説明

樹脂組成物および絶縁電線

【課題】難燃剤などのフィラーの添加による機械的強度などの物性の低下が抑えられた樹脂組成物およびこれを被覆材に用いた絶縁電線を提供すること。
【解決手段】ベース樹脂とフィラーとを含有し、ベース樹脂は、二以上のポリオレフィン系樹脂よりなり、かつ、ミクロ相分離しており、フィラーが一の樹脂相に偏在している樹脂組成物とする。ポリオレフィン系樹脂は、ポリプロピレンであり、特にホモポリプロピレンであることが好ましい。二以上のポリオレフィン系樹脂は互いにメルトフローレイトが異なるものであると良い。また、上記樹脂組成物を導体の外周に被覆して構成される絶縁電線とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物およびこの樹脂組成物を用いた絶縁電線に関するものであり、さらに詳しくは、自動車、電気・電子機器等に配線される絶縁電線の被覆材に好適な樹脂組成物およびこの樹脂組成物を用いた絶縁電線に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えば自動車や電気・電子機器等に配線される絶縁電線の被覆材などの絶縁材料には、樹脂組成物が用いられている。この際、絶縁材料を構成するベース樹脂の改質を目的として、ベース樹脂にフィラーが添加される場合がある。
【0003】
例えば自動車等の絶縁電線においては、環境を考慮して、被覆材のベース樹脂に、ハロゲンを含有しないオレフィン系樹脂が用いられる場合がある。オレフィン系樹脂自体は難燃性が低いため、難燃性を付与する目的で、オレフィン系樹脂にはハロゲンを含有しない難燃剤が添加される場合がある。このような難燃剤としては、例えば水酸化マグネシウムなどの金属水和物などが知られている。
【0004】
例えば特許文献1〜4には、オレフィン系樹脂に水酸化マグネシウムを添加してなる難燃性樹脂組成物を絶縁電線の被覆材に用いることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−83612号公報
【特許文献2】特許第3339154号公報
【特許文献3】特許第3636675号公報
【特許文献4】特開2004−189905号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ベース樹脂にフィラーを添加すると、フィラーの添加量が多くなるにつれて、機械的強度などの物性が低下することがあった。例えば自動車等の絶縁電線においては、被覆材のベース樹脂にオレフィン系樹脂を用いる場合には、難燃性を十分に確保するため、水酸化マグネシウムなどの金属水和物の添加量が多くなりやすい。この場合には、特に耐寒性や耐摩耗性が低下するおそれがあった。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、難燃剤などのフィラーの添加による機械的強度などの物性の低下が抑えられた樹脂組成物およびこれを被覆材に用いた絶縁電線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため本発明に係る樹脂組成物は、ベース樹脂とフィラーとを含有する樹脂組成物であって、ベース樹脂は、二以上のポリオレフィン系樹脂よりなり、かつ、ミクロ相分離しており、フィラーは、一の樹脂相に偏在していることを要旨とするものである。
【0009】
この際、ポリオレフィン系樹脂はポリプロピレンであると良い。さらに、ポリプロピレンはホモポリプロピレンであると良い。
【0010】
また、二以上のポリオレフィン系樹脂のメルトフローレイトは互いに異なっていると良い。このとき、メルトフローレイトの差は3g/10min以上であると良い。さらに、二以上のポリオレフィン系樹脂のうち少なくとも一つの樹脂のメルトフローレイトが5g/10min以下であると良い。
【0011】
そして、フィラーとしては、金属水和物を主成分とする難燃剤を好適に示すことができる。
【0012】
また、本発明に係る絶縁電線は、上記樹脂組成物を導体の外周に被覆してなることを要旨とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る樹脂組成物は、二以上のポリオレフィン系樹脂よりなるベース樹脂がミクロ相分離しており、ベース樹脂に添加されたフィラーが一の樹脂相に偏在している。そのため、フィラーの添加効果が十分に発揮されるとともに、フィラーの添加による機械的強度などの物性の低下が抑えられる。これは、ミクロ相分離構造において一の樹脂相にフィラーが偏在することにより、一の樹脂相でフィラーの添加効果を確保し、他の樹脂相で樹脂本来の物性を確保しているためと推察される。
【0014】
特に、ベース樹脂が、ホモポリプロピレンとホモプロピレンとからなる場合など、同種のポリオレフィン系樹脂からなる場合においても、上記効果を奏する。
【0015】
この際、二以上のポリオレフィン系樹脂のメルトフローレイトが互いに異なっていると、ミクロ相分離構造が形成されやすく、また、一の樹脂相にフィラーが偏在されやすい。特に、メルトフローレイトの差が3g/10min以上ある場合には、確実に、ミクロ相分離構造が形成され、一の樹脂相にフィラーが偏在される。
【0016】
そして、二以上のポリオレフィン系樹脂のうち少なくとも一つの樹脂のメルトフローレイトが5g/10min以下である場合には、耐寒性および耐摩耗性がより一層高まる。
【0017】
そして、本発明に係る絶縁電線によれば、本発明に係る樹脂組成物を被覆材に用いているため、フィラーの添加効果が十分に発揮されるとともに、フィラーの添加による機械的強度などの物性の低下が抑えられる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施例8に係る絶縁電線の被覆材のTEM写真であり、図1(a)は径方向における内側のTEM写真であり、図1(b)は径方向における外側のTEM写真である。
【図2】比較例1に係る絶縁電線の被覆材のTEM写真であり、図2(a)は径方向における内側のTEM写真であり、図2(b)は径方向における外側のTEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本発明の実施形態について詳細に説明する。本発明に係る樹脂組成物(以下、本組成物ということがある。)は、ベース樹脂にフィラーを添加してなるものであり、基本的に、フィラーを添加することによる物性の低下を低減するものである。本組成物には、上記成分以外に、物性を損なわない範囲で、必要に応じて、他の添加剤を適宜配合することができる。他の添加剤としては、例えば、酸化防止剤、銅害防止剤(金属不活性化剤)、紫外線吸収剤、紫外線隠蔽剤、加工助剤(ワックスなど)、顔料などを挙げることができる。
【0020】
本組成物のベース樹脂は、二以上のポリオレフィン系樹脂からなる。本発明においては、二以上のポリオレフィン系樹脂からなるベース樹脂は、ミクロンオーダーで相分離(ミクロ相分離)したミクロ相分離構造を有している。相分離の形態は、特に限定されるものではないが、例えば、一方がマトリックス相(連続相)を形成し、他方が小粒子状の分散相を形成するいわゆる海島構造などを挙げることができる。海島構造においては、分散相の粒子径は、0.01〜10μmの範囲内にあることが好ましい。
【0021】
ベース樹脂が3以上のポリオレフィン系樹脂からなる場合には、ミクロ相分離構造は、2相分離構造であっても良いし、3相以上の相分離構造であっても良い。3相以上の相分離構造においては、例えば一の樹脂相がマトリックス相を形成し、他の樹脂相が2相以上の分散相を形成する構造などを挙げることができる。相分離構造の形態は特に限定されるものではない。
【0022】
ベース樹脂を構成するポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン共重合体等が挙げられる。ポリプロピレンとしては、ホモポリプロピレン、ブロックポリプロピレンなどが挙げられる。エチレン共重合体としては、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体などが挙げられる。
【0023】
ベース樹脂は、同じ種類のポリオレフィン系樹脂のみで構成されていても良いし、異なる種類のポリオレフィン系樹脂で構成されていても良い。同じ種類のポリオレフィン系樹脂とは、例えば一の樹脂がホモポリプロピレンであり、他の樹脂もホモポリプロピレンである場合などである。異なる種類のポリオレフィン系樹脂とは、例えば一方の樹脂がホモポリプロピレンであり、他方の樹脂がブロックポリプロピレンである場合や、一の樹脂がポリプロピレンであり、他の樹脂がポリエチレンである場合、一の樹脂がポリプロピレンであり、他の樹脂がエチレン共重合体である場合などである。
【0024】
ベース樹脂がホモポリプロピレンのみからなる場合など、一種類のポリオレフィン系樹脂のみで構成される場合においては、通常は、同じ種類の二以上のポリオレフィン系樹脂を用いることは考えにくい。さらに、同じ種類の二以上のポリオレフィン系樹脂を用いて相分離させることは考えにくい。異なる種類の樹脂をアロイ化するのではなく、一種類のポリオレフィン系樹脂のみを用いるのであるから、この場合、一つのポリオレフィン系樹脂を用いれば良いところを、あえて同じ種類の二以上のポリオレフィン系樹脂を用いて相分離させるところに特徴がある。
【0025】
ベース樹脂のミクロ相分離構造は、例えば、互いに相溶しにくい異なる種類の樹脂を組み合わせる方法や、異なるメルトフローレイト(MFR)の樹脂を組み合わせる方法などによって得ることができる。このうち、異なるメルトフローレイト(MFR)の樹脂を組み合わせる方法は、樹脂の種類によらないでミクロ相分離が可能であり、例えば同じ種類のポリオレフィン系樹脂のみの構成においてもミクロ相分離できるなど観点から、より好ましい。
【0026】
異なるメルトフローレイト(MFR)の樹脂を組み合わせる場合、ミクロ相分離構造が得られやすいなどの観点から、MFRの差は3g/10min以上であることが好ましい。より好ましくは5g/10min以上、さらに好ましくは7g/10min以上である。一方、MFRの差の上限としては、特に限定されるものではないが、加工性を確保するなどの観点から、好ましくは2000g/10min以下、より好ましくは1000g/10min以下である。メルトフローレイト(MFR)は、JIS K6758に準拠して測定されるものである(温度230℃、荷重2.16Kg)。
【0027】
本組成物のフィラーは、ベース樹脂の改質等を目的としてベース樹脂に添加されるものである。本組成物のフィラーは、二以上のポリオレフィン系樹脂からなるベース樹脂のミクロ相分離構造において、一の樹脂相に偏在している。このように構成されることによって、一の樹脂相ではフィラーの添加による樹脂の改質が期待でき、他の樹脂相では樹脂本来の物性が確保されることが期待できる。これにより、フィラーの添加効果が十分に発揮されるとともに、フィラーの添加による機械的強度などの物性の低下を抑えることができる。
【0028】
ベース樹脂がホモポリプロピレンのみからなる場合など、一種類のポリオレフィン系樹脂のみで構成される場合においては、ベース樹脂にあえて同じ種類の二以上のポリオレフィン系樹脂を用い、同じ種類の樹脂の中で、一のポリオレフィン系樹脂において、樹脂本来の物性よりもフィラーの添加効果を求め、他のポリオレフィン系樹脂において、樹脂本来の物性を求めるようにしたところに特徴がある。
【0029】
フィラーが一の樹脂相に偏在する構造は、上述するように、異なるMFRの樹脂を組み合わせてベース樹脂を構成することなどによって得ることができる。この場合、フィラーは、MFRが比較的小さい樹脂相に偏りやすい。そのため、必要とする樹脂本来の物性は、MFRが比較的大きい樹脂相を構成する樹脂により確保するようにすると良い。
【0030】
本組成物のフィラーとしては、好ましくは、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウムなどの金属水和物、メラミンシアヌレート、カーボンブラック、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸バリウム、タルク、クレー、マイカ、ケイ酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムなどを挙げることができる。より好ましくは、金属水和物、メラミンシアヌレート、カーボンブラックなどを挙げることができる。
【0031】
ベース樹脂を構成するポリオレフィン系樹脂は、コストが低減できるなどの観点から、変性されていない(官能基を有さない)ものが好ましいが、変性されているものであっても良い。すなわち、ベース樹脂は、変性されていないポリオレフィン系樹脂(未変性樹脂)のみで構成されていても良いし、変性されたポリオレフィン系樹脂(変性樹脂)のみで構成されていても良いし、変性樹脂と未変性樹脂との組み合わせにより構成されていても良い。
【0032】
上記変性によりポリオレフィン系樹脂に導入可能な官能基としては、例えば、カルボン酸基(カルボキシル基)、酸無水物基、エポキシ基、ヒドロキシル基、アミノ基、アルケニル環状イミノエーテル基、シラン基などを挙げることができる。これらのうち、1種の官能基のみが導入されていても良いし、2種以上の官能基が導入されていても良い。
【0033】
変性樹脂は、未変性樹脂と比較して、フィラーとの相溶性に優れる傾向があるため、フィラーが一の樹脂相に偏在する構造の形成を促進できる。
【0034】
ポリオレフィン系樹脂に官能基を導入する方法としては、具体的には、官能基を有する化合物をポリオレフィン系樹脂にグラフト重合して、グラフト変性オレフィン重合体とする方法や、官能基を有する化合物とオレフィンモノマとを共重合させてオレフィン共重合体とする方法等が挙げられる。
【0035】
官能基としてカルボキシル基や酸無水物基を導入する化合物としては、具体的には、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸等のα、β−不飽和ジカルボン酸、又はこれらの無水物、アクリル酸、メタクリル酸、フラン酸、クロトン酸、ビニル酢酸、ペンテン酸等の不飽和モノカルボン酸等が挙げられる。
【0036】
官能基としてエポキシ基を導入する化合物としては、具体的には、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、イタコン酸モノグリシジルエステル、ブテントリカルボン酸モノグリシジルエステル、ブテントリカルボン酸ジグリシジルエステル、ブテントリカルボン酸トリグリシジルエステル、α−クロロアクリル酸、マレイン酸、クロトン酸、フマル酸等のグリシジルエステル類、ビニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、グリシジルオキシエチルビニルエーテル、スチレン−p−グリシジルエーテル等のグリシジルエーテル類、p−グリシジルスチレン等が挙げられる。
【0037】
官能基としてヒドロキシル基を導入する化合物としては、具体的には、1−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0038】
官能基としてアミノ基を導入する化合物としては、具体的には、アミノエチル(メタ)アクリレート、プロピルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、アミノプロピル(メタ)アクリレート、フェニルアミノエチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシルアミノエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0039】
官能基としてアルケニル環状イミノエーテル基を導入する化合物としては、具体的には、2−ビニル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン、2−イソプロペニル−5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン等が挙げられる。
【0040】
官能基としてシラン基を導入する化合物としては、具体的には、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリアセチルシラン、ビニルトリクロロシラン等の不飽和シラン化合物が挙げられる。
【0041】
本組成物の製造方法としては、特に限定されるものではなく、公知の方法を用いることができる。本組成物は、例えば、バンバリミキサー、加圧ニーダー、混練押出機、二軸混練押出機、ロール等の通常の混練機で溶融混練して均一に分散することで製造することができる。
【0042】
以上の構成の本発明に係る樹脂組成物は、例えば、自動車、電気・電子機器等に配線される絶縁電線の被覆材などに好適に用いることができる。
【0043】
次に、本発明に係る絶縁電線について説明する。本発明に係る絶縁電線は、上記本発明に係る樹脂組成物を導体の外周に被覆してなる。本発明に係る絶縁電線は、自動車、電気・電子機器等に配線される絶縁電線に好適である。
【0044】
本発明に係る絶縁電線においては、導体径や本発明に係る樹脂組成物よりなる絶縁材の厚み等は特に限定されず、絶縁電線の用途などに応じて適宜決めることができる。導体は、通常の絶縁電線に使用される銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金などの金属が利用できる。絶縁材は、単層であっても良いし、2層以上の層により構成されていても良い。
【0045】
絶縁材のベース樹脂としては、耐摩耗性に優れるなどの観点から、ポリプロピレンが好ましい。ベース樹脂は、ホモポリプロピレンのみで構成されていても良いし、ホモポリプロピレンとブロックポリプロピレンとにより構成されていても良い。ベース樹脂は、より一層耐摩耗性に優れるなどの観点から、ホモポリプロピレンのみで構成されているものが特に好ましい。ベース樹脂がホモポリプロピレンのみで構成されている場合においても、自動車等の絶縁電線において要求される耐寒性を満足させることができる。
【0046】
ベース樹脂を構成するポリオレフィン系樹脂の弾性率は、より耐摩耗性の向上を図ることができるなどの観点から、より好ましくは2100MPa以上、さらに好ましくは2200MPa以上である。一方、弾性率の上限としては、低温特性(低温での巻き付け試験で絶縁電線に亀裂が入らないこと)に優れるなどの観点から、好ましくは4000MPa、より好ましくは3500MPa、さらに好ましくは3000MPaである。弾性率は、JIS K7161に準拠して測定されるものである。
【0047】
ベース樹脂を構成するポリオレフィン系樹脂のMFRは、成形性に優れるなどの観点から、0.5〜5g/10minの範囲内にあることが好ましい。より好ましくは、0.8〜4.5g/10minの範囲内である。また、ベース樹脂は、MFRが5g/10min以下のポリオレフィン系樹脂と、MFRが5g/10min超のポリオレフィン系樹脂とを含有することが好ましい。耐摩耗性、成形性などの物性のバランスに優れる被覆材が得られやすいからである。
【0048】
MFRが5g/10min以下のポリオレフィン系樹脂においては、より好ましくはMFRが3g/10min以下、さらに好ましくはMFRが1g/10min以下であると良い。一方、MFRが5g/10min超のポリオレフィン系樹脂においては、より好ましくはMFRが10g/10min超、さらに好ましくはMFRが15g/10min超であると良い。これにより、MFRの差が大きくなりやすく、MFRの差が大きいほど、より弾性率の高いポリオレフィン系樹脂の特性が発揮されやすくなり、耐摩耗性の向上が期待できる。
【0049】
ベース樹脂を構成するポリオレフィン系樹脂の重量平均分子量は、1000〜1000000の範囲内にあることが好ましい。分子量が1000未満では、耐摩耗性の向上効果が低下するおそれがある。一方、分子量が1000000を超えると、加工性が悪くなるおそれがある。
【0050】
ベース樹脂のポリオレフィン系樹脂が官能基を有している場合には、絶縁材と導体との密着性が向上しやすい。これにより、低温においても、絶縁材は導体から剥がれにくくなるため、耐寒性がさらに向上する。また、絶縁材表面に摩擦力(外力)が負荷された場合においても、絶縁材と導体との界面は裂けにくくなるため、耐摩耗性もさらに向上する。
【0051】
絶縁材のフィラーとしては、難燃性を付与するなどの観点から、金属水和物を挙げることができる。金属水和物のうちでは、難燃性、コスト、ハンドリング性などの観点から、水酸化マグネシウムが好ましい。水酸化マグネシウムは、天然鉱物から得られるものであっても良いし、海水中のマグネシウム成分から得られるものであって良い。
【0052】
フィラーの粒径は、平均粒径で0.1〜20μm、好ましくは0.2〜10μm、更に好ましくは0.5〜5μmである。フィラーの平均粒径が0.1μm未満では、二次凝集が起り易く、機械的特性が低下しやすい。またフィラーの平均粒径が20μmを超えると、絶縁材の外観不良となるおそれがある。
【0053】
フィラーのうち、金属水和物の配合量は、ベース樹脂100質量部に対し、通常、30〜250質量部の範囲であれば、自動車等の絶縁電線に要求される難燃性が得られる。より好ましい金属水和物の配合量は、ベース樹脂100質量部に対し、50〜200質量部であり、さらに好ましくは60〜180質量部である。
【0054】
金属水和物は、表面が表面処理剤により表面処理されていてもよい。表面処理剤としては、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン等のα−オレフィンの単独重合体、もししくは相互共重合体、あるいはそれらの混合物等が用いられる。また上記の表面処理剤は変性されていてもよい。
【0055】
表面処理剤の変性は、例えば、不飽和カルボン酸やその誘導体等を変性剤として用い、上記のαオレフィン重合体等の重合体にカルボキシル基(酸)を導入して酸変性する方法が挙げられる。上記変性剤としては具体的には、不飽和カルボン酸としてはマレイン酸、フマル酸等が挙げられ、その誘導体としては無水マレイン酸(MAH)、マレイン酸モノエステル、マレイン酸ジエステル等が挙げられる。変性剤としては、マレイン酸、無水マレイン酸が好ましい。またこれらの変性剤は、単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。表面処理剤に酸を導入する酸変性方法としては、グラフト重合や直接法等が挙げられる。また、酸変性量としては、変性剤の使用量として、通常、重合体に対して0.1〜20質量%程度であり、好ましくは0.2〜10質量%、更に好ましくは0.2〜5質量%である。
【0056】
金属水和物を表面処理剤で処理する際の表面処理方法は特に限定されず、各種処理方法を用いることができる。金属水和物の表面処理方法としては、例えば、金属水和物の粉砕等と同時に行う方法や、予め粉砕等した金属水和物と表面処理剤を混合して後から処理する方法が挙げられる。また、処理方法としては、溶媒を用いた湿式処理方法、溶媒を用いない乾式処理方法のいずれでもよい。
【0057】
金属水和物の湿式処理に用いられる溶媒は、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族系炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族系炭化水素等が用いられる。また、金属水和物の表面処理は、本組成物の調製時に、金属水和物とベース樹脂等に表面処理剤を加えて組成物を混練する際に同時に処理を行う方法でもよい。
【0058】
以上の構成の本発明に係る絶縁電線において、例えば被覆材のベース樹脂にポリプロピレン(特にホモポリプロピレン)を用い、フィラーとして金属水和物を添加した場合には、十分な難燃性を有するとともに、金属水和物の添加による機械的強度などの物性の低下が抑えられ、耐寒性、耐摩耗性等に優れる。
【実施例】
【0059】
以下に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0060】
(実施例および比較例)
表1に記載の成分組成(質量部)となるように、ベース樹脂、金属水和物、添加剤を加え、二軸混練機を用いて200℃で混合した後、ペレタイザーにてペレット状に成形して樹脂組成物のペレットを得た。このペレットを押出成形機により、軟銅線を7本撚り合わせた軟銅撚線の導体(断面積:0.5mm)の外周に0.2mm厚で押出して、樹脂組成物からなる絶縁材により導体が被覆された絶縁電線を得た。
【0061】
実施例及び比較例で得られた絶縁電線を用いて、耐寒性試験及び耐摩耗性試験を行った。試験の結果を表1に示す。耐寒性試験方法及び耐摩耗性試験方法は下記の通りである。また、実施例8および比較例1については、電子顕微鏡により断面観察を行なった。その観察結果を図1および図2に示す。
【0062】
〔耐寒性試験方法〕
JIS C3005に準拠して行った。すなわち、実施例、比較例の絶縁電線を38mmの長さに切断し試験片とし、試験片を耐寒性試験機に装着し、所定の温度まで冷却し、打撃具で打撃して、試験片の打撃後の状態を観察した。5本の試験片を用いて、5本の試験片が全て割れた温度を耐寒温度とした。
【0063】
〔耐摩耗性試験方法〕
社団法人自動車技術規格「JASO D611−94」に準拠して、ブレード往復法により試験を行った。すなわち、実施例、比較例の絶縁電線を750mmの長さに切り出して試験片とした。そして、23±5℃の室温下で試験片の被覆材(絶縁層)に対し軸方向に10mm以上の長さでブレードを毎分50回の速さで往復させ、導体に接するまでの往復回数を測定した。この際、ブレードにかかる荷重は7Nとした。往復回数が200回を超えた場合を特に良好である(「◎」)とした。
【0064】
〔断面観察方法〕
透過型電子顕微鏡(日立製作所社製、「H800」)を用いて、絶縁電線の絶縁材の断面を観察した。
【0065】
【表1】

【0066】
(ベース樹脂)
・FL6H:ホモポリプロピレン、日本ポリプロ社製、未変性
・FY6C:ホモポリプロピレン、日本ポリプロ社製、未変性
・EA9BT:ホモポリプロピレン、日本ポリプロ社製、未変性
・J106MG:ホモポリプロピレン、プライムポリマー社製、未変性
・J108M:ホモポリプロピレン、プライムポリマー社製、未変性
・MA3AHTA:ホモポリプロピレン、日本ポリプロ社製、未変性
・PS201A:ホモポリプロピレン、サンアロマー社製、未変性
・EC7:ブロックポリプロピレン、日本ポリプロ社製、未変性
・EC9:ブロックポリプロピレン、日本ポリプロ社製、未変性
・BJS−MU:ブロックポリプロピレン、プライムポリマー社製、未変性
・E−185G:ブロックポリプロピレン、プライムポリマー社製、未変性
・PB170A:ブロックポリプロピレン、サンアロマー社製、未変性
(金属水和物)
・水酸化マグネシウム:協和化学工業社製、商品名「キスマ5A」
(添加剤)
・酸化防止剤:チバスペシャリティケミカルズ社製、商品名「イルガノックス1010」
【0067】
比較例1では、一つのホモポリプロピレンのみからなるベース樹脂を用いている。これに対し、実施例1〜7では、二つのホモポリプロピレンからなるベース樹脂を用いている。実施例1〜7によれば、比較例1よりも耐摩耗性に優れる。
【0068】
比較例2では、MFRが互いに同じであるホモポリプロピレンとブロックポリプロピレンとからなるベース樹脂を用いている。これに対し、実施例8〜12では、MFRが互いに異なるホモポリプロピレンとブロックポリプロピレンとからなるベース樹脂を用いている。実施例8〜12によれば、比較例2よりも耐摩耗性に優れる。
【0069】
実施例8の絶縁電線について、被覆材中におけるフィラーの分散状態を観察した。具体的には、絶縁電線の径方向の断面において、中心からの位置が異なる2点(内側と外側)のTEM写真をそれぞれ撮影し、これらを対比観察した。TEM写真を図1に示す。図1(a)は内側の写真であり、図1(b)は外側の写真である。これを見ると、外側と比較して内側のフィラーの量が多くなっており、被覆材中でフィラーが偏在していることが分かる。
【0070】
これに対し、ベース樹脂が1つのホモポリプロピレンのみからなる比較例1の絶縁電線について、被覆材中におけるフィラーの分散状態を観察したところ、図2に示すように、内側(図2(a))および外側(図2(b))とでフィラーの量に違いが見られず、比較例1では、被覆材中でフィラーが均一に分散していることが分かる。
【0071】
すなわち、実験結果およびこの観察結果から、ベース樹脂をミクロ相分離させ、一方の樹脂相にフィラーを偏在させることによって、耐摩耗性が向上できたことが推測できる。
【0072】
TEM写真による観察は、MFRが異なるホモポリプロピレンとブロックポリプロピレンとからなるベース樹脂を用いた場合について行なったものであるが、同じ種類の樹脂において、例えば異なるMFRの二以上の樹脂を用いた場合にも、同様にベース樹脂がミクロ相分離し、相分離した一の樹脂相にフィラーが偏在されているものと推測される。そして、これによって、実施例1〜7では、比較例1よりも耐摩耗性が向上しているものと推測される。
【0073】
そして、さらに、実施例1〜7と実施例8〜12とを比較すると、ベース樹脂をホモポリプロピレンのみで構成することにより、より一層、耐摩耗性が向上できることが確認できた。
【0074】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベース樹脂とフィラーとを含有する樹脂組成物であって、
前記ベース樹脂は、二以上のポリオレフィン系樹脂よりなり、かつ、ミクロ相分離しており、
前記フィラーは、一の樹脂相に偏在していることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリオレフィン系樹脂は、ポリプロピレンであることを特徴とする請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリプロピレンは、ホモポリプロピレンであることを特徴とする請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記二以上のポリオレフィン系樹脂のメルトフローレイトが互いに異なっていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記メルトフローレイトの差は3g/10min以上であることを特徴とする請求項4に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記二以上のポリオレフィン系樹脂のうち、少なくとも一の樹脂のメルトフローレイトが5g/10min以下であることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記フィラーは、金属水和物を主成分とする難燃剤であることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載の樹脂組成物を導体の外周に被覆してなることを特徴とする絶縁電線。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−209290(P2010−209290A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−59834(P2009−59834)
【出願日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】