説明

樹脂製ワーク用加工装置及び樹脂製加工品の製造方法

【課題】樹脂製のワークを容易に固定して精度よく加工でき、しかも汎用性が高い樹脂製ワーク加工装置と樹脂加工部材の製造方法とを提供する。
【解決手段】樹脂製ワークWを所定位置に固定する固定部11と、固定部11で固定したワークWの加工対象部位W1を加工工具13で加工する加工部15とを備えており、固定部11が、ワークWに設けた基準部位W2を当接してワークWを支持する支持部17と、基準部位W2とは異なる位置に設けた加工対象部位W1の近傍でワークWの表面を吸着する吸着部19とを備え、支持部17に当接すると共に吸着部19で吸着することでワークWを固定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂製ワークを加工するための加工装置と、樹脂製ワークを加工することで樹脂製加工品を製造する樹脂製加工品の製造方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂製バンパーのような樹脂製加工品を製造するには、例えば樹脂製ワークを成形した後、エンドミルのような加工工具を用いて穴、溝、外形等の各加工対象部位を所定精度で加工することが行われている。
【0003】
樹脂製のワークを加工する装置として、例えば下記特許文献1には、多関節ロボットのアームにエンドミルのような加工工具が設けられており、ワークを固定した状態でアームや加工工具の動作を制御して、ワークの加工対象部位を加工する樹脂部品の加工装置が記載されている。
【0004】
この樹脂部品の加工装置では、複数のワークを順次加工する際、ワーク受け治具を用いてワークを固定することでワークを所定位置に装着すると共に加工中の位置ずれを防止している。ワーク受け治具は位置決め精度を確保するために各ワークに対応した形状を呈する専用のものとなっている。
【0005】
このような加工装置では、同一形状の複数のワークを加工する場合、同じワーク受け治具を用いて順次ワークを交換して固定し、加工を行う。互いに異なる形状のワークを加工する場合には、ワークに応じたワーク受け治具を装着し、そのワーク受け治具にワークを固定して加工を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−131913号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の加工装置ではワーク毎に専用のワーク受け治具を用いてワークを固定しなければならなかった。そのため、複数種類のワークを加工する場合には、それぞれ専用のワーク受け治具を装着するなどの作業が必要で、段取時間に長時間を要し作業効率が悪いという問題があった。しかも、種々のワークに対応した専用のワーク受け治具を保管しておかなければならず、保管場所が広く必要であった。
【0008】
そこで、本発明は、形状の異なる複数の樹脂製ワークを容易に固定して精度よく加工でき、汎用性が高い樹脂製ワーク加工装置を提供することを一目的とし、形状の異なる樹脂製加工品であっても容易に且つ精度よく製造できる樹脂製加工品の製造方法を提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記一目的を達成する本発明の樹脂製ワーク用加工装置は、樹脂製ワークを所定位置に固定するための固定部と、固定部で固定されたワークの加工対象部位を加工工具で加工するための加工部とを備え、固定部は、ワークに設けられた基準部位を当接させてワークを支持する支持部と、基準部位とは異なる位置に設けられた加工対象部位の近傍でワークの表面を吸着する吸着部とを備え、支持部に当接させると共に吸着部で吸着することでワークを固定する構成を有している。
【0010】
このような樹脂製ワーク用加工装置によれば、ワークの基準部位を支持部に当接させてワークを固定するため、基準部位に対する加工対象部位の位置精度を確保でき、また、加工対象部位近傍のワークの表面を吸着部により吸着してワークを固定するため、加工時にワークの加工対象部位を容易に且つ確実に固定しておくことができる。そのため、加工部により加工対象部位を精度よく加工することができる。しかも、基準部位と加工対象部位近傍とでワークを固定すれば加工部により加工対象部位を加工できるため、互いに形状の異なるワークであっても共通の支持部及び吸着部を利用して固定して加工でき、支持部や吸着部を共通化し易く、汎用性を向上することが可能である。従って、樹脂製のワークを容易に固定して精度よく加工でき、しかも汎用性が高い樹脂製ワーク加工装置が得られる。
【0011】
本発明の樹脂製ワーク用加工装置における吸着部は、動作制御された第1の多関節アームに装着され、加工部は、動作制御された第2の多関節アームに装着されているか、吸着部及び加工部は、動作制御された同一の多関節アームに装着されているのが好適である。
【0012】
これにより吸着部及び加工部の動作の自由度を大きくでき、種々の形状を呈する樹脂製ワークを加工できてより汎用性を向上し得る。
【0013】
本発明の樹脂製ワーク用加工装置における固定部は、ワークを支持部と吸着部との間で挟持するのがよい。このようにすれば、吸着部と支持部との間の挟持力によりワークを保持するため、ワークの基準部位を支持部に確実に当接させた状態で吸引部によりワークを吸引して固定することができる。そのため安定して精度よく加工することができる。しかも、吸引力と挟持力とによりワークを固定することができるため、加工時の位置ずれを防止するために必要な吸引部の吸引力を小さく抑えることができる。
【0014】
固定部の吸引部は、ワークの表面の吸着状態でワークの表面に当接する当接部を備えるのがよい。これにより当接部にワークの表面を当接させた状態で吸着するため、吸着部でワークを精度よく所定位置に配置することができる。
【0015】
このような樹脂製ワーク用加工装置は、基準部位が両端側に設けられると共に加工対象部位が基準部位の間に設けられたワークを加工するのに適用すれば、基準位置間の支持部により支持されていない部位を吸着部により吸着するため、ワークの支持構造が簡単であっても容易に固定できて精度よく加工することができ好適である。
【0016】
上記別の目的を達成する本発明の樹脂製加工品の製造方法は、樹脂製ワークを所定位置に固定し、固定されたワークを加工工具で加工して樹脂製加工品を製造する際に、ワークの基準部位を支持部に当接させると共に基準部位とは異なる加工対象部位の近傍でワークの表面を吸着部により吸着することでワークを固定し、加工対象部位を加工する方法である。
【0017】
このような樹脂製加工品の製造方法によれば、ワークの基準部位を支持部に当接させてワークを固定するため、基準部位に対する加工対象部位の位置精度を確保でき、また、加工対象部位近傍のワークの表面を吸着部により吸着してワークを固定するため、加工時にワークの加工対象部位を容易に且つ確実に固定しておくことができる。そのため、基準部位を支持部に当接できて加工対象部位近傍を吸着できれば、ワークの広い範囲を支持することなく、容易に加工対象部位を精度よく加工することが可能である。従って、形状の異なる樹脂製加工品であっても容易に且つ精度よく製造できる。
【0018】
本発明に係る樹脂製加工品の製造方法では、ワークが複数の加工対象部位を有するものであり、複数の加工対象部位より少ない数の吸着部及び加工部を移動させて吸着及び固定することで、各加工対象部位を順次加工するのがよい。
【0019】
これにより、ワークを支持部に支持し直すことなく、複数の加工対象領域を精度よく加工することができ、段取りの手間を簡略化したり時間を短縮したりすることができて効率よく樹脂製加工品を製造できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る樹脂製ワーク用加工装置によれば、固定部がワークの基準部位を当接させる支持部と、基準部位とは異なる位置の加工対象部位近傍でワーク表面を吸着する吸着部とを備え、ワークを支持部に当接させると共に吸着部で吸着してワークを固定するので、互いに形状の異なるワークであっても、基準部位を支持部に当接させて固定できる限り、ワーク毎に専用治具を用いる必要がなく、樹脂製ワークを容易に固定して精度よく加工でき、汎用性が高い樹脂製ワーク加工装置を提供することができる。
【0021】
本発明に係る樹脂製加工品の製造方法によれば、ワークの基準部位を支持部に当接させると共に基準部位とは異なる加工対象部位の近傍でワークの表面を吸着することでワークを固定し、加工対象部位を加工するので、基準部位を支持部に当接させて固定できれば、形状の異なる樹脂製加工品であっても容易に且つ精度よく製造できる樹脂製加工品の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1実施形態に係る樹脂製ワーク用加工装置を示す斜視図である。
【図2】第1実施形態に係る樹脂製ワーク用加工装置の支持部によるワークの支持状態を示す斜視図である。
【図3】第1実施形態に係る樹脂製ワーク用加工装置の支持部により基準部位が支持された状態を示すワークの側面図である。
【図4】第1実施形態に係る樹脂製ワーク用加工装置の吸着部を示す斜視図である。
【図5】第1実施形態に係る樹脂製ワーク用加工装置の吸着部を示す正面図である。
【図6】第1実施形態に係る樹脂製ワーク用加工装置の固定部によりワークを固定して加工した際に測定された位置ずれ量を示し、3カ所において3回測定した結果を示している。
【図7】(a)は第1実施形態に係る樹脂製ワーク用加工装置の支持部により支持された基準部位の正規の位置を示す部分断面図、(b)は基準部位の位置ずれ状態を示す部分断面図である。
【図8】第1実施形態に係る樹脂製ワーク用加工装置の支持部において、ワークWの端部を内側から吸着補助パッドにより保持した状態を示す部分断面図である。
【図9】第1実施形態に係る樹脂製ワーク用加工装置の固定部を示す側面図である。
【図10】第1実施形態に係る樹脂製ワーク用加工装置の動作状態を示す斜視図である。
【図11】(a)は第1実施形態に係る樹脂製ワーク用加工装置の吸着部の動作を示すフローチャート、(b)は加工部の動作を示すフローチャートである。
【図12】第1実施形態に係る樹脂製ワーク用加工装置の吸着部及び加工部の動作を説明する図である。
【図13】本発明の第2実施形態に係る樹脂製ワーク用加工装置の吸着部及び加工部を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について添付の図面を用いて詳細に説明する。
[第1実施形態]
図1乃至図12は第1実施形態を示している。
【0024】
樹脂製ワーク用加工装置10は、樹脂製ワークWの穴、溝、外形等の各加工対象部位W1を加工して樹脂製加工品を製造するための装置である。本実施形態では、車両用樹脂製バンパーの製造に用いられる装置であり、予め所定形状に成形されたバンパーの中間体であるワークWに貫通孔や非貫通穴等の穴加工を施すものである。ワークWであるバンパー中間体は両端部に対して中間部分が一方側に突出する湾曲立体形状を呈し、中間部分に複数の加工対象部位が設けられている。車両用樹脂製バンパーは、車種毎に異なる形状を呈しており、本実施形態では、複数種類のバンパー中間体を加工可能な装置となっている。
【0025】
この樹脂製ワーク用加工装置10は、図1に示すように、樹脂製ワークWを所定位置に固定するための固定部11と、固定部11で固定されたワークWの加工対象部位W1を加工工具13で加工するための加工部15とを備えている。本実施形態では、例えば図2に示すように、加工対象部位が互いに離間して複数設けられている。ワークWの加工対象部位W1には予め貫通孔などが設けられていても、何も設けられていなくてもよい。なお加工対象部位W1とは、予め作製されたワークの一部で、加工工具13により加工する必要のある部位であり、加工対象部位W1の近傍には後述する吸着部により吸着可能な表面を有している。
【0026】
樹脂製ワーク用加工装置10の固定部11は、ワークWに設けられた基準部位W2を当接させてワークWを支持する支持部17と、ワークWの基準部位W2とは異なる位置に設けられた加工対象部位W1の近傍においてワークWの表面を吸着する吸着部19とを備えている。基準部位W2とは、予め作製されたワークの一部で、加工時に加工対象部位W1を位置決めするために基準となる部位である。
【0027】
本実施形態におけるワークWの基準部位W2は、図2及び図3に示すように、ワークW両端側の外周縁に設けられており、加工対象部位W1を上向きに配置させた際に下側となる下縁と、ワークWの長手方向と直交する両側面側となる側縁とからなっている。基準部位W2をこのように設定すると、互いに異なる形状のバンパー中間体であっても同様な位置に基準部位W2を設けることが可能となり、汎用性を向上し易くできて好適である。
【0028】
固定部11の支持部17は、図1及び2に示すように、ベース部21上の互いに離間した位置に一対設けられており、互いに離間した位置に立設された支持基部23と、支持基部23から突設されて各基準部位W2を当接支持可能な複数の支持突起25とを有する。一対の支持基部23はベース部21上で相対距離を調整可能に構成されていてもよい。支持突起25は、突出量や高さなどを適宜調整可能に構成されていてもよい。
【0029】
この支持部17では、各支持突起25にワークWの各基準部位W2を当接することで、図3に示すように、加工対象部位W1を上方に向けた状態で図中の上下方向及び左右方向にワークWが位置決めされる。このとき、図2に示すワークWの長手方向の位置が例えば支持基部23により所定位置に位置決めされてもよく、互いに異なる長さのワークWを支持可能にするために、長手方向に変位可能な状態で、支持突起25の所定位置に位置合わせすることで支持されるように構成されていてもよい。
【0030】
吸着部19は、図1に示すように、動作制御された第1の多関節アーム31の先端に装着されており、図4に示すように、第1の多関節アーム31に連結された吸着基部33と、吸着基部33に支持された真空エジェクタ35と、一端側で真空エジェクタ35に接続されると共に他端側にワークW表面を吸着するための吸着開口部37が設けられた複数の吸着パッド39と、吸着基部33から複数の吸着パッド39間に突設された当接部としての固定ロッド41とを備えている。
【0031】
第1の多関節アーム31は、多数の関節部43を有し、吸着部19を三次元方向に移動可能であると共に回転、傾斜可能に構成されており、図示しない制御部により、動作制御されている。
【0032】
真空エジェクタ35は各吸着パッド39毎に設けられ、各吸着パッド39内を減圧することで吸着パッド39の吸着開口部37によりワークWを吸着可能にしている。
【0033】
吸着パッド39は、例えばゴムのような弾性変形可能な材料により吸着開口部37側が中空に形成されている。この吸着パッド39では、図5に示すように、吸着開口部37をワークWの表面に当接させて内部を減圧することで、ワークWを吸着して吸着基部33側に弾性変形可能となっており、さらに吸着開口部37側が弾性変形することでワークWの表面形状の凹凸を吸収して、吸着開口部37の略全周囲がワークWの表面に密着することが可能となっている。
【0034】
この吸着パッド39では吸着開口部37の変形可能量が少なくとも各加工対象部位W1近傍の吸着位置におけるワークW表面の凹凸以上に形成されており、吸着時に吸着開口部37側がワークWの形状に対応して変形可能な程度の弾性に形成されている。
【0035】
固定ロッド41は、吸着パッド39によりワークW表面が吸着された際、先端がワークW表面に当接するように配置されている。この実施形態では、固定ロッド41の先端が同一直線上に配置されないように互いに離間して3箇所以上設けられており、吸着パッド39によりワークW表面が吸引されて吸着基部33側に移動して先端に当接することで、ワークWが吸着基部33に対して配置されるようになっている。そして、この状態で加工時にワークWの位置ずれを生じることなく十分な固定状態を維持可能となっている。
【0036】
この各固定ロッド41の先端の位置は、それぞれ吸着時に対向するワークW表面の立体形状に対応している。この実施形態では、固定ロッド41の吸着基部33から先端までの突出量を、各加工対象部位W1毎に自動又は手動で調整可能に構成されていてもよい。
【0037】
固定ロッド41先端の吸着基部33からの突出量は、吸着基部33から吸着開口部37までの距離より短いと共に、吸着時に吸着パッド39の吸着開口部37が変形する範囲内となるように設定されている。
【0038】
さらに、この実施形態では、先端部に接触センサや圧力センサ等の当接状態を検出可能な検出センサが装着されており、吸着部19によりワークWの表面を吸着した際、検出センサにより当接状態を検出することで、吸着部19がワークWの加工対象部位W1に対して適切な位置に配置されているか否かを検出することが可能となっている。
【0039】
特に限定されるものではないが、この実施形態の吸着部19では、吸着パッド39の直径は40mm以上で吸着開口部37の端面と固定ロッド41の先端との間のクリアランスZは5mm以上とするのがよく、吸着パッドのゴム硬度は50度以上とするのがよい。また、真空エジェクタによる減圧時の圧力は−75KPaとするのが好適である。
【0040】
このような条件により、後述する加工時に切削抵抗を3Kgとした場合に加工対象部位W1のワークWの位置ずれを測定したところ、図6に示すように、長手方向のずれW、支持部17に対する高さ方向のずれL、長手方向と直交する横方向のずれHを±0.2mm以下にすることができた。
【0041】
固定部11では、ワークWの各基準部位W2を支持部17に当接させて支持させると共に、第1の多関節アーム31により吸着部19を移動させ、複数の吸着パッド39を加工対象部位W1を挟んで両側のワークW表面に当接させて減圧することで、ワークW表面を吸着し、これによりワークWを固定することが可能となっている。
【0042】
なお、加工対象部位W1の穴等の長さが複数の吸着パッド39間の距離より大きい場合には、例えば吸着部19をワークWの加工対象部位W1に対して斜めや直交方向に配置することにより、加工対象部位W1の両側のワークWの表面を吸着するようにしてもよい。
【0043】
ここでは支持部17によりワークWを下方側から支持すると共に、第1の多関節アーム31の動作で吸着部19によりワークWを上側から下方側へ押圧しつつワークW表面を吸着する。そのためワークWが支持部17と吸着部19との間で挟持された状態で固定されることになる。
【0044】
このようにしてワークWを支持部17と吸着部19との間で挟持すると、固定時にワークWを撓ませたり若干長手方向に押し広げたりする場合が生じる。そのため支持部17に位置決めして図7(a)に示すようにワークWの端部が基準位置Xに配置されていても、固定後にはワークWの端部が基準位置Xから長手方向にずれが生じることがある。このような場合には、例えば図8に示すように、ワークWの端部を内側から吸着補助パッド45により吸着することで、位置ずれを防止するように構成してもよい。
【0045】
次いで、樹脂製ワーク加工装置10の加工部15は、動作制御された第2の多関節アーム32に装着されており、図9に示すように、第2の多関節アーム32に連結された加工基部47と、加工基部47に装着されて回動駆動されるスピンドル部49と、スピンドル部49と連動して回転する加工工具13とを備える。本実施形態では、加工対象部位W1である穴の内周面を加工するために加工工具13としてエンドミルが装着されている。
【0046】
第2の多関節アーム32は、多数の関節部43を有し、加工部15を三次元方向に移動可能であると共に回転、傾斜可能に構成されており、図示しない制御部により動作制御されている。
【0047】
この加工部15では、第1の多関節アーム31に装着された吸着部19に対して加工工具13が対向するように配置可能となっており、ワークWの表面側に吸着部19を配置した状態で、ワークWの背面側から加工工具13を加工対象部位W1に接触させることで加工することが可能となっている。
【0048】
そして、この加工部15では、加工工具13の回転数や第2の多関節アームによる送り速度などが制御部により制御されることで、複数の吸着パッド39間に配置される各加工対象部位W1を所定の切削条件で切削加工可能となっている。
【0049】
次に、このような構成を有する樹脂製加工装置10を用いてワークWを加工して樹脂製加工品を製造する方法について説明する。この実施形態では、各ワークWに吸着部19や加工部15の数より多い数の加工対象部位W1が設けられている。
【0050】
樹脂製ワーク加工装置10によりワークWを加工するには、固定部11の支持部17にワークWを載置し、固定部11の支持部17及び吸着部19によりワークWを固定して、加工部15により加工する。
【0051】
支持部17にワークWを支持するには、図2に示すように、予め成形されているワークWを前工程から搬入し、加工対象部位W1を上方に向けた状態で、各基準部位W2を各支持突起25に当接させて載置する。これによりワークWが所定位置に位置決めされる。
【0052】
位置決め後、図10及び図11に示すように、固定部11及び加工部15が図示しない制御部により制御されて動作する。
【0053】
固定部11及び加工部15の制御が開始されると、固定部11は図11(a)に示すように制御され、また加工部15は図11(b)に示すように制御されて動作する。ここでは、開始後第1の多関節アーム31と第2の多関節アーム32とが動作し、複数の加工対象部位W1の一つに対応する位置まで、それぞれ吸着部19と加工部15とを移動させる(S11、S21)。
【0054】
そして、固定部11では、各吸着パッド39を加工対象部位W1の近傍においてワークWの表面に接地させ(S12)、吸着を開始する(S13)。
【0055】
加工部15では、固定部11の固定完了状態に達したことを検知した後(S22)、加工工具13をワークWの加工対象部位W1に接触させて切り込み加工(S23)及び形状加工(S24)を行う。その後、第2の多関節アーム32を駆動することで、加工工具13を加工対象部位W1から離間させて逃がす(S25)。
【0056】
固定部11では、加工部15において加工工具13の逃がしが完了したことを検知した後(S14)、吸着を終了し、固定を解除する(S15)。
【0057】
ワークWに設けられている全ての加工対象部位W1の加工が終了していない間は、図12に示すように、第1の多関節アーム31及び第2の多関節アーム32を動作させ、吸着部19及び加工部15を次の加工対象部位W1に対応する位置に移動させ(S11,S21)、再度、上述のような各工程を繰り返すことで順次加工対象部位W1を加工する。
【0058】
このような固定部11及び加工部15の移動、吸着及び加工を繰り返し、全ての加工対象部位W1の加工が終了することで(S16,S26)、一つのワークWの加工を完了し、支持部17上からワークWを取り外すと共に適宜な後加工や処理等を施すことで樹脂製加工品であるバンパーを製造する。
【0059】
その後に形状が異なる別のワークWを加工する場合には、ワークの基準部位W2が同じであれば、支持部17をそのままの状態に維持し、第1の多関節アーム31及び第2の多関節アーム32の動作や吸着部19及び加工部15の位置や各種の条件を必要に応じて変更して上述と同様の方法で各加工対象部位W1を加工することができる。
【0060】
また、別のワークWにおける基準部位W2の位置が異なる場合には、支持部17や支持突起25の位置を調整することで、上述と同様に固定して各加工対象部位W1を加工することができる。
【0061】
このようにすることで、本実施形態の樹脂製ワーク加工装置10では、各種の樹脂製ワークを加工し、樹脂製加工品を製造することができる。
【0062】
以上のような樹脂製ワーク用加工装置10によれば、ワークWの基準部位W2を支持部17に当接させてワークWを固定するため、基準部位W2に対する加工対象部位W1の位置精度を確保でき、また、加工対象部位W1近傍のワークWの表面を吸着部19により吸着してワークWを固定するため、加工時にワークWの加工対象部位W1を容易に且つ確実に固定しておくことができる。そのため、加工対象部位W1を精度よく加工することができる。
【0063】
そして基準部位W2と加工対象部位W1近傍とでワークWを固定すれば加工部15により加工対象部位W1を加工できるため、互いに形状の異なるワークWであっても共通の支持部17及び吸着部19を利用して固定して加工でき、支持部17や吸着部19を共通化し易く、汎用性を向上することが可能である。
【0064】
ここでは、基準部位W2が両端側に設けられると共に加工対象部位W1が基準部位W2の間に設けられたワークWにおいて、支持部17により支持されていない部位を吸着部19により吸着して固定するので、ワークWの固定構造を簡単にして容易に固定することができる。
【0065】
しかもワークWの広い範囲を支持する必要がないため、固定が容易であり、ワークWの形状毎に異なる専用治具を用いる必要がない。そのため加工時に専用のワーク受け治具を装着したり交換したりするような段取りが不要であり、段取りに要する作業時間を短縮することができる。しかも、多種類のワーク受け治具を用いる必要がないため、他種類のワーク受け治具を用意したりその保管をしたりする必要がない。
【0066】
この加工装置10では、吸着部19が動作制御された第1の多関節アーム31に装着され、加工部15が動作制御された第2の多関節アーム32に装着されているので、吸着部19及び加工部15の動作の自由度が大きく、種々の形状を呈する樹脂製ワークWを加工できて汎用性を向上できる。
【0067】
さらに固定部11がワークWを支持部17と吸着部19との間で挟持するように構成されているので、ワークWの基準部位W2を支持部17に確実に当接させた状態で吸着部19によりワークWを吸引して固定することができる。そのため安定して精度よく加工することができる。
【0068】
しかも、吸引力と挟持力とによりワークWを固定することができるため、加工時の位置ずれを防止するために必要な吸引部の吸引力を小さく抑えることができる。即ち、加工時に吸着部19だけでワークWを保持するとすれば、加工時に負荷される各種の力に抗する程度の吸着力や吸着部19の剛性が必要となる。また、基準部位W2と加工対象部位W1近傍との位置で挟持することだけでワークWを固定するとすれば、樹脂製ワークWに変形が生じて加工精度が低下する。ところが、ワークWを吸着部19で吸着すると共に吸着部19と支持部17との間で挟持すれば、吸着部19の吸着力や剛性を過剰に高くする必要がないと共に樹脂製ワークWの変形を防止して加工時の移動を確実に阻止することができ、簡単な構造で精度よく加工することが可能である。
【0069】
加えて、この固定部11では、吸着部19がワークWの表面の吸着状態でワークWの表面に当接する固定ロッド41を備えるので、固定ロッド41にワークWの表面を当接させた状態で吸着することで、ワークWを精度よく所定位置に配置することができる。しかも、固定ロッド41の当接状態で、加工対象部位W1と吸着部19との相対位置を確認することができるため、ワークWの位置ずれを防止できる。
【0070】
このような樹脂製ワーク加工装置を用いた上述のような樹脂製加工品の製造方法によれば、ワークWの基準部位W2を支持部17に当接させてワークWを固定するため、加工対象部位W1を基準部位W2に対して精度よく加工することができる。さらに加工対象部位W1近傍のワークWの表面を吸着部19により吸着してワークWを固定するため、加工工具13で加工する際に位置ずれを防止してワークWを確実に固定しておくことができる。そのため、基準部位W2を支持部17に当接できて加工対象部位W1近傍を吸着できれば、ワークWの広い範囲を支持することなく、加工対象部位W1を精度よく加工することが可能である。
【0071】
しかも、このような製造方法において、ワークWが複数の加工対象部位W1を有するものであり、複数の加工対象部位W1より少ない数の吸着部19及び加工部を移動させて吸着及び加工することで、各加工対象部位W1を加工するので、加工対象部位W1毎にワークWを支持部17に支持し直すことなく複数の加工対象領域を加工することができ、段取りの手間を簡略化したり加工時間を短縮することができ効率よく樹脂製加工品を製造できる。
【0072】
上記実施形態は、本発明の範囲内において変更可能であり、例えば上記では車両用樹脂製バンパーを加工する例について説明したが、他の部材であっても同様に本発明を適用可能である。
【0073】
さらに樹脂製ワークと同様に変形し易くて、加工時に固定する部位が広くなり易いワークであれば、本発明を適用することで同様の作用効果を得ることは可能である。
[第2実施形態]
図13は第2実施形態の樹脂ワーク加工装置10の一部を示している。
【0074】
第2実施形態の加工装置10では、吸着部19及び加工部15が動作制御された同一の多関節アーム55に装着されており、第1実施形態のように、吸着部19と加工部15がそれぞれ第1の多関節アーム31と第2の多関節アーム32に別々に装着されているのと相違している。
【0075】
この加工装置10では、吸着部19は実施形態1と同様に、図示しない多関節アーム先端の吸着加工用基部51に、吸着パッド39がワークW表面を吸着可能に設けられて構成されている、
加工部15は吸着加工用基部51の例えば吸着パッド39とは反対側に3軸サーボ機構53が装着され、この3軸サーボ機構53に回転駆動されるスピンドル部49が装着されると共にスピンドル部49に加工工具13が装着されている。
【0076】
3軸サーボ機構53は、吸着加工用基部51に一軸方向に第1ガイドレール57が一対設けられ、第1ガイドレール57と直交する第2ガイドレール59が第1ガイドレール57に沿って移動可能に設けられ、この第2ガイドレール59に沿って移動可能であると共に傾倒可能にスピンドル部49が吸着パッド39側に突出及び収縮可能に設けられている。この3軸サーボ機構53は図示しない駆動機構により、ワークWに対して加工工具13を三次元方向及び傾倒方向に制御されて動作可能となっている。
【0077】
その他の構成は第1実施形態と同様である。
【0078】
このような構成の吸着部19及び加工部15を有する第2実施形態の樹脂製ワーク加工装置10であっても、第1実施形態と同様の作用効果を得ることが可能である。
【0079】
特に、この加工装置10では、吸着部19及び加工部15が同一の多関節アームに装着されているため、加工装置10の構成を簡単にすることができる。
【符号の説明】
【0080】
W ワーク
W1 加工対象部位
W2 基準部位
10 加工装置
11 固定部
13 加工工具
15 加工部
17 支持部
19 吸着部
21 ベース部
23 支持基部
25 支持突起
31 第1の多関節アーム
32 第2の多関節アーム
33 吸着基部
35 真空エジェクタ
37 吸着開口部
39 吸着パッド
41 固定ロッド
43 関節部
45 吸着補助パッド
45 加工基部
47 加工基部
49 スピンドル部
51 吸着加工用基部
53 3軸サーボ機構
55 多関節アーム
57 第1ガイドレール
59 第2ガイドレール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂製ワークを所定位置に固定するための固定部と、該固定部で固定された上記ワークの加工対象部位を加工工具で加工するための加工部とを備えた樹脂製ワーク用加工装置であって、
上記固定部は、上記ワークに設けられた基準部位を当接させて該ワークを支持する支持部と、上記基準部位とは異なる位置に設けられた上記加工対象部位の近傍で上記ワーク表面を吸着する吸着部とを備え、上記支持部に当接させると共に上記吸着部で吸着することで上記ワークを固定する、樹脂製ワーク用加工装置。
【請求項2】
前記吸着部は、動作制御された第1の多関節アームに装着され、前記加工部は、動作制御された第2の多関節アームに装着されている、請求項1に記載の樹脂製ワーク用加工装置。
【請求項3】
前記吸着部及び前記加工部は、動作制御された同一の多関節アームに装着されている、請求項1に記載の樹脂製ワーク用加工装置。
【請求項4】
前記固定部は、前記ワークを前記支持部と前記吸着部との間で挟持する、請求項1乃至3の何れかに記載の樹脂製ワーク用加工装置。
【請求項5】
前記吸引部は、前記ワーク表面の吸着状態で該ワーク表面に当接する当接部を備えた、請求項1乃至4の何れかに記載の樹脂製ワーク用加工装置。
【請求項6】
前記基準部位が両端側に設けられると共に前記加工対象部位が該基準部位の間に設けられた前記ワークを加工するものである、請求項1乃至5の何れかに記載の樹脂製ワーク用加工装置。
【請求項7】
樹脂製ワークを所定位置に固定し、固定された該ワークを加工工具で加工して樹脂製加工品を得る樹脂製加工品の製造方法であり、
上記ワークの基準部位を支持部に当接させると共に上記基準部位とは異なる加工対象部位の近傍でワーク表面を吸着部により吸着することで上記ワークを固定し、上記加工対象部位を加工する、樹脂製加工品の製造方法。
【請求項8】
前記ワークは、複数の前記加工対象部位を有するものであり、該複数の加工対象部位より少ない数の前記吸着部及び前記加工部を移動させて、上記各加工対象部位を順次加工する、請求項7に記載の樹脂製加工品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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