説明

樹脂組成物

【課題】低粘度で、無機フィラーが沈降しにくい樹脂組成物を提供する。
【解決手段】本発明に係る樹脂組成物は、エポキシ樹脂と無機フィラーと硬化剤とを含み、ポリカルボン酸をさらに含むことを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物に関するものであり、特にエポキシ樹脂と無機フィラーと硬化剤とを含む樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、エポキシ樹脂と無機フィラーと硬化剤とを含む樹脂組成物が知られている。この樹脂組成物は、巻線チップコイルの外装樹脂等、種々の用途に用いられる。一般に、無機フィラーは樹脂組成物の強度確保のために用いられることが多く、樹脂組成物内に均一に分散していることが好ましい。
【0003】
ところが、樹脂組成物内の無機フィラーは時間の経過とともに沈降してしまうという問題がある。無機フィラーが沈降すると、使用前に樹脂組成物を再攪拌することが必要になったり、例えば巻線チップコイルの外装樹脂に使用した場合には硬化物中の無機フィラーの分散性が不均一になってクラックが発生することがある。
【0004】
そして、樹脂組成物内に無機フィラーを均一に分散させ、沈降を防止するための技術として、例えば、特許文献1に記載のものが知られている。
【0005】
特許文献1には、エポキシ樹脂と混合するためのエポキシ用硬化剤組成物として、無機フィラーよりなる第1の粒子と、球状の無機フィラーよりなる第2の粒子からなり、第2の粒子が、その平均粒子径が第1の粒子の平均粒子径の1/500以下である球状の無機フィラーよりなるエポキシ用硬化剤組成物が記載されている。そして、この第1の粒子と第2の粒子の所定量の配合により、無機フィラーの沈降が防止できるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−99690号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1では、第1の粒子と第2の粒子の2種類の無機フィラーが必要であり、無機フィラーの量が増えるため、樹脂組成物の粘度が高く、ハンドリング性が悪いという問題が生じていた。
【0008】
本発明はかかる課題に鑑みてなされたものであって、低粘度で、無機フィラーが沈降しにくい樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る樹脂組成物は、エポキシ樹脂と無機フィラーと硬化剤とを含み、ポリカルボン酸をさらに含むことを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る樹脂組成物では、ポリカルボン酸は、無機フィラー100重量部に対して4重量部以下の割合で含まれることが好ましい。
【0011】
また、本発明に係る樹脂組成物では、無機フィラーは球状であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、ポリカルボン酸が無機フィラーの沈降を抑制する機能を有する。したがって、従来技術のように無機フィラーの量を増やす必要がないため、低粘度で、無機フィラーが沈降しにくい樹脂組成物を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実験例1におけるポリカルボン酸の含有量と沈降速度比との関係を示す図である。
【図2】実験例2におけるポリカルボン酸の含有量と沈降速度比との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の第1の実施形態に係る樹脂組成物について説明する。
【0015】
[第1の実施形態]
本実施形態に係る樹脂組成物は、エポキシ樹脂と、無機フィラーと、硬化剤と、を含んでいる。この樹脂組成物は、所定の位置に充填された後、加熱により硬化される。
【0016】
エポキシ樹脂の例としては、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、1,6−ヘキサンジオール型エポキシ樹脂、トリメチロールプロパン型エポキシ樹脂、ポリエチレングリコール型エポキシ樹脂、ポリプロピレングリコール型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂が挙げられる。
【0017】
無機フィラーの例としては、シリカ、フェライト、アルミナが挙げられる。また、硬化剤の例としては、フェノール樹脂、酸無水物、アミン類が挙げられる。硬化剤はエポキシ樹脂と反応して三次元網目構造を形成する機能を有する。
【0018】
本実施形態に係る樹脂組成物は、ポリカルボン酸をさらに含むことを特徴としている。ポリカルボン酸は、無機フィラーの沈降を抑制する機能を有する。ポリカルボン酸が無機フィラーの沈降を抑制するメカニズムは不明であるが、ポリカルボン酸のカルボキシル基が無機フィラーの表面に吸着することで、無機フィラーと周囲のエポキシ樹脂や硬化剤との親和性が高まり、相互作用することによって、無機フィラーの沈降速度を低下させるためと推測される。
【0019】
ポリカルボン酸は、無機フィラー100重量部に対して4重量部以下の割合で含まれることが好ましく、より好ましくは3.5重量部以下である。この場合には、ポリカルボン酸の無機フィラーの沈降を抑制する効果が顕著である。
【0020】
無機フィラーは球状であることが好ましい。球状の無機フィラーは沈降速度が大きいため、本発明の効果が顕著である。
【0021】
なお、本実施形態に係る樹脂組成物は、硬化促進剤をさらに含んでいてもよい。硬化促進剤は、エポキシ樹脂と硬化剤との硬化反応を促進する機能を有する。硬化促進剤の例としては、イミダゾール系化合物、有機リン化合物が挙げられる。
【0022】
また、樹脂組成物は上記の成分を溶解する溶剤をさらに含んでいてもよい。溶剤の例としては、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、トルエン、イソプロパノール、ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテートが挙げられる。
【0023】
本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲において種々の変形が可能である。
【0024】
次に、この発明に基づいて実施した実験例について説明する。
【0025】
(実験例1)
実験例1では、無機フィラーとして球状シリカを用いた場合における、ポリカルボン酸の含有量と無機フィラーの沈降速度との関係を評価した。
【0026】
まず、エポキシ樹脂としてクレゾールノボラック型エポキシ樹脂(エポキシ当量218)45.2g、無機フィラーとして球状シリカ261.5g、硬化剤としてフェノール樹脂21.7g、溶剤としてジプロピレンメチルエーテルアセテート137.6g、硬化促進剤としてイミダゾール系化合物0.7gをそれぞれ用意した。そして、無機フィラー100重量部に対してポリカルボン酸の含有量を表1のように変化させて、上記の諸成分と混合して、試料番号1〜8の樹脂組成物を得た。
【0027】
作製した樹脂組成物2mlを、直径10mm、高さ900mmの円筒状ガラスセルに注入し、lum−gmbh社製分散安定性測定器Lumifuge(登録商標)で、3000rpmの条件で遠心沈降させた。そして、その沈降層界面の移動速度を試料の沈降速度とした。そして、ポリカルボン酸を含有していない試料番号1の沈降速度を1とした場合の相対比を沈降速度比として算出した。表1に結果を示す。また、図1に、ポリカルボン酸の含有量と沈降速度比との関係を示す。
【0028】
【表1】

【0029】
ポリカルボン酸を含んでいる試料番号2〜8では、ポリカルボン酸を含んでいない試料番号1に比べて、沈降速度が小さい結果となった。また、無機フィラー100重量部に対してポリカルボン酸の含有量が4重量部以下である試料番号2〜6では、沈降速度比が0.30以下であり、特に良好な結果となった。球状シリカの表面は溶剤中で酸性であり、ポリカルボン酸のカルボキシル基が水素結合によって吸着したためと推測される。
【0030】
(実験例2)
実験例2では、無機フィラーとしてフェライト(非球状)を用いた場合における、ポリカルボン酸の含有量と無機フィラーの沈降速度との関係を評価した。
【0031】
まず、エポキシ樹脂としてクレゾールノボラック型エポキシ樹脂(エポキシ当量218)32.8g、無機フィラーとしてフェライト363.9g、硬化剤としてフェノール樹脂15.8g、溶剤としてジプロピレンメチルエーテルアセテート26.8g、硬化促進剤としてイミダゾール系化合物0.5gをそれぞれ用意した。そして、無機フィラー100重量部に対してポリカルボン酸の含有量を表2のように変化させて、上記の諸成分と混合して、試料番号9〜14の樹脂組成物を得た。
【0032】
そして、作製した樹脂組成物に対して、実験例1と同様の方法で測定を行い、沈降速度比を算出した。表2に結果を示す。また、図2に、ポリカルボン酸の含有量と沈降速度比との関係を示す。
【0033】
【表2】

【0034】
ポリカルボン酸を含んでいる試料番号10〜14では、沈降速度比が0.55以下であり、ポリカルボン酸を含んでいない試料番号9に比べて沈降速度が小さい結果となった。これは、フェライトの表面は溶剤中で塩基性であり、ポリカルボン酸のカルボキシル基が酸塩基反応によって吸着したためと推測される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂と無機フィラーと硬化剤とを含む樹脂組成物において、
ポリカルボン酸をさらに含むことを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリカルボン酸は、前記無機フィラー100重量部に対して4重量部以下の割合で含まれることを特徴とする請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記無機フィラーは球状であることを特徴とする請求項1または2に記載の樹脂組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−214541(P2012−214541A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−78985(P2011−78985)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】