1が直接載った状態では、構造物1の沈下や傾斜が懸念される。
【0055】
この点、構造物1の下方における圧気ゾーンXには、圧縮空気が注入されており、その圧縮空気による空気圧を高く設定している。圧気ゾーンXにおける空気圧の具体的な数値の例としては、構造物1の建物重量の110%程度を支えることができる値としておくことができる。このように、圧気ゾーンの空気圧を高くしておくことにより、構造物1を浮揚させることができる。この状態で、沈下した地盤を修復することが可能となり、再び接地させたときの構造物1の沈下や傾斜を防止することができる。
【0056】
また、構造物1が浮揚すると、構造物1の安定性が問題となる。この点、構造物1には油圧ジャッキ7が設けられており、油圧ジャッキ7は、ストランド8を介して支持層G2に打ち込まれた永久地盤アンカー6と接続されている。このストランド8によって、構造物1の浮遊が防止される。
【0057】
このように、構造物1は、自身の建物荷重と圧気ゾーンXに注入された圧縮空気の空気圧とのバランスによって浮揚されまたは接地されている。また、複数のストランド8は、構造物1に対して平面して縦横に設けられている。このため、複数のストランド8の長さを個々に調整することにより、構造物1の傾斜を修正することができる。
【0058】
〔浮揚状態〕
次に、浮揚状態について説明する。低接地圧状態では、圧気ゾーンXに圧縮空気が注入され、ストランド8の浮遊抑止力によって構造物1が地盤Gに対して接地した状態を維持している。浮揚状態では、低接地圧状態よりも永久地盤アンカー6と油圧ジャッキ7との間のストランド8の長さが長くされており、ストランド8の浮遊抑止力を低く、構造物1が地盤Gに対して浮揚した状態とされている。
【0059】
また、浮揚状態では、圧気ゾーンXの圧力が高いことから、構造物1に浮揚力が作用し、浮揚状態にあるが、このままでは、構造物1の安定感が阻害される。この点、構造物1は、ストランド8を介して永久地盤アンカー6に固定されている。このため、永久地盤アンカー6の支持力によって構造物1が浮遊状態となることが抑止され、構造物1が好適な状態で浮揚した状態が維持されている。
【0060】
さらに、図4に示すように、浮揚状態では、地震時の震動の入力はストランド8の傾斜に伴う張力の水平成分のみとなるため、免震性能がきわめて高くなる。また、上下方向の振動に対しても、圧気ゾーンXにおける空気層とストランド8の伸縮に伴う力が作用するのみとなるため、入力値が小さくなる。このことから、浮揚状態では、3次元免震が可能となっている。さらには、構造物1の固有周期も長くなるため、共振現象が生じることなく、十分な免震効果を期待することができる。
【0061】
また、これらの高接地圧状態、低接地圧状態、浮揚状態については、風による振動の抑制も考慮して適宜の態様で設定することができる。具体的には、以下に示す4つの態様を例示することができる。
【0062】
〔常時に低接地圧状態とする態様〕
この態様では、常時は、圧気ゾーンXに圧縮空気を注入し、ストランド8による浮遊抑止力も大きくしておいて低接地圧状態とする。また、このときには、圧気ゾーンXの気圧を風荷重に対応できる高さとしておく。そして、地震が発生した際には、油圧ジャッキ7を開放し、ストランド8による浮遊防止力を緩和する。地震の発生を検出するために、構造物1に振動計を設けたり、地震情報を受信したりすることができる。浮遊抑止力を緩和することにより、構造物1と地盤Gとの間に滑りが生じ、構造物1に伝達される地震の振動エネルギーが減少し、免震性能を高くすることができる。
【0063】
〔常時に浮揚状態とする態様〕
この態様では、常時は、圧気ゾーンXに圧縮空気を注入するとともにストランド8による浮遊抑止力を小さくしておいて浮揚状態とする。また、このときには、圧気ゾーンXの気圧はさほど高くしておかずに、地震が発生した場合の振動エネルギーの吸収力を高くしておく。そして、構造物1に掛かる風荷重の大きさが所定のしきい値以上となったときに、ストランド8による浮遊防止力を高めて低接地圧状態とする。風荷重が所定のしきい値以上であるか否かは、構造物1に風力センサを設けることなどによって検出することができる。
【0064】
〔常時に高接地圧状態とする態様〕
この態様では、常時は、圧気ゾーンXに圧縮空気を注入することなく、高接地圧状態としておく。また、地震が発生した際には、圧気ゾーンXに圧縮空気を注入するとともに、ストランド8による浮遊防止力を緩めて、浮揚状態とする。地震が発生した際に浮揚状態とすることにより、振動エネルギーを好適に吸収できるようになる。
【0065】
この態様の場合、地震が発生した際に短時間で浮揚状態とすることが要求されるので、コンプレッサ4の容量を大きくすることが求められる。この態様では、常時は接地状態とされており、圧気ゾーンXが低圧となっていることから、耐圧壁2や永久地盤アンカー6の耐力を低くすることができる。
【0066】
〔常に低接地圧状態とする態様〕
この態様では、圧気ゾーンXに圧縮空気を注入して、低接地圧状態とする。この低接地圧状態で構造物1を支持した状態を維持する。常に低接地圧状態とする態様では、圧気ゾーンX内の圧力およびストランド8による浮遊防止力は、構造物1に掛かる風荷重に対して安定となる耐力を有する大きさとしておく。このような大きさとしておくことにより、風荷重に対する耐力を発揮することができる。また、地震が発生した際には、地盤Gと構造物1との間に滑りが生じることから、構造物1に伝達される地震の振動エネルギーが減少する。その結果、構造物1の免震性能を高くすることができる。
【0067】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが本発明は上記実施形態に限定されるものではない。たとえば、上記実施形態では、油圧ジャッキ7を構造物1における柱11の部位に配置しているが、図5に示すように、油圧ジャッキ7を柱11からずれた位置に配置する態様とすることもできる。油圧ジャッキ7を柱11からずれた位置に配置することにより、油圧ジャッキ7の交換やメンテナンス等を容易に行うことができる。
【0068】
また、上記実施形態では、永久地盤アンカー6と同数の油圧ジャッキ7を設けて、それぞれの永久地盤アンカー6と油圧ジャッキ7とをストランド8で接続しているが油圧ジャッキ7の数を永久地盤アンカー6の数よりも少なくする態様とすることもできる。また、上記の常に低接地圧状態とする態様では、油圧ジャッキを設けることなく、永久地盤アンカーにストランドを固定する態様とすることもできる。
【符号の説明】
【0069】
1…構造物
2…耐圧壁
3…シールシート
4…コンプレッサ
5…空気注入管
6…永久地盤アンカー
7…油圧ジャッキ
8…ストランド
9…油圧ポンプ
10…ラッパ管
11…柱
12…梁
13…床板
G…地盤
G1…軟弱層
G2…支持層
H1…第1地下水位
H2…第2地下水位
R…地盤
…浮遊抑止力
X…圧気ゾーン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の下方における地盤を囲む耐圧壁が前記地盤中に設けられ、前記地盤中における前記耐圧壁に囲まれた領域が、圧縮空気が注入されることによって空気圧が増加するとともに、地下水位が低下させられる加圧領域とされており、
前記加圧領域における空気圧が上昇した際に、前記構造物の浮遊を防止する浮遊防止構造が形成されていることを特徴とする構造物の支持構造。
【請求項2】
前記浮遊防止構造は、前記構造物の下方における地盤の支持層に埋設されたアンカー部材と、前記構造物に設けられた反力部材とを備えるとともに、前記アンカー部材と前記反力部材とを接続する接続部材を備える請求項1に記載の構造物の支持構造。
【請求項3】
前記加圧領域に注入される圧縮空気の注入量を調整し、前記加圧領域の空気圧を調整するコンプレッサと、
前記浮遊防止構造における浮遊防止力を調整する浮遊防止力調整手段と、
をさらに備える請求項1または請求項2に記載の構造物の支持構造。
【請求項4】
前記加圧領域に対する圧縮空気が注入されて前記加圧領域が圧縮空気注入状態とされ、前記構造物が前記加圧領域における地盤および圧縮空気によって支持されており、
前記構造物の周囲に発生する地震が検出された際に、前記浮遊防止力調整手段は、前記浮遊防止構造における浮遊防止力を緩和する請求項3に記載の構造物の支持構造。
【請求項5】
前記加圧領域に対する圧縮空気が注入されて前記加圧領域が圧縮空気注入状態とされ、前記構造物が前記加圧領域における地盤に対して浮揚する浮揚状態とされており、
前記構造物に対する風荷重が所定のしきい値以上となった場合に、前記浮遊防止力調整手段は、前記浮遊防止構造による浮遊防止力を大きくする請求項3に記載の構造物の支持構造。
【請求項6】
前記加圧領域に対する圧縮空気が非注入とされて前記加圧領域が圧縮空気非注入状態とされ、前記構造物が前記加圧領域における地盤によって支持されており、
前記地震検出手段によって地震が検出された際に、前記コンプレッサは前記加圧領域に圧縮空気を注入するとともに、前記浮遊防止力調整手段は前記浮遊防止構造による浮遊防止力を緩和する請求項3に記載の構造物の支持構造。
【請求項7】
構造物の下方における地盤を囲む耐圧壁を前記地盤中に設け、前記地盤中における前記耐圧壁に囲まれた領域が、圧縮空気が注入されることによって空気圧が上昇するとともに、地下水位が低下させられる加圧領域とされており、
前記加圧領域における空気圧が上昇した際に、前記構造物の浮遊を防止する浮遊防止構造を形成することを特徴とする構造物の支持工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−144558(P2011−144558A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−6062(P2010−6062)
【出願日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【Fターム(参考)】