説明

構造物変位制限用ストッパ装置およびこれに用いる複合構造型緩衝パッキン

【課題】衝撃に対する緩衝性能を高めた構造物変位制限用ストッパ装置及びそれに用いる緩衝用パッキンの提供。
【解決手段】下部ストッパ部材3に上向き突起5が設けられ、上部ストッパ部材4に下向き開口凹部7が設けられ、上向き突起5が下向き開口凹部7内に配置され、上向き突起に嵌合の緩衝用パッキンにより、地震時における衝撃力を緩衝する構造物変位制限用ストッパ装置2に用いられる緩衝用パッキンにおいて、緩衝用パッキンは、横断面環状で軟質弾性材料性の筒状パッキン本体部14と、その筒状パッキン本体部14における周側壁部内に埋め込み配置された硬質弾性部16とを備え、硬質弾性部16は筒状パッキン本体部14の上下方向に延長するように埋め込み配置され、筒状パッキン本体部14よりも硬質の硬質弾性部とされている複合構造型緩衝パッキン1としている。複合構造型緩衝パッキン1が構造物変位制限用ストッパ装置に用に用いられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋梁その他の構造物が、強大な水平地震力により変位して橋台、橋脚その他の支持構造体から落下するのを防止するための構造物変位制限用(変位制限用)ストッパ装置およびこれに用いる複合構造型緩衝パッキンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ゴム支承により支承されている橋梁等の構造物が強大な水平地震力により橋台または橋脚等の支持構造体から落下するのを防止するための変位制限用ストッパ装置の一つとして、図9および図10に示すように、支持構造体23の上部に固定される下部ストッパ部材33の上面の中央に係止用上向き突起34を一体に設け、かつ上部の構造物22の下部に固定される上部ストッパ部材35の下面の中央に係止用下向き開口凹部36を設け、その下向き開口凹部36内に前記上向き突起34を配置し、その上向き突起34と下向き開口凹部36との間に構造物22の伸縮を許容する間隙Lを設けた構造のものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
図9および図10に示す構造のストッパ装置37の場合は、下向き開口凹部36とその内側に配置される上向き突起34とを備えたストッパ装置であるので、強大な水平力が作用した場合、衝撃力が大きくなるという問題がある。
前記の衝撃力の緩和を図るために、図11および図12に示すように、前記突起34に、横断面全体が均質で軟質クロロプレンゴムよりなる筒状の緩衝用パッキン38を設けることを検討されたこともある。
【特許文献1】実公平02−48494号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前記従来の緩衝用パッキンは、横断面全体が均質で軟質クロロプレンゴムよりなる筒状の緩衝用パッキンであるので、衝撃力の緩衝作用があるが、上部構造物が連続桁となるなど大型化が図られているので、より緩衝性能の高いものが望まれている。
本発明は、前記の従来の緩衝用パッキンに比べてより衝撃に対する緩衝性能を高めた構造物変位制限用(移動制限用)ストッパ装置に用いる複合構造型緩衝パッキンおよびその複合構造型緩衝パッキンを使用した構造物変位制限用ストッパ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
前記の目的を達成するために、第1発明の構造物変位制限用ストッパ装置に用いる複合構造型緩衝パッキンにおいては、支持構造体に固定される下部ストッパ部材の上面に係止用上向き突起が設けられ、構造物に固定される上部ストッパ部材の下面に係止用下向き開口凹部が設けられ、前記上向き突起が前記係止用下向き開口凹部内に配置され、前記上向き突起に嵌合される緩衝用パッキンにより、地震時における衝撃力を緩衝するようにした構造物変位制限用ストッパ装置に用いられる緩衝用パッキンにおいて、前記緩衝用パッキンは、横断面環状で軟質弾性材料性の筒状パッキン本体部と、その筒状パッキン本体部における周側壁部内に埋め込み配置された硬質弾性部とを備え、前記硬質弾性部は、筒状パッキン本体部の上下方向に延長するように埋め込み配置され、かつ前記筒状パッキン本体部よりも硬質の硬質弾性部とされていることを特徴とする。
第2発明では、第1発明の構造物変位制限用ストッパ装置に用いる複合構造型緩衝パッキンにおいて、前記硬質弾性部は、軟質弾性材料性の筒状パッキン本体部の周方向に間隔をおいて、筒状パッキン本体部に一体成型により埋め込み配置されていることを特徴とする。
第3発明では、第1発明の構造物変位制限用ストッパ装置に用いる緩衝用パッキンにおいて、前記硬質弾性部は、筒状パッキン本体部の周方向に連続するように一体に埋め込み配置されていることを特徴とする。
第4発明の構造物変位制限用ストッパ装置に用いる複合構造型緩衝パッキンにおいては、支持構造体に固定される下部ストッパ部材の上面に係止用上向き突起が設けられ、構造物に固定される上部ストッパ部材の下面に係止用下向き開口凹部が設けられ、前記上向き突起が前記係止用下向き開口凹部内に配置され、前記上向き突起に嵌合される緩衝用パッキンにより、地震時における衝撃力を緩衝するようにした構造物変位制限用ストッパ装置に用いられる緩衝用パッキンにおいて、前記緩衝用パッキンは、横断面環状で硬質弾性材料性の筒状パッキン本体部と、その筒状パッキン本体部における周側壁部内に埋め込み配置された軟質弾性部とを備え、前記軟質弾性部は、筒状パッキン本体部の上下方向に延長するように埋め込み配置され、かつ前記筒状パッキン本体部よりも軟質の軟質弾性部とされていることを特徴とする。
第5発明では、第1発明〜第4発明のいずれかに記載の構造物変位制限用ストッパ装置に用いる複合構造型緩衝パッキンにおいて、複合構造型緩衝パッキンは、合成ゴムまたは天然ゴムあるいは高減衰ゴムのいずれか1つまたは複数の材料により構成されていることを特徴とする。
第6発明では、第1発明〜第5発明のいずれかに記載の構造物変位制限用ストッパ装置に用いる複合構造型緩衝パッキンにおいて、複合構造型緩衝パッキンの外周壁部および内周壁部には、それぞれ筒状の耐圧補強繊維が一体に埋め込み配置されていることを特徴とする。
第7発明では、構造物変位制限用ストッパ装置において、支持構造体に固定される下部ストッパ部材の上面に係止用上向き突起が設けられ、構造物に固定される上部ストッパ部材の下面に係止用下向き開口凹部が設けられ、前記上向き突起に緩衝用パッキンを嵌合した状態で前記上向き突起が前記係止用下向き開口凹部内に配置され、前記上向き突起に嵌合される緩衝用パッキンにより、地震時における衝撃力を緩衝するようにした構造物変位制限用ストッパ装置において、前記緩衝用パッキンが第1発明から第6発明のいずれかの複合構造型緩衝パッキンとされていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0005】
第1および第4発明によると、従来の軟質クロロプレンゴムの均質な緩衝用パッキンに比べて、衝撃緩衝性能を格段に高めることができると共に複合構造型緩衝パッキンの耐久性を向上させることができる。
第2発明によると、硬質弾性部は、軟質弾性材料性の筒状パッキン本体部の周方向に間隔をおいて、筒状パッキン本体部に一体成型により埋め込み配置されているので、横方向の衝撃力が作用しても、従来の緩衝用パッキンよりも衝撃に対する緩衝性能を向上させることができる。
第3発明によると、前記硬質弾性部は、筒状パッキン本体部の周方向に連続するように一体に埋め込み配置されているので、横方向のいずれの方向から衝撃力が作用しても、従来の緩衝用パッキンよりも衝撃に対する緩衝性能を向上させることができる。
第5発明によると、合成ゴムまたは天然ゴムあるいは高減衰ゴムのいずれか1つまたは複数の材料により構成されているので、硬質と軟質の加硫一体成型による合成ゴム製複合構造型緩衝パッキンとしたり、硬質と軟質の加硫一体成型による天然ゴム製複合構造型緩衝パッキンとしたり、硬質合成ゴムと軟質天然ゴムの加硫一体成型によると合成ゴムと天然ゴムとの複合ゴム製複合構造型緩衝パッキンとしたり、高減衰ゴムと合成ゴムあるいは天然ゴムとの複合ゴム製複合構造型緩衝パッキンとすることができ、各種緩衝性能の複合構造型緩衝パッキンの設計の自由度を格段に高めることができる。
第6発明によると、複合構造型緩衝パッキンの内周壁部および外周壁部に、筒状の耐圧補強繊維が埋め込み配置されているので、地震時における下部ストッパ部材における上向き突起が上部ストッパ部材に衝突しても複合構造型緩衝パッキンが亀裂などの損傷を受ける恐れを排除することができ、複合構造型緩衝パッキンの衝撃に対する耐久性を格段に向上させることができる。
第7発明によると、従来の構造物変位制限用ストッパ装置の場合に比べて、衝撃緩衝性能を格段に高めた複合構造型緩衝パッキンが組み込まれているので、地震時等に支持構造体と構造物とが相対的に水平移動した場合に、上向き突起に上部ストッパ部材を格段に緩衝させて係合させることができ、そのため、衝撃に対する緩衝性能を格段に高めた構造物変位制限用ストッパ装置とすることができる。また、横方向の衝撃力が作用しても、従来の緩衝用パッキンよりも衝撃に対する緩衝性能を向上させた構造物変位制限用ストッパ装置としたり、横方向のいずれの方向から衝撃力が作用しても、従来の緩衝用パッキンよりも衝撃に対する緩衝性能を向上させた構造物変位制限用ストッパ装置としたり、合成ゴムまたは天然ゴムあるいは高減衰ゴムのいずれか1つまたは複数の材料により複合構造型緩衝パッキンを構成して、各種緩衝性能の複合構造型緩衝パッキンの設計の自由度を格段に高めた構造物変位制限用ストッパ装置としたり、地震時における下部ストッパ部材における上向き突起が上部ストッパ部材に衝突しても複合構造型緩衝パッキンが亀裂などの損傷を受ける恐れを排除することができ、複合構造型緩衝パッキンの衝撃に対する耐久性を格段に向上させた構造物変位制限用ストッパ装置とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
次に、本発明を図示の実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0007】
図1および図2には、構造物変位制限用ストッパ装置に用いられる本発明の複合構造型緩衝パッキン1の一実施形態が示され、図1には横断平面図が示され、図2には一部縦断側面図が示され、図3には変形形態の複合構造型緩衝パッキン1が示され、図4および図5には、本発明の複合構造型緩衝パッキン1を組み込んだ構造物変位制限用ストッパ装置2が示されている。
【0008】
先ず、図4および図5は、本発明の複合構造型緩衝パッキン1を組み込んだ構造物変位制限用ストッパ装置2を示すものであって、この構造物変位制限用ストッパ装置2は支持構造体23に固定される鋼製下部ストッパ部材3と上部の構造物22に固定される鋼製上部ストッパ部材4とにより構成され、図示の形態では、下部ストッパ部材3の下部に、複数の雌ねじ筒8が一体に設けられ、その雌ねじ筒8には鋼棒からなる下部アンカ部材9の上端の雄ねじ部が螺合され、かつその下部アンカ部材9は雌ねじ筒8に対し溶接により固着され、さらに下部ストッパ部材3の上面10の中央には断面円形の係止用上向き突起5が一体に設けられている。
【0009】
また、前記下部ストッパ部材3の上面10には、その上向き突起5の周囲において複数(例えば4つ)のゴム製位置決め片6が、突起周囲方向に間隔をおいて設けられ、中空円筒状等のゴム製位置決め片6の下部は、下部ストッパ部材3に固定されている。
【0010】
上部ストッパ部材4の上部の天板11に雌ねじ孔が設けられ、その雌ねじ孔には上端にフランジを有する鋼棒からなる上部アンカ部材18の下端の雄ねじ部が螺合され、かつその上部アンカ部材18は天板11に対し溶接により固着され、さらに上部ストッパ部材4の下面19の中央には、円形または構造物長手方向に延長する長円形等の係止用下向き開口凹部7が設けられている。
【0011】
そして本発明の構造物変位制限用ストッパ装置2においては、前記の上向き係止突起5に、ゴム弾性材料からなる複合構造型緩衝パッキン1が、落とし込みあるいは軽い圧入により嵌合(装着又は嵌設)されている。前記複合構造型緩衝パッキン1の内周面側は、上向き係止突起5に近接または接触している状態で配置され、また、複合構造型緩衝パッキン1の外周面は、上部ストッパ部材4における下向き開口凹部7の内周面に対して、橋軸方向については、上部構造物22の温度変化による伸縮移動量を許容するような間隙Lが設けられている、また、橋軸直角方向については、近接して配置されている。
【0012】
ここで、前記の複合構造型緩衝パッキン1の構造について説明する。
前記の複合構造型緩衝パッキン1は、横断面環状で軟質弾性材料性の筒状パッキン本体部14と、その筒状パッキン本体部14における周側壁部15内に埋め込み配置された硬質弾性部16とを備え、前記硬質弾性部16は、筒状パッキン本体部14の上下方向に延長するように埋め込み配置され、かつ前記筒状パッキン本体部14よりも硬質の硬質弾性部16とされている。前記の硬質弾性部16と軟質弾性材料性の筒状パッキン本体部14とは、加硫一体成型により全体が一体に製作されている。また、筒状パッキン本体部14における内周壁部側と、外周壁部側には、それぞれ耐圧および衝撃補強用の繊維からなる内周側補強布12aと外周側補強布12bが埋め込み配置され、硬質弾性部16を含めたパッキン全体が加硫一体成型されている。前記の補強布12a,12bとしては、合成繊維性布あるいは帆布等が埋め込み配置されている。
【0013】
前記の軟質弾性材料性の筒状パッキン本体部14と、硬質弾性部16の組み合わせ形態としては、クロロプレンゴム(CR)あるいはスチレン・ブタジエンゴム(SBR)等の合成ゴムあるいは天然ゴム材料とした場合では、ゴムショア硬度で、40〜60度の軟質弾性材料性の筒状パッキン本体部14とし、50〜80度の硬質弾性部16とすればよく、例えば、軟質40度と硬質50度の組み合わせ、軟質55度と硬質80度の組み合わせ、軟質60度と硬質80度の組み合わせにより一体に加硫成型した複合構造型緩衝パッキン1の形態でもよい。
また、前記以外にも、高減衰ゴムの軟質と硬質ゴムとの組み合わせ形態等でもよく、また、天然ゴムと合成ゴムと高減衰ゴムのいずれか1種の軟質ゴムと、それ以外の種の硬質ゴムとの組み合わせ形態でもよい。
また、前記の実施形態における硬質および軟質の材料部を入れ替え、軟質弾性材料性の筒状パッキン本体部14に代えてこれを硬質ゴムによる硬質弾性部とし、前記の硬質弾性部16を軟質弾性材料とした軟質弾性部とするようにしてもよい。すなわち、複合構造型緩衝パッキン1は、横断面環状で硬質弾性材料性の筒状パッキン本体部と、その筒状パッキン本体部における周側壁部内に埋め込み配置された軟質弾性部とを備え、前記軟質弾性部は、筒状パッキン本体部の上下方向に延長するように埋め込み配置され、かつ前記筒状パッキン本体部よりも軟質の軟質弾性部とされていてもよく、このようにしても、前記と同様な衝撃力に対する緩衝効果を発揮することができる。
【0014】
前記の硬質弾性部16の横断面形状としては、図示形態のように三角形状以外にも、半径方向で内径側が頂部となるように配置された逆三角形、円形、四角形、菱形、台形(半径方向の上底と下底の位置を逆とした逆台形形状を含む)、多角形(前記台形の場合と同様に、半径方向で内径側の辺または頂部と外形側の位置を逆と逆多角形を含む)でもよく、このような横断面形状の柱状体を、加硫一体成型により一体化された複合構造型緩衝パッキン1としてもよい。また、前記のような複数の断面形状の硬質弾性部16を周方向に連続するように埋め込み配置する形態あるいは、図3に示すように、周方向に間隔をおいて、2つ以上組み込む形態でもよい。
なお、図示を省略するが、本発明を実施する場合、軟質弾性材料性の筒状パッキン本体部14に一体に埋め込まれ加硫成型される硬質弾性部16は、その上下方向の中央部に向かって縦断面で半径方向外側が、内側に向かって凹状としてもよく、このようにすると、ゴムのような弾性材料では、変形の逃げ場のないゴム中央部のばね定数が高まる点を抑制でき、複合構造型緩衝パッキン1の上下方向のばね定数の均等化をはかり、複合構造型緩衝パッキン1の上下方向の全体で均等化して圧縮力の負担を図るようにすることができる。
本発明の構造物変位制限用ストッパ装置2は、主として橋軸方向に作用させるものであるために、複合構造型緩衝パッキン1における少なくとも橋軸方向の両側壁部に、前記実施形態のような構造にするとよい。
【0015】
前記の複合構造型緩衝パッキン1の前記以外の平面形態としては、外側形状が平面視で矩形状で、内周側形状が、平面視で円形状でもよく、上向き係止突起5が横断面図で矩形状である場合には、内周側形状が平面視で矩形で、外側形状が平面視で円形または矩形の複合構造型緩衝パッキン1としてもよい。
【0016】
前記のような複合構造型緩衝パッキン1を上向き突起5に嵌合して、重錘式衝撃試験を行った。図6に示す重錘式衝撃試験装置17の構成について簡単に説明すると、構造物変位制限用ストッパ装置2における上部ストッパ部材4を下部ストッパ部材3上にローラーを介して横方向に移動可能に支承した状態で、上部ストッパ部材4と、衝撃受け板20とを、ロードセル21および連結部材24より連結し、前記衝撃受け板20に、高さ1225mmから重錘25の振り上げ角度を変化させ(衝突速度を変化させ)ることが可能な重錘式衝撃試験装置17である。
【0017】
図6に示すような重錘式衝撃試験装置17に、図12(b)(c)に示すような従来のクロロプレンゴムによるゴムショア硬度55度の緩衝用パッキン材38と、図1〜図3に示すような複合構造の複合構造型緩衝パッキン1とを、それぞれ上向き係止突起5に嵌合し、振り上げ角度を、30度(衝突速度では、1.8m/sec)、40度(衝突速度では、2.4m/sec)、55度(衝突速度では、3.2m/sec)と変えて衝撃試験をした結果を、図8に示し、また衝撃受け板20に作用している受動荷重(kN)と応答時間T(sec)の関係について、全体の傾向を示す代表形態として、振り上げ角度が40度(衝突速度では、2.4m/sec)の場合を図7に示した。なお、従来の緩衝用パッキン材38および本発明の複合構造型緩衝パッキン1は静的な設計水平耐力が400kN用のもので、これらの外径は、144mm、内径104mm、厚み20mm、高さ70mmである。
なお、実験に用いた従来の緩衝パッキング材38は、クロロプレンゴムによるゴムショア硬度55度の緩衝用パッキン材38で、その破断伸びは450%のものである。また、実験に用いた、本発明の複合構造型緩衝パッキン1は、天然ゴムで高度55度の軟質筒状パッキン本体部14(破断伸びは550%)に、硬度80度の(破断伸びは300%)の多数の平面2等辺三角形状(底辺8.8mmで高さ14mm)の柱状の硬質弾性部16をパッキン厚み方向内周側から3mmの位置に底辺が位置するように、パッキン周方向に蜜に配置すると共に内周側および外周側の軟質筒状パッキン本体部14内に埋め込み配置し加硫一体成型したものである。
【0018】
図7は、振り上げ角度が40度(衝突速度では、2.4m/sec)の場合のグラフであり、同様に、振り上げ角度を、30度(衝突速度では、1.8m/sec)と55度(衝突速度では、3.2m/sec)のグラフ(図示を省略した)における受動荷重のピーク値をプロットしたのが、図8に示す各衝突速度と受動荷重との関係を示す図である。
図7の代表形態に示すように、受動荷重(kN)のピークが、従来の緩衝パッキン(従来型)では、163.8kNであるのに対して、本発明の複合構造型緩衝パッキンでは、107.1kNであり、格段に低減(従来のクロロプレンゴムの場合に比べて、ほぼ35%程度低減)している結果が得られた。
図8に示す受動荷重において、従来の緩衝用パッキン材38(従来型と記した)の受動荷重は、衝突速度が1.8m/secで96.6kN、2.4m/secで163.8kN、3.2m/secで209.3kNであったのに対して、本発明の複合構造型の緩衝パッキン1(複合構造型と記した)では、衝突速度が1.8m/secで78.1kN、2.4m/secで107.9kN、3.2m/secで125.1kNであった。
図からわかるように、本発明の複合構造型緩衝パッキン1を嵌合した構造物変位制限用ストッパ装置2の場合は、従来のクロロプレンゴムの均質な緩衝用パッキン材27を嵌合した従来の構造物変位制限用ストッパ装置2の場合に比べて、20〜30パーセントの受動荷重が低減している結果が得られた。
なお、前記本発明の複合構造型緩衝パッキン1の試験体は、平面視でパッキン厚さ中央部で三角形状の硬質弾性部16と三角形状の軟質弾性部がパッキン周方向に交互に配列されている形態であるので、厚さ方向中央部のみ、軟質弾性材料製の筒状パッキン本体部14を硬質弾性材料製とし、硬質弾性部16を軟質弾性部とし、内周側補強布12aおよび外周側補強布12bを埋め込むように補強した場合でも同様な傾向が想定される。
【0019】
前記のように、軟質弾性材料製の筒状パッキン本体部14とこれに一体成型により埋め込み配置された硬質弾性部16との複合構造にしたり、または、硬質弾性材料製の筒状パッキン本体部とこれに一体成型により埋め込み配置された軟質弾性部との複合構造にすることにより、従来の軟質材料のパッキン38を使用した場合に比べて、上向き突起5に嵌合された複合構造型緩衝パッキン1の衝突初期において押圧された場合、高い荷重に対して変位が小さいので、地震時における上部構造物22に同じ水平力による衝突力が上向き突起に作用しても、衝撃力を緩和して伝達することができる。
【0020】
本発明を実施する場合、前記の複合構造型緩衝パッキン1は筒状とされているが、天井部を有する複合構造型緩衝パッキン1として、周壁部と天井部とが一体化された複合構造型緩衝パッキンとしてもよい。
【0021】
なお、前記上部ストッパ部材4は前記下部ストッパ部材3に固定されたゴム製位置決め片6の上部に載置され、かつ下部ストッパ部材3の上面10と上部ストッパ部材4の下面19との間に間隙Gが設けられている。
【0022】
前記のような構造物変位制限用ストッパ装置2を据付ける場合は、まずストッパ装置2における下向き開口凹部7を築造すべきコンクリート橋桁等の構造物22の長手方向に延長するように配置した状態で、下部アンカ部材9および下部ストッパ部材3の下部を橋脚または橋台等のコンクリートの支持構造体23に埋込固定する。次に前記構造物22を築造するための溝形の型枠(図示を省略した。)を組立てると共に、その型枠の底板に設けた開口部に上部ストッパ部材4を嵌合したのち、前記型枠内に構造物用コンクリートを打設して前記構造物22を築造する。
【0023】
なお構造物変位制限用ストッパ装置2の側方において、図示を省略するが、支持構造体23と構造物22との間に支承装置を設置する。
【0024】
前記のように、構造物変位制限用ストッパ装置2における下向き開口凹部7の橋軸方向の両端部と、複合構造型緩衝パッキン1を嵌合した上向き突起5との間に、構造物伸縮許容間隙Lが設けられているので、構造物22は自由に伸縮することができる。
【0025】
本発明においては、水平地震力により構造物22が水平移動しようとした場合は、複合構造型緩衝パッキン1が最初に押圧力を受けるようになるので、地震時において水平力が作用した場合には、確実に複合構造型緩衝パッキン1により緩衝作用を発揮するようになる。そして、緩衝支承された状態で、構造物22の移動が制限される。
【0026】
なお、図示を省略するが、構造物22が鋼製構造物である場合には、天板11に前記鋼製構造物をボルトにより固定することにより、上部ストッパ部材を鋼製構造物に取付けるようにすればよい。
【0027】
前記実施形態のように、前記下向き開口凹部7における構造物長手方向の両端部と上向き突起5との間には構造物伸縮許容間隙Lを設けるのが一般的であるが、上部の構造物22が平面円弧状の曲線状である場合には、橋軸方向および橋軸直角方向の2方向に移動可能な間隙が必要になる。
【0028】
なお、前記のゴム製位置決め片6は、下部ストッパ部材3と上部ストッパ部材4との上下方向の位置決めを行い、これらの間に所定の上下方向の間隙Gを設けるためだけに必要なものであり、前記のゴム製位置決め片6は構造物22が設置され、また、前記構造物22の鉛直荷重を負担しない下部ストッパ部材3が設置された後では、なくてもよいものである。
下部ストッパ部材3に対する上部ストッパ部材4の横移動量が比較的小さい場合は、ゴム製位置決め片6の上部が弾性変形し、また下部ストッパ部材3に対する上部ストッパ部材4の横移動量が一定以上になると、ゴム製位置決め片6は上部ストッパ部材4の下面19をスライドする。
【0029】
前記のゴム製位置決め片6は、下部ストッパ部材3または上部ストッパ部材4のいずれか一方に固定すればよく、例えば、前記実施形態と逆に、予めゴム製位置決め片6の上部を上部ストッパ部材4に固定してもよい。
【0030】
また、ゴム製位置決め片6の数は3個または5個以上であってもよい。また、前記のゴム製位置決め片6を上下に分離可能にし、上下の位置決め片の境界面でスライド可能な形態でもよい。ゴム製位置決め片6の固定手段としては、例えば、ビスまたは接着剤により固着するようにしてもよい。
【0031】
前記実施形態のようにすると、支持構造体23に下部ストッパ部材3を固定した状態で、上部ストッパ部材4の上部を埋込むように構造物用コンクリートを打設する場合、下部ストッパ部材3の上向き突起5および上部ストッパ部材4の下向き開口凹部7の周囲において下部ストッパ部材3および上部ストッパ部材4の間に設けられた3個以上のゴム製位置決め片6により、下部ストッパ部材3の上面10と上部ストッパ部材4の下面19との間に所要の間隙Gを確保しておくことができる。
【0032】
しかも、前記位置決め片6の上下方向の一端部は下部ストッパ部材3および上部ストッパ部材4のうちの一方に固定され、その位置決め片6の上下方向の他端部は下部ストッパ部材3および上部ストッパ部材4のうちの他方に摩擦接触されて固定されるので、下部ストッパ部材3と上部ストッパ部材4との横方向の相対的な位置決めを行なって、上向き突起5と下向き開口凹部7との間に所定の構造物伸縮許容間隙Lを確保しておくことができ、さらに構造物用コンクリートを打設するときの振動や衝撃等により、上部ストッパ部材4が下部ストッパ部材3に対し相対的に横方向に偏位するのを防止することができ、また位置決め片6はゴム製であるので、構造物22の伸縮に対する抵抗が小さく、そのため構造物22を自由に伸縮させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】構造物変位制限用ストッパ装置に用いる本発明の複合構造型緩衝パッキンの一実施形態を示す横断平面図である。
【図2】図1に示す本発明の複合構造型緩衝パッキンの一部縦断側面図である。
【図3】構造物変位制限用ストッパ装置に用いる本発明の緩衝用パッキンの他の実施形態を示す横断平面図である。
【図4】本発明の複合構造型緩衝パッキンを構造物変位制限用ストッパ装置における上向き突起に嵌合した状態を示す一部縦断側面図である。
【図5】図4に示す構造物変位制限用ストッパ装置の横断平面図である。
【図6】衝撃試験装置を示す概略側面図である。
【図7】従来の緩衝用パッキンの場合と本発明の複合構造型緩衝パッキンの場合の応答時間と受動荷重との関係を示す図である。
【図8】従来の緩衝用パッキンの場合と本発明の複合構造型緩衝パッキンの場合の衝突速度と受動荷重との関係を示す図である。
【図9】従来の構造物変位制限用ストッパ装置の一形態を示す一部縦断側面図である。
【図10】図9に示す構造物変位制限用ストッパ装置の横断平面図である。
【図11】従来の緩衝用パッキンを備えた構造物変位制限用ストッパ装置の一形態を示す一部縦断側面図である。
【図12】図12に示す構造物変位制限用ストッパ装置の横断平面図である。
【符号の説明】
【0034】
G 間隙
L 構造物伸縮許容間隙
1 複合構造型緩衝パッキン
2 構造物変位制限用ストッパ装置
3 下部ストッパ部材
4 上部ストッパ部材
5 係止用上向き突起
6 ゴム製位置決め片
7 下向き開口凹部
8 雌ねじ筒
9 下部アンカ部材
10 上面
11 天板
12a 内周側補強布
12b 外周側補強布
14 筒状パッキン本体部
15 周側壁部
16 硬質弾性部
17 重錘式衝撃試験装置
18 上部アンカ部材
19 下面
20 衝撃受け板
21 ロードセル
22 構造物
23 支持構造体
24 連結部材
25 重錘
33 下部ストッパ部材
34 係止用上向き突起
35 上部ストッパ部材
36 係止用下向き凹部
37 構造物変位制限用ストッパ装置
38 緩衝用パッキン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持構造体に固定される下部ストッパ部材の上面に係止用上向き突起が設けられ、構造物に固定される上部ストッパ部材の下面に係止用下向き開口凹部が設けられ、前記上向き突起が前記係止用下向き開口凹部内に配置され、前記上向き突起に嵌合される緩衝用パッキンにより、地震時における衝撃力を緩衝するようにした構造物変位制限用ストッパ装置に用いられる緩衝用パッキンにおいて、前記緩衝用パッキンは、横断面環状で軟質弾性材料性の筒状パッキン本体部と、その筒状パッキン本体部における周側壁部内に埋め込み配置された硬質弾性部とを備え、前記硬質弾性部は、筒状パッキン本体部の上下方向に延長するように埋め込み配置され、かつ前記筒状パッキン本体部よりも硬質の硬質弾性部とされていることを特徴とする構造物変位制限用ストッパ装置に用いる複合構造型緩衝パッキン。
【請求項2】
前記硬質弾性部は、軟質弾性材料性の筒状パッキン本体部の周方向に間隔をおいて、筒状パッキン本体部に一体成型により埋め込み配置されていることを特徴とする請求項1に記載の構造物変位制限用ストッパ装置に用いる複合構造型緩衝パッキン。
【請求項3】
前記硬質弾性部は、筒状パッキン本体部の周方向に連続するように一体に埋め込み配置されていることを特徴とする請求項1に記載の構造物変位制限用ストッパ装置に用いる複合構造型緩衝パッキン。
【請求項4】
支持構造体に固定される下部ストッパ部材の上面に係止用上向き突起が設けられ、構造物に固定される上部ストッパ部材の下面に係止用下向き開口凹部が設けられ、前記上向き突起が前記係止用下向き開口凹部内に配置され、前記上向き突起に嵌合される緩衝用パッキンにより、地震時における衝撃力を緩衝するようにした構造物変位制限用ストッパ装置に用いられる緩衝用パッキンにおいて、前記緩衝用パッキンは、横断面環状で硬質弾性材料性の筒状パッキン本体部と、その筒状パッキン本体部における周側壁部内に埋め込み配置された軟質弾性部とを備え、前記軟質弾性部は、筒状パッキン本体部の上下方向に延長するように埋め込み配置され、かつ前記筒状パッキン本体部よりも軟質の軟質弾性部とされていることを特徴とする構造物変位制限用ストッパ装置に用いる複合構造型緩衝パッキン。
【請求項5】
複合構造型緩衝パッキンは、合成ゴムまたは天然ゴムあるいは高減衰ゴムのいずれか1つまたは複数の材料により構成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の構造物変位制限用ストッパ装置に用いる緩衝用パッキン。
【請求項6】
複合構造型緩衝パッキンの外周壁部および内周壁部には、それぞれ筒状の耐圧補強繊維が一体に埋め込み配置されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の構造物変位制限用ストッパ装置に用いる緩衝用パッキン。
【請求項7】
支持構造体に固定される下部ストッパ部材の上面に係止用上向き突起が設けられ、構造物に固定される上部ストッパ部材の下面に係止用下向き開口凹部が設けられ、前記上向き突起に緩衝用パッキンを嵌合した状態で前記上向き突起が前記係止用下向き開口凹部内に配置され、前記上向き突起に嵌合される緩衝用パッキンにより、地震時における衝撃力を緩衝するようにした構造物変位制限用ストッパ装置において、前記緩衝用パッキンが請求項1から5のいずれかの複合構造型緩衝パッキンとされていることを特徴とする構造物変位制限用ストッパ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−127867(P2008−127867A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−314433(P2006−314433)
【出願日】平成18年11月21日(2006.11.21)
【出願人】(000107044)ショーボンド建設株式会社 (71)
【出願人】(503121088)株式会社ビービーエム (18)
【Fターム(参考)】