説明

樹脂組成物およびフィルム

【課題】偏光板保護フィルムや位相差フィルム等の光学フィルムに適したフィルムを与えることのできる樹脂組成物およびこれよりなるフィルムを提供すること。
【解決手段】脂肪族ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、カルボジイミド基を1個有しその第一窒素と第二窒素とが結合基により結合されている環状構造を少なくとも含む化合物とを含む樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光板保護フィルムや位相差フィルム等の光学フィルムに適したフィルムを与えることのできる樹脂組成物およびこれよりなるフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境保全の見地から、自然環境下で分解される生分解性ポリマーが注目されており、様々な生分解性ポリマーが開発されている。なかでも、ポリ乳酸は、透明性が良好で、溶融成形可能であり、バイオマスを原料とし微生物を利用した発酵法により、経済的に製造できるようになり光学材料としての利用が期待されている。
【0003】
また最近、例えばディスプレイ市場の拡大に伴い、画像をより鮮明に見たいという要求が高まっており、単なる透明性に加え、より高度な光学特性が付与された材料が求められている。
【0004】
一般にポリマーは分子主鎖方向とそれに垂直な方向とで屈折率が異なるため複屈折を生じる。用途によっては、複屈折を厳密にコントロールすることが求められており、液晶の偏光板に用いられる偏光板保護フィルムの場合は、複屈折が小さいことが求められる。
【0005】
偏光板保護フィルムとして、これまでトリアセチルセルロース(TAC)フィルムが多く用いられて来た。近年、大型液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ等の各種ディスプレイが普及するのに伴い、必要なフィルムも大型化し、複屈折の変動の分布を小さくする必要性が大きくなって来た。このため外力による複屈折の変化が小さく、加熱時の寸法安定性が良好で、熱応力による複屈折の変化が小さい材料が求められている。即ち、光弾性係数が低く、熱収縮率が低い光学材料が求められている。
【0006】
光弾性係数の低い光学材料としては、前述のTACやメタクリル酸メチルの単独重合体(PMMA)が知られている。また、アモルファスポリオレフィン(APO)が知られている(非特許文献1)。しかしながら、これらの材料では、まだ外力による複屈折変化が大きいか、あるいは極性等が低すぎる問題がある。
【0007】
この問題を解決するため、脂肪族ポリエステルとアクリル系樹脂とよりなる材料が提案されている。この材料よりなるフィルムの光弾性係数は−13×10−12/Paを超え12×10−12/Pa未満程度である(特許文献1参照)。
【0008】
しかしながら、脂肪族ポリエステルは、高温多湿の雰囲気下での使用時に加水分解を起こしやすいという問題が知られており、このような環境下で用いる場合には、何等かの手段で耐加水分解性を向上させる必要がある。
【0009】
この、脂肪族ポリエステルの耐加水分解性を向上させるための技術として、カルボジイミド化合物を添加することが提案されている(特許文献2)。
【0010】
この提案において用いられているカルボジイミド化合物は、線状のカルボジイミド化合物であるが、この線上カルボジイミド化合物を高分子化合物の末端封止剤として用いると、カルボジイミド化合物が高分子化合物の末端に結合する反応に伴い、イソシアネート基を有する化合物が遊離し、イソシアネート化合物の独特の臭いを発生し、作業環境を悪化させることが問題となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2006−227090号公報
【特許文献2】特開2003−003052号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】化学総説、No.39、1998(学会出版センター発行)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、上記従来技術が有していた問題点を解消し、作業環境を悪化させることがなく、耐加水分解性が改善され、光学用途に適したフィルムを与えることのできる樹脂組成物およびこれよりなるフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、本発明を完成した。即ち、本発明の目的は、
脂肪族ポリエステル系樹脂(A成分)、アクリル系樹脂(B成分)、カルボジイミド基を1個有しその第一窒素と第二窒素とが結合基により結合されている環状構造を少なくとも含む化合物(C成分)とを含む樹脂組成物により達成される。
また、本発明の他の目的は、上記組成物よりなるフィルムによって達成することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、作業環境を悪化させることがなく、耐加水分解性が改善され、光学用途に適したフィルムを与えることのできる樹脂組成物およびこれよりなるフィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
<C成分>
まず、本発明において特徴的な成分である、カルボジイミド基を1個有しその第一窒素と第二窒素とが結合基により結合されている環状構造を少なくとも含む化合物(C成分)について説明する。C成分は環状構造を有する(以下、C成分を環状カルボジイミド化合物と略記することがある。)。環状カルボジイミド化合物は、環状構造を複数有していてもよい。
【0017】
ここで環状構造は、カルボジイミド基(−N=C=N−)を1個有しその第一窒素と第二窒素とが結合基により結合されて形成している。一つの環状構造中には、1個のカルボジイミド基のみを有する。環状構造中の原子数は、好ましくは8〜50、より好ましくは10〜30、さらに好ましくは10〜20、特に、10〜15が好ましい。
【0018】
ここで、環状構造中の原子数とは、環状構造を直接構成する原子の数を意味し、例えば、8員環であれば8、50員環であれば50である。環状構造中の原子数が8より小さいと、環状カルボジイミド化合物の安定性が低下して、保管、使用が困難となる場合があるためである。また反応性の観点よりは環員数の上限値に関しては特別の制限はないが、50を超える原子数の環状カルボジイミド化合物は合成上困難となり、コストが大きく上昇する場合が発生するためである。かかる観点より環状構造中の原子数は好ましくは、10〜30、より好ましくは10〜20、特に好ましくは10〜15の範囲が選択される。
【0019】
環状構造は、下記式(1)で表される構造であることが好ましい。
【化1】

【0020】
式中、Qは、それぞれヘテロ原子ならびに置換基を含んでいてもよい、脂肪族基、脂環族基、芳香族基またはこれらの組み合わせである2〜4価の結合基である。ヘテロ原子とはこの場合、O、N、S、Pを指す。この結合基の価のうち2つの価は環状構造を形成するために使用される。Qが3価あるいは4価の結合基である場合、単結合、二重結合、原子、原子団を介して、ポリマーあるいは他の環状構造と結合している。
【0021】
結合基は、それぞれヘテロ原子ならびに置換基を含んでいてもよい、2〜4価の炭素数1〜20の脂肪族基、2〜4価の炭素数3〜20の脂環族基、2〜4価の炭素数5〜15の芳香族基またはこれらの組み合わせであり、上記で規定される環状構造を形成するための必要炭素数を有する結合基が選択される。組み合わせの例としては、アルキレン基とアリーレン基が結合した、アルキレン−アリーレン基のような構造などが挙げられる。
【0022】
結合基(Q)は、下記式(1−1)、(1−2)または(1−3)で表される2〜4価の結合基であることが好ましい。
【化2】

【0023】
式中、ArおよびArは各々独立に、それぞれヘテロ原子ならびに置換基を含んでいてもよい、2〜4価の炭素数5〜15の芳香族基である。
【0024】
芳香族基として、それぞれへテロ原子を含んで複素環構造を持っていてもよい、炭素数5〜15のアリーレン基、炭素数5〜15のアレーントリイル基、炭素数5〜15のアレーンテトライル基が挙げられる。アリーレン基(2価)として、フェニレン基、ナフタレンジイル基などが挙げられる。アレーントリイル基(3価)として、ベンゼントリイル基、ナフタレントリイル基などが挙げられる。アレーンテトライル基(4価)として、ベンゼンテトライル基、ナフタレンテトライル基などが挙げられる。これらの芳香族基は置換されていても良い。置換基として、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜15のアリール基、ハロゲン原子、ニトロ基、アミド基、ヒドロキシル基、エステル基、エーテル基、アルデヒド基などが挙げられる。
【0025】
およびRは各々独立に、それぞれヘテロ原子ならびに置換基を含んでいてもよい、2〜4価の炭素数1〜20の脂肪族基、2〜4価の炭素数3〜20の脂環族基、およびこれらの組み合わせ、またはこれら脂肪族基、脂環族基と2〜4価の炭素数5〜15の芳香族基の組み合わせである。
【0026】
脂肪族基として、炭素数1〜20のアルキレン基、炭素数1〜20のアルカントリイル基、炭素数1〜20のアルカンテトライル基などが挙げられる。アルキレン基として、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、へプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基、ドデシレン基、へキサデシレン基などが挙げられる。アルカントリイル基として、メタントリイル基、エタントリイル基、プロパントリイル基、ブタントリイル基、ペンタントリイル基、ヘキサントリイル基、ヘプタントリイル基、オクタントリイル基、ノナントリイル基、デカントリイル基、ドデカントリイル基、ヘキサデカントリイル基などが挙げられる。アルカンテトライル基として、メタンテトライル基、エタンテトライル基、プロパンテトライル基、ブタンテトライル基、ペンタンテトライル基、ヘキサンテトライル基、ヘプタンテトライル基、オクタンテトライル基、ノナンテトライル基、デカンテトライル基、ドデカンテトライル基、ヘキサデカンテトライル基などが挙げられる。これらの脂肪族基は置換されていても良い。置換基として、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜15のアリール基、ハロゲン原子、ニトロ基、アミド基、ヒドロキシル基、エステル基、エーテル基、アルデヒド基などが挙げられる。
【0027】
脂環族基として、炭素数3〜20のシクロアルキレン基、炭素数3〜20のシクロアルカントリイル基、炭素数3〜20のシクロアルカンテトライル基が挙げられる。シクロアルキレン基として、シクロプロピレン基、シクロブチレン基、シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基、シクロへプチレン基、シクロオクチレン基、シクロノニレン基、シクロデシレン基、シクロドデシレン基、シクロへキサデシレン基などが挙げられる。アルカントリイル基として、シクロプロパントリイル基、シクロブタントリイル基、シクロペンタントリイル基、シクロヘキサントリイル基、シクロヘプタントリイル基、シクロオクタントリイル基、シクロノナントリイル基、シクロデカントリイル基、シクロドデカントリイル基、シクロヘキサデカントリイル基などが挙げられる。アルカンテトライル基として、シクロプロパンテトライル基、シクロブタンテトライル基、シクロペンタンテトライル基、シクロヘキサンテトライル基、シクロヘプタンテトライル基、シクロオクタンテトライル基、シクロノナンテトライル基、シクロデカンテトライル基、シクロドデカンテトライル基、シクロヘキサデカンテトライル基などが挙げられる。これらの脂環族基は置換されていても良い。置換基として、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜15のアリール基、ハロゲン原子、ニトロ基、アミド基、ヒドロキシル基、エステル基、エーテル基、アルデヒド基などが挙げられる。
【0028】
芳香族基として、それぞれへテロ原子を含んで複素環構造を持っていてもよい、炭素数5〜15のアリーレン基、炭素数5〜15のアレーントリイル基、炭素数5〜15のアレーンテトライル基が挙げられる。アリーレン基として、フェニレン基、ナフタレンジイル基などが挙げられる。アレーントリイル基(3価)として、ベンゼントリイル基、ナフタレントリイル基などが挙げられる。アレーンテトライル基(4価)として、ベンゼンテトライル基、ナフタレンテトライル基などが挙げられる。これら芳香族基は置換されていても良い。置換基として、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜15のアリール基、ハロゲン原子、ニトロ基、アミド基、ヒドロキシル基、エステル基、エーテル基、アルデヒド基などが挙げられる。
【0029】
上記式(1−1)、(1−2)においてXおよびXは各々独立に、それぞれヘテロ原子ならびに置換基を含んでいてもよい、2〜4価の炭素数1〜20の脂肪族基、2〜4価の炭素数3〜20の脂環族基、2〜4価の炭素数5〜15の芳香族基、またはこれらの組み合わせである。
【0030】
脂肪族基として、炭素数1〜20のアルキレン基、炭素数1〜20のアルカントリイル基、炭素数1〜20のアルカンテトライル基などが挙げられる。アルキレン基として、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、へプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基、ドデシレン基、へキサデシレン基などが挙げられる。アルカントリイル基として、メタントリイル基、エタントリイル基、プロパントリイル基、ブタントリイル基、ペンタントリイル基、ヘキサントリイル基、ヘプタントリイル基、オクタントリイル基、ノナントリイル基、デカントリイル基、ドデカントリイル基、ヘキサデカントリイル基などが挙げられる。アルカンテトライル基として、メタンテトライル基、エタンテトライル基、プロパンテトライル基、ブタンテトライル基、ペンタンテトライル基、ヘキサンテトライル基、ヘプタンテトライル基、オクタンテトライル基、ノナンテトライル基、デカンテトライル基、ドデカンテトライル基、ヘキサデカンテトライル基などが挙げられる。これらの脂肪族基は置換されていても良い。置換基として、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜15のアリール基、ハロゲン原子、ニトロ基、アミド基、ヒドロキシル基、エステル基、エーテル基、アルデヒド基などが挙げられる。
【0031】
脂環族基として、炭素数3〜20のシクロアルキレン基、炭素数3〜20のシクロアルカントリイル基、炭素数3〜20のシクロアルカンテトライル基が挙げられる。シクロアルキレン基として、シクロプロピレン基、シクロブチレン基、シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基、シクロへプチレン基、シクロオクチレン基、シクロノニレン基、シクロデシレン基、シクロドデシレン基、シクロへキサデシレン基などが挙げられる。アルカントリイル基として、シクロプロパントリイル基、シクロブタントリイル基、シクロペンタントリイル基、シクロヘキサントリイル基、シクロヘプタントリイル基、シクロオクタントリイル基、シクロノナントリイル基、シクロデカントリイル基、シクロドデカントリイル基、シクロヘキサデカントリイル基などが挙げられる。アルカンテトライル基として、シクロプロパンテトライル基、シクロブタンテトライル基、シクロペンタンテトライル基、シクロヘキサンテトライル基、シクロヘプタンテトライル基、シクロオクタンテトライル基、シクロノナンテトライル基、シクロデカンテトライル基、シクロドデカンテトライル基、シクロヘキサデカンテトライル基などが挙げられる。これらの脂環族基は置換されていても良い。置換基として、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜15のアリール基、ハロゲン原子、ニトロ基、アミド基、ヒドロキシル基、エステル基、エーテル基、アルデヒド基などが挙げられる。
【0032】
芳香族基として、それぞれへテロ原子を含んで複素環構造を持っていてもよい、炭素数5〜15のアリーレン基、炭素数5〜15のアレーントリイル基、炭素数5〜15のアレーンテトライル基が挙げられる。アリーレン基として、フェニレン基、ナフタレンジイル基などが挙げられる。アレーントリイル基(3価)として、ベンゼントリイル基、ナフタレントリイル基などが挙げられる。アレーンテトライル基(4価)として、ベンゼンテトライル基、ナフタレンテトライル基などが挙げられる。これらの芳香族基は置換されていても良い。置換基として、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜15のアリール基、ハロゲン原子、ニトロ基、アミド基、ヒドロキシル基、エステル基、エーテル基、アルデヒド基などが挙げられる。
【0033】
上記式(1−1)、(1−2)においてs、kは0〜10の整数、好ましくは0〜3の整数、より好ましくは0〜1の整数である。s及びkが10を超えると、環状カルボジイミド化合物は合成上困難となり、コストが大きく上昇する場合が発生するためである。かかる観点より整数は好ましくは0〜3の範囲が選択される。なお、sまたはkが2以上であるとき、繰り返し単位としてのX、あるいはXが、他のX、あるいはXと異なっていてもよい。
【0034】
上記式(1−3)においてXは、それぞれヘテロ原子ならびに置換基を含んでいてもよい、2〜4価の炭素数1〜20の脂肪族基、2〜4価の炭素数3〜20の脂環族基、2〜4価の炭素数5〜15の芳香族基、またはこれらの組み合わせである。
【0035】
脂肪族基として、炭素数1〜20のアルキレン基、炭素数1〜20のアルカントリイル基、炭素数1〜20のアルカンテトライル基などが挙げられる。アルキレン基として、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、へプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基、ドデシレン基、へキサデシレン基などが挙げられる。アルカントリイル基として、メタントリイル基、エタントリイル基、プロパントリイル基、ブタントリイル基、ペンタントリイル基、ヘキサントリイル基、ヘプタントリイル基、オクタントリイル基、ノナントリイル基、デカントリイル基、ドデカントリイル基、ヘキサデカントリイル基などが挙げられる。アルカンテトライル基として、メタンテトライル基、エタンテトライル基、プロパンテトライル基、ブタンテトライル基、ペンタンテトライル基、ヘキサンテトライル基、ヘプタンテトライル基、オクタンテトライル基、ノナンテトライル基、デカンテトライル基、ドデカンテトライル基、ヘキサデカンテトライル基などが挙げられる。これら脂肪族基は置換基を含んでいてもよく、置換基として、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜15のアリール基、ハロゲン原子、ニトロ基、アミド基、ヒドロキシル基、エステル基、エーテル基、アルデヒド基などが挙げられる。
【0036】
脂環族基として、炭素数3〜20のシクロアルキレン基、炭素数3〜20のシクロアルカントリイル基、炭素数3〜20のシクロアルカンテトライル基が挙げられる。シクロアルキレン基として、シクロプロピレン基、シクロブチレン基、シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基、シクロへプチレン基、シクロオクチレン基、シクロノニレン基、シクロデシレン基、シクロドデシレン基、シクロへキサデシレン基などが挙げられる。アルカントリイル基として、シクロプロパントリイル基、シクロブタントリイル基、シクロペンタントリイル基、シクロヘキサントリイル基、シクロヘプタントリイル基、シクロオクタントリイル基、シクロノナントリイル基、シクロデカントリイル基、シクロドデカントリイル基、シクロヘキサデカントリイル基などが挙げられる。アルカンテトライル基として、シクロプロパンテトライル基、シクロブタンテトライル基、シクロペンタンテトライル基、シクロヘキサンテトライル基、シクロヘプタンテトライル基、シクロオクタンテトライル基、シクロノナンテトライル基、シクロデカンテトライル基、シクロドデカンテトライル基、シクロヘキサデカンテトライル基などが挙げられる。これら脂環族基は置換基を含んでいてもよく、置換基として、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜15のアリーレン基、ハロゲン原子、ニトロ基、アミド基、ヒドロキシル基、エステル基、エーテル基、アルデヒド基などが挙げられる。
【0037】
芳香族基として、それぞれへテロ原子を含んで複素環構造を持っていてもよい、炭素数5〜15のアリーレン基、炭素数5〜15のアレーントリイル基、炭素数5〜15のアレーンテトライル基が挙げられる。アリーレン基として、フェニレン基、ナフタレンジイル基などが挙げられる。アレーントリイル基(3価)として、ベンゼントリイル基、ナフタレントリイル基などが挙げられる。アレーンテトライル基(4価)として、ベンゼンテトライル基、ナフタレンテトライル基などが挙げられる。これらの芳香族基は置換されていても良い。置換基として、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜15のアリール基、ハロゲン原子、ニトロ基、アミド基、ヒドロキシル基、エステル基、エーテル基、アルデヒド基などが挙げられる。
【0038】
また、Ar、Ar、R、R、X、XおよびXはヘテロ原子を含有していてもよい、また、Qが2価の結合基であるときは、Ar、Ar、R、R、X、XおよびXは全て2価の基である。Qが3価の結合基であるときは、Ar、Ar、R、R、X、XおよびXの内の一つが3価の基である。Qが4価の結合基であるときは、Ar、Ar、R、R、X、XおよびXの内の一つが4価の基であるか、二つが3価の基である。
【0039】
本発明で用いる環状カルボジイミド化合物として、以下(a)〜(c)で表される化合物が挙げられる。
<環状カルボジイミド化合物(a)>
本発明で用いる環状カルボジイミド化合物として下記式(2)で表される化合物(以下、「環状カルボジイミド化合物(a)」ということがある。)を挙げることができる。
【0040】
【化3】

【0041】
式中、Qは、脂肪族基、脂環族基、芳香族基またはこれらの組み合わせである2価の結合基であり、ヘテロ原子を含有していてもよい。脂肪族基、脂環族基、芳香族基は、式(1)で説明したものと同じである。但し、式(2)の化合物においては、脂肪族基、脂環族基、芳香族基は全て2価である。Qは、下記式(2−1)、(2−2)または(2−3)で表される2価の結合基であることが好ましい。
【0042】
【化4】

【0043】
式中、Ar、Ar、R、R、X、X、X、sおよびkは、各々式(1−1)〜(1−3)中のAr、Ar、R、R、X、X、X、sおよびkと同じである。但し、これらは全て2価である。
【0044】
かかる環状カルボジイミド化合物(a)としては、以下の化合物が挙げられる。
【0045】
【化5】

【0046】
【化6】

【0047】
【化7】

【0048】
【化8】

【0049】
【化9】

【0050】
【化10】

【0051】
【化11】

【0052】
【化12】

【0053】
【化13】

【0054】
【化14】

【0055】
【化15】

【0056】
【化16】

【0057】
【化17】

【0058】
【化18】

【0059】
<環状カルボジイミド化合物(b)>
さらに、本発明で用いる環状カルボジイミド化合物として下記式(3)で表される化合物(以下、「環状カルボジイミド化合物(b)」ということがある。)を挙げることができる。
【0060】
【化19】

【0061】
式中、Qは、脂肪族基、脂環族基、芳香族基、またはこれらの組み合わせである3価の結合基であり、ヘテロ原子を含有していてもよい。Yは、環状構造を担持する担体である。Qにおける脂肪族基、脂環族基、芳香族基は、式(1)で説明したものと同じである。但し、式(3)の化合物においては、Qを構成する基の内一つは3価である。
は、下記式(3−1)、(3−2)または(3−3)で表される3価の結合基であることが好ましい。
【0062】
【化20】

【0063】
式中、Ar、Ar、R、R、X、X、X、sおよびkは、各々式(1−1)〜(1−3)のAr、Ar、R、R、X、X、X、sおよびkと同じである。但しこれらの内の一つは3価の基である。
【0064】
Yは、単結合、二重結合、原子、原子団またはポリマーであることが好ましい。Yは結合部であり、複数の環状構造がYを介して結合し、式(3)で表される構造を形成している。
【0065】
かかる環状カルボジイミド化合物(b)としては、下記化合物が挙げられる。
【0066】
【化21】

【0067】
【化22】

【0068】
【化23】

【0069】
【化24】

【0070】
<環状カルボジイミド化合物(c)>
本発明で用いる環状カルボジイミド化合物として下記式(4)で表される化合物(以下、「環状カルボジイミド化合物(c)」ということがある。)を挙げることができる。
【0071】
【化25】

【0072】
式中、Qは、脂肪族基、脂環族基、芳香族基またはこれらの組み合わせである4価の結合基であり、ヘテロ原子を保有していてもよい。ZおよびZは、環状構造を担持する担体である。ZおよびZは、互いに結合して環状構造を形成していてもよい。
【0073】
における脂肪族基、脂環族基、芳香族基は、式(1)で説明したものと同じである。但し、式(4)の化合物において、Qは4価である。従って、これらの基の内の一つが4価の基であるか、二つが3価の基である。
【0074】
は、下記式(4−1)、(4−2)または(4−3)で表される4価の結合基であることが好ましい。
【0075】
【化26】

【0076】
Ar、Ar、R、R、X、X、X、sおよびkは、各々式(1−1)〜(1−3)の、Ar、Ar、R、R、X、X、X、sおよびkと同じである。但し、Ar、Ar、R、R、X、XおよびXは、これらの内の一つが4価の基であるか、二つが3価の基である。ZおよびZは各々独立に、単結合、二重結合、原子、原子団またはポリマーであることが好ましい。ZおよびZは結合部であり、複数の環状構造がZおよびZを介して結合し、式(4)で表される構造を形成している。
【0077】
かかる環状カルボジイミド化合物(c)としては、下記化合物を挙げることができる。
【化27】

【0078】
【化28】

【0079】
【化29】

【0080】
本発明において、環状カルボジイミド化合物の製造方法は特に限定無く、従来公知の方法により製造することができる。例として、アミン体からイソシアネート体を経由して製造する方法、アミン体からイソチオシアネート体を経由して製造する方法、アミン体からトリフェニルホスフィン体を経由して製造する方法、アミン体から尿素体を経由して製造する方法、アミン体からチオ尿素体を経由して製造する方法、カルボン酸体からイソシアネート体を経由して製造する方法、ラクタム体を誘導して製造する方法などが挙げられる。
【0081】
また、本発明の環状カルボジイミド化合物は、以下の文献に記載された方法を組み合わせ、あるいは目的とする化合物に応じて適切に改変、組み合わせすることにより製造することができる。
【0082】
Tetrahedron Letters,Vol.34,No.32,515−5158,1993.
Medium−and Large−Membered Rings from Bis(iminophosphoranes):An Efficient Preparation of Cyclic Carbodiimides, Pedro Molina etal.
Journal of Organic Chemistry,Vol.61,No.13,4289−4299,1996.
New Models for the Study of the Racemization Mechanism of Carbodiimides.Synthesis and Structure(X−ray Crystallography and 1H NMR) of Cyclic Carbodiimides, Pedro Molina etal.
Journal of Organic Chemistry,Vol.43,No8,1944−1946,1978.
Macrocyclic Ureas as Masked Isocyanates, Henri Ulrich etal.
Journal of Organic Chemistry,Vol.48,No.10,1694−1700,1983.
Synthesis and Reactions of Cyclic Carbodiimides,R.Richteretal.
Journal of Organic Chemistry,Vol.59,No.24,7306−7315,1994.
A New and Efficient Preparation of Cyclic Carbodiimides from Bis(iminophosphoranea)and the System Boc2O/DMAP,Pedro Molina etal.
【0083】
製造する化合物に応じて、適切な製法を採用すればよいが、例えば、(1)下記式(a−1)で表されるニトロフェノール類、下記式(a−2)で表されるニトロフェノール類および下記式(b)で表される化合物を反応させ、下記式(c)で表されるニトロ体を得る工程、
【0084】
【化30】

【0085】
【化31】

【0086】
(2)得られたニトロ体を還元して下記式(d)で表わされるアミン体を得る工程、
【化32】

(3)得られたアミン体とトリフェニルホスフィンジブロミドを反応させ下記式(e)で表されるトリフェニルホスフィン体を得る工程、および
【0087】
【化33】

(4)得られたトリフェニルホスフィン体を反応系中でイソシアネート化した後、直接脱炭酸させることによって製造したものは、本願発明に用いる環状カルボジイミド化合物として好適に用いることができる。
(上記式中、ArおよびArは各々独立に、炭素数1〜6のアルキル基またはフェニル基で置換されていてもよい芳香族基である。EおよびEは各々独立に、ハロゲン原子、トルエンスルホニルオキシ基およびメタンスルホニルオキシ基、ベンゼンスルホニルオキシ基、p−ブロモベンゼンスルホニルオキシ基からなる群から選ばれる基である。Arは、フェニル基である。Xは、下記式(i−1)から(i−3)の結合基である。)
【0088】
【化34】

(式中、nは1〜6の整数である。)
【0089】
【化35】

(式中、mおよびnは各々独立に0〜3の整数である。)
【0090】
【化36】

(式中、RおよびRは各々独立に、炭素数1〜6のアルキル基、フェニル基を表す。)
【0091】
なお、環状カルボジイミド化合物は、高分子化合物の酸性基を有効に封止することができるが、本発明の主旨に反しない範囲において、所望により、例えば、従来公知のポリマーのカルボキシル基封止剤を併用することができる。かかる従来公知のカルボキシル基封止剤としては、特開2005−2174号公報記載の剤、例えば、エポキシ化合物、オキサゾリン化合物、オキサジン化合物、などが例示される。
【0092】
<脂肪族ポリエステル系樹脂(A成分)>
本発明において、脂肪族ポリエステル系樹脂(A成分)としては、脂肪族ヒドロキシカルボン酸を主たる構成成分とする重合体、脂肪族多価カルボン酸またはそのエステル形成性誘導体と脂肪族多価アルコールを主成分として重縮合してなる重合体やそれらの共重合体が例示される。
【0093】
脂肪族ヒドロキシカルボン酸を主たる構成成分とする重合体としては、グリコール酸、乳酸、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸などの重縮合体、もしくは共重合体などを例示することができ、なかでもポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリ3−ヒドロキシカルボン酪酸、ポリ4−ポリヒドロキシ酪酸、ポリ3−ヒドロキシヘキサン酸またはポリカプロラクトン、ならびにこれらの共重合体などが挙げられ特にポリL−乳酸、ポリD−乳酸および、ステレオコンプレックス結晶を形成しているステレオコンプレックスポリ乳酸、ラセミポリ乳酸に好適に用いることができる。
【0094】
ポリ乳酸としては、L−乳酸及び/又はD−乳酸を主たる繰り返し単位とするものを用いればよいが、とくに融点が150℃以上であるものであることが好ましい(ここで、主たるとは、全体の50%以上を該成分が占めていることを意味する。)。融点が150℃よりも低い場合には、フィルムの寸法安定性、高温機械特性等を高いものとすることができない。
【0095】
ポリL一乳酸およびポリD−乳酸は、従来公知の方法で製造することができる。例えば、L−またはD−ラクチドを金属含有触媒の存在下加熱し、開環重合により製造することができる。また、金属含有触媒を含有する低分子量のポリ乳酸を結晶化させた後、減圧下または加圧化、不活性ガス気流下の存在下、あるいは非存在下、加熱.固相重合させ製造することもできる。さらに、有機溶媒の存在/非存在下で、乳酸を脱水縮合させる直接重合法で製造することができる。
【0096】
重合反応は、従来公知の反応容器で実施可能であり、例えばヘリカルリボン翼等、高粘度用撹拝翼を備えた縦型反応器あるいは横型反応器を単独、または並列して使用することができる。また、回分式あるいは連続式あるいは半回分式のいずれでも良いし、これらを組み合わせてもよい。
【0097】
重合開始剤としてアルコールを用いてもよい。かかるアルコールとしては、ポリ乳酸の重合を阻害せず不揮発性であることが好ましく、例えばデカノール、ドデカノール、テトラデカノール、ヘキサデカノール、オクタデカノール等を好適に用いることができる。
【0098】
固相重合法では、前述した開環重合法や乳酸の直接重合法によって得られた比較的低分子量(おおよそ15〜200程度)のポリ乳酸をプレポリマーとして使用する。プレポリマーは、そのガラス転移温度以上融点未満の温度範囲で予め結晶化させることが、樹脂ペレット融着防止の面から好ましい。結晶化させたプレポリマーは固定された縦型あるいは横型反応容器、またはタンブラーやキルンの様に容器自身が回転する反応容器(ロータリーキルン等)中に充填され、プレポリマーのガラス転移温度以上融点未満の温度範囲に加熱される。重合温度は、重合の進行に伴い段階的に昇湿させても何ら問題はない。また、固相重合中に生成する水を効率的に除去する目的で前記反応容器類の内部を減圧することや、加熱された不活性ガス気流を流通する方法も好適に併用される。
【0099】
ポリ乳酸の重合時に使用された金属含有触媒は、使用に先立ち従来公知の失活剤で不活性化しておくことが、ポリ乳酸および樹脂組成物の熱、水分に対する安定性を向上できるため好ましい。
かかる失活剤としてはイミノ基を有し且つ重合金属触媒に配位し得るキレート配位子の群からなる有機リガンドが挙げられる。
【0100】
またジヒドリドオキソリン(I)酸、ジヒドリドテトラオキソ二リン(II,II)酸、ヒドリドトリオキソリン(III)酸、ジヒドリドペンタオキソ二リン(III)酸、ヒドリドペンタオキソ二(II,IV)酸、ドデカオキソ六リン(III)酸、ヒドリドオクタオキソ三リン(III,IV,IV)酸、オクタオキソ三リン(IV,III,IV)酸、ヒドリドヘキサオキソ二リン(III,V)酸、ヘキサオキソ二リン(IV)酸、デカオキソ四リン(IV)酸、へンデカオキソ四リン(IV)酸、エネアオキソ三リン(V,IV,IV)酸等の酸価数5以下の低酸化数リン酸が挙げられる。
【0101】
また、式xHO・yPで表され、x/y=3のオルトリン酸、2>x/y>1であり、縮合度より二リン酸、三リン酸、四リン酸、五リン酸等と称せられるポリリン酸およびこれらの混合物が挙げられる。
【0102】
また、x/y=1で表されるメタリン酸、なかでもトリメタリン酸、テトラメタリン酸、1>x/y>0で表され、五酸化リン構造の一部を残した網目構造を有するウルトラリン酸(これらを総称してメタリン酸系化合物と呼ぶことがある。)が挙げられる。
またこれらの酸の酸性塩、一価、多価のアルコール類、あるいはポリアルキレングリコール類の部分エステル、完全エステル、ホスホノ置換低級脂肪族カルボン酸誘導体等が挙げられる。
【0103】
メタリン酸系化合物は、3〜200程度のリン酸単位が縮合した環状のメタリン酸あるいは立体網目状構造を有するウルトラ領域メタリン酸あるいはそれらの(アルカル金属塩、アルカリ土類金属塩、オニウム塩)を包含する。なかでも環状メタリン酸ナトリウムやウルトラ領域メタリン酸ナトリウム、ホスホノ置換低級脂肪族カルボン酸誘導体のジへキシルホスホノエチルアセテート(以下DHPAと略称することがある)等が好適に使用される。
【0104】
好ましくはポリ乳酸の融点は170℃以上であり、さらに好ましくは融点が200℃以上である。ここで融点とは、DSC測定によって得られた溶融ピークのピーク温度を意味する。とくに耐熱性を付与するためにはポリ乳酸がステレオコンプレックス相結晶を形成していることが好ましい。
【0105】
ここで、ステレオコンプレックスポリ乳酸とは、ポリL乳酸セグメントとポリD乳酸セグメントが形成する共晶である。
【0106】
ステレオコンプレックス相結晶は通常ポリL乳酸やポリD乳酸が単独で形成するホモ相結晶よりも融点が高いので、若干でも含まれることによって耐熱性を上げる効果が期待できるが、特にその効果は全体の結晶量に対するステレオコンプレックス相結晶の量が多い場合に顕著に発揮される。下記式に従うステレオコンプレックス結晶化度(S)において、95%以上であることが好ましく、さらに好ましくは100%である。
【0107】
S=[ΔHms/(ΔHmh+ΔHms)] × 100
(但し、ΔHmsはステレオコンプレックス相結晶の融解エンタルピー、ΔHmhはホモ相ポリ乳酸結晶の融解エンタルピー。)
ステレオコンプレックスポリ乳酸結晶の形成を安定的且つ高度に進めるために特定の添加物を配合する手法が好ましく適用される。
【0108】
すなわち、例えば、ステレオコンプレックス結晶化促進剤として下記式で表されるリン酸金属塩を添加する手法が挙げられる。
【化37】

【0109】
式中、R11は水素原子または炭素原子数1〜4のアルキル基を表し、R12、R13はそれぞれ独立に、水素原子、または炭素原子数1〜12のアルキル基を表し、Mはアルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、亜鉛原子またはアルミニウム原子を表し、tは1または2を表し、uはMがアルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、亜鉛原子のときは0を、アルミニウム原子の時は1または2を表す。
【0110】
【化38】

【0111】
式中R14、R15およびR16は各々独立に、水素原子または炭素原子数1〜12のアルキル基を表し、Mはアルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、亜鉛原子またはアルミニウム原子を表し、tは1または2を表し、uはMがアルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、亜鉛原子のときは0を、アルミニウム原子の時は1または2を表す。
【0112】
上記二つの式において表されるリン酸金属塩のM、Mは、Na、K、Al、Mg、Ca、Liが好ましく、特に、K、Na、Al、LiなかでもLi、Alが最も好適に用いることができる。
【0113】
これらのリン酸金属塩は、(株)ADEKA製の商品名、「アデカスタブ」NA−11、NA−71等が好適な剤として例示される。
【0114】
ポリ乳酸に対して、リン酸金属塩は0.001〜2wt%、好ましくは0.005〜1wt%、より好ましくは0.01〜0.5wt%さらに好ましくは0.02〜0.3wt%用いることが好ましい。少なすぎる場合には、ステレオコンプレックス結晶化度(S)を向上する効果が小さく、多すぎるとステレオコンプレックス結晶融点を低下させるので好ましくない。
【0115】
さらに所望により、リン酸金属塩の作用を強化するため、公知の結晶化核剤を併用することができる。なかでも珪酸カルシウム、タルク、カオリナイト、モンモリロナイトが好ましくは選択される。
【0116】
結晶化核剤の使用量はポリ乳酸に対し0.05〜5wt%、より好ましくは0.06〜2wt%、さらに好ましくは0.06〜1wt%の範囲が選択される。
【0117】
ポリ乳酸はいずれの製法によって得られたものであってもよい。たとえば、ポリ乳酸の製造方法には、L−乳酸及び/又はD−乳酸を原料として一旦環状二量体であるラクチドを生成せしめ、その後開環重合を行う二段階のラクチド法と、L−乳酸及び/又はD−乳酸を原料として溶媒中で直接脱水縮合を行う一段階の直接重合法など、一般に知られている重合法によって好適に得ることができる。
【0118】
ポリ乳酸にはその製造上、カルボン酸基が含まれてくることがあるが、その含まれるカルボン酸基の量は少ないほどよい。そのような理由から、たとえばラクチドから水以外の開始剤を用いて開環重合したものや、重合後に化学的に処理をしてカルボン酸基を低減したポリマーを用いることは好ましい。
【0119】
ポリ乳酸の重量平均分子量は、通常少なくとも5万、好ましくは少なくとも10万、好ましくは10〜30万である。平均分子量が5万よりも低い場合にはフィルムの強度物性が低下するため好ましくない。30万を越える場合には溶融粘度が高くなりすぎ、溶融製膜が困難になる場合がある。
【0120】
また、本発明におけるポリ乳酸は、L−乳酸、D−乳酸の他にエステル形成能を有するその他の成分を共重合した共重合ポリ乳酸であってもよい。共重合可能な成分としては、グリコール酸、3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ吉草酸、6−ヒドロキシカプロン酸などのヒドロキシカルボン酸類の他、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール等の分子内に複数の水酸基を含有する化合物類またはそれらの誘導体、アジピン酸、セバシン酸、フマル酸等の分子内に複数のカルボン酸基を含有する化合物類またはそれらの誘導体が挙げられる。ただし、高い融点を維持するためやフィルム強度を損なわないため、この場合フィルムの70モル%以上が乳酸単位からなることが望ましい。
【0121】
<アクリル系樹脂(B成分)>
本発明において用いるアクリル系樹脂(B成分)は、シクロヘキシルメタクリレート、4−tert−ブチルシクロへキシルメタクリレート、メチルメタクリレート等のメタクリル酸エステル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸−2−エチルヘキシル等のアクリル酸エステルより選ばれる1種以上の単量体を重合したものである。これらの単量体は、単独でまたは2種以上混合して用いることができる。なかでも、メタクリル酸メチルの単独重合体または他の単量体との共重合体が好ましい。
【0122】
メタクリル酸メチルと共重合可能な単量体としては、他のメタリル酸アルキルエステル類、アクリル酸アルキルエステル類、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物類、アクリロニトリル、メタクリルニトリル等のシアン化ビニル類、N−フェニルマレイミド、N−シクロへキシルマレイミド等のマレイミド類、無水マレイン酸等の不飽和カルボン酸無水物類、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸等の不飽和酸類が挙げられる。これらメタクリル酸メチルと共重合可能な単量体の中でも、特にアクリル酸アルキルエステル類は耐熱分解性に優れる。またアクリル酸アルキルエステル類を共重合させて得られるメタクリル系樹脂は成形加工時の流動性が高く好ましい。
【0123】
メタクリル酸メチルにアクリル酸アルキルエステル類を共重合させる場合のアクリル酸アルキルエステル類の使用量は、耐熱分解性の観点から0.1重量%以上であることが好ましく、耐熱性の観点から15重量%以下であることが好ましい。0.2重量%以上14重量%以下であることがさらに好ましく、1重量%以上12重量%以下であることがとりわけ好ましい。
【0124】
このアクリル酸アルキルエステル類の中でも、特にアクリル酸メチルおよびアクリル酸エチルは、それを少量メタクリル酸メチルと共重合させても上記改良効果は著しく最も好ましい。上記メタクリル酸メチルと共重合可能な単量体は一種または二種以上組み合わせて使用することもできる。
【0125】
アクリル系樹脂(B成分)の重量平均分子量は、好ましくは5万〜20万である。重量平均分子量は成形品の強度の観点から5万以上が好ましく、成形加工性、流動性の観点から20万以下が好ましい。さらに好ましい範囲は7万−15万である。また、本発明においてはアイソタクチックポリメタクリル酸エステルとシンジオタクチックポリメタクリル酸エステルを同時に用いることもできる。
【0126】
アクリル系樹脂を製造する方法として、例えばキャスト重合、塊状重合、懸濁重合、溶液重合、乳化重合、アニオン重合等の一般に行われている重合方法を用いることができるが、光学用途としては微小異物の混入は極力避けることが好ましく、この観点からは懸濁剤や乳化剤を用いない塊状重合や溶液重合が望ましい。溶液重合を行う場合には、単量体の混合物をトルエン、エチルベンゼン、キシレン等の芳香族炭化水素の溶媒に溶解して調整した溶液を用いることができる。塊状重合により重合させる場合には、通常行われるように加熱により生じる遊離ラジカルや電離性放射線照射により重合を開始させることができる。
【0127】
重合反応に用いられる開始剤としては、一般にラジカル重合において用いられる任意の開始剤を使用することができ、例えばアゾビスイソブチルニトリル等のアゾ化合物、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート等の有機過酸化物が用いられる。また、特に90℃以上の高温下で重合を行わせる場合には、溶液重合が一般的であるので、10時間半減期温度が80℃以上でかつ用いる有機溶媒に可溶である過酸化物、アゾビス開始剤等が好ましい。具体的には1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、シクロヘキサンパーオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、1,1−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボニトリル)、2−(カルバモイルアゾ)イソプチロニトリル等を挙げることができる。これらの開始剤は0.005〜5重量%の範囲で用いられる。
【0128】
重合反応に必要に応じて用いられる分子量調節剤は、一般的なラジカル重合において用いる任意のものが使用される。例えば、ブチルメルカプタン、オクチルメルカプタン、ドデシルメルカプタン、チオグリコール酸2−エチルヘキシル等のメルカプタン化合物が特に好ましいものとして挙げられる。これらの分子量調節剤は、重合度が上記の範囲内に制御されるような濃度範囲で添加される。
【0129】
<樹脂組成物>
本発明の樹脂組成物において、脂肪族ポリエステル系樹脂(A成分)とアクリル系樹脂(B成分)との割合は、具体的なA成分、B成分と、得ようとするフィルムとの特性(光学特性、機械特性)とで適宜設定すればよいが、通常は重量比(A成分/B成分)で、(99/1)〜(1/99)の範囲で設定すればよく、好ましくは(99/1)〜(50/50)、より好ましくは(80/20)〜(50/50)、さらに好ましくは(70/30)〜(50/50)の範囲である。
【0130】
本発明の樹脂組成物は、DSC測定において、前述したステレオコンプレックス結晶化化度(S)が80%以上であることが好ましい。ステレオコンプレックス結晶化度が80%以上であると、これより得られるフィルムの90℃における熱収縮率を低下させることができる。樹脂組成物のステレオコンプレックス結晶化度は、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは、ステレオコンプレックス結晶化度が100%である。
【0131】
本発明において樹脂組成物中の環状カルボジイミド化合物(C成分)の割合は、脂肪族ポリエステル系樹脂(A成分)とアクリル系樹脂(B成分)との合計量100重量部を基準にして環状カルボジイミド化合物(C成分)が0.001〜5重量部含有されることが好ましい。C成分の量がこの範囲にあれば、樹脂組成物およびこれより得られるフィルムの、水分に対する安定性、耐加水分解安定性を好適に高めることができる。
【0132】
かかる観点より環状カルボジイミド化合物(C成分)の含有割合はより好ましくは、脂肪族ポリエステル系樹脂(A成分)とアクリル系樹脂(B成分)との合計量100重量部あたり0.01〜5重量部、さらに好ましくは0.1〜4重量部の範囲が選択される。この範囲より少量であると環状カルボジイミド化合物(C成分)の効果が有効に認められないことがあり、また、この範囲を超えて多量に適用しても、耐加水分解安定性の更なる向上は期待されない。
【0133】
脂肪族ポリエステル系樹脂(A成分)がポリ乳酸を含む場合には、ラクチド含有量は、脂肪族ポリエステル系樹脂(A成分)およびアクリル系樹脂(B成分)の合計量を基準にして、好ましくは0〜1000ppm、より好ましくは0〜200ppm、さらに好ましくは0〜100ppmの範囲である。ラクチドの含有量は少ないほうが樹脂組成物の色相、安定性等の物性の観点より好ましいが、過剰に減少操作を適用しても、更なる物性の向上は期待されずまたコスト面よりも好ましくない場合が発生する。
【0134】
樹脂組成物のカルボキシル基濃度は、脂肪族ポリエステル系樹脂(A成分)およびアクリル系樹脂(B成分)の合計量を基準にして、好ましくは0〜30当量/ton、より好ましくは0〜10当量/ton,さらに好ましくは0〜5当量/tonの範囲、特に好ましくは0〜1当量/tonの範囲である。カルボキシル基濃度の低減は環状カルボジイミド化合物(C成分)を使用することにより、容易に達成できる。
【0135】
また本発明において、樹脂組成物には、脂肪族ポリエステル系樹脂(A成分)、アクリル系樹脂(B成分)および環状カルボジイミド化合物(C成分)以外の他の樹脂成分を、本発明の目的を損なわない範囲で含有することができる。
【0136】
他の樹脂成分として具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリスチレン、スチレンアクリロニトリル共重合体等のスチレン系樹脂、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエステル、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアセタール等の熱可塑性樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂、が挙げられる。これらは1種以上を含有させることができる。
【0137】
さらに、本発明の樹脂組成物には、本発明の効果を著しく損なわない範囲内で、各種目的に応じて任意の添加剤を配合することができる。添加剤の種類は、樹脂やゴム状重合体の配合に一般的に用いられるものであれば特に制限はない。
【0138】
添加剤として、無機充填剤や、酸化鉄等の顔料が挙げられる。またステアリン酸、ベヘニン酸、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、エチレンビスステアロアミド等の滑剤や、離型剤、パラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル、芳香族系プロセスオイル、パラフィン、有機ポリシロキサン、ミネラルオイル等の軟化剤・可塑剤、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、リン系熱安定剤等の酸化防止剤、ヒンダードアミン系光安定剤、ベンゾトリアゾ−ル系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、環状イミノエステル系紫外線吸収剤、トリアジン系紫外線吸収剤難燃剤、帯電防止剤が挙げられる。ベンゾフェノール系酸化防止剤として用いるベンゾフェノン系化合物の具体例としては、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノンおよび2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノンなどが例示される。なかでも2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノンが好適である。ベンゾフェノンは単独であるいは2種以上を併用して用いることができる。かかる化合物はシプロ化成(株)からSEESORB107、SEESORB106として(商品名)として市販されており、容易に利用できる。
【0139】
また、環状イミノエステル系紫外線吸収剤として用いる環状イミノエステル系化合物の具体例としては、2,2’−ビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、2,2’−p−フェニレンビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、2,2’−m−フェニレンビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、2,2’−(4,4’−ジフェニレン)ビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、2,2’−(2,6−ナフタレン)ビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、2,2’−(1,5−ナフタレン)ビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、2,2’−(2−メチル−p−フェニレン)ビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、2,2’−(2−ニトロ−p−フェニレン)ビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)および2,2’−(2−クロロ−p−フェニレン)ビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)などが例示される。なかでも2,2’−p−フェニレンビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)、2,2’−(4,4’−ジフェニレン)ビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)および2,2’−(2,6−ナフタレン)ビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)が好適であり、特に2,2’−p−フェニレンビス(3,1−ベンゾオキサジン−4−オン)が好適である。
【0140】
更に、有機繊維、ガラス繊維、炭素繊維、金属ウィスカ等の補強剤、着色剤、静電密着改良剤が挙げられる。また上記の混合物が挙げられる。
【0141】
本発明の樹脂組成物は、公知の方法で製造することができる。例えば単軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ブラベンダー、各種ニーダー等の溶融混練機を用いて、脂肪族ポリエステル系樹脂(A成分)、アクリル系樹脂(B成分)および環状カルボジイミド化合物(C成分)、ならびに必要に応じて、上記のその他成分を添加、溶融混練して樹脂組成物を製造することができる。
【0142】
なお、脂肪族ポリエステル系樹脂(A成分)と環状カルボジイミド化合物(C成分)とを先にブレンドしたのち、アクリル系樹脂(B成分)とブレンドすることが、脂肪族ポリエステル系樹脂(A成分)の加水分解性を早期に向上させることができるので好ましい。
【0143】
<フィルムの製造>
本発明の樹脂組成物をフィルムとするため、押し出し成形、キャスト成形等の成形手法を用いて製膜することができる。例えば、Tダイ、円形ダイ等が装着された押出機等を用いて、製膜することができる。
【0144】
押し出し成形により未延伸フィルムを得る場合は、事前に脂肪族ポリエステル系樹脂(A成分)、アクリル系樹脂(B成分)および環状カルボジイミド化合物(C成分)を溶融混練した材料を用いることもできれば、押し出し成形時に溶融混練を経て成形することもできる。
【0145】
未延伸フィルムは、溶融フィルムを冷却ドラム上に押し出し次いで該フィルムを回転する冷却ドラムに密着させ冷却することによって製造することができる。このとき溶融フィルムにはスルホン酸四級ホスホニウム塩等の静電密着剤を配合し、電極よりフィルム溶融面に非接触的に電荷を容易に印加し、それによってフィルムを、回転する冷却ドラムに密着させることにより表面欠陥の少ない未延伸フィルムを得ることができる。
【0146】
また、脂肪族ポリエステル系樹脂(A成分)、アクリル系樹脂(B成分)および環状カルボジイミド化合物(C成分)に共通な溶媒、例えばクロロホルム,二塩化メチレン等の溶媒を用いて、脂肪族ポリエステル系樹脂(A成分)、アクリル系樹脂(B成分)および環状カルボジイミド化合物(C成分)を溶解後、キャスト乾燥固化することにより未延伸フィルムをキャスト成形もすることができる。
【0147】
<延伸>
本発明の樹脂組成物から得られた未延伸フィルムは機械的流れ方向(MD)に一軸延伸することもできるし、機械的流れ方向に直交する方向(TD)に一軸延伸することもできる。またロール延伸とテンター延伸の逐次2軸延伸法、テンター延伸による同時2軸延伸法、チューブラー延伸による2軸延伸法等によって延伸することにより2軸延伸フィルムを製造することができる。
【0148】
ここで、延伸倍率としては少なくともどちらか一方向に、好ましくは0.1〜1000%以下、好ましくは0.2〜600%、さらに好ましくは0.3〜300%である。延伸倍率をこの範囲内とすることで、複屈折率、耐熱性、強度の観点で好ましい延伸フィルムを得ることができる。
【0149】
延伸倍率は、面積延伸倍率(縦倍率×横倍率)で、好ましくは1〜15、より好ましくは1.01〜10、さらに好ましくは1.1〜5、特に好ましくは1.1〜3の範囲である。
【0150】
フィルムの結晶化度を10%以上とするために熱処理をする場合には、縦倍率あるいは横倍率は、いずれも1倍超、つまり延伸されている状態であることが必須であり、未延伸フィルム(延伸倍率1倍以下)は、例えばエレクトロニクス用光学フィルム(2006年)電気、電子材料研究会編中記載の耐熱性評価、さらに該評価を発展させた本発明の耐熱性評価(90℃、5時間の熱処理)により透明性が低下することがあり、光学フィルムとしては好ましくない。
【0151】
延伸温度は、樹脂組成物のガラス転移温度(Tg)から結晶化温度(Tc)の範囲が好適に選択される。さらにRe、Rthの抑制のためTgより高温で、出来るだけTcに近く、且つ脂肪族ポリエステル系樹脂(A成分)の結晶化が進まない温度範囲がより好適に採用される。
【0152】
Tgより低い温度では分子鎖が固定されているので、延伸操作を好適に進めることが困難であるとともにRe、Rthを各々20nm以下にすることが困難であり、またTc以上では脂肪族ポリエステル系樹脂(A成分)の結晶化が進み、この場合も延伸工程を良好に進行させることが困難となる。
【0153】
従って延伸温度としては、Tg〜Tcの裾野にかけての脂肪族ポリエステル系樹脂(A成分)の結晶化が進行しにくい温度範囲、例えばTgから結晶化温度(Tc)を選択することが好適であり、フィルム物性、延伸工程安定化の両立の観点より、延伸温度はTg+5℃からTc℃、より好ましくはTg+10℃からTc℃、さらに好ましくはTg+20℃からTc℃の温度範囲が好適に設定される。延伸温度の上限値に関しては、フィルム物性と延伸工程安定化が相反する挙動をとるので、装置特性を勘案して、適宜設定すればよい。
【0154】
<熱処理>
延伸フィルムは、熱処理することが好ましい。この熱処理によって、延伸フィルムの熱収縮率を好適に低下させることができる。
【0155】
特に、脂肪族ポリエステル系樹脂(A成分)がステレオコンプレックスポリ乳酸を含むとき、ステレオコンプレックス相ポリ乳酸の結晶化を進めることができるとともに、動的粘弾性(DMA)測定で貯蔵弾性率E’が常温(25℃)から150℃の温度範囲において極小値を発現することなく、50MPaより大きな値を保つことができる。
【0156】
結晶性樹脂であるポリ乳酸と非晶性樹脂であるアクリル系樹脂とをブレンドした場合、得られる樹脂組成物の結晶化温度Tcが高温側にシフトするため、樹脂組成物の結晶化温度Tc付近に融点を有するホモポリ乳酸は、樹脂組成物の結晶化温度で延伸フィルムの融解が始まり、結晶化させることが困難であるが、ステレオコンプレックスポリ乳酸の融点は樹脂組成物の結晶化温度を超えているので、得られた延伸フィルムを高温で熱処理することが可能であり、延伸フィルムを容易に結晶化させることができ好ましい。
【0157】
熱処理温度は、脂肪族ポリエステル系樹脂(A成分)とアクリル系樹脂(B成分)との割合およびそれぞれの具体的組成により変動するが、例えば、脂肪族ポリエステル系樹脂としてステレオコンプレックスポリ乳酸を用いる場合の熱処理温度は、ステレオコンプレックス相ポリ乳酸の結晶融解温度をTmとするとき、好ましくは90〜Tm(℃)、より好ましくは110〜(Tm−10)(℃)、さらに好ましくは120〜(Tm−20)(℃)である。
【0158】
熱処理は1秒間から30分間の範囲で実施することが好ましい。熱処理温度が高いときは相対的に短い時間で、熱固定処理温度が低いときは相対的に長い時間の熱処理を要する。例えばTcが140℃のフィルムでは、140℃では、少なくとも30秒間必要であるが、150℃では10秒間の熱処理で、フィルムの90℃、5時間での熱収縮率を5%未満とすることができる。
【0159】
かくして得られたフィルムには、所望により従来公知の方法で、表面活性化処理、たとえばプラズマ処理、アミン処理、コロナ処理を施すことも可能である。
【0160】
(フィルムの特性)
(厚み)
本発明のフィルムの厚みは、好ましくは1〜300μm、より好ましくは10〜300μm、さらに好ましくは20〜150μmである。取扱い時のシワになりにくさ(シワ防止)の観点から10μm以上であることが好ましい。また透明性の観点から200μm以下であることが好ましい。
(光弾性係数)
本発明のフィルムの光弾性係数の絶対値は、好ましくは10×10−12/Pa未満、より好ましくは8×10−12/Pa未満、さらに好ましくは5×10−12/Pa未満、特に好ましくは3×10−12/Pa未満である。
【0161】
光弾性係数(CR)に関しては、種々の文献に記載があり(例えば、非特許文献1等参照)、下式により定義される値である。光弾性係数の値がゼロに近いほど外力による複屈折の変化が小さいことを示しており、各用途において設計された複屈折の変化が小さいことを意味する。
【0162】
CR=Δn/σR
Δn=nx−ny
但し、CRは光弾性係数、σRは伸張応力、△nは複屈折率差、nxは伸張方向の屈折率、nyは伸張方向と直角方向の屈折率を表す。
【0163】
(面方向の位相差(Re)と厚み方向の位相差(Rth))
本発明のフィルムの面方向の位相差(Re)と厚み方向の位相差(Rth)は、複屈折率差Δnと厚みd(nm)の積であり、ReとRthはそれぞれ下記式で定義される。
Re = (nx−ny) × d
Rth= ((nx+ny)/2−nz) × d
nxは、長手方向の屈折率を表す。nyは幅方向の屈折率を表す。nzは厚み方向の屈折率を表す。dは厚み(nm)を表す。
本発明のフィルムのReおよびRthは共に、好ましくは10nm以下、より好ましくは5nm以下、さらに4nm以下である。ReやRthの値がこの範囲にある材料は押し出し成形、キャスト成形における成形起因の配向による位相差斑が発生し難いため好ましい。
【0164】
(ステレオコンプレックス結晶化度:S)
本発明のフィルムは、DSC測定において190℃以上のステレオコンプレックス相ポリ乳酸の結晶融解ピークを有することが好ましく、さらにDSC測定の結晶融解ピーク強度より下記式で定義されるステレオコンプレックス結晶化度(S)が好ましくは80%以上、より好ましくは90〜100%、さらに好ましくは97〜100%、特に好ましくは100%である。
即ち本発明のフィルムは、ポリ乳酸のステレオコンプレックス相が高度に形成されていることが好ましい。
S(%)=〔ΔHms/(ΔHmh+ΔHms)〕×100
ΔHmsはステレオコンプレックス相ポリ乳酸の結晶融解エンタルピー(J/g)を表す。△Hmhはホモ相ポリ乳酸の結晶融解エンタルピー(J/g)を表す。
ステレオコンプレックス結晶化度(S)は熱処理過程において最終的に生成するステレオコンプレックスポリ乳酸結晶の割合を示すパラメーターである。
本発明では,DSC測定において190℃以上に現れる結晶融解ピークは、ステレオコンプレックス相ポリ乳酸の融解に帰属される結晶融解ピークであり、190℃未満に現れる結晶融解ピークは、ホモ相ポリ乳酸の融解に帰属される結晶融解ピークである。
【0165】
(収縮率)
本発明のフィルムは、90℃、5時間処理時の縦方向(MD)の収縮率および横方向(TD)の収縮率が、共に好ましくは5%以下、より好ましくは4%以下であることが好ましく、A成分として、ステレオコンプレックスポリ乳酸を選択することで達成可能である。
【0166】
(貯蔵弾性率:E’)
本発明のフィルムは、動的粘弾性(DMA)測定による貯蔵弾性率(E’)が、常温(25℃)から150℃の温度範囲で極小値を発現することがなく且つ50MPaより大きい値を有することが好ましい。
このようなフィルムは、例えば、偏光フィルムの製造工程で必要とされる150℃程度の温度範囲に加熱されたときも、E’が極小値を示すことがないため寸法安定性が良好である。
またE’が50MPaより大きい値を有するため、外力により変形が起こりにくく、位相差の変動が発生しにくく、さらに偏光フィルムの製造工程において良好な加工性を発揮することができる。
【0167】
(偏光板保護フィルム)
本発明のフィルムは、偏光板保護フィルムとして有用である。偏光板保護フィルムとは、偏光板の構成部材として用いられ、偏光フィルム(例えば、高重合度のPVAベースフィルムにポリヨウ素等の二色性色素または二色性染料を含浸・吸着させたもの)の両面もしくは片面に貼り合わせて、偏光フィルムの強度向上、熱・水分からの保護、晶質劣化防止等の目的で使用されるフィルムである。
本発明のフィルムからなる偏光板保護フィルムは、偏光板の構成部材として、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ、フィールドエミッションディスプレイ、リアプロジェクションテレビ等のディスプレイに用いることができる。本発明のフィルムからなる偏光板保護フィルムは、必要に応じて、例えば反射防止処理、透明導電処理、電磁波遮蔽処理、ガスバリア処理、防汚処理等の表面機能化処理をすることもできる。
【0168】
(位相差フィルム)
また本発明のフィルムは、位相差フィルムとして有用である。本発明のフィルムからなる位相差フィルムは、脂肪族ポリエステル系樹脂(A成分)とアクリル系樹脂(B成分)とのブレンド比率を変えることで、発現する位相差をコントロールすることができ、例えば、脂肪族ポリエステル系樹脂(A成分)としてステレオコンプレックスポリ乳酸を用いるときには、ステレオコンプレックスポリ乳酸が50重量%を超え、アクリル系樹脂が50重量%未満の場合は長手方向(MD)に強い複屈折率を得ることができ、逆の場合は幅方向(TD)に強い複屈折率を得ることができる。さらに、必要な位相差によって適正なブレンド比に変えることが可能で、さらに延伸することによって位相差をコントロールすることができ、液晶パネルディスプレイの位相差板として好適に用いることができる。
【実施例】
【0169】
以下、本発明を実施例により、更に具体的に説明するが、本発明はこれによりなんら限定を受けるものでは無い。
以下に、本発明および実施例で用いた評価法を説明する。
(1)分子量:
ポリマーの重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定、標準ポリスチレンに換算した。
GPC測定機器は、
検出器;(株)島津製作所製 示差屈折計RID−6A
カラム;東ソー(株)TSKgel G3000HXL、TSKgel G4000HXL,TSKgel G5000HXLとTSKguardcolumnHXL−Lを直列に接続したもの、あるいは東ソー(株)TSKgel G2000HXL、TSKgel G3000HXLとTSKguardcolumnHXL−Lを直列に接続したものを使用した。
クロロホルムを溶離液とし温度40℃、流速1.0ml/minにて、濃度1mg/m1(1%ヘキサフルオロイソプロパノールを含むクロロホルム)の試料を10μl注入し測定した。
【0170】
(2)カルボキシル基濃度:
試料を精製o−クレゾールに溶解、窒素気流下溶解、ブロモクレゾールブルーを指示薬とし、0.05規定水酸化カリウムのエタノール溶液で適定した。
【0171】
(3)ステレオコンプレックス結晶化度(S)、結晶融解温度:
ステレオコンプレックス結晶化度(S)、ステレオコンプレクスポリ乳酸の結晶融解温度は、DSC(TAインスツルメント社製TA−2920)を用いて結晶融解温度、結晶融解エンタルピーを測定し、その結晶融解エンタルピーから下記式に従って求めた。
S(%) = [△Hms/(△Hmh+△Hms)] × 100
(但し、△Hmsはステレオコンプレックス相結晶の結晶融解エンタルピー、△Hmhはホモ相結晶の結晶融解エンタルピー)
【0172】
(4)フィルム熱収縮率:
ASTM D1204に準じ、90℃、5時間処理した後、室温(25℃)に戻し、長さ変化より熱収縮率をもとめ、更にヘーズの値を求めた。
【0173】
(5)光弾性係数:
Polymer Engineering and Science1999,39,P.2349−2357に詳細に記載された複屈折測定装置を用いた。
レーザー光の経路にフィルムの引っ張り装置を配置し、23℃で伸張応力をかけながら複屈折を測定した。伸張時の歪速度は50%/分(チャック間:10mm、チャック移動速度:5mm/分)、試験片幅は8mmで測定を行った。複屈折率差(△n)と伸張応力(σR)との関係から、最小二乗近似によりその直線の傾きをもとめ光弾性係数(CR)を計算した。
CR = Δn/σR
Δn = n − n
(CR:光弾性係数、σR:伸張応力、Δn:複屈折率差、n:伸張方向の屈折率、n:伸張方向と垂直な屈折率)
【0174】
(6)全光線透過率:
ASTM D1003に準拠し測定を行った。
【0175】
(7)偏光板耐久性:
90℃×5時間熱処理した後に室温(25℃)に戻し、フィルムの耐久性を以下の基準で評価した。
○:10回折り曲げても割れない。
△:2回折り曲げても割れない。
×:折り曲げると割れる。
【0176】
(8)へ−ズの測定:
日本電色(株)製Hazemeter MDH2000を使用し、40μm厚フィルムを使用し、JIS K7105−1981の6.4に準拠して測定した。
へ−ズが1.6%を超えると透明性不良と判断.へ−ズが0〜1.6%の時、光学用途のフィルムとして適用可能と判断、また1%以下の時は光学用フィルムとして好適な透明性と判断した。
【0177】
(9)ガラス転移温度の測定方法:
DSC(TAインストルメント社製TA−2920)を用いて求めた。
【0178】
(10)面内位相差(Re)、厚み方向位相差(Rth):
長手方向の屈折率(n)および幅方向の屈折率(n)は分光エリプソメーター(日本分光(株)製M−150)で測定した。
フィルムの面方向の位相差(Re)と、厚み方向の位相差(Rth)は、長手方向の屈折率(n)、幅方向の屈折率(n)、厚み(d:nm)から下記各式より求めた。
Re = (n−n) × d
Rth = ((n+n)/2−n) × d
【0179】
(11)高温機械特性(DMA)の測定:
試料(短冊状、フィルム幅4mm、チャック間20mm)を下記装置を用いて測定した。
測定装置: TAインスツルメント社製RSA−III
測定モード:自動テンション、自動ひずみ制御法
測定温度範囲:20から200℃
昇温速度:3℃/min
測定周波数:1Hz
DMA物性(極小値有無)
無し:室温(25℃)から150℃の温度範囲に極小値発現しない。
有り:室温(25℃)から150℃の温度範囲に極小値発現する。
また、150℃におけるE’値を求めた。
【0180】
(12)フィルム形態安定性の評価:
50cm×50cmのフィルムを100℃のステンレス板上、30分間静置した後、表面の凹凸の生成状況を判定した。
×:1mm以上の凹凸が発生し、目視で表面が明らかに波打っていると認識できる。
△:0.2以上1mm未満の凹凸が発生し、目視で表面が波打っていると認識できる。
○:0.2mm未満での凹凸であり、目視では殆ど平面とみなせる。
【0181】
(13)イソシアネートガス発生テスト:
試料を、160℃で5分間加熱し、熱分解GC/MS分析によりイソシアネートガスの発生有無を確認した。GC/MSは日本電子(株)製GC/MS Jms Q1000GC K9を使用した。
【0182】
(14)耐加水分解安定性:
得られた試料を恒温恒湿機にて、80℃、95%RHにて100時間処理したときの還元粘度保持率を評価した。
【0183】
試料の耐加水分解安定性は、還元粘度保持率が80から95%未満であるとき「合格」で○と表記、95%から100%のとき「優秀合格」で◎と表記した。80%未満のものは「不合格」で×と表記した。
【0184】
[参考例1]環状カルボジイミド化合物(C成分)の製造:
o−ニトロフェノール(0.11mol)とペンタエリトリチルテトラブロミド(0.025mol)、炭酸カリウム(0.33mol)、N,N−ジメチルホルムアミド200mlを撹拌装置及び加熱装置を設置した反応装置にN雰囲気下仕込み、130℃で12時間反応後、DMFを減圧により除去し、得られた固形物をジクロロメタン200mlに溶かし、水100mlで3回分液を行った。有機層を硫酸ナトリウム5gで脱水し、ジクロロメタンを減圧により除去し、中間生成物D(ニトロ体)を得た。
次に中間生成物D(0.1mol)と5%パラジウムカーボン(Pd/C)(2g)、エタノール/ジクロロメタン(70/30)400mlを、撹拌装置を設置した反応装置に仕込み、水素置換を5回行い、25℃で水素を常に供給した状態で反応させ、水素の減少がなくなったら反応を終了した。Pd/Cを回収し、混合溶媒を除去すると中間生成物E(アミン体)が得られた。
次に撹拌装置及び加熱装置、滴下ロートを設置した反応装置に、N雰囲気下、トリフェニルホスフィンジブロミド(0.11mol)と1,2−ジクロロエタン150mlを仕込み撹拌させた。そこに中間生成物E(0.025mol)とトリエチルアミン(0.25mol)を1,2−ジクロロエタン50mlに溶かした溶液を25℃で徐々に滴下した。滴下終了後、70℃で5時間反応させる。その後、反応溶液をろ過し、ろ液を水100mlで5回分液を行った。有機層を硫酸ナトリウム5gで脱水し、1,2−ジクロロエタンを減圧により除去し、中間生成物F(トリフェニルホスフィン体)が得られた。
次に、撹拌装置及び滴下ロートを設置した反応装置に、N2雰囲気下、ジ−tert−ブチルジカーボネート(0.11mol)とN,N−ジメチル−4−アミノピリジン(0.055mol)、ジクロロメタン150mlを仕込み撹拌させる。そこに、25℃で中間生成物F(0.025mol)を溶かしたジクロロメタン100mlをゆっくりと滴下させた。滴下後、12時間反応させる。その後、ジクロロメタンを除去し得られた固形物を、精製することで、下記構造式に示す化合物(MW=516)を得た。構造はNMR、IRにより確認した。
【0185】
【化39】

【0186】
[参考例2]ポリL乳酸(A-1)の製造:
A成分として、L−ラクチド((株)武蔵野化学研究所製、光学純度100%)100重量部に対し、オクチル酸スズを0.005重量部加え、窒素雰囲気下、撹拌翼のついた反応器にて、180℃で2時間反応し、オクチル酸スズに対し触媒失活剤剤として、1.2倍当量の燐酸を添加しその後、13.3Paで残存するラクチドを除去し、チップ化し、ポリL−乳酸を得た。
得られたポリL−乳酸の重量平均分子量は15.2万、ガラス転移温度(Tg)55℃、融点は175℃であった。
【0187】
[参考例3]ステレオコンプレックスポリ乳酸(A−2)の製造:
参考例1において、L−ラクチドをD−ラクチド((株)武蔵野化学研究所製、光学純度100%)に変更したこと以外は同条件で重合を行い、ポリD乳酸を得た。
得られたポリD−乳酸の重量平均分子量は15.1万、ガラス転移温度(Tg)55℃、融点は175℃であった。
得られたポリD−乳酸と、参考例1の操作で得たポリL−乳酸,各50重量部とリン酸エステル金属塩((株)ADEKA製「アデカスタブ」NA−71)0.1重量部をブレンダーで混合、110℃、5時間真空乾燥した後、シリンダー温度250℃、ベント圧13.3Paで真空排気しながら溶融混練後、水槽中にストランド押し出し、チップカッターにてチップ化して、A成分としての、ステレオコンプレックス結晶化度(S)100%、結晶融解温度216℃のポリ乳酸組成物を得た。
【0188】
[参考例4]アクリル系樹脂(B成分):
三菱レイヨン(株)製「アクリペット」VH001をアクリル系樹脂(B成分)とした。
【0189】
[実施例1〜4]
参考例の操作で得られた脂肪族ポリエステル系樹脂(A成分)と参考例4記載のアクリル系樹脂(B成分)を表1中記載の量比で混合し、脂肪族ポリエステル系樹脂(A成分)とアクリル系樹脂(B成分)との合計100重量部あたり、3,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム0.5重量部をヘンシェルミキサーで混合した。
その後、110℃で5時間乾燥した後、参考例1の操作で得た環状カルボジイミド化合物(C成分)を混合しながら2軸押出機にてシリンダー温度、230℃で溶融混練し、ダイ温度、220℃で210μmのフィルム状に溶融押し出し、白金コート線状電極を用い、静電キャスト法によって鏡面冷却ドラム表面に密着、固化させ未延伸フィルムを得た。
得られた未延伸フィルムを、100℃で、縦方向に1.1〜2.0倍、横方向に1.1〜2.0倍延伸した。次に120〜140℃で熱固定を行い厚さ約40μmの二軸延伸フィルムを得た。樹脂組成物およびフィルムの製造条件、フィルムの物性を表1に示す。
【0190】
[比較例1〜4]
表1中記載の種類、量比のA成分およびB成分を実施例1と同様にして、押し出し、延伸、フィルム化した。熱処理温度は、120℃で行った。結果を表1に記載する。
なお、比較例4は、C成分として、参考例1で合成した環状カルボジイミド化合物(C成分)に代えて、線状構造を有するカルボジイミド化合物(日清紡ケミカル(株)製「カルボジライト」LA−1)を用いた。
【0191】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪族ポリエステル系樹脂(A成分)、アクリル系樹脂(B成分)、カルボジイミド基を1個有しその第一窒素と第二窒素とが結合基により結合されている環状構造を少なくとも含む化合物(C成分)とを含む樹脂組成物。
【請求項2】
C成分において、環状構造を形成する原子数が8〜50である請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項3】
C成分が下記式(1)で表される請求項1記載の樹脂組成物。
【化1】

(式中、Qは、脂肪族基、脂環族基、芳香族基またはこれらの組み合わせである2〜4価の結合基であり、ヘテロ原子を含有していてもよい。)
【請求項4】
Qは、下記式(1−1)、(1−2)または(1−3)で表される2〜4価の結合基である請求項3記載の樹脂組成物。
【化2】

(式中、ArおよびArは各々独立に、2〜4価の炭素数5〜15の芳香族基である。RおよびRは各々独立に、2〜4価の炭素数1〜20の脂肪族基、2〜4価の炭素数3〜20の脂環族基またはこれらの組み合わせ、またはこれら脂肪族基、脂環族基と2〜4価の炭素数5〜15の芳香族基の組み合わせである。XおよびXは各々独立に、2〜4価の炭素数1〜20の脂肪族基、2〜4価の炭素数3〜20の脂環族基、2〜4価の炭素数5〜15の芳香族基、またはこれらの組み合わせである。sは0〜10の整数である。kは0〜10の整数である。なお、sまたはkが2以上であるとき、繰り返し単位としてのX、あるいはXが、他のX、あるいはXと異なっていてもよい。Xは、2〜4価の炭素数1〜20の脂肪族基、2〜4価の炭素数3〜20の脂環族基、2〜4価の炭素数5〜15の芳香族基、またはこれらの組み合わせである。但し、Ar、Ar、R、R、X、XおよびXはヘテロ原子を含有していてもよい、また、Qが2価の結合基であるときは、Ar、Ar、R、R、X、XおよびXは全て2価の基である。Qが3価の結合基であるときは、Ar、Ar、R、R、X、XおよびXの内の一つが3価の基である。Qが4価の結合基であるときは、Ar、Ar、R、R、X、XおよびXの内の一つが4価の基であるか、二つが3価の基である。)
【請求項5】
C成分が、下記式(2)で表される請求項1記載の樹脂組成物。
【化3】

(式中、Qは、脂肪族基、脂環族基、芳香族基またはこれらの組み合わせである2価の結合基であり、ヘテロ原子を含有していてもよい。)
【請求項6】
は、下記式(2−1)、(2−2)または(2−3)で表される2価の結合基である請求項5記載の樹脂組成物。
【化4】

(式中、Ar、Ar、R、R、X、X、X、sおよびkは、各々式(1−1)〜(1−3)中のAr、Ar、R、R、X、X、X、sおよびkと同じである。)
【請求項7】
C成分が、下記式(3)で表される請求項1記載の樹脂組成物。
【化5】

(式中、Qは、脂肪族基、脂環族基、芳香族基またはこれらの組み合わせである3価の結合基であり、ヘテロ原子を含有していてもよい。Yは、環状構造を担持する担体である。)
【請求項8】
は、下記式(3−1)、(3−2)または(3−3)で表される3価の結合基である請求項7記載の樹脂組成物。
【化6】

(式中、Ar、Ar、R、R、X、X、X、sおよびkは、各々式(1−1)〜(1−3)のAr、Ar、R、R、X、X、X、sおよびkと同じである。但しこれらの内の一つは3価の基である。)
【請求項9】
Yは、単結合、二重結合、原子、原子団またはポリマーである請求項7記載の樹脂組成物。
【請求項10】
C成分が、下記式(4)で表される請求項1記載の樹脂組成物。
【化7】

(式中、Qは、脂肪族基、芳香族基、脂環族基またはこれらの組み合わせである4価の結合基であり、ヘテロ原子を保有していてもよい。ZおよびZは、環状構造を担持する担体である。)
【請求項11】
は、下記式(4−1)、(4−2)または(4−3)で表される4価の結合基である請求項10記載の樹脂組成物。
【化8】

(式中、Ar、Ar、R、R、X、X、X、sおよびkは、各々式(1−1)〜(1−3)の、Ar、Ar、R、R、X、X、X、sおよびkと同じである。但し、これらの内の一つが4価の基であるか、二つが3価の基である。)
【請求項12】
およびZは各々独立に、単結合、二重結合、原子、原子団またはポリマーである請求項10記載の樹脂組成物。
【請求項13】
A成分が、ポリ乳酸系樹脂を含む、請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項14】
ポリ乳酸系樹脂が、ステレオコンプレックス結晶を形成している、請求項13記載の樹脂組成物。
【請求項15】
B成分が、メタクリル酸メチル重合体を含む、請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項16】
請求項1〜15のいずれか記載の樹脂組成物よりなるフィルム。
【請求項17】
光弾性係数の絶対値が10×10−12/Pa未満である、請求項16記載のフィルム。

【公開番号】特開2011−184662(P2011−184662A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−54611(P2010−54611)
【出願日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】