説明

樹脂熱履歴推定方法

【課題】より精度の高い、樹脂の熱履歴推定方法を提供する。
【解決手段】樹脂熱履歴推定方法は、基準物質及び樹脂材料からなる試料を含む試料部の温度を周期的に変動させながら上昇させた際の、基準物質及び試料間の熱流束の変化に関する情報から、非可逆熱流成分を分離する工程と、分離した非可逆熱流成分から試料の熱履歴を推定する工程とを有する。基準物質及び樹脂材料からなる試料を含む試料部の温度を周期的に変動させながら上昇させた際の試料及び基準物質間の熱流束の変化に関する情報には、可逆熱流成分と非可逆熱流成分とが含まれる。これらを分離し、分離後の非可逆熱流成分から熱履歴を推定することにより、ガラス転移等に由来する可逆熱流成分の熱的挙動を排除した状態で熱履歴を推定することができるため、より高い精度で熱履歴を推定することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂の熱履歴推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、樹脂材料は、成形が容易である等の理由から、大量生産される日用品や工業製品の原材料として広く使用されている。また、その用途に応じた特性を有する樹脂を合成することができる点からも幅広く用いられている。
【0003】
樹脂材料のうち、熱可塑性樹脂は、原材料をガラス転移温度又は融点以上に加熱して軟化させた後に目的の形に成形することによって成形品が得られる。この成形品の強度は、成形品の製造工程や流通時に受けた熱履歴の影響を受けることが知られている。このため、成形品が過去に受けた熱履歴を推定することは、工程管理や品質管理の点からも重要であり、さまざまな研究がなされている。
【0004】
熱履歴を推定する方法としては、示差走査熱量分析(Differential Scanning Calorimetry:DSC)法を用いた推定方法がある。これは、基準物質及び試料を含む試料部の温度変化に応じて発生する試料の吸熱・発熱等の熱的挙動を試料及び基準物質間の熱流束曲線として求め、その熱流束曲線の形状から、熱履歴を推定する方法である。例えば、特許文献1には、DSC測定の結果からポリエチレンの熱履歴時間を推定する方法が開示されている。
【特許文献1】特開平5−10900号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、DSC法を用いた熱履歴の推定方法は、以下の点で問題であった。すなわち、DSC法で得られる熱流束曲線には、熱履歴を示すピークのほか、ガラス転移を示すピーク等が含まれる。熱流束曲線はこれらの熱的挙動をすべて加算した曲線であるため、試料中で個々に発生する熱的挙動について個別に明らかにされているとは限らない。例えば、同じ温度領域で数種類の熱的挙動が発生した場合、これらを加算した熱流束曲線は複雑な形状を示すことになる。このように、DSC法を用いた熱履歴の推定方法では、熱流束曲線の形状から正確な熱履歴を推定することは困難であった。
【0006】
本発明は上記を鑑みてなされたものであり、より精度の高い、樹脂の熱履歴推定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の樹脂熱履歴推定方法は、基準物質及び樹脂材料からなる試料を含む試料部の温度を周期的に変動させながら上昇させた際の、基準物質及び試料間の熱流束の変化に関する情報から、非可逆熱流成分を分離する工程と、分離した非可逆熱流成分から試料の熱履歴を推定する工程とを有することを特徴とする。
【0008】
基準物質及び樹脂材料からなる試料を含む試料部の温度を周期的に変動させながら上昇させた際の試料及び基準物質間の熱流束の変化に関する情報は、温度或いは温度変化率の周期的な変動に対応してほぼ周期的に変動し、温度変化率に比例する大きさと考えることができる可逆熱流成分と、温度或いは温度変化率の周期的な変動に対応した周期的な変動をしない非可逆熱流成分と、の合計であると考えることができる。これらの二成分は、樹脂材料に生じる熱的挙動(吸熱、発熱)の原因によって異なり、例えばガラス転移に由来する吸熱や発熱は可逆熱流成分として検出され、樹脂材料への熱履歴に由来する吸熱や発熱は非可逆熱流成分として検出される。
【0009】
上記の熱流束の変化に関する情報に含まれる二成分のうち、可逆熱流成分は、温度或いは温度変化率の周期的な変動と熱流束の変化の周期的な変動との相関を取ることにより、容易に求めることができる。そのため、非可逆熱流成分についても、熱流束の変化に関する情報から上記で得られる可逆熱流成分を除くことにより、容易に分離することができる。この分離後の非可逆熱流成分から熱履歴を推定することにより、ガラス転移等に由来する可逆熱流成分の熱的挙動を排除した状態で熱履歴を推定することができるため、より高い精度で熱履歴を推定することができる。
【0010】
また、本発明の樹脂熱履歴推定方法は、試料の熱履歴を推定する工程が、分離した非可逆熱流成分に基づいて、試料のエンタルピー緩和量を求め、試料のエンタルピー緩和量と、あらかじめ取得されたエンタルピー緩和量と熱履歴との相関関係と、に基づいて、試料の熱履歴を推定することを特徴とする。
【0011】
発明者は、分離した非可逆熱流成分から得られるエンタルピー緩和量が、特に熱履歴との間に高い相関関係を有することを見出した。このため、非可逆熱流成分から、試料エンタルピー緩和量を求めた後に、求めたエンタルピー緩和量と、あらかじめ取得したエンタルピー緩和量と熱履歴との相関関係に基づいて熱履歴を推定することにより、高い精度で樹脂試料の熱履歴を推定することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、より精度の高い、樹脂の熱履歴推定方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において、同一又は同等の要素には同一符号を用い、重複する説明を省略する。
【0014】
本発明に係る熱履歴推定方法は(1)基準物質及び樹脂材料からなる試料を含む試料部の温度を周期的に変動させながら上昇させた際の基準物質及び試料間の熱流束に関する情報を測定し、この結果から非可逆熱流成分を分離するステップ(変調型熱示差走査熱量分析法による測定)、(2)前ステップ(1)で得られた非可逆熱流成分の情報からエンタルピー緩和量を求めるステップ(エンタルピー緩和量の算出)、(3)エンタルピー緩和量と熱履歴の相関関係に基づいて試料の熱履歴を推定するステップ(熱履歴の推定)、の3段階に分けられる。以下、各ステップについて詳細を説明する。
【0015】
(1)変調型熱示差走査熱量分析法による測定
基準物質及び樹脂材料からなる試料を含む試料部の温度を周期的に変動させながら上昇させた際の、試料及び基準物質間の熱流束に関する情報を測定し、この結果から非可逆熱流成分を分離するステップについて説明する。
【0016】
本測定で用いる装置は、熱流束型DSC法とほぼ同一であり、測定方法も昇温過程が異なるほかは熱流束型DSC法とほぼ同一である。測定方法は具体的には以下の通りである。まず、熱源と接続されて試料部を構成する2つのサンプルパンの一方に試料を、もう一方に基準物質を載置する。サンプルパン上の試料及び基準物質を含む試料部に対して熱源から同一の熱量を供給して温度を変化させる。試料は、相転移や、熱履歴、残留応力等によって、吸熱や発熱等の熱的挙動を示すので、試料と基準物質との間に温度差が生じ試料と基準物質との間に熱流束が生ずる。そこで、試料と基準物質との間の熱流束の変化を測定するのである。熱流束の差は、例えば、各サンプルパンの温度を測定する一対の熱電対により、試料及び基準物質の温度を測定し、これらの温度差に基づいて取得すればよい。
【0017】
試料は、樹脂材料であれば特に限定されない。例えば、非結晶性の樹脂でも結晶性樹脂でもよく、また、合成樹脂でも天然樹脂でもよい。具体的には熱可塑性樹脂が挙げられ、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、やこれらのモノマーの共重合体を含むポリオレフィンや、ポリスチレン等が挙げられる。
また、基準物質としては、試料部が受ける温度範囲において、吸熱発熱等の熱的挙動を殆ど示さないものであればよく、例えば、アルミニウム金属等の金属やアルミナ等の酸化物を用いることができる。
【0018】
試料部を周期的に変動させながら昇温する際の昇温パターンは、温度を周期的に変動させる変調成分と、温度を一定速度で上昇させる線形成分と、を加算したパターンである。変調成分は、正弦曲線とすることが好ましいが、パルス波等でもよい。変調成分の変調周期は、例えば、10〜100秒とすることが好ましい。また、変調振幅は、例えば、0.01〜10℃とすることが好ましい。さらに、線形成分の温度変化率は、0〜100℃/分とすることが好ましい。より好ましくは、変調周期は40〜100秒であり、変調振幅は0.01〜5℃であり、線形成分の温度変化率は0〜10℃/分である。なお、通常、線形成分の温度変化率と、昇温パターンにおける平均温度変化率とは一致する。
また、DSC測定に使用する試料を入れるアルミ製のサンプルパンの重量と、基準物質を入れるアルミ製のサンプルパンの重量の差を±0.1mgとすることが、測定精度を高める点で好ましい。
【0019】
図1は、試料部の温度を周期的に変動させながら昇温する際の昇温パターンの一例を示す図である。図1に示す昇温パターンでは、図1のように振幅1℃かつ周期1分の正弦曲線による変調成分で変調させながら、毎分1℃の速度の線形成分で試料部の温度を上昇させる。具体的には、図1では、平均温度変化率1℃/分、変調周期1分、変調振幅2℃である。
【0020】
図2は、上記の条件で試料及び基準物質を加熱した際に得られるデータの一例を示す図である。試料と基準物質との間の熱流束は、図2における熱流束(mW)として示される。また、基準物質の温度の変化率が温度変化率(℃/分)として示されている。
【0021】
このとき、熱流束は、熱エネルギーの移動量の変化であるため、dQ/dt(J/秒)と表記することができ、以下の数式;
【数1】



で表すことができる。熱流束dQ/dtは、可逆熱流成分Hと、非可逆熱流成分Hnrと、の和として表すことができる。また、可逆熱流成分Hは、単位時間当たりの基準物質の温度差である温度変化率dT/dt(℃/秒)と、可逆熱流成分係数f(T,t)との積で表すことができる。一方、非可逆熱流成分はfnr(T,t)として表すことができる。上記のf(T,t)及びfnr(T,t)は、時間と温度による関数で示される。
【0022】
このときのf(T,t)の算出は、コンピュータ・システムによって、離散フーリエ変換(DFT)を用いることで行うことができる。この具体的なアルゴリズムは下記の1.〜6.に示す通りであり:
1.基準物質の温度変化率及び熱流束の移動平均値を求める。具体的には、例えば図2のデータの各測定点において、各測定点を中央値として、中央値の前後の計1以上の変調周期のデータを平均することにより求める。
2.各測定点において、基準物質の温度変化率及び熱流束の変調成分を求める。これは、各測定点における測定値から上記1.で求めた移動平均値を引くことにより求められる。
3.離散フーリエ変換により、上記2.で求めた基準物質の温度変化率及び熱流束の変調成分に、同じ位相の正弦波(cos波)と位相が90°異なる正弦波(sin波)とを乗じて、成分を正弦波変調と相関させる。この積は、1以上の変調周期について和がとられる。
4.3.で求めた相関を基に、基準物質の温度変化率及び熱流束のそれぞれの変調成分について、振幅及び位相を計算する。
5.4.で求めた振幅及び位相について、1.と同じく1以上の変調周期のデータを平均することにより、移動平均を求める。ここで得られる基準物質の温度変化率の振幅の平均移動をTamp、熱流束の振幅の移動平均をQampとする。
6.上記の結果を用いて、f(T,t)を、以下の数式;
【数2】



によって、求めることができる。
【0023】
さらに、基準物質の温度変化率dT/dtを用いて、
【数3】



により、可逆熱流成分Hを求めることができる。
【0024】
上記の結果から、非可逆熱流成分Hnrは、以下の数式;
【数4】



によって求めることができる。
【0025】
図3は、図2の測定結果から上記1.によって求めた熱流束の移動平均と、同じく図2の測定結果から上記の方法に従って可逆熱流成分及び非可逆熱流成分に分離した例を示す図である。この例では、熱流束の移動平均を示す熱流曲線のピークのうち、140℃近辺の正方向のピークは非可逆熱流成分によるものであり、250℃近辺の負方向のピークの主成分は可逆熱流成分であることが分かる。このように、変調型熱示差走査熱量分析法によって測定することにより、熱流束の変化に関する情報を、可逆熱流成分と非可逆熱流成分とに分離することができる。
【0026】
(2)エンタルピー緩和量の算出
上記(1)で得られた熱流束の変化に関する情報のうちの非可逆熱流成分からエンタルピー緩和量を求める。樹脂材料からなる試料が受けた熱履歴は、エンタルピー緩和に伴う吸熱ピークとして示される。
【0027】
図4は非可逆熱流成分の曲線から、エンタルピー緩和量ΔHを算出する方法を示す図である。図4で示すように、非可逆熱流成分の曲線から負方向のピークを有する部分を見つけ、ベースラインに対する接線TLを引く。負方向のピークを含み、非可逆熱流成分曲線とベースラインの接線TLに囲まれた部分(図4の斜線部分)の面積を求める。このようにしてエンタルピー緩和量ΔH(J/g)を算出することができる。
【0028】
(3)熱履歴の推定
上記で得られたエンタルピー緩和量ΔHを元に、熱履歴を推定する。この熱履歴には、温度や時間等の変数が含まれる。しかしながら、発明者らは、樹脂材料からなる試料が、他の変数がほぼ同一であり一つの変数のみが大きく変化するような熱履歴を受けた場合に、本実施形態に沿って算出したエンタルピー緩和量ΔHは一定の近似曲線に従うことを見出した。
【0029】
したがって、例えば、同じ樹脂材料からなり、異なる加熱温度で一定時間加熱した試料を複数準備し、上記の方法でエンタルピー緩和量ΔHを測定して近似曲線を作成しておけば、未知の温度で一定時間加熱された試料について、上記と同様の方法でエンタルピー緩和量ΔHを算出することで、あらかじめ得られた近似曲線を検量線として加熱温度の推定を行うことができる。また、加熱温度が既知である試料をより多く用いて近似曲線の精度を高めることにより、未知試料の推定の精度も高めることができる。
【0030】
なお、上記の変数としては、加熱温度に限定されず、例えば、加熱時間、昇温(冷却)速度等が考えられる。これらの変数とエンタルピー緩和量ΔHとの相関関係をあらかじめ求めておくことにより、同じ樹脂材料からなり熱履歴が未知である試料についてもエンタルピー緩和量を算出することにより熱履歴の推定を行うことができる。
【0031】
以上、本発明における好適な実施形態を具体的に示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、種々の変更が可能である。例えば、上記実施形態ではエンタルピー緩和量を算出した後に、エンタルピー緩和量を基にして熱履歴を推定したが、非可逆熱流成分の他の指標として、例えばエンタルピー緩和を示す負方向のピークの高さ(図4における非可逆熱流成分曲線の負方向のピーク高さ)やピークトップの温度等を用いて、熱履歴を推定することもできる。
【0032】
また、上記実施形態では、熱流束型DSC、すなわち、試料部の温度を周期的に変動させながら上昇させた際に、実際に基準物質及び試料間に生ずる熱流束の変化を測定する方法を用いているが、入力補償型DSC、すなわち、試料部の温度を周期的に変動させながら上昇させた際に、基準物質及び試料間に温度差が生じないように、基準物質又は試料のいずれかに対して付加的に与えた熱流束の変化を測定する方法を用いてもよいことは言うまでもない。
【実施例】
【0033】
以下、実施例に基づき本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0034】
以下の実施例では、あらかじめ決められた温度で加熱した樹脂試料について、本実施形態に示した(1)温度を周期的に変動させながら上昇させた際の熱流束の情報を測定し、この結果から非可逆熱流成分を分離するステップと、(2)前ステップで得られた非可逆熱流成分の情報からエンタルピー緩和量を求めたときに、エンタルピー緩和量と加熱温度との間に相関関係があることについて説明する。
【0035】
(1)変調型熱示差走査熱量分析法による測定
樹脂試料として、市販のPETボトルに使用されているポリスチレン製のラベル2mgを4つ準備し、それぞれ実施例1〜4に用いる試料とした。これらを、下記の表1に示す条件であらかじめ加熱した。加熱時間は100分であった。また、加熱時の昇温速度は約50℃/分であり、冷却時の冷却速度は約50℃/分であった。これらの条件は実施例1〜4において、共通であった。
【0036】
この実施例1〜4の試料について、示差走査熱分析装置(商品名:DSC Q100、ティー・エイ・インスツルメント社製)を用いて、基準物質としてアルミニウム金属を用い、温度を周期的に変動させながら上昇させた際の基準物質及び試料間の熱流束の変化を測定した。このときの昇温パターンは、平均温度変化率5℃/分、変調周期1分、変調振幅0.8℃であった。
【0037】
図5は実施例1〜4の試料の測定結果を示す図である。上記の条件で得られた熱流束の変化の情報を、可逆熱流成分と非可逆熱流成分とに分離した。図5(a)は実施例1〜4の試料の測定結果のうちの可逆熱流成分を分離した図であり、図5(b)は非可逆熱流成分を分離した図である。図5(a)及び図5(b)では、実施例1〜4の差異が分かりやすくなるよう、それぞれの成分の曲線のベースラインをずらして表示している。図5(a)の可逆熱流成分のグラフにおいては、75〜80℃付近でガラス転移を示すカーブが得られた。また、図5(b)の非可逆熱流成分のグラフにおいては、実施例1〜4について、それぞれ異なる形状の吸熱ピークが確認された。なお、図5(b)に示す矢印は、各実施例について加熱温度を示したものである。
【0038】
(2)エンタルピー緩和量の算出
次に図5(b)に示すように、各実施例のベースラインに対する接線を引き、吸熱ピークとベースラインの接線によって囲まれたピーク面積を算出した。ピーク面積の算出は、測定に用いた示差走査熱分析装置(商品名:DSC Q100)に附属する処理ソフト(Universal Analysis2000)を使用して行った。
【0039】
実施例1〜4についての加熱処理温度及び上記によって得られたエンタルピー緩和量を表1に示す。
【0040】
【表1】



【0041】
図6は、表1に示す実施例1〜4の加熱処理温度及び算出したエンタルピー緩和量をプロットした図である。上記の加熱処理温度の絶対温度をT(K)としたときの、1/T×10−3を横軸、エンタルピー緩和量を縦軸(対数軸)にプロットしたとき、図6に示すような直線で近似することができた。このとき、図6の直線は、横軸をx、縦軸をyとして、以下に示す数式で示すことができた。
【数5】



【0042】
このように、エンタルピー緩和量と加熱処理温度との相関関係が確認できた。この相関関係をあらかじめ取得しておくことにより、加熱処理温度が未知の試料についても、エンタルピー緩和量を求めることで高い精度で加熱処理温度を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】試料部を周期的に変動させながら昇温する際の昇温パターンの一例を示す図である。
【図2】試料部を加熱した際に得られるデータの一例を示す図である。
【図3】図2の測定結果から熱流束の移動平均を求め、可逆熱流成分及び非可逆熱流成分に分離した例を示す図である。
【図4】非可逆熱流成分の曲線から、エンタルピー緩和量ΔHを算出する方法を示す図である。
【図5】実施例1〜4の試料の測定結果を示す図である。
【図6】実施例1〜4の試料の加熱処理温度及び実施例1〜4の試料の測定結果から算出したエンタルピー緩和量をプロットした図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基準物質及び樹脂材料からなる試料を含む試料部の温度を周期的に変動させながら上昇させた際の、前記基準物質及び試料間の熱流束の変化に関する情報から、非可逆熱流成分を分離する工程と、
前記分離した非可逆熱流成分から前記試料の熱履歴を推定する工程と、
を有する樹脂熱履歴推定方法。
【請求項2】
前記試料の熱履歴を推定する工程が、
前記分離した非可逆熱流成分に基づいて、前記試料のエンタルピー緩和量を求め、
前記試料のエンタルピー緩和量と、あらかじめ取得されたエンタルピー緩和量と熱履歴との相関関係と、に基づいて、前記試料の熱履歴を推定する請求項1記載の樹脂熱履歴推定方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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