説明

樹脂成形品の表面加飾方法及び樹脂成形品

【課題】本発明は、金型加工によることなく、簡単な工程で、多様なバリエーションの模様を選択可能に成形品の表面に凹凸模様を形成し、さらにはこの凹凸模様にメタリック加飾して樹脂表面に高級感を有する立体的な模様を形成する表面処理方法を提供することを目的とする。
【解決手段】基材フィルムに厚盛印刷層により凸部を形成した凹凸転写フィルムをインサート材としてインサート成形して、厚盛印刷層による凸部を転写するように成形品の表面に凹部を形成し、インサート成形後、成形品から基材フィルムと共に厚盛印刷層を、あるいは基材フィルムだけを剥離除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂成形品の表面を凹凸模様により表面加飾する方法、および当該方法により表面加飾した樹脂成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
パケージにおける加飾が商品力の大きな部分を占める化粧料用等の容器においては、塗装、印刷等によりさまざまな加飾性を発揮させて商品イメージを大きく向上させ、高級感ある外観を現出させて他の商品と差別化させることが望まれている。
たとえば特許文献1には、高級感ある外観を現出させるように加飾するために金型キャビティ面に凹凸状の模様を刻設し、成形時に容器の表面に凹凸模様を形成すると共にホットスタンプ法を用いてメタリック状の加飾を施す方法が記載されている。
【特許文献1】特開平6−286397号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、金型キャビティに凹凸を形成するためには、高価な金型を直接加工する必要があり、コストが大きい、成形品ごとに金型を加工する必要がある、また模様を多様なバリエーションのなかから選択することが現実には困難である、等の問題がある。また、ホットスタンプなども手間がかかる。
【0004】
本発明は、金型加工によることなく、簡単な工程で、多様なバリエーションの模様を選択可能に、成形品の表面に凹凸模様を形成し、さらにはこの凹凸模様にメタリック加飾して樹脂成形品の表面に高級感を有する立体的な模様を形成する表面処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため本発明のうち、以下に説明する請求項1〜10は表面加飾方法に係るものであり、請求項11〜14は請求項1〜10の方法により表面加飾された樹脂成形品に係るものである。
【0006】
そして、請求項1記載の表面加飾方法は、
基材フィルムに厚盛印刷層により凸部を形成した凹凸転写フィルムをインサート材としてインサート成形して、厚盛印刷層による凸部を転写するように成形品の表面に凹部を形成すること、
インサート成形後、成形品から基材フィルムと共に厚盛印刷層を剥離除去すること、
にある。
【0007】
上記請求項1記載の方法によれば、基材フィルムに厚盛印刷層により凸部を形成した凹凸転写フィルムをインサート材として金型のキャビティ面に配設し、射出成形、ブロー成形、熱成形等の成形方法によりインサート成形することにより、この凸部を転写するように成形品表面に凹部を形成することができる。
【0008】
インサート成形した状態では、凹部には厚盛印刷層が嵌入した状態であるが、インサート成形後、基材フィルムと共にこの厚盛印刷層を剥離除去することにより、成形品表面に凹部が現出し、この凹部を利用して凹凸模様を形成することができる。
【0009】
そして、この方法によれば金型のキャビティ面を加工する必要がなく、また、厚盛印刷層はスクリーン印刷で多数回の重ね印刷をして形成することができ、印刷技術により微細で精巧な模様を現出させることができる。
また、印刷により多様なバリエーションの模様を形成することができ、同一の形状の成形品を多様な凹凸模様で加飾することができるし、逆に異なる形状の成形品を同じ凹凸模様で加飾することも可能である。
【0010】
なお本発明にかかる樹脂成形品は、容器などに限らず、置物などその他の樹脂製品、あるいは文字盤、スイッチ類、ツマミなどの部品であっても適用できる。
【0011】
請求項2記載の方法は、請求項1記載の発明において、
凹凸転写フィルムを、メタリック感を現出するためのメタリック薄層を有する構成とし、インサート成形により成形品表面に凹部を形成すると共に、この凹部の形状に沿ってメタリック薄層を転写積層すること、にある。
【0012】
前述した請求項1に記載される要件の範囲内で、様々な態様の凹凸転写フィルムを、目的とする加飾態様に応じて使用することができるが、
上記請求項2記載の方法はインサート成形時に、凹部の形成と同時にこの凹部の形状に沿って蒸着層等により代表されるメタリック薄層を転写積層して、凹部を利用した凹凸模様を、さらにメタリック様に加飾するための方法である。
【0013】
メタリック薄層を有する凹凸転写フィルムをインサート材としたインサート成形により、凹部の形成と同時に、この凹部の形状に沿ってメタリック薄層が積層されるので、このメタリック薄層を微細な凹部にも斑なく形成することができ、メタリック感を高品位に現出させることができる。
なお、このメタリック薄層の形成範囲は、凹凸転写フィルムの全面とすることもできるし、必要に応じて所定部分に限定することもできる。
【0014】
そして、このように成形品表面に形成された凹凸模様をメタリック様に加飾することにより、ちょうど金属材料の表面を彫刻したような立体感のある外観を現出させることもでき、より高級な外観とすることができ、商品の差別化を図ることが可能となる。
【0015】
請求項3記載の方法は、請求項2記載の発明において、
メタリック薄層を蒸着層とすること、
凹凸転写フィルムを、基材フィルムの片側面に厚盛印刷層を形成し、もう一方の面に剥離層、保護層、蒸着層、及び接着層をこの順に順次積層したものとすること、
この凹凸転写フィルムを、厚盛印刷層を形成した側を金型キャビティ面に密着させた状態で配設し、インサート成形して成形品表面に形成される凹部の形状に沿って接着層、蒸着層、及び保護層をこの順に転写積層すること、
インサート成形後、剥離層と共に基材フィルムと厚盛印刷層を剥離除去すること、にある。
【0016】
上記請求項3に記載される凹凸転写フィルムの構成は、前述した請求項2に記載される凹凸模様にメタリック感を付与するための代表的な具体例であり、
蒸着層は接着層により凹部を含む成形品表面にしっかりと固定され、さらに保護層で被覆されているので、擦れて蒸着層が損傷したりすることがなく、長期にメタリック様の外観を高品位に維持することができる。
【0017】
また、この凹凸転写フィルムの構成では、基材フィルムに剥離層、保護層、蒸着層、及び接着層を積層したフィルムを共通な素材として、厚盛印刷層を形成するだけで、多様なバリエーションの凹凸転写フィルムとすることができ、より容易に多様なバリエーションの模様に対応することができる。
【0018】
請求項4記載の発明の方法は、請求項2記載の発明において、
メタリック薄層を蒸着層とすること、
凹凸転写フィルムを、基材フィルムの片側面に厚盛印刷層を形成し、その上に剥離層、保護層、蒸着層、及び接着層をこの順に順次積層したものとすること、
凹凸転写フィルムを、基材フィルムを金型キャビティ面に密着させた状態で配設し、インサート成形して、成形品表面に形成される凹部の形状に沿って接着層、蒸着層、及び保護層をこの順に転写積層すること、
インサート成形後、剥離層と共に基材フィルムと厚盛印刷層を剥離除去すること、にある。
【0019】
上記請求項4記載の方法において使用する凹凸転写フィルムの構成も、請求項3記載のものと同様に、請求項2に記載されるメタリック感を付与するための凹凸転写フィルムの代表的な具体例であり、
請求項3の構成と同様に成形品表面に形成される凹凸模様において、蒸着層を凹部の形状に沿って、インサート成形時に同時に転写形成し、凹凸模様をさらにメタリック様に加飾するためのものであるが、
ただ、請求項3記載の構成に比較して、基材フィルムに対して厚盛印刷層を他の層と同じ側に配設したものであり、このようにすることにより、インサート成形において厚盛印刷層による凸部をよりクリアに成形品表面に転写することができ、成形品表面の凹凸模様をより高度に現出させることが可能となる。
【0020】
請求項5記載の発明の表面加飾方法は、
基材フィルムに厚盛印刷層により凸部を形成した凹凸転写フィルムをインサート材としてインサート成形すること、
厚盛印刷層による凸部を転写するように成形品の表面に凹部を形成すること、
インサート成形後、凹部に厚盛印刷層を残存転写した状態で、成形品から基材フィルムを剥離除去すること、
にある。
【0021】
請求項5記載の方法は、請求項1記載の方法と類似的ではあるが、インサート成形後、インサート成形により成形品表面に形成される凹部に埋設状に位置する厚盛印刷層を剥離除去することなく、そのまま残存転写した状態とするものである。
【0022】
このように、凹部に厚盛印刷層を残存させておくことにより、成形品表面は実際には平坦になるが、厚盛印刷層自体を透明性の有するものとしたり、あるいは成形品を透明性の有するものとしたりすることにより、光学的な凹凸を形成し、視覚的に凹凸模様を現出させることができ、高度な表面加飾を現出することが可能となる。
【0023】
請求項6記載の発明の方法は、請求項5記載の発明において、
凹凸転写フィルムを、メタリック感を現出するためのメタリック薄層を有する構成とし、インサート成形により成形品表面に凹部を形成すると共に、この凹部の形状に沿って前記メタリック薄層を転写積層すること、にある。
【0024】
請求項6記載の方法によれば、蒸着層等に代表されるメタリック薄層を有する凹凸転写フィルムをインサート材としたインサート成形により、凹部の形成と同時に、この凹部の形状に沿ってメタリック薄層が積層されるので、このメタリック薄層を微細な凹部にも斑なく形成することができる。
【0025】
請求項7記載の発明の方法は、請求項6記載の発明において、
メタリック薄層を蒸着層とすること、
凹凸転写フィルムを、基材フィルムの片側面に剥離層と保護層を形成し、その上に厚盛印刷層を形成し、さらにその上に蒸着層と接着層をこの順に順次積層したものとすること、
凹凸転写フィルムを、基材フィルムを金型キャビティ面に密着させた状態で配設し、インサート成形すること、
成形品表面に形成される凹部の形状に沿って接着層と蒸着層を転写積層すると共に、凹部に蒸着層の上に厚盛印刷層を残存させた状態で、さらに保護層を被覆状に転写積層すること、
インサート成形後、剥離層と共に基材フィルムを剥離除去すること、
にある。
【0026】
上記請求項7に記載される凹凸転写フィルムの構成は、前述した請求項6に記載される凹凸模様にメタリック感を付与するための代表的な具体例であり、蒸着層は接着層により凹部を含む成形品表面にしっかりと固定され、さらに蒸着層と共に厚盛印刷層が保護層で被覆されているので、擦れて蒸着層や厚盛印刷層が損傷したりすることがなく、長期にメタリック様の外観を高品位に維持することができる。
【0027】
請求項8記載の発明の方法は、請求項5、6または7記載の発明において、印刷層を透明性を有するものとすること、にある。
【0028】
請求項8記載の上記構成により、厚盛印刷層は様々な態様で着色透明状にすることもでき、さらに光反射性の高い添加剤を混入させてもより高度な表面加飾とすることができる。
【0029】
請求項9記載の発明の方法は、請求項1、2、3、4、5、6、7または8記載の発明において、成形品を透明性を有するものとすること、にある。
【0030】
請求項9記載の上記構成により、成形品を透明性を有するものとし、成形品の裏側表面を凹凸模様により表面加飾し、成形品の表側表面からこの成形品を透して、凹凸模様を現出させて、高度な加飾性を付与することができる。
ここで、成形品は様々な態様で着色透明状にすることもでき、さらに光反射性の高い添加剤を混入させてより高度な表面加飾とすることができる。
【0031】
請求項10記載の発明の方法は、請求項1、2、3、4、5、6、7、8または9記載の発明において、厚盛印刷層の平均層厚さを0.1mm以上とすること、にある。
【0032】
請求項10記載の上記構成により、厚盛印刷層の層厚さは様々な態様で変化させることができるが、平均層厚さを0.1mm以上とすることで、立体感のある凹凸模様を効果的に現出させることができる。
【0033】
次に、請求項11〜14は上記説明した請求項1〜10記載の方法に係る表面加飾方法によって表面加飾した樹脂成形品に係るものであり、
請求項11記載の発明の手段は、樹脂成形品において、
基材フィルムに厚盛印刷層により凸部を形成した凹凸転写フィルムをインサート材としたインサート成形方法により凸部を転写するように表面に凹部を形成し、基材フィルムと共に厚盛印刷層を剥離除去した状態で、この凹部を利用した凹凸模様により表面加飾したこと、にある。
【0034】
請求項11記載の上記構成により、成形品表面に形成される凹凸模様は、基材フィルムに厚盛印刷層により凸部を形成した凹凸転写フィルムをインサート材としたインサート成形方法により形成されたものであり、金型キャビティ面を加工することなく、印刷技術により微細で精巧な凹凸模様が現出させることができ、また、多様なバリエーションを有する模様とすることができる。
【0035】
請求項12記載の発明の手段は、樹脂成形品において、
基材フィルムに厚盛印刷層により凸部を形成した凹凸転写フィルムをインサート材としたインサート成形方法によりこの凸部を転写するように表面に凹部を形成し、厚盛印刷層を残存させて、基材フィルムを剥離除去した状態で、この凹部を利用した光学的な凹凸模様により表面加飾したこと、にある。
【0036】
請求項12記載の上記構成により、凹部に厚盛印刷層を残存させておくことにより、成形品表面は実際には平坦な性状となるが、光学的な凹凸として、視覚的に凹凸模様を現出させることができ、高度な表面加飾を現出することが可能となる。
また、厚盛印刷層は様々な態様で着色透明状にもすることもできるので、さらに高度な表面加飾とすることができる。
【0037】
請求項13記載の発明の手段は、請求項11または12記載の発明において、厚盛印刷層と共に蒸着層を有する凹凸転写フィルムを用い、厚盛印刷層により凹部を形成すると共に、凹部に沿って蒸着層を転写形成すること、にある。
【0038】
請求項13記載の上記構成により、凹部の形成と同時に、この凹部の形状に沿って蒸着層が積層されるので、微細な凹部にも斑なく、蒸着層を形成することができ、高品位な加飾性とすることができる。そして金属材料の表面を彫刻したような立体感のある外観を現出させることもでき、より高級な外観を現出させて商品の差別化を図ることが可能となる。
【0039】
請求項14記載の発明の手段は、請求項11、12または13記載の発明において、成形品を透明性を有するものとし、この成形品の裏側表面を凹凸模様により表面加飾し、この成形品を透して成形品の表側から、凹凸模様を現出させる構成とすること、にある。
【0040】
請求項14記載の上記構成により、透明な成形品を透して、裏側表面に形成される凹凸模様を現出させて、高度な加飾性を付与することができる。
【発明の効果】
【0041】
本発明の請求項1〜10に記載される樹脂成形品の表面加飾方法では以下の効果を奏する。
請求項1記載の発明にあっては、樹脂成形品の表面に凹凸模様を付与するために、金型を加工する必要がない。また、印刷技術により微細で精巧な模様を現出させることができる。また、多様なバリエーションを有する模様を容易に形成することができ、同一の形状の成形品を多様な凹凸模様で加飾することができるし、逆に異なる形状の成形品を同じ凹凸模様で加飾することもできる。
【0042】
請求項2記載の発明にあっては、メタリック薄層を微細な凹部にも斑なく形成してメタリック感を高品位に現出させることができ、成形品表面に形成された凹凸模様をメタリック様に加飾することにより、より高級な外観を現出させて商品の差別化を図ることができる。
【0043】
請求項3記載の発明にあっては、蒸着層は接着層により凹部を含む成形品表面にしっかりと固定され、さらに保護層で被覆されているので、擦れて蒸着層が損傷したりすることがなく、長期にメタリック様の外観を高品位に維持することができる。
【0044】
また、基材フィルムに剥離層、保護層、蒸着層、及び接着層を積層したフィルムを共通な素材として、厚盛印刷層を変えるだけで多様な模様により容易に対応できる。
【0045】
請求項4記載の発明にあっては、基材フィルムに対して厚盛印刷層を他の層と同じ側に配設したものであり、厚盛印刷層による凸部をよりクリアに成形品表面に転写することができ、メタリック感の付与された凹凸模様をより高精度に現出させることができる。
【0046】
請求項5記載の発明にあっては、光学的な凹凸により視覚的に凹凸模様を現出させて高度な表面加飾とすることができる。
【0047】
請求項6記載の発明にあっては、凹部の形成と同時に、この凹部の形状に沿ってメタリック薄層が積層されるので、このメタリック薄層を微細な凹部にも斑なく形成することができる。
【0048】
請求項7記載の発明にあっては、蒸着層は接着層により凹部を含む成形品表面にしっかりと固定され、さらに蒸着層と共に厚盛印刷層が保護層で被覆されているので、擦れて蒸着層や厚盛印刷層が損傷したりすることがなく、長期にメタリック様の外観を高品位に維持することができる。
【0049】
請求項8記載の発明にあっては、厚盛印刷層は様々な態様で着色透明状にすることもでき、さらに光反射性の高い添加剤を混入させてより高度な表面加飾とすることができる。
【0050】
請求項9記載の発明にあっては、成形品を透明性を有するものとし、成形品の裏側表面を凹凸模様により表面加飾し、この成形品を透して成形品の表側から、凹凸模様を現出させて、高度な加飾性を付与することができる。
【0051】
請求項10記載の発明にあっては、平均層厚さを0.1mm以上とすることで、立体感のある凹凸模様を効果的に現出させることができる。
【0052】
次に請求項11〜14に記載される樹脂成形品は以下の効果を奏する。
請求項11記載の発明にあっては、印刷技術を用いて成形品表面に微細で精巧な凹凸模様を現出させることができ、また、多様なバリエーションを有する模様とすることができる。
【0053】
請求項12記載の発明にあっては、厚盛印刷層を残した状態で光学的な凹凸により凹凸模様を視覚でき、高度な表面加飾を現出することができる。
【0054】
請求項13記載の発明にあっては、微細な凹部にも斑なく蒸着層を形成することができ、高品位な加飾を実現できる。また、金属材料の表面を彫刻したような立体感のある模様により高級な外観を現出させて商品の差別化を図ることが可能となる。
【0055】
請求項14記載の発明にあっては、透明な成形品を透して、裏側表面に形成される凹凸模様を現出させて、高度な加飾性を付与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0056】
図1と図2は本発明の表面加飾した樹脂成形品の一実施例を示すもので、図1は全体斜視図、図2はこの成形品1の頂壁の裏側表面近傍の縦断面図である。
この成形品1は透明性を有する射出成形品で、矩形状のコンパクト容器の蓋部分である。頂壁の裏側表面が表面処理がされており、周縁部を残した矩形状の加飾領域4全体に蒸着層17を形成し、その中央部に図案化された文字(ABCDEFGH)からなる凹凸模様3を形成している。
そして、表側から見ると透明な頂壁を透して、金属材料の表面を彫刻したように文字が立体的に、浮き上がるように視覚される。
【0057】
成形品1の裏側表面には上記凹凸模様3、すなわち図案化した文字を現出する凹部2が形成されており、この凹部2の形状に沿うようにして、接着層18とメタリック薄膜層の一つである蒸着層17と透明な保護層16からなる転写層19が形成されている。(図2参照)
メタリック様の外観を現出する機能を発揮する蒸着層17は、接着層18により凹部2を含む成形品1表面にしっかりと固定されると共に、保護層16で被覆されているので、擦れて蒸着層が損傷したりすることがなく、長期にメタリック様の外観を高品位に維持することができる。
【0058】
次に、図3、4を参照して上記した成形品1の表面加飾方法について説明する。
図4(a)〜(c)は本発明の表面加飾方法の第1実施例の概略説明図であり、図3はこの実施例にインサート材として使用される凹凸転写フィルム11の縦断面図である。この凹凸転写フィルム11はポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂製等の基材フィルム13の片側面(図面では下側)に凸部12を形成する厚盛印刷層14をスクリーン印刷で多数回の重ね印刷をして形成し、もう一方の片側面に剥離層15、保護層16、蒸着層17、及び接着層18を順次積層形成したものである。
【0059】
ここで、この凹凸転写フィルム11では、基材フィルム13の片側面に剥離層15、保護層16、蒸着層17、及び接着層18を順次積層したものを共通素材フィルムとして用意しておけば、厚盛印刷層14を加飾目的に応じて変更するだけで多様なバリエーションの模様を容易に形成することができる。
【0060】
図4(a)はこの凹凸転写フィルム11を、厚盛印刷層14を射出成形の金型31のキャビティ面31fに密着状にして固定した状態である。
【0061】
そして図4(b)は、図4(a)の状態でキャビティ内に樹脂を射出充填した状態であり、樹脂の圧力により凹凸転写フィルム11がキャビティ面31fに押付けられて、拡大図に示されるように、厚盛印刷層14による凸部12が転写されるようにして成形品表面に凹部2が形成されると共に、他の5つの層はこの凹部2の形状に沿って配設される。
【0062】
図4(c)は、インサート成形品を冷却後に、剥離層15を利用して、この剥離層15と共に、基材フィルム13と厚盛印刷層14を剥離する状態を示すものであり、剥離後、接着層18、蒸着層17、及び保護層16からなる転写層19が凹部2の形状に沿って、成形品1の表面に転写され、図2に示すような加飾状態とすることができる。
【0063】
次に、図5、6を参照して本発明の表面加飾方法の第2実施例を説明する。
図6(a)〜(c)は本発明の表面加飾方法の第2実施例の概略説明図であり、図5はこの実施例にインサート材として使用される凹凸転写フィルム11の縦断面図である。この凹凸転写フィルム11は、PET樹脂製等の基材フィルム13の片側面に(図面では上側)に、厚盛印刷層14を形成し、その上からこの凸部12の形状に沿って、剥離層15、保護層16、蒸着層17、及び接着層18が順次積層形成したものである。
【0064】
図6(a)はこの凹凸転写フィルム11を、基材フィルム13面を射出成形の金型31のキャビティ面31fに密着状にして固定した状態である。この場合には密着面が平坦な基材フィルム13面であるのでキャビティ面31fに安定して固定することができる。
【0065】
そして図6(b)は、図6(a)の状態でキャビティ内に樹脂を射出充填した状態の要部拡大図であり、厚盛印刷層14による凸部12により成形品表面に凹部2が転写形成されると共に、接着層18、蒸着層17、保護層16、及び剥離層15からなる転写層19がこの凹部2の形状に沿って転写される。
【0066】
ここで、本実施例の凹凸転写フィルム11では、図6(b)にも示されるように最初から厚盛印刷層14による凸部12が樹脂が充填される側に突出するので、凸部12の形状を、成形品の表面に、よりクリアに転写することができる。
【0067】
そして、図6(c)は、成形品を冷却後に、剥離層15を利用してこの剥離層15と共に、基材フィルム13と厚盛印刷層14を剥離する状態を示すものである。
【0068】
次に、図7、8を参照して本発明の表面加飾方法の第3実施例を説明する。
図8(a)〜(c)は本発明の表面加飾方法の第3実施例の概略説明図である。第1と第2実施例が、成形後、厚盛印刷層14を剥離除去するのに対し、本実施例は、成形品1の凹部2に厚盛印刷層14を残存転写することを特徴とする。
【0069】
図7はこの実施例にインサート材として使用される凹凸転写フィルム11の縦断面図であり、PET樹脂製等の基材フィルム13の片側面に(図面では上側)に、剥離層15と保護層16を積層し、この保護層16の上に厚盛印刷層14を形成し、さらにその上からこの凸部12の形状に沿って、蒸着層17と接着層18が順次積層形成したものである。
【0070】
図8(a)はこの凹凸転写フィルム11を、基材フィルム13面を射出成形の金型31のキャビティ面31fに密着状にして固定した状態である。
【0071】
図8(b)は、図8(a)の状態でキャビティ内に樹脂を射出充填した状態の要部拡大図であるが、この図に示されるように、厚盛印刷層14による凸部12により成形品表面に凹部2が転写形成されると共に、この凹部2に沿って接着層18と蒸着層17が転写形成される。
【0072】
図8(c)は、成形品を冷却後に、剥離層15を利用してこの剥離層15と共に基材フィルム13を除去する状態を示すものであるが、接着層18と蒸着層17が凹部2の形状に沿って、成形品1表面に転写されると共に、厚盛印刷層14も凹部2内に残存転写され、さらに保護層16が全体を被覆するように転写形成される。
【0073】
そして、このように加飾された成形品1の表面は、厚盛印刷層14が凹部2に埋設状に残存転写し、さらに保護層16が平坦状に全体を被覆するように転写形成されているので、図1の成形品のように透明な成形品1で裏側表面から表面加飾する場合には、蒸着層17を光線の一部が透過する、所謂ハーフ蒸着層とすることにより、凹部2に残存する厚盛印刷層14を着色したり、さらには透明性を有するものとすることにより、さらに多彩な加飾性を現出させることができる。
【0074】
また、図1の成形品1とは逆に、成形品の表側表面を表面加飾するような場合には凹部2において蒸着層17が厚盛印刷層14で隠れてしまうが、このような場合にも、厚盛印刷層14を透明性を有するものとすることにより、凹部2に形成された蒸着層17にも光が入射、反射するので、たとえば図1のような模様では、光線の方向と視覚方向の組み合わせによって文字が浮かび上がって見えるような視覚的効果を現出させることができる。
さらに、厚盛印刷層14を着色透明性とすれば、色彩的な加飾効果を付加することもでき、数種の色を使って着色したり、着色をグラデーション状とすることもでき、多彩な表面加飾を実現することができる。
【0075】
以上、実施例に沿って、図面を参照しながら本発明の表面加飾方法、及び表面加飾された成形品について説明したが、本発明の表面加飾方法、及び表面加飾された樹脂成形品はこれら実施例に限定されるものではない。
図1に示される実施例では、透明な成形品1の裏側表面に表面加飾して、凹凸模様3を表側から現出させる例を説明したが、本願の表面加飾方法は勿論のことではあるが、このように裏側表面に限定されるものではなく、その加飾目的に応じて、表側、裏側、場合によっては双方の表面加飾を選択することができる。
なお、表側表面に表面加飾する場合には、不透明性な成形品を使用することもできる。
【0076】
また、凹凸模様は図案化した文字だけでなく絵柄、各種のキャラクター、一般的な模様、写真等とすることもできる。
また、厚盛印刷層による凸部の突出高さは一定高さにする必要はなく、この高さを様々に変化させることもできる。
また、印刷技術により微細で精巧な模様を現出させることができるので、蒸着層によりメタリック感を付与しない場合でも、凹凸模様だけで十分な加飾性を発揮せしめることができる。
また、蒸着層の代わりに着色層を形成することもできるし、透明な着色層と、蒸着層を積層することもできる。
【0077】
また、凹凸転写フィルムは基材フィルムと厚盛印刷層を有することを除いて、目的に応じて様々な態様の構成とすることができ、
たとえば、図7に示される第3実施例の凹凸転写フィルム11における
基材フィルム13/剥離層15/保護層16/厚盛印刷層14/蒸着層17/接着層18という構成において保護層16を省略して、インサート成形して剥離層15と共に基材フィルム13を剥離除去した後で塗装により、成形品の外表面全体に保護層を形成することもできる。
【0078】
また、インサート成形は射出成形に限定されるものではなく、金型を使用するブロー成形や熱成形とすることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明の樹脂成形品の表面加飾方法は、以上説明したように、金型を加工することなく、微細で精巧でかつ多様な凹凸模様を現出させることができ、さらには高品位にメタリック様に加飾することもでき、高級な外観を現出させて商品の差別化を図ることができるものであり、化粧料用の容器等に幅広い展開が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明の樹脂成形品の一実施例を示す全体斜視図である。
【図2】図1の成形品の表面近傍の縦断面図である。
【図3】本発明の表面加飾方法の第1実施例に使用する凹凸転写フィルムを示す縦断面図である。
【図4】(a)〜(c)は本発明の表面加飾方法の第1実施例であり、図1の成形品の加飾方法を示す概略説明図である。
【図5】本発明の表面加飾方法の第2実施例に使用する凹凸転写フィルムを示す縦断面図である。
【図6】(a)〜(c)は本発明の表面加飾方法の第2実施例を示す概略説明図である。
【図7】本発明の表面加飾方法の第3実施例に使用する凹凸転写フィルムを示す縦断面図である。
【図8】(a)〜(c)は本発明の表面加飾方法の第3実施例を示す概略説明図である。
【符号の説明】
【0081】
1 ;成形品
2 ;凹部
3 ;凹凸模様
4 ;加飾領域
11;凹凸転写フィルム
12;凸部
13;基材フィルム
14;厚盛印刷層
15;剥離層
16;保護層
17;蒸着層
18;接着層
19;転写層
31;金型
31f;キャビティ面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルム(13)に厚盛印刷層(14)により凸部(12)を形成した凹凸転写フィルム(11)をインサート材としてインサート成形して、前記厚盛印刷層(14)による凸部(12)を転写するように成形品(1)の表面に凹部(2)を形成し、前記インサート成形後、前記成形品(1)から基材フィルム(13)と共に厚盛印刷層(14)を剥離除去することを特徴とする樹脂成形品の表面加飾方法。
【請求項2】
凹凸転写フィルム(11)を、メタリック感を現出するためのメタリック薄層を有する構成とし、インサート成形により成形品表面に凹部(2)を形成すると共に、該凹部(2)の形状に沿って前記メタリック薄層を転写積層する請求項1記載の樹脂成形品の表面加飾方法。
【請求項3】
メタリック薄層を蒸着層(17)とし、
凹凸転写フィルム(11)を、基材フィルム(13)の片側面に厚盛印刷層(14)を形成し、もう一方の面に剥離層(15)、保護層(16)、蒸着層(17)、及び接着層(18)をこの順に順次積層したものとし、前記凹凸転写フィルム(11)を、厚盛印刷層(14)を形成した側を金型キャビティ面(31f)に密着させた状態で配設し、インサート成形して成形品(1)表面に形成される凹部(2)の形状に沿って接着層(18)、蒸着層(17)、及び保護層(16)をこの順に転写積層し、インサート成形後、剥離層(15)と共に基材フィルム(13)と厚盛印刷層(14)を剥離除去することを特徴とする請求項2記載の樹脂成形品の表面加飾方法。
【請求項4】
メタリック薄層を蒸着層(17)とし、凹凸転写フィルム(11)を、基材フィルム(13)の片側面に厚盛印刷層(14)を形成し、その上に剥離層(15)、保護層(16)、蒸着層(17)、及び接着層(18)をこの順に順次積層したものとし、前記凹凸転写フィルム(11)を、基材フィルム(13)を金型キャビティ面(31f)に密着させた状態で配設し、インサート成形して成形品(1)表面に形成される凹部(2)の形状に沿って接着層(18)、蒸着層(17)、及び保護層(16)をこの順に転写積層し、インサート成形後、剥離層(15)と共に基材フィルム(13)と厚盛印刷層(14)を剥離除去することを特徴とする請求項2記載の樹脂成形品の表面加飾方法。
【請求項5】
基材フィルム(13)に厚盛印刷層(14)により凸部(12)を形成した凹凸転写フィルム(11)をインサート材としてインサート成形して、前記厚盛印刷層(14)による凸部(12)を転写するように成形品(1)の表面に凹部(2)を形成し、前記インサート成形後、前記凹部(2)に厚盛印刷層(14)を残存転写した状態で、成形品(1)から基材フィルム(13)を剥離除去することを特徴とする樹脂成形品の表面加飾方法。
【請求項6】
凹凸転写フィルム(11)を、メタリック感を現出するためのメタリック薄層を有する構成とし、インサート成形により成形品表面に凹部(2)を形成すると共に、該凹部(2)の形状に沿って前記メタリック薄層を転写積層する請求項5記載の樹脂成形品の表面加飾方法。
【請求項7】
メタリック薄層を蒸着層(17)とし、凹凸転写フィルム(11)を、基材フィルム(13)の片側面に剥離層(15)と保護層(16)を形成し、その上に厚盛印刷層(14)を形成し、さらにその上に蒸着層(17)と接着層(18)をこの順に順次積層したものとし、前記凹凸転写フィルム(11)を、基材フィルム(13)を金型キャビティ面(31f)に密着させた状態で配設し、インサート成形して、成形品(1)表面に形成される凹部(2)の形状に沿って接着層(18)と蒸着層(17)を転写積層すると共に、凹部(2)で前記蒸着層(17)の上に厚盛印刷層(14)を残存させた状態で、さらに保護層(16)を被覆状に転写積層し、インサート成形後、剥離層(15)と共に基材フィルム(13)を剥離除去する請求項6記載の樹脂成形品の表面加飾方法。
【請求項8】
厚盛印刷層(14)を透明性を有するものとした請求項5、6または7記載の樹脂成形品の表面加飾方法。
【請求項9】
成形品(1)を透明性を有するものとした請求項1、2、3、4、5、6、7または8記載の樹脂成形品の表面加飾方法。
【請求項10】
厚盛印刷層(14)の平均層厚さを0.1mm以上とした請求項1、2、3、4、5、6、7、8または9記載の樹脂成形品の表面加飾方法。
【請求項11】
基材フィルム(13)に厚盛印刷層(14)により凸部(12)を形成した凹凸転写フィルム(11)をインサート材としたインサート成形方法により前記凸部(12)を転写するように表面に凹部(2)を形成し、基材フィルム(13)と共に厚盛印刷層(14)を剥離除去した状態で、前記凹部(2) を利用した凹凸模様(3)により表面加飾した樹脂成形品。
【請求項12】
基材フィルム(13)に厚盛印刷層(14)により凸部(12)を形成した凹凸転写フィルム(11)をインサート材としたインサート成形方法により前記凸部(12)を転写するように表面に凹部(2)を形成し、厚盛印刷層(14)を残存させて基材フィルム(13)を剥離除去した状態で、前記凹部(2) を利用した光学的な凹凸模様(3)により表面加飾した樹脂成形品。
【請求項13】
厚盛印刷層(14)と共に蒸着層(17)を有する凹凸転写フィルム(11)を用い、厚盛印刷層(14)により凹部(2)を形成すると共に、該凹部(2)に沿って蒸着層(17)を転写形成した請求項11または12記載の樹脂成形品。
【請求項14】
成形品(1)を透明性を有するものとし、該成形品(1)の裏側表面を凹凸模様(3)により表面加飾し、成形品(1)の表側表面から該成形品(1)を透して、前記凹凸模様(3)を現出させる構成とした請求項11、12または13記載の樹脂成形品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−162165(P2008−162165A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−355460(P2006−355460)
【出願日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【出願人】(000006909)株式会社吉野工業所 (2,913)
【Fターム(参考)】