樹状細胞免疫受容体遺伝子ノックアウト疾患モデル動物
【課題】 樹状細胞免疫受容体(DCIR)の機能を解明し、自己免疫性関節炎の発症における役割を明らかにするとともに、自己免疫疾患又は骨粗鬆症の治療/予防に有効な物質のスクリーニング方法を提供する。
【解決手段】 DCIRタンパク質をコードする遺伝子の一部又は全部が染色体上で欠損したことを特徴とする非ヒト疾患モデル動物、及び前記非ヒト疾患モデル動物を用いたDCIRに関連する疾患、例えば関節症などの自己免疫疾患の治療/予防に有効な物質のスクリーニング方法並びに治療/予防剤を提供する。
【解決手段】 DCIRタンパク質をコードする遺伝子の一部又は全部が染色体上で欠損したことを特徴とする非ヒト疾患モデル動物、及び前記非ヒト疾患モデル動物を用いたDCIRに関連する疾患、例えば関節症などの自己免疫疾患の治療/予防に有効な物質のスクリーニング方法並びに治療/予防剤を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹状細胞免疫受容体(DCIR)遺伝子を欠損(ノックアウト(KO))した関節症等を含む自己免疫疾患や骨疾患のモデル動物に関する。さらに本発明は、当該モデル動物を用いた疾患治療/予防薬のスクリーニング方法、さらには当該スクリーニング方法によって得られる自己免疫疾患の診断及び/又は治療にも関する。
【背景技術】
【0002】
関節リウマチ(RA)は、全身性の慢性炎症性疾患であり、主に多くの関節における滑膜に影響し、滑膜の炎症は軟骨破壊、骨侵食、ひいては関節変形及び関節機能の喪失をもたらす。この疾患は自己免疫性であり、滑膜表層及び関節周辺腔液へのT細胞、B細胞、マクロファージ及び好中球の浸潤を特徴とする。
【0003】
本発明者等は、以前に胚の遺伝子操作技術を用いて関節リウマチについての2種類のマウスモデルを確立した。これらは、ヒトT細胞白血病ウイルスI型トランスジェニック(HTLV-I-Tg)マウス(特許文献1)及びIL-1受容体アンタゴニスト欠損(IL-1Ra-/-)マウス(特許文献2)であり、自己免疫と関節炎を自発的に発症する。これらの動物における感染した関節の病理組織はヒトの関節リウマチに極めて類似していた。本発明者等は、マイクロアレイを用いてこれら2つの関節炎モデルマウスの遺伝子発現を包括的に解析したところ、HTLV-I TgマウスとIL-1Ra-/-マウスとの間で遺伝子発現に強い相関があることを見いだした。即ち、これら2つのマウスモデルは病因学的に明らかに相違しているにもかかわらず、組織病理学的のみならず遺伝子発現パターンも互いに類似していた。
【0004】
即ち本発明者等は、これらの関節リウマチ(RA)モデルマウスにおいて、染色体6F2サイトバンドに存在するいくつかの遺伝子の発現が有意に亢進することを新たに発見した。これらの遺伝子は、カルシウム依存性(C型)レクチンスーパーファミリー遺伝子を含んでいた。C型レクチン受容体(CLR)はパターン認識分子であり、細胞外領域の糖鎖認識ドメイン(CRD)によって自己抗原又は病原体細胞壁上の特定の糖鎖構造を認識する。マクロファージマンノース受容体(MMR; CD206)、樹状細胞特異的ICAM3-グラビング非-インテグリン(DC-SIGN; CD209)、L-SIGN及びβ-GR(Dectin-1)を含むCLRは、ウイルス、バクテリア、真菌及び幾つかの寄生虫などの様々な微生物の認識に関与している。興味深いことに、C型レクチン受容体のシグナル伝達はToll-like受容体(TLR)のシグナル伝達によって促進されることが報告され、これら2つのシグナル伝達経路の間のクロストークが示唆されている。またC型レクチン受容体は樹状細胞の遊走及びそれらのリンパ球との相互作用も調節する。ヒトCD94/NKG2 及びマウスLy49等のNK細胞上の他のメンバーは、自己を非自己から識別するためのMHCクラスIの認識に関連している。即ち、CLRは、自然免疫及び獲得免疫の両方において役割を担っている。CLR類の幾つかは、それらの細胞質領域に、免疫受容体チロシンベース抑制モチーフ(immunoreceptor tyrosine-based inhibitory motif (ITIM))又は免疫受容体チロシンベース活性化モチーフ(immunoreceptor tyrosine-based activating motif (ITAM))といったシグナル伝達モチーフを有しており、樹状細胞機能発現における調節的な役割が示唆されている。
【0005】
樹状細胞(DC)は主要な抗原提示細胞(APC)であり、免疫系の調節において中枢的な役割を担う。近年、幾つかのCLR類が樹状細胞の表面に発現されるとのキャラクタリゼーションがなされた。I型のCLR類メンバーであるMMR (CD206)及びDEC-205 (CD205)は、そのN末端に複数のカルシウム依存性細胞外糖鎖認識ドメイン(CRD)を有する。樹状細胞上に発現するCLRの第2のファミリーは、C末端に唯一のCRDを持つII型タンパク質であり、それらはDC-SIGN (CD209)、Langerin (CD207)、 CLEC-1、Dectin-1 (β-GR)、Dectin-2、DLEC、及びDCIRを含む。
【0006】
DCIRはLLIRとも呼ばれ、ヒト及びマウスの主に樹状細胞上に発現するII型膜タンパク質である。この分子は細胞外ドメインに一つの糖鎖認識ドメイン(CRD)を持ち、細胞内ドメインにコンセンサスITIMを持つ。ITIMは細胞内に抑制的シグナルを伝達するので、マウスDCIRは抑制的な受容体として働き、樹状細胞機能を調節することが示唆された。しかしながら、in vivoにおけるDCIRの機能的役割に関する具体的証拠は今日まで提示されていない。
【0007】
【特許文献1】特開平6−38652号公報
【特許文献2】特開2000−209980号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
即ち、本発明は、自己免疫疾患である関節リウマチについて確立された2つのマウスモデルにおいて共通して発現が亢進された樹状細胞免疫受容体(DCIR)に着目してなされたものであり、関節炎を含む自己免疫疾患の発症におけるDCIRの役割を解明すべくDCIR欠損(KO)マウス(DCIR-/-マウス)を作製し、当該欠損マウスの疾患動物モデルとしての有用性を実証し、当該欠損マウスを用いた自己免疫疾患の治療あるいは予防に有効な薬剤のスクリーニング法を提供し、さらには当該スクリーニング法によって同定されうる自己免疫疾患の治療・予防剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
即ち、本発明は、
(1)樹状細胞免疫受容体(DCIR)タンパク質をコードする遺伝子の一部又は全部が染色体上で欠損したことを特徴とする非ヒト疾患モデル動物を提供する。
また、本発明は、
(2)前記疾患モデル動物を用いた、骨髄幹細胞由来細胞の分化及び増殖促進又は抑制する物質又は関節炎の発症抑制物質のスクリーニング方法、並びに当該スクリーニング方法で同定される化合物又はその塩を含有してなる自己免疫疾患の予防・治療剤を提供する。
【0010】
さらに本発明は、
(3)樹状細胞免疫受容体(DCIR)タンパク質の活性を促進する物質、あるいは、樹状細胞免疫受容体(DCIR)タンパク質をコードする遺伝子の発現を促進する物質を含有してなる自己免疫疾患の予防・治療剤、並びに、樹状細胞免疫受容体(DCIR)タンパク質をコードする遺伝子又はその部分配列をコードするDNAを含有してなる自己免疫疾患の診断薬を提供する。
さらに本発明は、
(4)樹状細胞免疫受容体(DCIR)タンパク質と同一又は実質的に同一のアミノ酸配列を有するペプチドもしくはその部分ペプチドまたはその塩を含有することを特徴とする自己免疫疾患の予防・治療剤のスクリーニング用キット、並びに、樹状細胞免疫受容体(DCIR)タンパク質をコードする遺伝子と同一又は実質的に同一の塩基配列またはその部分配列をコードするDNAを含有することを特徴とする自己免疫疾患の診断用キットを提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るDCIR欠損(KO)マウス(DCIR-/-マウスと略記)では、コラーゲン誘導関節炎(CIA)に対する感受性が亢進しており、当該マウスは関節炎を含む自己免疫疾患の疾患モデル動物として有用である。また、加齢したDCIR欠損マウスが、腱、靱帯と骨の付着部における炎症(付着部炎)や唾液腺炎等の自己免疫様疾患を自発的に発症することから、免疫系におけるDCIRの調節的役割が初めて明らかにされ、本発明の疾患モデルマウスは、関節リウマチ(RA)、強直性脊椎炎(AS)、特発性全身性骨硬化症(DISH)、あるいはシェグレン症候群(SS)等の自己免疫疾患モデルなどとして極めて有用である。
また、本発明の疾患モデル動物は、野生型に比較して踵関節における石灰化領域の増加及び大腿骨における骨量の減少が見られるので、骨疾患のモデル動物としても使用しうる。
さらに、DCIRを欠損した本発明のモデル動物においては抗腫瘍免疫効果の向上が観察された。DCIRは樹状細胞の抑制性の機能調節に関与していることにから、DCIRタンパク質又はその等価物は、ガン免疫療法における賦活剤となりうる。
本発明のモデル動物を用いることによって、DCIRの生理学的機能の解析、自己免疫発症機構の解析が可能になる。また、RAやAS、DISHあるいは骨粗鬆症といった骨・軟骨疾患の発症メカニズムを解明し、より有効な治療/診断の方法及び薬剤を開発することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の疾患モデル動物は、齧歯目動物、中でもマウスであるのが好ましい。当該モデル動物では、関節炎等の自己免疫疾患が自然発症するため、自己免疫疾患のモデル動物として有用である。本発明のモデル動物を用いて研究できる自己免疫疾患としては、例えば、関節リウマチ(RA)、強直性脊椎炎(AS)、シェグレン症候群(SS)、又は特発性全身性骨硬化症(DISH)等が挙げられるが、これらに限られるわけではない。また、前記ASやDISH等の自己免疫性骨疾患のみならず、骨粗鬆症等の代謝関連骨疾患のモデルとしても使用できる。
【0013】
本発明のスクリーニング方法は、例えば、前記の疾患モデル動物に被検物質を投与し、又は、当該動物由来の組織、器官、もしくは細胞を被検物質と接触させ、当該動物又は組織、器官もしくは細胞における骨髄幹細胞由来細胞の分化及び増殖を測定及び評価することを含み、骨髄幹細胞由来細胞の分化及び増殖促進又は抑制する物質を同定することができる。あるいは、例えば、前記の疾患モデル動物に被検物質を投与し、コラーゲン誘導関節炎の発症率及び関節炎スコアを測定、評価すること含み、関節炎の発症抑制物質を同定することができる。
【0014】
本発明のスクリーニング方法は、前記疾患モデル動物で得られた測定及び評価結果を野生型の同種動物で得られた結果と比較することをさらに含むのが好ましい。
前記のスクリーニング方法を実施することにより、関節リウマチ(RA)、強直性脊椎炎(AS)、乾癬性関節炎(PsA)、シェグレン症候群(SS)、及び特発性全身性骨硬化症(DISH)を含む自己免疫疾患又は骨粗鬆症の予防及び治療に有効な物質を同定することができる。
【0015】
また、樹状細胞免疫受容体(DCIR)遺伝子を欠損した本発明の疾患モデル動物において自己免疫疾患が自然発症又は増悪化したことから、当該疾患の予防又は治療においてDCIRタンパク質が有効であることが予測される。従って、本発明は、樹状細胞免疫受容体(DCIR)タンパク質をコードする遺伝子の発現を促進する物質を含有してなる自己免疫疾患又は骨粗鬆症の予防・治療剤を提供する。
さらに、樹状細胞免疫受容体(DCIR)タンパク質を欠損した動物において自己免疫疾患の発症がみられることから、当該DCIRタンパク質をコードする遺伝子又はその部分配列をコードするDNAは自己免疫疾患又は骨粗鬆症の診断薬として有効である。即ち、本発明は、当該DNAを含有する自己免疫疾患又は骨粗鬆症の診断薬も提供する。
【0016】
また、樹状細胞免疫受容体(DCIR)タンパク質と同一又は実質的に同一のアミノ酸配列を有するペプチドもしくはその部分ペプチドまたはその塩は、候補物質とともに培養して、当該候補物質の有無におけるDCIRタンパク質の活性を比較することにより、DCIRタンパク質の活性を促進する物質、即ち自己免疫疾患又は骨粗鬆症の予防・治療剤をスクリーニングすることができ、本発明はそのためのキットを提供する。
【0017】
さらに、樹状細胞免疫受容体(DCIR)タンパク質をコードする遺伝子と同一又は実質的に同一の塩基配列またはその部分配列をコードするDNAをプローブとして使用し、DCIRをコードするDNA の有無あるいはその発現量などを測定することにより、自己免疫疾患又は骨粗鬆症に対する易罹患性を診断することができ、本発明はそのためのキットを提供する。
【0018】
本発明は、樹状細胞免疫受容体(DCIR)が自己免疫疾患の発症や増悪に関連していることを初めて明らかにした。即ち、樹状細胞免疫受容体(DCIR)は免疫系の抑制性調節因子の一つであり、生理状態において免疫反応を抑制する役割を果たしている。従って、逆に樹状細胞免疫受容体(DCIR)タンパク質(特に可溶性細胞外蛋白部分)と同一又は実質的に同一のアミノ酸配列を有するペプチドもしくはその部分ペプチドまたはその塩を投与することにより、免疫系の抑制シグナルが除かれ、免疫系が活性化されることが期待される。この結果、種々のウイルス、細菌、カビ、原虫などの感染症の治療薬としてこれらを用いることができる。
また、近年、ガン免疫療法において、樹状細胞に腫瘍細胞や抗原を体外で取り込ませ活性化・成熟させた状態で体内に投与する方法が効果的な免疫反応の惹起につながるとして注目を集めており、この方法は自己の樹状細胞を用いるために副作用の危険性が低下するという利点もある。従って、DCIRタンパク質のペプチド又はその等価物類はガン免疫療法における賦活剤としても作用し得る。
【実施例】
【0019】
以下、具体例に則して本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら具体例に限定されるものではない。
実験方法
マウス:
遺伝子発現プロファイリング実験には、既述したHTLV-I-Tgマウス及びIL-1Ra-/-の2つのマウスモデルを用いた。HTLV-I-Tgマウスは、HTLV-I ゲノムのLTR-env-pX-LTR 領域を(C3H/Hen x C57BL/6J) F1胚に注入することにより作製し、BALB/cAマウス(CLEA Japan., Tokyo, Japan)に20世代戻し交配した。これらのマウスは4週齢で関節炎を自然発症し、3ケ月齢で60%、6ケ月齢で80%が発症する。以下の実施例では、重篤な関節炎(スコア3)を発症したHTLV-I-Tg (TS)(雌、6〜9週齢)を用いた。IL-1Ra-/-マウスは、相同組換えにより作製したIL-1Ra-/-マウスをBALB/cA マウスに8世代戻し交配した。これらのマウスは5週齢で関節炎を自然発症し、8週齢及び13週齢までに、各々80% 及び約100%のマウスが発症する。以下の実施例では、重篤な関節炎(スコア3)を発症したIL-1Ra-/-マウス(KS)(雄、13 週齢)を用いた。また、野生型同腹子(WT)をコントロールとして用いた。
【0020】
関節炎の重篤度は、各足について、発赤及び腫脹の程度を次のように0から3のスコアでランク付けした:スコア0 =正常、スコア1 =関節の軽い腫脹及び/又は足蹠の発赤、スコア2 =顕著な関節腫脹、スコア3 =関節の重篤な腫脹及び強直。なお、全てのマウスは、東京大学医科学研究所のクリーンルームで、特定病原体未感染(SPF)環境下で飼育した。また、全ての実験は動物実験に関する倫理ガイドライン及び遺伝子操作に関する安全基準に従って実施した。
【0021】
ノーザンブロットハイブリダイゼーション解析:
関節組織を即座に液体窒素中で凍結し、-80℃で保存した。凍結組織はphyscotron (Microtech, Chiba, Japan)でホモジナイズし、グアニジンチオシアネート-フェノール-クロロホルム抽出法により全RNAを調整し、オリゴ(dT)-セルロースカラム用いてpoly (A)+ RNA を精製した。各標本について4、5匹のマウスのRNAをプールした。Poly (A)+ RNA を1.3% 変性アガロースゲルで電気泳動し、ナイロン膜 (Gene Screen Plus, NEN Life Science, Boston, MA, USA) に転写した。ハイブリダイゼーションは、メガプライムDNAラベリングシステム(Amersham, Arlington Heights,IL,USA) 及び32P-dCTP (3,000 Ci/mmol; NEN Life Science, Boston, MA, USA)を用いて標識した32P-標識DNAプローブで42℃、一晩のプロトコルで実施した。放射活性は、BAS-2000システム(Fuji Photo Film Co., Tokyo, Japan)を用いて測定した。マウスDCIRプローブは、関節炎を発症したHTLV-I-Tgマウスの関節由来cDNAからPCRにより増幅した。PCRプライマーは次のものを使用した。
5'-CAT TTC CCT TAT CTC GCC CTG G-3' (配列番号:4)
5'-GCA GCA TGA ATG TCC AAG ATC C-3'(配列番号:5)
【0022】
DCIR欠損(Dcir-/-)マウスの作製:
DCIRを含むゲノムDNAの配列を、Celera Genomics(Rockville, MD, USA)のマウスゲノムデータベースから得、5.5-kbフラグメントからなる5’ホモロジー領域及び2.5-kbフラグメントからなる3’ホモロジー領域をES細胞(E14.1)由来のゲノムDNAからPCRによって増幅した。PCRプライマーの組は次の通りである。
5'-アームについて:
5'-GAT TAA AAG CGG CCG CCA GAA TTC GTT TGA GAT CAG GC-3' (配列番号:6)
5'-CTG GAT CCG TCA GAA GAG AGC CTT GTT CC-3'(配列番号:7)
3'-アームについて:
5'-CCA TCG ATG AAG AGA GGT TCC ACT CTA GC-3' (配列番号:8)
5'-TTA TCG ATG TCA ACT ACC TTT GCA TTG GG-3'(配列番号:9)
【0023】
ターゲティングベクターは、ITIMを含む細胞内ドメイン及び膜貫通領域を含有する第1及び第2エキソンをコードするゲノムフラグメントを、PGK1プロモーター制御下にネオマイシン耐性遺伝子(Neo)を発現するフラグメントで置換することにより構築した。また、ネガティブセレクションのためにMC1プロモーター制御下にジフテリア毒素(DT)を発現するフラグメントを3’末端に連結した。ターゲティングベクターをES細胞にエレクトロポレーションで導入し、G418で選択した。672個のネオマイシン耐性ESクローンをピックアップし、5’プローブを用いたサザンブロットハイブリダイゼーション解析によって660クローンをスクリーニングした。
スクリーニングに用いた5’プローブは以下のプライマーで増幅した。
5'-TAA CAC TGA GGG AAG ATG CTA C-3'(配列番号:10)
5'-TCT CAT TCT CAC TCT CAC TCT C-3'(配列番号:11)
【0024】
サザンブロットハイブリダイゼーション解析によって96.2%のクローンが判定され、2つのターゲティングESクローンを同定した(ターゲティング効率:0.3%)。これらのターゲッティングクローンは3’及びNeoプローブにより確認した。
3’プローブは以下のプライマーで増幅した。
5'-AGC CAT GAT AAC AGA CCC-3' (配列番号:12)
5'-TGA TAT GGG GTC TGG TAC G-3'(配列番号:13)
Neoプローブはネオマイシン耐性遺伝子のNarI-XbaI フラグメントとした。核型分析の結果、両クローンの約80%の細胞は正常な40染色体を有していた。キメラマウスを凝集法によって作製し、雄のキメラマウスを野生型のC57BL/6J雌マウスと交配させ、被毛色によって生殖細胞系列への伝播を判定した。DCIR変異についてのヘテロ接合マウス同士を交配し、同型接合マウスを産出した。以下の実施例では(129/Sv x C57BL/6)F1遺伝背景のDCIR欠損マウス及び同腹子を用いた。
DCIR欠損マウスの遺伝子タイピングは以下のPCRプライマーを用いて実施した。
共通プライマー:5'-AAG TGT CCC CTC TTG TAC TCT GTG-3'(配列番号:14)
野生型プライマー:5'-CAA AAT TCT GTC AAG CGT AGA GGG G-3'(配列番号:15)
変異体プライマー:5'-CAT TAT ACG AAG TTA TCT CGA GTC GC-3'(配列番号:16)
共通プライマー及び野生型プライマーは野生型アレル(1.3 kb)の検出に使用し、共通プライマー及び変異体プライマーは変異体アレル(0.9 kb)の検出に使用した。
【0025】
組織病理検査:
12ヶ月齢の野生型マウス及びDCIR欠損マウスをエーテル麻酔し、中性緩衝10%ホルマリン溶液で還流固定した。脳、心臓、大動脈、肺、気管、膵臓、肝臓、脾臓、腋窩リンパ節、顎下腺及び耳下腺、腸、胃、腎臓、及び生殖器を含む主要な器官及び組織を取り出し、組織病理学的検査に供した。足、膝、手首及び胸椎を含む関節組織は10%蟻酸を用いて脱灰してからパラフィン包埋した。各組織について2〜3 mmの切片を作製し、ヘマトキシリン及びエオジンを用いて染色した。
【0026】
フローサイトメトリー解析:
各細胞をFITC、PE又はビオチン修飾の下記モノクローナル抗体(mAb)で染色し、フローサイトメトリー解析を行った。CD11c (HL3)、I-Ab (AF6-120.1)、CD3 (145-2C11)、CD45R/B220 (RA3-6B2)、CD4(RM4-5)、CD8(53-6.7)、CD62L(MEL-14)、CD44(IM-7)に特異的なハムスター、マウス又はラットのmAbは、BD PharMingen (San Diego, CA, USA)から購入した。マウスのCD80 (RMMP2)、CD86 (RMMP1) に特異的なラットmAbはImmunotech (Marseille, France)から購入した。PE修飾ストレプトアビジン(PharMingen)はビオチン修飾抗体の二次染色に用いた。細胞表面の染色は標準的なプロトコルに従って行い、解析はFACSCalibur 及び CellQuest(Becton Dickenson, Franklin Lakes, NJ, USA)またはFlowJo(Tree Star, Inc., Ashland, OR)ソフトウェアを用いて行った。
【0027】
増殖解析:
抗原特異的な応答を調べるために、野生型マウスからThy1.2陽性T 細胞を調整し、野生型マウス及びDCIR欠損マウスの脾臓からCD11c陽性樹状細胞を、CD90 (Thy1.2)マイクロビーズ又はCD11cマイクロビーズ(MiltenyiBiotech, Bergisch Gladbach, Germany)を用いた磁気細胞分離により精製した。精製したThy1.2陽性T 細胞(2×105 cells)及び CD11c陽性樹状細胞(2 x104 cells)を、抗CD3 抗体(145-2C11; BD PharMingen)を添加して3日間共培養し、トリチームチミジン(0.25 μCi/ml; Amersham, Buckinghamshire, England)を6時間取り込ませた。次に、細胞はMicro 96 cell harvester(Skatron, Lier, Norway)ガラスファイバー濾紙上に回収し、Micro Beta (Pharmacia Biotech, Piscataway, NJ)を用いてトリチームチミジン放射活性を測定した。
同種異系混合白血球反応を調べるために、BALB/cマウスからCD90(Thy1.2)マイクロビーズを用いてThy1.2陽性T細胞を磁気細胞ソーティングにより精製した。また、野生型マウス及びDCIR欠損マウスの骨髄細胞から樹状細胞を誘導した。樹状細胞はマイトマイシンC処理してから、Thy1.2陽性T細胞と3日間共培養し、トリチームチミジンを6時間取り込ませてその放射活性を測定した。
【0028】
コラーゲン誘導関節炎:
5 mg/ml熱殺傷M.tuberculosis(H37RA; Difco)を追加したフロイント完全アジュバント(Difco Laboratories, Detroit, MI)に1 mg/mlトリII型コラーゲン(IIC; Sigma-Aldrich, St. Louis, MO)を懸濁し、マウス尾底部の皮下複数箇所に免疫した。関節炎の誘導は追加免疫なしで実施した。各関節は、数日ごとに腫脹及び発赤について検査し、各手足について重篤度を0~3にランク付けした(スコア0 =変化なし;スコア1 =関節の軽い腫脹及び/又は足蹠の発赤;スコア2 =関節の顕著な腫脹;スコア3 =関節の重篤な腫脹及び強直)。関節炎の組織学的評価のために、関節組織を10%中性緩衝ホルマリン溶液で固定し、5%蟻酸で脱灰後パラフィン包埋した。各組織について4 mmの切片を作製し、ヘマトキシリン及びエオジンを用いて染色した。
【0029】
抗体測定:
コラーゲン特異的抗体の測定には10 mg/mlトリIICを、血清中の抗体レベルの測定には、ウサギ抗マウスIgM(2 mg /ml; Zymed)、IgG(8.7 mg /ml; Zymed)、またはIgE(2 mg /ml; PharMingen)を、自己抗体の測定には、熱変性ウサギIgM、IgG(50 mg /ml; Zymed)、またはトリIIC(20 mg/ml; Sigma)をそれぞれFalcon 3912 Micro Test IIIフレキシブルアッセイプレート(BD Bioscience, Oxnard, CA)に4℃で一晩コーティングした。PBSで洗浄後、希釈した血清サンプルを室温で1時間インキュベートした。PBS-Tweenで洗浄後、アルカリホスファターゼ(AP)修飾ヤギ抗マウスIgM、IgG、IgE、IgG1、IgG2a、IgG2b及びIgG4を室温で1時間インキュベートし、AP活性をSubstrate Phosphatase SIGMA104(Sigma-Aldrich)を用いてELISAマイクロリーダー(MTP-120; Colona, Tokyo, Japan)により測定した。抗核抗体の測定のためには、マウス核抗原コーティングプレート(Alpha Diagnostic, Inc., San Antonio, TX)を用いて希釈したマウス血清をインキュベートし、西洋わさびペルオキシダーゼ(HRP)修飾ヤギ抗マウスIgGを反応させた後、TMB基質を用いてHRP活性を測定した。
【0030】
コラーゲン特異的増殖応答及びサイトカイン産生:
IIC/CFA免疫7日後にリンパ節を回収し、単一細胞懸濁液を調製した。リンパ節細胞を熱変性IICの非存在下あるいは存在下で3日間培養し、トリチームチミジン(0.25 mCi/ml)を6時間取り込ませてトリチームチミジン放射活性を測定した。サイトカイン産生の測定には、コラーゲン特異的増殖応答における培養上清を3日後に収集し、BD OptiEIA ELISA Set(BD PharMingen)を用いてIFN-g、IL-4、及びIL-10レベルを測定した。
【0031】
骨髄細胞由来樹状細胞の調製:
骨髄細胞由来樹状細胞は大腿骨及び脛骨の骨髄から調製した。簡潔には、2×105 cells/mlの骨髄細胞を20 ng/mlの組換えマウスGM-CSF(PeproTech, London, UK)を添加した10% FCS- RPMI-1640で培養した。3日目に20 ng/mlのGM-CSFを含む倍量の新鮮な培地を加え、6日及び8日目に、培地上清の半分を回収して遠心分離し、細胞を10 ng/mlのGM-CSFを含む新鮮な培地に再懸濁し、元のプレートに戻した。10日目の非接着性細胞を骨髄細胞由来樹状細胞とした。さらに、骨髄細胞由来樹状細胞の完全な成熟のために、10日目の非接着性細胞を回収し、10 ng/mlのGM-CSF及び1 mg/ml LPS(Sigma)を含有する新鮮培地中に再懸濁した。この細胞を更に2日間培養し、成熟樹状細胞とした。
【0032】
ウエスタンブロット解析:
骨髄細胞は大腿骨及び脛骨から調整し、20 ng/ml 組換えマウスGM-CSFを添加した無血清RPMI-1640培地で一晩培養した。これらの細胞を洗浄し、GM-CSFを添加しない無血清培地に再懸濁した。6時間飢餓状態にした後、様々な濃度のGM-CSFとフォスファターゼ阻害剤カクテルII(Sigma)で処理し、全細胞溶解液を抗リン酸化STAT5抗体(Cell Signaling, Denvers, MA)および抗STAT5抗体(Santa Cruz Biotechnology, Inc., Santa Cruz, CA)を用いた免疫ブロッティングにより解析した。検出抗体は西洋わさびペルオキシダーゼ(HRP)修飾抗ウサギIgG(Cell Signaling)を用いた。蛍光シグナルはECLプラス検出溶液とTyphoon 9000(Amersham Biosciences, Buckinghamshire, UK)を用いて検出した。
【0033】
統計:
以下のデータを除く結果の統計評価にはStudentのt検定を用いた。CIA実験の発症率はχ2乗検定で、重症度はMann-Whitney U検定で評価した。Mann-Whitney U検定は組織病理学的異常の頻度の評価にも用いた。
【0034】
(実施例1)
関節リウマチ(RA)関連遺伝子としてのDCIRの同定:
2つのモデルマウス(HTLV-I Tg及びIL-1Ra-/-マウス)の関節における遺伝子発現を正常マウス関節と比較して、関節炎を発症した関節において発現が亢進する遺伝子を特定した。マイクロアレイ解析によると、DCIR遺伝子のmRNA発現は、野生型関節に比較してIL-1Ra-/-マウスでは2.2倍、そしてHTLV-I Tgマウスでは3.8倍に亢進し(図1a)、この発現亢進はノーザンブロットハイブリダイゼーション解析でも確認された(図1b)。
【0035】
(実施例2)
DCIR欠損マウスの作製:
DCIR欠損マウス(DCIR-/-マウス)は、通常の遺伝子ターゲティング法によって作製した。DCIR遺伝子のエキソン1及び2をネオマイシン耐性遺伝子で置換することにより、ITIMを含む細胞質領域及び膜貫通ドメインの大部分をコードするゲノム配列を欠損させた(図2a)。5’プローブを用いたサザンブロットハイブリダイゼーション解析によってターゲッティングESクローンをスクリーニングし(図2b)、3’プローブ(図2c)及びNeoプローブ(図2d)を用いてターゲッティングアリルを確認した。マウスにおけるDCIR 領域のターゲティングは、ゲノムサザンブロット解析によって確認した(図2e)。DCIR+/-マウスの交配によりDCIR-/-マウスを作製し、ノーザンブロットハイブリダイゼーション解析によって脾臓におけるDCIR mRNAの発現が欠損していることを確認した(図2f)。
【0036】
DCIR-/-マウスは繁殖力があり、メンデル比率で産仔し、特定病原体未感染の飼育条件下では若年においては明確な表現型異常を示さなかった。また、DCIR-/- マウスの胸腺及び脾臓の細胞においても明らかな異常は見られなかった(図3)。T細胞反応に対するDCIR欠損の影響を評価するために、樹状細胞存在下において抗CD3抗体で刺激した際のT細胞の増殖反応及び同種異系混合リンパ球反応(MLR)を測定した。この結果、DCIR欠損樹状細胞と野生型樹状細胞との間に有意な差は検出されなかった(図4)。
【0037】
(実施例3)
加齢DCIR欠損マウスにおける自己免疫疾患の自然発症:
DCIR欠損マウスを組織学的に検査した結果、6-12ヶ月齢のDCIR欠損マウス10匹ののうち7匹の顎下腺に、唾液腺間質へのリンパ球の蓄積及び小導管上皮への単核細胞の浸潤、それに伴う小導管の破壊を特徴とする唾液腺炎が観察された(表1)。
【0038】
また、4ヶ月齢において11%のDCIR欠損マウスが後肢の関節異常を発症した。発赤及び複数関節の腫脹を伴う関節炎に始まり、6ヶ月齢までに28%のマウスが関節炎を発症した。関節炎の発症率、重症度は加齢とともに増大し、関節の変形及び強直を引き起こした。その殆どは後肢の足関節で顕著であった。 発症には性差があり、12ヶ月齢において44%の雄マウスで発症したが、雌マウスでは6%であった。関節の組織学的解析により、DCIR欠損マウスにおいて腱及び靱帯と骨との付着部への炎症性細胞の浸潤、顆粒化組織の侵襲による骨破壊が観察された。付着部炎は、検査した23匹のDCIR欠損マウスのうち9匹で観察された(表1)。これらの結果から、DCIR遺伝子の欠損が自己免疫を誘導し、遅始性関節炎及び唾液腺炎を自然発症させることが示された。
【0039】
【表1】
【0040】
(実施例4)
DCIR欠損マウスにおける自己免疫の自然発症:
DCIR欠損が自己免疫の発症に影響を与えることが示唆されたので、DCIR欠損マウスにおける自己抗体の産生をELISAで測定した。血清中のIgM、IgG、IgE及び以下の自己抗体、抗核抗体(ANA)、リウマチ因子(RF;IgM及び IgG型)、及び抗IIC IgGの産生を測定した(図5)。12ヶ月齢のDCIR欠損マウスの血清免疫グロブリンレベルに増加傾向が見られたが、IgEレベル以外に有意差はなかった。しかしながら、加齢DCIR欠損マウスは抗核抗体(ANA)、リウマチ因子(RF)、及び抗IIC抗体などの自己抗体を野生型マウスと比較して高いレベルで産生した。この結果はDCIR欠損が自己抗体の産生に関与していることを示唆している。
【0041】
(実施例5)
DCIR欠損マウスにおける樹状細胞の増殖とCD4陽性T細胞の活性化:
DCIR欠損マウスにおいてDCIR発現細胞であるCD11c陽性細胞の割合を調べた結果、CD11c陽性細胞の割合は若年の生理的条件下では正常であったが、12月齢以上では顕著に増加していた。また、CD11c陽性細胞の大部分はI-Abを発現していた。さらに、DCIR欠損マウスのCD4陽性T細胞は、活性化T細胞の特徴であるCD62Lの発現が低く、CD44の発現が高い表現型を示した。CD8陽性T細胞では顕著な変化は見られなかった(図6)。
【0042】
(実施例6)
DCIR欠損マウスにおけるコラーゲン誘導関節炎の増悪化:
本発明の関節リウマチのモデルマウスにおいてDCIRの発現が亢進していたので、コラーゲン誘導関節炎(CIA)の発症に対するDCIR欠損の影響を試験した。CIAは(129/Sv x C57BL/6)F1雑種背景の若年DCIR欠損マウスに、250 mgの熱殺傷Mycobacterium tuberculosisを添加したフロイント完全アジュバントと100 mgのトリII型コラーゲン(IIC)を免疫することにより誘導した。通常の免疫手法では、マウスは初回免疫から21日後にIIC/CFAで追加免疫を行う。しかし、今回の実験では初回免疫から20日後に、同腹子の0%に対して、DCIR欠損マウスでは39%に疾患が発症した(図7)。追加免疫の後では、DCIR欠損マウスにおける発症率の増大を観察することが困難になることが示唆されたので、追加免疫を行わずに経過観察を行った。図7に示すように、DCIR欠損マウスにおける関節炎発症率は、コントロールの同腹子と比較して顕著に増大した。また、重症度も野生型マウスに比較して有意に増悪化した。各群の発症率及び重症度は独立した2回の実験データの合計である。
【0043】
CIAの組織学的解析において、コントロールマウスの関節では極めて少量の細胞浸潤のみを示し、滑膜の増殖や骨破壊は観察されなかった。 それに対し、DCIR欠損マウスでは、このようなマイルドな免疫条件下でも炎症性細胞の浸潤、滑膜の増殖、及び骨破壊を伴う典型的な関節炎を示した。この結果は、DCIRがCIAの発症を抑制することを示唆している。
【0044】
(実施例7)
DCIR欠損マウスにおける抗原特異的IgG1及びIgG3抗体産生の増加:
次に、IICを免疫したDCIR欠損マウスにおけるIIC特異的抗体の産生を測定した。IICに対する抗体レベルは関節炎の発症とよく相関することが知られている。図7a、bに示すように、IICに特異的なIgG、IgG1及びIgG3レベルは、野生型同腹子に比較してDCIR欠損マウスで有意に増大した。一方、DCIR欠損マウスにおけるIgM、IgG2a及びIgG2bレベルは正常であった。即ちDCIRはCIAにおける抗原特異的なIgG1及びIgG3サブクラスの抗体産生に関与していると考えられる。
【0045】
(実施例8)
DCIR欠損マウスにおけるT細胞の抗原特異的増殖反応の亢進:
次に、DCIR欠損マウス及びそれらのコントロールである同腹子からのT細胞の抗原特異的増殖反応を試験した。IICに対するT細胞の反応は、トリIIC/CFAでの初回免疫から7日後に測定した。DCIR欠損マウスにおける抗原特異的T細胞の増殖反応は野生型マウスと比較して有意に増大し(図7c)、DCIR欠損マウスにおいてT細胞のプライミングが促進していることが示唆された。IIC刺激後のリンパ節細胞からのIFN-g産生は、DCIR欠損マウス及びコントロールマウスで同様に観察された。これに対して、IL-4 及びIL-10 レベルはDCIR欠損リンパ節細胞で有意に増大した(図7d)。これらの結果は、DCIR欠損マウスにおいてTh2サイトカイン産生が選択的に促進したことを示し、IIC特異的なIgG1及びIgG3サブクラス抗体の産生が促進した観察結果と合致するものである。
【0046】
(実施例9)
IIC/CFA免疫後のDCの含有量と活性化状態を調べた結果、CD11c陽性細胞の割合はDCIR欠損マウスのリンパ節において顕著に増加していた。さらに、I-Ab、CD80、およびCD86を発現する活性化した樹状細胞の割合も野生型マウスと比較してDCIR欠損マウスにおいて顕著に増加していた。したがって、DCIR欠損マウスにおける樹状細胞の分化と活性化がIIC/CFA免疫により促進することが認められた。
【0047】
(実施例10)
DCIR欠損骨髄細胞(BMC)のGM-CSFに対する反応性の亢進:
DCIRは主に樹状細胞に発現するので、DCIR欠損骨髄細胞の樹状細胞への分化を評価した。DCIR欠損骨髄細胞をGM-CSFを添加して培養した場合、非接着性骨髄由来細胞の分化は、DCIR欠損骨髄細胞において有意に亢進した(図10a)。培養8日目の非接着細胞のフローサイトメトリー解析により、CD11c陽性骨髄細胞由来樹状細胞(BMDC)がDCIR欠損骨髄細胞の培養において顕著に増加することが示された(図10b)。これらのCD11c陽性細胞の殆どはI-Abを発現したが、活性化マーカーであるCD80 及びCD86 は発現していなかった。培養10日目のBMDCをLPSで48時間パルスすると、DCIR欠損マウス及び野生型マウスの樹状細胞はI-Ab、CD80及びCD86を高発現し、同レベルの成熟が観察された(図10c)。
【0048】
次に、DCIR欠損マウスの骨髄細胞におけるGM-CSF刺激によるSTAT5のリン酸化を解析した。図10dに示すように、GM-CSFによって誘導されるSTAT5の活性化は、DCIR欠損骨髄細胞において顕著に亢進しており、DCIR欠損骨髄細胞のGM-CSFに対する反応性の亢進と合致した。したがって、DCIR欠損骨髄細胞のin vitroにおける樹状細胞分化の亢進は骨髄細胞のGM-CSFシグナルに対する感受性が増大したことによると考えられる。この観察結果と一致して、in vivoにおける樹状細胞の割合も、生理的条件下の若年マウスでは正常であるが、免疫や加齢に伴い増加している。
【0049】
以上詳細に述べたように、本発明では、DCIR欠損(DCIR-/-)マウスを作製し、DCIRが自己免疫性唾液腺炎および関節症に関与することを示した。
【0050】
本発明によって、加齢DCIR欠損マウスが特徴的な自己免疫疾患を自然発症することが示された。12ヶ月齢において、DCIR欠損マウスの血清免疫グロブリンレベルが増加し、野生型マウスと比較して抗核抗体、リウマチ因子及び抗IIC抗体などの自己抗体を高レベルで産生した。また、組織学的解析によりDCIR欠損マウスの唾液腺及び付着部における病理学的変化が観察された。唾液腺へのリンパ球浸潤は、唾液腺が標的となる代表的な慢性自己免疫疾患であるシェグレン症候群(SS)の典型的な兆候である。幾つかのマウス系統、NOD、MRL/lpr及びNZB/W F1は、SSのモデルとして広く受け入れられている。関節リウマチ、複合関節組織疾患(MCTD)、強直性脊椎炎(AS)及び脊椎関節症(SpA)を含む他の自己免疫疾患を持つ患者では限局性唾液腺炎も高い割合で見られ、その発症はリウマチ因子の産生に深く関わっている。これらの結果は、DCIRが免疫系の恒常性の維持に重要であり、DCIRの欠損が自己免疫の発症を引き起こすことを示唆している。
【0051】
加齢DCIR欠損マウスでは、遅発性の強直性関節症の自然発症も観察された。これらのマウスの組織病理学的解析により、炎症性細胞の浸潤を伴う骨及び付着部の浸食性の破壊が観察された。しかしながら、DCIR欠損マウスの病理組織は、HTLV-I-Tgマウス、IL-1Ra-KOマウス、及びCIAマウス等の他の関節リウマチモデルマウスの病理像とは明らかに相違していた。ヒトの関節リウマチと類似する特徴的な滑膜炎を発症する他のモデルマウスとは異なり、DCIR欠損マウスでは付着部炎が第一の異常であり、滑膜炎は希に観察されるだけであった。滑膜炎が関節リウマチの特徴であるのに対し、付着部炎は、強直性脊椎炎(AS)、脊椎関節症(SpA)及び乾癬性関節炎(PsA)等の炎症性リウマチ疾患群に特徴的な兆候である。したがって、DCIRの欠損がAS、SpA 及びPsAに類似した特徴的な炎症性関節炎の発症を引き起こすことが示唆された。
【0052】
本発明では、DCIR欠損マウスにおいてCIAが増悪化したことが示された。II型コラーゲンで免疫した後、DCIR欠損マウスの血清中の抗原特異的IgG1及びIgG3のレベルが非常に増加した。また、抗原特異的なT細胞応答が亢進し、DCIR欠損マウスにおいてIICに対する免疫応答が亢進していることが明らかとなった。この時、DCIR欠損マウスにおける樹状細胞の割合は顕著に増加し、活性化していた。樹状細胞の割合の増加は、加齢したDCIR欠損マウスでも観察されたが、生理的条件下の若年マウスにおいては正常であった。樹状細胞は細胞表面の抗原を提示し、様々な免疫調節性のサイトカインを産生することによってT細胞を活性化するのに重要な役割を果たしているが、本発明によって得られた観察結果は、DCIR欠損マウスにおける樹状細胞の機能亢進が自己免疫の発症の原因となることを示唆している。
【0053】
樹状細胞はGM-CSFにより骨髄幹細胞から分化するので、IIC/CFAによる刺激で産生されるGM-CSFがCIAにおけるDCの増殖に関与していると考えられる。本発明によって、DCIR欠損によるGM-CSFシグナル伝達の感受性の亢進が、in vitroでの骨髄由来樹状細胞の増殖及び分化を促進することが示された(図10)。DCIR欠損骨髄細胞におけるGM-CSF刺激によるSTAT5のリン酸化の亢進は、DCIRがGM-CSFシグナル伝達を抑制的に調節していることを示唆している。ヒトDCIRがSHP-1及びSHP-2をリクルートすることが報告されている。SHP-1はSH2ドメイン含有チロシン脱リン酸化酵素でGM-CSFを含むサイトカインシグナル伝達を負に制御する。さらに、SHP-1欠損のmotheatenマウスは全身性の自己免疫と重篤な炎症を示す。マウスDCIRのITIMが機能的であり、そのアミノ酸配列がヒトDCIRのITIMと同一であることから、マウスDCIRもSHP-1及びSHP-2をリクルートしてGM-CSFシグナル伝達を調節するものと推察される。
【0054】
CIAの際、DCIR欠損マウスではIIC特異的なIgG1およびIgG3サブクラスの抗体産生が亢進していることが明らかとなった。DBA/1系統のマウスではコラーゲン特異的なIgG2aクラスの抗体がCIAの発症に関与することが報告されているが、抗原特異的なIgG2a抗体のレベルは(129xB6)F1雑種背景のDCIR欠損マウスでは特に増加していなかった。DCIR欠損マウスでIL-4、IL-10の産生が顕著に亢進していることを示したが、IL-4及びIL-10は、IgG1及びIgG3のクラススイッチに関与することが知られている。これらの結果からDCIRがTh2反応の調節に関与していることが示唆される。
【0055】
樹状細胞はTh1及びTh2エフェクターT細胞の分化に関係している。細胞内寄生性病原体に晒された樹状細胞はTh1反応を促進するが、ある種の寄生虫は樹状細胞によるTh2細胞分化を促進する。調節性T細胞(Treg)の分化も樹状細胞によって調節され、特定の病原体がTregの産生を誘導することが知られている。したがって、樹状細胞と病原体との相互作用はエフェクターT細胞の特定のサブセットを誘導するのに重要であり、DCIRは特定のT細胞分化に関与する樹状細胞受容体の一つである可能性がある。
【0056】
最近のゲノムワイド連鎖解析は、多くの自己免疫疾患の感受性領域を明らかにした。特に、DCIR遺伝子が存在するマウス6F2サイトバンド、同一染色体であるラット4q42、及びヒト12p13領域は、関節炎、全身性紅斑性狼瘡(SLE)、自発性糖尿病、アテローム性動脈硬化症、脳脊髄炎、喘息又は気道反応性、及びアレルギーをなど幾つかの炎症性疾患と関連している。DCIRの欠損は自己免疫様疾患を引き起こすので、DCIRはそのような炎症性疾患の感受性遺伝子の一つであることも示唆された。
【0057】
(実施例11)
DCIR欠損マウスにおける骨代謝の変化:
骨代謝におけるDCIRの機能を調べるため、12ヶ月齢のDCIR欠損マウスを用い、X線解析、組織切片による解析、pQCT解析を行った。
まず、DCIR欠損マウスにおいては、オスのみで踵関節に強直が観察された。
X線解析により当該欠損マウスの骨格を野生型マウスの骨格と比較したところ、図11に示すように野生型マウスと同様であり、骨格形成は正常であった。
次いで、欠損マウス及び野生型マウスの強直発症部(踵)のX線解析をしたところ、図12に示すように、欠損マウスでは踵関節部において関節破壊が起こり、石灰化領域の増加が見られた。
【0058】
DCIR KOマウス踵関節において、石灰化領域を調べるためにVon Kossa染色、軟骨組織を調べるためにToluidine blue染色を行った。その結果、踵関節部において関節軟骨の増殖がみられ、その軟骨が骨に置き換わっていることが明らかになった(図13)。
次いで、大腿骨での骨量に異常があるかどうかを明らかにするため、12ヶ月齢の個体でpQCTを行った(図14)。その結果、DCIR KOマウスでは骨密度、骨塩量共に減少が見られ、骨量が減少していた(図15)。
即ち、DCIR遺伝子の機能として踵関節では軟骨細胞の増加を伴い骨、石灰化領域の増加が見られ、大腿骨では骨量が減少していることが明らかになった。以上の結果からDCIRは骨代謝や軟骨細胞、骨芽細胞あるいは破骨細胞の分化や増殖の制御に関わっていることが示唆された。このことからDCIRはASやDISHだけでなく骨粗鬆症の良いモデルマウスになると考えられる。
【0059】
(実施例12)
DCIR欠損マウスにおける抗腫瘍免疫効果の測定:
(1)移植癌実験による抗腫瘍免疫効果の評価
抑制性レセプターであるDCIRの欠損により抗腫瘍免疫効果の向上が見られるか否かを、可移植性腫瘍細胞を用いて検討した。
可移植性腫瘍細胞としてMethAを用いた場合、1×106cell/headの MethAをDCIR欠損マウス及び野生型マウスに接種し、腫瘍形成の差を観察した。その結果、発症率に差は見られなかったものの、腫瘍の大きさではDCIR-/-マウスにおいて優位に抑制効果が観察された (図16)。
次いで、可移植性腫瘍細胞株として、繊維肉腫であるBALB/3T3にがん抗原として知られているヒトMUC1を発現させたBALB/3T3 APR-MUC1 (BALB/c 背景)を用いた。BALB/3T3 APR-MUC1 clone16は東北大学加齢研究所により供与され、10% FBS (SIGMA), 50Uペニシリン(明治製菓), 50mg/mlストレプトマイシン(明治製菓), 500mg/ml G418(ナカライテスク)含有RPMI-1640 (SIGMA)で培養し、1週間に2-3回の頻度で継代培養した。
BALB/3T3 APR-MUC1 clone16を1×106cell/head接種したところ触診できる程度(約4mm程度まで)の腫瘍が形成された。この腫瘍の発症率で抗腫瘍免疫効果を評価したところ、DCIR-/-マウスでは腫瘍退縮が有意に促進された(図17)。
【0060】
(2)DCIR-/-マウスの樹状細胞における細胞障害活性の評価
腫瘍細胞株BALB/3T3 APR-MUC1 clone16を用いた細胞傷害性T細胞(CTL)の誘導は以下のように行った。腫瘍細胞を8000radのγ線照射により不活化し、1*107cells/ headで1日目と10日目にマウス腹腔内に接種した。免疫した5日後にマウスの脾臓を採取し、脾臓細胞を調製した。得られた脾臓細胞を10wellプレートで不活化した腫瘍細胞と1×107 : 1×106の割合になるよう共培養し、3日間の再刺激を行った。
標的細胞を100μCiクロム酸ナトリウム,51Cr (GEヘルスケアバイオサイエンス)で1時間、37℃で標識した後、RPMI-1640 (10% FBS, 10mM 2-Mercaptoethanol)に懸濁した。再刺激した脾臓細胞からLympholyte-M (CEDARLANE)でリンパ球を分離し、96well round-bottomプレート (IWAKI)で標識した標的細胞と共培養した。4時間後、放出された51Crを放射能活性としてMicro Beta (Pharmacia)で検出することによって細胞障害活性を測定した。
【0061】
BALB/3T3 APR-MUC1 clone16を用いて細胞傷害活性を測定したところ、DCIR-/-マウスで細胞傷害活性が亢進していた。この時、ネガティブコントロールの細胞として用いたMethAに対する傷害活性はみられなかった(図18)。従って、DCIR-/-マウスにおいて、特異的な細胞傷害活性が有意に亢進していることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】(a)マイクロアレイ解析による関節炎を発症したIL-1Ra-/-マウス及びHTLV-T-Tgマウスの関節におけるDCIR mRNAの発現量を示すグラフである。(b)ノーザンブロット解析によるDCIR mRNAの発現を示す図である。
【図2】(a)DCIR-/- マウスの作製における、マウスDCIR 部位(野生型アレル)、DCIRターゲティング構築物(ターゲティングベクター)、及び予測される変異DCIR遺伝子(変異体アレル)の構造を示す模式図である。エキソンはボックスで示す。DCIR遺伝子のエキソン1及び2は、ネオマイシン耐性(Neo)遺伝子で置換した。ジフテリア毒素(DT)遺伝子は、ネガティブセレクションのためにゲノムフラグメントの3’末端に連結した。ターゲティングアリルに見られる外部相同性領域をサザンブロット解析のためのゲノムプローブとして使用した。スクリーニングのためのサザンブロット解析はBanHIを用いて実施した。(b)ターゲティングしたESクローンのBanHI切断ゲノムDNAと5’プローブを用いたサザンブロットハイブリダイゼーション解析の結果を示す図である。(c)EcoRI切断ゲノムDNAと3’プローブを用いたサザンブロットハイブリダイゼーション解析の結果を示す図である。(d)EcoRI切断ゲノムDNAとNeoプローブを用いたサザンブロットハイブリダイゼーション解析の結果を示す図である。(e)マウスのDCIR領域の正しいターゲティングを確認するゲノムサザンブロット分析結果を示す図である。(f)ノーザンブロット解析によるDCIR mRNAの発現を示す図である。
【図3】DCIR欠損マウスにおけるリンパ球の特徴を示す図である。野生型(WT)及びDCIR欠損マウスの胸腺細胞及び脾細胞をフローサイトメトリー解析した。胸腺細胞及び脾細胞は、CD4及びCD8の発現について解析し、さらに脾細胞はCD3及びB220の発現についても解析した。
【図4】樹状細胞に依存するT細胞の増殖を示す図である。(a)抗原非特異的な刺激(抗CD3抗体)存在下で、野生型マウスからの脾臓由来T細胞と野生型(WT)及びDCIR欠損(KO)マウス由来の樹状細胞とを共培養したときのT細胞によるトリチームチミジン取り込み量を示すグラフである。(b)BALB/cAマウス(H-2d)由来のT細胞を、(129/Sv x C57BL/6)F1背景のマウス(H-2b)の野生型(WT)及びDCIR欠損(KO)マウス由来の樹状細胞と共培養したときのT細胞によるトリチームチミジン取り込み量を示すグラフである。
【図5】DCIR欠損マウスにおける自己抗体産生の亢進を示すグラフである。12ヶ月齢のDCIR欠損マウス(n=19) 及び野生型同腹子(n=19)の血清抗体レベルをELISA により測定した。(a)全IgM、IgG及びIgEレベルを示す。(b)自己抗体のレベルを示す。抗核抗体(ANA)、リウマチ因子(RF IgM及びRF IgG)、及び抗IIC抗体のレベルを示す。平均値及びSEMを示す。*: p<0.05;**:p<0.01。
【図6】加齢DCIR欠損マウスにおける樹状細胞の蓄積とT細胞の活性化を示す図である。(a)リンパ節細胞のCD11cおよびI-Abを染色した図である。図中の数字は特定のゲート中の細胞の割合を示す。下のヒストグラムはリンパ節細胞中のCD11c陽性群を示す。(b)4ヶ月齢および12ヶ月齢以上のマウスにおけるリンパ節細胞中のCD11c陽性細胞の割合をフローサイトメトリーで解析した結果を示すグラフである。平均値及びSEMを示す。*: p<0.05。(c)12ヶ月齢の野生型およびDCIR欠損マウス由来のリンパ節細胞のCD4及びCD62LまたはCD44を染色した図である。(d)CD及びCD62LまたはCD44を染色した図である。
【図7】DCIR欠損マウスにおけるCIAの増悪化を示すグラフである。トリIICをCFAと共に懸濁し、マウス尾底部の複数箇所に経皮下に免疫した。CIAの発症は追加免疫なしの条件で試験した。発症率(a)及び重症度(b)を示す。平均値及びSEMを示す。グラフは独立した2回の実験結果を合わせたデータである。*:(a)ではc2検定、(b)ではMann-WhitneyのU検定でp<0.05。
【図8】CIA誘導時のDCIR欠損マウスにおける免疫応答の亢進を示す図である。(a)IIC/CFA免疫後のDCIR欠損マウスにおけるIgM及びIgGの血清レベルを示したグラフである。(b)IIC特異的なIgGサブクラスのレベルを示すグラフである。免疫前(Pre)とIIC/CFA免疫後3週間(3W)の野生型マウス(WT(n=12))及びDCIR欠損マウス(KO(n=10))の血清を回収し、IIC特異的抗体レベルをそれぞれのIgGサブクラスについてELISAで測定した。(c)IIC特異的なT細胞の増殖応答を示すグラフである。IIC/CFA免疫後1週間の野生型マウス(WT(n=9))及びDCIR欠損マウス(KO(n=9))からリンパ節細胞を回収して、100 mg/mlの変性トリIICの非存在下(Med)、存在下(CII)で72 h培養し、トリチームチミジンの取り込みを測定した。グラフは独立した3回の実験結果を合わせたデータを示す。(d)リンパ節細胞からのサイトカイン産生を示すグラフである。(c)で示した系における野生型マウス(WT(n=5))及びDCIR欠損マウス(KO(n=5))のリンパ節細胞培養上清中のIFN-g、IL-4及びIL-10レベルをELISAで測定した結果である。平均値及びSEMを示す。*:p<0.05; **:p<0.005。
【図9】IIC/CFA免疫後のDCIR欠損マウスにおける樹状細胞の増殖亢進を示す図である。IIC/CFA免疫後1週間の野生型マウス(WT(n=3))及びDCIR欠損マウス(KO(n=3))からリンパ節細胞を回収して、100 mg/mlの変性トリIICの非存在下(Med)、存在下(CII)で72 h培養した。(a)CD11cを染色しFACS解析した結果を示すグラフである。平均値及びSEMを示す。*:p<0.05; **:p<0.01。(b)リンパ節細胞を変性トリIICの非存在下(Med)、存在下(CII)で72 h培養した後、CD11c及びI-Ab、CD80、またはCD86を二重染色し、フローサイトメトリーで解析した結果を示す図である。図中の数値は示したゲート中の細胞のパーセンテージを示す。
【図10】DCIR欠損骨髄細胞(DCIR-/- BMC)のGM-CSFへの反応性の亢進を示した図である。(a)野生型マウス(WT)及びDCIR欠損マウス(KO)由来の骨髄細胞をGM-CSFを添加して培養し、非接着性骨髄由来細胞数の8日目及び10日目の計測結果を示すグラフである(n=4)。*:p<0.05; **:p<0.01。(b)培養開始後8日目の非接着性骨髄由来細胞のCD11c及びI-Abを染色し、フローサイトメトリーによって解析した図である。骨髄由来樹状細胞と考えられる細胞をゲートで示し、これらの全細胞中のパーセンテージを示す。(c)培養開始後10日目の骨髄由来樹状細胞をLPSの非存在下(シェードヒストグラム)、存在下(オープンヒストグラム)で48 h培養し、CD11c陽性細胞のI-Ab、CD80、またはCD86を染色し、フローサイトメトリーで解析した図である。(d)骨髄細胞を図に示す濃度のGM-CSFで20分処理して全細胞溶解液を調整し、電気泳動後リン酸化STAT5、及びSTAT5をそれぞれ抗リン酸化STAT5抗体または抗STAT5抗体で検出した。
【図11】実施例11におけるDCIR欠損マウス及び野生型マウスの骨格を示すX線写真である。
【図12】実施例11におけるDCIR欠損マウス及び野生型マウスの強直発症部(踵)のX線写真である。
【図13】実施例11におけるDCIR欠損マウスの踵関節をVon Kossa染色(左側)及びToluidine blue染色(右側)したときの組織断面写真である。
【図14】DCIR欠損マウスの大腿骨におけるpQCT分析の様子を示す写真である。
【図15】pQCT分析から得られたDCIR欠損マウス及び野生型マウスの骨密度及び骨塩量を示すグラフである。骨密度は選択領域の平均密度であり、骨塩量は選択領域の骨が1mm厚さであった場合の骨塩量である。
【図16】MethAをDCIR欠損マウス及び野生型マウスに接種した場合の、腫瘍の大きさ(A)及び発症率(B)の変化を示すグラフである。WT:n=12、KO:n=11;**<0.05、*<0.01
【図17】BALB/3T3 APR-MUC1 clone16をDCIR欠損マウス及び野生型マウスに接種した場合の発症率(B)の変化を示すグラフである。n=8、*<0.05
【図18】BALB/3T3 APR-MUC1 clone16を用いて細胞傷害活性を測定した結果を示すグラフである。*<0.01
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹状細胞免疫受容体(DCIR)遺伝子を欠損(ノックアウト(KO))した関節症等を含む自己免疫疾患や骨疾患のモデル動物に関する。さらに本発明は、当該モデル動物を用いた疾患治療/予防薬のスクリーニング方法、さらには当該スクリーニング方法によって得られる自己免疫疾患の診断及び/又は治療にも関する。
【背景技術】
【0002】
関節リウマチ(RA)は、全身性の慢性炎症性疾患であり、主に多くの関節における滑膜に影響し、滑膜の炎症は軟骨破壊、骨侵食、ひいては関節変形及び関節機能の喪失をもたらす。この疾患は自己免疫性であり、滑膜表層及び関節周辺腔液へのT細胞、B細胞、マクロファージ及び好中球の浸潤を特徴とする。
【0003】
本発明者等は、以前に胚の遺伝子操作技術を用いて関節リウマチについての2種類のマウスモデルを確立した。これらは、ヒトT細胞白血病ウイルスI型トランスジェニック(HTLV-I-Tg)マウス(特許文献1)及びIL-1受容体アンタゴニスト欠損(IL-1Ra-/-)マウス(特許文献2)であり、自己免疫と関節炎を自発的に発症する。これらの動物における感染した関節の病理組織はヒトの関節リウマチに極めて類似していた。本発明者等は、マイクロアレイを用いてこれら2つの関節炎モデルマウスの遺伝子発現を包括的に解析したところ、HTLV-I TgマウスとIL-1Ra-/-マウスとの間で遺伝子発現に強い相関があることを見いだした。即ち、これら2つのマウスモデルは病因学的に明らかに相違しているにもかかわらず、組織病理学的のみならず遺伝子発現パターンも互いに類似していた。
【0004】
即ち本発明者等は、これらの関節リウマチ(RA)モデルマウスにおいて、染色体6F2サイトバンドに存在するいくつかの遺伝子の発現が有意に亢進することを新たに発見した。これらの遺伝子は、カルシウム依存性(C型)レクチンスーパーファミリー遺伝子を含んでいた。C型レクチン受容体(CLR)はパターン認識分子であり、細胞外領域の糖鎖認識ドメイン(CRD)によって自己抗原又は病原体細胞壁上の特定の糖鎖構造を認識する。マクロファージマンノース受容体(MMR; CD206)、樹状細胞特異的ICAM3-グラビング非-インテグリン(DC-SIGN; CD209)、L-SIGN及びβ-GR(Dectin-1)を含むCLRは、ウイルス、バクテリア、真菌及び幾つかの寄生虫などの様々な微生物の認識に関与している。興味深いことに、C型レクチン受容体のシグナル伝達はToll-like受容体(TLR)のシグナル伝達によって促進されることが報告され、これら2つのシグナル伝達経路の間のクロストークが示唆されている。またC型レクチン受容体は樹状細胞の遊走及びそれらのリンパ球との相互作用も調節する。ヒトCD94/NKG2 及びマウスLy49等のNK細胞上の他のメンバーは、自己を非自己から識別するためのMHCクラスIの認識に関連している。即ち、CLRは、自然免疫及び獲得免疫の両方において役割を担っている。CLR類の幾つかは、それらの細胞質領域に、免疫受容体チロシンベース抑制モチーフ(immunoreceptor tyrosine-based inhibitory motif (ITIM))又は免疫受容体チロシンベース活性化モチーフ(immunoreceptor tyrosine-based activating motif (ITAM))といったシグナル伝達モチーフを有しており、樹状細胞機能発現における調節的な役割が示唆されている。
【0005】
樹状細胞(DC)は主要な抗原提示細胞(APC)であり、免疫系の調節において中枢的な役割を担う。近年、幾つかのCLR類が樹状細胞の表面に発現されるとのキャラクタリゼーションがなされた。I型のCLR類メンバーであるMMR (CD206)及びDEC-205 (CD205)は、そのN末端に複数のカルシウム依存性細胞外糖鎖認識ドメイン(CRD)を有する。樹状細胞上に発現するCLRの第2のファミリーは、C末端に唯一のCRDを持つII型タンパク質であり、それらはDC-SIGN (CD209)、Langerin (CD207)、 CLEC-1、Dectin-1 (β-GR)、Dectin-2、DLEC、及びDCIRを含む。
【0006】
DCIRはLLIRとも呼ばれ、ヒト及びマウスの主に樹状細胞上に発現するII型膜タンパク質である。この分子は細胞外ドメインに一つの糖鎖認識ドメイン(CRD)を持ち、細胞内ドメインにコンセンサスITIMを持つ。ITIMは細胞内に抑制的シグナルを伝達するので、マウスDCIRは抑制的な受容体として働き、樹状細胞機能を調節することが示唆された。しかしながら、in vivoにおけるDCIRの機能的役割に関する具体的証拠は今日まで提示されていない。
【0007】
【特許文献1】特開平6−38652号公報
【特許文献2】特開2000−209980号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
即ち、本発明は、自己免疫疾患である関節リウマチについて確立された2つのマウスモデルにおいて共通して発現が亢進された樹状細胞免疫受容体(DCIR)に着目してなされたものであり、関節炎を含む自己免疫疾患の発症におけるDCIRの役割を解明すべくDCIR欠損(KO)マウス(DCIR-/-マウス)を作製し、当該欠損マウスの疾患動物モデルとしての有用性を実証し、当該欠損マウスを用いた自己免疫疾患の治療あるいは予防に有効な薬剤のスクリーニング法を提供し、さらには当該スクリーニング法によって同定されうる自己免疫疾患の治療・予防剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
即ち、本発明は、
(1)樹状細胞免疫受容体(DCIR)タンパク質をコードする遺伝子の一部又は全部が染色体上で欠損したことを特徴とする非ヒト疾患モデル動物を提供する。
また、本発明は、
(2)前記疾患モデル動物を用いた、骨髄幹細胞由来細胞の分化及び増殖促進又は抑制する物質又は関節炎の発症抑制物質のスクリーニング方法、並びに当該スクリーニング方法で同定される化合物又はその塩を含有してなる自己免疫疾患の予防・治療剤を提供する。
【0010】
さらに本発明は、
(3)樹状細胞免疫受容体(DCIR)タンパク質の活性を促進する物質、あるいは、樹状細胞免疫受容体(DCIR)タンパク質をコードする遺伝子の発現を促進する物質を含有してなる自己免疫疾患の予防・治療剤、並びに、樹状細胞免疫受容体(DCIR)タンパク質をコードする遺伝子又はその部分配列をコードするDNAを含有してなる自己免疫疾患の診断薬を提供する。
さらに本発明は、
(4)樹状細胞免疫受容体(DCIR)タンパク質と同一又は実質的に同一のアミノ酸配列を有するペプチドもしくはその部分ペプチドまたはその塩を含有することを特徴とする自己免疫疾患の予防・治療剤のスクリーニング用キット、並びに、樹状細胞免疫受容体(DCIR)タンパク質をコードする遺伝子と同一又は実質的に同一の塩基配列またはその部分配列をコードするDNAを含有することを特徴とする自己免疫疾患の診断用キットを提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るDCIR欠損(KO)マウス(DCIR-/-マウスと略記)では、コラーゲン誘導関節炎(CIA)に対する感受性が亢進しており、当該マウスは関節炎を含む自己免疫疾患の疾患モデル動物として有用である。また、加齢したDCIR欠損マウスが、腱、靱帯と骨の付着部における炎症(付着部炎)や唾液腺炎等の自己免疫様疾患を自発的に発症することから、免疫系におけるDCIRの調節的役割が初めて明らかにされ、本発明の疾患モデルマウスは、関節リウマチ(RA)、強直性脊椎炎(AS)、特発性全身性骨硬化症(DISH)、あるいはシェグレン症候群(SS)等の自己免疫疾患モデルなどとして極めて有用である。
また、本発明の疾患モデル動物は、野生型に比較して踵関節における石灰化領域の増加及び大腿骨における骨量の減少が見られるので、骨疾患のモデル動物としても使用しうる。
さらに、DCIRを欠損した本発明のモデル動物においては抗腫瘍免疫効果の向上が観察された。DCIRは樹状細胞の抑制性の機能調節に関与していることにから、DCIRタンパク質又はその等価物は、ガン免疫療法における賦活剤となりうる。
本発明のモデル動物を用いることによって、DCIRの生理学的機能の解析、自己免疫発症機構の解析が可能になる。また、RAやAS、DISHあるいは骨粗鬆症といった骨・軟骨疾患の発症メカニズムを解明し、より有効な治療/診断の方法及び薬剤を開発することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の疾患モデル動物は、齧歯目動物、中でもマウスであるのが好ましい。当該モデル動物では、関節炎等の自己免疫疾患が自然発症するため、自己免疫疾患のモデル動物として有用である。本発明のモデル動物を用いて研究できる自己免疫疾患としては、例えば、関節リウマチ(RA)、強直性脊椎炎(AS)、シェグレン症候群(SS)、又は特発性全身性骨硬化症(DISH)等が挙げられるが、これらに限られるわけではない。また、前記ASやDISH等の自己免疫性骨疾患のみならず、骨粗鬆症等の代謝関連骨疾患のモデルとしても使用できる。
【0013】
本発明のスクリーニング方法は、例えば、前記の疾患モデル動物に被検物質を投与し、又は、当該動物由来の組織、器官、もしくは細胞を被検物質と接触させ、当該動物又は組織、器官もしくは細胞における骨髄幹細胞由来細胞の分化及び増殖を測定及び評価することを含み、骨髄幹細胞由来細胞の分化及び増殖促進又は抑制する物質を同定することができる。あるいは、例えば、前記の疾患モデル動物に被検物質を投与し、コラーゲン誘導関節炎の発症率及び関節炎スコアを測定、評価すること含み、関節炎の発症抑制物質を同定することができる。
【0014】
本発明のスクリーニング方法は、前記疾患モデル動物で得られた測定及び評価結果を野生型の同種動物で得られた結果と比較することをさらに含むのが好ましい。
前記のスクリーニング方法を実施することにより、関節リウマチ(RA)、強直性脊椎炎(AS)、乾癬性関節炎(PsA)、シェグレン症候群(SS)、及び特発性全身性骨硬化症(DISH)を含む自己免疫疾患又は骨粗鬆症の予防及び治療に有効な物質を同定することができる。
【0015】
また、樹状細胞免疫受容体(DCIR)遺伝子を欠損した本発明の疾患モデル動物において自己免疫疾患が自然発症又は増悪化したことから、当該疾患の予防又は治療においてDCIRタンパク質が有効であることが予測される。従って、本発明は、樹状細胞免疫受容体(DCIR)タンパク質をコードする遺伝子の発現を促進する物質を含有してなる自己免疫疾患又は骨粗鬆症の予防・治療剤を提供する。
さらに、樹状細胞免疫受容体(DCIR)タンパク質を欠損した動物において自己免疫疾患の発症がみられることから、当該DCIRタンパク質をコードする遺伝子又はその部分配列をコードするDNAは自己免疫疾患又は骨粗鬆症の診断薬として有効である。即ち、本発明は、当該DNAを含有する自己免疫疾患又は骨粗鬆症の診断薬も提供する。
【0016】
また、樹状細胞免疫受容体(DCIR)タンパク質と同一又は実質的に同一のアミノ酸配列を有するペプチドもしくはその部分ペプチドまたはその塩は、候補物質とともに培養して、当該候補物質の有無におけるDCIRタンパク質の活性を比較することにより、DCIRタンパク質の活性を促進する物質、即ち自己免疫疾患又は骨粗鬆症の予防・治療剤をスクリーニングすることができ、本発明はそのためのキットを提供する。
【0017】
さらに、樹状細胞免疫受容体(DCIR)タンパク質をコードする遺伝子と同一又は実質的に同一の塩基配列またはその部分配列をコードするDNAをプローブとして使用し、DCIRをコードするDNA の有無あるいはその発現量などを測定することにより、自己免疫疾患又は骨粗鬆症に対する易罹患性を診断することができ、本発明はそのためのキットを提供する。
【0018】
本発明は、樹状細胞免疫受容体(DCIR)が自己免疫疾患の発症や増悪に関連していることを初めて明らかにした。即ち、樹状細胞免疫受容体(DCIR)は免疫系の抑制性調節因子の一つであり、生理状態において免疫反応を抑制する役割を果たしている。従って、逆に樹状細胞免疫受容体(DCIR)タンパク質(特に可溶性細胞外蛋白部分)と同一又は実質的に同一のアミノ酸配列を有するペプチドもしくはその部分ペプチドまたはその塩を投与することにより、免疫系の抑制シグナルが除かれ、免疫系が活性化されることが期待される。この結果、種々のウイルス、細菌、カビ、原虫などの感染症の治療薬としてこれらを用いることができる。
また、近年、ガン免疫療法において、樹状細胞に腫瘍細胞や抗原を体外で取り込ませ活性化・成熟させた状態で体内に投与する方法が効果的な免疫反応の惹起につながるとして注目を集めており、この方法は自己の樹状細胞を用いるために副作用の危険性が低下するという利点もある。従って、DCIRタンパク質のペプチド又はその等価物類はガン免疫療法における賦活剤としても作用し得る。
【実施例】
【0019】
以下、具体例に則して本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら具体例に限定されるものではない。
実験方法
マウス:
遺伝子発現プロファイリング実験には、既述したHTLV-I-Tgマウス及びIL-1Ra-/-の2つのマウスモデルを用いた。HTLV-I-Tgマウスは、HTLV-I ゲノムのLTR-env-pX-LTR 領域を(C3H/Hen x C57BL/6J) F1胚に注入することにより作製し、BALB/cAマウス(CLEA Japan., Tokyo, Japan)に20世代戻し交配した。これらのマウスは4週齢で関節炎を自然発症し、3ケ月齢で60%、6ケ月齢で80%が発症する。以下の実施例では、重篤な関節炎(スコア3)を発症したHTLV-I-Tg (TS)(雌、6〜9週齢)を用いた。IL-1Ra-/-マウスは、相同組換えにより作製したIL-1Ra-/-マウスをBALB/cA マウスに8世代戻し交配した。これらのマウスは5週齢で関節炎を自然発症し、8週齢及び13週齢までに、各々80% 及び約100%のマウスが発症する。以下の実施例では、重篤な関節炎(スコア3)を発症したIL-1Ra-/-マウス(KS)(雄、13 週齢)を用いた。また、野生型同腹子(WT)をコントロールとして用いた。
【0020】
関節炎の重篤度は、各足について、発赤及び腫脹の程度を次のように0から3のスコアでランク付けした:スコア0 =正常、スコア1 =関節の軽い腫脹及び/又は足蹠の発赤、スコア2 =顕著な関節腫脹、スコア3 =関節の重篤な腫脹及び強直。なお、全てのマウスは、東京大学医科学研究所のクリーンルームで、特定病原体未感染(SPF)環境下で飼育した。また、全ての実験は動物実験に関する倫理ガイドライン及び遺伝子操作に関する安全基準に従って実施した。
【0021】
ノーザンブロットハイブリダイゼーション解析:
関節組織を即座に液体窒素中で凍結し、-80℃で保存した。凍結組織はphyscotron (Microtech, Chiba, Japan)でホモジナイズし、グアニジンチオシアネート-フェノール-クロロホルム抽出法により全RNAを調整し、オリゴ(dT)-セルロースカラム用いてpoly (A)+ RNA を精製した。各標本について4、5匹のマウスのRNAをプールした。Poly (A)+ RNA を1.3% 変性アガロースゲルで電気泳動し、ナイロン膜 (Gene Screen Plus, NEN Life Science, Boston, MA, USA) に転写した。ハイブリダイゼーションは、メガプライムDNAラベリングシステム(Amersham, Arlington Heights,IL,USA) 及び32P-dCTP (3,000 Ci/mmol; NEN Life Science, Boston, MA, USA)を用いて標識した32P-標識DNAプローブで42℃、一晩のプロトコルで実施した。放射活性は、BAS-2000システム(Fuji Photo Film Co., Tokyo, Japan)を用いて測定した。マウスDCIRプローブは、関節炎を発症したHTLV-I-Tgマウスの関節由来cDNAからPCRにより増幅した。PCRプライマーは次のものを使用した。
5'-CAT TTC CCT TAT CTC GCC CTG G-3' (配列番号:4)
5'-GCA GCA TGA ATG TCC AAG ATC C-3'(配列番号:5)
【0022】
DCIR欠損(Dcir-/-)マウスの作製:
DCIRを含むゲノムDNAの配列を、Celera Genomics(Rockville, MD, USA)のマウスゲノムデータベースから得、5.5-kbフラグメントからなる5’ホモロジー領域及び2.5-kbフラグメントからなる3’ホモロジー領域をES細胞(E14.1)由来のゲノムDNAからPCRによって増幅した。PCRプライマーの組は次の通りである。
5'-アームについて:
5'-GAT TAA AAG CGG CCG CCA GAA TTC GTT TGA GAT CAG GC-3' (配列番号:6)
5'-CTG GAT CCG TCA GAA GAG AGC CTT GTT CC-3'(配列番号:7)
3'-アームについて:
5'-CCA TCG ATG AAG AGA GGT TCC ACT CTA GC-3' (配列番号:8)
5'-TTA TCG ATG TCA ACT ACC TTT GCA TTG GG-3'(配列番号:9)
【0023】
ターゲティングベクターは、ITIMを含む細胞内ドメイン及び膜貫通領域を含有する第1及び第2エキソンをコードするゲノムフラグメントを、PGK1プロモーター制御下にネオマイシン耐性遺伝子(Neo)を発現するフラグメントで置換することにより構築した。また、ネガティブセレクションのためにMC1プロモーター制御下にジフテリア毒素(DT)を発現するフラグメントを3’末端に連結した。ターゲティングベクターをES細胞にエレクトロポレーションで導入し、G418で選択した。672個のネオマイシン耐性ESクローンをピックアップし、5’プローブを用いたサザンブロットハイブリダイゼーション解析によって660クローンをスクリーニングした。
スクリーニングに用いた5’プローブは以下のプライマーで増幅した。
5'-TAA CAC TGA GGG AAG ATG CTA C-3'(配列番号:10)
5'-TCT CAT TCT CAC TCT CAC TCT C-3'(配列番号:11)
【0024】
サザンブロットハイブリダイゼーション解析によって96.2%のクローンが判定され、2つのターゲティングESクローンを同定した(ターゲティング効率:0.3%)。これらのターゲッティングクローンは3’及びNeoプローブにより確認した。
3’プローブは以下のプライマーで増幅した。
5'-AGC CAT GAT AAC AGA CCC-3' (配列番号:12)
5'-TGA TAT GGG GTC TGG TAC G-3'(配列番号:13)
Neoプローブはネオマイシン耐性遺伝子のNarI-XbaI フラグメントとした。核型分析の結果、両クローンの約80%の細胞は正常な40染色体を有していた。キメラマウスを凝集法によって作製し、雄のキメラマウスを野生型のC57BL/6J雌マウスと交配させ、被毛色によって生殖細胞系列への伝播を判定した。DCIR変異についてのヘテロ接合マウス同士を交配し、同型接合マウスを産出した。以下の実施例では(129/Sv x C57BL/6)F1遺伝背景のDCIR欠損マウス及び同腹子を用いた。
DCIR欠損マウスの遺伝子タイピングは以下のPCRプライマーを用いて実施した。
共通プライマー:5'-AAG TGT CCC CTC TTG TAC TCT GTG-3'(配列番号:14)
野生型プライマー:5'-CAA AAT TCT GTC AAG CGT AGA GGG G-3'(配列番号:15)
変異体プライマー:5'-CAT TAT ACG AAG TTA TCT CGA GTC GC-3'(配列番号:16)
共通プライマー及び野生型プライマーは野生型アレル(1.3 kb)の検出に使用し、共通プライマー及び変異体プライマーは変異体アレル(0.9 kb)の検出に使用した。
【0025】
組織病理検査:
12ヶ月齢の野生型マウス及びDCIR欠損マウスをエーテル麻酔し、中性緩衝10%ホルマリン溶液で還流固定した。脳、心臓、大動脈、肺、気管、膵臓、肝臓、脾臓、腋窩リンパ節、顎下腺及び耳下腺、腸、胃、腎臓、及び生殖器を含む主要な器官及び組織を取り出し、組織病理学的検査に供した。足、膝、手首及び胸椎を含む関節組織は10%蟻酸を用いて脱灰してからパラフィン包埋した。各組織について2〜3 mmの切片を作製し、ヘマトキシリン及びエオジンを用いて染色した。
【0026】
フローサイトメトリー解析:
各細胞をFITC、PE又はビオチン修飾の下記モノクローナル抗体(mAb)で染色し、フローサイトメトリー解析を行った。CD11c (HL3)、I-Ab (AF6-120.1)、CD3 (145-2C11)、CD45R/B220 (RA3-6B2)、CD4(RM4-5)、CD8(53-6.7)、CD62L(MEL-14)、CD44(IM-7)に特異的なハムスター、マウス又はラットのmAbは、BD PharMingen (San Diego, CA, USA)から購入した。マウスのCD80 (RMMP2)、CD86 (RMMP1) に特異的なラットmAbはImmunotech (Marseille, France)から購入した。PE修飾ストレプトアビジン(PharMingen)はビオチン修飾抗体の二次染色に用いた。細胞表面の染色は標準的なプロトコルに従って行い、解析はFACSCalibur 及び CellQuest(Becton Dickenson, Franklin Lakes, NJ, USA)またはFlowJo(Tree Star, Inc., Ashland, OR)ソフトウェアを用いて行った。
【0027】
増殖解析:
抗原特異的な応答を調べるために、野生型マウスからThy1.2陽性T 細胞を調整し、野生型マウス及びDCIR欠損マウスの脾臓からCD11c陽性樹状細胞を、CD90 (Thy1.2)マイクロビーズ又はCD11cマイクロビーズ(MiltenyiBiotech, Bergisch Gladbach, Germany)を用いた磁気細胞分離により精製した。精製したThy1.2陽性T 細胞(2×105 cells)及び CD11c陽性樹状細胞(2 x104 cells)を、抗CD3 抗体(145-2C11; BD PharMingen)を添加して3日間共培養し、トリチームチミジン(0.25 μCi/ml; Amersham, Buckinghamshire, England)を6時間取り込ませた。次に、細胞はMicro 96 cell harvester(Skatron, Lier, Norway)ガラスファイバー濾紙上に回収し、Micro Beta (Pharmacia Biotech, Piscataway, NJ)を用いてトリチームチミジン放射活性を測定した。
同種異系混合白血球反応を調べるために、BALB/cマウスからCD90(Thy1.2)マイクロビーズを用いてThy1.2陽性T細胞を磁気細胞ソーティングにより精製した。また、野生型マウス及びDCIR欠損マウスの骨髄細胞から樹状細胞を誘導した。樹状細胞はマイトマイシンC処理してから、Thy1.2陽性T細胞と3日間共培養し、トリチームチミジンを6時間取り込ませてその放射活性を測定した。
【0028】
コラーゲン誘導関節炎:
5 mg/ml熱殺傷M.tuberculosis(H37RA; Difco)を追加したフロイント完全アジュバント(Difco Laboratories, Detroit, MI)に1 mg/mlトリII型コラーゲン(IIC; Sigma-Aldrich, St. Louis, MO)を懸濁し、マウス尾底部の皮下複数箇所に免疫した。関節炎の誘導は追加免疫なしで実施した。各関節は、数日ごとに腫脹及び発赤について検査し、各手足について重篤度を0~3にランク付けした(スコア0 =変化なし;スコア1 =関節の軽い腫脹及び/又は足蹠の発赤;スコア2 =関節の顕著な腫脹;スコア3 =関節の重篤な腫脹及び強直)。関節炎の組織学的評価のために、関節組織を10%中性緩衝ホルマリン溶液で固定し、5%蟻酸で脱灰後パラフィン包埋した。各組織について4 mmの切片を作製し、ヘマトキシリン及びエオジンを用いて染色した。
【0029】
抗体測定:
コラーゲン特異的抗体の測定には10 mg/mlトリIICを、血清中の抗体レベルの測定には、ウサギ抗マウスIgM(2 mg /ml; Zymed)、IgG(8.7 mg /ml; Zymed)、またはIgE(2 mg /ml; PharMingen)を、自己抗体の測定には、熱変性ウサギIgM、IgG(50 mg /ml; Zymed)、またはトリIIC(20 mg/ml; Sigma)をそれぞれFalcon 3912 Micro Test IIIフレキシブルアッセイプレート(BD Bioscience, Oxnard, CA)に4℃で一晩コーティングした。PBSで洗浄後、希釈した血清サンプルを室温で1時間インキュベートした。PBS-Tweenで洗浄後、アルカリホスファターゼ(AP)修飾ヤギ抗マウスIgM、IgG、IgE、IgG1、IgG2a、IgG2b及びIgG4を室温で1時間インキュベートし、AP活性をSubstrate Phosphatase SIGMA104(Sigma-Aldrich)を用いてELISAマイクロリーダー(MTP-120; Colona, Tokyo, Japan)により測定した。抗核抗体の測定のためには、マウス核抗原コーティングプレート(Alpha Diagnostic, Inc., San Antonio, TX)を用いて希釈したマウス血清をインキュベートし、西洋わさびペルオキシダーゼ(HRP)修飾ヤギ抗マウスIgGを反応させた後、TMB基質を用いてHRP活性を測定した。
【0030】
コラーゲン特異的増殖応答及びサイトカイン産生:
IIC/CFA免疫7日後にリンパ節を回収し、単一細胞懸濁液を調製した。リンパ節細胞を熱変性IICの非存在下あるいは存在下で3日間培養し、トリチームチミジン(0.25 mCi/ml)を6時間取り込ませてトリチームチミジン放射活性を測定した。サイトカイン産生の測定には、コラーゲン特異的増殖応答における培養上清を3日後に収集し、BD OptiEIA ELISA Set(BD PharMingen)を用いてIFN-g、IL-4、及びIL-10レベルを測定した。
【0031】
骨髄細胞由来樹状細胞の調製:
骨髄細胞由来樹状細胞は大腿骨及び脛骨の骨髄から調製した。簡潔には、2×105 cells/mlの骨髄細胞を20 ng/mlの組換えマウスGM-CSF(PeproTech, London, UK)を添加した10% FCS- RPMI-1640で培養した。3日目に20 ng/mlのGM-CSFを含む倍量の新鮮な培地を加え、6日及び8日目に、培地上清の半分を回収して遠心分離し、細胞を10 ng/mlのGM-CSFを含む新鮮な培地に再懸濁し、元のプレートに戻した。10日目の非接着性細胞を骨髄細胞由来樹状細胞とした。さらに、骨髄細胞由来樹状細胞の完全な成熟のために、10日目の非接着性細胞を回収し、10 ng/mlのGM-CSF及び1 mg/ml LPS(Sigma)を含有する新鮮培地中に再懸濁した。この細胞を更に2日間培養し、成熟樹状細胞とした。
【0032】
ウエスタンブロット解析:
骨髄細胞は大腿骨及び脛骨から調整し、20 ng/ml 組換えマウスGM-CSFを添加した無血清RPMI-1640培地で一晩培養した。これらの細胞を洗浄し、GM-CSFを添加しない無血清培地に再懸濁した。6時間飢餓状態にした後、様々な濃度のGM-CSFとフォスファターゼ阻害剤カクテルII(Sigma)で処理し、全細胞溶解液を抗リン酸化STAT5抗体(Cell Signaling, Denvers, MA)および抗STAT5抗体(Santa Cruz Biotechnology, Inc., Santa Cruz, CA)を用いた免疫ブロッティングにより解析した。検出抗体は西洋わさびペルオキシダーゼ(HRP)修飾抗ウサギIgG(Cell Signaling)を用いた。蛍光シグナルはECLプラス検出溶液とTyphoon 9000(Amersham Biosciences, Buckinghamshire, UK)を用いて検出した。
【0033】
統計:
以下のデータを除く結果の統計評価にはStudentのt検定を用いた。CIA実験の発症率はχ2乗検定で、重症度はMann-Whitney U検定で評価した。Mann-Whitney U検定は組織病理学的異常の頻度の評価にも用いた。
【0034】
(実施例1)
関節リウマチ(RA)関連遺伝子としてのDCIRの同定:
2つのモデルマウス(HTLV-I Tg及びIL-1Ra-/-マウス)の関節における遺伝子発現を正常マウス関節と比較して、関節炎を発症した関節において発現が亢進する遺伝子を特定した。マイクロアレイ解析によると、DCIR遺伝子のmRNA発現は、野生型関節に比較してIL-1Ra-/-マウスでは2.2倍、そしてHTLV-I Tgマウスでは3.8倍に亢進し(図1a)、この発現亢進はノーザンブロットハイブリダイゼーション解析でも確認された(図1b)。
【0035】
(実施例2)
DCIR欠損マウスの作製:
DCIR欠損マウス(DCIR-/-マウス)は、通常の遺伝子ターゲティング法によって作製した。DCIR遺伝子のエキソン1及び2をネオマイシン耐性遺伝子で置換することにより、ITIMを含む細胞質領域及び膜貫通ドメインの大部分をコードするゲノム配列を欠損させた(図2a)。5’プローブを用いたサザンブロットハイブリダイゼーション解析によってターゲッティングESクローンをスクリーニングし(図2b)、3’プローブ(図2c)及びNeoプローブ(図2d)を用いてターゲッティングアリルを確認した。マウスにおけるDCIR 領域のターゲティングは、ゲノムサザンブロット解析によって確認した(図2e)。DCIR+/-マウスの交配によりDCIR-/-マウスを作製し、ノーザンブロットハイブリダイゼーション解析によって脾臓におけるDCIR mRNAの発現が欠損していることを確認した(図2f)。
【0036】
DCIR-/-マウスは繁殖力があり、メンデル比率で産仔し、特定病原体未感染の飼育条件下では若年においては明確な表現型異常を示さなかった。また、DCIR-/- マウスの胸腺及び脾臓の細胞においても明らかな異常は見られなかった(図3)。T細胞反応に対するDCIR欠損の影響を評価するために、樹状細胞存在下において抗CD3抗体で刺激した際のT細胞の増殖反応及び同種異系混合リンパ球反応(MLR)を測定した。この結果、DCIR欠損樹状細胞と野生型樹状細胞との間に有意な差は検出されなかった(図4)。
【0037】
(実施例3)
加齢DCIR欠損マウスにおける自己免疫疾患の自然発症:
DCIR欠損マウスを組織学的に検査した結果、6-12ヶ月齢のDCIR欠損マウス10匹ののうち7匹の顎下腺に、唾液腺間質へのリンパ球の蓄積及び小導管上皮への単核細胞の浸潤、それに伴う小導管の破壊を特徴とする唾液腺炎が観察された(表1)。
【0038】
また、4ヶ月齢において11%のDCIR欠損マウスが後肢の関節異常を発症した。発赤及び複数関節の腫脹を伴う関節炎に始まり、6ヶ月齢までに28%のマウスが関節炎を発症した。関節炎の発症率、重症度は加齢とともに増大し、関節の変形及び強直を引き起こした。その殆どは後肢の足関節で顕著であった。 発症には性差があり、12ヶ月齢において44%の雄マウスで発症したが、雌マウスでは6%であった。関節の組織学的解析により、DCIR欠損マウスにおいて腱及び靱帯と骨との付着部への炎症性細胞の浸潤、顆粒化組織の侵襲による骨破壊が観察された。付着部炎は、検査した23匹のDCIR欠損マウスのうち9匹で観察された(表1)。これらの結果から、DCIR遺伝子の欠損が自己免疫を誘導し、遅始性関節炎及び唾液腺炎を自然発症させることが示された。
【0039】
【表1】
【0040】
(実施例4)
DCIR欠損マウスにおける自己免疫の自然発症:
DCIR欠損が自己免疫の発症に影響を与えることが示唆されたので、DCIR欠損マウスにおける自己抗体の産生をELISAで測定した。血清中のIgM、IgG、IgE及び以下の自己抗体、抗核抗体(ANA)、リウマチ因子(RF;IgM及び IgG型)、及び抗IIC IgGの産生を測定した(図5)。12ヶ月齢のDCIR欠損マウスの血清免疫グロブリンレベルに増加傾向が見られたが、IgEレベル以外に有意差はなかった。しかしながら、加齢DCIR欠損マウスは抗核抗体(ANA)、リウマチ因子(RF)、及び抗IIC抗体などの自己抗体を野生型マウスと比較して高いレベルで産生した。この結果はDCIR欠損が自己抗体の産生に関与していることを示唆している。
【0041】
(実施例5)
DCIR欠損マウスにおける樹状細胞の増殖とCD4陽性T細胞の活性化:
DCIR欠損マウスにおいてDCIR発現細胞であるCD11c陽性細胞の割合を調べた結果、CD11c陽性細胞の割合は若年の生理的条件下では正常であったが、12月齢以上では顕著に増加していた。また、CD11c陽性細胞の大部分はI-Abを発現していた。さらに、DCIR欠損マウスのCD4陽性T細胞は、活性化T細胞の特徴であるCD62Lの発現が低く、CD44の発現が高い表現型を示した。CD8陽性T細胞では顕著な変化は見られなかった(図6)。
【0042】
(実施例6)
DCIR欠損マウスにおけるコラーゲン誘導関節炎の増悪化:
本発明の関節リウマチのモデルマウスにおいてDCIRの発現が亢進していたので、コラーゲン誘導関節炎(CIA)の発症に対するDCIR欠損の影響を試験した。CIAは(129/Sv x C57BL/6)F1雑種背景の若年DCIR欠損マウスに、250 mgの熱殺傷Mycobacterium tuberculosisを添加したフロイント完全アジュバントと100 mgのトリII型コラーゲン(IIC)を免疫することにより誘導した。通常の免疫手法では、マウスは初回免疫から21日後にIIC/CFAで追加免疫を行う。しかし、今回の実験では初回免疫から20日後に、同腹子の0%に対して、DCIR欠損マウスでは39%に疾患が発症した(図7)。追加免疫の後では、DCIR欠損マウスにおける発症率の増大を観察することが困難になることが示唆されたので、追加免疫を行わずに経過観察を行った。図7に示すように、DCIR欠損マウスにおける関節炎発症率は、コントロールの同腹子と比較して顕著に増大した。また、重症度も野生型マウスに比較して有意に増悪化した。各群の発症率及び重症度は独立した2回の実験データの合計である。
【0043】
CIAの組織学的解析において、コントロールマウスの関節では極めて少量の細胞浸潤のみを示し、滑膜の増殖や骨破壊は観察されなかった。 それに対し、DCIR欠損マウスでは、このようなマイルドな免疫条件下でも炎症性細胞の浸潤、滑膜の増殖、及び骨破壊を伴う典型的な関節炎を示した。この結果は、DCIRがCIAの発症を抑制することを示唆している。
【0044】
(実施例7)
DCIR欠損マウスにおける抗原特異的IgG1及びIgG3抗体産生の増加:
次に、IICを免疫したDCIR欠損マウスにおけるIIC特異的抗体の産生を測定した。IICに対する抗体レベルは関節炎の発症とよく相関することが知られている。図7a、bに示すように、IICに特異的なIgG、IgG1及びIgG3レベルは、野生型同腹子に比較してDCIR欠損マウスで有意に増大した。一方、DCIR欠損マウスにおけるIgM、IgG2a及びIgG2bレベルは正常であった。即ちDCIRはCIAにおける抗原特異的なIgG1及びIgG3サブクラスの抗体産生に関与していると考えられる。
【0045】
(実施例8)
DCIR欠損マウスにおけるT細胞の抗原特異的増殖反応の亢進:
次に、DCIR欠損マウス及びそれらのコントロールである同腹子からのT細胞の抗原特異的増殖反応を試験した。IICに対するT細胞の反応は、トリIIC/CFAでの初回免疫から7日後に測定した。DCIR欠損マウスにおける抗原特異的T細胞の増殖反応は野生型マウスと比較して有意に増大し(図7c)、DCIR欠損マウスにおいてT細胞のプライミングが促進していることが示唆された。IIC刺激後のリンパ節細胞からのIFN-g産生は、DCIR欠損マウス及びコントロールマウスで同様に観察された。これに対して、IL-4 及びIL-10 レベルはDCIR欠損リンパ節細胞で有意に増大した(図7d)。これらの結果は、DCIR欠損マウスにおいてTh2サイトカイン産生が選択的に促進したことを示し、IIC特異的なIgG1及びIgG3サブクラス抗体の産生が促進した観察結果と合致するものである。
【0046】
(実施例9)
IIC/CFA免疫後のDCの含有量と活性化状態を調べた結果、CD11c陽性細胞の割合はDCIR欠損マウスのリンパ節において顕著に増加していた。さらに、I-Ab、CD80、およびCD86を発現する活性化した樹状細胞の割合も野生型マウスと比較してDCIR欠損マウスにおいて顕著に増加していた。したがって、DCIR欠損マウスにおける樹状細胞の分化と活性化がIIC/CFA免疫により促進することが認められた。
【0047】
(実施例10)
DCIR欠損骨髄細胞(BMC)のGM-CSFに対する反応性の亢進:
DCIRは主に樹状細胞に発現するので、DCIR欠損骨髄細胞の樹状細胞への分化を評価した。DCIR欠損骨髄細胞をGM-CSFを添加して培養した場合、非接着性骨髄由来細胞の分化は、DCIR欠損骨髄細胞において有意に亢進した(図10a)。培養8日目の非接着細胞のフローサイトメトリー解析により、CD11c陽性骨髄細胞由来樹状細胞(BMDC)がDCIR欠損骨髄細胞の培養において顕著に増加することが示された(図10b)。これらのCD11c陽性細胞の殆どはI-Abを発現したが、活性化マーカーであるCD80 及びCD86 は発現していなかった。培養10日目のBMDCをLPSで48時間パルスすると、DCIR欠損マウス及び野生型マウスの樹状細胞はI-Ab、CD80及びCD86を高発現し、同レベルの成熟が観察された(図10c)。
【0048】
次に、DCIR欠損マウスの骨髄細胞におけるGM-CSF刺激によるSTAT5のリン酸化を解析した。図10dに示すように、GM-CSFによって誘導されるSTAT5の活性化は、DCIR欠損骨髄細胞において顕著に亢進しており、DCIR欠損骨髄細胞のGM-CSFに対する反応性の亢進と合致した。したがって、DCIR欠損骨髄細胞のin vitroにおける樹状細胞分化の亢進は骨髄細胞のGM-CSFシグナルに対する感受性が増大したことによると考えられる。この観察結果と一致して、in vivoにおける樹状細胞の割合も、生理的条件下の若年マウスでは正常であるが、免疫や加齢に伴い増加している。
【0049】
以上詳細に述べたように、本発明では、DCIR欠損(DCIR-/-)マウスを作製し、DCIRが自己免疫性唾液腺炎および関節症に関与することを示した。
【0050】
本発明によって、加齢DCIR欠損マウスが特徴的な自己免疫疾患を自然発症することが示された。12ヶ月齢において、DCIR欠損マウスの血清免疫グロブリンレベルが増加し、野生型マウスと比較して抗核抗体、リウマチ因子及び抗IIC抗体などの自己抗体を高レベルで産生した。また、組織学的解析によりDCIR欠損マウスの唾液腺及び付着部における病理学的変化が観察された。唾液腺へのリンパ球浸潤は、唾液腺が標的となる代表的な慢性自己免疫疾患であるシェグレン症候群(SS)の典型的な兆候である。幾つかのマウス系統、NOD、MRL/lpr及びNZB/W F1は、SSのモデルとして広く受け入れられている。関節リウマチ、複合関節組織疾患(MCTD)、強直性脊椎炎(AS)及び脊椎関節症(SpA)を含む他の自己免疫疾患を持つ患者では限局性唾液腺炎も高い割合で見られ、その発症はリウマチ因子の産生に深く関わっている。これらの結果は、DCIRが免疫系の恒常性の維持に重要であり、DCIRの欠損が自己免疫の発症を引き起こすことを示唆している。
【0051】
加齢DCIR欠損マウスでは、遅発性の強直性関節症の自然発症も観察された。これらのマウスの組織病理学的解析により、炎症性細胞の浸潤を伴う骨及び付着部の浸食性の破壊が観察された。しかしながら、DCIR欠損マウスの病理組織は、HTLV-I-Tgマウス、IL-1Ra-KOマウス、及びCIAマウス等の他の関節リウマチモデルマウスの病理像とは明らかに相違していた。ヒトの関節リウマチと類似する特徴的な滑膜炎を発症する他のモデルマウスとは異なり、DCIR欠損マウスでは付着部炎が第一の異常であり、滑膜炎は希に観察されるだけであった。滑膜炎が関節リウマチの特徴であるのに対し、付着部炎は、強直性脊椎炎(AS)、脊椎関節症(SpA)及び乾癬性関節炎(PsA)等の炎症性リウマチ疾患群に特徴的な兆候である。したがって、DCIRの欠損がAS、SpA 及びPsAに類似した特徴的な炎症性関節炎の発症を引き起こすことが示唆された。
【0052】
本発明では、DCIR欠損マウスにおいてCIAが増悪化したことが示された。II型コラーゲンで免疫した後、DCIR欠損マウスの血清中の抗原特異的IgG1及びIgG3のレベルが非常に増加した。また、抗原特異的なT細胞応答が亢進し、DCIR欠損マウスにおいてIICに対する免疫応答が亢進していることが明らかとなった。この時、DCIR欠損マウスにおける樹状細胞の割合は顕著に増加し、活性化していた。樹状細胞の割合の増加は、加齢したDCIR欠損マウスでも観察されたが、生理的条件下の若年マウスにおいては正常であった。樹状細胞は細胞表面の抗原を提示し、様々な免疫調節性のサイトカインを産生することによってT細胞を活性化するのに重要な役割を果たしているが、本発明によって得られた観察結果は、DCIR欠損マウスにおける樹状細胞の機能亢進が自己免疫の発症の原因となることを示唆している。
【0053】
樹状細胞はGM-CSFにより骨髄幹細胞から分化するので、IIC/CFAによる刺激で産生されるGM-CSFがCIAにおけるDCの増殖に関与していると考えられる。本発明によって、DCIR欠損によるGM-CSFシグナル伝達の感受性の亢進が、in vitroでの骨髄由来樹状細胞の増殖及び分化を促進することが示された(図10)。DCIR欠損骨髄細胞におけるGM-CSF刺激によるSTAT5のリン酸化の亢進は、DCIRがGM-CSFシグナル伝達を抑制的に調節していることを示唆している。ヒトDCIRがSHP-1及びSHP-2をリクルートすることが報告されている。SHP-1はSH2ドメイン含有チロシン脱リン酸化酵素でGM-CSFを含むサイトカインシグナル伝達を負に制御する。さらに、SHP-1欠損のmotheatenマウスは全身性の自己免疫と重篤な炎症を示す。マウスDCIRのITIMが機能的であり、そのアミノ酸配列がヒトDCIRのITIMと同一であることから、マウスDCIRもSHP-1及びSHP-2をリクルートしてGM-CSFシグナル伝達を調節するものと推察される。
【0054】
CIAの際、DCIR欠損マウスではIIC特異的なIgG1およびIgG3サブクラスの抗体産生が亢進していることが明らかとなった。DBA/1系統のマウスではコラーゲン特異的なIgG2aクラスの抗体がCIAの発症に関与することが報告されているが、抗原特異的なIgG2a抗体のレベルは(129xB6)F1雑種背景のDCIR欠損マウスでは特に増加していなかった。DCIR欠損マウスでIL-4、IL-10の産生が顕著に亢進していることを示したが、IL-4及びIL-10は、IgG1及びIgG3のクラススイッチに関与することが知られている。これらの結果からDCIRがTh2反応の調節に関与していることが示唆される。
【0055】
樹状細胞はTh1及びTh2エフェクターT細胞の分化に関係している。細胞内寄生性病原体に晒された樹状細胞はTh1反応を促進するが、ある種の寄生虫は樹状細胞によるTh2細胞分化を促進する。調節性T細胞(Treg)の分化も樹状細胞によって調節され、特定の病原体がTregの産生を誘導することが知られている。したがって、樹状細胞と病原体との相互作用はエフェクターT細胞の特定のサブセットを誘導するのに重要であり、DCIRは特定のT細胞分化に関与する樹状細胞受容体の一つである可能性がある。
【0056】
最近のゲノムワイド連鎖解析は、多くの自己免疫疾患の感受性領域を明らかにした。特に、DCIR遺伝子が存在するマウス6F2サイトバンド、同一染色体であるラット4q42、及びヒト12p13領域は、関節炎、全身性紅斑性狼瘡(SLE)、自発性糖尿病、アテローム性動脈硬化症、脳脊髄炎、喘息又は気道反応性、及びアレルギーをなど幾つかの炎症性疾患と関連している。DCIRの欠損は自己免疫様疾患を引き起こすので、DCIRはそのような炎症性疾患の感受性遺伝子の一つであることも示唆された。
【0057】
(実施例11)
DCIR欠損マウスにおける骨代謝の変化:
骨代謝におけるDCIRの機能を調べるため、12ヶ月齢のDCIR欠損マウスを用い、X線解析、組織切片による解析、pQCT解析を行った。
まず、DCIR欠損マウスにおいては、オスのみで踵関節に強直が観察された。
X線解析により当該欠損マウスの骨格を野生型マウスの骨格と比較したところ、図11に示すように野生型マウスと同様であり、骨格形成は正常であった。
次いで、欠損マウス及び野生型マウスの強直発症部(踵)のX線解析をしたところ、図12に示すように、欠損マウスでは踵関節部において関節破壊が起こり、石灰化領域の増加が見られた。
【0058】
DCIR KOマウス踵関節において、石灰化領域を調べるためにVon Kossa染色、軟骨組織を調べるためにToluidine blue染色を行った。その結果、踵関節部において関節軟骨の増殖がみられ、その軟骨が骨に置き換わっていることが明らかになった(図13)。
次いで、大腿骨での骨量に異常があるかどうかを明らかにするため、12ヶ月齢の個体でpQCTを行った(図14)。その結果、DCIR KOマウスでは骨密度、骨塩量共に減少が見られ、骨量が減少していた(図15)。
即ち、DCIR遺伝子の機能として踵関節では軟骨細胞の増加を伴い骨、石灰化領域の増加が見られ、大腿骨では骨量が減少していることが明らかになった。以上の結果からDCIRは骨代謝や軟骨細胞、骨芽細胞あるいは破骨細胞の分化や増殖の制御に関わっていることが示唆された。このことからDCIRはASやDISHだけでなく骨粗鬆症の良いモデルマウスになると考えられる。
【0059】
(実施例12)
DCIR欠損マウスにおける抗腫瘍免疫効果の測定:
(1)移植癌実験による抗腫瘍免疫効果の評価
抑制性レセプターであるDCIRの欠損により抗腫瘍免疫効果の向上が見られるか否かを、可移植性腫瘍細胞を用いて検討した。
可移植性腫瘍細胞としてMethAを用いた場合、1×106cell/headの MethAをDCIR欠損マウス及び野生型マウスに接種し、腫瘍形成の差を観察した。その結果、発症率に差は見られなかったものの、腫瘍の大きさではDCIR-/-マウスにおいて優位に抑制効果が観察された (図16)。
次いで、可移植性腫瘍細胞株として、繊維肉腫であるBALB/3T3にがん抗原として知られているヒトMUC1を発現させたBALB/3T3 APR-MUC1 (BALB/c 背景)を用いた。BALB/3T3 APR-MUC1 clone16は東北大学加齢研究所により供与され、10% FBS (SIGMA), 50Uペニシリン(明治製菓), 50mg/mlストレプトマイシン(明治製菓), 500mg/ml G418(ナカライテスク)含有RPMI-1640 (SIGMA)で培養し、1週間に2-3回の頻度で継代培養した。
BALB/3T3 APR-MUC1 clone16を1×106cell/head接種したところ触診できる程度(約4mm程度まで)の腫瘍が形成された。この腫瘍の発症率で抗腫瘍免疫効果を評価したところ、DCIR-/-マウスでは腫瘍退縮が有意に促進された(図17)。
【0060】
(2)DCIR-/-マウスの樹状細胞における細胞障害活性の評価
腫瘍細胞株BALB/3T3 APR-MUC1 clone16を用いた細胞傷害性T細胞(CTL)の誘導は以下のように行った。腫瘍細胞を8000radのγ線照射により不活化し、1*107cells/ headで1日目と10日目にマウス腹腔内に接種した。免疫した5日後にマウスの脾臓を採取し、脾臓細胞を調製した。得られた脾臓細胞を10wellプレートで不活化した腫瘍細胞と1×107 : 1×106の割合になるよう共培養し、3日間の再刺激を行った。
標的細胞を100μCiクロム酸ナトリウム,51Cr (GEヘルスケアバイオサイエンス)で1時間、37℃で標識した後、RPMI-1640 (10% FBS, 10mM 2-Mercaptoethanol)に懸濁した。再刺激した脾臓細胞からLympholyte-M (CEDARLANE)でリンパ球を分離し、96well round-bottomプレート (IWAKI)で標識した標的細胞と共培養した。4時間後、放出された51Crを放射能活性としてMicro Beta (Pharmacia)で検出することによって細胞障害活性を測定した。
【0061】
BALB/3T3 APR-MUC1 clone16を用いて細胞傷害活性を測定したところ、DCIR-/-マウスで細胞傷害活性が亢進していた。この時、ネガティブコントロールの細胞として用いたMethAに対する傷害活性はみられなかった(図18)。従って、DCIR-/-マウスにおいて、特異的な細胞傷害活性が有意に亢進していることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】(a)マイクロアレイ解析による関節炎を発症したIL-1Ra-/-マウス及びHTLV-T-Tgマウスの関節におけるDCIR mRNAの発現量を示すグラフである。(b)ノーザンブロット解析によるDCIR mRNAの発現を示す図である。
【図2】(a)DCIR-/- マウスの作製における、マウスDCIR 部位(野生型アレル)、DCIRターゲティング構築物(ターゲティングベクター)、及び予測される変異DCIR遺伝子(変異体アレル)の構造を示す模式図である。エキソンはボックスで示す。DCIR遺伝子のエキソン1及び2は、ネオマイシン耐性(Neo)遺伝子で置換した。ジフテリア毒素(DT)遺伝子は、ネガティブセレクションのためにゲノムフラグメントの3’末端に連結した。ターゲティングアリルに見られる外部相同性領域をサザンブロット解析のためのゲノムプローブとして使用した。スクリーニングのためのサザンブロット解析はBanHIを用いて実施した。(b)ターゲティングしたESクローンのBanHI切断ゲノムDNAと5’プローブを用いたサザンブロットハイブリダイゼーション解析の結果を示す図である。(c)EcoRI切断ゲノムDNAと3’プローブを用いたサザンブロットハイブリダイゼーション解析の結果を示す図である。(d)EcoRI切断ゲノムDNAとNeoプローブを用いたサザンブロットハイブリダイゼーション解析の結果を示す図である。(e)マウスのDCIR領域の正しいターゲティングを確認するゲノムサザンブロット分析結果を示す図である。(f)ノーザンブロット解析によるDCIR mRNAの発現を示す図である。
【図3】DCIR欠損マウスにおけるリンパ球の特徴を示す図である。野生型(WT)及びDCIR欠損マウスの胸腺細胞及び脾細胞をフローサイトメトリー解析した。胸腺細胞及び脾細胞は、CD4及びCD8の発現について解析し、さらに脾細胞はCD3及びB220の発現についても解析した。
【図4】樹状細胞に依存するT細胞の増殖を示す図である。(a)抗原非特異的な刺激(抗CD3抗体)存在下で、野生型マウスからの脾臓由来T細胞と野生型(WT)及びDCIR欠損(KO)マウス由来の樹状細胞とを共培養したときのT細胞によるトリチームチミジン取り込み量を示すグラフである。(b)BALB/cAマウス(H-2d)由来のT細胞を、(129/Sv x C57BL/6)F1背景のマウス(H-2b)の野生型(WT)及びDCIR欠損(KO)マウス由来の樹状細胞と共培養したときのT細胞によるトリチームチミジン取り込み量を示すグラフである。
【図5】DCIR欠損マウスにおける自己抗体産生の亢進を示すグラフである。12ヶ月齢のDCIR欠損マウス(n=19) 及び野生型同腹子(n=19)の血清抗体レベルをELISA により測定した。(a)全IgM、IgG及びIgEレベルを示す。(b)自己抗体のレベルを示す。抗核抗体(ANA)、リウマチ因子(RF IgM及びRF IgG)、及び抗IIC抗体のレベルを示す。平均値及びSEMを示す。*: p<0.05;**:p<0.01。
【図6】加齢DCIR欠損マウスにおける樹状細胞の蓄積とT細胞の活性化を示す図である。(a)リンパ節細胞のCD11cおよびI-Abを染色した図である。図中の数字は特定のゲート中の細胞の割合を示す。下のヒストグラムはリンパ節細胞中のCD11c陽性群を示す。(b)4ヶ月齢および12ヶ月齢以上のマウスにおけるリンパ節細胞中のCD11c陽性細胞の割合をフローサイトメトリーで解析した結果を示すグラフである。平均値及びSEMを示す。*: p<0.05。(c)12ヶ月齢の野生型およびDCIR欠損マウス由来のリンパ節細胞のCD4及びCD62LまたはCD44を染色した図である。(d)CD及びCD62LまたはCD44を染色した図である。
【図7】DCIR欠損マウスにおけるCIAの増悪化を示すグラフである。トリIICをCFAと共に懸濁し、マウス尾底部の複数箇所に経皮下に免疫した。CIAの発症は追加免疫なしの条件で試験した。発症率(a)及び重症度(b)を示す。平均値及びSEMを示す。グラフは独立した2回の実験結果を合わせたデータである。*:(a)ではc2検定、(b)ではMann-WhitneyのU検定でp<0.05。
【図8】CIA誘導時のDCIR欠損マウスにおける免疫応答の亢進を示す図である。(a)IIC/CFA免疫後のDCIR欠損マウスにおけるIgM及びIgGの血清レベルを示したグラフである。(b)IIC特異的なIgGサブクラスのレベルを示すグラフである。免疫前(Pre)とIIC/CFA免疫後3週間(3W)の野生型マウス(WT(n=12))及びDCIR欠損マウス(KO(n=10))の血清を回収し、IIC特異的抗体レベルをそれぞれのIgGサブクラスについてELISAで測定した。(c)IIC特異的なT細胞の増殖応答を示すグラフである。IIC/CFA免疫後1週間の野生型マウス(WT(n=9))及びDCIR欠損マウス(KO(n=9))からリンパ節細胞を回収して、100 mg/mlの変性トリIICの非存在下(Med)、存在下(CII)で72 h培養し、トリチームチミジンの取り込みを測定した。グラフは独立した3回の実験結果を合わせたデータを示す。(d)リンパ節細胞からのサイトカイン産生を示すグラフである。(c)で示した系における野生型マウス(WT(n=5))及びDCIR欠損マウス(KO(n=5))のリンパ節細胞培養上清中のIFN-g、IL-4及びIL-10レベルをELISAで測定した結果である。平均値及びSEMを示す。*:p<0.05; **:p<0.005。
【図9】IIC/CFA免疫後のDCIR欠損マウスにおける樹状細胞の増殖亢進を示す図である。IIC/CFA免疫後1週間の野生型マウス(WT(n=3))及びDCIR欠損マウス(KO(n=3))からリンパ節細胞を回収して、100 mg/mlの変性トリIICの非存在下(Med)、存在下(CII)で72 h培養した。(a)CD11cを染色しFACS解析した結果を示すグラフである。平均値及びSEMを示す。*:p<0.05; **:p<0.01。(b)リンパ節細胞を変性トリIICの非存在下(Med)、存在下(CII)で72 h培養した後、CD11c及びI-Ab、CD80、またはCD86を二重染色し、フローサイトメトリーで解析した結果を示す図である。図中の数値は示したゲート中の細胞のパーセンテージを示す。
【図10】DCIR欠損骨髄細胞(DCIR-/- BMC)のGM-CSFへの反応性の亢進を示した図である。(a)野生型マウス(WT)及びDCIR欠損マウス(KO)由来の骨髄細胞をGM-CSFを添加して培養し、非接着性骨髄由来細胞数の8日目及び10日目の計測結果を示すグラフである(n=4)。*:p<0.05; **:p<0.01。(b)培養開始後8日目の非接着性骨髄由来細胞のCD11c及びI-Abを染色し、フローサイトメトリーによって解析した図である。骨髄由来樹状細胞と考えられる細胞をゲートで示し、これらの全細胞中のパーセンテージを示す。(c)培養開始後10日目の骨髄由来樹状細胞をLPSの非存在下(シェードヒストグラム)、存在下(オープンヒストグラム)で48 h培養し、CD11c陽性細胞のI-Ab、CD80、またはCD86を染色し、フローサイトメトリーで解析した図である。(d)骨髄細胞を図に示す濃度のGM-CSFで20分処理して全細胞溶解液を調整し、電気泳動後リン酸化STAT5、及びSTAT5をそれぞれ抗リン酸化STAT5抗体または抗STAT5抗体で検出した。
【図11】実施例11におけるDCIR欠損マウス及び野生型マウスの骨格を示すX線写真である。
【図12】実施例11におけるDCIR欠損マウス及び野生型マウスの強直発症部(踵)のX線写真である。
【図13】実施例11におけるDCIR欠損マウスの踵関節をVon Kossa染色(左側)及びToluidine blue染色(右側)したときの組織断面写真である。
【図14】DCIR欠損マウスの大腿骨におけるpQCT分析の様子を示す写真である。
【図15】pQCT分析から得られたDCIR欠損マウス及び野生型マウスの骨密度及び骨塩量を示すグラフである。骨密度は選択領域の平均密度であり、骨塩量は選択領域の骨が1mm厚さであった場合の骨塩量である。
【図16】MethAをDCIR欠損マウス及び野生型マウスに接種した場合の、腫瘍の大きさ(A)及び発症率(B)の変化を示すグラフである。WT:n=12、KO:n=11;**<0.05、*<0.01
【図17】BALB/3T3 APR-MUC1 clone16をDCIR欠損マウス及び野生型マウスに接種した場合の発症率(B)の変化を示すグラフである。n=8、*<0.05
【図18】BALB/3T3 APR-MUC1 clone16を用いて細胞傷害活性を測定した結果を示すグラフである。*<0.01
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹状細胞免疫受容体(DCIR)タンパク質をコードする遺伝子の一部又は全部が染色体上で欠損したことを特徴とする非ヒト疾患モデル動物。
【請求項2】
齧歯目動物であることを特徴とする請求項1に記載の疾患モデル動物。
【請求項3】
マウスであることを特徴とする請求項2に記載の疾患モデル動物。
【請求項4】
疾患が自己免疫疾患であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の疾患モデル動物。
【請求項5】
疾患が、関節リウマチ(RA)、強直性脊椎炎(AS)、乾癬性関節炎(PsA)、シェグレン症候群(SS)又は特発性全身性骨硬化症(DISH)であることを特徴とする請求項4に記載の疾患モデル動物。
【請求項6】
疾患が骨粗鬆症であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の疾患モデル動物。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の疾患モデル動物に被検物質を投与し、又は、該動物由来の組織、器官、もしくは細胞を被検物質と接触させ、当該動物又は組織、器官もしくは細胞における骨髄幹細胞由来細胞の分化及び増殖を測定及び評価することを含む、骨髄幹細胞由来細胞の分化及び増殖促進又は抑制する物質のスクリーニング方法。
【請求項8】
請求項1から4のいずれかに記載の疾患モデル動物に被検物質を投与し、関節炎又は関節症若しくは骨粗鬆症の発症率及び重症度を測定、評価すること含む、関節炎又は関節症の発症抑制物質のスクリーニング方法。
【請求項9】
請求項1から4のいずれかに記載の疾患モデル動物で得られた測定及び評価結果を野生型の同種動物で得られた結果と比較することをさらに含むこと特徴とする、請求項7又は8に記載のスクリーニング方法。
【請求項10】
請求項6から9のいずれかに記載のスクリーニング方法で同定される物質を含有してなる自己免疫疾患又は骨粗鬆症の予防・治療剤。
【請求項11】
樹状細胞免疫受容体(DCIR)タンパク質をコードする遺伝子又はその部分配列をコードするDNAを含有してなる自己免疫疾患又は骨粗鬆症の診断薬。
【請求項12】
自己免疫疾患が、関節リウマチ(RA)、強直性脊椎炎(AS)、乾癬性関節炎(PsA)、シェグレン症候群(SS)、特発性全身性骨硬化症(DISH) である請求項11に記載の診断薬。
【請求項13】
樹状細胞免疫受容体(DCIR)タンパク質と同一又は実質的に同一のアミノ酸配列を有するペプチドもしくはその部分ペプチドまたはその塩、及び候補物質を含有することを特徴とする自己免疫疾患又は骨粗鬆症の予防・治療剤のスクリーニング用キット。
【請求項14】
樹状細胞免疫受容体(DCIR)タンパク質をコードする遺伝子と同一又は実質的に同一の塩基配列またはその部分配列をコードするDNAを含有することを特徴とする自己免疫疾患又は骨粗鬆症の診断用キット。
【請求項15】
樹状細胞免疫受容体(DCIR)タンパク質と同一又は実質的に同一のアミノ酸配列を有するペプチドもしくはその部分ペプチドまたはその塩からなる、ウイルス感染症、細菌感染症、原虫感染症、真菌感染症を含む感染症の治療薬。
【請求項16】
樹状細胞免疫受容体(DCIR)タンパク質と同一又は実質的に同一のアミノ酸配列を有するペプチドもしくはその部分ペプチドまたはその塩からなる、ガン免疫療法における賦活剤。
【請求項1】
樹状細胞免疫受容体(DCIR)タンパク質をコードする遺伝子の一部又は全部が染色体上で欠損したことを特徴とする非ヒト疾患モデル動物。
【請求項2】
齧歯目動物であることを特徴とする請求項1に記載の疾患モデル動物。
【請求項3】
マウスであることを特徴とする請求項2に記載の疾患モデル動物。
【請求項4】
疾患が自己免疫疾患であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の疾患モデル動物。
【請求項5】
疾患が、関節リウマチ(RA)、強直性脊椎炎(AS)、乾癬性関節炎(PsA)、シェグレン症候群(SS)又は特発性全身性骨硬化症(DISH)であることを特徴とする請求項4に記載の疾患モデル動物。
【請求項6】
疾患が骨粗鬆症であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の疾患モデル動物。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の疾患モデル動物に被検物質を投与し、又は、該動物由来の組織、器官、もしくは細胞を被検物質と接触させ、当該動物又は組織、器官もしくは細胞における骨髄幹細胞由来細胞の分化及び増殖を測定及び評価することを含む、骨髄幹細胞由来細胞の分化及び増殖促進又は抑制する物質のスクリーニング方法。
【請求項8】
請求項1から4のいずれかに記載の疾患モデル動物に被検物質を投与し、関節炎又は関節症若しくは骨粗鬆症の発症率及び重症度を測定、評価すること含む、関節炎又は関節症の発症抑制物質のスクリーニング方法。
【請求項9】
請求項1から4のいずれかに記載の疾患モデル動物で得られた測定及び評価結果を野生型の同種動物で得られた結果と比較することをさらに含むこと特徴とする、請求項7又は8に記載のスクリーニング方法。
【請求項10】
請求項6から9のいずれかに記載のスクリーニング方法で同定される物質を含有してなる自己免疫疾患又は骨粗鬆症の予防・治療剤。
【請求項11】
樹状細胞免疫受容体(DCIR)タンパク質をコードする遺伝子又はその部分配列をコードするDNAを含有してなる自己免疫疾患又は骨粗鬆症の診断薬。
【請求項12】
自己免疫疾患が、関節リウマチ(RA)、強直性脊椎炎(AS)、乾癬性関節炎(PsA)、シェグレン症候群(SS)、特発性全身性骨硬化症(DISH) である請求項11に記載の診断薬。
【請求項13】
樹状細胞免疫受容体(DCIR)タンパク質と同一又は実質的に同一のアミノ酸配列を有するペプチドもしくはその部分ペプチドまたはその塩、及び候補物質を含有することを特徴とする自己免疫疾患又は骨粗鬆症の予防・治療剤のスクリーニング用キット。
【請求項14】
樹状細胞免疫受容体(DCIR)タンパク質をコードする遺伝子と同一又は実質的に同一の塩基配列またはその部分配列をコードするDNAを含有することを特徴とする自己免疫疾患又は骨粗鬆症の診断用キット。
【請求項15】
樹状細胞免疫受容体(DCIR)タンパク質と同一又は実質的に同一のアミノ酸配列を有するペプチドもしくはその部分ペプチドまたはその塩からなる、ウイルス感染症、細菌感染症、原虫感染症、真菌感染症を含む感染症の治療薬。
【請求項16】
樹状細胞免疫受容体(DCIR)タンパク質と同一又は実質的に同一のアミノ酸配列を有するペプチドもしくはその部分ペプチドまたはその塩からなる、ガン免疫療法における賦活剤。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2008−29319(P2008−29319A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−30514(P2007−30514)
【出願日】平成19年2月9日(2007.2.9)
【出願人】(503170020)
【出願人】(504383519)ジェノダイブファーマ株式会社 (5)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年2月9日(2007.2.9)
【出願人】(503170020)
【出願人】(504383519)ジェノダイブファーマ株式会社 (5)
【Fターム(参考)】
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