説明

樹脂組成物およびその成形体

【課題】撥水撥油性に優れた成形体を与える。
【解決手段】(A)熱可塑性樹脂、および
(B)式:


[式中、Xは、水素原子またはメチル基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、CFX12基、シアノ基、炭素数1〜21の直鎖状または分岐状のフルオロアルキル基、置換または非置換のベンジル基、置換または非置換のフェニル基、Yは、直接結合、炭素数1〜10の脂肪族基、炭素数6〜10の芳香族基または環状脂肪族基、または−CH2CH(OZ1)CH2−基(但し、Z1は水素原子またはアセチル基である。)、Rは、水素原子または炭素数1〜10のアルキル基、Pは0または1、Rfは、炭素数1〜6の直鎖状または分岐状のフルオロアルキル基またはフルオロアルケニル基である。]で示される含フッ素(メタ)アクリレートエステルを構成単位とする含フッ素重合体を含んでなる樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の含フッ素(メタ)アクリレートモノマーを含んでなる含フッ素重合体と熱可塑性樹脂からなり、撥水撥油性に優れる樹脂組成物およびその成形体に関する。成形体は、フィルム、繊維などに加工でき、衣料品、レジャー用品、家庭用品、ワイパー、フィルター、土木資材用品、建築資材用品、サニタリー用品、医療用品などの用途に使用可能である。
【背景技術】
【0002】
成形体表面に撥水撥油性を付与するため、表面にフッ素処理を施す技術は従来より知られている。しかし、成形後にフッ素処理を施す方法では撥水撥油機能の持続性が弱く、繰り返し使用することにより撥水撥油機能が低下するという問題がある。また処理方法によっても性能に差がでることもある。これらの問題を解決するため成形加工前の段階で樹脂中にフッ素化合物を加え溶融混練することにより、成形後表面にフッ素成分を偏析させることで撥水撥油性を付与する技術が提案されている。
【0003】
フッ素化合物を溶融混練する方法として、特表平5−504581号公報、特開平1−313582号公報、特表2003−520659号公報に提案されているが、含フッ素化合物と熱可塑性樹脂との相溶性のバランスが良いものではなく、ブリードアウトしやすいか撥水撥油性を発現するためには添加量を多くする必要がある。
【0004】
また、特開平3−41160号公報において含フッ素アクリレート共重合体と熱可塑性樹脂との成形品が、特開平10−168324号公報において熱可塑性樹脂に溶融混合する含フッ素(メタ)アクリレートモノマーと非フッ素系モノマーとの共重合体からなる添加剤が提案されている。いずれも撥水性については効果を発揮しているが、撥油性に関しては十分であるとは言い難い。
【0005】
本願発明者は、特開2006−37085号および特開2007−211376号公報において、熱可塑性樹脂と特定の含フッ素化合物とからなる樹脂組成物およびその成形体が撥液性に優れることを提案したが、撥油性という観点においては必ずしも十分なレベルではなかった。
【0006】
米国特許6,380,289号においては、半結晶性の第1熱可塑性ポリマーに、含フッ素脂肪族基を有する表面改質剤および第2熱可塑性ポリマーを加えてなる撥水撥油性を有する熱可塑性組成物が開示されている。表面改質剤における含フッ素脂肪族基は、実施例において示されているように、炭素数8である。
【0007】
以下にPFOAの環境問題について説明する。最近の研究結果[EPAレポート"PRELIMINARY RISK ASSESSMENT OF THE DEVELOPMENTAL TOXICITY ASSOCIATED WITH EXPOSURE TO PERFLUOROOCTANOIC ACID AND ITS SALTS" (http://www.epa.gov/opptintr/pfoa/pfoara.pdf) ]などから、長鎖フルオロアルキル化合物の一種であるPFOA(perfluorooctanoic acid)に対する環境への負荷の懸念が明らかとなってきており、2003年4月14日にEPA(米国環境保護庁)がPFOAに対する科学的調査を強化すると発表した。
【0008】
一方、Federal Register(FR Vol.68, No.73/April 16, 2003[FRL-2303-8], http://www.epa.gov/opptintr/pfoa/pfoafr.pdf)やEPA Environmental News FOR RELEASE: MONDAY APRIL 14, 2003 EPA INTENSIFIES SCIENTIFIC INVESTIGATION OF A CHEMICAL PROCESSING AID(http://www.epa.gov/opptintr/pfoa/pfoaprs.pdf)やEPA OPPT FACT SHEET April 14, 2003(http://www.epa.gov/opptintr/pfoa/pfoafacts.pdf)は、テロマーが分解または代謝によりPFOAを生成する可能性があると公表している(テロマーとは長鎖フルオロアルキル基のことを意味する)。また、テロマーが、撥水撥油性、防汚性を付与された泡消火剤、ケア製品、洗浄製品、カーペット、テキスタイル、紙、皮革などの多くの製品に使用されていることをも公表している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、少量の含フッ素重合体を含むことにより優れた撥水撥油性を発現する、含フッ素重合体と熱可塑性樹脂を含んでなる樹脂組成物およびその成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、
(A)熱可塑性樹脂、および
(B)式:


[式中、Xは、水素原子またはメチル基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、CFX12基(但し、X1およびX2は、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子である。)、シアノ基、炭素数1〜21の直鎖状または分岐状のフルオロアルキル基、置換または非置換のベンジル基、置換または非置換のフェニル基、
Yは、直接結合、炭素数1〜10の脂肪族基、炭素数6〜10の芳香族基または環状脂肪族基、または−CH2CH(OZ1)CH2−基(但し、Z1は水素原子またはアセチル基である。)、
Rは、水素原子または炭素数1〜10のアルキル基、
pは、0または1、
Rfは、炭素数1〜6の直鎖状または分岐状のフルオロアルキル基またはフルオロアルケニル基である。]
で示される含フッ素(メタ)アクリレートエステルを構成単位とする含フッ素重合体
を含んでなる樹脂組成物を提供する。
本発明は、樹脂組成物から成形された成形体にも関する。成形体の形状は、繊維、フイルム、チューブなどである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、撥水撥油性(特に、撥油性)に優れた成形体を得ることができる。この成形体は、成形体は、フィルム、繊維などに加工でき、衣料品、レジャー用品、家庭用品、ワイパー、フィルター、土木資材用品、建築資材用品、サニタリー用品、医療用品などの用途に使用可能である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
熱可塑性樹脂(A)の例は、ポリアミド樹脂 (例えば、ナイロン6、ナイロン12、ナイロン66、芳香族ナイロン)、ポリエステル樹脂(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート)、ポリオレフィン樹脂(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンとプロピレンとのコポリマー、エチレンまたはプロピレンとC〜C20αオレフィンとのコポリマー、エチレンとプロピレンとC〜C20αオレフィンとのターポリマー、エチレンとビニルアセテートとのコポリマー、プロピレンとビニルアセテートとのコポリマー、スチレンとαオレフィンとのコポリマー、ポリブチレン、ポリイソブチレン)、ポリエーテル樹脂、ポリエーテルエステル樹脂、ポリアクリレート樹脂、エチレンアルキルアクリレート樹脂、ポリジエン樹脂(例えば、ポリブタジエン、イソブチレンとイソプレンとのコポリマー)、ポリウレタン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリカーボネート樹脂などである。
【0013】
これらのうち、ポリオレフィン樹脂が好ましい。ポリオレフィン樹脂として、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレンランダムコポリマー、エチレン−α−オレフィンコポリマー、プロピレン−α−オレフィンコポリマー、ポリブチレンを使用できる。
ポリエチレンには、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレンを含む。またポリプロピレンには、アイソタクティックポリプロピレン、シンジオタクティックポリプロピレン、アタクティックポリプロピレン、非晶性ポリプロピレンを含む。
【0014】
前記アイソタクティックポリプロピレンとは、Zigler−Natta系触媒、メタロセン触媒により作成されたアイソタクティックポリプロピレンを主体とする比較的結晶性の高いポリプロピレンのことであり、射出成形用、押出成形用、フィルム用、繊維用等、一般に市販されている成形用ポリプロピレンより選択、入手することが可能である。
前記非晶性ポリプロピレンは、結晶性が極めて低くなるように設計されたポリプロピレンである。非晶性ポリプロピレンは、結晶性が極めて低いポリプロピレン(例えば、混合物の合計量の少なくとも50重量%(例えば60〜95重量%))と他のプロピレンとの混合物であってよい。非晶性ポリプロピレンは、例えば、住友化学社製タフセレンT−3512、T−3522等として入手可能である。
【0015】
本発明において、熱可塑性樹脂(A)は2種以上の熱可塑性樹脂の混合物であってよい。熱可塑性樹脂(A)として、第1樹脂と、第1樹脂よりも結晶性または融点が低い第2樹脂との樹脂混合物を用いてよい。第2樹脂の結晶性または融点の一方が第1樹脂のものよりも低くてよく、あるいは第2樹脂の結晶性および融点の両方が第1樹脂のものよりも低くてもよい。第2樹脂は、少なくとも2種の樹脂の混合物であってよい。
【0016】
本発明において、熱可塑性樹脂(A)は単一樹脂で十分に撥水撥油性能が発現するが、熱可塑性樹脂がポリプロピレンの場合は、前記2種以上の熱可塑性樹脂の混合物である方が、単一樹脂に比べ撥水撥油性が特に優れる。
【0017】
好ましい第1樹脂/第2樹脂の組合せは、ポリプロピレン/ポリエチレン、ポリプロピレン/ポリブチレン、ポリプロピレン/ポリプロピレン、ポリプロピレン/プロピレン−αオレフィンコポリマー、ポリプロピレン/エチレン−αオレフィンコポリマーである。ポリプロピレン/ポリプロピレンの組合せにおいて、第1樹脂はアイソタクティックポリプロピレン(結晶性ポリプロピレン)であり、第2樹脂は非晶性ポリプロピレンであることが好ましい。
第1樹脂と第2樹脂の樹脂混合物において、第2樹脂の量は、1〜60重量%、例えば2〜40重量%、特に3〜30重量%、特別には5〜20重量%が好ましい(第1樹脂は残部である。)。
【0018】
結晶性は、DSC(示差走査熱量測定法)により測定される結晶化熱量を意味する。20℃から200℃まで加熱した後、20℃まで冷却した際に現れる発熱ピークの熱量のことを言う。2種以上の熱可塑性樹脂を混合する場合、第2樹脂の結晶化熱量が第1樹脂の結晶化熱量に比べて1J/g以上、好ましくは5J/g以上、より好ましくは10J/g以上、例えば15J/g以上、特に20J/g以上低い方が好ましい。
【0019】
融点については、DTA(示差熱分析)により測定することができる。室温(10℃〜30℃)より加熱した際に現れる吸熱ピーク温度のことを言う。2種以上の熱可塑性樹脂を混合する場合、第2樹脂の融点が第1樹脂の融点に比べて10℃以上、好ましくは15℃以上、例えば20℃以上、特に25℃以上低い方が好ましい。
【0020】
含フッ素重合体(B)は、含フッ素重合性化合物の単独重合体、もしくは含フッ素重合性化合物と共重合可能な重合性化合物(特に、非フッ素重合性化合物)との共重合体であることが好ましく、公知の技術により作成された化合物を用いることができる。
【0021】
含フッ素重合性化合物は、式:


[式中、Xは、水素原子またはメチル基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、CFX12基(但し、X1およびX2は、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子である。)、シアノ基、炭素数1〜21の直鎖状または分岐状のフルオロアルキル基、置換または非置換のベンジル基、置換または非置換のフェニル基、
Yは、直接結合、炭素数1〜10の脂肪族基、炭素数6〜10の芳香族基または環状脂肪族基、または−CH2CH(OZ1)CH2−基(但し、Z1は水素原子またはアセチル基である。)、
Rは、水素原子または炭素数1〜10のアルキル基、
pは、0または1、
Rfは、炭素数1〜6の直鎖状または分岐状のフルオロアルキル基またはフルオロアルケニル基である。]
で示される含フッ素(メタ)アクリレートエステルである。
【0022】
含フッ素(メタ)アクリレートエステルにおいて、Xが水素原子またはメチル基であることが好ましい。
【0023】
式(I)において、Rf基が、パーフルオロアルキル基またはパーフルオロアルケニル基であることが好ましい。フルオロアルキル基またはフルオロアルケニル基の炭素数は、1〜6、例えば1〜4である。
フルオロアルキル基の例は、−CF3、−CF2CF3、−CF2CF2CF3、−CF(CF3)2、−CF2CF2CF2CF3、−CF2CF(CF3)2、−C(CF)3、−(CF2)4CF3、−(CF2)2CF(CF3)2、−CF2C(CF3)3、−CF(CF3)CF2CF2CF3、−(CF2)5CF3、−(CF2)3CF(CF3)2等である。
フルオロアルケニル基の例は、−CF=CF2、−CF2CF=CF2、−(CF2)2CF=CF2、−CF2C(CF3)=CF2、−CF(CF3)CF=CF2、−(CF2)3CF=CF2、−C(CF3)2CF=CF2、−(CF2)2C(CF3)=CF2、−(CF2)4CF=CF2、−(CF2)4CF=CF2、−(CF2)3C(CF3)=CF2、等である。
【0024】
Yは、炭素数1〜10の脂肪族基、炭素数6〜10の芳香族基または環状脂肪族基、または−CH2CH(OZ1)CH2−基(但し、Z1は水素原子またはアセチル基である。)である。脂肪族基はアルキレン基(特に炭素数1〜4、例えば、2または3)であることが好ましい。芳香族基および環状脂肪族基は、置換されていてもあるいは置換されていなくてもどちらでもよい。Yは、−(CH2)−(mは1〜10、例えば、2〜5である。)であることが好ましい。
【0025】
含フッ素重合性化合物の例として、以下の化合物が挙げられる。


【0026】
[式中、Rfは炭素数1〜6のパーフルオロアルキル基、
1 は水素原子またはメチル基、
Ar は置換基を有することもあるアリール基、
n は0〜10(例えば0〜5)の整数、mは1〜10(例えば2〜5)の整数を表わす。]
で示される含フッ素(メタ)アクリレートエステルを挙げることができる。
【0027】
含フッ素重合性化合物の具体例は、
CF3(CF2)5SO2 (CH2)OCOCH=CH2
CF3(CF2)5SO2(CH2)2OCOCH=CH2
CF3(CF2)5SO2(CH2)3OCOCH=CH2
CF3(CF2)3(CH2)2SO2(CH2)2OCOC(CH3)=CH2
CF3(CF2)5SO2(CH2)OCOC(CH3)=CH2
(CF3)2CF(CF2)3SO2 (CH2)2OCOCH=CH2
CF3(CF2)3SO2(CH2)2OCOCH=CH2
CF3(CF2)3SO2(CH2)3OCOCH=CH2
CF3(CF2)3SO2(CH2)4OCOCH=CH2
CF3(CF2)3SO2(CH2)5OCOCH=CH2
CF3(CF2)3SO2(CH2)3OCOC(CH3)=CH2
CF3CF2SO2(CH2)2OCOCH=CH2
(CF3)2CF(CF2)3SO2CH2CH(OCOCH3)CH2OCOC(CH3)=CH2
(CF3)2CF(CF2)3SO2CH2CH(OH)CH2OCOCH=CH2
CF3(CF2)3SO264OCOCH=CH2
CF3(CF2)3SO2610OCOCH=CH2
CF3(CF2)3SO2NH(CH2)3COCH=CH2
CF3(CF2)3SO2NH(CH2)3COC(CH3)=CH2
CF3(CF2)3SO2N(CH3)(CH2)3COC(CH3)=CH2
を例示することができる。
【0028】
共重合可能な重合性化合物は、非フッ素重合性化合物であってよい。
含フッ素重合体は、構成繰り返し単位として、含塩素重合性化合物を含んでいてよい。含塩素重合性化合物は、塩素および炭素−炭素二重結合を有する化合物である。含塩素重合性化合物の例は、塩化ビニル、塩化ビニリデン、α−クロロアクリレート(例えば、アルキル(炭素数1〜30)エステル)および3−クロロー2−ヒドロキシプロピルメタクリレートである。
【0029】
非フッ素重合性化合物は、例えば、非フッ素アルキル(メタ)アクリレートであってよい。
非フッ素アルキル(メタ)アクリレートは、一般に、式:
−CX=CH (i)
[式中、Xは、アルキルカルボキシレート基(アルキル基の炭素数1〜18)、Xは水素原子またはメチル基である。]
で示される化合物である。含フッ素重合体は、非フッ素アルキル(メタ)アクリレートを含まなくてもよいが、非フッ素アルキル(メタ)アクリレートとの共重合体である方がより撥水撥油性に優れる。
【0030】
他の共重合可能な重合性化合物には種々のものがあるが、例示すると、
(1)アクリル酸およびメタクリル酸ならびにこれらのメチル、エチル、ブチル、イソブチル、t−ブチル、プロピル、2−エチルヘキシル、ヘキシル、デシル、ラウリル、ステアリル、イソボルニル、β−ヒドロキシエチル、グリシジルエステル、フェニル、ベンジル、4−シアノフェニルエステル類、
(2)酢酸、プロピオン酸、カプリル酸、ラウリル酸、ステアリン酸等の脂肪酸のビニルエステル類、
(3)スチレン、α−メチルスチレン、 p−メチルスチレン等のスチレン系化合物、
(4)フッ化ビニル、臭化ビニル、フッ化ビニリデン等の(塩化物を除く)ハロゲン化ビニルまたはビニリデン化合物類、
(5)ヘプタン酸アリル、カプリル酸アリル、カプロン酸アリル等の脂肪族のアリルエステル類、
(6)ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン等のビニルアルキルケトン類、
(7)N−メチルアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド等のアクリルアミド類および
(8)2,3−ジクロロ−1,3−ブタジエン、イソプレン等のジエン類などを例示できる。
【0031】
共重量体である含フッ素重合体においては、含フッ素重合性化合物の量は、10重量%以上、例えば20〜80重量%、特に30〜70重量%が好ましい。含フッ素重合体において、含塩素重合性化合物の量は、含フッ素重合性化合物100重量部に対して、50重量部以下、例えば5〜45重量部、特に10〜30重量部であってよい。非フッ素アルキル(メタ)アクリレートの量は、含フッ素重合性化合物100重量部に対して、90重量部以下、例えば10〜80重量部、特に30〜70重量部であってよい。
含フッ素重合体の分子量(数平均分子量)は、一般に、1,000〜1,000,000、特に2,000〜50,000であってよい(例えば、GPCで測定してポリスチレン換算)。
【0032】
含フッ素重合体(B)の量は、樹脂混合物100重量部に対し、0.1〜10重量部、例えば0.1〜5重量部、特に0.5〜3重量部が好ましい。
樹脂組成物は、必要に応じて、染料、顔料、帯電防止剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、中和剤、造核剤、エポキシ安定剤、滑剤、抗菌剤、難燃剤、可塑剤等の添加剤(すなわち助剤)を含有してもよい。
【0033】
本発明の樹脂組成物は、熱可塑性樹脂(A)と含フッ素重合体(B)を混練(例えば、溶融混練)することによって得られる。一般に、熱可塑性樹脂(A)と含フッ素重合体(B)とは、溶融状態において相溶性である。混練は、例えば一軸押出機、二軸押出機、オープンロール、ニーダー、ミキサー等、従来公知の方法にて行うことができる。またこの混練は1段階で行ってもよく、マスターバッチ(含フッ素重合体(B)を高濃度に混合した、いわゆる濃縮物)を作成してから所望の濃度に調整する2段階で行ってもよい。こうして得られた樹脂組成物を、押出成形、射出成形、圧縮成形、中空成形、真空成形など、公知の方法により成形することができる。樹脂組成物は、種々の成形体、例えば繊維、フイルム、チューブなどの形状の成形体に成形されてよい。
【0034】
得られた成形体については、成形加工後(成形体が50℃以下、特に40℃に以下に冷却された後に)さらに加熱処理を施すことにより、より撥水撥油性が向上する。加熱処理条件は温度が高いほど、また処理時間が長いほどより撥水撥油性向上に効果的である。しかし高温・長時間加熱処理は成形体が変形してしまう問題が発生する可能性があるため、成形体によって調整するのが好ましい。加熱処理条件は、好ましくは60℃〜140℃、例えば70℃〜135℃、特に80℃〜130℃にて1分〜30分間行うのが適当であるが、それ以上の温度、例えば樹脂組成物(成形体)の融点±10℃での加熱処理を行いたい場合は、処理時間をごく短時間(例えば1分以内)にすることも可能である。加熱方法は公知の技術に沿って行ってよい。例えばオーブン、乾燥炉に成形体を入れて行う方法のほか、延伸時に成形体を変形させるために加熱するといった方法等でもよい。得られた成形体をさらに加熱することにより、どのような方法においても同様の効果が得られる。繊維において、直径は0.2〜2000ミクロン、例えば0.5〜50ミクロン、長さは0.2mm〜200mm、例えば2〜30mmであってよい。
【0035】
本発明の樹脂組成物は、不織布にされてもよい。不織布は、カード法、エアレイド法、抄紙法、あるいは溶融押出から直接不織布 を得るメルトブローン法やスパンボンド法などにより得ることができる。溶融押出において、熱可塑性樹脂(A)と含フッ素重合体(B)の両者を溶融するような温度を用いることが好ましい。不織布の目付は特に限定されないが、0.1〜1000g/mであってよい。不織布の目付は、不織布の用途に応じて、例えば、液吸収性物品の表面材等では5〜60g/m2、吸収性物品やワイパー等では10〜500g/m2、フィルターでは8〜1000g/m2が好ましい。
【実施例】
【0036】
以下に実施例を挙げて詳細を説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されるものではない。
【0037】
実施例1
ノバテックPP MG03B(日本ポリケム社製)(熱可塑性樹脂)(アイソタクティックポリプロピレン)100重量部、C49SO2(CH2)3OCOCH=CH2(含フッ素モノマー、以下「9FSA」と表す)とステアリルアクリレート(以下「StA」と表す)との共重合体で、9FSA/StA=40/60(重量比)の組成(GPCによる平均分子量:4000(ポリスチレン換算))を有する重合体(含フッ素重合体)1重量部を二軸押出機にて180℃で溶融混練した後、ヒートプレスで成形し0.2mm厚のシートを得た。
【0038】
このシートの撥水撥油性を確認するため、水(Water)、IPA/水=70/30(体積比)混合液(IPA/W)、およびノルマルヘキサデカン(n−HD)にて接触角測定を行った。樹脂の融点については、エスアイアイ・ナノテクノロジー社製RTG220にて分析を行った。また樹脂の結晶化熱量については、メトラー・トレド社製DSC822eにて分析を行った。
【0039】
実施例2
含フッ素重合体として9FSAとステアリルメタクリレート(以下「StMA」と表す)との共重合体であり、9FSA/StMA=70/30(重量比)の組成を有する重合体とした以外は実施例1と同様の方法にてシートを作成し評価を行った。
【0040】
実施例3
含フッ素重合体としてC613SO2(CH2)3OCOCH=CH2(含フッ素モノマー、以下「13FSA」と表す)とステアリルメタクリレート(以下「StMA」と表す)との共重合体であり、13FSA/StMA=40/60(重量比)の組成(GPCによる平均分子量:6000(ポリスチレン換算))を有する重合体とした以外は実施例1と同様の方法にてシートを作成し評価を行った。
【0041】
実施例4
熱可塑性樹脂としてポリエチレンJ5019(宇部興産社製)とした以外は実施例1と同様の方法でシートを作成し評価を行った。
【0042】
実施例5
含フッ素重合体としてC49SO2(CH2)3OCOC(CH3)=CH2(含フッ素モノマー、以下「9FSMA」と表す)とStAとの共重合体であり、9FSMA/StA=50/50(重量比)の組成(GPCによる平均分子量:3000(ポリスチレン換算))を有する重合体とした以外は実施例4と同様の方法にてシートを作成し評価を行った。
【0043】
実施例6
ノバテックPP MG03B(日本ポリケム社製)(第1樹脂)(アイソタクティックポリプロピレン)95重量部、ポリブチレンDP-8911(Shell社製)5重量部(第2樹脂)、9FSAとStMAとの共重合体であり、9FSA/StMA=70/30(重量比)の組成(GPCによる平均分子量:4500(ポリスチレン換算))を有する重合体(含フッ素重合体)1重量部を二軸押出機にて180℃で溶融混練した後、ヒートプレスで成形し0.2mm厚のシートを得た。これを実施例1と同様の方法で評価を行った。
【0044】
実施例7
第一樹脂をノバテックPP MG03B(日本ポリケム社製)(第1樹脂)(アイソタクティックポリプロピレン)80重量部、第2樹脂をポリエチレンJ5019(宇部興産社製)(低密度ポリエチレン)20重量部とした以外は実施例6と同様の方法でシートを作成し評価を行った。
【0045】
実施例8
第1樹脂をPP−3155(Exxon Mobil社製)(アイソタクティックポリプロピレン)90重量部、第2樹脂をタフセレンT−3512(住友化学社製)(非晶性プロピレン)10重量部、含フッ素重合体として9FSAとStAとの共重合体であり、9FSA/StA=50/50(重量比)の組成(GPCによる平均分子量:4500(ポリスチレン換算))を有する重合体0.5重量部とした以外は実施例6と同様の方法にてシートを作成し評価を行った。
【0046】
実施例9
含フッ素重合体を1重量部とした以外は実施例8と同様の方法にてシートを作成し評価を行った。
【0047】
実施例10
含フッ素重合体を3重量部とした以外は実施例8と同様の方法にてシートを作成し評価を行った。
【0048】
比較例1
含フッ素重合体として、C2n+1CHCHOCOCH=CH (n=6,8,10,12,14(nの平均は8)の化合物の混合物)(含フッ素モノマー、以下「FA」と表す)とStAとの共重合体で、FA/StA=70/30(重量比)の組成(GPCによる平均分子量:6000(ポリスチレン換算))を有する重合体(含フッ素重合体)1重量部とした以外は実施例1と同様の方法にてシートを作成し評価を行った。
【0049】
比較例2
含フッ素重合体としてC13 (CH2)2OCOCH=CH2(含フッ素モノマー、以下「13FA」と表す)とStAとの共重合体であり、13FA/StA=50/50(重量比)の組成(GPCによる平均分子量:4500(ポリスチレン換算))を有する重合体(含フッ素重合体)1重量部とした以外は実施例1と同様の方法にてシートを作成し評価を行った。
【0050】
比較例3
含フッ素重合体として、FA/StA=40/60(重量比)の組成(GPCによる平均分子量:5500(ポリスチレン換算))を有する重合体(含フッ素重合体)1重量部とした以外は実施例4と同様の方法にてシートを作成し評価を行った。
【0051】
比較例4
含フッ素重合体を、FA/StMA=40/60(重量比)の組成(GPCによる平均分子量:4000(ポリスチレン換算))を有する重合体(含フッ素重合体)1重量部とした以外は実施例6と同様の方法にてシートを作成し評価を行った。
【0052】
比較例5
含フッ素重合体としてC49 (CH2)2OCOCH=CH2(含フッ素モノマー、以下「9FA」と表す)とStAとの共重合体であり、9FA/StMA=70/30(重量比)の組成(GPCによる平均分子量:3000(ポリスチレン換算))を有する重合体(含フッ素重合体)1重量部とした以外は実施例8と同様の方法にてシートを作成し評価を行った。
【0053】
実施例および比較例の成分を表1に、接触角を表2および表3に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
PP : ポリプロピレン
PE : ポリエチレン
PB : ポリブチレン
【0056】
【表2】

【0057】
【表3】

【0058】
Water:水
IPA/Water:IPA/水=70/30(重量比)混合液
n−HD:ノルマルヘキサデカン
【0059】
試験例
実施例1〜10および比較例1〜5で得られたシートについて、100℃にて5分間シートを加熱処理し評価を行った。
【0060】
使用したシートを表4に、加熱処理したシートの接触角を表5および表6に示す。
【0061】
【表4】

【0062】
【表5】

【0063】
【表6】

【0064】
本発明では、特定の含フッ素(メタ)アクリレートモノマーを含んでなる含フッ素重合体と熱可塑性樹脂を含んでなる成形体は、撥水撥油性、特に撥油性にすぐれている。本発明における含フッ素重合体は、SO基が存在していることにより、存在しない場合に比べ含フッ素重合体のフッ素部位が規則的に並んでいると推測される。フッ素部位は表面エネルギーが低いため樹脂表面に配向しやすくなり、このため撥水撥油性が発現する。熱可塑性樹脂がポリプロピレンの場合、単一樹脂の場合よりも2種以上の熱可塑性樹脂の混合物である方がより撥水撥油性が優れているのは、熱可塑性樹脂の結晶性が、2種以上の樹脂の混合により低下し、その結果含フッ素重合体の表面偏析が促進させる効果があるためであると考えられる。また、成形体を加熱処理することでより撥水撥油性が高くなるのは、加熱処理が行われている間、熱可塑性樹脂の結晶性が低下することにより含フッ素重合体の表面偏析が促進され、その結果撥水撥油性を向上させている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)熱可塑性樹脂、および
(B)式:


[式中、Xは、水素原子またはメチル基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、CFX12基(但し、X1およびX2は、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子である。)、シアノ基、炭素数1〜21の直鎖状または分岐状のフルオロアルキル基、置換または非置換のベンジル基、置換または非置換のフェニル基、
Yは、直接結合、炭素数1〜10の脂肪族基、炭素数6〜10の芳香族基または環状脂肪族基、または−CH2CH(OZ1)CH2−基(但し、Z1は水素原子またはアセチル基である。)、
Rは、水素原子または炭素数1〜10のアルキル基、
pは、0または1、
Rfは、炭素数1〜6の直鎖状または分岐状のフルオロアルキル基またはフルオロアルケニル基である。]
で示される含フッ素(メタ)アクリレートエステルを構成単位とする含フッ素重合体
を含んでなる樹脂組成物。
【請求項2】
熱可塑性樹脂(A)がポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂またはポリアミド樹脂である請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
熱可塑性樹脂(A)が少なくとも2種の熱可塑性樹脂の混合物である請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
熱可塑性樹脂が第1樹脂(I−1)および第2樹脂(I−2)から構成され、第1樹脂(I−1)の結晶性または融点が第2樹脂(I−2)の結晶性または融点よりも高い請求項3に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
含フッ素重合体(B)が、含フッ素(メタ)アクリレートエステルを構成単位とする単独重合体または共重合体である請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
含フッ素アクリレートエステルの式(I)において、Xが水素原子またはメチル基である請求項5の記載の樹脂組成物。
【請求項7】
含フッ素重合体(B)が、含フッ素(メタ)アクリレートエステルと非フッ素重合性化合物との共重合体である請求項5に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
非フッ素重合性化合物は、非フッ素アルキル(メタ)アクリレートである請求項7に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
非フッ素アルキル(メタ)アクリレートが、式:
−CX=CH (i)
[式中、Xは、アルキルカルボキシレート基(アルキル基の炭素数1〜18)、Xは水素原子またはメチル基である。]
で示される化合物である請求項8に記載の樹脂組成物。
【請求項10】
熱可塑性樹脂(A)および含フッ素重合体(B)を溶融混合して得られている請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の樹脂組成物を成形してなる成形体。
【請求項12】
請求項1〜10のいずれかに記載の樹脂組成物を成形した後に、さらに加熱処理することにより得られる成形体。

【公開番号】特開2009−197047(P2009−197047A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−37101(P2008−37101)
【出願日】平成20年2月19日(2008.2.19)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】