説明

模様入り結晶化ガラス物品およびその製造方法

【課題】透光性に富み、かつ実用強度、外観として高級感のある新規な模様入り結晶化ガラス物品と、その製造方法を提供する。
【解決手段】模様入り結晶化ガラス物品10は、結晶化ガラスよりなる成形体中に透光性の非晶質ガラスよりなる複数の透光領域10bが分散埋設された模様入り結晶化ガラス物品であって、粘度が10Pa・sとなる結晶化ガラスの温度と、非晶質ガラスが同一粘度となる温度との温度差が100℃以内であり、透光領域の厚さ1mmにおける可視光平均透過率が10%以上である。模様入り結晶化ガラス物品10の製造方法は、結晶性ガラス小体と、結晶性ガラス体が結晶化した後の結晶化ガラスとの30〜380℃における線膨張係数差が10×10−7/K以下である非晶質ガラス体を、耐火性容器に充填して加熱し、互いに融着させつつ結晶析出させ、模様入り結晶化ガラス物品を成形する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物の内外装材及び装飾材に好適な模様入り結晶化ガラス物品と、その製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年のガラスの建材の動向として、柔らかい光を透過させる建材が流行りである。従来の結晶化ガラス建材は、壁材としての使用例が多く、光を透過させることを目的としていなかったため、結晶化ガラスのみで構成した結晶化ガラス建材が主流であった。
【0003】
透光部を有する結晶化ガラス建材としては、例えば、特許文献1には、非結晶性のガラス小片を埋め込んだ結晶化ガラス物品とその製造方法が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、透明部分と不透明部分が混在する模様付き結晶化ガラスとその製造方法が開示されている。
【0005】
さらに、本出願人による特許文献3〜5には、同時に熱処理すると結晶析出量が異なる2種類の結晶化ガラスを用いて結晶析出量が少ない透明部分と結晶析出量が多い不透明部分が混在する模様付き結晶化ガラスと、その製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭62−030630号公報
【特許文献2】特開平4−042827号公報
【特許文献3】特開平5−163033号公報
【特許文献4】特開平5−163034号公報
【特許文献5】特開平5−163035号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の従来の結晶化ガラス物品では、非結晶性のガラス小片と結晶化ガラスとの膨張係数が考慮されておらず、破損する問題があった。
【0008】
また、特許文献2に記載の模様付き結晶化ガラスでは、普通ガラスと結晶化ガラスとの線膨張係数の差を、両者の中間の線膨張係数を有する薄層をガラス粒・粉状体に被覆する開示があるが、製造コストが著しく高額となり、また介在する薄層の滑り現象により強度が不足するという問題があった。
【0009】
また、特許文献3〜5に記載の模様付き結晶化ガラスでは、透光性の結晶化ガラス部位は乳白色となり可視光透過率が低く、特に透過照明を用いた際には模様があまり明確に現れないという問題があった。
【0010】
本発明の課題は、内外装建材としての装飾性、間接照明等に好適な適度な透光性と実用強度とを兼ね備えた模様入り結晶化ガラス物品及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記技術的課題を解決するためになされた本発明に係る模様入り結晶化ガラス物品は、表面から内部に向かって針状の結晶が析出した複数の結晶化ガラス小領域が互いに融着している成形体中に、透光性の非晶質ガラスよりなる複数の透光領域が埋設された模様入り結晶化ガラス物品であって、前記結晶化ガラスの粘度が10Pa・sとなる温度と、前記非晶質ガラスが前記粘度と同一となる温度との温度差が100℃以内であり、かつ前記透光領域の厚さ1mmにおける可視光平均透過率が10%以上であることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る模様入り結晶化ガラス物品の製造方法は、結晶性ガラス小体と、該結晶性ガラス小体が結晶化した後の結晶化ガラスとの30〜380℃における線膨張係数差が10×10−7/K以下であり、かつ、粘度が10Pa・sとなる前記結晶化ガラスの温度との温度差が100℃以内である透光性の非晶質ガラス体とを、耐火性容器に充填して加熱して、互いに融着させつつ、結晶性ガラス小体の表面から内部に向けて針状結晶を析出させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
上記本発明の模様入り結晶化ガラス物品は、結晶化ガラスの粘度が10Pa・sとなる温度と、非晶質ガラスが前記粘度と同一となる温度との温度差が100℃以内であり、透光領域の厚さ1mmにおける可視光平均透過率が10%以上であるので、内外装建材としての装飾性、間接照明等に好適な適度な透光性と実用強度とを兼ね備えた新たな結晶化ガラス建材を提供することができる。
【0014】
本発明の模様入り結晶化ガラス物品の製造方法は、結晶性ガラス小体と、この結晶性ガラス小体が結晶化した後の結晶化ガラスとの30〜380℃における線膨張係数差が10×10−7/K以下であり、かつ、粘度が10Pa・sとなる前記結晶化ガラスの温度との温度差が100℃以内である透光性の非晶質ガラス体とを、耐火性容器に充填して加熱して、互いに融着させつつ、結晶性ガラス小体の表面から内部に向けて針状結晶を析出させるので、上記本発明の新たな模様入り結晶化ガラス物品を効率よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の模様入り結晶化ガラス物品の写真であって、(a)は通常照明下の写真、(b)は裏面側中央に照明を置いた透過光による写真。
【図2】本発明の模様入り結晶化ガラス物品を製造する方法の説明図。
【図3】本発明の他の模様入り結晶化ガラス物品の説明図。
【図4】本発明の他の模様入り結晶化ガラス物品を製造する方法の説明図であって、(a)は耐火容器に、結晶性ガラス小体を充填し、その上に非晶質ガラスの薄板を配置した説明図、(b)は耐火容器に、結晶性ガラス小体を充填し、その内部に非晶質ガラスの薄板を配置した説明図、(c)は結晶性ガラス小体と非晶質ガラス小体の混合物を充填し、その上に非晶質ガラスの薄板を配置した説明図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、表面から内部に向かって針状の結晶が析出した複数の結晶化ガラス小領域が互いに融着している成形体中に、透光性の非晶質ガラスよりなる複数の透光領域が埋設され、その結晶化ガラスの粘度が10Pa・sとなる温度と、非晶質ガラスの粘度が10Pa・sとなる温度との温度差が100℃以内であり、かつ前記透光領域の厚さ1mmにおける可視光平均透過率が10%以上である本発明の模様入り結晶化ガラス物品の実施形態について説明する。
【0017】
模様入り結晶化ガラス物品で、成形体を形成する結晶化ガラスの粘度が10Pa・sとなる温度と、非晶質ガラスの粘度が10Pa・sとなる温度との温度差が100℃を超えると、模様入り結晶化ガラス物品の意匠面に、突起又は発泡を生じて外観が損なわれる。本発明の模様入り結晶化ガラス物品を構成する結晶化ガラス及び非晶質ガラスとしては、結晶化ガラスと非晶質ガラスの粘度が10Pa・sとなる温度の温度差が100℃以内であることが重要である。
【0018】
本発明の模様入り結晶化ガラス物品で、結晶化ガラスよりなる成形体中に埋設された透光性の非晶質ガラスよりなる複数の透光領域としては、アルミノ珪酸塩ガラス、ホウ珪酸ガラス等のうち30〜380℃における線膨張係数が、比較的結晶化ガラスの線膨張係数に近い非晶質ガラスからなり、結晶化ガラスよりも十分に透明なものであれば使用可能である。また、透光領域の厚さ1mmにおける可視光平均透過率が10%未満であると、光が十分に透過せず、自然光や照明を用いた壁面等の演出が不十分なものになる。
【0019】
本発明の模様入り結晶化ガラス物品は、ASTM C158−2007に基づいた4点支持曲げ試験において、寸法50mm×250mm×厚さ15mmの試験体における曲げ強度が200Kg/cm以上であることが好ましい。なお、単位Kg/cmはkgf/cmと同じ意味である。
【0020】
模様入り結晶化ガラス物品の曲げ強度が200Kg/cm未満であると、施工後に負荷がかかった場合に破損する虞があるため、施工面積を小さくする必要が生じて商品価値がなくなる。
【0021】
また、本発明の模様入り結晶化ガラス物品は、前記結晶化ガラスと前記非晶質ガラスとの30〜380℃における線膨張係数の差が、10×10−7/K以下であることが好ましい。
【0022】
結晶化ガラスと非晶質ガラスとの線膨張係数の差が10×10−7/Kを超えると、結晶化ガラスと非晶質ガラスとの界面に、クラックが生じて強度が不足する。また、模様入り結晶化ガラス物品の温度が変化した際に、結晶化ガラスと非晶質ガラスとの境目からクラックが進行し、やがて破損に至ることになる。
【0023】
また、本発明の模様入り結晶化ガラス物品は、前記非晶質ガラスの質量割合が、10〜60%であることが好ましい。
【0024】
非晶質ガラスの質量割合が10%未満であると、透光性及び装飾性に乏しいものとなる。一方、非晶質ガラスの質量割合が60%を超えると、非晶質ガラスよりなる複数の小領域が繋がって、結晶化ガラスの連続領域が分断され、模様入り結晶化ガラス物品の強度が低下する。
【0025】
また、本発明の模様入り結晶化ガラス物品は、前記非晶質ガラスが、質量百分率表示でSiO 65〜80%、Al 2〜8%、B 10〜15%、CaO 0〜3%、BaO 0〜5%、ZnO 0〜2%、NaO 0〜7% KO 0〜3%の組成を含有するB−SiO系ガラスからなることが高い化学的耐久性を実現することができるので、好ましい。さらに上記の結晶化ガラスとの膨張係数差を調整するにも好ましく、軟化したガラスの粘性的にも調整しやすいために所望の模様も得やすい。
【0026】
本発明において、非晶質ガラスの各成分の含有量を限定した理由を以下に述べる。
【0027】
SiOはガラスのネットワークを形成する成分であり、その含有量が80%より多いとガラスの溶融温度が高くなるとともに、粘度が増大して熱処理時の流動性が悪くなる。一方、65%より少ないとアルカリ溶出量が多くなるとともに、耐薬品性や耐熱性が低くなって耐熱性が悪化する。本発明ではSiOの含有量は70〜73%がさらに好適である。
【0028】
Alはガラスの耐熱性、耐失透性を高める成分であり、その含有量が8%より多いとガラスの溶解性が悪くなり、2%より少ないと失透温度が著しく上昇して溶融ガラス中に失透が生じ易くなり、またガラスのアルカリ溶出量が多くなり化学的耐久性も低下する。本発明ではAlの含有量は5〜7%がさらに好適である。
【0029】
はガラスの線膨張係数を変化させずに溶融ガラスの粘性を低下させる成分であり、その含有量が15%より多いと耐酸性や耐熱性が悪化する。一方、10%より少ないと融剤としての効果が不十分となる。本発明ではBの含有量は11〜14%がさらに好適である。
【0030】
CaO、BaO及びZnOはともに高温域の粘度を下げてガラスの溶融を容易にする成分であり、CaOが3%、BaOが5%、ZnOが2%よりも多いと高温粘度が低下しすぎて相対的に液相粘度が低くなるため結晶が析出し易くなり、成型温度が著しく制限される。本発明ではCaOの含有量は0.5〜1%、BaOは1〜2%がさらに好適である。
【0031】
NaOは溶融ガラスの粘性を低下させるアルカリ成分であり、その含有量が7%よりも多いと化学的耐久性が悪くなり、線膨張係数が高くなる傾向になるために建材として好ましくない。一方、5%より少ないと溶融ガラスの粘性が増大して溶解性や流動性が悪くなる傾向になるので、本発明ではNaOの含有量は5〜7%がさらに好適である。
【0032】
Oは溶融ガラスの粘性を低下させるアルカリ成分であり、その含有量が3%より多いとガラスのアルカリ溶出量が多くなり化学的耐久性が低下する傾向になる。一方、1%より少ないとガラスの溶融性が悪くなる傾向になるので、本発明ではKOの含有量は1〜3%がさらに好適である。
【0033】
清澄剤として機能するSbを使用する場合、0.01%未満では清澄効果が低下するので、0.01〜0.05%が適量である。また、1%を超える使用は環境上好ましくない。
【0034】
また、本発明の模様入り結晶化ガラス物品は、前記結晶化ガラスが、質量百分率表示でSiO 45〜75%、Al 1〜25%、CaO 2〜25%、ZnO 0〜18%、BaO 0〜20%、MgO 0〜1.5%、SrO 0〜1.5%、NaO 1〜25% KO 0〜7%、LiO 0〜5%、B 0〜1.5%、CeO 0〜0.5%、SO 0〜0.5%、As 0〜1%、Sb 0〜1%、着色酸化物0〜3%の組成を含有し、主結晶としてβ−ウォラストナイトの針状結晶を析出してなるものであることが好ましい。また、この組成を有する結晶性ガラス小体に、着色酸化物として3%未満の無機着色剤等を添加することも可能である。
【0035】
本発明において、結晶化ガラスの各成分の含有量を限定した理由を以下に述べる。
【0036】
SiOはβ−ウォラストナイトの成分であり、その含有量が75%より多いとガラスの溶融温度が高くなるとともに、粘度が増大して熱処理時の流動性が悪くなる。一方、45%より少ないと成型時の失透性が強くなる。また、本発明ではSiOの含有量は59〜63%がさらに好適である。
【0037】
Alは失透を抑制する成分であり、その含有量が25%より多いとガラスの溶解性が悪くなるとともに異種結晶(アノーサイト)が析出し熱処理時の流動性が悪くなる。一方、1%より少ないと失透性が強くなり化学的耐久性も低下する。また、本発明ではAlの含有量は6〜7%がさらに好適である。
【0038】
CaOはβ−ウォラストナイトの成分であり、その含有量が25%よりも多いと失透性が強くなり成形が困難となり、又β−ウォラストナイトの析出量が多くなり過ぎて所望の表面平滑性が得難くなる。一方、2%より少ないとβ−ウォラストナイトの析出量が少なくなり過ぎて機械的強度が低下する。また、本発明ではCaOの含有量は14〜18%がさらに好適である。
【0039】
ZnOは結晶化時のガラスの流動性を促進するために添加する成分であり、その含有量が18%より多いと、β−ウォラストナイトが析出し難くなって所望の特性が得られなくなる。また、本発明ではZnOを使用する場合には、その含有量は5〜7%がさらに好適である。
【0040】
BaOも結晶化時のガラスの流動性を促進するために添加する成分であり、含有量が20%より多いとβ−ウォラストナイトの析出量が少なくなる。また、本発明ではBaOの含有量は4〜5%がさらに好適である。
【0041】
MgOはガラスの溶解性や流動性を促進させる成分であるが、3%より多くなると異種結晶を析出するため、流動性を阻害し、特性上も好ましくない。
【0042】
SrOはガラスの溶解性や流動性を促進させる成分であり、5%より多くなると異種結晶を析出するため、流動性を阻害し、特性上も好ましくない。
【0043】
NaOは溶融ガラスの粘性を低下させるアルカリ成分であり、その含有量が25%よりも多いと化学的耐久性が悪くなり、膨張係数が高くなるために建材として好ましくない。1%より少ないとガラスの粘性が増大して溶解性や流動性が悪くなる。また、本発明ではNaOの含有量は3〜4%がさらに好適である。
【0044】
Oは溶融ガラスの粘性を低下させるアルカリ成分であり、その含有量が7%より多いと化学的耐久性が低下する。また、本発明ではKOの含有量は2〜3%がさらに好適である。
【0045】
LiOは結晶化速度を速める効果と流動性を促進する効果がある成分であり、その含有量が5%より多いと、線膨張係数が大きくなり、化学的耐久性が低下し、粘性も低下する。ZnOを使用しない場合には、LiO粘性の低下は熱処理工程において発泡を生じやすくなる。本発明ではLiOを使用する場合には、その含有量は0.1〜3%がさらに好適である。
【0046】
はガラスの線膨張係数を変化させずに溶融ガラスの粘性を低下させる成分であり、その含有量が1.5%より多いと異種結晶が析出し、所望の特性が得られなくなる。また、本発明ではBの含有量は0.3〜1.0%がさらに好適である。
【0047】
CeOは清澄剤としてのAs又はSbの添加が環境上好ましくないことから、As又はSbの何れかあるいはそれらの合量としての含有量が0.1%以下の場合における結晶化ガラスの白色度の急減を抑制するために使用する成分であり、CeOの含有量は0〜0.5%、好ましくは0.05〜0.3%である。さらにCeOは、還元雰囲気溶融において不純物として含有するFeによるFe2+の発色を抑制し、特にSO(三酸化硫黄)と共存する場合には発色抑制効果が顕著に現れる。CeOが0.5%より多いとCe4+による褐色の着色が強く現れるようになる。
【0048】
SOは清澄剤として機能する成分であり、その含有量は0〜0.5%、好ましくは0.02〜0.3%である。SOが0.5%より多いと異種結晶が析出する。
【0049】
清澄剤として機能するAsまたはSbを使用する場合、0.1%未満では清澄効果が低下するので、0.2〜0.4%が適量ではあるが、1%を超える使用は環境上好ましくない。
【0050】
また、本発明の模様入り結晶化ガラス物品は、前記非晶質ガラスの透光領域の少なくとも一部が、外接円直径が30〜100mmであることが好ましい。このような大きさの非晶質ガラスによる透光領域としては、模様として認識される形状であればよいが、外接円直径が30mm未満では建材等の明確な大柄模様として認識し難い。一方、外接円直径が100mmを超えると、融着不足による曲げ強度低下等の問題が生じる虞がある。また上記の曲げ強度を確保する上で、30〜100mmの透光領域は、成形体を貫通しない薄板状であることが好ましく、各透光領域が互いに連通していないことがさらに好ましい。
【0051】
このような外接円直径が30〜100mmである透光領域が形成された模様入り結晶化ガラス物品によれば、任意の大柄な透光模様による光の演出が可能となる。
【0052】
次に、結晶性ガラス小体と、該結晶性ガラス小体が結晶化した後の結晶化ガラスとの30〜380℃における線膨張係数差が10×10−7/K以下であり、かつ、粘度が10Pa・sとなる前記結晶化ガラスの温度との温度差が100℃以内である透光性の非晶質ガラス体とを、耐火性容器に充填して加熱して、互いに融着させつつ、結晶性ガラス小体の表面から内部に向けて針状結晶を析出させる本発明の模様入り結晶化ガラス物品の製造方法について、以下に説明する。
【0053】
結晶性ガラス小体が結晶化した後の結晶化ガラスと透光性の非晶質ガラスとの30〜380℃における線膨張係数差が10×10−7/Kを超えると、模様入り結晶化ガラス物品に、望まないひび割れ等を生じる。結晶化ガラスと透光性非晶質ガラスとの線膨張係数差が10×10−7/K以内であることが重要であり、5×10−7/K以内であることが好ましい。
【0054】
また、熱処理の際の粘度が10Pa・sとなる結晶性ガラス小体の温度及び透光性非晶質ガラス体の温度との温度差ΔTが100℃を超えると、模様入り結晶化ガラス物品の意匠面に突起又は発泡を生じて外観が損なわれる。本発明の模様入り結晶化ガラス物品の製造方法は、結晶化ガラスと透光性の非晶質ガラスとを10Pa・sとなる温度で熱処理することで、意匠面に結晶性ガラス小体及び透光性非晶質ガラス体の形状による突起を生じることが無く、且つ粘性の低下による発泡も無い模様入り結晶化ガラス物品を得ることができる。
【0055】
また、本発明の模様入り結晶化ガラス物品の製造方法は、前記結晶性ガラス小体と形状の異なる形状の透光性の非晶質ガラス体を使用することが好ましい。結晶性ガラス小体と、透光性の非晶質ガラス体の形状としては、球形状、粉末形状、管形状、板形状、棒形状やこれらを破砕した形状等を使用するものである。
【0056】
このように製造方法において、結晶性ガラス小体と異なる形状を有する透光性非晶質ガラス体を使用することで、透光部分の形状にバラエティーを持たせ、光の散乱状体による演出が可能な本発明の模様入り結晶化ガラス物品を製造することができる。
【0057】
また、本発明の模様入り結晶化ガラス物品の製造方法は、前記非晶質ガラス体が小体であり、前記結晶性ガラス小体と非晶質ガラス小体とを90:10〜40:60の質量割合で混合し、耐火性容器に充填して加熱して、互いに融着させつつ、結晶性ガラス小体の表面から内部に向けて針状結晶を析出させることが好ましい。
【0058】
また、結晶性ガラス小体の質量割合が90%を超える場合、すなわち透光性の非晶質ガラス小体の質量割合が10%未満のものであると、透光性に乏しい結晶化ガラスの相対面積が大きくなり模様入り結晶化ガラス物品が透光性及び装飾性に乏しいものとなる。一方、結晶性ガラス小体の質量割合が40%未満の場合、すなわち非晶質ガラスの質量割合が60%を超えるものであると、非晶質ガラスよりなる複数の小領域が繋がって、強度が高い結晶化ガラスが連続した領域が分断され、模様入り結晶化ガラス物品の強度が低下する。
【0059】
このように結晶性ガラス小体と非晶質ガラス小体とを90:10〜40:60の質量割合で混合し、耐火性容器に充填することで、非晶質ガラスの透光領域が全体にほぼ均等に分散埋設された模様入り結晶化ガラス物品を得ることができる。
【0060】
また、本発明の模様入り結晶化ガラス物品の製造方法は、耐火性容器に、外接円直径が30〜100mmの透光性ガラスの薄板(フレーク)を配設することが好ましい。この、透光領域を形成する非晶質ガラスの薄板としては、模様として認識される平面形状であればよく、成形体を貫通しない薄板状であることが重要であり、具体的には、成形体の厚さ10〜15mmに対して、20〜30%となる厚さが3〜5mmの範囲であると、大柄な透光模様として認識されやすくなり好ましい。また、外接円直径が30〜100mmの透光性ガラスの薄板を結晶性ガラス小体の意匠面側又は集積体内部に配設することが、透光模様を形成する上で好ましい。
【0061】
ガラス模様入り結晶化ガラス物品の装飾効果を向上させるために、無機物である遷移元素酸化物の着色材等の添加、あるいは、着色酸化物で着色された結晶性ガラス小体の採用等を行ってもよい。
【実施例1】
【0062】
以下、本発明の模様入り結晶化ガラス物品及びその製造方法の実施例について、図1を参照して説明する。
【0063】
本発明の模様入り結晶化ガラス物品10は、図1(a)に示すように、針状のβ−ウォラストナイトを主結晶として析出して線膨張係数が60×10−7/Kの結晶化ガラス部位10aに、線膨張係数が51×10−7/Kの硼珪酸ガラスからなる透光性領域10bが分散して埋設され、断面の透明ガラスの配置などの従来にない特徴を有するものである。また、図1(b)に示すように、裏面側中央に照明を置いて照明光をあてると、透光性領域10bから比較的高い強度の透過光が出て、その周囲の結晶化ガラス部位10aからは柔らかい透過光が出て独特の意匠表現が可能となっている。また、光源から離れるにつれて、徐々に光が減衰して光源の形状を反映した柔らかな模様を形成することができる。本実施例1の模様入り結晶化ガラス物品10は、透光領域10bの厚さ1mmにおける可視光平均透過率が15%である。
【0064】
次に、模様入り結晶化ガラス物品10の製造方法について説明する。
【0065】
まず、質量%でSiO 59%、Al 6.5%、CaO 20.6%、ZnO 4.6%、BaO 5%、NaO 4%、KO 0.1%、Sb 0.2%の組成となるように調合したガラス原料混合物を1400〜1500℃で16時間溶融した。次いで、この溶融ガラスを水中に投下して水砕した後、得られた水砕物を乾燥後、分級して直径1〜5mmの結晶性ガラス小体Aを作製した。この結晶性ガラス小体Aは、軟化点(約800℃)より高い温度で熱処理すると、軟化変形しながらβ−ウォラストナイトを主結晶として析出して線膨張係数が60×10−7/Kの結晶化ガラスとなるものである。この結晶性ガラス小体Aは球形状や棒形状を破砕した形状を有している。
【0066】
次いで、質量%でSiO 72.8%、Al 6.5%、B 11%、CaO 0.7%、BaO 1.2%、NaO 5.9%、KO 1.8%、Sb 0.1%の組成となるように調合したガラス原料混合物を1400〜1500℃で16時間溶融した。次いでこの溶融ガラスを肉厚が1mmの管状に成形し、ロールクラッシャーにて粉砕し、分級して、2mm〜7mmの硼珪酸ガラスからなり、線膨張係数が結晶化ガラスよりも9×10−7/K小さい51×10−7/Kの透光性ガラス小体Bを作製した。この透光性ガラス小体Bは管ガラスを破砕した曲面部位がある形状を有している。
【0067】
次に、結晶性ガラス小体Aと透光性ガラス小体Bを、質量比で結晶性ガラス小体A:透光性ガラス小体B=80:20で混合し、かつ焼結後の厚さが15mmになるように質量を秤量し、図2に示すように、アルミナ粉が塗布されたムライト製の型枠11内に集積した後、1140℃で2時間熱処理したところ、各ガラス小体が互いに軟化融着し、図1に示すような結晶化ガラス部位10aの白色部分と透光領域10bの透明部分との表面模様を有する平滑な板状の模様入り結晶化ガラス物品10が得られた。
【0068】
模様入り結晶化ガラス物品10を構成する結晶化ガラスの粘度が10Pa・sとなる温度と、非晶質ガラスの粘度が10Pa・sとなる温度は、それぞれ1160℃と1100℃であり、温度差ΔTは60℃であった。
【実施例2】
【0069】
本実施例2の模様入り結晶化ガラス物品の製造方法では、結晶性ガラス小体A:透光性ガラス小体B=50:50で混合し、かつ焼結後の厚さが15mmになるように質量を秤量し、アルミナ粉が塗布されたムライト製の型枠内に集積した後、1140℃で2時間熱処理したところ、各ガラス小体が互いに軟化融着し、表面模様が白色部分と透明部分を有する平滑な板状物品を得た。本実施例2の模様入り結晶化ガラス物品は、2種類の形状の異なるガラス小体を融着させることで従来に無い意匠性を有すものである。この模様入り結晶化ガラス物品の透光性領域の厚さ1mmにおける可視光平均透過率は18%である。
【0070】
比較例1として結晶性ガラス小体Aのみ、比較例2として透光性ガラス小体Bのみ焼結後の厚さが15mmになるように質量を秤量し、アルミナ粉が塗布されたムライト製の型枠内に集積した後、同様に1140℃で2時間熱処理した。比較例1の結晶性ガラス小体Aのみでは、従来の不透光性結晶化ガラス板が得られた。また、比較例2の透光性ガラス小体Bのみでは、従来の透光性の焼結ガラス物品が得られた。
【0071】
本実施例による試験体寸法50mm×250mm×厚さ15mmにおける各試料のASTM C158−2007に基づいた4点単純曲げ強度は、装飾材としては全く問題のないものであった。各試料における4点単純曲げ強度は、下記の通りであった。
【0072】
【表1】

【0073】
それに対して比較例1の結晶性ガラス小体Aのみを使用した従来の不透光性結晶化ガラス板は、4点支持曲げ強度は高いものの、意匠性に乏しいものであった。また、比較例2の透光性ガラス小体Bのみを使用した焼結ガラス物品では、全体が透光性で意匠性に乏しく、かつ建築用途の板状体としては強度が不足するものであった。
【実施例3】
【0074】
本発明の模様入り結晶化ガラス物品20は、図3に示すように、針状のβ−ウォラストナイトを主結晶として析出して線膨張係数が60×10−7/Kの結晶化ガラス部位20aに、線膨張係数が51×10−7/Kの硼珪酸ガラスからなる透光性領域20bが分散して埋設され、断面方向の透明ガラスの配置などに従来にない特徴を有するものである。裏面側から照明を置いて照明光をあてると、外接円直径dが30〜100mmの多様な形状の透光性領域20bから比較的高い強度の透過光による深みのある大柄模様が現れ、その周囲の結晶化ガラス部位20aからは仄かな柔らかい透過光が出る。
【0075】
次に、模様入り結晶化ガラス物品20の製造方法について説明する。
【0076】
まず、結晶化ガラスとの30〜380℃における線膨張係数の差が、10×10−7/K 以下である非晶質ガラスをアルミナ質のロールクラッシャーにて2〜7mmに粉砕し、ガラス小体Bを得た。
【0077】
次に、このガラス小体Bを厚みで3〜5mmになるように重量を秤量し、アルミナペーパーが設置されたムライト製の型枠11内に集積した後、930〜950℃で焼成し、板状の非晶質ガラスを作った。それをハンマーにて粉砕して外接円直径dが約30〜100mmの透光性ガラスのフレークCを作った。
【0078】
次に、質量でSiO 61.4%、Al 6.4%、CaO 16.4%、ZnO 5.7%、 BaO 4%、NaO 3.3%、KO 1.9%、Sb 0.1%からなり、直径1〜5mmの結晶性ガラス小体Aを、図4(a)に示すように、その焼成後の厚さが15mmになるように秤量し、ムライト製の型枠11内に集積し、表面を平にした。
【0079】
次に、集積された結晶性ガラス小体Aの上に、非晶質ガラスのフレークCを意匠面となる表面と平行に分散設置して1090℃で2時間熱処理した。
【0080】
その結果、結晶性ガラス及び非晶質ガラスのそれぞれが互いに軟化融着し、部分的に深みのある大柄な模様の結晶化ガラス物品20が得られた。
【0081】
その他の実施例として、図4(b)に示すように、集積された結晶性ガラス小体Aの内部に、非晶質ガラスのフレークCを意匠面となる表面と平行に分散設置してもよく、また、図4(c)に示すように、曲げ強度が低下しない範囲で、結晶性ガラス小体Aと透光性ガラス小体Bの混合物の上に、フレークCを平行に分散設置して大柄模様の結晶化ガラス物品を作製してもよい。
【0082】
上記の平均線膨張係数はブルカー・エイエックスエス株式会社製 ディラトメータにて測定を行った。模様入り結晶化ガラス物品の結晶化ガラスと透光性非晶質ガラスの粘度が10Pa・sとなる温度は、結晶化ガラス物品を粉砕して結晶化ガラスの破片と透光部の破片に分別し、直径8mmφ×厚さ6mmの円板形状に加工した各試料を作製し、モトヤマ製の平行板式粘度計にて試料の上に1mmφの白金球を置き、100gの荷重をかけて測定した。また、製造工程管理上、結晶性ガラス小体と透光性ガラス小体を使用して各試料を作製し、粘度が10Pa・sとなる温度を測定した。透光領域の波長380〜780nmの範囲における可視光の平均透過率は、透光領域を中心にして光学研磨された20×20×1mmの試料を作製し、株式会社島津製作所製 分光光度計 UV2500PCで測定した。4点支持曲げ強度は、ASTM C158−2007に基づき島津製作所社製オートグラフにより測定した。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明によれば、従来よりも透光性に富み、かつ実用強度、外観として高級感のある新規な模様入り結晶化ガラス物品とその製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0084】
10、20 模様入り結晶化ガラス物品
10a、20a 結晶化ガラス部位
10b、20b 透光性領域
11 型枠(耐火性容器)
A 結晶性ガラス小体
B 非晶質ガラスのガラス小体
C 非晶質ガラスのフレーク
d 透光領域の外接円直径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面から内部に向かって針状の結晶が析出した複数の結晶化ガラス小領域が互いに融着している成形体中に、透光性の非晶質ガラスよりなる複数の透光領域が埋設された模様入り結晶化ガラス物品であって、
前記結晶化ガラスの粘度が10Pa・sとなる温度と、前記非晶質ガラスが前記粘度と同一となる温度との温度差が100℃以内であり、かつ前記透光領域の厚さ1mmにおける可視光平均透過率が10%以上であることを特徴とする模様入り結晶化ガラス物品。
【請求項2】
ASTM C158−2007に基づいた4点支持曲げ試験において、寸法50mm×250mm×厚さ15mmの試験体における曲げ強度が200Kg/cm以上であることを特徴とする請求項1に記載の模様入り結晶化ガラス物品。
【請求項3】
前記結晶化ガラスと前記非晶質ガラスとの30〜380℃における線膨張係数の差が、10×10−7/K以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の模様入り結晶化ガラス物品。
【請求項4】
前記非晶質ガラスの質量割合が、10〜60%であることを特徴とする請求項1から請求項3の何れかに記載の模様入り結晶化ガラス物品。
【請求項5】
前記非晶質ガラスが、質量百分率表示でSiO 65〜80%、Al 2〜8%、B 10〜15%、CaO 0〜3%、BaO 0〜5%、ZnO 0〜2%、NaO 0〜7% KO 0〜3%の組成を含有するB−SiO系ガラスよりなることを特徴とする請求項1から請求項4の何れかに記載の模様入り結晶化ガラス物品。
【請求項6】
前記結晶化ガラスが、質量百分率表示でSiO 45〜75%、Al 1〜25%、CaO 2〜25%、ZnO 0〜18%、BaO 0〜20%、MgO 0〜1.5%、SrO 0〜1.5%、NaO 1〜25% KO 0〜7%、LiO 0〜5%、B 0〜1.5%、CeO 0〜0.5%、SO 0〜0.5%、As 0〜1%、Sb 0〜1%、着色酸化物0〜3%の組成を含有し、主結晶としてβ‐ウォラストナイトの針状結晶を析出してなるものであることを特徴とする請求項1から請求項5の何れかに記載の模様入り結晶化ガラス物品。
【請求項7】
前記非晶質ガラスの透光領域の少なくとも一部が、外接円直径が30〜100mmであることを特徴とする請求項1から請求項6の何れかに記載の模様入り結晶化ガラス物品。
【請求項8】
結晶性ガラス小体と、該結晶性ガラス小体が結晶化した後の結晶化ガラスとの30〜380℃における線膨張係数差が10×10−7/K以下であり、かつ、粘度が10Pa・sとなる前記結晶化ガラスの温度との温度差が100℃以内である透光性の非晶質ガラス体とを、耐火性容器に充填して加熱して、互いに融着させつつ、結晶性ガラス小体の表面から内部に向けて針状結晶を析出させることを特徴とする模様入り結晶化ガラス物品の製造方法。
【請求項9】
前記結晶性ガラス小体と異なる形状の前記非晶質ガラス体を使用することを特徴とする請求項8に記載の模様入り結晶化ガラス物品の製造方法。
【請求項10】
前記非晶質ガラス体が小体であり、前記結晶性ガラス小体と非晶質ガラス小体とを90:10〜40:60の質量割合で混合し、耐火性容器に充填することを特徴とする請求項8又は請求項9に記載の模様入り結晶化ガラス物品の製造方法。
【請求項11】
前記耐火性容器に、前記非晶質ガラス体として外接円直径が30〜100mmの透光性ガラスの薄板を意匠面と平行に配設することを特徴とする請求項8から請求項10の何れかに記載の模様入り結晶化ガラス物品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−168476(P2011−168476A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−6557(P2011−6557)
【出願日】平成23年1月17日(2011.1.17)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】