説明

樹脂組成物およびそれを用いた成形体

【課題】剛性が高いうえに反り性が小さく、耐熱性、耐衝撃性、成形性にも優れた環境配慮型の熱可塑性の樹脂組成物を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂(A)30〜95質量%と、繊維断面の長径/短径が1.5〜10であるガラス繊維(B)5〜70質量%とを含有する。熱可塑性樹脂(A)の一部または全部が、ポリアミド11樹脂(A1a)または/およびポリアミド1010樹脂(A1b)である。熱可塑性樹脂(A)とガラス繊維(B)との合計100質量部に対して、ポリアミド11樹脂(A1a)または/およびポリアミド1010樹脂(A1b)を10質量部以上含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は樹脂組成物およびそれを用いた成形体に関し、特に環境配慮型の熱可塑性の樹脂組成物およびそれを用いた成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ノート型パソコン、携帯電話機、OA機器等の電子機器用筐体などの成形材料として、熱可塑性樹脂であるポリカーボネート(PC)樹脂やアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)樹脂が用いられている。これらの樹脂は、衝撃的な荷重が加わったときに容易に塑性変形を起こして衝撃エネルギを吸収するため、電子機器筐体の破壊が起こりにくい。
【0003】
近年、上記のような電子機器製品は、薄肉化、小型化、軽量化の要求が強くなってきている。このため、製品筐体の成形材料に、高い衝撃強度だけでなく、製品軽量化のための低比重性、荷重負荷時のたわみ量を低減するための高剛性、さらに成形品の低反り性が不可欠とされている。従来より用いられている筐体の成形材料は、一般に耐衝撃性が高いと薄肉成形性が劣るなど、求められる性能を満足するものがない。
【0004】
そこで、前記の問題を克服した、薄肉の携帯機器の筐体のための成形材料として、ポリアミド樹脂と変性ポリフェニレンエーテル樹脂とを含有する樹脂組成物に、液晶ポリマーと相溶化剤と無機充填材とを配合した樹脂組成物が開示されている(特許文献1)。しかしながら、耐衝撃性、低反り性が不十分である。また、芳香族ポリアミドと、非晶性ポリアミドと、ポリアミド6とを混合した母材に、繊維状補強材を混合することにより、剛性、靭性、寸法安定性を改良する試みがなされている(特許文献2)。しかしながら、実使用に耐えうるまでの剛性、靭性を付与するには至っておらず、成形品の低反り性についての検討もされていない。
【0005】
一方、近年、環境保全の見地から、ポリ乳酸樹脂やポリアミド11樹脂やポリアミド1010樹脂などの植物由来の熱可塑性樹脂が注目されている。
【0006】
すなわち、ポリ乳酸樹脂は、トウモロコシやサツマイモ等の植物を原料として製造することが可能で、石油等の枯渇資源の節約に貢献できる。そして、ポリ乳酸樹脂は、結晶性高分子であり、他の生分解性樹脂と比較して融点が高く、耐熱性も高い。またポリ乳酸樹脂は、大量生産可能なためコストも安く、有用性が高い。
【0007】
しかし、ポリ乳酸樹脂は、結晶化速度が遅いため成形サイクルが長いだけでなく、得られる成形体の機械的強度、耐衝撃性、柔軟性、耐久性に劣るという欠点がある。そこで、この様な問題点を解決するために、例えば、ポリ乳酸樹脂にそれよりも性能が優れる他の石油系の生分解性樹脂や加水分解防止剤を配合し、成形体の耐熱性、耐衝撃性、耐久性を改良する研究がなされている(特許文献3、4)。しかしながら、このような樹脂組成物も、成形サイクルが長く、耐久性、耐衝撃性、柔軟性、耐熱性すべての面で不十分である。
【0008】
一方、ポリアミド11樹脂やポリアミド1010樹脂は、ポリ乳酸樹脂と比べて柔軟性や耐久性などに優れ、各種の産業分野でホース、チューブなどの用途に使用されている。ポリアミド11樹脂やポリアミド1010樹脂も、植物由来原料から製造され、環境への配慮の点で好ましい。しかし、価格が高いため、広い用途には普及しにくく、自動車関係でも、必要に応じた限られた範囲のみに用いられている。自動車関係の一般成形品としては、低価格性などからポリプロピレン樹脂を初めとする汎用樹脂が広く用いられている。また、ポリアミド11樹脂やポリアミド1010樹脂は、植物由来ではあるが、製造工程における二酸化炭素の発生量は低くはなく、ポリオレフィン等の汎用樹脂と比較して、同等あるいはそれ以上である。このことも、広範囲な普及を図るうえで問題である。
【特許文献1】特開平6−240132号公報
【特許文献2】特開2004−168849号公報
【特許文献3】特開2002−309074号公報
【特許文献4】特開2006−321988号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、前記問題を解決し、剛性が高いうえに反り性が小さく、耐熱性、耐衝撃性、成形性にも優れた環境配慮型の熱可塑性の樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、ポリアミド11樹脂または/およびポリアミド1010樹脂と、扁平断面を有するガラス繊維とを含有する樹脂組成物によって前記課題が解決されることを見出し、本発明に到達した。
【0011】
すなわち本発明の要旨は、下記の通りである。
(1)熱可塑性樹脂(A)30〜95質量%と、繊維断面の長径/短径が1.5〜10であるガラス繊維(B)5〜70質量%とを含有し、熱可塑性樹脂(A)の一部または全部がポリアミド11樹脂(A1a)または/およびポリアミド1010樹脂(A1b)であり、熱可塑性樹脂(A)とガラス繊維(B)との合計100質量部に対してポリアミド11樹脂(A1a)または/およびポリアミド1010樹脂(A1b)を10質量部以上含有することを特徴とする樹脂組成物。
【0012】
(2)熱可塑性樹脂(A)の一部がポリ乳酸樹脂(A2)であり、その含有量が、熱可塑性樹脂(A)とガラス繊維(B)との合計100質量部に対して5〜40質量部であることを特徴とする(1)の樹脂組成物。
【0013】
(3)ポリ乳酸樹脂(A2)が、過酸化物および/または(メタ)アクリル酸エステル化合物によって架橋されていることを特徴とする(2)の樹脂組成物。
【0014】
(4)熱可塑性樹脂(A)の一部が変性ポリオレフィン樹脂(A3)であり、その含有量が、熱可塑性樹脂(A)とガラス繊維(B)との合計100質量部に対して5〜85質量部であることを特徴とする(1)から(3)までのいずれかの樹脂組成物。
【0015】
(5)変性ポリオレフィン樹脂(A3)が、変性エチレンおよび/またはプロピレンとαオレフィンとの共重合体であることを特徴とする(4)の樹脂組成物。
【0016】
(6)熱可塑性樹脂(A)とガラス繊維(B)との合計100質量部に対して、層状珪酸塩(C)を0.1〜45質量部含有することを特徴とする(1)から(5)までのいずれかの樹脂組成物。
【0017】
(7)熱可塑性樹脂(A)とガラス繊維(B)との合計100質量部に対して、植物由来充填材(D)を5〜200質量部含有することを特徴とする(1)から(6)までのいずれかの樹脂組成物。
【0018】
(8)植物由来充填材(D)が、ジュート繊維、ケナフ繊維、竹繊維、麻繊維、バガス繊維から選ばれる1種以上であることを特徴とする(7)の樹脂組成物。
【0019】
(9)上記(1)から(8)までのいずれかの樹脂組成物を成形したものであることを特徴とする成形体。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、植物由来比率が高い熱可塑性の樹脂組成物で、成形性、耐熱性、耐衝撃性に優れ、かつ、高剛性を有する熱可塑性の樹脂組成物を提供することができる。この樹脂組成物を電気製品の部品などに用いることで、低環境負荷材料であるポリアミド11樹脂または/およびポリアミド1010樹脂の使用範囲を大きく広げることができ、産業上の利用価値はきわめて高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の樹脂組成物は、熱可塑性樹脂(A)30〜95質量%と、ガラス繊維(B)5〜70質量%とを含有する樹脂組成物であり、熱可塑性樹脂(A)の一部または全部がポリアミド11樹脂(A1a)または/およびポリアミド1010樹脂(A1b)であることが必要である。
【0022】
本発明において、ポリアミド11樹脂(A1a)としては、天然ひまし油中のリシノール酸を原料とし、11−アミノウンデカン酸を重縮合したものが挙げられる。その製造方法は特に制限されず、公知の方法に従ってポリアミド11樹脂(A1a)を製造することができる。製造の際に、各種の触媒、熱安定剤等の添加剤を使用してもよい。ポリアミド11樹脂(A1a)の市販品としては、例えば、アルケマ社製「リルサン BMN O」が挙げられる。
【0023】
本発明におけるポリアミド1010樹脂(A1b)は、天然ひまし油を原料とし、セバシン酸とデカンジアミンとを縮重合したものが挙げられる。その製造方法は特に限定されず、この樹脂は、公知の方法にしたがって製造することができる。製造の際には、各種の触媒、熱安定剤等の添加剤を使用してもよい。ポリアミド1010樹脂(A1b)は、環境負荷を考慮すると、ASTM(D6866)に準拠して測定したバイオマス炭素含有率が50%以上であることが好ましい。
【0024】
ポリアミド11樹脂(A1a)とポリアミド1010樹脂(A1b)とは、個別に用いることができるとともに、場合によっては併用することもできる。
【0025】
本発明の樹脂組成物において、ポリアミド11樹脂(A1a)または/およびポリアミド1010樹脂(A1b)の含有量は、熱可塑性樹脂(A)とガラス繊維(B)との合計100質量部に対して、10質量部以上であることが必要である。含有量が10質量部未満では、その優れた機械的性質を充分に生かすことが出来ない場合があり、また、植物由来比率も不十分である。
【0026】
本発明の樹脂組成物は、ガラス繊維(B)を含有することが必要である。ガラス繊維(B)は、その繊維断面の長径/短径が1.5〜10である扁平断面を有することが必要であり、長径/短径が2.0〜6.0であることが好ましい。長径/短径が1.5未満では断面を扁平形状にした効果が少なく、10を超えるものはガラス繊維自体の製造が困難である。
【0027】
ガラス繊維(B)は、繊維断面の長径が10〜50μmであることが好ましく、15〜40μmであることがさらに好ましく、20〜35μmであることがよりいっそう好ましい。
【0028】
ガラス繊維(B)の平均繊維長と平均繊維径との比(アスペクト比)は、2〜120であることが好ましく、2.5〜70であることがさらに好ましく、3〜50であることがよりいっそう好ましい。アスペクト比が2未満であると機械的強度の向上効果が小さく、反対に120を超えると、異方性が大きくなる他、成形品外観も悪化するようになる。なお、ガラス繊維の平均繊維径とは、扁平断面形状を同一面積の真円形に換算したときの数平均繊維径をいう。
【0029】
本発明において、ガラス繊維(B)としては、Eガラスのような一般的なガラス組成の繊維が用いられるが、ガラス繊維にできるものであればどのような組成でも使用可能で、特に限定されるものではない。
【0030】
ガラス繊維(B)は、公知のガラス繊維の製造方法により製造される。またガラス繊維(B)は、マトリックス樹脂との密着性、均一分散性の向上のために、シランカップリング剤、チタン系カップリング剤、ジルコニア系カップリング剤などのカップリング剤を少なくとも1種類含むことができる。また、帯電防止剤や、皮膜形成剤などを含むこともできる。ガラス繊維(B)は、配合する樹脂に適した公知の集束剤により集束されて、集束されたガラス繊維ストランドを集めて一定の長さに切断したチョップドストランドの形態で使用される。
【0031】
本発明の樹脂組成物において、ガラス繊維(B)の含有量は5〜70質量%であることが必要であり、25〜65質量%であることが好ましく、30〜60質量%であることがより好ましい。ガラス繊維(B)の含有量が5質量%未満の場合は、反りが大きくなる。またこの含有量が70質量%を超えると、成形体の外観が悪化する上に、樹脂組成物の製造が困難になる。
【0032】
本発明の樹脂組成物において、熱可塑性樹脂(A)は、その全部がポリアミド11樹脂(A1a)または/およびポリアミド1010樹脂(A1b)であってもよいが、その一部にポリ乳酸樹脂(A2)を含有していてもよい。ポリ乳酸樹脂(A2)を含有することにより、成形時のひけを低減させて、寸法精度を改善することができる。また、ポリ乳酸樹脂(A2)は、トウモロコシなど種々の植物を原料とするものを用いることが出来、その場合は寸法精度改善に加え、植物由来度を高く保つことができる。
【0033】
ポリ乳酸樹脂(A2)としては、耐熱性、成形性の面からポリ(L−乳酸)、ポリ(D−乳酸)、およびこれらの混合物または共重合体を用いることができる。
【0034】
樹脂組成物におけるポリ乳酸樹脂(A2)の含有量は、熱可塑性樹脂(A)とガラス繊維(B)との合計100質量部に対して5〜40質量部であることが好ましい。ポリ乳酸樹脂(A2)の含有量が5質量部未満では、成形時のひけを低減させて寸法精度を改善することができない。含有量が40質量部を超えると、耐衝撃性が低下しやすくなる。
【0035】
さらに、ポリ乳酸樹脂(A2)としては、過酸化物および/または(メタ)アクリル酸エステル化合物によって架橋されることにより架橋構造を有したポリ乳酸樹脂を用いることが好ましい。これにより、成形時の結晶化度を向上させて、成形体の耐熱性を改善することができる。
【0036】
本発明の樹脂組成物において、熱可塑性樹脂(A)は、上述のようにその全部がポリアミド11樹脂(A1a)または/およびポリアミド1010樹脂(A1b)であってもよいが、その一部として変性ポリオレフィン樹脂(A3)を含有していてもよい。変性ポリオレフィン樹脂(A3)を含有することにより、成形体の耐衝撃性を向上させることができる。
【0037】
変性ポリオレフィン樹脂(A3)としては、市販のものを含め、各種の変性ポリオレフィン樹脂を用いることが出来る。変性ポリオレフィン樹脂(A3)の具体例としては、変性エチレンおよび/またはプロピレンとαオレフィンとの共重合体や、エチレン成分および/またはプロピレン成分を主たる構成成分とするオレフィンと、α,β−不飽和カルボン酸もしくはその誘導体との共重合物や、エチレン成分および/またはプロピレン成分を主たる構成成分とするオレフィンの重合物にα,β−不飽和カルボン酸もしくはその誘導体をグラフトさせたグラフト重合物などが挙げられる。ここで、α,β−不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、ナジック酸(エンドシス−ビシクロ〔2,2〕ヘプト−5−エン−2,3−ジカルボン酸)等が挙げられる。その誘導体としては、酸ハライド、エステル、アミド、イミド、無水物等が挙げられ、例えば、塩化マレニル、マレイミド、アクリル酸アミド、メタクリル酸アミド、グリシジルメタクリレート、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸ジメチル、グリシジルマレエート等が挙げられる。これらは1種単独でも2種以上を組み合わせても用いられる。これらの中でも、無水マレイン酸が、反応性が高いため、強度および外観の良好な成形品を得ることができる点で好ましい。
【0038】
そのうち、耐衝撃性効果の大きさから、変性エチレンおよび/またはプロピレンとαオレフィンとの共重合体が好ましい。その市販品としては、三井化学社製「タフマー」(変性エチレン・αオレフィン共重合体などの一連の商品)が挙げられる。
【0039】
樹脂組成物における変性ポリオレフィン樹脂(A3)の含有量は、熱可塑性樹脂(A)とガラス繊維(B)との合計100質量部に対して、5〜85質量部であることが好ましい。含有量が5質量部未満では、充分な効果が得られない場合があり、85質量部を超えて配合した場合は、耐熱性に劣る場合がある。
【0040】
本発明において、熱可塑性樹脂(A)として、ポリアミド11樹脂(A1a)または/およびポリアミド1010樹脂(A1b)のほかの熱可塑性樹脂としては、上記ポリ乳酸樹脂(A2)や変性ポリオレフィン樹脂(A3)以外の熱可塑性樹脂も使用することができる。その場合は、環境保全の見地から、脂肪族生分解ポリエステル樹脂を使用することが好ましい。
【0041】
そのような脂肪族生分解ポリエステル樹脂としては、特に限定されず、オキシ酸の重合体でもよいし、グリコールと脂肪酸ジカルボン酸を主成分とするポリエステルでもよく、これらの混合物あるいは共重合体であってもよい。オキシ酸成分としては、グリコール酸、ε−カプロラクトン等が挙げられる。グリコールとしては、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、デカメチレングリコール、ネオペンチルグリコールなどが挙げられ、脂肪族ジカルボン酸としては、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン二酸ならびにこれらの無水物などが挙げられる。さらに上記オキシ酸、グリコール、脂肪酸ジカルボン酸は任意の組み合わせで用いることができるが、中でも、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンアジペート等が好ましく、ポリブチレンサクシネートがより好ましい。
【0042】
本発明の樹脂組成物は、層状珪酸塩(C)を含有していてもよい。層状珪酸塩(C)を含有することにより、成形時のバリの発生を低減させることができる。
【0043】
層状珪酸塩(C)としては、モンモリロナイト、層状フッ素雲母(合成雲母)、タルク、マイカ、クレイなど種々のものを用いることが出来る。そのうち、寸法安定性などの点から、モンモリロナイトおよび/または層状フッ素雲母(合成雲母)を用いることが好ましい。
【0044】
層状珪酸塩(C)は、ポリアミド11樹脂(A1a)または/およびポリアミド1010樹脂(A1b)の重合時に添加することが最適であるが、それが困難である場合は、混練前に、層状珪酸塩(C)を第4アンモニウム塩あるいはホスホニウム塩で化学修飾しておくことが好ましい。
【0045】
層状珪酸塩(C)の含有量は、熱可塑性樹脂(A)とガラス繊維(B)との合計100質量部に対して、0.1〜45質量部であることが好ましい。含有量が0.1質量部未満では、充分な効果を得ることが出来ない場合があり、45質量部を超えて配合した場合は、混練/成形時の流動性不良などの悪影響を及ぼす場合がある。
【0046】
本発明の樹脂組成物は、植物由来充填材(D)を含有していてもよい。植物由来充填材(D)を含有することにより、植物由来度を高く保ち、かつ成形品の耐熱性を改善することができる。
【0047】
植物由来充填材(D)としては、あらゆる植物由来のものを用いることが出来る。形態としては、繊維状、粉末状など、あらゆる形態のものを用いることが出来る。繊維状のものとしては、具体的には、例えば、ジュート繊維、ケナフ繊維、竹繊維、麻繊維、バガス繊維などを挙げることが出来、粉末状のものとしては、具体的には、例えば、木粉、竹粉、紙粉、一般セルロース粉などを挙げることが出来る。
【0048】
植物由来充填材(D)は、脱リグニン処理されているものを用いることが好ましい。脱リグニン処理されていないもの用いた場合は、外観、あるいは、耐久性の点で、悪影響を及ぼす場合がある。脱リグニン処理は、公知の方法を適宜用いればよいが、水酸化ナトリウム溶液または水酸化カリウム溶液等の強アルカリ溶液による方法、水酸化ナトリウムと硫化ナトリウムを用いて加熱する方法、酸性条件下で、モリブデン酸塩と過酸化水素によって処理する方法などが挙げられる。なお、脱リグニン処理に加えてさらに漂白を施すことでリグニンの発色を抑えることができる。
【0049】
植物由来充填材(D)の含有量は、熱可塑性樹脂(A)とガラス繊維(B)との合計100質量部に対して、5〜200質量部であることが好ましい。含有量が5質量部未満では、充分な耐熱性改善効果が得られない場合があり、また、植物由来比率に関しても不充分である。200質量部を超えて配合した場合は、耐衝撃性を低下させる場合がある。
【0050】
ポリアミド11樹脂(A1a)または/およびポリアミド1010樹脂(A1b)などの熱可塑性樹脂(A)と、扁平断面を有するガラス繊維(B)とに、さらに、層状珪酸塩(C)や植物由来充填材(D)を混合する手段は、特に限定されないが、一軸あるいは二軸の押出機を用いて溶融混練する方法を挙げることができる。混練状態をよくする意味で二軸の押出機を使用することが好ましい。混練温度は(ポリアミド11樹脂(A1a)または/およびポリアミド1010樹脂(A1b)の融点+5℃)〜(ポリアミド11樹脂(A1a)または/およびポリアミド1010樹脂(A1b)の融点+100℃)の範囲が、また、混練時間は20秒〜30分が好ましい。この範囲より低温や短時間であると混練や反応が不充分となる場合があり、逆に、高温や長時間であると樹脂の分解や着色が起きる場合がある。また、難燃性と形状安定性を両立させるためには、ガラス繊維(B)以外の原料を十分に溶融混合した後に、ガラス繊維(B)を所定量サイドフィードし、減圧脱気することが好ましい。
【0051】
本発明の樹脂組成物には、その特性を大きく損なわない限りにおいて、難燃剤、顔料、熱安定剤、酸化防止剤、耐候剤、可塑剤、滑剤、離型剤、帯電防止剤等を添加することができる。難燃剤としては、特に限定されないが、例えば、リン系難燃剤や水酸化金属などが挙げられる。熱安定剤や酸化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール類、ヒンダードアミン、イオウ化合物、銅化合物、アルカリ金属のハロゲン化物などが例示される。なお、本発明の熱可塑性樹脂組成物にこれらを混合する方法は特に限定されない。
【0052】
本発明の樹脂組成物は、射出成形、ブロー成形、押出成形、インフレーション成形、および、シート加工後の真空成形、圧空成形、真空圧空成形等の成形方法により、各種成形体とすることができる。とりわけ、射出成形法を採ることが好ましく、一般的な射出成形法のほか、ガス射出成形、射出プレス成形等も採用できる。本発明の樹脂組成物に適した射出成形条件の一例を挙げれば、シリンダ温度を樹脂組成物の融点または流動開始温度以上、好ましくは190〜270℃とし、また、金型温度は(樹脂組成物の融点−20℃)以下とするのが適当である。成形温度が低すぎると、成形体にショートが発生するなど操業性が不安定になったり、過負荷に陥りやすくなる。逆に、成形温度が高すぎると樹脂組成物が分解し、得られる成形体の強度が低下したり、着色する等の問題が発生しやすくなる。
【0053】
成形体の具体例としては、各種筐体等の電化製品用樹脂部品;コンテナや栽培容器等の農業資材や農業機械用樹脂部品;浮きや水産加工品容器等の水産業務用樹脂部品;皿、コップ、スプーン等の食器や食品容器;注射器や点滴容器等の医療用樹脂部品;ドレーン材、フェンス、収納箱、工事用配電盤等の住宅・土木・建築材用樹脂部品;クーラーボックス、団扇、玩具等のレジャー、雑貨用樹脂部品;バンパー、インスツルメントパネル、ドアトリム等の自動車用樹脂部品等が挙げられる。また、フィルム、シート、パイプ等の押出成形品、中空成形品等とすることもできる。
【実施例】
【0054】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。なお、下記の実施例ならびに比較例で使用した材料および評価方法は、次の通りである。
【0055】
(1)材料
[熱可塑性樹脂(A)]
・ポリアミド11樹脂(A1a): アルケマ社製 リルサンBMN O
・ポリアミド1010樹脂(A1b): セバシン酸(豊国製油社製)100質量部を熱メタノールに撹拌しながら溶かした。またデカメチレンジアミン(小倉合成工業社製)85質量部をメタノールに溶かし、これを先のセバシン酸メタノール溶液にゆっくり加えた。これをすべて加えた後、15分間程度撹拌し、析出物をろ過し、かつメタノール洗浄することにより、デカメチレンジアンモニウムセバケートを得た。
【0056】
このデカメチレンジアンモニウムセバケート100質量部と水33質量部とをオートクレーブに仕込み、窒素置換後、設定温度240℃、25rpmで撹拌しながら、加熱を開始した。このオートクレーブ内を2MPaの圧力で2時間保持した後、水蒸気を排気して圧力を常圧まで下げた。続いて、常圧〜0.02MPaで2〜3時間撹拌した後、1時間静置し、その後に払い出した。そして減圧乾燥することで、ポリアミド1010を得た。
【0057】
・ポリアミド66樹脂: ユニチカ社製 A142
・ポリ乳酸樹脂(A2): ユニチカ社製 テラマックTE−4000
・架橋ポリ乳酸樹脂(A2′): 二軸押出機(東芝機械社製TEM37BS型)を用い、ポリ乳酸樹脂(A2)100質量部を押出機の根元供給口から供給し、バレル温度180℃、スクリュー回転数280rpm、吐出量15kg/hの条件で、ベントを効かせながら押出しを実施した。さらに、エチレングリコールジメタクリレート0.10質量部、および、過酸化物であるパーブチルD(日本油脂社製)0.2質量部をシリンダ内に供給した。押出機先端から吐出された樹脂をペレット状にカッティングして樹脂組成物のペレットを得た。得られたペレットを70℃×24時間真空乾燥して、架橋ポリ乳酸樹脂(A2′)を得た。
【0058】
・変性ポリオレフィン(A3a): 二軸押出機(東芝機械社製 TEM37BS型)を用い、ポリエチレン90質量部、無水マレイン酸10質量部を押出機の根元供給口から供給し、バレル温度180℃、スクリュー回転数280rpm、吐出量15kg/hの条件で、ベントを効かせながら押出しを実施した。さらに、パーブチルD 0.2質量部をシリンダ内に供給した。押出機先端から吐出された樹脂をペレット状にカッティングして樹脂組成物のペレットを得た。得られたペレットを70℃×24時間真空乾燥して、変性ポリオレフィン(A3a)を得た。
【0059】
・変性ポリオレフィン(A3b): 三井化学社製 変性エチレン・αオレフィン共重合体 タフマーTX1250
【0060】
[ガラス繊維(B)]
・扁平断面ガラス繊維(B1): 日東紡績社製 CSG3PA820S(長径28μm、短径7μm、長短径の比が4.0の、偏平断面を有する偏平ガラス繊維)
・円形断面ガラス繊維(B2): 日東紡績社製 CS3J−451 (直径10μm、長さ3mmの円形断面を有するガラス繊維)
【0061】
[層状珪酸塩(C)]
・層状珪酸塩(C): ホージュン社製 エスベンW(層間イオンがジメチルジオクタルデシルアンモニウムイオンで置換されたモンモリロナイト)
【0062】
[植物由来充填材(D)]
・ケナフ繊維(D1): 5mm程度の一定長に切断したケナフをターボミル(マツボー社製 T−250)にて粉砕し、ほぐして、直径20〜50μm、繊維長1〜5mmとした。
【0063】
・ケナフ繊維(D2): ケナフ繊維(D1)を水酸化ナトリウム溶液を用いて加圧・加熱処理することによりリグニンを除去した。
【0064】
(2)評価方法
(A)曲げ弾性率: ASTM D790に準拠して測定した。曲げ弾性率は2.0GPa以上であることが好ましい。
【0065】
(B)荷重たわみ温度: ASTM D648に準拠し、荷重0.45MPaで熱変形するときの温度を測定した。荷重たわみ温度は、耐熱性の指標となるものであり、110℃以上であることが好ましい。
【0066】
(C)アイゾット衝撃値: ASTM D256−56に準拠して測定した。アイゾット衝撃値は100J/m以上であることが好ましい。
【0067】
(D)反り量: 水平盤にテストピースを静置させ以下の4点を測定した。テストピースは、1.6mm厚、100mmφの円板を使用した。反り量は0.3mm以下であることが好ましい。
【0068】
基準点の反り量a,b: 水平盤に接地している2点での反り量
反り点の反り量c,d: 反りが大きい2点での反り量
反り量計算式: 反り量(mm)=(c+d)/2−(a+b)/2
【0069】
(E)ひけ量: 4×6インチ(101.6×152.4mm)×10mm厚のプレートを成形し、ひけが生じている箇所の深さを測定し、その平均値を求めた。
【0070】
(F)バリ長さ: 金型温度を85℃に設定し、保圧100MPaで成形品のゲートが完全に冷却固化されるまで保持し、成形品を得た。得られた成形品に発生したバリの最大長さを測定してバリ長さを求めた。
【0071】
(G)色調: 日本電色工業社製 Σ90 color measuring system を用いて、C/2光源、反射にて樹脂組成物ペレットのL値を測定した。L値は明度を示す。L値は30以上であることが好ましい。
【0072】
実施例1〜20、比較例2〜7
二軸押出機(池貝社製 PCM30型)を用い、熱可塑性樹脂(A)、層状珪酸塩(C)、植物由来充填材(D)を表1、2に示した割合でドライブレンドして押出機の根元供給口から供給し、さらにガラス繊維(B)を押出機のサイド供給口から表1、2に示した割合で供給して、バレル温度240℃、スクリュー回転数230rpm、吐出量5kg/hの条件で、ベントを効かせながら押出しを実施した。押出機先端から吐出された樹脂をペレット状にカッティングして、樹脂組成物のペレットを得た。
【0073】
得られたペレットを90℃×24時間真空乾燥したのち、東芝機械社製 IS−80G型射出成形機を用いて、金型表面温度を85℃に調整しながら、一般物性測定用試験片(ASTM型)を作製し、各種測定に供した。別途、上述のひけ量測定用のプレートを同様に成形し、冷却後にひけの深さを測定した。
【0074】
測定結果を表1、表2に示す。
【0075】
比較例1
表2に示すように、熱可塑性樹脂(A)としてのポリアミド11樹脂ペレットのみを使用し、東芝機械社製 IS−80G型射出成形機を用いて、金型表面温度を85℃に調整しながら、一般物性測定用試験片(ASTM型)を作製し、各種測定に供した。別途、上述のひけ測定用のプレートを同様に成形し、冷却後にひけの深さを測定した。
【0076】
測定結果を表2に示す。
【0077】
【表1】

【0078】
【表2】

【0079】
表1および表2から明らかなように、実施例1〜20においては、植物由来原料の比率が高く、低反り性および剛性に優れた樹脂組成物が得られた。
【0080】
実施例5〜8では、ポリ乳酸樹脂(A2)(A2′)を配合したため、ひけの度合いが小さく、また、寸法精度の高い成形品が得られた。とりわけ、実施例6は、ポリ乳酸樹脂(A2)として架橋ポリ乳酸樹脂(A2′)を用いたことにより、非架橋ポリ乳酸樹脂(A2)を用いた実施例5に比較して耐熱性に優れた成形体が得られた。実施例7は、他の実施例と同様に低反り性は十分満足できるレベルであったが、架橋ポリ乳酸樹脂(A2′)の配合量が少なかったため、ひけ低減の効果は、ポリ乳酸樹脂を配合しなかった実施例1と同程度であった。実施例8は、架橋ポリ乳酸樹脂(A2′)の配合量が多かったため、ひけの度合いは小さくきわめて良好であったが、他の実施例と比べて耐衝撃性が低いレベルであった。
【0081】
実施例9〜12、17〜19は、変性ポリオレフィン樹脂(A3a)(A3b)を配合したため、耐衝撃性に著しく優れた成形品が得られた。特に、その中で、実施例10、12、17〜19は、変性エチレン・αオレフィン共重合体にて構成された変性ポリオレフィン樹脂(A3b)を十分な量で用いたことにより、耐衝撃性の特に優れた成形品が得られた。実施例11は、他の実施例と同様に低反り性は満足できるレベルであったが、変性ポリオレフィン樹脂(A3b)の配合量が少なかったため、耐衝撃性の効果は、変性ポリオレフィン樹脂を配合しなかった実施例1と同程度であった。
【0082】
実施例13〜16は、植物由来充填材(D)としてケナフ繊維を配合したため、耐熱性に優れた成形品が得られた。さらに脱リグニン処理を施していないケナフ繊維(D1)を用いた実施例13と比較して、実施例14〜16は、脱リグニン処理を施したケナフ繊維(D2)を用いたため、成形品外観においてより鮮やかで優れた結果が得られた。
【0083】
実施例17〜19は、層状計算塩(C)を所定量配合したものであったため、成形時のバリの発生を抑えることができるものであった。
【0084】
実施例20は、熱可塑性樹脂としてポリアミド1010樹脂(A1b)を用いたものであったが、上述の実施例3などと同様の結果が得られた。
【0085】
これらの結果より、ポリアミド11樹脂または/およびポリアミド1010樹脂に扁平断面を有するガラス繊維、ポリ乳酸樹脂、変性ポリオレフィン樹脂、層状珪酸塩およびケナフ繊維を特定量加えることで、植物由来度が高く、高剛性、耐衝撃性、および、耐熱性が高く、低反り性、低ひけ性の樹脂組成物が得られることがわかった。
【0086】
これら実施例に対し、比較例1は、ポリアミド11樹脂単体を用いただけのものであったため、経済的に著しく不利であった。比較例2は、熱可塑性樹脂として石油由来のポリアミド66樹脂のみを用いたものであったため、また比較例3および4はポリアミド11樹脂(A1a)およびポリアミド1010樹脂(A1b)の配合量が少なく、その分だけ石油由来のポリアミド66樹脂の配合量が多かったため、環境面での配慮がなされていなかった。比較例2〜6は、使用したポリアミド樹脂及びガラス繊維の種類、またそれらの配合量が適切でないために、反りが大きかった。比較例7は、ガラス繊維の配合量が多すぎたため、加工操業性が悪かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂(A)30〜95質量%と、繊維断面の長径/短径が1.5〜10であるガラス繊維(B)5〜70質量%とを含有し、熱可塑性樹脂(A)の一部または全部がポリアミド11樹脂(A1a)または/およびポリアミド1010樹脂(A1b)であり、熱可塑性樹脂(A)とガラス繊維(B)との合計100質量部に対してポリアミド11樹脂(A1a)または/およびポリアミド1010樹脂(A1b)を10質量部以上含有することを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
熱可塑性樹脂(A)の一部がポリ乳酸樹脂(A2)であり、その含有量が、熱可塑性樹脂(A)とガラス繊維(B)との合計100質量部に対して5〜40質量部であることを特徴とする請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項3】
ポリ乳酸樹脂(A2)が、過酸化物および/または(メタ)アクリル酸エステル化合物によって架橋されていることを特徴とする請求項2記載の樹脂組成物。
【請求項4】
熱可塑性樹脂(A)の一部が変性ポリオレフィン樹脂(A3)であり、その含有量が、熱可塑性樹脂(A)とガラス繊維(B)との合計100質量部に対して5〜85質量部であることを特徴とする請求項1から3までのいずれか1項記載の樹脂組成物。
【請求項5】
変性ポリオレフィン樹脂(A3)が、変性エチレンおよび/またはプロピレンとαオレフィンとの共重合体であることを特徴とする請求項4記載の樹脂組成物。
【請求項6】
熱可塑性樹脂(A)とガラス繊維(B)との合計100質量部に対して、層状珪酸塩(C)を0.1〜45質量部含有することを特徴とする請求項1から5までのいずれか1項記載の樹脂組成物。
【請求項7】
熱可塑性樹脂(A)とガラス繊維(B)との合計100質量部に対して、植物由来充填材(D)を5〜200質量部含有することを特徴とする請求項1から6までのいずれか1項記載の樹脂組成物。
【請求項8】
植物由来充填材(D)が、ジュート繊維、ケナフ繊維、竹繊維、麻繊維、バガス繊維から選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項7記載の樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1から8までのいずれか1項に記載の樹脂組成物を成形したものであることを特徴とする成形体。

【公開番号】特開2009−79215(P2009−79215A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−222972(P2008−222972)
【出願日】平成20年9月1日(2008.9.1)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】