説明

標的探索リガンドを有する結合体及びその使用

作用因子複合体及び少なくとも1つの標的探索リガンドの結合体であって、作用因子複合体は、封入材料によって封入された作用因子を含み、標的探索リガンドはプロスタサイクリン類似体であることを特徴とする結合体及び該結合体の使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、標的探索構造としてプロスタサイクリン類似体を含む作用因子を含む結合体と、そのような結合体を、気管支上皮細胞及び肺胞上皮細胞における遺伝子治療及び/又は遺伝子導入に使用することに関するものである。
【背景技術】
【0002】
第1に、肺は、その機能が非常に重要な臓器であり、第2に、肺は、表面積が大きくアクセスが良好なため、作用物質又は作用因子を体内に導入するには非常に魅力的な臓器である。
【0003】
局所作用及び全身作用の両方のために、エアロゾル、ネブライザー、吸入器、又は、ポンプスプレーによって肺に作用因子を導入することが知られている。ウィルス性遺伝子導入剤又は非ウィルス性遺伝子導入剤を、肺を介して投与して遺伝子治療することも知られている。ウィルス性賦形剤(viral excipients)を使用しても非ウィルス性賦形剤を使用しても、副作用が生じる。これは、特に、遺伝子導入(細胞に所望の遺伝子を導入すること)は、往々にして効果が十分ではないため、投与量が比較的高くならざるを得ないからである。そこで、研究者らは、遺伝子導入の有効性を改善することができる薬剤を長い間捜し求めてきた。これに関連して、カチオン性粒子は比較的容易に摂取(phagocyte)されるため、カチオン性脂質で遺伝子を封入することが提案されてきた。これに関連して提案されてきた薬剤であって、既に臨床試験(非特許文献1)の対象とされているものは、Genzyme Lipid 67である。ポリエチレンイミンポリマー(PEI)を使用して核酸を封入することが知られている(非特許文献2)。PEIはDNAを保護することができるが、遺伝子導入効率が悪いというデメリットがあり、さらに、導入効率が悪いために、PEIを大量投与すると、炎症を引き起こしてしまうということも明らかにされてきた。
【0004】
従って、研究者らは、カチオンポリマー封入粒子を細胞内に導入することが予測されるリガンドを有するカチオンポリマー封入粒子を提供することに長い間試みてきた。これらの試みにおいて、トランスフェリン(非特許文献3)、葉酸(非特許文献4)、ラクトフェリン(非特許文献5)、クレンブテロール(非特許文献6)、及びEGFのような成長因子(非特許文献7)が用いられてきた。これらのリガンドを用いてPEIを介した遺伝子導入法を改善することは可能であったが、高効率かつ標的を絞った方法で作用因子を肺に到達させることが、依然として必要とされていた。
【0005】
更に、遺伝子導入が確実な方法である慢性肺疾患の治療方法のための新たな手段を見出す試みが目下継続中である。先天性又は後天性のタンパク質異常及び/又は遺伝子異常に起因する肺疾患は、欠損又は損傷したタンパク質又は遺伝子産物を供給することで、改善、緩和又は完治することができた。しかし、そのような目的の投薬は定期的に行わなければならない。従って、望ましくない副作用と所望の治療効果とのバランスを見出す必要がある。他の重要な観点は、長期的な治療に必要とされる投薬回数である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の目的は、標的を絞った方法で、肺細胞、特に気管支上皮細胞及び肺胞上皮細胞に取り込ませることが可能な状態で、肺疾患の治療又は緩和に適した作用物質又は作用因子を供給することが可能な結合体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的は、請求項1に記載した結合体によって解決することができる。
【0008】
驚くべきことに、肺上皮細胞、即ち、気管支上皮細胞及び肺胞上皮細胞は、IP受容体を有しており、これらの受容体は、作用物質を有する粒子の効率的な移送のための標的となりうる。本発明による結合体を用いて、標的探索構造として少なくとも一つのプロスタサイクリン類似体を用いて、これらのIP受容体を介して気管支及び肺胞内の上皮細胞をうまく標的とすることができる。
【0009】
以下において、本発明の主題を詳述し、特徴及び有利な効果をより詳細に説明する。本発明を、添付の図面を参照して更に詳細に説明する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Alton EW, Stern M, Farley R, Jaffe A, Chadwick SL, Phillips J, et al. Cationic lipid-mediated CFTR gene transfer to the lungs and nose of patients with cystic fibrosis: a double-blind placebo-controlled trial. Lancet. 1999 Mar 20;353(9157):947-54.
【非特許文献2】Boussif O, Lezoualc'h F, Zanta MA, Mergny MD, Scherman D, Demeneix B, et al. A versatile vector for gene and oligonucleotide transfer into cells in culture and in vivo: polyethylenimine. Proc. Natl. Acad. Sci. U S A. 1995 Aug 1;92(16):7297-301.
【非特許文献3】Kircheis R, Kichler A, Wallner G, Kursa M, Ogris M, Felzmann T, et al. Coupling of cell-binding ligands to polyethylenimine for targeted gene delivery. Gene Ther. 1997 May;4(5):409-18.
【非特許文献4】Chul Cho K, Hoon Jeong J, Jung Chung H, Joe CO, Wan Kim S, Gwan Park T. Folate receptor-mediated intracellular delivery of recombinant caspase-3 for inducing apoptosis. J. Control. Release. 2005 Nov 2;108(1):121-31.
【非特許文献5】Elfinger M, Maucksch C, Rudolph C. Characterization of lactoferrin as a targeting ligand for nonviral gene delivery to airway epithelial cells. Biomaterials. 2007 Aug;28(23):3448-55.
【非特許文献6】Elfinger M, Geiger J, Hasenpusch G, Uzgun S, Sieverling N, Aneja MK, et al. Targeting of the beta(2)-adrenoceptor increases nonviral gene delivery to pulmonary epithelial cells in vitro and lungs in vivo. J. Control. Release. 2009 May 5;135(3):234-41.
【非特許文献7】Blessing T, Kursa M, Holzhauser R, Kircheis R, Wagner E. Different strategies for formation of pegylated EGF-conjugated PEI/DNA complexes for targeted gene delivery. Bioconjug. Chem. 2001 Jul-Aug;12(4):529-37.
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】ヒト肺胞上皮細胞及びヒト気管支上皮細胞におけるIP1受容体の発現をウェスタンブロット分析した結果を示す図である。
【図2】FLUO−BSA−ILO及びFLUO−BSA−TRPと共にそれぞれ培養したA549及び16HBE14o−細胞の蛍光強度を示す図である。
【図3a】様々な細胞株におけるFLUO−BSA及びFLUO−BSA−ILOの蛍光強度の比較結果を示す図である。
【図3b】CAY10449濃度を上昇させつつ測定した平均蛍光強度を示す図である。
【図3c】ILO濃度を上昇させつつ測定した平均蛍光強度を示す図である。
【図3d】CAY10449の投入後のFLUO−BSA−ILOの平均蛍光強度を示す図である。
【図3e】表面結合の共焦点レーザー走査顕微鏡像である。
【図4】様々なN/P比におけるPEI−g−ILO構造体のDNA遊離を示す図である。
【図5a】図5Aは、PEI−g−ILO遺伝子ベクターでトランスフェクションした細胞についての発現度を未処理PEIと比較して示す図である。
【図5b】PEI−g−ILOについての遺伝子発現度をPEIと比較して示す図である。
【図5c】A549及びBEAS−2B細胞におけるPEI−g−ILOの発現度をPEIと比較して示す図である。
【図6a】ルシフェラーゼの遺伝子発現のインビボ実験結果を示す図である。
【図6b】FILO=5のPEI−g−ILO遺伝子ベクターを投与したマウスから採取したホモジナイズ肺細胞におけるルシフェラーゼ発現を、PEI遺伝子ベクターを投与した場合と比較して示す図である。
【図7a】PEI又は本発明による構造体で処理した細胞と、未処理細胞の代謝活性を比較して示す図である。
【図7b】PEI又は本発明による構造体を投与した後のサイトカインレベルを、未処理細胞と比較して示す図である。
【図8】投与量に依存した、遺伝子ベクターの肺細胞への到達を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
驚くべきことに、標的探索構造としてプロスタサイクリン類似体を含む結合体は、肺の中の上皮細胞、特に気管支細胞及び肺胞細胞を標的とすることに適しており、高効率で細胞内に作用因子を導入することができる。本発明により提供される作用因子は、作用成分を肺上皮細胞に導入するものである。この作用因子は、広範な肺疾患の治療法に新たな可能性をもたらすものである。
【0013】
プロスタサイクリンは、プロスタグランジン類に属し、プロスタグランジンI又はPGIとして知られており、プロスタサイクリン(IP)受容体を標的とし、結合する。IP受容体は、7回膜貫通型Gタンパク共役型受容体であり、主に内皮細胞上、特に、筋肉細胞上、例えば、血管の筋肉細胞上に存在する[15−17]。IP受容体アゴニストへのプロスタサイクリンの結合は、クラスリン依存性プロセスによる受容体/リガンド複合体のエンドソーム内在化(endosomal internalization)を導く[18,19]。本発明者らは、活性薬剤を肺胞上皮細胞及び気管支上皮細胞への活性薬剤の標的輸送(targeted transfer)を改善し、肺に有用な、又は肺疾患状態を治療する活性薬剤の摂取を可能にするために、上述のような作用を利用できることを見出した。
【0014】
従って、本発明によれば、気管支上皮細胞及び肺胞上皮細胞の標的構造として少なくとも一種のプロスタサイクリン類似体を含む結合体が提供される。プロスタサイクリン自体は非常に不安定であり、意図した目的で使用するには分解が早すぎる。しかし、プロスタサイクリンと同様にIP受容体に結合して、アゴニストとして作用するプロスタサイクリン類似体が知られている。本明細書においては、プロスタサイクリン類似体はプロスタン酸から誘導される化合物であって、IP受容体への結合能がプロスタサイクリンと同等又はそれ以上であり、天然のプロスタサイクリンよりも安定している化合物を意味する。このようなタイプの化合物は既知である。既知のプロスタサイクリン類似体は、本発明による結合体に適している。
【0015】
好適に使用されるリガンドは、イロプロスト及び/又はトレプロスチニルといった、2種のプロスタサイクリン類似体であり、薬剤として承認されている。他のプロスタサイクリン類似体も同様に使用することができる。
【0016】
本発明に適したプロスタサイクリン類似体は、生理環境及び/又は保存時において天然のプロスタサイクリンよりも安定しているプロスタサイクリン類似体である。上述したように、プロスタサイクリンは非常に迅速に分解してしまう。生理環境(例えば、血液中)におけるプロスタサイクリンの半減期は数分間であり、長期の保存ができない。従って、本発明に適したプロスタサイクリン類似体は、生理環境中で分解又は不活性化することなく、少なくとも20分間、好ましくは少なくとも30分間、更に好ましくは少なくとも45分間にわたって特性を維持できるものか、あるいは、生理環境中における半減期が、少なくとも15分、好ましくは少なくとも20分、更に好ましくは少なくとも25分であるものである。本明細書では、概して、半減期とは、生理環境中で開始材料(この場合はプロスタサイクリン類似体)の半分が分解されるか、不活性化されるか、又は変質されるかする時間であると解するものとする。半減期は、例えば、測定対象のプロスタサイクリン類似体を35〜37℃の生理溶液中に入れ、未分解のプロスタサイクリンの量を開始時と所定時間後に測定することにより、慣例的な方法でシンプルに測定することができる。
【0017】
本発明に適したプロスタサイクリン類似体は、さらに、IP受容体への結合能がプロスタサイクリンと同等又はそれ以上であるものである。プロスタサイクリン類似体の結合能の測定方法は、プロスタサイクリン又は、イロプロスト及び/又はトレプロスチニルのような既知のプロスタサイクリン類似体、並びに候補のプロスタサイクリン類似体をフルオレセイン及びウシ血清アルブミン(BSA)と結合し、様々な肺細胞株(pulmonary cell line)に添加して、フローサイトメトリーや共焦点レーザー走査顕微鏡によって結合及び細胞内取り込みを調べる、競合的な方法である。プロスタサイクリン、イロプロスト、又はトレプロスチニルと同等又はそれ以上の結合能を有する候補は、同様に本発明による結合体の一部として好ましい。同等の結合能とは、フルオレセイン標識された候補がフルオレセイン標識されたプロスタサイクリン、フルオレセイン標識されたイロプロスト、又はフルオレセイン標識されたトレプロスチニルと少なくとも同程度結合するということを意味する。フルオレセイン標識された候補の割合が低い場合、プロスタサイクリン、イロプロスト、又はトレプロスチニルでその候補の結合を置換してしまい、候補の結合能を下げてしまう。
【0018】
既知のプロスタサイクリン類似体は、肺高血圧症(PAH)の治療に用いられており、通常、静脈内投与又はエアロゾルとして投与される[20]。これらは、分割量ずつ投与する必要があり、肺高血圧症の治療のために終日にわたり頻繁に投与しなければならない。しかし、本発明では、プロスタサイクリン類似体を標的探索構造として採用し、肺高血圧症の治療のためには使用しない。カチオン性封入材料及び作用因子を含む本発明による組み合わせにおけるプロスタサイクリン類似体類は、抗炎症活性を有し、これによって、本発明による結合体の活性を更に向上させる。
【0019】
本発明による結合体の第2の部分は、作用因子複合体であり、例えば、封入材料によって封入された作用因子である。封入材料は、作用因子を保護するとともに、細胞内取り込みを阻害しないように、適切な場合には、実際に細胞内取り込みを促進するように作用する。
【0020】
本発明による結合体の成分は、有効成分又は作用物質として活性である、本発明による標的探索構造によって標的とされる細胞内で有利な作用、治癒作用、緩和作用、及び調整作用を奏する、プロスタサイクリン以外のあらゆる作用因子でありうる。本発明において使用される作用因子は、具体的には、核酸、ペプチド又はポリペプチド、作用物質、又はトレーサー、及び/又は、これらの物質の誘導体、及び/又は、これらの混合物である。本発明において使用される作用因子は、肺疾患状態を緩和又は治癒することができる作用因子であることが好ましい。これに関連して、本発明においては、プロスタサイクリン類似体は作用物質としてではなく、標的探索リガンドとして使用する。
【0021】
本発明の1つの観点によれば、作用因子は、その欠陥又は欠如により肺疾患を生じさせる遺伝子又は遺伝子フラグメントを含む核酸、又は免疫調節活性タンパク質(特に、抗原)をコードする核酸である。核酸は、DNA又はRNAであり、1種又は複数種の遺伝子又は遺伝子フラグメントを含みうる。核酸は自己複製配列又は一体化配列であり、プラスミド、ベクター、又はその他の当業者によく知られた形式でありうる。核酸は、直鎖状又は環状、一本鎖又は二本鎖でありうる。細胞内で活性を有するあらゆる核酸がこのような目的に適している。更に、核酸は、遺伝子を発現するために不可欠又は有効な更なる要素、例えば、プロモーター、エンハンサー、及び信号配列等としてそれ自体知られている要素を含みうる。
【0022】
更なる実施形態において、本発明による結合体の活性成分は、肺疾患を引き起こすおそれがあるタンパク質欠乏又はタンパク質欠損(protein defect)を修復するために適している、あるいは、免疫調節活性を有するペプチド、ポリペプチド、タンパク質、又はタンパク質フラグメントでありうる。
【0023】
更に、本発明による結合体の活性成分は、気管支上皮細胞及び/又は肺胞上皮細胞中に存在する場合に肺の疾患状態を治癒又は緩和する作用物質でありうる。例として、喘息の治療に用いられるステロイドのような抗炎症剤が挙げられる。リガンドは抗炎症作用も有するため、この組み合わせは非常に有効な組成物となる。
【0024】
更なる実施形態において、作用因子は、細胞内に取り込まれることにより診断上重要な情報を提供することができるレポーター分子でありうる。診断に適したレポーター分子は当業者に既知であり、適したレポーター分子は、例えば、当業者に既知の放射性分子又は蛍光トレーサー分子である。レポーター分子は、例えば、治療プロセス又は肺の状態をモニタリングするために使用されうる。
【0025】
本発明による結合体の更なる必須成分は、作用因子を封入して、分解又は変性から作用因子を保護し、細胞内への導入を妨げず、むしろ実質的に促進する封入材料である。封入材料はカチオン性又は中性材料であり、例えば、ポリマー又はあらゆる他の層形成材料である。封入材料は、生物学的及び生理学的に許容可能であり、輸送中に作用因子を保護し、細胞内で分解されて生理学的に許容可能な分子を与え、作用因子に対して不活性である(作用因子と反応しない)ことが重要である。適切な封入材料は既知であり、あらゆる形態で入手可能である。カチオン性封入材料は核酸を封入するために好ましく、他の作用因子、例えば、タンパク質、作用物質、又はトレーサーは、カチオン性又は中性封入材料を用いてカプセル化することができる。
【0026】
本発明の一実施形態において、特に、作用因子が核酸である場合に使用される封入材料はカチオン性ポリマーである。正に荷電した粒子は中性又は負に荷電した粒子よりも迅速に細胞に取り込まれる。しかし、これらは比較的非特定的な付着も促進する。カチオン性封入材料は、作用因子として核酸を封入するために好ましい。これは、カチオン性物質によって、核酸を非常に迅速に封入及び保護することができるからである。適切な方法は当業者には既知である。
【0027】
封入材料は天然物質、合成物質、又は、カチオン誘導(cationically derivatized)した天然物質であり、例えば、脂質、ポリマー、又はオリゴマーでありうる。天然オリゴマーの一例は、スペルミンである。合成ポリゴマーは、例えば、窒素性生分解性ポリマー、具体的には、プロトン化することができる窒素原子を有するポリマーである。特に適しているものは、ポリエチレンイミンであり、具体的には、分岐ポリエチレンイミンであり、市販されている。適切な材料は、例えば、平均分子量が25kDaである分岐ポリエチレンイミンであり、市販されている。標的探索リガンドを結合したこの高分子は、非常に良好に許容されることが明らかとなっている。天然の、任意には誘導された層形成封入材料として使用可能な物質も、脂質、具体的にはカチオン性及び中性脂質である。脂質は多くの変体として入手可能であり、例えば、リポソームを形成するために用いることができる。Genzyme Lipid 67という名称で入手可能であるカチオン誘導脂質が特に適している。スターチ又はスターチ誘導体のような糖分子をベースとするポリマーはあまり適当ではないので、本発明による封入材料として使用されない。
【0028】
タンパク質、作用物質、又はトレーサーのような他の作用因子について、適切なポリマーが当業者に知られている。適切なポリマーは、生物的適合性を有し、少なくとも本発明によるプロスタサイクリン類似体と組み合わせて使用され、炎症を引き起こさず、他のいかなる方法においても細胞に損傷を与えず、そして、標的(すなわち、細胞)に到達すると作用因子を放出するポリマーである。
【0029】
作用因子結合体は、コーティング材料と、例えば、それ自体既知であり調製方法も良く知られている、ナノ粒子又はナノカプセル、及びリポソーム等から成る。適切な方法は、放出制御可能な、ポリラクチド及び/又はポリグリコライドのような、生分解性ポリマーである。よって、予め定めた方法で作用因子が放出されるようにコーティング材料を選択することができる。そのようなコーティング材料は、文献中に種々の実例を挙げて説明されており、当業者は非常に多数の材料の中から目的に最適の材料を選択することができる。
【0030】
既知の方法によって、活性薬剤を封入材料で封入又はコーティングする。作用因子及び封入材料の複合体は、以下、「作用因子複合体」と称する。本発明において、「封入する」とは、ポリマーによって作用因子を生理環境から保護して、標的に到達するまで変性又は分解されないようにすることをいう。封入は作用因子を取り囲む単一層のみでもよいが、作用因子を埋め込み又は封入したリポソームか、ナノ粒子、又はマイクロ粒子であってもよい。錯形成(complexing)によって作用因子を封入することもできる。本発明による結合体について使用可能な種々の形式による作用因子の封入又はコーティングが当業者に既知であり、それらは、標的探索リガンドの受容体への結合を阻害することがなく、細胞内への結合体の導入及び作用因子の細胞中への放出を阻害することがない限りにおいて、使用可能である。封入材料及び/又は適切な粒子の調製による作用因子の封入は、慣習的な方法によって実施可能である。最もシンプルな実施形態においては、例えば、核酸のような活性薬剤を、例えば、溶解状態が適切な場合に、ポリエチレンイミンのようなカチオン性ポリマーである封入材料と混合する。
【0031】
本発明において標的探索構造として使用される少なくとも一種のプロスタサイクリン類似体を、封入前又は封入後に封入物質に対して結合する。封入材料に対してリガンドを結合しても、作用因子の活性に悪影響を及ぼすことはない。リガンドの結合又は固定化によって、受容体への結合能は損なわれない。当業者に既知のリガンドの固定化方法を本発明においても使用することができる。当業者は、ある封入物質及びリガンドの適合性について、これらから所望の作用因子複合体を調整して、遊離リガンドの結合能と調整した複合体の結合能とを比較することにより、その封入物質及びリガンドの適合性を調査することができる。更に、封入前のフリーの作用因子の活性と、放出後の作用因子の活性とを測定することにより、作用因子に関する封入物質の適合性を調査することができる。
【0032】
封入材料を作用因子の封入に使用する前に、リガンドを封入材料に直接結合させることができる。このような実施形態は、封入材料がカチオン性ポリマーであり、作用因子が核酸である場合に適している。また、作用因子複合体を最初に形成してから、リガンドを結合させることも可能である。このような実施形態は、作用因子複合体をナノ粒子、ナノスフィア、又はリポソームとして形成する場合に適している。適切な場合には、スペーサーによって封入材料に対してリガンドを結合させ、結合活性を有するリガンドの部位が結合可能となるようにする。これにより、結合によって活性薬剤が影響を受けず、さらに、表面の少なくとも一種のプロスタサイクリン類似体をIP受容体に対して自由に結合可能とすることができる。例えば、プロスタサイクリン類似体のようなリガンドは、封入材料に対して、共有結合、イオン結合、配位結合、水素結合、のようなあらゆるタイプの結合を形成することで結合することができ、これらの結合は、リガンドを固定化させるために十分であり、さらに、受容体に対する結合能が悪影響を受けない限りにおいて、採用可能である。従って、プロスタサイクリン類似体を封入材料に対して、例えば、共有又はイオン結合によって、直接又はスペーサーを介して結合させることができる。例えば、ポリエチレングリコール(PEG)がスペーサーの一例として当業者に知られている。
【0033】
カップリングの程度、即ち、結合体又は封入された粒子がリガンドをどの程度引き付けるかは、結合体粒子あたりのリガンド数で表され、作用因子の放出に影響するため、細胞内における作用因子の活性に影響する。封入された粒子に結合するリガンド量は極度に多くない方が好ましい。これは、リガンド量が極度に多いと、受容体を標的とした結合が阻害されて、結果的に、立体障害となってしまうからである。当業者は、日常的な実験により理想的な結合の程度を見出すことができる。リガンド量は、封入材料の性質及び粒子の大きさに依存する。
【0034】
カップリングの程度が高いと、作用因子の放出が不完全となるおそれがあることが見出された。カチオン性ポリマーを封入にしようした場合、カップリングはポリマーあたり15リガンド以下であるべきである。他方、標的結合を実現するために、少なくとも1種のプロスタサイクリン類似体を各封入粒子に結合する必要がある。
【0035】
各場合において、一種類のプロスタサイクリン類似体を結合体又は粒子に対して結合させることができる。適切な場合に、二種以上のプロスタサイクリン類似体の混合物を結合させて、結合能及び/又は細胞内取り込みを強化することも可能である。
【0036】
封入材料の活性薬剤に対する割合は、活性に影響することが見出された。十分な封入材料が存在しない場合、活性薬剤は十分に保護されない。封入材料の割合が高すぎると、第1に、適合性の問題が生じ、第2に、封入材料の割合が過度に高いことにより活性薬剤の放出が不可能になるという問題が生じる。いずれの場合においても、運搬効率が悪影響を受ける。当業者は幾つかの日常的な実験により、最適な割合を決定することができる。封入材料の活性薬剤に対する割合は、重量ベースで10:1から1:4の範囲であることが特に適していることが証明された。封入材料の作用因子に対する割合は、4:1から1:4であることが特に好ましい。結合体が作用因子として核酸を含み、ポリマーとしてポリエチレンイミンを含む場合、ポリマーの割合は、ポリマーの窒素含量のDNAリン酸塩含量に対するモル比によっても表すことができ、その割合は、好ましくは2〜10、特に好ましくは、4〜8である。ポリマーの窒素含量のDNAリン酸塩含量に対するモル比が4対8である場合、取り込み特性に最適な結合体粒子の流体力学直径は、50〜100nmの範囲であることが明らかになった。
【0037】
さらに、リガンド密度を封入の程度に適合させた場合に、最適な結合体を得ることができるということが明らかになった。封入材料の割合が比較的高い場合、作用因子が過剰に保護されてしまうため、リガンド密度を過剰に高くすべきではない。封入材料の割合を比較的低い範囲とすると、それに応じてリガンド密度を比較的高い範囲とすることができる。
【0038】
本発明による結合体は、作用物質を気管支上皮細胞及び/又は肺胞上皮細胞に導入するために理想的な物質である。従来技術に記載の標的リガンド(ターゲッティングリガンド)を有する粒子の5%以下のみが標的(即ち、細胞)に到達し、従来技術に記載のリガンド含有結合体の50%以下のみが標的に到達してその機能を発揮することができるに過ぎない。一方、本発明による結合体の50%超、しばしば、60%以上、時には、最大80%が細胞によって取り込まれて、作用因子を放出する。
【0039】
従って、本発明により、活性成分を高効率で標的細胞に導入することができる方法を提供する。該方法によれば、細胞内への輸送中に活性薬剤が良好に保護され、細胞に到達する活性薬剤の割合が非常に高く、本発明による結合体の構造に起因して摂取効率が非常に高い。
【0040】
更なる実施形態において、本発明による結合体は、例えば、ポリエチレングリコール鎖を有して肺の中における生存時間を延長できる、カチオン性ポリマー封入材料により封入された粒子を更に提供することにより、本発明による結合体を更に改良することができる。核酸のような活性分子を、ペグ化によって保護することは既知であり、通常の方法を用いて保護することもできる。
【0041】
本発明による結合体を用いて様々な肺疾患を治療することができる。特に、本発明による結合体は、遺伝子欠損又はタンパク質欠損に起因する肺疾患を治療又は緩和するのに適している。その一例は、嚢胞性線維症である。上述のように、欠如又は欠損遺伝子を細胞内に導入するだけではなく、欠如又は欠損遺伝子によりコードされているタンパクシツを細胞内に導入することが可能である。
【0042】
本発明による結合体の更なる応用技術分野は、ワクチンとしての使用である。このような実施形態では、結合体の活性成分は、免疫調節活性又は免疫活性ペプチド、若しくはタンパク質、又は免疫調節活性又は免疫活性ペプチド、若しくはタンパク質をコードする遺伝子の何れかである[1,2]。この実施形態の利点は、例えば、噴霧器又はエアロゾルを用いて、非侵襲的に肺からワクチンを投与することができる点である。このような技術は複雑ではなく、衛生環境に起因して、又は、適切に訓練された人員が不足していることにより、注射による投与に問題がある状況でさえ投与を可能にし、さらに、複数用量を容易に実現して、免疫応答を強化することができる。さらに、肺は表面積が大きく、免疫活性細胞を有するため、ワクチン接種目的に非常に適している。
【0043】
本発明による結合体は、肺への投与のために提供される。このため、吸入又は噴霧により肺に導入される医薬組成物として既知のものと同様に処方することができる。適切な処方は当業者に既知である。従って、結合体を懸濁液又はエマルジョンとして調製して、噴霧器又はエアロゾルによって、運搬体として不活性ガスを伴って投与することができる。また、結合体は粉末として提供することも可能である。
【0044】
本発明は以下の実施例によってより詳細に説明するが、本発明は実施例によって制約されるものではない。
【実施例1】
【0045】
封入材料でコーティングされ、標的探索構造としてイロプロスト又はトレプロスチニルを有する粒子の結合体を調製及び検証した。
【0046】
[材料及び方法]
化学物質及びプラスミドの供給元、並びに使用濃度は以下の通りである。
イロプロスト、トレプロスチニル、CRY10449:ケイマンケミカル社(米国ミシガン州)
分岐ポリエチレンイミン(平均分子量25kDa)、N−ヒドロキシスルホスクシンイミド(sulfo−NHS)、ウシ血清アルブミン(BSA)、リン酸ナトリウム、ピクリルスルホン酸溶液、4−(2−ヒドロキシエチル)ピペラジン−1−エタンスルホン酸(HEPES)、及びヘパラン硫酸:シグマアルドリッチ社(独国、シュネルドルフ)
PEIを再蒸留水(注射用の水、Bブラウンメルズンゲンアーゲー社(独国メルズンゲン))に希釈し、塩酸水溶液を用いてpHを7に調節した。
リン酸ナトリウムを再蒸留水に溶解して、濃度を0.5mMとし、水酸化ナトリウムによりpHを7.5に調節した。
HEPESを蒸留水に溶解して、濃度を0.1Mとし、水酸化ナトリウムによりpHを7.4に調節した。
ヘパラン硫酸を再蒸留水に溶解して濃度を5mg/mlとした。
エタノール(分析グレード)及び3−(N−モルホリノ)プロパンスルホン酸(MOPS):メルク社(独国ダルムシュタット)
MOPSを再蒸留水に溶解して、濃度を0.1Mとし、塩酸水溶液を用いてpHを6に調節した。
1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸(EDC)及び5−(及び6−)カルボキシフルオレセインスクシンイミジルエステル(Fluorescein−NHS):ピアース社(米国ロックフォート)
ジチオスレイトール(DTT):アマシャムバイオサイエンス社(米国南サンフランシスコ)
D−ルシフェリン:シンケムOHG社(独国フレンスベルク/アルテンブルク)
初期サイトメガロウィルス(CMV)プロモーターの制御によりフォティナス・ピラリス(Fotinus pyralis)ルシフェラーゼ遺伝子を含有させたpCMV−lucプラスミド、及びpCpG−lucプラスミドは、大腸菌中で増殖され、高度に精製された状態(LPS含量≦0.1E.U./μgDNA)で、プラスミドファクトリー社(独国ビーレフェルト)により得た。スーパーコイルpDNAの量は、pCMV−lucでは90%ccc(共有結合閉環)以上であり、pCpG−lucでは、98%ccc以上であった。
【0047】
[使用した細胞株]
A549細胞(ヒト肺胞上皮細胞):DSMZ(deutsche Sammlung fur Mikroorganismen und Zellkulturen[ドイツ国微生物及び細胞培養物コレクション]、独国ブラウンスヴァイク)
BEAS−2B(ヒト気管支上皮細胞)、H441(ヒト細気管支上皮細胞):ATCC(アメリカンタイプカルチャーコレクション)
16HBE14o−細胞:ヒト気管支上皮細胞
A549、BEAS−2B、及び16HBE14o−細胞株を37℃、空気中のCOが5%の湿気環境で、基礎培地(MEM、ジブコ−BRL社製(独国カールスルーエ))中で培養し、10%ウシ胎仔血清(FCS、ジブコ−BRL社製(独国カールスルーエ))を追加した。H441細胞株を37℃、空気中のCOが5%の湿気環境で、基礎培地(MEM、ジブコ−BRL社製(独国カールスルーエ))中で培養し、ロズウェルパーク記念研究所培地1640(RPMI1640、ジブコ−BRL社製(独国カールスルーエ))中で培養し、10%FCSを追加した。
【0048】
[動物]
14週齢メスBALB/cマウス(チャールズリバーラボラトリー社、独国スールツフェルト)を特定病原体未感染条件下で飼育した。実験に先立って、マウスを少なくとも7日間順応させた。すべての動物取り扱い手順は動物実験倫理委員会によって承認及び検査され、German Recht zum Schutz von Tierleben[独国動物生命保護法]によるガイドラインに従って実施した。
【0049】
[ウェスタンブロット分析]
A549−,BEAS−2B、及び16HBE14o−細胞をPBSで洗浄して、20mMのTris−HCl(pH7.5)、100mMのNaCl、1mMのEDTA、1%のTritonX−100、及び0.05%のデオキシコール酸ナトリウムを含む溶解(lysis)バッファー中で氷冷溶解した。1mMのDTT及びプロテアーゼインヒビターカクテル(ロシュダイアグノスティックス社、独国マンハイム)を、使用前に直接新たに添加した。バイオラッドプロテインアッセイ(バイオラッド社、独国ミュンヘン)によりタンパク質濃度を測定した。各細胞株について、50μgのタンパク質をSDSサンプルローディングバッファー(62.5mMTris−HCl(pH6.8)、2%SDS、10%グリセロール、2%DTT、0.001%ブロモフェノールブルー)で希釈し、5分間沸騰させ、7.5%Tris−HClゲル(バイオラッド社、独国ミュンヘン)上で分離させ、PVDF膜(ミリポア社、独国シュヴァルバハ)に転写した。5%スキムミルク粉末(シグマアルドリッチ社、独国デイセンホッヘン)TBS−T(20mMのTris−HCl (pH7.6)、137mMのNaCl、0.1%のTween−20)で、室温で1時間、膜をブロックした。IP受容体用の1次ポリクローナル抗体(希釈1:500)(ケイマンケミカル社、米国ミシガン州)を0.5%スキムミルク中で1晩培養した。膜をTBS−Tで洗浄し、2次HRP結合抗ラビット抗体(希釈1:15000、バイオラッド社、独国ミュンヘン)と共に0.5%スキムミルク中で、室温で1.5時間培養した。TBS−Tによる数回の洗浄ステップの後に、製造元の説明書に従って、ECL測定キット(ピアース社、米国ロックフォート)を用いた化学発光の測定を実施した。
【0050】
[フルオレセインBSA−イロプロスト(FLUO−BSA−ILO)及びフルオレセインBSA−トレプロスチニル(FLUO−BSA−TRP)の合成]
BSAの20mg(0.3μmol)を2.5mlのリン酸ナトリウムバッファ(pH7.5)で希釈し、10倍モル過剰のフルオレセインNHSと混合した。室温で1時間攪拌した後、混合物をPBS平衡セファデックスG25MPD−10カラム(GEヘルスケア社、スウェーデン、ウプサラ)で精製した。0.7mg(1.8μmol)のILO又は0.8mg(1.8μmol)のTRPを130μlの分析グレードエタノールに溶解し、370μlのMOPSバッファー、0.1M、pH6、0.5mg(5mM)のsulfo−NHS(MOPSバッファー中)、及び0.2mg(2mM)のEDC(MOPSバッファ中)に添加して、混合物を室温で15分間攪拌した。その後、5μl(20mM)のDTT(蒸留水中)を添加し、190μl中3mg(45.2nmol)のFLUO−BSA、及び210μlの0.5Mリン酸バッファーを、ピペットによって迅速に反応溶液に注入した。混合物を室温で2時間混合して、PBS平衡セファデックスG25MPD−10カラム(GEヘルスケア社、スウェーデン、ウプサラ)で精製した。BSA標準曲線を用いたバイオラッドプロテインアッセイにおいて、BSAの量を定量的に評価した。最終産物及び中間産物のカップリング効率をTNBSアッセイによって測定し[21]、吸光度を495nmで測定した。BSA−ILO及びBSA−TRPのカップリング度は、BSA1molあたり、ILO又はTRPが10molであることが明らかとなった。
【0051】
[イロプロストをグラフトしたPEIポリマー(PEI−g−ILO)の合成]
様々な程度のPEI−g−ILOのカップリングを、反応混合物に添加するEDC量を変化させて合成した。ILO1mg(2.8μmol)を分析グレードエタノール100μlに希釈し、900mlのHEPESバッファー(0.1M、pH7.4)中の68nmolのPEI及び1mg(5mM)のsulfo−NHSと混合した。様々な量のEDCを添加して最終濃度をそれぞれ25mM、50mM、60mM、又は100mMとし、混合物を室温で4時間攪拌しながら培養した。再蒸留水で平衡化したセファデックスG25MPD−10カラム(GEヘルスケア社、スウェーデン、ウプサラ)で反応混合物を精製した。PEI濃度を、ウンガロらによる文献[22]に記載のようなCuSOテストで測定した。PEI−g−ILOのH−1D NMRスペクトルを、DO中で、ブルーカー社(Bruker)AV250MHzスペクトロメーターで測定した。PEI−g−ILOのカップリング度は、δ(1H)=2.5〜3.1ppmにおけるPEI(CH−CH−NH−)の幅広多重線(broad multiplet)と、δ(1H)=1.73ppmにおけるILO(−C≡C−CH)の末端メチル基の一重線とを統合することによって算出した。ILOのPEIに対する共有結合は、4つの異なるカップリング度(FILO(mol ILO/mol PEI)=2,5,8,16)に反映される。PEI−g−ILOは、少量の等分量に分割し、液体窒素中で凍結保存し、この後使用するまで−80℃に維持した。
【0052】
[FLUO−BSA−ILO及びFLUO−BSA−TRPを用いた培養実験]
A549,H441,16HBE14o−及びBEAS−2B細胞について、FLUO−BSA−ILOの受容体結合/取り込みを調査した。FACS測定実験のために、24−ウェルプレート(TPP社、スイス国トラサディンゲン)に、結合体を添加する24時間前に100000細胞/ウェルを播種した。FLUO−BSA−ILO,FLUO−BSA−TRP、及びFLUO−BSA結合体をMEMに希釈して濃度を0.5μMとし、細胞を37度で5時間培養した。細胞をPBSで洗浄し、トリプシン処理によって細胞をウェルから除去し、ベクトン・ディッキンソンFACSスキャン(米国サンノゼ)を用いてFACS測定を実施した。共焦点レーザー走査顕微鏡のために、BDFalconカルチャー(BDバイオサイエンス社、米国サンノゼ)の4つのチャンバーを有するスライドであって、1つのチャンバーあたり25000個の細胞を有するスライドについて実験を実施した。FLUO−BSA−ILO及びFLUO−BSAの培養は上述のようにして実施した。細胞を洗浄し、4%パラホルムアルデヒドで固定し、その後、標準的な手順で、核を0.33μMのDAPI(4‘,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール)で染色し、F−アクチンをAlexafluor(登録商標)568ファロイジン(インビトロゲン社、独国カールスルーエ)で染色した。スライドに溶媒(Vectashield、ベクターラボラトリー社、米国ベーリンガム)を広げ、共焦点レーザー走査顕微鏡(ライカ社、独国ゾルムス)を用いて撮像した。
【0053】
[FLUO−BSA−ILOのCAY10449に対する結合の阻害実験]
16HBE14o−細胞について、FLUO−BSA−ILOの受容体結合/取り込みの阻害を調査した。上述のようにして24−ウェルプレートを準備した。CAY10449をMEMに希釈して濃度を15μM、30μM、及び150μMとし、混合物を37℃で15分間培養した。その後、FLUO−BSA−ILO及びFLUO−BSAを添加して最終濃度を25nMとし、細胞と共に37℃で4時間培養した。結合/取り込みはFACSを用いて測定した。
【0054】
[遺伝子ベクター粒子の調製]
ルシフェラーゼレポーター遺伝子を有するプラスミド(pCMV−luc)及びPEI又はPEI−g−ILOをそれぞれ25μlの再蒸留水に希釈した。様々なN/P比(PEI窒素のDNAリン酸塩に対するモル比)を試験した。pCMV−luc溶液を同一量のポリマー溶液に添加し、ピペッティングにより8回上下させて穏やかに混合し、20μgpCMV−luc/mlの濃度の粒子とした。遺伝子導入粒子を室温で20分間培養した。
【0055】
[粒子サイズの測定]
粒子サイズ(動的光散乱によって測定する)をゼータパルス/ゼータ電位分析装置(ブルックヘブンインスツルメント社、オーストリア国ウィーン)を用いて測定した。遺伝子ベクター粒子は上述のようにして生成した。以下のような設定、即ち、1つの試料あたり1分間の測定を5回、水の粘度0.89cP、参照インデックス1.330、温度25℃、で測定を実施した。
【0056】
[DNAリターデーションアッセイ]
N/P=4で、様々なカップリング度のPEI/pCMV−luc及びPEI−g−ILO/pCMV−luc遺伝子ベクター粒子を、上述のようにして再蒸留水中で調製した。各粒子溶液5μlを再蒸留水2μl又はヘパラン硫酸溶液(5mg/ml)2μlと混合した。45分間培養した後、試料を1μlのローディングバッファー(水に対して、ブロモフェノールブルー0.25%、キシレンシアノールFF0.25%、グリセロール30%)と混合し、0.8%アガロースゲルのウェルにそれぞれ充填し、125Vでアガロースゲル電気泳動を1時間実施して分離した。ゲルをエチジウムブロマイドで染色して、UV光でDNAバンドを可視化した。
【0057】
[インビトロトランスフェクションの調査]
トランスフェクションの24時間前に、A549,16HBE14o−、及びBEAS−2B細胞を24ウェルプレート(TPP社、スイス国トラサディンゲン)に、100000細胞/ウェルで播種し、10%FCSを含み、0.1%(v/v)ペニシリン/ストレプトマイシンが補充されたMEM中で培養した。トランスフェクションの前に、細胞をPBSで洗浄し、450μlの未使用の血清非含有培地を各ウェルに添加した。その後、1μgのpCMV−lucに相当する50μlの遺伝子ベクター粒子を細胞上にピペットで滴下した。阻害実験のために、遺伝子ベクター粒子を添加する15分前に、濃度150μMでCAY10449を未使用の培地に添加した。4時間培養下の地、トランスフェクション培地を、10%FCSを含み、0.1%(v/v)ペニシリン/ストレプトマイシンが補充されたMEMによって除去した。トランスフェクションの24時間後に、Wallac Victor 1420マルチラベルカウンター(パーキンエルマー社、米国ボストン)を用いて、フス等により記載されたようにして[23]、ルシフェラーゼ活性を測定した。バイオラッドプロテインアッセイを使用し、BSAをタンパク質の標準として、結果を全細胞タンパク質含量に正規化した。
【0058】
[インビボ遺伝子導入調査]
マウスへのエアロゾル供給用のベクター粒子を準備するために、pCpG−luc及びPEI又はFILO=5のPEI−g−ILOを、注射用にそれぞれ4.0mlの水で希釈した(Bブラウンメルズンゲンアーゲー社、独国メルズンゲン)。これにより、濃度は、それぞれ、pCpG−lucが250μg/ml、PEIが130.4μg/mlとなった(N/P比4に相当)。pCpG−luc溶液をPEI溶液にピペット注入して、8回上下させて混合し、最終的なDNA濃度を125μg/mlとした。使用前に粒子を室温で20分間培養した。ルドルフらによる文献[24]に記載された縦方向全身エアロゾル装置に接続されたパリLC+噴霧器を有するパリ・ターボボーイ(登録商標)N吸入器(パリ社、独国シュタルンベルク)を用いて、粒子を噴霧した。24時間後、マウスを麻酔し、D−ルシフェリン基質(マウス1匹あたり1.5mg/50μlPBS)を経鼻投与(sniffing)により肺内投与した[25]。10分後、(IVIS100イメージングシステム、キセノジェン社、米国アラメダ)により生物発光を測定した。カメラ設定は、視野10、F1 f−ストップ、高解像度ビニング、露出時間10分とした。肺内のレポーター遺伝子の発現度を確認するために、インビボ生物発光イメージングした後に頸椎脱臼によりマウスを安楽死(sacrifice)させた。正中線に沿って切開して腹膜を開き、マウスの肺を切除してPBSでかん流した。肺を液体窒素で凍結保存して、凍結状態でホモジナイズした。400μlの溶解バッファー(pH7.8の250mMのTris、0.1%Triton X−100、ロシュコンプリートプロテアーゼインヒビターカクテル錠)を添加し、氷上で20分培養した後、上澄みのルシフェラーゼ活性をLumatLb9507チューブルミノメーター(EG&Gベルトールド社、独国ミュンヘン)を用いて測定した。組み換え型ルシフェラーゼ(ロシュダイアグノスティックス社、独国マンハイム)を肺細胞中で発現したルシフェラーゼ量を算出するための基準として使用した。
【0059】
[MTTベースアッセイ]
N/P比4で、16HBE14o−細胞について、PEI/pCMV−luc又はFILO=5のPEI−g−ILO/pCMV−luc粒子の毒性を評価した。実験の24時間前に、80000細胞/ウェルの密度で細胞を24−ウェルプレートに播種した。上述のようにしてトランスフェクションを実施した。4時間後、トランスフェクション混合物を400μlの培地と置き換えて、製造元の説明書に従って、Cell Proliferationキット1(ロシュダイアグノスティックス社、独国マンハイム)を用いてMTTベース試験を実施した。未処理の細胞の吸光度を100%生存細胞として設定して、未処理の細胞を参照として使用した。
【0060】
[血清の回収及びサイトカイン濃度の分析]
エアロゾル供給の24時間後に、血液試料をマウスから採取し、4℃で一晩保存した。血液を遠心分離にかけて、血清を回収した。インターロイキン−12(IL−12)及びインターフェロン−γ(IFN−γ)を、製造元の説明書に従って、マウスIL−12(P40/P70)及びマウスINF−γ−ELISAキット(レイバイオテック社、米国ノークロス)を用いて定量的に測定した。未処置のマウスの濃度を1と設定して、未処置のマウスを参照として使用した。
【0061】
[統計分析]
結果を平均値±標準偏差で示す。統計的に有意な差を、独立スチューデントT検定によって評価した。p<0.01である場合に有意であるとした。
【0062】
[結果]
[ウェスタンブロットによる肺細胞内におけるIP受容体の発現の確認]
ヒト肺胞上皮細胞(A549)及び気管支上皮細胞(BEAS−2B,16HBE14o−)内におけるIP受容体の発現をウェスタンブロット分析により確認した。47kDaにタンパク質バンドが検出された(図1)、このバンドは、細胞膜上で発現したIP受容体タンパク質のグリコシル化型に対応する[26]。よって、タンパク質又は遺伝子を輸送するためにIP受容体を標的としてアドレスすることが可能か否かを確認した。
【0063】
[様々なIP受容体リガンドによる肺細胞へのアドレス]
受容体媒介遺伝子導入のためにIP受容体を標的とすることを調査するために、TRP及びILOを、モデル物質として作用するフルオレセイン標識ウシ血清アルブミン(FLUO−BSA)に化学的にカップリングした。A549及び16HBE14o−細胞をFLUO−BSAと共に培養すると、非特異的バックグラウンド結合を生成し、FLUO−BSA−TRP及びFLUO−BSA−ILOと共に培養すると、5.5±0.5% 及び39.3±0.6%の陽性A549細胞と、51±1.8%及び76.1±1.4%陽性16HBE14o−細胞をそれぞれ生じる(図2)。A549及び16HBE14o−細胞の平均蛍光強度(MFI)は、FLUO−BSA−ILOで培養した方がFLUO−BSA−TRPで培養したものよりも有意に高かった。これらの結果は、TRP及びILOはモデル物質FLUO−BSAの肺細胞に対して結合することを媒介することができるが、ILOはより効率的な標的リガンドであることを示す。
【0064】
[様々な肺細胞株に結合するFLUO−BSA−ILOの特異性]
TRPと比較して良好な細胞結合/取り込みを解明するために、追加の肺細胞株について、標的リガンドであるILOを更に調査した。A549及び16HBE14o−細胞に加えて、H441及びBEAS−2B細胞もFLUO−BSA−ILOと共に培養すると、それぞれ、対照FLUO−BSAよりも陽性細胞が有意に多く(p<0.01)、MSIが有意に高かった。FLUO−BSA−ILOを用いた場合、陽性細胞率はそれぞれ、38.0±1.8%及び82.7±1.6%であり、対照FLUO−BSAでは、それぞれ、9.1±1.9%及び13.7±1.2%であった(図3A)。このような効果は、ヒト気管支上皮細胞(16HBE14o−,BEAS−2B)の方が、クララ細胞(H441)上皮細胞又は肺胞(A549)上皮細胞よりも顕著であった。このような結果は、ヒト肺細胞の種類によって、細胞表面におけるIP受容体の発現が異なることを証明した。
【0065】
肺細胞におけるIP受容体の結合の受容体特異性を確認するために、CAY10449量を上昇させつつ、16HBE14o−細胞をFLUO−BSA−ILOと共に培養した。CAY10449は、ヒトIP受容体の強力なアンタゴニストとして以前から報告されていた[27,28]。16HBE14o−細胞を、CAY10449量を上昇させつつ、25nMのFLUO−BSA−ILOと共に培養した。CAY10449を添加することで、蛍光陽性細胞数のみならず、MFIが、CAY10449の投与量に依存した減少(p<0.01)傾向を示した(図3B)。使用するCAY10449の濃度が最も高い場合、蛍光陽性細胞数は95.7±0.7%から7.4±0.9%に減少した。FLUO−BSA結合体と共に培養した細胞を対照として使用したが、これらの細胞は、CAY10449を追加しても活性を示さなかった。過剰の未結合ILOを用いて比較実験を実施しても、同様の結果を得た。
【0066】
阻害実験と共にFACS測定を実施したことにより、肺上皮細胞上におけるIP受容体の細胞型依存細胞表面発現の可能性が示唆された。ILOによってFLUO−BSA−ILOの細胞内取り込みが媒介されるかを更に試験するために、共焦点レーザー走査顕微鏡を用いて追加の実験を行った。0.5μMのFLUO−BSA又はFLUO−BSA−ILOの何れかと共に、16HBE14o−細胞を培養した。共焦点顕微鏡によって細胞を可視化すると、明確な細胞表面結合に続いて、FLUO−BSA−ILO結合体の細胞内取り込みが生じ(図3C)、FLUO−BSAは取り込まれないことが観察された。
【0067】
[PEI及びPEI−g−ILO遺伝子ベクター粒子のキャラクタリゼーション]
カルボイミジドの化学的性質によってILOをPEIに結合し、FILO=2,5,8及び16とし、得られた遺伝子ベクター粒子のサイズを動的光散乱で測定した(表1)。カップリング度がFILO=2及び5で、N/P比4〜8の粒子は、PEI遺伝子ベクターに相当する流体力学直径50〜100nmを有した。N/Pが2のPEI、FILO=2でN/Pが2〜3のPEI−g−ILO、及びFILO=16でN/Pが4のPEI−g−ILOによって調製した粒子は、不安定であり沈殿した。150nm未満の粒子は、多分岐性が<2であった。
【0068】
【表1】

【0069】
次のステップにおいて、PEI−g−ILO構造体のDNA結合親和性を測定した。N/Pが4の粒子を調製し、DNA遊離アッセイ(DNA release assay)を実施した(図4)。PEI、FILO=2のPEI−g−ILO、FILO=5のPEI−g−ILOについて、ヘパラン硫酸を添加するとDNAが完全に遊離した。カップリング度が16と高ければ、DNAは部分的にしか遊離しなかったので、プラスミドに対するポリマーの結合が比較的強いことが示唆された。16以上のカップリング度は、好ましくない。
【0070】
[インビトロトランスフェクション効率]
様々な肺細胞における、FLUO−BSA−ILOの結合及び取り込みの増大や、PEI−g−ILO/pCMV−luc粒子を形成する可能性は、インビトロ遺伝子導入を改善するために、リガンドとしてILOを更に研究する理由である。PEI−g−ILO遺伝子ベクターによって16HBE14o−細胞をトランスフェクションし、対照である未改変PEIと比較した。遺伝子導入効率はN/P比に従って上昇した。N/Pが4、FILO=5の場合に、遺伝子発現度は最高であった。このような最適条件下では、遺伝子発現度はPEIよりも46倍有意に高かった(図5A)。比較的高いN/P比(>4)での粒子形成では、遺伝子発現度が更に上昇することは無かった。その他のカップリング度のPEI−g−ILO結合体では、PEIと比較してトランスフェクショングレードが同等かそれ以下であった。
【0071】
CAY10449について競合的な阻害実験を実施して、PEI−g−ILO遺伝子ベクターの受容体媒介遺伝子導入を確認した。150μMのCAY10449のある状態又は無い状態で、16HBE14o−細胞を、N/Pを4として、PEI、又はFILO=5のPEI−g−ILO遺伝子ベクターの何れかでトランスフェクションした。FILO=5のPEI−g−ILO遺伝子ベクターの遺伝子発現度は、PEIに対して33倍有意に少なかった(図5B)。PEIによってトランスフェクションした細胞に関しては、CAY10449の影響は観察されなかった。
【0072】
さらに、FILO=5のPEI−g−ILOを、A549細胞及びBEAS−2B細胞について試験した。最適条件の下、FILO=5のPEI−g−ILOによって媒介された発現度は、A549細胞及びBEAS−2B細胞について、それぞれPEIよりも45倍及び14倍高かった(図5C)。
【0073】
[インビボ遺伝子遊離実験]
ILO=5のPEI−g−ILO及びPEI遺伝子ベクター粒子をエアロゾルによってBALB/Cマウスの肺に投与し、遺伝子投与の24時間後に遺伝子発現を分析した。ルシフェラーゼ遺伝子発現の測定と対比して、インビボ生物発光画像は、FILO=5のPEI−g−ILO遺伝子ベクターで処理したマウス肺において強い信号を呈したが、PEI遺伝子ベクターの場合は検出限界に達した(図6A)。肺細胞1mg当たりのルシフェラーゼの定量評価のために、マウスを安楽死させて肺を摘出した。ホモジナイズした肺細胞についてルシフェラーゼ発現を測定した結果、FILO=5のPEI−g−ILO遺伝子ベクターの方がPEI遺伝子ベクターよりも16倍有意に高かった(図6B)。
【0074】
[インビトロ及びインビボ毒性]
遺伝子ベクター粒子(FILO=5のPEI−g−ILO/pCMV−luc又はPEI/pCMV−luc)を適用した後のインビトロ生存率を、MTTアッセイにより測定した。PEIと比較して、細胞毒性に上昇は見られなかった(生存率は、FILO=5のPEI−g−ILOで86.0±10.1%であり、PEIで89.2±3.2%であった)。インビトロ毒性及び炎症を測定するために、処置マウスから血清を採取し、インターロイキン−12(IL−12)及びインターフェロン−γ(INF−γ)を含む炎症サイトカインを測定した。インビトロMTTの結果と同様に、遺伝子投与後24時間後のELISAによる測定では、サイトカインの有意な上昇は見られなかった。
【0075】
上述の実験により、プロスタグランジン−I類似体ILO、IP受容体アゴニストを標的リガンドとして用いて、インビトロ及びインビボの肺細胞における、PEIのようなカチオンポリマーを用いた遺伝子導入を改善することができることが明らかになった。標的リガンドとしてプロスタグランジン−I類似体を有し、作用物質の封入剤としてカチオンポリマーを有する、本発明による結合体は、遺伝子発現を有意に改善することが明らかとなった。従って、実験により、ヒト肺胞(A549)及び気管支上皮細胞(16HBE14o−,BEAS−2B)におけるレポーター遺伝子発現を有意に(46倍)増加させることが証明された。更に、マウス肺のルシフェラーゼ活性も、エアロゾル処理した場合に、PEIと比較して有意に(14倍)高くなった。
【0076】
ILO及びTRPはヒトIP受容体のアゴニストである[29]。これらは両方とも、エアロゾル吸入による肺高血圧症の治療又は静脈内投与に承認されている[20、30、31]。IP受容体はヒト及びマウスの肺で発現され[15、32−34]、IP受容体/リガンド複合体は細胞内に内在化される[35、36]。これらの特性は本発明により実現され、肺細胞内に作用因子を導入するための改善されたシステムを実現する。
【0077】
IP受容体は、様々な種類の肺細胞で発現することがウェスタンブロットにより確認された。肺細胞表面におけるIP受容体の発現をより詳細に特徴づけるために、フルオレセイン標識BSA結合体であって、ILO又はTRPの何れかにカップリングされた結合体を合成した。両構造体を肺胞上皮細胞株(A549)及び気管支上皮細胞株(16HBE14o−)と共に培養し、フローサイトメトリーによって細胞への結合を分析した。分析結果により、試験された各細胞株上にIP受容体が存在することが示された。しかし、ILOはTRPよりも細胞表面結合がより明瞭であった。したがって、以後の実験において標的リガンドとしてILOを使用した。IP受容体の結合の特異性は、特定のIP受容体アンタゴニストCAY10449を用いた阻害実験[27,28,32]及び過剰の遊離ILOにより証明された。
【0078】
観察結果を確認するために、共焦点レーザー走査顕微鏡観察を実施し、細胞表面へのFLUO−BSA−ILOの結合及び16HBE14o−細胞内への細胞内取り込みを確認した。従って、これらの結果により、本発明において、結合及び結合物質の細胞内取り込みを媒介する標的リガンドとしてILOを使用することが確認できた。結合物質は、例えば、遺伝子ベクターナノ粒子の受容体媒介取り込みの前提物質(prerequisite)であるFLUO−BSAである。
【0079】
トランスフェクション実験を実施するために、アミド結合によりILOを25kDaの分岐PEIに結合した。合成により、カップリング度FILO=2、5、8及び16の結合が得られた。PEI−g−ILO/pCMV−luc粒子を16HBE14o−細胞にスクリーンしたところ、N/Pが4でFILO=5のときにトランスフェクション効率が最高であり、8〜16という比較的高いカップリング度ではトランスフェクション率がより低かった。このことは、DNA遊離アッセイにより確認されたように、カップリング度が高いとpCMV−lucの遊離が不完全となることに起因すると考えられる。PEI/p−DNA粒子からのpDNAの遊離は、遺伝子導入が成功したことのクリティカルパラメーターとなることが見出されていた[37]。pDNAとILOとの追加の疏水的相互作用によってpDNA結合が強化されることが推測される。様々な粒子のサイズを測定した結果、リガンド量が増加すると、PEI−g−ILO/pCMV−luc粒子の流体力学直径が最大1μmまで大きくなることが証明された。Elfingerらにより、クレンブテロールをPEIにカップリングした場合に同様の結果が得られている[13]。FILO=5のPEI−g−ILOを有する粒子は、直径100nm未満である。比較的サイズの小さい粒子は比較的大きい粒子よりも効率的に内在化させることができるということは既に証明されてきた[38]。N/Pが4でFILO=5のPEI−g−ILO/pCMV−luc粒子による肺胞(A549)及び気管支(16HBE14o−,BEAS−2B)上皮細胞のトランスフェクションは、N/P比が同じPEI/pCMV−luc粒子と比較して、すべての実験対象とした細胞株においてレポーター遺伝子発現が46倍増加した。MTTアッセイで測定したように、このような遺伝子発現の向上により、代謝毒性が大きく上昇することは無かった。更に、受容体媒介遺伝子導入の仮説は、特定のアンタゴニストによって媒介された16HBE14o−細胞における阻害剤を用いた実験により更にサポートされた。CAY10449を添加したことで、PEIに匹敵する程度まで遺伝子発現が減少した。
【0080】
CpGを含まないルシフェラーゼ発現プラスミド(pCpG−luc)を用いて、動物実験を行った。CpGを含まないプラスミドは、CpGを含むプラスミドよりも炎症作用が少ないということが明らかとされてきた。CpGを含まないプラスミドは、肺における比較的高く持続的な遺伝子発現につながることが証明されてきた[39]。動物実験前に、FILO=5のPEI−g−ILO/pCpG−luc及びPEI/pCpG-luc遺伝子ベクターを霧化して様々なフラクション(霧状、非霧状)を収集し、粒子の安定性を試験した。ゲルリターデーションアッセイ及び粒子サイズ測定の両方により、非霧化粒子と比較して霧化後の粒子に変化が無いことを確認した。これにより、エアロゾルの形成は粒子に悪影響を及ぼさないということが確認された。同様の結果はこれまでに報告されている[40]。マウス肺へのエアロゾル投与後、FILO=5のPEI−g−ILO/pCpG−lucの遺伝子発現は、PEI/pCpG-luc遺伝子ベクターよりも有意に、14倍高かった。大量の血清中のインターロイキン−12(IL−12)及びインターフェロン−γ(INF−γ)を測定した結果、これらのサイトカインは有意に増加しないことが明らかとなった。この結果は、PEI−DNA粒子のエアロゾル投与は、より高いサイトカイン応答を誘発しないことを証明した、Gauthamらによる報告に一致する[41]。
【0081】
要するに、本発明により、肺に物質を投与するための新規な標的探索構造が提供されたということができる。プロスタサイクリン類似体、特にILOの標的探索目的のためのリガンドとしての可能性は、本発明者らによって認識され、肺細胞に対して物質を投与する「フェリー」として利用された。特に、ILOプロスタサイクリン類体は、エアロゾル状の非ウィルスベクター用の有用な標的探索リガンドである。フルオレセインベースの分子結合体を用いて、IP受容体は、肺細胞における受容体媒介遺伝子導入の適切な候補であることが証明された。分子結合体の受容体特異的結合及び細胞内摂取は、肺胞細胞だけでなく、気管支上皮細胞及びクララ細胞についても証明された。本発明による結合体は、インビトロ及びインビボでの遺伝子発現に実質的に有意な増加をもたらした。遺伝子発現を10倍超増加させることで、pDNA量及び遺伝子キャリア量を低減し、DNA又はキャリアによって媒介される毒性及び炎症を抑えることができる。
【0082】
これらの例の結果を図1〜7及び表1に示す。
【0083】
表1:様々なN/P比で様々なカップリング度のPEI−g−ILOを用いた、PEI/pCMV−luc及びPEI−g−ILO/pCMV−luc遺伝子ベクターの物理的特性
【0084】
粒子サイズ及び多分散性(括弧内)の測定結果を示す。測定結果は、平均値±標準偏差(n=3)として示す。
【0085】
[図1]
ウェスタンブロットは、ヒト肺胞(A549)及び気管支(BEAS−2B,16HBE14o−)上皮細胞内の67kDaのIP受容体タンパク質の発現を示す。各レーンには40μgの抽出タンパク質を投入した。
【0086】
[図2]
TRP及びILOをIP受容体に標的投与して、肺胞(A549)及び気管支(16HBE14o−)上皮細胞株に標的投与した結果を示す。FLUO−BSA,FLUO−BSA−TRP、及びFLUO−BSA−ILOを0.5μM(N=4)の濃度で培養してFACS測定した。測定結果は、平均値±標準偏差として示す。「**」は、P<0.01における統計的有意性を意味する。
【0087】
[図3]
肺胞(A549)、気管支肺胞(H441)及び気管支 (16HBE14o−、BEAS−2B)上皮細胞における、IP受容体の分散及び受容体結合を示す。FLUO−BSA−ILO及びFLUO−BSAを0.5μM(N=4)の濃度で培養し、FACS測定を実施した(a)。16HBE14o−(b,c)及びA549(d)細胞は、25nMのFLUO−BSA−ILO及びFLUO−BSA及び濃度を段階的に上昇させたCAY10449(n=4)とともに培養し、FACS測定を実施した(b,c,d)。共焦点レーザー走査顕微鏡観察のために、0.5μMのFLUO−BSA−ILO及びFLUO−BSAと共に16HBE14o−細胞を培養した(e)。測定結果は、平均値±標準偏差として示す。「**」は、P<0.01における統計的有意性を意味する。
【0088】
[図4]
PEI、及び、N/P=4の様々なPEI−g−ILO構造体のためのDNAリターデーションアッセイを実施した。pCMV−lucと結合したポリマーをヘパラン硫酸のある状態(+)及び無い状態(−)で培養し、アガロースゲル上で分離して、エチジウムブロマイドで染色した後にUV光で可視化した。
【0089】
[図5]
インビトロでのトランスフェクション効率を示す。様々なN/P比(n=4)の様々なPEI−g−ILO構造体と結合したpCMV−lucを有する16HBE14o−細胞のトランスフェクションであり、ルシフェラーゼ遺伝子発現の測定(a)、N/P比を4として、PEI/pCMV−luc、及びFILO=5のPEI−g−ILO/pCMV−luc粒子のCAY10449(n=3)の阻害実験を実施し、ルシフェラーゼ遺伝子発現を測定した(b)。N/P比4(n=6)で、A549、16HBE14o−、及びBEAS−2Bを、PEI/pCMV−luc及びFILO=5のPEI−g−ILO/pCMV−lucでトランスフェクションし、ルシフェラーゼ遺伝子発現を測定した(c)。ルシフェラーゼ遺伝子発現は、細胞内タンパク質1mgあたり10秒間、相対発光ユニット(RLU)における発光として測定した。測定結果は、平均値±標準偏差として示す。「**」は、P<0.01における統計的有意性を意味する。
【0090】
[図6]
N/P比=4で、PEI/pCpG−luc及びFILO=5のPEI−g−ILO/pCpG−luc粒子によって得られた、エアロゾル投与後のBALB/cマウスにおけるインビボルシフェラーゼ遺伝子発現(n=5)を示す。24時間後、露光時間10分で生物発光画像を取得した(a)。トランスフェクションの24時間後に、露光時間30秒で、マウス肺ホモジネートにおけるルシフェラーゼ発現を測定した(b)。測定結果は、平均値±標準偏差として示す。「**」は、P<0.01における統計的有意性を意味する。
【0091】
[図7]
ILO=5のPEI−g−ILO/pCpG−luc粒子、及び未処理の細胞と比較して、N/P=4でPEI/pCMV−luc粒子でトランスフェクションした、肺胞 (A549)及び気管支(16HBE14o−、BEAS−2B)上皮細胞は、MTTアッセイによる測定の結果、代謝毒性の増加は見られなかった(a)。更に、マウス肺にFILO=10のPEI−g−ILOを投与した後のマウス血清において、インターロイキン−12及びインターフェロンγ(IFN−γ)を測定し、PEIを投与したマウス及び未処置のマウスと結果を比較した。サイトカインに有意な増加は見られなかった。
【実施例2】
【0092】
[肺細胞における投与量依存の遺伝子ベクター標的投与]
pCMV−lucの量を1μgから0.25μgへ減らしつつ、PEI及びPEI−g−ILO遺伝子ベクター粒子で16HBE14o−細胞をトランスフェクションした(図8)。トランスフェクション後24時間で、遺伝子導入効率は投与量に依存して低下した。pCMV−lucが1μgである場合に、遺伝子発現度が最高であった。しかし、FILO=5のと結合したPEI−g−ILOが0.5μgである場合に、未改変のPEIに結合したpCMV−lucが1μgの場合と同一の遺伝子発現度となった(3.3×10対3.2×10RLU/10秒/mgタンパク質)。
【0093】
遺伝子導入効率が投与量に依存して低下することを証明するために、遺伝子ベクター粒子量を減少させながら、トランスフェクション実験を実施した。この実験により、FILO=5のPEI−g−ILO遺伝子ベクター粒子は50%に減少したが、発現は100%のPEI遺伝子ベクター粒子と比較して同じであることが証明された。これらのデータは、発現度を同一に維持しながら、pDNA及び遺伝子キャリアの量を低減することができることを明確に示している。更に、pDNA及びキャリアにより媒介される毒性及び炎症を抑制することも可能である。
【0094】
本例の結果を図8に示す。
【0095】
本明細書において参照した文献を以下に示す。
【0096】
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【特許請求の範囲】
【請求項1】
作用因子複合体及び少なくとも1つの標的探索リガンドの結合体であって、前記作用因子複合体は、封入材料によって封入された作用因子を含み、前記標的探索リガンドはプロスタサイクリン類似体であることを特徴とする、結合体。
【請求項2】
前記プロスタサイクリン類似体は、イロプロスト又はトレプロスチニルであることを特徴とする、請求項1に記載の結合体。
【請求項3】
前記作用因子は、核酸若しくはその誘導体、ペプチド、ポリペプチド、若しくはそれらの誘導体、作用物質、又はトレーサーであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の結合体。
【請求項4】
前記核酸は、欠乏若しくは欠損が疾病を引き起こすDNA若しくはRNA、又は、欠乏若しくは欠損が疾病を引き起こすか、若しくは免疫調節活性を有するポリペプチドをコードするDNA若しくはRNAであることを特徴とする、請求項3に記載の結合体。
【請求項5】
前記作用因子は、欠乏若しくは欠損が疾病を引き起こすか、又は免疫調節活性を有するペプチド又はポリペプチドであることを特徴とする、請求項3に記載の結合体。
【請求項6】
前記作用因子は、タンパク質欠乏又はタンパク質欠損を補償する生成物であって、肺内で活性を有する、核酸、タンパク質、タンパク質誘導体、若しくはタンパク質フラグメント、薬剤、又はこれらの混合物であることを特徴とする、請求項1〜5の何れか一項に記載の結合体。
【請求項7】
前記作用物質は抗炎症作用物質又はステロイドであることを特徴とする、請求項3に記載の結合体。
【請求項8】
前記作用因子はレポーター分子であり、特に、放射性又は蛍光トレーサーであることを特徴とする、請求項1〜7の何れか一項に記載の結合体。
【請求項9】
前記封入材料は、天然物質、合成物質、又は天然物質の誘導体であり、例えば、脂質、ポリマー、又はオリゴマーであることを特徴とする、請求項1〜8の何れか一項に記載の結合体。
【請求項10】
前記封入材料は、好ましくはプロトン化することができる生物分解性窒素性ポリマー、特に、ポリエチレンイミン又は生物分解性ポリエチレンイミンのようなカチオンポリマー、スペルミン又はカチオン性脂質のようなカチオン性オリゴマーであることを特徴とする請求項1〜9の何れか一項に記載の結合体。
【請求項11】
前記封入材料及び前記核酸の前記作用因子複合体は、付加的にペグ化されることを特徴とする、請求項1〜10の何れか一項に記載の結合体。
【請求項12】
タンパク質欠損又は遺伝子欠損に起因する肺疾患、特に嚢胞性線維症の、遺伝子治療又は肺疾患治療に使用するための請求項1〜11の何れか一項に記載の結合体。
【請求項13】
ポリマーの窒素含量のDNAリン酸塩含量に対するモル比として測定されるカチオン性ポリマーの核酸に対する比率は、10:1〜1:20の範囲であることを特徴とする、請求項1〜12の何れか一項に記載の結合体。
【請求項14】
前記封入材料によって封入される前記作用因子は、ナノカプセル、ナノ粒子、又はリポソームとして存在することを特徴とする、請求項1〜13の何れか一項に記載の結合体。
【請求項15】
気管支及び/又は肺胞上皮細胞に輸送される作用因子用の標的探索構造である、肺疾患治療用のプロスタサイクリン類似体。
【請求項16】
請求項1〜15の何れか一項に記載の結合体及び在来の薬剤アジュバントを含み、吸入に適した状態の、肺疾患治療用の治療用組成物。

【図2】
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【図3a】
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【図3b】
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【図3c】
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【図3d】
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【図3e】
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【図4】
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【図5a】
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【図5b】
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【図5c】
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【図6a】
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【図6b】
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【図7a】
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【図7b】
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【図8】
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【図1】
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【公表番号】特表2013−515023(P2013−515023A)
【公表日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−545154(P2012−545154)
【出願日】平成22年12月21日(2010.12.21)
【国際出願番号】PCT/EP2010/007846
【国際公開番号】WO2011/076391
【国際公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(512024886)エスリス ゲーエムベーハー (2)
【氏名又は名称原語表記】ethris GmbH
【Fターム(参考)】