説明

樹脂製プーリ

【課題】ベルト案内面の真円度が悪化しても、ベルトの叩き音を低減することができる樹脂製プーリを提供する。
【解決手段】ベルト案内面22aを外周に有する樹脂製のプーリ本体2を、転がり軸受1の外輪12の外周にインサート成形により一体成形した樹脂製プーリPにおいて、前記プーリ本体2は、内部に無数の気泡25が形成された熱可塑性樹脂からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のエンジンの補機等に用いられる樹脂製プーリに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車において、オルタネータ等の補機に、エンジンの回動動力を伝達するためのベルト伝導系には、ベルトをガイドするプーリが設けられている。近年、このプーリには、軽量化や低コスト化を図るために、樹脂製のものが用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このような樹脂製プーリは、樹脂を射出成形することにより環状のプーリ本体を成形すると同時に、当該プーリ本体を環状の金属部材(例えば、転がり軸受)の外周に一体化するインサート成形によって作製される。そして、プーリ本体の外周部には、ベルトをガイドするためのベルト案内面が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平2006−316973号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記樹脂製プーリは、例えばインサート成形時に異なる2方向から樹脂を射出することにより、樹脂同士がぶつかり合ってプーリ本体の外周部であるベルト案内面にウエルド(樹脂の合わせ目)が発生する場合がある。この場合は、ベルト案内面の真円度が悪化するため、プーリ本体の回転中にベルトによりベルト案内面を叩く音が増大するという問題がある。
本発明は、前記問題点に鑑みてなされたものであり、ベルト案内面の真円度が悪化しても、ベルトの叩き音を低減することができる樹脂製プーリを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するための本発明の樹脂製プーリは、ベルト案内面を有する樹脂製のプーリ本体を、環状の金属部材の外周にインサート成形により一体成形した樹脂製プーリであって、前記プーリ本体は、内部に無数の気泡が形成された熱可塑性樹脂からなることを特徴とする。
【0007】
本発明の樹脂製プーリによれば、プーリ本体の内部に無数の気泡が形成されているため、この気泡によってプーリ本体のベルト案内面のクッション性を高めることができる。これにより、プーリ本体のベルト案内面の真円度が悪化しても、ベルトの叩き音を低減することができる。
【0008】
また、前記気泡は、樹脂材料に超臨界流体を溶解して所定の減圧下で射出成形することにより形成されていることが好ましい。
この場合は、所定の減圧下で射出成形することにより、インサート成形時における保圧を低くすることができるため、プーリ本体の内部応力を低減することができる。
【0009】
また、前記気泡の直径は、0.1〜10μmであるであることが好ましい。
この場合は、プーリ本体の強度を確保しつつ、ベルトの叩き音を効果的に低減することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の樹脂製プーリによれば、プーリ本体のベルト案内面のクッション性を高めることができるため、ベルト案内面の真円度が悪化しても、ベルトの叩き音を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態に係る樹脂製プーリを示す断面図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】樹脂製プーリのプーリ本体を示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しつつ、本発明の樹脂製プーリの実施形態を詳細に説明する。
図1は本発明の一実施形態に係る樹脂製プーリを示す断面図であり、図2は図1のA−A断面図である。図1において、樹脂製プーリPは、樹脂製の環状体であるプーリ本体2を、環状の金属部材としての転がり軸受1の外周にインサート成形により一体成形したものである。
【0013】
より詳しくは、転がり軸受1を金型のギャビティ(図示省略)内の所定箇所に配置した状態で、当該金型の樹脂充填部位から後述する樹脂材料をキャビティ内に射出成形することにより、環状のプーリ本体2を成形すると同時に、当該プーリ本体2と転がり軸受1とを一体化している。
【0014】
転がり軸受1は、環状の内輪11と、環状の外輪12と、内輪11と外輪12との間に転動自在に配置された複数個の転動体である玉13と、これら玉13を円周方向に沿って所定間隔毎に保持する環状の保持器14と、外輪12と内輪11との間の環状空間を軸心方向両側で密封する一対のシール部材15とを備えたラジアル玉軸受である。内輪11の内周面には、軸(図示省略)が嵌合され、この軸とプーリ本体2とが転がり軸受1を介して相対回転可能とされる。
【0015】
プーリ本体2は、内周側において円筒状に形成された内周円筒部21と、外周側において円筒状に形成された外周円筒部22と、内周円筒部21と外周円筒部22との間において円板状に形成された円板部23とを有している。
【0016】
内周円筒部21は、円筒状の円筒本体部21aと、この円筒本体部21aの軸方向両端部から径方向内方に突出する一対の鍔部21bとを有している。この一対の鍔部21bの間には凹部21cが形成されており、この凹部21cには、転がり軸受1の外輪12の一部が導入されている。そして、この凹部21cの内面には、外輪12の外周面及び端面の外周側が接合されている。これにより、プーリ本体2は転がり軸受1に強固に固定されている。
【0017】
外周円筒部22の外周には、ベルトVを巻き掛けた状態でガイドするベルト案内面22aが形成されている。円板部23は、内周円筒部21と外周円筒部22とを軸方向中央において相互に連結している。この円板部23の軸方向両側には、図2に示すように、内周円筒部21と外周円筒部22とを相互に連結する複数のリブ24が放射状に形成されている。このリブ24により、プーリ本体2のヒケやソリ等の成形不良を防止することができる。
【0018】
図3は、プーリ本体2を示す拡大断面図である。プーリ本体2を構成する樹脂材料は、内部に無数の気泡25が形成された熱可塑性樹脂である。この熱可塑性樹脂は、転がり軸受1の潤滑油として用いられるオイル等の薬品が付着する可能性があることから、本実施形態では耐薬品性に優れた結晶性材料であるポリアミド(好ましくは、ポリアミド66)が用いられている。
【0019】
気泡25は、溶融した前記樹脂材料に超臨界流体を溶解したものを、キャビティ内において所定の減圧下で射出成形することにより、プーリ本体2の内周円筒部21、外周円筒部22、円板部23及びリブ24の全体に亘って密度が均一になるように形成される。その際、溶解時に超臨界流体を樹脂材料に混合するときの圧力と、キャビティ内の減圧量とを調整することにより、気泡25の直径は0.1〜10μmとされている。このような気泡25が形成されることにより、プーリ本体2は、気泡25が形成されていない場合と比較して、約20%の重量を低減することができる。
【0020】
前記超臨界流体とは、気体と液体とが共存できる限界点(臨界点)における温度及び圧力を超えた状態にある流体であり、気体と液体との中間の物理的性質を示す。この超臨界流体は、通常の気体と比較して、溶融した樹脂材料に対する溶解度が高い。本実施形態では、気泡形成時の温度及び圧力下において超臨界状態を保持可能な流体として、例えば二酸化炭素が用いられている。
【0021】
以上、本発明の実施形態に係る樹脂製プーリPによれば、プーリ本体2の内部に無数の気泡25が形成されているため、この気泡25によってプーリ本体2のベルト案内面22aのクッション性を高めることができる。これにより、プーリ本体2のベルト案内面22aの真円度が悪化しても、ベルトVの叩き音を低減することができる。また、プーリ本体2の樹脂材料が熱可塑性樹脂であるため、熱硬化性樹脂に比べると、プーリ本体2の内部に気泡25を容易に形成することができる。
【0022】
また、前記気泡25は、プーリ本体2の樹脂材料に超臨界流体を溶解して、所定の減圧下で射出成形することにより形成されるため、インサート成形時におけるキャビティの保圧を低くすることができる。これにより、プーリ本体2の内部応力を低減することができる。
【0023】
また、気泡25の直径を0.1〜10μmとしたので、プーリ本体2の強度を確保しつつ、ベルトVの叩き音を効果的に低減することができる。
【0024】
なお、本発明は、上記の実施形態に限定されることなく適宜変更して実施可能である。例えば、本実施形態では、樹脂製プーリPの金属部材として、転がり軸受1を例示したが、軸に直接的に固定される金属製のボスを適用することもできる。
【0025】
また、本実施形態では、プーリ本体2の樹脂材料として、ポリアミドを例示したが、ポリアセタール、ポリフェニレンサルファイド、ポリアミドイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド等の熱可塑性樹脂を単体若しくは混合体で用いたものであってもよい。
【0026】
さらに、本実施形態では、超臨界流体として、二酸化炭素を例示したが、窒素等の気泡25を形成する際の温度及び圧力下において超臨界状態を保持することができる流体であればよい。
【符号の説明】
【0027】
1:転がり軸受(金属部材)、2:プーリ本体、22a:ベルト案内面、25:気泡、P:樹脂製プーリ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベルト案内面を有する樹脂製のプーリ本体を、環状の金属部材の外周にインサート成形により一体成形した樹脂製プーリであって、
前記プーリ本体は、内部に無数の気泡が形成された熱可塑性樹脂からなることを特徴とする樹脂製プーリ。
【請求項2】
前記気泡は、樹脂材料に超臨界流体を溶解して所定の減圧下で射出成形することにより形成されている請求項1に記載の樹脂製プーリ。
【請求項3】
前記気泡の直径が、0.1〜10μmである請求項1又は2に記載の樹脂製プーリ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−117631(P2012−117631A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−269377(P2010−269377)
【出願日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】