説明

樹脂組成物、繊維及びその用途

【課題】艶を調整された繊維が得られる樹脂組成物、及び、この樹脂組成物からなる繊維を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂100質量部と、粒径0.01〜10μmの人毛0.01〜30質量部を有する樹脂組成物である。樹脂組成物には有機微粒子又は無機微粒子から選ばれる少なくとも一種の不活性粒子を含有させることもできる。また、本発明は、これらの樹脂組成物を溶融紡糸して得られる繊維である。繊維の繊度は、5〜100dtexであることが好ましいく、繊維は、ポリエステル繊維、モダアクリル繊維、ポリ塩化ビニル繊維、ナイロン繊維又は人毛から選ばれる少なくとも一種の繊維を混合することもできる。さらに、繊維は、その表面にシリコーン系の表面処理剤を塗布してもよい。得られた繊維は、人工毛髪として頭髪製品に用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂と粒径0.01〜10μmの人毛とを有する樹脂組成物、この樹脂組成物を溶融紡糸して得られる繊維及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
かつら、ヘアーウィッグ、付け毛、ヘアーバンド、ドールヘアーなどの頭髪製品においては、従来、人毛や人工毛髪(モダクリル繊維、ポリ塩化ビニル繊維)などが使用されてきている。しかし、人毛の提供は困難になってきており、人工毛髪の重要性が高まってきている。
【0003】
人工毛髪として用いられる繊維の艶・触感を改善する試みとして、ポリアルキレンテレフタレートに赤リン含有難燃剤を配合させて溶融紡糸する方法(特許文献1)やポリアミドを含有させる方法(特許文献2)、ポリアミドに発泡剤を混合して紡糸した後、発泡剤を発泡させる方法(特許文献3)などが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−088585号公報
【特許文献2】特開2007−297737号公報
【特許文献3】特開2007−002376号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、艶を調整された繊維が得られる樹脂組成物、この樹脂組成物を用いた繊維及びその用途を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
熱可塑性樹脂100質量部と、粒径0.01〜10μmの人毛0.01〜30質量部を有する樹脂組成物である。樹脂組成物における熱可塑性樹脂は、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリスチレン樹脂、メタクリル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂とPMMA樹脂の混合物から選ばれる少なくとも一種であることが好ましく、樹脂組成物には有機微粒子又は無機微粒子から選ばれる少なくとも一種の不活性粒子を含有させることもできる。
また、本発明は、これらの樹脂組成物を溶融紡糸して得られる繊維である。繊維の繊度は、5〜100dtexであることが好ましく、繊維は、ポリエステル繊維、モダアクリル繊維、ポリ塩化ビニル繊維、ナイロン繊維又は人毛から選ばれる少なくとも一種の繊維を混合することもできる。さらに、繊維は、その表面にシリコーン系の表面処理剤を塗布してもよい。
得られた繊維は、人工毛髪として頭髪製品に用いることができる。
【発明の効果】
【0007】
艶を調整された繊維が得られる樹脂組成物、この樹脂組成物からなる繊維が得られる。得られた繊維は、頭髪製品の材料となる人工毛髪として利用できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
樹脂組成物に用いる熱可塑性樹脂は、例えば、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、エチレン−α−オレフィン共重合体、ポリプロピレン(単独重合体、ランダム重合体、ブロック重合体を包含する)、プロピレン−α−オレフィン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体等から選ばれた少なくとも1種類以上のポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート等のポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリスチレン樹脂、メタクリル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリ塩化ビニリデン又はその共重合体、ポリフッ化ビニリデン樹脂及びポリフッ化ビニリデン樹脂とPMMA樹脂の混合物が用いられる。これらの樹脂成分は単独で使用してもよく、また2種以上を混合して使用してもよい。
【0009】
人毛は、樹脂組成物を溶融紡糸して得られる繊維の艶を低減させるために用いられるものであり、直径50〜100μmの一般的な人毛を、粒径0.01〜10μmの粒子状に粉砕して得られるものである。人毛の粒径は、0.05〜5μmがより好ましく、0.1〜3μmがさらに好ましい。人毛の粒径が0.01μmより小さいと得られる繊維の艶消し効果が得られない場合があり、10μmより大きいと得られる繊維の機械的特性、延性が損なわれる場合がある。
【0010】
人毛を粉砕するには、一般的に市販されている微粉砕機や解砕機を用いることができる。
【0011】
人毛の配合量は、熱可塑性樹脂100質量部に対し、0.01〜30質量部である。好ましくは0.05〜20質量部、より好ましくは0.1〜10質量部の範囲である。配合量が0.01質量部より少ないと得られる繊維の艶消し効果が得られない場合があり、30質量部より多いと得られる繊維の機械的特性、延性が損なわれる場合がある。
【0012】
熱可塑性樹脂には、人毛の他にも有機微粒子や無機微粒子などの不活性粒子を配合してもよい。これらの不活性粒子を配合することにより、繊維の表面に微細な突起を形成してその表面光沢や艶をさらに人毛に近づけることができる。
【0013】
有機微粒子としては、熱可塑性樹脂成分と相溶しないものや、部分的に相溶しない構造を有する有機樹脂成分を、熱可塑性樹脂の種類に合わせて使用することができる。有機微粒子としては、たとえば、ポリアリレート、ポリアミド、フッ素樹脂、シリコン樹脂、架橋アクリル樹脂、架橋ポリスチレンが挙げられる。
【0014】
無機微粒子としては、たとえば、炭酸カルシウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、タルク、カオリン、モンモリロナイト、ベントナイト、マイカが挙げられる。
これら不活性粒子は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0015】
不活性粒子の配合量は、熱可塑性樹脂100質量部あたり0.01〜30質量部の範囲が好ましい。この範囲であれば、繊維の機械的特性や延性を損なわずに、表面光沢や艶を適切な範囲に調整できる。
【0016】
不活性粒子を用いる場合には、熱可塑性樹脂及び人毛とともにこれら不活性粒子をドライブレンドした後、溶融混練して樹脂組成物とし、これを溶融紡糸することが好ましい。
【0017】
樹脂組成物を溶融混練するための装置としては、種々の一般的な混練機を用いることができる。溶融混練としては、たとえば一軸押出機、二軸押出機、ロール、バンバリーミキサー、ニーダーなどがあげられる。これらのうちでは、二軸押出機が、混練度の調整、操作の簡便性の点から好ましい。
【0018】
繊維は、熱可塑性樹脂の種類により適正な温度条件のもと、通常の溶融紡糸法で溶融紡糸することにより製造することができる。
【0019】
熱可塑性樹脂としてナイロン66樹脂を用いた場合は、押出機、ギアポンプ、口金などの溶融紡糸装置の温度を270〜310℃として溶融紡糸し、紡出糸条を加熱筒を通過させたのち、ガラス転移点以下に冷却し、50〜5000m/minの速度で引き取ることにより紡出糸が得られる。また、紡出糸条を冷却用の水を入れた水槽で冷却し、繊度のコントロールを行なってもよい。加熱筒の温度や長さ、冷風塔の温度や吹付量、冷却水槽の温度、冷却時間、引取速度は、吐出量及び口金の孔数によって適宜調整することができる。
【0020】
得られた未延伸糸は、繊維の引張強度を向上させるために熱延伸処理を行う。熱延伸処理は、未延伸糸を一旦ボビンに巻き取ってから溶融紡糸工程とは別の工程にて延伸する2工程法や、ボビンに巻き取ることなく溶融紡糸工程から連続して延伸する直接紡糸延伸法のいずれの方法によってもよい。また、熱延伸処理は、1度で目的の延伸倍率まで延伸する1段延伸法、又は2回以上の延伸によって目的の延伸倍率まで延伸する多段延伸法で行なわれる。熱延伸処理における加熱手段としては、加熱ローラ、ヒートプレート、スチームジェット装置、温水槽などを使用することができ、これらを適宜併用することもできる。
【0021】
本発明の樹脂組成物には、必要に応じて、難燃剤、耐熱剤、光安定剤、蛍光剤、酸化防止剤、静電防止剤、顔料、可塑剤、潤滑剤などの各種添加剤を含有させることができる。顔料を含有させることにより、予め着色された繊維(いわゆる原着繊維)を得ることができる。
【0022】
繊維の繊度は、通常、30〜80dtex、好ましくは35〜75dtexの範囲であることが、人工毛髪として適しているため好ましい。
【0023】
繊維は、ポリエステル繊維、モダアクリル繊維、ポリ塩化ビニル繊維、ナイロン繊維など、他の人工毛髪素材や粉砕していない人毛と混合して用いてもよい。
【0024】
繊維は、触感、くし通りを確保するために、シリコーン系の表面処理剤を使用することもできる。
【実施例】
【0025】
本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。繊維の物性は、以下に示した試験方法によって測定、評価した。
【0026】
[引張試験]
JIS−L1069に準拠して10本の繊維をランダムに選択して引張試験を行い、平均値を求めた。試験温度は23℃、相対湿度は50%、引張速度は200mm/min、空間距離(チャック間距離)は200mmで行なった。
引張強度(cN/dtex)が0.5以上3.0以下のものを合格とし、引張強度(cN/dtex)が0.5未満、又は、3.0を超えるものを不合格とした。
【0027】
[熱収縮試験]
120本の繊維からなる繊維束(アニール糸束)を一定の長さに切断し、130℃の雰囲気温度の空気循環式オーブンに投入して、15分熱収縮させ、熱処理後の長さを測定して、以下の様な計算にて、熱収縮率を求めた。
熱収縮率(%)=((熱処理前のアニール糸長−熱処理後のアニール糸長)/熱処理前のアニール糸の長さ)×100
【0028】
[艶評価]
実務経験5年以上の技術者10人の判定より、次の評価基準で評価した。
優 :技術者10人全員が、人毛に近い光沢レベルと評価したもの
良 :技術者の8人又は9人が、人毛に近い光沢レベルと評価したもの
不良:技術者の7人以下が、人毛に近い光沢レベルと評価したもの
【0029】
(実施例1)
人毛の調整と樹脂組成物の作製
粉砕機により平均粒径1μmに粉砕した人毛5質量部と、水分量100ppm以下に乾燥したナイロン66樹脂100質量部、その他、着色用ポリアミドペレット BLACK(大日精化工業社製、カーボンブラック含有量30%)2部を添加してドライブレンドし、二軸押出機に供給し、280℃で溶融混練してペレット化したのちに、水分量100ppm以下に乾燥させた。
【0030】
溶融紡糸
東芝機械社製のφ40mm短軸押出機に、フルフライトスクリュー(圧縮比3.2)を組み合わせた溶融押出機を用いて、シリンダー温度を270℃、ノズル温度を280℃に調整し、定常状態になってから、吐出量8kg/hになる様にスクリュー回転数を決定して未延伸糸を溶融紡糸した。
溶融紡糸は、ノズル孔の断面積が0.1mmで丸形状のノズル孔を有するダイスを用いて樹脂組成物を吐出し、口金下30mmの位置に設置した水温50℃の水浴中で吐出した樹脂組成物を冷却し、100m/minの速度で巻き取って未延伸糸とした。得られた未延伸糸は、90℃の温水浴中で3倍延伸を行ない、200℃に加熱したヒートロールを用いてアニール処理をした。得られた繊維の繊度は、66dtexであった。
【0031】
得られた繊維を用いて、引張試験、熱収縮試験、艶評価の試験を行った。結果を表1に示す。
【0032】
(実施例2〜14、比較例1〜8)
表1及び表2に示した熱可塑性樹脂、人毛及び不活性粒子を用いて、実施例1と同様に繊維を得た。得られた繊維の引張試験、熱収縮試験、艶評価の試験を行った。結果を表1に示す。表1中、不活性粒子の酸化ケイ素は、市販の酸化ケイ素を平均粒径2.36μmに調整して用いた。架橋アクリル樹脂は、平均粒子径が13μmのビーズ状アクリル架橋微粒子を用いた。
【0033】
なお、表には示さなかったが、実施例1の繊維にシリコーン系の繊維処理剤を塗布して得た繊維束は、風合いやくし通り性を向上させることができた。また、実施例1の繊維にナイロン繊維を容量比で50%混合させて得た繊維も、実施例1と同様の艶評価結果が得られた。
【0034】
【表1】

【0035】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂100質量部と、粒径0.01〜10μmの人毛0.01〜30質量部を有する樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1記載の熱可塑性樹脂が、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリスチレン樹脂、メタクリル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂とPMMA樹脂の混合物から選ばれる少なくとも一種である樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1又は2記載の樹脂組成物100質量部と、有機微粒子又は無機微粒子から選ばれる少なくとも一種の不活性粒子0.01〜30質量部を含有する樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3いずれか一項記載の樹脂組成物を溶融紡糸して得られる繊維。
【請求項5】
請求項4記載の繊維の繊度が5〜100dtexである繊維。
【請求項6】
請求項4又は請求項5記載の繊維と、ポリエステル繊維、モダアクリル繊維、ポリ塩化ビニル繊維、ナイロン繊維又は人毛から選ばれる少なくとも一種の繊維を混合して得られる繊維。
【請求項7】
請求項4〜6いずれか一項記載の繊維と、その表面に塗布されたシリコーン系の表面処理剤を有する繊維。
【請求項8】
請求項4〜7いずれか一項記載の繊維を用いた人工毛髪。
【請求項9】
請求項8記載の人工毛髪を用いた頭髪製品。

【公開番号】特開2012−12423(P2012−12423A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−147109(P2010−147109)
【出願日】平成22年6月29日(2010.6.29)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】