説明

構造的にカロテノイドを過剰生産する選抜された細菌の菌株又はその突然変異体の発酵による高純度カロテノイドの製造方法

本発明は、飼料業界、食品業界、化粧品業界及び製薬業界において用いるために、構造的にカロテノイドを過剰生産する選抜された細菌の菌株又はその突然変異体に対する改良された発酵条件で、カロテノイドを生産し、特定の結晶カロテノイド、より好ましくはβカロチンを精製、分離する方法を提供する。本発明はまた、高いカロテノイド収率及び特定のカロテノイドに対する特異性を有する変異体を選抜可能な、自然発生細菌の菌株から構造的にカロテノイドを過剰生産する突然変異菌株を得る方法を提供する。また、本発明の方法は、本発明の方法で得た突然変異体菌株をさらに改良するために用いることができる。本発明はまた、前記菌株及び高濃度のカロテノイド及び特定のカロテノイドに対する特異性を得るための改良された発酵条件を提供し、さらに細胞破壊無しでバイオマスからカロテノイドを抽出するための精製工程を開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(i)自然分離株又はその突然変異体から選択されるカロテノイド、より好ましくはβカロチンを構造的に過剰生産する細菌の菌株、及び(ii)特定の結晶カロテノイドを高純度で産出し、それを飼料業界、食品業界、化粧品業界、及び製薬業界において用いるために、発酵、精製及び分離条件を改良したカロテノイド、より好ましくはβカロチンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カロテノイドは、摂食によりカロテノイドを得ている動物を除いて、植物、藻類、真菌類及び細菌類によって生合成された自然脂質に可溶な色素である。カロテノイドは、植物、微生物、又は動物組織上に相当量が存在する場合(例えば、サケ)、黄色、オレンジ色、赤色又は紫色に発色するため容易に見分けることができる。カロテノイドは、微生物及び植物の光合成膜において、種特異的な着色、光防護、及び集光などの多くの異なる生物学的機能を有する。
【0003】
全てのカロテノイドは、疎水性分子であり、カロテノイドの光吸収特性だけでなく、その色のため光化学特性を決定する長い共役ポリエン鎖を含み、そのため、カロテノイドは集光性や光防護機能を備える。特に、光防護機能は、カロテノイドの能力によるものであり、光合成が行われる際に生産される一重項酸素及び励起した感光色素を抑制し、その結果、有害な酸素種の蓄積を予防する。また、カロテノイドは、光合成以外、例えば、フリーラジカルとの相互作用時、又は脂質過酸化反応阻害時の条件下において、抗酸化特性を有する。
【0004】
いくつかのカロテノイドのプロビタミンA活性は、栄養学者の関心を長く集めている。例えば、βカロチンと、その他の50種のカロテノイドは、動物におけるビタミンAの形態の一つであるレチナールに変換されうる。レチナールは、細胞内でさらに酸化され、ビタミンAの活性細胞形態であるレチノイン酸となる。植物又は動物の何れか一方では、初めからビタミンAを生合成することができないので、カロテノイドは、全動物界において唯一のビタミンAの供給源である。ヒトの栄養学的なカロテノイドのこの主な重要性に加えて、ここ20年間で蓄積されてきた証拠により、カロテノイドが循環器疾患及び様々なタイプの癌の予防に重要な役割を果たしていることが明らかになった。このような保護作用は、カロテノイドの抗酸化物質としての作用に関連してなされると考えられている。このような理由により、カロテノイドは、飼料業界、食品業界、化粧品業界、及び製薬業界から大きな関心がよせられており、カロテノイドを天然色素として用いるだけでなく、高価値な栄養補助食品及び化学予防薬の一成分として用いることができる。
【0005】
飼料業界、食品業界、化粧品業界、及び製薬業界及びその関連業界、例えば、栄養補助食品分野及び薬用化粧品分野におけるカロテノイドの重要度が上昇しており、カロテノイドを必要量製造するために、製造方法を改良する努力が必要とされている。
【0006】
カロテノイドは、高等な植物、藻類、真菌類及び細菌類だけでなく、鳥類及びクラスタシィアン等の動物内で生産される。カロテノイドは、主に、熱力学的により安定な異性体であるオールトランス構成で生産される。シス異性体のカロテノイドもまた自然に生産され、又は加熱処理などの食品加工処理の結果形成される。例えば、βカロチンは、いくつかの異なる幾何異性体(オールトランス、9−シス、13−シス、及び15−シス異性体形態)が存在する。オールトランス−βカロチンは、13−シス−βカロチン(53%活性)及び9−シス−βカロチン(38%活性)に比較して、最も高いプロビタミンA産生能力を有することが知られている(例えば、非特許文献1参照)。トランス−シス異性化もまた、カロテノイドの生物学的利用能及び抗酸化物質生産能力に影響を与える。ヒトの血中には、βカロチン異性体として、主にオールトランス−βカロチンが存在しており、その他に、少量の13−シス−βカロチンと、9−シス−βカロチンとが存在している。βカロチンのシス異性体の血中濃度は、βカロチン異性体の消費増加に敏感ではない。なぜならば、オールトランス−βカロチンが選択的に腸に吸収され、9−シス−βカロチンが、摂取から血漿中に表れるまでの間にオールトランス−βカロチンに異性化されることがその証拠として挙げられる(例えば、非公知文献2参照)。近年なされた研究によれば、インビトロでのβカロチン立体異性体の抗酸化物質生産能力は、オールトランス−βカロチン、9−シス−βカロチン、13−シス−βカロチン、及び15−シス−βカロチン間で顕著な差異はないことが発見された(例えば、特許文献3参照)。近年のインビボでの研究によれば、オールトランス−βカロチンは、カタラーゼ、ペルオキシダーゼ、及びスーパーオキシドジスムターゼのような肝酵素の活性を修復し、例えば、生体異物によって引き起こされる酸化的ストレス(ラットに四塩化炭素を含む飼料を与えた場合など)から重要臓器を防護することが示された。ラットに四塩化炭素を含む飼料を与える際に、栄養補助食品としてオールトランス−βカロチンを含ませることで、生体異物が存在するときに増加する脂質ペルオキシダーゼ活性もまた、正常の生理的水準に維持される(例えば、非特許文献4参照)。
【0007】
[現在のカロテノイド製造方法]
カロテノイドは、植物由来及び動物由来の両方の大部分のヒトの食品内に存在しており、特に、果実及び野菜に含まれている。例えば、βカロチンは、ニンジンに比較的高濃度にみられる(新鮮なニンジンにおいて、0.1〜1mg/g)。しかしながら、含有カロテノイド及び植物源の組成は季節により変化するという不都合があり、また、野菜からカロテノイドを直接大規模抽出することは、経済的、環境的、及び事業計画の制約的に現実的ではない。
【0008】
βカロチン及びリコピンのようなカロテノイドは、再現性及び拡張性を有する方法で化学的に合成可能である。実際、市販されているβカロチンの85%以上は化学合成により製造されている。従来の化学合成方法は、しかしながら、化石燃料から派生する原材料を用いており、その製造方法は、化学触媒及び試薬を用い、高温・エネルギー多消費型操作ユニットを介して行われる。化学工業において、競争力を増進し、国民の信頼を得ると同時に、環境影響を最小限にするために、石油関連原材料及び燃料に対する依存を縮小させることが急務であるという認識が大きくなっている。既存の方法をバイオテクノロジーを用いる方法に置き換えることは、多くの業界にとって、より効率的で環境に優しく、工業の持続可能性に向けて貢献することができると期待される。廃棄物を減らし、エネルギー消費及び温室効果ガス排出をより低く抑え、再生可能な原材料をより多く活用することが望まれる。典型的には、農業材料を先ず単糖に変換し、その後、生物学的方法により幅広い最終生産物を得ることができる。工業バイオテクノロジー方法は、現在の化学に基づく製造基盤に多くの変革をもたらす可能性を有している。
【0009】
もう一つのカロテノイドの自然源として、微細藻類がある。例えば、ドナリエラ属(Dunaliella genus)は、特定の条件下、その乾燥重量の14%以上のβカロチンを蓄積する(140mg/g)。微細藻類は、大型の屋外池で培養される。高水準のβカロチン蓄積を産生させるためには、高塩分、高温、及び高照度を必要とするため、降雨、日照、及び塩水の利用可能性などの環境的制約によって影響を受ける。栄養制限、特に、窒素制限もまた、カロテノイド形成を高める。
【0010】
一般に、カロテノイド生成は、比増殖速度が低い場合、最適ではない増殖条件下で、最も高くなる。微細藻類は、低い比増殖速度を示し、典型的には、より高い塩濃度及び日照時間の増加を必要とするバイオマス生産力を最大にする工程条件、例えば、5〜10cmの深さの浅い池を用いる場合には、βカロチンの蓄積に不利益をもたらす(例えば、特許文献1参照)。微細藻類による生産施設は、広い平地を利用することができ、安価な塩分源として、高塩分塩水と、蒸発損失を補填し(約5%全容量/日)、塩分濃度を調整するための低塩分塩水とを得ることができ、通年で曇りの日がほとんどなく、一年のほとんどで日平均気温が30℃以上であり、降雨はできる限りなく、いかなる汚染源からもできる限り離れた位置に設ける必要がある。前記汚染源とは、農薬又は除草剤が用いられた農業活動地や、重金属汚染が発生した工業活動地を意味しており、このような場所の近くに施設を設けるべきではない(例えば、非特許文献5参照)。
【0011】
これらの特殊な条件により、βカロチンの持続的かつ実用的な微細藻類による生産を行うための場所は世界中で非常に限定されてしまう。また、藻類を用い、その小さい細胞の大きさから低細胞密度になり、収穫が困難になり、費用が高くなってしまうという問題がある。実際、ドナリエラは、保護細胞壁を持たない小さな単細胞生物であり、高比重、高粘度塩水中で自然に浮遊する。きわめて多量の体積が処理されるが、大規模な培養液から得られる細胞密度はきわめて低く、概して細胞密度が1g/Lを越えることはなく(例えば、非特許文献5参照)、0.25〜0.50g/L程度であることがしばしば報告される。
【0012】
ろ過及び遠心分離のような従来の個液分離操作は、一般に、細胞にせん断損傷を与え、βカロチンの酸化損失を生じさせる。また、高塩分塩水は、全ての金属設備を腐食させるという大きな問題がある。
【0013】
生産されたβカロチンをヒトの食料として取り込むに際して、直面する解決すべき緊急の課題がある。例えば、欧州では、南オーストラリア州ワイアラに位置する塩水湖で増殖された藻類Dunaliella salinaによって産生された微細藻類派生βカロチンを用いた食料のみが許可される。また、最新式の設備で下位の精製を行った場合でさえ、最終産物に残る微細藻類成分は、しばしばβカロチンを用いた食品に不快な魚臭い味を付与することになる。これら全ての理由は、βカロチンの微細藻類による生産が、大規模実行可能な代案を提供するものではなく、世界中のβカロチン市場の85%以上の量が現在確立されている化学合成方法によるものであることの理由を説明する助けとなる。
【0014】
真菌類によるカロテノイドの工業生産のための基礎技術は、既に確立されているが、真菌類によるβカロチン及びリコピンの工業生産はほんの数例しかない。
【0015】
βカロチンを生産するための最初の方法(例えば、非特許文献6参照)は、引き続き改良され、現在βカロチン濃度が9g/L以上となることが報告されている(例えば、特許文献2参照)。上記方法の発酵工程には、エアレーション及び攪拌処理を伴うB.trisporaの液内培養工程が用いられる。B.trisporaによるカロテノイドの生産は、2つの相性のいい菌株を発酵の間に有性接合させることに依存しており、接合の前の約48時間の間、2種の菌株を単独で平行して発酵させておく必要がある。
【0016】
カロテノイド生合成の誘導は、βカロチンの分解産物である、接合型特異的フェロモンの拡散に基づく。前記分解産物の一つとしてトリスポル酸が有り、トリスポル酸は接合胞子の成熟の引き金となる主要なフェロモンとして作用する(例えば、非特許文献7参照)。このことは、各接合型間の比率を所望のβカロチン蓄積を達成するために最適化しなければならない、又はβカロチンの分解産物をβカロチン蓄積誘導のために添加しなければならないというさらなる問題点を引き起こす。
【0017】
もう一つの問題点として、B.trisporaのbroth培地に粘性が生じ、十分に混合し、必要とされる溶存酸素濃度を維持するために多量のエネルギーを導入しなければならないことが挙げられる。さらに、複雑な菌糸形態のため、βカロチン抽出は、菌糸体と抽出溶媒間で接触する表面積を大きくするために菌糸体を分解した後でなければ、高収率を得ることができない。菌糸体分解は、バイオマスの乾燥及びすりつぶし、乾燥及び分解、又は単に分解することでなされる(例えば、特許文献3参照)。
【0018】
前記方法の複雑さを考えると、既に日常的に菌株を大量生産している施設(例えば、抗生物質産生施設)内で、カロテノイド生産工程が行われる場合であれば、経済的実現可能性があると考えられる。βカロチンの工業生産のための他の真菌類の利用可能性は、実益をもたらすためには、通常、カロテノイド蓄積が低すぎるため、実験室レベルでのみ取り組まれている(例えば、非特許文献8参照)。また、いくつかの真菌類は、液体又は固体培地の表面でカロチンを選択的に産生するため、工業規模で生産することは困難である。
【0019】
いくつかの酵母菌株では、βカロチンを蓄積することも知られている(例えば、Rhodotorula glutinis(1.1mg/L)(例えば、非特許文献9参照)、Phaffia rhodozyma(10mg/L)(例えば、特許文献4参照))が、採算性のあるβカロチンの製造方法を得ることはできない。
【0020】
カロテノイドを過剰生産させるためのもう一つのアプローチとして、微細藻類の菌株を遺伝子操作することがある。これらの努力は、有望な成果が得られていない。例えば、形質転換した大腸菌が、乾燥バイオマスにおいて1mg/g以上のβカロチンを蓄積することが、典型的には報告されている(例えば、特許文献5参照)。近年、代謝的に操作された大腸菌が乾燥バイオマスにおいて30mg/g以上のβカロチンを蓄積することが報告された(例えば、非特許文献10参照)が、得られたβカロチンの純度は、産生された総カロテノイドに対して80%程度のみ残存しているに過ぎない。いくつかの他の研究において、カロテノイド産生遺伝子のクローニングを、細菌の菌株において行うこと(大腸菌に加えて、Methylomonas株も(例えば、特許文献6参照))、真菌類に対して行うこと(Fusarium sporotrichioides(例えば、特許文献7参照)、Phycomyces blakesleeannus(例えば、特許文献8参照)、Aspergillus nidulans(例えば、特許文献9参照))、及び、酵母に対して行うこと(Saccharomyces cerevisiae(例えば、特許文献9参照)、Pichia pastoris(例えば、特許文献9参照)が報告されている。典型的には、産物の滴定量が非常に低くなっている。また、いくつかの遺伝子は、組み替え型非カロテノイド産生細菌内にカロテノイドを産生させるために複製されているため、このような組み替え株は安定ではない。
【0021】
組み替え型微細藻類株で得たカロテノイド産物は、大部分のカロテノイドがヒト又は動物に利用されるものであるため、各業界においてヒト及び動物のために当該カロテノイド産物を材料とする遺伝子組み換え生物由来の原料又は添加物を非常に厳しく規制されており、市場に出すことが難しい。たとえこのような遺伝子組み換え生物由来の原料又は添加物が公認されていたとしても、非常に長く高価な安全を証明するための工程の後、遺伝子組み換え生物由来であることを示す標識を付す必要があり、これらを含有する食品又は飼料はまた、遺伝子組み換え生物由来組成物を含むことを示す標識を付す必要がある。遺伝子組み換え原料由来の食品生産物に対する消費者の反対を考えると、このような制度は、カロテノイドのような食品及び飼料市場を対象とする組成物の製品において重大な障害となる。
【0022】
[自然発生的なカロテノイド産生細菌の菌株]
いくつかのカロテノイド産生細菌の菌株が報告されている。このような菌株としては、シアノバクテリア、Erwinia uredovora(Pantoea ananatis)、(Erwinia herbicola(Pantoea agglomerans)、Flavobacterium、Rhodomicrobium vannielii、Protaminobacter ruber、好塩性細菌、及びマイコバクテリウムがある。
【0023】
これらの微生物は、しかしながら、典型的には、乾燥バイオマスにおいて1mg/g以下という非常に低い濃度でカロテノイドの混合物を産生する。また、これらの微生物は、典型的には比増殖速度が低く、そのため、カロテノイド産生率及び工程生産性が低くなる。従って、工業的に、採算性のある方法として用いることができない。実際、今までに報告されたβカロチンを自然に産生する細菌は、βカロチンの細胞内濃度が非常に低く、βカロチン特異性も低い。
【0024】
いくつかの細菌の菌株におけるカロテノイドの産生は、19世紀末から知られている(例えば、非特許文献11参照)ものの、そのわずか後に、色素のより正確な同定及び定量が可能な分析法が利用可能となっている。
【0025】
マイコバクテリウム・カンサシは、総カロテノイドに対して75%以上の濃度でβカロチンを蓄積することが報告されているが、βカロチンの細胞内濃度は、0.80mg/g細胞乾燥重量を超えていない(例えば、非特許文献12,13参照)。さらに、マイコバクテリウムの増殖率は、一般に低く、また、これらの菌株は、ステンレス鋼であっても表面に付着する傾向があり、生物反応器内での増殖及び上述したような工程を行うことが非常に困難である。また、マイコバクテリウム又は他の菌株内におけるカロテノイド産生は光誘導過程で行われ、そのために、生物反応器内で大規模に処理するのにさらなる制限がかかることが証明されている。
【0026】
Flavobacterium multivorum ATCC 55238を用いる方法が近年報告され(例えば、特許文献10参照)、これによれば、βカロチンの濃度が、総カロテノイドに対して最大βカロチン純度が80%である乾燥バイオマスにおいて、2.4mg/gに到達している。しかしながら、この方法では、カロテノイド蓄積を誘発するために、増殖中のいくつかの時点でトリカルボン酸回路の塩又は化合物を添加する必要がある。また、この菌株は、German Collection of Microoganisms and Cell Cultures(DSMZ)及びAmerican Type Culture Collection(ATCC)によりバイオセーフティーレベル2微生物とされており、これはヒト疾患に関連することを意味する。同様のことが、上述したPantoea agglomerans、マイコバクテリウム・カンサシ菌株にもいえる。
【0027】
総カロテノイドに対する純度が71%のβカロチンを16mg/L生産することができるSphingomonas菌株の分離が報告されている(例えば、非特許文献14参照)。さらなる栄養を添加した振盪フラスコ内で処理する場合、βカロチンの生産濃度が、純度89%で45mg/Lに到達するが、これは培養7日後のみである。
【0028】
近年、Paracoccus菌株を用い、βカロチンを100%の純度で生産することができると主張する方法が示された。しかしながら、報告されている濃度は、16mg/Lブロス培養液である(例えば、特許文献11参照)。これらの生産物及び生産性水準は、未だに不十分であり、採算性のある製造方法を実現することはできない。
【0029】
従って、我々の知る限り、複数の研究者及び企業により多くの努力がなされているにもかかわらず、農作物や廃棄物由来の再生可能であり安価な原材料を用いて、高い生産性、簡易性、構造安定性、及び大規模化・精製の容易さを、高い一貫性で備える天然βカロチンを生産する採算性のある製造方法はまだない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0030】
【特許文献1】米国特許第4199895号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第1367131号
【特許文献3】欧州特許第1306444号明細書
【特許文献4】欧州特許第0608172号明細書
【特許文献5】米国特許第5656472号明細書
【特許文献6】米国特許第6929928号明細書
【特許文献7】米国特許第6372479号明細書
【特許文献8】欧州特許第0587872号明細書
【特許文献9】米国特許第5656472号明細書
【特許文献10】米国特許出願公開第2005/0214898号明細書
【特許文献11】欧州特許第1676925号明細書
【特許文献12】欧州特許第0589285号明細書
【非特許文献】
【0031】
【非特許文献1】A. Schieber, R. Carle (2005) Occurrence of carotenoid cis-isomers in food: Technological, analytical, and nutritional implications. Trends in Food Science & Technology, 16: 416-422.
【非特許文献2】K.-J. Yeum, R.M. Russell (2002) Carotenoid bioavailability and bioconversion. Annual Review of Nutrition, 22: 483-504.
【非特許文献3】V. Bohm, N.L. Puspitasari-Nienaber, M.G. Ferruzzi, S.J. Schwartz (2002) Trolox equivalent antioxidant capacity of different geometrical isomers of a-carotene, b-carotene, lycopene, and zeaxanthin. Journal of Agricultural and Food Chemistry, 50: 221-226.
【非特許文献4】K.N.C. Murthy, A. Vanitha, J. Rajesha, M.M. Swamy, P.R. Sowmya, G.A. Ravishankar (2005) In vivo antioxidant activity of carotenoids from Dunaliella salina - a green microalga. Life Sciences, 76: 1381-1390.
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【非特許文献10】S.-W. Kim, J.-B. Kim, W.-H. Jung, J.-H. Kim, J.-K. Jung (2006) Over-production of beta-carotene from metabolically engineered Escherichia coli, Biotechnology Letters, 28: 897-904.
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【非特許文献13】M.A. Ingraham, C.A.Baumann (1933) The relation of microorganisms to carotenoids and vitamin A - I. The occurrence of carotene in bacteria, Journal of Bacteriology, 28: 31-40.
【非特許文献14】C. Silva, J.M.S. Cabral, F. van Keulen (2004) Isolation of a β-carotene over-producing soli bacterium, Sphingomonas sp., Biotechnology Letters, 26: 257-262.
【非特許文献15】K.S. Kang, G.T. Veeder, P.J. Mirrasoul, T.Kaneko, I.W. Cottrell (1982) Agar-like polysaccharide produced by a pseudomonas species: production and basic properties. Appl. Environ. Microbiol., 43: 1086-1091.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0032】
本発明は、例えば、これに限定するものではないが、飼料業界、食品業界、化粧品業界及び製薬業界で利用するための高純度でβカロチンを生産する、安価で再生可能な原材料を用いて、構造的にβカロチンを過剰生産する自然株から分離された新しい自然発生菌株を用い、一工程の制御容易かつ拡張可能な発酵処理を行う新規な方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0033】
本発明の高純度カロテノイドの生産方法は、例えば、これに限定するものではないが、飼料業界、食品業界、化粧品業界及び製薬業界において用いるために、安価で再生可能な原材料を用いて、一工程で、容易に制御可能であり、大規模発酵可能な、構造的にβカロチンを過剰生産する新規の自然発生菌株を用いることを特徴とする。
【0034】
[構造的にカロテノイドを過剰生産する突然変異菌株を得る方法]
本発明において、Sphingomonas属と同定された、構造的にβカロチンを産生する自然発生菌株が土壌から分離された。全てのカロテノイド産生生物に共通することであるが、分離された菌株は、カロテノイド産生経路を介して生じる混合カロテノイドを生産する。
【0035】
本発明では、分離された菌株の改良方法は、化学的、物理的誘導の必要なしに、又はトリカルボン酸回路若しくはカロテノイド産生経路で用いられる成分を添加することなしに、細胞内カロテノイド濃度を最大化するため、及び他のカロテノイドに対するβカロチン純度を最大化するために開発された。
【0036】
本発明の変異誘発方法は、10%以下の生存率となるように設定されると共に、菌株の自然突然変異を促進し、該変異した菌株を検出する試行である、典型的な変異誘発技術を用いた。
【0037】
本発明の変異誘発方法は、突然変異体によって形成されたコロニーの視感色彩観察及び分光測定、並びに突然変異体(特に、親株に対して異なる検出可能な色を呈するもの)の色素成分のクロマトグラフ分析の両方である一連の検出方法を用いる。従って、本発明の方法は、改良されたカロテノイド過剰生産菌株を製造するための迅速かつ実行容易な方法を提供する。
【0038】
本発明の方法によれば、実施例1、2に示すように、元の分離株より高濃度のβカロチンが、高純度で蓄積される突然変異菌株を得ることができる。元の分離株と得られた突然変異体との16S rRNA遺伝子の配列は、98%の相同性を有することが観察された。
【0039】
系統発生解析により、本発明により得られ、さらに、下記特徴を有する突然変異菌株は、Sphingomonas菌株であることが示されている。本発明により得られたSphingomonas突然変異菌株は、他のカロテノイド産生微生物に比較して、高い増殖率を有し、βカロチンを10mg/g乾燥細胞重量より高濃度に蓄積し(最大0.20h−1で、48時間以内に100光学濃度単位に到達することができる)、そして、総カロテノイドに対して得られるβカロチン純度が自然に90%より高く蓄積される。
【0040】
これらのパラメータの全ては、最新技術として利用可能な自然に生じた細菌を用いる天然βカロチンの生産方法に関する主な改良点であり、大規模商業生産するために魅力的な菌株を初めて提供する。また、選抜された菌株は、大規模生産において安全且つ従順であり、例えば、ビオチン及びジェランガムのような食品添加物を生産するSphingomonas菌株を用いる他の方法に類似している(例えば、特許文献12、非特許文献15参照)。
【0041】
[カロテノイドの大規模生産方法]
本発明はまた、本発明の選択及び変異誘発方法を用いて得られた細菌の菌株の大規模培養方法を初めて提供するものであり、このような方法によれば、バイオマスの生産量、バイオマス単位当たりのカロテノイド、より好ましくはβカロチンの生産量、総カロテノイド中における特定のカロテノイド、より好ましくはβカロチンの特異生産量を最大化することができる。本発明の方法は、農産物及び飼料にされる廃棄物由来の再生可能な原材料を用い、トリカルボン酸回路又はカロテノイド産生経路で用いられる成分を添加することなしに、増殖を最大化し、特定のカロテノイド、より好ましくはβカロチンの蓄積を誘導する条件下にある閉鎖系の制御されている生物反応器内での培養により菌株を生産する方法である。本発明は、産生されたバイオマス及びカロテノイド蓄積、並びにそれらの各生産性を最大化するための温度、pH、溶存酸素濃度、栄養素濃度のような培養パラメータの最適範囲を提供する。我々の知る範囲では、本発明の方法は、工業規模で生産する際に参考となる、制御された生物反応器中の自然発生細菌の菌株又はその突然変異体を用い、βカロチンを生産する新規の方法であり、これにより、生産施設において用いられる条件を確立することができる。
【0042】
利用可能なカロテノイドを生産するための生物学的方法は全て、カロテノイドを蓄積する細胞を破壊する工程を含んでいる。カロテノイドは、それ自体、細胞成分の複雑な混合物を含む画分に混在しているため、必要とされる純度の化合物であり、高価値なカロテノイドを得るためには、精製工程が必要とされる。本発明の方法における精製工程は、従来のいかなる細胞破壊工程も用いることなしに、バイオマスから実質的に精製されているカロテノイドの抽出を直接行うことができるという大きな利点を有する。このようにして、本発明の方法における精製工程は、細胞が破壊される際に放出されるバルク細胞成分(bulk cellular component)の画分からカロテノイドを分離する工程を備える必要がない。これは、後の処理において必要となる工程を減らすことだけでなく、簡易且つ費用効率の高い抽出工程手段によって、非常にきれいなカロテノイド抽出を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0043】
本発明は、構造的にカロテノイド、より好ましくはβカロチンを過剰生産する自然発生細菌の菌株、又はその突然変異体、特に、βカロチンを過剰生産するSphingomonas属に属する新規な細菌の菌株、又はその突然変異体と、農産物又は廃棄物由来の安価で再生可能な原材料を用い、再生可能であり、健全な、制御しやすく、拡張性のある発酵工程を備える前記自然発生細菌の菌株又はその突然変異体を用いる方法と、それに続く高収率のカロテノイド(実質的に純カロテノイドであり、最も好ましくは、これに限定するものではないが、飼料業界、食品業界、化粧品業界、及び製薬業界において使用される実質的に純βカロチン)を得ることができる簡易な精製工程に関する。
【0044】
本発明は、(i)自然分離株又はその突然変異体から得られる、構造的にカロテノイド、より好ましくはβカロチンを過剰生産する細菌の菌株の選抜、(ii)体積及び時間に対して生産されるバイオマスの量を最大化し、単位バイオマス及び時間に対して生産されるカロテノイド、より好ましくは、実質的に純カロテノイド、最も好ましくは、実質的に純βカロチンの量を最大化することを目的として、自然発生細菌の菌株又はその突然変異体を用いる、制御される改良された発酵条件、及び天然溶媒を用いて前記カロテノイド、より好ましくは、実質的に純カロテノイド、最も好ましくは、実質的に純βカロチンを精製する方法の開発という側面を備える。
【0045】
本発明の製造方法は、現在工業的に用いられている化学合成方法に対抗するものであり、βカロチンの生物学的生産の代替とすることができることを特徴とする。
【0046】
本発明において、「自然発生細菌の菌株」という表現は、天然の源、特に、土壌から分離することができ、自然に、かつ、構造的にカロテノイドを生産することができる細菌を示すと定義される。
【0047】
本発明において、「実質的に純カロテノイド」という表現は、自然発生細菌の菌株によって産生された特定のカロテノイドの量が、当該細菌の菌株が産生した総カロテノイドの50%以上、より好ましくは80%以上、最も好ましくは、90%以上であると定義される。
【0048】
本発明において、「実質的に純βカロチン」という表現は、自然発生細菌の菌株によって産生されたβカロチンの量が、当該細菌の菌株が産生した総カロテノイドの50%以上、より好ましくは80%以上、最も好ましくは、90%以上であると定義される。
【0049】
本発明において、「バイオマスの量を最大化する」という表現は、600nmの波長で測定されたバイオマス濃度が、少なくとも20光学濃度単位、より好ましくは、少なくとも50光学濃度単位、最も好ましくは、少なくとも100光学濃度単位に達することと定義される。
【0050】
本発明において、「実質的に純カロテノイドの濃度を最大化する」という表現は、実質的に純カロテノイドの濃度が、少なくとも1mg/g細胞乾燥重量、より好ましくは、少なくとも3mg/g細胞乾燥重量、最も好ましくは、5mg/g細胞乾燥重量に達することと定義される。
【0051】
本発明において、「天然溶媒」という表現は、毒物学的に無害、又はICH(医薬品規制ハーモナイゼーション国際会議)ガイドラインのクラスIIIに含まれる溶媒であると定義される
(i)自然発生細菌の菌株由来の構造的にカロテノイド過剰生産する突然変異体の製造及び選抜
本発明は、カロテノイド過剰生産菌株、より好ましくは、実質的に純カロテノイド過剰生産菌株、最も好ましくは、実質的に純βカロチン過剰生産菌株を同定するための一連の表現型試験を伴う典型的な突然変異誘発技術を用いるか、又は自然突然変異による突然変異体の製造に基づく自然発生細菌の菌株の改良のための方法を提供する。
【0052】
本発明において、分離菌株の改良方法は、細胞内カロテノイド濃度を最大化し、他のカロテノイドに対するβカロチンの純度を最大化するために開発された。
【0053】
本発明の変異誘発方法は、菌株の自然突然変異を促進するように設計された試行において、生存率が10%以下となる変異誘発条件を備えるように設計された。従って、前記試行において生き残った細胞のコロニーを、容易に個々に選抜して分離することができるように設計されている。
【0054】
本発明の変異誘発方法は、突然変異体によって形成されたコロニーの視感色彩観察及び分光測定、並びに突然変異体(特に、親株に対して異なる検出可能な色を呈するもの)の色素成分のクロマトグラフ分析の両方である一連の検出方法を用いる。
【0055】
本発明の方法において、親株の特徴が改良された菌株を選抜するために用いられる基準は、蓄積された総カロテノイド、又は単位バイオマス若しくは単位培養液に対する単一のカロテノイド、より好ましくはβカロチンの少なくとも5%の増加、又は総カロテノイドに対する単一のカロテノイド、より好ましくはβカロチンが蓄積された画分の少なくとも5%の増加である。ここで記載されている、単一のカロテノイド、より好ましくはβカロチン生産が改良された突然変異体を得るための方法は、さらにその能力を改良するため、得られた突然変異体に適用することができる。
【0056】
本発明の変異誘発方法は、土壌から分離された自然にカロテノイドを蓄積するSphingomonas菌株(配列番号1)を改良することができる。この分離株は、0.18h−1の比増殖速度を有し、構造的にカロテノイドを1.7mg/g乾燥細胞重量の濃度で蓄積することができ、そのうち29%がβカロチンである。
【0057】
本発明の変異誘発方法及び選抜方法を3回行って子孫を選抜することで、新しいSphingomonas菌株(Sphinomonas sp. M63Y(配列番号2)を得た。新しいSphingomonas菌株は、振盪フラスコ中で培養する際、高い増殖率(0.20h−1)及びβカロチンに対する高い特異性(総カロテノイドに対して78%の純度で4.8mg/g乾燥細胞重量の濃度)で構造的にカロテノイドを蓄積することを示す。
【0058】
(ii)選抜された過剰生産細菌の菌株を用いる、制御される改良された発酵条件での高純度カロテノイドの製造方法
カロテノイド、より好ましくはβカロチン過剰生産自然発生菌株又はその突然変異体を用いる新規方法の発酵工程は、細胞再利用をするか又は細胞再利用をしない、回分発酵、半回分発酵、連続発酵、又はその組合せ若しくはその類似方法などの通常行われる方法で行うことができる。バイオマス生産の点で最も高い生産性及び収率を得ることができる発酵条件は、実質的に純カロテノイド生産の点で最も高い生産性及び収率を得ることができる発酵条件とは異なっているので、発酵処理は、異なる目的においては異なる工程としてもよい。例えば、ある工程はバイオマス濃度を最大化する目的を備えていてもよく、一方、他の工程は実質的に純カロテノイドの濃度を最大化する目的を備えていてもよい。初期発酵条件では、バイオマス濃度を最大化するためのものであることが好ましいが、これらの工程を適切な順序で組み合わせることができる。
【0059】
バイオマス濃度を最大化するための発酵条件を備える工程に続いて、実質的に純カロテノイドの濃度を最大化する発酵条件を備える工程、又は以前の工程とは異なる発酵条件を備えるがバイオマス濃度を最大化する目的も備える発酵条件を備える工程が行われる。
【0060】
実質的に純カロテノイドの濃度を最大化するような発酵条件を備える工程に続いて、バイオマス濃度を最大化するような発酵条件を備える工程、又は実質的に純カロテノイドの濃度を最大化する目的も備える以前の工程とは異なる発酵条件を備える工程が行われる。
【0061】
また、バイオマス及びカロテノイド間で妥協することができる発酵条件を備える工程を全発酵工程で行うことができる。
【0062】
各工程に用いられる発酵形態は、上述した細胞再利用をするか、又は細胞再利用をしない、回分発酵、半回分発酵、連続発酵、又はその組合せ若しくはその類似方法などの発酵形態から個別に選択することができる。
【0063】
前記各工程における生物反応器内の条件は、温度−時間プロフィール、pH−時間プロフィール、溶存酸素濃度−時間プロフィール、摂食率、又は培養能力に影響を与える他のパラメータの観点からそれぞれ設定することができる。ある工程において、発酵形態が栄養摂食を含む場合、当業者によって容易に確立される期待増殖率、及び期待バイオマス/栄養収率、又は他の所定の適切な摂食制御をするための摂食率は、推測的に、例えば、一定摂食率を用いるか、又は制限する栄養要求に関連する数学的方程式によって計算される摂食率が用いられる。
【0064】
栄養摂食率は、例えば、これに限定するものではないが、pH、溶存酸素、発酵排ガス中の酸素又は二酸化炭素濃度、呼吸商、グルコース濃度、又は他の炭素源濃度若しくはその組合せの制御に基づくあらゆる種類の制御ループによって決定されうる。
【0065】
いかなる発酵工程においても、発酵の他の添加物として、当業者に知られている適切な消泡剤を添加することができる。
【0066】
細菌細胞内の実質的に純カロテノイドの蓄積は、これに限定するものではないが、ゆっくりと代謝される炭素源の添加、カロテノイド生合成経路の前駆体の添加、増殖阻害物質の添加、培養液pHの変化、温度変化、塩濃度の変化、炭素源濃度の変化、窒素源濃度の変化、炭素/窒素比率の変化、溶存酸素濃度の変化などのストレス要因を含むいくつかの要素により影響を与えることができる。
【0067】
前記ストレス要因は、単独でもよく、組み合わせて用いてもよい。前記ストレス要因は、発酵時間経過の間、一度だけ付加してもよく、繰り返し付加してもよい。
【0068】
栄養の割合は、微生物の増殖必要性及び生産水準の関数として決定することもできる。培地成分の添加物として、最小濃度から最大濃度の間の適切な範囲で存在するように制御することができる。例えば、過度のグルコース濃度は成長阻害を引き起こし、一方でグルコース濃度を低く制限しすぎると生産性が低下する。
【0069】
同様に、過剰の塩濃度は、培養に有害な培地のイオン強度の増大を引き起こすことがあり、一方で塩濃度を低く制限しすぎると、必須の共要素から培養物を奪うことがある。また、溶存酸素濃度は、水酸化カロテノイドと非水酸化カロテノイド間のバランスに影響を及ぼし、その結果、生産されるカロテノイドの純度に影響を与える。
【0070】
ある自然発生細菌の菌株を用いるカロテノイド、より好ましくは、実質的に純カロテノイド、最も好ましくは実質的に純βカロチンを生産するための本発明は、さらに、発酵工程の間に生産されたバイオマスを分離し、続いて行われるカロテノイド、より好ましくは、実質的に純カロテノイド、最も好ましくは純βカロチンを抽出し、精製する適切な精製工程を備える。
【0071】
より好ましくは、本発明による精製工程は、細胞破壊処理を含まず、適切な天然溶媒又は適切な天然溶媒の混合物で行われた発酵工程の間に産生されたバイオマスから、カロテノイド、より好ましくは、実質的に純カロテノイド、最も好ましくは、実質的に純βカロチンを直接抽出し(最終的には、洗浄工程が先行して行われる)、続いて、他の天然溶媒又は天然溶媒の混合物に抽出され、得られた抽出物を最終仕上げ工程により最終処理する。
【0072】
全発酵培養液からバイオマスを分離する工程は、モジュール中のバイオマスを含むろ過材によって構成される境界(barrier)において、バイオマスを除く液体が通過できる、ストリップ式(strips)、回転式、圧力式、有機、又は無機の膜の何れかを用いる現在のろ過技術を用いて確立されたろ過操作により、又は遠心分離機、デカンタ若しくはその同等な装置を用い、培養液とバイオマスとの密度の違いを利用し、より比重の高い相をバイオマスの損失が最小となる可能な限り最小量の液相から濃縮・分離する遠心分離により行うことができる。
【0073】
これらの工程に、これらに限定するものではないが、水、生理食塩水、天然有機溶媒などの適切な洗浄溶液が添加され、その後、残るバイオマスから分離する洗浄工程がさらに加えられる。実質的に純カロテノイドは細胞内部にあるが、本発明の方法は、細胞破壊工程なしで、バイオマスから実質的に純カロテノイドを直接抽出することができるという、微生物を用いるカロテノイドの生産方法に対する重要な利点を有する。
【0074】
このように、本発明の方法は、細胞が破壊された際に、対象とする細胞内化合物が放出されてなるバルク細胞成分の画分からカロテノイドを分離する必要がない。
【0075】
上述したように生産されたバイオマスから実質的に純カロテノイドを抽出するために、異なる有機溶媒を用いることができる。本発明は、カロテノイド成分に対して適度に高い可溶性を有する天然物又はその混合物とみなされる、製薬及び食品の両方において許容される食品等級溶媒を用いることに関する。このような溶媒は、回収及び再利用することができる。この抽出工程に続いて、使用済みバイオマス及びバイオマスの残滓を取り除くために、抽出物からバイオマスを分離する工程が行われる。
【0076】
従来、この工程は、ろ過、遠心分離、又はデカンテーションのような固液分離単位操作で行われる。その後、澄んだ抽出物をさらに、疎水性溶媒又は疎水性溶媒の混合物を用い、バイオマスから共抽出される膜脂質から実質的に純カロテノイドを分離する液液抽出単位操作により処理する。
【0077】
膜脂質は両極性であり、好ましくはケトン/アルコール相に分離されるが、実質的に純カロテノイド、特に、実質的に非水酸化純カロテノイドは、無極性であり、疎水性相に分離される。前記混合物には、水を添加することができ、不要な化合物の分離をさらに改良することができる。
【0078】
このような精製された実質的に純カロテノイドは、その後、実質的に純カロテノイドを実質的に不溶である抽出化合物に添加して結晶を形成させ、続いて、ろ過又は遠心分離により結晶を回収し、最後に、残留溶媒を取り除くために、得られた結晶を真空乾固させるような、当業者によって知られている技術により結晶化される。
[発明の詳細な説明]
本発明は、構造的にカロテノイド、より好ましくはβカロチンを過剰生産する自然発生細菌の菌株又はその突然変異体、安価で再生可能な原材料を用い、改良された発酵条件におけるカロテノイド、より好ましくはβカロチンの生産方法、飼料業界、食品業界、化粧品業界及び製薬業界に用いるために以前得られた発酵培養液から高純度の特定の結晶カロテノイドを浄化し、分離する方法に関する。
【0079】
1.細菌の菌株
本発明では、以下のMycobacterium属、Pseudomonas属、Dietzia属、Flavobacterium属、Paracoccus属、Rhodococcus属、Blastomonas属、Sphingomonas属、Brevibacterium属、Erwinia属、Pantoea属、Agrobacterium属、Paracoccus属、Erythrobacter属、Xanthobacter属、Sphingobacteria属、Rhodobacter属、Gordonia属、Rubrobacter属、Arthrobacter属、Novosphingobium属、Nocardia属、Corynebacterium属、Streptomyces属、Enterobacteriaceae属、Themobifida属、Enterobacter属、Brevundimonas属、Roseiflexus属、Sphingopyxis属、Aurantimonas属、Photobacterium属、Robiginitalea属、Polaribacter属、Tenacibaculum属、Parvularcula属、Deinococcus属、Chloroflexus属、より好ましくは、Mycobacterium属、Pseudomonas属、Dietzia属、Flavobacterium属、Paracoccus属、Rhodococcus属、Blastomonas属、Sphingomonas属、Brevibacterium属、Erwinia属、Pantoea属、Agrobacterium属、Paracoccus属、Erythrobacter属、Xanthobacter属、Sphingobacteria属、Rhodobacter属、Gordonia属、Rubrobacter属、Arthrobacter属,Novosphingobium属、Nocardia属、Corynebacterium属、Streptomyces属に属する細菌、最も好ましくは、Mycobacterium属、Pseudomonas属、Dietzia属、Flavobacterium属、Paracoccus属、Rhodococcus属、Blastomonas属、Sphingomonas属、Brevibacterium属、Erwinia属、Pantoea属、Paracoccus属、Erythrobacter属、Xanthobacter属、Rhodobacter属、Gordonia属、Novosphingobium属、Nocardia属、Corynebacterium属に属する細菌、最高に好ましくは、Mycobacterium属、Pseudomonas属、Dietzia属、Flavobacterium属、Paracoccus属、Rhodococcus属、Blastomonas属、Sphingomonas属に属する細菌を分離する。これらの細菌の内、特に、土壌から分離され、配列番号1の16S rRNA遺伝子配列を有する特定のSphingomonas sp.菌株であることが好ましい。
【0080】
本発明の変異誘発方法及び選抜方法を用いる自然分離株から派生した細菌もまた用いられる。本発明の変異誘発方法及び選抜方法を用いて得られた、高い特異性でβカロチンを過剰生産するSphingomonas M63Y菌株が特に好ましい。本発明の変異誘発方法及び選抜方法を用いて得られた改良菌株は、以下の特徴を有する。
【0081】
[形態学的特徴]
Sphingomonas M63Y菌株は、グラム陰性、棒状、及び非芽胞形成である。
【0082】
[生理的特徴]
Sphingomonas M63Y菌株は、ニュートリエント寒天培地において、円形で、滑らかな、オレンジ色のコロニーを形成する。M63Y菌株は、20〜30℃の範囲の温度で増殖することができ、最適温度は27℃である。API20NEキット(ビオメリュー社製、仏国)によって決定される他の生理的特徴を以下に示す。

【0083】
[消化能]

【0084】
[化学分類上の特徴]
M63Y菌株は、メソ‐ジアミノピメリン酸(メソ‐Dpm)、典型的にはA1γ型ペプチドグリカンを含む。主なイソプレンのキノンは、全キノンの80%を占めるユビキノン‐10である。
【0085】
[細胞脂肪酸組成]

【0086】
M63Y菌株は、スフィンゴ糖脂質を含む極性脂質を産生する。主なカロテノイドは、βカロチンであるが、他のカロテノイドもまた検出される。M63Y菌株のDNAのG+C含有量は、66.6mol%である。
【0087】
[系統発生解析]
M63Y菌株の16S rRNA遺伝子配列の約95%は、PCRで増幅された16S rDNA(配列番号2)の直接配列決定によって決定される。ゲノムDNA抽出、16S rDNAのPCRを介する増幅、及びPCR産物の精製を行い、精製したPCR産物を、配列決定した。配列決定反応を電気泳動により行い、得られた配列データを位置合わせし、αプロトバクテリアに属する細菌の代表的な16S rRNA遺伝子配列と比較する。16S rRNA遺伝子類似値を、位置合わせ中に配列の対比較を行うことで計算する。M63Y菌株は、Sphingomonas属に属する種に密接に関連しており、この種と共にクラスターを形成する。M63Y菌株の配列は、Sphingomonas oligophenolicaと非常に高水準の類似性(98.5%)を示し、Sphingomonas echinoideとして(97.9%の類似性)同じクラスター内に置かれる。M63Y菌株の配列は、基のSphingomonas分離株と98%類似性を示す。Sphingomonas oligophenolica及びSphingomonas echinoidesに対するM63Y菌株のDNA−DNAハイブリダイゼーションが行われ、そのDNA−DNAの類似性は、それぞれ16%、3%であった。
【0088】
これらの結果は、本発明の方法を用いて得られた改良菌株が、新規のSphingomonas菌株であることを示唆している。
【0089】
2.自然発生細菌の菌株の製造及び選抜方法
本発明は、カロテノイド過剰生産菌株、より好ましくは、実質的に純カロテノイド過剰生産菌株、最も好ましくは、実質的に純βカロチン過剰生産菌株を同定するための一連の表現型試験を伴う典型的な突然変異誘発技術を用いるか、又は自然突然変異による突然変異体の製造に基づく自然発生細菌の菌株の改良のための方法を提供する。
【0090】
2.1.改良菌株
これに限定するものではないが、土壌などの自然源から分離されたカロテノイドを蓄積する自然発生細菌の菌株、又はその突然変異体を、他で記載されている通りに培養した(例えば、非特許文献16参照)。
【0091】
選抜された菌株が活発に増殖している培養液の細胞を、遠心分離(15000Gで30秒)により回収し、0〜40μg/mlの範囲の濃度、より好ましくは0〜20μg/mlの範囲の濃度、最も好ましくは0〜15μg/mlの範囲の濃度のエチルメタンスルホン酸塩(EMS)又はニトロソグアニジンを含む15mMのリン酸緩衝液(pH6.5)で2時間以下の時間、より好ましくは1時間以下の時間、最も好ましくは30分以下の時間、菌株の増殖に適切な温度で処理することで、90%以上、より好ましくは99%近くの死亡率を達成させた。
【0092】
このように処理した細胞を、生理食塩水で2回洗浄し、標準的な培養液で少なくとも3時間の間、より好ましくは一晩培養する。
【0093】
得られた培養液を希釈して、標準的な固体培地のプレートにまき、コロニーを形成するのに十分な期間、菌株の増殖に適した温度で培養した。非処理の培養細胞のサンプルを参照として配置した。培養液の希釈は、プレートに対してコロニーが250以下、より好ましくは100以下、最も好ましくは50近くとなるようにし、プレート毎に50個の単一コロニーを得た。
【0094】
2.2.改良菌株の選抜
先ず、コロニーの色及び形態に基づく、視覚による表現型分析による選抜を行った。参照サンプルとしてまかれた親株のコロニーの色に比較していかなる色の変化も示さないコロニー、又は粘性を示すコロニーを不採用とした。
【0095】
色が変化したコロニーを、発酵完了まで(約72時間)液体培地で増殖し、バイオマス、総カロテノイド、及びβカロチン生産の分析を行った。バイオマス濃度に相関する発酵培養液の濁度を、波長600nmで測定した。
【0096】
カロテノイド分析のため、細胞を遠心分離により回収し(15000G、30秒間)、その後、沈渣を生理食塩水で再懸濁し、続いて、遠心分離(15000G、30秒間)を行った。洗浄された細胞沈渣を、適切な溶媒、又は溶媒混合物を用い、室温で抽出する。適切な溶媒としては、これに限定するものではないが、メタノール、アセトン、及びジクロロメタン、又はそれらを組み合わせたものを挙げることができる。
【0097】
抽出物を遠心分離し(15000G、30秒間)、他で記載されているように、カロテノイドを薄層クロマトグラフィ(TLC)、及びHPLCで分析した(例えば、非特許文献16参照)。
【0098】
改良された特徴を有する突然変異体菌株を選抜するための基準は、総カロテノイド、又は単一カロテノイド、より好ましくはβカロチンの蓄積が、単位バイオマス又は単位培養液に対して少なくとも5%増加している、又は総カロテノイドに関して単一カロテノイド、より好ましくは、βカロチンが蓄積された画分が少なくとも5%増加していることである。ここで、単一カロテノイド、より好ましくは、βカロチン産生が改良された突然変異体を得るための方法を、得られる突然変異体の能力をさらに改良するために適用することもできる。
【0099】
3.改良された、制御される発酵条件、及び自然発生細菌、若しくはその突然変異体を用いる精製工程の開発によるカロテノイドの生産方法
本発明の他の目的は、培養中に、とりわけpH、溶存酸素、及び炭素源濃度を制御し、バイオマスを分離し、前記培養工程の間に産生されたバイオマスから、カロテノイド、より好ましくは実質的に純カロテノイド、最も好ましくは実質的に純βカロチンの抽出及び精製するために定義された戦略を適用することで、液体培地中の自然発生細菌の菌株、又はその突然変異体を用い、カロテノイド、より好ましくは実質的に純カロテノイド、最も好ましくは純βカロチンの生産方法を提供することである。
【0100】
培養工程は、1種以上の炭素源、1種以上の窒素源、及び無機塩を含む培地で行うことができる。単一栄養素、又は複合栄養素として用いることができる炭素源は、炭水化物(例えば、これに限定するものではないが、グルコース、スクロース、フルクトース、ラクトース、デンプン、精製された若しくは炭水化物を含むバルク混合物(例えば、これに限定するものではないが、トウモロコシ抽出液及び乳清など)、食用油、より好ましくは植物油(例えば、これに限定するものではないが、オリーブ油、大豆油、菜種油、ヤシ油、ピーナッツ油、キャノーラ油、又は他の吸収可能な炭素又はエネルギー源(例えば、これに限定するものではないが、グリセロール及び脂質)を含んでいる。0〜40g/Lの範囲の濃度、より好ましくは、0〜20g/Lの範囲の濃度、最も好ましくは、0〜10g/Lの範囲の濃度であるグルコースを主炭素源とすることが好ましい。
【0101】
発酵工程で用いられる窒素源としては、有機源及び無機源(例えば、これに限定するものではないが、大豆皮、大豆粉、トウモロコシの粉、酵母抽出物、綿粉、ペプトン、カゼイン、アミノ酸、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウム、水酸化アンモニウム)を含んでいる。発酵工程の間、炭素/窒素比率が、各発酵工程において適切な値となるように制御することができる。この比率は、窒素当量に対する炭素当量の比率が、好ましくは10〜20の範囲であり、より好ましくは12〜15の範囲である。
【0102】
発酵工程に用いられる無機塩は、これに限定するものではないが、リン酸塩、硫酸塩、塩化物、又は陽イオン、例えば、これに限定するものではないが、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム、銅、鉄、マンガン、マグネシウム、又は亜鉛のモリブデン酸塩を含んでいる。リン酸濃度は、1〜10g/Lの範囲の濃度、より好ましくは、2〜4g/Lの範囲の濃度に維持され、マグネシウム濃度は、0.01〜0.2g/Lの範囲の濃度、より好ましくは、0.05〜0.15g/Lに維持される。
【0103】
発酵工程は、好気状態かつ培養液に浸漬した状態で行われる。温度条件は、20〜37℃の範囲であることが好ましく、より好ましくは22〜31℃の範囲であり、最も好ましくは24〜28℃の範囲である。
【0104】
発酵工程において、培養液の溶存酸素は、酸素飽和度が100〜0%の範囲の間、より好ましくは、50〜0.5%の範囲の間、最も好ましくは、30〜1%の範囲の間の水準に制御される。溶存酸素濃度は、培養液への空気流量、及びタービン若しくは羽根車の攪拌速度の調整に影響を与えるように結合する適切な手段によって制御される。別の方法として、空気流を富酸素とすることができる。制御設定値は、固定値にしてもよく、時間と共に可変な値であってもよい。βカロチンの蓄積が望ましい場合、酸素濃度を50%酸素飽和度以下、より好ましくは酸素飽和度を10%以下、最も好ましくは酸素飽和度を5%以下に維持するべきである。
【0105】
発酵工程の間のpHは、酸若しくはアルカリ又は炭素源を添加することにより、6.0〜8.0の範囲の間に、より好ましくは6.4〜7.6の範囲の間に制御される。前記制御は、培養の増殖パターンに依存して、一般的には発酵の1〜48時間後、より好ましくは10〜28時間後、又は炭素源の取り込み若しくは枯渇それぞれの結果として、培養液のpHの低下若しくは増大が最初に生じたときに開始される。前記制御設定値は、固定値にしてもよく、時間と共に可変な値であってもよい。
【0106】
本発明の自然発生細菌の菌株を用い、カロテノイド、より好ましくは実質的に純カロテノイド、最も好ましくは純βカロチンを生産するための方法は、さらにバイオマスを分離するための精製工程と、その後、発酵工程の間に生産されたバイオマスからカロテノイド、より好ましくは実質的に純カロテノイド、最も好ましくは、実質的に純βカロチンを抽出し、精製する工程を備える。
【0107】
精製の単位操作及びその順序は、当業者であれば容易に選択することができる。より好ましくは、本発明による方法の精製工程は、適切な天然溶媒又は適切な天然溶媒の混合物を用いた発酵工程の間に生産されたバイオマスから、カロテノイド、より好ましくは実質的に純カロテノイド、最も好ましくは実質的に純βカロチンを直接抽出し、最終仕上げ工程によりこのようにして得られた抽出物を最終処理する工程を備える。
【0108】
全発酵培養液からバイオマスを分離する工程は、モジュール中のバイオマスを含むろ過材によって構成される境界(barrier)において、バイオマスを除く液体が通過できる、ストリップ式(strips)、回転式、圧力式、有機、又は無機の膜の何れかを用いる現在のろ過技術を用いて確立されたろ過操作により、又は遠心分離機、デカンタ若しくはその同等な装置を用い、培養液とバイオマスとの密度の違いを利用し、より比重の高い相をバイオマスの損失が最小となる可能な限り最小量の液相から濃縮・分離する遠心分離により行うことができる。これらの工程に、これらに限定するものではないが、水、生理食塩水、天然有機溶媒などの適切な洗浄溶液が添加され、その後、残るバイオマスから分離する洗浄工程がさらに加えられる。この結果得られるバイオマスは、発酵工程で生産されたカロテノイドの80%以上、より好ましくは95%以上、最も好ましくは99%以上を含んでいる。
【0109】
実質的に純カロテノイドは細胞内部にあるが、本発明の方法の精製工程は、細胞破壊工程なしで、本発明の方法により選抜された細菌の菌株のバイオマスから実質的に純カロテノイドを直接抽出する工程を備える。バイオマスから実質的に純カロテノイドを直接抽出するために、異なる有機溶媒を用いることができる。本発明は、カロテノイド成分に対して適度に高い可溶性を有する天然物又はその混合物とみなされる、製薬及び食品の両方において許容される食品等級溶媒を用いることに関する。より好ましくは、ケトンとアルコールとの混合物が用いられ、最も好ましくは、アセトンとエタノールとの混合物が用いられ、最も好ましくは、アセトンとメタノールとの混合物が用いられ、ケトン:アルコールが0:1から1:0であり、より好ましくは、ケトン:アルコールが1:9から9:1であり、最も好ましくは、ケトン:アルコールが2:7から7:2である。
【0110】
抽出温度は、室温から溶媒の沸点の範囲の間で多様に設定することができ、より好ましくは室温から80℃の範囲の間であり、最も好ましくは室温である。
【0111】
抽出時間は、実質的に純カロテノイドが溶解するのに必要最小限の時間であり、1秒から1時間の範囲の時間、より好ましくは、1分から14分の範囲の時間である。溶媒又は溶媒混合物は、5〜100ml/gの範囲の濃度で、温度及び実質的に純カロテノイドの質量と、バイオマスの質量との間の比率に依存して決定される量が用いられる。
【0112】
抽出回数は、1〜3回の範囲で設定され、好ましくは3回以下である。連続抽出は、適切な滞留時間で用いられる。
【0113】
実質的に純カロテノイドの抽出の収率は、85%以上であり、より好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上である。
【0114】
この抽出工程に続いて、使用済みバイオマス及びバイオマスの残渣を取り除くために、抽出物からバイオマスを分離する工程が行われる。従来、この工程は、ろ過、遠心分離、又はデカンテーションのような固液分離単位操作で行われる。
【0115】
その後、澄んだ抽出物をさらに、疎水性溶媒又は疎水性溶媒の混合物を用い、バイオマスから共抽出される膜脂質から実質的に純カロテノイドを分離する液液抽出単位操作により処理する。膜脂質は両極性であり、好ましくはケトン/アルコール相に分離されるが、実質的に純カロテノイド、特に、実質的に非水酸化純カロテノイドは、無極性であり、疎水性相に分離される。前記混合物には、水を添加することができ、不要な化合物の分離をさらに改良する。より好ましくは、このような溶媒は、これらに限定するものではないが、ヘキサン、及びtert−ブチルメチルエーテルが用いられる
このようにして精製された実質的に純カロテノイドは、その後、実質的に純カロテノイドが実質的に不溶である抽出化合物に添加して結晶を形成させ、続いて、ろ過又は遠心分離により結晶を回収し、最後に、残留溶媒を取り除くために、得られた結晶を真空乾固させるような、当業者によって知られている技術により結晶化される。
【0116】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する(ただし、これに限定するものではない)。
【実施例1】
【0117】
[土壌から分離された自然発生Sphingomonas菌株の化学的突然変異誘発によるβカロチン過剰生産突然変異体の誘導]
土壌サンプルをポルトガルのグレーターリスボン地域の様々な箇所で回収した。回収したサンプルを、水で懸濁して連続希釈し、アガロースプレートに植菌した。黄色、及びオレンジ色をしたコロニーを分離し、表現型安定性、及び汚染菌株の不存在を確認するために4回再植菌した。また、所定期間の間、暗所でインキュベーションすることで、発色が本質的なものであり、光誘導によるものではないことを確認した。
【0118】
前記菌株をAPI 20NEキット(24〜48時間でグラム陰性を同定する非腸内細菌科キット、ビオメリュー社製、仏国)を用いると共に、16S rRNA遺伝子配列決定(配列番号1)により、Sphingomonas sp.であることを同定した。
【0119】
分離された菌株は、0.18h−1の比増殖速度であり、1.7mg/g乾燥細胞重量の濃度で、構造的にカロテノイドを蓄積し、そのうち29%がβカロチンであった。
【0120】
この菌株は、非特許文献14で用いられた培地を用いて増殖させた。増殖培養させた細胞を指数増殖期に遠心分離(15000G、30秒)により回収し、40μl/mlの濃度でEMSを含む15mMリン酸緩衝液(pH6.5)で、30分間室温で処理した。このように処理された細胞を、生理食塩水で2回洗浄し、標準液体培地で3時間回復させた。
【0121】
回復させた培地を、1:10〜1:10となるように希釈し、標準的な固体培地を含むプレート50個に植菌した。前記プレートは、28℃で3日間インキュベーションした。
【0122】
色の強さの変化を視覚的に検出可能な細胞は、総カロテノイド含有量、及びβカロチン純度を分析した。その結果、蓄積された総カロテノイド含有量は3.8mg/g乾燥細胞重量であり、βカロチンの純度が24%であるEMS1菌株として示す菌株を得た。この菌株に対して、変異誘発剤としてEMSを用いる上述したような他の変異誘発サイクル処理を行った。
【0123】
色の強さの変化を視覚的に検出可能な細胞は、総カロテノイド含有量、及びβカロチン純度を分析した。その結果、蓄積された総カロテノイド含有量は3.3mg/g乾燥細胞重量であり、βカロチンの純度が71%であるEMS2菌株として示す菌株を得た。
【0124】
このようにして、単位バイオマスに対して生産した総カロテノイドがわずかに異なるが、この突然変異体は、より多くのβカロチンを蓄積した。この突然変異体を、上述した条件と同一条件でさらなる変異誘発サイクルを行うために選抜した。
【0125】
親株に比較して、色の観点で変化した表現型を有する全69個のコロニーを得た。各得られたコロニーの細胞を、液体培地で上述した条件と同一の増殖条件でインキュベーションした。3日後、光学濃度から、総カロテノイド及びβカロチン濃度を分析した。
【0126】
これらの測定から、βカロチン純度を、βカロチンの濃度を総カロテノイドの濃度で除算することで計算し、そして、βカロチンの細胞内含有量を、βカロチンの濃度をバイオマス濃度で除算することによって得た。
【0127】
全培養に対して、バイオマス及びβカロチンの濃度、βカロチンの純度及びβカロチンの細胞内含有量によって採点した(表1)。69点を各パラメータにおいて最も優れた機能を示す菌株に対して付与し、68点を各パラメータにおいて2番目に優れた機能を示す菌株に付与し、従って、最も劣った機能を示す菌株には、0点を付与した。各突然変異体に付与された表2に示す点数は、各パラメータにおいて突然変異体に付与された点数を加算している。表2に示す、各突然変異体に対する点数は、各パラメータにおいて突然変異体に与えられる点数を加算して得たものである。
【0128】
表1:振盪フラスコで3日間培養した後、上述した変異誘発方法を用い、構造的にカロテノイドを生産することができる分離したSphingomonas菌株に対して3サイクルの変異誘発を行った後に得た突然変異体の性能
各パラメータにおいて、最高性能を示す突然変異体に、下線を付した。
[OD 600nm:600nmで測定された光学濃度単位で表されるバイオマス濃度、%B:総カロテノイドに対するβカロチンの純度、B(mg/L):βカロチン濃度、B(mg/g):βカロチンの細胞内含有量]

【0129】

【0130】
EMS2菌株に対して得たデータは、上記報告された内容とは異なっているが、これは単に、アガロースプレートから得たコロニーを用いるのに代えて、液体培地で3日間培養してから得たものを用いているためである。
【0131】
M63突然変異体が、培養3日後に到達したバイオマス濃度と、βカロチンの濃度との両方が、すべての結果において最も高い収率及び最も高い点数を示した。これは、バイオマス濃度が23%増加し、生産された総βカロチンが37%増加し、βカロチンの細胞内濃度が、βカロチン純度がわずかに高くなると共に12.5%増加するような、分離された菌株に対する大きな改良が提供された。
【実施例2】
【0132】
[自然発生したβカロチンの過剰生産突然変異体の選抜]
(実施例1で得た)M63細胞は、形成されるコロニーの色など、表現型変化が観察されるまで繰り返し再植菌した。
【0133】
深いオレンジ色のコロニーを形成するM63は、再植菌が成功した後、黄色いコロニーが発生し、これをM63Yとした。M63及びM63Yを、実施例1に示す液体培地でインキュベーションし、上述した条件と同一にして増殖させた。培養物を定期的にサンプリングし、総カロテノイド及びβカロチン濃度を光学濃度により分析した。これらの測定から、βカロチンの純度を、βカロチンの濃度を総カロテノイド濃度で除算することで計算し、βカロチンの脂肪内含有量をβカロチンの濃度をバイオマス濃度で除算することで得た。培養の時間経過に伴って得られるこれらのパラメータのそれぞれに対する最大の値を表3に示す。
【0134】
表3.M63から得た再植菌が成功し、表現型によって選抜されたM63Y突然変異体の性能
[OD 600nm:600nmで測定された光学濃度単位で表されるバイオマス濃度、%B:総カロテノイドに対するβカロチンの純度、B(mg/L):βカロチン濃度、B(mg/g):βカロチンの細胞内含有量]

【0135】
上述した本発明の変異誘発及び選抜方法を用い、M63菌株から得たM63Y菌株突然変異体は、親株であるM63菌株に比較して、改良されたβカロチン純度を示す(総カロテノイドに対して78%)一方、生産されるβカロチンの細胞内含有量も高くなった。オレンジ色から黄色への細胞の色変化は、リコピンのような赤色カロテノイドに対するβカロチンの相対的な量が増加しことにより説明することができる。M63Y菌株の16S rRNA遺伝子配列分析を行った(配列番号2)。その配列を、欧州分子生物学研究所データベース、又はリボソームデータベースプロジェクトから得られたデータと比較することで、M63Y菌株はSphingomonas属の新種であることが示された。
【実施例3】
【0136】
[βカロチンの産生に対する溶存酸素の効果]
実施例2で得たM63Y細胞を、実施例1で用いた75mlの液体培地を含む振盪フラスコ内で、オービタルシェーカー(200rpm、27℃)を用いて一晩増殖させた。この培養液を、接種材料として2Lの培地(グルコース10g/L、酵母抽出物10g/L、グリセロール10g/L)を含む生物反応器に用いた
全培養液に対して、一定のpH(6.75)で、かつ、溶存酸素を異なる一定濃度にして行った(%DO:20%、10%、5%,及び2%の大気中での酸素飽和濃度)。
【0137】
表4.異なる濃度の溶存酸素濃度における生物反応器内でM63Y菌株を培養することによるβカロチンの生産[OD 600nm:600nmで測定された光学濃度単位で表されるバイオマス濃度、%B:総カロテノイドに対するβカロチンの純度、B(mg/L):βカロチン濃度、B(mg/g):βカロチンの細胞内含有量、TC(mg/L):総カロテノイドの濃度、%DO:酸素飽和度の割合としての溶存酸素濃度]

【0138】
図4に示すように、βカロチンの蓄積には、低い溶存酸素濃度が好まれる。これは、βカロチンが非水酸化カロテノイドであることにより説明される。酸素が存在すると、βカロチンは、ヒドロ期シラー背の活性により変換され、水酸化化合物となり、カロテノイド産生経路で下流に流れてしまう。
【実施例4】
【0139】
[ストレス誘導βカロチン生産]
[実施例4a]
回分培養
実施例2で得たM63Y細胞を、実施例1で用いた75mlの液体培地を含む振盪フラスコ内で、オービタルシェーカー(200rpm、27℃)を用いて一晩増殖させた。この培養液を、接種材料として2Lの培地(グルコース10g/L、酵母抽出物10g/L、グリセロール10g/L)を含む生物反応器に用いた。全培養液に対して、2%溶存酸素で行った。3回の発酵の内2回において、時間が経過するにつれてpHが上昇し、異なる時点でpH7.40となった。
【0140】
表5.生物反応器内でβカロチンを生産する際に、M63菌株の発酵の時間経過に伴って上昇するpHの影響[OD 600nm:600nmで測定された光学濃度単位で表されるバイオマス濃度、%B:総カロテノイドに対するβカロチンの純度、B(mg/L):βカロチン濃度、B(mg/g):βカロチンの細胞内含有量、TC(mg/L):総カロテノイドの濃度、%DO:酸素飽和度の割合としての溶存酸素濃度]

【0141】
表5に示すように、発酵の時間経過に伴うpHの増加が、βカロチンの細胞内含有量の増加に関与している。発酵工程において、pHが増加している場合の最終光学濃度は、pHの増加が行われなかった場合に得られた最終光学濃度より低かった。最も低い光学濃度を示したものが、pHの増加がすぐに見られた場合に得られ、このpHの増加は、細胞にかかるストレスの増加を示している。一般に、βカロチン及びカロテノイドは、ストレス応答細胞機構に関与していると認められている。表5に示すように、細胞内βカロチン濃度は、pH誘導ストレスを受けた細胞において、細胞内βカロチン濃度が高くなることを示している。
[実施例4b]
半回分培養
先ず、14.5時間の間、2Lの成長培地において、pH6.50で回分発酵が行われ、その後、pHを7.30になるまで増加させ、発酵27時間後、グルコースを限界濃度に維持するために、40g/Lのグルコースを含む200mlの成長培地を一定の摂食率で培養液に供給した。これにより、バイオマス15.2光学濃度単位の生産において、総カロテノイドにおける91.6%の純度のβカロチンと、11.4mg/gのβカロチンの細胞内濃度を有する47.7mg/Lの総カロテノイドを得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)カロテノイドを過剰生産する自然発生細菌の選抜された菌株又はその突然変異体に突然変異を誘発し、総カロテノイド蓄積量が改良された突然変異体菌株、又は総カロテノイドにおける単一カロテノイドの蓄積された画分が改良された突然変異体菌株に対するスクリーニングを行う工程と、
b)発酵工程において、カロテノイドの生産に対するいかなる物理的又は化学的誘導も行う必要なく、pH範囲が6.0〜8.0であり、温度範囲が22〜29℃であり、溶存酸素範囲が50〜1%の間の飽和度となるように制御された生物反応器内で液内培養として、前記細菌の菌株を培養し、培養液内での濃度が、40g/L以下に維持されるように、再生可能な原材料由来の炭素源を供給すると共に、マグネシウム源及びリン酸塩源と共に相関性のある量の窒素源を供給し、細胞を破壊する必要なく、得られたバイオマスから細胞内に蓄積されたカロテノイドを抽出し、精製する工程とを備えることを特徴とするカロテノイドを過剰生産する自然発生細菌、又はその突然変異体を用いる高純度カロテノイドの製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の方法において、自然源、特に、土壌から分離され、構造的にカロテノイドを生産することができる自然発生細菌の選抜された菌株、又はその突然変異体が、Mycobacterium属、Pseudomonas属、Dietzia属、Flavobacterium属、Paracoccus属、Rhodococcus属、Blastomonas属、Sphingomonas属、Brevibacterium属、Erwinia属、Pantoea属、Agrobacterium属、Paracoccus属、Erythrobacter属、Xanthobacter属、Sphingobacteria属、Rhodobacter属、Gordonia属、Rubrobacter属、Arthrobacter属、Novosphingobium属、Nocardia属、Corynebacterium属、Streptomyces属、Enterobacteriaceae属、Themobifida属、Enterobacter属、Brevundimonas属、Roseiflexus属、Sphingopyxis属、Aurantimonas属、Photobacterium属、Robiginitalea属、Polaribacter属、Tenacibaculum属、Parvularcula属、Deinococcus属、Chloroflexus属、より好ましくは、Mycobacterium属、Pseudomonas属、Dietzia属、Flavobacterium属、Paracoccus属、Rhodococcus属、Blastomonas属、Sphingomonas属、Brevibacterium属、Erwinia属、Pantoea属、Agrobacterium属、Paracoccus属、Erythrobacter属、Xanthobacter属、Sphingobacteria属、Rhodobacter属、Gordonia属、Rubrobacter属、Arthrobacter属,Novosphingobium属、Nocardia属、Corynebacterium属、Streptomyces属に属する細菌、最も好ましくは、Mycobacterium属、Pseudomonas属、Dietzia属、Flavobacterium属、Paracoccus属、Rhodococcus属、Blastomonas属、Sphingomonas属、Brevibacterium属、Erwinia属、Pantoea属、Paracoccus属、Erythrobacter属、Xanthobacter属、Rhodobacter属、Gordonia属、Novosphingobium属、Nocardia属、Corynebacterium属に属する細菌、最高に好ましくは、Mycobacterium属、Pseudomonas属、Dietzia属、Flavobacterium属、Paracoccus属、Rhodococcus属、Blastomonas属、Sphingomonas属に属する細菌、特に、Sphingomonas属に属する細菌、最も好ましくは、16S rRNAに対応するDNA塩基配列が、配列番号1の塩基配列と実質的に一致するSphingomonas属に属する細菌であることを特徴とする高純度カロテノイドの製造方法。
【請求項3】
請求項1記載の方法において、自然源、特に、土壌から分離された、構造的にカロテノイドを生産することができ、総カロテノイド蓄積量が改良された、又は総カロテノイドにおける単一カロテノイドの蓄積された画分が改良された自然発生細菌の菌株、又はその突然変異体に対する前記スクリーニングは、少なくとも1種の突然変異誘発物質、より好ましくは、紫外線放射、メタンスルホン酸塩、又はニトログアニジン、最も好ましくは、メタンスルホン酸塩、又はニトロソグアニジンの作用により、親株に比較して、単位バイオマス、又は単位培養液に対して、蓄積された総カロテノイド、又は単一カロテノイド、より好ましくはβカロチンが少なくとも5%増加しているか、又は親株に比較して、総カロテノイドに対する単一カロテノイド、より好ましくはβカロチンの蓄積された画分が少なくとも5%増加していることを特徴とする高純度カロテノイドの製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の方法において、請求項3記載の突然変異体に対するスクリーニング方法によって得た突然変異Sphingomonas菌株が、配列番号2のM63Y菌株であることを特徴とする高純度カロテノイドの製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4記載の方法において、液内培養発酵工程により前記選抜された細菌の菌株を、より好ましくは22〜29℃の範囲の温度、最も好ましくは、24〜28℃の範囲の温度で増殖させることを特徴とする高純度カロテノイドの製造方法。
【請求項6】
請求項5記載の方法において、前記発酵工程の培地のグルコース濃度が、40〜0g/Lの範囲の濃度に、より好ましくは20〜0g/Lの範囲の濃度、最も好ましくは10〜0g/Lの範囲の濃度に維持されることを特徴とする高純度カロテノイドの製造方法。
【請求項7】
請求項5記載の方法において、前記発酵工程の培地における窒素に対する炭素の割合が、最も好ましくは12〜15当量であることを特徴とする高純度カロテノイドの製造方法。
【請求項8】
請求項5記載の方法において、前記発酵工程の培地のリン酸塩濃度が、より好ましくは1〜10g/Lの範囲の濃度、最も好ましくは、2〜4g/Lの範囲の濃度に維持されることを特徴とする高純度カロテノイドの製造方法。
【請求項9】
請求項5記載の方法において、前記発酵工程の培地のマグネシウム濃度が、0.01g/Lの範囲の濃度、最も好ましくは、0.05〜0.15g/Lの範囲の濃度に維持されることを特徴とする高純度カロテノイドの製造方法。
【請求項10】
請求項5記載の方法において、前記発酵工程の培地の溶存酸素が、50〜1%の範囲の酸素飽和度に制御されることを特徴とする高純度カロテノイドの製造方法。
【請求項11】
請求項10記載の方法において、前記溶存酸素の酸素飽和度が10%以下、より好ましくは5%以下、最も好ましくは2%以下の段階を備えることを特徴とする高純度カロテノイドの製造方法。
【請求項12】
請求項5記載の方法において、前記培養のpHが酸若しくはアルカリ、又は炭素源の添加により、より好ましくは6.0〜8.0の範囲のpHに、最も好ましくは、6.4〜7.6の範囲のpHに制御されることを特徴とする高純度カロテノイドの製造方法。
【請求項13】
請求項1記載の方法において、前記発酵工程により、600nmの波長で測定した光学濃度が、少なくとも20光学濃度単位、より好ましくは50光学濃度単位、最も好ましくは、100光学濃度単位に達したとき、又は実質的に純カロテノイドの濃度が、3mg/g細胞乾燥重量、より好ましくは5mg/g細胞乾燥重量、最も好ましくは10mg/g細胞乾燥重量に達したとき、又は前記自然発生細菌の菌株によって生産された実質的に単一のカロテノイドの画分が、前記細菌の菌株によって生産された総カロテノイドの50%以上、より好ましくは80%以上、最も好ましくは90%以上のときに行われる前記発酵工程からのバイオマスの回収が、ろ過、遠心分離、又はデカンテーションのような方法を用いて行われることを特徴とする高純度カロテノイドの製造方法。
【請求項14】
請求項13記載の方法において、前記発酵工程からのバイオマスの回収は、適切な洗浄液、例えば、これに限定するものではないが、水、生理食塩水、又は天然有機溶媒のような適切な洗浄液で洗浄する工程が加えられることを特徴とする高純度カロテノイドの製造方法。
【請求項15】
請求項1記載の方法において、前記実質的に純カロテノイドは、先行して行われる細胞破壊工程なしに、バイオマスから直接抽出されることを特徴とする高純度カロテノイドの製造方法。
【請求項16】
請求項15記載の方法において、前記バイオマスからの実質的に純カロテノイドの直接抽出は、ケトンとアルコールとの混合液、より好ましくはアセトンとエタノールとの混合液、最も好ましくはアセトンとメタノールとの混合液を用い、ケトン:アルコールが0:1から1:0の範囲で、より好ましくは、ケトン:アルコールが1:9から9:1の範囲で、最も好ましくは、ケトン:アルコールが2:7から7:2の範囲で行われることを特徴とする高純度カロテノイドの製造方法。
【請求項17】
請求項1記載の方法において、前記カロテノイドに富む抽出物が使用済みバイオマスから分離され、さらに、これに限定するものではないがヘキサンとtert−ブチルメチルエーテルとの混合液のような疎水性溶媒又は疎水性溶媒の混合物を抽出剤として用い、液液抽出単位操作により処理することを特徴とする高純度カロテノイドの製造方法。
【請求項18】
請求項1記載の方法において、前記精製された実質的に純カロテノイドを、その後結晶化させることを特徴とする高純度カロテノイドの製造方法。
【請求項19】
請求項1乃至請求項18のいずれか1項記載の高純度カロテノイドの製造方法を、96〜98%の範囲の純度等級で、実質的に純カロテノイド、より好ましくは実質的に純βカロチンの生産に適用することを特徴とする使用方法。
【請求項20】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の高純度カロテノイドの製造方法を、カロテノイド、より好ましくはβカロチンを過剰に生産する突然変異体細菌の菌株、即ち、他を排除するものではないが、配列番号2の配列を有するSphingomonas M63Y菌株を生産するために用いることを特徴とする使用方法。
【請求項21】
配列番号2で定義され、グラム陰性、棒状かつ非芽胞形成、円形に成熟する、滑らか、ニュートリエント寒天培地においてオレンジ色のコロニーを形成、20〜30℃の範囲の温度、至適温度は27℃、メソ−ジアミノピメリン酸(メソ−Dpm)、典型的にはA1γ型ペプチドグリカン、ユビキノン10は、主なイソプレノイドキノン及び主な脂肪酸として18:1 w7cを有する、両極性脂質を生産、スフィンゴ糖脂質を含む、及び、カロテノイド、主にβカロチン、前記M63Y菌株のDNAのG+C含有量は66.6molである、新規のSphingomonas菌株として同定されたことを特徴とする請求項3記載の突然変異体のためのスクリーニング方法によって得たSphingomonas M63Y菌株。
【請求項22】
請求項1乃至請求項21のいずれか1項記載のSphingomonasM63Y菌株をカロテノイド、より好ましくはβカロチンの生産に適用することを特徴とする使用方法。

【公表番号】特表2010−519927(P2010−519927A)
【公表日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−552619(P2009−552619)
【出願日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際出願番号】PCT/PT2007/000014
【国際公開番号】WO2008/108674
【国際公開日】平成20年9月12日(2008.9.12)
【出願人】(509248637)ビオトレンド−イノヴァサオ イ エンジェニャリア エン ビオテクノロジア, エスアー (1)
【氏名又は名称原語表記】BIOTREND−INOVACAO E ENGENHARIA EM BIOTECNOLOGIA,SA
【Fターム(参考)】