説明

構造色塗膜形成塗料組成物および複層塗膜の形成方法

【課題】容易かつ安価に構造色塗膜を形成することができる、構造色塗膜形成塗料組成物を提供する。
【解決手段】コアシェル粒子10を含む構造色塗膜形成塗料組成物であって;シェル部3は、非架橋であり、塗膜乾燥により融着するかまたは加熱により流動性を持つ、カルボキシル基を有する樹脂であり;コア部は、平均粒子径0.1〜1μmである、塗膜乾燥または加熱によって変形も流動も生じない単分散のコア部1であり;コア部の屈折率とシェル部の屈折率との屈折率差は0.01以上であり;コアシェル粒子の重量に対するシェル部の重量は30〜85重量%であり、および;この構造色塗膜形成塗料組成物を塗装し、得られた塗膜を乾燥または加熱することによりシェル部の融着または流動化が生じて塗膜が形成され、そしてシェル部によって形成された塗膜中にコア部が規則的に配列し、コア部の規則的な配列が構造色を呈することとなる;構造色塗膜形成塗料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造色塗膜を提供する構造色塗膜形成塗料組成物、これにより得られる塗膜および複層塗膜に関する。
【背景技術】
【0002】
蝶の羽や玉虫のきらきらした構造色(「パール色」や「虹色」と記載している文献もある。)の輝きは、光の波長以下の大きさを持つ規則正しい周期的な構造から形成されることは既に知られている。この構造色は、見る角度によって色相が大きく変化することから、意匠性が非常に高いものである。そしてこの構造色については、例えば目に見える色の範囲であれば、非常に小さな粒子径の樹脂粒子、例えば粒子径が0.15〜0.35μmの範囲にある粒子を規則正しく周期的に並べることによって発現することも知られている。
【0003】
このように粒子径の小さな樹脂粒子を規則正しく周期的に並べるという簡単な構成で、意匠性に優れた構造色外観が得られることとなるため、理論的には、粒子径の小さな粒子を製造することにより容易にしかも簡単に構造色によるパール色の外観が得られると考えられる。しかしながら実際は、粒子径の小さな樹脂粒子を用いて構造色外観を簡便に得ることは非常に困難である。例えば、粒子径の小さなコロイド粒子を用いた構造色塗膜作成においては、コロイド溶液を乾燥させることによって、粒子が規則的に配列し構造色塗膜を形成することができる。しかしながらこうして得られた構造色塗膜は、ほんの僅かな力がかかることによって配列が簡単に崩れてしまい、構造色の発現が損なわれてしまう。
【0004】
特開2004−276492号公報(特許文献1)には、有機又は無機の球状粒子が、縦および横方向に規則的に整合されて粒子状積層物を形成し、その粒子状積層物は少なくも樹脂バインダーで係止され、粒子状積層物面は、可視光波長領域光の照射下に視感される垂直反射光色が構造色として有採光色を呈するカラーシートが開示されている。この特許文献1のカラーシートは樹脂粒子である球状粒子を含む構造色塗膜である。そしてこの塗膜は、球状粒子間にバインダー樹脂を塗布又は噴霧させることによって、球状粒子を固定化している。
【0005】
特開2005−60654号公報(特許文献2)には、樹脂粒子サスペンジョンからグリーンシートを作成し、それを乾燥して、縦・横方向に規則的に配列する球状微細粒子の3次元粒子整合体を形成させ、次いでその表面および粒子間隙を満たすように重合性有機モノマー液、有機ポリマー液又は無機バインダー液のいずれかを塗布又は散布させた後、重合又は硬化させてなる球状微細粒子の3次元粒子整合体の製造方法が開示されている。
【0006】
また特開2007−126646号公報(特許文献3)には、平均粒子径130nm〜1000nmの有機ポリマー単分散球状粒子(A)、およびアクリル系ポリマーのハイドロゾル型水溶性樹脂液(B)を含む水性サスペンジョン型粒子分散体が開示されている。
【0007】
上記特許文献1〜3はいずれも、粒子結晶構造を形成した後、別途調製した、粒子の配列を固定化する成分であるモノマー液またはポリマー液を、塗布あるいは噴霧する方法を用いている。図4は、特許文献1〜3における積層体形成の概略説明図である。このような形成方法においては、粒子の配列を固定化する成分を塗布または噴霧する際に、粒子の配列が崩れてしまい、粒子の構造色発現配列が壊れることがある。またこのように粒子の配列が崩れやすいため、粒子を配列させる箇所に予め粘着剤を塗布しておく必要もある(特許文献1〜3の実施例参照)。そしてこのような手順であるため、立体物である被塗物に構造色発現配列を形成することは、ほぼ不可能である。さらに、粒子の構造色発現配列の上から、固定化成分を塗布または噴霧するため、粒子間に存在する空気がそのまま封入されたままになることが多い。この封入された空気は一般に構造色発現に不必要な成分であるため、構造色の発色に悪影響を与えることが多い。
【0008】
特開2000−246829号公報(特許文献4)には、屈折率の異なる少なくとも2種類のポリマーを交互に薄膜積層して得られる透明光輝材を含む光輝材層を有する発色構造体について開示されている。この特許文献4で用いられている透明光輝材および発色構造体の概略説明図を図5に示す。ここで用いられている透明光輝材は、屈折率の異なる少なくとも2種のポリマー成分で構成される交互層状の断面構造を有する、光学干渉機能を有する複合繊維であり、そしてこれらのポリマー成分はそれぞれ0.02〜0.3ミクロン程の層として交互積層する必要がある。上述の通り、この透明光輝材は、その製造方法が非常に煩雑であるという問題がある。
【0009】
特開2005−146023号公報(特許文献5)には、互いに非相溶で屈折率の異なる複数のポリマー鎖が結合したブロックコポリマーから形成されるミクロ相分離構造を有する発色性ポリマー構造体を含む塗膜について開示されている。この塗膜は、特定のブロックコポリマーから形成される特定の特性を持つミクロ相分離構造を有する発色性ポリマー構造体、重合性モノマーおよび重合開始剤を含む塗料から形成されており(実施例1〜5)、重合性モノマーおよび重合開始剤が含まれる点において本発明の塗料組成物とはその構成が異なるものである。
【0010】
【特許文献1】特開2004−276492号公報
【特許文献2】特開2005−60654号公報
【特許文献3】特開2007−126646号公報
【特許文献4】特開2000−246829号公報
【特許文献5】特開2005−146023号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記特許文献1〜5に記載されるように、構造色を呈する積層物または構造体の調製方法は幾つか存在する。しかしながらこれらの調製方法は何れも、粒子配列を煩雑な手順を用いて固定化する工程が必要であったり(特許文献1〜3)、光学干渉機能を有する特殊な複合繊維を別途調製したり(特許文献4)、または発色性ポリマー構造体と共に含まれる重合性モノマーを重合したり(特許文献5)というように、何れもその手順が煩雑である。これらの方法はさらに、被塗物が立体形状である場合、特に湾曲面を有する場合などにおいて、構造色塗膜を形成することは非常に困難であり、本来は構造色塗膜の優れた意匠性が期待できる、湾曲面を伴う立体形状をもつ被塗物に対しては適用すること自体が難しいという問題もある。本発明は、このような従来技術の問題を解消することを目的とし、塗装するのみという容易かつ安価に構造色塗膜を形成することができる、構造色塗膜形成塗料組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、
コア部およびシェル部からなるコアシェル粒子を主成分とする構造色塗膜形成塗料組成物であって、
このシェル部は、非架橋であり、塗膜乾燥により融着するかまたは加熱により流動性を持つ、カルボキシル基を有する樹脂であり、
このコア部は、平均粒子径0.1〜1μmである、塗膜乾燥または加熱によって変形も流動も生じない単分散のコア部であり、
このコア部の屈折率とこのシェル部の屈折率との屈折率差は0.01以上であり、
このコアシェル粒子の重量に対するシェル部の重量は30〜85重量%であり、および
この構造色塗膜形成塗料組成物を塗装し、得られた塗膜を乾燥または加熱することによりシェル部の融着または流動化が生じて塗膜が形成され、そしてシェル部によって形成された塗膜中にコア部が規則的に配列し、このコア部の規則的な配列が構造色を呈することとなる、
構造色塗膜形成塗料組成物、を提供するものであり、これにより上記目的が達成されることとなる。
上記シェル部のカルボキシル基は、塩基性成分によって中和されているのがより好ましい。
また、シェル部を構成する樹脂はさらにグリシジル基を有するのが好ましい。
上記コアシェル粒子は、アクリル樹脂および/またはスチレンアクリル樹脂から構成されるコアシェル粒子であるのが好ましい。
上記コアシェル粒子は、乳化重合またはソープフリー乳化重合によって調製される樹脂粒子であるのが好ましい。
上記コアシェル粒子は二段重合法によって調製され、およびこの二段重合法において連鎖移動剤を使用することによって、シェル部を構成する樹脂の分子量はコア部を構成する樹脂の分子量より小さい状態であるのが好ましい。
上記コアシェル粒子は非染色粒子であるのが好ましい。
本発明はまた、上記構造色塗膜形成塗料組成物を塗装することによって形成される構造色塗膜も提供する。
本発明はさらに、
被塗物に、光輝性顔料を含むメタリックベース塗料組成物を塗装し、メタリックベース塗膜を形成する工程、引き続いて
上記構造色塗膜形成塗料組成物を、メタリックベース塗膜の上に塗装し、構造色塗膜を形成する工程、
を包含する、複層塗膜の形成方法も提供する。
本発明はまた、
被塗物に、着色顔料を含むベース塗料組成物を塗装し、ベース塗膜を形成する工程、および
上記構造色塗膜形成塗料組成物を、ベース塗膜の上に塗装し、構造色塗膜を形成する工程、
を包含する、複層塗膜の形成方法も提供する。
上記複層塗膜の形成方法は、構造色塗膜の上にクリヤー塗料組成物を塗装し、クリヤー塗膜を形成する工程をさらに包含してもよい。
本発明はまた、上記複層塗膜の形成方法によって形成された複層塗膜も提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の構造色塗膜形成塗料組成物は、塗料組成物を塗装した後、得られた塗膜を乾燥または加熱することによりシェル部の融着または流動化が生じて塗膜が形成される。一方で、コアシェル粒子を構成するコア部は、シェル部に比べて加熱による融着等が起こりにくいために、粒子形状を保ったまま塗膜中に存在することとなる。こうしてシェル部によって形成された海の中にコア部が島として規則的に配列した塗膜が形成されることとなる。そしてこの海島構造を有する塗膜が有するコア部(島)の規則的な配列がもたらす、光の干渉、屈折率分散、散乱、回折などといった効果が相乗的に効果を現し、これにより構造色を呈することとなる。さらに本発明の構造色塗膜形成塗料組成物によって形成される構造色塗膜は、構造色を呈するコア部(島)の周囲がシェル部の樹脂で埋め尽くされているため、空洞部分や間隙部分に、構造色発現に悪影響を与える量の空気が残存することを防ぐことができるという利点もある。さらに上記海島構造の形成により、構造発色を有する塗膜の強靱性が向上し、さらに構造色の発現も安定化し、空洞部分や間隙部分に起因すると考えられる白濁に伴う白っぽさのない意匠性に優れた構造色塗膜が得られるという利点がある。
【0014】
塗料組成物にチクソトロピー性を付与することは、塗料の塗装作業性を確保する上で重要なポイントとなる。構造粘性を付与する方補としては幾つか知られており、粘度鉱物などの粘性付与剤を添加すると、塗料組成物にチクソトロピー性を付与することができる。しかしながら本願のように着色顔料を基本的には含有せず、本来はクリヤーな塗膜となる構成成分にこのような粘性付与剤を配合すると、得られる塗膜に濁りが発生し、その結果、光の干渉、屈折率分散、散乱、回折などの効果が阻害されて構造発色が損なわれる場合があり、好ましくない。これに対して本発明においては、構造色塗膜形成塗料組成物に含まれるコアシェル粒子を構成するシェル部にカルボキシル基を有する樹脂とすることによって、さらには塗料組成物に対してアルカリ添加量を調整することによって、塗装作業性を良好なものとするチクソトロピー性が生じている。これにより、構造色塗膜形成塗料組成物における良好な塗装作業性が確保されることとなる。本発明の構造色塗膜形成塗料組成物は、塗装した後、乾燥または必要に応じて加熱するのみという非常に簡便な操作によって、見る角度によって色相が変化する構造色塗膜を形成することができるという優れた特徴を有する。さらに、上記構造色塗膜の下地に該当する塗膜として形成されたメタリックベース塗膜またはソリッドカラーベース塗膜との関係で優れた意匠性を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明に至るまでの過程
本発明者等は、コアシェル構造の粒子のシェル部分を常温あるいは加熱することで流動化させることにより、粒子間にできる間隙を埋めたフォトニック結晶膜(構造色膜)を形成することができることを見いだしている(特願2006−355665号)。この形成方法は、例えば特開2000−246829号公報(特許文献4)に記載されるような、屈折率の異なる少なくとも2種のポリマー成分で構成される交互層状の断面構造を有する光学干渉機能を有する複合繊維などの調製を必要とすることなく、コアシェル構造粒子を調製するというより簡便な手法により構造色膜を形成することができるという優れた利点がある。しかしながら、この特願2006−355665号に記載されるコアシェル構造の粒子をそのまま用いて塗料組成物を作成したところ、得られた塗料は充分なチクソトロピー性を持たず、良好な塗装作業性を確保することが困難であることがわかった。その結果、水平面と垂直面で構成されている構造物、例えば自動車のボディーなど、をスプレー塗装する場合、垂直面における良好なタレ防止性を確保することができず、塗装した塗料がタレる、流れる、はじくなどの現象がおこり、構造色発現に必要な膜厚を有する均一な塗膜をスプレー塗装することができないという不都合が生じることになる。
【0016】
なお、一般的な塗料組成物においては、スプレー塗装などの塗装方法に応じた粘度に調製し塗装作業性を向上させるために、増粘剤を用いることができる。しかしながら光の干渉、屈折率分散、散乱、回折などといった光共鳴によって発色が生じる構造色塗膜を形成するための塗料組成物においては、増粘剤はできるだけ用いないのが好ましい。増粘剤を用いることによって、粒子配列が阻害されたり、または屈折率変化などが生じることがあり、これにより構造色発現に影響が生じるからである。
【0017】
本発明の構造色塗膜形成塗料組成物は、塗装作業性に優れ、そして、塗装した後、乾燥または必要に応じて加熱するのみという非常に簡便な操作によって、見る角度によって色相が変化する構造色塗膜を形成することができるという優れた特徴を有する。本発明の構造色塗膜形成塗料組成物においては、増粘剤を用いることなく、塗装作業性に最適な粘度範囲に調製されている。これは、本発明の構造色塗膜形成塗料組成物に含まれるコアシェル粒子を構成するシェル部が、カルボキシル基を有する樹脂であることに基づいている。以下、本発明について詳述する。
【0018】
構造色塗膜形成塗料組成物
本発明の構造色塗膜形成塗料組成物は、コアシェル粒子および溶媒を少なくとも含む塗料組成物である。そして本発明の構造色塗膜形成塗料組成物は、下記する特定のコアシェル粒子を含むことによって、形成される塗膜が構造色を呈することとなるという特徴を有する。
【0019】
コアシェル粒子
本発明で用いられる、コア部およびシェル部からなるコアシェル粒子は、
・シェル部は、非架橋であり、塗膜乾燥により融着するかまたは加熱により流動性を持つ、カルボキシル基を有する樹脂であり、
・コア部は、平均粒子径0.1〜1μmである、塗膜乾燥または加熱によって変形も流動も生じない単分散のコア部であり、
・コア部の屈折率と該シェル部の屈折率との屈折率差は0.01以上であり、
・コアシェル粒子の重量に対するシェル部の重量は30〜85重量%である、
という特徴を有する。
このようなコアシェル粒子を含む構造色塗膜形成塗料組成物を塗装し、得られた塗膜を乾燥または加熱することによって、シェル部の融着または流動化が生じて塗膜が形成され、そしてシェル部によって形成された塗膜中にコア部が規則的に配列し、コア部の規則的な配列が構造色を呈することとなる。
【0020】
コアシェル粒子を構成するコア部は、無機粒子であっても有機樹脂粒子あってもよい。無機粒子の例としては、各種金属酸化物の粒子が挙げられる。金属酸化物の無機粒子としては、例えば酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化カルシウム、酸化亜鉛、酸化セリウム、酸化錫、酸化インジウム、酸化カドミウムまたは酸化アンチモンなどの無機粒子が挙げられる。無機粒子も有効であるが、コアシェル粒子の製造の点から、コア部は有機樹脂粒子であるのがより好ましい。シェル部はカルボキシル基を有する樹脂から構成されるため、コア部もまた有機樹脂粒子などの樹脂成分であることによって、コア部およびシェル部をソープフリー乳化重合または通常の乳化重合によって一体的に調製することができるという利点がある。本発明において用いられるコアシェル粒子は、上記のように非常に簡便な操作によって調製することができる。このため、2種以上のポリマー成分をそれぞれ0.02〜0.3ミクロン程の層として交互積層して透明光輝材を調製するといった従来技術と比較して、非常に簡便な操作により構造色塗膜形成塗料組成物を調製することができるという利点がある。
【0021】
コア部を形成する有機樹脂粒子として、例えば、アクリル樹脂、スチレン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、フッ素樹脂、セルロース樹脂、ウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂、およびこれらの共重合体などが挙げられる。本発明においては、有機樹脂粒子として、ソープフリー乳化重合または通常の乳化重合によって調製することができる、アクリル樹脂、スチレン樹脂またはスチレンアクリル樹脂であるのがより好ましい。これらの有機樹脂粒子はまた、高い透明度を有するという特徴もある。
【0022】
コア部が有機樹脂粒子である場合において、有機樹脂粒子を製造するために用いられるモノマーとして、樹脂粒子の構成に応じた通常当業者に公知のモノマーを用いることができる。例えば有機樹脂粒子がアクリル樹脂、スチレン樹脂またはスチレンアクリル樹脂である場合に用いることができるモノマーとして、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレートなどのアクリル酸またはメタクリル酸のアルキルエステル;スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、t−ブチルスチレン、エチレン、プロピレン、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチルなどの重合性モノマーが挙げられる。これらは一種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0023】
本発明におけるコアシェル粒子のコア部は、塗膜乾燥または加熱によって変形も流動も生じないものである。このため、コア部が有機樹脂粒子である場合は、樹脂粒子を構成する樹脂のTgは50℃以上であるのが好ましい。またコア部となる有機樹脂粒子の調製において、必要に応じて、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ペンタエリスリトールジアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールジメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、グリセロールジメタクリレート、グリセロールジアクリレート、グリセロールアリロキシジメタクリレート、1,1,1−トリスヒドロキシメチルエタンジアクリレート、1,1,1−トリスヒドロキシメチルエタントリアクリレート、1,1,1−トリスヒドロキシメチルエタンジメタクリレート、1,1,1−トリスヒドロキシメチルエタントリメタクリレート、1,1,1−トリスヒドロキシメチルプロパンジアクリレート、1,1,1−トリスヒドロキシメチルプロパンジメタクリレートなどの多価アルコールの重合性不飽和モノカルボン酸エステル;トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルトリメリテート、ジアリルテレフタレート、ジアリルフタレートなどの多塩基酸の重合性不飽和アルコールエステル;ジビニルベンゼンなどの2個以上のビニル基で置換された芳香族化合物などといった、1分子中2以上の重合性基を有する架橋性モノマーを用いて調製し架橋させることによって、得られる有機樹脂粒子を架橋樹脂粒子としてもよい。
【0024】
本発明におけるコアシェル粒子のコア部における「塗膜乾燥または加熱によって変形も流動も生じない」という性質は、シェル部の性質と区別されるための性質である。より詳しくは、塗料組成物中におけるコア部の形状が、塗膜形成時における塗膜乾燥または加熱を経た塗膜中においても、その形状が基本的に維持されることを意味する。なおここでいう「加熱」とは、塗料組成物塗装後における塗膜形成(硬化)温度範囲を意味し、具体的には40〜160℃ほどの温度範囲である。また「変形も流動も生じない」とは、塗膜乾燥または加熱前のコア部の形状と、塗膜乾燥または加熱後のコア部の形状とを対比した体積歪み変形率として0〜10%であることをいう。
【0025】
本発明におけるコアシェル粒子のコア部は、単分散であり、平均粒子径0.1〜1μmである。コア部が単分散であって、平均粒子径0.1〜1μmであることによって、コア部が規則的に配列した際に、光の干渉、屈折率分散、散乱、回折などといった光共鳴が生じ、構造色を呈することとなる。なおこのコア部の平均粒子径の範囲に依存して、発現する構造色の色が変化することとなる。コアシェル粒子のコア部の平均粒子径は0.15〜0.60μmであるのがより好ましい。
【0026】
本明細書中において、「コア部が単分散である」とは、粒子径が同一またはほぼ同一である粒子であり、粒子径の変動係数が30%以下、好ましくは20%以下、より好ましくは10%以下、さらに好ましくは5%以下の、粒子径の分布が非常に小さいことを意味する。粒径のばらつきが大きいと、構造色塗膜としての光学特性が得られなかったり、構造色としての発色が弱くなったりする傾向にある。なお、変動係数は、(粒子直径の標準偏差)÷(平均粒子直径)×100(%)で表される。なお、本明細書における平均粒子径および変動係数は、得られた粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)観察の写真より観察される粒子の直径を測定して計算で求めたものである。
【0027】
コアシェル粒子を構成するシェル部は、非架橋であり、塗膜乾燥により融着するかまたは加熱により流動性を持つ、カルボキシル基を有する樹脂によって構成される。このシェル部は、塗料組成物塗装後の塗膜乾燥によってシェル部を構成する樹脂の融着が生じるかまたは、加熱によりシェル部を構成する樹脂の流動性が生じることによって、樹脂塗膜が形成されることとなるという性質を有する。図1は、この塗膜形成過程を模式的に示す概略説明図である。そしてこの樹脂塗膜形成の際に、シェル部を構成する樹脂が常温で融着または加熱で流動化することによって、コア粒子の間の空隙をシェル部の樹脂が埋めることとなる。
【0028】
シェル部を構成する樹脂は、非架橋樹脂であり、塗膜乾燥により融着するかまたは加熱により流動性を持つものであれば特に制限なく用いることができる。シェル部を構成する樹脂として、好ましくは、アクリル樹脂が挙げられる。アクリル樹脂である場合に用いることができるモノマーとして、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレートなどのアクリル酸またはメタクリル酸のアルキルエステル;エチレン、プロピレン、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチル、メタクリル酸ヒドロキシメチル、アリルアルコールなどの重合性モノマーが挙げられる。これらは一種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なおシェル部を構成する樹脂は非架橋であるため、シェル部の調製においては上記架橋性モノマーを用いないのが好ましい。シェル部を構成する樹脂の選択によって、得られる塗膜の特性を任意に調整することができる。
【0029】
本発明において、シェル部を構成する樹脂はカルボキシル基を有するため、シェル部の調製において、上記重合性モノマーに加えて、カルボキシル基含有重合性モノマーを用いる。カルボキシル基含有重合性モノマーとして、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、エタアクリル酸、プロピルアクリル酸、イソプロピルアクリル酸、イタコン酸、無水マレイン酸、フマル酸等が挙げられる。シェル部のカルボキシル基の量は、シェル部を構成する樹脂の重量に対する酸価として20〜200mgKOH/gであるのが好ましく、50〜130mgKOH/gであるのがより好ましい。本発明で用いられるコアシェル粒子において、シェル部を構成する樹脂はカルボキシル基を有する。このカルボキシル基を中和することによって、塗料組成物に粘性が付与され、塗装作業性が向上するという利点がある。シェル部の酸価を上記の範囲で調整することと、カルボキシル基の中和率などを適宜調整することで、所望の粘性を付与することができるようになる。なおカルボキシル基含有重合性モノマーは、上記重合性モノマー1モルに対して例えば0.04〜0.55モルの割合で用いることができる。
【0030】
シェル部の調製においては、上記重合性モノマーおよびカルボキシル基含有重合性モノマーに加えて、グリシジル基含有重合性モノマーを用いてもよい。グリシジル基含有重合性モノマーを用いてシェル部にグリシジル基を導入することによって、シェル部が融着または流動化し塗膜を形成する際に、グリシジル基とカルボキシル基との架橋反応、グリシジル基と水酸基(重合性モノマーとして(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルなどの水酸基含有重合性モノマーを用いた際に導入される水酸基である。)との架橋反応、またはグリシジル基とアミノ基(重合性モノマーとしてアミノ基含有重合性モノマーを用いた際に導入されるアミノ基である。)との架橋反応が生じ、これにより得られる塗膜の物理的強度、耐久性、耐溶剤性および耐候性が向上するからである。グリシジル基含有重合性モノマーとして、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、β−メチルグリシジル(メタ)アクリレートおよび3,4−エポキシシクロヘキサニル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレートグリシジルエーテル等が挙げられる。バランスのとれた硬化性と貯蔵安定性を示す塗料組成物を調製するためには、グリシジル(メタ)アクリレートを用いることが好ましい。グリシジル基含有重合性モノマーは、上記重合性モノマー1モルに対して例えば0.02〜0.20モルの割合で用いることができる。
【0031】
シェル部を構成する樹脂は、Tgが10〜50℃であるのがより好ましい。また、本発明の塗料組成物における、シェル部を構成する樹脂の最低造膜温度(MFT)は、−20〜20℃であるのがより好ましい。シェル部を構成する樹脂の物性が上記範囲であることによって、良好な塗膜形成が確保されることとなる。ここで最低造膜温度(MFT)の測定は、温度勾配をつけたプレート上の塗料組成物を塗布し乾燥後に連続膜となっている最低温度を読み取る、当業者に一般に用いられる装置を用いて測定できる。
【0032】
最低造膜温度(MFT)は、塗料組成物中の溶媒が蒸発した際に、粒子同士が融着するために必要な最低温度である。最低造膜温度以下で塗膜を形成する場合は、粒子同士の融着が起こらず均一な塗膜が得られない。シェル部を構成する樹脂のTgは、基本的にその樹脂の組成に依存する。一方で、塗料組成物における、シェル部を構成する樹脂の最低造膜温度(MFT)は、Tgに大きく影響されTgと近い値となることが多い一方で、塗料組成物中における成膜助剤(例えばテキサノール、ブチルセロソルブ、ブチルカルビトールなど)の有無、重合度などによって変化する。また、シェル部を構成する樹脂のTgを低くすると、低温での塗膜形成は可能になるものの、膜が柔らかくなりすぎて膜強度が低下する、または塗膜表面が粘着性を帯びるなどの不具合が生じる。このため、Tgは可能な範囲で高く設定し、一方でMFTは可能な範囲で低く設定することが好ましい。例えば、シェル部の重合の際に連鎖移動剤を加えたり、または重合開始剤をさらに加えたりすることによって、シェル部のTgをある程度高く保ちつつ、MFTを低く設定することができる。より詳しくは、MFTは、例えばエマルションの分子量を減少させて調整することができる。分子量の調整は当業者の周知の方法により行うことができ、開始剤の添加量および反応温度を調整したり、連鎖移動剤をモノマーに添加することによって、分子量を減少させ、これにより成膜助剤などを多く用いることなくMFTを低く設定することができる。なお、塗料組成物に、成膜助剤と呼ばれる溶媒(例えばテキサノール、ブチルセロソルブ、ブチルカルビトールなど)を少量添加して、MFTを低下させて成膜性を向上させることもできる。
【0033】
本発明で用いられる上記コア部およびシェル部からなるコアシェル粒子は、さらに
・コア部の屈折率とシェル部の屈折率との屈折率差は0.01以上であり、
・コアシェル粒子の重量に対するシェル部の重量は30〜85重量%である、
という特徴を有する。
【0034】
コア部の屈折率とシェル部の屈折率との屈折率差は、0.01以上であることが好ましい。屈折率差が0.01未満である場合は、構造色塗膜の特徴である屈折率が周期的に変化するナノ構造体とは言い難い状態になってしまい、例えば可視の領域においては構造色が発揮されず、透明な膜になってしまう。屈折率差の上限値は特に限定されるものではないが、現在までに知られている物質の屈折率は最大で2.7ぐらいであり、基準となる空気(又は真空)の屈折率が1.0であることから、屈折率差の上限値は約1.7となると考えられる。この屈折率差は0.03〜1.0であるのがより好ましい。屈折率の測定は、例えばアッベ式屈折率計を用いて測定することができる。
【0035】
なお本発明におけるコアシェル粒子においては、コア部の屈折率>シェル部の屈折率であってもよく、コア部の屈折率<シェル部の屈折率であってもよい。コア部の屈折率およびシェル部の屈折率の調整は、粒子成分および調製に用いるモノマーを選択することによって好適な値に調整することができる。コア部の屈折率>シェル部の屈折率であって屈折率差を0.01以上に調製する方法として、例えば、コア部をスチレンアクリル樹脂としシェル部をアクリル樹脂とする、コア部をスチレン樹脂としシェル部をアクリル樹脂とする手法が挙げられる。
【0036】
本発明で用いられる上記コア部およびシェル部からなるコアシェル粒子の重量に対するシェル部の重量は30〜85重量%である。シェル部の量が30重量%未満であると、規則的に配列したコア部間の間隙を十分に埋めることができない。シェル部の量が85重量%を超えると、コア部の配列の間隔が開きすぎて、構造色が発現しなくなる。コアシェル粒子の重量に対するシェル部の重量は40〜80重量%であるのがより好ましく、40〜70重量%であるのがさらに好ましい。なお、常温あるいは加熱によって塗料組成物の溶媒が蒸発した時点で、粒子同士が融着または流動化して空気を含まない塗膜を形成する態様がより好ましいが、乾燥工程の都合で若干の気泡(空気)が塗膜中に残ったとしても、後の加熱工程を付加することにより気泡を追い出すことができれば特に問題は無い。
【0037】
本発明の構造色塗膜形成塗料組成物中において、コアシェル粒子のシェル部のカルボキシル基の少なくとも一部が、塩基性成分によって中和されているのが好ましい。カルボキシル基を塩基性成分によって中和することによって、いわゆるアルカリ増粘が生じることとなる。このアルカリ増粘によって、塗料組成物の粘度をより上昇させることができ、塗装に適した範囲に粘度を調製することが可能となる。カルボキシル基の中和に用いることができる塩基性物質として、例えば、一価の金属及び二価の金属の水酸化物、炭酸塩、酢酸塩、アンモニア、並びに有機アミン等を例示することができ、具体的には例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化バリウム、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、アンモニア、二リン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、ナトリウムメトキシド、ペンタ2スルホン酸ナトリウム、トリエタノールアミン、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノールなどが挙げられる。カルボキシル基の中和に用いることができる塩基性物質として、アンモニアなどの揮発性塩基成分を用いるのがより好ましい。揮発性塩基成分を用いることよって、得られる構造色塗膜の耐水性の低下を防ぐことができるという利点がある。塩基性物質の添加量は塗料組成物の組成に応じて変化するものの、一般にpH5〜8.5、より好ましくはpH6〜8程の中性付近のpHとなる量で用いられる。
【0038】
本発明において用いられるコアシェル粒子は、一般的に非染色粒子である。本発明の構造色塗膜形成塗料組成物において、得られる塗膜の発色は、コア部の規則的な配列による、光の干渉、屈折率分散、散乱、回折などといった光共鳴によって生じているため、発色発現において染料等による粒子の染色の必要はないためである。
【0039】
コアシェル粒子の調製
本発明において用いられるコアシェル粒子は、その構成に従い当業者に知られた方法によって調製することができる。コア部が樹脂粒子である場合は、乳化重合またはソープフリー乳化重合によって調製するのが好ましい。これらの重合方法は、粒子の平均粒子径を単分散および好適範囲に調節することができるからである。特にコア部が樹脂粒子である場合においては、乳化重合またはソープフリー乳化重合の二段重合によってコアシェル粒子をワンポットで調製することができるという利点がある。例えば、ソープフリー乳化重合による二段重合によってコアシェル粒子を調製する方法の具体例は以下の通りである。まず窒素を充填させた反応容器に蒸留水を仕込み、必要に応じて加熱、攪拌しながら、コア部を形成する重合性モノマー組成物を加え、モノマー組成物を蒸留水に十分に分散させる。次に攪拌を続けながら重合開始剤を添加して重合させる。重合の進行に従って粒子(コア部)が形成される。重合温度は重合開始剤を使用した場合には、一般に60〜90℃に設定される。そして本発明においてはコア部およびシェル部の性質が異なるため、モノマー組成を途中で変化させて添加させる。従って、1段階目に添加する、コア部を形成する重合性モノマー組成物は、上記重合性モノマーおよび架橋性モノマーを含む。一方、2段階目に添加する、シェル部を形成する重合性モノマー組成物は、上記重合性モノマーおよびカルボキシル基含有重合性モノマー、そして必要に応じたグリシジル基含有重合性モノマーを含む。このようにモノマー組成を変更して2段階重合を行うことによって、上記特徴を備えたコア部およびシェル部からなるコアシェル粒子をより容易に調製することができる。
【0040】
乳化重合によってコアシェル粒子を調製する場合は、上記製法において、乳化剤を用いて重合することにより行われる。使用し得る乳化剤の例としては、ドデシルベンゼン硫酸ナトリウム、テトラデシル硫酸ナトリウム、ペンタデシル硫酸ナトリウム、オクチル硫酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウム、ラウリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、オレイン酸カルシウム、ドデシルアンモニウムクロライド、ドデシルアンモニウムブロマイド、ドデシルトリメチルアンモニウムブロマイド、ドデシルピリジニウムクロライド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロマイド、ドデシルポリオキシエチレンエーテル、ヘキサデシルポリオキシエチレンエーテル、ラウリルポリオキシエチレンエーテル、ソルビタンモノオレアートポリオキシエチレンエーテル等が挙げられる。乳化剤は、目的とする粒子の大きさに応じて、当業者に知られた手法により最適使用量が決定される。
【0041】
重合反応で用いられる重合開始剤としては、公知の重合開始剤を使用できる。例えば、ベンゾインペルオキシド、クメンハイドロペルオキシド、パラメンタンハイドロペルオキシド、ラウロイルペルオキシドなどの有機過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物、ペルオキソ二硫酸カリウム等のペルオキソ硫酸塩、過酸化水素−硫酸鉄や過硫酸カリウム−亜硫酸ナトリウム等のレドックス系触媒が挙げられる。重合開始剤は、モノマー組成物全量に対して0.01〜10質量%、中でも0.05〜5質量%の範囲で使用することが好ましい。また、シェル部作成時においては、必要に応じて重合性モノマー組成物と同時に連鎖移動剤を添加して分子量を低下させることで、より接着性を向上させることも可能である。連鎖移動剤としては、塩化銅(II)、3−クロロベンゼンチオール、アクロレインオキシム、チオグリコール酸オクチル等が挙げられる。
【0042】
構造色塗膜形成塗料組成物
本発明の構造色塗膜形成塗料組成物は、上記コアシェル粒子および溶媒を少なくとも含む塗料組成物である。本発明の構造色塗膜形成塗料組成物は、上記特定のコアシェル粒子を含むことによって、形成される塗膜が構造色を呈することとなるという特徴を有する。
【0043】
構造色塗膜形成塗料組成物に含まれる溶媒として、上記コアシェル粒子を安定に分散することができる溶媒を特に制限することなく用いることができる。溶媒として好ましくは水を用いる。必要に応じて、アルコール類(例えば、メチルアルコール、n−ブチルアルコール、イソプロピルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール)、エーテル類(例えば、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、3−メチル−3−メトキシブタノール、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル)、ケトン類(例えば、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン、アセチルアセトン)、エステル類(例えば、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート)といった水混和性有機溶媒などを、水と併せて用いてもよい。なおこれらの水混和性有機溶媒の中には可塑剤または成膜助剤として機能する溶媒もある。
【0044】
本発明の構造色塗膜形成塗料組成物は、上記コアシェル粒子を上記溶媒中で撹拌することによって調製することができる。上記コアシェル粒子のシェル部のカルボキシル基を中和する場合は、コアシェル粒子を上記溶媒中で撹拌する際に上記塩基成分を添加することによって中和することができる。
【0045】
本発明の構造色塗膜形成塗料組成物には、必要に応じて可塑剤または成膜助剤を含めてもよい。可塑剤または成膜助剤を用いることによって、構造色発色に影響を与えることなく、より良好な塗膜を形成することができる。可塑剤または成膜助剤としては、例えば、セロソルブ、ブチルセロソルブ等のセロソルブ類;カルビトール、エチルカルビトール、ブチルカルビトール等のカルビトール類;セロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、ブチルカルビトールアセテート、スクロースアセテート等のアセテート類;ヘキサノール、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール等のアルコール類;ヘキシレングリコール等のジオール類;フタル酸ジエステル類、アジピン酸ジエステル類、コハク酸ジエステル類、セバシン酸ジエステル類、カプリル酸エステル、カプロン酸エステル、酢酸エステル、クエン酸エステル等のエステル類などが挙げられる。これらを単独であるいは二種以上を使用することができる。これらのなかでカルビトール類が特に好ましく使用できる。
【0046】
光の干渉、屈折率分散、散乱、回折などといった光共鳴によって発色が生じる構造色塗膜を形成するための塗料組成物においては、一般的な塗料組成物で用いられる水溶性ポリマー増粘剤は用いないのが好ましい。水溶性ポリマー増粘剤を用いることによって、構造色発現に不必要なポリマー成分が構造色塗膜中に加わることとなり、これにより粒子配列の変化または屈折率変化などが生じ、構造色発現に影響が生じるからである。そして本発明の構造色塗膜形成塗料組成物は、水溶性ポリマー増粘剤を用いることなく塗装作業性に最適な粘度範囲に調製されていることを特徴とするため、水溶性ポリマー増粘剤を用いる必要はない。一方で本発明は、塗装条件に応じて、構造色発色に影響を与えない程度の少量の増粘剤を用いることを排除するものではない。
【0047】
塗装方法および構造色塗膜
本発明の構造色塗膜形成塗料組成物は、例えばスプレー塗装、ハケ塗装、バーコーター塗装、スピンコーター塗装、ディップ塗装といった、通常用いられる種々の塗装方法によって塗装することができる。そしてこのような通常用いられる塗装方法といった非常に簡便な塗装によって、構造色塗膜を簡便に形成することができるという利点がある。
【0048】
本発明の構造色塗膜形成塗料組成物は、上記の通り、通常用いられる種々の塗装方法により塗装することができる。そのため、塗料組成物を塗装する被塗物の形状は特に限られることなく、立体形状の被塗物、湾曲面を有する被塗物といった種々の被塗物に塗装することができる。この点において本発明は、一定の基板上でコロイド結晶配列を作成し、その上からバインダー樹脂を流し込んで硬化させる方法または粘着剤の上にコロイド結晶配列を作成しその後この配列を固定化させる方法といった従来の方法と比較して、塗膜形成操作が非常に簡便であり、かつ、塗膜形成対象被塗物の範囲は広いものである。このため本発明の構造色塗膜形成塗料組成物は、例えば自動車車体、携帯電話などの情報端末機、建材ボード、家電製品などといった様々な被塗物に直接塗装することができるという利点がある。
【0049】
構造色塗膜形成塗料組成物を被塗物に塗装した後、自然乾燥または必要に応じて減圧乾燥または加熱乾燥することによって、塗膜を形成することができる。なお必要に応じて、塗膜中に生じた気泡を除去することを目的として塗膜を加熱してもよい。また、シェル部がグリシジル基を有する場合は、塗膜形成後、80〜140℃で5〜40分間焼き付け硬化を行うことによって、グリシジル基の反応を促進させ、塗膜の物理的強度および耐光性などを向上させてもよい。
【0050】
本発明の構造色塗膜形成塗料組成物を塗装することによって得られる構造色塗膜は、図1に模式的に示されるように、シェル部によって形成された樹脂塗膜の中にコア部の単分散粒子が規則正しく配列している状態である。この図1に模式的に示される塗膜のみを見れば、バインダー樹脂を含む塗料中にフィラー粒子として単分散粒子を混合分散して得られた塗料組成物を塗膜化することによって、同じ組成の塗膜が得られると考えることも可能である。しかしながら、塗料組成物において用いられる顔料粒子には一次粒径および二次粒径が存在するように、塗料組成物中においてフィラー粒子同士の凝集を100%完全に防止して、バインダー樹脂中に分散させることは、実質的に不可能である。加えて、溶媒が蒸発する成膜時においては、塗膜中におけるフィラー粒子濃度の上昇により、フィラー粒子の凝集および沈降分離などの不均一化がどうしても発生してしまう。そのため、単分散粒子であるフィラー粒子およびバインダー樹脂を単に含む塗料組成物を調製し、これを単に塗装するのみによってフィラー粒子を規則的に配列させることは不可能であった。つまりこのような塗料組成物を単に塗装することによって、構造色塗膜を形成することは不可能であった。
【0051】
これに対して本発明において用いられるコアシェル粒子は、コア部からなる粒子をシェル部である樹脂成分が被覆したコアシェル粒子が用いられている。このため、塗料組成物中においても、塗膜中においても、コア部の凝集は生じ得ない。また、コア部1個に対するシェル部である樹脂成分量が一定に割り当てられているので、どのような単位体積においてもコア部(粒子)および樹脂成分の体積比は一定である。そしてこのようなコアシェル粒子から塗膜が形成されるため、シェル部によって形成された塗膜中にコア部が規則的に配列することとなる。本発明においてはこのように、塗膜または粒子のどちらか一方が偏って多いまたは少ないといった不均一な状態の部分は膜中に存在し得ないのである。そしてこの特徴によって、上記コアシェル粒子を含む本発明の構造色塗膜形成塗料組成物は、例えばスプレー塗装またはハケ塗装といった一般的な塗装方法で塗料組成物を塗装するという非常に簡便な操作によって、シェル部によって形成された塗膜中にコア部が規則的に配列した構造色塗膜を形成することができるという優れた利点を有する。そしてこうして得られた構造色塗膜の発色は、色素ではなく構造による物理的発色であるため、耐退色性に優れているという利点もある。
【0052】
本発明の構造色塗膜形成塗料組成物によって得られる構造色塗膜は、粒状のコア部(すなわちコア粒子)が規則正しく配列した結晶構造を有しているため、光の波長によって干渉や散乱などの光学物理的現象が起こり、いわゆる「構造色」または「構造発色」現象によって発色する。本発明においては、構造色塗膜形成塗料組成物中に含まれるコアシェル粒子のコア部の平均粒子径の範囲を0.1〜1μmの範囲で適宜設計することにより、様々な色域(紫〜緑〜赤)にわたる色相を発現させることができる。例えばコア部の平均粒子径が0.2μm程の場合は青っぽく見える。一方、コア部の平均粒子径が0.3μm程である場合は同じ位置で赤っぽく見える。そして「構造色」あるいは「構造発色」は、見る角度によって色相が変化するという特徴がある。そのため、正面から見て緑であっても、45°の角度から見ると青く見えるような現象も存在する。
【0053】
複層塗膜
本発明における複層塗膜は
被塗物に、光輝性顔料を含むメタリックベース塗料組成物または着色顔料を含むベース塗料組成物を塗装し、ベース塗膜を形成する工程、および
上記構造色塗膜形成塗料組成物を、メタリックベース塗膜の上に塗装し、構造色塗膜を形成する工程、
によって形成される。
必要に応じて、構造色塗膜の上にクリヤー塗料組成物を塗装し、クリヤー塗膜をさらに形成してもよい。
【0054】
被塗物
本発明の積層塗膜の形成に用いられる被塗物としては特に限定されず、例えば、金属、プラスチック、発泡体などが挙げられる。上述の通り本発明の構造色塗膜形成塗料組成物は、立体形状の被塗物、湾曲面を有する被塗物といった種々の被塗物に塗装することができるという優れた利点を有する。そのため、本発明の積層塗膜の形成に用いられる被塗物の具体例として、例えば自動車車体、携帯電話などの情報端末機、建材ボード、家電製品などといった種々の被塗物が挙げられる。
【0055】
被塗物が金属基材である場合は、リン酸塩、クロム酸塩などで予め化成処理されているのが特に好ましい。そしてこのような化成処理がなされた金属基材上に電着塗膜が形成されているのが好ましい。電着塗料組成物としては、カチオン型およびアニオン型の何れも使用することができるが、カチオン型電着塗料組成物を用いることにより防食性においてより優れた塗膜を形成することができるため好ましい。カチオン型電着塗料組成物は通常用いられる塗料組成物を用いることができる。
【0056】
被塗物には、必要に応じて中塗り塗膜が形成されている。中塗り塗膜は、中塗り塗料組成物を用いて形成される。中塗り塗料組成物は、有機系、無機系の各種着色顔料、体質顔料など、塗膜形成性樹脂および硬化剤などを含む。中塗り塗料組成物に用いられる塗膜形成性樹脂としては、特に限定されるものではないが、顔料分散性あるいは作業性の点から、アルキド樹脂および/またはポリエステル樹脂とアミノ樹脂との組み合わせが好ましい。
【0057】
ベース塗料組成物
ベース塗料組成物として、ベース樹脂成分(塗膜形成性樹脂および硬化剤)、光輝性顔料および/または着色顔料、そして必要に応じた体質顔料および溶媒を含有する、メタリックベース塗料組成物または着色顔料を含むベース塗料組成物を用いることができる。このベース塗料組成物は、水分散系または有機溶媒分散系を含む、水系または有機溶媒系のもの、または粉体塗料組成物である。
【0058】
塗膜形成性樹脂および硬化剤
ベース塗料組成物に含まれる塗膜形成用樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエーテル樹脂などが挙げられ、特に、アクリル樹脂および/またはポリエステル樹脂が好ましく用いられる。これらは単独で用いてもよく、また2種以上を組み合わせて用いてもよい。また硬化剤として、アミノ樹脂および(ブロック)ポリイソシアネート化合物が挙げられる。
【0059】
好ましく用いられるアクリル樹脂としては、アクリル系モノマーと他のエチレン性不飽和モノマーとの共重合体を挙げることができる。上記共重合に使用し得るアクリル系モノマーとしては、アクリル酸またはメタクリル酸のメチル、エチル、プロピル、n−ブチル、i−ブチル、t−ブチル、2−エチルヘキシル、ラウリル、フェニル、ベンジル、2−ヒドロキシエチル、2−ヒドロキシプロピルなどのエステル化物、アクリル酸またはメタクリル酸2−ヒドロキシエチルのカプロラクトンの開環付加物、アクリルアミド、メタクリルアミドおよびN−メチロールアクリルアミドなどがある。これらと共重合可能な他のエチレン性不飽和モノマーとしては、スチレン、α−メチルスチレン、イタコン酸、マレイン酸、酢酸ビニルなどがある。
【0060】
好ましく用いられるポリエステル樹脂としては、飽和ポリエステル樹脂や不飽和ポリエステル樹脂などが挙げられ、例えば、多塩基酸と多価アルコールを加熱縮合して得られた縮合物が挙げられる。多塩基酸としては、例えば、飽和多塩基酸、不飽和多塩基酸などが挙げられ、飽和多塩基酸としては、例えば、無水フタル酸、テレフタル酸、コハク酸などが挙げられ、不飽和多塩基酸としては、例えば、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸などが挙げられる。多価アルコールとしては、例えば、二価アルコール、三価アルコールなどが挙げられ、二価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコールなどが挙げられ、三価アルコールとしては、例えば、グリセリン、トリメチロールプロパンなどが挙げられる。
【0061】
塗膜形成用樹脂と硬化剤の割合は、両者の合計に対し、固形分換算で塗膜形成用樹脂が90〜50質量%、硬化剤が10〜50質量%であるのが好ましく、塗膜形成用樹脂が85〜60質量%、硬化剤が15〜40質量%であるのがより好ましい。硬化剤が10質量%未満である場合(塗膜形成用樹脂が90質量%を超える場合)は、塗膜中の架橋が十分でないおそれがある。一方、架橋剤が50質量%を超える場合(塗膜形成用樹脂が50質量%未満である場合)は、塗料組成物の貯蔵安定性が低下するとともに硬化速度が大きくなるため、塗膜外観が悪くなるおそれがある。
【0062】
光輝性顔料および着色顔料
ベース塗料組成物中に光輝性顔料が含まれることによって、メタリックベース塗料組成物となる。光輝性顔料の具体例としては、アルミニウム顔料、着色アルミニウム顔料、銅顔料、亜鉛顔料、鉄顔料、ニッケル顔料、スズ顔料、マイカフレーク顔料、金属酸化物被覆マイカフレーク顔料、アルミナフレーク顔料、金属酸化物被覆アルミナフレーク顔料、金属酸化物被覆シリカフレーク顔料、金属酸化物被覆ガラスフレーク顔料などが挙げられる。これらの中でも、アルミニウム顔料、着色アルミニウム顔料が好ましく用いられる。ここで着色アルミニウム顔料とは、有機または無機の着色顔料を、アルミニウム顔料にコーティングしたものである。着色顔料のコーティング層は、約80〜約600nmの厚さを有する。着色顔料のコーティングは、例えば、着色顔料と高分子物質とを水中に分散させ、アルミニウム顔料の表面上に析出させて着色層を生成させた湿式法によるものなどが挙げられる。
【0063】
光輝性顔料は、メタリックベース塗料組成物中、顔料質量濃度(PWC)5〜25質量%の量で含まれるのが好ましく、7〜20質量%の量で含まれるのがより好ましい。顔料質量濃度(PWC)が5質量%未満である場合は、メタリックベース塗膜において下地隠ぺい性が低下するおそれがある。また顔料質量濃度(PWC)が25質量%を超える場合は、得られる積層塗膜の塗膜外観が劣ることとなるおそれがある。なお、光輝性顔料の顔料質量濃度は、下記計算式、
PWC(質量%)=(光輝性顔料の合計質量)/(光輝性顔料およびそれ以外の顔料と、全樹脂固形分との合計質量)×100
から算出される。なお全樹脂とは、塗膜形成性樹脂および硬化剤を意味する。
【0064】
本発明において、光輝性顔料は市販のものを用いてもよく、例えば、アルミニウム顔料としては東洋アルミニウム社製「アルペースト」シリーズ、旭化成社製「アルペースト」シリーズなどが挙げられ、着色アルミニウム顔料としては、東洋アルミニウム社製「着色アルミニウム」シリーズ、昭和アルミニウム社製「着色アルミニウム」シリーズなどが挙げられる。
【0065】
着色顔料
ベース塗料組成物に含有され得る着色顔料として、有機系、あるいは無機系の各種着色顔料などが挙げられる。着色顔料としては、例えば、有機系のアゾレーキ系顔料、不溶性アゾ系顔料、縮合アゾ系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、ベンズイミダゾロン系顔料、フタロシアニン系顔料、インジゴ顔料、ペリノン系顔料、ペリレン系顔料、ジオキサジン系顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリノン系顔料、金属錯体顔料など、無機系の黄鉛、黄色酸化鉄、ベンガラ、カーボンブラック、二酸化チタンなどが挙げられる。さらに、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、クレー、アルミ粉、タルクなどの体質顔料を添加することができる。また、上記着色顔料を1種または2種以上を組み合わせて用いることで、所望の色相のベース塗膜を形成することができる。ベース塗料組成物が着色顔料を含有する場合、ベース塗料組成物に含まれる着色顔料の含有量は、顔料質量濃度(PWC)5〜40質量%であるのが好ましい。なお、着色顔料の顔料質量濃度は、下記計算式、
PWC(質量%)=(着色顔料の合計質量)/(着色顔料およびそれ以外の顔料と、全樹脂固形分との合計質量)×100
から算出される。ベース塗料組成物中に、上記光輝性顔料が含まれず、そして着色顔料のみを含む場合は、含まれる着色顔料の色相に応じた、ソリッドカラーベース塗料組成物となる。
【0066】
他の成分
ベース塗料組成物は、上記成分の他に、脂肪族アミドの潤滑分散体であるポリアミドワックスまたは酸化ポリエチレンを主体としたコロイド状分散体であるポリエチレンワックスなどの沈降防止剤、硬化触媒、紫外線吸収剤、酸化防止剤、レベリング剤、シリコンや有機高分子などの表面調整剤、タレ止め剤、増粘剤、消泡剤、滑剤、架橋性重合体粒子(ミクロゲル)などを適宜添加することができる。これらの添加剤は、通常、樹脂成分100質量部(固形分基準)に対して15質量部以下の割合で配合することにより、塗料組成物または塗膜の性能を改善することができる。
【0067】
ベース塗料組成物の調製
ベース塗料組成物は、上記構成成分を、通常、溶媒に溶解または分散した態様で提供される。ここで光輝性顔料をまたは光輝性顔料および着色顔料を用いる場合は、メタリックベース塗料組成物となり、光輝性顔料を用いずかつ着色顔料を用いる場合は着色顔料を含むベース塗料組成物(いわゆるソリッドカラーベース塗料組成物)となる。溶媒としては、樹脂成分を溶解または分散するものであればよく、有機溶媒および/または水を使用し得る。有機溶媒としては、塗料分野において通常用いられるものを挙げることができる。例えば、ヘキサン、トルエン、キシレンなどの炭化水素類、アセトン、メチルエテルケトンなどのケトン類、酢酸エチル、セロソルブアセテート、ブチルセロソルブなどのエステル類、アルコール類などを例示できる。環境面の観点から有機溶媒の使用が規制されている場合には、水を用いることが好ましい。この場合、適量の親水性有機溶媒を含有させてもよい。
【0068】
ベース塗料組成物の調製は方法は特に限定されず、顔料などの配合物をミル、ニーダーまたはロールなどを用いて混練、分散するなどの当業者に周知の方法を用い得る。ベース塗料組成物の固形分含有量は、製造時は30〜70質量%であるのが好ましく、そしてベース塗料組成物の塗装時は20〜55質量%であるのが好ましい。
【0069】
クリヤー塗料組成物
本発明で用いることができるクリヤー塗料組成物の塗料形態としては、有機溶媒型、水性型(水溶性、水分散性、エマルション)、非水分散型、粉体型のいずれでもよく、塗膜形成性樹脂および硬化剤などを含有するものなどが挙げられる。また必要により、硬化触媒、表面調製剤などを用いることができる。上記塗膜形成性樹脂としては、特に限定されるものではなく、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂などを用いることができる。これらは、アミノ樹脂および/または(ブロック)イソシアネート樹脂などの硬化剤と組み合わせて用いられる。透明性あるいは耐酸エッチング性などの点から、アクリル樹脂および/またはポリエステル樹脂とアミノ樹脂との組み合わせ、あるいは、カルボン酸・エポキシ硬化系を有するアクリル樹脂および/またはポリエステル樹脂などを用いることが好ましい。さらに、クリヤー塗料には、所望により、その他の添加剤を含有させることができる。具体的には、上述のベース塗膜の記載で挙げたものを使用することができる。
【0070】
複層塗膜形成方法
まず、被塗物に、メタリックベース塗料組成物または着色顔料を含むベース塗料組成物を塗装して、メタリックベース塗膜またはベース塗膜を形成する。ベース塗料組成物の塗装方法は特に限定されるものではなく、構造色塗膜形成塗料組成物の塗装方法として記載した任意の塗装方法を用いることができる。特に被塗物が自動車車体である場合には、エアー静電スプレー塗装による多ステージ塗装、好ましくは2ステージで塗装するか、或いは、エアー静電スプレー塗装と、通称「μμ(マイクロマイクロ)ベル」、「μ(マイクロ)ベル」あるいは「メタベル」などと言われる回転霧化式の静電塗装機とを組み合わせた塗装方法によりベース塗料組成物を塗装することが好ましい。これらの塗装により、塗膜外観および意匠性をより高めることができる。
【0071】
ベース塗料組成物を塗装することによってベース塗膜が形成される。ベース塗膜の膜厚は、所望の用途により変化するが、乾燥膜厚が10〜35μmとなるように塗装するのが好ましい。
【0072】
ベース塗料組成物の塗装後、塗膜を焼き付け硬化させてもよく、また焼き付け硬化させることなく、未硬化のベース塗膜上に次の構造色塗膜形成塗料組成物の塗装を行ってもよい。ベース塗膜を焼き付け硬化する場合は、硬化温度100〜180℃、好ましくは120〜160℃で、10〜30分間焼き付けるのが好ましい。
【0073】
なおベース塗膜の形成後、焼き付け硬化を行っていない場合は、構造色塗膜形成塗料組成物はウェットオンウェットで塗装されることとなる。ここでウェットオンウェットとは、第1の塗料組成物(ここではベース塗料組成物)を塗装して塗膜を形成した後、塗膜を焼き付け硬化させないで、その上に第2の塗料組成物(ここでは構造色塗膜形成塗料組成物)を塗装して塗膜を形成することをいう。この場合、第2の塗料組成物を塗装する前に、第1の塗料組成物により得られた塗膜をセッティングやプレヒートしてもよい。セッティングは、一般に、室温で1〜8分塗膜を放置することにより行う。又、プレヒートは、一般に、40〜80℃で2〜10分間塗膜を加熱することにより行う。
【0074】
こうして形成されたベース塗膜の上に、上記構造色塗膜形成塗料組成物を塗装して、構造色塗膜を形成する。構造色塗膜形成塗料組成物の塗装方法は上記した塗装方法を特に制限されることなく用いることができる。構造色塗膜形成塗料組成物の塗装後、乾燥または必要に応じて加熱硬化させる。乾燥または加熱条件は上述の通りである。構造色塗膜の膜厚は特に限定されるものではないが、一般に10〜200μmであるのが好ましい。
【0075】
本発明の積層塗膜の形成方法においては、ベース塗膜および構造色塗膜からなる積層塗膜の上に、さらにクリヤー塗料組成物を塗装し、クリヤー塗膜を形成することもできる。クリヤー塗膜を形成することによって、ベース塗膜および構造色塗膜を保護することができる。
【0076】
クリヤー塗料組成物の塗装方法は特に限定されるものではなく、塗料形態に応じた当業者に通常用いられる塗装方法を用いることができる。クリヤー塗料により形成されるクリヤー塗膜の乾燥膜厚は、一般に10〜70μm程度が好ましく、より好ましくは20〜50μm程度である。クリヤー塗膜を形成した後、塗膜を硬化させる硬化温度を100〜180℃、好ましくは120〜160℃に設定することで高い架橋度の硬化塗膜を得ることができる。
【0077】
上記より得られる複層塗膜、特にメタリックベース塗膜を有する複層塗膜は、構造色塗膜部における光の反射干渉による発色(干渉色)と、反射干渉以外の光を透過光とした出射光による発色(透過色)との存在によって、より装飾性の高い複雑な意匠を呈することとなる。
【0078】
構造色塗膜部へ入射した光(入射光)は、概ね2つの光路に別れる。1つは構造色塗膜部において反射干渉作用を生じ、干渉色を発する。他の1つは、構造色塗膜部を透過して、透過光となる。この透過光は、ベース塗膜において反射または特定波長吸収を伴う反射が生じ、反射光を発する。そしてこれら2つの光の作用が、見る方向によって色相が大きく変化し、しかも強い光沢感と深み感、透明感などの複合質感を呈する新規な積層塗膜構造を提供する役割を担うこととなる。
【0079】
本発明の複層塗膜において、ベース塗膜の上に構造色塗膜を形成することにより、人が入射光源スペクトルの入射側に位置してこの複層塗膜を眺めた場合、入射光源スペクトルが構造色塗膜部により反射干渉して発色する構造色、入射光源スペクトルがベース塗膜と作用して発色する第1の物体色、さらに、構造色塗膜部を透過した光源スペクトルとベース塗膜とが作用して発色する第2の物体色などが全体の発色構成において混在することによって、従来にない独特な質感、例えば透明感のある色相と強い光沢感、深み感などがもたらされる。また、構造色塗膜によって生じる光干渉効果により、見る方向によって色相が大きく変化して見えることになる。
例えば複層塗膜におけるベース塗膜がメタリックベース塗膜である場合は、入射光源スペクトルがベース塗膜と作用して発色する第1の物体色は、メタリック光輝材によるキラメキの強い反射光となる。そしてこの強い反射光(第1の物体色)、構造色塗膜部が発色する構造色、そして第1の物体色と同様にメタリック感を持つ上記第2の物体色が混在することによって、複層塗膜は、見る方向によって色相およびメタリック感が大きく変化する独特な意匠を呈することとなる。
また、例えば複層塗膜におけるベース塗膜が黒色のベース塗膜である場合は、入射光源スペクトルがベース塗膜と作用して吸収されるスペクトルが多くなる。そして吸収スペクトルが多くなることによって、構造色塗膜部が発色する干渉色が複層塗膜の意匠においてより大きな影響を与えることとなる。
【実施例】
【0080】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。実施例中、「部」および「%」は、ことわりのない限り、重量基準による。
【0081】
実施例1
コアシェル粒子の調製
1リットルの丸底コルベンに、純水400重量部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.02重量部を仕込み、攪拌しながら80℃に加温した。次いで、開始剤として過硫酸カリウム0.3重量部を用い、モノマーとしてスチレン35重量部、メチルメタクリレート10重量部、ジビニルベンゼン5重量部の混合液を、コア部を形成する重合性モノマー組成物として100分かけて滴下し、滴下終了後さらに30分間撹拌して、コア粒子を得た。形成された樹脂粒子をサンプリングとして少量採取した。
【0082】
上記撹拌後、さらに、メチルメタクリレート20重量部、n−ブチルアクリレート15重量部、メタクリル酸6重量部、ヒドロキシエチルアクリレート6重量部、グリシジルメタクリレート3重量部からなる、シェル部を形成する重合性モノマー組成物に、さらに連鎖移動剤であるチオグリコール酸オクチル0.2重量部を加えた混合液を、100分かけて滴下した。滴下後さらに2時間撹拌した後に冷却しfs、コアシェル粒子のエマルションを調製した。
【0083】
コア部を形成する重合性モノマー組成物を滴下し撹拌した後にサンプリングしたコア粒子について、平均粒子径を測定したところ、0.18μmであった。また粒子径の変動係数が5%であり粒子径の分布が非常に小さいことが確認された。またコア粒子の屈折率は1.54であった。
【0084】
最終的に得られたコアシェル粒子の粒子径は0.22μmで、変動係数は5%であった。またシェル部の屈折率は1.46であった。コアシェル粒子の重量に対するシェル部の重量は50重量%であった。なおコア部およびシェル部の屈折率の測定は、下記の「屈折率の測定」に基づいて行った。
【0085】
屈折率の測定
屈折率の測定は、アッベ式屈折率計を用いて行った。コア部の屈折率は、コア部を形成する重合性モノマー組成物滴下およびエージング後にサンプリングしたコア粒子を用いて、屈折率測定を行った。シェル部の屈折率は、シェル部を形成する重合性モノマー組成物のみ別途重合した測定用サンプルを作成し、屈折率測定を行った。
【0086】
構造色塗膜形成塗料組成物の調製
200mlビーカーに、得られたコアシェル粒子のエマルション100重量部を入れ、ディスパー撹拌しながらアンモニア水を添加してpH6〜8に調節した。次いでエチルカルビトール2重量部を加えてさらに撹拌し、構造色塗膜形成塗料組成物を得た。得られた塗料組成物の粘度をB型粘度計で測定した。測定粘度を下記表に示す。
【0087】
実施例2
ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを0.01重量部使用すること以外は実施例1と同様にしてコアシェル粒子のエマルションを調製した。コア部の粒子径は0.21μmであった。最終的に得られたコアシェル粒子の粒子径は0.25μmであった。
得られたコアシェル粒子のエマルションを用いて、実施例1と同様にして構造色塗膜形成塗料組成物を調製した。
【0088】
比較例1
ソープフリー重合で実施例1のエマルションのコア組成と同じ1.03μm粒子を作成し、それをシードにして実施例2のエマルションのシェル組成で2段目の重合を行うことによって、コアシェル構造を有し、コア:シェルの重量比が50:50のエマルションを得た。最終的に得られたコアシェル粒子の粒子径は1.24μmであった。
得られたコアシェル粒子のエマルションを用いて、実施例1と同様にして塗料組成物を調製した。
【0089】
比較例2
ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを0.5重量部使用すること以外は実施例1と同様にして、コアシェル粒子のエマルションを調製した。コア部の粒子径は0.09μmであった。また最終的に得られたコアシェル粒子の粒子径は0.12μmであった。
得られたコアシェル粒子のエマルションを用いて、実施例1と同様にして塗料組成物を調製した。
【0090】
比較例3
コア部の調製において、n-ブチルアクリレート10重量部、メチルメタクリレート35重量部、エチレングリコールジメタクリレート5重量部を用いたこと以外は実施例1と同様にして、コアシェル粒子のエマルションを調製した。コア部の粒子径は0.18μmであった。最終的に得られたコアシェル粒子の粒子径は0.22μmであった。またコア部とシェル部の屈折率の差は0.004であった。
得られたコアシェル粒子のエマルションを用いて、実施例1と同様にして塗料組成物を調製した。
【0091】
比較例4
シェル部の調製において、モノマーとしてメチルメタクリレート26重量部、n-ブチルアクリレート15重量部、ヒドロキシエチルアクリレート6重量部、グリシジルメタクリレート3重量部を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、コアシェル粒子のエマルションを調製した。コア部の粒子径は0.18μmであった。最終的に得られたコアシェル粒子の粒子径は0.22μmであった。
得られたコアシェル粒子のエマルションを用いて、実施例1と同様にして塗料組成物を調製した。得られた塗料組成物は粘度が低く、スプレー塗装に適さないものであった。
【0092】
比較例5
比較例4によって構造色塗膜形成塗料組成物に、増粘剤であるアデカノール UH−540を、塗料固形分100重量部に対して3重量部加えて撹拌して、塗料組成物を調製した。
【0093】
比較例6
コア部の調製において、スチレン56重量部、メチルメタクリレート16重量部、ジビニルベンゼン8重量部を160分かけて滴下し、シェル部の調製において、モノマーとしてメチルメタクリレート8重量部、n-ブチルアクリレート6重量部、メタクリル酸2.4重量部、ヒドロキシエチルアクリレート2.4重量部、グリシジルメタクリレート1.2重量部、および連鎖移動剤のチオグリコール酸オクチル0.04重量部の混合液を40分かけて滴下したこと以外は、実施例1と同様にして、コアシェル粒子のエマルションを調製した。
コア部の粒子径は0.21μmであった。最終的に得られたコアシェル粒子の粒子径は0.23μmであった。
得られたコアシェル粒子のエマルションを用いて、実施例1と同様にして塗料組成物を調製した。
【0094】
比較例7
コア部の調製において、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを0.005重量部使用し、スチレン7重量部、メチルメタクリレート2重量部、ジビニルベンゼン1重量部を20分かけて滴下したこと、シェル部の調製においてメチルメタクリレート36重量部、n-ブチルアクリレート27重量部、メタクリル酸10.8重量部、ヒドロキシエチルアクリレート10.8重量部、グリシジルメタクリレート5.4重量部、および連鎖移動剤のチオグリコール酸オクチル0.18重量部の混合液を180分かけて滴下したこと以外は、実施例1と同様にして、コアシェル粒子のエマルションを調製した。
コア部の粒子径は0.18μmであった。最終的に得られたコアシェル粒子の粒子径は0.23μmであった。
得られたコアシェル粒子のエマルションを用いて、実施例1と同様にして塗料組成物を調製した。
【0095】
構造色塗膜形成
上記実施例および比較例により得られた構造色塗膜形成塗料組成物を、黒色を塗装した鋼板に対しておよそ0.04g/cmの量でスプレー塗装した。約20分セッティングした後、120℃で30分焼き付けた。塗装条件および得られた塗膜を下記基準で評価した。
【0096】
スプレー作業性
約45°に保った試験板に、上記実施例および比較例により得られた構造色塗膜形成塗料組成物をおよそ0.04g/cmの量でスプレー塗装した。得られた塗装板を目視評価した。評価基準は以下の通りである。
○:スプレーされた塗料組成物が、試験板上に保持されている
×:塗料組成物のタレおよび流れが確認される
【0097】
造膜評価
上記実施例および比較例により得られた構造色塗膜形成塗料組成物を用いて、上記方法によって形成した構造色塗膜の造膜状態を目視および接触評価した。評価基準は以下の通りである。
○:均一な塗膜が形成されている。
△:塗膜として薄く、ムラが確認される
×:塗膜に指を押しつけると塗膜状態の維持が困難なほどに塗膜が脆い
【0098】
構造色発現の有無
上記実施例および比較例により得られた構造色塗膜形成塗料組成物を用いて、上記方法によって形成した構造色塗膜の構造色発現の有無を目視評価した。評価基準は以下の通りである。
○:塗膜を見る角度によって色相が変化する構造色が発現している
△:構造色発現は確認されるものの、ムラがある
×:構造色発現は確認されない
【0099】
【表1】

*N.D.:測定せず
【0100】
複層塗膜形成
リン酸亜鉛処理した厚さ0.8cm、20cm×30cmのSPCC−SD鋼板(ダル鋼板)に、カチオン電着塗料「パワートップU−50」(日本ペイント社製)を、乾燥膜厚が20μmとなるように電着塗装し、160℃で30分間焼き付けた。次に、得られた電着塗膜上に、グレー色の中塗り塗料「オルガTO−H−880−3グレー」(日本ペイント社製、ポリエステル・メラミン樹脂系塗料)を、乾燥膜厚が30μmとなるようにスプレー塗装し、140℃で20分間焼き付けて、中塗り塗膜が形成された被塗物を作成した。
【0101】
得られた中塗り塗膜上に、予め希釈された水性型メタリックベース塗料組成物(日本ペイント社製「アクアレックスAR−2000」)を、乾燥膜厚15μmとなるように外部印可型の「メタベル」を用い、2ステージ塗装した。2回の塗布の間に、1.5分間のインターバルを行った。2回目の塗布後、3分間セッティングを行った後、140℃で30分焼き付けた。
【0102】
得られたメタリックベース塗膜の上に、実施例1の構造色塗膜形成塗料組成物を、0.04g/cmの量でスプレー塗装した。約20分セッティングした後、120℃で30分焼き付けた。
【0103】
更に、酸/エポキシ硬化系クリヤー塗料組成物(日本ペイント社製「マックフローO−1800」)を、酢酸ブチル/キシレン=1/1からなる溶媒で23秒/20℃(#4フォードカップ)に希釈し、エアスプレーにて乾燥膜厚が約40μmに塗装した。7〜10分セッティングした後140℃で30分焼き付けた。
得られた複層塗膜は、見る角度によって色相が変化する構造色塗膜であった。図5は、得られた複層塗膜の構造色の色相を示す説明図である。
また、実施例1の構造色塗膜形成塗料組成物および実施例2の構造色塗膜形成塗料組成物を上記と同様に塗装して得られた複層塗膜の写真(コピー)を参考写真1−1、1−2、1−3として示す。
【0104】
なお、実施例1の構造色塗膜形成塗料組成物を用いて、立体構造を有する被塗物に対して上記と同様に複層塗膜を形成したところ、見る角度によって色相が変化する構造色塗膜を形成することができた。得られた複層塗膜の写真(コピー)を参考写真2−1、2−2、2−3、2−4として示す。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明の構造色塗膜形成塗料組成物は、塗装した後、乾燥または必要に応じて加熱するのみという非常に簡便な操作によって、見る角度によって色相が変化する構造色塗膜を形成することができるという優れた特徴を有する。そしてこのような簡便な操作によって構造色塗膜を形成することができるという特徴により、構造色塗膜を形成する被塗物の形状に制限されることなく構造色塗膜を形成することができるという更なる特徴も有する。また、本発明において用いられるコアシェル粒子は、非常に簡便な操作によって調製することができる。このため、2種以上のポリマー成分をそれぞれ0.02〜0.3ミクロン程の層として交互積層して透明光輝材を調製するといった従来技術と比較して、非常に簡便な操作により構造色塗膜形成塗料組成物を調製することができるという利点がある。さらに本発明の構造色塗膜形成塗料組成物によって形成される構造色塗膜は、構造色を呈するコア部配列がシェル部の樹脂で埋め尽くされているため、空洞部分や間隙部分に、構造色発現に悪影響を与える量の空気が残存することを防ぐことができるという利点もある。これにより、塗膜の強靱性が向上し、さらに構造色の発現も安定化し、白っぽさのない意匠性に優れた構造色塗膜が得られるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】本発明の構造色塗膜形成塗料組成物における塗膜形成過程を模式的に示す概略説明図である。
【図2】実施例1で得られた構造色塗膜の表面のSEM写真である。
【図3】特許文献1〜3における積層体形成の概略説明図である。
【図4】特許文献4で用いられている透明光輝材および発色構造体の概略説明図である。
【図5】実施例によって形成された複層塗膜の構造色の色相を示す説明図である。
【符号の説明】
【0107】
1:コア部、
3:シェル部、
10:コアシェル粒子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア部およびシェル部からなるコアシェル粒子を主成分とする構造色塗膜形成塗料組成物であって、
該シェル部は、非架橋であり、塗膜乾燥により融着するかまたは加熱により流動性を持つ、カルボキシル基を有する樹脂であり、
該コア部は、平均粒子径0.1〜1μmである、塗膜乾燥または加熱によって変形も流動も生じない単分散のコア部であり、
該コア部の屈折率と該シェル部の屈折率との屈折率差は0.01以上であり、
該コアシェル粒子の重量に対するシェル部の重量は30〜85重量%であり、および
該構造色塗膜形成塗料組成物を塗装し、得られた塗膜を乾燥または加熱することによりシェル部の融着または流動化が生じて塗膜が形成され、そしてシェル部によって形成された塗膜中にコア部が規則的に配列し、該コア部の規則的な配列が構造色を呈することとなる、
構造色塗膜形成塗料組成物。
【請求項2】
前記シェル部のカルボキシル基は、塩基性成分によって中和されている、請求項1記載の構造色塗膜形成塗料組成物。
【請求項3】
該シェル部を構成する樹脂はさらにグリシジル基を有する、請求項1または2記載の構造色塗膜形成塗料組成物。
【請求項4】
前記コアシェル粒子は、アクリル樹脂および/またはスチレンアクリル樹脂から構成されるコアシェル粒子である、請求項1〜3いずれかに記載の構造色塗膜形成塗料組成物。
【請求項5】
前記コアシェル粒子は、乳化重合またはソープフリー乳化重合によって調製される樹脂粒子である、請求項4記載の構造色塗膜形成塗料組成物。
【請求項6】
前記コアシェル粒子は二段重合法によって調製され、および該二段重合法において連鎖移動剤を使用することによって、シェル部を構成する樹脂の分子量はコア部を構成する樹脂の分子量より小さい状態である、請求項4または5記載の構造色塗膜形成塗料組成物。
【請求項7】
前記コアシェル粒子は非染色粒子である、請求項1〜6いずれかに記載の構造色塗膜形成塗料組成物。
【請求項8】
請求項1〜7いずれかに記載の構造色塗膜形成塗料組成物を塗装することによって形成される、構造色塗膜。
【請求項9】
被塗物に、光輝性顔料を含むメタリックベース塗料組成物を塗装し、メタリックベース塗膜を形成する工程、および
請求項1〜7いずれかに記載の構造色塗膜形成塗料組成物を、メタリックベース塗膜の上に塗装し、構造色塗膜を形成する工程、
を包含する、複層塗膜の形成方法。
【請求項10】
被塗物に、着色顔料を含むベース塗料組成物を塗装し、ベース塗膜を形成する工程、および
請求項1〜7いずれかに記載の構造色塗膜形成塗料組成物を、ベース塗膜の上に塗装し、構造色塗膜を形成する工程、
を包含する、複層塗膜の形成方法。
【請求項11】
構造色塗膜の上にクリヤー塗料組成物を塗装し、クリヤー塗膜を形成する工程をさらに包含する、請求項9または10記載の複層塗膜の形成方法。
【請求項12】
請求項9〜11いずれかに記載の複層塗膜の形成方法によって形成された複層塗膜。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2009−249527(P2009−249527A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−100179(P2008−100179)
【出願日】平成20年4月8日(2008.4.8)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】