説明

樹脂シートの成形方法、樹脂シートの成形装置及び樹脂部品の製造方法

【課題】従来よりも成形性が向上した成形技術を提供すること。
【解決手段】予備加熱した樹脂シート10を型形状に成形する樹脂シート10の成形方法において、樹脂シート10を凹型21の周縁部213に載置する第1ステップと、前記凹型21の上方に対向して設けられた凸型31を凹型21に対して前進させて樹脂シート10を凹型21方向に押圧することで、樹脂シート10の周縁部の少なくとも一部を凹型21の周縁部213から浮き上がらせながら、樹脂シート10を凹型21方向に押し込む第2ステップと、凹型21の周縁部213とそれに対向して設けられたブランクホルダ41とで樹脂シート10の周縁部を挟持しながら、さらに凸型31を凹型21に対して前進させて樹脂シート10を凹型21方向に押し込む第3ステップと、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂シートの成形方法、樹脂シートの成形装置及び樹脂部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、金属部品から樹脂部品への材料の置換や、部品の一体化による部品の大面積化が進められている。また、それに伴って、樹脂を所望の部品形状に一体成形可能な成形技術の開発が進められている。このような成形技術として、従来一般的な射出成形の他に、樹脂シートをプレスして部品形状に成形するプレス成形が挙げられる。
【0003】
例えば、繊維強化樹脂シート等の樹脂シートを部品形状にプレス成形する技術が検討されている。この成形技術では、樹脂シートを予備加熱した後、温度低下を可能な限り抑えるべく素早く金型間に供給する。次いで、樹脂シートを型形状にプレス成形した後、冷却することで成形品を得る。
【0004】
ところが上記成形技術では、成形品のフランジ部に相当する樹脂シートの周縁部において、プレス成形時に樹脂シートの流入が部分的に集中する等してシワが発生する、という問題があった。そこで、金型を囲繞するようにブランクホルダを設け、ブランクホルダで樹脂シートの周縁部を拘束した状態でプレス成形することで、シワの発生を抑制する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−226001号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら特許文献1の技術では、成形初期から、予備加熱された樹脂シートがパンチの成形面上に載置される。このため、樹脂シートがパンチとの接触によって冷却され、特に深い型形状にプレス成形する場合に、樹脂シートの冷却固化が進行してしまう。すると、樹脂シートを構成する樹脂の流動が阻害され、成形性が悪化するという問題があった。特に、成形品の底面角部に相当する部分では、亀裂が生じるおそれがあった。
【0007】
また特許文献1の技術では、成形初期においては、樹脂シートの周縁部はブランクホルダで挟持されていないが、その周縁部はパンチ側の押さえ板上に面接触している。即ち、樹脂シートの周縁部下面がパンチ側の押さえ板に常に接触しているため、その周縁部において、冷却固化が進行して樹脂の流動が阻害され、成形性が悪化するという問題があった。
【0008】
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、その目的は、従来よりも成形性が向上した成形技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため本発明は、予備加熱した樹脂シート(例えば、後述の樹脂シート10)を型形状に成形する樹脂シートの成形方法を提供する。本発明の成形方法は、前記樹脂シートを凹型(例えば、後述の凹型21)の周縁部(例えば、後述の周縁部213)に載置する第1ステップと、前記凹型の上方に対向して設けられた凸型(例えば、後述の凸型31)を前記凹型に対して前進させて前記樹脂シートを前記凹型方向に押圧することで、前記樹脂シートの周縁部の少なくとも一部を前記凹型の周縁部から浮き上がらせながら、前記樹脂シートを前記凹型方向に押し込む第2ステップと、前記凹型の周縁部とそれに対向して設けられたブランクホルダ(例えば、後述のブランクホルダ41)とで前記樹脂シートの周縁部を挟持しながら、さらに前記凸型を前記凹型に対して前進させて前記樹脂シートを前記凹型方向に押し込む第3ステップと、を有することを特徴とする。
【0010】
本発明の成形方法では、第1ステップで予備加熱した樹脂シートを凹型の周縁部に載置した後、第2ステップにおいて、樹脂シートの周縁部の少なくとも一部を、凹型の周縁部から浮き上がらせながら、樹脂シートを凹型方向に押し込む。即ち、樹脂シートの周縁部を挟持せず、樹脂シートの周縁部が凹型の周縁部やブランクホルダに接触していない状態で、樹脂シートを凹型方向に押し込む。
これにより、成形初期から、樹脂シートの周縁部が凹型の周縁部やブランクホルダに接触することによる樹脂シートの冷却固化の進行を回避できる。同時に、成形初期から、樹脂シートの周縁部が挟持されて拘束されることによる樹脂の流動抵抗の増大を回避できる。即ち、樹脂シートの周縁部から中央部に亘って樹脂が過不足無く流動できる状態で成形を行うため、成形性を向上できる。
また、本発明の成形方法では、その後の第3ステップにおいて、ブランクホルダで樹脂シートの周縁部を挟持しながら、樹脂シートを凹型方向にさらに押し込む。これにより、樹脂シートの周縁部におけるシワの発生を回避できる。
従って、本発明の成形方法によれば、従来よりも成形性が向上した成形技術を提供できる。
【0011】
また本発明は、予備加熱した樹脂シート(例えば、後述の樹脂シート10)を型形状に成形する樹脂シートの成形装置を提供する。本発明の成形装置(例えば、後述のプレス成形装置1)は、前記樹脂シートが載置される周縁部(例えば、後述の周縁部213)を備える凹型(例えば、後述の凹型21)と、前記凹型の上方に対向して設けられた凸型(例えば、後述の凸型31)と、前記凸型を前記凹型に対して進退させる進退機構(例えば、後述の進退機構35)と、前記凹型の周縁部に対向して設けられ、前記凸型の先端面(例えば、後述の先端面313)よりも上方に配置されたブランクホルダ(例えば、後述のブランクホルダ41)と、前記ブランクホルダと、前記凸型を支持する凸型基部(例えば、後述の凸型基部33)の周縁部(例えば、後述の周縁部331)との間に設けられ、前記凸型を前記凹型に対して前進させることで前記樹脂シートが前記凹型方向にある程度押し込まれた後に、前記ブランクホルダを前記凹型の周縁部方向に付勢する付勢手段(例えば、後述の第1ガススプリング45)と、を備え、前記凸型を前記凹型に対して前進させていくと、前記凸型が前記樹脂シートを前記凹型方向に押圧することで、前記樹脂シートの周縁部の少なくとも一部が前記凹型の周縁部から浮き上がり、この状態で、前記樹脂シートが前記凹型方向にある程度押し込まれた後、前記ブランクホルダが前記付勢手段による付勢力を受けて前記凹型の周縁部との間で前記樹脂シートの周縁部を挟持し、この状態で、前記樹脂シートが前記凹型方向にさらに押し込まれることを特徴とする。
【0012】
本発明の成形装置では、凹型を下方、凸型を上方に配置するとともに、凹型の周縁部に対向して設けたブランクホルダを、凸型の先端面よりも上方に配置する。また、ブランクホルダと凸型基部の周縁部との間には、凸型を凹型に対して前進させることで樹脂シートが凹型方向にある程度押し込まれた後に、ブランクホルダを凹型の周縁部方向に付勢する付勢手段を設ける。
これにより、本発明の成形装置は以下のように動作することで、以下のような効果が奏される。
先ず、凸型を凹型に対して前進させていくと、ブランクホルダが樹脂シートの周縁部に当接するよりも先に、凸型の先端面が樹脂シートの中央部に当接する。即ち、樹脂シートの周縁部を挟持しない状態で、樹脂シートが凹型方向に押し込まれる。このとき、凹型の内側周縁に当接する樹脂シート部分が支点となり、凸型の先端周縁に当接する樹脂シート部分が力点となって、てこの原理により、樹脂シートの周縁部には上方、即ち凹型の周縁部から離間する方向の力が作用する結果、樹脂シートの周縁部は凹型の周縁部から浮き上がった状態となる。これにより、成形初期から、樹脂シートの周縁部が凹型の周縁部と接触することによる樹脂シートの冷却固化の進行を回避できる。同時に、成形初期から、樹脂シートの周縁部が挟持されて拘束されることによる樹脂の流動抵抗の増大を回避できる。即ち、樹脂シートの周縁部から中央部に亘って樹脂が過不足無く流動できる状態で成形が行われるため、成形性を向上できる。
また、樹脂シートが凹型方向にある程度押し込まれると、ブランクホルダが付勢手段から凹型の周縁部方向の付勢力を受ける。すると、樹脂シートの周縁部がブランクホルダと凹型の周縁部との間で挟持され、この状態で、樹脂シートが凹型方向にさらに押し込まれる。これにより、樹脂シートの周縁部におけるシワの発生を回避できる。
従って、本発明の成形装置によれば、従来よりも成形性が向上した成形技術を提供できる。
【0013】
前記ブランクホルダは、複数の分割ホルダ(例えば、後述の分割ホルダ43)に分割され、前記付勢手段(例えば、後述の第1ガススプリング45,スペーサ49)は、前記複数の分割ホルダごとに設けられ、且つそれぞれ個別のタイミングで前記分割ホルダを前記凹型の周縁部方向に付勢するように設けられていることが好ましい。
【0014】
この発明の成形装置では、ブランクホルダを複数の分割ホルダに分割するとともに、複数の分割ホルダごとに、それぞれ個別のタイミングでブランクホルダを凹型の周縁部方向に付勢するように付勢手段を設ける。
ここで、樹脂シートの周縁部におけるシワの発生タイミングは、型形状に応じて部分的に異なったものとなっているところ、この発明によれば、ブランクホルダによる樹脂シートの周縁部の拘束タイミングを部分的に異なったものとすることができる。これにより、シワの発生タイミングに応じたより適切なタイミングで、樹脂シートの周縁部を拘束できる。このため、無駄に早い時期から、樹脂シートの周縁部を拘束してしまうのを回避でき、樹脂シートの周縁部がブランクホルダや凹型の周縁部に接触する時間をより短縮できる。従って、樹脂シートの冷却固化の進行をより抑制でき、成形性をさらに向上できる。
【0015】
また本発明は、予備加熱した樹脂シート(例えば、後述の樹脂シート10)を型形状に成形することで樹脂部品を製造する樹脂部品の製造方法を提供する。本発明の樹脂部品の製造方法は、前記樹脂シートを凹型(例えば、後述の凹型21)の周縁部(例えば、後述の周縁部213)に載置する第1ステップと、前記凹型の上方に対向して設けられた凸型(例えば、後述の凸型319を前記凹型に対して前進させて前記樹脂シートを前記凹型方向に押圧することで、前記樹脂シートの周縁部の少なくとも一部を前記凹型の周縁部から浮き上がらせながら、前記樹脂シートを前記凹型方向に押し込む第2ステップと、前記凹型の周縁部とそれに対向して設けられたブランクホルダ(例えば、後述のブランクホルダ41)とで前記樹脂シートの周縁部を挟持しながら、さらに前記凸型を前記凹型に対して前進させて前記樹脂シートを前記凹型方向に押し込む第3ステップと、を有することを特徴とする。
【0016】
この発明によれば、上記成形方法の発明や成形装置の発明と同様の効果が奏される。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、従来よりも成形性が向上した成形技術を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係るプレス成形装置の初期状態を示す縦断面図である。
【図2】上記実施形態に係るプレス成形装置において、成形初期に樹脂シートの周縁部が凹型の周縁部から浮き上がった状態を示す縦断面図である。
【図3】上記実施形態に係るプレス成形装置において、成形途中で樹脂シートの周縁部の一部が分割ホルダで拘束された状態を示す縦断面図である。
【図4】上記実施形態に係るプレス成形装置において、凸型が下死点に到達して樹脂シートの周縁部が全周に亘って分割ホルダで拘束されたときの状態を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
本発明の一実施形態に係るプレス成形装置1は、予備加熱した樹脂シート10を、型形状に成形することで、樹脂部品を製造するものである。本実施形態に係るプレス成形装置1では、本発明に係る樹脂シートの成形方法及び樹脂部品の製造方法の実行が可能となっている。
【0020】
図1は、本実施形態に係るプレス成形装置1の初期状態を示す縦断面図である。
樹脂シート10は、予備加熱された後、プレス成形装置1に供給され、後述する凹型21の周縁部213上に載置される。
樹脂シート10としては、強化材の存在によって加熱時の樹脂の流動に一定の制約がある繊維強化樹脂シートが好ましく用いられる。具体的には、複数の繊維強化樹脂シートを積層したものが用いられる。
【0021】
プレス成形装置1は、樹脂シート10の下方に配置され、樹脂シート10を支持する下型機構20と、下型機構20の上方に樹脂シート10を介して対向配置され、下型機構20に対して進退可能な上型機構30と、上型機構30の周縁部と下型機構20の周縁部との間に配置され、樹脂シート10の周縁部を拘束するホルダ機構40と、を備える。
【0022】
下型機構20は、凹型21と、ボルスタ23と、を備える。
凹型21は、ボルスタ23上に固定されている。凹型21は、成形品(樹脂部品)の形状に対応して、下方に凹んだ成形面211を有する。凹型21は、成形時に、後述する凸型31との間で樹脂シート10を加圧することで、樹脂シート10を成形面211に対応した形状に成形する。
ボルスタ23の周縁部231の上面には、後述する複数の第2ガススプリング47が、後述する複数の分割ホルダ43のそれぞれに対向して設けられている。
【0023】
凹型21の周縁部213は、上方に凸であり、所定の幅をもって環状に形成されている。周縁部213の上面は水平面となっており、後述するブランクホルダ41との間で、樹脂シート10の周縁部を挟持する。
【0024】
周縁部213の外側周縁217は、角が面取りされたR形状となっている。これにより、周縁部213と後述するブランクホルダ41との間で樹脂シート10の周縁部を挟持したときに、樹脂シート10の引っ掛かり(摩擦)が抑制され、樹脂の流動が阻害されないようになっている。
【0025】
上型機構30は、凸型31と、凸型基部33と、進退機構35と、を備える。
凸型31は、樹脂シート10を挟んで凹型21に対向配置されている。凸型31は、凹型21の成形面211の形状に対応した成形面311を有する。凸型31は、成形時に凹型21との間で樹脂シート10を加圧することで、樹脂シート10を成形面311に対応した形状に成形する。
【0026】
凸型基部33は、その略中央で凸型31を支持する。凸型基部33には、後述する進退機構35が設けられており、凸型基部33は、凸型31とともに凹型21に対して進退する。凸型基部33の周縁部331の下面には、後述する付勢手段としての複数の第1ガススプリング45が、後述する複数の分割ホルダ43のそれぞれに対向して設けられている。
【0027】
進退機構35は、凸型31及び凸型基部33を、凹型21に対して進退させる。進退機構35は、図示しない油圧シリンダと、油圧シリンダを駆動する図示しないサーボ機器と、を含んで構成される。サーボ機器は、図示しない制御装置により、所定の圧力制御が行われる。
【0028】
ホルダ機構40は、ブランクホルダ41と、付勢手段としての第1ガススプリング45及びスペーサ49と、第2ガススプリング47と、を備える。
ブランクホルダ41は、凹型21の周縁部213に対向して環状に設けられている。ここで、成形品(樹脂部品)の形状によって、樹脂シート10の周縁部におけるシワの発生タイミングは異なるため、ブランクホルダ41は、シワの発生タイミングが異なる部位に応じて、複数の分割ホルダ43に分割されている。これにより、シワの発生タイミングに応じて、分割ホルダ43で樹脂シート10の周縁部を拘束できるようになっている。
【0029】
複数の分割ホルダ43は、それぞれ、凸型基部33の周縁部331に設けられた図示しないスライド機構により、スライド可能に支持されている。これにより、複数の分割ホルダ43は、それぞれ、後述する第1ガススプリング45による凹型21の周縁部231方向(下方)の付勢力や、後述する第2ガススプリング47による凸型基部33の周縁部331方向(上方)の付勢力を受けることで、個別に、凸型31に対して相対的に昇降可能となっている。
また、複数の分割ホルダ43は、それぞれ、後述する第2ガススプリング47による凸型基部33の周縁部331方向(上方)の付勢力に抗して、後述する第1ガススプリング45から凹型21の周縁部231方向(下方)の付勢力を受けることで、下降して凹型21の周縁部213との間で樹脂シート10の周縁部を挟持する。
【0030】
図1に示すように、複数の分割ホルダ43は、凸型31の先端面313よりも上方の位置に配置されている。これにより、凸型31の先端面313が先行して樹脂シート10の中央部に当接する。
また、複数の分割ホルダ43は、初期状態において、いずれも同一の高さ位置に配置されている。
なお、分割ホルダ43は、直方体状であり、その下面の角が面取りされたR形状となっている。これにより、分割ホルダ43と凹型21の周縁部213との間で樹脂シート10の周縁部を挟持したときに、樹脂シート10の引っ掛かり(摩擦)が抑制され、樹脂の流動が阻害されないようになっている。
【0031】
付勢手段としての第1ガススプリング45は、複数の分割ホルダ43ごとに設けられている。具体的には、複数の分割ホルダ43にそれぞれ対向して、凸型基部33の周縁部331の下面に支持されている。これら複数の第1ガススプリング45は、いずれも同一のガススプリングで構成されており、図示しないピストン及び充填ガスを内部に備えたシリンダ451と、ピストンに連結されたピストンロッド453と、を備える。
第1ガススプリング45は、凸型31(上型機構30)を凹型21(下型機構20)に対して前進させていく途中で、後述するスペーサ49にピストンロッド453が当接することで、ブランクホルダ41(分割ホルダ43)を凹型21の周縁部231方向(下方)に付勢する。
【0032】
付勢手段としてのスペーサ49は、複数の分割ホルダ43ごとに設けられている。具体的には、スペーサ49は、分割ホルダ43の上面の略中央に支持されている。これら複数のスペーサ49は、円柱状であり、その高さはそれぞれ異なったものとなっている。詳しくは、シワの発生タイミングが早い部位の分割ホルダ43に設けられたスペーサ49の高さは、シワの発生タイミングが遅い部位の分割ホルダ43に設けられたスペーサ49の高さよりも、高く設定されている。これにより、凸型31(上型機構30)を凹型21(下型機構20)に対して前進していくときに、第1ガススプリング45のピストンロッド453がスペーサ49に当接するタイミング、即ち、第1ガススプリング45がブランクホルダ41(分割ホルダ43)を凹型21の周縁部231方向(下方)に付勢するタイミングが、シワの発生タイミングに応じたものとなっている。
なお、付勢するタイミングは、スペーサ49を用いずに複数の第1ガススプリング45のストローク長等をそれぞれ異なるものとすることでも可能である。ただし、本実施形態のようにスペーサ49を用いてその高さを調整する方が、成形品(樹脂部品)の形状に応じて容易に付勢タイミングを変更できるためより好ましい。
【0033】
第2ガススプリング47は、複数の分割ホルダ43ごとに設けられている。具体的には、複数の分割ホルダ43に対向して、ボルスタ23の周縁部231の上面に支持されている。これら複数の第2ガススプリング47は、いずれも同一のガススプリングで構成されており、図示しないピストン及び充填ガスを内部に備えたシリンダ471と、ピストンに連結されたピストンロッド473と、ピストンロッド473の先端に設けられたホルダ受け部475と、を備える。
【0034】
図1に示すように、第2ガススプリング47のホルダ受け部475は、直方体状であり、初期状態において、その上面の高さ位置が樹脂シート10の上面よりも上方に位置するように配置される。このため、凸型31(上型機構30)が凹型21(下型機構20)に対して前進していく途中で、ブランクホルダ41(分割ホルダ43)が樹脂シート10の周縁部よりも先にホルダ受け部475に当接する。このとき、第2ガススプリング47が分割ホルダ43を凸型基部33の周縁部331方向(上方)に付勢することで、分割ホルダ43と樹脂シート10の周縁部との間に隙間が確保される。
【0035】
なお、第2ガススプリング47の付勢力は、上述の第1ガススプリング45の付勢力よりも小さく、所定値以上の荷重を受けることで、第2ガススプリング47のピストンロッド473が後退するように設定されている。このため、凸型31(上型機構30)が凹型21(下型機構20)に対してさらに前進し、第1ガススプリング45がブランクホルダ41(分割ホルダ43)を凹型21の周縁部231方向(下方)に付勢すると、第2ガススプリング47のピストンロッド473は所定値以上の荷重を受けて後退する。
【0036】
以上のような構成を備える本実施形態のプレス成形装置1の動作と効果について、図1〜図4を参照して説明する。
ここで、図2は、プレス成形装置1において、成形初期に樹脂シート10の周縁部が凹型21の周縁部213から浮き上がった状態を示す縦断面図である。図3は、プレス成形装置1において、成形途中で樹脂シート10の周縁部の一部が分割ホルダ43で拘束された状態を示す縦断面図である。図4は、プレス成形装置1において、凸型31が下死点に到達して樹脂シート10の周縁部が全周に亘って分割ホルダ43で拘束されたときの状態を示す縦断面図である。
【0037】
先ず、図1に示す初期状態から、図2に示すように凸型31を凹型21に対して前進させていくと、ブランクホルダ41(分割ホルダ43)が樹脂シート10の周縁部に当接するよりも先に、凸型31の先端面313が樹脂シート10の中央部に当接する。即ち、樹脂シート10の周縁部を挟持しない状態で、樹脂シート10が凹型21方向に押し込まれる。このとき、分割ホルダ43が第2ガススプリング47のホルダ受け部475に当接することで、第2ガススプリング47が分割ホルダ43を凸型基部33の周縁部331方向(上方)に付勢する。これにより、分割ホルダ43と樹脂シート10の周縁部との間に隙間が確保される。
【0038】
またこのとき、凹型21の内側周縁215に当接する樹脂シート10の部分Aが支点となり、凸型31の先端周縁に当接する樹脂シート10の部分Bが力点となって、てこの原理により、樹脂シート10の周縁部には上方、即ち凹型21の周縁部213から離間する方向の力が作用する結果、樹脂シート10の周縁部は凹型21の周縁部213から浮き上がった状態となる。
これにより、成形初期から、樹脂シート10の周縁部が凹型21の周縁部213と接触することによる樹脂シート10の冷却固化の進行を回避できる。同時に、成形初期から、樹脂シート10の周縁部が挟持されて拘束されることによる樹脂の流動抵抗の増大を回避できる。即ち、樹脂シート10の周縁部から中央部に亘って樹脂が過不足無く流動できる状態で成形が行われるため、成形性を向上できる。
【0039】
次いで図3に示すように、凸型31(上型機構30)を凹型21(下型機構20)に対してさらに前進させていくと、樹脂シート10が凹型21方向にある程度押し込まれる。このとき、第1ガススプリング45のピストンロッド453がスペーサ49に当接することで、第1ガススプリング45がブランクホルダ41(分割ホルダ43)を凹型21の周縁部231方向(下方)に付勢する。すると、第2ガススプリング47のピストンロッド473は所定値以上の荷重を受けて後退する結果、ブランクホルダ41(分割ホルダ43)が下降して、凹型21の周縁部213との間で樹脂シート10の周縁部が挟持される。
【0040】
またこのとき、シワの発生タイミングが早い部位の分割ホルダ43に設けられたスペーサ49の高さは、シワの発生タイミングが遅い部位の分割ホルダ43に設けられたスペーサ49の高さよりも高く設定されているため、第1ガススプリング45がブランクホルダ41(分割ホルダ43)を凹型21の周縁部231方向(下方)に付勢するタイミングが、シワの発生タイミングに応じたものとなっている。従って、無駄に早い時期から、樹脂シート10の周縁部を挟持(拘束)するのを回避でき、樹脂シート10の周縁部がブランクホルダ41(分割ホルダ43)や凹型21の周縁部213に接触する時間をより短縮できる。従って、樹脂シート10の冷却固化の進行をより抑制でき、成形性をさらに向上できる。
【0041】
次いで図4に示すように、凸型31(上型機構30)を凹型21(下型機構20)に対してさらに前進させていくと、樹脂シート10の周縁部が、全周に亘って順に、ブランクホルダ41(分割ホルダ43)と凹型21の周縁部213との間で挟持されていきながら、樹脂シート10が凹型21方向にさらに押し込まれる。これにより、樹脂シート10の周縁部におけるシワの発生を回避できる。
従って、本実施形態のプレス成形装置1によれば、従来よりも成形性が向上した成形技術を提供できる。
【0042】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0043】
1…プレス成形装置(成形装置)
10…樹脂シート
21…凹型
213…周縁部
31…凸型
313…先端面
33…凸型基部
331…周縁部
35…進退機構
41…ブランクホルダ
43…分割ホルダ
45…第1ガススプリング(付勢手段)
47…第2ガススプリング
49…スペーサ(付勢手段)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
予備加熱した樹脂シートを型形状に成形する樹脂シートの成形方法において、
前記樹脂シートを凹型の周縁部に載置する第1ステップと、
前記凹型の上方に対向して設けられた凸型を前記凹型に対して前進させて前記樹脂シートを前記凹型方向に押圧することで、前記樹脂シートの周縁部の少なくとも一部を前記凹型の周縁部から浮き上がらせながら、前記樹脂シートを前記凹型方向に押し込む第2ステップと、
前記凹型の周縁部とそれに対向して設けられたブランクホルダとで前記樹脂シートの周縁部を挟持しながら、さらに前記凸型を前記凹型に対して前進させて前記樹脂シートを前記凹型方向に押し込む第3ステップと、を有することを特徴とする樹脂シートの成形方法。
【請求項2】
予備加熱した樹脂シートを型形状に成形する樹脂シートの成形装置において、
前記樹脂シートが載置される周縁部を備える凹型と、
前記凹型の上方に対向して設けられた凸型と、
前記凸型を前記凹型に対して進退させる進退機構と、
前記凹型の周縁部に対向して設けられ、前記凸型の先端面よりも上方に配置されたブランクホルダと、
前記ブランクホルダと、前記凸型を支持する凸型基部の周縁部との間に設けられ、前記凸型を前記凹型に対して前進させることで前記樹脂シートが前記凹型方向にある程度押し込まれた後に、前記ブランクホルダを前記凹型の周縁部方向に付勢する付勢手段と、を備え、
前記凸型を前記凹型に対して前進させていくと、前記凸型が前記樹脂シートを前記凹型方向に押圧することで、前記樹脂シートの周縁部の少なくとも一部が前記凹型の周縁部から浮き上がり、この状態で、前記樹脂シートが前記凹型方向にある程度押し込まれた後、前記ブランクホルダが前記付勢手段による付勢力を受けて前記凹型の周縁部との間で前記樹脂シートの周縁部を挟持し、この状態で、前記樹脂シートが前記凹型方向にさらに押し込まれることを特徴とする樹脂シートの成形装置。
【請求項3】
請求項2記載の樹脂シートの成形装置において、
前記ブランクホルダは、複数の分割ホルダに分割され、
前記付勢手段は、前記複数の分割ホルダごとに設けられ、且つそれぞれ個別のタイミングで前記分割ホルダを前記凹型の周縁部方向に付勢するように設けられていることを特徴とする樹脂シートの成形装置。
【請求項4】
予備加熱した樹脂シートを型形状に成形することで樹脂部品を製造する樹脂部品の製造方法において、
前記樹脂シートを凹型の周縁部に載置する第1ステップと、
前記凹型の上方に対向して設けられた凸型を前記凹型に対して前進させて前記樹脂シートを前記凹型方向に押圧することで、前記樹脂シートの周縁部の少なくとも一部を前記凹型の周縁部から浮き上がらせながら、前記樹脂シートを前記凹型方向に押し込む第2ステップと、
前記凹型の周縁部とそれに対向して設けられたブランクホルダとで前記樹脂シートの周縁部を挟持しながら、さらに前記凸型を前記凹型に対して前進させて前記樹脂シートを前記凹型方向に押し込む第3ステップと、を有することを特徴とする樹脂部品の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−56451(P2013−56451A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−195440(P2011−195440)
【出願日】平成23年9月7日(2011.9.7)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】