標的細胞にベクター構造体を運搬する組換レトロウイルス
【課題】感受性標的細胞にベクター構造体を運搬可能な組換レトロウイルスを提供する。
【解決手段】ベクター構造体を保有する複製欠陥組換レトロウイルスであって、該ベクター構造体が、該レトロウイルスによって感染された細胞中において、病原性物質の機能を阻害できる緩和剤の発現をもたらすことを特徴とする複製欠陥組換レトロウイルス、ならびに、望ましくない又は有害な免疫応答を削減又は削除するための医薬の製造における複製欠陥組換レトロウイルスの使用。
【解決手段】ベクター構造体を保有する複製欠陥組換レトロウイルスであって、該ベクター構造体が、該レトロウイルスによって感染された細胞中において、病原性物質の機能を阻害できる緩和剤の発現をもたらすことを特徴とする複製欠陥組換レトロウイルス、ならびに、望ましくない又は有害な免疫応答を削減又は削除するための医薬の製造における複製欠陥組換レトロウイルスの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般的にレトロウイルスに関し、より詳しくは、感受性標的細胞にベクター構造体を運搬可能な組換レトロウイルスに関する。これらのベクター構造体は標的細胞において所望するタンパク質、例えば免疫活性を刺激せしめるタンパク質又は一定の細胞環境において条件的に活性であるタンパク質を発現せしめるために典型的にデザインされている。このような観点において、該ベクター構造物を有するレトロウイルスは標的細胞に対して免疫又は毒性反応を誘導せしめることが可能である。
【背景技術】
【0002】
細菌性の疾病が一般的に抗生物質により容易に治療できるにもかかわらず、多数のウイルス性、癌性及び遺伝性疾病を含むその他の非細菌性疾病のための有効な治療又は予防的測定は非常にわずかしか存在しない。このような疾病を治療する古典的な試みは化学薬剤の利用を採用してきた。一般に、このような薬剤は特異性がなく、全体的に高い毒性を示し、それ故治療には有効ではなかった。
【0003】
多数の非細菌性疾病を治療するためのその他の古典的な技術は、病原性物質、例えばウイルスに対する免疫応答を、該物質の非感染的な形、例えば殺傷せしめたウイルスの形の投与を介して誘発せしめ、これによって免疫刺激剤として働くであろう、該病原性物質に由来する抗原を提供すること、を含む。
【0004】
ウイルス性疾病、例えば後天性免疫不全症候群(AIDS)及び関連する疾患の治療のためのより最近の手法には、HIVによる感染に感受性の細胞上のリセプターが、ウイルスエンベロープタンパク質を受容せしめること又はそれらと複合体を形成せしめることをブロックすることを含む。例えばLifsonら(非特許文献1)は、CD(T4)リセプターに対する抗体がインビトロにおいて、感染された及び感染されていないCD4含有細胞との間の細胞融合(シンシチア)を阻止することを示した。モノクローナル抗体を利用する類似のCD4ブロッキング効果がMcDougalらにより提案されている(非特許文献2)。他方、Pertら(非特許文献3)は、T4リセプターに結合し、そしてヒトT−細胞のHIV感染をブロックせしめる合成ペプチドの利用を報告し、そしてLifsonら(非特許文献4)は、シンシチア及びウイルス/T4細胞の両方を、ウイルスのエンベロープ糖タンパク質と相互作用するレクチンによってブロックせしめ、これによりそれらがCD4リセプターにより受容されることをブロックせしめることを報告している。
【0005】
病原性物質、例えばRNAを転写するウイルスを阻害する近年提案されている第4の技術は、転写されたRNAの少なくとも一部に相補し、そしてこれに結合して翻訳を阻止するアンチセンスRNAを提供することである(非特許文献5)。
【0006】
しかしながら、上記の技術の主たる欠点は、即ち、それらが時間、位置又は薬剤、抗原、ブロッキング剤もしくはアンチセンスRNAを利用せしめる程度をコントロールするのに容易でないことにある。特に、上記の技術は治療薬の外因性適用(即ち、インビトロ状態において、サンプルに対して外因性)を必要とするため、それらは病原性物質の存在に対して直接的に応答しない。例えば、この病原性物質により感染された直後に高い量において発現される免疫刺激物質が所望されている。更に、アンチセンスRNAの場合、動物における有用な治療のためには大量に必要とされるであろう。現在の技術のもとでは、それを実際に必要とする部分、即ち、病原性物質によって感染された細胞に無関係に投与されうる。
【0007】
外因性適用に対して、内因的な治療薬を提供するための技術が考えられている。より詳しくは、DNAウイルス、例えばアデノウイルス、シミアンウイルス40、ウシパピロマ及びワクチンウイルスに基づくウイルス性ベクターから発現されるタンパク質が研究されている。例えばPanicaliら(非特許文献6)は、インフレンザウイルス血液凝集素及びB型肝炎ウイルス表層抗原をワクチンゲノムに導入せしめ、そしてこのような組換遺伝子から作製したウイルス粒子を動物に感染せしめている。感染の後、この動物はワクチンウイルス及びB型肝炎ウイルス抗原の両方に対する免疫を獲得した。
【0008】
しかしながら、DNAウイルスに基づくウイルスベクターによる多数の困難性を今日迄経験している。このような困難性には、(a)病原性又は所望するタンパク質の抑制をもたしうるその他のウイルス性タンパク質の製造;(b)宿主において非調節的に複製を行うベクターの能力及びこのような非調節的複製の病原性効果;(C)ウイルス血症をもたらしうる野性型ウイルスの存在;並びに(d)これらの系における発現の一過性、を含む。このような困難性はウイルス性、癌性及び遺伝的疾病を含むその他の非細菌性疾病の治療における、DNAウイルスに基づくウイルス牲ベクターの利用を妨害する。
【0009】
感染標的細胞における一過性でないこれらの発現に基づき、レトロウイルスは遺伝病の治療のための有用な媒体として考えられている(例えば、非特許文献7参照)。しかしながら、多数の問題点の見地のため、遺伝病の治療におけるレトロウイルスの利用は試みられていなかった。このような問題点は、(a)受け入れにくい組織(例えば脳)における大量の細胞を感染せしめるための明白な必要性;(b)非常に調節された且つ永久的な状態においそこれらのベクターが発現することを引き起こす必要性;(c)クローン化遺伝子の欠失;(d)代謝異常に起因する組織及び器管への不可逆的な損傷;及び(e)ある場合におけるその他の部分的に有効な治療の利用性に関する。
【0010】
遺伝病に加えて、その他の研究者は非遺伝的疾病を治療するためのレトロウイルスベクターの利用を考えた(例えば、特許文献1;非特許文献8;非特許文献9;及び非特許文献10を参照のこと)。
【0011】
Tellierらは、HIV RNAに対するアンチセンスRNAを発現できるゲノムを有す「欠陥」HIVにより幹細胞を有効に感染せしめることによって、T−細胞クローンを保護することを考えた。Bolognesiらは、幹細胞に感染せしめるための無毒性のHIV株を作製し、これによって発生したT4細胞が干渉するウイルスの無毒性の型を有し、従ってこれらの細胞を毒性HIVによる感染から防御せしめる概念を考えた。しかしながら、上記の論文両方において利用されている「減衰(attenuation)」又は「欠陥」HIVは再生され(即ち、複製欠陥ではない)、従ってもたらされるウイルスは既に存在しているHIVを有す高い組換の危険性又はその他の追随する危険性を伴って、他の細胞に感染することがあり、減衰の損失をもたらしうる。非複製型でなくなることは、HIVのための欠陥ヘルパー又はパッケージングラインの必要性をもたらしうる。しかしながら、HIV遺伝子の発現性の調節は困難であるため、このような細胞は今日迄作製されていない。更に、感染せしめる減衰又は欠陥ウイルスはキメラでないため(同一のレトロウイルス種に由来する実質的に全てのベクターを有す「非キメラ」レトロウイルス〕、たとえそれらをそれらのゲノムから本質的な要素を欠損せしめることにより複製欠陥として作ったとしても、感染性ウイルス粒子の結果として製造に伴う、宿主細胞における組換の可能性が未だ明らかに存在する。
【0012】
Sanford(非特許文献11)はまた、HIVについての遺伝子的な治療の利用も考え出した。彼は、天然のAIDSウイルスと、抗−HIV遺伝子を有す治療用レトロウイルスベクターとの遺伝子組換を介する新規な毒性ウイルスに存在する能力に原因して、AIDSのためのレトロウイルス遺伝子治療は実用的でないであろうと述べている。同様に、HcCormickとKriegler(特許文献1)は腫瘍壊死因子(TNF)のようなタンパク質についての遺伝子を運搬するためのレトロウイルスベクターを利用することを考えたが、彼らが詳述する技術は多数の欠点を有する。
【特許文献1】ヨーロッパ特許EP243,204A2号(Cetus Corporation)
【非特許文献1】Lifsonら、Science 232:1123−1127、1986
【非特許文献2】McDougalら、Science 231:382−385、1986
【非特許文献3】Pertら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 83:9254−9258、1986
【非特許文献4】Lifsonら、J.Exp.Med.164:2101、1986
【非特許文献5】Toら、Mol.Cell.Biol.6:758、1986
【非特許文献6】Panicaliら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 80:5364、1983
【非特許文献7】F.Ledley,The Journal of Pediatrics 110:1、1987
【非特許文献8】Sanford、J.Theor.Biol.130:469、1989
【非特許文献9】Tallierら、Nature 318:414、1985
【非特許文献10】Bolognesiら、Cancer Res.45:4700、1985
【非特許文献11】Sanford、J.Theor.Biol.130:469、1988
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明を以下に要約する。
【0014】
(1) 組換レトロウイルスであって、該レトロウイルスにより感染せしめた標的細胞において動物における免疫応答性を刺激せしめることが可能な少なくとも1種のタンパク質又はその改質型の発現をもたらすベクター構造体を有し、該ベクター構造体がカプシドタンパク質及び制御応答要素をコード化するセグメント並びに少なくとも1種の制御要素を含んで成る、組換レトロウイルス。
【0015】
(2) 上記(1)1に記載の組換レトロウイルスであって、前記のカプシドタンパク質がHIV gagタンパク質、前記の制御要素がHIV revタンパク質、そして前記の制御応答要素がHIV rev応答性制御要素である組換レトロウイルス。
【0016】
(3) 上記(1)に記載の組換レトロウイルスであって、前記のベクター構造体が、HIV gag、HIV pol、HIV rev、HIV vpu、HIV vif、HIV及びHIV protより成る群から選ばれる少なくとも1種のHIVタンパク質の発現をもたらす組換レトロウイルス。
【0017】
(4) 上記(1)に記載の細換レトロウイルスであって、前記ウイルスカスピドタンパク質をコード化するセグメントがHIV gagであり、核セグメントが第2遺伝子と作動連結し、ここで該HIV gag及び該第2遺伝子がタンパク質又はその改質型の発現をもたらしめることが可能である、組換レトロウイルス。
【0018】
(5) 組換レトロウイルスであって組織腫瘍−特異的転写プロモーター/エンハンサー要素を有するベクター構造体を保有し、該構造体が該プロモーターと適応性の組織のタイプを有す細胞において緩和剤の発現をもたらし、該緩和剤が病原性に必要な病原因子の機能を阻害できる、組換レトロウイルス。
【0019】
(6) 組換レトロウイルスであって、複数のエピトープを有すペプチドの発現をもたらすベクター構造体を有し、1もしくは複数の該エピトープが異なるタンパク質に由来する、組換レトロウイルス。
【0020】
(7) 組換レトロウイルスであって、該レトロウイルスにより感染せしめた標的細胞においてペプチド様抗原性フラグメント又はその改質型の発現をもたらすベクター構造体を有し、該抗原性フラグメント又はその改質型が動物における免疫応答性を刺激せしめることが可能な、組換レトロウイルス。
【0021】
(8) 組換レトロウイルスであって、該レトロウイルスにより感染せしめた標的細胞において少なくとも1種の抗原又はその改質型、及びMHCタンパク質又はその改質型の発現をもたらすベクター構造体を有し、該抗原又はその改質型及び該MHCタンパク質又はその改質型が動物における免疫応答牲を発現せしめることが可能な、組換レトロウイルス。
【0022】
(9) 組換レトロウイルスであって、該レトロウイルスにより感染せしめた標的細胞において第1抗原又はその改質型の発現をもたらすベクター構造体を有し、該第1抗原は第2抗原もしくはその改質型に対する動物における免疫応答性を刺激せしめることが可能であり、ここで該第1及び該第2抗原は親近であるが同一でない、組換レトロウイルス。
【0023】
(10) 上記(9)に記載の組換レトロウイルスであって、前記の第1及び第2抗原又はそれらの改質型が、少なくとも40%の相同性、しかし99%以下の相同性を、8〜100個のアミノ酸の配列において分け合う、組換レトロウイルス。
【0024】
(11) 組換レトロウイルスであって、該レトロウイルスにより感染せしめた標的細胞において少なくとも1種の抗原又はその改質型の発現をもたらすベクター構造体を有し、該抗原又はその改質型がインビボ免疫応答を刺激することができる、組換レトロウイルス。
【0025】
(12) DNAベクター構造体であって、該DNAをトランスフェクトせしめた標的細胞において少なくとも1種の抗原又はその改質型の発現をもたらし、該抗原又はその改質型がインビトロでの免疫応答を刺激することができる、DNAベクター構造体。
【0026】
(13) 上記(11)又は(12)に記載の組換レトロウイルスであって、ここで前記のインビトロでの免疫応答が細胞仲介免疫応答である組換レトロウイルス。
【0027】
(14) 上記(11)又は(12)に記載の組換レトロウイルスであって、ここで前記のインビトロでの免疫応答がCTL応答である、組換レトロウイルス。
【0028】
(15) 組換レトロウイルスであって、該レトロウイルスを感染せしめた標的細胞において少なくとも1種の抗原又はその改質型の一過性発現をもたらすベクター構造体を有し、該抗原又はその改質型は動物における免疫応答を刺激せしめることが可能である、組換レトロウイルス。
【0029】
(16) DNAベクター構造体であって、該DNAをトランスフェクトせしめた標的細胞において少なくとも1種の抗原又はその改質型の一過性発現をもたらし、該抗原又はその改質型は動物における免疫応答を刺激せしめることが可能である、DNAベクター構造体。
【0030】
(17) 組換レトロウイルスであって、該レトロウイルスの感染せしめた細胞において緩和剤の発現をもたらすベクター構造体を有し、該緩和剤が病原因子により作られるタンパク質の活性を阻害できる組換レトロウイルス。
【0031】
(18) 組換レトロウイルスであって、病原性RNA分子に特異的リボザイムとして機能するRNA分子の発現をもたらすベクター構造体を有す組換レトロウイルス。
【0032】
(19) 上記(1)〜(18)のいずれかに記載の組換レトロウイルスであって、ここで該レトロウイルスが複製欠陥である組換レトロウイルス。
【0033】
(20) 組換レトロウイルスを製造する方法であって、ベクター構造体をカプシド及びエンベロープにパッケージせしめて、上記(19)に記載の複製欠陥組換レトロウイルスを製造することを含んで成る方法。
【0034】
(21) 上記(1)〜(19)のいずれか1項に記載の、組換レトロウイルスにより感染された、又はDNAベクター構造体のトランスフェクトされた生体外(ex vivo)細胞。
【0035】
(22) 上記(1)〜(11)及び(13)〜(18)のいずれかに記載の組換レトロウイルスの感染した真核細胞(該細胞は前記のベクター構造体の任意の1種を含む感染性粒子を発生せしめることが可能である)。
【0036】
(23) 上記(1)〜(11)及び(13)〜(18)請求項1〜11及び13〜18のいずれかに記載のレトロウイルスを、生理学的に許容されうる担体又は希釈剤と一緒に含んで成る医薬製剤。
【0037】
(24) 活性治療剤として利用するための、上記(21)に記載の医薬組成物。
【0038】
(25) Tリンパ球と反応性であるタンパク質における抗原又は抗原性エピトープを同定する方法であって、
(a)異なる抗原又は該抗原のペプチド様フラグメントの発現をもたらす組換ベクター構造体をそれぞれ有す多重性の異なる組換レトロウイルスを製造し、
(b)多重性の標的細胞を該異なる組換レトロウイルスにより感染せしめ、そして
(c)該異なる抗原又は該抗原のペプチド様フラグメントを発現する標的細胞を殺傷せしめるCTLもしくは抗体の能力について試験し、そしてこれによって該抗原又は該抗原のペプチド様フラグメントが該Tリンパ球と反応性であるかを調べること、
を含んで成る方法。
【0039】
簡潔に述べると、本発明は、感染性、癌性、自己免疫性又は免疫性疾病を予防、阻止、安定化又は回復せしめることが可能なベクター構造体を有する組換レトロウイルスを提供する。このような疾病には、感染症、黒色症、糖尿病、移植細胞対宿主病、アルツハイマー病及び心臓病を含む。
【0040】
本発明はある程度、組換レトロウイルスの利用を介して、(a)抗原もしくは病原性抗原に対する、体液性又は細胞仲介性のいずれかである特異的な免疫応答を刺激せしめ;(b)病原性物質例えばウイルスの機能を阻害せしめ;そして(c)物質と宿主リセプターとの相互作用を阻害せしめる方法に関する。
【0041】
より詳しくは、本発明の1つの態様において、感受性標的細胞を、組換レトロウイルスであって該標的細胞において抗原又はその改質された型の発現をもたらすベクター構造体を、有するものにより感染せしめることを含んで成る、特異的な免疫応答を刺激せしめる方法を提供する。本発明の目的のため、「感染」なる語は、ウイルスベクター、トランスフェクション又はその他の手段、例えばマイクロインジェクション、プロトプラスト融合等を介しての核酸配列の導入を含む。この導入せしめた核酸配列は該標的細胞の核酸の中に組込まれうる。このベクターの核酸がコードするタンパク質の発現は、一過性であるか又は時間に安定でありうる。免疫応答が病原性抗原に対して誘発されるものである場合、この組換レトロウイルスは、免疫応答を刺激し且つ天然の抗原よりも低められた病原性を有す抗原の改良型を発現せしめるように好適にデザインされている。この免疫応答性は細胞が抗原を正常な状態において提供する場合、即ち、MHCクラスI及び/もしくはII分子に関するアクセサリー分子例えばCD3,ICAM−1,ICAM−2,LFA−1又はその類似体を伴う場合に達成される(例えば、Altmannら、Nature 338:512、1989)。レトロウイルスベクターにより感染された細胞はその有効性が期待され、なぜならそれらは真のウイルス感染によく擬態するからである。
【0042】
本発明のこの観点は、同様の方法において働くものと期待されているその他の系よりも更なる利点を有し、即ち、該提供細胞は完全に生育可能且つ健状であり、そして何らその他のウイルス性抗原(イムノドミナントでありうるもの)を、発現せしめない。このことは、明確な利点を提供し、その理由は、発現される抗原性エピトープが、該組換レトロウイルスの中への該抗原についての遺伝子のサブフラグメントの選択的なクローニングにより変化されることができ、これによってイムノドミナントエピトープにより減少することがある、免疫原エピトープに対する応答をもたらしうる。このような手法は、複数のエピトープ(1又は複数のエピトープは異なるタンパク質に由来する)を有するペプチドの発現性に迄及ぶことができうる。更に、本発明のこの観点は、MHCクラスI分子を有するこれらのペプチドフラグメントの細胞内合成及び組立てを介して、抗原エピトープ、及び遺伝子のサブフラグメントによりコード化される抗原のペプチドフラグメントに特異的な細胞障害性Tリンパ球(CTL)の有効な刺激が可能である。この手法はCTLのための主要なイムノドミナントエピトープを地図化するのに利用されうる。更に本発明は、抗原提供細胞において提供されるアクセサリータンパク質(例えば、MHCI,ICAM−1等)の発現の増大又は改良を介して、抗原のより有効的な提供について提供する。このような手法は、Tリンパ球に有効な抗原(又はその一部)を提供することができる、抗原(例えば腫瘍抗原)及びMHCタンパク質(例えばクラスIもしくはII)両方の発現性をもたらすベクター構造体を有す組換レトロウイルスを包含しうる。このことは、低レベルのMHCタンパク質及び免疫応答を刺激せしめる低い能力を有す細胞(例えば腫瘍細胞)において、抗原の提供が増大される利点をもたらしうる。この手法は、抗原及びタンパク質であって細胞においてMHCタンパク質の高い発現性を誘発するもの(例えばインターフェロン)の両方の発現をもたらすベクター構造体を有す組換レトロウイルスを更に含みうる。このレトロウイルスの感染された細胞は免疫刺激剤(イムノスチムレーター)、イムノモジュレーター又はワクチン等に利用されうる。
【0043】
免疫応答は適切な免疫細胞(例えばTリンパ球)に、対象の抗原(必要ならば適当なMHC分子に関する)を認識する特異的T−細胞リセプターについての遺伝子、対象の抗原を認識するイムノグロブリンについての遺伝子、又はMHC開係の非存下においてCTL応答を提供するこの二種のハイブリドについての遺伝子を導入せしめることによっても達成されうる。
【0044】
免疫刺激を所望する、HIV感染により引き起こされた疾病の特定の場合において、この組換レトロウイルスゲノムから作られた抗原は、HLAクラスI−もしくはクラスII−制御免疫応答のいずれか又は両方を誘発するであろう型にある。HIVエンベレロープ抗原の場合において、例えば、この抗原はgp160、gp120及びgp41から好適に選ばれる。それらは、その病原性が低められるように改良されたものである。特に、選んだ抗原は、シンシチアの可能性を下げるため、免疫応答性を高める疾病をもたらすエピトープの発現を回避するため、イムノドミナントを除去するため、しかしながら株−特異性エピトープ又は複数の株−特異性エピトープを提供せしめ、そしてHIVのほとんどもしくは全ての株による細胞の感染をなくすことができる応答性のために改良される。この系−特異性エピトープは、動物における免疫応答性の刺激を促進せしめるために更に選別されうる(これらはHIVのその他の株に交差反応性である)。その他のHIV遺伝子又は遺伝子の組合せ、例えばgag,pol,rev,vif,nef,prot,gagpol、gagprot、等も特定の場合において予防を提供せしめうる。
【0045】
本発明の他の観点において、ウイルス性感染症、癌又は免疫異常により引き起こされるような疾病に必要な、病原性物質の機能を阻害せしめる方法を開示する。病原性物質がウイルスの場合、阻害される機能は、吸着、複製、遺伝子発現、集成、及び感染細胞からの該ウイルスの退出より成る群から選ばれうる。この病原性物質が癌細胞又は癌−促進成長因子の場合、この阻害される機能はその生存、細胞複製、外部信号に対する感受姓の変化、及び抗−オンコジーンの製造の欠失又は抗−オンコジーンの突然変異型の製造より成る群がら選ばれうる。このような阻害は、「阻害緩和剤」例えば(a)アンチセンスRNA;(b)病原性の状態の発現を妨害する、病原性タンパク質に類似する突然変異タンパク質;(c)不活性な先駆体を活性化せしめるタンパク質;(d)欠陥干渉構造タンパク質;(e)ウイルスプロテアーゼもしくは酵素のペプチド阻害剤;(f)腫瘍サップレッサー遺伝子;又は(g)病原性状態に関連するRNA分子を特異的に切断及び分解できるRNAリボザイム;を有する組換レトロウイルスを介して提供されうる。他方、このような阻害は、病原性遺伝子の中に位置特異的に一体化することによってそれを分裂することができる組換レトロウイルスにより達成される。
【0046】
このような阻害は、疾病を及ぼす細胞に毒性である緩和物の発現を介して達成されることもできる。毒性緩和物がこの組換ウイルスゲノムを含む細胞によって製造される場合、重要なことはこの組換レトロウイルスが標的細胞にのみ感染するのか、もしくは標的細胞においてのみこの緩和物が発現されるかのいづれであるか、又はその両方であるかである。いづれの場合においても、この最終毒性物は病原性状態において細胞に局在する。発現性を標的にする場合、この毒性緩和物の発現性をコントロールする病原性物質は、例えば細胞に存在する病原性ウイルスゲノムの転写及び翻訳を介して製造されるタンパク質である。
【0047】
本明細書全体において、細胞において任意の物質を「発現する」又は「製造」するウイルス構造体等と表現する場合、このことは事実上、該細胞におけるウイルスRNAの逆転写に引き続いて得られるプロウイルスの作用に関連することと理解されるべきである。毒性緩和物に関して、結果として起こる殺傷作用は宿主ゲノムの中への組換ウイルスゲノムの永久的な一体化を必ずしも必要としないが、ある程度長期的な時間(数日から1ケ月)にわたって所望する形における毒性緩和物遺伝子のある程度長期的な発現は必要である。従って、その他の一体化されていないウイルス性ベクター、例えばアデノウイルスベクター(但しこれに限定しない)が本目的のために利用されうる。条件により毒性の緩和物の例には、(a)細胞周期−特異性プロモーター、組織特異的プロモーター又はその両方のコントロール下の毒性遺伝子生成物;(b)条件的に発現し、そしてそれ自体は毒性ではないが標的細胞内で非毒素先駆体を活性化毒素型へと化合物又は薬剤をプロセスせしめる遺伝子生成物;(c)それ自体は毒性ではないが、タンパク質例えばウイルス性又はその他の病原に対して特異的なプロテアーゼによって処理された場合に毒素型へと変換する遺伝子生成物;(d)例えば免疫毒素による攻撃に対して病原性細胞を識別する細胞表層上の条件的に発現されるリポーター遺伝子生成物;(e)細胞外因子との相互作用による毒性効果をもたらす、細胞表層上の条件的に発現される遺伝子生成物;及び(f)生存のために重要なRNA分子に特異的な条件的に発現されるリボザイムをコード化する組換レトロウイルスを含む。
【0048】
関連する観点において、本発明は望ましくない又は有害な免疫応答を削減もしくは削除するための方法も提供する。免疫抑制(必要な場合)は免疫抑制遺伝子、例えばウイルスに由来する、アデノウイルスのE3遺伝子の発現を標的にすることによって達成されうる。
【0049】
本発明の他の観点において、ウイルス粒子と細胞、細胞と細胞、又は細胞と因子の相互作用を阻害する方法を開示する。この方法は一般に、組換複製欠陥レトロウイルスであって感染細胞にブロッキング要素の発現をもたらすものを感受性細胞に感染せしめることを含んで成り、該ブロッキング要素は、細胞のリセプター(好ましくは宿主細胞リセプター)に、そのリセプターが細胞内もしくは細胞表層上のいずれであろうと結合できるか、又は一方該病原性物質と結合することによって結合できる。
【0050】
前記した該組換レトロウイルスが及ぼす免疫原又は阻害的な作用による方法にもかかわらず、該レトロウイルスゲノムが「複製欠陥」(即ち、これにより感染された細胞において再生できない)となることが好適である。従って、インビトロ又はインビボ適用のいずれにおいても感染は単一段階のみであり、これにより挿入性の突然変異の可能性は実質的に低められるであろう。好ましくはこれに加えて、該組換レトロウイルスはgag、pol又はenv遺伝子の少なくとも1つを欠損する。更に、該組換ウイルスベクターはキメラであることが好ましい(即ち、所望する結果を提供する該遺伝子は該レトロウイルスの残余物以外の起源に由来する)。キメラ構造体は、ウイルス粒子を発生できるゲノムを製造できる、該組換レトロウイルスにより感染された細胞内における組換現象の可能性を更に引き下げる。
【0051】
本発明の他の態様において、上記の方法の実施及びその他の治療的な遺伝子を運搬するのに有用な組換レトロウイルスを開示する。本発明はこのようなレトロウイルスを製造するための方法も提供し、ここで該レトロウイルスゲノムはパッケージング細胞の利用にわたり、好ましくはカプシド及びエンベロープにパッケージされている。該パッケージング細胞には、好ましくは2種のプラスミドの形においてウイルスタンパク質コード化配列が提供されており、これらは生存できるレトロウイルス粒子の製造に必要な全てタンパク質、所望する遺伝子及びパッケージングシグナル(該RNAをレトロウイルス粒子へとパッケージングせしめることをもたらす)を有するであろうRNAウイルス構造体を提供せしめる。
【0052】
本発明は以下の事項を促進できる組換レトロウイルスを製造するための多数の技術を更に提供する。
【0053】
i)パーケージング細胞に由来する高力価の提供、
ii)パッケージング細胞の利用を含まない手段によるベクター構造体のパッケージング、
iii)予備選択した細胞系のために選ぶ組換レトロウイルスの製造、
iv)組織特異性(例えば腫瘍)プロモーターを有するレトロウイルスベクターの作製、及び
v)プロウイルス構造体の、細胞ゲノムにおける予備選択した位置又は複数の位置の中への一体化。
【0054】
パッケージング細胞からより高い力価を提供するための1つの技術は我々の発見を利用しパッケージング細胞由来の力価を制限する多数の因子の中で、最も制限されるものはパッケージングタンパク質、一般にはgag、pol及びenvタンパク質の発現レベル及びプロウイルスベクター由来のレトロウイルスベクターRNAの発現レベルである。この技術は前記のパッケージングタンパク質及びベクター構造体RNAのより高い発現レベル(即ち、より高濃度の製造)を有するパッケージング細胞の選別を可能とする。より詳しくは、この技術は、パッケージングタンパク質(例えば、gag、polもしくはenvタンパク質)又は標的細胞のゲノムの中に運搬される対象の遺伝子(一般にはベクター構造体として)のいずれかである、本明細書で「プライマリー物質」として称されているものを高いレベルで製造するパッケージング細胞の選別を可能にする。このことは、パッケージング細胞に、該パッケージング細胞においてプライマリー物質を発現せしめる遺伝子(「プライマリー遺伝子」)を運ぶゲノム及び選別可能な遺伝子(好ましくはプライマリー遺伝子の下流)を提供せしめることにより達成される。この選別可能な遺伝子は該パッケージング細胞に選別可能なタンパク質、好ましくはその他の細胞毒素性薬剤に対する耐性をもたらすものを発現させる。次に該細胞を選別薬剤、好ましくは細胞毒性薬剤に曝露せしめ、臨界レベルで選別可能なタンパク質を発現するこれらの細胞の同定を可能にする(即ち、細胞毒性薬剤の場合においては、生存のために必要なレベルの耐性タンパク質を製造しない細胞を殺傷することによる)。
【0055】
好ましくは、簡潔に上記した技術において、選別可能及びプライマリー遺伝子の両方の発現は同一のプロモーターによりコントロールされている。この観点において、レトロウイルス5’LTRを利用することが好ましいであろう。パッケージング細胞に由来する組換レトロウイルスの力価を最大にするため、この技術はまず必要とする全てのパッケージングタンパク質を高レベルで発現するパッケージング細胞の選別に用いられ、次に該組換レトロウイルスの最も高い力価を提供する、所望するプロウイルス構造体によりトランスフェクションされた後のこれらの細胞の選別に用いられる。
【0056】
パッケージング細胞の利用を含まない手段による、ベクター構造体のパッケージングについての技術も提供する。このような技術は、その他の無関係なレトロウイルス、バクロウイルス、アデノウイルス又はワクチンウイルス、好ましくはアデノウイルスのようなウイルスに基づくその他のベクター系を利用する。これらのウイルスは、それに提供される外因性遺伝子に由来する比較的高レベルのタンパク質を発現することで知られる。このようなDNAウイルスベクターのため、組換DNAウイルスは組織培養における、ウイルスDNAとレトロウイルス又はレトロウイルスベクター遺伝子を有するプラスミドとのインビボ組換により製造できる。レトロウイルスタンパク質又はレトロウイルスベクターRNAについてコード化する配列のいずれかを有す、得られるDNAウイルスベクターを高力価ストックヘと精製する。他方、該構造体をインビトロで作製し、そしてその後細胞に感染せしめることができ、これは該DNAベクターのトランスウイルス機能を失わせる。この製造方法にもかかわらず、高力価(107〜1011ユニット/ml)ストックが製造されることができ、これは感受性細胞の感染に基づき、高レベルのレトロウイルスタンパク質(例えばgag,pol及びenv)もしくはRNAレトロウイルスゲノム、又はその両方の発現を引き起こすであろう。これらのストック(単一又は組合せた)との培養における細胞の感染は、もしこのストックがウイルスタンパク質及びウイルスベクター遺伝子を運ぶならば、高レベルのレトロウイルスベクターの提供をもたらすであろう。これらの技術は、アデノウイルス又はその他の哺乳動物ベクターと利用した場合、組換レトロウイルスベクターを製造するためプライマリー細胞(例えば、組織外植片又はワクチンの製造において利用されるW138の細胞〕の利用を可能にする。
【0057】
上記の技術の他においては、適当な組換DNAウイルスにより感染せしめた細胞系に由来するgag/pol及びenvタンパク質を、先の技術と類似する方法ではあるが、但し該細胞系がベクター構造を有すDNAウイルスにより感染されていない方法においてまず作製することによって提供される。その後、該タンパク質を精製し、そしてインビトロで作製した所望のウイルスベクターRNA、トランスファーRNA(tRNA)、リポソーム及び細胞抽出物を接触せしめて該envタンパク質がリポソーム中でプロセスされるようにし、これによって該ウイルスベクターRNAを有す組換レトロウイルスが提供される。この技術において、envタンパク質をリポソーム中でプロセスせしめることは、それらを前記の混合物の残りのものと接触させる前に行うことが必要である。gag/pol及びenvタンパク質は、真核細胞、酵母又は細菌におけるプラスミド仲介トランスフェクションの後にも作られうる。
【0058】
予備選定した細胞を標的としうる組換レトロウイルスを製造するための技術は、1もしくは複数の以下のものを有する組換レトロウイルスを利用する:
第1レトロウイルス表現型の細胞質セグメントを含んで成るenv遺伝子、及び該第1レトロウイルス表現に外因性の細胞外結合セグメント(この結合セグメントは第2ウイルス表現型又はその他のタンパク質であって所望の結合特性を有するものに由来し、これは所望の標的に結合できうるペプチドとして発現されるよう選択される);その他のウイルスエンベロープタンパク質;正常エンベロープタンパク質に代るその他のリガンド分子;あるいは該標的細胞への感染をもたらさないエンベロープタンパク質を伴うその他のリガンド分子。好ましくは、簡潔に述べた上記の技術において、レトロウイルス表現型の細胞質セグメントを含んで成るenv遺伝子をリセプター−結合ドメインを有すタンパク質をコード化する外因性遺伝子と結合させ、該組換レトロウイルスが標的とする細胞タイプ、例えば腫瘍細胞に特異的に結合する能力を高めている。この観点において、該標的細胞の表層上に高レベルで発現されるリセプター(例えば、腫瘍細胞における成長因子リセプター)に結合するリセプター−結合性ドメイン、又は他に、ある組織細胞タイプ(例えば脳腫瘍における上皮細胞、管上皮細胞、等)において比較的高レベルで発現されるリセプターに結合するリセプター−結合性ドメインを好適に利用しうる。この技術において、一定の腫瘍に対する特異性を有す組換レトロウイルスを、腫瘍細胞における組換レトロウイルスの複製の反復継代により、又は該ベクター構造体を薬剤耐性遺伝子と連結せしめ、そして薬剤耐性について選別することにより、改良並びに遺伝子的に変化せしめることが可能である。
【0059】
組織(例えば腫瘍)−特異性プロモーターを有するレトロウイルスベクターの作製のための技術は、対象の組織において作動する制御コントロール要素(例えば網状赤血球において発現性をもたらす骨髄におけるベクターグロブリン遺伝子プロモーター、B細胞におけるイムノグロブリンプロモーター、他);組織−特異性制御コントロール要素であって、該コントロール要素が作動する標的細胞において致死剤をコード化する遺伝子の発現性を誘発することができるもの;を有する組換レトロウイルスを利用する。異なる組織における該制御コントロール要素の作動性は、この技術において利用するのに特定組織に対して絶体−特異性であることは必ずしも必要でなく、なぜなら、作動性における量的な相違は実質的なレベルの組織特異性を、該要素のコントロール下にある該薬剤の致死性に授けるのに十分であるからである。
【0060】
レトロウイルスゲノムを標的細胞のDNAにおける特定の位置に組入れることは、相同的組換の利用、又は他に該標的細胞ゲノムにおける特異的な位置を認識するであろう改質せしめたインチグラーザ酵素の利用を包含する。このような位置−特異的挿入は、標的細胞におけるDNAにおいて、望ましくない遺伝子(例えばウイルス遺伝子)の発現性を低める又はなくすよう、挿入的突然変異誘発の確率を最小にし、該DNA上のその他の配列への干渉を最小にし、そして特定の標的位置で配列の挿入を可能にせしめうる、該標的細胞のDNA上の位置への遺伝子の挿入を可能にする。
【0061】
上記の技術のいずれもが特定の状況において、他と独立して利用できること、又は1もしくは複数のその他の技術と一緒に利用でさることが理解されるであろう。
【0062】
本発明のこれらの観点及び他の観点は、以降の詳細なる説明及び添付図面を参照することによって明らかとなるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0063】
発明の詳細な説明
I.免疫刺激
異種の病原体に対する認識及び防御の能力は、免疫系の機能の中心である。免疫認識を介するこの系は、「非自己」(異種)から「自己」を区別することが可能でなければならず、このことは即ち、防御のメカニズムが宿主組織に対してではなく、侵入物に対して向けられていることを確実にするための本質である。この免疫系の基本的な特徴は、高い多型性細胞表層認識構造体(リセプター)の存在並びに侵入病原体の破壊のためのエフェクターメカニズム(抗体及び細胞溶解性細胞)にある。
【0064】
細胞溶解性Tリンパ球(CTL)は通常、MHCクラスI又はクラスIIの細胞表層タンパク質に関連してプロセスされる病原−特異性ペプチドの出現により誘発される。このタイプの抗原の提供により刺激されるものとして、抗体、ヘルパー細胞及び記憶細胞もある。本発明の1つの態様において、適切なMHC分子に関連しての免疫原ウイルス決定基の提供は、患者を病原体にさらすことなく最適なCTL応答を効率的に誘発する。免疫刺激のためのこのベクター手法は、潜在的なクラスIの制限された、予防的及び治療的CTL応答をより効率的に誘発する手段を提供する。その理由は、このベクターにより誘発されるこのタイプの免疫性は、天然の感染への暴露により誘発されたものと非常に似ているからである。複数のウイルス系の現在の知識に基づき、体外的に供給された非複製ウイルス抗原、例えばペプチド及び精製組換タンパク質はクラスIの制限された最適なCTL応答性を誘発せしめるための十分な刺激を提供しないであろう。他方、選択したウイルスタンパク質又は本発明の中で記載する標的細胞における、病原症状例えば癌に関連するその他の抗原の、ベクター運搬された発現はこのような刺激を提供する。
【0065】
実施例の方法により、HIV−1感染のケースにおいて、患者は種々のウイルス性エンベロープ−領域決定墓に特異的な抗体を発生せしめ、それらのうちのいくつかはインビトロウイルス中和が可能である。にもかかわらず、疾病の進行は続き、患者は事実上この疾病に侵される。感染された患者細胞(P1ataら、Nature 328:348−351、1987)及び標的細胞であって、HIVgag,pol又はenvを発現する組換ワクチンベクター(Walkerら、Nature 328:345−348、1987;Walkerら、(Science 240:64−66、1988)により感染されたものに対する低レベルのCTL応答がいくつかのHIV−1陽性血清患者において検出された。更に、ネズミ及びヒトCTLはトランスフェクションを介して、HIVgp120を発現する自己スチムレーター細胞により誘発されうることが近年見い出されている(Langlade−Demoyanら、J.Immumol.141:1949、1989)。改善せしめたCTL誘発は感染患者のための有利な治療となることができ、そして非感染性症状のもとでは個体のための有効な予防的治療を提供する。HIV感染自体は適切なCTL応答を提供しないであろう。その理由は、HIV感染に関連するその他の要素が適切な免疫刺激を妨げるからである。更に、感染細胞によるT−細胞の刺激は、刺激されたT−細胞の感染をもたらす相互作用である。
【0066】
HIV−1は1つの例にすぎない。この手法は、例えばHPV及び頸管癌腫、HTLV−1−誘発自血病、前立腺−特異的抗原(PSA)と前立腺癌、突然変異p53と結腸癌腫、GD2抗原と黒色腫等のように、特徴的な抗原(これは膜タンパク質である必要はない)が発現される、ウイルスに関連する疾病又は癌に対して有効であろう。実施例1はパッケージング細胞においてレトロウイルスベクターを発生できるプラスミドの作製のための方法を詳細し、これはHIVウイルス抗原の発現をもたらす。
【実施例】
【0067】
実施例1
HIV抗原を発現するベクター
A.Env発現ベクター(図1参照):
2.7kbのKpn−XhoIDNAフラグメントをHIVプロウイルスクローンBH10−R3(配列については、Ratneら、Nature 313:277、1985を参照のこと)から単離し、そしてIIIexE7delta env(nt.5496迄Ba131欠損)由来の約400bpのSaI−KpnIDNAフラグメントをプラスミドSK+におけるSalI部位にリゲートせしめた。このクローンから、env発現のために本質的な、revをもコード化する3.1kbのenv DNAフラグメント(XhoI−ClaI)を単離し、そしてpAFVXMと呼ぶレトロウイルスベクター(Kriegleら、Cell 38:483、1984参照)にリゲートせしめた。このベクターは改良されており、HIV envコード化DNAフラグメントのクローニングを促進せしめるため、BalII部位はリンカー挿入によってXhoI部へと変えられている。
【0068】
ネオマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子の発現を作動せしめるSV40初期プロモーターを含んで成る優性選別マーカー遺伝子をこのベクターのClaI部位に挿入せしめ、感染及びトランスフェクトされた細胞系の単離を促進せしめた。このベクターをpAF/Envr/SV2neoと呼ぶ(図1参照)。
【0069】
このベクターのENV遺伝子から上流のXhoI部位は、RSVプロモーター、SV40初期又は後期プロモーター、CMV即初期(immediate early:IE)プロモーター、ヒトベーターアクチンプロモーター、及びモロニーネズミMLV SL3−3プロモーターのような更なるプロモーターのこのベクター構造体への挿入に好都合な部位を提供する。
【0070】
このようなプロモーターの1つ、CMV即初期遺伝子プロモーター(図1参照)、即ち、673bpのDNAフラグメントHinIIからEagIは、SupT1と称されるヒトT−細胞系におけるENVの発現を、親構造体pAF/Envr/SV2neoと比較して10倍高めることをもたらす(図2参照)。
【0071】
このベクターの力価を高めるため、N2に基づく組換レトロウイルスを利用できる(Armentatoら、J.Virol.61:1647−1650、1987;EglitasらScience 230:1395−1398、1985)。このベクターはN2由来のパッケージング配列及び細菌性ネオマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子の両方を有する。上記のHIV env構造体を以下の通り、N2における固有XhoI部位に挿入せしめた。
【0072】
N2に由来する、GAG配列を合むMoMuLV5’LTRフラグメント(EcoRI−EcoRI)をプラスミドSK+にリゲートせしめ、N2R5と呼ぶ構造体を得た。このN2R5構造体を、GAG、ATGをATTへと変化せしめるため、位置特異的インビトロ突然変異誘発によって突然変異せしめた。この突然変異部位はPstI部から200bp離れて位置する。この200bp突然変異フラグメントを単離し、そしてプラスミドpUC31におけるN2MoMuLV5’LTRの同一のPstI部位に挿入せしめた(突然変異されていない200bpのフラグメントと交換するため)。得られる構造体をpUC31/N2R5gMと呼ぶ。(pUC31はpUC19に由来し、これはXhoI、BalII、BssHII及びNcoI部位がポリリンカーのEcoRIとSacI部位の間に更に挿入されている)。N2に由来する1.0kbのMoMuLV3’LTRフラグメントをプラスミドSK+にクローンせしめ、N2R3(−)と呼ぶ構造体が得られた。
【0073】
ベクターpAF/EnvrSV2neoから、env発現に本質的な、revもコード化する3.1kbのenv DNAフラグメント(XhoI−ClaI)を単離した。プラスミドN2R3(−)から、1.0kbのMoMuLV3’LTRフラグメント(ClaI−HindIII)を単離した。
【0074】
N2を基礎とするenv発現性ベクターを3つの部分リゲーションにより製造し、ここで3.1kbのenvフラグメント(Xhol−ClaI)及び1.0kbのMoMuLV3’LTRフラグメント(ClaI−HindIII)をpUC31/N2R5gMのXhoI−ClaI部位に挿入せしめた。
【0075】
ネオマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子の発現を作動せしめるSV40初期プロモーターを含んで成る優性選別マーカー遺伝子をN2を基礎とするenv発現ベクターにClaI部位にて挿入せしめ、感染及びトランスフェクトされた細胞系の単離を促進せしめた。このベクターをKT−1と呼ぶ。
【0076】
B.Gag発現ベクター:
レトロウイルスベクターにおいてHIVgag及びpol遺伝子生成物を効率的に発現せしめるためには、二つの条件が満足されねばならない:
1)gag及びpolに埋めれている制御要素を無効にするため、このベクターにREV応答性要素(RRE)を加えなければならないこと;及び2)REVはこのベクターに挿入されたRREと相互作用するために効率的に発現されなければならず、これによってウイルスメッセンジャーRNAの細胞質の中への適切な輸送が可能となること。
【0077】
2.5kbのSacI−EcoRV DNAフラグメントをpBH10R3から単離し(Ratnerら(前記)を参照)、そしてpUC31のSacI−SmaI部位に、ユニバーサル翻訳停止コドンをコードするリンカーを伴ってリゲートせしめた。pUC31はpUC19に由来し、XhoI、BalII、BssHII及びNcoI部位がこのポリリンカーのEcoRIとKpnI部位の間に挿入されている。しかしながら、この構造体はHIVに由来する主要スプライスドナー(SD)部位を含み、それ故ウイルスの発生における問題となりうる。このSD部位は、70bpのRsaI−ClaIフラグメントを2.1kbのClaI−BamHI DNAフラグメントと共に、SK+のHincII−BamHI部位の中にサブクローン化せしめることによって除去できる。このBamHI部位をリンカー挿入によってClaI部位へと変換せしめた。この構造体をSK+ gagプロテアーゼSDデルターと命名する。
【0078】
gag/pol SD欠損完成構造体を、3つの部分のリゲーション反応により製造し、ここでSK+ gagプロテアーゼSDデルタ由来の757bpのXho−SpeIフラグメント及びBH10R3由来の4.3kbのSpeI−NcoIフラグメントをSK+XhoI−NcoIに挿入せしめた。SK+におけるXbaI部位を、その反応を促進せしめるためにNcoIへと変換せしめた。
【0079】
このベクターにREV及びREV応答性要素の両方を導入せしめるため、プラスミドSK+ HIVenにおける1.4kbのSspI欠損を発生せしめた。この欠損はREVの発現のために重要でないイントロン配列を除去せしめた(REVの発現はスプライスせしめたmRNAから続けられるであろう。)更に、この欠損はenvに位置するREV応答性要素に影響を及ぼさない。真核細胞翻訳開始コドンを含むように操作された、優性選別マーカーNeoをコード化する1.1kbのDNAフラグメントをこの構造体に、envにおけるBalII部位にて挿入せしめた。neoの挿入は、継代せしめたウイルスの検出及びウイルスの選別を、継代にわたりスプライスされていない状態において促進せしめる。プロモーター例えばCMVをこの構造体のXhoI部に挿入せしめた。この構造体をSK+ CMV/REV/Neoと命名した。最終ウイルス構造体は四つの部分のリゲーション反応により製造されうる。SK+ gagポリメラーゼSDデルタ由来の2.5kbのXhoI−XbaI DNAフラグメント、SK+ CMV/REV/Neo由来の3.5kbのSpeI−ClaI DNAフラグメント及びN2R3(−)(3’LTRのみを含むN2のサブクローン)由来の1.2kbのClaI−HindIIIDNAフラグメントをpUCN2R5(5’LTRを含むN2のサブクローン)の中に、この構造体のXhoI−HindIII部位で挿入せしめた。
【0080】
C.N2を基礎とするベクターを利用するGag−Pol発現
HIVgag−pol遺伝子生成物は、効率的な発現は、REV応答性要素(RRE)及びREVを必要とする(前述した「Gag発現性ベクター」を参照のこと)。
【0081】
REV及びRREを得るため、2.7kbのKpnI−XhoI DNAフラグメントをHIVプロウイルスクローンBH10−R3から単離し(配列については、RatnerらのNature 313:277、1985を参照のこと)、そしてexE7 delta envに由来する400bpのSalI−KpnI DNAフラグメント(nt5496迄のBal131欠損)をプラスミドSK+におけるSalI部位にリゲートせしめた。この構造体をSK+ envrと呼ぶ。239bpの5’REV DNAフラグメント(XhoI−SspI)及びSK+フラグメントにおける4.2kbのRRE/3’REVをSK+ envrから単離した。
【0082】
gag−pol遺伝子を得るため、2.5kbのSacI−EcoRI DNAフラグメントをpBH10−R3(Ratnerら(前記)を参照)から単離し、そしてpUC31のSacI−SmaI部位に、ユニバーサル翻訳停止コドンをコード化するリンカーと一緒にリゲートせしめた。しかしながら、この構造体はHIVに由来する主要なスプライスドナー(SD)を含み、従ってこれはウイルスの発生における問題となりうる。このSD部位を、70bpのRSAI−ClaIフラグメントを2.1kbのClaI−BamHI DNAフラグメントと共にSK+のHindII−BamHI部位にサブクローニングせしめることによって除去した。このBamHI部位をリンカー挿入によってClaI部位に変換せしめた。この構造体をSK+ gagプロテアーゼSDデルタと命名した。
【0083】
gag−pol SD欠損完成構造体を3ケ所のリゲーションにより製造し、ここでSK+ gagプロテアーゼSDデルタ由来の757bpのXhoI−SpeIフラグメント及びBH10−R3由来の4.3kbのSpeI−NcoIフラグメントをSK+ XhoI−NcoIに挿入せしめた。SK+におけるXbaI部位をその反応を促進せしめるためにNcoIへと変換せしめた。更に、polにおけるNdeI部位をXbaI部位に変換せしめた。得られる構造体をSK+ gag−pol SDデルタと呼ぶ。この構造体に由来するXbaI部位を再び変換せしめてBamHI部位を作り、そして4.2kbのgag−pol DNAフラグメント(XhoI/ブラント−BamHI)を単離した。
【0084】
SK+ gag−pol発現ベクターは3ケ所のリゲーションにより製造し、ここで239bpの5’REV DNAフラグメント(Xho−I−SspI)及び4.2kbのgag−pol DNAフラグメント(XhoI/ブラント−BamHI)をSK+ベクターフラグメントにおけるXhoI−BglII4.2kbのRRE/3’REVに挿入せしめた。得られる構造体をSK+ gag−pol/RRE/REVと呼ぶ。
【0085】
N2を基礎とするgag−pol発現ベクターを2ケ所のリゲーションにより製造し、ここでSK+ gag−pol/RRE/REVに由来する5.7kpのgag−pol/RRE/REVフラグメントをpUC31/N2R5gMのXhoI−ClaI部位に挿入せしめた。
【0086】
N2(EcoRI−EcoRI)由来の優性選別マーカー遺伝子であってネオマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子の発現を作動せしめるSV40初期プロモーターを含んで成るものをプラスミドSK+の中にクローンせしめた。これより、1.3kbのneo遺伝子フラグメント(ClaI−BstBI)をN2を基礎とするgag−pol発現ベクターのClaI部位に挿入せしめ、感染及びトランスフェクトされた細胞系の単離を促進せしめた。このベクターをKT−2と呼ぶ。
【0087】
D.N2を基礎とするベクターを用いたGag−プロテアーゼ−RT発現
gag−プロテアーゼ逆転写酵素(gag−プロテアーゼ−RT)遺伝子生成物(gag/prot)の効率的な発現は、RRE及びREVを必要とする(「Gag発現性ベクタ一」を参照のこと)。
【0088】
REV及びRREは前記の通りに製造した(「N2を基礎とするベクターを利用するGag−pol発現性」を参照のこと)。
【0089】
このgag遺伝子は主要のスプライスドナー(SD)を含み、これはウイルスの発生における問題となりうる。このSID部位は、pSLCATdelBalII(HIV株HXB2に由来する、gag−pol、tat、及びrevを発現するベクター)の位置特異的インビトロ突然変異誘発によるGTをACに変えることで除去された。このSDデルタ部位の上流にSacI部位も作り上げ、従って780bpのSDデルタ−gagフラグメント(SacI−SpeI)が精製されうる。1.5kbのgag−prot−RTフラグメント(SpeI−EcoRV)及び780bpのSDデルタgagフラグメント(SacI−SpeI)をpUC18(SacI−SmaI)に挿入せしめた。得られる2.3kbのSDデルタgag/prot−RTフラグメント(SacI/ブラント−BamHI)をこのpUC18ベクターから単離した。
【0090】
SK+ gag−prot−RT発現ベクターは3ケ所のリゲーションにより製造され、ここで2.3kbのSDデルタgag−prot−RTフラグメント(SacI/ブラント−BamHI)をSK+ベクターフラグメントにおけるXhoI−BglII4.2kbのRRE/3’REVに挿入せしめた。得られる構造体をSK+gag−prot−RT/RRE/REVと呼ぶ。
【0091】
N2を基礎とするgag−prot−RT発現ベクターを2ケ所のリゲーションにより製造し、ここでSK+gag−prot−RT−RRE/REVに由来する3.8kbのgag−prot−RT/RRE/REVフラグメント(XhoI−ClaI)をpUC31/N2R5gMのXhoI−ClaI部位に挿入せしめた。
【0092】
ネオマインンホスホトランスフェラーゼ遺伝子の発現を作動せしめるSV40初期プロモーターを含んで成る、N2(EcoRI−EcoRI)由来の優性選別マーカー遺伝子フラグメントをプラスミドSK+の中にクローンせしめた。これにより、1.3kbのneo遺伝子フラグメント(ClaI−BstBI)がN2を基礎とするgag−pol−RT発現ベクターの中に、ClaI部位にて挿入され、感染及びトランスフェクトされた細胞系の単離が促進された。
【0093】
E.H2−Dd発現ベクターの作製
H2−Dd遺伝子をコード化するネズミのクラスI遺伝子を、このH2−Dd遺伝子の上流に挿入されるCMVプロモーター又はRSVLTRのいずれかを含むブルースクリプト(B1uescript:商標)SK+プラスミドの中に挿入せしめた。この発現性構造体RSV−Dd及びCMV−DdをCaP04/ポリブレン法を利用し、3T3細胞に導入せしめた。
【0094】
この発現性構造体CMV−Dd及びMV7.74(ヒトCD4及びネオマイシンホスホトランスフェラーゼを発現するレトロウイルス構造体)をヒトHT1080細胞に同時導入せしめた。これらの細胞を、G418により選別し、そして耐性コロニーを拾い、増殖せしめ、そしてラット抗−Dd抗体を用いるウェスタンブロットによってH2−Ddの発現性について試験した。陽性クローンのうちの1つ(A−a)をN2env−neo(KT−1)により感染せしめた。
【0095】
F.CTLエピトープの地図化のためのHIVエンベロープ欠失体の作製
2種類のレトロウイルスベクターを、CTLと反応性のぺプチドエピトープを含むHIVエンベロープタンパク質における領域を地図化するために調製した。第1は、Δループと称し、患者の血清における抗体と反応性のHIVIIIBエンベロープタンパク質の領域であるgp120超可変ループの欠失を含む。第2は、「チャンクI」と称し、アミノ末端からgp120ループの起点迄のHIVIIIBエンベロープのエンベロープ領域のみを含み、これはこのエンベロープタンパク質の膜gp41「テール」も欠失している。
【0096】
1.Δループ
HIVIIBenvの602塩基対のHincII−ScaIフラグメントを調製し、そしてプラスミド130Bの中に挿入せしめた。43−merオリゴ5’G AAC CAA TCT GTA GAA ATT AAT AAC AAT AGT AGA GCA AAA TGG3’を合成した。誤対合プライマーの突然変異誘発をKunkelの方法(Kunkel、T.A.Proc.Natl.Acad.Sci.USA 82:448−493、1985)により行い、106個のアミノ酸のフレーム欠失を発生せしめた。これはDNAシーケンシングにより確認した。この欠失を合むStuI−Aoc1フラグメントを次に、ブルースクリプトSK+(Stratagene、La Jolla)において含まれるHIVIIIbenvの同一部位に挿入せしめた。これより直ちに、この欠失を合むHIV envIIIBのXhoI−ClaIフラグメントを改良したN2レトロウイルスベクターの同一の部位に挿入せしめた。(このベクターはgagATC開始コドンを有さない)。最後にSV2neo遺伝子を適切な方向においてClaI部位の中に挿入せしめた。
【0097】
2.チャンクI
HIVIIIBenvの1.30kbのXhoI−PVUIIフラグメントをブルースクリプトSK+ベクター(Stratagene、LaJolla)の中に、XhoI−HincII部位にてクローン化せしめた。次にこのフラグメントをXhoI−BamHIフラグメントとしてこのベクターから再び単離し(ポリリンカー由来のBamHI部位)、そしてKT−1レトロウイルスベクター又はHIVIIIBを発現するCMV構造体のいずれかにおいて含まれる、HIV envIIIBのXhoI−BalII部位の中に挿入せしめた。
【0098】
これらのプラスミドは、適切なパッケージング細胞に入れた場合、パッケージングシグナルを合むレトロウイルスベクター構造体を発現する。このパッケージングシグナルはこのベクター構造体を、生存できるレトロウイルス粒子に必要な全ての更なるタンパク質を伴って、カスピド及びエンベロープの中にパッケージングせしめることをもたらす。このカスピド、エンベロープ及びその他のタンパク質は、パッケージング細胞に位置する適切なゲノムを含む1又は複数のプラスミドから好適に製造される。このようなゲノムはプロウイルス構造体であって、簡単なケースにおいてそれらは単にパッケージングシグナルが欠失していることがある。結果として、このベクターのみがパッケージングされるであろう。適切なパッケージング又はパッケージング細胞系及びこのようなパッケージングを達成せしめるのに必要なゲノムはMillerら(Mol.Cell.Bio.6:2895、1986)において詳細され、これは本明細書に参考文献として組入れている。Millerらにより詳細の通り、複製欠陥でないウイルス粒子の製造をもたらしうる、パッケージング細胞系において発生する組換現象の確率を低めるためには、このパッケージングシグナルの単純な削除よりもこのプロウイルス構造休に更なる変化を付与せしめることの方が好ましい。
【0099】
実施例1はHIVエンベロープ糖タンパク質(gp)又はその他のウイルス抗原を作り出すための方法の単なる例示であることが理解されるであろう。より小さいT細胞細胞変性効果を伴って免疫応答を刺激せしめるであろう、標的細胞上の改良されたHIVエンベロープgpを発現せしめるプロウイルスベクター構造体を提供することも可能である。エンベロープ糖タンパク質は当業界においてよく知られる技術、例えばKowalskiら(Science 237:1351、1987)(本明細書に参考文献として組入れている)の開示する論文を利用して適切に改良されうる。従って、プロウイルス構造体は、このように適切に改良されたgpを発現せしめるレトロウイルス構造体を発生する上記の技術により作製されうる。次にこの構造体を前記の通りにパッケージング細胞に導入せしめた。感受性標的細胞の感染を介して免疫応答を刺激せしめるため、このパッケージング細胞系から作られる得られた組換レトロウイルスはインビボ及びインビトロで利用されうる。これらの手段によって感受性標的細胞の中に導入せしめた核酸は、この標的細胞の核酸に組込まれるようになる。HIVゲノムから発現されるその他のタンパク質、例えばgag,pol,vif,nef、他もHIV−感染個体における有利な細胞応答を誘発することが理解されるであろう。以降に詳細するプロウイルスベクターは、臨床的に有利な免疫応答性を促すためにこのようなタンパク質を発現せしめるようデザインされている。あるベクターについてはrevをコード化する配列及びrev応答性要素を含むことが必要となりうる(Rosenら、Proc.Acad.Sci.85:2071、1988)。
【0100】
以下の実施例は、マウスにおけるCTL応答を誘発するためのこのタイプの治療の能力を示す。
【0101】
実施例2
A.レトロウイルスベクターコード化抗原に対する免疫応答
ネズミ腫瘍細胞系(B/C10ME)(H−2d)(Patekら、Cell.Immunol.72:113、1982)を、HIV envをコード化するpAF/Envr/SV2neoベクター構造体を有す組換レトロウイルスにより感染せしめた。1つのクローン化HIV−env発現細胞系(B/C10ME−29)を次に、同族(即ち、MHCが同一)Balb/C(H−2d)マウス(図3参照)においてHIV−env−特異的CTLを刺激せしめるために利用した。マウスをB/C10ME−29細胞(1×107個の細胞)により腹膜腔内注射によって免疫化し、そして7〜14日増幅せしめた。(増幅は絶体に必要ではない)。応答性の脾臓細胞懸濁物をこれらの免疫マウスから調製し、そしてこの細胞をB/C10ME−29(BCenv)又はB/C10ME(BC)マイトマイシン−C−処理細胞のいずれかの存在下において、スチムレーター:応答性細胞の比が1:50で、4日間インビトロで培養した(図3)。このエフェクター細胞をこの培養物から回収し、カウントし、そして標準の4〜5時間51Cr−放出アッセイにおいて、放射性標識(51Cr)せしめた標的細胞(即ち、B/C10MEenv−29又はB/C10ME)と種々のエフェクター:標的(E:T)細胞比で混合した。インキューションの後、マイクロタイタープレートを遠心し、溶解細胞から放出された放射標識物の量をベックマンガンマースペクトロメーターにより計測した。標的細胞溶解は、%標的溶解=(Exp CPM−SR CPM/MR CPM−SR CPM)×100として計算され、ここで分当りの実験計測値(Exp CMP)はエフェクター及び標的物を表わし;自発性放出(SR)CPMは標的物単独を表わし;そして最大放出(MR)CPMは1MのHClの存在下における標的物を表わす。
【0102】
結果が示すには(図4A)、非HIV env BC標的細胞よりも有意により効率的に、HIV−env−発現性標的細胞(BCenv)を特異的に溶解せしめるCTLエフェクターが誘発された。非−HIV−env−発現性コントロール細胞(B/C10ME)によりインビロで再刺激せしめたプライム化脾臓細胞は、B/C10ME env−29又はB/C10ME標的細胞のいづれにおいても、特に低いE:T細胞比で、有効なCTL活性を示さなかった。天然の非免疫化Balb/CマウスであってB/C10ME env−29によりインビトロで刺激せしめたマウスに由来する脾臓細胞はCTLを発生せず(データーは示していない)、従ってインビボでのプライミング及び増幅操作の重要性を示唆する。この実験は繰り返され、そして同様の結果が得られた。
【0103】
他の実験において、Balb/Cマウスに由来するエフェクター細胞であって、免疫化され、増幅され、そして同一のpAF/Envr/SV2neo(HIV−env)ベクター構造体により感染された異なるH−2dHIV−env−発現性腫瘍細胞クローン(L33−41)によってインビトロで再刺激せしめたものは、B/C10ME env−29標的細胞を溶解せしめることができた。このことは、これらのマウスにおいて発生するCTLは、これらの細胞上の固有の腫瘍細胞抗原を単に認識するのでなく、HIV−envの発現された型を特異的に認識することを更に支持することを提供する。この結果は、このベクター−運搬抗原は二種の腫瘍細胞系によって、同様の状態において存在することも示唆する。CTL応答性の特異性は、BCenv免疫化マウスに由来するエフェクター細胞を、neo及びHIV env遺伝子を発現するBCenv標的細胞、BC(非−neo、非−HIV env)親標的細胞及びneo耐性マーカー遺伝子は発現するがHIV envを発現しないBC neo標的細胞に基づいて試験することによって更に立証される。
【0104】
他の実験において、1×107個のBC env細胞により免疫され、増幅され、そしてインビトロで再刺激せしめたマウスに由来するエフェクター細胞を、誘発された細胞障害性エフェクター細胞の表現型を決定するために、T細胞特異性モノクローナル抗体(MAb)と補体(C’)によって処理せしめた。このエフェクターを抗−Thyl.2(CD3)、抗−L3T4(CD4;RL172.4、Ceredigら、Nature 314:98、1985)又は抗−Lyt2.2(CD8)Mabのいずれかと30分問4℃で処理し、ハンクの平衡食塩水(HBSS)で1回洗浄し、低トックス(tox)ラビットC’に再懸濁し、そして37℃で30分間インキュベートした。この処理細胞をRPMI1640完全培地において3日洗浄し、カウントし、そして前記の通りBC env放射性標識標的細胞を溶解せしめるそれらの能力について試験した。図4Cが示すには、抗−Thy1.2又は抗−Lyt2.2Mab+C’のいずれかによる処理は細胞障害性活性を無効にするが、抗−L3T4 MAb+C’又はC’単独では細胞障害性に有意な影響を及ぼさなかった。これら結果は、この系において発生する細胞瞳害性エフェクター細胞の大部分が、CD3+,CD4−,CD8+細胞障害性T−細胞表現型であることを示唆した。
【0105】
前述したCTLエフェクター細胞のMHC制御を調べるための実験を行った。ネズミMHCの異なるH−2領域に対するポリクローナル抗体(即ち、抗−H−2d、抗−H−2Dd、抗−H−2Ld、抗−H−2Kd、抗−H−2Id)を、BC env標的細胞に基づくCTL応答を阻止するために用いた。抗−H−2K抗血清は陰性コントロールとして利用した。このデー夕ー(図4D)は、Balb/C抗−BCenvCTL応答が抗−H−2Dd抗血清によって主に阻害されることを示した。このことは、これらのCTL応答は、H2複合体のD領域においてほとんどコード化されるMHCクラスI分子により制御されることを示唆した。
【0106】
マウスが複製可能(replication comptent)HIV env−発現性腫瘍細胞により免疫化されている実験の他に、CTLをインビボで誘発せしめるのにスチムレーター細胞を増殖せしめることが必要であるかどうかを調べるための試験を行った。マウスを照射せしめた(10、00rads)又は照射せしめていないBC env細胞により免疫し、そしてプライム化脾臓細胞をその後インビロで前記の通り刺激せしめた。得られるエフェクター細胞を放射性標識せしめたBCenv及びBC標的細胞に基づいてCTL活性について試験した。図4が示すには、HIV−特異性CTLはインビボで、照射された又は照射されていないスチムレーター細胞のいづれによっても誘発されうる。これらのデーターが示すには、HIV env−発現性スチムレーター細胞によるCTL誘発はインビボでのスチムレーター細胞の増殖に依存せず、適切なMHC情況におけるHIV env抗原の存在は効率的なCTL誘発のために十分である。ホルマリン固定細胞も同等の免疫応答を誘発した。このことは、死滅した細胞又はおそらく細胞膜であって適切なMHCクラスI/II分子情況において適切な抗原を発現するものが、効率的なCTL応答を誘発するのに十分であることを示す。
【0107】
Balb/CマウスヘのBCenv細胞の最適な注射投与量を調べるための更なる実験を行った。マウスを種々の数のBCenvスチムレーター細胞により免疫し、前記の通りインビトロで再刺激せしめ、そしてCTL活性について試験した。図4Fにおいて示す結果は、5×106個のenv発現性BCenv−29スチムレーター細胞によるマウスの免疫化が、これらの条件のもとで最適なCTL応答性を発生せしめたことを示す。宿主の応答性に授けられる遺伝子的制御に関する徴候を提供するため、ベクター感染化HIV env−発現性BCenvスチムレーター細胞のBalb/C以外その他のH−2dマウス種におけるCTL応答を誘発せしめる能力について調べる更なる実験を行った。H−2dの異なる系(即ち、Balb/C,DBA/2,B10.D2)及びH−2d×H−2bF1ハイブリドマウス〔即ち、CB6F1(Balb)/C×B6F1);B6D2F1(B6×DBA/2F1)〕を、BC envスチムレーター細胞により免疫し、そしてCTL応答性の誘発について試験した。図4Gが示すには、F1ハイブリドを含む全ての系が、異なる度合いでBCenv標的細胞に対するCTL応答性を発生せしめた。ある系は親(即ち、非HIV env)標的細胞に対する応答性をも示したが、これらの応答性はBCenv標的に対するそれよりも低かった。
【0108】
ベクター感染化HIV env(株IIIB)−発現性BCenvスチムレーター細胞のその他のHIV株(即ち、MN)に対する交差反応CTL応答性を誘発せしめる能力を評価するための実験も行った。図4Hは、ベクター感染化BCスチムレーター細胞のHIV envIIIB株により誘発されたCTLが、IIIBエンベロープ配列と類似するRP135ペプチド(Javaherianら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:6768、1989)により被覆されたBC標的細胞を殺傷せしめることを示した。これらCTLは、RP142(即ち、エンベロープタンパク質のHIV MN系と類似するペプチド)(Javaherianら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:6768、1989)により被覆されたBC標的細胞も殺傷せしめた。
【0109】
マウスにおいてCTL応答を誘発せしめる、一過性−HIV env発現性スチムレーター細胞の能力を調べるための更なる実験を行った。これらの細胞は、使用する前にわずか2日でレトロウイルスベクターにより感染され、そしてスチムレーター細胞として利用する(即ち、マウスに注射する前に選別又はクローン化する必要がない)ことにより、前述したBCenvスチムレーター細胞から区別される。図4Iに示す結果は、HIV envIIIbベクター構造体を有するプラスミドDNA(その中でcmvプロモーターはHIVエンベロープタンパク質;BCpcmvIIIbの発現を作動せしめる)により、マウスヘの注射の2日前に感染されたBC細胞は、特異的なCTLであって、インビトロでBCpcmvIIIb細胞により蒋刺激されることができ、そしてBCpcmvIIIb一過性−発現性標的細胞(BCpcmvenvIIIB標的)及びHIV envIIIbの安定な発現性についてクローン化され且つ選別された細胞系由来のレトロウイルス感染化BC細胞(BC−29標的)を殺傷できうるCTLを誘発せしめることを示した。このような特異的免疫CTLは、HIVエンベロープタンパク質を発現せしめないBC10MEコントロール細胞は殺傷せしめなかった。従って、B/C細胞一過性−発現性HIVエンベロープタンパク質はインビトロでの免疫応答の有効な誘発剤、インビボでの免疫CTLの再刺激剤(即ち、CTLアッセイ他における利用のため)、及びインビトロでの免疫CTLによる溶解についての標的細胞として働きうる。更に、同様の実験の結果を図4Jにおいて図示し、これはBC細胞一過性−発現性H2−DdがH2−Dd同種免疫(alloimmune)CTLによる溶解についての標的細胞として働くことを示す。
【0110】
マウスにおける免疫応答性を誘発せしめる、その他のレトロウイルスベクター−コード化HIV抗原の能力を評価するため、gag/pol及びgag/protをコード化するレトロウイルス構造体による実験も行った。図4Kに示す結果は、ネズミCTLがgag/pol又はgag/protのいずれかによる免疫によって誘発され、それらはそれぞれの標的細胞、即ち、BC−1−16H細胞(即ち、gag/polベクターにより感染)又はBC−1細胞(即ち、gag/protベクターにより感染)のいずれかを殺傷できることを示す。
【0111】
gag/pol及びgag/protスチムレーター細胞により誘発されるCTL殺傷の特異性を評価するための更なる実験を行った。図4L及び4Mにおいて示す結果は、gag/pol又はgag/protスチムレーター細胞により誘発されたCTLがgag/pol(即ち、1−15H)及びgag/prot(即ち、BC−1)標的細胞の両方を殺傷することを示した。この場合において、CTLによるこの殺傷は、gag/pol及びgag/protの両方に共通の分散領域に向けられているであろう。
【0112】
ヒトにおけるこの免疫刺激用途の実施は、(1)対象の抗原をコード化する遺伝子を細胞に運び入れること、(2)該抗原を適切な細胞において発現せしめること、並びに(3)MHC制御要件、即ちクラスI及びクラスII抗原の相互作用が十分であること、を必要とする。好ましい態様において、ベクターの調製は正常培地中で提供細胞を増殖せしめ、この細胞をヒト血清アルブミン(HSA)を10mg/mlで加えたPBSにより洗浄し、次いでこの細胞をHSAの加えたPBSで8〜16時間増殖せしめることにより行われる。得られる力価は、ベクター、パッケージング系又は特定の提供系クローンに依存して一般に104〜106/m1である。このベクター上清液を細胞を除去するために濾過し、そして100、000又は300、000パスアミコンフィルター(Wolfら、Proc.Natl.Acad.Sci.84:3344、1987)又はその等の同等のフィルターを通すことによって100倍迄濃縮せしめた。これは100、000又は300、000の球状タンパク質を通過せしめるが、感染性粒子としてのウイルスベクターの99%は保持せしめる。このストックは保存のために凍結することができ、しかしそれらは凍結融解に基づき約50%の感染ユニットを失う。他方、このウイルスベクターは常用の技術によって更に精製できる。最も直接的な搬送は、適切な遺伝子運搬ベクターを個体に投与すること、及び適切な細胞を効率的に標的とし、これによって免疫応答の刺激を開始できるこのベクターの能力に基づく信頼性を含む。投与量は一般に体重のkg当り105〜106感染ユニットである、以下の実施例はマウスにおける免疫応答を刺激するための直接的なベクター注射の能力を示す。
【0113】
B.レトロウイルスベクターの直接的な注射によるマウスにおける免疫応答の刺激
HIVエンベロープタンパク質の発現を誘発せしめる組換レトロウイルスベクターのマウスにおける直接的な注射後の能力を評価するための実験を行った。KT−1ベクター構造体を有す約104〜105コロニー形成単位(cfu)の組換レトロウイルスを3週間隔で2回、腹膜腔内注射(1P)又は筋肉内注射(IM)せしめた。このレトロウイルスの量はおよそ100μgのタンパク質以下に相等すると測定され、これは一般的に免疫応答を刺激するには少なすぎる、ベクターの2回目の注射からおよそ7〜14日後、CTLについての脾臓細胞を調製し、そしてCTLを前記の通り照射せしめたBC envスチムレーター細胞を用いてインビトロで再刺激せしめた(実施例2A参照)。図4Nに示す結果は、I.P.及びI.M.ルートによる直接的な注射は、BCenv標的細胞(I.M.2X;I.P.2X)を殺傷するが、コントロールB/C細胞(B/C)は殺傷しないCTLを発生せしめたことを示す。従って、104〜105単位のレトロウイルス(通常は免疫応答性を刺激しないタンパク質抗原の量)の注射は、自己の宿主おいて有意なレベルのHIVエンベロープの発現を誘発せしめ、これは特異的なCTL免疫応答性の誘発をもたらした。
【0114】
しかしながら、より実用的な手法は、患者の末梢血液リンパ球(PBL)、織維芽細胞又は各個休に由来するその他の細胞と、該ベクター、提供細胞又はベクタープラスミドDNAによる体外治療を含む。PBLはマイトジェン(植物凝集素)又はリンホカイン(例えばIL−2)の利用を通じて培地の中に維持できる。以下の実施例は、タンパク質をコード化するベクターの発現を誘発せしめる、霊長類の細胞の体外治療の能力を示す。
【0115】
C.タンパク質をコード化するベクターの発現を誘発するためのヒト細胞の体外処理
以下の実験を行った。ヒト末梢血液リンパ球(PBL)又は繊維芽細胞及びチンパンジーの真皮繊維芽細胞を、ネズミレトロウイルスベクター構造体(その中のサントメガロウイルス(cmv)プロモーターは、レトロウイルス遺伝子発現性についてのマー力一酵素としてのβ−ガラクトシダーゼ(cmvβ−gal)の発現性を作動せしめる)により感染せしめた。(より詳しいこのような「発現性マーカー」の利用の詳細は下記の章Vに記載され、そしてβ−galマーカーを有すレトロウイルスベクターの操作も下記の実施例7に詳細にされている)。感染は、組換レトロウイルスベクター、プラスミドDNAの(a)エレクトロポレーション(250V)もしくはトランフェクション(CaPO4/ポリブレン)、又は(b)細胞を照射せしめたレトロウイルスベクター提供細胞と一緒に培養する方法を用いることによる、ベクター構造体RNAを有す組換レトロウイルスによる細胞のウイルス感染、又は(c)レトロウイルスベクター粒子による細胞の直接感染のいずれかにより達成される。表1に示す結果は組換β−galレトロウイルスベクター構造体によるヒト及び霊長類細胞の感染を例示する。この結果は、組織化学染色法、即ち、青色を有す細胞の発生(青色細胞)をもたらすことにより識別化されうるβ一ガラクトシダーゼマーカー酵素の発現性を示す。
【表1】
【0116】
このタイプのアプローチは、感染、発現のモニター、注射前の抗原提供細胞数の増大、及び対象の患者にベクター発現性細胞を戻すことを可能にする。その他のタイプの細胞も外植し、ベクターを導入し、そして患者にこの細胞を戻すことができる。中程度の感染細胞の数(105〜107)のみで、マウスにおける強い免疫応答をもたらすのに十分である。免疫応答を誘発するための投与量はおそらく動物又は患者それぞれ当りほぽ同程であり、そして体のサイズにほとんど依存しないであろう。
【0117】
他の1の方法において、細胞を前記の通り体外的に感染せしめ、そして照射により不活性化せしめる(図4E参照)か、固定例えばホルマリンによって殺傷せしめる。HIV env遺伝子を有すベクターと処理せしめた後にHIV envを発現するベクターと処理せしめた細胞のホルマリン固定はCTL応答を強く誘発する。
【0118】
その他の択一的な方法において、複合体としての対象の抗原及び適切なMHC分子の両方を含むスチムレーター細胞膜フラグメントを利用する。細胞をこのベクターに感染せしめ、遺伝子を発現させ、細胞を破壊し、そしてこの膜を遠心又はこのMHC−抗原複合体に特異的なアフィニティーカラムによって精製する。
【0119】
更に他の択一的な方法において、免疫応答を患者の中でなく組織培養物中で刺激せしめ、そしてこの免疫細胞を患者に戻している。以下の実施例は組織培養における免疫CTLの誘発のための、このタイプの手法の能力を示す。
【0120】
D.レトロウイルスベクターのコード化する抗原に対する免疫応答のインビトロ誘発
ヒト末梢血液リンパ球におけるインビトロ免疫応答を誘発する、レトロウイルスベクターがコード化する抗原の能力を評価するための実験を行った。PBLを、ルーコフェリシス(leukopheresis)及びフィコール−ヒパーク(Ficoll−Hypaqe)密度勾配沈降により提供者#99の血液から調製し、そして利用する迄20%のFBS及び10%のジメチルスルホキシドを含むRPMI培地中で、液体窒素において凍結保存した。EBV−形質転換細胞系を調製するため、提供者#99由来の融解してすぐのPBLを、OKT3抗体及び補体を用いてTリンパ球を除去(又はシクロスポリン処理する)し、そしてB95EBV−形質転換リンパ芽球細胞系からのEBV−含有培養上清液1mlを、2%のヒトAマイナス血清を含むRPMI培地全量5m1中の5×106個のT−除去PBLそれぞれに加えた。このEBV感染化細胞を96穴丸底組織培養マイクロクイタープレート(200ml/ウェル)に分配し、そしてウェルの底に識別できる細胞ペレットが観察される迄95%大気/5%CO2中、37℃で組織培養した。その後、この細胞をウェルから取り出し、組織培養皿及びフラスコにおいて増殖せしめ、そして定期的に継代せしめた。インビトロ免疫のためのEBV−HIV envスチムレーター細胞を調製するため、107個のEBV−形質転換PBLを、KT−1 HIV envレトロウイルスベクターにより生産的−感染化された提供細胞系由来の組織培養上清液(又は精製ウイルス)104cfu/mlと、10mlのRPMI培地中で処理せしめた。このベクターはG418(ネオマイシン類似体)への耐性を授けるネオマイシン薬剤耐性遺伝子も含む。組織培養における37℃での一夜のインキュベーション後、感染せしめたEBV−形質転換細胞を遠心により集め、そして10%のFBSも含む1mlのRPMI培地に再懸濁せしめた。G418 600μg/mlをこの培地に加え、そしてこれを100μlずつ96穴丸底マイクロタイタープレートの各ウェルに分配せしめることにより、EBV−形質転換HIV env発現性細胞をネオマイシン耐性について選別した。このプレートを37℃で組織培養し、識別できる細胞ペレットが観察されたらこの細胞を取り出し、増殖せしめ、そして組織培養において定期的に継代せしめた。HIV env発現性は、SDS−PAGEゲルのニトロセルロースブロット上のgp160及びgp120を同定するための、HIVエンベロープタンパク質に対するモノクローナル抗体又はヤギ抗体を用いたウェスタンブロット分析によって確認した。他方、HIV env発現性は、EBV−形質転換HIV env発現性細胞の、多細胞シンシチアを形成するSupT1細胞を誘発せしめる能力、即ち、いくつかのHIVエンベロープタンパク質により誘発されるSupT1細胞の特性をアッセイすることにより確認された。最後に、提供者#99、EBV−形質転換化、HIV−env発現性リンパ芽球スチムレーター細胞を、細胞複製を阻止するために10、000Rで照射せしめた。インビトロで免疫化ヒトエフェクターPBLを調製するため、107個融解直後の提供者#99細胞を、5%の熱不活性化Aマイナスヒト血清、ピルビン酸及び、非必須アミノ酸を含むRPMI1640中で106個のEBV−形質転換HIV env−発現性スチムレーター細胞と混合せしめ、そしてこの細胞混合物を1〜5×106個の細胞/mlの最終密度となる迄組織培養において37℃で7日間インキュベートした。7日後、このインビトロ免疫化エフェクター細胞を、照射せしめたスチムレーター細胞を再度添加することにより、更に5〜7日にわたり再刺激せしめた(前記と同様の方法において)。CTLアッセイのための標的細胞を調製するため、照射せしめたEBV−形質転換HIV envスチムレーター細胞を実施例2Aにおいて前記した通り、51Crと1時間インキュベートせしめた。51Cr放出殺傷アッセイも前記の通り(実施例2A)行ったが、但し提供者#99のエフェクター細胞及び標的細胞を用いた。
【0121】
図40において示す結果は、KT1レトロウイルスベクターによりコード化されるHIVエンベロープタンパク質(99−EBV−HIV env)を発現する自己EBV−形質転換リンパ芽球標的細胞を殺傷せしめる、ヒト提供者#99PBLのインビトロ免疫化を示す。この結果は、EBVに対する自然の免疫性(提供者#99の血清におけるEBVに対する抗体の存在により証明される、EBVに予めさらされたこと)に由来する、自己EBV−形質転換細胞(99−EBV)の殺傷も示した。インビトロ免疫化提供者#99エフェクター細胞は低いレベルの正常なPHA−刺激化リンパ球(PHAブラスト)の、100:1のエフェクター;標的細胞の比での殺傷も示し、おそらくこれはインビトロ培養にわたり、これらの細胞に潜伏しているEBVの再活性化に起因する。
【0122】
このアプローチは、ヒトMHC分子を発現しない又は低レベルのMHCを発現する細胞の利用を可能にする(例えば、ヒト細胞突然変異体、腫瘍細胞、マウス細胞)。MHCクラスI又はクラスIIのそれぞれの遺伝子をMHC−細胞に感染させ、特定の細胞系においてそれぞれに関連するMHCタンパク質を発現せしめた。以下の実施例は、免疫CTLに対する抗原の提供において機能的に活性な特定の細胞系における、MHCタンパク質の発現を誘発するこのタイプの手法の能力について示す。
【0123】
E.MHC及び抗原両者による細胞の感染
ネズミH−2遺伝子を有す、組換感染性レトロウイルスはH−2抗原の発現性及び提供を誘発するものと報され、従ってこのレトロウイルスに感染した細胞は同種免疫ネズミCTLによる溶解についての標的細胞となる(Weis,J.H.ら、Molec.Cell Biol.5:1379−1384、1985)。このケースにおいて、H−2抗原及びそのペプチド抗原性フラグメントはこの標的細胞により合成され、そしてこの標的細胞の天然生合成生成物である同種の「自己」MHC分子と一体化する。
【0124】
該細胞の天然生合成生成物でないMHC分子により提供される抗原を、(a)このMHCを細胞に導入する際に、遺伝子の適切な発現、並びにそのタンパク質生成物の合成、折りたたみ、及びプロセッシングが可能となる状態において導入せしめ、従って細胞の中でこれが機能的に作用する場合、そして(b)この抗原遺伝子をまた、抗原タンパク質の合成及びMHCとのこのペプチド抗原性フラグメントとの適切な一体化を伴う遺伝子発現を可能にしうる状態において導入せしめる場合;に有すことができうることがその理由である。抗原及びMHC遺伝子両方による細胞の感染、並びに両方の遺伝子生成物の同時発現を評価するため、MHC遺伝子としてネズミH2−Dd、抗原としてHIV env、標的細胞としてヒトHT1080、そしてエフェクター細胞としてネズミHIV env免疫CTLを利用して実験を行った。この場合において、このヒト細胞はネズミH2−Ddタンパク質及びHIVエンベロープタンパク質を適切に発現しなくてはならず;このHIV envペプチド抗原フラグメントは機能性ネズミH2−Ddタンパク質と一体化しなければならず;そして最後に、このヒト細胞におけるH2−Ddペプチド状HIV env−H2−Dd複合休はヒト標的細胞が殺傷されるため、この複合体における抗原をHIV env−免疫ネズミCTLに適切に提供しなくてはならない。図4Pにおいて示す結果は、ネズミH2−Ddが導入され、且つその後KT−1 HIV envベクター構造体(HT1080+Dd+env)を有すレトロウイルスベクターにより感染せしめたHT1080細胞が抗原を提供、そして前記の通りネズミBC10env−29細胞による免疫によりマウスにおいて誘発されたCTL(実施例2A参照)によって殺傷されることを示す。これらのHIV env−免疫CTLは抗原特異性状態において殺傷せしめた。即ち、H−2Dd(BC−Dd)のみを発現し、HIV envを発現しないコントロールHT1080細胞又はBC細胞の溶解は認められなかった。
【0125】
同様の方法において、免疫CTLの誘発又は免疫CTLによる腫瘍細胞の殺傷のいずれかを促進せしめるため、腫瘍細胞をMHC遺伝子及び腫瘍抗原に感染せしめることができる。この方法において、自己免疫(即ち、患者由来)、同種免疫(即ち、その他のヒト提供者)又は異種免疫(即ち、動物由来)CTLを、腫瘍細胞を適切なMHC分子及び腫瘍抗原の両方により感染せしめることによって、ヒト腫瘍細胞の殺傷を促進せしめるために利用されうる。
【0126】
異なるMHCクラスに関する抗原を提供できる細胞系のバンクも、細胞をMHC遺伝子(もしくはそのフラグメント)又はMHC遺伝子と抗原遺伝子(もしくはそのフラグメントの両方に感染せしめることによって作製することができうる。わずかな種類のこれら(10〜20種)は大多数の人をカバー(即ち、合う)するであろう。例えば、HLA A2は約30−60%の人に存在する。非ヒト細胞の場合においては、それらはヒトMHC分子を一般的に発現する遺伝子導入動物(例えばマウス)に由来するか又は動物の系における導入遺伝子の存在に起因して特定の組織に由来しうる(Chamber1inら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:7690−7694、1988)。これらの細胞系は腫瘍細胞抗原又は感染性物質であってCTLもしくは抗体誘発のためのタンパク質の主たるイムノドミナントエピトープを提供するものにおけるペプチド様抗原性フラグメントの地図化に有用でありうる。
【0127】
上記の状態のいずれにおいても、提供又は提供に対する応答性は、待望又は未だ提供されていない免疫相互作用(例えばβ−ミクログロブリン、LFA3、CD3、ICAM−I及びその他)に含まれるその他のタンパク質の細胞遺伝子に感染せしめることによっても高まることができる。β−ミクログロブリンは変異性でない、クラスIMHCの必須なサブユニットであり、CD3はMHC相互作用に含まれ、そしてLFA3及びICAM−I分子は免疫系の細胞の相互作用を高め(Altmannら、Nature 338;512、1989)、免疫刺激と同等のレベル迄の強い応答性をもたらす。
【0128】
ヒトMHCを発現する遺伝子導入マウスの場合において、マウスにおける刺激は異種抗原を発現する腹部遺伝子導入マウス細胞を用いることによって行なわれることができ、このため遺伝子はスチムレーターとしてウイルスベクター又はその他の手段により導入される。これにより発生するマウスCTLはヒトMHCに関連するT−細胞リセプターを発生せしめ、そして継代細胞免疫又は患者の治療(即ち、患者に注入する)のために利用できうる。
【0129】
更なる択一性として、患者由来の細胞を利用し、ベクター輸送、又はその他の手段であって、MHC発現を刺激せしめるタンパク質(例えばインターフェロン)をコード化する遺伝子の利用もしくはMHC遺伝子発現をコントロールする制御要素の利用を含む方法によって、適合するMHC遺伝子を導入せしめることにより、「自己」MHCクラスI遺伝子の発現を増強せしめる。MHCI発現におけるこのような増強は、異種抗原のより効率的な提供を、たとえそれらが既に患者細胞(例えば腫瘍細胞)に存在していようが、又は異種抗原をコード化するウイルスベクターを用いてその後加えようが、引き起こす。このことは、より強力な免疫応答を、たとえ低められたMHCI発現性を有す細胞(例えばウイルス感染細胞又はある腫瘍のタイプ)が有効に削除されていたとしてももたらす。本発明のある態様において、感受性標的細胞を、(a)クラスIもしくはクラスIIMHCタンパク質それぞれ又はその組合せ;(b)特定の抗原もしくは免疫応答を刺激できるそれらの改質型;(c)MHC及び(複数の)抗原;並びに(d)前述した期待されているもしくは提供されていない免疫相互作用に含まれるその他のタンパク質;をコード化する核酸配列の組合せ、あるいは順序を変更したものにより感染せしめることができる。感染のそれぞれの工程は生体外又は生体内のいずれかで行うことができ、そして特定の細胞のタイプの殺傷は生体外又は生体内で行なわれることができる。
【0130】
投与の異なる型は、レトロウイルスベクター粒子を作る提供系の内植である。これらは免疫学的に適合しない古典的な提供細胞系又は患者自体の細胞であることがあり、それらは外植し、処理し、そして戻す(VIの択一的なウイルスベクターパッケージング技術(以下)を参照のこと)。両タイプの内植(105〜106個の細胞/体重kg)は、患者において限定された寿命を有すであろうが、体内においてそれらの周辺に、レトロウイルスの大量な細胞数(107〜1010個)の感染をもたらすであろう。
【0131】
どのような場合においても、HIV免疫刺激治療の成功は、少量の血液を採取し、そしてenv発現のもたらされた、ベクターにより感染された個体自身の細胞を標的として利用するCTL応答を測定することによってアッセイされる。
【0132】
HIV以外の病原性ウイルスを含む病原体に対するMHCクラスI又はクラスII制御免疫応答を刺激せしめることを所望する場合、免疫応答を刺激せしめるであろうこのようなレトロウイルスに関連するエンベロープ又はその他の抗原が当業者によって確認されうる。一般に、免疫系の種々の要素(例えばTH −、Tc −、B−細胞)の誘発を引き起こすエピトープの組合せが存在する。更に、いくつかのエピトープは病原性、又は超可変性であるがイムノドミナントでありうる。本発明は所望するエピトープの組合せの「ミックスアンドマッチ」選別及び不要なエピトープの排除を可能にする。例えばHIVにおいて、イムノドミナントB−及びT−細胞エピトープを有す多数の超変異性ループが、ベクターにより運ばれる遺伝子配列において連なっていることがあり、これによってもたらされる免疫刺激は、臨床的に見い出されたHIV株の圧到に適している。以下の実施例はレトロウイルスベクターを用いる、それらのCTL−改質型の同定及び地図化のための方法を示す。
【0133】
F.免遼応答性の地図のための、HIV抗原エピトープ及びその改質型を発現するベクター
実施例2(前記)において示す結果は、レトロウイルスベクター−コード化HIV envにより免疫せしめたマウスは、HIV envに特異的なクラスIMHC−制御CTL応答性を発生せしめることを示す。更に、実施例2において示される結果は、HIV envIIIBが、HIV−IIIB及びHIV−MN変異体の両方のgp120超可変性領域に由来する合成ペプチドにより被覆された標的細胞に溶解活性を示すCTLを誘発せしめることを示した。CTLを誘発及び刺激せしめることにおいて反応性であり、そして免疫CTLによる標的の溶解を仲介するペプチド抗原フラグメントをコード化するHIVエンベロープ遺伝子内の領域の更なる地図化のため、前記の実施例1Fに記載の「Δループ」及び「チャンクI」組換レトロウイルスベクター構造体によって実験を行った。この「Δループ」は、エンベロープ遺伝子のV3ドメインにおいてgp120超可変性ループの欠失を有す、HIV−IIIBenv−コード化ベクター構造体であり、従ってHIV envの非ループ部のみを含む短くなったタンパク質(「ループレス」)が製造されうる。
【0134】
CTLと反応性のHIVエンベロープタンパク質内のペプチド様抗原性エピトープを地図化するため、BC細胞を感染するのに「Δループ」ベクター構造体を有すレトロウイルスを用い、これによって「ループレス」エンベロープの短い型を有す(即ち、gp120の超可変性ループのない)エンベロープタンパク質を発現する細胞(BCenvΔV3細胞)を作る実験を行った。これら「ループレス」HIV env細胞を、それらのマウスにおけるHIV env−免疫CTLを誘発する能力について試験した。図4Aに示す結果はパネルAにおいてコントロールアッセイを、そしてパネルBにおいて実験アッセイを含む。この結果が示すには、CTLはマウスにおいて「ループレス」BCenvΔV3細胞によって誘発され、そしてこれらCTLはBCenvΔV3細胞(パネル1B、図4Q)及び全長エンベロープタンパク質を発現するBCenvΔV3標的細胞の両方を殺傷せしめた。CTLの特異性は、それらがBC細胞(即ち、HIV envを発現しない細胞)又はRP135合成「ループ」ペプチドにより被覆されているBC細胞の溶解をもたらさないこと、即ち、CTLを誘発するのに利用されるBCenvΔV3細胞の欠失、によって示された。図4Qに示すコントロールアッセイ(パネルA)は、RP135ペプチドにより被覆されたBC系細胞(BC−RP135)はBCenv−「ループ」−免疫CTLに有効に抗原を提供し(即ち、BCenv−免疫CTL)、そしてこれらはこのエフェクター細胞により特異的な状態において殺傷せしめられた。即ち、このBCenv−免疫CTLはBC細胞は殺傷せしめないが(陰性コントロール)しかしBCenv標的細胞は殺傷せしめた(陽性コントロール)。従って、レトロウイルス−運搬組換ベクター構造体は、CTLを誘発し、且つ標的細胞に溶解をもたらしめるHIVエンベロープタンパク質の領域の同定及び地図化のために利用できうる。
【0135】
HIVエンベロープにおけるこのペプチド様抗原性領域の更なる地図化のため、BC細胞を感染せしめるのに「チャンク1」ベクター構造体を用い、これによってgp120ループの隣りの領域においてペプチド配列の欠損する「ループレス」エンベロープタンパク質を発現せしめる細胞を作製する実験を行った。図4RのパネルAに示す結果は、「チャンク1」を発現する標的細胞(即ち、BCpCMVチャンク1標的)はHIV env−免疫CTLによって特異的に溶解されることを示した。即ち、これらCTLはBC10ME細胞(陰性コントロール)は溶解せしめないが、HIV env発現性BC細胞−(BCenvIIIB標的)は溶解せしめた。図4RのパネルBに示す結果も、BCpCMVチャンク1標的細胞及びHIV env発現性BC細胞(BCenvIIIB14H標的)が溶解されるが、BC10ME細胞(BE10ME標的)が溶解されないことを示した。
【0136】
所望する免疫応答を作り出す択一的な方法は、抗原−特異性T−細胞リセプター遺伝子を適切な細胞、例えばT−細胞へと運搬することである。イムノグロブリン分子の抗原認識部位についての遺伝子情報を、近親のT−細胞リセプターサブユニットα及びβの遺伝子における関連する部位の中に分子的に結合せしめることも可能である。このように変化せしめたタンパク質分子はMHC制御される必要はなく、そしてオリジナルのイムノグロブリンにより決定される抗原に特異的なTH−及びTC−細胞として働くことができる。他の手法は、NKにおけるエフェクター分子についての遺伝子をNK細胞に移し、これらの細胞に更なる非MHC限定殺傷能力を授けることである。更に、特異的なイムノグロブリン遺伝子は、患者において特定の抗体分子の大量インビボ製造を引き起こすためにB細胞た運び入れる場合、同様に有用でありうる。
【0137】
II.ブロッキング剤
多数の感染疾病、癌、自己免疫疾患及びその他の疾病は、ウイルス粒子と細胞、細胞と細胞、又は細胞と因子の相互作用を含む。ウイルス感染において、ウイルスは一般に感受性細胞の表層上のリセプターを介して細胞の中に入り込む。癌においては、細胞は他の細胞又は因子から信号を不適切に応答するかもしくは全く応答しない。自己免疫疾患においては、不適切な「自己」マーカーの認識が存在する。本発明において、このような相互作用は、インビボで、相互作用におけるいずれかのパートナーの類似体を提供せしめることによって妨害されうる。
【0138】
このブロッキング作用は細胞内的に、細胞膜上に、又は細胞外的に起こりうる。ウイルス又は特に、ブロッキングについての遺伝子を有すレトロウイルスベクターのこのブロッキング作用は、感受性細胞の内側又は病原性の相互作用を局在的にフロックするためにこのブロッキングタンパク質の変形を分泌することにより仲介されうる。
【0139】
HIVの場合において、相互作用の2つの物質はgp120/gp41エンベロープタンパク質とCD4リセプター分子である。従って、適切なブロッカーは病原性作用を引き起こさずにHIVの入口をブロックするHIV env類似体、又はCD4リセプター類似体のいずれかであろう。CD4類似体は分泌され、そして隣接する細胞を保護するために働くことができ、そしてgp120/gp41は細胞内にのみ分泌又は製造され、従ってベクター含有細胞のみを保護するであろう。安定性又は補体溶解を高めるため、ヒトイムノグロブリン重鎖もしくはその他の成分をCD4を加えることが好都合である。このようなハイブリド可溶性CD4をコード化するレトロウイルスベクター宿主への運搬は、安定的なハイプリド分子の連続供給をもたらす。
【0140】
HIV envの発現をもたらすベクター粒子も前記の通りに作製されうる。どの部分が明白な病原性副作用を伴うことなくウイルスの収着をブロックできるかは当業者において明白であろう(Willeyら、J.Virol.62:139、1988;Fisherら、Science 233:655、1986)。以下の実施例はCD4ベクターの作製を詳細し、これにより感染性ベクター粒を作製した(図5)
実施例3
sCD4ベクター
1.pMV7.T4由来の1.7kbのEcoRI−HindIIIDNAフラグメント(Maddonら、Cell 47:333、1986)をSK+のHincII部位にブラント末端リゲートせしめた。
【0141】
2.XbaI部を合むユニバーサル翻訳停止配列をCD4フラグメントのNheI部位の中に挿入せしめた。
【0142】
3.1.7kbのXhoI−ClaIフラグメントを切り出し、そしてpAFVXMのXhoI−ClaI部位にクローンせしめた。
【0143】
これらのベクタープラスミドは実施例1に記載の通り、感染性ベクター粒子を作製するために利用できうる。
【0144】
このような感染性ブロッキングベクターは培養におけるヒトT−細胞系に入れた場合、HIV感染の広がることを阻止できる。感染性レトロウイルスベクター調製品の調製、濃縮及び保存は免疫刺激についてと同様である。投与の経路も同様であり、投与量は10倍高い。利用できる他の経路は骨髄のアスピレーション(Aspiration of bore marrow)、レトロウイルスベクターによる感染、そして患者へ、この感染化骨髄を戻すこと(Gruberら、Science 230:1057、1985)でありうる。この髄複製は細胞複製を介してこのベクターを増幅せしめうるため、免疫刺激の範囲における投与量が利用できる(105〜106/kg体重)。
【0145】
どのような場合においても、この治療の効き目は疾病の進歩の通常の指標であって、抗体レベル、ウイルス性抗原生産、感染性HIVレベル又は非特異的感染のレベルを測定することによってわかる。
【0146】
III.緩和剤の発現
病原性物質又は遺伝子の機能を阻害できる物質(又は「緩和剤」)の発現をもたらすベクター構造体を有す組換レトロウイルスを製造するため、前記と同様の技術が利用できうる。本発明において、「機能を阻害できること」は、緩和剤がこの機能を直接的に阻害するか、又は間接的に、例えば細胞の中に存在するある物質であって正常の場合は病原性物質を阻害しないものを阻害するものへと変換せしめることにより阻害することを意味する。ウイルス疾病についてのこのような機能の例には、収着、複製、遺伝子発現、集成及び感染細胞からのウイルスの外出を含む。癌細胞又は癌促進成長因子についてのこのような機能の例には、生存性、細胞複製、外部信号に対する変異した感受性(例えば接触阻害)及び抗−癌遺伝子タンパク質の製造の欠損又は突然変異型の製造を含む。
【0147】
(i)阻害緩和剤
本発明の1つの態様において、この組換レトロウイルスは、病原物質(例えばウイルス性又は悪性病における)の機能を妨害できる遺伝子の発現をもたらすベクター構造体を有す。このような発現は実質的に連続性であるか、又は病原性症状もしくは特定の細胞のタイプのいずれかに関連するその他の物質の細胞における存在に対する応答(「物質の認識」)のいずれかでありうる。更に、ベクター運搬は所望の細胞タイプ(例えばウイルス感染化又は悪性細胞)へのベクターの特異的な侵入を標的とすることによってコントロールされうる(以下参照)。
【0148】
投与の好ましい方法は、ルーコホレシス(leukophoresis)であり、ここでは約20%の個体のPBLを任意の時間に取り出しそしてインビトロで処理せしめる。これにより、およそ2×109個の細胞が処理され、そして変換されうる。現状の最高の力価は106/ml程度であり、これは2〜20リットルの出発ウイルス上清液を必要とする。反復治療も行なわれうる。他方、骨髄を処理してよく、そして前記の通りその効果を増幅せしめることができる。
【0149】
更に、ベクターを生産するパッケージング細胞系を対象に直接注射し、組換ビリオンの連続生産を可能にする。適切な細胞のタイプには単球、好球、又はそれらの前駆体が含まれ、なぜならそれらの細胞は末梢血液の中に存在するが、それらはこの循環系から離れてビリオン生産の治療が必要とされうる血管外組織(特に中枢神経系)におけるウイルスの生産を可能にする。このような細胞系は宿主の免疫系によって異物として最終的に拒絶されうる。この宿主によるこれら異種細胞の最終的な破壊を確実にするため、この細胞系は条件的に致死タンパク質、例えばHSVTKについての遺伝子を発現せしめるよう操作されうる。従って、薬剤アシクロビル(Acyclovir)(ACV)(HSVTKを発現する細胞に対して特異的に毒性である薬剤)は十分なベクターがインビボに提供された後にこれらの細胞を排除する。このようなパッケージング細胞系は連続細胞系であるか、又は宿主細胞から直接作られうる。
【0150】
1つの態様において、対象の病原性遺伝子転写物(例えばウイルス遺伝子生成物又は活性化細胞癌遺伝子)に相補性のRNAを発現するレトロウイルスのウイルスが、この転写物のタンパク質への翻訳の阻止、例えばtatタンパク質の翻訳の阻止のために利用できうる。このタンパク質の発現はウイルスの複製のために必須であるため、このベクターを含む細胞はHIV複製に対耐であろう。このことを試験するため、このベクターαtat(図10)を作製し、組換ビリオンとしてパッケージ化し、複製−コンピテントヘルパーウイルスの非存在下においてヒトT−細胞及び単球細胞系に導入せしめた。
【0151】
第2の態様において、この病原性物質がパッケージングシグナルを有す一本鎖ウイルスである場合(例えば緩和剤がHIVに向けられている場合HIVパッケージングシグナル)、ウイルスパッケージングシグナルに相補性のRNAを発現させ、これによってこれらの分子とウイルスパッケージングシグナルとの結合は、レトロウイルスの場合において、このレトロウイルスRNAゲノムの適切なエンカプシデーション(encapsidation)又は複製のために必要なステムループ形成もしくはtRNAプライマー結合を阻害せしめるであろう。
【0152】
第3の態様において、病原性遺伝子の発現を選択的に阻止できる緩和剤又は病原性物質により生産されるタンパク質の活性を阻害することができる緩和剤を発現するレトロウイルスベクターを導入することができうる。HIVの場合において、1の例は突然変異tatタンパク質であってHIVLTR由来のトランス活性発現の能力を欠損し、そしてtatタンパク質の正常な機能を妨害する(トランスドミナント状態において)ものである。このような突然変異体はHILVIItatタンパク質(「XIILeu5」突然変異体、Wachsmaら、Science 235:674、1987を参照)と同定されている。突然変異トランスリプレッサーtatはHSV−1における類似突然変異リプレッサーが示すのと同程度に複製を阻害するであろう(Friedmanら、Nature 335:452、1988)。
【0153】
このようなトランス作用転写リプレッサータンパク質は組織培養において、任意のウイルス特異的トランス作用転写プロモーターであってその発現性がウイルス特異的トランス活性化タンパク質(前記)により刺激されうるものを用いて選別される。HIVの特定の場合において、HIVtatタンパク質を発現しそしてHIVプロモーターにより作動するHSVTK遺伝子を発現する細胞系はACVの存在下で死滅するであろう。しかしながら、一連の突然変異tat遺伝子をこの系に導入したら、適当な特性を有す突然変異体(即ち、野性型tatの存在下でHIVプロモーターからの転写を抑制するもの)は増殖し、そして選別される。次にこの突然変異遺伝子をこれらの細胞から再び単離されうる。条件的に致死性のベクター/tat系の多数のコピーを含む細胞系を利用することにより、生存している細胞系はこれらの遺伝子における内因性突然変異誘発によって引き起こされるのではないことが確認された。ランダムに突然変異された一連のtat遺伝子を次に「救出可能」レトロウイルスベクター(即ち、突然変異tatタンパク質を発現し、そして複製の細菌性起源及び細菌中での増殖及び選別のための薬剤耐性マーカーを含むもの)を利用してこれらの細胞に導入せしめた。このことは多数のランダム突然変異の評価を可能とし、そして所望する突然変異細胞系の容易な逐次的分子クローニングを可能にする。この方法は潜在的な抗ウイルス治療のための種々のウイルストランス転写作用活性体/ウイルスプロモーター系における突然変異の同定及び利用に採用されうる。
【0154】
第4の態様において、この組換レトロウイルスは不活性な先駆体を病原物質の活性阻害剤へと活性化できる遺伝子生成物の発現をもたらすベクター構造体を運搬する。例えば、HSVTK遺伝子生成物は、潜在性の抗ウイルスヌクレオシド類似体、例えばAZT又はddcをより効率的に代謝せしめるのに利用されうる。このHSVTK遺伝子は構成マクロファージ又はT−細胞−特異性プロモーターのコントロール下で発現され、そしてこれらの細胞のタイプヘ導入されうる。レトロウイルス逆転写酵素及びこれによるHIV複製を特異的に阻害するため、AZT(及びその他の抗ウイルス剤)はヌクレオチド三リン酸の型へと細胞メカニズムにより代謝されねばならない(Furmanら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 83:8333−8337、1986)。HSVTKの構成的発現(ヌクレオシド及び広範囲にわたる基質特異性を有すヌクレオシドキナーゼ)は、これらの薬剤の生物事的活性ヌクレオチド三リン酸型へのより効率的な代謝をもたらす。AZT又はddc治療は従ってより有効となり、低投与量、低い一般的な毒性、及び生産的な感染に対するより高い能力となる。更なるヌクレオシド類似体であってそのヌクレオシド三リン酸型がレトロウイルス逆転写酵素に対する選択性は示すが、細胞の基質特異性の結果としてヌクレオシド及びヌクレオシドキナーゼがリン酸化されていないものは、より有効となりうる。代表的な方法の詳細を実施例4に記載する。
【0155】
実施例4
AZT及び類似体の抗ウイルス作用を潜在するためにデサインしたベクター
A.以下の全てのレトロウイルスベクターは「N2」ベクターに基づく(Kellerら、Nature 318:149−154、1985)。結果として、最初に5’及び3’EcoRI LTRフラグメント(2.8及び1.0kb(それぞれ))を、ベクター作製を促進せしめるためにポリリンカーを含むプラスミドにサブクローンせしめた(pN2R5〔+/−〕を得るためにはSK+へ;p31N2R5〔+/−〕及びp31N2R3〔+/−〕を得るためにはpUC31へ)。pUC31は、ポリリンカーのEcoRIとSacI部位の間に更なる制限部位(XhoI,BalII,BssII、及びNcoI)を有すpUC19の改質型である。1のケースにおいて1.2kbのClaI/EcoRI5’LTRフラグメントを、pN2CR5を得るためにSK+ベクターの同一の部位にサブクローン化せしめた。他のケースにおいては、スプライスドナー配列の6bpの欠損を合む5’LTRを1.8kbのEcoRIフラグメントとしてpUC31(p31N25delta〔+〕)にサブクローン化せしめた。HSV−1チミジンキナーゼ遺伝子のコード化領域及び転写終結シグナルをプラスミド322TK(pBR322のBamHIにクローンせしめたHSVTKの3.5kbのBamHIフラグメント)から1.8kbのBg(II/PvuIIフラグメントとして単離し、そしてBglII/SmaI消化pUC31にクローンせしめた(pUCTK)。終結シグナルの欠損を必要とする構造のため、pUCTKをSmaI及びBamHIにより消化せしめた。残ったコード化配列及び付着末端BamHI突き出しを以下のオリゴマー;
5’GAG AGA TGG GGG AGG CTA ACT GAG3’
及び5’GAT CCT CAG TTA GCC TCC CCC ATC TCT C3’
から作った二本鎖オリゴヌクレオチドにより再構成せしめ、構造体pTKデルタAを形成せしめた。
【0156】
検査の目的のため、SmaI部位を破壊しながら、翻訳タンパク質を変化させずにそのAvaI部位を保つようこのオリゴをデザインした。
【0157】
0.6kbのHIVプロモーター配列を、pCV−1由来のDraI/HindIIIフラグメントとして(Aryaら、Science 229:69−73、1985)、HincII/HindIII切断SK+にクローン化せしめた(SKHL)
B.TK1及びTK3レトロウイルスベクターの作製(図6参照)
1. 5kbのXhoI/HindIII5’LTR及びプラスミド配列をp31N2R5(+)から単離した。
【0158】
2. 転写終結配列を欠損するHSVTKコード化配列をpTKデルタAから1.2kbのXhoI/BamHIフラグメントとして単離した。
【0159】
3. 3’LTR配列をpN2R3(−)から1.0kbのBamHI/HindIIIフラグメントとして単離した。
【0160】
4. 段階1〜3のフラグメントを混合し、リゲートし、細菌に形質転換せしめ、そしてそれぞれのクローンを制限酵素分析により同定した(TK−1)。
【0161】
5. TK−3は、TK−1をBamHIにより直鎖状にし、5’突き出しを補完し、そしてブラント末端を、細菌性lacUV5プロモーター、SV40初期プロモーター及びTn5 Neor遺伝子を含む5’補完ClaIフラグメントにリゲートせしめることにより作製した。カナマイシン−耐性クローンを単離し、そして個々のクローンを、制限酵素分析によって適切な方向性についてスクリーンした。
【0162】
これらの構造体を、パッケージング細胞系、例えば前記のPA317と一体化した感染性組換ベクター粒子を作るために利用した。
【0163】
このようなレトロウイルスベクターのヒトT−細胞及びマクロファージ/単球細胞系への投与は、AZT及びddCの存在下で、レトロウイルスベクター処理されていない同一の細胞に比べて、それらのHIVへの耐性が高められうる。AZTとの処理は通常より低いレベルとなることができ、毒性の副作用を回避でき、しかもHIVの繁殖を有効に阻害する。治療の方法はブロッカーについて前記したものとなるであろう。
【0164】
このレトロウイルスベクター調製品の調製、濃縮、及び保存は前記した通りでありうる。治療は前記した通りでありうるが、但し患者細胞の体外処理は感染されていない潜在的に感受性のT−細胞又は単球に向けられるであろう。感受性細胞を標的にする好ましい方法は、CD4+中細胞へベクター粒子の吸収をもたらす、HIV env又はハイブリドenv(VIII章の細胞系特異性レトロウイルス(以下)を参照のこと)を有すベクターによる。
【0165】
阻害緩和剤を提供する第5の態様は、ウイルスの集成を阻害する欠陥干渉ウイルス構造タンパク質の運搬及び発現を含む。ベクターは欠陥gag,pol,envもしくはその他のウイルス粒子タンパク質又はペプチドをコードし、そしてこれらはウイルス粒子の集成を優性な情況において阻害するであろう。このことは、このウイルス粒子の正常なサブユニットの相互作用がこれらの欠陥サブユニットとの相互作用により妨害されることにより起こる。
【0166】
6番目のこのような態様は、ウイルスプロテアーゼに特異的なペプチド又はタンパク質の阻害の発現である。ウイルスプロテアーゼはウイルスのgag及びgag/polタンパク質を多数の小さいペプチドに切断せしめる。全てのケースにおいてこの切断を行えなくすることは、感染性レトロウイルス粒子の製造の完全な阻害をもたらす。HIVプロテアーゼはアスパルチルプロテアーゼとして知られ、そしてこれらはタンパク質又は類似体からのアミノ酸から作られるペプチドによって阻害されることが知られている。HIVを阻害するベクターは1又は複数のこのようなペプチドインヒビターの融合コピーを発現するであろう。
【0167】
第7の態様は、サプレッサー遺伝子の運搬を含み、これらが削除、突然変異又は細胞のタイプにおいて発現されない場合、この細胞のタイプに腫瘍化をもたらす。ウイルスベクターによる欠損遺伝子の再導入はこれらの細胞における腫瘍表現型の退行をもたらす。このような癌の例には、網膜芽腫及びウイルム腫瘍がある。悪性腫瘍は、細胞増殖と比較して細胞終結分化の阻害であると考えられているため、分化をもたらす遺伝子生成物の搬送及び発現も一般に退行をもたらすであろう。
【0168】
第8の態様において、レトロウイルス構造体(緩和剤の発現性を有す又は有さないもの)はそれ自身をウイルス、癌遺伝子又は病原性遺伝子に挿入せしめることによって治療効果を提供し、従って病原体に必要な機能を阻害する。この態様は、相同性組換、インテグラーゼ改質又はその他の方法(以下に詳細)により、このゲノムにおける特定の部位へのレトロウイルスの一体化の誘導を必要とする。
【0169】
第9の態様において、このレトロウイルスベクターは、病原性機能に関連するRNA分子を分解、従って不活性化せしめるであろうリボザイム(RNA酵素)(HaseloffとGerlach、Nature 334:585、1989)をコードすることによる治療効果を提供する。リボザイムは標的RNAにおける特異的な配列を認識することにより機能し、そしてその配列は通常12〜17bpであるため、これは特定のRNA、例えばRNA又はレトロウイルスゲノムの特定の認識を可能にする。更なる特異性は、これを条件的に毒性の緩和剤にすることによって達成される場合がある(以下参照)。
【0170】
阻害的な緩和剤の効能を高める1つの方法は、対象のウイルスによる耐性細胞の感染率を高める遺伝子の発現と関連するウイルス性阻害遺伝子の発現である。この結果は生産的な感染現象と競合しうる非生産的な「行き止まり」現象である。HIVの特定のケースにおいて、HIVの複製を阻害し(前記のアンチセンスtat他を発現することにより)且つ感染のために必要なタンパク質、例えばCD4をも過剰発現するベクターを搬送せしめることができる。この方法において、比較的少ない数のベクター感染化HIV耐性細胞が、無ウイルス細胞又はウイルス感染細胞による複数の非生産的融合現象のための「シンク(sink)」又は「マグネット」として働く。
【0171】
(ii)条件的毒性緩和剤
病原性物質を阻害する他の手法は、病原性の症状を発現する細胞に毒性な緩和剤の発現である。この場合において、プロウイルスベクター由来の緩和剤の発現は、非病原性細胞の破壊を避けるため、例えば病原性状態を認識する細胞間シグナルのように、病原性物質に関連する要素の存在に限すべきであろう。この細胞−タイプ特異性は、病原性症状を有す、又はそれに感受性な細胞にこのベクターを運搬せしめる組換レトロウイルスを標的とすることにより、感染レベルで授けることもできうる。
【0172】
本方法の1つの態様において、この組換レトロウイルス(好ましくは組換MLVレトロウイルス)は、迅速に増殖する細胞、例えば腫瘍においてのみ転写的に活性である、現象特異性プロモーター例えば細胞周期依存型プロモーター(例えばヒト細胞チミジンキナーゼ又はトランスフェリンリセプタープロモーター)により発現する細胞障害性遺伝子(例えばリシン)を含むベクター構造体を運搬する。この状態において、これらのプロモーターからの転写を活性化できる因子を含む迅速に複製する細胞は、このプロウイルス構造体により生産されるこの細胞障害性物質によって優先的に破壊される。
【0173】
第2の態様において、細胞障害性物質を生産する遺伝子は組織特異性プロモーターのコントロール下にあり、ここでこの組織特異性は腫瘍の起源に関連する。このウイルスベクターは優先的に複製細胞のゲノムに一体化するため(例えば、正常肝臓細胞は複製しない場合も肝細胞癌は複製する)、この2つのレベルの特異性(ウイルスー体化/複製及び組織−特異性転写制御)は腫瘍細胞の優先的な殺傷をもたらす。更に、現象特異性及び組織特異性プロモーター要素は人工的に組合わせることができ、従ってこの細胞障害性遺伝子生成物はこの両方の条件を満たす細胞タイプにおいてのみ発現されうる(例えば、上記の例においては、組合せたプロモーター要素は珂子細胞を迅速に分割せしめることのみに機能的である)。転写コントロール要素も細胞タイプ特異性の緊張を高めるために増幅されうる。
【0174】
これら転写プロモーター/エンハンサー要素は内在プロモーターとして存在する必要はないが(ウイルスLTRの間にあること)、しかしウイルスのLTRに加える又はウイルスLTRにおける転写コントロール要素であってそれ自体が転写プロモーターであるものと交換せしめることより、条件−特異性転写発現がこの改良ウイルスLTRにより直接的に発生するようにしてもよい。この場合において、最大の組換ウイルス力価を得るために、最大発現のための条件をレトロウイルスパッケージング細胞系において擬態せしめる必要があるか(例えば、増殖条件の変更、発現の必須なトランスレギュレーターを供給する、もしくはパッケージング系の親として適切な細胞系を用いること)、又はLTRの改質を3’LTRU3領域に限定するかのいずれかとする。後者の場合において、1周期の感染/一体化の後、この3’LTRU3は5’LTRU3と共に、所望の組織特異性発現を付与せしめる。
【0175】
第3の態様において、このプロウイルスベクター構造体は同様に活性化されるが、しかしこれは細胞障害性でないタンバク質を発現せしめ、そして標的細胞内においてわずかに細胞障害性であるか全くそうでない化合物又は薬剤を細胞障害性のもの(「条件的致死」遺伝子生成物)へとプロセスせしめる。特に、このプロウイルスベクター構造体は、ヘルペス単純ウイルスチミジンキナーゼ(HSVTK)遺伝子をHIVプロモーターの下流及びその転写コントロール下のもとで有す(これはHIVtatタンパク質で活性化されない限り、転写的にサイレントであることが知られている)。HIVにより感染され、そしてこのプロウイルスベクター構造体を有すヒト細胞におけるこのtat遺伝子生成物の発現は、HSVTKの生産の上昇を引き起こす。次にこの細胞を(インビトロ又はインビボのいずれかで)アシクロビル(acyclovir)又はその類似体(FIAU、FIAC、DHPG)に曝露せしめた。これらの薬剤はHSVTKによりリン酸化された関連する活性ヌクレオチド三リン酸型となること(しかし細胞チミジンキナーゼによってはならない)で知られる(例えば、Schaefferら、Nature,272:583、1978を参照のこと)。アシロクロビル及びFIAV三リン酸は一般に細胞ポリメラーゼを阻害し、遺伝子導入マウスにおけるHSVTKを発現する細胞の特異的な破壊をもたらす(Borrelliら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:7572、1988)。この組換ベクターを含みそしてHIVtatタンパク質を発現するこれらの細胞は、これらの薬剤の特定の投与量の存在によって選択的に殺傷される。更に、特別なレベルの特異性が、このベクターにHIV revタンパク質、応答性CRS/CAR配列を含ませることによって得られる。このCRS配列遺伝子の存在下においては発現を抑制される(但し、CAR配列及びrevタンパク質の存在下において)。実施例5はこの技術の例を提供する。
【0176】
実施例5
ACV又はその類似体の毒性作用を条件的に潜在せしめるベクター
ベクターの作製
A.pKTVIHAXの作製(図7参照)
1. 9.2kbのAsuII/XhoIフラグメントをベクターpN2DNAから単離した。
【0177】
2. 0.6kbのXhoI/BamHIプロモーターフラグメントをプラスミドpSKHLから単離した。
【0178】
3. 0.3kbのBalII/AccI及び1.5kbのAccI/AccIフラグメントをpUCTKから単離した。
【0179】
4. 1.2及び3のこれらのフラグメントをリゲートし、細菌に形質転換せしめ、そして得られる適切なAmprクローンの構造を制限酵素分析によって同定した。
【0180】
B.pKTVIH−5及びpKTVIH5 Neoレトロウイルスベクターの作製(図8参照)
1. ベクターp31N25デルタ(+)から、XhoI/BamHIフラグメントとして、4.5kbの5’LTR及びベクターフラグメントを単離した。
【0181】
2. 1.0kbの3’LTRを、pN2R3(+)フラグメントからApaI/BamHIフラグメントとして単離した。
【0182】
3. 0.6kbのHIVプロモーター要素を、pSKHLからApaI/EcoRIフラグメントとして単離した。
【0183】
4. HSVTKコード配列及び転写終結配列をpUCTKから1.8kbのEcoRI/SalIフラグメントとして単離した。
【0184】
5. 1〜4のフラグメントを混合し、リゲートせしめ、細菌に形質転換せしめ、そして得られるクローンの構造を制限酵素分析により同定した(pKTVIH−5)。
【0185】
6. プラスミドpKTVIH5Neoを、このpKTVIH5をClaIにより直鎖状にし、細菌lac UV5プロモーター、SV40初期プロモーター及びTn5Neorマーカーを含む1.8kbのClaIフラグメントと混合し、リゲートせしめ、細菌に形質転換せしめ、そしてカナマイシン耐性について選別することによって作製した。
【0186】
C.MHMTK Neoレトロウイルスベクターの作製(図9参照)
1. 即時型プラスミドMHM−1LTRの作製
a)プラスミドpN2CR5をFoKIにより部分消化により直鎖状にし、クレノウDNAフラグメントを用いてデオキシヌクレオチド三リン酸によってこの5’突出しを補完し、そしてHindIIIリンカーを挿入せしめた。細菌に形質転換せしめた後、このMLV LTR FoKI部位に挿入されたHindIIIリンカーを有すクローンを制限酵素分析により同定した(pN2CR5FH)。
【0187】
b)プラスミドpN2CR5FHをNheIにより直鎖状にし、クレノウポリメラーゼによってこの5’突出しを補完し、HindIIIで消化し、そしてプロモーターを有さないMLV配列を合む4.3kbのフラグメントを単離した。
【0188】
c)0.5kbのEcoRV/HindIII HIVプロモーター配列をpSKHLから単離した。
【0189】
d)b)とc)を混ぜ、リゲートさせ、細菌に形質転換せしめ、そしてMHM−1の構造を制限酵素分析によって確認した。
【0190】
2. MHM−1から単離した0.7kbのEcoRV/BalIフラグメントを、プラスミドI30B(ポリリンカーにおいてBg1II,BstII、NeOI及びNdeI部位を更に含む改良IBI 30 プラスミド)のEcoRV部位にサブクローンせしめた。細菌に形質転換せしめた後、適切な方向性を有すクローンを制限酵素分析(pMHMB)により同定した。
【0191】
3. プラスミドpMHBをApaIとXhoIにより消化せしめ、そしてゲル精製した。
【0192】
4. MHM−1をApaI/BamHIにより消化し、そして1.8kbのMHMLTR/リーダー配列をゲル精製した。
【0193】
5. Neorを作動せしめるSV40初期プロモーターの上流の領域をコード化するHSVTKを含む2.8kbのBglII/Sa1IフラグメントをpTK−3から取り出した(図3参照)
6. 3〜5を混ぜ、リゲートせしめ、細菌の形質転換に用い、そして制限酵素分析によって適切なクローンを同定した。
【0194】
このベクター及び類似のベクターであってそれらのLTRに誘発性の要素を含むものは、付加された安全姓をもたらす。簡潔に述べると、このLTRはHIVの非存在下において不活性であるため、望ましくない宿主遺伝子(例えばプロトー癌遺伝子)の挿入下流活性化が発生しない。しかしながら、パッケージング細胞系におけるtat発現は、組織培養におけるビリオンの操作性を促進せしめる。
【0195】
D.PRKTVIHレトロウイルスベクターの作成(図10参照)
1. 9.2kbのAsuII/XhoIフラグメントをベクターpN2DNAから単離した。
【0196】
2. 0.6kbのXhoI/EcoRI HIVプロモーターフラグメントをプラスミドpSKHLから単離した。
【0197】
3. このHIV rev応答性HSVTK(RRTK)を以下の方法で作製した:
a)このHSVTK遺伝子を1.8kbのHincII/PvuIIフラグメントとして、ベクターSK+(pSTK〔−〕)のEcoRV部位にサブクローンせしめた。
【0198】
b)HIV envに由来するCRS/CAR要素を含む1.8kbのKpnI/HindIIIフラグメントを修復せしめ、そしてベクター130BのSmaI部位にブラント末端リゲートせしめた(pCRS/CAR〔+/−〕)。130Bは、pVC31と同じ更なる制限部位を含み、そしてIBI30XhoI部位の代りにNdeI部位を含む改良IBI30である。
【0199】
c)ベクター及びHSVTKポリアデニル化シグナルを含む3.6kbのBssHII/EcoRIフラグメントをpSTK(−)から単離した。
【0200】
d)1.8kbのBamHI/BssHII CRS/CARフラグメントをpCRS/CAR(−)から単離した。
【0201】
e)1.2kbのEcoRI/BamHIコード配列フラグメントをpCRS/CAR(−)から単離した。
【0202】
f)C、D及びEをリゲートさせ、そして適切な組換体を制限酵素分析によりスクリーンした。
【0203】
4. Rev−応答性HSVTKを3.6kbのEcoRI/ClaIフラグメントとして単離した。
【0204】
5. 1、2及び4をリゲートさせ、そして適切な組換体を制限酵素分析により同定した。
【0205】
E.tat及び抗−tat発現ベクターの作製(図11参照)
これらのベクターは、活性化tat−依存型HSVTKベクターを試験するための疑似−HIVとして利用される。
【0206】
1. Hisr発現ベクターpBamHisをBamHIにより直鎖状にし、そして牛小腸アルカリホスファターゼにより処理した。
【0207】
2. pCV−1のSacI部位をBamHI部位へと突然変異させ、そしてHIV−tatをコードする350bpのBamHIを単離した。
【0208】
3. 段階1と2において精製したフラグメントを混合し、リゲートさせ、そして細菌の形質転換に用い、そして両方向性においてtatを有すクローン(tat又は「アンチセンス」tatを発現するもの)を制限酵素分析により同定した。
【0209】
パッケージング細胞系、例えば前記のPA317と一体化する感染性組換ベクター粒子を作るためにこれらの構造体を利用した。これらのベクターは遺伝子的に安定であり、そして個々の感染細胞のクローンに由来する予測されたプロウイルス構造をもたらし、これは制限−酵素−消化−遺伝子DNAのサザンプロット分析により判定されている(試験クローンのうち39/40が予測されたサイズのプロウイルスを有した)。
【0210】
これらレトロウイルスベクターの生物学的特性は以降に詳細する。このHIVtat遺伝子(「tathis」ベクター:図11参照)をマウスPA317細胞に導入せしめた。5個の独立したヒスチジノール耐性サブクローンが得られ(TH1−5)、それらはHIV tatを発現する。これらの細胞を従ってHIV感染の実験標品とした。これらのベクターKTVIHAX,KTVIH5NEO及びMHMTKNEOを、これらtat発現性細胞系並びにそれられの親細胞であってtatを欠くものの中に感染によって逐次導入せしめた。次に細胞の生存性を種々の濃度のHSVTK−特異性細胞障害薬アシクロビル(ACV)において測定した。
【0211】
データーはLD50としてここで報道する(50%の毒性が観察される薬剤濃度)。このベクターを含むがtatの欠く親細胞系(非−HIV−感染化標品)は、試験した濃度でドACVによる瞳害が認められなかった(図12参照)。これらの細胞は障害されるためには100μM以上のACVを必要とした。これは、このベクターを欠く細胞も同様であった。従ってベクター単独、ACV単独、又はベクタ+ACV(べた塗り枠)は細胞障害性でない。しかしながら、HIV tatを発現する細胞系(HIV感染の代表的な実験)はACVにより効率的に殺傷された。これは試験した3種のベクター全てについての程度の変化において同様であった。これらのデーターが示すには、HIV−感染化細胞はACV及び「潜在性」ベクターの存在下において殺傷されうることである。
【0212】
類似の実験において、ベクターKTVIHAX及びKTVIH5Neoを、ヒトT細胞並びに単球細胞系SupT1、HL60及びU937細胞に感染によって導入せしめた。その後、これらの細胞をtathis又はdtatベクターにより感染せしめ、ヒスチジノールで選別し、そして種々の濃度のACV類似体、FIAVで細胞生存率を調べた。表1(以下)に報告するLD50が示すには、ベクターに伏するFIAV毒性の上昇がHIVの非存在下において起き、しかしtatが存在すると更に10〜20倍上昇することである。このことは、HL60細胞以外の全てにおいてHSVTK発現のべ一スラインが存在するにもかかわらず、HIV tatの存在下で発現は更に大きくなることを示唆する。
【表2】
【0213】
同様に、ヒトT−細胞系H9+/−FIAUは、5倍のHIV感染の優先的阻害(細胞殺傷を通じて)を示した。まず培養物をベクターで処理し、次にHIVに4日間にわたりさらした。次いでウイルス上清液をIV章で詳細にHIVアッセイを検定した。
【0214】
HIV感染化細胞の場合において、条件的致死HSVTK遺伝性の発現は、転写におけるシス−作用要素(“CRS/CAR”)を含ませることによってよりHIV−特異性とすることがき、これは更なるHIV遺伝子生成物revを最適活性のために必要とす(Rosenら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 35:2071、1988)。このようなtat−及びrev応答性ベクター(RRKTVIH)を作製し(図10参照)、そして両性的ウイルスが作製された。より一般的には、mRNAにおけるcis要素はmRNAの安定性又は翻訳能力を調節することを示す場合がある。このタイプの配列(即ち、遺伝子発現の転写後の制御)はベクター遺伝子発現の現象−又は組織−特異性制御に利用されうる。更に、このような配列の複合化(即ち、HIVのためのtat−応答性「TAR」要素又はrev−応答性「CRS/CAR」)はより高い特異性をもたらしうる。細胞における不活性前駆体の活性化生成物へのこのような種類の条件的活性化は、短い効果を有すその他のウイルスベクター、例えばアデノウイルスを用いることによっても達成されることが理解されるであろう。このようなベクターは、数日から1ケ月位の期間にわたり、細胞の中に効率的に侵入し、且つ該ベクターによりコードされるタンパク質を発現せしめることができる。この時間の長さは、HIV及び該組換ウイルスの両者によって感染化された細胞の殺傷を十分に可能にし、該組換ウイルスを運搬する遺伝子の発現性のHIV依存型活性化をもたらす。次にこの遺伝子発現は不活性な前駆体の活性化(即ち、致死性)生成物への変換を可能にする。
【0215】
ベクター調製品の調製、濃縮及び保存は前記した通りである。投与は前記と同様に直接的なインビボ投与又はPBL及び/もしくは骨髄の体外処理による。投与量は実施例4とほぼ同じレベルでありうる。ウイルスベクター感染を標的とすることは、CD4リセプターを介するではなく、リセプターとしてHIV envタンパク質(gp120)を用いて細胞を感染せしめるベクター粒子を製造することを介することにより成し遂げられうるであろう。このようなHIV−トロピックウイルスは、細胞膜に自然に高レベルのCD4タンパク質を有する細胞(例えばSupT1細胞)又はタンパク質を発現する任意の「操作された」細胞タイプから作製されたMLV−べ一スパッケージング細胞系から作られうる。得られるビリオン(それ自体の細胞膜から出現することにより形成されるもの)はその膜においてCD4タンパク質を含む。CD4を含む膜はHIV envを有す膜と融合するため、これらのビリオンはHIV envを含む膜と融合し、そして表層にgp120を有すHIV感染化細胞の特異的な感染をもたらすであろう。このようなパッケージング細胞系は、感染性ビリオンをもたらす適切なビリオン集成及び発生を可能とするMLV envタンパク質の存在を必要としうる。もしそうならば、ヒト細胞に感染しないMLV env(例えばエコトロピック(ecotropic)env)は用いることにより、ウイルスの侵入はCD4/HIV env相互作用を介してのみ起き、そしてMLV env細胞リセプターを介しては起きないことにすることができる。これはおそらく感染のためのHIV−envの存在に依存しないであろう。他方、MLV envのための要件はハイブリドエンベロープであって、そのアミノ−末端結合性ドメインがCD4のアミノ−末端HIV−env結合性ドメインに置き代ったものにより満足されうる。正常なウイルス−リセプター相互作用のこの変換は全てのタイプのウイルスであってその細胞リセプターが同定されているものに利用される。
【0216】
先の態様と類似の方法において、該レトロウイルスベクタ一構造体リン酸化、ホスホリボシル化、リボシル化又はその他のプリン−もしくはピリミジンベース薬剤の代謝のための遺伝子を運搬することができる。この遺伝子は哺乳動物細胞において相当するものないであろう。そしてそれらは例えばウイルス、細菌、菌類又はプロトゾーンに由来するであろう。この例には、チオキサンチンの存在下において致死性のE.コリ(E.coli)グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ遺伝子生成物が挙げられる(Besnardら、Mol.Cell.Biol.7:4139−4141、1987参照)。このタイプの条件的致死遺伝子生成物は、有効な細胞障害剤となるために細胞内リボシル化又はリン酸化をしばしば必要とする、多数の現在知られているプリン又はピリミジンベース抗癌剤に潜在用途を有す。この条件的致死遺伝子生成物は、プリン又はピリミジン類似体でない非毒性剤を細胞障害性の型へと代謝することもできる(Searleら、Brit.J.Cancer 53:377−384、1986を参照)。
【0217】
一般に哺乳類のウイルスは、その他のウイルスプロモーター要素に由来する逐次的な転写活性に必要な「即時型初期」遺伝子を有す傾向にある。この種の遺伝子生成物はウイルス感染の細胞内シグナル(又は「認識因子」)のための優れた候補である。従って、このようなウイルス「即時型初期」遺伝子生成物に応答性の転写プロモーター要素からの条件的致死遺伝子は、任意の特定のウイルスに感染された細胞を特異的に殺傷せしめる。更に、ヒトα及びβインターフェロンプロモーター要素は広範囲にわたる無関係なウイルスにより感染への応答において転写活性化されるため、例えばこのようなウイルス−応答性要素(VRE)由来するHSVTKのような条件的致死性遺伝子生成物を発現するベクターの導入は、種々の異なるウイルスにより感染された細胞の破壊をもたらすことができる。
【0218】
第4の態様において、この組換レトロウイルスは、それ自体は毒性でないが、しかしあるタンパク質、例えばウイルス又はその他の病原体に特異的なプロテアーゼによりプロセスもしくは改質された場合に毒性の型へと変化する生成物を特定する遺伝子を運搬する。例えば、この組換レトロウイルスは、HIVプロテアーゼによるプロセッシングによって毒性となるリシンA鎖のプロタンパク質をコードする遺伝子を有することができる。より許しくは、この毒性リシン又はジフテリアAの合成的不活性プロタンパク質の型を切断せしめて活性の型にする。これは認識されるHIVウイルスコードプロテアーゼを用意しそして適当なプロ要素を切断することによる。
【0219】
第5の態様において、このレトロウイルス構造体は細胞における認識因子(例えばHIV tatタンパク質)の存在に応答性の、標的細胞の表層において「リポーティング生成物」を発現しうる。この表層タンパク質は細胞障害性因子、例えばリポーティングタンパク質に対する抗体又は細胞障害性T−細胞によって認識されうる。類似の方法において、このような系は、認識されるタンパク質、例えばHIV tat遺伝子を発現する特定の遺伝子を有す細胞の簡単を同定のための検出系に利用できる(以下参照)。
【0220】
同様に、第6の態様において、それ自体が治療に有利な表層タンパク質が発現されることができる。HIVの特定のケースにおいて、特にHIV感染化細胞におけるヒトCD4タンパク質の発現は2通りの方法において有利でありうる。
【0221】
1. CD4のHIV envへの細胞間結合は、系統的クリアランス及び考えられる免疫原性の問題を伴うことなく、可溶性CD4が自由ウイルスに対して示すのと同程度に生存ウイルス粒子の形成を阻害することができる。その理由は、このタンパク質は膜結合し続け、そしてこれは内因性CDT4(患者は免疫的に耐性である)と構造的に同一であるからである。
【0222】
2. CD4/HIV env複合体は細胞死の原因と関連するため、CD4の更なる発現は(HIV−感染化細胞に存在する過剰のHIV−envの存在下において)より迅速な細胞死をもたらし、従ってウイルスの繁殖を防ぐ。このことは、細胞のHIV−誘発細胞障害性に対する相対不応性(これは、それらの細胞表層におけるCD4の相対欠損に起因することと理解されている)の結果としてのウイルス生産に対する受容体として働く単球又はマクロファージに特に適用しうる。
【0223】
実施例6
p4TVIHAXレトロウイルスベクターの作製(図13参照)
1. 9.4kbのAsuII/XhoIフラグメントをpN2から単離した。
【0224】
2. 0.6kbのXhoI/EcoRI HIVプロモーターをpSKHLから単離した。
【0225】
3. 1.4kbのヒトCD4をコード領域を発現ベクターpMV7T4からEcoRI/BstY1(XhoII)フラグメントとして単離した。
【0226】
4. HSVTKの(A)nシグナルを0.3kbのApaI/SmaIフラグメントとして単離し、T4ポリメラーゼとdNTPで3’修復せしめ、そしてpUC31のSmaI部位にクローン化せしめた。細菌への形質転換後、方向性についてクローンを制限酵素分析によってスクリーンした(p31〔A〕n〔+/−〕)。次に0.3kbの(A)nシグナルを0.3kbのBglII/AccIフラグメントとして単離した。
【0227】
5. 次に0.3kbの(A)nフラグメントを0.3kbのBglII/AccIフラグメントとして単離した。
【0228】
5. 1〜4のクローンを混合し、リゲートさせ、細菌の形質転換に用い、そしてクローンを制限酵素分析によって同定した。
【0229】
組換両向性(amphotrophic)レトロウイルスが製造でき、そしてヒト単球及びT−細胞であってHIV tat発現ベクター、tathisを有す又は有さないものに導入せしめた。HIVenv発現マウス繊維芽細胞によるシンシチアアッセイが示すには、単球細胞系HL60及びU937自体はこれらの細胞と融合するための十分なCD4を欠いていることである。しかしながら、HL60及びU937細胞はであってベクター4TVIHAXを含むものは、HIV tatが存在する場合はリポーター細胞(HIV−enx発現細胞)と融合でき、しかし非存在下では融合できない。これらのデーターは、CD4発現が誘発性であり、そして生物学的に活性(シンシチア形成により判断)であることを示唆する。ヒトT細胞系、H9におけるベクターによる実験は、HIV感染に起因する特別に高い毒性及び比較的低いHIV力価(このベクターを欠くH9細胞において提供されるHIV力価より1/200以下)を示した。
【0230】
第7の態様において、このレトロウイルスベクターは、このベクター感染化細胞の生存のために必須なRNA分子を分解及び不活性化せしめるリボザイムをコード化する。病原性因子、例えばHIV tatに関連する細胞内シグナルに依存してリボザイム提供を行うことにより、毒性は病原性因子に特異的になる。
【0231】
IV.免疫ダウンレギュレーション
前記で簡潔に述べ通り、本発明は該レトロウイルスにより感染された標的細胞における免疫系の1又は複数の要素を抑制できるベクター構造体を運搬する組換レトロウイルスを提供する。
【0232】
不適切又は不要な免疫応答、例えば慢性肝炎又は異種組織例えば骨髄の移植における免疫応答の特異的なダウンレギュレーションは、移植(MHC)抗原の表層発現を抑制する免疫−抑制ウイルス遺伝子生成物を用いることによって操作できる。グループCアデノウイルスAd2及びAd5はウイルスのE3領域においてコード化される19kdの糖タンパク質(gp19)を保有する。このgp19分子は細胞の小胞体におけるクラスIMHC分子と結合し、そして末端グリコシル化及び細胞表層へのクラスIMHCのトランスロケーションを妨げる。例えば、骨髄移植の前に、提供者の骨髄細胞をgp19−コード化ベクター構造体により感染せしめることができる。これはgp19の発現に基づき、MHCクラスI移植抗原の表層発現を阻止する。このような提供者細胞は、移植拒絶の低い危険性を伴って移植されることができ、そしてこの移植患者のために最小なる免疫抑制因子で十分となりうる。このことは、少ない合併症を伴う、有用な提供者−受容者キメラ状態の存在を可能にする。同様の処理は、紅斑性狼瘡、多発性硬化症、リウマチ様関節炎又は慢性B型肝炎感染を含む自己免疫疾患と称される範囲の疾病の治療にも利用されうる。
【0233】
他の方法は、アンチセンス情報、リボザイム又はその他の、自然において自己応答性のT細胞クローンに特異的な、特定の道伝子発現性阻害因子の利用を含む。これらは自己免疫応答に重要な、特に不要なクローンのT−細胞リセプターの発現性をブロックする。このアンチセンス、リボザイム又はその他の遺伝子は、ウイルスベクター運搬系を用いて導入されうる。
【0234】
V.マーカーの発現
ある認識因子に応答性の、細胞における緩和剤を発現せしめる前記の技術は、認識タンパク質を発現する細胞における特定の遺伝子の検出を可能とするために改良できる(例えば、特定のウイルスにより運搬される遺伝子)。それ故、このウイルスを有する細胞は検出されうる。更に、この技術は、ウイルス(例えばHITV)に一体化した認識タンパク質を有す細胞の臨床サンプル中のウイルスの検出を可能とする。
【0235】
この改良は、容易に同定されるある生成物をコード化するゲノムを提供し(マーカー生成物)、そしてこのリポーティング生成物の発現性を発現と非発現状態の間でスイッチせしめることによってインディケーター細胞における認識タンパク質の存在に応答するプロモーターを運搬することによって成し遂げられる。例えばHIVは、適当なインディケーター細胞に感染すると、tat及びrevを作り出す。従って、このインディケーター細胞に、マーカー遺伝子例えばアルカリホスファターゼ遺伝子、β−ガラクトシダーゼ遺伝子又はルシフェラーゼ遺伝子及びこのマー力一遺伝子の発現をコントロールするプロモーター、例えばHIVプロモーターをコードするゲノムを付与せしめることができる(例えば、適切な組換レトロウイルスによる感染による)。このインディケーター細胞を試験すべき臨床サンプルと接触させ、そしてこのサンプルがHIVを含む場合、このインディケーター細胞はHIVにより感染され、その中にtat及び/又はrev発現性がもたらされる。従って、このインディケーター細胞におけるHIV発現性コントロールは、β−ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ又はアルカリホスファターゼ(マーカー生成物)の遺伝子の発現性を通常「オフ」から「オン」にスイッチせしめることにより、tat及び/又はrevタンパク質に応答するであろう。β−ガラクトシダーゼ又はアルカリホスファターゼのケースにおいて、この細胞を基質類似体に接触させることは、もしこのサンプルがHIVについて陽性ならば色又は蛍光の変化をもたらす。ルシフェラーゼの場合、サンプルをルシフェリンと接触させることは、もしこのサンプルがHIVについて陽性ならばルミネッセンスをもたらすであろう。細胞内酵素、例えばβ−ガラクトシダーゼについては、このウイルス力価は着色もしくは蛍光細胞を直接計測することにより、又は細胞抽出物を作製し、そして適切なアッセイを行うことにより測定されうる。膜結合型アルカリホスファターゼについても、ウイルス力価は蛍光基質を用いて細胞表層に基づく酵素アッセイを行うことによって測定されうる。分泌型酵素、例えば操作せしめたアルカリホスファターゼの型については、活性について少量の培養上清液のサンプルがアッセイされ、これは単一培養物の時間における連続モニターを可能とする。従って、このマーカー系の異なる型は異なる目的のために利用されうる。これらには、活性ウイルスの計測又は培地に散布したウイルスを高感度且つ容易に測定すること、及び種々の薬剤によるこの散布物の阻害を含む。
【0236】
更なる特異性が先の系に組入れることができる。それはウイルスの存在についての試験をそのウイルスに対する抗体を中和する又は中和しないいずれかによって行うことによる。例えば、試験すべき臨床サンプルの一部はHIVに対する抗体の中和を行い、そして他の一部は抗体の中和を行なわない。抗体の存在するシステムが陰性であり、そして抗体の存在しないものが陽性の場合、これはHIV存在の確認に役立つであろう。
【0237】
インビロアッセイのための類似の系において、特定の遺伝子、例えばウイルス遺伝子の存在は細胞サンプルにおいて決定されうる。この場合において、このサンプルの細胞を、対象のウイルスの発現コントロールに結合したリポーター遺伝子を有す適切なレトロウイルスベクターにより感染せしめる。このリポーター遺伝子はこのサンプル細胞に侵入した後、この宿主細胞が適切なウイルスタンパク質を発現せしめる場合にのみ、そのリポーティング生成物(例えばβ−ガラクトシターゼ又はルシフェラーゼ)を発現するであろう。
【0238】
これらのアッセイはより迅速且つ高感度であり、その理由はこのリポーター遺伝子は存在している認識因子よりも大量のリポーティング生成物を発現するからであり、これは増幅効果をもたらす。実施例7は認識タンパク質を発現する遺伝子を検出するための代表的な技術を詳細する。
【0239】
実施例7
HIV−特異的マーカー系又はアッセイ
A.構造体
HIV発現系のコントロール下にあるリポーター構造体を図14(組換レトロウイルスベクター)及び図15(トランスフェクションに用いられる単一プラスミド)に示す。このような好適なベクター及びプラスミドリポーターの断片は以下に由来する:
このレトロウイルスの基盤は、XhoI及びClaIを用いて直鎖状にせしめた構造体pAFVXM(Krieglerら、Cell 38:384、1984)に由来する。SV2neoは1.8kbのClaIフラグメントの単離により、プラスミドpKoneo(Hanahan、未未公開)から得た。
【0240】
このHIV LTRをプラスミドpC15CAT(Aryaら、Science 229:69、1985)から0.7kbのHindIIIフラグメントとして単離した。ベクターgalはプラスミドpSP65β−gal(Cepko、pers、comm.)から、HindIII−SmaIフラグメントとして得た。ヒト胎盤性アルカリホスファターゼの分泌型は、ユニバーサルターミネーター配列をアルカリホスファターゼの細胞表層型のアミノ酸489の後に導入せしめることにより作製した(Bergerら、Gene 66:1、1988による)。この分泌型アルカリホスファターゼ遺伝子を1.8kbのHindIII〜KpnIフラグメントとして単離した。HIV envに由来するCRS−CAR配列は、HTLVIIIB/BH10R3由来の2.1kbのKpnI〜BamHIフラグメントを単離することによって得られた(Fisherら、Science 233:655、1986)。このフラグメントをBamHIにより直鎖状にせしめたpUC31に挿入せしめ、そしてKpnIpUC31は、pUC19のEcoRIとKpnI部位の間にXhoI,BglII、BsshII及びNcoI部位を更に有するpUC19である(Yanisch−Perronら、Gene 33:103、1985)。得られる構造体のBamHI部位をNcoI部位へと変化させ、NcoI消化によるCRS−CAR配列の再区分(resection)を可能にさせた。SV40tイントロンをpSVOL(de Wetら、Mol.Cell.Biol.7:725、1987)から、0.8kbのNcoI〜BamHIフラグメントとして得た。
【0241】
B.インディケーター細胞及びレトロウイルスベクター
ヒトT−細胞(H−9、CEM及びSupT1)及び単球(U−937)細胞系をATCCから入手し、そして10%の牛血清及び1%のペニシリン/ストレプトマイシンの添加されたRPM11640培地に維持せしめた。
【0242】
非レトロウイルスベクターを細胞系の中に、バイオ−ラッド(Bio−Rad)ジーンパルサーを用いてエレクトロポレーションにより導入せしめた。細胞系を2〜3週間にわたりG−418(1mg/ml)で選別し、安定的なG−418R細胞系を得、そして次にクローン細胞系を得るために希釈クローンせしめた。
【0243】
pAFベクターをPA317パッケージング細胞系の中に、リン酸カルシウム沈殿物として導入せしめた(Wiglerら、Cell 16:777、1979)。このウイルス産生PA317細胞をヒト単球細胞系とポリブレンの存在下において24時間にわたり共培養し、その後この懸濁細胞を取り出し、そしてG−418において選別し、前記の通りにサブクローンせしめた。
【0244】
C.アッセイ
安定な細胞系をHIV(HTLVIIIB)により感染せしめ、そしてこの細胞(β−gal)又は媒体(アルカリホスホァターゼ)を、感染後6日目に通常の方法によりアッセイした。
【0245】
β−ガラクトシダーゼアッセイ
感染化細胞は以下のいずれかによりアッセイされうる:(i)MacGregorら(Somatic Cell and Mol.Genetics 13:253、1987)に詳細のインシトウ組織化学染色:又は(ii)基質としてONPGを用いる溶液酵素アッセイにおける細胞抽出物の利用(NortonとCoffin、Mol.Cell.Biol.5:281、1985)。
【0246】
溶液アルカリホスファターゼアッセイ
感染化細胞から培地を取り出し、10秒間遠心し、次いで68℃で10分間加熱させて内因性ホスファターゼを破壊せしめた。この培地を次に2分間遠心し、そしてアッセイのためのアリコートを取り出した(10〜50μl)。l00μlの緩衝液(1Mのジエタノールアミン、pH9.8;0.5mMのMgCl2;10mMのL−ホモアルギニン)を加え、次いで120mMのp−ニトロフェニルホスフェート(緩衝液中)20μlを加えた。この反応混合物のA405を自動プレートリーダーを用いてモニターした。
【0247】
図16及び図17は、種々の抗ウイルス剤濃度の存在下におけるアルカリホスファターゼアッセイを用いた、SupT1細胞の感染の経時変化の典型的な結果である。6日目の「+」及び「−」はシンシチアの有無を示す。
【0248】
本発明は前記に採用するレトロウイルスベクター系と一緒に利用することでその性能を高めることができるその他の多くの技術(以下詳細)を提供する。一方、これらの技術はその他の遺伝子−運搬系と一緒に利用することもできる。
【0249】
VI.パッケージング細胞選別
本発明のこの観点はある程度、パッケージング細胞に由来する組換ウイルスの低力価の主なる原因の発見及びこのような原因を解決する技術に基づいている。一般に、少なくとも5つの要因が低組換ウイルス力価の原因として挙げられる。
【0250】
1. ウイルスパッケージングタンパク質の限定された利用性;
2. レトロウイルスベクターRNAゲノムの限定された利用性;
3. 該組換レトロウイルスの発生のための細胞膜の限定された利用性;
4. 該組換レトロウイルスベクターゲノムの限定された固有パッケージング効率;及び
5. 対象のレトロウイルスのエンベロープに特異的なリセプターの密度。
【0251】
前記した通り、ウイルスパッケージングタンパク質の限定された利用性は、パッケージング細胞からの組換レトロウイルス提供における主な制限要因である。このパッケージング細胞におけるパッケージングタンパク質のレベルが上昇すると、力価はおよそ105感染姓ユニット/ミリリットル迄上昇するが、この上昇するパッケージングタンパク質レベルは力価に更なる影響を及ぼさない。しかしながら、力価はパッケージングに有用なレトロウイルスベクターゲノムのレベルの上昇によっても更に上昇されうる。従って、本明細書に詳細の通り、パッケージングタンパク質及びレトロウイルスベクターゲノムの最大レベルを生産する提供細胞を選別することが好都合である。「発明の背景」の章のもとで初めに詳細した、パッケージング細胞及び提供細胞を同定及びそれにより選別するための方法は、以下の理由により、低力価を提供する多数の提供細胞の選別をもたらす傾向にあることがわかった。
【0252】
本発明は、5’LTR又はその他のプロモーターの下流にあり、介在遺伝子が置かれている遺伝子の発現レベルが、その介在遺伝子がないものよりも実質的に低いという先の欠点的な事実を利用する。本発明において、選別可能な遺伝子は、パッケージングゲノムの遺伝子又はこのベクター構造体により運搬される対象の遺伝子の下流に位置するが、しかしそれらは未だ、いかなるスプライスドナーもしくはスプライス受容部位を伴うことなく、ウイルス5’LTR又はその他のプロモーターのコントロール下で転写される。このことは2つの事を達成せしめる。第1は、パッケージング遺伝子又は対象の遺伝子はそれらとプロモーターとの間に介在遺伝子を有さずに上流にあるため、それらに関連するタンパク質(パッケージングタンパク質又は対象のタンパク質)は選別可能なタンパク質よりも高いレベル(5〜20倍)で発現されるであろう。第2に、選別可能なタンパク質は、発現のレベルの分布が低レベルヘとシフトした、平均的に低いレベルで発現されるであろう。phleorタンパク質の場合において、この分布におけるシフトは図18において示す破線曲線により示す。しかしながら、フレオマイシン(phleomycin)に対する耐性についての選別レベルはそのままであり、従って最大発現性細胞のみが生存する。パッケージングタンパク質又は対象のタンパク質のレベルは、高レベルの選別可能タンパク質がより高レベルのパッケージングタンパク質又は対象のタンパク質と一致する場合においてのみ比例し続ける。
【0253】
好ましくは、先の方法は第1選別可能遺伝子を伴って、プロウイルスgag/pol又はenvパッケーシング遺伝子の1つを有するプラスミドを用いて行う。次にこれらの細胞を、env(又は可能ならgag/pol)に対する抗体、第2蛍光抗体との反応及びその後蛍光−活性化細胞ソーター(FACS)で選別せしめることにより、タンパク質を最高レベルで発現する細胞についてスクリーンした。他方、タンパク質レベルについてのその他の試験も利用できる。その後、この方法及びスクリーニングはそれら選別した細胞及びgag/pol又はenvパッケージング遺伝子のその他を利用して繰り返される。この段階において、第2の選別可能な遺伝子(第1のものと異なるもの)がこのパッケージング遺伝子から下流に必要とされ、そして最大量の第2ウイルスタンパク質を生産する細胞が選別される。この方法及びスクリーニングを、対象の遺伝子及び第1又は第2選別可能遺伝子とは異なる第3選別可能遺伝子を抱えるプロウイルスベクター構造体を有すプラスミドを有す生存細胞を用いて繰り返した。この方法の結果、高力価の所望の組換レトロウイルスを生産する細胞が選別されることができ。そしてこれらは組換レトロウイルスの供給を必要とする際には培養されうる。更に、gag及びpolが独立して導入及び選別できる。実施例8はこれらの方法に用いるためにデザインされた。gag/pol及びenvプラスミドの作製も詳細する。
【0254】
実施例8
高レベルのパッケージングタンパク質を作るためにデサインされたプラスミド(図19)
1. 両性envセグメントを含むpPAM由来の2.7kbのXbaIフラグメント(Millerら、Mol,Cell.Biol.5:431、1985)をpUC81にXbaI部位にてクローン化せしめ、次いでHindIII及びSmaIにより取り出した。このフラグメントを、HindIII及びPvuIIで切断せしめたベクターpRSVneo(Gormanら、Mol.Cell.Biol.2:1044、1982;Southernら、J.Mol.Appl.Genet.1:327、1982)の中にクローンせしめ、pRSVenvを付与せしめた。プラスミドpUT507(Mulsantら、Somat Cell.Mol.Genet.14:243、1988)に由来する、BstEII末端の補完された0.7kbのBamHI〜BstEIIフラグメントはphleo耐性コード配列を有す。4.2kbのBamHI〜XhoIフラグメント、RSVenv由来の連続的な1.6kbのXhoI〜XbaI(XbaIは補完されている)及びphleoフラグメントをリゲートせしめ、pRSVenv−phleoを得た。
【0255】
2. MLV(RNA Tumor Viruses、Vol.II、Cold Spring Harbor、1985)の563番目のヌクレオチドのPstI部位から5870番目のScaI部位のフラグメントをpMLV−K(Millerら、1985,op.cit.)から得、そしてSV40プロモーター、pBR322アンピシリン耐性及び複製の起点並びにSV40ポリA部位を有すp4aA8(Jollyら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 80:477、1983)由来のPstI〜BamHIフラグメント(BamHIは補完済み)にクローンせしめた。これによりpSVgpが得られた。pSVgpDHFRは以下のフラグメントを用いて作製した。SV40プロモーター及びMLV並びにいくつかのpol配列を含む、3.6kbのHindIII〜SalIフラグメント;残りのpol遺伝子を有すpMLV−K由来の2.1kbのSalI〜ScaIフラグメント;DHFR遺伝子及びポリA部位、pBR322起源並びにアンピシリン耐性遺伝子の半分を有す、pF400由来の3.2kbのXbaI(XbaI補完)〜PstIフラグメント;残り半分のアンピシリン耐性遺伝子を有す、pBR322由来の0.7kbのPstI〜HindIIIフラグメント。これによりpSVgp−DHFRが得られた。これらの構造体全てを図19に示す。これらのプラスミドを3T3細胞又はその他の細胞に導入せしめることによって、高レベルのgag,pol又はenvが得られる。
【0256】
選別を成し遂げるための更なる方法は、最初のラウンドにおいて遺伝子選別を、そしてその次のラウンドにおいてそのアンチセンスを利用することである。例えば、HPRT遺伝子を伴ってHPRT欠失細胞の中にgag/polを導入せしめ、そしてこの媒体であってプリンの再利用のためにHPRTを必要とするものを用いることにより、この遺伝子の存在について選別することができる。次のラウンドにおいて、HPRTに対するこのアンチセンスをenvの下流に運搬せしめ、そしてこの細胞を6チオグアニンにおいて、HPRT−欠失表現型について選別することがきる。復帰を全く起こさせずにHPRT遺伝子転写を不活性化せしめるためには、大量のアンチセンスHPRTが必要とされるであろう。
【0257】
MoMLVの563番目のヌクレオチドから開始するgag/pol発現構造体の他に、上流リード配列を含む複数のその他のものが作製できる。Pratasら(RNA Tumor Viruses Meeting、Cold Spring Harbor、N.Y.,1988)によると、gagタンパク質のグリコシル化型はヌクレオチド357で開始し、そして翻訳エンハンサーはヌクレオチド200〜270の間の領域において位置することがわかっている。従って、gag/pol発現構造体は、これら上流要素を含みそしてベクター製造を高めるために、BalI部位(ヌクレオチド212)又はEagI部位(ヌクレオチド346)で始まるように作られうる。
【0258】
エンベロープ置換
gag/pol及びenv機能を別々に発現せしめる能力はこれらの機能を独立に取り扱うことを可能にする。大量のgag/polを発現する細胞系は、例えばenvに関連する力価の問題を解決するのに利用されうる。低力価をもたらす1の要因は標的細胞又は組織上の適切なリセプター分子の密度である。第2の要因はウイルスエンベロープタンパク質に対するリセプターの親和性である。env発現は独立のユニットに由来するため、種々の起源に由来する種々のエンベロープ遺伝子(異なるリセプタータンパク質を必要とするもの)、例えば異種親和性(xenotropic)、ポリ親和性(polytropic)又は両性親和性(amphotrophic)envを特定の標的組織に基づき、最も高い力価について試験した。更に、非ネズミレトロウイルス起源由来のエンベロープを、ベクターを擬態するために利用できる。擬態(即ち、エンベロープタンパク質が新生ベクター粒子と細胞膜の細胞質側で相互作用して生存ウイルス粒子を提供せしめること(Tata、Virology 88:71、1978)、及びしないこと(Vana、Nature 336:36、1988)の正確な法則はよく特徴付けられていない。しかしながら、ウイルスエンベロープを形成するように細胞膜の断片が発生するため、この膜に正常に存在する分子はこのウイルスエンベロープ上において保有される。従って、多数の異なる潜在的なリガンドを、このベクターが製造される、gag及びpolを作製する細胞系を処理することによってこのウイルスベクターの表層上置くか、又は特定の表層マーカーを有する種々のタイプの細胞系を選ぶことができる。ヘルパー細胞において発現されることができ、且つ有用なベクター−細胞相互作用を提供できる1つのタイプの表層マーカーは、他の潜在的な病原性ウイルスのためのリセプターである。この病原性ウイルスは感染せしめた細胞表層上に、そのウイルス特異タンパク質(例えばenv)であってウイルス感染を付与せしめるためにその細胞表層マーカー又はリセプターと通常相互し作用するものを表わす。これは、同一のウイルスタンパク質−リセプター相互作用を用いることにより(しかし、ベクター上のリセプター及び細胞上のウイルスタンパク質によってではなく)、潜在的な病原性ウイルスに関するベクターの感染の特異性を復帰せしめる。
【0259】
無関係なエンベロープタンパク質であって、製造されるベクターによる標的細胞の感染をもたらすことはないが、感染性ウイルス粒子の形成を促進せしめるものについてコードする遺伝子を含むことが望ましい。例えばヘルパー系としてヒトSupT1細胞が利用できる。このヒトT−細胞系は高レベルにてその表層上にCD4分子を発現する。これのヘルパー系への転換は、適切な発現ベクターによる発現により成し遂げられ、そしてまた必要ならば、無関係(ヒト細胞に対して)エンベロープタンパク質としてモロニーエコトロピックenv遺伝子生成物(このモロニーエコトロピックenvは、マウス細胞の感染のみをもたらす)により成し遂げられる。このようなヘルパー系から作られるベクターはその表層上にCD4分子を有し、そしてHIV envを発現する細胞、例えばHIV−感染化細胞のみを感染せしめることができるであろう。
【0260】
更に、ハイブリドエンベロープ(以下に詳細)を、レトロウイルスベクターの向性(tropism)(及び有効に高められた力価)を仕立てるために同様にこの系に利用できる。大量の対象のエンベロープ遺伝子を発現する細胞系が、gag及びpolに関連する力価の問題の解決に採用されうる。
【0261】
細胞系
MoMLVベクター系(psi2,PA12,PA37)のために最も一般的に利用されるパッケージング細胞はネズミ細胞系に由来する。なゼネズミ細胞系がヒト治療用ベクターの製造のために最も適切ではないかの理由は複数ある。
【0262】
1. それらは内因性レトロウイルスを含むことで知られている。
【0263】
2. それらは非レトロウイルス又は欠陥レトロウイルス配列であって有効にパッケージ化することで知られるものを含む。
【0264】
3. それらはネズミ細胞膜成分の存在により起因する有毒因子でありうる。
【0265】
複数の非ネズミ細胞系は潜在的なパッケージング系である。それらは、ポリオワクチンの製造のためにヨーロッパで利用されているVero細胞、ワクチンの製造において米国で利用されているWI38,TPAの製造のために米国で利用されているCHO細胞及び内因性ウイルスを有さないその他のイヌ細胞を含む。
【0266】
レトロウイルスベクターによる特異的な細胞タイプの有効感染をもたらす要因が完全に理解されていないにもかかわらず、それらの比較的高い突然変異率の理由により、初期増殖が劣っている細胞タイプにおけるめざましく改善される増殖のために、単に連続的な再感染及びその細胞タイプ(該アダプター細胞)におけるこのウイルスの増殖によって適合できうることが明白である。これはいくらかのウイルス機能(例えばenv)をコードし、そして感染性ベクター粒子(例えばgag/pol)を放つために該ベクターの機能を補完するのに必要な機能を有するように操作された特定のタイプの細胞に連続的継代されたウイルスベクターを用いることによっても成し遂げられうる。例えば、ネズミ両性親和性ウイルス407Aをヒト細胞もしくは単球に適合せしめることを、プライマリー細胞培養物又は永久細胞系、例えばSupT1(T−細胞)又はU937(単球)のいずれかの連続増殖もしくは再感染によりできる。最大増殖が達成されたら(逆転写酵素レベル又はその他のウイルス生成物のアッセイにより)、このウイルスを多数の標準方法のいずれかによりクローン化せしめ、このクローンを活性についてチェックし(即ち、アダプター細胞タイプヘのトランスフェクションに基づく同程度の最大増殖特性を提供する能力)、そして欠陥ヘルパーゲノム及び/又はベクターであって適切に製造されたヘルパー又は提供系におけるものの作製に利用されるこのゲノムは、感染し且つ高い効率(108〜109感染性ユニット/ml)を伴ってアダプター細胞において発現するウイルスベクター粒子の製造をもたらすであろう。
【0267】
VII. 択一的なウイルスベクターパッケージ技術
2つの更なる択一的な系がこのベクター構造体を有す組換レトロウイルスの製造に利用できる。これらの系それぞれは、昆虫ウイルス、バクロウイルス並びに哺乳類ウイルス、ワクチン及びアデノウイルスが、大量の任意の対象タンパク質を作るために、その遺伝子がクローンされるものに適合するという最近の事実を利用する。例えばSmithら(Mol.Cell.Biol.3:12、1983);Picciniら(Meth.Enzymology、153:545、1987);及びMansourら(Proc,Natl.Acad.Sci.USA 32:1359、1985)を参照のこと。
【0268】
これらのウイルスベクターは、適切な遺伝子をウイルスベクターの中に挿入せしめ、そしてそれ故レトロウイルスベクター粒子を作製するために適合できうることによって、組織培養細胞においてタンパク質を製造するために利用できる。
【0269】
アデノウイルスベクターは核複製ウイルスに由来し、それらは欠陥でありうる。遺伝子をベクターの中に挿入せしめ、そしてインビトロ作製(Balleyら、EMBO J.4:3861、1985)又は細胞における組換(Thummelら、J.Mol.Appl.Genetics 1:435、1982)のいずれかによって、哺乳類細胞におけるタンパク質の発現に利用される。
【0270】
1つの好ましい方法は、(1)gag/pol、(2)env、(3)改良ウイルスベクター構造体を作動せしめるアデノウイルス主要後期プロモーター(Major Late Promoter)(MLP)を用いてプラスミドを作製することである。改良ウイルスベクター作製が可能なのは、ウイルスベクタープロモーターを含む5’LTRのU3領域はその他のプロモーター配列によって置換されうるからである(例えばHartman、Nucl.Acids Res.16:9345、1988を参照のこと)。この部分は3’LTRからのU3による1ラウンド逆転写酵素の後に交換されうるであろう。
【0271】
次にこれらのプラスミドは、欠陥アデノウイルスベクターにおいて別々に保有されるgag/pol、env及びレトロウイルスベクターの純粋なストックを得るため、インビトロでアデノウイルスゲノムを作るため、そして293細胞(アデノウイルスE1Aタンパク質を作るヒト細胞系)(このアデノウイルスベクターは欠陥性である)においてこれらを感染せしめるのに用いられる。このようなベクターの力価は一般に107〜1011/mlであるため、これらのストックは高い多重度で同時に組織培養細胞に感染せしめるために利用されうる。次にこの細胞を、高レベルでレトロウイルスタンパク質及びレトロウイルスベクターゲノムを生産せしめるようにプログラムする。該アデノウイルスベクターは欠陥性であるため、大量の直接的な細胞溶解は起きず、従ってレトロウイルスベクターは細胞上清液から回収されうる。
【0272】
その他のウイルスベクター、例えば無関係なレトロウイルスベクターに由来するもの(例えばRSV,MMTV又はHIV)がプライマリー細胞からベクターを発生せしめるために同一の方法において利用されうる。1つの態様において、これらのアデノウイルスベクターはプライマリー細胞と一緒に利用され、プライマリー細胞からのレトロウイルスベクター調製品が高められる。
【0273】
択一的な系において(より本当に細胞外的な)、以下の成分が利用される。
【0274】
1. Smithら(前記)に詳細と同一の方法において、バクロウイルス系において(又はその他のタンパク質製造系、例えば酵母もしくはE.コリ)作られるgag/pol及びenvタンパク質。
【0275】
2. 既知のT7もしくはSP6又はその他のRNA−発生系(例えばFlamantとSorgc、J.Virol.62:1827、1988を参照)において作られるウイルスベクター。
【0276】
3. (2)において作られる、又は酵母もしくは哺乳類組織培養細胞から精製したtRNA.
4. リポソーム(包理化envタンパク質を有す)。
【0277】
5. envプロセッシング及び任意のその他の必須細胞由来機能を提供するための細胞抽出物又は精製必須成分(同定されている場合)(一般にはマウス細胞由来。)
この方法において(1),(2)及び(3)を混合し、次いでenvタンパク質、細胞抽出物及びプレ-リポソーム混合物(適切な溶媒中の脂質)を加えた。ところで、envタンパク質をリポソームにまず包埋せしめることを、得られるリポソーム-包埋envを(1)、(2)及び(3)の混合物に加える前に行うことが必要でありうる。新生ウイルス粒子の脂質と包埋化envタンパク質による封入(encapsidation)を(Gould−Fogeriteら(Anal.Biochem.148:15、1985)に詳細の通り、医薬品のリポソーム封入と同様の方法において)行うためにこの混合物を処理(例えば超音波処理、温度操作又はロータリー透析)せめた。この方法は、病原性レトロウイルス又は複製−コンピテントレトロウイルスの來雑を伴うことなく、高い力価の複製インコピテント組換レトロウイルスの生産を可能とする。
【0278】
VIII.細胞系−特異性レトロウイルス−「ハイブリドエンベロープ」
レトロウイルスの宿主細胞範囲特異性はenv遺伝子生成物によってある程度測定される。例えばCoffin、J.(RNA Tumor Viruses 2:25−27、Cold Spring Harbor、1985)は、ネズミ白血病ウイルス(MLV)及びラウスサルコマウイルス(RSV)由来のタンパク質の細胞外成分は特異的なリセプター結合に重要である。エンベロープタンパク質のこの細胞質ドメインは一方で、ビリオン形成に役立つものと理解されている。擬態(即ち、ウイルスタンパク質又はその他の物質によるある物質由来のウイルスRNAの封入)は低頻度で起こるため、このエンベロープタンパク質は対象のレトロウイルスのビリオン形成に対するある程度の特異性を有す。本発明は、ハイブリドenv遺伝子生成物を作ることにより(即ち、特に、細胞質領域及び外因性結合性領域であって、天然において同一タンパク質分子においてでないものを有すenvタンパク質)、この宿主範囲特異性は細胞質機能に独立して変化されうる。従って、組換レトロウイルスであって、予備選択した標的細胞に特異的に結合するものであろうものが、製造できる。
【0279】
ハイブリドタンパク質であって、そのリセプター結合成分及びその細胞質成分が異なるレトロウイルスに由来するものを作るためには、組換のための好ましい配置は細胞質成分の膜スパニング領域内にある、実施例9は、MLVエンベロープタンパク質の細胞質ドメインと結合した、HIVエンベロープのCD4結合部分を有すタンパク質を発現するハイブリドenv遺伝子の作成を詳細する。
【0280】
実施例9
ハイブリドHIV−MLVエンベロープ
ハイブリドエンベロープ遺伝子をインビトロ突然変異誘発(Kunkelら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 82:488−492、1985)を用いて調製し、適切な結合の位置に新しい制限部位を導入せしめた。他方、もし2種類のエンベロープ配列が同一のプラスミド上にある場合、それらはインビトロ突然変異誘発を利用して任意の所望する位置で直接的に結合されうる。いずれの場合においてもたらされる末端はHIVgp160の5’末端及びMLVp15Eの3’末端である。得られる組換遺伝子により発現されるハイブリドタンパク質は図20において示し、そしてこれはHIVgp120HIVgp41の細胞外部分(gp120結合性及び融合性(fusigenic)領域)及びMLVp15Eの細胞質部分を、この宿主膜内の任意の複数の位置で発生する結合を伴って、含んでいる。細胞質表層での融合接点を有すハイブリド(図20における接点C)はSupT1細胞において発現する場合にシンシチアを引き起こす。明らかなシンシチアの数は同一発現性ベクターにおける非ハイブリドHIVエンベロープ遺伝子のおよそ1/5である。ハイブリドによるシンシチアはrevタンパク質がトランスにおいて共発現された場合にのみ起きる。細胞外表層で融合接点を有すハイブリド(図20における接点A)はシンシチアを提供せず、そしてハイブリドB(トランスメンブラン領域の中央)はハイブリドCよりもおよそ1/5の少ないSupT1細胞に基づくシンシチアを提供する。
【0281】
実施例9は二種のレトロウイルスから作られる1つのハイブリドタンパク質を例示しているが、その可能性はレトロウイルス又はその他のウイルスに限定されない。例えば、ヒドインターロイキン−2のべーター−リセプター部分はMLVのエンベロープタンパク質と結合しうる。この場合において、組換はMLV env遺伝子のgp70部分に好適に局在し、インタクトなp15Eタンパク質が残る。更に、上記の技術は抗Fcセグメントを認識するエンベロープタンパク質を有す組換レトロウイルスを作製するためにも利用されうる。予備選択した標的細胞のみを認識するモノクローナル抗体のみがこのようなエンベロープタンパク質を示すこのような組換レトロウイルスに結合するができ、これによってこのレトロウイルスはこれら予備選択した標的細胞に結合且つ感染できうるであろう。
【0282】
この手法は3種のレベルのレトロウイルスベクター特異性、一般には、細胞侵入、遺伝子発現及び発現するタンパク質の選別を利用することによって腫瘍特異的標的及び殺傷の達成に採用されることもある。レトロウイルスベクターは細胞に侵入し、そして細胞内部位にてそれらの作用を及ぼす。この観点においてそれらの作用は独特である。この特性及び3種のレベルの天然レトロウイルス特異性(前記)を用いることにより、レトロウイルスベクターは腫瘍細胞を標的とし殺傷せしめるために操作されうる。
【0283】
腫瘍細胞に対するレトロウイルスの全体的な攻撃の目標は二つの主な実験によって成し遂げられる。即ち、a)腫瘍細胞中で優先的に増殖するレトロウイルスについての組織培養(もしくは動物において)における選別;又はb)インビトロ継代並びに陰性及び陽性薬剤感受性選別により作製される、改良を伴った、組織(腫瘍)−特異的プロモーターを有すレトロウイルスベクターの作製。
【0284】
少なくとも4つの選別プロトコールが腫瘍細胞において優先的に増殖するレトロウイルスについて選別せしめるのに利用されうる。即ち、1)「インビトロ継代によるEnv選別」、ここで改善された複製増殖能力を伴うレトロウイルスの選別は腫瘍細胞における繰り返し継代により成し遂げられる;2)「薬剤耐性遺伝子による選別」、ここで腫瘍「特異的」レトロウイルスによる選別は結合した薬剤耐性遺伝子を合むウイルス構造体に基づく;3)「ハイブリド−Env」、ここで腫瘍「特異性」を有すレトロウイルスの選別(上記のプロトコール#1又は#2)は、腫瘍リセプター遺伝子の融合であるハイブリドエンベロープ遺伝子(即ち、envと融合した抗−腫瘍抗体H−鎖V−領域遺伝子又はenvと融合した成長リセプター)を含む構造体から開始される;(この場合において選別は好適な出発点、例えば腫瘍細胞にある程度の特異性を有すenvにて開始される);あるいは4)「インビトロでの継代による選別及び正常細胞との共培養によるカウンター選別」、ここで腫瘍細胞における増殖は薬剤耐性腫瘍細胞及び薬剤感受性正常細胞の混合体における繰り返し継代により選別される)。
【0285】
組織(腫瘍)−特異的プロモーターを有すレトロウイルスベクター構造体に関しては、異なるレベルの組織−特異性を有す生化学マーカーがよく知られ、そして組織−特異的プロモーターを介する遺伝子コントロールは同じ系において理解されている。遺伝子であってその転写プロモーター要素が迅速増殖細胞において比較的活性なもの(即ち、トランスフェリンリセプター、チミジンキナーゼ他)及びその他のものであってプロモーター/エンハンサー要素が組織特異的であるもの(即ち、肝臓についてのHBVエンハンサー前立腺についてのPSAプロモーター)が多数ある。レトロウイルスベクター及び組織−特異的プロモーターは、選択マーカー及び細胞周期遺伝子の発現(即ち、薬剤感受性、Ecogpt;又はTK−細胞におけるHSVTK)を作動せしめることができ、内在プロモーターとして又はLTR内において存在する。これらの遺伝子の発現性は、マイコフェノール酸(mycophenolic acid)又はHATのそれぞれを含む培地において選別されうる。この状態において、活性的に薬剤耐性遺伝子を発現せしめる一体化プロウイルスを含む腫瘍細胞は生存するであろう。この系における選別は組織−特異的プロモーター及びウイルスLTRの両方の選別を含む。他方、腫瘍細胞における特異的な発現(正常細胞においてではなく)は、ウイルスを正常細胞において定期的に継代せしめること、そしてそれらの細胞においてEco gpt又はHSV tk(薬剤耐性)を発現するウイルスに対する選別(チオキサンチン又はアシクロビルにより)によってカウンター選別されうる。Eco gpt又はtk表現型を発現する一体化ウイルスを含む感染化細胞は死滅し、従っでこのような細胞タイプにおけるウイルスは選別されるであろう。
【0286】
IX.位置特異的一体化
レトロウイルスベクターを染色体上の予備所定配座に標的せしめることは、遺伝子運搬系の利点を増大せしめる。安全性の尺度は、染色体上の「安全」スポット(即ち、ベクターの挿入に由来する有毒作用を有さないと証明されている部分)に直接一体化せしめることにより増大する。その他の潜在的な利点は染色体の「解放」領域に遺伝子を導く能力であり、ここでその発現性は最大となろう。特定の部位にレトロウイルスを一体化せしめる2つの技術を以下に詳細する。
【0287】
(i)相同性組換
標的細胞DNAにおける特定の部位の中への組換レトロウイルスのベクター構造体の外因性遺伝子の一体化のための1つの技術は相同性組換を利用する。ゲノム配列に相同性の、約300bpより大きいDNA配列を含むプラスミドは、それらゲノム配列と、このような相同性のない特異的な相互作用よりも1000倍以上の速度で相互作用(置換又は挿入による)を示すことがわかっている(ThomasとCapecchi、Cell 51:503−512、1987;及びDoetschemanら、Nature 330:576−578、1987)。挿入現象、又は他方交換現象はこのベクターの特定のデザインにより作動されうることが示されている。
【0288】
位置特異的レトロウイルス一体化における相同性組換を採用するために、次のようにベクター構造体を改質すべきである。(a)相同性配列(標的細胞ゲノムに対する)を適切な位置でこの構造体に組入れること;そして(b)一体化物の正常な機構が相同性配列に起因して起こる、標的の妨害をしないこと、である。この観点における好ましい手法は、U3逆反復(inverted repeat)から下流の3’LTRにおいて相同性配列(約300bp以上)を加えることである。この手法において、この構造体は、まずU3におけるNheI部位にて3’LTRに挿入された相同領域により作られる。宿主細胞における逆転写は、逆反復(1R)の31bpの末端内の5’LTRにおける相同領域のデュプリケーションをもたらすであろう。宿主ゲノムヘの一体化は正常な一体化機構の存在下又は非存在下において起こるであろう。このベクターにおける遺伝子は、LTRから又は内在プロモーターのいずれから発現されうる。この手法は、二本鎖レトロウイルスベクターゲノムの潜在性遊離末端付近に相同性の領域を位置せしめる効果を有す。遊離末端は相同性組換の頻度をおよそ10倍高めることで知られている。この手法において、一体化の正常な機構を壊すこと、又は少なくともそのプロセスを遅らせて相同性DNAが配置できる時間を与えることが必要であろう。この後者の改良が特定の場合において必要であろうと、それは当業者によって容易に確実にされうる。
【0289】
(ii)インテグラーゼ改良
ベクター構造体を、特定の標的細胞ゲノムの予備選択部位に一体化せしめる他の技術はインテグラーゼ改良を含む。
【0290】
レトロウイルスpol遺伝子生成物は一般に4つの部分にプロセスされる:(i)ウイルスgag及びpol生成物を保有するプロテアーゼ;(ii)逆転写酵素;及び(iii)RNaseHであってRNA/DNA二本鎖のRNAを分解するもの;及び(iv)エンドヌクレアーゼ又は「インテグラーゼ」。
【0291】
一般的なインテグラーゼ構造はJohnsonら(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 83:7648−7652、1986)により分析されている。このタンパク質は、亜鉛結合性フィンガーであって、レトロウイルス配列に一体化する前に宿主DNAと相互反応するものを有すと考えられている。
【0292】
その他のタンパク質において、このような「フィンガー」は特定の配列にてタンパク質がDNAに結合することを可能にする。ある例はステロイドリセプターである。この場合において、グルココルチコイドに応答するグルココルチコイドリセプターの効果を有す、エストロゲンに応答するエストロゲンリセプターを作ることができる。これは単に、このエストロゲンリセプター遺伝子におけるエステロゲンリセプターフィンガーセグメントの代りにグルココルチコイドリセプター「フィンガー」(即ち、DNA結合性セグメント)を置くことによる。この実施例において、このタンパク質が標的とされるこのゲノムにおける位置は変化されていない。このようにした遺伝子をインテグラーゼ遺伝子の中に、存在する亜鉛フィンガーの代りに置換せしめることもできる。例えば、ヒトエストロゲンリセプター遺伝子のDNA結合性領域をコードするセグメントをパッケージングゲノムにおいて、インテグラーゼのDNA結合性領域の代りに置くことができうる。主に、特異的な一体化は、インビトロでの一体化系により試験されるであろう(Brownら、Cell 29:347−356、1987)。この特異性がインビボで見られることを確認するため、感染性ベクターを作り、そして培養において比較するエストロゲン−感受性並びにエストロゲン−非感受性細胞への感染及び一体化のためにこのパッケージングゲノムを利用する。
【0293】
この技術の利用を介して、侵入するウイルスベクターは、インテグラーゼゲノムヘとスプライスされた位置−特異的DNA−結合性タンパク質セグメントのゲノム−結合特性によって、標的細胞ゲノム上の予備選定部位の中に一体化されるようになりうる。当業者によって、この一体化部位は実際には改良インテグラーゼのフィンガーに対して受容性でなければならないことが理解されうる。例えば、ほとんどの細胞はグルココルチコイドに感受性であり、従ってそれらの染色体はグルココルチコイドリセプターについての部位を有す。それ故、ほとんどの細胞にとって、グルココルチコイドリセプターフィンガーを有す改良インテグラーゼは、プロウイルスベクター構造体をそのグルココルチコイドリセプター−結合性部位にて作製するのに適切であろう。
【0294】
X.遺伝子導入動物における組織レトロウイルスベクターの製造
レトロウイルスベクターのヘルパー系発生の前記した2つの問題は(a)大量のベクターを発生させる困難性;及び(b)ベクターを作るために、プライマリー細胞の代りに永久細胞を必要とする現状、である。これらの問題は遺伝子導入動物において発生する提供系又はパッケージング系によって解決されうる。これらの動物はパッケージングゲノム及びレトロウイルスペクグーゲノムを有するであろう。現状の技術はプライマリー細胞においてパッケージング系及び所望するベクター−提供系の発生を可能とせず、これはその限られた寿命に起因する。現状の技術は、更なる特徴、即ち老衰を利用としプライマリー細胞の利用を排除することを必要とする。しかしながら、遺伝子導入動物の個々の系は、パッケージング機能例えばgag,pol又はenvを提供する本明細書が提供する方法によって発生できる。動物のこれらの系は従って、パッケージング機能を転写するためのハウスキーピングもしくは組織−特異的プロモーターの選択的な利用を介して、全動物又は標的とする組織のいずれかにおける発現について特徴付けられる。運搬されるべきベクターは組織−特異的又はハウスキーピングプロモーターを有す遺伝子導入動物の系の中にも挿入せしめる。前記した通り、このベクターは5’LTRのU3領域を置換するこのようなプロモーターを欠くこともできる(図21)。この導入遺伝子はその発現性において誘発性又は遍在的でありうる。しかしながらこのベクターはパッケージ化されていない。動物のこれらの系は従ってgag/pol/env動物に適合し、そしてその後の子孫はパッケージ化ベクターを提供する。実質的に同一であるこの子孫は特徴付けられ、そしてプライマリー提供細胞の無限なる起源を提供する。他方、gag/pol及びenvを作り、そして遺伝子導入動物に由来するプライマリー細胞は、プライマリー細胞提供系を作るためにレトロウイルスベクターとバルク中で感染又はトランスフェクトされうる。多数の異なる遺伝子導入動物又は昆虫、例えばマウス、ラット、ニワトリ、ブタ、ウサギ、ウシ、ヒツジ、魚類及びハエがこのようなベクターを提供できる。このベクター及びパッケージングゲノムは、組織−特異的プロモーター及び異なるエンベロープタンパク質の利用を介して、種感染特異性、及び組織−特異的発現のために仕立てられるであろう。このような方法の例を図22において例示する。
【0295】
プライマリーパッケージング系の導入遺伝子製造の以下の例はマウスについてのみ詳細にしているが、これらの方法は当業者にとって実施されるその他の種に迄及ぶことができる。これら遺伝子導人動物はマイクロインジェクション又は遺伝子輸送技術によって作られうる。マウスゲノムにおけるMLV配列に相同性が付与されているため、最終的に好ましい動物はマウスではないであろう。
【0296】
実施例10
遺伝子導入動物において遍在的発現についてのハウスキーピングプロモーターを用いるgag/polタンパク質の製造
よく特徴付けられているハウスキーピングプロモーターの例はHPRTプロモーターである。HPRTはプリン再生酵素であり、全ての組織において発現される(Patelら、Mol.Cell.Biol.6:393−403、1986及びMelotonら、Proc.Natl.Acad.Sci.81:2147−2151、1984、を参照のこと)。このプロモーターは、組換DNA技術を用いて(Maniatisら、molecular Cloning:A Laboratory Manual、Cold Sprinh Harbor、1982)、ブルースクリプトプラスミド(Stratagene,Inc.)にクローン化された種々のgag/polフラグメント(例えばMoMLVのBalI/SacI;Aat II/ScaI;PstI/ScaI;RNA Tumor Virsuoses 2、Cold Spring Harbor Laboratory、1985参照)の前に挿入せしめる。得られるプラスミドを精製(Maniatisら、上記)、そして関連する遺伝子情報をジーンクリーン(Bio 101)又は電気溶離(Hoganら、(出版)、Manipulating the Mouse Embryo:A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor、1986)を利用して単離した。
【0297】
このような完全に特徴付けられたDNAを、2μg/mlの濃度で受精マウス卵巣の前核にマイクロ注射せしめた。生存している生まれたマウスをテールプロット分析(Hoganら、前記を参照)によりスクリーンした。遺伝子導入陽性動物を放射性標識化プライマリー細胞、例えば繊維芽細胞の免疫沈殿により、gag−polタンパク質の発現レベルについて特徴付けした(Harlowら、Antibodies:A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor、1988を参照のこと)。次に動物を、特徴的なレベルのgag−polを提供する動物系の確立のため、ホモ接合度のために繁殖せしめた。
【0298】
実施例11
遺伝子導入動物における偏在的発現のためのハウスキーピングプロモーターを用いるenvタンパク質/ハイブリドエンペローブタンパク質の製造
本例は、エンベロープ又はパイプリドエンベロープタンパク質いずれかの発現のためのHPRTプロモーターを利用する。このエンベロープタンパク質は関連するgag−polを補完できる任意のウイルスに由来でき、この場合においてはMLVのそれである。例はエコトロピックMLV、両性親和性MLV、異種親和性MLV、ポリ親和性MLV又はハイブリドエンベロープである。前記の通り、このエンベロープ遺伝子を組換DNA技術(Maniatisら、前記を参照のこと)を利用してHPRTプロモーターの後にクローンせしめることができる。得られる「ミニ遺伝子」を単離し(Hoganら、前記を参照のこと)、そしてエンベロープタンパク質の発現性を調べた(Harlowら、前記)。この遺伝子導入エンベロープ動物を、よく特徴付けられたエンベロープ動物の確立のため、ホモ接合度のために繁殖せしめた。
【0299】
実施例12
遺伝子導入動物における偏在的発現のためのハウスキーピングプロモーターを利用するgag−pol−env動物の製造
これはよく特徴付けられているgag−pol動物及び永久gag−pol/エンベロープ動物系の確立のための動物を利用する。これはホモ接合度のための繁殖及びよく特徴付けられた系の確立を含む。従ってこれらの系は、組織培養においてベクターをパッケージングするために利用できるプライマリーマウス胚芽系の確立のために利用されうる。更に、このレトロウイルスベクターを含む動物をこの系の中に繁殖せしめた。
【0300】
実施例13
遺伝子導入動物におけるgag−pol−env又はハイブリドエンベロープの組織特異的発現の提供
本例は、特定の組織、例えばT−細胞におけるgag/pol、エンベロープ又はハイブリドエンベロープの高レベル発現を例示する。これはCD2配列(Langら、EMBOJ.7:1675−1682、1988)であって位置及びコピー数を独立して付与するものを利用する。CD2遺伝子由来の1.5kbのBamHI/HindIIIフラグメントを組換DNA技術を利用して、gag−pol、エンベロープ又はハイブリドエンベロープフラグメントの前に挿入せしめた。これらの遺伝子をマイクロ注射によって受精マウス卵巣に挿入した。遺伝子導入動物は前記の通りに特徴付けた。T細胞における発現が確立され、そして遺伝子導入動物のよく特徴付けられた系を確立せしめるため、ホモ接合度のために繁殖させた。gag−pol動物はエンベロープ動物と適合し、T細胞においてのみ発現されるgag−pol−env動物が確立された。これらの動物のT−細胞は従ってレトロウイルスベクターのパッケージング可能なT−細胞の起源である。再び、このベクターを発現せしめるT−細胞を確立するために、ベクター動物をこれらgag−pol−env動物の中にて繁殖せしめることができる。
【0301】
この技術はその他の組織−特異的プロモーター、例えば牛乳−特異的(乳漿)、膵臓(インスリンもしくはエラスターゼ)、又はニコーロン(ミエリンベースタンパク質)プロモーターの利用を可能にする。プロモーター例えば牛乳−特異的プロモーターの利用を介して、組換レトロウイルスはその子孫の生物流体から直接単離されうる。
【0302】
実施例14
遺伝子導入動物におけるハウスキーピング又は組織−特異的レトロウイルスベクターのいずれかの製造
遺伝子導入動物の生殖細胞系へのレトロウイルス又はレトロウイルスベクターの挿入はわずか又は全く発現をもたらさない。Jaenisch(Jahnerら、Nature 298:623−628、1982)により詳細のこの作用は、5’レトロウイルスLTR配列のメチル化に起因する。この技術は、レトロウイルスベクター/レトロウイルスを発現せしめるためのハウスキーピング又は組織−特異的プロモーターいずれかの置換によって、このメチル化作用を解決するであろう。エンハンサー要素を合む5’LTRのU3領域を、ハウスキーピング又は組織−特異的プロモーター由来の制御配列により置換せしめた(図20参照)。3’LTRは完全に保持され、それはウイルスRNAのポリアデニル化及び一体化に必要な配列を含む。レトロウイルス複製の固有の特徴の結果として、この一体化プロウイルスの5’LTRのU3領域は感染ウイルスの3’LTRのU3領域により発生される。従って、3’は必要であるが、5’U3は除去可能である。プロモーターとの5’LTRU3配列の置換及び遺伝子導入動物の生殖細胞系への挿入は、レトロウイルスベクター転写を提供できる動物の系をもたらす。これらの動物は従ってgag−pol−env動物と適合でき、レトロウイルス提供動物を発生せしめる(図22参照)。
【0303】
本発明の特定の態様を詳細してきたが、それらは例示のためであって本発明の範囲を限定することは意図しない。従って本発明は添付する特許請求の範囲によってのみ限定される。
【図面の簡単な説明】
【0304】
【図1】図1は、HIV envを製造するために利用する3種のベクターを図解し、そしてそれらは挿入された選別を可能とするSV−Neoカセットを有すか有さない。
【図2】図2は、示すベクターにより感染されたヒトSupT1細胞の抽出物の、HIV env−特異的放射性免疫沈殿物のポリアクリルアミド電気泳動において見られるHIV env発現性レベルを図示する一。マーカーはキロダルトン単位であり、gp160及びgp120は適切なタンパク質を示し、そして517+tatは陽性コントロールである(tatの存在下においてenvを作動せしめるHIV LTR)。
【図3】図3は、HIV envを発現する同系の腫瘍細胞の注入されたマウスにおいて誘発されるT−細胞殺傷を試験するプロトコールを示す(このベクターはpAF/Envr/SV2neoである)。
【図4A】図4Aは図3における実験方法の結果を図解する。特異的な殺傷は、上方のグラフにおける殺傷されるBC10MEenv−29に見られ、しかしHIV env−発現性の欠損するB/C10MEコントロール細胞では見られなかった。
【図4B】図4BはHIVエンベロープ抗原に対するCTLの特異性を示す。
【図4C】図4Cは、図3の実験方法において発生するエフェクター細胞集団の表現型を示す。このエフェクター細胞集団はL3T4− lyt2+(CD4− CD8+)Tリンパ球のそれである。
【図4D】図4Dは、Balb/c抗−BcenvCTL応答のためのMHC制限要件を示す。
【図4E】図4Eは、CTLが照射を受けた非増殖スチムレーター細胞により、インビボで誘発されることを示す。
【図4F】図4Fは、BCenvスチムレーター細胞によるBalb/cマウスの免疫の、投与量−応答性の関係を示す。
【図4G】図4Gは、BCenv標的細胞に対する、異なるH−2dマウス種及びF1ハイブリドマウスのCTL応答性の発生を示す。
【図4H】図4Hは、ウイルスのHIVIIIB株のエンベロープに(B/C10MEenv)に対して誘発されたCTLが、HIV env−発現性標的細胞、及び非−標的B/C10ME細胞(BC)であってもしそれらがウイルス(RP135)のHIVIIIB株に類似のペプチドにより被覆されているならば殺傷されることを示す。この結果は、これらCTLが交差反応して、HIVのMN株のエンベロープ(RP142)と類似のペプチドにより被覆されたいくつかの細胞を殺傷せしめることも示す。
【図4I】図4Iは、組換ベクター構造体であってそのサイトメガロウイルス(CMV)プロモーターがHIVIIIbエンベロープの一過性発現をもたらすものを有するプラスミドDNAにより感染せしめたBC細胞107個の腹膜腔内注射の後の、HIVエンベロープ特異性ネズミCTL(Env−特異的−CTL)の誘発を示す。これは、HIV envを一過性発現せしめるBCpCMVenvIIIb標的細胞(BCpCMVenvIIIb標的)及びクローン化安定−HIV env発現性BC29標的細胞(BC29標的)を特異的に殺傷せしめるが、非感染化BC細胞(BC10ME標的)は殺傷せしめないCTLの特異性により証明される。
【図4J】図4Jは、Cmv又はRSV−LTRプロモーターのコントロール下でそれぞれH2−Ddをコード化するCMVH2−Dd又はRSV−Ddの導入により、利用する2日前に感染せしめたネズミBC標的細胞が、Balb−c細胞(H2−Dd)に免疫化されたC57BL16幽閉CTL(C57BL16muring CTL)により殺傷される標的細胞として働くことを示す。
【図4K】図4Kは、図3のそれと類似の実験プロトコールの結果を図示し、ここでは、マウスはHIVを発現する細胞の代りにgag/pol(BC−1−16H)又はgag/prot(BC−1)を発現する細胞を注射されている。gag/pol又はgag/prot免疫化マウスに由来するCTLはそれぞれの標的細胞、BC−1又はBC−1−16H標的細胞のそれぞれを殺傷せしめたが、B/C10ME細胞は殺傷せしめなかった。
【図4L】図4Lは、gag/polスチムレーター細胞(BC−1−15H;1−15Hと表示)により誘発されるCTLがgag/pol(1−15H)及びgag/prot(BC−1)標的細胞の両方を殺傷せしめることを示す。
【図4M】図4Mは、gag/protスチムレーター細胞(BC−1)により誘発されるCTLが、gag/prot(BC−1)及びgag/pol(1−15H)標的細胞の両方を殺傷せしめることを示す。
【図4N】図4Nは、腹膜腔内注射(I.P.)又は筋肉内注射(I.M.)による二通り(2X)のHIVコード化レトロウイルスの直接注射が、BC10MEenv−29細胞は殺傷するがB/C10MEコントロール細胞(BC)は殺傷しない特異的な殺傷の可能なCTLの発生を刺激せしめた。
【図4O】図4Oはヒト提供者#99PBLのインビトロ免疫を示す。これは99−EBV−HIV env標的細胞は殺傷するが陰性コントロール自己細胞、即ち、PBLにより刺激された99−PHA(99PHA芽細胞)は殺傷しないCTLの誘発を及ぼすために、HIV envをコード化する組換レトロウイルスベクター(99−EBL−HIV env)によりインビトロ感染された提供者#99(99−EBV)由来の自己EBV−形質転換スチムレーター細胞を利用している。提供者#99はEBVに対する天然免疫を発現し、これは陽性コントロール99−EBV標的細胞の低レベル殺傷により証明される。
【図4P】図4Pは、ネズミMHCH2−Dd及びHIV env抗原(HT1080+Dd+env)の両方により感染されたヒトHT1080細胞が、両方の遺伝子生成物を機能的活性型において発現することを示す。これはHIV env−免疫ネズミCTLによるこれらの細胞溶解によって証明される。これらHIV env免疫CTLはコントロールHT1080(HT1080)細胞又はH2−Dd発現BC細胞(BC−Dd)のいずれの有意な溶解を引き起こさなかった。
【図4Q】図4Qは、HIVエンベロープタンパク質発現性BC細胞(BCenvIIIb)及びRP135「V3ループ」(「ループ」)合成ペプチドにより被覆されたBC細胞の、HIV env−免疫CTLによる溶解をパネルAにおいて示し;パネルBにおいては、「ループレス」BCenvΔV3細胞により免疫されたCTLによる、gp120超可変性エンベロープループ(即ち、ループレス)を欠くBCenvΔV3細胞の溶解を示す。「ループレス」BCenvΔV3により免疫されたCTLは特異的、即ち、それらはHIVenvを欠くBC細胞を溶解せず(BC)、そしてそれらは「ループ」RP135ペプチドにより被覆された細胞を溶解しなかった(BC−RP135)。
【図4R】図4Rは、パネルAにおいて、BCenvIIIb29−免疫ネズミCTLによる、組換HIV env遺伝子由来の短いエンベロープタンパク質を発現するBC細胞(BCpcmvチャンク1標的;「チャンク1」と称す(実施例1F2を参照))、及びHIVenvIIIb発現性のクローン化、感染化BC細胞(BCenvIIIb29標的)の特異的溶解も;そしてパネルBにおいて、BCpCMVチャンク1標的細胞及びBCenvIIIb−14H標的細胞を特異的に殺傷し、非感染化IBC細胞(BC10ME標的)を殺傷しない、BCpCMVチャンク1細胞により免疫されたマウスにおける免疫CTLの誘発を示す。
【図5】図5はsCD4を発現するようデザインされたベクターを示す。
【図6】図6は、ベクターTK1(SV−Neoを伴わず)及びTK3(十SV−Neo)を有すプラスミドの作製を示す。
【図7】図7はベクターKTVIHAXを有すプラスミドの作製を示す。
【図8】図8はベクターKTVIH5(SV−Neoを伴わず)及びKTVIHNeo(SV−Neoを伴う)を有すプラスミドの作製を示す。
【図9】図9はベクターMHMTK−Neoを有すプラスミドの作製を示す。
【図9−1】図9−1はベクターMHMTK−Neoを有すプラスミドの作製を示す。
【図10】図10はベクターRRKTVIHを有すプラスミドの作製を示す。
【図11】図11はtat−his(tatは正常な方向)又はαtat(tatがアンチセンス方向)ベクターを有すプラスミドの作製を示す。
【図12】図12は、示した3種の条件的致死性ベクターの感染及びアシクロビル(ACV)の処理に基づく、コントロールPA317と比較した、tathisベクター(5種のクローン、TH1〜5)により感染せしめたPA317細胞の優先的殺傷を示す。
【図13】図13はベクター4TVIHAXを有すプラスミドの作成を示す。
【図14】図14はHIV誘発性マーカー/リポーター遺伝子、例えばアルカリホスファターゼ(AP)を有すウイルスベクターの作製を示す。
【図15】図15は細胞の中に導入されうるプラスミド上に保有されるHIV誘発性マーカー/リポーター遺伝子の構造を示す。
【図16】図16は、図15におけるAPマーカーを有すSupT1細胞とHIVの、種々のAZT濃度でのHIV感染の経時変化を示す。HIV感染のレベルは上清液と少量のアリコートを採取することにより測定した。
【図17】図17は図16と同様実験であるが、但しHIV阻害剤としてddCを用い結果を示す。
【図18】図18は、プロモーターから直接フレモイシン(phlemoycin)耐性遺伝子(PRG)を発現せしめるプラスミド(右側、実線)、及びPRGを発現する他のプラスミドであってそのコード配列がそれとプロモーターの間にて干渉されているもの(左側、点線)による、細胞のトランスフェクションに基づく、フレオマイシン選別後の生存細胞数を図示する。
【図19】図19は哺乳細胞においてレトロウイルスタンパク質を発現するようにデザインされた4種のプラスミドを示す。pSVgp及びpRSVenvは選別可能マーカーを共導入され、pSVgp−DHFR及びpRSVenv−phleoはウイルスタンパク質−コード化領域の下流に位置する選別可能マーカーを有す同等なプラスミドである。
【図20】図20は、位置−特異的突然変異誘発後のHIV env反びMoMLVenvの3ケ所融合を示す。トランスメンブラン領域の細胞外境界での接点をAと示し、B及びCはトランスメンブラン領域及び細胞質境界それぞれの中央の位置を示す。番号はヌクレオチド番号に相当する(RNA Tumor Viruses,Vol.II.Cold Spring Harbor、1985)。ST,SR,SEはtat,rev及びenvの起点であり、TT,TR及びTEはそれぞれの停止部位である。
【図21】図21は、5’LTRにおけるU3の、SacI,BsshII又はこの領域におけるその他の部位と融合可能な異種プロモーター/エンハンサーによる置換を示す。
【図22】図22は、ウイルスタンパク質又はベクターRNAを発現する遺伝子導入マウスの交配についての代表的な方法を示す。
【技術分野】
【0001】
本発明は一般的にレトロウイルスに関し、より詳しくは、感受性標的細胞にベクター構造体を運搬可能な組換レトロウイルスに関する。これらのベクター構造体は標的細胞において所望するタンパク質、例えば免疫活性を刺激せしめるタンパク質又は一定の細胞環境において条件的に活性であるタンパク質を発現せしめるために典型的にデザインされている。このような観点において、該ベクター構造物を有するレトロウイルスは標的細胞に対して免疫又は毒性反応を誘導せしめることが可能である。
【背景技術】
【0002】
細菌性の疾病が一般的に抗生物質により容易に治療できるにもかかわらず、多数のウイルス性、癌性及び遺伝性疾病を含むその他の非細菌性疾病のための有効な治療又は予防的測定は非常にわずかしか存在しない。このような疾病を治療する古典的な試みは化学薬剤の利用を採用してきた。一般に、このような薬剤は特異性がなく、全体的に高い毒性を示し、それ故治療には有効ではなかった。
【0003】
多数の非細菌性疾病を治療するためのその他の古典的な技術は、病原性物質、例えばウイルスに対する免疫応答を、該物質の非感染的な形、例えば殺傷せしめたウイルスの形の投与を介して誘発せしめ、これによって免疫刺激剤として働くであろう、該病原性物質に由来する抗原を提供すること、を含む。
【0004】
ウイルス性疾病、例えば後天性免疫不全症候群(AIDS)及び関連する疾患の治療のためのより最近の手法には、HIVによる感染に感受性の細胞上のリセプターが、ウイルスエンベロープタンパク質を受容せしめること又はそれらと複合体を形成せしめることをブロックすることを含む。例えばLifsonら(非特許文献1)は、CD(T4)リセプターに対する抗体がインビトロにおいて、感染された及び感染されていないCD4含有細胞との間の細胞融合(シンシチア)を阻止することを示した。モノクローナル抗体を利用する類似のCD4ブロッキング効果がMcDougalらにより提案されている(非特許文献2)。他方、Pertら(非特許文献3)は、T4リセプターに結合し、そしてヒトT−細胞のHIV感染をブロックせしめる合成ペプチドの利用を報告し、そしてLifsonら(非特許文献4)は、シンシチア及びウイルス/T4細胞の両方を、ウイルスのエンベロープ糖タンパク質と相互作用するレクチンによってブロックせしめ、これによりそれらがCD4リセプターにより受容されることをブロックせしめることを報告している。
【0005】
病原性物質、例えばRNAを転写するウイルスを阻害する近年提案されている第4の技術は、転写されたRNAの少なくとも一部に相補し、そしてこれに結合して翻訳を阻止するアンチセンスRNAを提供することである(非特許文献5)。
【0006】
しかしながら、上記の技術の主たる欠点は、即ち、それらが時間、位置又は薬剤、抗原、ブロッキング剤もしくはアンチセンスRNAを利用せしめる程度をコントロールするのに容易でないことにある。特に、上記の技術は治療薬の外因性適用(即ち、インビトロ状態において、サンプルに対して外因性)を必要とするため、それらは病原性物質の存在に対して直接的に応答しない。例えば、この病原性物質により感染された直後に高い量において発現される免疫刺激物質が所望されている。更に、アンチセンスRNAの場合、動物における有用な治療のためには大量に必要とされるであろう。現在の技術のもとでは、それを実際に必要とする部分、即ち、病原性物質によって感染された細胞に無関係に投与されうる。
【0007】
外因性適用に対して、内因的な治療薬を提供するための技術が考えられている。より詳しくは、DNAウイルス、例えばアデノウイルス、シミアンウイルス40、ウシパピロマ及びワクチンウイルスに基づくウイルス性ベクターから発現されるタンパク質が研究されている。例えばPanicaliら(非特許文献6)は、インフレンザウイルス血液凝集素及びB型肝炎ウイルス表層抗原をワクチンゲノムに導入せしめ、そしてこのような組換遺伝子から作製したウイルス粒子を動物に感染せしめている。感染の後、この動物はワクチンウイルス及びB型肝炎ウイルス抗原の両方に対する免疫を獲得した。
【0008】
しかしながら、DNAウイルスに基づくウイルスベクターによる多数の困難性を今日迄経験している。このような困難性には、(a)病原性又は所望するタンパク質の抑制をもたしうるその他のウイルス性タンパク質の製造;(b)宿主において非調節的に複製を行うベクターの能力及びこのような非調節的複製の病原性効果;(C)ウイルス血症をもたらしうる野性型ウイルスの存在;並びに(d)これらの系における発現の一過性、を含む。このような困難性はウイルス性、癌性及び遺伝的疾病を含むその他の非細菌性疾病の治療における、DNAウイルスに基づくウイルス牲ベクターの利用を妨害する。
【0009】
感染標的細胞における一過性でないこれらの発現に基づき、レトロウイルスは遺伝病の治療のための有用な媒体として考えられている(例えば、非特許文献7参照)。しかしながら、多数の問題点の見地のため、遺伝病の治療におけるレトロウイルスの利用は試みられていなかった。このような問題点は、(a)受け入れにくい組織(例えば脳)における大量の細胞を感染せしめるための明白な必要性;(b)非常に調節された且つ永久的な状態においそこれらのベクターが発現することを引き起こす必要性;(c)クローン化遺伝子の欠失;(d)代謝異常に起因する組織及び器管への不可逆的な損傷;及び(e)ある場合におけるその他の部分的に有効な治療の利用性に関する。
【0010】
遺伝病に加えて、その他の研究者は非遺伝的疾病を治療するためのレトロウイルスベクターの利用を考えた(例えば、特許文献1;非特許文献8;非特許文献9;及び非特許文献10を参照のこと)。
【0011】
Tellierらは、HIV RNAに対するアンチセンスRNAを発現できるゲノムを有す「欠陥」HIVにより幹細胞を有効に感染せしめることによって、T−細胞クローンを保護することを考えた。Bolognesiらは、幹細胞に感染せしめるための無毒性のHIV株を作製し、これによって発生したT4細胞が干渉するウイルスの無毒性の型を有し、従ってこれらの細胞を毒性HIVによる感染から防御せしめる概念を考えた。しかしながら、上記の論文両方において利用されている「減衰(attenuation)」又は「欠陥」HIVは再生され(即ち、複製欠陥ではない)、従ってもたらされるウイルスは既に存在しているHIVを有す高い組換の危険性又はその他の追随する危険性を伴って、他の細胞に感染することがあり、減衰の損失をもたらしうる。非複製型でなくなることは、HIVのための欠陥ヘルパー又はパッケージングラインの必要性をもたらしうる。しかしながら、HIV遺伝子の発現性の調節は困難であるため、このような細胞は今日迄作製されていない。更に、感染せしめる減衰又は欠陥ウイルスはキメラでないため(同一のレトロウイルス種に由来する実質的に全てのベクターを有す「非キメラ」レトロウイルス〕、たとえそれらをそれらのゲノムから本質的な要素を欠損せしめることにより複製欠陥として作ったとしても、感染性ウイルス粒子の結果として製造に伴う、宿主細胞における組換の可能性が未だ明らかに存在する。
【0012】
Sanford(非特許文献11)はまた、HIVについての遺伝子的な治療の利用も考え出した。彼は、天然のAIDSウイルスと、抗−HIV遺伝子を有す治療用レトロウイルスベクターとの遺伝子組換を介する新規な毒性ウイルスに存在する能力に原因して、AIDSのためのレトロウイルス遺伝子治療は実用的でないであろうと述べている。同様に、HcCormickとKriegler(特許文献1)は腫瘍壊死因子(TNF)のようなタンパク質についての遺伝子を運搬するためのレトロウイルスベクターを利用することを考えたが、彼らが詳述する技術は多数の欠点を有する。
【特許文献1】ヨーロッパ特許EP243,204A2号(Cetus Corporation)
【非特許文献1】Lifsonら、Science 232:1123−1127、1986
【非特許文献2】McDougalら、Science 231:382−385、1986
【非特許文献3】Pertら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 83:9254−9258、1986
【非特許文献4】Lifsonら、J.Exp.Med.164:2101、1986
【非特許文献5】Toら、Mol.Cell.Biol.6:758、1986
【非特許文献6】Panicaliら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 80:5364、1983
【非特許文献7】F.Ledley,The Journal of Pediatrics 110:1、1987
【非特許文献8】Sanford、J.Theor.Biol.130:469、1989
【非特許文献9】Tallierら、Nature 318:414、1985
【非特許文献10】Bolognesiら、Cancer Res.45:4700、1985
【非特許文献11】Sanford、J.Theor.Biol.130:469、1988
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明を以下に要約する。
【0014】
(1) 組換レトロウイルスであって、該レトロウイルスにより感染せしめた標的細胞において動物における免疫応答性を刺激せしめることが可能な少なくとも1種のタンパク質又はその改質型の発現をもたらすベクター構造体を有し、該ベクター構造体がカプシドタンパク質及び制御応答要素をコード化するセグメント並びに少なくとも1種の制御要素を含んで成る、組換レトロウイルス。
【0015】
(2) 上記(1)1に記載の組換レトロウイルスであって、前記のカプシドタンパク質がHIV gagタンパク質、前記の制御要素がHIV revタンパク質、そして前記の制御応答要素がHIV rev応答性制御要素である組換レトロウイルス。
【0016】
(3) 上記(1)に記載の組換レトロウイルスであって、前記のベクター構造体が、HIV gag、HIV pol、HIV rev、HIV vpu、HIV vif、HIV及びHIV protより成る群から選ばれる少なくとも1種のHIVタンパク質の発現をもたらす組換レトロウイルス。
【0017】
(4) 上記(1)に記載の細換レトロウイルスであって、前記ウイルスカスピドタンパク質をコード化するセグメントがHIV gagであり、核セグメントが第2遺伝子と作動連結し、ここで該HIV gag及び該第2遺伝子がタンパク質又はその改質型の発現をもたらしめることが可能である、組換レトロウイルス。
【0018】
(5) 組換レトロウイルスであって組織腫瘍−特異的転写プロモーター/エンハンサー要素を有するベクター構造体を保有し、該構造体が該プロモーターと適応性の組織のタイプを有す細胞において緩和剤の発現をもたらし、該緩和剤が病原性に必要な病原因子の機能を阻害できる、組換レトロウイルス。
【0019】
(6) 組換レトロウイルスであって、複数のエピトープを有すペプチドの発現をもたらすベクター構造体を有し、1もしくは複数の該エピトープが異なるタンパク質に由来する、組換レトロウイルス。
【0020】
(7) 組換レトロウイルスであって、該レトロウイルスにより感染せしめた標的細胞においてペプチド様抗原性フラグメント又はその改質型の発現をもたらすベクター構造体を有し、該抗原性フラグメント又はその改質型が動物における免疫応答性を刺激せしめることが可能な、組換レトロウイルス。
【0021】
(8) 組換レトロウイルスであって、該レトロウイルスにより感染せしめた標的細胞において少なくとも1種の抗原又はその改質型、及びMHCタンパク質又はその改質型の発現をもたらすベクター構造体を有し、該抗原又はその改質型及び該MHCタンパク質又はその改質型が動物における免疫応答牲を発現せしめることが可能な、組換レトロウイルス。
【0022】
(9) 組換レトロウイルスであって、該レトロウイルスにより感染せしめた標的細胞において第1抗原又はその改質型の発現をもたらすベクター構造体を有し、該第1抗原は第2抗原もしくはその改質型に対する動物における免疫応答性を刺激せしめることが可能であり、ここで該第1及び該第2抗原は親近であるが同一でない、組換レトロウイルス。
【0023】
(10) 上記(9)に記載の組換レトロウイルスであって、前記の第1及び第2抗原又はそれらの改質型が、少なくとも40%の相同性、しかし99%以下の相同性を、8〜100個のアミノ酸の配列において分け合う、組換レトロウイルス。
【0024】
(11) 組換レトロウイルスであって、該レトロウイルスにより感染せしめた標的細胞において少なくとも1種の抗原又はその改質型の発現をもたらすベクター構造体を有し、該抗原又はその改質型がインビボ免疫応答を刺激することができる、組換レトロウイルス。
【0025】
(12) DNAベクター構造体であって、該DNAをトランスフェクトせしめた標的細胞において少なくとも1種の抗原又はその改質型の発現をもたらし、該抗原又はその改質型がインビトロでの免疫応答を刺激することができる、DNAベクター構造体。
【0026】
(13) 上記(11)又は(12)に記載の組換レトロウイルスであって、ここで前記のインビトロでの免疫応答が細胞仲介免疫応答である組換レトロウイルス。
【0027】
(14) 上記(11)又は(12)に記載の組換レトロウイルスであって、ここで前記のインビトロでの免疫応答がCTL応答である、組換レトロウイルス。
【0028】
(15) 組換レトロウイルスであって、該レトロウイルスを感染せしめた標的細胞において少なくとも1種の抗原又はその改質型の一過性発現をもたらすベクター構造体を有し、該抗原又はその改質型は動物における免疫応答を刺激せしめることが可能である、組換レトロウイルス。
【0029】
(16) DNAベクター構造体であって、該DNAをトランスフェクトせしめた標的細胞において少なくとも1種の抗原又はその改質型の一過性発現をもたらし、該抗原又はその改質型は動物における免疫応答を刺激せしめることが可能である、DNAベクター構造体。
【0030】
(17) 組換レトロウイルスであって、該レトロウイルスの感染せしめた細胞において緩和剤の発現をもたらすベクター構造体を有し、該緩和剤が病原因子により作られるタンパク質の活性を阻害できる組換レトロウイルス。
【0031】
(18) 組換レトロウイルスであって、病原性RNA分子に特異的リボザイムとして機能するRNA分子の発現をもたらすベクター構造体を有す組換レトロウイルス。
【0032】
(19) 上記(1)〜(18)のいずれかに記載の組換レトロウイルスであって、ここで該レトロウイルスが複製欠陥である組換レトロウイルス。
【0033】
(20) 組換レトロウイルスを製造する方法であって、ベクター構造体をカプシド及びエンベロープにパッケージせしめて、上記(19)に記載の複製欠陥組換レトロウイルスを製造することを含んで成る方法。
【0034】
(21) 上記(1)〜(19)のいずれか1項に記載の、組換レトロウイルスにより感染された、又はDNAベクター構造体のトランスフェクトされた生体外(ex vivo)細胞。
【0035】
(22) 上記(1)〜(11)及び(13)〜(18)のいずれかに記載の組換レトロウイルスの感染した真核細胞(該細胞は前記のベクター構造体の任意の1種を含む感染性粒子を発生せしめることが可能である)。
【0036】
(23) 上記(1)〜(11)及び(13)〜(18)請求項1〜11及び13〜18のいずれかに記載のレトロウイルスを、生理学的に許容されうる担体又は希釈剤と一緒に含んで成る医薬製剤。
【0037】
(24) 活性治療剤として利用するための、上記(21)に記載の医薬組成物。
【0038】
(25) Tリンパ球と反応性であるタンパク質における抗原又は抗原性エピトープを同定する方法であって、
(a)異なる抗原又は該抗原のペプチド様フラグメントの発現をもたらす組換ベクター構造体をそれぞれ有す多重性の異なる組換レトロウイルスを製造し、
(b)多重性の標的細胞を該異なる組換レトロウイルスにより感染せしめ、そして
(c)該異なる抗原又は該抗原のペプチド様フラグメントを発現する標的細胞を殺傷せしめるCTLもしくは抗体の能力について試験し、そしてこれによって該抗原又は該抗原のペプチド様フラグメントが該Tリンパ球と反応性であるかを調べること、
を含んで成る方法。
【0039】
簡潔に述べると、本発明は、感染性、癌性、自己免疫性又は免疫性疾病を予防、阻止、安定化又は回復せしめることが可能なベクター構造体を有する組換レトロウイルスを提供する。このような疾病には、感染症、黒色症、糖尿病、移植細胞対宿主病、アルツハイマー病及び心臓病を含む。
【0040】
本発明はある程度、組換レトロウイルスの利用を介して、(a)抗原もしくは病原性抗原に対する、体液性又は細胞仲介性のいずれかである特異的な免疫応答を刺激せしめ;(b)病原性物質例えばウイルスの機能を阻害せしめ;そして(c)物質と宿主リセプターとの相互作用を阻害せしめる方法に関する。
【0041】
より詳しくは、本発明の1つの態様において、感受性標的細胞を、組換レトロウイルスであって該標的細胞において抗原又はその改質された型の発現をもたらすベクター構造体を、有するものにより感染せしめることを含んで成る、特異的な免疫応答を刺激せしめる方法を提供する。本発明の目的のため、「感染」なる語は、ウイルスベクター、トランスフェクション又はその他の手段、例えばマイクロインジェクション、プロトプラスト融合等を介しての核酸配列の導入を含む。この導入せしめた核酸配列は該標的細胞の核酸の中に組込まれうる。このベクターの核酸がコードするタンパク質の発現は、一過性であるか又は時間に安定でありうる。免疫応答が病原性抗原に対して誘発されるものである場合、この組換レトロウイルスは、免疫応答を刺激し且つ天然の抗原よりも低められた病原性を有す抗原の改良型を発現せしめるように好適にデザインされている。この免疫応答性は細胞が抗原を正常な状態において提供する場合、即ち、MHCクラスI及び/もしくはII分子に関するアクセサリー分子例えばCD3,ICAM−1,ICAM−2,LFA−1又はその類似体を伴う場合に達成される(例えば、Altmannら、Nature 338:512、1989)。レトロウイルスベクターにより感染された細胞はその有効性が期待され、なぜならそれらは真のウイルス感染によく擬態するからである。
【0042】
本発明のこの観点は、同様の方法において働くものと期待されているその他の系よりも更なる利点を有し、即ち、該提供細胞は完全に生育可能且つ健状であり、そして何らその他のウイルス性抗原(イムノドミナントでありうるもの)を、発現せしめない。このことは、明確な利点を提供し、その理由は、発現される抗原性エピトープが、該組換レトロウイルスの中への該抗原についての遺伝子のサブフラグメントの選択的なクローニングにより変化されることができ、これによってイムノドミナントエピトープにより減少することがある、免疫原エピトープに対する応答をもたらしうる。このような手法は、複数のエピトープ(1又は複数のエピトープは異なるタンパク質に由来する)を有するペプチドの発現性に迄及ぶことができうる。更に、本発明のこの観点は、MHCクラスI分子を有するこれらのペプチドフラグメントの細胞内合成及び組立てを介して、抗原エピトープ、及び遺伝子のサブフラグメントによりコード化される抗原のペプチドフラグメントに特異的な細胞障害性Tリンパ球(CTL)の有効な刺激が可能である。この手法はCTLのための主要なイムノドミナントエピトープを地図化するのに利用されうる。更に本発明は、抗原提供細胞において提供されるアクセサリータンパク質(例えば、MHCI,ICAM−1等)の発現の増大又は改良を介して、抗原のより有効的な提供について提供する。このような手法は、Tリンパ球に有効な抗原(又はその一部)を提供することができる、抗原(例えば腫瘍抗原)及びMHCタンパク質(例えばクラスIもしくはII)両方の発現性をもたらすベクター構造体を有す組換レトロウイルスを包含しうる。このことは、低レベルのMHCタンパク質及び免疫応答を刺激せしめる低い能力を有す細胞(例えば腫瘍細胞)において、抗原の提供が増大される利点をもたらしうる。この手法は、抗原及びタンパク質であって細胞においてMHCタンパク質の高い発現性を誘発するもの(例えばインターフェロン)の両方の発現をもたらすベクター構造体を有す組換レトロウイルスを更に含みうる。このレトロウイルスの感染された細胞は免疫刺激剤(イムノスチムレーター)、イムノモジュレーター又はワクチン等に利用されうる。
【0043】
免疫応答は適切な免疫細胞(例えばTリンパ球)に、対象の抗原(必要ならば適当なMHC分子に関する)を認識する特異的T−細胞リセプターについての遺伝子、対象の抗原を認識するイムノグロブリンについての遺伝子、又はMHC開係の非存下においてCTL応答を提供するこの二種のハイブリドについての遺伝子を導入せしめることによっても達成されうる。
【0044】
免疫刺激を所望する、HIV感染により引き起こされた疾病の特定の場合において、この組換レトロウイルスゲノムから作られた抗原は、HLAクラスI−もしくはクラスII−制御免疫応答のいずれか又は両方を誘発するであろう型にある。HIVエンベレロープ抗原の場合において、例えば、この抗原はgp160、gp120及びgp41から好適に選ばれる。それらは、その病原性が低められるように改良されたものである。特に、選んだ抗原は、シンシチアの可能性を下げるため、免疫応答性を高める疾病をもたらすエピトープの発現を回避するため、イムノドミナントを除去するため、しかしながら株−特異性エピトープ又は複数の株−特異性エピトープを提供せしめ、そしてHIVのほとんどもしくは全ての株による細胞の感染をなくすことができる応答性のために改良される。この系−特異性エピトープは、動物における免疫応答性の刺激を促進せしめるために更に選別されうる(これらはHIVのその他の株に交差反応性である)。その他のHIV遺伝子又は遺伝子の組合せ、例えばgag,pol,rev,vif,nef,prot,gagpol、gagprot、等も特定の場合において予防を提供せしめうる。
【0045】
本発明の他の観点において、ウイルス性感染症、癌又は免疫異常により引き起こされるような疾病に必要な、病原性物質の機能を阻害せしめる方法を開示する。病原性物質がウイルスの場合、阻害される機能は、吸着、複製、遺伝子発現、集成、及び感染細胞からの該ウイルスの退出より成る群から選ばれうる。この病原性物質が癌細胞又は癌−促進成長因子の場合、この阻害される機能はその生存、細胞複製、外部信号に対する感受姓の変化、及び抗−オンコジーンの製造の欠失又は抗−オンコジーンの突然変異型の製造より成る群がら選ばれうる。このような阻害は、「阻害緩和剤」例えば(a)アンチセンスRNA;(b)病原性の状態の発現を妨害する、病原性タンパク質に類似する突然変異タンパク質;(c)不活性な先駆体を活性化せしめるタンパク質;(d)欠陥干渉構造タンパク質;(e)ウイルスプロテアーゼもしくは酵素のペプチド阻害剤;(f)腫瘍サップレッサー遺伝子;又は(g)病原性状態に関連するRNA分子を特異的に切断及び分解できるRNAリボザイム;を有する組換レトロウイルスを介して提供されうる。他方、このような阻害は、病原性遺伝子の中に位置特異的に一体化することによってそれを分裂することができる組換レトロウイルスにより達成される。
【0046】
このような阻害は、疾病を及ぼす細胞に毒性である緩和物の発現を介して達成されることもできる。毒性緩和物がこの組換ウイルスゲノムを含む細胞によって製造される場合、重要なことはこの組換レトロウイルスが標的細胞にのみ感染するのか、もしくは標的細胞においてのみこの緩和物が発現されるかのいづれであるか、又はその両方であるかである。いづれの場合においても、この最終毒性物は病原性状態において細胞に局在する。発現性を標的にする場合、この毒性緩和物の発現性をコントロールする病原性物質は、例えば細胞に存在する病原性ウイルスゲノムの転写及び翻訳を介して製造されるタンパク質である。
【0047】
本明細書全体において、細胞において任意の物質を「発現する」又は「製造」するウイルス構造体等と表現する場合、このことは事実上、該細胞におけるウイルスRNAの逆転写に引き続いて得られるプロウイルスの作用に関連することと理解されるべきである。毒性緩和物に関して、結果として起こる殺傷作用は宿主ゲノムの中への組換ウイルスゲノムの永久的な一体化を必ずしも必要としないが、ある程度長期的な時間(数日から1ケ月)にわたって所望する形における毒性緩和物遺伝子のある程度長期的な発現は必要である。従って、その他の一体化されていないウイルス性ベクター、例えばアデノウイルスベクター(但しこれに限定しない)が本目的のために利用されうる。条件により毒性の緩和物の例には、(a)細胞周期−特異性プロモーター、組織特異的プロモーター又はその両方のコントロール下の毒性遺伝子生成物;(b)条件的に発現し、そしてそれ自体は毒性ではないが標的細胞内で非毒素先駆体を活性化毒素型へと化合物又は薬剤をプロセスせしめる遺伝子生成物;(c)それ自体は毒性ではないが、タンパク質例えばウイルス性又はその他の病原に対して特異的なプロテアーゼによって処理された場合に毒素型へと変換する遺伝子生成物;(d)例えば免疫毒素による攻撃に対して病原性細胞を識別する細胞表層上の条件的に発現されるリポーター遺伝子生成物;(e)細胞外因子との相互作用による毒性効果をもたらす、細胞表層上の条件的に発現される遺伝子生成物;及び(f)生存のために重要なRNA分子に特異的な条件的に発現されるリボザイムをコード化する組換レトロウイルスを含む。
【0048】
関連する観点において、本発明は望ましくない又は有害な免疫応答を削減もしくは削除するための方法も提供する。免疫抑制(必要な場合)は免疫抑制遺伝子、例えばウイルスに由来する、アデノウイルスのE3遺伝子の発現を標的にすることによって達成されうる。
【0049】
本発明の他の観点において、ウイルス粒子と細胞、細胞と細胞、又は細胞と因子の相互作用を阻害する方法を開示する。この方法は一般に、組換複製欠陥レトロウイルスであって感染細胞にブロッキング要素の発現をもたらすものを感受性細胞に感染せしめることを含んで成り、該ブロッキング要素は、細胞のリセプター(好ましくは宿主細胞リセプター)に、そのリセプターが細胞内もしくは細胞表層上のいずれであろうと結合できるか、又は一方該病原性物質と結合することによって結合できる。
【0050】
前記した該組換レトロウイルスが及ぼす免疫原又は阻害的な作用による方法にもかかわらず、該レトロウイルスゲノムが「複製欠陥」(即ち、これにより感染された細胞において再生できない)となることが好適である。従って、インビトロ又はインビボ適用のいずれにおいても感染は単一段階のみであり、これにより挿入性の突然変異の可能性は実質的に低められるであろう。好ましくはこれに加えて、該組換レトロウイルスはgag、pol又はenv遺伝子の少なくとも1つを欠損する。更に、該組換ウイルスベクターはキメラであることが好ましい(即ち、所望する結果を提供する該遺伝子は該レトロウイルスの残余物以外の起源に由来する)。キメラ構造体は、ウイルス粒子を発生できるゲノムを製造できる、該組換レトロウイルスにより感染された細胞内における組換現象の可能性を更に引き下げる。
【0051】
本発明の他の態様において、上記の方法の実施及びその他の治療的な遺伝子を運搬するのに有用な組換レトロウイルスを開示する。本発明はこのようなレトロウイルスを製造するための方法も提供し、ここで該レトロウイルスゲノムはパッケージング細胞の利用にわたり、好ましくはカプシド及びエンベロープにパッケージされている。該パッケージング細胞には、好ましくは2種のプラスミドの形においてウイルスタンパク質コード化配列が提供されており、これらは生存できるレトロウイルス粒子の製造に必要な全てタンパク質、所望する遺伝子及びパッケージングシグナル(該RNAをレトロウイルス粒子へとパッケージングせしめることをもたらす)を有するであろうRNAウイルス構造体を提供せしめる。
【0052】
本発明は以下の事項を促進できる組換レトロウイルスを製造するための多数の技術を更に提供する。
【0053】
i)パーケージング細胞に由来する高力価の提供、
ii)パッケージング細胞の利用を含まない手段によるベクター構造体のパッケージング、
iii)予備選択した細胞系のために選ぶ組換レトロウイルスの製造、
iv)組織特異性(例えば腫瘍)プロモーターを有するレトロウイルスベクターの作製、及び
v)プロウイルス構造体の、細胞ゲノムにおける予備選択した位置又は複数の位置の中への一体化。
【0054】
パッケージング細胞からより高い力価を提供するための1つの技術は我々の発見を利用しパッケージング細胞由来の力価を制限する多数の因子の中で、最も制限されるものはパッケージングタンパク質、一般にはgag、pol及びenvタンパク質の発現レベル及びプロウイルスベクター由来のレトロウイルスベクターRNAの発現レベルである。この技術は前記のパッケージングタンパク質及びベクター構造体RNAのより高い発現レベル(即ち、より高濃度の製造)を有するパッケージング細胞の選別を可能とする。より詳しくは、この技術は、パッケージングタンパク質(例えば、gag、polもしくはenvタンパク質)又は標的細胞のゲノムの中に運搬される対象の遺伝子(一般にはベクター構造体として)のいずれかである、本明細書で「プライマリー物質」として称されているものを高いレベルで製造するパッケージング細胞の選別を可能にする。このことは、パッケージング細胞に、該パッケージング細胞においてプライマリー物質を発現せしめる遺伝子(「プライマリー遺伝子」)を運ぶゲノム及び選別可能な遺伝子(好ましくはプライマリー遺伝子の下流)を提供せしめることにより達成される。この選別可能な遺伝子は該パッケージング細胞に選別可能なタンパク質、好ましくはその他の細胞毒素性薬剤に対する耐性をもたらすものを発現させる。次に該細胞を選別薬剤、好ましくは細胞毒性薬剤に曝露せしめ、臨界レベルで選別可能なタンパク質を発現するこれらの細胞の同定を可能にする(即ち、細胞毒性薬剤の場合においては、生存のために必要なレベルの耐性タンパク質を製造しない細胞を殺傷することによる)。
【0055】
好ましくは、簡潔に上記した技術において、選別可能及びプライマリー遺伝子の両方の発現は同一のプロモーターによりコントロールされている。この観点において、レトロウイルス5’LTRを利用することが好ましいであろう。パッケージング細胞に由来する組換レトロウイルスの力価を最大にするため、この技術はまず必要とする全てのパッケージングタンパク質を高レベルで発現するパッケージング細胞の選別に用いられ、次に該組換レトロウイルスの最も高い力価を提供する、所望するプロウイルス構造体によりトランスフェクションされた後のこれらの細胞の選別に用いられる。
【0056】
パッケージング細胞の利用を含まない手段による、ベクター構造体のパッケージングについての技術も提供する。このような技術は、その他の無関係なレトロウイルス、バクロウイルス、アデノウイルス又はワクチンウイルス、好ましくはアデノウイルスのようなウイルスに基づくその他のベクター系を利用する。これらのウイルスは、それに提供される外因性遺伝子に由来する比較的高レベルのタンパク質を発現することで知られる。このようなDNAウイルスベクターのため、組換DNAウイルスは組織培養における、ウイルスDNAとレトロウイルス又はレトロウイルスベクター遺伝子を有するプラスミドとのインビボ組換により製造できる。レトロウイルスタンパク質又はレトロウイルスベクターRNAについてコード化する配列のいずれかを有す、得られるDNAウイルスベクターを高力価ストックヘと精製する。他方、該構造体をインビトロで作製し、そしてその後細胞に感染せしめることができ、これは該DNAベクターのトランスウイルス機能を失わせる。この製造方法にもかかわらず、高力価(107〜1011ユニット/ml)ストックが製造されることができ、これは感受性細胞の感染に基づき、高レベルのレトロウイルスタンパク質(例えばgag,pol及びenv)もしくはRNAレトロウイルスゲノム、又はその両方の発現を引き起こすであろう。これらのストック(単一又は組合せた)との培養における細胞の感染は、もしこのストックがウイルスタンパク質及びウイルスベクター遺伝子を運ぶならば、高レベルのレトロウイルスベクターの提供をもたらすであろう。これらの技術は、アデノウイルス又はその他の哺乳動物ベクターと利用した場合、組換レトロウイルスベクターを製造するためプライマリー細胞(例えば、組織外植片又はワクチンの製造において利用されるW138の細胞〕の利用を可能にする。
【0057】
上記の技術の他においては、適当な組換DNAウイルスにより感染せしめた細胞系に由来するgag/pol及びenvタンパク質を、先の技術と類似する方法ではあるが、但し該細胞系がベクター構造を有すDNAウイルスにより感染されていない方法においてまず作製することによって提供される。その後、該タンパク質を精製し、そしてインビトロで作製した所望のウイルスベクターRNA、トランスファーRNA(tRNA)、リポソーム及び細胞抽出物を接触せしめて該envタンパク質がリポソーム中でプロセスされるようにし、これによって該ウイルスベクターRNAを有す組換レトロウイルスが提供される。この技術において、envタンパク質をリポソーム中でプロセスせしめることは、それらを前記の混合物の残りのものと接触させる前に行うことが必要である。gag/pol及びenvタンパク質は、真核細胞、酵母又は細菌におけるプラスミド仲介トランスフェクションの後にも作られうる。
【0058】
予備選定した細胞を標的としうる組換レトロウイルスを製造するための技術は、1もしくは複数の以下のものを有する組換レトロウイルスを利用する:
第1レトロウイルス表現型の細胞質セグメントを含んで成るenv遺伝子、及び該第1レトロウイルス表現に外因性の細胞外結合セグメント(この結合セグメントは第2ウイルス表現型又はその他のタンパク質であって所望の結合特性を有するものに由来し、これは所望の標的に結合できうるペプチドとして発現されるよう選択される);その他のウイルスエンベロープタンパク質;正常エンベロープタンパク質に代るその他のリガンド分子;あるいは該標的細胞への感染をもたらさないエンベロープタンパク質を伴うその他のリガンド分子。好ましくは、簡潔に述べた上記の技術において、レトロウイルス表現型の細胞質セグメントを含んで成るenv遺伝子をリセプター−結合ドメインを有すタンパク質をコード化する外因性遺伝子と結合させ、該組換レトロウイルスが標的とする細胞タイプ、例えば腫瘍細胞に特異的に結合する能力を高めている。この観点において、該標的細胞の表層上に高レベルで発現されるリセプター(例えば、腫瘍細胞における成長因子リセプター)に結合するリセプター−結合性ドメイン、又は他に、ある組織細胞タイプ(例えば脳腫瘍における上皮細胞、管上皮細胞、等)において比較的高レベルで発現されるリセプターに結合するリセプター−結合性ドメインを好適に利用しうる。この技術において、一定の腫瘍に対する特異性を有す組換レトロウイルスを、腫瘍細胞における組換レトロウイルスの複製の反復継代により、又は該ベクター構造体を薬剤耐性遺伝子と連結せしめ、そして薬剤耐性について選別することにより、改良並びに遺伝子的に変化せしめることが可能である。
【0059】
組織(例えば腫瘍)−特異性プロモーターを有するレトロウイルスベクターの作製のための技術は、対象の組織において作動する制御コントロール要素(例えば網状赤血球において発現性をもたらす骨髄におけるベクターグロブリン遺伝子プロモーター、B細胞におけるイムノグロブリンプロモーター、他);組織−特異性制御コントロール要素であって、該コントロール要素が作動する標的細胞において致死剤をコード化する遺伝子の発現性を誘発することができるもの;を有する組換レトロウイルスを利用する。異なる組織における該制御コントロール要素の作動性は、この技術において利用するのに特定組織に対して絶体−特異性であることは必ずしも必要でなく、なぜなら、作動性における量的な相違は実質的なレベルの組織特異性を、該要素のコントロール下にある該薬剤の致死性に授けるのに十分であるからである。
【0060】
レトロウイルスゲノムを標的細胞のDNAにおける特定の位置に組入れることは、相同的組換の利用、又は他に該標的細胞ゲノムにおける特異的な位置を認識するであろう改質せしめたインチグラーザ酵素の利用を包含する。このような位置−特異的挿入は、標的細胞におけるDNAにおいて、望ましくない遺伝子(例えばウイルス遺伝子)の発現性を低める又はなくすよう、挿入的突然変異誘発の確率を最小にし、該DNA上のその他の配列への干渉を最小にし、そして特定の標的位置で配列の挿入を可能にせしめうる、該標的細胞のDNA上の位置への遺伝子の挿入を可能にする。
【0061】
上記の技術のいずれもが特定の状況において、他と独立して利用できること、又は1もしくは複数のその他の技術と一緒に利用でさることが理解されるであろう。
【0062】
本発明のこれらの観点及び他の観点は、以降の詳細なる説明及び添付図面を参照することによって明らかとなるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0063】
発明の詳細な説明
I.免疫刺激
異種の病原体に対する認識及び防御の能力は、免疫系の機能の中心である。免疫認識を介するこの系は、「非自己」(異種)から「自己」を区別することが可能でなければならず、このことは即ち、防御のメカニズムが宿主組織に対してではなく、侵入物に対して向けられていることを確実にするための本質である。この免疫系の基本的な特徴は、高い多型性細胞表層認識構造体(リセプター)の存在並びに侵入病原体の破壊のためのエフェクターメカニズム(抗体及び細胞溶解性細胞)にある。
【0064】
細胞溶解性Tリンパ球(CTL)は通常、MHCクラスI又はクラスIIの細胞表層タンパク質に関連してプロセスされる病原−特異性ペプチドの出現により誘発される。このタイプの抗原の提供により刺激されるものとして、抗体、ヘルパー細胞及び記憶細胞もある。本発明の1つの態様において、適切なMHC分子に関連しての免疫原ウイルス決定基の提供は、患者を病原体にさらすことなく最適なCTL応答を効率的に誘発する。免疫刺激のためのこのベクター手法は、潜在的なクラスIの制限された、予防的及び治療的CTL応答をより効率的に誘発する手段を提供する。その理由は、このベクターにより誘発されるこのタイプの免疫性は、天然の感染への暴露により誘発されたものと非常に似ているからである。複数のウイルス系の現在の知識に基づき、体外的に供給された非複製ウイルス抗原、例えばペプチド及び精製組換タンパク質はクラスIの制限された最適なCTL応答性を誘発せしめるための十分な刺激を提供しないであろう。他方、選択したウイルスタンパク質又は本発明の中で記載する標的細胞における、病原症状例えば癌に関連するその他の抗原の、ベクター運搬された発現はこのような刺激を提供する。
【0065】
実施例の方法により、HIV−1感染のケースにおいて、患者は種々のウイルス性エンベロープ−領域決定墓に特異的な抗体を発生せしめ、それらのうちのいくつかはインビトロウイルス中和が可能である。にもかかわらず、疾病の進行は続き、患者は事実上この疾病に侵される。感染された患者細胞(P1ataら、Nature 328:348−351、1987)及び標的細胞であって、HIVgag,pol又はenvを発現する組換ワクチンベクター(Walkerら、Nature 328:345−348、1987;Walkerら、(Science 240:64−66、1988)により感染されたものに対する低レベルのCTL応答がいくつかのHIV−1陽性血清患者において検出された。更に、ネズミ及びヒトCTLはトランスフェクションを介して、HIVgp120を発現する自己スチムレーター細胞により誘発されうることが近年見い出されている(Langlade−Demoyanら、J.Immumol.141:1949、1989)。改善せしめたCTL誘発は感染患者のための有利な治療となることができ、そして非感染性症状のもとでは個体のための有効な予防的治療を提供する。HIV感染自体は適切なCTL応答を提供しないであろう。その理由は、HIV感染に関連するその他の要素が適切な免疫刺激を妨げるからである。更に、感染細胞によるT−細胞の刺激は、刺激されたT−細胞の感染をもたらす相互作用である。
【0066】
HIV−1は1つの例にすぎない。この手法は、例えばHPV及び頸管癌腫、HTLV−1−誘発自血病、前立腺−特異的抗原(PSA)と前立腺癌、突然変異p53と結腸癌腫、GD2抗原と黒色腫等のように、特徴的な抗原(これは膜タンパク質である必要はない)が発現される、ウイルスに関連する疾病又は癌に対して有効であろう。実施例1はパッケージング細胞においてレトロウイルスベクターを発生できるプラスミドの作製のための方法を詳細し、これはHIVウイルス抗原の発現をもたらす。
【実施例】
【0067】
実施例1
HIV抗原を発現するベクター
A.Env発現ベクター(図1参照):
2.7kbのKpn−XhoIDNAフラグメントをHIVプロウイルスクローンBH10−R3(配列については、Ratneら、Nature 313:277、1985を参照のこと)から単離し、そしてIIIexE7delta env(nt.5496迄Ba131欠損)由来の約400bpのSaI−KpnIDNAフラグメントをプラスミドSK+におけるSalI部位にリゲートせしめた。このクローンから、env発現のために本質的な、revをもコード化する3.1kbのenv DNAフラグメント(XhoI−ClaI)を単離し、そしてpAFVXMと呼ぶレトロウイルスベクター(Kriegleら、Cell 38:483、1984参照)にリゲートせしめた。このベクターは改良されており、HIV envコード化DNAフラグメントのクローニングを促進せしめるため、BalII部位はリンカー挿入によってXhoI部へと変えられている。
【0068】
ネオマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子の発現を作動せしめるSV40初期プロモーターを含んで成る優性選別マーカー遺伝子をこのベクターのClaI部位に挿入せしめ、感染及びトランスフェクトされた細胞系の単離を促進せしめた。このベクターをpAF/Envr/SV2neoと呼ぶ(図1参照)。
【0069】
このベクターのENV遺伝子から上流のXhoI部位は、RSVプロモーター、SV40初期又は後期プロモーター、CMV即初期(immediate early:IE)プロモーター、ヒトベーターアクチンプロモーター、及びモロニーネズミMLV SL3−3プロモーターのような更なるプロモーターのこのベクター構造体への挿入に好都合な部位を提供する。
【0070】
このようなプロモーターの1つ、CMV即初期遺伝子プロモーター(図1参照)、即ち、673bpのDNAフラグメントHinIIからEagIは、SupT1と称されるヒトT−細胞系におけるENVの発現を、親構造体pAF/Envr/SV2neoと比較して10倍高めることをもたらす(図2参照)。
【0071】
このベクターの力価を高めるため、N2に基づく組換レトロウイルスを利用できる(Armentatoら、J.Virol.61:1647−1650、1987;EglitasらScience 230:1395−1398、1985)。このベクターはN2由来のパッケージング配列及び細菌性ネオマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子の両方を有する。上記のHIV env構造体を以下の通り、N2における固有XhoI部位に挿入せしめた。
【0072】
N2に由来する、GAG配列を合むMoMuLV5’LTRフラグメント(EcoRI−EcoRI)をプラスミドSK+にリゲートせしめ、N2R5と呼ぶ構造体を得た。このN2R5構造体を、GAG、ATGをATTへと変化せしめるため、位置特異的インビトロ突然変異誘発によって突然変異せしめた。この突然変異部位はPstI部から200bp離れて位置する。この200bp突然変異フラグメントを単離し、そしてプラスミドpUC31におけるN2MoMuLV5’LTRの同一のPstI部位に挿入せしめた(突然変異されていない200bpのフラグメントと交換するため)。得られる構造体をpUC31/N2R5gMと呼ぶ。(pUC31はpUC19に由来し、これはXhoI、BalII、BssHII及びNcoI部位がポリリンカーのEcoRIとSacI部位の間に更に挿入されている)。N2に由来する1.0kbのMoMuLV3’LTRフラグメントをプラスミドSK+にクローンせしめ、N2R3(−)と呼ぶ構造体が得られた。
【0073】
ベクターpAF/EnvrSV2neoから、env発現に本質的な、revもコード化する3.1kbのenv DNAフラグメント(XhoI−ClaI)を単離した。プラスミドN2R3(−)から、1.0kbのMoMuLV3’LTRフラグメント(ClaI−HindIII)を単離した。
【0074】
N2を基礎とするenv発現性ベクターを3つの部分リゲーションにより製造し、ここで3.1kbのenvフラグメント(Xhol−ClaI)及び1.0kbのMoMuLV3’LTRフラグメント(ClaI−HindIII)をpUC31/N2R5gMのXhoI−ClaI部位に挿入せしめた。
【0075】
ネオマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子の発現を作動せしめるSV40初期プロモーターを含んで成る優性選別マーカー遺伝子をN2を基礎とするenv発現ベクターにClaI部位にて挿入せしめ、感染及びトランスフェクトされた細胞系の単離を促進せしめた。このベクターをKT−1と呼ぶ。
【0076】
B.Gag発現ベクター:
レトロウイルスベクターにおいてHIVgag及びpol遺伝子生成物を効率的に発現せしめるためには、二つの条件が満足されねばならない:
1)gag及びpolに埋めれている制御要素を無効にするため、このベクターにREV応答性要素(RRE)を加えなければならないこと;及び2)REVはこのベクターに挿入されたRREと相互作用するために効率的に発現されなければならず、これによってウイルスメッセンジャーRNAの細胞質の中への適切な輸送が可能となること。
【0077】
2.5kbのSacI−EcoRV DNAフラグメントをpBH10R3から単離し(Ratnerら(前記)を参照)、そしてpUC31のSacI−SmaI部位に、ユニバーサル翻訳停止コドンをコードするリンカーを伴ってリゲートせしめた。pUC31はpUC19に由来し、XhoI、BalII、BssHII及びNcoI部位がこのポリリンカーのEcoRIとKpnI部位の間に挿入されている。しかしながら、この構造体はHIVに由来する主要スプライスドナー(SD)部位を含み、それ故ウイルスの発生における問題となりうる。このSD部位は、70bpのRsaI−ClaIフラグメントを2.1kbのClaI−BamHI DNAフラグメントと共に、SK+のHincII−BamHI部位の中にサブクローン化せしめることによって除去できる。このBamHI部位をリンカー挿入によってClaI部位へと変換せしめた。この構造体をSK+ gagプロテアーゼSDデルターと命名する。
【0078】
gag/pol SD欠損完成構造体を、3つの部分のリゲーション反応により製造し、ここでSK+ gagプロテアーゼSDデルタ由来の757bpのXho−SpeIフラグメント及びBH10R3由来の4.3kbのSpeI−NcoIフラグメントをSK+XhoI−NcoIに挿入せしめた。SK+におけるXbaI部位を、その反応を促進せしめるためにNcoIへと変換せしめた。
【0079】
このベクターにREV及びREV応答性要素の両方を導入せしめるため、プラスミドSK+ HIVenにおける1.4kbのSspI欠損を発生せしめた。この欠損はREVの発現のために重要でないイントロン配列を除去せしめた(REVの発現はスプライスせしめたmRNAから続けられるであろう。)更に、この欠損はenvに位置するREV応答性要素に影響を及ぼさない。真核細胞翻訳開始コドンを含むように操作された、優性選別マーカーNeoをコード化する1.1kbのDNAフラグメントをこの構造体に、envにおけるBalII部位にて挿入せしめた。neoの挿入は、継代せしめたウイルスの検出及びウイルスの選別を、継代にわたりスプライスされていない状態において促進せしめる。プロモーター例えばCMVをこの構造体のXhoI部に挿入せしめた。この構造体をSK+ CMV/REV/Neoと命名した。最終ウイルス構造体は四つの部分のリゲーション反応により製造されうる。SK+ gagポリメラーゼSDデルタ由来の2.5kbのXhoI−XbaI DNAフラグメント、SK+ CMV/REV/Neo由来の3.5kbのSpeI−ClaI DNAフラグメント及びN2R3(−)(3’LTRのみを含むN2のサブクローン)由来の1.2kbのClaI−HindIIIDNAフラグメントをpUCN2R5(5’LTRを含むN2のサブクローン)の中に、この構造体のXhoI−HindIII部位で挿入せしめた。
【0080】
C.N2を基礎とするベクターを利用するGag−Pol発現
HIVgag−pol遺伝子生成物は、効率的な発現は、REV応答性要素(RRE)及びREVを必要とする(前述した「Gag発現性ベクター」を参照のこと)。
【0081】
REV及びRREを得るため、2.7kbのKpnI−XhoI DNAフラグメントをHIVプロウイルスクローンBH10−R3から単離し(配列については、RatnerらのNature 313:277、1985を参照のこと)、そしてexE7 delta envに由来する400bpのSalI−KpnI DNAフラグメント(nt5496迄のBal131欠損)をプラスミドSK+におけるSalI部位にリゲートせしめた。この構造体をSK+ envrと呼ぶ。239bpの5’REV DNAフラグメント(XhoI−SspI)及びSK+フラグメントにおける4.2kbのRRE/3’REVをSK+ envrから単離した。
【0082】
gag−pol遺伝子を得るため、2.5kbのSacI−EcoRI DNAフラグメントをpBH10−R3(Ratnerら(前記)を参照)から単離し、そしてpUC31のSacI−SmaI部位に、ユニバーサル翻訳停止コドンをコード化するリンカーと一緒にリゲートせしめた。しかしながら、この構造体はHIVに由来する主要なスプライスドナー(SD)を含み、従ってこれはウイルスの発生における問題となりうる。このSD部位を、70bpのRSAI−ClaIフラグメントを2.1kbのClaI−BamHI DNAフラグメントと共にSK+のHindII−BamHI部位にサブクローニングせしめることによって除去した。このBamHI部位をリンカー挿入によってClaI部位に変換せしめた。この構造体をSK+ gagプロテアーゼSDデルタと命名した。
【0083】
gag−pol SD欠損完成構造体を3ケ所のリゲーションにより製造し、ここでSK+ gagプロテアーゼSDデルタ由来の757bpのXhoI−SpeIフラグメント及びBH10−R3由来の4.3kbのSpeI−NcoIフラグメントをSK+ XhoI−NcoIに挿入せしめた。SK+におけるXbaI部位をその反応を促進せしめるためにNcoIへと変換せしめた。更に、polにおけるNdeI部位をXbaI部位に変換せしめた。得られる構造体をSK+ gag−pol SDデルタと呼ぶ。この構造体に由来するXbaI部位を再び変換せしめてBamHI部位を作り、そして4.2kbのgag−pol DNAフラグメント(XhoI/ブラント−BamHI)を単離した。
【0084】
SK+ gag−pol発現ベクターは3ケ所のリゲーションにより製造し、ここで239bpの5’REV DNAフラグメント(Xho−I−SspI)及び4.2kbのgag−pol DNAフラグメント(XhoI/ブラント−BamHI)をSK+ベクターフラグメントにおけるXhoI−BglII4.2kbのRRE/3’REVに挿入せしめた。得られる構造体をSK+ gag−pol/RRE/REVと呼ぶ。
【0085】
N2を基礎とするgag−pol発現ベクターを2ケ所のリゲーションにより製造し、ここでSK+ gag−pol/RRE/REVに由来する5.7kpのgag−pol/RRE/REVフラグメントをpUC31/N2R5gMのXhoI−ClaI部位に挿入せしめた。
【0086】
N2(EcoRI−EcoRI)由来の優性選別マーカー遺伝子であってネオマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子の発現を作動せしめるSV40初期プロモーターを含んで成るものをプラスミドSK+の中にクローンせしめた。これより、1.3kbのneo遺伝子フラグメント(ClaI−BstBI)をN2を基礎とするgag−pol発現ベクターのClaI部位に挿入せしめ、感染及びトランスフェクトされた細胞系の単離を促進せしめた。このベクターをKT−2と呼ぶ。
【0087】
D.N2を基礎とするベクターを用いたGag−プロテアーゼ−RT発現
gag−プロテアーゼ逆転写酵素(gag−プロテアーゼ−RT)遺伝子生成物(gag/prot)の効率的な発現は、RRE及びREVを必要とする(「Gag発現性ベクタ一」を参照のこと)。
【0088】
REV及びRREは前記の通りに製造した(「N2を基礎とするベクターを利用するGag−pol発現性」を参照のこと)。
【0089】
このgag遺伝子は主要のスプライスドナー(SD)を含み、これはウイルスの発生における問題となりうる。このSID部位は、pSLCATdelBalII(HIV株HXB2に由来する、gag−pol、tat、及びrevを発現するベクター)の位置特異的インビトロ突然変異誘発によるGTをACに変えることで除去された。このSDデルタ部位の上流にSacI部位も作り上げ、従って780bpのSDデルタ−gagフラグメント(SacI−SpeI)が精製されうる。1.5kbのgag−prot−RTフラグメント(SpeI−EcoRV)及び780bpのSDデルタgagフラグメント(SacI−SpeI)をpUC18(SacI−SmaI)に挿入せしめた。得られる2.3kbのSDデルタgag/prot−RTフラグメント(SacI/ブラント−BamHI)をこのpUC18ベクターから単離した。
【0090】
SK+ gag−prot−RT発現ベクターは3ケ所のリゲーションにより製造され、ここで2.3kbのSDデルタgag−prot−RTフラグメント(SacI/ブラント−BamHI)をSK+ベクターフラグメントにおけるXhoI−BglII4.2kbのRRE/3’REVに挿入せしめた。得られる構造体をSK+gag−prot−RT/RRE/REVと呼ぶ。
【0091】
N2を基礎とするgag−prot−RT発現ベクターを2ケ所のリゲーションにより製造し、ここでSK+gag−prot−RT−RRE/REVに由来する3.8kbのgag−prot−RT/RRE/REVフラグメント(XhoI−ClaI)をpUC31/N2R5gMのXhoI−ClaI部位に挿入せしめた。
【0092】
ネオマインンホスホトランスフェラーゼ遺伝子の発現を作動せしめるSV40初期プロモーターを含んで成る、N2(EcoRI−EcoRI)由来の優性選別マーカー遺伝子フラグメントをプラスミドSK+の中にクローンせしめた。これにより、1.3kbのneo遺伝子フラグメント(ClaI−BstBI)がN2を基礎とするgag−pol−RT発現ベクターの中に、ClaI部位にて挿入され、感染及びトランスフェクトされた細胞系の単離が促進された。
【0093】
E.H2−Dd発現ベクターの作製
H2−Dd遺伝子をコード化するネズミのクラスI遺伝子を、このH2−Dd遺伝子の上流に挿入されるCMVプロモーター又はRSVLTRのいずれかを含むブルースクリプト(B1uescript:商標)SK+プラスミドの中に挿入せしめた。この発現性構造体RSV−Dd及びCMV−DdをCaP04/ポリブレン法を利用し、3T3細胞に導入せしめた。
【0094】
この発現性構造体CMV−Dd及びMV7.74(ヒトCD4及びネオマイシンホスホトランスフェラーゼを発現するレトロウイルス構造体)をヒトHT1080細胞に同時導入せしめた。これらの細胞を、G418により選別し、そして耐性コロニーを拾い、増殖せしめ、そしてラット抗−Dd抗体を用いるウェスタンブロットによってH2−Ddの発現性について試験した。陽性クローンのうちの1つ(A−a)をN2env−neo(KT−1)により感染せしめた。
【0095】
F.CTLエピトープの地図化のためのHIVエンベロープ欠失体の作製
2種類のレトロウイルスベクターを、CTLと反応性のぺプチドエピトープを含むHIVエンベロープタンパク質における領域を地図化するために調製した。第1は、Δループと称し、患者の血清における抗体と反応性のHIVIIIBエンベロープタンパク質の領域であるgp120超可変ループの欠失を含む。第2は、「チャンクI」と称し、アミノ末端からgp120ループの起点迄のHIVIIIBエンベロープのエンベロープ領域のみを含み、これはこのエンベロープタンパク質の膜gp41「テール」も欠失している。
【0096】
1.Δループ
HIVIIBenvの602塩基対のHincII−ScaIフラグメントを調製し、そしてプラスミド130Bの中に挿入せしめた。43−merオリゴ5’G AAC CAA TCT GTA GAA ATT AAT AAC AAT AGT AGA GCA AAA TGG3’を合成した。誤対合プライマーの突然変異誘発をKunkelの方法(Kunkel、T.A.Proc.Natl.Acad.Sci.USA 82:448−493、1985)により行い、106個のアミノ酸のフレーム欠失を発生せしめた。これはDNAシーケンシングにより確認した。この欠失を合むStuI−Aoc1フラグメントを次に、ブルースクリプトSK+(Stratagene、La Jolla)において含まれるHIVIIIbenvの同一部位に挿入せしめた。これより直ちに、この欠失を合むHIV envIIIBのXhoI−ClaIフラグメントを改良したN2レトロウイルスベクターの同一の部位に挿入せしめた。(このベクターはgagATC開始コドンを有さない)。最後にSV2neo遺伝子を適切な方向においてClaI部位の中に挿入せしめた。
【0097】
2.チャンクI
HIVIIIBenvの1.30kbのXhoI−PVUIIフラグメントをブルースクリプトSK+ベクター(Stratagene、LaJolla)の中に、XhoI−HincII部位にてクローン化せしめた。次にこのフラグメントをXhoI−BamHIフラグメントとしてこのベクターから再び単離し(ポリリンカー由来のBamHI部位)、そしてKT−1レトロウイルスベクター又はHIVIIIBを発現するCMV構造体のいずれかにおいて含まれる、HIV envIIIBのXhoI−BalII部位の中に挿入せしめた。
【0098】
これらのプラスミドは、適切なパッケージング細胞に入れた場合、パッケージングシグナルを合むレトロウイルスベクター構造体を発現する。このパッケージングシグナルはこのベクター構造体を、生存できるレトロウイルス粒子に必要な全ての更なるタンパク質を伴って、カスピド及びエンベロープの中にパッケージングせしめることをもたらす。このカスピド、エンベロープ及びその他のタンパク質は、パッケージング細胞に位置する適切なゲノムを含む1又は複数のプラスミドから好適に製造される。このようなゲノムはプロウイルス構造体であって、簡単なケースにおいてそれらは単にパッケージングシグナルが欠失していることがある。結果として、このベクターのみがパッケージングされるであろう。適切なパッケージング又はパッケージング細胞系及びこのようなパッケージングを達成せしめるのに必要なゲノムはMillerら(Mol.Cell.Bio.6:2895、1986)において詳細され、これは本明細書に参考文献として組入れている。Millerらにより詳細の通り、複製欠陥でないウイルス粒子の製造をもたらしうる、パッケージング細胞系において発生する組換現象の確率を低めるためには、このパッケージングシグナルの単純な削除よりもこのプロウイルス構造休に更なる変化を付与せしめることの方が好ましい。
【0099】
実施例1はHIVエンベロープ糖タンパク質(gp)又はその他のウイルス抗原を作り出すための方法の単なる例示であることが理解されるであろう。より小さいT細胞細胞変性効果を伴って免疫応答を刺激せしめるであろう、標的細胞上の改良されたHIVエンベロープgpを発現せしめるプロウイルスベクター構造体を提供することも可能である。エンベロープ糖タンパク質は当業界においてよく知られる技術、例えばKowalskiら(Science 237:1351、1987)(本明細書に参考文献として組入れている)の開示する論文を利用して適切に改良されうる。従って、プロウイルス構造体は、このように適切に改良されたgpを発現せしめるレトロウイルス構造体を発生する上記の技術により作製されうる。次にこの構造体を前記の通りにパッケージング細胞に導入せしめた。感受性標的細胞の感染を介して免疫応答を刺激せしめるため、このパッケージング細胞系から作られる得られた組換レトロウイルスはインビボ及びインビトロで利用されうる。これらの手段によって感受性標的細胞の中に導入せしめた核酸は、この標的細胞の核酸に組込まれるようになる。HIVゲノムから発現されるその他のタンパク質、例えばgag,pol,vif,nef、他もHIV−感染個体における有利な細胞応答を誘発することが理解されるであろう。以降に詳細するプロウイルスベクターは、臨床的に有利な免疫応答性を促すためにこのようなタンパク質を発現せしめるようデザインされている。あるベクターについてはrevをコード化する配列及びrev応答性要素を含むことが必要となりうる(Rosenら、Proc.Acad.Sci.85:2071、1988)。
【0100】
以下の実施例は、マウスにおけるCTL応答を誘発するためのこのタイプの治療の能力を示す。
【0101】
実施例2
A.レトロウイルスベクターコード化抗原に対する免疫応答
ネズミ腫瘍細胞系(B/C10ME)(H−2d)(Patekら、Cell.Immunol.72:113、1982)を、HIV envをコード化するpAF/Envr/SV2neoベクター構造体を有す組換レトロウイルスにより感染せしめた。1つのクローン化HIV−env発現細胞系(B/C10ME−29)を次に、同族(即ち、MHCが同一)Balb/C(H−2d)マウス(図3参照)においてHIV−env−特異的CTLを刺激せしめるために利用した。マウスをB/C10ME−29細胞(1×107個の細胞)により腹膜腔内注射によって免疫化し、そして7〜14日増幅せしめた。(増幅は絶体に必要ではない)。応答性の脾臓細胞懸濁物をこれらの免疫マウスから調製し、そしてこの細胞をB/C10ME−29(BCenv)又はB/C10ME(BC)マイトマイシン−C−処理細胞のいずれかの存在下において、スチムレーター:応答性細胞の比が1:50で、4日間インビトロで培養した(図3)。このエフェクター細胞をこの培養物から回収し、カウントし、そして標準の4〜5時間51Cr−放出アッセイにおいて、放射性標識(51Cr)せしめた標的細胞(即ち、B/C10MEenv−29又はB/C10ME)と種々のエフェクター:標的(E:T)細胞比で混合した。インキューションの後、マイクロタイタープレートを遠心し、溶解細胞から放出された放射標識物の量をベックマンガンマースペクトロメーターにより計測した。標的細胞溶解は、%標的溶解=(Exp CPM−SR CPM/MR CPM−SR CPM)×100として計算され、ここで分当りの実験計測値(Exp CMP)はエフェクター及び標的物を表わし;自発性放出(SR)CPMは標的物単独を表わし;そして最大放出(MR)CPMは1MのHClの存在下における標的物を表わす。
【0102】
結果が示すには(図4A)、非HIV env BC標的細胞よりも有意により効率的に、HIV−env−発現性標的細胞(BCenv)を特異的に溶解せしめるCTLエフェクターが誘発された。非−HIV−env−発現性コントロール細胞(B/C10ME)によりインビロで再刺激せしめたプライム化脾臓細胞は、B/C10ME env−29又はB/C10ME標的細胞のいづれにおいても、特に低いE:T細胞比で、有効なCTL活性を示さなかった。天然の非免疫化Balb/CマウスであってB/C10ME env−29によりインビトロで刺激せしめたマウスに由来する脾臓細胞はCTLを発生せず(データーは示していない)、従ってインビボでのプライミング及び増幅操作の重要性を示唆する。この実験は繰り返され、そして同様の結果が得られた。
【0103】
他の実験において、Balb/Cマウスに由来するエフェクター細胞であって、免疫化され、増幅され、そして同一のpAF/Envr/SV2neo(HIV−env)ベクター構造体により感染された異なるH−2dHIV−env−発現性腫瘍細胞クローン(L33−41)によってインビトロで再刺激せしめたものは、B/C10ME env−29標的細胞を溶解せしめることができた。このことは、これらのマウスにおいて発生するCTLは、これらの細胞上の固有の腫瘍細胞抗原を単に認識するのでなく、HIV−envの発現された型を特異的に認識することを更に支持することを提供する。この結果は、このベクター−運搬抗原は二種の腫瘍細胞系によって、同様の状態において存在することも示唆する。CTL応答性の特異性は、BCenv免疫化マウスに由来するエフェクター細胞を、neo及びHIV env遺伝子を発現するBCenv標的細胞、BC(非−neo、非−HIV env)親標的細胞及びneo耐性マーカー遺伝子は発現するがHIV envを発現しないBC neo標的細胞に基づいて試験することによって更に立証される。
【0104】
他の実験において、1×107個のBC env細胞により免疫され、増幅され、そしてインビトロで再刺激せしめたマウスに由来するエフェクター細胞を、誘発された細胞障害性エフェクター細胞の表現型を決定するために、T細胞特異性モノクローナル抗体(MAb)と補体(C’)によって処理せしめた。このエフェクターを抗−Thyl.2(CD3)、抗−L3T4(CD4;RL172.4、Ceredigら、Nature 314:98、1985)又は抗−Lyt2.2(CD8)Mabのいずれかと30分問4℃で処理し、ハンクの平衡食塩水(HBSS)で1回洗浄し、低トックス(tox)ラビットC’に再懸濁し、そして37℃で30分間インキュベートした。この処理細胞をRPMI1640完全培地において3日洗浄し、カウントし、そして前記の通りBC env放射性標識標的細胞を溶解せしめるそれらの能力について試験した。図4Cが示すには、抗−Thy1.2又は抗−Lyt2.2Mab+C’のいずれかによる処理は細胞障害性活性を無効にするが、抗−L3T4 MAb+C’又はC’単独では細胞障害性に有意な影響を及ぼさなかった。これら結果は、この系において発生する細胞瞳害性エフェクター細胞の大部分が、CD3+,CD4−,CD8+細胞障害性T−細胞表現型であることを示唆した。
【0105】
前述したCTLエフェクター細胞のMHC制御を調べるための実験を行った。ネズミMHCの異なるH−2領域に対するポリクローナル抗体(即ち、抗−H−2d、抗−H−2Dd、抗−H−2Ld、抗−H−2Kd、抗−H−2Id)を、BC env標的細胞に基づくCTL応答を阻止するために用いた。抗−H−2K抗血清は陰性コントロールとして利用した。このデー夕ー(図4D)は、Balb/C抗−BCenvCTL応答が抗−H−2Dd抗血清によって主に阻害されることを示した。このことは、これらのCTL応答は、H2複合体のD領域においてほとんどコード化されるMHCクラスI分子により制御されることを示唆した。
【0106】
マウスが複製可能(replication comptent)HIV env−発現性腫瘍細胞により免疫化されている実験の他に、CTLをインビボで誘発せしめるのにスチムレーター細胞を増殖せしめることが必要であるかどうかを調べるための試験を行った。マウスを照射せしめた(10、00rads)又は照射せしめていないBC env細胞により免疫し、そしてプライム化脾臓細胞をその後インビロで前記の通り刺激せしめた。得られるエフェクター細胞を放射性標識せしめたBCenv及びBC標的細胞に基づいてCTL活性について試験した。図4が示すには、HIV−特異性CTLはインビボで、照射された又は照射されていないスチムレーター細胞のいづれによっても誘発されうる。これらのデーターが示すには、HIV env−発現性スチムレーター細胞によるCTL誘発はインビボでのスチムレーター細胞の増殖に依存せず、適切なMHC情況におけるHIV env抗原の存在は効率的なCTL誘発のために十分である。ホルマリン固定細胞も同等の免疫応答を誘発した。このことは、死滅した細胞又はおそらく細胞膜であって適切なMHCクラスI/II分子情況において適切な抗原を発現するものが、効率的なCTL応答を誘発するのに十分であることを示す。
【0107】
Balb/CマウスヘのBCenv細胞の最適な注射投与量を調べるための更なる実験を行った。マウスを種々の数のBCenvスチムレーター細胞により免疫し、前記の通りインビトロで再刺激せしめ、そしてCTL活性について試験した。図4Fにおいて示す結果は、5×106個のenv発現性BCenv−29スチムレーター細胞によるマウスの免疫化が、これらの条件のもとで最適なCTL応答性を発生せしめたことを示す。宿主の応答性に授けられる遺伝子的制御に関する徴候を提供するため、ベクター感染化HIV env−発現性BCenvスチムレーター細胞のBalb/C以外その他のH−2dマウス種におけるCTL応答を誘発せしめる能力について調べる更なる実験を行った。H−2dの異なる系(即ち、Balb/C,DBA/2,B10.D2)及びH−2d×H−2bF1ハイブリドマウス〔即ち、CB6F1(Balb)/C×B6F1);B6D2F1(B6×DBA/2F1)〕を、BC envスチムレーター細胞により免疫し、そしてCTL応答性の誘発について試験した。図4Gが示すには、F1ハイブリドを含む全ての系が、異なる度合いでBCenv標的細胞に対するCTL応答性を発生せしめた。ある系は親(即ち、非HIV env)標的細胞に対する応答性をも示したが、これらの応答性はBCenv標的に対するそれよりも低かった。
【0108】
ベクター感染化HIV env(株IIIB)−発現性BCenvスチムレーター細胞のその他のHIV株(即ち、MN)に対する交差反応CTL応答性を誘発せしめる能力を評価するための実験も行った。図4Hは、ベクター感染化BCスチムレーター細胞のHIV envIIIB株により誘発されたCTLが、IIIBエンベロープ配列と類似するRP135ペプチド(Javaherianら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:6768、1989)により被覆されたBC標的細胞を殺傷せしめることを示した。これらCTLは、RP142(即ち、エンベロープタンパク質のHIV MN系と類似するペプチド)(Javaherianら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:6768、1989)により被覆されたBC標的細胞も殺傷せしめた。
【0109】
マウスにおいてCTL応答を誘発せしめる、一過性−HIV env発現性スチムレーター細胞の能力を調べるための更なる実験を行った。これらの細胞は、使用する前にわずか2日でレトロウイルスベクターにより感染され、そしてスチムレーター細胞として利用する(即ち、マウスに注射する前に選別又はクローン化する必要がない)ことにより、前述したBCenvスチムレーター細胞から区別される。図4Iに示す結果は、HIV envIIIbベクター構造体を有するプラスミドDNA(その中でcmvプロモーターはHIVエンベロープタンパク質;BCpcmvIIIbの発現を作動せしめる)により、マウスヘの注射の2日前に感染されたBC細胞は、特異的なCTLであって、インビトロでBCpcmvIIIb細胞により蒋刺激されることができ、そしてBCpcmvIIIb一過性−発現性標的細胞(BCpcmvenvIIIB標的)及びHIV envIIIbの安定な発現性についてクローン化され且つ選別された細胞系由来のレトロウイルス感染化BC細胞(BC−29標的)を殺傷できうるCTLを誘発せしめることを示した。このような特異的免疫CTLは、HIVエンベロープタンパク質を発現せしめないBC10MEコントロール細胞は殺傷せしめなかった。従って、B/C細胞一過性−発現性HIVエンベロープタンパク質はインビトロでの免疫応答の有効な誘発剤、インビボでの免疫CTLの再刺激剤(即ち、CTLアッセイ他における利用のため)、及びインビトロでの免疫CTLによる溶解についての標的細胞として働きうる。更に、同様の実験の結果を図4Jにおいて図示し、これはBC細胞一過性−発現性H2−DdがH2−Dd同種免疫(alloimmune)CTLによる溶解についての標的細胞として働くことを示す。
【0110】
マウスにおける免疫応答性を誘発せしめる、その他のレトロウイルスベクター−コード化HIV抗原の能力を評価するため、gag/pol及びgag/protをコード化するレトロウイルス構造体による実験も行った。図4Kに示す結果は、ネズミCTLがgag/pol又はgag/protのいずれかによる免疫によって誘発され、それらはそれぞれの標的細胞、即ち、BC−1−16H細胞(即ち、gag/polベクターにより感染)又はBC−1細胞(即ち、gag/protベクターにより感染)のいずれかを殺傷できることを示す。
【0111】
gag/pol及びgag/protスチムレーター細胞により誘発されるCTL殺傷の特異性を評価するための更なる実験を行った。図4L及び4Mにおいて示す結果は、gag/pol又はgag/protスチムレーター細胞により誘発されたCTLがgag/pol(即ち、1−15H)及びgag/prot(即ち、BC−1)標的細胞の両方を殺傷することを示した。この場合において、CTLによるこの殺傷は、gag/pol及びgag/protの両方に共通の分散領域に向けられているであろう。
【0112】
ヒトにおけるこの免疫刺激用途の実施は、(1)対象の抗原をコード化する遺伝子を細胞に運び入れること、(2)該抗原を適切な細胞において発現せしめること、並びに(3)MHC制御要件、即ちクラスI及びクラスII抗原の相互作用が十分であること、を必要とする。好ましい態様において、ベクターの調製は正常培地中で提供細胞を増殖せしめ、この細胞をヒト血清アルブミン(HSA)を10mg/mlで加えたPBSにより洗浄し、次いでこの細胞をHSAの加えたPBSで8〜16時間増殖せしめることにより行われる。得られる力価は、ベクター、パッケージング系又は特定の提供系クローンに依存して一般に104〜106/m1である。このベクター上清液を細胞を除去するために濾過し、そして100、000又は300、000パスアミコンフィルター(Wolfら、Proc.Natl.Acad.Sci.84:3344、1987)又はその等の同等のフィルターを通すことによって100倍迄濃縮せしめた。これは100、000又は300、000の球状タンパク質を通過せしめるが、感染性粒子としてのウイルスベクターの99%は保持せしめる。このストックは保存のために凍結することができ、しかしそれらは凍結融解に基づき約50%の感染ユニットを失う。他方、このウイルスベクターは常用の技術によって更に精製できる。最も直接的な搬送は、適切な遺伝子運搬ベクターを個体に投与すること、及び適切な細胞を効率的に標的とし、これによって免疫応答の刺激を開始できるこのベクターの能力に基づく信頼性を含む。投与量は一般に体重のkg当り105〜106感染ユニットである、以下の実施例はマウスにおける免疫応答を刺激するための直接的なベクター注射の能力を示す。
【0113】
B.レトロウイルスベクターの直接的な注射によるマウスにおける免疫応答の刺激
HIVエンベロープタンパク質の発現を誘発せしめる組換レトロウイルスベクターのマウスにおける直接的な注射後の能力を評価するための実験を行った。KT−1ベクター構造体を有す約104〜105コロニー形成単位(cfu)の組換レトロウイルスを3週間隔で2回、腹膜腔内注射(1P)又は筋肉内注射(IM)せしめた。このレトロウイルスの量はおよそ100μgのタンパク質以下に相等すると測定され、これは一般的に免疫応答を刺激するには少なすぎる、ベクターの2回目の注射からおよそ7〜14日後、CTLについての脾臓細胞を調製し、そしてCTLを前記の通り照射せしめたBC envスチムレーター細胞を用いてインビトロで再刺激せしめた(実施例2A参照)。図4Nに示す結果は、I.P.及びI.M.ルートによる直接的な注射は、BCenv標的細胞(I.M.2X;I.P.2X)を殺傷するが、コントロールB/C細胞(B/C)は殺傷しないCTLを発生せしめたことを示す。従って、104〜105単位のレトロウイルス(通常は免疫応答性を刺激しないタンパク質抗原の量)の注射は、自己の宿主おいて有意なレベルのHIVエンベロープの発現を誘発せしめ、これは特異的なCTL免疫応答性の誘発をもたらした。
【0114】
しかしながら、より実用的な手法は、患者の末梢血液リンパ球(PBL)、織維芽細胞又は各個休に由来するその他の細胞と、該ベクター、提供細胞又はベクタープラスミドDNAによる体外治療を含む。PBLはマイトジェン(植物凝集素)又はリンホカイン(例えばIL−2)の利用を通じて培地の中に維持できる。以下の実施例は、タンパク質をコード化するベクターの発現を誘発せしめる、霊長類の細胞の体外治療の能力を示す。
【0115】
C.タンパク質をコード化するベクターの発現を誘発するためのヒト細胞の体外処理
以下の実験を行った。ヒト末梢血液リンパ球(PBL)又は繊維芽細胞及びチンパンジーの真皮繊維芽細胞を、ネズミレトロウイルスベクター構造体(その中のサントメガロウイルス(cmv)プロモーターは、レトロウイルス遺伝子発現性についてのマー力一酵素としてのβ−ガラクトシダーゼ(cmvβ−gal)の発現性を作動せしめる)により感染せしめた。(より詳しいこのような「発現性マーカー」の利用の詳細は下記の章Vに記載され、そしてβ−galマーカーを有すレトロウイルスベクターの操作も下記の実施例7に詳細にされている)。感染は、組換レトロウイルスベクター、プラスミドDNAの(a)エレクトロポレーション(250V)もしくはトランフェクション(CaPO4/ポリブレン)、又は(b)細胞を照射せしめたレトロウイルスベクター提供細胞と一緒に培養する方法を用いることによる、ベクター構造体RNAを有す組換レトロウイルスによる細胞のウイルス感染、又は(c)レトロウイルスベクター粒子による細胞の直接感染のいずれかにより達成される。表1に示す結果は組換β−galレトロウイルスベクター構造体によるヒト及び霊長類細胞の感染を例示する。この結果は、組織化学染色法、即ち、青色を有す細胞の発生(青色細胞)をもたらすことにより識別化されうるβ一ガラクトシダーゼマーカー酵素の発現性を示す。
【表1】
【0116】
このタイプのアプローチは、感染、発現のモニター、注射前の抗原提供細胞数の増大、及び対象の患者にベクター発現性細胞を戻すことを可能にする。その他のタイプの細胞も外植し、ベクターを導入し、そして患者にこの細胞を戻すことができる。中程度の感染細胞の数(105〜107)のみで、マウスにおける強い免疫応答をもたらすのに十分である。免疫応答を誘発するための投与量はおそらく動物又は患者それぞれ当りほぽ同程であり、そして体のサイズにほとんど依存しないであろう。
【0117】
他の1の方法において、細胞を前記の通り体外的に感染せしめ、そして照射により不活性化せしめる(図4E参照)か、固定例えばホルマリンによって殺傷せしめる。HIV env遺伝子を有すベクターと処理せしめた後にHIV envを発現するベクターと処理せしめた細胞のホルマリン固定はCTL応答を強く誘発する。
【0118】
その他の択一的な方法において、複合体としての対象の抗原及び適切なMHC分子の両方を含むスチムレーター細胞膜フラグメントを利用する。細胞をこのベクターに感染せしめ、遺伝子を発現させ、細胞を破壊し、そしてこの膜を遠心又はこのMHC−抗原複合体に特異的なアフィニティーカラムによって精製する。
【0119】
更に他の択一的な方法において、免疫応答を患者の中でなく組織培養物中で刺激せしめ、そしてこの免疫細胞を患者に戻している。以下の実施例は組織培養における免疫CTLの誘発のための、このタイプの手法の能力を示す。
【0120】
D.レトロウイルスベクターのコード化する抗原に対する免疫応答のインビトロ誘発
ヒト末梢血液リンパ球におけるインビトロ免疫応答を誘発する、レトロウイルスベクターがコード化する抗原の能力を評価するための実験を行った。PBLを、ルーコフェリシス(leukopheresis)及びフィコール−ヒパーク(Ficoll−Hypaqe)密度勾配沈降により提供者#99の血液から調製し、そして利用する迄20%のFBS及び10%のジメチルスルホキシドを含むRPMI培地中で、液体窒素において凍結保存した。EBV−形質転換細胞系を調製するため、提供者#99由来の融解してすぐのPBLを、OKT3抗体及び補体を用いてTリンパ球を除去(又はシクロスポリン処理する)し、そしてB95EBV−形質転換リンパ芽球細胞系からのEBV−含有培養上清液1mlを、2%のヒトAマイナス血清を含むRPMI培地全量5m1中の5×106個のT−除去PBLそれぞれに加えた。このEBV感染化細胞を96穴丸底組織培養マイクロクイタープレート(200ml/ウェル)に分配し、そしてウェルの底に識別できる細胞ペレットが観察される迄95%大気/5%CO2中、37℃で組織培養した。その後、この細胞をウェルから取り出し、組織培養皿及びフラスコにおいて増殖せしめ、そして定期的に継代せしめた。インビトロ免疫のためのEBV−HIV envスチムレーター細胞を調製するため、107個のEBV−形質転換PBLを、KT−1 HIV envレトロウイルスベクターにより生産的−感染化された提供細胞系由来の組織培養上清液(又は精製ウイルス)104cfu/mlと、10mlのRPMI培地中で処理せしめた。このベクターはG418(ネオマイシン類似体)への耐性を授けるネオマイシン薬剤耐性遺伝子も含む。組織培養における37℃での一夜のインキュベーション後、感染せしめたEBV−形質転換細胞を遠心により集め、そして10%のFBSも含む1mlのRPMI培地に再懸濁せしめた。G418 600μg/mlをこの培地に加え、そしてこれを100μlずつ96穴丸底マイクロタイタープレートの各ウェルに分配せしめることにより、EBV−形質転換HIV env発現性細胞をネオマイシン耐性について選別した。このプレートを37℃で組織培養し、識別できる細胞ペレットが観察されたらこの細胞を取り出し、増殖せしめ、そして組織培養において定期的に継代せしめた。HIV env発現性は、SDS−PAGEゲルのニトロセルロースブロット上のgp160及びgp120を同定するための、HIVエンベロープタンパク質に対するモノクローナル抗体又はヤギ抗体を用いたウェスタンブロット分析によって確認した。他方、HIV env発現性は、EBV−形質転換HIV env発現性細胞の、多細胞シンシチアを形成するSupT1細胞を誘発せしめる能力、即ち、いくつかのHIVエンベロープタンパク質により誘発されるSupT1細胞の特性をアッセイすることにより確認された。最後に、提供者#99、EBV−形質転換化、HIV−env発現性リンパ芽球スチムレーター細胞を、細胞複製を阻止するために10、000Rで照射せしめた。インビトロで免疫化ヒトエフェクターPBLを調製するため、107個融解直後の提供者#99細胞を、5%の熱不活性化Aマイナスヒト血清、ピルビン酸及び、非必須アミノ酸を含むRPMI1640中で106個のEBV−形質転換HIV env−発現性スチムレーター細胞と混合せしめ、そしてこの細胞混合物を1〜5×106個の細胞/mlの最終密度となる迄組織培養において37℃で7日間インキュベートした。7日後、このインビトロ免疫化エフェクター細胞を、照射せしめたスチムレーター細胞を再度添加することにより、更に5〜7日にわたり再刺激せしめた(前記と同様の方法において)。CTLアッセイのための標的細胞を調製するため、照射せしめたEBV−形質転換HIV envスチムレーター細胞を実施例2Aにおいて前記した通り、51Crと1時間インキュベートせしめた。51Cr放出殺傷アッセイも前記の通り(実施例2A)行ったが、但し提供者#99のエフェクター細胞及び標的細胞を用いた。
【0121】
図40において示す結果は、KT1レトロウイルスベクターによりコード化されるHIVエンベロープタンパク質(99−EBV−HIV env)を発現する自己EBV−形質転換リンパ芽球標的細胞を殺傷せしめる、ヒト提供者#99PBLのインビトロ免疫化を示す。この結果は、EBVに対する自然の免疫性(提供者#99の血清におけるEBVに対する抗体の存在により証明される、EBVに予めさらされたこと)に由来する、自己EBV−形質転換細胞(99−EBV)の殺傷も示した。インビトロ免疫化提供者#99エフェクター細胞は低いレベルの正常なPHA−刺激化リンパ球(PHAブラスト)の、100:1のエフェクター;標的細胞の比での殺傷も示し、おそらくこれはインビトロ培養にわたり、これらの細胞に潜伏しているEBVの再活性化に起因する。
【0122】
このアプローチは、ヒトMHC分子を発現しない又は低レベルのMHCを発現する細胞の利用を可能にする(例えば、ヒト細胞突然変異体、腫瘍細胞、マウス細胞)。MHCクラスI又はクラスIIのそれぞれの遺伝子をMHC−細胞に感染させ、特定の細胞系においてそれぞれに関連するMHCタンパク質を発現せしめた。以下の実施例は、免疫CTLに対する抗原の提供において機能的に活性な特定の細胞系における、MHCタンパク質の発現を誘発するこのタイプの手法の能力について示す。
【0123】
E.MHC及び抗原両者による細胞の感染
ネズミH−2遺伝子を有す、組換感染性レトロウイルスはH−2抗原の発現性及び提供を誘発するものと報され、従ってこのレトロウイルスに感染した細胞は同種免疫ネズミCTLによる溶解についての標的細胞となる(Weis,J.H.ら、Molec.Cell Biol.5:1379−1384、1985)。このケースにおいて、H−2抗原及びそのペプチド抗原性フラグメントはこの標的細胞により合成され、そしてこの標的細胞の天然生合成生成物である同種の「自己」MHC分子と一体化する。
【0124】
該細胞の天然生合成生成物でないMHC分子により提供される抗原を、(a)このMHCを細胞に導入する際に、遺伝子の適切な発現、並びにそのタンパク質生成物の合成、折りたたみ、及びプロセッシングが可能となる状態において導入せしめ、従って細胞の中でこれが機能的に作用する場合、そして(b)この抗原遺伝子をまた、抗原タンパク質の合成及びMHCとのこのペプチド抗原性フラグメントとの適切な一体化を伴う遺伝子発現を可能にしうる状態において導入せしめる場合;に有すことができうることがその理由である。抗原及びMHC遺伝子両方による細胞の感染、並びに両方の遺伝子生成物の同時発現を評価するため、MHC遺伝子としてネズミH2−Dd、抗原としてHIV env、標的細胞としてヒトHT1080、そしてエフェクター細胞としてネズミHIV env免疫CTLを利用して実験を行った。この場合において、このヒト細胞はネズミH2−Ddタンパク質及びHIVエンベロープタンパク質を適切に発現しなくてはならず;このHIV envペプチド抗原フラグメントは機能性ネズミH2−Ddタンパク質と一体化しなければならず;そして最後に、このヒト細胞におけるH2−Ddペプチド状HIV env−H2−Dd複合休はヒト標的細胞が殺傷されるため、この複合体における抗原をHIV env−免疫ネズミCTLに適切に提供しなくてはならない。図4Pにおいて示す結果は、ネズミH2−Ddが導入され、且つその後KT−1 HIV envベクター構造体(HT1080+Dd+env)を有すレトロウイルスベクターにより感染せしめたHT1080細胞が抗原を提供、そして前記の通りネズミBC10env−29細胞による免疫によりマウスにおいて誘発されたCTL(実施例2A参照)によって殺傷されることを示す。これらのHIV env−免疫CTLは抗原特異性状態において殺傷せしめた。即ち、H−2Dd(BC−Dd)のみを発現し、HIV envを発現しないコントロールHT1080細胞又はBC細胞の溶解は認められなかった。
【0125】
同様の方法において、免疫CTLの誘発又は免疫CTLによる腫瘍細胞の殺傷のいずれかを促進せしめるため、腫瘍細胞をMHC遺伝子及び腫瘍抗原に感染せしめることができる。この方法において、自己免疫(即ち、患者由来)、同種免疫(即ち、その他のヒト提供者)又は異種免疫(即ち、動物由来)CTLを、腫瘍細胞を適切なMHC分子及び腫瘍抗原の両方により感染せしめることによって、ヒト腫瘍細胞の殺傷を促進せしめるために利用されうる。
【0126】
異なるMHCクラスに関する抗原を提供できる細胞系のバンクも、細胞をMHC遺伝子(もしくはそのフラグメント)又はMHC遺伝子と抗原遺伝子(もしくはそのフラグメントの両方に感染せしめることによって作製することができうる。わずかな種類のこれら(10〜20種)は大多数の人をカバー(即ち、合う)するであろう。例えば、HLA A2は約30−60%の人に存在する。非ヒト細胞の場合においては、それらはヒトMHC分子を一般的に発現する遺伝子導入動物(例えばマウス)に由来するか又は動物の系における導入遺伝子の存在に起因して特定の組織に由来しうる(Chamber1inら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:7690−7694、1988)。これらの細胞系は腫瘍細胞抗原又は感染性物質であってCTLもしくは抗体誘発のためのタンパク質の主たるイムノドミナントエピトープを提供するものにおけるペプチド様抗原性フラグメントの地図化に有用でありうる。
【0127】
上記の状態のいずれにおいても、提供又は提供に対する応答性は、待望又は未だ提供されていない免疫相互作用(例えばβ−ミクログロブリン、LFA3、CD3、ICAM−I及びその他)に含まれるその他のタンパク質の細胞遺伝子に感染せしめることによっても高まることができる。β−ミクログロブリンは変異性でない、クラスIMHCの必須なサブユニットであり、CD3はMHC相互作用に含まれ、そしてLFA3及びICAM−I分子は免疫系の細胞の相互作用を高め(Altmannら、Nature 338;512、1989)、免疫刺激と同等のレベル迄の強い応答性をもたらす。
【0128】
ヒトMHCを発現する遺伝子導入マウスの場合において、マウスにおける刺激は異種抗原を発現する腹部遺伝子導入マウス細胞を用いることによって行なわれることができ、このため遺伝子はスチムレーターとしてウイルスベクター又はその他の手段により導入される。これにより発生するマウスCTLはヒトMHCに関連するT−細胞リセプターを発生せしめ、そして継代細胞免疫又は患者の治療(即ち、患者に注入する)のために利用できうる。
【0129】
更なる択一性として、患者由来の細胞を利用し、ベクター輸送、又はその他の手段であって、MHC発現を刺激せしめるタンパク質(例えばインターフェロン)をコード化する遺伝子の利用もしくはMHC遺伝子発現をコントロールする制御要素の利用を含む方法によって、適合するMHC遺伝子を導入せしめることにより、「自己」MHCクラスI遺伝子の発現を増強せしめる。MHCI発現におけるこのような増強は、異種抗原のより効率的な提供を、たとえそれらが既に患者細胞(例えば腫瘍細胞)に存在していようが、又は異種抗原をコード化するウイルスベクターを用いてその後加えようが、引き起こす。このことは、より強力な免疫応答を、たとえ低められたMHCI発現性を有す細胞(例えばウイルス感染細胞又はある腫瘍のタイプ)が有効に削除されていたとしてももたらす。本発明のある態様において、感受性標的細胞を、(a)クラスIもしくはクラスIIMHCタンパク質それぞれ又はその組合せ;(b)特定の抗原もしくは免疫応答を刺激できるそれらの改質型;(c)MHC及び(複数の)抗原;並びに(d)前述した期待されているもしくは提供されていない免疫相互作用に含まれるその他のタンパク質;をコード化する核酸配列の組合せ、あるいは順序を変更したものにより感染せしめることができる。感染のそれぞれの工程は生体外又は生体内のいずれかで行うことができ、そして特定の細胞のタイプの殺傷は生体外又は生体内で行なわれることができる。
【0130】
投与の異なる型は、レトロウイルスベクター粒子を作る提供系の内植である。これらは免疫学的に適合しない古典的な提供細胞系又は患者自体の細胞であることがあり、それらは外植し、処理し、そして戻す(VIの択一的なウイルスベクターパッケージング技術(以下)を参照のこと)。両タイプの内植(105〜106個の細胞/体重kg)は、患者において限定された寿命を有すであろうが、体内においてそれらの周辺に、レトロウイルスの大量な細胞数(107〜1010個)の感染をもたらすであろう。
【0131】
どのような場合においても、HIV免疫刺激治療の成功は、少量の血液を採取し、そしてenv発現のもたらされた、ベクターにより感染された個体自身の細胞を標的として利用するCTL応答を測定することによってアッセイされる。
【0132】
HIV以外の病原性ウイルスを含む病原体に対するMHCクラスI又はクラスII制御免疫応答を刺激せしめることを所望する場合、免疫応答を刺激せしめるであろうこのようなレトロウイルスに関連するエンベロープ又はその他の抗原が当業者によって確認されうる。一般に、免疫系の種々の要素(例えばTH −、Tc −、B−細胞)の誘発を引き起こすエピトープの組合せが存在する。更に、いくつかのエピトープは病原性、又は超可変性であるがイムノドミナントでありうる。本発明は所望するエピトープの組合せの「ミックスアンドマッチ」選別及び不要なエピトープの排除を可能にする。例えばHIVにおいて、イムノドミナントB−及びT−細胞エピトープを有す多数の超変異性ループが、ベクターにより運ばれる遺伝子配列において連なっていることがあり、これによってもたらされる免疫刺激は、臨床的に見い出されたHIV株の圧到に適している。以下の実施例はレトロウイルスベクターを用いる、それらのCTL−改質型の同定及び地図化のための方法を示す。
【0133】
F.免遼応答性の地図のための、HIV抗原エピトープ及びその改質型を発現するベクター
実施例2(前記)において示す結果は、レトロウイルスベクター−コード化HIV envにより免疫せしめたマウスは、HIV envに特異的なクラスIMHC−制御CTL応答性を発生せしめることを示す。更に、実施例2において示される結果は、HIV envIIIBが、HIV−IIIB及びHIV−MN変異体の両方のgp120超可変性領域に由来する合成ペプチドにより被覆された標的細胞に溶解活性を示すCTLを誘発せしめることを示した。CTLを誘発及び刺激せしめることにおいて反応性であり、そして免疫CTLによる標的の溶解を仲介するペプチド抗原フラグメントをコード化するHIVエンベロープ遺伝子内の領域の更なる地図化のため、前記の実施例1Fに記載の「Δループ」及び「チャンクI」組換レトロウイルスベクター構造体によって実験を行った。この「Δループ」は、エンベロープ遺伝子のV3ドメインにおいてgp120超可変性ループの欠失を有す、HIV−IIIBenv−コード化ベクター構造体であり、従ってHIV envの非ループ部のみを含む短くなったタンパク質(「ループレス」)が製造されうる。
【0134】
CTLと反応性のHIVエンベロープタンパク質内のペプチド様抗原性エピトープを地図化するため、BC細胞を感染するのに「Δループ」ベクター構造体を有すレトロウイルスを用い、これによって「ループレス」エンベロープの短い型を有す(即ち、gp120の超可変性ループのない)エンベロープタンパク質を発現する細胞(BCenvΔV3細胞)を作る実験を行った。これら「ループレス」HIV env細胞を、それらのマウスにおけるHIV env−免疫CTLを誘発する能力について試験した。図4Aに示す結果はパネルAにおいてコントロールアッセイを、そしてパネルBにおいて実験アッセイを含む。この結果が示すには、CTLはマウスにおいて「ループレス」BCenvΔV3細胞によって誘発され、そしてこれらCTLはBCenvΔV3細胞(パネル1B、図4Q)及び全長エンベロープタンパク質を発現するBCenvΔV3標的細胞の両方を殺傷せしめた。CTLの特異性は、それらがBC細胞(即ち、HIV envを発現しない細胞)又はRP135合成「ループ」ペプチドにより被覆されているBC細胞の溶解をもたらさないこと、即ち、CTLを誘発するのに利用されるBCenvΔV3細胞の欠失、によって示された。図4Qに示すコントロールアッセイ(パネルA)は、RP135ペプチドにより被覆されたBC系細胞(BC−RP135)はBCenv−「ループ」−免疫CTLに有効に抗原を提供し(即ち、BCenv−免疫CTL)、そしてこれらはこのエフェクター細胞により特異的な状態において殺傷せしめられた。即ち、このBCenv−免疫CTLはBC細胞は殺傷せしめないが(陰性コントロール)しかしBCenv標的細胞は殺傷せしめた(陽性コントロール)。従って、レトロウイルス−運搬組換ベクター構造体は、CTLを誘発し、且つ標的細胞に溶解をもたらしめるHIVエンベロープタンパク質の領域の同定及び地図化のために利用できうる。
【0135】
HIVエンベロープにおけるこのペプチド様抗原性領域の更なる地図化のため、BC細胞を感染せしめるのに「チャンク1」ベクター構造体を用い、これによってgp120ループの隣りの領域においてペプチド配列の欠損する「ループレス」エンベロープタンパク質を発現せしめる細胞を作製する実験を行った。図4RのパネルAに示す結果は、「チャンク1」を発現する標的細胞(即ち、BCpCMVチャンク1標的)はHIV env−免疫CTLによって特異的に溶解されることを示した。即ち、これらCTLはBC10ME細胞(陰性コントロール)は溶解せしめないが、HIV env発現性BC細胞−(BCenvIIIB標的)は溶解せしめた。図4RのパネルBに示す結果も、BCpCMVチャンク1標的細胞及びHIV env発現性BC細胞(BCenvIIIB14H標的)が溶解されるが、BC10ME細胞(BE10ME標的)が溶解されないことを示した。
【0136】
所望する免疫応答を作り出す択一的な方法は、抗原−特異性T−細胞リセプター遺伝子を適切な細胞、例えばT−細胞へと運搬することである。イムノグロブリン分子の抗原認識部位についての遺伝子情報を、近親のT−細胞リセプターサブユニットα及びβの遺伝子における関連する部位の中に分子的に結合せしめることも可能である。このように変化せしめたタンパク質分子はMHC制御される必要はなく、そしてオリジナルのイムノグロブリンにより決定される抗原に特異的なTH−及びTC−細胞として働くことができる。他の手法は、NKにおけるエフェクター分子についての遺伝子をNK細胞に移し、これらの細胞に更なる非MHC限定殺傷能力を授けることである。更に、特異的なイムノグロブリン遺伝子は、患者において特定の抗体分子の大量インビボ製造を引き起こすためにB細胞た運び入れる場合、同様に有用でありうる。
【0137】
II.ブロッキング剤
多数の感染疾病、癌、自己免疫疾患及びその他の疾病は、ウイルス粒子と細胞、細胞と細胞、又は細胞と因子の相互作用を含む。ウイルス感染において、ウイルスは一般に感受性細胞の表層上のリセプターを介して細胞の中に入り込む。癌においては、細胞は他の細胞又は因子から信号を不適切に応答するかもしくは全く応答しない。自己免疫疾患においては、不適切な「自己」マーカーの認識が存在する。本発明において、このような相互作用は、インビボで、相互作用におけるいずれかのパートナーの類似体を提供せしめることによって妨害されうる。
【0138】
このブロッキング作用は細胞内的に、細胞膜上に、又は細胞外的に起こりうる。ウイルス又は特に、ブロッキングについての遺伝子を有すレトロウイルスベクターのこのブロッキング作用は、感受性細胞の内側又は病原性の相互作用を局在的にフロックするためにこのブロッキングタンパク質の変形を分泌することにより仲介されうる。
【0139】
HIVの場合において、相互作用の2つの物質はgp120/gp41エンベロープタンパク質とCD4リセプター分子である。従って、適切なブロッカーは病原性作用を引き起こさずにHIVの入口をブロックするHIV env類似体、又はCD4リセプター類似体のいずれかであろう。CD4類似体は分泌され、そして隣接する細胞を保護するために働くことができ、そしてgp120/gp41は細胞内にのみ分泌又は製造され、従ってベクター含有細胞のみを保護するであろう。安定性又は補体溶解を高めるため、ヒトイムノグロブリン重鎖もしくはその他の成分をCD4を加えることが好都合である。このようなハイブリド可溶性CD4をコード化するレトロウイルスベクター宿主への運搬は、安定的なハイプリド分子の連続供給をもたらす。
【0140】
HIV envの発現をもたらすベクター粒子も前記の通りに作製されうる。どの部分が明白な病原性副作用を伴うことなくウイルスの収着をブロックできるかは当業者において明白であろう(Willeyら、J.Virol.62:139、1988;Fisherら、Science 233:655、1986)。以下の実施例はCD4ベクターの作製を詳細し、これにより感染性ベクター粒を作製した(図5)
実施例3
sCD4ベクター
1.pMV7.T4由来の1.7kbのEcoRI−HindIIIDNAフラグメント(Maddonら、Cell 47:333、1986)をSK+のHincII部位にブラント末端リゲートせしめた。
【0141】
2.XbaI部を合むユニバーサル翻訳停止配列をCD4フラグメントのNheI部位の中に挿入せしめた。
【0142】
3.1.7kbのXhoI−ClaIフラグメントを切り出し、そしてpAFVXMのXhoI−ClaI部位にクローンせしめた。
【0143】
これらのベクタープラスミドは実施例1に記載の通り、感染性ベクター粒子を作製するために利用できうる。
【0144】
このような感染性ブロッキングベクターは培養におけるヒトT−細胞系に入れた場合、HIV感染の広がることを阻止できる。感染性レトロウイルスベクター調製品の調製、濃縮及び保存は免疫刺激についてと同様である。投与の経路も同様であり、投与量は10倍高い。利用できる他の経路は骨髄のアスピレーション(Aspiration of bore marrow)、レトロウイルスベクターによる感染、そして患者へ、この感染化骨髄を戻すこと(Gruberら、Science 230:1057、1985)でありうる。この髄複製は細胞複製を介してこのベクターを増幅せしめうるため、免疫刺激の範囲における投与量が利用できる(105〜106/kg体重)。
【0145】
どのような場合においても、この治療の効き目は疾病の進歩の通常の指標であって、抗体レベル、ウイルス性抗原生産、感染性HIVレベル又は非特異的感染のレベルを測定することによってわかる。
【0146】
III.緩和剤の発現
病原性物質又は遺伝子の機能を阻害できる物質(又は「緩和剤」)の発現をもたらすベクター構造体を有す組換レトロウイルスを製造するため、前記と同様の技術が利用できうる。本発明において、「機能を阻害できること」は、緩和剤がこの機能を直接的に阻害するか、又は間接的に、例えば細胞の中に存在するある物質であって正常の場合は病原性物質を阻害しないものを阻害するものへと変換せしめることにより阻害することを意味する。ウイルス疾病についてのこのような機能の例には、収着、複製、遺伝子発現、集成及び感染細胞からのウイルスの外出を含む。癌細胞又は癌促進成長因子についてのこのような機能の例には、生存性、細胞複製、外部信号に対する変異した感受性(例えば接触阻害)及び抗−癌遺伝子タンパク質の製造の欠損又は突然変異型の製造を含む。
【0147】
(i)阻害緩和剤
本発明の1つの態様において、この組換レトロウイルスは、病原物質(例えばウイルス性又は悪性病における)の機能を妨害できる遺伝子の発現をもたらすベクター構造体を有す。このような発現は実質的に連続性であるか、又は病原性症状もしくは特定の細胞のタイプのいずれかに関連するその他の物質の細胞における存在に対する応答(「物質の認識」)のいずれかでありうる。更に、ベクター運搬は所望の細胞タイプ(例えばウイルス感染化又は悪性細胞)へのベクターの特異的な侵入を標的とすることによってコントロールされうる(以下参照)。
【0148】
投与の好ましい方法は、ルーコホレシス(leukophoresis)であり、ここでは約20%の個体のPBLを任意の時間に取り出しそしてインビトロで処理せしめる。これにより、およそ2×109個の細胞が処理され、そして変換されうる。現状の最高の力価は106/ml程度であり、これは2〜20リットルの出発ウイルス上清液を必要とする。反復治療も行なわれうる。他方、骨髄を処理してよく、そして前記の通りその効果を増幅せしめることができる。
【0149】
更に、ベクターを生産するパッケージング細胞系を対象に直接注射し、組換ビリオンの連続生産を可能にする。適切な細胞のタイプには単球、好球、又はそれらの前駆体が含まれ、なぜならそれらの細胞は末梢血液の中に存在するが、それらはこの循環系から離れてビリオン生産の治療が必要とされうる血管外組織(特に中枢神経系)におけるウイルスの生産を可能にする。このような細胞系は宿主の免疫系によって異物として最終的に拒絶されうる。この宿主によるこれら異種細胞の最終的な破壊を確実にするため、この細胞系は条件的に致死タンパク質、例えばHSVTKについての遺伝子を発現せしめるよう操作されうる。従って、薬剤アシクロビル(Acyclovir)(ACV)(HSVTKを発現する細胞に対して特異的に毒性である薬剤)は十分なベクターがインビボに提供された後にこれらの細胞を排除する。このようなパッケージング細胞系は連続細胞系であるか、又は宿主細胞から直接作られうる。
【0150】
1つの態様において、対象の病原性遺伝子転写物(例えばウイルス遺伝子生成物又は活性化細胞癌遺伝子)に相補性のRNAを発現するレトロウイルスのウイルスが、この転写物のタンパク質への翻訳の阻止、例えばtatタンパク質の翻訳の阻止のために利用できうる。このタンパク質の発現はウイルスの複製のために必須であるため、このベクターを含む細胞はHIV複製に対耐であろう。このことを試験するため、このベクターαtat(図10)を作製し、組換ビリオンとしてパッケージ化し、複製−コンピテントヘルパーウイルスの非存在下においてヒトT−細胞及び単球細胞系に導入せしめた。
【0151】
第2の態様において、この病原性物質がパッケージングシグナルを有す一本鎖ウイルスである場合(例えば緩和剤がHIVに向けられている場合HIVパッケージングシグナル)、ウイルスパッケージングシグナルに相補性のRNAを発現させ、これによってこれらの分子とウイルスパッケージングシグナルとの結合は、レトロウイルスの場合において、このレトロウイルスRNAゲノムの適切なエンカプシデーション(encapsidation)又は複製のために必要なステムループ形成もしくはtRNAプライマー結合を阻害せしめるであろう。
【0152】
第3の態様において、病原性遺伝子の発現を選択的に阻止できる緩和剤又は病原性物質により生産されるタンパク質の活性を阻害することができる緩和剤を発現するレトロウイルスベクターを導入することができうる。HIVの場合において、1の例は突然変異tatタンパク質であってHIVLTR由来のトランス活性発現の能力を欠損し、そしてtatタンパク質の正常な機能を妨害する(トランスドミナント状態において)ものである。このような突然変異体はHILVIItatタンパク質(「XIILeu5」突然変異体、Wachsmaら、Science 235:674、1987を参照)と同定されている。突然変異トランスリプレッサーtatはHSV−1における類似突然変異リプレッサーが示すのと同程度に複製を阻害するであろう(Friedmanら、Nature 335:452、1988)。
【0153】
このようなトランス作用転写リプレッサータンパク質は組織培養において、任意のウイルス特異的トランス作用転写プロモーターであってその発現性がウイルス特異的トランス活性化タンパク質(前記)により刺激されうるものを用いて選別される。HIVの特定の場合において、HIVtatタンパク質を発現しそしてHIVプロモーターにより作動するHSVTK遺伝子を発現する細胞系はACVの存在下で死滅するであろう。しかしながら、一連の突然変異tat遺伝子をこの系に導入したら、適当な特性を有す突然変異体(即ち、野性型tatの存在下でHIVプロモーターからの転写を抑制するもの)は増殖し、そして選別される。次にこの突然変異遺伝子をこれらの細胞から再び単離されうる。条件的に致死性のベクター/tat系の多数のコピーを含む細胞系を利用することにより、生存している細胞系はこれらの遺伝子における内因性突然変異誘発によって引き起こされるのではないことが確認された。ランダムに突然変異された一連のtat遺伝子を次に「救出可能」レトロウイルスベクター(即ち、突然変異tatタンパク質を発現し、そして複製の細菌性起源及び細菌中での増殖及び選別のための薬剤耐性マーカーを含むもの)を利用してこれらの細胞に導入せしめた。このことは多数のランダム突然変異の評価を可能とし、そして所望する突然変異細胞系の容易な逐次的分子クローニングを可能にする。この方法は潜在的な抗ウイルス治療のための種々のウイルストランス転写作用活性体/ウイルスプロモーター系における突然変異の同定及び利用に採用されうる。
【0154】
第4の態様において、この組換レトロウイルスは不活性な先駆体を病原物質の活性阻害剤へと活性化できる遺伝子生成物の発現をもたらすベクター構造体を運搬する。例えば、HSVTK遺伝子生成物は、潜在性の抗ウイルスヌクレオシド類似体、例えばAZT又はddcをより効率的に代謝せしめるのに利用されうる。このHSVTK遺伝子は構成マクロファージ又はT−細胞−特異性プロモーターのコントロール下で発現され、そしてこれらの細胞のタイプヘ導入されうる。レトロウイルス逆転写酵素及びこれによるHIV複製を特異的に阻害するため、AZT(及びその他の抗ウイルス剤)はヌクレオチド三リン酸の型へと細胞メカニズムにより代謝されねばならない(Furmanら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 83:8333−8337、1986)。HSVTKの構成的発現(ヌクレオシド及び広範囲にわたる基質特異性を有すヌクレオシドキナーゼ)は、これらの薬剤の生物事的活性ヌクレオチド三リン酸型へのより効率的な代謝をもたらす。AZT又はddc治療は従ってより有効となり、低投与量、低い一般的な毒性、及び生産的な感染に対するより高い能力となる。更なるヌクレオシド類似体であってそのヌクレオシド三リン酸型がレトロウイルス逆転写酵素に対する選択性は示すが、細胞の基質特異性の結果としてヌクレオシド及びヌクレオシドキナーゼがリン酸化されていないものは、より有効となりうる。代表的な方法の詳細を実施例4に記載する。
【0155】
実施例4
AZT及び類似体の抗ウイルス作用を潜在するためにデサインしたベクター
A.以下の全てのレトロウイルスベクターは「N2」ベクターに基づく(Kellerら、Nature 318:149−154、1985)。結果として、最初に5’及び3’EcoRI LTRフラグメント(2.8及び1.0kb(それぞれ))を、ベクター作製を促進せしめるためにポリリンカーを含むプラスミドにサブクローンせしめた(pN2R5〔+/−〕を得るためにはSK+へ;p31N2R5〔+/−〕及びp31N2R3〔+/−〕を得るためにはpUC31へ)。pUC31は、ポリリンカーのEcoRIとSacI部位の間に更なる制限部位(XhoI,BalII,BssII、及びNcoI)を有すpUC19の改質型である。1のケースにおいて1.2kbのClaI/EcoRI5’LTRフラグメントを、pN2CR5を得るためにSK+ベクターの同一の部位にサブクローン化せしめた。他のケースにおいては、スプライスドナー配列の6bpの欠損を合む5’LTRを1.8kbのEcoRIフラグメントとしてpUC31(p31N25delta〔+〕)にサブクローン化せしめた。HSV−1チミジンキナーゼ遺伝子のコード化領域及び転写終結シグナルをプラスミド322TK(pBR322のBamHIにクローンせしめたHSVTKの3.5kbのBamHIフラグメント)から1.8kbのBg(II/PvuIIフラグメントとして単離し、そしてBglII/SmaI消化pUC31にクローンせしめた(pUCTK)。終結シグナルの欠損を必要とする構造のため、pUCTKをSmaI及びBamHIにより消化せしめた。残ったコード化配列及び付着末端BamHI突き出しを以下のオリゴマー;
5’GAG AGA TGG GGG AGG CTA ACT GAG3’
及び5’GAT CCT CAG TTA GCC TCC CCC ATC TCT C3’
から作った二本鎖オリゴヌクレオチドにより再構成せしめ、構造体pTKデルタAを形成せしめた。
【0156】
検査の目的のため、SmaI部位を破壊しながら、翻訳タンパク質を変化させずにそのAvaI部位を保つようこのオリゴをデザインした。
【0157】
0.6kbのHIVプロモーター配列を、pCV−1由来のDraI/HindIIIフラグメントとして(Aryaら、Science 229:69−73、1985)、HincII/HindIII切断SK+にクローン化せしめた(SKHL)
B.TK1及びTK3レトロウイルスベクターの作製(図6参照)
1. 5kbのXhoI/HindIII5’LTR及びプラスミド配列をp31N2R5(+)から単離した。
【0158】
2. 転写終結配列を欠損するHSVTKコード化配列をpTKデルタAから1.2kbのXhoI/BamHIフラグメントとして単離した。
【0159】
3. 3’LTR配列をpN2R3(−)から1.0kbのBamHI/HindIIIフラグメントとして単離した。
【0160】
4. 段階1〜3のフラグメントを混合し、リゲートし、細菌に形質転換せしめ、そしてそれぞれのクローンを制限酵素分析により同定した(TK−1)。
【0161】
5. TK−3は、TK−1をBamHIにより直鎖状にし、5’突き出しを補完し、そしてブラント末端を、細菌性lacUV5プロモーター、SV40初期プロモーター及びTn5 Neor遺伝子を含む5’補完ClaIフラグメントにリゲートせしめることにより作製した。カナマイシン−耐性クローンを単離し、そして個々のクローンを、制限酵素分析によって適切な方向性についてスクリーンした。
【0162】
これらの構造体を、パッケージング細胞系、例えば前記のPA317と一体化した感染性組換ベクター粒子を作るために利用した。
【0163】
このようなレトロウイルスベクターのヒトT−細胞及びマクロファージ/単球細胞系への投与は、AZT及びddCの存在下で、レトロウイルスベクター処理されていない同一の細胞に比べて、それらのHIVへの耐性が高められうる。AZTとの処理は通常より低いレベルとなることができ、毒性の副作用を回避でき、しかもHIVの繁殖を有効に阻害する。治療の方法はブロッカーについて前記したものとなるであろう。
【0164】
このレトロウイルスベクター調製品の調製、濃縮、及び保存は前記した通りでありうる。治療は前記した通りでありうるが、但し患者細胞の体外処理は感染されていない潜在的に感受性のT−細胞又は単球に向けられるであろう。感受性細胞を標的にする好ましい方法は、CD4+中細胞へベクター粒子の吸収をもたらす、HIV env又はハイブリドenv(VIII章の細胞系特異性レトロウイルス(以下)を参照のこと)を有すベクターによる。
【0165】
阻害緩和剤を提供する第5の態様は、ウイルスの集成を阻害する欠陥干渉ウイルス構造タンパク質の運搬及び発現を含む。ベクターは欠陥gag,pol,envもしくはその他のウイルス粒子タンパク質又はペプチドをコードし、そしてこれらはウイルス粒子の集成を優性な情況において阻害するであろう。このことは、このウイルス粒子の正常なサブユニットの相互作用がこれらの欠陥サブユニットとの相互作用により妨害されることにより起こる。
【0166】
6番目のこのような態様は、ウイルスプロテアーゼに特異的なペプチド又はタンパク質の阻害の発現である。ウイルスプロテアーゼはウイルスのgag及びgag/polタンパク質を多数の小さいペプチドに切断せしめる。全てのケースにおいてこの切断を行えなくすることは、感染性レトロウイルス粒子の製造の完全な阻害をもたらす。HIVプロテアーゼはアスパルチルプロテアーゼとして知られ、そしてこれらはタンパク質又は類似体からのアミノ酸から作られるペプチドによって阻害されることが知られている。HIVを阻害するベクターは1又は複数のこのようなペプチドインヒビターの融合コピーを発現するであろう。
【0167】
第7の態様は、サプレッサー遺伝子の運搬を含み、これらが削除、突然変異又は細胞のタイプにおいて発現されない場合、この細胞のタイプに腫瘍化をもたらす。ウイルスベクターによる欠損遺伝子の再導入はこれらの細胞における腫瘍表現型の退行をもたらす。このような癌の例には、網膜芽腫及びウイルム腫瘍がある。悪性腫瘍は、細胞増殖と比較して細胞終結分化の阻害であると考えられているため、分化をもたらす遺伝子生成物の搬送及び発現も一般に退行をもたらすであろう。
【0168】
第8の態様において、レトロウイルス構造体(緩和剤の発現性を有す又は有さないもの)はそれ自身をウイルス、癌遺伝子又は病原性遺伝子に挿入せしめることによって治療効果を提供し、従って病原体に必要な機能を阻害する。この態様は、相同性組換、インテグラーゼ改質又はその他の方法(以下に詳細)により、このゲノムにおける特定の部位へのレトロウイルスの一体化の誘導を必要とする。
【0169】
第9の態様において、このレトロウイルスベクターは、病原性機能に関連するRNA分子を分解、従って不活性化せしめるであろうリボザイム(RNA酵素)(HaseloffとGerlach、Nature 334:585、1989)をコードすることによる治療効果を提供する。リボザイムは標的RNAにおける特異的な配列を認識することにより機能し、そしてその配列は通常12〜17bpであるため、これは特定のRNA、例えばRNA又はレトロウイルスゲノムの特定の認識を可能にする。更なる特異性は、これを条件的に毒性の緩和剤にすることによって達成される場合がある(以下参照)。
【0170】
阻害的な緩和剤の効能を高める1つの方法は、対象のウイルスによる耐性細胞の感染率を高める遺伝子の発現と関連するウイルス性阻害遺伝子の発現である。この結果は生産的な感染現象と競合しうる非生産的な「行き止まり」現象である。HIVの特定のケースにおいて、HIVの複製を阻害し(前記のアンチセンスtat他を発現することにより)且つ感染のために必要なタンパク質、例えばCD4をも過剰発現するベクターを搬送せしめることができる。この方法において、比較的少ない数のベクター感染化HIV耐性細胞が、無ウイルス細胞又はウイルス感染細胞による複数の非生産的融合現象のための「シンク(sink)」又は「マグネット」として働く。
【0171】
(ii)条件的毒性緩和剤
病原性物質を阻害する他の手法は、病原性の症状を発現する細胞に毒性な緩和剤の発現である。この場合において、プロウイルスベクター由来の緩和剤の発現は、非病原性細胞の破壊を避けるため、例えば病原性状態を認識する細胞間シグナルのように、病原性物質に関連する要素の存在に限すべきであろう。この細胞−タイプ特異性は、病原性症状を有す、又はそれに感受性な細胞にこのベクターを運搬せしめる組換レトロウイルスを標的とすることにより、感染レベルで授けることもできうる。
【0172】
本方法の1つの態様において、この組換レトロウイルス(好ましくは組換MLVレトロウイルス)は、迅速に増殖する細胞、例えば腫瘍においてのみ転写的に活性である、現象特異性プロモーター例えば細胞周期依存型プロモーター(例えばヒト細胞チミジンキナーゼ又はトランスフェリンリセプタープロモーター)により発現する細胞障害性遺伝子(例えばリシン)を含むベクター構造体を運搬する。この状態において、これらのプロモーターからの転写を活性化できる因子を含む迅速に複製する細胞は、このプロウイルス構造体により生産されるこの細胞障害性物質によって優先的に破壊される。
【0173】
第2の態様において、細胞障害性物質を生産する遺伝子は組織特異性プロモーターのコントロール下にあり、ここでこの組織特異性は腫瘍の起源に関連する。このウイルスベクターは優先的に複製細胞のゲノムに一体化するため(例えば、正常肝臓細胞は複製しない場合も肝細胞癌は複製する)、この2つのレベルの特異性(ウイルスー体化/複製及び組織−特異性転写制御)は腫瘍細胞の優先的な殺傷をもたらす。更に、現象特異性及び組織特異性プロモーター要素は人工的に組合わせることができ、従ってこの細胞障害性遺伝子生成物はこの両方の条件を満たす細胞タイプにおいてのみ発現されうる(例えば、上記の例においては、組合せたプロモーター要素は珂子細胞を迅速に分割せしめることのみに機能的である)。転写コントロール要素も細胞タイプ特異性の緊張を高めるために増幅されうる。
【0174】
これら転写プロモーター/エンハンサー要素は内在プロモーターとして存在する必要はないが(ウイルスLTRの間にあること)、しかしウイルスのLTRに加える又はウイルスLTRにおける転写コントロール要素であってそれ自体が転写プロモーターであるものと交換せしめることより、条件−特異性転写発現がこの改良ウイルスLTRにより直接的に発生するようにしてもよい。この場合において、最大の組換ウイルス力価を得るために、最大発現のための条件をレトロウイルスパッケージング細胞系において擬態せしめる必要があるか(例えば、増殖条件の変更、発現の必須なトランスレギュレーターを供給する、もしくはパッケージング系の親として適切な細胞系を用いること)、又はLTRの改質を3’LTRU3領域に限定するかのいずれかとする。後者の場合において、1周期の感染/一体化の後、この3’LTRU3は5’LTRU3と共に、所望の組織特異性発現を付与せしめる。
【0175】
第3の態様において、このプロウイルスベクター構造体は同様に活性化されるが、しかしこれは細胞障害性でないタンバク質を発現せしめ、そして標的細胞内においてわずかに細胞障害性であるか全くそうでない化合物又は薬剤を細胞障害性のもの(「条件的致死」遺伝子生成物)へとプロセスせしめる。特に、このプロウイルスベクター構造体は、ヘルペス単純ウイルスチミジンキナーゼ(HSVTK)遺伝子をHIVプロモーターの下流及びその転写コントロール下のもとで有す(これはHIVtatタンパク質で活性化されない限り、転写的にサイレントであることが知られている)。HIVにより感染され、そしてこのプロウイルスベクター構造体を有すヒト細胞におけるこのtat遺伝子生成物の発現は、HSVTKの生産の上昇を引き起こす。次にこの細胞を(インビトロ又はインビボのいずれかで)アシクロビル(acyclovir)又はその類似体(FIAU、FIAC、DHPG)に曝露せしめた。これらの薬剤はHSVTKによりリン酸化された関連する活性ヌクレオチド三リン酸型となること(しかし細胞チミジンキナーゼによってはならない)で知られる(例えば、Schaefferら、Nature,272:583、1978を参照のこと)。アシロクロビル及びFIAV三リン酸は一般に細胞ポリメラーゼを阻害し、遺伝子導入マウスにおけるHSVTKを発現する細胞の特異的な破壊をもたらす(Borrelliら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:7572、1988)。この組換ベクターを含みそしてHIVtatタンパク質を発現するこれらの細胞は、これらの薬剤の特定の投与量の存在によって選択的に殺傷される。更に、特別なレベルの特異性が、このベクターにHIV revタンパク質、応答性CRS/CAR配列を含ませることによって得られる。このCRS配列遺伝子の存在下においては発現を抑制される(但し、CAR配列及びrevタンパク質の存在下において)。実施例5はこの技術の例を提供する。
【0176】
実施例5
ACV又はその類似体の毒性作用を条件的に潜在せしめるベクター
ベクターの作製
A.pKTVIHAXの作製(図7参照)
1. 9.2kbのAsuII/XhoIフラグメントをベクターpN2DNAから単離した。
【0177】
2. 0.6kbのXhoI/BamHIプロモーターフラグメントをプラスミドpSKHLから単離した。
【0178】
3. 0.3kbのBalII/AccI及び1.5kbのAccI/AccIフラグメントをpUCTKから単離した。
【0179】
4. 1.2及び3のこれらのフラグメントをリゲートし、細菌に形質転換せしめ、そして得られる適切なAmprクローンの構造を制限酵素分析によって同定した。
【0180】
B.pKTVIH−5及びpKTVIH5 Neoレトロウイルスベクターの作製(図8参照)
1. ベクターp31N25デルタ(+)から、XhoI/BamHIフラグメントとして、4.5kbの5’LTR及びベクターフラグメントを単離した。
【0181】
2. 1.0kbの3’LTRを、pN2R3(+)フラグメントからApaI/BamHIフラグメントとして単離した。
【0182】
3. 0.6kbのHIVプロモーター要素を、pSKHLからApaI/EcoRIフラグメントとして単離した。
【0183】
4. HSVTKコード配列及び転写終結配列をpUCTKから1.8kbのEcoRI/SalIフラグメントとして単離した。
【0184】
5. 1〜4のフラグメントを混合し、リゲートせしめ、細菌に形質転換せしめ、そして得られるクローンの構造を制限酵素分析により同定した(pKTVIH−5)。
【0185】
6. プラスミドpKTVIH5Neoを、このpKTVIH5をClaIにより直鎖状にし、細菌lac UV5プロモーター、SV40初期プロモーター及びTn5Neorマーカーを含む1.8kbのClaIフラグメントと混合し、リゲートせしめ、細菌に形質転換せしめ、そしてカナマイシン耐性について選別することによって作製した。
【0186】
C.MHMTK Neoレトロウイルスベクターの作製(図9参照)
1. 即時型プラスミドMHM−1LTRの作製
a)プラスミドpN2CR5をFoKIにより部分消化により直鎖状にし、クレノウDNAフラグメントを用いてデオキシヌクレオチド三リン酸によってこの5’突出しを補完し、そしてHindIIIリンカーを挿入せしめた。細菌に形質転換せしめた後、このMLV LTR FoKI部位に挿入されたHindIIIリンカーを有すクローンを制限酵素分析により同定した(pN2CR5FH)。
【0187】
b)プラスミドpN2CR5FHをNheIにより直鎖状にし、クレノウポリメラーゼによってこの5’突出しを補完し、HindIIIで消化し、そしてプロモーターを有さないMLV配列を合む4.3kbのフラグメントを単離した。
【0188】
c)0.5kbのEcoRV/HindIII HIVプロモーター配列をpSKHLから単離した。
【0189】
d)b)とc)を混ぜ、リゲートさせ、細菌に形質転換せしめ、そしてMHM−1の構造を制限酵素分析によって確認した。
【0190】
2. MHM−1から単離した0.7kbのEcoRV/BalIフラグメントを、プラスミドI30B(ポリリンカーにおいてBg1II,BstII、NeOI及びNdeI部位を更に含む改良IBI 30 プラスミド)のEcoRV部位にサブクローンせしめた。細菌に形質転換せしめた後、適切な方向性を有すクローンを制限酵素分析(pMHMB)により同定した。
【0191】
3. プラスミドpMHBをApaIとXhoIにより消化せしめ、そしてゲル精製した。
【0192】
4. MHM−1をApaI/BamHIにより消化し、そして1.8kbのMHMLTR/リーダー配列をゲル精製した。
【0193】
5. Neorを作動せしめるSV40初期プロモーターの上流の領域をコード化するHSVTKを含む2.8kbのBglII/Sa1IフラグメントをpTK−3から取り出した(図3参照)
6. 3〜5を混ぜ、リゲートせしめ、細菌の形質転換に用い、そして制限酵素分析によって適切なクローンを同定した。
【0194】
このベクター及び類似のベクターであってそれらのLTRに誘発性の要素を含むものは、付加された安全姓をもたらす。簡潔に述べると、このLTRはHIVの非存在下において不活性であるため、望ましくない宿主遺伝子(例えばプロトー癌遺伝子)の挿入下流活性化が発生しない。しかしながら、パッケージング細胞系におけるtat発現は、組織培養におけるビリオンの操作性を促進せしめる。
【0195】
D.PRKTVIHレトロウイルスベクターの作成(図10参照)
1. 9.2kbのAsuII/XhoIフラグメントをベクターpN2DNAから単離した。
【0196】
2. 0.6kbのXhoI/EcoRI HIVプロモーターフラグメントをプラスミドpSKHLから単離した。
【0197】
3. このHIV rev応答性HSVTK(RRTK)を以下の方法で作製した:
a)このHSVTK遺伝子を1.8kbのHincII/PvuIIフラグメントとして、ベクターSK+(pSTK〔−〕)のEcoRV部位にサブクローンせしめた。
【0198】
b)HIV envに由来するCRS/CAR要素を含む1.8kbのKpnI/HindIIIフラグメントを修復せしめ、そしてベクター130BのSmaI部位にブラント末端リゲートせしめた(pCRS/CAR〔+/−〕)。130Bは、pVC31と同じ更なる制限部位を含み、そしてIBI30XhoI部位の代りにNdeI部位を含む改良IBI30である。
【0199】
c)ベクター及びHSVTKポリアデニル化シグナルを含む3.6kbのBssHII/EcoRIフラグメントをpSTK(−)から単離した。
【0200】
d)1.8kbのBamHI/BssHII CRS/CARフラグメントをpCRS/CAR(−)から単離した。
【0201】
e)1.2kbのEcoRI/BamHIコード配列フラグメントをpCRS/CAR(−)から単離した。
【0202】
f)C、D及びEをリゲートさせ、そして適切な組換体を制限酵素分析によりスクリーンした。
【0203】
4. Rev−応答性HSVTKを3.6kbのEcoRI/ClaIフラグメントとして単離した。
【0204】
5. 1、2及び4をリゲートさせ、そして適切な組換体を制限酵素分析により同定した。
【0205】
E.tat及び抗−tat発現ベクターの作製(図11参照)
これらのベクターは、活性化tat−依存型HSVTKベクターを試験するための疑似−HIVとして利用される。
【0206】
1. Hisr発現ベクターpBamHisをBamHIにより直鎖状にし、そして牛小腸アルカリホスファターゼにより処理した。
【0207】
2. pCV−1のSacI部位をBamHI部位へと突然変異させ、そしてHIV−tatをコードする350bpのBamHIを単離した。
【0208】
3. 段階1と2において精製したフラグメントを混合し、リゲートさせ、そして細菌の形質転換に用い、そして両方向性においてtatを有すクローン(tat又は「アンチセンス」tatを発現するもの)を制限酵素分析により同定した。
【0209】
パッケージング細胞系、例えば前記のPA317と一体化する感染性組換ベクター粒子を作るためにこれらの構造体を利用した。これらのベクターは遺伝子的に安定であり、そして個々の感染細胞のクローンに由来する予測されたプロウイルス構造をもたらし、これは制限−酵素−消化−遺伝子DNAのサザンプロット分析により判定されている(試験クローンのうち39/40が予測されたサイズのプロウイルスを有した)。
【0210】
これらレトロウイルスベクターの生物学的特性は以降に詳細する。このHIVtat遺伝子(「tathis」ベクター:図11参照)をマウスPA317細胞に導入せしめた。5個の独立したヒスチジノール耐性サブクローンが得られ(TH1−5)、それらはHIV tatを発現する。これらの細胞を従ってHIV感染の実験標品とした。これらのベクターKTVIHAX,KTVIH5NEO及びMHMTKNEOを、これらtat発現性細胞系並びにそれられの親細胞であってtatを欠くものの中に感染によって逐次導入せしめた。次に細胞の生存性を種々の濃度のHSVTK−特異性細胞障害薬アシクロビル(ACV)において測定した。
【0211】
データーはLD50としてここで報道する(50%の毒性が観察される薬剤濃度)。このベクターを含むがtatの欠く親細胞系(非−HIV−感染化標品)は、試験した濃度でドACVによる瞳害が認められなかった(図12参照)。これらの細胞は障害されるためには100μM以上のACVを必要とした。これは、このベクターを欠く細胞も同様であった。従ってベクター単独、ACV単独、又はベクタ+ACV(べた塗り枠)は細胞障害性でない。しかしながら、HIV tatを発現する細胞系(HIV感染の代表的な実験)はACVにより効率的に殺傷された。これは試験した3種のベクター全てについての程度の変化において同様であった。これらのデーターが示すには、HIV−感染化細胞はACV及び「潜在性」ベクターの存在下において殺傷されうることである。
【0212】
類似の実験において、ベクターKTVIHAX及びKTVIH5Neoを、ヒトT細胞並びに単球細胞系SupT1、HL60及びU937細胞に感染によって導入せしめた。その後、これらの細胞をtathis又はdtatベクターにより感染せしめ、ヒスチジノールで選別し、そして種々の濃度のACV類似体、FIAVで細胞生存率を調べた。表1(以下)に報告するLD50が示すには、ベクターに伏するFIAV毒性の上昇がHIVの非存在下において起き、しかしtatが存在すると更に10〜20倍上昇することである。このことは、HL60細胞以外の全てにおいてHSVTK発現のべ一スラインが存在するにもかかわらず、HIV tatの存在下で発現は更に大きくなることを示唆する。
【表2】
【0213】
同様に、ヒトT−細胞系H9+/−FIAUは、5倍のHIV感染の優先的阻害(細胞殺傷を通じて)を示した。まず培養物をベクターで処理し、次にHIVに4日間にわたりさらした。次いでウイルス上清液をIV章で詳細にHIVアッセイを検定した。
【0214】
HIV感染化細胞の場合において、条件的致死HSVTK遺伝性の発現は、転写におけるシス−作用要素(“CRS/CAR”)を含ませることによってよりHIV−特異性とすることがき、これは更なるHIV遺伝子生成物revを最適活性のために必要とす(Rosenら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 35:2071、1988)。このようなtat−及びrev応答性ベクター(RRKTVIH)を作製し(図10参照)、そして両性的ウイルスが作製された。より一般的には、mRNAにおけるcis要素はmRNAの安定性又は翻訳能力を調節することを示す場合がある。このタイプの配列(即ち、遺伝子発現の転写後の制御)はベクター遺伝子発現の現象−又は組織−特異性制御に利用されうる。更に、このような配列の複合化(即ち、HIVのためのtat−応答性「TAR」要素又はrev−応答性「CRS/CAR」)はより高い特異性をもたらしうる。細胞における不活性前駆体の活性化生成物へのこのような種類の条件的活性化は、短い効果を有すその他のウイルスベクター、例えばアデノウイルスを用いることによっても達成されることが理解されるであろう。このようなベクターは、数日から1ケ月位の期間にわたり、細胞の中に効率的に侵入し、且つ該ベクターによりコードされるタンパク質を発現せしめることができる。この時間の長さは、HIV及び該組換ウイルスの両者によって感染化された細胞の殺傷を十分に可能にし、該組換ウイルスを運搬する遺伝子の発現性のHIV依存型活性化をもたらす。次にこの遺伝子発現は不活性な前駆体の活性化(即ち、致死性)生成物への変換を可能にする。
【0215】
ベクター調製品の調製、濃縮及び保存は前記した通りである。投与は前記と同様に直接的なインビボ投与又はPBL及び/もしくは骨髄の体外処理による。投与量は実施例4とほぼ同じレベルでありうる。ウイルスベクター感染を標的とすることは、CD4リセプターを介するではなく、リセプターとしてHIV envタンパク質(gp120)を用いて細胞を感染せしめるベクター粒子を製造することを介することにより成し遂げられうるであろう。このようなHIV−トロピックウイルスは、細胞膜に自然に高レベルのCD4タンパク質を有する細胞(例えばSupT1細胞)又はタンパク質を発現する任意の「操作された」細胞タイプから作製されたMLV−べ一スパッケージング細胞系から作られうる。得られるビリオン(それ自体の細胞膜から出現することにより形成されるもの)はその膜においてCD4タンパク質を含む。CD4を含む膜はHIV envを有す膜と融合するため、これらのビリオンはHIV envを含む膜と融合し、そして表層にgp120を有すHIV感染化細胞の特異的な感染をもたらすであろう。このようなパッケージング細胞系は、感染性ビリオンをもたらす適切なビリオン集成及び発生を可能とするMLV envタンパク質の存在を必要としうる。もしそうならば、ヒト細胞に感染しないMLV env(例えばエコトロピック(ecotropic)env)は用いることにより、ウイルスの侵入はCD4/HIV env相互作用を介してのみ起き、そしてMLV env細胞リセプターを介しては起きないことにすることができる。これはおそらく感染のためのHIV−envの存在に依存しないであろう。他方、MLV envのための要件はハイブリドエンベロープであって、そのアミノ−末端結合性ドメインがCD4のアミノ−末端HIV−env結合性ドメインに置き代ったものにより満足されうる。正常なウイルス−リセプター相互作用のこの変換は全てのタイプのウイルスであってその細胞リセプターが同定されているものに利用される。
【0216】
先の態様と類似の方法において、該レトロウイルスベクタ一構造体リン酸化、ホスホリボシル化、リボシル化又はその他のプリン−もしくはピリミジンベース薬剤の代謝のための遺伝子を運搬することができる。この遺伝子は哺乳動物細胞において相当するものないであろう。そしてそれらは例えばウイルス、細菌、菌類又はプロトゾーンに由来するであろう。この例には、チオキサンチンの存在下において致死性のE.コリ(E.coli)グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ遺伝子生成物が挙げられる(Besnardら、Mol.Cell.Biol.7:4139−4141、1987参照)。このタイプの条件的致死遺伝子生成物は、有効な細胞障害剤となるために細胞内リボシル化又はリン酸化をしばしば必要とする、多数の現在知られているプリン又はピリミジンベース抗癌剤に潜在用途を有す。この条件的致死遺伝子生成物は、プリン又はピリミジン類似体でない非毒性剤を細胞障害性の型へと代謝することもできる(Searleら、Brit.J.Cancer 53:377−384、1986を参照)。
【0217】
一般に哺乳類のウイルスは、その他のウイルスプロモーター要素に由来する逐次的な転写活性に必要な「即時型初期」遺伝子を有す傾向にある。この種の遺伝子生成物はウイルス感染の細胞内シグナル(又は「認識因子」)のための優れた候補である。従って、このようなウイルス「即時型初期」遺伝子生成物に応答性の転写プロモーター要素からの条件的致死遺伝子は、任意の特定のウイルスに感染された細胞を特異的に殺傷せしめる。更に、ヒトα及びβインターフェロンプロモーター要素は広範囲にわたる無関係なウイルスにより感染への応答において転写活性化されるため、例えばこのようなウイルス−応答性要素(VRE)由来するHSVTKのような条件的致死性遺伝子生成物を発現するベクターの導入は、種々の異なるウイルスにより感染された細胞の破壊をもたらすことができる。
【0218】
第4の態様において、この組換レトロウイルスは、それ自体は毒性でないが、しかしあるタンパク質、例えばウイルス又はその他の病原体に特異的なプロテアーゼによりプロセスもしくは改質された場合に毒性の型へと変化する生成物を特定する遺伝子を運搬する。例えば、この組換レトロウイルスは、HIVプロテアーゼによるプロセッシングによって毒性となるリシンA鎖のプロタンパク質をコードする遺伝子を有することができる。より許しくは、この毒性リシン又はジフテリアAの合成的不活性プロタンパク質の型を切断せしめて活性の型にする。これは認識されるHIVウイルスコードプロテアーゼを用意しそして適当なプロ要素を切断することによる。
【0219】
第5の態様において、このレトロウイルス構造体は細胞における認識因子(例えばHIV tatタンパク質)の存在に応答性の、標的細胞の表層において「リポーティング生成物」を発現しうる。この表層タンパク質は細胞障害性因子、例えばリポーティングタンパク質に対する抗体又は細胞障害性T−細胞によって認識されうる。類似の方法において、このような系は、認識されるタンパク質、例えばHIV tat遺伝子を発現する特定の遺伝子を有す細胞の簡単を同定のための検出系に利用できる(以下参照)。
【0220】
同様に、第6の態様において、それ自体が治療に有利な表層タンパク質が発現されることができる。HIVの特定のケースにおいて、特にHIV感染化細胞におけるヒトCD4タンパク質の発現は2通りの方法において有利でありうる。
【0221】
1. CD4のHIV envへの細胞間結合は、系統的クリアランス及び考えられる免疫原性の問題を伴うことなく、可溶性CD4が自由ウイルスに対して示すのと同程度に生存ウイルス粒子の形成を阻害することができる。その理由は、このタンパク質は膜結合し続け、そしてこれは内因性CDT4(患者は免疫的に耐性である)と構造的に同一であるからである。
【0222】
2. CD4/HIV env複合体は細胞死の原因と関連するため、CD4の更なる発現は(HIV−感染化細胞に存在する過剰のHIV−envの存在下において)より迅速な細胞死をもたらし、従ってウイルスの繁殖を防ぐ。このことは、細胞のHIV−誘発細胞障害性に対する相対不応性(これは、それらの細胞表層におけるCD4の相対欠損に起因することと理解されている)の結果としてのウイルス生産に対する受容体として働く単球又はマクロファージに特に適用しうる。
【0223】
実施例6
p4TVIHAXレトロウイルスベクターの作製(図13参照)
1. 9.4kbのAsuII/XhoIフラグメントをpN2から単離した。
【0224】
2. 0.6kbのXhoI/EcoRI HIVプロモーターをpSKHLから単離した。
【0225】
3. 1.4kbのヒトCD4をコード領域を発現ベクターpMV7T4からEcoRI/BstY1(XhoII)フラグメントとして単離した。
【0226】
4. HSVTKの(A)nシグナルを0.3kbのApaI/SmaIフラグメントとして単離し、T4ポリメラーゼとdNTPで3’修復せしめ、そしてpUC31のSmaI部位にクローン化せしめた。細菌への形質転換後、方向性についてクローンを制限酵素分析によってスクリーンした(p31〔A〕n〔+/−〕)。次に0.3kbの(A)nシグナルを0.3kbのBglII/AccIフラグメントとして単離した。
【0227】
5. 次に0.3kbの(A)nフラグメントを0.3kbのBglII/AccIフラグメントとして単離した。
【0228】
5. 1〜4のクローンを混合し、リゲートさせ、細菌の形質転換に用い、そしてクローンを制限酵素分析によって同定した。
【0229】
組換両向性(amphotrophic)レトロウイルスが製造でき、そしてヒト単球及びT−細胞であってHIV tat発現ベクター、tathisを有す又は有さないものに導入せしめた。HIVenv発現マウス繊維芽細胞によるシンシチアアッセイが示すには、単球細胞系HL60及びU937自体はこれらの細胞と融合するための十分なCD4を欠いていることである。しかしながら、HL60及びU937細胞はであってベクター4TVIHAXを含むものは、HIV tatが存在する場合はリポーター細胞(HIV−enx発現細胞)と融合でき、しかし非存在下では融合できない。これらのデーターは、CD4発現が誘発性であり、そして生物学的に活性(シンシチア形成により判断)であることを示唆する。ヒトT細胞系、H9におけるベクターによる実験は、HIV感染に起因する特別に高い毒性及び比較的低いHIV力価(このベクターを欠くH9細胞において提供されるHIV力価より1/200以下)を示した。
【0230】
第7の態様において、このレトロウイルスベクターは、このベクター感染化細胞の生存のために必須なRNA分子を分解及び不活性化せしめるリボザイムをコード化する。病原性因子、例えばHIV tatに関連する細胞内シグナルに依存してリボザイム提供を行うことにより、毒性は病原性因子に特異的になる。
【0231】
IV.免疫ダウンレギュレーション
前記で簡潔に述べ通り、本発明は該レトロウイルスにより感染された標的細胞における免疫系の1又は複数の要素を抑制できるベクター構造体を運搬する組換レトロウイルスを提供する。
【0232】
不適切又は不要な免疫応答、例えば慢性肝炎又は異種組織例えば骨髄の移植における免疫応答の特異的なダウンレギュレーションは、移植(MHC)抗原の表層発現を抑制する免疫−抑制ウイルス遺伝子生成物を用いることによって操作できる。グループCアデノウイルスAd2及びAd5はウイルスのE3領域においてコード化される19kdの糖タンパク質(gp19)を保有する。このgp19分子は細胞の小胞体におけるクラスIMHC分子と結合し、そして末端グリコシル化及び細胞表層へのクラスIMHCのトランスロケーションを妨げる。例えば、骨髄移植の前に、提供者の骨髄細胞をgp19−コード化ベクター構造体により感染せしめることができる。これはgp19の発現に基づき、MHCクラスI移植抗原の表層発現を阻止する。このような提供者細胞は、移植拒絶の低い危険性を伴って移植されることができ、そしてこの移植患者のために最小なる免疫抑制因子で十分となりうる。このことは、少ない合併症を伴う、有用な提供者−受容者キメラ状態の存在を可能にする。同様の処理は、紅斑性狼瘡、多発性硬化症、リウマチ様関節炎又は慢性B型肝炎感染を含む自己免疫疾患と称される範囲の疾病の治療にも利用されうる。
【0233】
他の方法は、アンチセンス情報、リボザイム又はその他の、自然において自己応答性のT細胞クローンに特異的な、特定の道伝子発現性阻害因子の利用を含む。これらは自己免疫応答に重要な、特に不要なクローンのT−細胞リセプターの発現性をブロックする。このアンチセンス、リボザイム又はその他の遺伝子は、ウイルスベクター運搬系を用いて導入されうる。
【0234】
V.マーカーの発現
ある認識因子に応答性の、細胞における緩和剤を発現せしめる前記の技術は、認識タンパク質を発現する細胞における特定の遺伝子の検出を可能とするために改良できる(例えば、特定のウイルスにより運搬される遺伝子)。それ故、このウイルスを有する細胞は検出されうる。更に、この技術は、ウイルス(例えばHITV)に一体化した認識タンパク質を有す細胞の臨床サンプル中のウイルスの検出を可能とする。
【0235】
この改良は、容易に同定されるある生成物をコード化するゲノムを提供し(マーカー生成物)、そしてこのリポーティング生成物の発現性を発現と非発現状態の間でスイッチせしめることによってインディケーター細胞における認識タンパク質の存在に応答するプロモーターを運搬することによって成し遂げられる。例えばHIVは、適当なインディケーター細胞に感染すると、tat及びrevを作り出す。従って、このインディケーター細胞に、マーカー遺伝子例えばアルカリホスファターゼ遺伝子、β−ガラクトシダーゼ遺伝子又はルシフェラーゼ遺伝子及びこのマー力一遺伝子の発現をコントロールするプロモーター、例えばHIVプロモーターをコードするゲノムを付与せしめることができる(例えば、適切な組換レトロウイルスによる感染による)。このインディケーター細胞を試験すべき臨床サンプルと接触させ、そしてこのサンプルがHIVを含む場合、このインディケーター細胞はHIVにより感染され、その中にtat及び/又はrev発現性がもたらされる。従って、このインディケーター細胞におけるHIV発現性コントロールは、β−ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ又はアルカリホスファターゼ(マーカー生成物)の遺伝子の発現性を通常「オフ」から「オン」にスイッチせしめることにより、tat及び/又はrevタンパク質に応答するであろう。β−ガラクトシダーゼ又はアルカリホスファターゼのケースにおいて、この細胞を基質類似体に接触させることは、もしこのサンプルがHIVについて陽性ならば色又は蛍光の変化をもたらす。ルシフェラーゼの場合、サンプルをルシフェリンと接触させることは、もしこのサンプルがHIVについて陽性ならばルミネッセンスをもたらすであろう。細胞内酵素、例えばβ−ガラクトシダーゼについては、このウイルス力価は着色もしくは蛍光細胞を直接計測することにより、又は細胞抽出物を作製し、そして適切なアッセイを行うことにより測定されうる。膜結合型アルカリホスファターゼについても、ウイルス力価は蛍光基質を用いて細胞表層に基づく酵素アッセイを行うことによって測定されうる。分泌型酵素、例えば操作せしめたアルカリホスファターゼの型については、活性について少量の培養上清液のサンプルがアッセイされ、これは単一培養物の時間における連続モニターを可能とする。従って、このマーカー系の異なる型は異なる目的のために利用されうる。これらには、活性ウイルスの計測又は培地に散布したウイルスを高感度且つ容易に測定すること、及び種々の薬剤によるこの散布物の阻害を含む。
【0236】
更なる特異性が先の系に組入れることができる。それはウイルスの存在についての試験をそのウイルスに対する抗体を中和する又は中和しないいずれかによって行うことによる。例えば、試験すべき臨床サンプルの一部はHIVに対する抗体の中和を行い、そして他の一部は抗体の中和を行なわない。抗体の存在するシステムが陰性であり、そして抗体の存在しないものが陽性の場合、これはHIV存在の確認に役立つであろう。
【0237】
インビロアッセイのための類似の系において、特定の遺伝子、例えばウイルス遺伝子の存在は細胞サンプルにおいて決定されうる。この場合において、このサンプルの細胞を、対象のウイルスの発現コントロールに結合したリポーター遺伝子を有す適切なレトロウイルスベクターにより感染せしめる。このリポーター遺伝子はこのサンプル細胞に侵入した後、この宿主細胞が適切なウイルスタンパク質を発現せしめる場合にのみ、そのリポーティング生成物(例えばβ−ガラクトシターゼ又はルシフェラーゼ)を発現するであろう。
【0238】
これらのアッセイはより迅速且つ高感度であり、その理由はこのリポーター遺伝子は存在している認識因子よりも大量のリポーティング生成物を発現するからであり、これは増幅効果をもたらす。実施例7は認識タンパク質を発現する遺伝子を検出するための代表的な技術を詳細する。
【0239】
実施例7
HIV−特異的マーカー系又はアッセイ
A.構造体
HIV発現系のコントロール下にあるリポーター構造体を図14(組換レトロウイルスベクター)及び図15(トランスフェクションに用いられる単一プラスミド)に示す。このような好適なベクター及びプラスミドリポーターの断片は以下に由来する:
このレトロウイルスの基盤は、XhoI及びClaIを用いて直鎖状にせしめた構造体pAFVXM(Krieglerら、Cell 38:384、1984)に由来する。SV2neoは1.8kbのClaIフラグメントの単離により、プラスミドpKoneo(Hanahan、未未公開)から得た。
【0240】
このHIV LTRをプラスミドpC15CAT(Aryaら、Science 229:69、1985)から0.7kbのHindIIIフラグメントとして単離した。ベクターgalはプラスミドpSP65β−gal(Cepko、pers、comm.)から、HindIII−SmaIフラグメントとして得た。ヒト胎盤性アルカリホスファターゼの分泌型は、ユニバーサルターミネーター配列をアルカリホスファターゼの細胞表層型のアミノ酸489の後に導入せしめることにより作製した(Bergerら、Gene 66:1、1988による)。この分泌型アルカリホスファターゼ遺伝子を1.8kbのHindIII〜KpnIフラグメントとして単離した。HIV envに由来するCRS−CAR配列は、HTLVIIIB/BH10R3由来の2.1kbのKpnI〜BamHIフラグメントを単離することによって得られた(Fisherら、Science 233:655、1986)。このフラグメントをBamHIにより直鎖状にせしめたpUC31に挿入せしめ、そしてKpnIpUC31は、pUC19のEcoRIとKpnI部位の間にXhoI,BglII、BsshII及びNcoI部位を更に有するpUC19である(Yanisch−Perronら、Gene 33:103、1985)。得られる構造体のBamHI部位をNcoI部位へと変化させ、NcoI消化によるCRS−CAR配列の再区分(resection)を可能にさせた。SV40tイントロンをpSVOL(de Wetら、Mol.Cell.Biol.7:725、1987)から、0.8kbのNcoI〜BamHIフラグメントとして得た。
【0241】
B.インディケーター細胞及びレトロウイルスベクター
ヒトT−細胞(H−9、CEM及びSupT1)及び単球(U−937)細胞系をATCCから入手し、そして10%の牛血清及び1%のペニシリン/ストレプトマイシンの添加されたRPM11640培地に維持せしめた。
【0242】
非レトロウイルスベクターを細胞系の中に、バイオ−ラッド(Bio−Rad)ジーンパルサーを用いてエレクトロポレーションにより導入せしめた。細胞系を2〜3週間にわたりG−418(1mg/ml)で選別し、安定的なG−418R細胞系を得、そして次にクローン細胞系を得るために希釈クローンせしめた。
【0243】
pAFベクターをPA317パッケージング細胞系の中に、リン酸カルシウム沈殿物として導入せしめた(Wiglerら、Cell 16:777、1979)。このウイルス産生PA317細胞をヒト単球細胞系とポリブレンの存在下において24時間にわたり共培養し、その後この懸濁細胞を取り出し、そしてG−418において選別し、前記の通りにサブクローンせしめた。
【0244】
C.アッセイ
安定な細胞系をHIV(HTLVIIIB)により感染せしめ、そしてこの細胞(β−gal)又は媒体(アルカリホスホァターゼ)を、感染後6日目に通常の方法によりアッセイした。
【0245】
β−ガラクトシダーゼアッセイ
感染化細胞は以下のいずれかによりアッセイされうる:(i)MacGregorら(Somatic Cell and Mol.Genetics 13:253、1987)に詳細のインシトウ組織化学染色:又は(ii)基質としてONPGを用いる溶液酵素アッセイにおける細胞抽出物の利用(NortonとCoffin、Mol.Cell.Biol.5:281、1985)。
【0246】
溶液アルカリホスファターゼアッセイ
感染化細胞から培地を取り出し、10秒間遠心し、次いで68℃で10分間加熱させて内因性ホスファターゼを破壊せしめた。この培地を次に2分間遠心し、そしてアッセイのためのアリコートを取り出した(10〜50μl)。l00μlの緩衝液(1Mのジエタノールアミン、pH9.8;0.5mMのMgCl2;10mMのL−ホモアルギニン)を加え、次いで120mMのp−ニトロフェニルホスフェート(緩衝液中)20μlを加えた。この反応混合物のA405を自動プレートリーダーを用いてモニターした。
【0247】
図16及び図17は、種々の抗ウイルス剤濃度の存在下におけるアルカリホスファターゼアッセイを用いた、SupT1細胞の感染の経時変化の典型的な結果である。6日目の「+」及び「−」はシンシチアの有無を示す。
【0248】
本発明は前記に採用するレトロウイルスベクター系と一緒に利用することでその性能を高めることができるその他の多くの技術(以下詳細)を提供する。一方、これらの技術はその他の遺伝子−運搬系と一緒に利用することもできる。
【0249】
VI.パッケージング細胞選別
本発明のこの観点はある程度、パッケージング細胞に由来する組換ウイルスの低力価の主なる原因の発見及びこのような原因を解決する技術に基づいている。一般に、少なくとも5つの要因が低組換ウイルス力価の原因として挙げられる。
【0250】
1. ウイルスパッケージングタンパク質の限定された利用性;
2. レトロウイルスベクターRNAゲノムの限定された利用性;
3. 該組換レトロウイルスの発生のための細胞膜の限定された利用性;
4. 該組換レトロウイルスベクターゲノムの限定された固有パッケージング効率;及び
5. 対象のレトロウイルスのエンベロープに特異的なリセプターの密度。
【0251】
前記した通り、ウイルスパッケージングタンパク質の限定された利用性は、パッケージング細胞からの組換レトロウイルス提供における主な制限要因である。このパッケージング細胞におけるパッケージングタンパク質のレベルが上昇すると、力価はおよそ105感染姓ユニット/ミリリットル迄上昇するが、この上昇するパッケージングタンパク質レベルは力価に更なる影響を及ぼさない。しかしながら、力価はパッケージングに有用なレトロウイルスベクターゲノムのレベルの上昇によっても更に上昇されうる。従って、本明細書に詳細の通り、パッケージングタンパク質及びレトロウイルスベクターゲノムの最大レベルを生産する提供細胞を選別することが好都合である。「発明の背景」の章のもとで初めに詳細した、パッケージング細胞及び提供細胞を同定及びそれにより選別するための方法は、以下の理由により、低力価を提供する多数の提供細胞の選別をもたらす傾向にあることがわかった。
【0252】
本発明は、5’LTR又はその他のプロモーターの下流にあり、介在遺伝子が置かれている遺伝子の発現レベルが、その介在遺伝子がないものよりも実質的に低いという先の欠点的な事実を利用する。本発明において、選別可能な遺伝子は、パッケージングゲノムの遺伝子又はこのベクター構造体により運搬される対象の遺伝子の下流に位置するが、しかしそれらは未だ、いかなるスプライスドナーもしくはスプライス受容部位を伴うことなく、ウイルス5’LTR又はその他のプロモーターのコントロール下で転写される。このことは2つの事を達成せしめる。第1は、パッケージング遺伝子又は対象の遺伝子はそれらとプロモーターとの間に介在遺伝子を有さずに上流にあるため、それらに関連するタンパク質(パッケージングタンパク質又は対象のタンパク質)は選別可能なタンパク質よりも高いレベル(5〜20倍)で発現されるであろう。第2に、選別可能なタンパク質は、発現のレベルの分布が低レベルヘとシフトした、平均的に低いレベルで発現されるであろう。phleorタンパク質の場合において、この分布におけるシフトは図18において示す破線曲線により示す。しかしながら、フレオマイシン(phleomycin)に対する耐性についての選別レベルはそのままであり、従って最大発現性細胞のみが生存する。パッケージングタンパク質又は対象のタンパク質のレベルは、高レベルの選別可能タンパク質がより高レベルのパッケージングタンパク質又は対象のタンパク質と一致する場合においてのみ比例し続ける。
【0253】
好ましくは、先の方法は第1選別可能遺伝子を伴って、プロウイルスgag/pol又はenvパッケーシング遺伝子の1つを有するプラスミドを用いて行う。次にこれらの細胞を、env(又は可能ならgag/pol)に対する抗体、第2蛍光抗体との反応及びその後蛍光−活性化細胞ソーター(FACS)で選別せしめることにより、タンパク質を最高レベルで発現する細胞についてスクリーンした。他方、タンパク質レベルについてのその他の試験も利用できる。その後、この方法及びスクリーニングはそれら選別した細胞及びgag/pol又はenvパッケージング遺伝子のその他を利用して繰り返される。この段階において、第2の選別可能な遺伝子(第1のものと異なるもの)がこのパッケージング遺伝子から下流に必要とされ、そして最大量の第2ウイルスタンパク質を生産する細胞が選別される。この方法及びスクリーニングを、対象の遺伝子及び第1又は第2選別可能遺伝子とは異なる第3選別可能遺伝子を抱えるプロウイルスベクター構造体を有すプラスミドを有す生存細胞を用いて繰り返した。この方法の結果、高力価の所望の組換レトロウイルスを生産する細胞が選別されることができ。そしてこれらは組換レトロウイルスの供給を必要とする際には培養されうる。更に、gag及びpolが独立して導入及び選別できる。実施例8はこれらの方法に用いるためにデザインされた。gag/pol及びenvプラスミドの作製も詳細する。
【0254】
実施例8
高レベルのパッケージングタンパク質を作るためにデサインされたプラスミド(図19)
1. 両性envセグメントを含むpPAM由来の2.7kbのXbaIフラグメント(Millerら、Mol,Cell.Biol.5:431、1985)をpUC81にXbaI部位にてクローン化せしめ、次いでHindIII及びSmaIにより取り出した。このフラグメントを、HindIII及びPvuIIで切断せしめたベクターpRSVneo(Gormanら、Mol.Cell.Biol.2:1044、1982;Southernら、J.Mol.Appl.Genet.1:327、1982)の中にクローンせしめ、pRSVenvを付与せしめた。プラスミドpUT507(Mulsantら、Somat Cell.Mol.Genet.14:243、1988)に由来する、BstEII末端の補完された0.7kbのBamHI〜BstEIIフラグメントはphleo耐性コード配列を有す。4.2kbのBamHI〜XhoIフラグメント、RSVenv由来の連続的な1.6kbのXhoI〜XbaI(XbaIは補完されている)及びphleoフラグメントをリゲートせしめ、pRSVenv−phleoを得た。
【0255】
2. MLV(RNA Tumor Viruses、Vol.II、Cold Spring Harbor、1985)の563番目のヌクレオチドのPstI部位から5870番目のScaI部位のフラグメントをpMLV−K(Millerら、1985,op.cit.)から得、そしてSV40プロモーター、pBR322アンピシリン耐性及び複製の起点並びにSV40ポリA部位を有すp4aA8(Jollyら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 80:477、1983)由来のPstI〜BamHIフラグメント(BamHIは補完済み)にクローンせしめた。これによりpSVgpが得られた。pSVgpDHFRは以下のフラグメントを用いて作製した。SV40プロモーター及びMLV並びにいくつかのpol配列を含む、3.6kbのHindIII〜SalIフラグメント;残りのpol遺伝子を有すpMLV−K由来の2.1kbのSalI〜ScaIフラグメント;DHFR遺伝子及びポリA部位、pBR322起源並びにアンピシリン耐性遺伝子の半分を有す、pF400由来の3.2kbのXbaI(XbaI補完)〜PstIフラグメント;残り半分のアンピシリン耐性遺伝子を有す、pBR322由来の0.7kbのPstI〜HindIIIフラグメント。これによりpSVgp−DHFRが得られた。これらの構造体全てを図19に示す。これらのプラスミドを3T3細胞又はその他の細胞に導入せしめることによって、高レベルのgag,pol又はenvが得られる。
【0256】
選別を成し遂げるための更なる方法は、最初のラウンドにおいて遺伝子選別を、そしてその次のラウンドにおいてそのアンチセンスを利用することである。例えば、HPRT遺伝子を伴ってHPRT欠失細胞の中にgag/polを導入せしめ、そしてこの媒体であってプリンの再利用のためにHPRTを必要とするものを用いることにより、この遺伝子の存在について選別することができる。次のラウンドにおいて、HPRTに対するこのアンチセンスをenvの下流に運搬せしめ、そしてこの細胞を6チオグアニンにおいて、HPRT−欠失表現型について選別することがきる。復帰を全く起こさせずにHPRT遺伝子転写を不活性化せしめるためには、大量のアンチセンスHPRTが必要とされるであろう。
【0257】
MoMLVの563番目のヌクレオチドから開始するgag/pol発現構造体の他に、上流リード配列を含む複数のその他のものが作製できる。Pratasら(RNA Tumor Viruses Meeting、Cold Spring Harbor、N.Y.,1988)によると、gagタンパク質のグリコシル化型はヌクレオチド357で開始し、そして翻訳エンハンサーはヌクレオチド200〜270の間の領域において位置することがわかっている。従って、gag/pol発現構造体は、これら上流要素を含みそしてベクター製造を高めるために、BalI部位(ヌクレオチド212)又はEagI部位(ヌクレオチド346)で始まるように作られうる。
【0258】
エンベロープ置換
gag/pol及びenv機能を別々に発現せしめる能力はこれらの機能を独立に取り扱うことを可能にする。大量のgag/polを発現する細胞系は、例えばenvに関連する力価の問題を解決するのに利用されうる。低力価をもたらす1の要因は標的細胞又は組織上の適切なリセプター分子の密度である。第2の要因はウイルスエンベロープタンパク質に対するリセプターの親和性である。env発現は独立のユニットに由来するため、種々の起源に由来する種々のエンベロープ遺伝子(異なるリセプタータンパク質を必要とするもの)、例えば異種親和性(xenotropic)、ポリ親和性(polytropic)又は両性親和性(amphotrophic)envを特定の標的組織に基づき、最も高い力価について試験した。更に、非ネズミレトロウイルス起源由来のエンベロープを、ベクターを擬態するために利用できる。擬態(即ち、エンベロープタンパク質が新生ベクター粒子と細胞膜の細胞質側で相互作用して生存ウイルス粒子を提供せしめること(Tata、Virology 88:71、1978)、及びしないこと(Vana、Nature 336:36、1988)の正確な法則はよく特徴付けられていない。しかしながら、ウイルスエンベロープを形成するように細胞膜の断片が発生するため、この膜に正常に存在する分子はこのウイルスエンベロープ上において保有される。従って、多数の異なる潜在的なリガンドを、このベクターが製造される、gag及びpolを作製する細胞系を処理することによってこのウイルスベクターの表層上置くか、又は特定の表層マーカーを有する種々のタイプの細胞系を選ぶことができる。ヘルパー細胞において発現されることができ、且つ有用なベクター−細胞相互作用を提供できる1つのタイプの表層マーカーは、他の潜在的な病原性ウイルスのためのリセプターである。この病原性ウイルスは感染せしめた細胞表層上に、そのウイルス特異タンパク質(例えばenv)であってウイルス感染を付与せしめるためにその細胞表層マーカー又はリセプターと通常相互し作用するものを表わす。これは、同一のウイルスタンパク質−リセプター相互作用を用いることにより(しかし、ベクター上のリセプター及び細胞上のウイルスタンパク質によってではなく)、潜在的な病原性ウイルスに関するベクターの感染の特異性を復帰せしめる。
【0259】
無関係なエンベロープタンパク質であって、製造されるベクターによる標的細胞の感染をもたらすことはないが、感染性ウイルス粒子の形成を促進せしめるものについてコードする遺伝子を含むことが望ましい。例えばヘルパー系としてヒトSupT1細胞が利用できる。このヒトT−細胞系は高レベルにてその表層上にCD4分子を発現する。これのヘルパー系への転換は、適切な発現ベクターによる発現により成し遂げられ、そしてまた必要ならば、無関係(ヒト細胞に対して)エンベロープタンパク質としてモロニーエコトロピックenv遺伝子生成物(このモロニーエコトロピックenvは、マウス細胞の感染のみをもたらす)により成し遂げられる。このようなヘルパー系から作られるベクターはその表層上にCD4分子を有し、そしてHIV envを発現する細胞、例えばHIV−感染化細胞のみを感染せしめることができるであろう。
【0260】
更に、ハイブリドエンベロープ(以下に詳細)を、レトロウイルスベクターの向性(tropism)(及び有効に高められた力価)を仕立てるために同様にこの系に利用できる。大量の対象のエンベロープ遺伝子を発現する細胞系が、gag及びpolに関連する力価の問題の解決に採用されうる。
【0261】
細胞系
MoMLVベクター系(psi2,PA12,PA37)のために最も一般的に利用されるパッケージング細胞はネズミ細胞系に由来する。なゼネズミ細胞系がヒト治療用ベクターの製造のために最も適切ではないかの理由は複数ある。
【0262】
1. それらは内因性レトロウイルスを含むことで知られている。
【0263】
2. それらは非レトロウイルス又は欠陥レトロウイルス配列であって有効にパッケージ化することで知られるものを含む。
【0264】
3. それらはネズミ細胞膜成分の存在により起因する有毒因子でありうる。
【0265】
複数の非ネズミ細胞系は潜在的なパッケージング系である。それらは、ポリオワクチンの製造のためにヨーロッパで利用されているVero細胞、ワクチンの製造において米国で利用されているWI38,TPAの製造のために米国で利用されているCHO細胞及び内因性ウイルスを有さないその他のイヌ細胞を含む。
【0266】
レトロウイルスベクターによる特異的な細胞タイプの有効感染をもたらす要因が完全に理解されていないにもかかわらず、それらの比較的高い突然変異率の理由により、初期増殖が劣っている細胞タイプにおけるめざましく改善される増殖のために、単に連続的な再感染及びその細胞タイプ(該アダプター細胞)におけるこのウイルスの増殖によって適合できうることが明白である。これはいくらかのウイルス機能(例えばenv)をコードし、そして感染性ベクター粒子(例えばgag/pol)を放つために該ベクターの機能を補完するのに必要な機能を有するように操作された特定のタイプの細胞に連続的継代されたウイルスベクターを用いることによっても成し遂げられうる。例えば、ネズミ両性親和性ウイルス407Aをヒト細胞もしくは単球に適合せしめることを、プライマリー細胞培養物又は永久細胞系、例えばSupT1(T−細胞)又はU937(単球)のいずれかの連続増殖もしくは再感染によりできる。最大増殖が達成されたら(逆転写酵素レベル又はその他のウイルス生成物のアッセイにより)、このウイルスを多数の標準方法のいずれかによりクローン化せしめ、このクローンを活性についてチェックし(即ち、アダプター細胞タイプヘのトランスフェクションに基づく同程度の最大増殖特性を提供する能力)、そして欠陥ヘルパーゲノム及び/又はベクターであって適切に製造されたヘルパー又は提供系におけるものの作製に利用されるこのゲノムは、感染し且つ高い効率(108〜109感染性ユニット/ml)を伴ってアダプター細胞において発現するウイルスベクター粒子の製造をもたらすであろう。
【0267】
VII. 択一的なウイルスベクターパッケージ技術
2つの更なる択一的な系がこのベクター構造体を有す組換レトロウイルスの製造に利用できる。これらの系それぞれは、昆虫ウイルス、バクロウイルス並びに哺乳類ウイルス、ワクチン及びアデノウイルスが、大量の任意の対象タンパク質を作るために、その遺伝子がクローンされるものに適合するという最近の事実を利用する。例えばSmithら(Mol.Cell.Biol.3:12、1983);Picciniら(Meth.Enzymology、153:545、1987);及びMansourら(Proc,Natl.Acad.Sci.USA 32:1359、1985)を参照のこと。
【0268】
これらのウイルスベクターは、適切な遺伝子をウイルスベクターの中に挿入せしめ、そしてそれ故レトロウイルスベクター粒子を作製するために適合できうることによって、組織培養細胞においてタンパク質を製造するために利用できる。
【0269】
アデノウイルスベクターは核複製ウイルスに由来し、それらは欠陥でありうる。遺伝子をベクターの中に挿入せしめ、そしてインビトロ作製(Balleyら、EMBO J.4:3861、1985)又は細胞における組換(Thummelら、J.Mol.Appl.Genetics 1:435、1982)のいずれかによって、哺乳類細胞におけるタンパク質の発現に利用される。
【0270】
1つの好ましい方法は、(1)gag/pol、(2)env、(3)改良ウイルスベクター構造体を作動せしめるアデノウイルス主要後期プロモーター(Major Late Promoter)(MLP)を用いてプラスミドを作製することである。改良ウイルスベクター作製が可能なのは、ウイルスベクタープロモーターを含む5’LTRのU3領域はその他のプロモーター配列によって置換されうるからである(例えばHartman、Nucl.Acids Res.16:9345、1988を参照のこと)。この部分は3’LTRからのU3による1ラウンド逆転写酵素の後に交換されうるであろう。
【0271】
次にこれらのプラスミドは、欠陥アデノウイルスベクターにおいて別々に保有されるgag/pol、env及びレトロウイルスベクターの純粋なストックを得るため、インビトロでアデノウイルスゲノムを作るため、そして293細胞(アデノウイルスE1Aタンパク質を作るヒト細胞系)(このアデノウイルスベクターは欠陥性である)においてこれらを感染せしめるのに用いられる。このようなベクターの力価は一般に107〜1011/mlであるため、これらのストックは高い多重度で同時に組織培養細胞に感染せしめるために利用されうる。次にこの細胞を、高レベルでレトロウイルスタンパク質及びレトロウイルスベクターゲノムを生産せしめるようにプログラムする。該アデノウイルスベクターは欠陥性であるため、大量の直接的な細胞溶解は起きず、従ってレトロウイルスベクターは細胞上清液から回収されうる。
【0272】
その他のウイルスベクター、例えば無関係なレトロウイルスベクターに由来するもの(例えばRSV,MMTV又はHIV)がプライマリー細胞からベクターを発生せしめるために同一の方法において利用されうる。1つの態様において、これらのアデノウイルスベクターはプライマリー細胞と一緒に利用され、プライマリー細胞からのレトロウイルスベクター調製品が高められる。
【0273】
択一的な系において(より本当に細胞外的な)、以下の成分が利用される。
【0274】
1. Smithら(前記)に詳細と同一の方法において、バクロウイルス系において(又はその他のタンパク質製造系、例えば酵母もしくはE.コリ)作られるgag/pol及びenvタンパク質。
【0275】
2. 既知のT7もしくはSP6又はその他のRNA−発生系(例えばFlamantとSorgc、J.Virol.62:1827、1988を参照)において作られるウイルスベクター。
【0276】
3. (2)において作られる、又は酵母もしくは哺乳類組織培養細胞から精製したtRNA.
4. リポソーム(包理化envタンパク質を有す)。
【0277】
5. envプロセッシング及び任意のその他の必須細胞由来機能を提供するための細胞抽出物又は精製必須成分(同定されている場合)(一般にはマウス細胞由来。)
この方法において(1),(2)及び(3)を混合し、次いでenvタンパク質、細胞抽出物及びプレ-リポソーム混合物(適切な溶媒中の脂質)を加えた。ところで、envタンパク質をリポソームにまず包埋せしめることを、得られるリポソーム-包埋envを(1)、(2)及び(3)の混合物に加える前に行うことが必要でありうる。新生ウイルス粒子の脂質と包埋化envタンパク質による封入(encapsidation)を(Gould−Fogeriteら(Anal.Biochem.148:15、1985)に詳細の通り、医薬品のリポソーム封入と同様の方法において)行うためにこの混合物を処理(例えば超音波処理、温度操作又はロータリー透析)せめた。この方法は、病原性レトロウイルス又は複製−コンピテントレトロウイルスの來雑を伴うことなく、高い力価の複製インコピテント組換レトロウイルスの生産を可能とする。
【0278】
VIII.細胞系−特異性レトロウイルス−「ハイブリドエンベロープ」
レトロウイルスの宿主細胞範囲特異性はenv遺伝子生成物によってある程度測定される。例えばCoffin、J.(RNA Tumor Viruses 2:25−27、Cold Spring Harbor、1985)は、ネズミ白血病ウイルス(MLV)及びラウスサルコマウイルス(RSV)由来のタンパク質の細胞外成分は特異的なリセプター結合に重要である。エンベロープタンパク質のこの細胞質ドメインは一方で、ビリオン形成に役立つものと理解されている。擬態(即ち、ウイルスタンパク質又はその他の物質によるある物質由来のウイルスRNAの封入)は低頻度で起こるため、このエンベロープタンパク質は対象のレトロウイルスのビリオン形成に対するある程度の特異性を有す。本発明は、ハイブリドenv遺伝子生成物を作ることにより(即ち、特に、細胞質領域及び外因性結合性領域であって、天然において同一タンパク質分子においてでないものを有すenvタンパク質)、この宿主範囲特異性は細胞質機能に独立して変化されうる。従って、組換レトロウイルスであって、予備選択した標的細胞に特異的に結合するものであろうものが、製造できる。
【0279】
ハイブリドタンパク質であって、そのリセプター結合成分及びその細胞質成分が異なるレトロウイルスに由来するものを作るためには、組換のための好ましい配置は細胞質成分の膜スパニング領域内にある、実施例9は、MLVエンベロープタンパク質の細胞質ドメインと結合した、HIVエンベロープのCD4結合部分を有すタンパク質を発現するハイブリドenv遺伝子の作成を詳細する。
【0280】
実施例9
ハイブリドHIV−MLVエンベロープ
ハイブリドエンベロープ遺伝子をインビトロ突然変異誘発(Kunkelら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 82:488−492、1985)を用いて調製し、適切な結合の位置に新しい制限部位を導入せしめた。他方、もし2種類のエンベロープ配列が同一のプラスミド上にある場合、それらはインビトロ突然変異誘発を利用して任意の所望する位置で直接的に結合されうる。いずれの場合においてもたらされる末端はHIVgp160の5’末端及びMLVp15Eの3’末端である。得られる組換遺伝子により発現されるハイブリドタンパク質は図20において示し、そしてこれはHIVgp120HIVgp41の細胞外部分(gp120結合性及び融合性(fusigenic)領域)及びMLVp15Eの細胞質部分を、この宿主膜内の任意の複数の位置で発生する結合を伴って、含んでいる。細胞質表層での融合接点を有すハイブリド(図20における接点C)はSupT1細胞において発現する場合にシンシチアを引き起こす。明らかなシンシチアの数は同一発現性ベクターにおける非ハイブリドHIVエンベロープ遺伝子のおよそ1/5である。ハイブリドによるシンシチアはrevタンパク質がトランスにおいて共発現された場合にのみ起きる。細胞外表層で融合接点を有すハイブリド(図20における接点A)はシンシチアを提供せず、そしてハイブリドB(トランスメンブラン領域の中央)はハイブリドCよりもおよそ1/5の少ないSupT1細胞に基づくシンシチアを提供する。
【0281】
実施例9は二種のレトロウイルスから作られる1つのハイブリドタンパク質を例示しているが、その可能性はレトロウイルス又はその他のウイルスに限定されない。例えば、ヒドインターロイキン−2のべーター−リセプター部分はMLVのエンベロープタンパク質と結合しうる。この場合において、組換はMLV env遺伝子のgp70部分に好適に局在し、インタクトなp15Eタンパク質が残る。更に、上記の技術は抗Fcセグメントを認識するエンベロープタンパク質を有す組換レトロウイルスを作製するためにも利用されうる。予備選択した標的細胞のみを認識するモノクローナル抗体のみがこのようなエンベロープタンパク質を示すこのような組換レトロウイルスに結合するができ、これによってこのレトロウイルスはこれら予備選択した標的細胞に結合且つ感染できうるであろう。
【0282】
この手法は3種のレベルのレトロウイルスベクター特異性、一般には、細胞侵入、遺伝子発現及び発現するタンパク質の選別を利用することによって腫瘍特異的標的及び殺傷の達成に採用されることもある。レトロウイルスベクターは細胞に侵入し、そして細胞内部位にてそれらの作用を及ぼす。この観点においてそれらの作用は独特である。この特性及び3種のレベルの天然レトロウイルス特異性(前記)を用いることにより、レトロウイルスベクターは腫瘍細胞を標的とし殺傷せしめるために操作されうる。
【0283】
腫瘍細胞に対するレトロウイルスの全体的な攻撃の目標は二つの主な実験によって成し遂げられる。即ち、a)腫瘍細胞中で優先的に増殖するレトロウイルスについての組織培養(もしくは動物において)における選別;又はb)インビトロ継代並びに陰性及び陽性薬剤感受性選別により作製される、改良を伴った、組織(腫瘍)−特異的プロモーターを有すレトロウイルスベクターの作製。
【0284】
少なくとも4つの選別プロトコールが腫瘍細胞において優先的に増殖するレトロウイルスについて選別せしめるのに利用されうる。即ち、1)「インビトロ継代によるEnv選別」、ここで改善された複製増殖能力を伴うレトロウイルスの選別は腫瘍細胞における繰り返し継代により成し遂げられる;2)「薬剤耐性遺伝子による選別」、ここで腫瘍「特異的」レトロウイルスによる選別は結合した薬剤耐性遺伝子を合むウイルス構造体に基づく;3)「ハイブリド−Env」、ここで腫瘍「特異性」を有すレトロウイルスの選別(上記のプロトコール#1又は#2)は、腫瘍リセプター遺伝子の融合であるハイブリドエンベロープ遺伝子(即ち、envと融合した抗−腫瘍抗体H−鎖V−領域遺伝子又はenvと融合した成長リセプター)を含む構造体から開始される;(この場合において選別は好適な出発点、例えば腫瘍細胞にある程度の特異性を有すenvにて開始される);あるいは4)「インビトロでの継代による選別及び正常細胞との共培養によるカウンター選別」、ここで腫瘍細胞における増殖は薬剤耐性腫瘍細胞及び薬剤感受性正常細胞の混合体における繰り返し継代により選別される)。
【0285】
組織(腫瘍)−特異的プロモーターを有すレトロウイルスベクター構造体に関しては、異なるレベルの組織−特異性を有す生化学マーカーがよく知られ、そして組織−特異的プロモーターを介する遺伝子コントロールは同じ系において理解されている。遺伝子であってその転写プロモーター要素が迅速増殖細胞において比較的活性なもの(即ち、トランスフェリンリセプター、チミジンキナーゼ他)及びその他のものであってプロモーター/エンハンサー要素が組織特異的であるもの(即ち、肝臓についてのHBVエンハンサー前立腺についてのPSAプロモーター)が多数ある。レトロウイルスベクター及び組織−特異的プロモーターは、選択マーカー及び細胞周期遺伝子の発現(即ち、薬剤感受性、Ecogpt;又はTK−細胞におけるHSVTK)を作動せしめることができ、内在プロモーターとして又はLTR内において存在する。これらの遺伝子の発現性は、マイコフェノール酸(mycophenolic acid)又はHATのそれぞれを含む培地において選別されうる。この状態において、活性的に薬剤耐性遺伝子を発現せしめる一体化プロウイルスを含む腫瘍細胞は生存するであろう。この系における選別は組織−特異的プロモーター及びウイルスLTRの両方の選別を含む。他方、腫瘍細胞における特異的な発現(正常細胞においてではなく)は、ウイルスを正常細胞において定期的に継代せしめること、そしてそれらの細胞においてEco gpt又はHSV tk(薬剤耐性)を発現するウイルスに対する選別(チオキサンチン又はアシクロビルにより)によってカウンター選別されうる。Eco gpt又はtk表現型を発現する一体化ウイルスを含む感染化細胞は死滅し、従っでこのような細胞タイプにおけるウイルスは選別されるであろう。
【0286】
IX.位置特異的一体化
レトロウイルスベクターを染色体上の予備所定配座に標的せしめることは、遺伝子運搬系の利点を増大せしめる。安全性の尺度は、染色体上の「安全」スポット(即ち、ベクターの挿入に由来する有毒作用を有さないと証明されている部分)に直接一体化せしめることにより増大する。その他の潜在的な利点は染色体の「解放」領域に遺伝子を導く能力であり、ここでその発現性は最大となろう。特定の部位にレトロウイルスを一体化せしめる2つの技術を以下に詳細する。
【0287】
(i)相同性組換
標的細胞DNAにおける特定の部位の中への組換レトロウイルスのベクター構造体の外因性遺伝子の一体化のための1つの技術は相同性組換を利用する。ゲノム配列に相同性の、約300bpより大きいDNA配列を含むプラスミドは、それらゲノム配列と、このような相同性のない特異的な相互作用よりも1000倍以上の速度で相互作用(置換又は挿入による)を示すことがわかっている(ThomasとCapecchi、Cell 51:503−512、1987;及びDoetschemanら、Nature 330:576−578、1987)。挿入現象、又は他方交換現象はこのベクターの特定のデザインにより作動されうることが示されている。
【0288】
位置特異的レトロウイルス一体化における相同性組換を採用するために、次のようにベクター構造体を改質すべきである。(a)相同性配列(標的細胞ゲノムに対する)を適切な位置でこの構造体に組入れること;そして(b)一体化物の正常な機構が相同性配列に起因して起こる、標的の妨害をしないこと、である。この観点における好ましい手法は、U3逆反復(inverted repeat)から下流の3’LTRにおいて相同性配列(約300bp以上)を加えることである。この手法において、この構造体は、まずU3におけるNheI部位にて3’LTRに挿入された相同領域により作られる。宿主細胞における逆転写は、逆反復(1R)の31bpの末端内の5’LTRにおける相同領域のデュプリケーションをもたらすであろう。宿主ゲノムヘの一体化は正常な一体化機構の存在下又は非存在下において起こるであろう。このベクターにおける遺伝子は、LTRから又は内在プロモーターのいずれから発現されうる。この手法は、二本鎖レトロウイルスベクターゲノムの潜在性遊離末端付近に相同性の領域を位置せしめる効果を有す。遊離末端は相同性組換の頻度をおよそ10倍高めることで知られている。この手法において、一体化の正常な機構を壊すこと、又は少なくともそのプロセスを遅らせて相同性DNAが配置できる時間を与えることが必要であろう。この後者の改良が特定の場合において必要であろうと、それは当業者によって容易に確実にされうる。
【0289】
(ii)インテグラーゼ改良
ベクター構造体を、特定の標的細胞ゲノムの予備選択部位に一体化せしめる他の技術はインテグラーゼ改良を含む。
【0290】
レトロウイルスpol遺伝子生成物は一般に4つの部分にプロセスされる:(i)ウイルスgag及びpol生成物を保有するプロテアーゼ;(ii)逆転写酵素;及び(iii)RNaseHであってRNA/DNA二本鎖のRNAを分解するもの;及び(iv)エンドヌクレアーゼ又は「インテグラーゼ」。
【0291】
一般的なインテグラーゼ構造はJohnsonら(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 83:7648−7652、1986)により分析されている。このタンパク質は、亜鉛結合性フィンガーであって、レトロウイルス配列に一体化する前に宿主DNAと相互反応するものを有すと考えられている。
【0292】
その他のタンパク質において、このような「フィンガー」は特定の配列にてタンパク質がDNAに結合することを可能にする。ある例はステロイドリセプターである。この場合において、グルココルチコイドに応答するグルココルチコイドリセプターの効果を有す、エストロゲンに応答するエストロゲンリセプターを作ることができる。これは単に、このエストロゲンリセプター遺伝子におけるエステロゲンリセプターフィンガーセグメントの代りにグルココルチコイドリセプター「フィンガー」(即ち、DNA結合性セグメント)を置くことによる。この実施例において、このタンパク質が標的とされるこのゲノムにおける位置は変化されていない。このようにした遺伝子をインテグラーゼ遺伝子の中に、存在する亜鉛フィンガーの代りに置換せしめることもできる。例えば、ヒトエストロゲンリセプター遺伝子のDNA結合性領域をコードするセグメントをパッケージングゲノムにおいて、インテグラーゼのDNA結合性領域の代りに置くことができうる。主に、特異的な一体化は、インビトロでの一体化系により試験されるであろう(Brownら、Cell 29:347−356、1987)。この特異性がインビボで見られることを確認するため、感染性ベクターを作り、そして培養において比較するエストロゲン−感受性並びにエストロゲン−非感受性細胞への感染及び一体化のためにこのパッケージングゲノムを利用する。
【0293】
この技術の利用を介して、侵入するウイルスベクターは、インテグラーゼゲノムヘとスプライスされた位置−特異的DNA−結合性タンパク質セグメントのゲノム−結合特性によって、標的細胞ゲノム上の予備選定部位の中に一体化されるようになりうる。当業者によって、この一体化部位は実際には改良インテグラーゼのフィンガーに対して受容性でなければならないことが理解されうる。例えば、ほとんどの細胞はグルココルチコイドに感受性であり、従ってそれらの染色体はグルココルチコイドリセプターについての部位を有す。それ故、ほとんどの細胞にとって、グルココルチコイドリセプターフィンガーを有す改良インテグラーゼは、プロウイルスベクター構造体をそのグルココルチコイドリセプター−結合性部位にて作製するのに適切であろう。
【0294】
X.遺伝子導入動物における組織レトロウイルスベクターの製造
レトロウイルスベクターのヘルパー系発生の前記した2つの問題は(a)大量のベクターを発生させる困難性;及び(b)ベクターを作るために、プライマリー細胞の代りに永久細胞を必要とする現状、である。これらの問題は遺伝子導入動物において発生する提供系又はパッケージング系によって解決されうる。これらの動物はパッケージングゲノム及びレトロウイルスペクグーゲノムを有するであろう。現状の技術はプライマリー細胞においてパッケージング系及び所望するベクター−提供系の発生を可能とせず、これはその限られた寿命に起因する。現状の技術は、更なる特徴、即ち老衰を利用としプライマリー細胞の利用を排除することを必要とする。しかしながら、遺伝子導入動物の個々の系は、パッケージング機能例えばgag,pol又はenvを提供する本明細書が提供する方法によって発生できる。動物のこれらの系は従って、パッケージング機能を転写するためのハウスキーピングもしくは組織−特異的プロモーターの選択的な利用を介して、全動物又は標的とする組織のいずれかにおける発現について特徴付けられる。運搬されるべきベクターは組織−特異的又はハウスキーピングプロモーターを有す遺伝子導入動物の系の中にも挿入せしめる。前記した通り、このベクターは5’LTRのU3領域を置換するこのようなプロモーターを欠くこともできる(図21)。この導入遺伝子はその発現性において誘発性又は遍在的でありうる。しかしながらこのベクターはパッケージ化されていない。動物のこれらの系は従ってgag/pol/env動物に適合し、そしてその後の子孫はパッケージ化ベクターを提供する。実質的に同一であるこの子孫は特徴付けられ、そしてプライマリー提供細胞の無限なる起源を提供する。他方、gag/pol及びenvを作り、そして遺伝子導入動物に由来するプライマリー細胞は、プライマリー細胞提供系を作るためにレトロウイルスベクターとバルク中で感染又はトランスフェクトされうる。多数の異なる遺伝子導入動物又は昆虫、例えばマウス、ラット、ニワトリ、ブタ、ウサギ、ウシ、ヒツジ、魚類及びハエがこのようなベクターを提供できる。このベクター及びパッケージングゲノムは、組織−特異的プロモーター及び異なるエンベロープタンパク質の利用を介して、種感染特異性、及び組織−特異的発現のために仕立てられるであろう。このような方法の例を図22において例示する。
【0295】
プライマリーパッケージング系の導入遺伝子製造の以下の例はマウスについてのみ詳細にしているが、これらの方法は当業者にとって実施されるその他の種に迄及ぶことができる。これら遺伝子導人動物はマイクロインジェクション又は遺伝子輸送技術によって作られうる。マウスゲノムにおけるMLV配列に相同性が付与されているため、最終的に好ましい動物はマウスではないであろう。
【0296】
実施例10
遺伝子導入動物において遍在的発現についてのハウスキーピングプロモーターを用いるgag/polタンパク質の製造
よく特徴付けられているハウスキーピングプロモーターの例はHPRTプロモーターである。HPRTはプリン再生酵素であり、全ての組織において発現される(Patelら、Mol.Cell.Biol.6:393−403、1986及びMelotonら、Proc.Natl.Acad.Sci.81:2147−2151、1984、を参照のこと)。このプロモーターは、組換DNA技術を用いて(Maniatisら、molecular Cloning:A Laboratory Manual、Cold Sprinh Harbor、1982)、ブルースクリプトプラスミド(Stratagene,Inc.)にクローン化された種々のgag/polフラグメント(例えばMoMLVのBalI/SacI;Aat II/ScaI;PstI/ScaI;RNA Tumor Virsuoses 2、Cold Spring Harbor Laboratory、1985参照)の前に挿入せしめる。得られるプラスミドを精製(Maniatisら、上記)、そして関連する遺伝子情報をジーンクリーン(Bio 101)又は電気溶離(Hoganら、(出版)、Manipulating the Mouse Embryo:A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor、1986)を利用して単離した。
【0297】
このような完全に特徴付けられたDNAを、2μg/mlの濃度で受精マウス卵巣の前核にマイクロ注射せしめた。生存している生まれたマウスをテールプロット分析(Hoganら、前記を参照)によりスクリーンした。遺伝子導入陽性動物を放射性標識化プライマリー細胞、例えば繊維芽細胞の免疫沈殿により、gag−polタンパク質の発現レベルについて特徴付けした(Harlowら、Antibodies:A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor、1988を参照のこと)。次に動物を、特徴的なレベルのgag−polを提供する動物系の確立のため、ホモ接合度のために繁殖せしめた。
【0298】
実施例11
遺伝子導入動物における偏在的発現のためのハウスキーピングプロモーターを用いるenvタンパク質/ハイブリドエンペローブタンパク質の製造
本例は、エンベロープ又はパイプリドエンベロープタンパク質いずれかの発現のためのHPRTプロモーターを利用する。このエンベロープタンパク質は関連するgag−polを補完できる任意のウイルスに由来でき、この場合においてはMLVのそれである。例はエコトロピックMLV、両性親和性MLV、異種親和性MLV、ポリ親和性MLV又はハイブリドエンベロープである。前記の通り、このエンベロープ遺伝子を組換DNA技術(Maniatisら、前記を参照のこと)を利用してHPRTプロモーターの後にクローンせしめることができる。得られる「ミニ遺伝子」を単離し(Hoganら、前記を参照のこと)、そしてエンベロープタンパク質の発現性を調べた(Harlowら、前記)。この遺伝子導入エンベロープ動物を、よく特徴付けられたエンベロープ動物の確立のため、ホモ接合度のために繁殖せしめた。
【0299】
実施例12
遺伝子導入動物における偏在的発現のためのハウスキーピングプロモーターを利用するgag−pol−env動物の製造
これはよく特徴付けられているgag−pol動物及び永久gag−pol/エンベロープ動物系の確立のための動物を利用する。これはホモ接合度のための繁殖及びよく特徴付けられた系の確立を含む。従ってこれらの系は、組織培養においてベクターをパッケージングするために利用できるプライマリーマウス胚芽系の確立のために利用されうる。更に、このレトロウイルスベクターを含む動物をこの系の中に繁殖せしめた。
【0300】
実施例13
遺伝子導入動物におけるgag−pol−env又はハイブリドエンベロープの組織特異的発現の提供
本例は、特定の組織、例えばT−細胞におけるgag/pol、エンベロープ又はハイブリドエンベロープの高レベル発現を例示する。これはCD2配列(Langら、EMBOJ.7:1675−1682、1988)であって位置及びコピー数を独立して付与するものを利用する。CD2遺伝子由来の1.5kbのBamHI/HindIIIフラグメントを組換DNA技術を利用して、gag−pol、エンベロープ又はハイブリドエンベロープフラグメントの前に挿入せしめた。これらの遺伝子をマイクロ注射によって受精マウス卵巣に挿入した。遺伝子導入動物は前記の通りに特徴付けた。T細胞における発現が確立され、そして遺伝子導入動物のよく特徴付けられた系を確立せしめるため、ホモ接合度のために繁殖させた。gag−pol動物はエンベロープ動物と適合し、T細胞においてのみ発現されるgag−pol−env動物が確立された。これらの動物のT−細胞は従ってレトロウイルスベクターのパッケージング可能なT−細胞の起源である。再び、このベクターを発現せしめるT−細胞を確立するために、ベクター動物をこれらgag−pol−env動物の中にて繁殖せしめることができる。
【0301】
この技術はその他の組織−特異的プロモーター、例えば牛乳−特異的(乳漿)、膵臓(インスリンもしくはエラスターゼ)、又はニコーロン(ミエリンベースタンパク質)プロモーターの利用を可能にする。プロモーター例えば牛乳−特異的プロモーターの利用を介して、組換レトロウイルスはその子孫の生物流体から直接単離されうる。
【0302】
実施例14
遺伝子導入動物におけるハウスキーピング又は組織−特異的レトロウイルスベクターのいずれかの製造
遺伝子導入動物の生殖細胞系へのレトロウイルス又はレトロウイルスベクターの挿入はわずか又は全く発現をもたらさない。Jaenisch(Jahnerら、Nature 298:623−628、1982)により詳細のこの作用は、5’レトロウイルスLTR配列のメチル化に起因する。この技術は、レトロウイルスベクター/レトロウイルスを発現せしめるためのハウスキーピング又は組織−特異的プロモーターいずれかの置換によって、このメチル化作用を解決するであろう。エンハンサー要素を合む5’LTRのU3領域を、ハウスキーピング又は組織−特異的プロモーター由来の制御配列により置換せしめた(図20参照)。3’LTRは完全に保持され、それはウイルスRNAのポリアデニル化及び一体化に必要な配列を含む。レトロウイルス複製の固有の特徴の結果として、この一体化プロウイルスの5’LTRのU3領域は感染ウイルスの3’LTRのU3領域により発生される。従って、3’は必要であるが、5’U3は除去可能である。プロモーターとの5’LTRU3配列の置換及び遺伝子導入動物の生殖細胞系への挿入は、レトロウイルスベクター転写を提供できる動物の系をもたらす。これらの動物は従ってgag−pol−env動物と適合でき、レトロウイルス提供動物を発生せしめる(図22参照)。
【0303】
本発明の特定の態様を詳細してきたが、それらは例示のためであって本発明の範囲を限定することは意図しない。従って本発明は添付する特許請求の範囲によってのみ限定される。
【図面の簡単な説明】
【0304】
【図1】図1は、HIV envを製造するために利用する3種のベクターを図解し、そしてそれらは挿入された選別を可能とするSV−Neoカセットを有すか有さない。
【図2】図2は、示すベクターにより感染されたヒトSupT1細胞の抽出物の、HIV env−特異的放射性免疫沈殿物のポリアクリルアミド電気泳動において見られるHIV env発現性レベルを図示する一。マーカーはキロダルトン単位であり、gp160及びgp120は適切なタンパク質を示し、そして517+tatは陽性コントロールである(tatの存在下においてenvを作動せしめるHIV LTR)。
【図3】図3は、HIV envを発現する同系の腫瘍細胞の注入されたマウスにおいて誘発されるT−細胞殺傷を試験するプロトコールを示す(このベクターはpAF/Envr/SV2neoである)。
【図4A】図4Aは図3における実験方法の結果を図解する。特異的な殺傷は、上方のグラフにおける殺傷されるBC10MEenv−29に見られ、しかしHIV env−発現性の欠損するB/C10MEコントロール細胞では見られなかった。
【図4B】図4BはHIVエンベロープ抗原に対するCTLの特異性を示す。
【図4C】図4Cは、図3の実験方法において発生するエフェクター細胞集団の表現型を示す。このエフェクター細胞集団はL3T4− lyt2+(CD4− CD8+)Tリンパ球のそれである。
【図4D】図4Dは、Balb/c抗−BcenvCTL応答のためのMHC制限要件を示す。
【図4E】図4Eは、CTLが照射を受けた非増殖スチムレーター細胞により、インビボで誘発されることを示す。
【図4F】図4Fは、BCenvスチムレーター細胞によるBalb/cマウスの免疫の、投与量−応答性の関係を示す。
【図4G】図4Gは、BCenv標的細胞に対する、異なるH−2dマウス種及びF1ハイブリドマウスのCTL応答性の発生を示す。
【図4H】図4Hは、ウイルスのHIVIIIB株のエンベロープに(B/C10MEenv)に対して誘発されたCTLが、HIV env−発現性標的細胞、及び非−標的B/C10ME細胞(BC)であってもしそれらがウイルス(RP135)のHIVIIIB株に類似のペプチドにより被覆されているならば殺傷されることを示す。この結果は、これらCTLが交差反応して、HIVのMN株のエンベロープ(RP142)と類似のペプチドにより被覆されたいくつかの細胞を殺傷せしめることも示す。
【図4I】図4Iは、組換ベクター構造体であってそのサイトメガロウイルス(CMV)プロモーターがHIVIIIbエンベロープの一過性発現をもたらすものを有するプラスミドDNAにより感染せしめたBC細胞107個の腹膜腔内注射の後の、HIVエンベロープ特異性ネズミCTL(Env−特異的−CTL)の誘発を示す。これは、HIV envを一過性発現せしめるBCpCMVenvIIIb標的細胞(BCpCMVenvIIIb標的)及びクローン化安定−HIV env発現性BC29標的細胞(BC29標的)を特異的に殺傷せしめるが、非感染化BC細胞(BC10ME標的)は殺傷せしめないCTLの特異性により証明される。
【図4J】図4Jは、Cmv又はRSV−LTRプロモーターのコントロール下でそれぞれH2−Ddをコード化するCMVH2−Dd又はRSV−Ddの導入により、利用する2日前に感染せしめたネズミBC標的細胞が、Balb−c細胞(H2−Dd)に免疫化されたC57BL16幽閉CTL(C57BL16muring CTL)により殺傷される標的細胞として働くことを示す。
【図4K】図4Kは、図3のそれと類似の実験プロトコールの結果を図示し、ここでは、マウスはHIVを発現する細胞の代りにgag/pol(BC−1−16H)又はgag/prot(BC−1)を発現する細胞を注射されている。gag/pol又はgag/prot免疫化マウスに由来するCTLはそれぞれの標的細胞、BC−1又はBC−1−16H標的細胞のそれぞれを殺傷せしめたが、B/C10ME細胞は殺傷せしめなかった。
【図4L】図4Lは、gag/polスチムレーター細胞(BC−1−15H;1−15Hと表示)により誘発されるCTLがgag/pol(1−15H)及びgag/prot(BC−1)標的細胞の両方を殺傷せしめることを示す。
【図4M】図4Mは、gag/protスチムレーター細胞(BC−1)により誘発されるCTLが、gag/prot(BC−1)及びgag/pol(1−15H)標的細胞の両方を殺傷せしめることを示す。
【図4N】図4Nは、腹膜腔内注射(I.P.)又は筋肉内注射(I.M.)による二通り(2X)のHIVコード化レトロウイルスの直接注射が、BC10MEenv−29細胞は殺傷するがB/C10MEコントロール細胞(BC)は殺傷しない特異的な殺傷の可能なCTLの発生を刺激せしめた。
【図4O】図4Oはヒト提供者#99PBLのインビトロ免疫を示す。これは99−EBV−HIV env標的細胞は殺傷するが陰性コントロール自己細胞、即ち、PBLにより刺激された99−PHA(99PHA芽細胞)は殺傷しないCTLの誘発を及ぼすために、HIV envをコード化する組換レトロウイルスベクター(99−EBL−HIV env)によりインビトロ感染された提供者#99(99−EBV)由来の自己EBV−形質転換スチムレーター細胞を利用している。提供者#99はEBVに対する天然免疫を発現し、これは陽性コントロール99−EBV標的細胞の低レベル殺傷により証明される。
【図4P】図4Pは、ネズミMHCH2−Dd及びHIV env抗原(HT1080+Dd+env)の両方により感染されたヒトHT1080細胞が、両方の遺伝子生成物を機能的活性型において発現することを示す。これはHIV env−免疫ネズミCTLによるこれらの細胞溶解によって証明される。これらHIV env免疫CTLはコントロールHT1080(HT1080)細胞又はH2−Dd発現BC細胞(BC−Dd)のいずれの有意な溶解を引き起こさなかった。
【図4Q】図4Qは、HIVエンベロープタンパク質発現性BC細胞(BCenvIIIb)及びRP135「V3ループ」(「ループ」)合成ペプチドにより被覆されたBC細胞の、HIV env−免疫CTLによる溶解をパネルAにおいて示し;パネルBにおいては、「ループレス」BCenvΔV3細胞により免疫されたCTLによる、gp120超可変性エンベロープループ(即ち、ループレス)を欠くBCenvΔV3細胞の溶解を示す。「ループレス」BCenvΔV3により免疫されたCTLは特異的、即ち、それらはHIVenvを欠くBC細胞を溶解せず(BC)、そしてそれらは「ループ」RP135ペプチドにより被覆された細胞を溶解しなかった(BC−RP135)。
【図4R】図4Rは、パネルAにおいて、BCenvIIIb29−免疫ネズミCTLによる、組換HIV env遺伝子由来の短いエンベロープタンパク質を発現するBC細胞(BCpcmvチャンク1標的;「チャンク1」と称す(実施例1F2を参照))、及びHIVenvIIIb発現性のクローン化、感染化BC細胞(BCenvIIIb29標的)の特異的溶解も;そしてパネルBにおいて、BCpCMVチャンク1標的細胞及びBCenvIIIb−14H標的細胞を特異的に殺傷し、非感染化IBC細胞(BC10ME標的)を殺傷しない、BCpCMVチャンク1細胞により免疫されたマウスにおける免疫CTLの誘発を示す。
【図5】図5はsCD4を発現するようデザインされたベクターを示す。
【図6】図6は、ベクターTK1(SV−Neoを伴わず)及びTK3(十SV−Neo)を有すプラスミドの作製を示す。
【図7】図7はベクターKTVIHAXを有すプラスミドの作製を示す。
【図8】図8はベクターKTVIH5(SV−Neoを伴わず)及びKTVIHNeo(SV−Neoを伴う)を有すプラスミドの作製を示す。
【図9】図9はベクターMHMTK−Neoを有すプラスミドの作製を示す。
【図9−1】図9−1はベクターMHMTK−Neoを有すプラスミドの作製を示す。
【図10】図10はベクターRRKTVIHを有すプラスミドの作製を示す。
【図11】図11はtat−his(tatは正常な方向)又はαtat(tatがアンチセンス方向)ベクターを有すプラスミドの作製を示す。
【図12】図12は、示した3種の条件的致死性ベクターの感染及びアシクロビル(ACV)の処理に基づく、コントロールPA317と比較した、tathisベクター(5種のクローン、TH1〜5)により感染せしめたPA317細胞の優先的殺傷を示す。
【図13】図13はベクター4TVIHAXを有すプラスミドの作成を示す。
【図14】図14はHIV誘発性マーカー/リポーター遺伝子、例えばアルカリホスファターゼ(AP)を有すウイルスベクターの作製を示す。
【図15】図15は細胞の中に導入されうるプラスミド上に保有されるHIV誘発性マーカー/リポーター遺伝子の構造を示す。
【図16】図16は、図15におけるAPマーカーを有すSupT1細胞とHIVの、種々のAZT濃度でのHIV感染の経時変化を示す。HIV感染のレベルは上清液と少量のアリコートを採取することにより測定した。
【図17】図17は図16と同様実験であるが、但しHIV阻害剤としてddCを用い結果を示す。
【図18】図18は、プロモーターから直接フレモイシン(phlemoycin)耐性遺伝子(PRG)を発現せしめるプラスミド(右側、実線)、及びPRGを発現する他のプラスミドであってそのコード配列がそれとプロモーターの間にて干渉されているもの(左側、点線)による、細胞のトランスフェクションに基づく、フレオマイシン選別後の生存細胞数を図示する。
【図19】図19は哺乳細胞においてレトロウイルスタンパク質を発現するようにデザインされた4種のプラスミドを示す。pSVgp及びpRSVenvは選別可能マーカーを共導入され、pSVgp−DHFR及びpRSVenv−phleoはウイルスタンパク質−コード化領域の下流に位置する選別可能マーカーを有す同等なプラスミドである。
【図20】図20は、位置−特異的突然変異誘発後のHIV env反びMoMLVenvの3ケ所融合を示す。トランスメンブラン領域の細胞外境界での接点をAと示し、B及びCはトランスメンブラン領域及び細胞質境界それぞれの中央の位置を示す。番号はヌクレオチド番号に相当する(RNA Tumor Viruses,Vol.II.Cold Spring Harbor、1985)。ST,SR,SEはtat,rev及びenvの起点であり、TT,TR及びTEはそれぞれの停止部位である。
【図21】図21は、5’LTRにおけるU3の、SacI,BsshII又はこの領域におけるその他の部位と融合可能な異種プロモーター/エンハンサーによる置換を示す。
【図22】図22は、ウイルスタンパク質又はベクターRNAを発現する遺伝子導入マウスの交配についての代表的な方法を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベクター構造体を保有する複製欠陥組換レトロウイルスであって、該ベクター構造体が、該レトロウイルスによって感染された細胞中において、病原性物質の機能を阻害できる緩和剤の発現をもたらすことを特徴とする、上記複製欠陥組換レトロウイルス。
【請求項2】
前記病原性物質が、ウイルス性感染症、癌及び免疫異常により引き起こされる疾病からなる群から選択される疾病に必要である、請求項1に記載の複製欠陥組換レトロウイルス。
【請求項3】
前記緩和剤が、
(a) アンチセンスRNA、
(b) 病原性状態の発現を妨害する、病原性タンパク質に類似する突然変異タンパク質、
(c) 不活性な先駆体を活性化せしめるタンパク質、
(d) 欠陥干渉構造タンパク質、
(e) ウイルスプロテアーゼもしくは酵素のペプチド阻害剤、
(f) 腫瘍サプレッサー遺伝子、及び
(g) 病原性状態に関連するRNA分子を特異的に切断及び分解できるRNAリボザイム、
からなる群から選択される阻害緩和剤である、請求項1又は2に記載の複製欠陥組換レトロウイルス。
【請求項4】
前記緩和剤が、
(a) 細胞周期−特異性プロモーター、組織特異的プロモーター又はその両方のコントロール下の毒性遺伝子生成物、
(b) 条件的に発現し、そしてそれ自体は毒性ではないが標的細胞内で非毒素先駆体を活性化毒素型へと化合物又は薬剤をプロセスせしめる遺伝子生成物、
(c) それ自体は毒性ではないが、ウイルス性又はその他の病原体に対して特異的なプロテアーゼなどのタンパク質によって処理された場合に毒素型へと変換する遺伝子生成物、
(d) 免疫毒素などによる攻撃に対して病原性細胞を識別する細胞表層上の条件的に発現されるリポーター遺伝子生成物、
(e) 細胞外因子との相互作用による毒性効果をもたらす、細胞表層上の条件的に発現される遺伝子生成物、
(f) 生存のために重要なRNA分子に特異的な条件的に発現されるリボザイム、
からなる群から選択される、条件により毒性の緩和剤である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の複製欠陥組換レトロウイルス。
【請求項5】
望ましくない又は有害な免疫応答を削減又は削除するための医薬の製造における、請求項1〜4のいずれか1項に記載の複製欠陥組換レトロウイルスの使用。
【請求項6】
前記医薬が、慢性肝炎又は異種組織の移植において使用するためのものである、請求項5に記載の使用。
【請求項1】
ベクター構造体を保有する複製欠陥組換レトロウイルスであって、該ベクター構造体が、該レトロウイルスによって感染された細胞中において、病原性物質の機能を阻害できる緩和剤の発現をもたらすことを特徴とする、上記複製欠陥組換レトロウイルス。
【請求項2】
前記病原性物質が、ウイルス性感染症、癌及び免疫異常により引き起こされる疾病からなる群から選択される疾病に必要である、請求項1に記載の複製欠陥組換レトロウイルス。
【請求項3】
前記緩和剤が、
(a) アンチセンスRNA、
(b) 病原性状態の発現を妨害する、病原性タンパク質に類似する突然変異タンパク質、
(c) 不活性な先駆体を活性化せしめるタンパク質、
(d) 欠陥干渉構造タンパク質、
(e) ウイルスプロテアーゼもしくは酵素のペプチド阻害剤、
(f) 腫瘍サプレッサー遺伝子、及び
(g) 病原性状態に関連するRNA分子を特異的に切断及び分解できるRNAリボザイム、
からなる群から選択される阻害緩和剤である、請求項1又は2に記載の複製欠陥組換レトロウイルス。
【請求項4】
前記緩和剤が、
(a) 細胞周期−特異性プロモーター、組織特異的プロモーター又はその両方のコントロール下の毒性遺伝子生成物、
(b) 条件的に発現し、そしてそれ自体は毒性ではないが標的細胞内で非毒素先駆体を活性化毒素型へと化合物又は薬剤をプロセスせしめる遺伝子生成物、
(c) それ自体は毒性ではないが、ウイルス性又はその他の病原体に対して特異的なプロテアーゼなどのタンパク質によって処理された場合に毒素型へと変換する遺伝子生成物、
(d) 免疫毒素などによる攻撃に対して病原性細胞を識別する細胞表層上の条件的に発現されるリポーター遺伝子生成物、
(e) 細胞外因子との相互作用による毒性効果をもたらす、細胞表層上の条件的に発現される遺伝子生成物、
(f) 生存のために重要なRNA分子に特異的な条件的に発現されるリボザイム、
からなる群から選択される、条件により毒性の緩和剤である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の複製欠陥組換レトロウイルス。
【請求項5】
望ましくない又は有害な免疫応答を削減又は削除するための医薬の製造における、請求項1〜4のいずれか1項に記載の複製欠陥組換レトロウイルスの使用。
【請求項6】
前記医薬が、慢性肝炎又は異種組織の移植において使用するためのものである、請求項5に記載の使用。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図4D】
【図4E】
【図4F】
【図4G】
【図4H】
【図4I】
【図4J】
【図4K】
【図4L】
【図4M】
【図4N】
【図4O】
【図4P】
【図4Q】
【図4R】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図9−1】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図4D】
【図4E】
【図4F】
【図4G】
【図4H】
【図4I】
【図4J】
【図4K】
【図4L】
【図4M】
【図4N】
【図4O】
【図4P】
【図4Q】
【図4R】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図9−1】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【公開番号】特開2008−29348(P2008−29348A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−231397(P2007−231397)
【出願日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【分割の表示】特願平2−511914の分割
【原出願日】平成2年8月17日(1990.8.17)
【出願人】(306034996)オックスフォード バイオメディカ(ユーケー)リミテッド (8)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【分割の表示】特願平2−511914の分割
【原出願日】平成2年8月17日(1990.8.17)
【出願人】(306034996)オックスフォード バイオメディカ(ユーケー)リミテッド (8)
【Fターム(参考)】
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