説明

樹脂成形品の溶着方法

【課題】結晶性樹脂を含む樹脂成形品と樹脂成形品とのフラッシュ光照射を用いる溶着において、特別な照射手段や手間のかかる事前準備無しに、高い密着性が安定的に得られるような樹脂成形品同士の溶着方法を提供する。
【解決手段】光透過性樹脂成形品22と、光吸収性樹脂成形品21とを、互いに積重2された状態で、光透過性樹脂成形品22側からフラッシュ光を照射して、光透過性樹脂成形品22と光吸収性樹脂成形品21とを、溶着する樹脂成形品の溶着方法において、結晶性樹脂としてポリアセタール樹脂を用い、フラッシュ光照射部分の光透過性樹脂成形品22と光吸収性樹脂成形品21との間の最小の隙間が0.03mm以下であるように調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光透過性樹脂成形品と、光吸収性樹脂成形品とが、互いに積重された状態で、光透過性樹脂成形品側からフラッシュ光を照射して、光透過性樹脂成形品と光吸収性樹脂成形品とを、溶着する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂成形品は、高生産性化等の観点から、予め成形した複数の樹脂部材を溶着する手段で製造されることがある。
【0003】
そして、樹脂部材同士を溶着する溶着方法として、例えばレーザー溶着方法が利用されている。レーザー溶着は、レーザー光に対して透過性のある透過樹脂材(光透過性樹脂成形品)と、レーザー光に対して透過性のない非透過樹脂材(光吸収性樹脂成形品)とを重ね合わせた後、透過樹脂材側からレーザー光を照射することにより、透過樹脂材と非透過樹脂材との当接面同士を加熱溶融させて両者を一体的に溶着する方法である。
【0004】
しかしながら、上記レーザー溶着方法を用いた場合には、レーザーは、一度に限定された小さな面積に対してしか照射することができない。このため、樹脂成形品の溶着を効率よく行うことができない。
【0005】
そこで、樹脂成形品同士を溶着する方法として、フラッシュ光の照射による加熱手段を用い、適切な条件でフラッシュ光を照射することにより、光透過性樹脂基板と光吸収性樹脂基板との溶着面全域にわたり、薄い層状の溶着領域で溶着する方法が知られている(特許文献1)。さらに、樹脂成形品同士を、弾性体を介して挟圧することにより、樹脂成形品の溶着面の凹凸により生じる隙間を改善することで、密着性を均一にする方法が知られている(特許文献2)。また、溶着面の密着状態に応じて照射光の一部を遮断して、光が過剰に照射される部分の透過率を下げたり、密着性の悪い領域と他の領域でマスクを取り替えてエネルギー量を変えて別々に光照射したり、部分的に複数回照射して加熱することにより、密着不十分な隙間を発生させずに貼り合わせる方法が知られている(特許文献3)
【0006】
このように、フラッシュ光照射による樹脂成形品の溶着においては、フラッシュ光照射におけるパルス幅や照射エネルギー密度の最適化が必要とされ、なおかつ、成形品溶着部の凹凸の影響による密着性のばらつきを無くすための工夫が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−38484号公報
【特許文献2】特開2007−40751号公報
【特許文献3】特開2007−40750号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、弾性体を介して挟圧する特許文献2に記載の方法では、弾性率の高い樹脂成形品や厚みのある樹脂成形品の場合、隙間を完全に無くす事は困難である。また、予め溶着テストを行ない、局部的な最適照射条件を経験的に割り出す特許文献3に記載の方法では、全体の最適照射条件を整えるために手間がかかる。特に、結晶性樹脂の場合には、最適照射条件範囲が狭く、このような手段では密着性のばらつきを無くすことは難しいという問題がある。
【0009】
結晶性樹脂は、非晶性樹脂に比べ、その結晶構造に起因し、機械的特性、耐熱性、溶融加工時の流動性、耐薬品性に優れるという特徴を有している。このため、結晶性樹脂は、様々な樹脂部材の材料として使用されている。そこで、結晶性樹脂を含む樹脂成形品と樹脂成形品とをフラッシュ光照射を用いて溶着する際には、溶着部分に高い密着性を安定的に付与することが求められる。
【0010】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、結晶性樹脂を含む樹脂成形品と樹脂成形品とのフラッシュ光照射を用いる溶着において、特別な照射手段や手間のかかる事前準備をほとんど無くし、高い密着性が安定的に得られる樹脂成形品同士の溶着方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは以上のような課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、結晶性樹脂としてポリアセタール樹脂を用い、成形品の品質を一定範囲に維持することで上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0012】
(1) 光透過性樹脂成形品と、光吸収性樹脂成形品とを、互いに積重された状態で、光透過性樹脂成形品側からフラッシュ光を照射して、光透過性樹脂成形品と光吸収性樹脂成形品とを、溶着する樹脂成形品の溶着方法であって、前記光透過性樹脂成形品がポリアセタール樹脂を含み、前記互いに積重された状態において、フラッシュ光照射部分の前記光透過性樹脂成形品と前記光吸収性樹脂成形品との間の最小の隙間が0.03mm以下である樹脂成形品の溶着方法。
【0013】
(2) 前記最小の隙間が、0.02mm以下である(1)に記載の樹脂成形品の溶着方法。
【0014】
(3) 前記光吸収性樹脂成形品が、ポリアセタール樹脂と、光吸収発熱体とを含む(1)又は(2)に記載の樹脂成形品の溶着方法。
【0015】
(4) 前記光吸収発熱体が、カーボンブラックである(3)に記載の樹脂成形品の溶着方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ポリアセタール樹脂を含む光透過性樹脂成形品と光吸収性樹脂成形品とのフラッシュ光照射による溶着において、フラッシュ光照射前の上記光透過性樹脂成形品と上記光吸収性樹脂成形品とを積重させた状態で、これらの樹脂成形品間の最小の隙間が0.03mm以下になるように調整することで、挟圧手段を工夫したり、局部的な照射条件を予め試験的に最適化したりするという手間をかけることなく、結晶性樹脂を含む樹脂成形品の溶着部分に安定的に高い密着性を付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】フラッシュランプ溶着装置の概略正面図を示す図である。
【図2】実施例1から4、比較例1の溶着方法を示す図である。
【図3】表1の結果を、縦軸をせん断強度、横軸を充電電圧としてグラフに示す図である。
【図4】偏光顕微鏡による溶着部分の写真を示す図である。
【図5】実施例12の光吸収性樹脂成形品、光透過性樹脂成形品を示す図である。
【図6】実施例12の光吸収性樹脂成形品と光透過性樹脂成形品との溶着方法を示す図である。
【図7】沈み込み量の測定箇所を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。なお、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略する場合があるが、発明の要旨を限定するものではない。
【0019】
<光透過性樹脂成形品>
光透過性樹脂成形品は、ポリアセタール樹脂を含み、フラッシュ光の溶着に必要な波長(約200nmから約1000nm)を透過するものであり、光吸収性樹脂成形品と積重させた状態で、フラッシュ光照射部分の光透過性樹脂成形品と光吸収性樹脂成形品との間の最小の隙間が0.03mm以下になるように調整されたものである。
【0020】
ポリアセタール樹脂は、オキシメチレン基(−CHO−)を主たる構成単位として含む高分子化合物である。ポリアセタール樹脂としては、例えば、ポリオキシメチレンホモポリマー、およびオキシメチレンユニットとオキシエチレンユニットとを構成単位として含むポリアセタールコポリマーが挙げられる。このコポリマーは、オキシメチレン基以外に、コモノマー単位として、炭素数2〜6程度、好ましくは炭素数2〜4程度のオキシアルキレン単位(例えば、オキシエチレン基(−CHCHO−)、オキシプロピレン基、オキシテトラメチレン基など)、さらに好ましくはオキシエチレン基を構成単位として含んでいる。炭素数2〜6程度のオキシアルキレン基の割合(コモノマー単位の含有量)は、ポリアセタール樹脂の用途などに応じて適当に選択できる。
【0021】
ポリアセタールコポリマーは、二成分で構成されたコポリマー、三成分で構成されたターポリマーなどの複数の成分で構成されていてもよい。ポリアセタールコポリマーは、一般にランダムコポリマーであるが、ブロックコポリマー、グラフトコポリマーなどであってもよい。また、ポリアセタール樹脂は、線状のみならず分岐構造であってもよく、架橋構造を有していてもよい。さらに、ポリアセタール樹脂の末端は、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸などのカルボン酸とのエステル化などにより安定化されていてもよい。ポリアセタールの重合度、分岐度や架橋度も特に制限はなく、溶融成形可能であればよい。
【0022】
上記ポリアセタール樹脂は、本発明の目的を害さない範囲で、上記以外の繰り返し単位を含むものであってもよい。また、上記光透過性樹脂成形品には、目的を害さない範囲で、他の樹脂を含んでいてもよい。そして、上記光透過性樹脂成形品には、本発明の目的を害さない範囲で、核剤、無機焼成顔料等の顔料、酸化防止剤、安定剤、可塑剤、滑剤、離型剤及び難燃剤等の添加剤を添加して、所望の特性を付与してもよい。
【0023】
本発明は、樹脂成形品同士のフラッシュ光を用いた溶着において、結晶性樹脂を含む樹脂成形品を用いる点が特徴である。したがって、光透過性樹脂成形品に含まれるポリアセタール樹脂の含有量は70質量%以上が好ましく、より好ましくは100質量%である。
【0024】
本発明に用いる光透過性樹脂成形品は、光吸収性樹脂成形品と積重させた状態で、フラッシュ光照射部分の光透過性樹脂成形品と光吸収性樹脂成形品との間の最小の隙間が0.03mm以下になるように調整されていることが必要になる。
【0025】
樹脂成形品同士を積重させた状態で上記溶着界面の最小の隙間が0.03mm以下にならない場合には、従来公知の表面加工方法で面出しすることで、上記最小の隙間を0.03mm以下にすることができる。従来公知の表面加工方法としては、例えば、研磨、フライス加工等が挙げられる。
【0026】
光透過性樹脂成形品中の光吸収性樹脂成形品と溶着する部分の表面が平滑であれば、樹脂成形品同士を積重させた状態で上記溶着界面の最小の隙間が0.03mm以下になりやすいので好ましい。また、溶着界面に当たる部分の全体で樹脂成形品間の隙間が0.03mm以下であることが好ましい。この隙間が大きくなればなるほどその部分の溶着が不完全となり、溶着不良(密着性低下)の原因となる。
【0027】
本発明は上記の通り、光透過性樹脂成形品と光吸収性樹脂成形品とを互いに積重させた状態で樹脂成形品間の最小の隙間の量が0.03mm以下であるが、好ましい上記隙間の量は0.02mm以下である。
【0028】
樹脂成形品間の隙間量の測定方法は、特に限定されないが、例えば、平面度測定、輪郭形状測定等の方法が挙げられる。
【0029】
光透過性樹脂成形品の成形は、従来公知の方法で行うことができる。従来公知の成形方法としては、例えば、圧縮成形、トランスファー成形、射出成形、押出成形、ブロー成形等種々の成形方法を挙げることができる。光透過性樹脂成形品の形状は特に限定されないが、厚みは100μm以上であることが好ましい。フラッシュ光が照射された際に樹脂成形品に形成される溶融層厚みにもよるが、光透過性樹脂成形品の厚みが100μm未満になるとフラッシュ光が照射された際に光透過性樹脂成形品の形状を維持しづらくなるからである。
【0030】
上記のような成形方法で成形された光透過性樹脂成形品は、光吸収性樹脂成形品を積重させた状態で樹脂成形品同士の溶着界面の最小の隙間が従来公知のいずれかの方法で0.03mm以下になるように調整されていればよい。
【0031】
<光吸収性樹脂成形品>
光吸収性樹脂成形品は、フラッシュ光を吸収するものであり、光透過性樹脂成形品と積重させた状態で、フラッシュ光照射部分の光透過性樹脂成形品と光吸収性樹脂成形品との間の最小の隙間が0.03mm以下になるように調整されたものである。光吸収性樹脂成形品は、上記光透過性樹脂成形品に含まれる樹脂材料と同じ樹脂材料が含まれているものが好ましい。同じ樹脂材料を用いることで、相溶性に優れ樹脂成形品同士の密着性が高まるからである。本発明は、フラッシュ光を用いて樹脂成形品同士を溶着する方法において、結晶性樹脂を含む樹脂成形品を用いても、容易に溶着できることを特徴とする。したがって、光吸収性樹脂成形品は、結晶性樹脂を含むものでもよく、結晶性樹脂の中でも特にポリアセタール樹脂が好ましい。
【0032】
ポリアセタール樹脂を用いる場合には、フラッシュ光を透過するため、光吸収発熱体を含有させる必要がある。光吸収発熱体の種類は、特に限定されず従来公知のものを使用することができる。従来公知の光吸収発熱体としては、例えば、カーボンブラック、鉄、アルミ、銅、ニッケル、コバルト、マンガン、クロム、亜鉛、テルル、グラファイト粉等の微粒子金属粉及び金属酸化物の微粒子や、芳香族ジアミノ系金属錯体、脂肪族ジアミン系金属錯体、芳香族及び脂肪族ジチオール系金属錯体及びメルカプトフェノール系金属錯体等が挙げられる。これらの中でも光吸収性が高いという理由からカーボンブラックが特に好ましい。
【0033】
光吸収性樹脂成形品中の上記光吸収発熱体の含有量は0.1質量%から2質量%であることが好ましい。多く入れると発熱効果が増すが、樹脂の材料特性に与える影響が大きくなり好ましくない。また、少なすぎると、発熱効果が不十分で、樹脂を溶融させるだけの熱を生じないので好ましくない。
【0034】
また、上記光吸収性樹脂成形品には、目的を害さない範囲で、他の樹脂を含んでいてもよい。そして、上記光吸収性樹脂成形品には、本発明の目的を害さない範囲で、核剤、無機焼成顔料等の顔料、酸化防止剤、安定剤、可塑剤、滑剤、離型剤及び難燃剤等の添加剤を添加して、所望の特性を付与してもよい。
【0035】
本発明は、フラッシュ光を用いた樹脂成形品の溶着において、結晶性樹脂を含む樹脂成形品を用いることができる点に特徴がある。したがって、光吸収性樹脂成形品は、ポリアセタール樹脂と光吸収発熱体とからなるものが好ましい。
【0036】
本発明に用いる光吸収性樹脂成形品は、光透過性樹脂成形品と積重させた状態で、フラッシュ光照射部分の光透過性樹脂成形品と光吸収性樹脂成形品との間の最小の隙間が0.03mm以下になるように調整されていることが必要になる。調整方法、調整の程度等は上記光透過性樹脂成形品の場合と同様である。
【0037】
光吸収性樹脂成形品の成形は、上記光透過性樹脂成形品と同様に従来公知の成形方法を用いることができる。また、上記のような成形方法で得られた光吸収性樹脂成形品は、光透過性樹脂成形品との溶着部分が、光透過性樹脂成形品と同様に調整されていれば形状等は特に限定されない。なお、光透過性樹脂成形品の場合と同様に厚みは100μm以上であることが好ましい。
【0038】
<樹脂成形品の溶着>
本発明の樹脂成形品の溶着方法は、従来公知のフラッシュランプ溶着装置を用いて実施することができる。図1には、従来公知のフラッシュランプ溶着装置の概略正面図を示した。図1に示すようにフラッシュランプ溶着装置1は、フラッシュ光照射部11と、樹脂成形品積重体2を保持する固定治具12と、マスク3とを備える。樹脂成形品積重体2は、光吸収性樹脂成形品21上に光透過性樹脂成形品22を積重してなる。
【0039】
図1に示すようにフラッシュ光照射部11は、複数本のフラッシュランプ111と、蓄電用コンデンサー112と、を備える。フラッシュ光照射部11は、複数本のフラッシュランプ111で樹脂成形品積重体2を照射できるように、樹脂成形品積重体2と対向する位置に配置される。
【0040】
複数本のフラッシュランプ111は、樹脂成形品積重体2に対してフラッシュ光を照射し、光透過性樹脂成形品22と光吸収性樹脂成形品21とを溶着させる。本発明の樹脂成形品の溶着方法に用いるフラッシュランプ111は、キセノンフラッシュランプであることが好ましい。フラッシュランプ111を複数用いることで、樹脂成形品積重体2に均一にフラッシュ光を照射することができる。
【0041】
蓄電用コンデンサー112は、樹脂成形品積重体2をフラッシュランプ111で照射するために必要な電気を充電する部位である。後述する通り、充電電圧の程度により、溶着強度を高めることができる。
【0042】
図1に示すように、固定治具12は、挟圧用窓板121と、挟圧用支持板122と、加圧部123とを備える。固定治具12は、挟圧用窓板121と挟圧用支持板122との間に樹脂成形品積重体2を挟み込むように保持する。
【0043】
挟圧用窓板121は、後述する連結棒125を貫通するための第一開口部124を備える。挟圧用窓板マスク3を介して光透過性樹脂成形品22上に積層される。フラッシュランプ111から照射されるフラッシュ光が、挟圧用窓板121、マスク3の開口部分を透過して樹脂成形品積重体2に照射される。挟圧用窓板121は、フラッシュランプ111からのフラッシュ光を透過する材料であれば特に限定されない。フラッシュ光を透過する材料として、例えば、ガラス板が挙げられる。
【0044】
挟圧用支持板122は、挟圧用窓板121と連結するための連結棒125と、連結棒125を貫通させるための第二開口部126と、を備える。連結棒125は、先端に挟圧用窓板121に引っ掛けるための掛止部127を有する。
【0045】
挟圧用支持板122上に樹脂成形品積重体2を置き、樹脂成形品積重体2上にマスク3、挟圧用窓板121の順で積重し、第一開口部124及び第二開口部126に連結棒125を貫通することで、樹脂成形品積重体2を挟圧用窓板121と挟圧用支持板122との間に挟み込むようにして保持することができる。
【0046】
図1に示すように加圧部123は、挟圧用支持板122に対して白抜き矢印の方向に圧力を加える部分である。圧力を加えられた挟圧用支持板122は、連結棒125に沿って矢印方向に移動する。挟圧用窓板121は、図示しない固定手段により位置が固定されているため、挟圧用支持板122が矢印方向に移動することで、光吸収性樹脂成形品21と光透過性樹脂成形品22との間に容易に圧力が加わる。このように樹脂成形品間に圧力がかかることで、樹脂成形品同士の溶着界面の最小の隙間が0.03mm以下になるように調整されやすくなる。
【0047】
マスク3は、溶着させない箇所にフラッシュ光が照射され樹脂成形品に悪影響が及ぶことを抑えるためのものであり、溶着が必要な箇所にはフラッシュ光を透過するための孔が空いている。
【0048】
上記のようなフラッシュランプ溶着装置1を用いて、例えば、以下のような方法で光透過性樹脂成形品22と、光吸収性樹脂成形品21とを溶着させることができる。
【0049】
先ず、光透過性樹脂成形品22と光吸収性樹脂成形品21とを互いに積重させた状態で、樹脂成形品間の溶着界面に当たる部分の最小の隙間が0.03mm以下になっているか否かを確認する。
【0050】
上記の樹脂成形品間の最小の隙間が0.03mm以下になっていない場合に、樹脂成形品間を加圧することで、樹脂成形品間の最小の隙間を0.03mm以下にできる場合には加圧部123にて上記隙間量を調整することができる。樹脂成形品積重体2を加圧する場合には、加圧力を2.0MPa以下にすることが好ましい。加圧力が2.0MPaを超えると樹脂成形品積重体2が損傷するおそれがあるため好ましくない。また、上述の通り樹脂成形品に対して表面加工を行い、上記隙間量を調整することもできる。加圧部としては、従来公知の加圧手段を用いることができる。従来公知の加圧手段としては、エアーシリンダー等が挙げられる。
【0051】
次いで、樹脂成形品積重体2に対して、フラッシュ光を照射する。複数のフラッシュランプ111から照射されたフラッシュ光は、挟圧用窓板121、マスク3の孔、光透過性樹脂成形品22を透過し、光吸収性樹脂成形品21まで到達する。ここで、フラッシュ光は、光吸収性樹脂成形品21で吸収され熱を発生する。発生した熱で光吸収性樹脂成形品21の溶着界面側の面が溶融し溶融層が形成される。一方、光透過性樹脂成形品22には、光吸収性樹脂成形品21で発生した熱が伝達される。光透過性樹脂成形品22に熱が伝達されると光透過性樹脂成形品22の溶着界面側の面に溶融層が形成される。光吸収性樹脂成形品21に形成された溶融層と光透過性樹脂成形品22に形成された溶融層とが重なり合うことによって、光吸収性樹脂成形品21と光透過性樹脂成形品22とが溶着される。
【0052】
上記フラッシュ光の照射において、蓄電用コンデンサー112に充電されている充電電圧は特に限定されないが、照射距離が4cmから6cmの場合には、充電電圧は1800Vから3200Vであることが好ましい。充電電圧が1800V以上になると充分な量の溶融層が形成され、溶着強度が高まるため好ましい。充電電圧が3200V以下であれば、過溶着による発泡が生じ難く溶着強度が低下することを防ぐことができる。
【0053】
フラッシュランプ111から照射されるフラッシュ光の1ショット当たりのパルス幅は、特に限定されないが、10msec以下であることが好ましい。フラッシュ光の1ショット当たりのパルス幅が10msec以下であれば、溶着強度が高まるので好ましい。
【0054】
フラッシュランプ111から照射されるフラッシュ光の照射回数は、特に限定されないが、3回以上であることが好ましい。フラッシュ光の照射回数が3回以上であれば、溶着強度が高まるため好ましい。
【0055】
フラッシュ光を照射することにより樹脂成形品に形成される溶融層の幅は特に限定されないが、溶融層の幅が20μmから80μmになるようなものが好ましい。溶着後の溶着品から測定することができる溶融した部分の幅が上記範囲にあれば、溶着強度が高まるので好ましい。
【0056】
<溶着品>
上記のようにして溶着された光透過性樹脂成形品と光吸収性樹脂成形品との溶着品は、球晶が樹脂成形品間の界面をまたいで形成されるような溶着品であることが好ましい。また、結晶性樹脂としてポリアセタール樹脂を選択することで、結晶性樹脂を含む樹脂成形品であっても極めて良好な溶着状態を実現することができる。
【0057】
また、樹脂成形品の溶着の際には、溶融層同士が重なり合って溶着するため、厚みが変化する。この厚みの変化を沈み込み量とする。溶着面の各部分での沈み込み量は、本発明の溶着方法によって樹脂成形品同士を溶着することで、ほぼ均一になる。その結果、高い品質の溶着品を製造することができる。任意に4箇所測定した場合の最大の沈み込み量と最小の沈み込み量の差は0.03mm以下であることが好ましい。
【0058】
溶着品の溶着強度は、特に限定されず、好ましい溶着強度は用途に応じて適宜変更されるが、せん断強度が20MPa以上であることが好ましい。なお、せん断強度の値は、実施例に記載の方法で測定したせん断強度の値を採用する。
【実施例】
【0059】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0060】
<材料・装置等>
ポリアセタール樹脂:ジュラコンM90−44(ポリプラスチックス社製)
フラッシュランプ溶着装置:実験機(ウシオ電機社製)
マスク1(図2(a)における「3」):直径5mmの開口径を有する厚み0.1mmのステンレス板
マスク2(図6における「3」):内径21.5mm、外径24mmの円環状の開口を有するステンレス板
【0061】
<実施例1>
[光透過性樹脂成形品の作製]
光透過性樹脂成形品の作製は、上記ポリアセタール樹脂を以下の成形条件で成形することにより作製した。成形した光透過性樹脂成形品は、サイズが20mm×50mm×3mmtであった。
[成形条件]
【0062】
[光吸収性樹脂成形品の作製]
光吸収性樹脂成形品の作製は、上記ポリアセタール樹脂99.75質量%と市販のカーボンブラック0.25質量%とからなるポリアセタール系樹脂組成物を成形することで作製した。得られた光吸収性樹脂成形品は、サイズが20mm×50mm×3mmtであった。
【0063】
[樹脂成形品の溶着]
先ず、上記光透過性樹脂成形品と上記光吸収性樹脂成形品とを互いに積重させ、フラッシュ光を照射する部分の樹脂成形品間の隙間の量を測定した。測定方法は、表面粗度測定という方法でいった。上記樹脂成形品間の隙間の量は、全てほぼ0mmであることが確認された。
【0064】
上記フラッシュランプ溶着装置を用いて、上記光透過性樹脂成形品22と上記光吸収性樹脂成形品21とを溶着させた。具体的には、図2に示すように、光吸収性樹脂成形品21と光透過性樹脂成形品22との間に0.01mmの隙間ゲージ4を挟み、以下の溶着条件で樹脂成形品の溶着を行った。充電電圧及び照射エネルギー密度(括弧内の数字)が1800V(16J/cm)、2000V(20J/cm)、2200V(24J/cm)、2400V(28J/cm)、2600V(33J/cm)、2800V(38J/cm)、3000V(44J/cm)、3200V(49J/cm)の条件でそれぞれ溶着を行った。ここで、充電電圧とは、フラッシュランプにエネルギーを供給するコンデンサーに充電した電圧を示す。また照射エネルギー密度は使用するマスクの下に検出器(OPHIR社製レーザーパワーメータ サーモパイル表面吸収ヘッドL30A)を当接させて設置し、フラッシュランプを1回点灯したときのエネルギー表示値(J)をマスクの開口面積(cm)で割った値を示している。
(溶着条件)
照射回数:1回
照射距離:4cm(中程度の距離)
パルス幅:5msec
【0065】
それぞれの溶着品について、溶着強度の測定を行った。溶着強度は、万能試験機(テンシロンRTC−1325A「オリエンテック社製」)を用いて、以下の測定条件にて、せん断強度試験で測定した。測定結果を表1に示した。
(測定条件)
試験速度:5mm/min
【0066】
<実施例2>
隙間ゲージを0.02mmの隙間ゲージに変更した以外は実施例1と同様にして光透過性樹脂成形品と光吸収性樹脂成形品との溶着を行った。そして、実施例1と同様の方法でそれぞれの溶着品について、せん断強度の測定を行った。測定結果を表1に示した。
【0067】
<実施例3>
隙間ゲージを0.03mmの隙間ゲージに変更した以外は実施例1と同様にして光透過性樹脂成形品と光吸収性樹脂成形品との溶着を行った。そして、実施例1と同様の方法でそれぞれの溶着品について、せん断強度の測定を行った。測定結果を表1に示した。
【0068】
<実施例4>
隙間ゲージを用いなかったこと以外は実施例1と同様にして光透過性樹脂成形品と光吸収性樹脂成形品との溶着を行った。そして、実施例1と同様の方法でそれぞれの溶着品についてせん断強度の測定を行った。測定結果を表1に示した。
【0069】
<比較例1>
隙間ゲージを0.05mmの隙間ゲージに変更した以外は実施例1と同様にして光透過性樹脂成形品と光吸収性樹脂成形品との溶着を行った。そして、実施例1と同様の方法でそれぞれの溶着品について、せん断強度の測定を行った。測定結果を表1に示した。
【0070】
【表1】

【0071】
図3には、表1の結果を、縦軸をせん断強度、横軸を充電電圧としてグラフに示した。樹脂成形品間の隙間が0.03mm以下であれば、好ましい充電電圧の範囲で優れた溶着品を得ることができることが確認された。また、充電電圧が高いほど、溶着強度の大きい溶着品になる傾向が確認された。
【0072】
<実施例5>
照射距離を1cm(短い距離)に変更し、充電電圧3200Vのみで行った以外は実施例1と同様の方法で溶着品を作製した。なお、溶着強度は813Nであった。
【0073】
実施例4の1800V(16J/cm)の場合、2600V(33J/cm)の場合、3200V(49J/cm)の場合、実施例5の場合について、溶融状態の観察を行った。溶融状態の観察は、固化溶着後の溶着部分に対して、偏光顕微鏡:BH2(オリンパス社製)を用いて行った。図4(a)が実施例4の1800Vの場合の写真であり、(b)が実施例4の2600Vの場合の写真であり、(c)が実施例4の3200Vの場合の写真であり、(d)が実施例5の場合の写真である。また、溶融層厚みも測定した。測定は、溶融層断面の薄膜を作成し、偏光顕微鏡観察という方法で行った。溶融後固化した球晶は、界面をまたいで形成される(図4中白抜き矢印Aで指す部分)ことが確認された。また、溶融層厚みが95μmの場合には、発泡が確認された(図4中の白抜き矢印Bが指す部分)。
【0074】
<実施例6>
実施例1で作製した光透過性樹脂成形品、光透過性樹脂成形品と同じ樹脂成形品を用いて、光透過性樹脂成形品と光吸収性樹脂成形品との溶着を行った。溶着は実施例4の場合と同様に隙間ゲージを用いずに行い、溶着条件は、照射回数を3回にした以外は実施例1と同様の条件で溶着させた。充電電圧が1800V(16J/cm)、2200V(24J/cm)、2600V(33J/cm)の条件でそれぞれ溶着を行った。それぞれの溶着品について、せん断強度の測定を実施例1と同様の方法で行った。測定結果を表2に示した。
【0075】
<実施例7>
溶着の際のフラッシュ光の照射回数を5回に変更した以外は、実施例6と同様の方法で、光透過性樹脂成形品と光吸収性樹脂成形品との溶着を行った。また、それぞれの溶着品について、実施例1と同様の方法でせん断強度の測定を行った。測定結果を表2に示した。
【0076】
【表2】

【0077】
表2の結果から、フラッシュ光の照射回数を1回より多く設定することで、溶着強度が高まり、優れた溶着品が得られることが確認された。
【0078】
<実施例8>
実施例1で作製した光透過性樹脂成形品、光透過性樹脂成形品と同じ樹脂成形品を用いて、光透過性樹脂成形品と光吸収性樹脂成形品との溶着を行った。溶着は実施例4の場合と同様に隙間ゲージを用いずに行い、溶着条件は、パルス幅を1msec、3msec、5msec、9msecでそれぞれ行い、充電電圧および照射エネルギー密度を2200V(24J/cm)に固定し、実施例1と同様にして樹脂成形品の溶着を行った。それぞれの溶着品について実施例1と同様の方法でせん断強度の測定を行った。測定結果を表3に示した。
【0079】
<実施例9>
照射エネルギー密度を30J/cmに変更し、パルス幅を3msec、5msec、9msec、11msecでそれぞれ行った以外は実施例8と同様にして溶着品を作製した。それぞれの溶着品について実施例1と同様の方法でせん断強度の測定を行った。測定結果を表3に示した。
【0080】
<実施例10>
照射エネルギー密度を35J/cmに変更し、パルス幅を5msec、9msecでそれぞれ行った以外は実施例8と同様にして溶着品を作製した。それぞれの溶着品について実施例1と同様の方法でせん断強度の測定を行った。測定結果を表3に示した。
【0081】
<実施例11>
照射エネルギー密度を40J/cmに変更し、パルス幅を5msec、9msecでそれぞれ行った以外は実施例8と同様にして溶着品を作製した。それぞれの溶着品について実施例1と同様の方法でせん断強度の測定を行った。測定結果を表3に示した。
【0082】
【表3】

【0083】
表3の結果から明らかなように、パルス幅を短く設定することで、せん断強度が高まることが確認された。即ち、短時間に高エネルギーを照射することで、せん断強度が高くなることが確認された。
【0084】
<実施例12>
[光透過性樹脂成形品の製造]
上記ポリアセタール樹脂を用いて、図5に示すような容器の蓋を成形した。
【0085】
[光吸収性樹脂成形品の製造]
光吸収性樹脂成形品の作製は、上記ポリアセタール樹脂99.75質量%と市販のカーボンブラック0.25質量%とからなるポリアセタール系樹脂組成物を、以下の成形条件にて成形することにより、図5に示すような容器を成形した。
【0086】
[樹脂成形品の溶着]
光透過性樹脂成形品と光吸収性樹脂成形品とを互いに積重させた状態で、フラッシュ光を照射する部分の樹脂成形品間の隙間の量を実施例1と同様の方法で測定した。上記樹脂成形品間の隙間の量は、全てほぼ0mmであることが確認された。
【0087】
上記フラッシュランプ溶着装置を用いて、図6に示すように以下の溶着条件で図5に示す光吸収性樹脂成形品21と光透過性樹脂成形品22とを溶着させた。
(溶着条件)
照射エネルギー密度:30J/cm
照射回数:1回
照射距離:4cm
パルス幅:6.4msec
加圧力 :196N
【0088】
溶着後の沈み込み量の測定を行った。沈み込み量の測定は、溶着の前後での図6に示すΔXの幅の差を測定することにより行った。測定箇所は図7に示した。測定結果を、表4に示した。なお、図7は、光透過性樹脂成形品と光吸収性樹脂成形品とを互いに積重又は溶着させた状態で、光透過性樹脂成形品側から見た上面図である。
【0089】
加圧力を490Nに変更し、同様の方法で沈み込み量を測定した。さらに加圧力を981Nに変更したものについても同様に沈み込み量を測定した。これらの結果も併せて表4に示した。
【0090】
【表4】

【0091】
表4の結果から明らかなように、溶着面の各部分での沈み込み量は、本発明の溶着方法によって樹脂成形品同士を溶着することで、ほぼ均一になることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光透過性樹脂成形品と、光吸収性樹脂成形品とを、互いに積重された状態で、光透過性樹脂成形品側からフラッシュ光を照射して、光透過性樹脂成形品と光吸収性樹脂成形品とを、溶着する樹脂成形品の溶着方法であって、
前記光透過性樹脂成形品がポリアセタール樹脂を含み、
前記互いに積重された状態において、フラッシュ光照射部分の前記光透過性樹脂成形品と前記光吸収性樹脂成形品との間の最小の隙間が0.03mm以下である樹脂成形品の溶着方法。
【請求項2】
前記最小の隙間が、0.02mm以下である請求項1に記載の樹脂成形品の溶着方法。
【請求項3】
前記光吸収性樹脂成形品が、ポリアセタール樹脂と、光吸収発熱体とを含む請求項1又は2に記載の樹脂成形品の溶着方法。
【請求項4】
前記光吸収発熱体が、カーボンブラックである請求項3に記載の樹脂成形品の溶着方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−240554(P2011−240554A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−113609(P2010−113609)
【出願日】平成22年5月17日(2010.5.17)
【出願人】(390006323)ポリプラスチックス株式会社 (302)
【出願人】(000102212)ウシオ電機株式会社 (1,414)
【Fターム(参考)】