説明

樹脂組成物セット

【課題】例えば、縮合型シリコーン樹脂等の湿気硬化性ポリマーの硬化時間を簡便に調節することができ樹脂セットを提供する。
【解決手段】成分(A−1):OH基含有ポリシロキサン、または湿気により縮合可能な官能基を末端に有する湿気硬化性ポリマー、成分(A−2):有機ケイ素架橋剤、成分(A−3):下記成分(B−2)を硬化可能なシラン化合物を含有するA剤;成分(B−1):OH基含有ポリシロキサン、または湿気により縮合可能な官能基を末端に有する湿気硬化性ポリマー、成分(B−2):エポキシ末端または(メタ)アクリル末端ポリマー、成分(B−3):縮合硬化触媒を含有するB剤の組み合わせを含む湿気硬化樹脂組成物セット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコーン樹脂のような湿気硬化が可能な樹脂組成物に関し、より詳細には硬化時間の調整が可能な樹脂組成物の組み合わせに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、シリコーン樹脂硬化物は、エラストマー性を有し、かつ耐水性、耐熱性、耐薬品性等に優れるために種々の分野においてシール剤、接着剤等として使用されている。
【0003】
縮合型シリコーン樹脂は、末端シラノール基を有するオルガノポリシロキサンと、末端シラノール基と反応可能な官能基を有する多官能性の有機ケイ素架橋剤とを組み合わせて製造され、ポリシロキサンの末端のそれぞれが、通常2個以上の官能基を有する構造を有する。縮合型シリコーン樹脂は、湿気により縮合反応が進み、その結果架橋したオルガノポリシロキサンのネットワーク構造を形成する。
【0004】
このようなシリコーン樹脂は、たとえば、建造物の各種構造体と建築材料との間のギャップ、配管設備と各種建築構造体との間のギャップ、自動車や航空機のような乗物の構造用パネルと外装用パネルとの間のギャップをシール(密封)する弾性シーリング材料として、各種電気器具および機械のシーリング材料として、各種コーキングおよびシーリング用途、および接着用途に広く用いられている。
【0005】
また、自動車のエンジン分野においても、FIPG(formed−in−place−gasket)として使用されている。FIPGは、エンジンブロック、オイルパン、エンジンカバー等の部材をフランジ部で接合する際に、フランジ部に未硬化の縮合型液状シリコーン樹脂を吐出して、その場で硬化させて、シールを形成する方法である。この方法により、フランジの形状や表面の凹凸に左右されることなくラインで自動化でき、そのため品質面、コスト面で従来の定形ガスケットにはない利点が得られる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO00/43644(特表2002−535545号公報)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上述のとおり縮合型シリコーン樹脂は空気中の湿気により硬化が進行するため、高温で湿度の高い夏には硬化時間が短く充分な作業時間が取れない場合があり、一方、温度が低く乾燥している冬には硬化時間が極めて長くなってしまう場合があった。
【0008】
本発明は、この問題に鑑み、縮合型シリコーン樹脂等の湿気硬化型ポリマーの硬化時間を簡便に調節する手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は以下の事項に関する。
【0010】
1. 下記成分(A−1)〜(A−3)を含有するA剤:
成分(A−1):OH基含有ポリシロキサン、または湿気により縮合可能な官能基を末端に有する湿気硬化性ポリマー
成分(A−2):有機ケイ素架橋剤
成分(A−3):下記成分(B−2)を硬化可能なシラン化合物
および下記成分(B−1)、(B−2)および任意成分として(B−3)を含有するB剤:
成分(B−1):OH基含有ポリシロキサン、または湿気により縮合可能な官能基を末端に有する湿気硬化性ポリマー
成分(B−2):エポキシ末端または(メタ)アクリル末端ポリマー
成分(B−3):縮合硬化触媒
の組み合わせを含む湿気硬化樹脂組成物セット。
【0011】
2. 成分(A−1)および成分(B−1)のOH基含有ポリシロキサンが、下記一般式(I)で表されるポリシロキサンであることを特徴とする上記1記載の組成物セット。
【0012】
【化1】

(式中、R、RおよびRは互いに独立にH、OH基、またはフッ素で置換されていてもよい一価の炭化水素基を示し、その際、RおよびRは、異なるSi原子上で異なる基であってもよく、RはH、またはフッ素で置換されていてもよい一価の炭化水素基を示す。但し、Rがフッ素で置換されていてもよい一価の炭化水素基であるときは、すべてのRおよびR、並びにRのうち、少なくとも1つはOH基である。nは、25℃における粘度が10〜10,000,000cpとなるように選択される。)
3. 前記成分(A−1)および(B−1)のOH基含有ポリシロキサンが、前記式(I)において、RおよびRがHまたは一価の炭化水素基、RがOH基、RがHであるOH基末端ポリシロキサンであることを特徴とする上記2記載の組成物セット。
【0013】
4. 前記成分(A−1)および成分(B−1)のOH基含有ポリシロキサンが、前記式(I)において、RおよびRがメチル基、RがOH基、RがHであるOH基末端ポリジメチルシロキサンであることを特徴とする上記3記載の組成物セット。
【0014】
5. 前記成分(A−1)の湿気硬化性ポリマーが有している湿気により縮合可能な官能基が、OH基との反応によりカルボン酸類、アルコール類、オキシム類、アミン類、アミド類、アミノキシ類、ケトン類、水素分子および水からなる群より選ばれる化合物の脱離が可能な置換シリル基であることを特徴とする上記1記載の組成物セット。
【0015】
6. 前記有機ケイ素架橋剤が、OH基との反応によりカルボン酸類、アルコール類、オキシム類、アミン類、アミド類、アミノキシ類、ケトン類、水素分子および水からなる群より選ばれる化合物が脱離する架橋剤であることを特徴する上記1〜5のいずれかに記載の組成物セット。
【0016】
7. 前記成分(A−3)のシラン化合物が、アミノアルキル基と加水分解性基を有するシラン化合物であることを特徴とする上記1〜6のいずれかに記載の組成物セット。
【0017】
8. 前記成分(B−2)のエポキシ末端またはアクリル末端ポリマーが、エポキシ末端またはアクリル末端を有するポリシロキサンであることを特徴とする上記1〜7のいずれかに記載の組成物セット。
【0018】
9. 前記縮合硬化触媒が、スズ化合物またはチタン化合物であることを特徴とする上記1〜8のいずれかに記載の組成物セット。
【0019】
10. 前記成分(A−1)のOH基含有ポリシロキサンのOH基のモル数、または湿気硬化性ポリマーの湿気縮合可能な官能基のモル数に対して、前記成分(A−2)の有機ケイ素架橋剤の反応基のモル数が、10倍以上であることを特徴とする上記1記載の組成物セット。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、縮合型シリコーン樹脂のような湿気硬化型ポリマーの硬化時間を簡便に調節することができる。このため、縮合型シリコーン樹脂等を使用したシール工程または接着工程の作業効率を向上することができる。さらに、本発明の組成物セットを用意することにより、使用環境や目的に合わせた硬化性樹脂製品を多種類用意する必要がない。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本出願において、「(メタ)アクリル」、「(メタ)アクリレート」、「(メタ)アクリロイル」等の表記は、慣用されているように、「メタクリルまたはアクリル」、「メタクリレートまたはアクリレート」、「メタクリロイルまたはアクリロイル」等をそれぞれ表す。
【0022】
<成分(A−1)の説明>
成分(A−1)は、OH基含有ポリシロキサン、または湿気により縮合可能な官能基を末端に有する湿気硬化性ポリマーである。
【0023】
OH基含有ポリシロキサンは、Siに結合したOH基を1個以上、好ましくは2個以上含有するポリシロキサンであり、他の成分と混合できるためには液状のものが好ましい。好ましいOH基含有ポリシロキサンは、一般式(I):
【0024】
【化2】

で表されるものであり、この式中、R、RおよびRは互いに独立にH、OH基、またはフッ素で置換されていてもよい一価の炭化水素基を示し、その際、RおよびRは、異なるSi原子上で異なる基であってもよく、RはH、またはフッ素で置換されていてもよい一価の炭化水素基を示す。但し、Rがフッ素で置換されていてもよい一価の炭化水素基であるときは、すべてのRおよびR、並びにRのうち、少なくとも1つはOH基である。nは、25℃における粘度が所望の粘度となるように選択され、通常は10〜10,000,000cpとなるように選択される。
【0025】
式(I)のポリシロキサン中には、1以上のOH基が含まれるが、2つ以上のOH基が含まれることが好ましい。
【0026】
〜Rがとりうるフッ素で置換されていてもよい一価の炭化水素基としては、炭素数20までの直鎖状または環状脂肪族炭化水素基、アリール基、およびこれらの基において少なくとも1つの水素がフッ素で置換されている基が挙げられる。好ましくは、メチル、エチル、プロピル、n−ブチル、s−ブチル、t−ブチル、ヘキシル、オクチル等の炭素数12まで、さらに好ましくは8までのアルキル基;シクロヘキシルおよびシクロペンチル等の炭素数6〜12の環状アルキル基;ビニルおよびアリル等の炭素数12まで、さらに好ましくは8までのアルケニル基;フェニル、メチルフェニル、エチルフェニル、イソプロピルフェニル、キシリル、メシチリル、ナフチリル等のアリール基、好ましくは1つのベンゼン環のみを有するアリール基;3,3,3−トリフルオロプロピル等の炭素数12まで、さらに好ましくは8までのフルオロアルキル基を挙げることができる。通常は、フッ素置換されていないものが入手も容易であり好ましい。
【0027】
OH基含有ポリシロキサンは、特に好ましくは、RがOH基であり、RがHである両末端がOH基であるOH基末端ポリシロキサンであり、従って、次の式(Ia)で表される。
【0028】
【化3】

ここで、RおよびRがHまたはフッ素で置換されていてもよい一価の炭化水素基であることが好ましい。特にRおよびRが共にメチル基、または一方がメチル基でもう一方がフェニル基もしくはHであるものが好ましい。最も好ましくはRおよびRが共にメチル基である。
【0029】
また、OH基含有ポリシロキサンは、単独で用いても、または2種以上の混合物を用いてもよい。
【0030】
本発明で用いるOH基含有ポリシロキサンの粘度(または式(I)におけるn)は、他の成分を混合できる範囲の液状であれば特に制限はなく、通常10cp〜10,000,000cpの範囲であり、特に100〜1,000,000の範囲、さらに1,000〜100,000の範囲が好ましい。ポリシロキサンが式(I)で表されるときは、そのような粘度になるようにnが選ばれる。
【0031】
また、成分(A−1)の湿気により縮合可能な官能基を末端に有する湿気硬化性ポリマーは、例えば加水分解性シリル基のような官能基を有するポリマーである。
【0032】
加水分解性シリル基は、例えばOH基(水分等)との反応によりカルボン酸類、アルコール類、オキシム類、アミン類、アミド類、アミノキシ類、ケトン類、水素分子および水からなる群より選ばれる化合物の脱離が可能な置換シリル基である。このような置換シリル基は、例えば
−SiY(3−b) (II)
で表されるものが挙げられる。ここでYは各々独立してH、OH基、アルコキシ基、オキシモキシ基(−O−N=CR;但しRおよびRはアルキル基等の炭化水素基)、アルケノキシ基、アミノ基、アミド基、アミノキシ基またはアシルオキシ基である。Yは各々独立して炭素数20程度までの炭化水素基であり、例えばC〜C20アルキル基、C〜C20アルケニル基、炭素数20までのアリール基またはフルオロアルキル基である。bは、0、1または2、好ましくは0または1である。
【0033】
は、アルコキシ基、オキシモキシ基、アルケノキシ基、アミノ基、アミド基、アミノキシ基またはアシルオキシ基が好ましく、さらに好ましくは、メトキシ基、エトキシ基、メチルエチルオキシモキシ基(−O−N=C(CH)C)、イソプロペノキシ基(−O−C(CH)=CH)、シクロヘキシルアミノ基(−NH−cyclohexyl)、アルキルカルボニル−N−アルキルアミノ基(メチルカルボニル−N−メチルアミノ基〔−NR−C(O)R〕等、但しRはアルキル基)、ジアルキルアミノオキシ基(ジメチルアミノオキシ基等)である。
【0034】
は、好ましくはC〜Cアルキル、C〜Cアルケニル、フェニル基であり、さらに好ましくはメチル基、エチル基、ビニル基である。
【0035】
前記式(II)の置換シリル基を有するポリマーの主鎖部分は、例えばポリ(メタ)アクリレート、ポリアルキレン等であり、これらは末端シリル変性ポリ(メタ)アクリレート、末端シリル変性ポリエーテルポリオール等として知られている。
【0036】
本発明において、硬化物特性としてシリコーンゴム特性が求められる場合には、成分(A−1)は、OH基含有ポリシロキサンが好ましい。
【0037】
<成分(A−2)の説明>
次に成分(A−2)は、縮合型液状シリコーンゴムの硬化剤として知られているものが、好適に使用される。これらの硬化剤は、OH基と反応して、カルボン酸類、アルコール類、オキシム類、アミン類、アミド類、アミノキシ類、ケトン類、水素分子または水等が脱離するような化合物である。
【0038】
このような有機ケイ素架橋剤としては、例えば一般式(III):
(4−a)−Si−X (III)
で表されるものが挙げられる。ここでXは各々独立してH、OH基、アルコキシ基、オキシモキシ基、アルケノキシ基、アミノ基、アミド基、アミノキシ基またはアシルオキシ基である。Xは各々独立して炭素数20程度までの炭化水素基であり、例えばC〜C20アルキル基、C〜C20アルケニル基、炭素数20までのアリール基またはフルオロアルキル基である。aは、0、1または2、好ましくは0または1である。
【0039】
は加水分解性の基が好ましく、アルコキシ基、オキシモキシ基、アルケノキシ基、アミノ基、アミド基、アミノキシ基またはアシルオキシ基が好ましく、さらに好ましくは、メトキシ基、エトキシ基、メチルエチルオキシモキシ基(−O−N=C(CH)C)、イソプロペノキシ基(−O−C(CH)=CH)、シクロヘキシルアミノ基(−NH−cyclohexyl)、アルキルカルボニル−N−アルキルアミノ基(メチルカルボニル−N−メチルアミノ基〔−NR−C(O)R〕等、但しRはアルキル基)、ジアルキルアミノオキシ基(ジメチルアミノオキシ基等)である。
【0040】
は、好ましくはC〜Cアルキル、C〜Cアルケニル、フェニル基であり、さらに好ましくはメチル基、エチル基、ビニル基である。
【0041】
成分(A−1)のOH基含有ポリシロキサンと成分(A−2)が混合されたとき、2つの成分が反応し、ポリシロキサンの末端が、式(IV):
Si−O−SiX(3−a) (IV)
で表される構造に変化する。式(IV)の末端を有するポリシロキサンは、湿気により縮合・架橋が可能である。
【0042】
また成分(A−2)は、後述するB剤中の成分(B−1)のOH基含有ポリシロキサンとも同様の反応を行う。
【0043】
<成分(A−3)の説明>
成分(A−3)は、後述する成分(B−2)のエポキシ末端またはアクリル末端ポリマーを硬化可能なシラン化合物である。従って、成分(A−3)のシラン化合物は、エポキシ基またはアクリル基と反応する官能基、好ましくはアミノ基を有する。アミノ基は、Siに直接ではなく、炭化水素基を介してSiに結合していることが好ましい。特に好ましくは、アミノアルキル基であり、式(V):
−R−NR (V)
で表される。式中、Rは、好ましくは炭素数1〜10程度のアルキレン基である。RおよびRは、互いに独立してHまたは1価の炭化水素基を表し、好ましくはRおよびRの少なくとも1つはHであり、1価の炭化水素基としては、好ましくは炭素数1〜10程度のアルキル基が挙げられる。
【0044】
成分(A−3)のシラン化合物は、加水分解基を有していることが好ましい。これは成分(A−3)が余剰であった場合にも、縮合反応により低分子状態で残存しないからである。加水分解基は、好ましくは前述の有機ケイ素架橋剤、式(III)中のXで定義された基が好ましく、特に、メトキシ、アルコキシ、プロポキシ、ブトキシ等の炭素数1〜8程度までのアルコキシ基が好ましい。
【0045】
従って、成分(A−3)の好ましいシラン化合物は、式(VI):
(4−c)−Si−(R−NR (VI)
で表される。ここで、cは、1、2または3、好ましくは1または2、より好ましくは1である。
【0046】
<A剤中の配合割合>
A剤中の成分(A−1)から(A−3)の配合割合を説明する。本発明では、成分(A−1)のOH基または縮合可能な官能基に対して、過剰の成分(A−2)を配合することが1つの特徴である。もし成分(A−1)のOH基または縮合可能な官能基に対して、成分(A−2)が少ない量で配合されていると(例えば等モル程度の量)、特に高温・高湿度の条件では縮合硬化反応が急速に進むため作業時間が不足するので好ましくない。一方、成分(A−2)が過剰に配合されていると、空気中の水分が最初に成分(A−2)の有機ケイ素架橋剤と反応するため、成分(A−1)の硬化反応が遅延し、特に低温・低湿度条件下では、硬化がほとんど進行しないこともある。しかし、本発明の湿気硬化樹脂組成物セットにおいては、作業環境に合わせて、B剤の必要量をA剤と混合することで硬化時間を調節するものである。
【0047】
従って、A剤中で、成分(A−2)は、想定される最も高湿度の条件下においても作業時間が確保できるように過剰に配合することが好ましい1。好ましくは、成分(A−1)のOH基または縮合可能な官能基に対して、成分(A−2)の有機ケイ素架橋剤の配合量が、5倍モル以上、より好ましくは10倍モル以上である。成分(A−2)の配合量があまりに多すぎると、A剤に混合するB剤の量が多く必要になり、両者のバランスが悪くなって使い勝手が悪くなることがあるので、一般的には、500倍モル以下、好ましくは200倍モル以下、より好ましくは100倍モル以下程度である。
【0048】
成分(A−3)は、想定されるA剤とB剤の混合範囲も考慮し、後述する成分(B−2)を硬化するのに必要な量以上が配合されていればよい。A剤中での配合としては、成分(A−2)に対して、質量比で0.01〜10程度、好ましくは0.05〜1程度の量である。
【0049】
次にB剤について説明する。B剤をA剤に混合すると、A剤単独に比べ、湿気による硬化が促進される。
【0050】
<成分(B−1)の説明>
成分(B−1)のOH基含有ポリシロキサン、または湿気により縮合可能な官能基を末端に有する湿気硬化性ポリマーとしては、成分(A−1)で説明したものと同じ材料を使用することができる。成分(A−1)がOH基含有ポリシロキサンであるときは、成分(B−1)もOH基含有ポリシロキサンが好ましく、特に好ましくは同一のポリシロキサンであり、但し、成分(A−1)が混合物であるときは、成分(B−1)も同一の混合物であるか、または成分(A−1)の混合物の少なくとも1つ、またはすべてを含有する混合物が好ましい。同様に、成分(A−1)が湿気により縮合可能な官能基を末端に有する湿気硬化性ポリマーであるときは、成分(B−1)も湿気により縮合可能な官能基を末端に有する湿気硬化性ポリマーが好ましく、特に好ましくは同一のポリマーであり、成分(A−1)が混合物であるときは、成分(B−1)も同一の混合物であるか、または成分(A−1)の混合物の少なくとも1つ、またはすべてを含有する混合物が好ましい。
【0051】
B剤がA剤に混合されると、成分(A−1)に成分(B−1)が加わるため、「OH基含有ポリシロキサンまたは湿気硬化性ポリマー」に対する成分(A−2)の割合が変わり、成分(B−1)成分の混合だけでも、より少ない湿気(水分)により樹脂が硬化可能になり、硬化時間が短縮される。
【0052】
<成分(B−2)の説明>
成分(B−2)のエポキシ末端または(メタ)アクリル末端ポリマーは、ポリマーの末端にエポキシ基または(メタ)アクリル基(=(メタ)アクリロイルオキシ基)を有し、A剤とB剤が混合されたときに、A剤中の成分(A−3)により、硬化する成分である。ここで成分(B−2)の「ポリマー」部分は、ダイマーおよびオリゴマーを含む。また、成分(B−2)は好ましくは液状であり、液状になるように繰り返し単位の数(重合度)および分子量が選ばれる。
【0053】
シリコーンゴムとしての特性が求められるとき、成分(B−2)は好ましくはエポキシ末端または(メタ)アクリル末端ポリシロキサンである。エポキシ末端ポリシロキサンとしては、例えば、式VIIa:
【0054】
【化4】

で示される化合物である。式中、R11およびR12は、同一または異なってもよく、異なるSi原子上で異なる意味を有してもよく、それぞれ、一価の炭化水素基を表し、好ましくは炭素数20までの直鎖状または環状脂肪族炭化水素基、またはアリール基を表し、最も好ましくは、メチル、エチルおよびフェニルを表す。R13およびR14は、同一または異なってもよく、好ましくは同一であり、それぞれ、2価の炭化水素基を表し、好ましくは炭素数20まで、より好ましくは8までの直鎖または分岐脂肪族炭化水素基を表し、さらに好ましくはエチレン、1,2−または1,3−プロピレン、ブチレンを表す。mは、0以上の数を表し、好ましくは、この化合物が液状であるようにmが選ばれる。
【0055】
(メタ)アクリル末端ポリシロキサンとしては、例えば、式VIIb:
【0056】
【化5】

で示される化合物である。式中、R11、R12、R13、R14、mは、式(VIIa)で定義されたものと同じ意味を有し、そこで好ましい範囲も同じであり、R15はHまたはメチル基を表す。
【0057】
<成分(B−3)の説明>
縮合硬化触媒は、硬化を促進するために用いられ、B剤中に存在しても存在しなくてもよい任意成分である。但し、特に30分程度以内の時間で硬化させるためには、存在することが好ましい。縮合硬化触媒としては、従来より縮合型シリコーン組成物の硬化触媒として用いられるものから適宜選択して使用することができる。
【0058】
具体的には、ジブチルすずジラウレート、ジブチルすずジオクトエート、ジブチルすずジアセテート、ジブチルすず−2−エチルヘキソエート、鉄−2−エチルヘキソエート、コバルト−2−エチルヘキソエート、マンガン−2−エチルヘキソエート、亜鉛−2−エチルヘキソエート、カプリル酸第一すず、ナフテン酸すず、オレイン酸すず、ブチル酸すず、ナフテン酸すず、ナフテン酸亜鉛、ナフテン酸コバルト、ステアリン酸亜鉛などの有機カルボン酸の金属塩;テトラブチルチタネート、テトラ−2−エチルヘキシルチタネート、トリエタノールアミンチタネート、テトラ(イソプロペニルオキシ)チタネートなどの有機チタン酸エステル;オルガノシロキシチタン、β−カルボニルチタンなどの有機チタン化合物;アルコキシアルミニウム化合物;3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(トリメトキシシリルプロピル)エチレンジアミンなどのアミノアルキル基置換アルコキシシラン;ヘキシルアミン、リン酸ドデシルアミンなどのアミン化合物およびその塩;ペンジルトリエチルアンモニウムアセテートなどの第4級アンモニウム塩;酢酸カリウム、酢酸ナトリウム、しゅう酸リチウムなどのアルカリ金属の低級脂肪酸塩;ジメチルヒドロキシルアミン、ジエチルヒドロキシルアミンなどのジアルキルヒドロキシアミン等を挙げることができる。
【0059】
一般に多用されているものは、スズを含むスズ化合物およびチタンを含むチタン化合物であり、本発明においても好ましく使用することができる。
【0060】
<B剤中の配合割合>
B剤中の成分(B−1)から(B−3)の配合割合を説明する。成分(B−2)の割合は、比較的広い範囲で変更することが可能であるが、A剤およびB剤の混合樹脂組成物に、より速い硬化をもたらすのに充分な量が配合されることが必要である。成分(B−2)の配合量を多くするに従ってB剤の硬化促進効果を高くなるが、成分(B−2)が多すぎると、A剤に対してごく少量のB剤の混合で硬化が促進される結果、作業時間の制御が困難になる場合もあるので、B剤の混合量で硬化促進を制御できる程度の量を適宜選択することが好ましい。
【0061】
100質量部の成分(B−1)に対して、成分(B−2)は、好ましくは0.05〜20質量部、より好ましくは0.2〜10質量部、さらに好ましくは0.5〜5質量部の量で配合される。
【0062】
成分(B−3)の硬化触媒の使用量は、通常は成分(B−1)100重量部に対して、例えば0.01重量部〜30重量部であり、好ましくは0.05重量部〜10重量部である。
【0063】
<その他の成分>
A剤およびB剤は、流動性、塗布特性、保存性、硬化特性、硬化後の物性等の性質を改良または変更するために、さらに添加剤、樹脂成分等を含有することができる。
【0064】
必要により含有することができる成分としては、例えば有機または無機フィラー、チキソ性付与剤、シランカップリング剤、希釈剤、改質剤、顔料および染料等の着色剤、界面活性剤、保存安定剤、可塑剤、滑剤、消泡剤、レベリング剤等が挙げられるがこれらに限定されない。特に、フィラーを含有することが好ましい。
【0065】
フィラーとしては、特に限定されないが、例えばシリカ、珪藻土、アルミナ、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化マグネシウム、酸化錫、酸化チタン、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、石膏、炭酸カルシウム、珪酸カルシウム、タルク、ガラスビーズ、セリサイト活性白土、ベントナイト、窒化アルミニウム、窒化珪素等の無機フィラー等が挙げられる。
【0066】
A剤およびB剤は、以上の各成分を、例えば撹拌翼を有する攪拌機、遊星型攪拌機、等の混合機を使用して混合して得ることができる。A剤およびB剤は、使用温度、好ましくは周囲温度(作業環境温度)において液状またはペースト状であり、配合される材料、特に樹脂材料のすべてが液状である必要は必ずしも無い。
【0067】
<湿気硬化樹脂組成物セット・・A剤とB剤の混合>
本発明では、A剤とB剤はそれぞれ別の容器に収納され、そしてA剤とB剤のセットで使用に供され、使用時にA剤とB剤を混合する。A剤とB剤の混合割合は、使用環境、特に温度および湿度を考慮して決められる。高温および高湿度の場合はB剤が少量で済み、場合によってはA剤だけを使用する。低温および低湿度の場合は、B剤を多量に使用する。一般には、A剤100質量部に対して、B剤を0〜500質量部の範囲、より好ましくは0〜200質量部の範囲、さらに好ましくは0〜100質量部の範囲で使用できるように、A剤およびB剤の配合が選ばれることが好ましい。ここでのA剤、B剤の質量には、フィラー等の添加剤成分も含まれる。
【実施例】
【0068】
<配合例>
以下に示す材料を混合して、A剤、B剤を得た。混合に際しては、まず両末端OH基含有ポリジメチルシロキサン(粘度20000cp)と沈殿炭酸カルシウムを充分混合した後、その他の成分を添加してさらに混合した。
【0069】
A剤:
OH末端ポリジメチルシロキサン 50
ビニルトリメチルエチルオキシモキシシラン 3
テトラメチルエチルオキシモキシシラン 2
アミノプロピルトリメトキシシラン 0.5
沈殿炭酸カルシウム 41
ヒュームドシリカ 3.5
合計 100(質量部)
【0070】
B剤:
OH末端ポリジメチルシロキサン 50
1,3−ビス(3−グリシドキシプロピル)テトラメチルジシロキサン 0.5
沈殿炭酸カルシウム 47
ヒュームドシリカ 2.3
ジブチルすずジラウレート 0.2
合計 100(質量部)
【0071】
<硬化試験>
得られたA剤とB剤を表1に示す割合にて混合し、得られた混合樹脂サンプルを用いて硬化試験を行った。
【0072】
スキンオーバータイム:
2mmの厚さの枠に混合樹脂サンプルを流し、表面に硬化膜が形成される時間をスキンオーバータイムとした。
【0073】
硬化厚さ:
10mmの厚さの枠に混合樹脂サンプルを流し、24時間後の硬化厚さを評価した。
【0074】
シェア強度:
幅25mmのアルミニウム板に混合樹脂サンプルを1mm厚で塗布し、もう1枚のアルミニウム板を、長さ方向に10mmオーバーラップさせて重ね合わせた。所定の時間後に、Instron社製 model 4466によりシェア強度を測定した。
【0075】
表1に、23℃、相対湿度50%の条件下で硬化させた評価結果を示す
【0076】
【表1】

【0077】
以上の結果から、A剤とB剤の混合比を変えることで、硬化時間を制御できる。
【0078】
本発明の要旨を外れない限りにおいて、種々の変更が可能である。従って、ここに説明した形態は、例であって、特許請求の範囲に記載した本発明の範囲がこれに限定されるものでない。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明によれば、使用環境および/または目的に合わせて硬化時間を調節することができる湿気硬化樹脂組成物セットを提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分(A−1)〜(A−3)を含有するA剤:
成分(A−1):OH基含有ポリシロキサン、または湿気により縮合可能な官能基を末端に有する湿気硬化性ポリマー
成分(A−2):有機ケイ素架橋剤
成分(A−3):下記成分(B−2)を硬化可能なシラン化合物
および下記成分(B−1)、(B−2)および任意成分として(B−3)を含有するB剤:
成分(B−1):OH基含有ポリシロキサン、または湿気により縮合可能な官能基を末端に有する湿気硬化性ポリマー
成分(B−2):エポキシ末端または(メタ)アクリル末端ポリマー
成分(B−3):縮合硬化触媒
の組み合わせを含む湿気硬化樹脂組成物セット。
【請求項2】
成分(A−1)および成分(B−1)のOH基含有ポリシロキサンが、下記一般式(I)で表されるポリシロキサンであることを特徴とする請求項1記載の組成物セット。
【化1】

(式中、R、RおよびRは互いに独立にH、OH基、またはフッ素で置換されていてもよい一価の炭化水素基を示し、その際、RおよびRは、異なるSi原子上で異なる基であってもよく、RはH、またはフッ素で置換されていてもよい一価の炭化水素基を示す。但し、Rがフッ素で置換されていてもよい一価の炭化水素基であるときは、すべてのRおよびR、並びにRのうち、少なくとも1つはOH基である。nは、25℃における粘度が10〜10,000,000cpとなるように選択される。)
【請求項3】
前記成分(A−1)および(B−1)のOH基含有ポリシロキサンが、前記式(I)において、RおよびRがHまたは一価の炭化水素基、RがOH基、RがHであるOH基末端ポリシロキサンであることを特徴とする請求項2記載の組成物セット。
【請求項4】
前記成分(A−1)および成分(B−1)のOH基含有ポリシロキサンが、前記式(I)において、RおよびRがメチル基、RがOH基、RがHであるOH基末端ポリジメチルシロキサンであることを特徴とする請求項3記載の組成物セット。
【請求項5】
前記成分(A−1)の湿気硬化性ポリマーが有している湿気により縮合可能な官能基が、OH基との反応によりカルボン酸類、アルコール類、オキシム類、アミン類、アミド類、アミノキシ類、ケトン類、水素分子および水からなる群より選ばれる化合物の脱離が可能な置換シリル基であることを特徴とする請求項1記載の組成物セット。
【請求項6】
前記有機ケイ素架橋剤が、OH基との反応によりカルボン酸類、アルコール類、オキシム類、アミン類、アミド類、アミノキシ類、ケトン類、水素分子および水からなる群より選ばれる化合物が脱離する架橋剤であることを特徴する請求項1〜5のいずれかに記載の組成物セット。
【請求項7】
前記成分(A−3)のシラン化合物が、アミノアルキル基と加水分解性基を有するシラン化合物であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の組成物セット。
【請求項8】
前記成分(B−2)のエポキシ末端またはアクリル末端ポリマーが、エポキシ末端またはアクリル末端を有するポリシロキサンであることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の組成物セット。
【請求項9】
前記縮合硬化触媒が、スズ化合物またはチタン化合物であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の組成物セット。
【請求項10】
前記成分(A−1)のOH基含有ポリシロキサンのOH基のモル数、または湿気硬化性ポリマーの湿気縮合可能な官能基のモル数に対して、前記成分(A−2)の有機ケイ素架橋剤の反応基のモル数が、10倍以上であることを特徴とする請求項1記載の組成物セット。

【公開番号】特開2011−84600(P2011−84600A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−236524(P2009−236524)
【出願日】平成21年10月13日(2009.10.13)
【出願人】(500538520)ヘンケル コーポレイション (99)
【氏名又は名称原語表記】HENKEL CORPORATION
【Fターム(参考)】