説明

標的物質検出方法

【課題】反応固相での標識体の拡散を推進する手段により、磁性微粒子標識の反応効率を高め、反応時間を短縮することができる磁性微粒子標識による検出方法を提供すること。
【解決手段】非磁性金属によって表面を被覆された磁性粒子と該磁性粒子表面に標的物質と特異的に結合する捕捉体とを有する磁性標識体を用いた検体中の標的物質を検出するための方法であって、標的物質と特異的に結合する捕捉体を表面に有した反応固相を用意する工程と、前記反応固相に前記標的物質を介して、前記磁性標識体を結合させる工程と、前記反応固相上に保持された磁性標識体を検出する工程と、を有し、前記磁性標識体を結合させる工程が、前記反応固相に高周波磁場および低周波の磁場を印加することを特徴とする、標的物質検出方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液中の物質の有無あるいは量を検出する方法に関する。より詳細には、抗原抗体反応を原理とした免疫検査および核酸のハイブリダイゼーションを用いた遺伝子検査に利用できる、標識体として金属コーティングされた磁性粒子を用いた検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、健康問題や環境問題に対する意識が高まっており、これらの問題に関与する生体物質、化学物質の微量検出方法が数多く開発されている。前記生体物質や化学物質などの検出対象物質を含む液状の検体中の物質量を、抗原抗体反応を原理とした免疫検査手法や、核酸の増幅あるいはハイブリダイゼーションを用いた検出手法によって、より高感度により短時間に検出する手法が望まれている。より高感度に検出する手法として、磁性粒子を標識体として用いた検査手法が開発されている。磁性粒子を標識体として用いた検査手法としては、SQUID、インダクタンス検出、磁気抵抗効果素子による手法、ホール素子による手法などが研究されている。
【0003】
これらの検査手法に関し、特許文献1には、流体中の磁性粉体や金属性粉体を検出することを目的として、流体に交流磁界を印加する例が示されている。交流磁界の印加によって生じる磁性粉体の磁化、金属粉体に生じる渦電流による外部磁場変化を磁気センサで捉えることが開示されている。
【0004】
また非特許文献1、Langmuir;2004;20(6)pp2472−2477には、金(Au)で覆われた磁性体微粒子の作製方法および、磁気的特性について記載されている。
【特許文献1】特開2001−318079号公報
【非特許文献1】Langmuir 2004, 20, 2472-2477
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のセンサ素子を用いる検査手法に共通する課題として、面で構成された反応固相を用いる必要があり、分散系の反応固相を用いることが可能な従来の免疫検査手法と比較すると、抗原抗体反応に要する時間を余分に要することがあげられる。これは、面状の反応固相を用いた検出手法は、標識体が反応固相まで拡散するための平均移動距離が長いことより、磁性微粒子標識の反応効率が低く、反応に長時間を要することによる。
【0006】
しかしながら、特許文献1および非特許文献1には、磁性粒子を標識体として用いる、液状検体中の標的物質を検知する手法において、面状の反応固相に対して、磁性粒子標識を効率的に反応させるための手法は、開示されていない。本課題に関しては、積極的な解決手法は現時点で研究されておらず、解決法についても提案されていないのが実情である。
【0007】
本発明の目的は、上記課題を解決するものであり、従来の磁性粒子標識による検出方法において、面状の反応固相に対して磁性粒子標識を効率的に反応させるための手法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するために、本発明は、非磁性金属によりコーティングされた磁性粒子を標識体として用い、標識体を反応固相に対して結合させるための反応時に、低周波の磁界による磁性体に対する引力の効果と、高周波成分を持った磁界(急激に増大する磁界)による非磁性金属に対する斥力の効果を組み合わせることにより、反応効率を向上させる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の低周波磁界による磁性体標識に対する引力の作用によって、反応固相周辺に磁性体の濃度を高める効果をもっている。また、本発明の高周波成分を持った磁界による非磁性金属に対する斥力の作用によって、反応固相表面で、反応せずに捕集されている磁性粒子をいったん反応固相より遠ざけることができる。これらの相反する作用を与えることで、粒子の回転や、反応固相面上の粒子の位置の移動を促進し、微粒子表面と反応固相表面の特異的結合対を形成する物質間の衝突確率を高めることによって、反応効率を高めることが可能となる。結果として、上記反応に要する時間を短縮することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明にかかる検出方法は、非磁性金属によって表面を被覆された磁性粒子と該磁性粒子表面に標的物質と特異的に結合する捕捉体とを有する磁性標識体を用いた検体中の標的物質を検出するための方法であって、標的物質と特異的に結合する捕捉体を表面に有した反応固相を用意する工程と、前記反応固相に前記標的物質を介して、前記磁性標識体を結合させる工程と、前記反応固相上に結合された磁性標識体を検出する工程と、を有し、前記磁性標識体を結合させる工程が、前記反応固相に高周波磁場および低周波の磁場を印加することを特徴とする、標的物質検出方法である。前記高周波磁場は、例えば、パルス状の電流印加によって達成することができる。
【0011】
以下、本発明を実施するための形態について図面に基づいて説明する。なお、本発明は請求項によって特定されるものであって、以下の形態および実施例に限定解釈されるものではない。
【0012】
(磁性標識体)
本発明に用いる磁性標識体について、図1を用いて説明する。101は、標的物質に特異的に結合する捕捉体である。捕捉体としては、標的物質と特異的な結合対を形成するものであれば特に制約はない。特異的な結合対の例としては、抗原抗体反応によるもの、核酸のハイブリダイゼーションによるもの、アプタマーによる認識、レセプターリガンドによるものがあげられる。102は、非磁性金属による被覆である。ここで非磁性金属種としては、導電性がありかつ非磁性であれば特に制約はないが、水中での耐腐食性に優れていることが望ましい。非磁性金属材料としては、金、銀、銅、アルミニウム、SUS200番、SUS300番台のステンレスなどの非磁性金属材料を好適に用いることができる。また、耐腐食性を持たせるために表面をさらにポリマーで被覆しても構わない。103は、磁性体による芯材である。この磁性体は、磁性材料単体であっても構わないし、磁性体がポリマー中あるいは、ポリマー表面に分散した形態であっても構わない。磁性材料としては、代表的な例としてはフェライトがあげられる。
【0013】
(検出手法)
本発明を構成する要件ではないが、関連する重要な要素である検出手法についてここで記載する。本発明による標的物質の検出には、磁気的な手法、光学的な手法を用いることができる。磁気的な方法としては、後述する反応容器の反応固相に磁気検出機能を作りこむ手法と、外部に磁気検出機能を持たせる手法の2つがあげられる。反応固相に磁気検出機構を作りこむ手法としては、磁気抵抗効果を用いた、GMR素子、TMR素子を用いる方法、ホール効果を用いたホール素子を用いる方法、表皮効果をもったMI素子を用いる方法が挙げられる。
【0014】
光学的な手法としては、固相面に固定された磁性標識による、吸光を検出する手法が挙げられる。より好ましくは、磁性粒子表面の非磁性金属にプラズモン共鳴を呈する金、あるいは銀を用いることによってプラズモン共鳴による特定波長の吸収によって検出する手法が挙げられる。
【0015】
(反応容器)
本発明に用いる反応容器の構成を図2〜図5を用いて説明する。
【0016】
図2は、磁気センサを反応容器に有する形態の反応容器である。構成要素としては、201は、磁気センサを固定した基板である。基板としては、非磁性体(低透磁率材料)であり、反応溶液による腐食、浸透がなければ特に制約はない。また透磁率にむらがないことが望ましい。202は磁気センサである。磁気センサには、磁気抵抗効果素子、ホール素子、コイル、フラックスゲートセンサ、MIセンサを用いることができる。203は、反応容器の壁面である。壁面材料としては、201の基板材料と同様に、非磁性体(低透磁率材料)であり、反応溶液による腐食、浸透がなく、201の基板材料に溶液漏れなく固定することができれば制約はない。204は、反応溶液保持部である。
【0017】
図4は、図2の反応固相部の拡大図である。202の磁気センサ面上に206の標的物質を捕捉する捕捉体を固定しておく。ここでの捕捉体は、標的物質と特異的な結合対を形成すれば特に制約はないが、代表例として、抗体、抗原、核酸があげられる。
【0018】
図3は、磁性センサを反応容器に有さない形態の反応容器である。この場合の検出機構は、本発明の構成要素ではないが、光による微粒子検出手法、反応容器外部からの磁気検出手法を用いることができる。磁気検出手法の一例として、SQUID、コイルのインダクタンス変化検出による手法があげられる。201は基板であり、本形態の場合、非磁性体(低透磁率材料)であり、反応溶液による腐食、浸透がなければ特に制約はない。203の壁面も同様の素材であればよい。また、本形態では、201と203は同一材料で一体成型されていても構わない。図5は、図3の反応固相部の拡大図である。201の基板上に206の標的物質を捕捉する捕捉体を固定しておく。ここでの捕捉体は、標的物質と特異的な結合対を形成すれば特に制約はないが、代表例として、抗体、抗原、核酸があげられる。
【0019】
(検出装置)
図6は、本発明の実施に関連する検出装置の概念図である。ここでは、反応容器の検出フローに伴うユニット間の移動を示している。302の分注ステーションで検体、希釈液、磁性標識抗体、洗浄液が分注する。303の攪拌ステーションで溶液を均一にする、305の304の溶液除去ステーションで反応容器内の溶液の排除を行う。
【0020】
(反応促進部)
本稿では、検出装置のうち、本発明の中心となる反応促進部について説明する。
【0021】
図7は、本発明の反応促進部の概要図である。
【0022】
201〜204は反応容器構成部材である。401は反応容器を固定保持する保持機構である。402は高周波磁界を印加するための電磁石である。403は低周波磁界を印加するための電磁石である。ここでは402、403を別の電磁石を用いているが、同一の電磁石を用いてもよい。また、それぞれに永久磁石を用い、高周波磁界を印加する際に永久磁石を機械的に駆動することによって、反応容器の反応固相部に急激に増大する磁界を印加しても構わない。
【0023】
図8は、本発明を実施する際に使用可能な検出装置のブロック図である。図8では特に反応促進制御部について詳細に記載している。
【0024】
501は、全体の制御を司る、中央演算装置である。502は、一時記憶である。503は固定ディスク装置である。504は表示装置である。505は、操作指示を行う入力機構である。506は検出制御部である。507は攪拌制御部である。508は溶液除去制御部である。509は分注制御部である。510は反応容器搬送部である。511は反応促進制御部である。本発明は本制御部により実現することができるが、これらの全てを備えている構成に限定されない。また、これら以外の制御部を更に備えてもよい。また、検出装置は、上記制御部が制御する手段を有することができ、例えば、上記の検出制御部、攪拌制御部、溶液除去制御部、分注制御部の夫々が制御する、検出手段、攪拌手段、溶液除去手段、分注手段を備えることができる。
【0025】
512は、反応容器である。513は高周波印加機構である。514は高周波磁場印加回路である。515は低周波磁場印加機構である。516は、低周波磁場印加回路である。
【0026】
図9は、本発明の反応促進部の第1の実施形態を示した回路図である。
【0027】
図9(a)は高周波磁場印加回路である。
【0028】
601は、直流電源である。ここでは、100V以上の直流電源であることが望ましい、商用電源より整流し電源としてもよいし、電池よりDC−DCコンバータ等で昇圧して電源としてもよい。602は、電流制限抵抗である。電源の電流供給能力と抵抗による発熱に対応して選定すればよい。ここでは電流制限抵抗によって対応したが、別途電流制限機構を設けて対応しても構わない。603は開閉器である。ここでは外部制御可能なリレーによって対応する。604は放電用コンデンサである。これは、電源電圧と後述するコイルの逆起電力に対して十分な耐圧があり、かつ十分な容量を持ったものを選定する必要がある。605は、大電流用の開閉器である。大容量の電流に対応した外部制御可能なリレーを用いることが好ましい。606は高周波印加用の電磁石(コイル)である。ここでコイルであるが、1mm以上の径を持ったホルマル線等の銅製の線材によって構成された芯なしのコイルであることが望ましい。
【0029】
図9(b)は低周波磁界印加用の回路である。ここでは直流電源を用い、静磁界を印加する。607は直流電源である。ここでは後述するコイルにより、磁性標識体を捕集するのに十分な磁場を掛けるのに十分な電流供給能力があればよい。608は電流制限抵抗である。609はコイルの逆起電力より電源を守るためのダイオードである。610は開閉器である、これも外部制御可能なリレーを用いることが望ましい。611は、静磁場を掛けるためのコイルである。
【0030】
図10は、本発明の反応促進部の第2の実施形態を示した回路図である。図10では1つの回路によって高周波磁場、低周波磁場を切り替える例を示している。ここでは、614の交流電源によって、直接606のコイルを駆動している。ここで614の電源は、612の外部制御可能な波形生成器と613の増幅器により構成されており、612の波形生成器によって、高周波の波形と直流を生成し切り替えることを可能としている。ここで用いる高周波は、矩形波、正弦波、三角波などいかなる形状のパルス状の電流でも構わないが、絶対値が増大する際の傾きが大きい形状の波形であることが望ましい。
【0031】
本発明は、非磁性金属によって表面を被覆された磁性粒子と該磁性粒子表面に標的物質と特異的に結合する捕捉体とを有する磁性標識体を利用する標的物質検出装置であって、反応推進部を有することを特徴とする標的物質検出装置を包含する。ここで、反応推進部は、標的物質と特異的に結合する捕捉体を表面に保持する反応固相の反応を推進するものである。反応推進部は、反応固相に対する高周波磁場印加手段と低周波磁場印加手段とを有する。装置は、反応固相を設置するための反応固相設置部を有する。高周波磁場印加手段および低周波磁場印加手段は、反応固相設置部に設置した反応固相の裏面に対向する位置に設けられることが好ましい。反応固相の裏面とは、反応固相の反応に供する面と反対側の面である。高周波磁場印加手段としては、反応固相に高周波磁場を印加する高周波磁場印加機構(例えば、高周波磁界を印加する電磁石)を備える高周波磁場印加回路を用いることが出来る。低周波磁場印加手段としては、反応固相に低周波磁場を印加する低周波磁場印加機構(例えば、低周波磁界を印加する電磁石)を備える低周波磁場印加回路を用いることができる。また、低周波磁場と高周波磁場の作動パターンを制御するための磁場印加手段制御機構を有することができる。また、周波数可変手段を有する一つの磁場印加回路を用いて高周波磁場および低周波磁場の両方を印加する構成としてもよい。
【実施例】
【0032】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明するが、本発明の検出手法を利用できる方法および装置の構成はここで説明する内容に限定されるものではない。
【0033】
(実施例1)
[反応容器の作製]
反応容器の作成方法を図2を用いて説明する。202の磁気センサ素子は、シリコン基板上に作製された磁気抵抗効果素子を用いる。磁気抵抗効果素子の作製法については本発明の構成要素でないため説明は省略するが、磁気抵抗効果素子の表面に金のパターンをあらかじめ生成しておく。この磁気抵抗効果素子を201の基板に貼り付ける。201は、ガラスエポキシ製のプリント基板を用いる。プリント基板上の電極と202の磁気抵抗効果素子に形成した電極を接続し、接続部およびプリント基板表面については、リークおよび溶液暴露によってダメージが無いように絶縁保護膜を設ける。その上で203の壁面材料を201の基板に熱硬化性接着剤により貼り付ける。
【0034】
上記で作製した反応容器の磁気抵抗効果素子の表面に標的物質捕捉体である抗体を固定化する。ここでは、標的物質としてヒトC反応性蛋白(C-reactive protein、以下CRPとも記す)を用いるため、抗ヒトCRPマウス抗体を固定する。図4に示した検出領域には、206の固相抗体を固定する必要がある。202の磁気抵抗効果素子表面は金薄膜となっている。この金薄膜に金と親和性の高いチオール基を持つ、11−メルカプトウンデカノイック酸(11−Mercaptoundecanoic acid)のエタノール溶液を図3の204のウェル内に滴下し、金の表面修飾を行う。その状態で、N−ヒドロキシサルフォスクシンイミド(N−Hydroxysulfosuccinimide;同仁化学研究所社製)水溶液と1−エチル−3−[3−ジメチルアミノプロピル]カルボジイミド塩酸塩(1−Ethyl−3−[3−dimethylaminopropyl]carbodiimide hydrochloride;同仁化学研究所社製)水溶液を加え、室温で15分間インキュベートする。これにより、金パターン表面にスクシンイミド基が露出される。この状態で、ヒトC反応性蛋白と結合する抗ヒトCRP−マウスモノクローナル抗体(Biogenesis社製)溶液をウェル領域に滴下し、インキュベーションすると金薄膜上に抗ヒトCRP−マウスモノクローナル抗体が固定される。固定後必要に応じて、牛血清アルブミンなどの非特異的吸着の抑制作用を持った試薬をもちいて非特異的吸着反応を抑制するための処理を行ってもよい。以上の作業で反応容器を作製することができる。
【0035】
[磁性標識試薬の作製]
図1のコア・シェル構造の微粒子として、磁性体微粒子103としてフェライトを、金属層102として金を用いた例で示す。本微粒子の作製方法は、非特許文献1(Langmuir 2004, 20, 2472-2477)に記載された方法で作製することが可能である。
【0036】
本製法で作製したコア・シェル構造の微粒子溶液に、金と親和性の高いチオール基を持つ、11−メルカプトウンデカノイック酸のエタノール溶液を加え微粒子を表面修飾する。その状態で、N−ヒドロキシサルフォスクシンイミド(同仁化学研究所社製)水溶液と1−エチル−3−[3−ジメチルアミノプロピル]カルボジイミド塩酸塩(同仁化学研究所社製)水溶液を加え、室温で15分間インキュベートする。これにより、微粒子表面にスクシンイミド基が露出される。続いて、固定化する抗体として、標的物質に特異的な抗ヒトCRPマウスモノクローナル抗体/
2−[N−モルホリノ]エタンサルフォニック酸(2−[N−morpholino]ethanesulfonic acid)緩衝液(pH6.0)を加え、室温で2時間インキュベートする。金表面上に配置された前記スクシンイミド基と抗ヒトCRPマウス抗体のアミノ基を反応させることにより、抗ヒトインスリンモノクローナル抗体を微粒子表面上に固定化する。微粒子表面上の未反応のスクシンイミド基は、塩酸ヒドロキシラミン(Hydroxylamine Hydrochloride)を添加して脱離させる。以上の工程によって、溶液中にこのようにして、溶液中に試薬となる標的物質を補捉する捕捉微粒子を含んだ磁性標識試薬溶液が作製できる。
【0037】
[計測方法]
図6〜9を用いて本発明の計測方法について説明する。図6は本発明の検出装置の概念図である。ここでは、反応容器の流れで説明を行う。新規の反応容器は、302の分注ステーションに導入され、ここで、標的物質(ここではヒトCRP)を含む検体と希釈液が反応容器のウェルに分注される。その後303の攪拌ステーションに反応容器は搬送され、ここで、溶液が均一になるように攪拌される。その後305の1次免疫反応ステーションで、ウェルの反応固相の捕捉体と溶液中の標的物質の結合を行う。その後304の溶液除去ステーションで反応溶液を除去する。その後302の分注ステーションにて、洗浄溶液を導入し、303の攪拌ステーションで攪拌し、ウェル内面の不要な標的物質、夾雑物質を排除する。再度304の溶液除去ステーションにて洗浄液を除去する。その後302の分注ステーションにて、磁性標識試薬を分注する。303の攪拌ステーションで溶液を均一とし、306の2次免疫反応ステーションに反応容器を搬送する。本発明の特徴である検出手法は2次免疫反応ステーションでの操作となる。
【0038】
ここで、図7を説明する。図7は、反応促進部(図6でいう2次免疫反応ステーション)の概要図である。401は201〜204の反応容器を保持するための保持機構である。402は高周波磁場印加用の電磁石(コイル)である。ここで用いているのは、1mmの系のホルマル線を10回同心円状に巻いた空芯コイルである。403は、低周波磁場用の電磁石(コイル)であり、これは、0.2mmのホルマル線を巻いたコイルである。図8は、反応促進部を含む装置全体を示したブロック図である。以下に関連する個所の説明を行う。
【0039】
513は、図7の402の高周波用コイルに対応した高周波磁場印加機構である。514は、高周波磁場印加用の回路である。515は、図7の403の低周波用コイルに対応した、低周波磁場印加機構である。516は、低周波磁場印加用の回路である。図9(a)は、図8の514、513に対応した高周波磁場印加回路を示している。図9(b)は図8の516、515に対応した低周波磁場印加回路を示している。図9の601は、直流電源である。ここでは、100V商用電源より整流した直流を用いている。602の電流制限抵抗は、セメント抵抗を並列で用い、100Ω程度の抵抗値となり放熱に支障がないように選択する。603は開閉器である。ここでは、3Aの容量を持ったリレーを用いている。ここでリレーは磁気的に遮蔽しておくことが望ましい。604は、コンデンサである。ここでは、400V耐圧のアルミ電解コンデンサ820uFのものを3個並列に用い、2460uFの容量を得ている。605は大容量の開閉器でありここでは、大容量の100Aのリレーを用いている。本リレーも磁気的に遮蔽しておくことが望ましい。606の電磁石(コイル)は前述したように1mmのホルマル線を10回巻いた空芯コイルを用いている。607の電源は、20Vの定電圧源を用いる。ここでは0.5Aの出力が可能なものを用いている。608の電流制限抵抗は、47Ωのものを用い、609のダイオードは3A定格のものを用いている。610は、開閉器であり3A定格のリレーを用いている。611の低周波磁場印加用の電磁石(コイル)は、0.2mmのホルマル線をフェライト芯に100回巻きつけたものを用いている。ここでの駆動パターンは、まず図8の516の低周波磁場印加回路によって、610のリレーを閉じる。これによって、611すなわち403のコイルにより静磁場が形成される。これにより、204内にある磁性標識粒子が、反応固相近傍に捕集され、局所的に濃度が増大し、濃度効果による反応効率が高まる。さらに同時に603のリレーが閉じられる。このときに、604のコンデンサには、電荷がチャージされる。チャージ後に、610のリレーおよび603のリレーを開き、その後605のリレーを閉じる。このことによって、短時間に606のコイルに大電流が流入し、反応固相近傍の磁束密度が短時間の内に増大する。
【0040】
このことによって、標識粒子表面の非磁性金属(ここでは金)に渦電流が増大する磁場に反発する方向に力が生じる。このことにより標識粒子に対して斥力が働く。これによって、標識粒子が固相表面より一時的に遠ざかる、あるいは、固相表面領域で回転することによって、固相表面の捕捉体に固定された抗原と標識粒子表面の抗体の衝突確率が増大し、前述した濃度効果と合いまって反応効率が向上する。
【0041】
再度図6に戻り説明を行う。306の2次免疫反応ステーションにて、固相表面に標的物質を介して磁性標識粒子が固定された後、304の溶液除去ステーションに反応容器が搬送され、磁性標識試薬が除去される。302の分注ステーションで洗浄液が分注され、303の攪拌ステーションで攪拌し、結合していない磁性標識試薬を洗い流す。304の溶液除去ステーションで洗浄液を除去し、307の計測ステーションにて、反応固相に固定化された磁性粒子の量を磁気的に検出する。ここで磁性粒子の量は、検体中の標的物質量と相関しているため、あらかじめ同様の手法にて既知濃度の溶液にて磁性粒子量との相関をとっておけば、未知濃度の検体中の標的物質量を知ることができる。その後308にて反応容器を廃棄する。
【0042】
本実施例では、高周波磁界と低周波磁界の印加に2つの電磁石と回路を用いたが、図10のように1つの回路で構成することも可能である。図10では、612のプログラマブルな信号発生器と613の高周波に対応した増幅器を電源として用い、信号発生器からの信号の周波数を可変にすることによって、606のコイルが発生する磁界の周波数を変えることができる。このことによって、単一の磁場源によって本発明を実施することも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明に用いる標識用磁性粒子の概要図である。
【図2】本発明に用いる反応容器の概要図の第一形態である。
【図3】本発明に用いる反応容器の概要図の第二形態である。
【図4】本発明の第一形態の反応固相近傍拡大図である。
【図5】本発明の第二形態の反応固相近傍拡大図である。
【図6】本発明の検出装置の概念図である。
【図7】本発明の反応促進部の概要図である。
【図8】本発明の反応促進部のブロック図である。
【図9】本発明の反応促進部の第1の実施形態を示した回路図である。
【図10】本発明の反応促進部の第2の実施形態を示した回路図である。
【符号の説明】
【0044】
101 標的物質捕捉体
102 非磁性金属コート層
103 磁性体コア
201 基板
202 磁性センサ
203 壁構成材
204 ウェル部
205 電極部
206 固相標的物質捕捉体
301 反応容器搬入
302 分注ステーション
303 攪拌ステーション
304 溶液排除ステーション
305 1次免疫反応ステーション
306 2次免疫反応ステーション
307 計測ステーション
308 反応容器廃棄
401 反応容器保持部材
402 高周波磁界印加機構
403 低周波磁界印加機構
501 中央演算装置
502 主記憶装置
503 固定ディスク
504 表示装置
505 入力装置
506 検出制御部
507 攪拌制御部
508 溶液除去制御部
509 分注制御部
510 反応容器搬送部
511 反応促進制御部
512 反応容器
513 高周波磁場印加機構
514 高周波磁場印加回路
515 低周波磁場印加機構
516 低周波磁場印加回路
601 高周波用磁場用直流電源
602 電流制限抵抗
603 開閉器
604 放電コンデンサ
605 開閉器
606 電磁石(コイル)
607 低周波磁場用直流電源
608 電流制限抵抗
609 整流ダイオード
610 開閉器
611 電磁石(コイル)
612 信号発生器
613 増幅器
614 交流電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非磁性金属によって表面を被覆された磁性粒子と該磁性粒子表面に標的物質と特異的に結合する捕捉体とを有する磁性標識体を用いた検体中の標的物質を検出するための方法であって、
標的物質と特異的に結合する捕捉体を表面に有した反応固相を用意する工程と、
前記反応固相に前記標的物質を介して、前記磁性標識体を結合させる工程と、
前記反応固相上に結合された磁性標識体を検出する工程と、を有し、
前記磁性標識体を結合させる工程が、前記反応固相に高周波磁場および低周波の磁場を印加することを特徴とする、標的物質検出方法。
【請求項2】
請求項1記載の標的物質検出方法であって、前記高周波磁場がパルス状の電流印加によって達成されることを特徴とする標的物質検出方法。
【請求項3】
非磁性金属によって表面を被覆された磁性粒子と該磁性粒子表面に標的物質と特異的に結合する捕捉体とを有する磁性標識体を利用する標的物質検出装置であって、
前記磁性体標識を結合させる反応固相を設けるための反応固相設置部と、
該設置部に設けた反応固相の裏面に対向して配置する、高周波磁場印加手段および低周波磁場印加手段と、
を有することを特徴とする標的物質検出装置。

【図9】
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【図10】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−2397(P2010−2397A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−163611(P2008−163611)
【出願日】平成20年6月23日(2008.6.23)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】