説明

樹脂組成物およびその用途

【課題】
成形性、耐熱性、機械的強度、低複屈折を損なうことなく、紫外に近い領域のレーザー光で用いても劣化を生じ難く、使用に際して光学性能の変化が極めて少なく、特に高い光線透過率を維持することができ、また、光学素子等の成形体の表面に異物が付着し難い、光学素子に好適な樹脂組成物、該樹脂組成物を成形して得られる光学素子、および光学素子を使用した光ピックアップ装置を提供すること。
【解決手段】
特定の構造を有する重合体および、分子量が400〜5000のヒンダードアミン系光安定剤のうち、特定の2種類の光安定剤を特定の質量比で含む熱可塑性樹脂組成物、該樹脂組成物を成形して得られる光学素子、および光学素子を使用した光ピックアップ装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状オレフィン系樹脂組成物並びに、光ピックアップ装置等に用いられる光学素子および光ピックアップ装置に関するものであり、より詳しくは、405nm前後の、いわゆる青紫光のレーザー光源を用いる光ピックアップ装置、光ピックアップ装置に用いられる光学素子への使用に最適な樹脂組成物および、それからなる光学素子、光ピックアップ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から現在にかけて、CD(コンパクト・ディスク)、DVD(ディジタル・ビデオ・ディスク、あるいはディジタル・バーサタイル・ディスク)などの光情報記録媒体(光ディスク、あるいはメディアともいう)に対して情報の再生、記録を行うための光ピックアップ装置(光ヘッド、光ヘッド装置などともいわれる)が開発および製造され、一般に普及している。
【0003】
また最近では、より高密度の情報記録を可能とした光情報記録媒体の規格についても研究開発が行われている。
そしてこのような光ピックアップ装置は、光源として、主にレーザーダイオードから出射された光束を、ビーム整形プリズム、コリメータ、ビームスプリッタ、対物光学素子等の光学素子からなる光学系を介して光ディスクの情報記録面に集光させてスポットを形成し、記録面上の情報記録孔(ピットともいう)からの反射光を、再度光学系を介して今度はセンサー上に集光させ、電気信号に変換することにより情報を再生する。この際、情報記録孔の形状によって反射光の光束も変化するため、これを利用して、「0」「1」の情報を区別する。なお、光ディスクの情報記録面の上には保護基板として、カバーガラスとも呼ばれている、プラスティック製の保護層が設けられている。
【0004】
またCD−R、CD−RW等の記録型メディアに情報の記録を行う場合、記録面上にレーザー光束によるスポットを形成し、記録面上の記録材に熱化学変化を生ぜしめる。これによってたとえばCD−Rの場合は熱拡散性色素が不可逆変化することにより、情報記録孔と同様の形状が形成される。CD−RWの場合は相変化型材料を用いているため、熱化学変化によって結晶状態と非晶質状態との間で可逆変化するので、情報の書き換えが可能である。
そしてCD規格の光ディスクから情報を再生するための光ピックアップ装置は、対物レンズの開口数(NA)が0.45前後であり、用いられる光源の波長は785nm前後である。また記録用としては、0.50程度のものが用いられることが多い。なお、CD規格の光ディスクの保護基板厚さは1.2mmである。
【0005】
さて光情報記録媒体としてCDが広く普及しているが、ここ数年、DVDが普及している。これはCDに比べて保護基板厚を薄くし、さらに情報記録孔を小さくすることにより、情報記録量を多くしたもので、CDが約600〜700MB(メガバイト)程度であるのに対し、約4.7GB(ギガバイト)という大容量の記録容量を有し、映画等の動画像を記録した頒布媒体として用いられることが多い。
【0006】
またDVD規格の光ディスクから情報を再生するための光ピックアップ装置は、原理的にはCD用のそれと同じであるが、前述のように情報記録孔が小さくなっていること等から、対物レンズのNAが0.60前後であり、用いられる光源の波長は655nm前後のものが用いられている。また記録用としては、0.65程度のものが用いられることが多い。なお、DVD規格の光ディスクの保護基板厚さは0.6mmである。
【0007】
またDVD規格の光ディスクについても記録型のものが既に実用化されており、DVD−RAM、DVD−RW/R、DVD+RW/Rなどの各規格がある。これらに関する技術的原理もまた、CD規格の場合と同じである。
そして上述の通り、さらに高密度・高容量の光ディスクが提案されつつある。
これは主に光源として波長が405nm前後の、いわゆる青紫光のレーザー光源を用いるものである。
このような「高密度な光ディスク」については、使用される波長が決まったとしても、保護基板厚、記憶容量、NA等は一律には決まらない。
記録密度を大幅に向上させる方向を選択すると、光ディスクの保護基板厚を薄くし、それにともなってNAを大きくすることになる。逆に保護基板厚・NAについて、DVDなどの従来の光ディスクの規格と同じにすることもできる。具体的には、保護基板の厚さについて、0.1mmと、さらに薄くしたものや、DVDと同じ0.6mmにしたものなどが提案されている。
【0008】
上述してきたような光ピックアップ装置に用いられる光学素子の多くは、プラスティック樹脂によって射出成形されたものか、またはガラス製の押圧成形されたものがほとんどである。
このうち、後者のガラス製光学素子は、一般に温度変化に対する屈折率変化が小さく、熱源となる光源近くに配置されるビーム整形プリズムに用いられるが、製造コストが高い、という問題がある。このため、コリメータ、カップリングレンズ、対物光学素子などの各光学素子への採用は減少している。これに対して前者のプラスティック樹脂製光学素子は、射出成形によって安価に製造できるというメリットがあるため、最近では非常に多く用いられているが、プラスティック素材は大小の差こそあれ該波長域に吸収を持ち、使用に伴い光学性能が劣化するという問題がある。
【0009】
今後、情報の再生(読み出し)あるいは情報の記録を高速で行うためには、集光スポットを確実に形成するために、光量を向上させる必要がある。
そのためのもっとも簡単な方法は、レーザーダイオードのパワーをあげることによって、ダイオードの発光量を上昇させることであるが、それにより使用に伴う光学性能の劣化が大きくなると、設計通りの光学性能を達成できなくなるという問題が生じる。また、レーザーのパワー上昇に伴い、雰囲気温度が上昇することも、樹脂の劣化を促進する要因となる。
【0010】
また、高速で作動させると、アクチュエータが高速で稼動するために、これによって熱が発生することも同様に樹脂の劣化を促進する要因となる。
そこで光学素子に用いられるプラスティックの、使用時の光学性能の変化を抑制するための様々な工夫が提案されている。
【0011】
例えば、特許文献1には、熱可塑性ノルボルネン系樹脂(例えば、1,4−メタノ−1,4,4a,9a−テトラヒドロフルオレンの開環重合体の水素添加物など)100質量部に対し、(b)ヒンダードアミン系耐光安定剤0.03〜1質量部、(c)フェノール系酸化防止剤0.002〜2質量部、および(d)リン系酸化防止剤0.002〜1質量部を配合する技術が記載されている。しかし、この方法によって実現できる樹脂組成物の光に対する安定性は充分でなく青紫レーザー光源を用いる光ピックアップ装置に用いるのに適さない。また、フェノール系酸化防止剤とヒンダードアミン系耐光安定剤が塩を作り着色により透過率を悪化させる欠点があった。また、成形時の発泡が起こりやすく、複屈折が悪いため高精度の光学部品が得らない問題もある。
【0012】
また、例えば、特許文献2には、ビニル脂環式炭化水素重合体と数平均分子量(Mn)が1,000〜10,000のヒンダードアミン系耐光安定剤とを含有することにより、加工安定性、耐光安定性、耐熱性、透明性に優れた樹脂組成物を得る技術が開示されている。この方法では前記技術に比較して成形時の発泡性および複屈折は改善されるものの、光に対する安定性は充分でなく青紫レーザー光源を用いる光ピックアップ装置に用いるのに適さない。また、本方法には青紫レーザー光照射により白濁してしまうという欠点があった。
【0013】
さらに、特許文献3には、耐候性および耐光性に優れるとともに、透明性、耐熱性に優れ、成形加工時の発塵性が少なく光学部品に成形加工した際に優れた光学特性を発揮する樹脂組成物として、(A)環状ポリオレフィン系樹脂および(B)分子量が300以上、温度20℃における蒸気圧が1×10-8Pa以下であり加熱減量測定での5%重量減少温度が200℃以上であるベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤および(C)分子量が500以上、温度20℃における蒸気圧が1×10-6Pa以下であり加熱減量測定での5%重量減少温度が250℃以上であるヒンダードアミン系光安定剤を含有してなることを特徴とする耐候性樹脂組成物が開示されるが、この方法では耐熱性が向上し、前技術同様に成形時の発泡は抑えられるものの、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤による吸収があり実際には青紫レーザー光源を用いる光ピックアップ装置に用いるのに適さない。また、吸水率が高いという欠点もあった。
【0014】
さらに、特許文献4には、着色がなく、長期に紫外線を照射しても色調変化させない成形体を得るため、ビニル脂環式炭化水素重合体100質量部および酸化防止剤0.001〜2.0質量部を含有する樹脂組成物のペレットAと、ビニル脂環式炭化水素重合体100質量部および耐光安定剤 2〜20質量部を含有する樹脂組成物のペレットBとを、質量比で5≦A/B≦50の比率で混合し、次いで、溶融成形する技術が記載されている。しかし、成形時の安定性に劣り、樹脂の透明性・光に対する安定性ともに充分でなく、実際に青紫レーザー光源を用いる光ピックアップ装置に用いるのに適さない。また、製造、成形工程が煩雑で、大量生産に向いている方法とは言えない。
【0015】
また、特許文献5には、芳香族ビニル単量体を付加重合反応させ、次いで芳香環を水素化することによって得られた脂環基含有エチレン性不飽和単量体単位を有する重合体(A)と、6−〔3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロポキシ〕−2,4,8,10−テトラキス−t−ブチルジベンゾ〔d,f〕〔1.3.2〕ジオキサフォスフェピンのごとき一分子内に燐酸エステル構造とフェノール構造とを有する酸化防止剤(B)を含有することにより、機械的強度に優れ、さらに青紫色レーザーなどの短波長で高強度の光線を照射しても着色しない樹脂組成物が初めて記載されているものの、使用中の樹脂の劣化により光学性能は充分に安定しているとは言えず、また劣化は表面付近に特異的に起こるため、劣化により異物が付着しやすくなり、実使用における光線透過率が維持できないなど、この樹脂組成物を青紫レーザー光源を用いる光ピックアップ装置に用いるのは難しいのが現状である。
【特許文献1】特開平9−268250号公報
【特許文献2】WO01/092412
【特許文献3】特開2001−72839号公報
【特許文献4】特開2003−276047号公報
【特許文献5】特開2004−83813号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明の課題は、成形性、耐熱性、機械的強度、低複屈折を損なうことなく、紫外に近い領域のレーザー光で用いても劣化を生じ難く、使用に際して光学性能の変化が極めて少なく、特に高い光線透過率を維持することができ、また、光学素子等の成形体の表面に異物が付着し難い、光学素子に好適な樹脂組成物、該樹脂組成物を成形して得られる光学素子、および光学素子を使用した光ピックアップ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行なった結果、特定の重合体と分子量が400〜5000のヒンダードアミン系光安定剤のうち、特定の2種類の光安定剤を特定の質量比で含む熱可塑性樹脂組成物が、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0018】
すなわち本発明は、
[1]一般式(1)で表わされる重合体[A−1]並びに、化合物[B−1]および化合物[B−2]を含む熱可塑性樹脂組成物であって、該重合体[A−1]100質量部に対して、化合物[B−1]および化合物[B−2]を合計量で0.3〜5質量部含み、その質量比[B−1]/[B−2]が1/10〜10/1である、熱可塑性樹脂組成物を提供する。
【0019】
【化1】

ここで、式(1)中、xおよびyは共重合比を示し、0/100 ≦y/x≦ 95/5を満たす実数であり、nは置換基Qの置換数を示し、0≦n≦ 2の整数であり、Rは炭素原子数2〜20の炭化水素基から選ばれる少なくとも1種以上の2+n価の基であり、Rは水素原子または炭素原子数1〜10の炭化水素基から選ばれる少なくとも1種以上の1価の基であり、Rは炭素原子数2〜10の炭化水素基から選ばれる少なくとも1種以上の2価の基であり、QはCOORで表される構造から選ばれる少なくとも1種以上の2価の基であり、Rは水素原子または炭素原子数1〜10の炭化水素基から選ばれる少なくとも1種以上の1価の基である。
また、化合物[B−1]は分子量が400以上1000未満のヒンダードアミン系光安定剤、化合物[B−2]は分子量が1000以上5000以下のヒンダードアミン系光安定剤である。
【0020】
[2]繰り返し構造単位の少なくとも一部に脂環式構造を含む重合体[A−2]並びに、化合物[B−1]および化合物[B−2]を含む熱可塑性樹脂組成物であって、該重合体[A−2]100質量部に対して、化合物[B−1]および化合物[B−2]を合計量で0.3〜5質量部含み、その質量比[B−1]/[B−2]が1/10〜10/1である、熱可塑性樹脂組成物を提供する。
ここで、[B−1]の化合物は分子量が400以上1000未満のヒンダードアミン系光安定剤、[B−2]の化合物は分子量が1000以上5000以下のヒンダードアミン系光安定剤である。
【0021】
[3]化合物[B−1]が一般式(2)で表される構造である、上記[1]または[2]に記載の熱可塑性樹脂組成物を提供する。
【0022】
【化2】

ここで、式(2)中、Wは水素原子またはメチル基を示し、Rは炭素原子数4〜16の炭化水素基を示し、zは1または2である。
[4]重合体[A−1]または重合体[A−2]100質量部に対し、リン系安定剤を0.01〜1質量部含む、上記[1]〜[3]に記載の熱可塑性樹脂組成物を提供する。
[5]重合体[A−1]または重合体[A−2]100重量部に対し、親水性安定剤を0.05〜5質量部含む、上記[1]〜[4]に記載の熱可塑性樹脂組成物を提供する。
[6]上記[1]〜[5]に記載の熱可塑性樹脂組成物を成形して得られる成形体を提供する。
[7]上記[1]〜[5]に記載の熱可塑性樹脂組成物を成形して得られる光学素子を提供する。
[8]上記[1]〜[5]に記載の熱可塑性樹脂組成物を成形して得られる、波長350〜450nmのレーザ光学系用の光学部品として用いられる光学素子を提供する。
【0023】
[9]光路差付与構造を有する、上記[7]または[8]に記載の光学素子を提供する。
[10]光学素子が光ピックアップ装置に用いられる、上記[7]〜[9]に記載の光学素子を提供する。
[11]波長が異なる複数の光源を用いるとともに、基板厚の異なる複数種の光情報記録媒体に対して情報の記録または再生が可能である光ピックアップ装置に用いられる、上記[10]に記載の光学素子を提供する。
[12]光源の波長の少なくとも一つが390〜420nmである光ピックアップ装置に用いられる、上記[10]または[11]に記載の光学素子を提供する。
[13]光学素子の少なくとも一部がアクチュエータに保持されて可動可能である、上記[7]〜[12]に記載の光学素子を提供する。
[14]上記[10]〜[13]に記載の光学素子を用いる、光ピックアップ装置を提供することである。
【発明の効果】
【0024】
本発明の熱可塑性組成物は、優れた光学性能を持ち、且つ紫外に近い領域のレーザ光で用いても劣化を起こし難く、使用に際して光学性能の変化が極めて少なく、高い光線透過率を維持することが可能であり、光学素子として好適に使用可能である。
さらに、本発明の熱可塑性組成物を成形して得られる光学素子の表面には異物が付着し難くいことから光線の透過が妨げられず、光ピックアップ装置等に好適に使用可能であり、工業的価値は極めて高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
[重合体[A−1]および重合体[A−2]]
本発明の熱可塑性樹脂組成物に含まれる重合体[A−1]としては、繰り返し構造単位の少なくとも一部に脂環式構造を含むものであれば良く、特に重合体[A−1]としては、以下の一般式(1)で表わされる構造を有する重合体、すなわち重合体[A−2]であることが好ましい。
【0026】
【化3】

ここで、式(1)中、xおよびyは共重合比を示し、0/100≦y/x≦95/5を満たす実数であり、nは置換基Qの置換数を示し、0≦n≦2の整数である。また、Rは炭素原子数2〜20の炭化水素基から選ばれる少なくとも1種以上の2+n価の基であり、Rは水素原子または炭素原子数1〜10の炭化水素から選ばれる少なくとも1種以上の1価の基であり、Rは炭素原子数2〜10の炭化水素から選ばれる少なくとも1種以上の2価の基であり、QはCOORで表される構造から選ばれる少なくとも1種以上の2価の基であるり、Rは水素原子または炭素原子数1〜10の炭化水素基から選ばれる。
【0027】
前記一般式(1)において、Rは、好ましくは、炭素原子数2〜12の炭化水素基群から選ばれる少なくとも1以上の二価の基であり、さらに好ましくはn=0の場合、一般式(3)で表される二価の基であり、最も好ましくは、前記一般式(3)においてpが0または1である二価の基である。Rの構造は1種のみ用いても、2種以上併用しても構わない。
【0028】
【化4】

ここで、式(3)中、pは、0〜2の整数である。
また、前記一般式(1)において、Rの例としては水素、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、2−メチルプロピル基等が挙げられるが、好ましくは、水素および/またはメチル基であり、最も好ましくは水素である。
また、前記一般式(1)において、Rの例としては、n=0の場合、以下の一般式(4)〜(6)などがあげられる。
【0029】
【化5】

ここで、式(4)〜(6)中、Rは一般式(1)に同じ。
【0030】
また、前記一般式(1)において、nは好ましくは0である。
また、共重合のタイプは本発明において全く制限されるものではなく、ランダムコポリマー、ブロックコポリマー、交互共重合等、公知の様々な共重合タイプを適用することができるが、好ましくはランダムコポリマーである。
主たる成分として用いられる樹脂の構造が上記のものであると、透明性、屈折率および複屈折率等の光学物性に優れ、高精度の光学部品を得ることができる。
【0031】
(重合体[A−2]の構造例)
前記一般式(1)の構造を大きくわけると、以下の(1)〜(4)の4種に大別される。すなわち、
(1)エチレンまたはα−オレフィンと環状オレフィンとの共重合体、
(2)開環重合体またはその水添物、
(3)ポリスチレン誘導体の水添物、
(4)その他
である。
【0032】
(1)エチレンまたはα−オレフィンと環状オレフィンとの共重合体
エチレンまたはα−オレフィンと環状オレフィンとの共重合体としては、一般式(7)で表わされる環状オレフィン系共重合体であり、エチレンまたは炭素原子数が3〜30の直鎖状または分岐状のα−オレフィンに由来する構成単位(A)と、環状オレフィンに由来する構成単位(B)とからなる。
【0033】
【化6】

ここで、式(7)中、Rは、炭素原子数2〜20の炭化水素基から選ばれる少なくとも1種以上の二価の基、Rは、水素原子または炭素原子数1〜5の炭化水素基から選ばれる少なくとも1種以上の一価の基、xおよびyは共重合比を示し、5/95≦y/x≦95/5、好ましくは50/50≦y/x≦95/5、さらに好ましくは55/45≦y/x≦80/20である。
【0034】
(1−1)エチレンまたはα−オレフィンに由来する構成単位(A)
本発明に係る、エチレンまたはα−オレフィンと環状オレフィンとの共重合体を形成する、エチレンまたはα−オレフィンに由来する構成単位(A)は、下記のようなエチレンまたは炭素原子数が3〜30の直鎖状または分岐状のα−オレフィンに由来する構成単位である。
具体的には、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、3−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、3−エチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ヘキセン、4,4−ジメチル−1−ヘキセン、4,4−ジメチル−1−ペンテン、4−エチル−1−ヘキセン、3−エチル−1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセンなどが挙げられる。これらのなかでは、エチレンが好ましい。これらのα−オレフィンに由来する構成単位は、発明の趣旨を損なわない範囲で2種以上含まれていてもよい。
【0035】
(1−2)環状オレフィンに由来する構成単位(B)
本発明に係る、エチレンまたはα−オレフィンと環状オレフィンとの共重合体を形成する、環状オレフィンに由来する構成単位(B)は、下記一般式(8)、一般式(9)および一般式(10)で表される環状オレフィンに由来する構成単位から選ばれる少なくとも1種以上の環状オレフィンに由来する構成単位(B)からなる。
まず、一般式(8)で表される環状オレフィンに由来する構成単位(B)は以下の構造を有するものである。
【0036】
【化7】

ここで、式(8)中、uは0または1であり、vは0または正の整数であり、wは0または1である。なおwが1の場合には、wを用いて表される環は6員環となり、wが0の場合には、この環は5員環となる。R61〜R78ならびにRa1およびRb1は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子または炭化水素基である。
ここで、ハロゲン原子は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子である。また炭化水素基としては、通常、炭素原子数1〜20のアルキル基、炭素原子数1〜20のハロゲン化アルキル基、炭素原子数3〜15のシクロアルキル基または芳香族炭化水素基が挙げられる。
【0037】
より具体的には、アルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、アミル、ヘキシル、オクチル、デシル、ドデシル、オクタデシルなどが挙げられる。ハロゲン化アルキル基としては、上記炭素原子数1〜20のアルキル基に1個または複数のハロゲン原子が置換した基が挙げられる。シクロアルキル基としては、シクロヘキシルなどが挙げられ、芳香族炭化水素基としてはフェニル、ナフチルなどが挙げられる。
【0038】
さらに上記一般式(8)において、R75とR76とが、R77とR78とが、R75とR77とが、R76とR78とが、R75とR78とが、またはR76とR77とがそれぞれ結合して(互いに共同して)、単環または多環の基を形成していてもよく、しかもこのようにして形成された単環または多環が二重結合を有していてもよい。しかしながら単環よりも多環のほうが少ない含有量で高いTgの共重合体を得られるので耐熱性の面から好ましい。また、少ない環状オレフィン仕込み量で製造できる利点がある。ここで形成される単環または多環としては、具体的に以下のようなものが挙げられる。
【0039】
【化8】

なお上記例示において、1または2の番号を付した炭素原子は、上記一般式(8)においてそれぞれR75(R76)またはR77(R78)が結合している炭素原子を表す。
また、R75とR76とで、またはR77とR78とでアルキリデン基を形成していてもよい。このようなアルキリデン基は、通常は炭素原子数2〜20のアルキリデン基であり、このようなアルキリデン基の具体的な例としては、エチリデン、プロピリデン、イソプロピリデンなどが挙げられる。
次に一般式(9)で表わされる環状オレフィンに由来する構成単位(B)は、以下の構造を有するものである。
【0040】
【化9】

ここで、式(9)中、xおよびdは0または1以上の整数であり、yおよびzは0、1または2であり、R81〜R99は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基またはアルコキシ基であり、R89およびR90が結合している炭素原子と、R93が結合している炭素原子またはR91が結合している炭素原子とは、直接あるいは炭素原子数1〜3のアルキレン基を介して結合していてもよく、またy=z=0のとき、R95とR92またはR95とR99とは互いに結合して単環または多環の芳香族環を形成していてもよい。
【0041】
ハロゲン原子としては、上記式(8)中のハロゲン原子と同じものを例示できる。
また脂肪族炭化水素基としては、炭素原子数1〜20のアルキル基または炭素原子数3〜15のシクロアルキル基が挙げられる。
より具体的には、アルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、アミル、ヘキシル、オクチル、デシル、ドデシル、オクタデシルなどが挙げられる。シクロアルキル基としては、シクロヘキシルなどが挙げられる。
芳香族炭化水素基としては、アリール基、アラルキル基などが挙げられ、具体的には、フェニル、トリル、ナフチル、ベンジル、フェニルエチルなどが挙げられる。
アルコキシ基としては、メトキシ、エトキシ、プロホキシなどが挙げられる。ここで、R89およびR90が結合している炭素原子と、R93が結合している炭素原子またはR91が結合している炭素原子とは、直接または炭素原子数1〜3のアルキレン基を介して結合していてもよい。すなわち、上記二個の炭素原子がアルキレン基を介して結合している場合には、R89とR93とが、または、R90とR91とが互いに共同して、メチレン基(−CH−)、エチレン基(−CHCH−)またはプロピレン基(−CHCHCH−)の内のいずれかのアルキレン基を形成している。
【0042】
さらに、y=z=0のとき、R95とR92またはR95とR99とは互いに結合して単環または多環の芳香族環を形成していてもよい。具体的には、y=z=0のとき、R95とR92とにより形成される以下のような芳香族環が挙げられる。
しかしながら単環よりも多環のほうが少ない含有量で高いTgの共重合体を得られるので耐熱性の面から好ましい。また、少ない環状オレフィン仕込み量で製造できる利点がある。
【0043】
【化10】

ここで、lは上記一般式(9)におけるdと同じである。
次に、一般式(10)で表わされる環状オレフィンに由来する構成単位(B)は、以下の構造を有するものである。
【0044】
【化11】

ここで、式(10)中、R100とR101は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子または炭素原子数1〜5の炭化水素基であり、またfは1≦f≦18である。炭素原子数1〜5の炭化水素基としては好ましくはアルキル基、ハロゲン化アルキル基またはシクロアルキル基を挙げることができる。これらの具体例は上記式(8)のR61〜R78の具体例から明らかであろう。
【0045】
上記のような一般式(8)、(9)または(10)で表される環状オレフィンに由来する構成単位(B)としては、具体的には、ビシクロ−2−ヘプテン誘導体(ビシクロヘプト−2−エン誘導体)、トリシクロ−3−デセン誘導体、トリシクロ−3−ウンデセン誘導体、テトラシクロ−3−ドデセン誘導体、ペンタシクロ−4−ペンタデセン誘導体、ペンタシクロペンタデカジエン誘導体、ペンタシクロ−3−ペンタデセン誘導体、ペンタシクロ−4−ヘキサデセン誘導体、ペンタシクロ−3−ヘキサデセン誘導体、ヘキサシクロ−4−ヘプタデセン誘導体、ヘプタシクロ−5−エイコセン誘導体、ヘプタシクロ−4−エイコセン誘導体、ヘプタシクロ−5−ヘンエイコセン誘導体、オクタシクロ−5−ドコセン誘導体、ノナシクロ−5−ペンタコセン誘導体、ノナシクロ−6−ヘキサコセン誘導体、シクロペンタジエン−アセナフチレン付加物、1,4−メタノ−1,4,4a,9a−テトラヒドロフルオレン誘導体、1,4−メタノ−1,4,4a,5,10,10a−ヘキサヒドロアントラセン誘導体、炭素数3〜20のシクロアルキレン誘導体などが挙げられる。
【0046】
この中では、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン誘導体およびヘキサシクロ[6.6.1.13,6.110,13.02,709,14]−4−ヘプタデセン誘導体が好ましく、特にテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセンが好ましい。
【0047】
上記のような一般式(8)または(9)で表される環状オレフィンは、シクロペンタジエンと対応する構造を有するオレフィン類とをディールス・アルダー反応させることによって製造することができる。
これらの一般式(8)、(9)または(10)で表される環状オレフィンに由来する構成単位(B)は、2種以上含まれていてもよい。
また、上記モノマーを用いて重合したものは必要に応じて変成することができ、その場合にモノマー由来の構造単位の構造を変化させることができる。たとえば水添処理によって、条件によりモノマー由来の構造単位中のベンゼン環等をシクロヘキシル環とすることができる。
【0048】
また、共重合のタイプは本発明において全く制限されるものではなく、ランダムコポリマー、ブロックコポリマー、交互共重合等、公知の様々な共重合タイプを適用することができるが、好ましくはランダムコポリマーである。
【0049】
(2)開環重合体またはその水添物
開環重合体またはその水添物とは、前記一般式(1)における好ましい例として挙げた構造群のうち、一般式(5)で表わされる環式オレフィン重合体である。
また、環式オレフィン重合体は、極性基を有するものであってもよい。極性基としては、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アルコキシ基、エポキシ基、グリシジル基、オキシカルボニル基、カルボニル基、アミノ基、エステル基などが挙げられる。
【0050】
環式オレフィン重合体は、通常、環式オレフィンを重合することによって、具体的には、脂環式オレフィンを開環重合することによって、また、極性基を有する環式オレフィン重合体は、例えば、前記環式オレフィン重合体に極性基を有する化合物を変性反応により導入することによって、あるいは極性基を含有する単量体を共重合成分として共重合することによって得られる。
環式オレフィン重合体を得るために使用される脂環式オレフィンとしては、具体的には以下の脂環式オレフィンを挙げることができる。
【0051】
ビシクロ〔2.2.1〕−ヘプト−2−エン(慣用名:ノルボルネン)、5−メチル−ビシクロ〔2.2.1〕−ヘプト−2−エン、5,5−ジメチル−ビシクロ〔2.2.1〕−ヘプト−2−エン、5−エチル−ビシクロ〔2.2.1〕−ヘプト−2−エン、5−ブチル−ビシクロ〔2.2.1〕−ヘプト−2−エン、5−ヘキシル−ビシクロ〔2.2.1〕−ヘプト−2−エン、5−オクチル−ビシクロ〔2.2.1〕−ヘプト−2−エン、5−オクタデシル−ビシクロ〔2.2.1〕−ヘプト−2−エン、5−エチリデン−ビシクロ〔2.2.1〕−ヘプト−2−エン、5−メチリデン−ビシクロ〔2.2.1〕−ヘプト−2−エン、5−ビニル−ビシクロ〔2.2.1〕−ヘプト−2−エン、5−プロペニル−ビシクロ〔2.2.1〕−ヘプト−2−エン、5−メトキシ−カルビニル−ビシクロ〔2.2.1〕−ヘプト−2−エン、5−シアノ−ビシクロ〔2.2.1〕−ヘプト−2−エン、5−メチル−5−メトキシカルボニル−ビシクロ〔2.2.1〕−ヘプト−2−エン、5−エトキシカルボニル−ビシクロ〔2.2.1〕−ヘプト−2−エン、ビシクロ〔2.2.1〕−ヘプト−5−エニル−2−メチルプロピオネイト、ビシクロ〔2.2.1〕−ヘプト−5−エニル−2−メチルオクタネイト、ビシクロ〔2.2.1〕−ヘプト−2−エン−5,6−ジカルボン酸無水物、5−ヒドロキシメチルビシクロ〔2.2.1〕−ヘプト−2−エン、5,6−ジ(ヒドロキシメチル)−ビシクロ〔2.2.1〕−ヘプト−2−エン、5−ヒドロキシ−i−プロピルビシクロ〔2.2.1〕−ヘプト−2−エン、5,6−ジカルボキシ−ビシクロ〔2.2.1〕−ヘプト−2−エン、ビシクロ〔2.2.1〕−ヘプト−2−エン−5,6−ジカルボン酸イミド、5−シクロペンチル−ビシクロ〔2.2.1〕−ヘプト−2−エン、5−シクロヘキシル−ビシクロ〔2.2.1〕−ヘプト−2−エン、5−シクロヘキセニル−ビシクロ〔2.2.1〕−ヘプト−2−エン、5−フェニル−ビシクロ〔2.2.1〕−ヘプト−2−エン、トリシクロ〔4.3.0.12,5〕デカ−3,7−ジエン(慣用名:ジシクロペンタジエン)、トリシクロ〔4.3.0.12,5 〕デカ−3−エン、トリシクロ〔4.4.0.12,5〕ウンデカ−3,7−ジエン、トリシクロ〔4.4.0.12,5〕ウンデカ−3,8−ジエン、トリシクロ〔4.4.0.12,5〕ウンデカ−3−エン、テトラシクロ〔7.4.0.110,13.02,7〕−トリデカ−2,4,6−11−テトラエン(別名:1,4−メタノ−1,4,4a,9a−テトラヒドロフルオレン)、テトラシクロ〔8.4.0.111,14.03,8〕−テトラデカ−3,5,7,12−11−テトラエン(別名:1,4−メタノ−1,4,4a,5,10,10a−ヘキサヒドロアントラセン)、テトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕−ドデカ−3−エン(慣用名:テトラシクロドデセン)、8−メチル−テトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕−ドデカ−3−エン、8−エチル−テトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕−ドデカ−3−エン、8−メチリデン−テトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕−ドデカ−3−エン、8−エチリデン−テトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕−ドデカ−3−エン、8−ビニル−テトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕−ドデカ−3−エン、8−プロペニル−テトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕−ドデカ−3−エン、8−メトキシカルボニル−テトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕−ドデカ−3−エン、8−メチル−8−メトキシカルボニル−テトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕−ドデカ−3−エン、8−ヒドロキシメチル−テトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕−ドデカ−3−エン、8−カルボキシ−テトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕−ドデカ−3−エン、8−シクロペンチル−テトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕−ドデカ−3−エン、8−シクロヘキシル−テトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕−ドデカ−3−エン、8−シクロヘキセニル−テトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕−ドデカ−3−エン、8−フェニル−テトラシクロ〔4.4.0.12,5.17,10〕−ドデカ−3−エン、ペンタシクロ〔6.5.1.13,6.02,7.09,13〕ペンタデカ−3,10−ジエン、ペンタシクロ〔7.4.0.13,6.110,13.02,7〕−ペンタデカ−4,11−ジエンのごときノルボルネン系単量体。
【0052】
シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、3,4−ジメチルシクロペンテン、3−メチルシクロヘキセン、2−(2−メチルブチル)−1−シクロヘキセン、シクロオクテン、3a,5,6,7a−テトラヒドロ−4,7−メタノ−1H−インデン、シクロヘプテンのごとき単環のシクロアルケン。
ビニルシクロヘキセンやビニルシクロヘキサンのごときビニル脂環式炭化水素系単量体。
シクロペンタジエン、シクロヘキサジエンのごとき脂環式共役ジエン系単量体。
【0053】
また、脂環式オレフィンは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。なお、共重合可能な単量体を必要に応じて共重合させることができる。
具体的には以下の単量体を挙げることができる。
エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、3−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、3−エチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ヘキセン、4,4−ジメチル−1−ヘキセン、4,4−ジメチル−1−ペンテン、4−エチル−1−ヘキセン、3−エチル−1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセンなどの炭素数2〜20のエチレンまたはα−オレフィン。
シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、3,4−ジメチルシクロペンテン、3−メチルシクロヘキセン、2−(2−メチルブチル)−1−シクロヘキセン、シクロオクテン、3a,5,6,7a−テトラヒドロ−4,7−メタノ−1H−インデンなどのシクロオレフィン。
1,4−ヘキサジエン、4−メチル−1,4−ヘキサジエン、5−メチル−1,4−ヘキサジエン、1,7−オクタジエンなどの非共役ジエン。
これらの単量体は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0054】
脂環式オレフィンの重合方法には、格別な制限はなく、公知の方法に従って行うことができる。これらの開環重合物は、耐熱性、安定性および光学物性上、水添して用いることが好ましい。水添方法は公知の方法を用いることができる。
【0055】
(3)ポリスチレン誘導体の水添物
ポリスチレン誘導体の水添物としては、ポリスチレンまたはその誘導体をモノマーとして得られた重合体の水添物である。
単量体として用いることができるビニル芳香族化合物の具体例としては、スチレン、α−メチルスチレン、α−エチルスチレン、α−プロピルスチレン、α−イソプロピルスチレン、α−t−ブチルスチレン、2−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−メチルスチレン、2,4−ジイソプロピルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、4−t−ブチルスチレン、5−t−ブチル−2−メチルスチレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン、モノフルオロスチレン、4−フェニルスチレンなどのスチレン類が挙げられる。
【0056】
また、単量体として使用することができるビニル脂環式炭化水素化合物としては具体的には以下の化合物が挙げられる。
ビニルシクロヘキサン、3−メチルイソプロペニルシクロヘキサンなどのビニルシクロヘキサン類。
4−ビニルシクロヘキセン、4−イソプロペニルシクロヘキセン、1−メチル−4−ビニルシクロヘキセン、1−メチル−4−イソプロペニルシクロヘキセン、2−メチル−4−ビニルシクロヘキセン、2−メチル−4−イソプロペニルシクロヘキセンなどのビニルシクロヘキセン類。
【0057】
本発明においては、前述の単量体と共重合可能な他の単量体を共重合させてもよい。共重合可能な単量体としては具体的には以下の単量体である。
エチレン、プロピレン、イソブテン、2−メチル−1−ブテン、2−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテンなどのα−オレフィン系単量体。
シクロペンタジエン、1−メチルシクロペンタジエン、2−メチルシクロペンタジエン、2−エチルシクロペンタジエン、5−メチルシクロペンタジエン、5,5−ジメチルシクロペンタジエン、ジシクロペンタジエンなどのシクロペンタジエン系単量体。
シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセンなどのモノ環状オレフィン系単量体。
ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン、フラン、チオフェン、1,3−シクロヘキサジエンなどの共役ジエン系単量体。
アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロロアクリロニトリルなどのニトリル系単量体。
【0058】
メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、などの(メタ)アクリル酸エステル系単量体;アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸などの不飽和脂肪酸系単量体。
N−ビニルカルバゾール、N−ビニル−2−ピロリドンなどの複素環含有ビニル化合物系単量体。フェニルマレイミド。メチルビニルエーテル等を挙げることができる。
【0059】
重合に用いる上記単量体の混合物は、耐熱性、低複屈折性、機械強度等の観点から、ビニル芳香族化合物および/またはビニル脂環式炭化水素化合物を、通常、50質量%以上、好ましくは70〜100質量%、より好ましくは80〜100質量%含有するものが好ましい。単量体混合物は、ビニル芳香族化合物及びビニル脂環式炭化水素化合物の双方を含有していても構わない。
【0060】
(4)その他
その他、環式オレフィン重合体の具体例としては、例えば、ノルボルネン系単量体の開環重合体、ノルボルネン系単量体の付加重合体、ノルボルネン系単量体とエチレンや、α−オレフィンなどビニル化合物との付加重合体、単環シクロアルケンの重合体、脂環式共役ジエン系単量体の重合体、ビニル脂環式炭化水素系単量体の重合体、芳香族オレフィン重合体などが挙げられるが、前記(1)〜(3)に含まれない構造であっても、一般式(1)の範囲内に於いて、任意に選択可能である。例えば、前記、(1)〜(3)相互、あるいは、公知の共重合可能なモノマーを共重合せしめたものが挙げられる。
【0061】
また、共重合のタイプは本発明において全く制限されるものではなく、ランダムコポリマー、ブロックコポリマー、交互共重合等、公知の様々な共重合タイプを適用することができるが、好ましくはランダムコポリマーである。
上記(1)〜(4)に大別される4種のポリマーのうち、光学特性上好ましいものは(1)エチレンまたはα−オレフィンとシクロオレフィンとの共重合体であり、その中でも最も好ましいものはエチレン・テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン共重合体である。
【0062】
(主鎖の一部として用いることのできるその他の構造)
本発明で用いられる重合体は、本発明の成形方法によって得られる製品の良好な物性を損なわない範囲で、必要に応じて他の共重合可能なモノマーから誘導される繰り返し構造単位を有していてもよい。その共重合比は限定されないが、好ましくは20モル%以下、さらに好ましくは0〜10モル%であり、共重合量が20モル%以下であれば、光学物性を損なうことなく、高精度の光学部品を得ることができる。また、共重合の種類は限定されない。
【0063】
(重合体[A−1]および重合体[A−2]の分子量)
本発明で用いられる重合体[A−1]および重合体[A−2]の分子量は限定されるものではないが、好ましくは135℃のデカリン中で測定される極限粘度[η]が、0.03〜10dl/g、さらに好ましくは0.05〜5dl/gであり、最も好ましくは0.1〜2dl/gである。[η]が10dl/g以下であると良好な成形性を得ることができ、また[η]が0.03dl/gより高いと成形物の機械的強度が損なわれることがなく好ましい。
【0064】
(重合体[A−1]および重合体[A−2]のガラス転移温度)
本発明で用いられる重合体[A−1]および重合体[A−2]のガラス転移温度(Tg)はとくに限定されないが、ガラス転移温度は、50〜240℃である。好ましくは50〜160℃である。さらに好ましくは100〜150℃以下である。ガラス転移温度が50℃以上であると、成形品を光学部品として使用する際に、十分な耐熱性を得ることができる。またガラス転移温度が240℃以下であれば良好な成形性を得ることができる。
ガラス転移温度の測定方法は公知の方法が適用でき、測定装置等は限定されるものではないが、例えば示差走査熱量計(DSC)を用いて、熱可塑性非晶性樹脂のガラス転移温度を測定することができる。例えば、SEIKO電子工業(株)製DSC−20を用いて昇温速度10℃/分で測定する方法などが挙げられる。
このような重合体は、(1)α−オレフィンと環状オレフィンとの共重合体としては、例えば、特開昭60−168708号公報、特開昭61−120816号公報、特開昭61−115912号公報、特開昭61−115916号公報、特開昭61−271308号公報、特開昭61−272216号公報、特開昭62−252406号公報、特開昭62−252407号公報など、(2)開環重合体またはその水添物としては、特開昭60−26024号公報、特開平9−268250号公報、特開昭63−145324号公報、特開2001−72839号公報など、(3)ポリスチレン誘導体の水添物としては、WO 01/092412、特開2003−276047号公報、特開2004−83813号公報などの方法に従い適宜条件を選択することにより製造することができる。
【0065】
また、上記の重合体の製造工程において、少なくとも一度、該重合体または該重合体および原料である単量体を含む系に、水添触媒および水素を接触させて、該重合体および/または単量体が持つ不飽和結合の少なくとも一部を水素化することで、該重合体の耐熱性、透明性等の光学性能を向上させることができる。なお、上記水素化いわゆる水添は、従来公知の方法で行うことができる。
【0066】
[化合物[B−1]および化合物[B−2]]
本発明で使用される化合物[B−1]および化合物[B−2]は、分子量が400〜5000であるヒンダートアミン系光安定剤であり、例えば以下の化合物を例示することができる。
【0067】
ビス(2,2’,6,6’−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、コハク酸ジメチル−1−(2−ヒドロキシエチル)−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン重縮合物、ポリ[6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)イミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル][(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ]ヘキサメチレン[(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ]、テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、ビス−(1,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)−2−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2−n−ブチルマロネート、1,1’−(1,2−エタンジイル)ビス(3,3,5,5−テトラメチルピペラジノン)、(ミックスト2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル/トリデシル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、(ミックスト1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル/トリデシル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、ミックスト{2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル/β, β, β',β'-テトラメチル−3,9−[2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5) ウンデカン]ジエチル}−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、ミックスト{1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル/β, β, β',β'-テトラメチル−3,9−[2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5) ウンデカン]ジエチル}−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、N,N’−ビス(3- アミノプロピル)エチレンジアミン−2,4−ビス[N−ブチル−N−(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)アミノ]−6−クロロ−1,3,5−トリアジン縮合物、ポリ[6−N−モルホリル−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル][(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル) イミノ]ヘキサメチレン[(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル) イミノ]、N,N’−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)ヘキサメチレンジアミンと1,2−ジブロモエタンとの縮合物、[N−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−2−メチル−2−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル) イミノ]プロピオンアミド。
【0068】
本発明においては、特定の分子量範囲のヒンダードアミン系光安定性を少なくとも2種類以上組み合わせて使用することで、本発明の熱可塑性樹脂組成物の有する、優れた光学性能を損なうことなく、極めて優れた耐光安定性をより長期間得ることができるとともに、本発明の熱可塑性樹脂組成物を成形して得られる光学素子の表面に異物が付着し難い優れた効果を得ることができる。
【0069】
具体的には、化合物[B−1]としては分子量が400以上1000未満のヒンダードアミン系光安定剤、化合物[B−2]としては分子量が1000以上5000未満のヒンダードアミン系光安定剤であることが好ましく、本発明の熱可塑性樹脂組成物中の化合物[B−1]および化合物[B−2]の合計量が、重合体[A−1]または重合体[A−2]100質量部に対して0.3〜5質量部、好ましくは0.5〜4質量部、さらに1〜3質量部となるように添加することが好ましい。
熱可塑性樹脂組成物中の化合物[B−1]および化合物[B−2]の合計量が0.3質量部以上であると重合体に耐光安定性を付与することができ、5質量部以下であると透明性等の光学性能を損なうことがなく好ましい。さらに本発明では、化合物[B−1]および[B−2]の質量比、すなわち[B−1]/[B−2]が1/10〜10/1、さらに好ましくは1/5〜5/1であると、より良好な耐光安定性を得ることができる。
【0070】
本発明で使用できる化合物[B−1]として具体的には、2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルステアレート、1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジルステアレート、2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルベンゾエート、デカン二酸ビス(2,2,6,6−テトラメチル−1−(オクチルオキシ)−4−ピペリジニル)エステルおよび1,1−ジメチルエチルヒドロペルオキシドとオクタンの反応生成物、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)−2−ブチル−2−(3,5−ジ第三ブチル−4−ヒドロキシベンジル)マロネート、N,N' −ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)ヘキサメチレンジアミン、メチル1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジルセバケート、2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジノールとトリデシルアルコールと1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸との縮合物、テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、テトラキス(1,2,2,6,6,−ペンタメチル−4−ピペリジル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジノールとトリデシルアルコールと1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸との縮合物等を例示することができる。
また化合物[B−2]としては、一般式(2)で表される化合物であることが好ましい。
【0071】
【化12】

ここで、式(2)中、Wは水素またはメチル基を示し、Rは炭素原子数4〜16の炭化水素基を示し、zは1または2である。
【0072】
また化合物[B−2]として具体的には、ポリ[6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル][(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ]ヘキサメチレン[(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ]、コハク酸ジメチル−1−(2−ヒドロキシエチル)−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン重縮合物、ポリ[6−N−モルホリル−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル][(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル) イミノ]ヘキサメチレン[(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル) イミノ]、等を例示することができる。
【0073】
本発明において特に好ましい態様として、化合物[B−1]としては分子量が481のビス(2,2’,6,6’−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、化合物[B−2]として分子量が2000〜3100のポリ[6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル][(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ]ヘキサメチレン[(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ]を併用する場合が例示される。
【0074】
これらのヒンダードアミン系光安定剤は市場から入手可能であり、化合物[B−1]としては、チバガイギー社製;TINUVIN770DF、TINUVIN765、TINUVIN144および、TINUVIN123S、サイテック社製;CYASORB UV−3853および、CYASORB UV−3765、BASF社製;Uvinul4049Hおよび、Uvinul4050H、旭電化工業(株)製;アデカスタブLA−62、アデカスタブLA−52、アデカスタブLA−67および、アデカスタブLA−57等。
【0075】
化合物[B−2]としては、チバガイギー社製;CHIMASSORB944FDL、CHIMASSORB2020FDL、CHIMASSORB119FLおよび、TINUVIN622LD、サイテック社製;CYASORB UV−3346および、CYASORB UV−3529、BASF社製;UVINUL 5050H等を例示することができる。
【0076】
[リン系安定剤]
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、本発明の重合体[A−1]および重合体[A−2]100重量部に対し、リン系安定剤を0.01〜1重量部を含むことが好ましく、リン系安定剤の使用により、本発明の熱可塑性樹脂組成物にレーザー光を照射した際に発生する白濁を抑えることができる。
【0077】
リン系安定剤は一般の樹脂工業で通常使用される物であれば格別な限定はなく、例えば、
トリフェニルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、フェニルジイソデシルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(ジノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2−t−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイト、トリス(シクロヘキシルフェニル)ホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド、10−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド、10−デシロキシ−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレンなどのモノホスファイト系化合物。
【0078】
4,4’−ブチリデン−ビス(3−メチル−6−t−ブチルフェニル−ジ−トリデシルホスファイト)、4,4’−イソプロピリデン−ビス(フェニル−ジ−アルキル(C12〜C15)ホスファイト)、4,4’−イソプロピリデン−ビス(ジフェニルモノアルキル(C12〜C15)ホスファイト)、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ジ−トリデシルホスファイト−5−t−ブチルフェニル)ブタン、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(イソデシルホスファイト)、サイクリックネオペンタンテトライルビス(ノニルフェニルホスファイト)、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニルホスファイト)、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,4−ジメチルフェニルホスファイト)、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,6−ジ−t−ブチルフェニルホスファイト)などのジホスファイト系化合物の他、耐加水分解性を上げる目的で、立体障害の高い基を周囲に持つ比較的高分子量のリン系リン系安定剤、たとえば、トリス[2−[[2,4,8,10−テトラ−t−ブチルジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサフォスフェフィン−6−イル]オキシ]エチル]アミン、一分子内に燐酸エステル構造とフェノール構造とを有するものとして例えば、6−〔3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロポキシ〕−2,4,8,10−テトラキス−t−ブチルジベンゾ〔d,f〕〔1.3.2〕ジオキサフォスフェピン、6−〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロポキシ〕−2,4,8,10−テトラキス−t−ブチルジベンゾ〔d,f〕〔1.3.2〕ジオキサフォスフェピンなどが挙げられる。
【0079】
これらの中でも、6−〔3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロポキシ〕−2,4,8,10−テトラキス−t−ブチルジベンゾ〔d,f〕〔1.3.2〕ジオキサフォスフェピン、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス[2−[[2,4,8,10−テトラ−t−ブチルジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサフォスフェフィン−6−イル]オキシ]エチル]アミン、トリス(ジノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス[2−[[2,4,8,10−テトラ−t−ブチルジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサフォスフェフィン−6−イル]オキシ]エチル]アミンなどが特に好ましい。
【0080】
[親水性安定剤]
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、樹脂の耐湿熱特性の向上や、成形時の離型性の向上等を目的として、親水性の安定剤を添加する技術が知られている。本発明の好ましい態様としては、親水性安定剤をポリマー100重量部に対し、0.05ないし5重量部含んでなるものが挙げられる。
親水性安定剤として例えば、特開平9−241484号公報に記載の多価アルコール類、特開2001−26718号公報に記載の多価アルコール、多価アルコールと脂肪酸のエステル、親水基と疎水基とを有する化合物などが挙げられる。
【0081】
(多価アルコール)
このような多価アルコールとしては、分子量が2000以下で、同一分子中のヒドロキシル基の数に対する炭素原子数の比率が1.5〜30、好ましくは3〜20、特に好ましくは6〜20で、炭素原子数が6以上のものが挙げられる。この比率と炭素原子数の範囲内であれば、熱可塑性樹脂との相溶性が良く、溶融混練時に発泡を起こして透明性に悪影響を及ぼすこともない。好ましい炭素原子数の範囲は6〜100であり、さらに好ましくは、6〜60である。
この多価アルコールとしては、分子中の少なくとも1個のヒドロキシル基が、1級炭素原子と結合しているもの、あるいは、炭素原子数/ヒドロキシル基数の比率が1.5〜30で炭素原子数6以上の多価アルコールが好ましい。
【0082】
本発明の多価アルコールには、分子内にエーテル結合、チオエーテル結合、脂環族炭化水素基、芳香族炭化水素基を有しているものも含まれるが、好ましくは脂肪族多価アルコールである。なお、エステル基を有するものは含まれない。
多価アルコールの具体例としては、3,7,11,15−テトラメチル−1,2,3−トリヒドロキシヘキサデカン、ジヒドロキシオクタン、トリヒドロキシオクタン、テトラヒドロキシオクタン、ジヒドロキシノナン、トリヒドロキシノナン、テトラヒドロキシノナン、ペンタヒドロキシノナン、ヘキサヒドロキシノナン、ジヒドロキシトリアコンタン、トリヒドロキシトリアコンタン、エイコサヒドロキシトリアコンタンなどが挙げられる。これらの中では、3,7,11,15−テトラメチル−1,2,3−トリヒドロキシヘキサデカンが好ましい。
また、多価アルコールとして、具体的には1,2−ヘキサデカンジオール、2,3−ヘプタデカンジオール、1,3−オクタデカンジオール、1,2−デシルテトラデカンジオールなども挙げられる。
【0083】
(多価アルコールと脂肪酸のエステル)
多価アルコールと脂肪酸のエステルとしては、たとえば、特開2001−26682号公報に記載のソルビトール系誘導体等が透明性に優れ、高温高湿度雰囲気下における透明性低下が少ない樹脂組成物が得られるので好適に用いられる。
その他、特公平07−007529記載の多価アルコールの脂肪酸エステルがグリセリンまたはペンタエリスリトールの一部をエステル化したものであるものも好適な例として挙げられる。
【0084】
(ソルビトール系誘導体)
本発明で用いられるソルビトール系誘導体は、下記の一般式(11)〜(16)で表される化合物である。
【0085】
【化13】

ここで、式(11)中、各R、R'は互いに同一でも異なっていてもよく、炭素原子数1〜8のアルキル基、ハロゲン原子、炭素原子数1〜4のアルコキシ基のいずれかであり、mおよびnはそれぞれ独立に0〜3の整数である。
【0086】
上記の式(11)で表される化合物として具体的には、1,3,2,4−ジベンジリデンソルビトール、1,3−ベンジリデン−2,4−p−メチルベンジリデンソルビトール、1,3−ベンジリデン−2,4−p−エチルベンジリデンソルビトール、1,3−p−メチルベンジリデン−2,4−ベンジリデンソルビトール、1,3−p−エチルベンジリデン−2,4−ベンジリデンソルビトール、1,3−p−メチルベンジリデン−2,4−p−エチルベンジリデンソルビトール、1,3−p−エチルベンジリデン−2,4−p−メチルベンジリデンソルビトール、1,3,2,4−ジ(p−メチルベンジリデン)ソルビトール、1,3,2,4−ジ(p−エチルベンジリデン)ソルビトール、1,3,2,4−ジ(p−n−プロピルベンジリデン)ソルビトール、1,3,2,4−ジ(p−i−プロピルベンジリデン)ソルビトール、1,3,2,4−ジ(p−n−ブチルベンジリデン)ソルビトール、1,3,2,4−ジ(p−s−ブチルベンジリデン)ソルビトール、1,3,2,4−ジ(p−t−ブチルベンジリデン)ソルビトール、1,3,2,4−ジ(2',4'−ジメチルベンジリデン)ソルビトール、1,3,2,4−ジ(p−メトキシベンジリデン)ソルビトール、1,3,2,4−ジ(p−エトキシベンジリデン)ソルビトール、1,3−ベンジリデン−2,4−p−クロルベンジリデンソルビトール、1,3−p−クロルベンジリデン−2,4−ベンジリデンソルビトール、1,3−p−クロルベンジリデン−2,4−p−メチルベンジリデンソルビトール、1,3−p−クロルベンジリデン−2,4−p−エチルベンジリデンソルビトール、1,3−p−メチルベンジリデン−2,4−p−クロルベンジリデンソルビトール、1,3−p−エチルベンジリデン−2,4−p−クロルベンジリデンソルビトールおよび1,3,2,4−ジ(p−クロルベンジリデン)ソルビトールおよびこれらの2個以上の混合物を例示でき、特に1,3,2,4−ジベンジリデンソルビトール、1,3,2,4−ジ(p−メチルベンジリデン)ソルビトール、1,3,2,4−ジ(p−エチルベンジリデン)ソルビトール、1,3−p−クロルベンジリデン−2,4−p−メチルベンジリデンソルビトール、1,3,2,4−ジ(p−クロルベンジリデン)ソルビトールおよびそれらの2種以上の混合物が好適に使用できる。
上記のソルビトール系誘導体の中では、下記の式(12)で表される化合物を好ましい例として挙げることができる。
【0087】
【化14】

ここで、式(12)中、R、R'は互いに同一でも異なっていてもよく、メチル基またはエチル基を示す。
【0088】
【化15】

ここで、式(13)中、各Rは互いに同一でも異なっていてもよく、炭素原子数1〜8のアルキル基、ハロゲン原子、炭素原子数1〜4のアルコキシ基のいずれかであり、mは0〜3の整数である。
【0089】
上記の式(13)で表される化合物として具体的には、2,4−ベンジリデンソルビトール、2,4−p−n−プロピルベンジリデンソルビトール、2,4−p−i−プロピルベンジリデンソルビトール、2,4−p−n−ブチルベンジリデンソルビトール、2,4−p−s−ブチルベンジリデンソルビトール、2,4−p−t−ブチルベンジリデンソルビトール、2,4−(2',4'−ジメチルベンジリデン)ソルビトール、2,4−p−メトキシベンジリデンソルビトール、2,4−p−エトキシベンジリデンソルビトール、2,4−p−クロルベンジリデンソルビトールおよびこれらの2種以上の混合物が使用できる。
【0090】
【化16】

ここで、式(14)中、各Rは互いに同一でも異なっていてもよく、炭素原子数1〜8のアルキル基、ハロゲン原子、炭素原子数1〜4のアルコキシ基のいずれかであり、nは0〜3の整数である。)
上記の式(14)で表される化合物として具体的には、1,3−ベンジリデンソルビトール、1,3−p−n−プロピルベンジリデンソルビトール、1,3−p−i−プロピルベンジリデンソルビトール、1,3−p−n−ブチルベンジリデンソルビトール、1,3−p−s−ブチルベンジリデンソルビトール、1,3−p−t−ブチルベンジリデンソルビトール、1,3−(2',4'−ジメチルベンジリデン)ソルビトール、1,3−p−メトキシベンジリデンソルビトール、1,3−p−エトキシベンジリデンソルビトール、1,3−p−クロルベンジリデンソルビトールおよびこれらの2種以上の混合物が使用できる。
【0091】
【化17】

ここで、式(15)中、R1〜R4は炭素原子数10〜30の脂肪族アシル基または水素原子である。)
上記の式(15)で表される化合物として具体的には、1,5−ソルビタンモノステアレート、1,5−ソルビタンジステアレート、1,5−ソルビタントリステアレート、1,5−ソルビタンモノラウレート、1,5−ソルビタンジラウレート、1,5−ソルビタントリラウレート、1,5−ソルビタンモノパルミテート、1,5−ソルビタンジパルミテート、1,5−ソルビタントリパルミテートおよびこれらの2種以上の混合物が使用できる。
【0092】
【化18】

ここで、式(16)中、R5〜R8は炭素原子数10〜30の脂肪族アシル基または水素原子である。)
上記の式(16)で表される化合物として具体的には、1,4−ソルビタンモノステアレート、1,4−ソルビタンジステアレート、1,4−ソルビタントリステアレート、1,4−ソルビタンモノラウレート、1,4−ソルビタンジラウレート、1,4−ソルビタントリラウレート、1,4−ソルビタンモノパルミテート、1,4−ソルビタンジパルミテート、1,4−ソルビタントリパルミテートおよびこれらの2種以上の混合物が使用できる。
【0093】
上記のソルビトール系誘導体のなかでは、前記の式(11)〜(14)で表されるベンジリデンソルビトール誘導体が好ましく、さらには、前記の式(11)で表されるジベンジリデンソルビトール誘導体が好ましい。また前記の式(11)〜(16)で表されるソルビトール系誘導体は、1種単独でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
本発明においては、上述したソルビトール系誘導体の分散性向上のために、それを脂肪酸と混合して使用してもよい。用いられる脂肪酸としては、炭素原子数10〜30の脂肪酸が挙げられる。
【0094】
(その他のエステル)
3価以上の多価アルコールの脂肪酸エステルは、アルコール性水酸基の一部がエステル化されたものを使用する。したがって、使用される多価アルコール脂肪酸エステルの具体例の一部としてグリセリンモノステアレート、グリセリンモノラウレート、グリセリンモノミリステート、グリセリンモノパルミテート、グリセリンジステアレート、グリセリンジラウレート等のグリセリン脂肪酸エステル、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールモノラウレート、ペンタエリスリトールジステアレート、ペンタエリスリトールジラウレート、ペンタエリスリトールトリステアレート等のペンタエリスリトールの脂肪酸エステルが例示できる。
【0095】
(親水性安定剤−親水基と疎水基とを有する化合物)
親水基と疎水基とを有する化合物の例としては、分子中に親水基と疎水基とを有する化合物において、該化合物の親水基がヒドロキシアルキル基であり、疎水基が炭素原子数6以上のアルキル基であるアミン化合物またはアミド化合物が挙げられる。
【0096】
具体的には、たとえば、ミリスチルジエタノールアミン、2−ヒドロキシエチル−2−ヒドロキシドデシルアミン、2−ヒドロキシエチル-2-ヒドロキシトリデシルアミン、2−ヒドロキシエチル−2−ヒドロキシテトラデシルアミン、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールジステアレート、ペンタエリスリトールトリステアレート、ジ−2−ヒドロキシエチル−2−ヒドロキシドデシルアミン、アルキル(炭素原子数8〜18)ベンジルジメチルアンモニウムクロライド、エチレンビスアルキル(炭素原子数8〜18)アミド、ステアリルジエタノールアミド、ラウリルジエタノールアミド、ミリスチルジエタノールアミド、パルミチルジエタノールアミド、などが挙げられる。これらのうちでも、ヒドロキシアルキル基を有するアミン化合物またはアミド化合物が好ましく用いられる。
これらの親水性安定剤は、本発明の熱可塑性樹脂組成物中に、本発明の重合体[A−1]および重合体[A−2]100質量部に対し0.0001〜10質量部、好ましくは0.05〜5質量部、さらに0.1〜3質量部含まれることが好ましい。
【0097】
[その他の任意成分]
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、上述の成分に加えてさらに、本発明の光学部品の良好な特性を損なわない範囲で、公知の耐候安定剤、耐熱安定剤、帯電防止剤、難燃剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、防曇剤、滑剤、天然油、合成油、ワックス、有機または無機の充填剤などの任意成分が配合されていてもよい。
たとえば、任意成分として配合される耐候安定剤は、ベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、ニッケル系化合物、上記以外のヒンダードアミン系化合物等の紫外線吸収剤が挙げられる。
【0098】
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤としては、具体的には、2−(5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2,2−ヒドロキシ−3,5−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチル−フェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチル−フェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−メチル−フェニル)−5−クロロ・ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチル−フェニル)−5−クロロ・ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−4’−n−オクトキシ・フェニル)ベンゾトリアゾールなどや、市販されているTinuvin 328、Tinuvin PS(共に、チバ・ガイギー社製)、やSEESORB709(2−(2’−ヒドロキシ−5’−t−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、白石カルシウム社製)などのベンゾトリアゾール誘導体などが例示される。
ベンゾフェノン系紫外線吸収剤としては、具体的には、2,4−ジヒドロキシ・ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ・ベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシ・ベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシ・ベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシ−5−スルフォベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−2’−カルボキシ・ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−5−スルフォベンゾフェノン・トリヒドレート、2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシ・ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−オクタデシロキシ・ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−n−ドデシロキシ・ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−ベンジロキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシ・ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−ドデシロキシ−ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−(2−ヒドロキシ−3−メタクリロキシ)プロポキシベンゾフェノンなどや、Uvinul 490(2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシ・ベンゾフェノンと他の四置換ベンゾフェノンの混合物、GAF社製)、Permyl B−100(ベンゾフェノン化合物、Ferro社製)などが例示される。
【0099】
また、任意成分として配合される耐熱安定剤としては、テトラキス[メチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、β−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオン酸アルキルエステル、2,2’−オキザミドビス[エチル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートなどのフェノール系酸化防止剤、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、1,2−ヒドロキシステアリン酸カルシウムなどの脂肪酸金属塩、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールジステアレート、ペンタエリスリトールトリステアレートなどの多価アルコール脂肪酸エステルなどを挙げることができ、また、ジステアリルペンタエリスリトールジフォスファイト、フェニル−4,4’−イソプロピリデンジフェノール−ペンタエリスリトールジフォスファイト、ビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト等のリン系安定剤を使用してもよい。これらは単独で配合してもよいが、組み合わせて配合してもよい。たとえばテトラキス[メチレン−3−(3.5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンとステアリン酸亜鉛とグリセリンモノステアレートとの組み合わせなどを例示できる。これらの安定剤は、1種または2種以上組み合わせて用いることができる。
【0100】
ただし本発明においては、これらのうち特にフェノール系酸化防止剤は、ヒンダードアミン系耐光安定剤の効果を阻害しない範囲で使用することが好ましい。
本発明で使用される環状オレフィン系重合体と他の樹脂成分や添加剤との混合方法は限定されるものではなく、公知の方法が適用できる。たとえば各成分を同時に混合する方法などである。
【0101】
[本発明の熱可塑性樹脂組成物]
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、一般式(1)で表わされる重合体[A−1]並びに、化合物[B−1]および化合物[B−2]を含む熱可塑性樹脂組成物である。
また本発明の熱可塑性樹脂組成物は、繰り返し構造単位の少なくとも一部に脂環式構造を含む重合体[A−2]並びに、下記の化合物[B−1]および化合物[B−2]を含む熱可塑性樹脂組成物である。
本発明の熱可塑性樹脂に含まれる化合物[B−1]および化合物[B−2]の量は、該重合体[A−1]または[A−2]100質量部に対して0.3〜5質量部、好ましくは0.5〜4質量部、さらに好ましくは1〜3質量部であり、その質量比、すなわち[B−1]/[B−2]が1/10〜10/1、好ましくは1/5〜5/1である。
【0102】
【化19】

ここで、式(1)中、xおよびyは共重合比を示し、0/100 ≦y/x≦ 95/5を満たす実数であり、nは置換基Qの置換数を示し、0≦n≦2の整数であり、Rは炭素原子数2〜20の炭化水素基から選ばれる少なくとも1種以上の2+n価の基であり、Rは水素原子または炭素原子数1〜10の炭化水素基から選ばれる少なくとも1種以上の1価の基であり、Rは炭素原子数2〜10の炭化水素基から選ばれる少なくとも1種以上の2価の基であり、QはCOORで表される構造から選ばれる少なくとも1種以上の2価の基であり、Rは水素原子または炭素原子数1〜10の炭化水素基から選ばれる少なくとも1種以上の1価の基である。
また、化合物[B−1]は分子量が400以上1000未満のヒンダードアミン系光安定剤、化合物[B−2]は分子量が1000以上5000以下のヒンダードアミン系光安定剤である。
【0103】
本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法は特に限定されず、公知の方法で製造することができる。具体的には、本発明の熱可塑性樹脂組成物は、上記の各成分、すなわち、重合体[A−1]または重合体[A−2]および、ヒンダードアミン系光安定剤として化合物[B−1]および化合物[B−2]、また目的に応じてリン系安定剤および親水性安定剤、さらに本発明の目的を損なわない範囲でその他の任意成分等を添加して混合した後フラッシュ乾燥、または、各成分をヘンシェルミキサー、リボンブレンダー、メルトブレンダー、ホモミキサー等を用いて混合した後、押出機を用いてペレット化することで、ペレット状の樹脂組成物として得ることができる。さらに、目的とする成形物の形状に応じて、射出成形法、押出成形法、吹込成形法、真空成形法、スラッシュ成形法等により、成形物として得ることができる。
【0104】
また、本発明の熱可塑性樹脂組成物を光学用途に使用する場合、光線を透過させることが必要であるため、光線透過率が良好であることが好ましい。光線透過率は用途に応じて全光線透過率または分光光線透過率により規定される。
全光線、あるいは複数波長域での使用が想定される場合、全光線透過率が良いことが必要であり、反射防止膜を表面に設けていない状態での全光線透過率は85%以上、好ましくは88〜93%である。全光線透過率が85%以上であれば必要な光量を確保することができ好ましい。全光線透過率の測定方法は公知の方法が適用でき、測定装置等は限定されるものではない。例えばASTM D1003に準拠して、熱可塑性 非晶性樹脂を厚み3mmのシートに成形し、ヘーズメーターを用いて、該成形シートの全光線透過率を測定する方法などが挙げられる。
【0105】
また特定波長域のみで利用される光学系、たとえばレーザ光学系の場合、全光線透過率が高くなくても、該波長域での分光光線透過率が良ければ使用することができる。この場合、使用波長における、反射防止膜を表面に設けていない状態での分光光線透過率は85%以上、さらに好ましくは88〜93%である。分光光線透過率が85%以上であれば必要な光量を確保することができ好ましい。また測定方法および測定装置等には公知の方法および装置が適用でき、測定装置としては具体的には分光光度計を例示することができる。
【0106】
また本発明の熱可塑性樹脂組成物は、390〜420nmの波長、特に400〜420nmの波長、例えばレーザー光の光線透過率に優れ、波長400nmにおける分光光線透過率が85%以上、好ましくは86〜93%であり、且つ劣化を生じ難いことから、光学素子として使用した場合の光学性能の変化が生じにくい。さらに該樹脂組成物を成形して得られる成形体の表面に異物が付着し難い効果を有することから、光学素子に好適に適用することができる。
尚、光学部品として用いる場合、公知の反射防止膜を表面に設けることにより、光線透過率をさらに向上させることができる。
【0107】
[光学素子]
光学素子とは光学系機器等に使用される部品であり、光学素子として具体的には、光学レンズや光学プリズムとしては、カメラの撮像系レンズ;顕微鏡、内視鏡、望遠鏡レンズなどのレンズ;眼鏡レンズなどの全光線透過型レンズ;CD、CD−ROM、WORM(追記型光ディスク)、MO(書き変え可能な光ディスク;光磁気ディスク)、MD(ミニディスク)、DVD(デジタルビデオディスク)などの光ディスクのピックアップレンズ;レーザービームプリンターのfθレンズ、センサー用レンズなどのレーザー走査系レンズ;カメラのファインダー系のプリズムレンズなどが挙げられる。光ディスク用途としては、CD、CD−ROM、WORM(追記型光ディスク)、MO(書き変え可能な光ディスク;光磁気ディスク)、MD(ミニディスク)、DVD(デジタルビデオディスク)などが挙げられる。その他の光学用途としては、液晶ディスプレイなどの導光板;偏光フィルム、位相差フィルム、光拡散フィルムなどの光学フィルム;光拡散板;光カード;液晶表示素子基板などが挙げられる。
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、球状、棒状、板状、円柱状、筒状、チューブ状、繊維状、フィルムまたはシート形状などに成形して、例えば上記の種々の形態で使用することができる。
【0108】
光学素子を成型する方法としては特に限定されるものではなく、公知の方法を用いることができ、その用途および形状にもよるが、射出成形法、押出成形法、吹込成形法、真空成形法、スラッシュ成形法等が適用可能であるが、射出成形法が成形性、生産性の観点から好ましい。また、成形条件は使用目的、または成形方法により適宜選択されるが、例えば射出成形における樹脂温度は、通常150〜400℃、好ましくは200〜350℃、より好ましくは230〜330℃の範囲で適宜選択される。本発明の熱可塑性樹脂組成物は、低複屈折性、透明性、機械強度、耐熱性、低吸水性に優れるため、種々の用途に使用でき、特に光ピックアップ装置に使用される光学素子に好適に用いることができる。
【0109】
[光路差付与構造]
光路差付与構造とは、光学素子の少なくとも一つの光学面に、該光学面を通過する所定の光に対して予め定められた光路差を付与する機能を持つ構造である。
以下、ピックアップ装置に関する図1にて、さらに詳細に説明する。
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、第1光源、第2光源および第3光源の共通光路に配置され、回折構造を有する対物光学素子OBLに使用される。そして、対物光学素子に鋸歯状の回折構造を設けている。
【0110】
これは光軸を中心として、同心円状に細かい段差を設けたものであり、隣り合う輪帯を通過した光束は、所定の光路差を与えられる。
そしてこの鋸歯のピッチ(回折パワー)や深さ(ブレイズド化波長)を設定することにより、「高密度な光ディスク」に対しては、第1光源からの光束が2次回折光による集光スポットとして形成され、DVDに対しては、第2光源からの光束が1次回折光による集光スポットとして形成されるようになっている。
このように、回折次数が異なる光を利用することにより、各々の場合における回折効率を高くすることができ、光量を確保することができる。
【0111】
またCDに対しては、第3光源からの光束を、DVDと同じ次数の回折光にすることが好ましいが、これは適宜他の次数になるようにしても良い。この例では、DVDと同じ1次の回折光として集光スポットを形成するようにしている。
このような回折構造は、光路差付与構造の一例であるが、他に公知の「位相差付与構造」や「マルチレベル構造」も採用することができる。
またここでは、光ディスクフォーマットの基板厚差にもとづく球面収差を補正する目的で光路差付与構造が採用されているが、それだけでなく、使用波長の波長差や、使用波長の変動(モードホップ)に基づいて生じる収差の補正にももちろん使用可能である。前者の場合は50ナノメートル以上の波長差に基づいて生じる球面色収差の補正であり、後者の場合は5nm以内の微小な波長変動を補正する。
【0112】
この例では、回折構造を対物光学素子に設けた例を説明したが、コリメータやカップリングレンズなどの他の素子に設けることはもちろん可能である。
また屈折面、非球面を有する光学素子に、このような素材を用いることが、もっとも好ましい。
本発明の熱可塑性樹脂組成物を用いることにより、従来ガラスでのみ実現できた長時間の使用が実現できるようになった上、さらにガラスレンズでは不可能であった光路差付与構造が容易に実現できる。
【0113】
[光ピックアップ装置]
光ピックアップ装置とは、光情報記録媒体に対して情報の再生および/または記録を行う機能を有する装置であって、光を出射する光源と、前記光の前記光情報記録媒体への照射および/または前記光情報記録媒体で反射される光の集光を行なう光学素子を備えたものである。光ピックアップ装置の仕様は限定されないが、本願発明の効果を説明するために、 図1を用いて、本発明の熱可塑性樹脂組成物から得られる光ピックアップ装置に使用される光学素子の例について説明する。
【0114】
図1では、使用波長が405nmのいわゆる青紫色レーザー光源を用いた「高密度な光ディスク」、DVD、CDの3フォーマット互換の光ピックアップ装置をターゲットとしており、第1光情報記録媒体として保護基板厚t1が0.6mmの「高密度な光ディスク」、第2光情報記録媒体として保護基板厚t2が0.6mmのDVD、第3光情報記録媒体として保護基板厚t3が1.2mmのCDを想定している。それぞれD1、D2、D3が基板厚を示している。
【0115】
図1は、本願発明に関わる光ピックアップ装置を示す模式図である。
レーザーダイオードLD1は、第1光源であり、波長λ1が405nmの青紫色レーザーが用いられるが、波長が390nm〜420nmである範囲のものを適宜採用することができる。LD2は、第2光源であり、波長λ2が655nmの赤色レーザーが用いられるが、波長が630nm〜680nmである範囲のものを適宜採用することができる。LD3は、第3光源であり、波長λ3が780nmの赤外レーザーが用いられるが、波長が750nm〜800nmである範囲のものを適宜採用することができる。
【0116】
レーザーダイオードLD2は、第2の光源(DVD用の光源)、第3の光源(CD用の光源)の、2つの発光点を同一のパッケージに収めた、いわゆる2レーザー1パッケージの光源ユニットである。
このパッケージのうち、第2の光源を光軸上に位置するように調整するので、第3の光源については光軸上からやや離れた処に位置するため、像高が生じてしまうが、この特性を改善するための技術も既に知られており、それらの技術を必要に応じて適用できる。ここでは補正板DPを用いることによりその補正を行っている。補正板DPにはグレーティングが形成されており、それによって光軸からのズレを補正する。
なおLD2から実線で描かれているのがDVD用の光源光束であり、点線で描かれているのがCD用の光源光束である。
【0117】
ビームスプリッタBS1はLD1およびLD2から入射する光源光束を対物光学素子であるOBLの方向へ透過又は反射させる。
LD1から投光された光束は、ビーム品位向上のため、ビームシェイパーBSLに入射してから上述のBS1を経て、コリメータCLに入射し、これによって無限平行光にコリメートされたのち、ビームスプリッタBS3、さらに凹レンズと凸レンズとから構成されるビームエキスパンダーBEを経て対物光学素子である対物レンズOBLに入射する。そして第1光情報記録媒体の保護基板を介して情報記録面上に集光スポットを形成する。そして情報記録面上で反射したのち、同じ経路をたどって、コリメータCL1を通過してから、ビームスプリッタBS3によって進行方向を変換された後、センサーレンズSL1を経てセンサーS1に集光する。このセンサーによって光電変換され、電気信号となる。
なおビームエキスパンダーBEと対物レンズOBLとの間には図示しないλ/4(四分の一波長)板が配置されており、行きと帰りとで丁度半波長分位相がずれて偏光方向が変わる。このため復路の光束はBS3によって進行方向が変わる。
【0118】
さてビームシェイパーBSLは、光軸に対して垂直なある方向と、この方向に対して垂直な方向の、2つの方向に対してそれぞれ異なった曲率を有している(光軸について、回転非対象な曲率を有している)。
光源から出射された光束は、半導体光源の構造上、光軸に対して垂直なある方向と、この方向に対して垂直な方向の、2つの方向に対してそれぞれ発散角が異なっており、光軸方向から見て楕円状のビームとなっているが、このままでは光ディスク用の光源光束として好ましくないため、ビームシェイパーBSLによって各々の方向に異なった屈折作用を与えることにより、出射光束が略円形断面のビームとなるようにしている。
またここではLD1の光路中にビームシェイパーBSLを配置しているが、LD2の光路に配置することも当然可能である。
LD2から投光された光束も、LD1の場合と同様に、光ディスク(第2光情報記録媒体、第3光情報記録媒体)に集光スポットを形成し、反射して最終的にセンサーS2に集光する。BS1によって光路が一致するようにせしめられているだけであって、LD1の場合と変わりはない。
なお対物光学素子OBLは、この図では単一のレンズであるが、必要に応じて複数の光学素子から構成されるようにしてもよい。
本発明の樹脂組成物は低複屈折性を持っていることから、これらの構成の装置に最適に使用できることが明らかである。
【0119】
[アクチュエータ]
光ピックアップ装置に関する図1において、各LDから投光された光束が光ディスクの保護基板を介して情報記録面に集光する状態が描かれているが、再生/記録する光ディスクによって、基本的な位置がアクチュエータによって切り替わり、その基準位置からピント合わせ(フォーカシング)を行う。
そして各々の光情報記録媒体の保護基板厚、さらにピットの大きさにより、対物光学素子OBLに要求される開口数も異なる。ここで、CD用の開口数は0.45、DVDおよび「高密度な光ディスク」の開口数は0.65としているが、CDについては0.43〜0.50、DVDについては0.58〜0.68の範囲で適宜選択可能である。
なおIRは不要光をカットするための絞りである。
また対物レンズOBLには平行光が入射しているが、コリメートせずに、有限発散光が入射するような構成であってもよい。
本発明の熱可塑性樹脂組成物を用いることにより、従来ガラスでのみ実現できた長時間の使用が実現できるようになった上、さらにアクチュエータ等による駆動に必要なトルクが、ガラスレンズに比べ大幅に軽減できることが明らかである。
【実施例】
【0120】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また実施例および比較例において、各性状の測定および物性測定方法は以下の方法で実施した。
【0121】
[溶融流れ指数(MFR)]
ASTM D1238に準じ、温度260℃、荷重2.16kgで測定。

[軟化温度(TMA)]
デュポン社製 Thermal Mechanical Analyzerを用いて、厚さ1mmのシートの熱変形挙動により測定した。シート上に石英製針を載せて荷重49gをかけ、速度5℃/分で昇温させ、針がシートに0.635mm侵入した温度をTMAとした。
【0122】
[ガラス転移温度(Tg)]
SEIKO電子工業(株)製DSC−20を用いて窒素中、温度10℃/分の昇温条件で温度250℃まで昇温させた後、一旦サンプルを急冷し、その後に昇温速度10℃/分で測定。

[ヘイズ(HAZE)]
シリンダー温度260℃、金型温度125℃に設定された射出成形機(東芝機械(株)製IS−50)により、窒素気流下での射出成形により3mm厚の平板を成形し、ASTM D1003に基づいて測定した。
【0123】
[波長400nmにおける分光光線透過率(T400)]
3mm厚の角板を射出成形により成形し、光線透過率分光光線度計を用いて、波長400nmにおける光線透過率を測定した。

[レーザー照射後の外観評価]
定格30mW、405nmのレーザー(日亜化学製NDHV310ACA)を用い、コリメータレンズによりビーム形状を断面形状短径1.5mm、長径3.0mmの楕円となる平行光に調整し、射出成形により得られた厚さ3mmの平板に直角に照射する光学系をそれぞれ組み、23℃、常圧下で500時間の照射を行った。 照射中、500時間毎に2000時間まで、照射部中心部を中心とした3mm径の円内の外観を目視にて評価した。
【0124】
[環境試験(Δヘイズ)]
上記ヘイズ測定の後、角板を温度80℃、相対湿度90%の雰囲気下に48時間放置した。再びヘイズ(Haze)を測定し、試験前に比較しての増分をΔヘイズとした。

[青紫色レーザ信頼性評価]
シリンダー温度260℃、金型温度125℃に設定された射出成形機(東芝機械(株)製IS−50)により、射出成形された45mmφ×3mm(厚さ)の光学面を持つテストピースを用い、レーザーダイオード(ネオアーク社製TC4030S−F405ASU)を用いて405±10nm、200mW/cmの青紫色レーザ光を60℃の恒温槽に載置したテストピースの中心に1000時間照射した。照射前、および照射250時間毎にテストピースの中心3mm角部の波面RMS値を測定し、経時変化を評価した。RMS値の測定はレーザ干渉計(ザイゴ社製PTI 250RS(直線偏光仕様)を使用した。また、実体顕微鏡によりテストピース照射部位を観察し、白濁および異物付着の有無を確認した。結果は次の記号で表記した。
○:RMS値変化無し。
△:RMS値変化率が0.01λ未満で観測された。
×:RMS値が0.01λ以上変化している。または、測定不能となった。
▽:白濁が顕著に観察された。
□:異物の付着が見られた。
【0125】
[灰付着試験(アッシュテスト)]
シリンダー温度260℃、金型温度125℃に設定された射出成形機(東芝機械(株)製IS−50)により、窒素気流下での射出成形により45mmφ、3mm厚のテストピースを成形し、これを温度23℃、50%RHの条件下で24時間以上放置した。この試験片の405nm分光光線透過率を測定した後、綿布で往復20回強く摩擦し、この試験片を素早く、温度60℃で2時間乾燥したタバコの灰の上、20mmの位置に持っていき、付着した灰の量を目視で観察した。次に灰が付着したまま405nm分光光線透過率を測定し、灰付着試験前の405nm分光光線透過率からの変化(ΔT405)を計算した。
【0126】
(重合体の合成)
チーグラー触媒を用いて、エチレン・テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]−3−ドデセン共重合体を重合した。各物性値は表1の通りである。
【0127】
【表1】

(ヒンダードアミン系光安定剤)
ヒンダードアミン系光安定剤として、次のものを用いた。
[B−1]:分子量が481のビス(2,2’,6,6’−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、チバガイギー社製、商品名TINUVIN 770。
[B−2]:分子量が2000〜3100のポリ[6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル][(2,2,6,6−テトラメチル-4- ピペリジル)イミノ]ヘキサメチレン[(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ],チバガイギー社製、商品名CHIMASSORB 944。
【0128】
[実施例1および2、比較例1〜6]
合成例1〜3の重合体に対して、化合物[B−1]、[B−2]および化合物[C]として、フェノール系安定剤(テトラキス[メチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン)を表2に示される割合で添加して、重合体の酸化を防ぐため窒素気流下で30mmφの単軸押出機を用いて溶融混合しペレットとした。
次いで得られたペレットを120℃窒素下で16時間乾燥させた後、これを原料として、窒素気流下での射出成形により3mm厚の平板を成形して光学物性を評価した。結果を表2に示す。
【0129】
【表2】

レーザー照射による外観評価で、実施例1および2では、いずれも2000時間照射前後で変化が見られなかったのに対し、比較例1〜3では僅かな白濁を生じ、比較例4および比較例6では白濁が観測された。
【0130】
[実施例3〜9、比較例7〜9]
合成例2で得られた重合体に対して、化合物[B−1]、化合物[B−2]、以下のリン系安定剤および親水性安定剤を表3に示す割合で添加して、窒素気流下で44mmφの二軸押出機を用いて溶融混合しペレットとした。
次いで、シリンダー温度260℃、金型温度125℃に設定された射出成形機(東芝機械(株)製IS−50)により、窒素気流下での射出成形により3mm厚の平板を作成し、環境試験におけるΔヘイズを測定した。
また、青紫色レーザ信頼性評価を目的として、45mmφ×3mm(厚さ)の光学面を持つ試験片を作成し、レーザーダイオード(ネオアーク社製TC4030S−F405ASU)を用いて405±10nm、200mW/cmの青紫色レーザ光を60℃の恒温槽に載置したテストピースの中心に1000時間照射した。照射前、および照射250時間毎にテストピースの中心3mm角部の波面RMS値を測定し、経時変化を評価した。
結果を表3に示す。
【0131】
(リン系安定剤)
リン系安定剤−1:トリス[2−[[2,4,8,10−テトラ−t−ブチルジベンゾ[d,f][1,3,2]ジオキサフォスフェフィン−6−イル]オキシ]エチル]アミン。
リン系安定剤−2:6−〔3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロポキシ〕−2,4,8,10−テトラキス−t−ブチルジベンゾ〔d,f〕〔1.3.2〕ジオキサフォスフェピン。
【0132】
(親水性安定剤)
親水性安定剤−1:3,7,11,15−テトラメチル−1,2,3−トリヒドロキシヘキサデカン。
親水性安定剤−2:1,5−ソルビタンモノステアレートと1,4−ソルビタンモノステアレートの混合物。
【0133】
【表3】

【0134】
また、実施例4および5、並びに比較例7および9については、さらに、灰付着試験(アッシュテスト)を実施した。結果を表4に示す。
【0135】
【表4】

上記の結果から、本発明の熱可塑性樹脂組成物を用いると、レーザ照射における様々な不具合を改善できることが分かる。また、好ましい態様として挙げられたリン系安定剤使用の熱可塑性樹脂組成物により照射時の白濁を低減できることも明らかである。また、好ましい態様として挙げられた親水性安定剤使用の熱可塑性樹脂組成物により、レーザ照射時の不具合を起こすことなく環境信頼性の向上が可能であることが分かる。さらに、本発明の熱可塑性樹脂組成物を用いることにより、光学素子の表面への異物の付着量を減らすことができ、光線の透過が妨げられない。

【産業上の利用可能性】
【0136】
本発明の熱可塑性組成物は、優れた光学性能を持ち、且つ紫外に近い領域のレーザ光で用いても劣化を起こし難く、使用に際して光学性能の変化が極めて少なく、高い光線透過率を維持することが可能であり、光学素子として好適に使用可能である。
さらに、本発明の熱可塑性組成物を成形して得られる光学素子の表面には異物が付着し難いことから光線の透過が妨げられず、光ピックアップ装置等に好適に使用可能することができる。
【図面の簡単な説明】
【0137】
【図1】本発明に関わる光ピックアップ装置の一例を示す概略構成図である。
【符号の説明】
【0138】
LD1 第1光源
LD2 第2光源、第3光源
S1 センサー
S2 センサー
SL1 センサーレンズ
SL2 センサーレンズ
DP 回折板
BS1 ビームスプリッタ
BS2 ビームスプリッタ
BS3 ビームスプリッタ
CL コリメータ
IR 絞り
OBL 対物光学素子
D1 光ディスク(「高密度な光ディスク」)
D2 光ディスク(DVD)
D3 光ディスク(CD)
BE ビームエキスパンダー
BSL ビームシェイパー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で表わされる重合体[A−1]並びに、化合物[B−1]および化合物[B−2]を含む熱可塑性樹脂組成物であって、該重合体[A−1]100質量部に対して、化合物[B−1]および[B−2]を合計量で0.3〜5質量部含み、その質量比[B−1]/[B−2]が1/10〜10/1である、熱可塑性樹脂組成物。
【化1】


ここで、式(1)中、xおよびyは共重合比を示し、0/100 ≦y/x≦ 95/5を満たす実数であり、nは置換基Qの置換数を示し、0≦n≦2の整数であり、Rは炭素原子数2〜20の炭化水素基から選ばれる少なくとも1種以上の2+n価の基であり、Rは水素原子または炭素原子数1〜10の炭化水素基から選ばれる少なくとも1種以上の1価の基であり、Rは炭素原子数2〜10の炭化水素基から選ばれる少なくとも1種以上の2価の基であり、QはCOORで表される構造から選ばれる少なくとも1種以上の2価の基であり、Rは水素原子または炭素原子数1〜10の炭化水素基から選ばれる少なくとも1種以上の1価の基である。
また化合物[B−1]は分子量が400以上1000未満のヒンダードアミン系光安定剤、化合物[B−2]は分子量が1000以上5000以下のヒンダードアミン系光安定剤である。
【請求項2】
繰り返し構造単位の少なくとも一部に脂環式構造を含む重合体[A−2]並びに、化合物[B−1]および化合物[B−2]を含む熱可塑性樹脂組成物であって、該重合体[A−2]100質量部に対して、化合物[B−1]および[B−2]を合計量で0.3〜5質量部含み、その質量比[B−1]/[B−2]が1/10〜10/1である、熱可塑性樹脂組成物。
ここで化合物[B−1]は分子量が400以上1000未満のヒンダードアミン系光安定剤、化合物[B−2]は分子量が1000以上5000以下のヒンダードアミン系光安定剤である。
【請求項3】
化合物[B−1]が一般式(2)で表される構造である、請求項1または請求項2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【化2】


ここで、式(2)中、Wは水素原子またはメチル基を示し、Rは炭素原子数4〜16の炭化水素基を示し、zは1または2である。
【請求項4】
重合体[A−1]または重合体[A−2]100質量部に対し、リン系安定剤を0.01〜1質量部含む、請求項1〜請求項3に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
重合体[A−1]または重合体[A−2]100質量部に対し、親水性安定剤を0.05〜5質量部含む、請求項1〜請求項4に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜請求項5に記載の熱可塑性樹脂組成物を成形して得られる成形体。
【請求項7】
請求項1〜請求項5に記載の熱可塑性樹脂組成物を成形して得られる光学素子。
【請求項8】
請求項1〜請求項5に記載の熱可塑性樹脂組成物を成形して得られる、波長350〜450nmのレーザ光学系用の光学部品として用いられる光学素子。
【請求項9】
光路差付与構造を有する、請求項7または請求項8に記載の光学素子。
【請求項10】
光学素子が光ピックアップ装置に用いられる、請求項7〜請求項9に記載の光学素子。
【請求項11】
波長が異なる複数の光源を用いるとともに、基板厚の異なる複数種の光情報記録媒体に対して情報の記録または再生が可能である光ピックアップ装置に用いられる、請求項10に記載の光学素子。
【請求項12】
光源の波長の少なくとも一つが390〜420nmである光ピックアップ装置に用いられる、請求項10または請求項11に記載の光学素子。
【請求項13】
光学素子の少なくとも一部がアクチュエータに保持されて可動可能である、請求項7〜請求項12に記載の光学素子。
【請求項14】
請求項10〜請求項13に記載の光学素子を用いる、光ピックアップ装置。


【図1】
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【公開番号】特開2006−45545(P2006−45545A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−194057(P2005−194057)
【出願日】平成17年7月1日(2005.7.1)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】